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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1331639
審判番号 不服2016-9874  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-01 
確定日 2017-08-17 
事件の表示 特願2012-45882「ローター固定用樹脂組成物、ローター、および自動車」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月12日出願公開、特開2013-181106〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月1日に出願された特許出願であって、平成27年11月5日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月18日付けで拒絶査定された。それに対して、平成28年7月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたが、同年7月26日付けで前置報告がされ、同年12月20日に上申書が提出されたものである。



第2 平成28年7月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[結論]
平成28年7月1日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成28年7月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、審判請求と同時にされた補正であり、平成28年1月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲をさらに補正するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1について、
「【請求項1】
回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、を備えるローターのうち前記固定部材の形成に用いるローター固定用樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填剤と、
2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物と、
を含み、
金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、
温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であるローター固定用樹脂組成物。」
を、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1である、
「【請求項1】
回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、を備えるローターのうち前記固定部材の形成に用いるローター固定用樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填剤と、
2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物と、
硬化促進剤と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して5質量%以上40質量%以下であり、
前記硬化剤の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して0.8質量%以上12質量%以下であり、
前記硬化促進剤の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して0.1質量%以上3質量%以下であり、
金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、
温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であるローター固定用樹脂組成物。」
とする、補正事項を含むものである(下線は、補正部分であり、当審で付与した。)。

2.本件補正の目的について
上記した特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である、「硬化促進剤」を必須成分とするとともに、「熱硬化性樹脂」、「硬化剤」及び「硬化促進剤」の含有量を各々限定する補正事項を含むものであり、しかも本件補正後の請求項1についてする本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決すべき課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
そこで、本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願補正明細書」という場合がある。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、以下に記載のとおりのものである。
「回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、を備えるローターのうち前記固定部材の形成に用いるローター固定用樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填剤と、
2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物と、
硬化促進剤と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して5質量%以上40質量%以下であり、
前記硬化剤の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して0.8質量%以上12質量%以下であり、
前記硬化促進剤の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して0.1質量%以上3質量%以下であり、
金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、
温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であるローター固定用樹脂組成物。」

(2)本願補正明細書の記載事項
本願補正明細書の発明の詳細な説明には、以下のとおりの記載がある(下線は、当審で付与した。)。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
ローターコアは、高温下、長時間にわたって高速回転させて使用されるものである。現在、自動車駆動用のモータをさらに小型化することが求められており、小型化を達成するためには、より高速回転可能なモータとすることが必要となる。このため、ローターコアに対しても、高速回転時における耐久性の向上が強く求められている。
モータが高速回転している際、ローターコア内部に埋め込まれた永久磁石には大きな遠心力が作用する。遠心力が作用したとしても、磁石の位置ずれや磁石の変形が起こらない構造とすることが求められる。このような構造の実現には、磁石をローターコアに固定する固定材を最適に設計することが重要な技術的課題となっている。
そこで、本発明の目的は、繰り返し使用に耐えることのできる耐久性を向上させたローターコアを得るためのローター固定用樹脂組成物、当該ローター固定用樹脂組成物を用いて形成したローターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、遠心力が作用したとしても、磁石の位置ずれや変形を抑制するために、固定部材の弾性率や強度などを向上させることを考え、無機充填剤を含有する固定用樹脂組成物を固定部材に用いることを検討した。
しかしながら、上記構造は、単に固定部材の弾性率や強度などを高めるだけでは磁石の位置ずれや変形を抑制するには十分ではなかった。
本発明者らは、こうした構造を実現するための設計指針についてさらに鋭意検討した。その結果、本発明者等らが考案した特定温度における固定材の破断エネルギーという尺度がこうした設計指針として有効であることを見出し、本発明に到達した。
本発明によれば、 回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、を備えるローターのうち前記固定部材の形成に用いるローター固定用樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填剤と、
2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物と、
硬化促進剤と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して5質量%以上40質量%以下であり、
前記硬化剤の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して0.8質量%以上12質量%以下であり、
前記硬化促進剤の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して0.1質量%以上3質量%以下であり、
金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、
温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であるローター固定用樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、上記ローター固定用樹脂組成物を用いて形成されるローターが提供される。
さらに、本発明によれば、上記ローター用いて作製される自動車が提供される。
【発明の効果】
本発明によれば、ローターコアの耐久性を測る尺度として特定温度における破断エネルギーを用いている。この破断エネルギーが、温度25℃において、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上の範囲にある固定材を用いることによって、高温下、長時間にわたって高速回転させる環境下において、十分な耐久性を示すローターコアを実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。」(段落【0006】?【0016】)

イ 「 本実施形態では、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状のローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として用いた結果を例に説明する。なお、JIS K7162に記載のダンベル形状と同様の形状が、ISO527-2に記載されている。
以下、温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーを、破断エネルギーa、とする。また、温度150℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーを、破断エネルギーbとする。さらに、破断エネルギーaの測定条件における破断強度を、破断強度a、破断エネルギーbの測定条件における破断強度を、破断強度bとする。
破断エネルギーとは、引張試験時における垂直応力(stress)と垂直歪み(strein)との関係を、グラフ化した曲線(応力-歪曲線)を作成し、算出した。具体的には、歪みを変数とし、引張試験の開始点から破断点までの応力の積分値を算出するものである。この破断エネルギーが大きい程、得られるローターコアは、硬さおよび粘り強さを備えた耐久性に優れたものとなる。なお、単位は、×10^(-4)J/mm^(3)である。
本実施形態に係るローター固定用樹脂組成物の硬化物における破断エネルギーaは、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上の範囲であって、かかる範囲の破断エネルギーaを有していることによって、硬さおよび粘り強さを備えた耐久性に優れたローターコアが得られる。
また、破断エネルギーaは、1.9×10^(-4)J/mm^(3)以上であることが好ましい。破断エネルギーaが、この範囲にあることによって、高温下、長時間にわたって高速回転させる環境下において、十分な耐久性を示すローターコアを実現できる。なお、上限値については特に制限されるものではないが、15.0×10^(-4)J/mm^(3)程度であれば十分である。
なお、破断エネルギーbは、1.2×10^(-4)J/mm^(3)以上であることが好ましい。破断エネルギーaと比較して高温で測定している破断エネルギーbが、上記範囲内である場合、温度変化にも強く、かつ硬さと粘り強さを備えた耐久性に優れたローターコアを得ることができる。また、破断エネルギーbは、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であることがさらに好ましい。破断エネルギーbが、この範囲にあることによって、高速回転時における耐久性が、より一層向上する。破断エネルギーbについても、破断エネルギーaと同様に、上限値については特に制限されるものではないが、8.0×10^(-4)J/mm^(3)程度であれば十分である。
破断エネルギーaおよびbを向上させるためには、以下の手法が有効である。
まず、エポキシ樹脂およびその硬化剤の組み合わせを最適化することにより、樹脂成分の強度および粘り強さを向上させることが必要である。これにくわえ、無機充填剤の表面をシランカップリング剤により改質し、樹脂と無機充填剤の界面接着強度を向上させることが有効である。さらには、無機充填剤の粒径分布を調整することにより、樹脂硬化体内部に発生したマイクロクラックが進展し難い構造とすることも有効である。 」(段落【0021】?【0027】)

