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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1331599
審判番号 不服2016-6544  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-02 
確定日 2017-08-15 
事件の表示 特願2013-523488「内燃機関用のピストンを製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月16日国際公開、WO2012/019595、平成25年10月24日国内公表、特表2013-539514〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年8月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年5月5日 ドイツ連邦共和国、2010年8月10日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月12日に国内書面が提出され、平成25年3月12日に明細書、請求の範囲及び要約書の日本語による翻訳文が提出され、平成27年3月30日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年7月6日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年12月24日付けで拒絶査定がされ、平成28年5月2日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成28年10月20日に上申書が提出されたものである。

第2 平成28年5月2日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成28年5月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1)本件補正の内容
平成28年5月2日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の(すなわち、平成27年7月6日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の下記(イ)の記載へと補正するものである。

(ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
ピストンベース体(11)とピストンリングエレメント(12)とを備え、
前記ピストンベース体(11)は、少なくとも1つのピストンスカート(15)を有し、
前記ピストンリングエレメント(12)は、少なくとも1つのピストン頂部(19)と、環状のトップランド(21)と、リング溝を備える環状のリング部分(22)とを有し、
前記ピストンベース体(11)と前記ピストンリングエレメント(12)とは、環状の閉鎖された冷却通路(23)を形成する、内燃機関用のピストン(10)を製造する方法であって、
下記の方法ステップ、すなわち、
(a)前記ピストンベース体(11)のブランク(11′,111′,211′)を準備し、この際に外側の接合面(29,129,229)と内側の接合面(31,131,231)と、該両接合面(29,31;129,131;229,231)の間に位置する環状の下側の冷却通路部分(23a)を予備加工し、
(b)前記ピストンリングエレメント(12)のブランク(12′,112′,212′)を準備し、この際に外側の接合面(32,132,232)と内側の接合面(33,133,233)と、該両接合面(32,33;132,133;232,233)の間に位置する環状の上側の冷却通路部分(23b)を予備加工し、
(c)少なくとも1つの接合面(29,129,229,31,131,231;32,132,232,33,133,233)に環状の拡大部(34a,34b;134b;234a,234b)を成形し、この場合該拡大部(34a,34b;134b;234a,234b)は、所属の冷却通路部分(23a;23b)に向かって延びており、
(d)前記ピストンベース体(11)の前記ブランク(11′,111′,211′)又は前記ピストンリングエレメント(12)の前記ブランク(12′,112′,212′)を回転させ、前記ピストンベース体(11)の前記ブランク(11′,111′,211′)と前記ピストンリングエレメント(12)の前記ブランク(12′,112′,212′)とを、前記接合面(29,31;32,33)に関連した初期の圧着圧を作用させて押し合わせ、回転を、前記初期の圧着圧を維持したまま停止させ、回転の停止直後に、圧着圧を、前記ピストンベース体(11)と前記ピストンリングエレメント(12)のブランクとを冶金によって結合するために前記初期の圧着圧の数倍に高め、これにより、前記ピストンベース体(11)の前記ブランク(11′,111′,211′)を、前記ピストンリングエレメント(12)の前記ブランク(12′,112′,212′)と、それぞれの接合面(29,129,229,31,131,231;32,132,232,33,133,233)を介して摩擦溶接によって結合して、ピストンブランク(10′,110′)を形成し、
(e)該ピストンブランク(10′,110′)を後加工及び/又は仕上げ加工して、ピストン(10)を形成する、
という方法ステップを特徴とする、内燃機関用のピストンを製造する方法。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「 【請求項1】
ピストンベース体(11)とピストンリングエレメント(12)とを備え、
前記ピストンベース体(11)は、少なくとも1つのピストンスカート(15)を有し、
前記ピストンリングエレメント(12)は、少なくとも1つのピストン頂部(19)と、環状のトップランド(21)と、リング溝を備える環状のリング部分(22)とを有し、
前記ピストンベース体(11)と前記ピストンリングエレメント(12)とは、環状の閉鎖された冷却通路(23)を形成する、内燃機関用のピストン(10)を製造する方法であって、
下記の方法ステップ、すなわち、
(a)前記ピストンベース体(11)のブランク(11′,111′,211′)を準備し、この際に外側の接合面(29,129,229)と内側の接合面(31,131,231)と、該両接合面(29,31;129,131;229,231)の間に位置する環状の下側の冷却通路部分(23a)を予備加工し、
(b)前記ピストンリングエレメント(12)のブランク(12′,112′,212′)を準備し、この際に外側の接合面(32,132,232)と内側の接合面(33,133,233)と、該両接合面(32,33;132,133;232,233)の間に位置する環状の上側の冷却通路部分(23b)を予備加工し、
(c)前記ピストンベース体(11)の前記ブランク(11′,111′,211′)の前記内側及び外側の接合面(29,129,229;31,131,231)に、及び/又は前記ピストンリングエレメント(12)の前記ブランク(12′,112′,212′)の前記内側及び外側の接合面(32,132,232;33,133,233)に、環状の面取り部又は傾斜部(34a,34b;134b;234a,234b)を成形し、この場合、前記面取り部又は傾斜部(34a,34b;134b;234a,234b)は、摩擦溶接を開始する前の、前記両接合面(32,33;132,133;232,233)を互いに接触させた状態で、所属の冷却通路部分(23a;23b)の側が拡開され且つ前記接合面(32,33;132,133;232,233)に向かって先細りとなる三角形状の自由空間を形成するように、成形されており、
(d)前記ピストンベース体(11)の前記ブランク(11′,111′,211′)又は前記ピストンリングエレメント(12)の前記ブランク(12′,112′,212′)を回転させ、前記ピストンベース体(11)の前記ブランク(11′,111′,211′)と前記ピストンリングエレメント(12)の前記ブランク(12′,112′,212′)とを、前記接合面(29,31;32,33)に関連した初期の圧着圧を作用させて押し合わせ、回転を、前記初期の圧着圧を維持したまま停止させ、回転の停止直後に、圧着圧を、前記ピストンベース体(11)と前記ピストンリングエレメント(12)のブランクとを冶金によって結合するために前記初期の圧着圧の数倍に高め、これにより、前記ピストンベース体(11)の前記ブランク(11′,111′,211′)を、前記ピストンリングエレメント(12)の前記ブランク(12′,112′,212′)と、それぞれの接合面(29,129,229,31,131,231;32,132,232,33,133,233)を介して摩擦溶接によって結合して、ピストンブランク(10′,110′)を形成し、
(e)該ピストンブランク(10′,110′)を後加工及び/又は仕上げ加工して、ピストン(10)を形成する、
という方法ステップを特徴とする、内燃機関用のピストンを製造する方法。」
(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

