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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G10L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G10L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G10L
管理番号 1331645
審判番号 不服2016-12365  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-16 
確定日 2017-08-17 
事件の表示 特願2011-211479「音声解析装置および音声解析システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月22日出願公開、特開2013- 72978〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年9月27日に特許出願したものであって、平成27年5月28日付け拒絶理由通知に対して同年8月3日付けで手続補正がなされ、同年10月2日付け最後の拒絶理由通知に対して同年12月3日付けで手続補正がなされたが、平成28年5月11日付けで平成27年12月3日付け手続補正は却下されるとともに拒絶査定がなされた。これに対し、同年8月16日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成28年8月16日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成28年8月16日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成28年8月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、そのうち請求項3については、
本件補正前(平成27年8月3日付け手続補正における請求項4)に、
「使用者の口からの音波伝搬経路の距離が相異なる位置となるように配置される第1音声取得手段および第2音声取得手段と、
前記第1音声取得手段により取得された音声の音声信号と前記第2音声取得手段により取得された音声の音声信号との比較結果に基づき、当該第1音声取得手段および当該第2音声取得手段により取得された音声が当該第1音声取得手段および当該第2音声取得手段を装着した使用者の発話音声か、当該使用者の発話音声以外の他音源かを識別する識別部と
を備え、
前記識別部は、前記使用者の口と前記第1音声取得手段との間の距離をLa1、当該使用者の口と前記第2音声取得手段との間の距離をLa2、前記他音源と当該第1音声取得手段との間の距離をLb1、当該他音源と当該第2音声取得手段との間の距離をLb2とすると、
La1>La2、
Lb1≒Lb2
となる関係から得られる結果を用いて、使用者の発話音声か、当該他音源かを識別することを特徴とする、音声解析装置。」
とあったところ、

本件補正により、
「【請求項3】
使用者の口からの音波伝搬経路の距離が相異なる位置となるように配置される第1音声取得手段および第2音声取得手段と、
前記第1音声取得手段により取得された音声の音圧と前記第2音声取得手段により取得された音声の音圧との音圧比に基づき、当該第1音声取得手段および当該第2音声取得手段により取得された音声が当該第1音声取得手段および当該第2音声取得手段を装着した使用者の発話音声か、当該使用者の発話音声以外の他音源かを識別する識別部とを備え、
前記第2音声取得手段は、前記使用者の口との間の距離が前記第1音声取得手段との間の距離以下となる位置に設けられ、
前記識別部は、前記使用者の口と前記第1音声取得手段との間の距離をLa1、当該使用者の口と前記第2音声取得手段との間の距離をLa2、前記他音源と当該第1音声取得手段との間の距離をLb1、当該他音源と当該第2音声取得手段との間の距離をLb2とすると、
La1>La2、
Lb1≒Lb2
となる関係から得られる結果を用いて、使用者の発話音声か、当該他音源かを識別することを特徴とする、音声解析装置。」
とするものである。なお、下線部は補正された箇所を示す。

上記補正の内容は、補正前の請求項4について、使用者の発話音声か否かを「音圧比」に基づき識別することに限定し、更に、第2音声取得手段を「使用者の口との間の距離が第1音声取得手段との間の距離以下となる位置」に設けられたとの限定を付加するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正における請求項3に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下検討する。

2.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された文献である特開2010-26361号公報(以下、「引用例1」という。)には、「音声収集方法、システム及びプログラム」に関し、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0014】
本発明によれば、少なくとも第1及び第2のマイクロホンを備え第1及び第2のマイクロホンを所定の距離離して配置したマイクロホンアレイを用いて、第1及び第2のマイクロホンで受けた音声の信号をそれぞれ離散フーリエ変換して、音声の到来方向に関連する複数のCSP係数を求め、この複数のCSP係数より複数の音声の信号を検出した後、求めた複数の音声の信号から第1及び第2のマイクロホンを結ぶ線分と到来方向のなす角度に応じて規定された音声方向インデックスを検出して、検出した音声方向インデックスにより、検出した複数の音声の信号から目的音声の信号を抽出するようにしたので、目的音声のみを確実に抽出して収集することができるという効果がある。さらに、本発明は、了解を得ていない顧客の発話記録を残さず、記録が必要な販売員の音声だけを確実に残すことができるという効果がある。また音声分離と同時に、SS処理、CSP係数による利得調整処理、Flooring処理という一連のステップからなる音声強調処理を行うことによって、後続の音声認識性能を高めている。」