ウ 「本実施形態のローター固定用樹脂組成物を得るためには、例えば、以下の3つの条件を、それぞれ適切に調整することが重要である。
(1)無機充填剤の性状
(2)無機充填剤のシランカップリング処理条件
(3)熱硬化性樹脂、その硬化剤および添加剤の組み合わせ
具体的には、実施例にて後述する。
ただし、本実施形態のローター固定用樹脂組成物の製法は、上記のような方法には限定されず、種々の条件を適切に調整することにより、本実施形態のローター固定用樹脂組成物を得ることができる。例えば、シリカ粒子を用いなくても、カップリング剤の処理条件を調整することにより、本実施形態のローター固定用樹脂組成物を得ることができる。」(段落【0037】?【0038】)

エ 「(ローター固定用樹脂組成物)
次に、本実施形態に係るローター固定用樹脂組成物について、詳細に説明する。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物は、例えば粉末状、顆粒状、またはタブレット状等である。このため、後述するように、例えば溶融させた固定用樹脂組成物を離間部140内に注入することにより、離間部140内に固定用樹脂組成物が充填される。
本実施形態に係る固定用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機充填剤(C)と、を含む。以下、各成分について説明する。
[熱硬化性樹脂(A)]
熱硬化性樹脂(A)は、特に制限されるものではないが、例えばエポキシ樹脂(A1)、フェノール樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、またはマレイミド樹脂等が用いられる。中でも、硬化性、保存性、硬化物の耐熱性、耐湿性、および耐薬品性に優れるエポキシ樹脂(A1)が好適に用いられる。
本実施形態に係る熱硬化性樹脂(A)は、好ましくはエポキシ樹脂(A1)を含む。エポキシ樹脂(A1)としては、一分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば特に分子量や構造は限定されるものではない。
エポキシ樹脂(A1)としては、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンのような芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリフェノールプロパン型エポキシ樹脂;アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂;トリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂;ナフトール型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂;フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のアラルキル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、またはビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシ-アジペイド等の脂環式エポキシ等の脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは単独でも2種以上混合して使用しても良い。
熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂(A1)を含む場合、芳香族環にグリシジルエーテル構造あるいはグリシジルアミン構造が結合した構造を含むものが、耐熱性、機械特性、および耐湿性の観点から好ましい。
また、フェノール樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
本実施形態に係る熱硬化性樹脂(A)の含有量は、特に限定されないが、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
熱硬化性樹脂(A)としてエポキシ樹脂(A1)を含む好ましい態様において、該エポキシ樹脂の含有量は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂(A)100質量%に対して、好ましくは70質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
[硬化剤(B)]
硬化剤(B)は、熱硬化性樹脂(A)に好ましい態様として含まれるエポキシ樹脂(A1)を三次元架橋させるために用いられるものである。硬化剤(B)としては、特に限定されないが、例えばフェノール樹脂を用いることができる。このようなフェノール樹脂系硬化剤は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではない。
フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物、ナフテン酸コバルト等のナフテン酸金属塩等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。このようなフェノール樹脂系硬化剤を用いることにより、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、および保存安定性等のバランスが良好となる。特に、硬化性の点から、フェノール樹脂系硬化剤の水酸基当量は、例えば90g/eq以上250g/eq以下とすることができる。
さらに、併用できる硬化剤としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤等を挙げることができる。
重付加型の硬化剤としては、例えばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレンジアミン(MXDA)等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等の芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジド等を含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマー等のポリフェノール化合物;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテル等のポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネート等のイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂等の有機酸類等が挙げられる。
触媒型の硬化剤としては、例えばベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30)等の3級アミン化合物;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(EMI24)等のイミダゾール化合物;BF3錯体等のルイス酸等が挙げられる。
縮合型の硬化剤としては、例えばレゾール樹脂、メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂等が挙げられる。
このような他の硬化剤を併用する場合において、フェノール樹脂系硬化剤の含有量は、全硬化剤(B)に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、耐燃性を保持しつつ、良好な流動性を発現させることができる。また、フェノール樹脂系硬化剤の含有量は、特に限定されないが、全硬化剤(B)に対して、100質量%以下であることが好ましい。
固定用樹脂組成物に対する硬化剤(B)の含有量は、特に限定されるものではないが、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.8質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合を上記範囲内とすることにより、良好な硬化性を得ることができる。また、固定用樹脂組成物に対する硬化剤(B)の含有量は、特に限定されるものではないが、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、12質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
なお、硬化剤(B)としてのフェノール樹脂と熱硬化性樹脂(A)としてのエポキシ樹脂(A1)は、全熱硬化性樹脂(A)中のエポキシ基数(EP)と全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が、0.8以上1.3以下となるように配合されることが好ましい。当量比が上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物を成形する際、十分な硬化特性を得ることができる。ただし、エポキシ樹脂と反応し得るフェノール樹脂以外の樹脂を併用する場合は、適宜当量比を調整すればよい。
[無機充填剤(C)]
無機充填剤(C)としては、固定用樹脂組成物の技術分野で一般的に用いられる無機充填剤を使用することができる。
無機充填剤(C)としては、例えば溶融破砕シリカ及び溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、クレイ、マイカ、ロックウール、ウォラストナイト、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスファイバー、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、セルロース、アラミド、木材、フェノール樹脂成形材料やエポキシ樹脂成形材料の硬化物を粉砕した粉砕粉等が挙げられる。この中でも、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカが好ましく、溶融球状シリカがより好ましい。また、この中でも、炭酸カルシウムがコストの面で好ましい。無機充填剤(C)としては、一種で使用しても良いし、または二種以上を併用してもよい。
無機充填剤(C)の平均粒径D_(50)は、好ましくは0.01μm以上75μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上50μm以下である。無機充填剤(C)の平均粒径を上記範囲内にすることにより、孔部150と磁石120との離間部140への充填性が向上する。平均粒径D_(50)は、レーザー回折型測定装置RODOS SR型(SYMPATEC HEROS&RODOS社)での体積換算平均粒径とした。
また、本実施形態に係る固定用樹脂組成物において、無機充填剤(C)は、平均粒径D_(50)が異なる2種以上の球状シリカを含むことができる。これにより、流動性及び充填性の向上とバリ抑制の両立が可能となる。
無機充填剤(C)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上であり、特に好ましくは75質量%以上である。上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下が低減できる。また、無機充填剤(C)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物は良好な流動性を有するとともに、良好な成形性を備える。したがって、ローターの製造安定性が高まり、歩留まり及び耐久性のバランスに優れたローターが得られる。
また、本発明者らが検討した結果、無機充填剤(C)の含有量を50質量%以上とすることにより、固定部材130と電磁鋼板112との線膨張率の差を小さくすることができることが判明した。これにより、温度変化に応じて電磁鋼板112が変形し、ローター100の回転特性が低下することを抑制することができる。従って、耐久性の中でも、とくに回転特性の持続性に優れたローターが実現される。
また、無機充填剤(C)として溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカを用いる場合、シリカの含有量が、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。上記範囲内であると、流動性と熱膨張率のバランスが良好となる。
また、無機充填剤(C)と、後述するような水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤とを併用する場合には、これらの無機系難燃剤と上記無機充填剤の合計量は、上記無機充填剤(C)の含有量の範囲内とすることが望ましい。
無機充填剤(C)には、予めシランカップリング剤などのカップリング剤(F)(第1カップリング剤とも呼ぶ。)による表面処理が行われていてもよい。これにより、無機充填剤の凝集を抑制し、良好な流動性を得ることができる。したがって、離間部140への固定用樹脂組成物の充填性を向上させることが可能となる。
また、樹脂成分との親和性が高まるため、固定用樹脂組成物を用いて形成される固定部材の強度を向上させることができる。
無機充填剤(C)の表面処理に用いられる第1カップリング剤としては、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等の1級アミノシランを用いることができる。このような無機充填剤(C)の表面処理に使用する第1カップリング剤の種類を適宜選択し、または第1カップリング剤の配合量を適宜調整することにより、固定用樹脂組成物の流動性および固定部材の強度等を制御することができる。
無機充填剤(C)へのカップリング処理は、例えば次のように行うことができる。まず、ミキサーを用いて無機充填剤(C)とシランカップリング剤を混合攪拌する。ミキサーとしては、例えばリボンブレンダー等を用いることができる。このとき、ミキサー内を湿度50%以下に設定しておくのが好ましい。このような噴霧環境に調整することにより、シリカ粒子の表面に水分が再付着するのを抑制することができる。さらに、噴霧中のカップリング剤に水分が混入し、カップリング剤同士が反応してしまうのを抑制することができる。
次いで、得られた混合物をミキサーから取り出し、エージング処理を行い、カップリング反応を促進させる。エージング処理は、例えば、20±5℃の条件下で、7日間以上放置することにより行われる。このような条件でおこなうことにより、シリカ粒子の表面にカップリング剤を均一に結合させることができる。その後、ふるいにかけ、粗大粒子を除去することにより、シランカップリング処理が施された無機充填剤(C)が得られる。
このような表面処理シリカ粒子を用いることにより、シリカ粒子と樹脂成分との界面接着強度を向上させることができる。さらには、固定部材中のマイクロクラックの発生を抑制することができる。」(段落【0054】?【0076】)