(2)本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「(c)少なくとも1つの接合面(29,129,229,31,131,231;32,132,232,33,133,233)に環状の拡大部(34a,34b;134b;234a,234b)を成形し、この場合該拡大部(34a,34b;134b;234a,234b)は、所属の冷却通路部分(23a;23b)に向かって延びており、」を、本件補正後に「(c)前記ピストンベース体(11)の前記ブランク(11′,111′,211′)の前記内側及び外側の接合面(29,129,229;31,131,231)に、及び/又は前記ピストンリングエレメント(12)の前記ブランク(12′,112′,212′)の前記内側及び外側の接合面(32,132,232;33,133,233)に、環状の面取り部又は傾斜部(34a,34b;134b;234a,234b)を成形し、この場合、前記面取り部又は傾斜部(34a,34b;134b;234a,234b)は、摩擦溶接を開始する前の、前記両接合面(32,33;132,133;232,233)を互いに接触させた状態で、所属の冷却通路部分(23a;23b)の側が拡開され且つ前記接合面(32,33;132,133;232,233)に向かって先細りとなる三角形状の自由空間を形成するように、成形されており、」と限定することにより、請求項1に記載された発明の発明特定事項を限定するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 独立特許要件についての判断
本件補正における特許請求の範囲の請求項1に関する補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2-1 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平6-2613号公報(以下、「引用文献」という。)には、「内燃機関用ピストンおよびその製造方法」に関し、図面とともに、次のような記載がある。なお、下線は、理解の一助のため当審で付したものである。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は内燃機関用ピストンおよびその製造方法に係り、とくに頂面に耐熱性の補強部材を取付けるようにした内燃機関用ピストンおよびその製造方法に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】図10に示す従来のピストンによれば、そのトップリング溝3の部分に鋳包まれている耐摩環2は鋳鉄から構成されており、アルフィン接合によってピストン1と結合されている。一般にアルフィン接合はアルミニウム合金との結合力が弱く、このために耐摩環2の下面と内側の周面のみの結合力でピストン本体1に結合することが難しい。従ってこの耐摩環2の上面もピストン本体1に鋳包まれるようにしなければならず、これによって耐摩環2が鋳包まれる位置が下方に偏倚することになる。このことから、トップリング溝3が頂面に近い位置に形成されているハイトップリング溝を形成することが難しい。
【0005】また図10に示すようなピストンによれば、その頂面の全体がアルミニウム合金から構成されており、とくに燃焼室4の周縁部が高い熱的な負荷にさらされることになる。これによって燃焼室4の開口のエッジの部分に放射状に延びる熱亀裂を生ずる可能性がある。
【0006】また図11に示すように燃焼室4の下側であってその内部に冷却用空洞6を形成する場合には、鋳型内に冷却用空洞6に対応する形状の塩中子を配し、この状態で鋳型内に溶湯を注入して固化させるようにしている。このように塩中子を用いて冷却用空洞6を形成するようにすると、ピストン1の形状の制約が大きくなる。またその製造上塩中子の造型や熱処理、鋳型内へのセット、塩抜き、検査等の工程が増加し、これによってピストンのコストが上昇する欠点がある。
【0007】本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、頂面側の耐熱性を高めるとともに、塩中子を用いることなくしかも冷却用空洞を形成することを可能にした内燃機関用ピストンおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。」(段落【0004】ないし【0007】)