イ.「【0034】
[話者方向インデックス]
図4はマイクロホンの位置に対する話者方向インデックスの一例を示す図である。マイクロホンアレイ11に含まれるマイクロホン11a及び11bを結ぶ方向ベクトルを仮定すると、話者からの音声が到達する方向は、マイクロホンアレイ11を中心とする当該方向ベクトルに対する方位角の範囲として区別し得る。例えば、マイクロホン11aからマイクロホン11bの方向に沿って到達する音声は、当該方向ベクトルと略平行であり、方位角の余弦の値は+1に近い(図4に示す話者方向インデックスが+7の領域)。また例えば、マイクロホン11bからマイクロホン11aの方向に沿って到達する音声は、当該方向ベクトルと逆平行に近く、方位角の余弦の値は-1に近い(図4に示す話者方向インデックスが-7の領域)。数1に示したように、マイクロホン間隔d及び音速cが与えられると、到達時間差τは角度θに依存するので、図4に示す話者方向インデックスは、到達時間差τの情報を含む。
【0035】
マイクロホンアレイ11に対して直角の方向からマイクロホン11a及び11bに到来する音声には到来時間差はなく、ここでは、この方向の話者方向インデックスは0と表される。つまり、前述のように、角度θは数1で表され、到来サンプル数をx、サンプリング周波数をfとすると、τ=x/fで表されるから、いまサンプリング周波数を22050Hz、マイクロホン間の距離d=12.5cmとすると、x=0、つまり、話者方向インデックス=0であると、音速を340m/sとすれば、角度θ=90°となる。」

ウ.「【0086】
[可搬型販売員音声収集装置の動作状況の例]
図10に、本発明の一実施形態に係る、可搬型販売員音声収集装置60の動作状況を例示する。可搬型販売員音声収集装置60は、マイクロホン60a及び60bを備え、これらは図1?3及び図6を用いて前述の、本発明に係る音声収集方法の実施装置におけるマイクロホンアレイを構成する。さらに、可搬型販売員音声収集装置60は、本発明に係る音声収集方法の諸段階を実施可能なデジタル信号処理手段を備え、記憶手段、音声再生手段等を適宜含む。
【0087】
典型的には、可搬型販売員音声収集装置60は販売員22の胸元等に固定され、販売員22が顧客21と対面するときに、販売員22の口元から可搬型販売員音声収集装置60に向かう音声到来方向1(70)及び顧客21の口元から可搬型販売員音声収集装置60にむかう音声到来方向2(72)のそれぞれが、マイクロホン60a及びマイクロホン60bを結ぶ方向ベクトルに対して異なる角度を有するように配置される。例えば、当該方向ベクトルは、販売員22の頭頂から足元に向かい、体軸と略平行な向きを向いており(顧客21から見て2つのマイクロホン60a及び60bは上下に配置しているように見える)、音声到来方向1(70)は当該方向ベクトルと略平行な方向であり、音声到来方向2(71)は当該方向ベクトルに対して略垂直な方向であり得る。これに限らず、可搬型販売員音声収集装置60は、マイクロホン60a及びマイクロホン60bを結ぶ方向ベクトルが音声到来方向1(70)及び音声到来方向2(71)のそれぞれに対して異なる角度をなすように配置されればよく、可搬型販売員音声収集装置60の大きさ、形状等は適宜設計し得る。
【0088】
このように可搬型販売員音声収集装置60を配置し、マイクロホン60a及びマイクロホン60bを本発明に係る音声収集方法におけるマイクロホンアレイとして用い、前述の目的音声抽出のための方法を実施して、特定の時間差を有して当該マイクロホンアレイに到達する音声を抽出することにより、販売員22の声を選択的に収集することが可能になる。本発明においては、市販入手可能なボイスレコーダ等と類似した形態を有する可搬型販売員音声収集装置60を用いて、販売員の声を選択的に収集する実施手段を実現し得る。」

上記アないしウにより、引用例1の「音声収集装置」には以下の事項が記載されている。

・上記アによれば、第1及び第2のマイクロホンを所定の距離離して、複数の音声の信号を検出した後、求めた複数の音声の信号から第1及び第2のマイクロホンを結ぶ線分と到来方向のなす角度に応じて規定された音声方向インデックスを検出して、検出した音声方向インデックスにより、検出した複数の音声の信号から目的音声の信号を抽出するようにしたものである。
つまり、上記イによれば、話者からの音声が到達する方向は、2つのマイクロホン結ぶ方向ベクトルに対する方位角の範囲として区別し、到達時間差は角度に依存するものである。なお、2つのマイクロホンを結ぶ方向ベクトルと直角の方向(角度90°)から到来する音声は、2つのマイクロホンへの到来時間差がないものである。