オ 「本実施形態に係る固定用樹脂組成物においては、エポキシ樹脂(A1)と、無機充填剤(C)との密着性をさらに向上させるため、上述した第1カップリング剤とは別に、カップリング剤(F)(第2カップリング剤とも呼ぶ。)をさらに添加することができる。第2カップリング剤としては、エポキシ樹脂(A1)と無機充填剤(C)との間で反応し、エポキシ樹脂(A1)と無機充填剤(C)の界面強度を向上させるものであればよい。
第2カップリング剤としては、特に限定されるものではないが、例えばエポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、メルカプトシランなどが挙げられる。また、第2カップリング剤は、前述の化合物(E)と併用することで、固定用樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させるという化合物(E)の効果を高めることもできるものである。
エポキシシランとしては、例えばγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、アミノシランとしては、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニルγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルγ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-6-(アミノヘキシル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-(トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ベンゼンジメタナン等が挙げられる。また、ウレイドシランとしては、例えばγ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。アミノシランの1級アミノ部位をケトン又はアルデヒドを反応させて保護した潜在性アミノシランカップリング剤として用いてもよい。また、アミノシランとしては、2級アミノ基を有してもよい。また、メルカプトシランとしては、例えばγ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランのほか、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドのような熱分解することによってメルカプトシランカップリング剤と同様の機能を発現するシランカップリング剤等、が挙げられる。また、これらのシランカップリング剤は予め加水分解反応させたものを配合してもよい。これらのシランカップリング剤は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
連続成形性という観点では、メルカプトシランが好ましい。流動性の観点では、アミノシランが好ましい。密着性という観点ではエポキシシランが好ましい。」(段落【0110】?【0112】)