(ウ)「【0008】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、頂面であって少なくとも外周側の部分を覆う耐熱性の補強部材がピストン本体の上部に摩擦圧接によって固着されていることを特徴とする内燃機関用ピストンに関するものである。
【0009】また第2の発明は、上記第1の発明において、前記耐熱性の補強部材の外周側の部分にトップリング溝が形成されていることを特徴とする内燃機関用ピストンに関するものである。
【0010】また第3の発明は、上記第1の発明において、ピストン本体の上面または前記補強部材の下面に形成されている開放された周溝が前記補強部材または前記ピストン本体によって閉塞されて冷却用空洞が形成されていることを特徴とする内燃機関用ピストンに関するものである。
【0011】また第4の発明は、ピストン本体とは別体に耐熱性の補強部材を作製し、摩擦圧接法によって前記補強部材をピストン本体の上部に固着するようにしたことを特徴とする内燃機関用ピストンの製造方法に関するものである。
【0012】
【作用】第1の発明によれば、耐熱性の補強部材がピストンの頂面であって少なくとも外周側の部分に摩擦圧接によって固着されることになり、このような補強部材によってピストンの頂面側に耐熱性を付与するようになる。
【0013】第2の発明によれば、摩擦圧接によってピストン本体の上部に固着されている補強部材の外周面にトップリング溝が形成されることになる。従って耐熱性に優れたトップリング溝によって、耐久性が向上されることになる。しかも補強部材が頂面に設けられているために、トップリング溝の位置を高くしたハイトップリング溝になる。
【0014】第3の発明によれば、ピストン本体の上部または補強部材の下部に開放された周溝を形成するとともに、このピストン本体の上面に摩擦圧接によって補強部材を固着すると、上記周溝が閉塞されて冷却用空洞が形成されるようになる。
【0015】第4の発明によれば、予め別体に構成された耐熱性の補強部材を摩擦圧接の方法によってピストン本体の上部に固着することによって、ピストンの頂面であって少なくとも外周側の部分を覆うように補強部材がピストン本体の上部に取付けられるようになる。」(段落【0008】ないし【0015】)

(エ)「【0016】
【実施例】図1は本発明の一実施例に係る内燃機関用ピストンを組立てるための摩擦圧接装置を示すものであって、この装置はベッド10を備えている。そしてベッド10上には主軸台11が取付けられており、この主軸台11によって主軸12が回転可能に支持されている。主軸12の図1において左端側にはプーリ13が固着されている。また主軸台11上にはモータ14が固定されており、その出力軸にはプーリ15が取付けられている。そしてプーリ15と上記主軸12のプーリ13との間にはベルト16が掛渡されるようになっている。
【0017】主軸台11によって回転可能に支持されている主軸12の右端側にはワーク取付け盤17が固着されるとともに、このワーク取付け盤17にワークチャック18を介して補強部材19が取付けられるようになっている。
【0018】またベッド10の上面であってその右側にはL型ブラケット23が固着されており、このブラケット23によって油圧シリンダ24が支持されている。油圧シリンダ24のロッド25の先端部にはワーク取付け盤26が取付けられており、この取付け盤26にはワークチャック27が設けられている。そしてワークチャック27によってピストン本体28がワーク取付け盤26に固着されるようになっている。
【0019】油圧シリンダ24側のワーク取付け盤26に取付けられるピストン28は例えばアルミニウム合金の鋳造物また鍛造物であってよい。これに対して図2に示す回転側のワーク取付け盤17に取付けられる耐熱性の補強部材19は例えばオーステナイト系のニレジスト鋳鉄から構成されており、耐熱性と耐摩耗性とを有する鋳鉄である。そしてこのような補強部材19がピストン本体28の頂部に摩擦圧接法によって結合されるようになっている。
【0020】モータ14によって、プーリ15、ベルト16、プーリ13、および主軸12を介して補強部材19が取付けられているワーク取付け盤17を例えば1000?3000r.p.m.の回転数で回転駆動する。これに対して回転しない方のワーク取付け盤26を油圧シリンダ24によって例えば4?12kgf/mm^(2)の摩擦圧力で図3に示すように軸線方向に押圧し、このピストン本体28の上部側を回転する補強部材19の端面に圧着する。
【0021】すると両者の接合部の温度は450?600℃の間の温度に上昇する。補強部材19とピストン本体28との間の相対的な回転数の制御と、補強部材19に対するピストン本体28の押圧力の調整によって、より好ましくは両者の接合部の温度を500?530℃の温度にし、両者を摩擦圧接によって結合する。
【0022】そしてこの後に図4に示すように、モータ14を停止して補強部材19の回転を止める。そして油圧シリンダ24によってアップセット圧力をピストン本体28に加え、これによってピストン本体28を補強部材19に圧着する。このときのアップセット圧力は4?12kgf/mm^(2) の値でよく、回転中に油圧シリンダ24によって与えられる力とほぼ同じ値でよい。
【0023】このようにして補強部材19とピストン本体28とが互いに摩擦圧接によって結合固着されるようになる。このような摩擦圧接による補強部材19のピストン本体28に対する密着力は16kg/mm^(2) 以上の値になる。この圧力は、従来の耐摩環のアルフィン接合による7?8kg/mm^(2) の密着力の2倍以上の密着力となり、これによって補強部材19がピストン本体28に強固に結合固着されることになる。」(段落【0016】ないし【0023】)