カ 「本実施の形態のローター100は、ハイブリッド車、燃料電池車および電気自動車等の電動車両、列車ならびに船舶等の、乗り物に搭載することができる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、を備えるローターのうち前記固定部材の形成に用いるローター固定用樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填剤と、
を含み、
金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、
温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であるローター固定用樹脂組成物。
2.前記試験片に対して、温度150℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.2×10^(-4)J/mm^(3)以上である1.に記載のローター固定用樹脂組成物。
3.前記試験片に対して、温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で測定した際の破断強度が50MPa以上である1.または2.に記載のローター固定用樹脂組成物。
4.前記試験片に対して、温度150℃、負荷速度1.0mm/minという条件で測定した際の破断強度が15MPa以上である1.乃至3.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物。
5.前記試験片のヤング率が、12GPa以上である1.乃至4.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物。
6.2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物をさらに含む1.乃至5.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物。
7.前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスナフトール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセンジオール型エポキシ樹脂、及びトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む、1.乃至6.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物。
8.前記硬化剤が、ノボラック型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトール型フェノール樹脂、及びヒドロキシベンズアルデヒドとホルムアルデヒドとフェノールの反応生成物を主とするフェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む、1.乃至7.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物。
9.前記エポキシ樹脂が、結晶性エポキシ樹脂である、1.乃至6.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物。
10.粉末状、顆粒状、又はタブレット状である、1.乃至9.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物。
11.穴部と磁石との前記離間部の幅は、20μm以上500μm以下である1.乃至10.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物。
12.1.乃至10.のいずれか一つに記載のローター固定用樹脂組成物を用いて形成されるローター。
13.12.に記載のローターを用いて作製された自動車。
【実施例】
以下、本発明を、実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。特に記載しない限り、以下に記載の「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を示す。
各実施例及び各比較例で用いた原料成分を下記に示した。
(熱硬化性樹脂(A))
エポキシ樹脂1:製造方法を後述する。
エポキシ樹脂2:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製、EOCN-1020-65)
エポキシ樹脂3:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬社製、EOCN-1020-55)
(硬化剤(B))
フェノール樹脂系硬化剤1:製造方法を後述する。
フェノール樹脂系硬化剤2:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト製、PR-HF-3)
フェノール樹脂系硬化剤3:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト製、PR-51470)
(無機充填剤(C))
球状シリカ1(電気化学工業製、FB-950、平均粒径D_(50)23μm、最大粒径Dmax75μm)
球状シリカ2(電気化学工業製、FB-35、平均粒径D_(50)10μm、最大粒径Dmax75μm)
未処理球状シリカ3(アドマテックス社製、SO-25R、平均粒径D_(50)0.5μm)
(硬化促進剤(D))
硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成(株)製、PP-360)
(シランカップリング剤(F))
シランカップリング剤1:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-903)
シランカップリング剤2:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製、CF4083)
シランカップリング剤3:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ(株)製、GPS-M)
シランカップリング剤4:γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン
(その他の添加剤)
離型剤:カルナバワックス
イオン捕捉剤:ハイドロタルサイト(協和化学工業製、商品名DHT-4H)
着色剤:カーボンブラック(三菱化学製、MA600)
トリアゾール:3-アミノ-1,2,4-トリアゾール-5-チオール
低応力剤:シリコーンレジン(信越化学工業(株)製、KMP-594)
難燃剤:水酸化アルミニウム(住友化学、CL-303,平均粒径D503.5μm)
フェノール樹脂系硬化剤1の製造方法を以下に示す。
セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着した後、1,3-ジヒドロキシベンゼン(東京化成工業社製、「レゾルシノール」、融点111℃、分子量110、純度99.4%)360質量部、フェノール(関東化学社製特級試薬、融点41℃、分子量94、純度99.3%)235質量部、あらかじめ粒状に砕いた4,4’-ビスクロロメチルビフェニル(和光純薬工業社製、融点126℃、純度95%、分子量251)251質量部を、セパラブルフラスコに秤量した。次に、窒素置換しながら加熱し、フェノールの溶融の開始に併せて攪拌を開始した。
撹拌開始後、系内温度を110?130℃の範囲に維持しながら3時間反応させた後、再度加熱し、140?160℃の範囲に維持しながら3時間反応させた。なお、上記の反応によって系内に発生した塩酸ガスは、窒素気流によって系外へ排出した。
反応終了後、150℃、2mmHgの減圧条件下、未反応成分を留去した。次いで、トルエン400質量部を添加し、均一溶解させた後、分液漏斗に移し、蒸留水150質量部を加えて振とうした。振とう後、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った。上記水洗操作後、油層を125℃減圧処理することによってトルエン、残留未反応成分等の揮発成分を留去し、下記式(12A)で表されるフェノール樹脂系硬化剤1(重合体)を得た。
なお、このフェノール樹脂系硬化剤1における水酸基当量は135、150℃におけるICI粘度は4.7dPa・sであった。
また、電界脱離質量分析(Field Desorption Mass Spectrometry;FD-MS)により測定・分析された相対強度比を質量比とみなして算術計算することにより得られた、一価ヒドロキシフェニレン構造単位の繰り返し数kの平均値k0、二価ヒドロキシフェニレン構造単位の繰り返し数mの平均値m0、およびそれらの比k0/m0は、それぞれ、1.20、1.27、48.6/51.4であった。
【化7】

(式(12A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、下記式(12B)または下記式(12C)で表されるヒドロキシフェニル基を表し、Xは、下記式(12D)または下記式(12E)で表されるヒドロキシフェニレン基を表す。)
【化8】

エポキシ樹脂1の製造方法を以下に示す。
セパラブルフラスコに撹拌装置、温度計、還流冷却器、窒素導入口を装着した後、前述のフェノール樹脂系硬化剤1を100質量部、エピクロルヒドリン(東京化成工業社製)を400質量部、秤量して100℃に加熱溶解させた。次に、水酸化ナトリウム(固形細粒状、純度99%)60質量部を4時間かけて徐々に添加し、さらに3時間反応させた。次に、トルエン200質量部を加えて溶解させた後、蒸留水150質量部を加えて振とうし、水層を棄却する操作(水洗)を洗浄水が中性になるまで繰り返し行った。上記水洗操作後、油層を125℃、2mmHgの減圧条件下、エピクロルヒドリンを留去した。得られた固形物にメチルイソブチルケトン300質量部を加えて溶解し、70℃に加熱した上で、30質量%水酸化ナトリウム水溶液13質量部を1時間かけて添加した。添加後、さらに1時間反応して静置し、水層を棄却した。次に、油層に蒸留水150質量部を加えて水洗操作を行い、洗浄水が中性になるまで同様の水洗操作を繰り返し行った。上記水洗操作後、加熱減圧によってメチルイソブチルケトンを留去し、下記式(13A)で表される化合物を含むエポキシ樹脂1(エポキシ当量190g/eq)を得た。
【化9】

(式(13A)中、2つのYは、それぞれ互いに独立して、下記式(13B)または下記式(13C)で表されるグリシジル化フェニル基を表し、Xは、下記式(13D)または下記式(13E)で表されるグリシジル化フェニレン基を表す。)
【化10】

実施例1、3および4では、予めシランカップリング処理を施した無機充填剤(C)を処理シリカとして用いた。無機充填剤(C)のシランカップリング処理は、次のように行った。
まず、球状シリカ1および球状シリカ2を105℃で12時間それぞれ乾燥した。次いで、球状シリカ1を60重量部と、球状シリカ2を20重量部と、をミキサーに投入し、10分間攪拌した。次いで、球状シリカ1と球状シリカ2の混合物にシランカップリング剤1を0.3重量部噴霧しながら、当該混合物を20分間攪拌した。この際、シランカップリング剤1を噴霧した時間は、10分間程度であった。また、ミキサー内の湿度は50%以下であった。その後、60分間攪拌を続けることで、シリカとシランカップリング剤1とを混合した。
次いで、ミキサーから取り出し、20±5℃の条件下で7日間エージングを行った。次いで、200meshのふるいにかけ、粗大粒子を除去した。これにより、シランカップリング処理が施された無機充填剤(C)が得られた。なお。ミキサーには、リボンブレンダーを用いた。また、リボンブレンダーの回転数は、30rpmであった。
なお、シランカップリング剤2、3および4は樹脂に添加した。
(実施例および比較例)
実施例1?4および比較例1?3について、表に示す配合量に従って各成分を配合したものを、ミキサーを用いて常温で混合し、粉末状中間体を得た。得られた粉末状中間体を自動供給装置(ホッパー)に装填して、80℃?100℃の加熱ロールへ定量供給し、溶融混練を行った。その後冷却し、次いで粉砕して、固定用樹脂組成物を得た。成型装置を用いて、得られた固定用樹脂組成物を打錠成型することにより、タブレットを得た。
得られた固定用樹脂組成物について、下記に示す測定及び評価を行った。
実施例1?4および比較例1?3では、ローター固定用樹脂組成物の硬化物を得るために、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件を用いている。また、下記測定に用いるローター固定用樹脂組成物の硬化物は、JIS K7162に準じた形状に成形し、175℃、4時間という条件でさらに硬化することで試験片を得た。
また、実施例1?4および比較例1?3における、各成分の配合比率を、以下の表1にまとめた。
下記表1の配合比率で得られた各硬化物に対し、行った測定および評価について以下に詳説する。
(評価項目)
破断エネルギーaおよびb、ヤング率:JIS K7162に準じてダンベル型に成形したローター固定用樹脂組成物の硬化物(以下、試験片と示す)を、25℃あるいは150℃で、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った。なお、ヤング率は25℃、負荷速度1.0mm/minという条件のみで上記引張試験を行った。この引張試験において、テンシロンには、オリエンテック社製テンシロンUCT-30T型を、歪みゲージには、共和電業社製タイプKFG-2-120-D16-11L1M2Rを用いた。
破断エネルギーは、以下の方法で算出した。まず、引張試験時における垂直応力(stress)と垂直歪み(strein)との関係を、グラフ化した曲線(応力-歪曲線)を作成した。次に、歪みを変数とし、引張試験の開始点から破断点までの応力の積分値を、算出した。なお、単位は、×10^(-4)J/mm^(3)とした。
ヤング率の単位は、GPaとした。
破断強度aおよびb:試験片を、25℃あるいは150℃で、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った。ここで破断強度とは、試験片を破断させるために必要な引張荷重または力のことを示している。本実施例において破断強度は、以下の方法で算出した。まず、試験片が破断した際に、試験片に加えた応力をσ、試験片の最小断面積をSとする。破断強度は、試験片が破断した際に試験片に加えた力である。単位は、MPaとした。
疲労限度応力:試験片を、25℃で引張疲労試験を行った。ここで、疲労限度応力とは、試験片に繰り返し応力を加えた場合に、応力を無限回数負荷しても破壊しない応力振幅の上限のことを示している。本実施例において疲労限度応力は、鷲宮製作所社製引張疲労試験機FT-10型を用い、以下の方法で算出した。試験片に対し30Hzの正弦波で片振り応力(最大値と最小値=0の間を繰り返す応力)を印加し、107回印加しても破断しない応力を求めた。この時の応力を疲労限度応力とて算出した。なお、単位は、MPaである。
また、耐久性に優れたローターコアとするには、引張限度応力が25MPa以上であると好ましく、28MPa以上であるとさらに好ましい。
上記評価項目に関する評価結果を、以下の表1に各成分の配合比率と共に示す。
【表1】