(オ)「【0024】図5はこのようにして頂面側に補強部材19が結合されたピストンを示しており、その外周側にはトップリング溝31とセカンドリング溝32とサードリング溝33とがそれぞれ形成される。しかもトップリング溝31は頂面側に結合されている補強部材19に形成される。またこのピストンの頂部には凹部から成る燃焼室34が形成されるようになる。しかもこの燃焼室34の開口縁部は補強部材19の開口35のエッジによって構成される。従って燃焼室34の開口縁部が補強部材19によって補強されるようになり、これによって高い熱的な負荷に伴う放射状の亀裂の発生を未然に防止することが可能になる。またこのピストンの下部の開口の内側にはピンボス37が形成されている。
【0025】さらにこのように頂部側に補強部材19を結合することによって、このピストンの内部には冷却用空洞36が形成されることになる。このような冷却用空洞は、図6に示すように、ピストン本体28の上面の条溝40を予め形成するとともに、この条溝40にさらに円周方向に延びるように断面がほぼ半円形の周溝41を形成するようにする。また補強部材19については、その下面に突条42を形成するとともに、この突条42に円周方向に延びるように周溝43を形成しておく。
【0026】そして補強部材19をピストン本体28の上部に結合する際に、条溝40と突条42とを嵌合させるようにし、この状態で摩擦圧接を行なう。すると条溝40の周溝41と突条42の周溝43とが互いに整合されることになり、これによって冷却用空洞36が燃焼室34の外周側の内部に形成されることになる。
【0027】このようにして冷却用空洞36を形成する際に、補強部材19側の突条42の高さをピストン本体28側の条溝40の深さよりもやや小さな値に設定しておくことにより、補強部材19がピストン本体28に摩擦圧接された際に、条溝40の底部と突条42の上面との間に若干の隙間が残るかその隙間がほぼ埋るようにする。
【0028】このような突条42の条溝40の深さに対する高さの調整によって、後から形成される冷却用空洞36の内面にバリが出ないようにすることができる。一般に外周側に出るバリについては後から容易に除去することができるものの、冷却用空洞36の内部に突出するバリについては後から除去することが実質的に不可能なために、上述のような対策を施し、冷却用空洞36の内部へのバリの発生を未然に防止するようにしている。」(段落【0024】ないし【0028】)

(カ)「【0029】このように本実施例は、摩擦圧接法によって予め別体に作られている耐熱性の補強部材19をピストン本体28に結合するようにしたものである。従来のアルフィン接合による接合によると、耐摩環とアルミニウム合金から成るピストン本体は溶融によって凝固結合する一種の溶接によって結合が行なわれる。そして接合部は鋳造組織であって脆さを伴う。また内部に冷却用空洞を形成する場合には、塩中子を用いて多工程を要し、その工程が不安定であり、しかも内部に形成された冷却用空洞が信頼性に乏しく、品質保証に工数を要する欠点がある。
【0030】上記実施例のように、トップリング溝31を形成するための耐摩環を兼用するとともに、冷却用空洞の上部を構成する周溝43を形成した補強部材19をアルミニウム合金から成るピストン本体28に対して回転させながら、同軸上で補強部材19をピストン本体28に押付け、両者を摩擦圧接によってアルミニウム合金の固相域内の温度に昇温させ、一定時間後に補強部材19をピストン本体28に押付けて圧接するようにしている。
【0031】従って内燃機関用ピストンのトップリング溝31の位置を頂面に近く設けることができ、ハイトップリング溝とすることが可能になる。また冷却用空洞36の形成を容易にし、あるいはまた製造上従来のアルフィン接合によって結合される耐摩環のような高熱作業および習熟作業を不要にし、さらには不良のアルミニウム材の発生を解消することが可能になる。さらには塩中子による冷却用空洞の形成が不要になり、これによって信頼性の高い冷却用空洞36を設けることが可能になる。
【0032】なお上記実施例においては、補強部材19をニレジスト鋳鉄から構成しているが、このような材料に代えて他の耐熱性材料を利用することが可能である。例えばFCD、鋳鋼、スチール、高強度銅合金(アルミブロンズ等)の材料まで使用可能である。摩擦圧接の大きな特徴は、スチール等の接合力の安定性が非常に高いことであって、この性質により、上記の各種の材料が使用可能になる。また摩擦圧接の結合力および上記実施例の適用部位であれば、必ずしもアルミニウム合金(AC8A)に近い熱膨張率である必要はない。また冷却用空洞36の構造材として考えるなら、耐熱鋼が適当である。」(段落【0029】ないし【0032】)

(キ)「【0035】
【発明の効果】第1の発明は、頂面であって少なくとも外周側の部分を覆う耐熱性の補強部材がピストン本体の上部に摩擦圧接によって固着されている内燃機関用ピストンに関するものである。従って耐熱性を有する補強部材によって、ピストン本体の上部に耐熱性を付与することが可能になる。しかも摩擦圧接によってこの補強部材がピストン本体の上部に固着されているために、高い密着力で補強部材をピストン本体に結合できるようになり、補強部材の脱落が確実に防止されることになる。
【0036】第2の発明は、耐熱性の補強部材の外周側の部分にトップリング溝を形成するようにしたものである。従ってトップリング溝の位置が外周側であって頂面に近い位置に形成することが可能になり、いわゆるハイトップリング溝を有するピストンを提供できるようになる。
【0037】第3の発明は、ピストン本体の上面または補強部材の下面に形成されている開放された周溝が補強部材またはピストン本体によって閉塞されて冷却用空洞が形成されるようにしたものである。従ってピストン本体の上面または補強部材の下面の内の少なくとも一方に開放された周溝を形成するとともに、補強部材をピストン本体の上部に摩擦圧接によって結合固着することにより、冷却用空洞が形成されるようになり、鋳造時に塩中子を用いて冷却用空洞を設ける必要がなくなる。これによって塩中子で冷却用空洞を形成することによる各種の困難な工程を回避することが可能になり、冷却用空洞を有するピストンの製造を効率的に行なうことが可能になる。
【0038】第4の発明は、ピストン本体とは別体に耐摩耗性の補強部材を作製し、摩擦圧接法によって補強部材をピストン本体の上部に固着するようにしたものである。従って短時間でしかも非常に容易に補強部材をピストン本体の上部に固着して結合することが可能になり、ピストンの製造の合理化と効率化とを達成することができる。またこれによってピストンのコストの低減が可能になる。」(段落【0035】ないし【0038】)

(2)引用文献の記載から分かること
上記(1)及び図1ないし7の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていることが分かる。

(サ)上記(1)及び図1ないし7の記載から、引用文献には、内燃機関用ピストンの製造方法が記載されていることが分かる。

(シ)上記(1)及び図1ないし7の記載から、引用文献に記載された内燃機関用ピストンの製造方法において、ピストンは、その外周側にトップリング溝31が形成される補強部材19と、ピストン本体28とを備えることが分かる。

(ス)上記(1)及び図1ないし7の記載及び技術常識から、引用文献に記載された内燃機関用ピストンの製造方法において、ピストン本体28は、少なくとも1つのピストンスカートを有しているといえる。

(セ)上記(1)及び図1ないし7の記載及び技術常識から、引用文献に記載された内燃機関用ピストンの製造方法において、補強部材19は、補強部材19の頂部と、補強部材19の環状部分と、トップリング溝31を備える外周部分とを有することが分かる。