疲労限度応力は、繰り返し使用に伴うローターコアの耐久性を表す指標となる。疲労限度応力が大きい材料を用いた場合、良好な耐久性を有したローターコアを得ることができる。表1からも分かるように、実施例1?4の硬化物は、いずれも比較例の値と比較して高い値の疲労限度応力を有している。実際に、実施例に記載の材料を用いてローターコアを製造した場合、繰り返し使用という観点で高い耐久性を有したローターコアが得られた。
実施例1?4に記載のローター固定用樹脂組成物は、破断エネルギーaを向上させるために、樹脂組成物の配合、シリカの表面処理(処理前の乾燥、pHの管理、エージング時間)その他の処理等の最適化を行っている。実施例1?4では、従来にない処方上の工夫等をして最適化を行っており、以下に詳説する。
具体的に、実施例1では、新規なエポキシ樹脂1を含む3種のエポキシ樹脂を含有させている点、新規なフェノール樹脂系硬化剤1を用いている点、無機充填剤(C)のシランカップリング処理を最適化した点、等の技術的な工夫を行っている。実施例2では、新規なエポキシ樹脂1およびフェノール樹脂系硬化剤1を用いている点、ワックスを添加していないものを使用している点、等の技術的な工夫を行っている。実施例3では、新規なエポキシ樹脂1を含む3種のエポキシ樹脂を含有させている点、新規なフェノール樹脂系硬化剤1を含む3種のフェノール樹脂系硬化剤を含有させている点、無機充填剤(C)のシランカップリング処理を最適化した点、等の技術的な工夫を行っている。実施例4では、2種のエポキシ樹脂を含有させている点、2種のフェノール樹脂系硬化剤を含有させている点、ワックスを添加していないものを使用している点、無機充填剤(C)のシランカップリング処理を最適化した点、等の技術的な工夫を行っている。」(段落【0137】?【0171】)

(3)本願補正明細書の記載不備(特許法第36条第4項第1号)についての判断
ア 特許法第36条第4項第1号は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と定めている。
これは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、明細書に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、その発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならないことを意味するものである。そこで、この点について以下に検討する。

イ 本願補正発明は、
「回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、を備えるローターのうち前記固定部材の形成に用いるローター固定用樹脂組成物であって、」
「エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填剤と、
2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物と、
硬化促進剤と、
を含み、」
「前記熱硬化性樹脂の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して5質量%以上40質量%以下であり、
前記硬化剤の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して0.8質量%以上12質量%以下であり、
前記硬化促進剤の含有量が前記ローター固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して0.1質量%以上3質量%以下であり、」
「金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、
温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上である」
「ローター固定用樹脂組成物」
に係るものであって、要するに、「エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂」、「硬化剤」、「無機充填剤」、「2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物」及び「硬化促進剤」という5成分を必須成分として含有し、かつ、「熱硬化性樹脂」、「硬化剤」及び「硬化促進剤」の各含有量を特定するとともに、「金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上である」という物性に係る要件(以下、「破断エネルギー要件」という。)を発明特定事項として有するものである。

ウ 破断エネルギー要件について
破断エネルギー要件について以下に検討する。
(ア)破断エネルギーの値は、破断エネルギーを測定する試験片の形状や作成条件など、及び破断エネルギーの測定条件によっても変化するものであることから、破断エネルギー要件においては「金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる」ものであることが明確に定義されており、斯かる試験片を作製し、その破断エネルギーを測定すること自体について当業者であれば実施できることまでは理解することができる。

(イ)しかしながら、本願補正明細書には、「破断エネルギーaおよびbを向上させるためには、以下の手法が有効である。
まず、エポキシ樹脂およびその硬化剤の組み合わせを最適化することにより、樹脂成分の強度および粘り強さを向上させることが必要である。これにくわえ、無機充填剤の表面をシランカップリング剤により改質し、樹脂と無機充填剤の界面接着強度を向上させることが有効である。さらには、無機充填剤の粒径分布を調整することにより、樹脂硬化体内部に発生したマイクロクラックが進展し難い構造とすることも有効である。」(摘示(2)イ)と記載されているものの、斯かる「エポキシ樹脂およびその硬化剤の組み合わせを最適化する」こと、「無機充填剤の表面をシランカップリング剤により改質」すること、及び、「無機充填剤の粒径分布を調整すること」について、それぞれの手法においてどのようにすれば破断エネルギーを向上させることができ、その結果破断エネルギー要件を満足することとなるのかについて具体的には一切記載されていないし、その指針すら示されていない。そして、破断エネルギー要件を満足するために、これらの手法を行うことが当業者の技術常識でもない。