(ソ)上記(1)及び図1ないし7(特に図6及び7)の記載及び技術常識から、引用文献に記載された内燃機関用ピストンの製造方法において、補強部材19とピストン本体28とは、環状の閉鎖された冷却用空洞36を形成することが分かる。

(タ)上記(1)(特に(オ))及び図1ないし7の記載及び技術常識から、引用文献に記載された内燃機関用ピストンの製造方法において、補強部材19がピストン本体28の頂部に摩擦圧接法によって結合される前に、ピストン本体28には、ピストン本体28の上面の外側の接合面と内側の接合面と、該両接合面の間に位置する周溝41が形成され、補強部材19には、補強部材19の下面に外側の接合面と内側の接合面と、該両接合面の間に位置する周溝43が形成されることが分かる。

(チ)上記(1)(特に(エ))及び図1ないし7の記載及び技術常識から、引用文献に記載された内燃機関用ピストンの製造方法において、モータ14によって、補強部材19が取付けられているワーク取付け盤17を回転駆動し、回転しない方のワーク取付け盤26を油圧シリンダ24によって例えば4?12kgf/mm^(2)の摩擦圧力で図3に示すように軸線方向に押圧し、このピストン本体28の上部側を回転する補強部材19の端面に圧着し、両者の接合部の温度は450?600℃、より好ましくは500?530℃の温度にし、両者を摩擦圧接によって結合し、この後に図4に示すように、モータ14を停止して補強部材19の回転を止め、油圧シリンダ24によってアップセット圧力をピストン本体28に加え、これによってピストン本体28を補強部材19に圧着し、このときのアップセット圧力は4?12kgf/mm^(2) の値でよく、このようにして補強部材19とピストン本体28とが互いに摩擦圧接によって結合固着されるようになることが分かる。

(ツ)上記(1)(特に(オ))及び図1ないし7の記載及び技術常識から、引用文献に記載された内燃機関用ピストンの製造方法において、冷却用空洞36を形成する際に、補強部材19側の突条42の高さをピストン本体28側の条溝40の深さよりもやや小さな値に設定しておく(このとき、矩形の自由空間が形成される。)ことにより、補強部材19がピストン本体28に摩擦圧接された際に、条溝40の底部と突条42の上面との間に若干の隙間が残るかその隙間がほぼ埋るようにし、このような突条42の条溝40の深さに対する高さの調整によって、後から形成される冷却用空洞36の内面にバリが出ないようにすることができることが分かる。

(テ)上記(1)(特に(オ))及び図1ないし7の記載及び技術常識から、引用文献に記載された内燃機関用ピストンの製造方法において、摩擦圧接後にピストンの外周側に出るバリについては後から容易に除去することができることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)並びに図1ないし13の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ピストン本体28と補強部材19とを備え、
前記ピストン本体28は、少なくとも1つのピストンスカートを有し、
前記補強部材19は、少なくとも1つの補強部材19の頂部と、補強部材19の環状部分と、トップリング溝31を備える環状のリング部分とを有し、
前記ピストン本体28と前記補強部材19とは、環状の閉鎖された冷却用空洞36を形成する、内燃機関用のピストンを製造する方法であって、
下記の方法ステップ、すなわち、
(a)前記ピストン本体28の加工前の部材を準備し、この際に外側の接合面と内側の接合面と、該両接合面の間に位置する周溝41を形成し、
(b)前記補強部材19の加工前の部材を準備し、この際に外側の接合面と内側の接合面と、該両接合面の間に位置する周溝43を形成し、
(c)前記ピストン本体28の前記加工前の部材の前記内側及び外側の接合面に、及び/又は前記補強部材19の前記加工前の部材の前記内側及び外側の接合面に、環状の突条42又は条溝40を成形し、この場合、前記突条42又は条溝40は、摩擦圧接を開始する前の、前記両接合面を互いに接触させた状態で、矩形の自由空間を形成するように、成形されており、
(d)前記ピストン本体28の前記加工前の部材又は前記補強部材19の前記加工前の部材を回転させ、前記ピストン本体28の前記加工前の部材と前記補強部材19の前記加工前の部材とを、前記接合面に関連した摩擦圧力を作用させて押し合わせ、回転を、前記摩擦圧力を維持したまま停止させ、回転の停止直後に、アップセット圧力を、前記ピストン本体28と前記補強部材19の加工前の部材とを冶金によって結合するために加え、これにより、前記ピストン本体28の前記加工前の部材を、前記補強部材19の前記加工前の部材と、それぞれの接合面を介して摩擦圧接によって結合して、頂面に補強部材19が結合されたピストンを形成し、
(e)該頂面に補強部材19が結合されたピストンを外周側のバリを除去して、ピストンを形成する、
という方法ステップを有する、内燃機関用のピストンを製造する方法。」