(ウ) また、本願補正明細書には、「本実施形態のローター固定用樹脂組成物を得るためには、例えば、以下の3つの条件を、それぞれ適切に調整することが重要である。
(1)無機充填剤の性状
(2)無機充填剤のシランカップリング処理条件
(3)熱硬化性樹脂、その硬化剤および添加剤の組み合わせ」(摘示(2)ウ)と記載されているものの、斯かる「(1)無機充填剤の性状」、「(2)無機充填剤のシランカップリング処理条件」、及び、「(3)熱硬化性樹脂、その硬化剤および添加剤の組み合わせ」について、それぞれの条件において本願補正明細書には「それぞれ適切に調整することが重要である」(摘示(2)ウ)と記載されているに留まり、それらの条件をどのようにすれば破断エネルギー要件を満足することとなるのかについて具体的には一切記載されていないし、その指針すら示されていない。そして、破断エネルギー要件を満足するために、これらの条件を調整することが当業者の技術常識でもない。

(エ)そして、本願補正明細書には、「具体的には、実施例にて後述する」(摘示(2)ウ)と記載されていることから、実施例と比較例の記載を対比することにより、破断エネルギー要件について当業者が実施可能な程度に記載されているかどうかについて、以下に検討する。
実施例と比較例の記載は、摘示(2)カで示されるとおりであって、「疲労限度応力は、繰り返し使用に伴うローターコアの耐久性を表す指標となる。疲労限度応力が大きい材料を用いた場合、良好な耐久性を有したローターコアを得ることができる。表1からも分かるように、実施例1?4の硬化物は、いずれも比較例の値と比較して高い値の疲労限度応力を有している。実際に、実施例に記載の材料を用いてローターコアを製造した場合、繰り返し使用という観点で高い耐久性を有したローターコアが得られた。
実施例1?4に記載のローター固定用樹脂組成物は、破断エネルギーaを向上させるために、樹脂組成物の配合、シリカの表面処理(処理前の乾燥、pHの管理、エージング時間)その他の処理等の最適化を行っている。実施例1?4では、従来にない処方上の工夫等をして最適化を行っており、以下に詳説する。
具体的に、実施例1では、新規なエポキシ樹脂1を含む3種のエポキシ樹脂を含有させている点、新規なフェノール樹脂系硬化剤1を用いている点、無機充填剤(C)のシランカップリング処理を最適化した点、等の技術的な工夫を行っている。実施例2では、新規なエポキシ樹脂1およびフェノール樹脂系硬化剤1を用いている点、ワックスを添加していないものを使用している点、等の技術的な工夫を行っている。実施例3では、新規なエポキシ樹脂1を含む3種のエポキシ樹脂を含有させている点、新規なフェノール樹脂系硬化剤1を含む3種のフェノール樹脂系硬化剤を含有させている点、無機充填剤(C)のシランカップリング処理を最適化した点、等の技術的な工夫を行っている。実施例4では、2種のエポキシ樹脂を含有させている点、2種のフェノール樹脂系硬化剤を含有させている点、ワックスを添加していないものを使用している点、無機充填剤(C)のシランカップリング処理を最適化した点、等の技術的な工夫を行っている。」(摘示(2)カ)と記載されているものの、例えば、
a.エポキシ樹脂1に着目すれば、実施例1?3並びに比較例1及び3で用いられているが、実施例4及び比較例1では用いられていないから、エポキシ樹脂1の有無で実施例と比較例とを区別できない(エポキシ樹脂2、3に着目しても同様に実施例と比較例とを区別できない)し、
b.フェノール樹脂系硬化剤1に着目すれば、実施例1?3並びに比較例2及び3で用いられているが、実施例4及び比較例1では用いられていないから、フェノール樹脂系硬化剤1の有無で実施例と比較例とを区別できない(フェノール樹脂系硬化剤2、3に着目しても同様に実施例と比較例とを区別できない)し、
c.ワックスに着目すれば、実施例2及び4並びに比較例1で添加していないが、実施例1及び3並びに比較例2及び3では添加しているから、ワックスの有無で実施例と比較例とを区別できない、
ことから判断して、実施例と比較例との対比において、それらの間に樹脂組成上の差異や何らかの傾向も見当たらない(この点は、請求人も平成28年7月1日に提出した審判請求書において「実際、本願実施例に係る樹脂組成物の配合組成と、本願比較例に係る樹脂組成物の配合組成とを対比した場合、両者は、・・・前提条件・・・を満たすという点で共通しています。ただし、樹脂組成物の配合組成という点において、本願実施例1?4に係るすべての樹脂組成物に共通しており、かつ本願比較例に係る樹脂組成物は満たさないような特徴点を見出すことはできなかったのが実情であります。・・・しかし、・・・実施例1?4の樹脂組成物に係るそれぞれの製造条件についても、共通する特徴点を一般化して規定することが困難であった次第であります。」(9頁5?19行)と主張していることからも、裏付けられる。)し、当該「無機充填剤(C)のシランカップリング処理を最適化した」とは、何をもって最適化したといえるのか一切不明であるから、本願の樹脂組成物において、実施例と比較例とを対比したとしても、破断エネルギー要件を満足させるための具体的な手法や条件が全く不明であるといわざるを得ない。
そもそも、実施例で用いた樹脂組成物は、「実施例1?4に記載のローター固定用樹脂組成物は、破断エネルギーaを向上させるために、樹脂組成物の配合、シリカの表面処理(処理前の乾燥、pHの管理、エージング時間)その他の処理等の最適化を行っている。実施例1?4では、従来にない処方上の工夫等をして最適化を行っており、以下に詳説する。」(摘示(2)カ)と記載されているとおり、樹脂組成物の配合のみならず、「シリカの表面処理(処理前の乾燥、pHの管理、エージング時間)その他の処理等の最適化を行っている」ものであって、斯かる「表面処理(処理前の乾燥、pHの管理、エージング時間)その他の処理等の最適化」とは、どのような処理であるのか、その意味が不明瞭であるから、たとえ当業者であっても、本願補正明細書の実施例をみても実施(再現)できないものである。