2-2 対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ピストン本体28」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願補正発明における「ピストンベース体(11)」に相当し、以下同様に、「補強部材19」は「ピストンリングエレメント(12)」に、「ピストンスカート」は「ピストンスカート(15)」に、「補強部材19の頂部」は「ピストン頂部(19)」に、「補強部材19の環状部分」は「環状のトップランド」に、「トップリング溝31」は「リング溝」に、「リング部分」は「リング部分(22)」に、「冷却用空洞36」は「冷却通路(23)」に、「ピストン」は「ピストン(10)」に、「(ピストン本体28の)加工前の部材」は「(ピストンベース体(11)の)ブランク(11′,111′,211′)」に、「(ピストン本体28の)外側の接合面」は「(ピストンベース体(11)の)外側の接合面(29,129,229)」に、「(ピストン本体28の)内側の接合面」は「(ピストンベース体(11)の)内側の接合面(31,131,231)」に、「(ピストン本体28の)両接合面」は「(ピストンベース体(11)の)両接合面(29,31;129,131;229,231)」に、「(ピストン本体28の)周溝41」は「(ピストンベース体(11)の)環状の下側の冷却通路部分(23a)」に、「形成し」は「予備加工し」に、「(補強部材19の)加工前の部材」は「(ピストンリングエレメント(12)の)ブランク(12′,112′,212′)」に、「(補強部材19の)外側の接合面」は「(ピストンリングエレメント(12)の)接合面(32,132,232)」に、「(補強部材19の)内側の接合面」は「(ピストンリングエレメント(12)の)接合面(33,133,233)」に、「(補強部材19の)両接合面」は「(ピストンリングエレメント(12)の)両接合面(32,33;132,133;232,233)」に、「(補強部材19の)周溝43」は「(ピストンリングエレメント(12)の)環状の上側の冷却通路部分(23b)」に、
「摩擦圧接」は「摩擦溶接」に、「摩擦圧力」は「初期の圧着圧」に、「アップセット圧力」は「圧着圧」に、「頂面に補強部材19が結合されたピストン」は「ピストンブランク(10′,110′)」に、「外周側のバリを除去」は、「後加工及び/又は仕上げ加工」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「突条42又は条溝40」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、「空間形成部」という限りにおいて、本願補正発明における「面取り部又は傾斜部(34a,34b;134b;234a,234b)」に相当し、同様に、引用発明における「矩形の自由空間」は、「自由区間」という限りにおいて、本願補正発明における「所属の冷却通路部分(23a;23b)の側が拡開され且つ前記接合面(32,33;132,133;232,233)に向かって先細りとなる三角形状の自由空間」に相当する。
また、引用発明における「アップセット圧力」を「加え」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、「所定の圧着圧」を「加え」という限りにおいて、本願補正発明における「圧着圧」を「初期の圧着圧の数倍に高め」に相当する。

以上から、本願補正発明と引用発明は、
「ピストンベース体とピストンリングエレメントとを備え、
前記ピストンベース体は、少なくとも1つのピストンスカートを有し、
前記ピストンリングエレメントは、少なくとも1つのピストン頂部と、環状のトップランドと、リング溝を備える環状のリング部分とを有し、
前記ピストンベース体と前記ピストンリングエレメントとは、環状の閉鎖された冷却通路を形成する、内燃機関用のピストンを製造する方法であって、
下記の方法ステップ、すなわち、
(a)前記ピストンベース体のブランクを準備し、この際に外側の接合面と内側の接合面と、該両接合面の間に位置する環状の下側の冷却通路部分を予備加工し、
(b)前記ピストンリングエレメントのブランクを準備し、この際に外側の接合面と内側の接合面と、該両接合面の間に位置する環状の上側の冷却通路部分を予備加工し、
(c)前記ピストンベース体の前記ブランクの前記内側及び外側の接合面に、及び/又は前記ピストンリングエレメントの前記ブランクの前記内側及び外側の接合面に、環状の空間形成部を成形し、この場合、前記空間形成部は、摩擦溶接を開始する前の、前記両接合面を互いに接触させた状態で、自由空間を形成するように、成形されており、
(d)前記ピストンベース体の前記ブランク又は前記ピストンリングエレメントの前記ブランクを回転させ、前記ピストンベース体の前記ブランクと前記ピストンリングエレメントの前記ブランクとを、前記接合面に関連した初期の圧着圧を作用させて押し合わせ、回転を、前記初期の圧着圧を維持したまま停止させ、回転の停止直後に、所定の圧着圧を、前記ピストンベース体と前記ピストンリングエレメントのブランクとを冶金によって結合するために加え、これにより、前記ピストンベース体の前記ブランクを、前記ピストンリングエレメントの前記ブランクと、それぞれの接合面を介して摩擦溶接によって結合して、ピストンブランクを形成し、
(e)該ピストンブランクを後加工及び/又は仕上げ加工して、ピストンを形成する、
という方法ステップを有する、内燃機関用のピストンを製造する方法。」
という点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>
(ア)「空間形成部」及び「自由区間」に関して、本願補正発明においては、「ピストンベース体のブランクの内側及び外側の接合面に、及び/又はピストンリングエレメントのブランクの内側及び外側の接合面に、環状の面取り部又は傾斜部を成形し、この場合、面取り部又は傾斜部は、摩擦溶接を開始する前の、両接合面を互いに接触させた状態で、所属の冷却通路部分の側が拡開され且つ接合面に向かって先細りとなる三角形状の自由空間を形成するように、成形され」るのに対し、引用発明においては、「ピストン本体28の加工前の部材の内側及び外側の接合面に、及び/又は補強部材19の加工前の部材の内側及び外側の接合面に、環状の突条42又は条溝40を成形し、この場合、突条42又は条溝40は、摩擦圧接を開始する前の、両接合面を互いに接触させた状態で、矩形の自由空間を形成するように、成形され」る点(以下、「相違点1」という。)。

(イ)「所定の圧着圧」を「加え」に関して、本願補正発明においては、「圧着圧」を「初期の圧着圧の数倍に高め」るのに対し、引用発明においては、「アップセット圧力」を「加え」るものの、「初期の圧着圧の数倍に高め」るか否か、明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

2-3 判断
(ア)相違点1について
「空間形成部」及び「自由区間」に関して、摩擦溶接(摩擦圧接)の技術分野において、特定箇所のばりを少なくするために、「空間形成部」を「環状の面取り部又は傾斜部」とし、「自由区間」を「三角形状の自由空間」とすることは、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、本願の国際調査報告書において引用され、平成27年3月30日付け拒絶理由通知書においても「先行技術文献」として記載されている米国特許出願公開第2009/0220820号明細書のFig1、2及び4並びに段落[0024]、[0025]及び[0027]、特開平9-239569号公報の【特許請求の範囲】、段落【0045】及び【0049】並びに図1、特開昭52-127453号公報の第1ページ左下欄第8行ないし右下欄第15行及び第1ないし3図等の記載を参照。)である。
また、上記米国特許出願公開第2009/0220820号明細書には、該自由空間を三角形状の自由空間とする実施例とともに、矩形状の自由空間とする実施例も記載されており、該自由空間として、三角形状の自由空間あるいは矩形状の自由空間の何れかを選択することは、当業者が適宜なし得る設計事項であるともいえる。
してみれば、引用発明において、周知技術1を適用することにより、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(イ)相違点2について
摩擦溶接(摩擦圧接)の技術分野において、アップセット圧力を、初期の圧着圧の数倍に高める技術は、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特開平2-30386号公報の第2ページ右下欄第1行ないし第4ページ左上欄第11行及び第1図、特開昭62-183979号公報の第2図、特開2000-38987号公報の図3及び特開平9-239569号公報の段落【0045】等の記載を参照。)である。
また、初期の圧着圧及びアップセット圧力をどの程度にするかは、材料や加工温度により変わる値であり、当業者が適宜設定する設計事項であるともいえる。
してみれば、引用発明において、周知技術2を適用することにより、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(ウ)効果について
そして、本願補正発明は、全体として検討しても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできず、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
したがって、上記2において検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、平成28年5月2日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成27年7月6日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲及び平成25年3月12日に提出された明細書の翻訳文並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。

2 引用文献及び引用発明
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開平6-2613号公報)及び引用発明は、前記第2[理由]2-1に記載したとおりである。

3 対比・判断
前記第2[理由]1(2)で検討したとおり、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明、すなわち本願発明の発明特定事項をさらに限定するものであるから、本願発明は、実質的に本願補正発明における発明特定事項の一部を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2[理由]2-2に記載したとおり、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

第5 付言
請求人は、平成28年10月20日付け上申書において補正案を添付しているが、該補正案は、審判請求時に補正された特許請求の範囲を拡張・変更するものであり、適当でない。
 
審理終結日 2017-03-15 
結審通知日 2017-03-21 
審決日 2017-04-03 
出願番号 特願2013-523488(P2013-523488)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
P 1 8・ 575- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 永田 和彦谷川 啓亮  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 内燃機関用のピストンを製造する方法  
代理人 上島 類  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  

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