(オ)以上に照らせば、当該実施例1?4と比較例1?3とに共通する配合組成上の差異を見出し得ないから、破断エネルギー要件を満足する樹脂組成物を製造するためには、各原料の選択やその組み合わせなどの他の要素の変更が必要となるものと認められ、斯かる他の要素として具体的に何を選択し、どの様に変更すれば良いのか一切不明である以上、斯かる変更の方向性についても不明であるといわざるを得ない。
結局、摘示(2)エ及びオの記載等に基づき、樹脂組成物の各原料(エポキシ樹脂の種類やフェノール樹脂系硬化剤など)及びそれらの組み合わせ、無機充填剤のシランカップリング処理やその条件などを変更して、破断エネルギー要件を満足させるためには、具体的にどの様な要素をどの様に設定すれば良いのかという点について、実施例及び比較例の対比からだけでは、依然として不明であるといわざるを得ない。
なお、仮に本願補正明細書の実施例1?4と全く同じ製造方法及び条件により製造することによれば、破断エネルギー要件を満足する樹脂組成物を得ることについて、当業者が容易に実施することが可能であるといえるとしても、上記のとおり、樹脂組成物の各原料(エポキシ樹脂の種類やフェノール樹脂系硬化剤など)及びそれらの組み合わせ、無機充填剤のシランカップリング処理やその条件などによって、得られる樹脂組成物の破断エネルギーの値が影響を受けることになると認められる以上、このようなただ4点の実施をもって、破断エネルギー要件を満足する樹脂組成物の全体の実施が可能であるとは、到底評価することができない。
してみると、本願補正明細書の実施例及び比較例を手がかりとしても、破断エネルギー要件を満たすか否かを知るためには、候補樹脂組成物を作成し、当該候補樹脂組成物の硬化物をさらに175℃、4時間という条件で硬化させて作製された試験片につき、本願補正発明で特定されたとおり、当該試験片に対し、逐一、温度25℃、負荷速度1.0mm/min.という条件で引張試験を行って破断エネルギーを測定し、その結果得られたデータに基いて判断する外はないのであって、斯かる候補樹脂組成物として、原料であるエポキシ樹脂の種類やそれらの組み合わせ、フェノール樹脂系硬化剤などの硬化剤の種類やそれらの組み合わせ、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせやそれらの使用量、充填剤の種類やその処理条件及びその使用量、シランの種類やその使用量、さらに、硬化促進剤の種類やその使用量、あるいはさらにワックスの有無などの各種要素を種々変更しかつそれらを組み合わせて製造してなる各種候補樹脂組成物について、上記した試験を逐一繰り返し、その結果において破断エネルギー要件を満たしているか否かを確認する操作を、候補樹脂組成物を種々変更しつつ繰り返さなければならないから、このような試験操作は当業者に過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ない。
そうすると、破断エネルギー要件を満足する樹脂組成物を得ることは当業者に過度の試行錯誤を強いるものであることことは明らかである。

(4)まとめ
したがって、本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願出願時の技術常識を参酌しても、本願補正発明の破断エネルギー要件を当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。結局のところ、本願補正明細書の発明の詳細な説明は、本願補正発明を当業者が実施できる程度に記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものである。
よって、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張の検討
ア 請求人は、平成28年7月1日に提出した審判請求書において、「補正後の本願請求項1に記載の『ローター固定用樹脂組成物』に関する配合組成の組み合わせは、5種の必須成分を含むことが明確になっている点、上記必須成分の内、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤の配合量が明確になっている点で、出願当初の本願明細書における発明の詳細な説明に接した当業者が、試行錯誤することなく『破断エネルギー』なる物性を満足する本願発明の樹脂組成物を得ることができる程度に特定されたものと思料いたします。また、上記(イ)?(ホ)に示した前提条件は、本願明細書中に実施例1?4として記載されている具体的な実施態様においても共通するものであり、かかる本願明細書において十分に裏付けられているものと思料いたします。」と主張している。
しかしながら、本願補正発明で特定する5種の必須成分自体特殊なものではないし、それらの含有量も特殊なものではなく、比較例においても含有しているものである。そして、上記(3)で述べたとおり、これらの配合組成について比較例のものも実施例のものと区別がつかないことは請求人も認めるとおりであって、破断エネルギー要件を満たすか否かを知るためには、所定の条件で試験片を作製し、所定の条件で破断エネルギーを測定した後に初めて、当該樹脂組成物が破断エネルギー要件を満足するものであるかどうかが判明するものである以上、破断エネルギー要件を満足する樹脂組成物を得るには当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるといわざるを得ず、この主張を採用することはできない。

イ 請求人は、平成28年7月1日に提出した審判請求書において、「本願発明は、樹脂組成物中に含有させる成分に係る共通点を可能な限り特定した上で、『樹脂組成物の硬化物を所定の条件で測定した破断エネルギーという尺度』というパラメータの数値範囲を特定すれば、かかる樹脂組成物の配合組成を完全に特定せずとも、必要とされる特性を付与したものが得られる点を見出したことに技術的意味があります。
つまり、本願発明は、上記4-2-1項で述べた前提条件(イ)?(ホ)を満たすように配合組成が制御された樹脂組成物について、『樹脂組成物の硬化物を所定の条件で測定した破断エネルギーという尺度』というパラメータの数値が所定の条件を満たすように制御さえすれば、従来のロータコアに生じていた上記問題点を解決できるということを見出した点に技術的意味があるといえます。」と主張している。
しかしながら、本願補正明細書の「本発明者らは、遠心力が作用したとしても、磁石の位置ずれや変形を抑制するために、固定部材の弾性率や強度などを向上させることを考え、無機充填剤を含有する固定用樹脂組成物を固定部材に用いることを検討した。
しかしながら、上記構造は、単に固定部材の弾性率や強度などを高めるだけでは磁石の位置ずれや変形を抑制するには十分ではなかった。
本発明者らは、こうした構造を実現するための設計指針についてさらに鋭意検討した。その結果、本発明者等らが考案した特定温度における固定材の破断エネルギーという尺度がこうした設計指針として有効であることを見出し、本発明に到達した。」との記載(摘示(2)ア)からも、破断エネルギー要件は、樹脂組成物の設計指針あるいは評価尺度としての意味合いを有するものであることが理解されるところ、本願補正発明が、「樹脂組成物の設計方法」あるいは「樹脂組成物の評価方法」という「方法」に係る発明であれば格別、「樹脂組成物」という「物」に係る発明である以上、斯かる物(樹脂組成物)を得るには当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるといわざるを得ず、この主張を採用することはできない。

ウ 請求人は、平成28年12月20日に提出した上申書において、「そして、本件出願明細書の実施例には、上記のように、本件出願明細書に記載された製法上の工夫及び技術常識を参酌することにより、当該破断エネルギーなる物性が得られたことが裏付けられています。
具体的には、実施例1?3は、エポキシ樹脂1とフェノール樹脂系硬化剤1とを併用したものです。そして、エポキシ樹脂1とフェノール樹脂系硬化剤1とは、本件出願明細書段落0150、0154で示されるような特殊な構造を有するため、両者の架橋点間距離が長くなっているといえます。そのため、エポキシ樹脂1とフェノール樹脂系硬化剤1とを併用した場合、架橋密度が低くなり、硬化物の柔軟性が高まり、破断エネルギーを高くする傾向があることが理解されます。
一方、実施例4は、エポキシ樹脂1とフェノール樹脂系硬化剤1とを併用したものではありませんが、上記(2)のようにエポキシ樹脂に適したシランカップリング剤を組み合わせて、無機充填剤の表面をシランカップリング剤で処理したり、ワックスを添加しないものとしたり、実施例2,3のフィラー充填量よりも低く調整し、相対的に樹脂量を高めることによって、柔軟性を付与し、破断エネルギーを高めていると理解されます。
さらに、実施例1と、実施例3とを比較しますと、両者の大きな違いは、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせと、フィラー含有量にありますが、上記実施例3に対し、実施例1は、エポキシ樹脂1?3に対しフェノール樹脂系硬化剤1のみを組み合わせ、エポキシ樹脂1とフェノール樹脂系樹脂1の含有量はいずれも実施例3のものよりも多くなっており、フィラー含有量も高いものとなっています。
そして、実施例1の破断エネルギーは、実施例3よりも高いことから、フィラーの含有量を調整したり、エポキシ樹脂1とフェノール樹脂系硬化剤1とを組み合わせることで、より効果的に破断エネルギーを高められる傾向にあることが理解されます。
そして、実施例2と、実施例4とを対比しますと、これらはいずれもワックスを用いないものであり、実施例2が未処理シリカを用いているのに対し、実施例4は処理シリカと未処理シリカを組み合わせるものです。また、フィラー含有量は、実施例4は75%であるのに対し、実施例2は78%です。また、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせも異なっております。
そして、実施例4は、エポキシ樹脂1とフェノール樹脂系硬化剤1とを併用したものではないにもかかわらず、その破断エネルギーは、実施例2よりも高いことから、処理シリカを用いること、フィラー含有量を調整することで破断エネルギーが高められる傾向にあることが理解されます。すなわち、上記(2)に示されますように、処理シリカを用いることで樹脂と無機充填剤との界面接着強度が向上し、その結果、破断エネルギーが向上したということができます。
したがいまして、本件出願明細書の記載に接した当業者であれば、当該『破断エネルギー』なる物性を充足する樹脂組成物をどのようにすれば実施できるか、理解できるものであると思料いたします。」と主張している。
しかしながら、これらの実施例及び比較例は、エポキシ樹脂の種類とそれらの含有量、フェノール樹脂系硬化剤の種類とそれらの含有量、シリカの種類とそれらの含有量、その他の添加剤の種類とそれらの含有量などの全てが相違するものであって、ワックスについても有ったり無かったりするものであるから、これら実施例同士あるいは実施例と比較例とをその原料組成の観点から対比することができないし、何らかの傾向をも読みとることができないものである。
請求人は、これらの成分の内1つあるいは2つの原料の違いに着目して、これら実施例同士あるいは実施例と比較例とを対比し、その物性差の原因が当該着目した原料の違いであるかのように縷々説明しているが、上記のとおり、これらの実施例及び比較例は、各成分の種類及び含有量が全て相違するものであるから、斯かる物性差の原因が請求人の着目する特定の原料の差のみに帰着するものということはできない。
そもそも、例えば、請求人の架橋点間距離が長くなっているとの説明は、本願補正明細書には記載されていないことであるし、技術的な裏付けが認められるものでもない(例えば、実施例3では、エポキシ樹脂1とフェノール樹脂系硬化剤1との使用量は、他のエポキシ樹脂及び他のフェノール樹脂系硬化剤よりも少量にすぎず、各々の成分の1/3程度であるから、硬化物全体でみれば架橋点間距離が長くなっているとはいえない。)し、当業者にとり技術常識でもない。
したがって、この主張を採用することはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反しており、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、第2 補正の却下の決定の[結論]のとおり決定する。



第3 本願発明
第2 で述べたとおり、平成28年7月1日付けの手続補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし12に係る発明は、平成28年1月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載されているとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、を備えるローターのうち前記固定部材の形成に用いるローター固定用樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填剤と、
2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物と、
を含み、
金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、
温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であるローター固定用樹脂組成物。」



第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の理由とされた、平成27年11月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は、要するに「この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものである。



第5 当審の判断
1.本願明細書の発明の詳細な説明の記載事項
平成28年1月8日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明には、第2 3.(2)イ?カで摘示したとおりの記載があり、さらに第2 3.(2)アで摘示したことに代えて以下の(1)で摘示したとおりの記載がある。

(1)「【発明が解決しようとする課題】
ローターコアは、高温下、長時間にわたって高速回転させて使用されるものである。現在、自動車駆動用のモータをさらに小型化することが求められており、小型化を達成するためには、より高速回転可能なモータとすることが必要となる。このため、ローターコアに対しても、高速回転時における耐久性の向上が強く求められている。
モータが高速回転している際、ローターコア内部に埋め込まれた永久磁石には大きな遠心力が作用する。遠心力が作用したとしても、磁石の位置ずれや磁石の変形が起こらない構造とすることが求められる。このような構造の実現には、磁石をローターコアに固定する固定材を最適に設計することが重要な技術的課題となっている。
そこで、本発明の目的は、繰り返し使用に耐えることのできる耐久性を向上させたローターコアを得るためのローター固定用樹脂組成物、当該ローター固定用樹脂組成物を用いて形成したローターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、遠心力が作用したとしても、磁石の位置ずれや変形を抑制するために、固定部材の弾性率や強度などを向上させることを考え、無機充填剤を含有する固定用樹脂組成物を固定部材に用いることを検討した。
しかしながら、上記構造は、単に固定部材の弾性率や強度などを高めるだけでは磁石の位置ずれや変形を抑制するには十分ではなかった。
本発明者らは、こうした構造を実現するための設計指針についてさらに鋭意検討した。その結果、本発明者等らが考案した特定温度における固定材の破断エネルギーという尺度がこうした設計指針として有効であることを見出し、本発明に到達した。
本発明によれば、回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に設けられた固定部材と、を備えるローターのうち前記固定部材の形成に用いるローター固定用樹脂組成物であって、
エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂と、
硬化剤と、
無機充填剤と、
2級アミノシラン、エポキシシラン、メルカプトシランからなる群よりされる1種の化合物と、
を含み、
金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒という硬化条件で、かつJIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記ローター固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製し、
温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーが、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であるローター固定用樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明によれば、上記ローター固定用樹脂組成物を用いて形成されるローターが提供される。
さらに、本発明によれば、上記ローター用いて作製される自動車が提供される。
【発明の効果】
本発明によれば、ローターコアの耐久性を測る尺度として特定温度における破断エネルギーを用いている。この破断エネルギーが、温度25℃において、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上の範囲にある固定材を用いることによって、高温下、長時間にわたって高速回転させる環境下において、十分な耐久性を示すローターコアを実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。」(段落【0006】?【0016】)

2.本願明細書の記載不備(特許法第36条第4項第1号)についての判断
本願発明は、本願補正発明と同様に「破断エネルギー要件」を発明特定事項として有するものである。
一方、本願明細書の記載は、本願補正明細書の段落【0012】において本願補正発明のとおり記載されているところが、本願明細書の段落【0012】において本願発明のとおり記載されている以外は全く同一である。
そうすると、第2 3.(3)で述べたのと同じ理由により、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明の破断エネルギー要件を当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。結局のところ、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施できる程度に記載されているとはいえない。



第6 むすび
以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-19 
結審通知日 2017-06-20 
審決日 2017-07-05 
出願番号 特願2012-45882(P2012-45882)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 536- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 のぞみ  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 小野寺 務
上坊寺 宏枝
発明の名称 ローター固定用樹脂組成物、ローター、および自動車  
代理人 速水 進治  

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