・上記ウ、図10によれば、音声収集装置60は、販売員22の胸元等に固定され、販売員22の頭頂から足元に向かい体軸と略平行な向きに(上から順に)マイクロホン60a及び60bを備えているものである。
つまり、販売員22の口元から音声収集装置60に向かう音声到来方向1(70)は、マイクロホン60b及びマイクロホン60aと略平行な方向であり、顧客21の口元から音声収集装置60に向かう音声到来方向2(71)は、マイクロホン60b及びマイクロホン60aに対して略垂直な方向である。
そして、音声収集装置60は、特定の時間差を有してマイクロホン60b及びマイクロホン60aに到達する音声を抽出し、販売員22の声を収集することができるものである。

したがって、上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、図10の音声収集装置60の実施の形態に関して、引用例1には次の発明(以下、「引用発明という。)が記載されているものと認められる。

「販売員22の胸元等に固定され、販売員22の頭頂から足元に向かい体軸と略平行な向きに備えているマイクロホン60b及びマイクロホン60aと、
販売員22の口元から音声収集装置60に向かう音声到来方向1(70)は、マイクロホン60b及びマイクロホン60aと略平行な方向であり、顧客21の口元から音声収集装置60に向かう音声到来方向2(71)は、マイクロホン60b及びマイクロホン60aに対して略垂直な方向であり、特定の時間差を有してマイクロホン60b及びマイクロホン60aに到達する音声を抽出し、販売員22の声を収集する、
音声収集装置60。」

(2)引用例2
また、原査定の拒絶の理由に引用された文献である国際公開2008/146565号(以下、「引用例2」という。)には、「音源方向検出方法、装置及びプログラム」に関し、図面とともに以下の記載がある。なお、下線は当審で付与した。

エ.「【0024】
次に、上記音源方向検出部2に配された各部の動作について説明する。音源方向計算部201は、受音手段101、102から出力された信号X1(k)、X2(k)から、方向値θと、指標として音量値Vを算出し、方向値θを出力判断部205に、前記音量値Vを音声判断部204に出力する。
【0025】
前記方向値θは、信号X1(k)、X2(k)の相互相関の最大値として求められる。受音手段101、102に目的音源が発生した音信号S(k)が到達する時間差τ(=n1-n2)、受音手段間の距離M[m]、音速c[m/秒]を用いて、方向値θは、次式[数2]で表わされる。」

オ.「【0029】
また、上記手法に代えて、信号X1(k)、X2(k)より、音圧レベルの比を求め、前記音圧レベルの比から音源方向(方向値θ)を検出する特許文献4に記載の手法を用いることもできる。その他、目的音源の方向を示す値を得られるものであれば、これらの手法に限られるものではない。」

上記エ、オによれば、引用例2には、「受音手段に到達する音信号の時間差から音源方向を検出する手法に代えて、音圧レベルの比から音源方向を検出する手法を用いる」技術事項が記載されている。

3.対比・判断
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「販売員22」は、自らの胸元等に音声収集装置60を固定する者であり、本願補正発明の「使用者」に相当する。
また、引用発明の「マイクロホン60b」及び「マイクロホン60a」は、販売員22の口元から近い順にマイクロホン60a、マイクロホン60bが配置されており、音声を取得するためのものであるから、本願補正発明の「第1音声取得手段」及び「第2音声取得手段」に相当する。
そして、引用発明の「マイクロホン60b及びマイクロホン60a」は、販売員22の胸元等で体軸と略平行な向きに備えられ、販売員22の口元から各マイクロホンの距離は異なるものであるから、本願補正発明の「使用者の口からの音波伝搬経路の距離が相異なる位置となるように配置」されているものである。
よって、引用発明の「販売員22の胸元等に固定され、販売員22の頭頂から足元に向かい体軸と略平行な向きに備えているマイクロホン60b及び60a」は、本願補正発明の「使用者の口からの音波伝搬経路の距離が相異なる位置となるように配置される第1音声取得手段および第2音声取得手段」に相当する。

(2)引用発明の「マイクロホン60b及びマイクロホン60aに到達する音声」は、本願補正発明の「前記第1音声取得手段により取得された音声」及び「前記第2音声取得手段により取得された音声」に相当する。
また、引用発明の「販売員22の・・・音声」及び「顧客21の・・・音声」は、本願補正発明の「使用者の発話音声」及び「使用者の発話音声以外の他音源」に相当する。
そして、引用発明の「販売員22の声を収集する」ことは、各マイクロホンに到達する音声に時間差が生じるか否かで、販売員22の音声か他音源(顧客21の音声)かを識別して収集しているから、本願補正発明の「使用者の発話音声か、当該使用者の発話音声以外の他音源かを識別する識別部」を当然に備えているものである。
よって、引用発明の「特定の時間差を有してマイクロホン60b及びマイクロホン60aに到達する音声を抽出し、販売員22の声を収集する」ことは、本願補正発明の「前記第1音声取得手段により取得された音声・・・と前記第2音声取得手段により取得された音声・・・に基づき、当該第1音声取得手段および当該第2音声取得手段により取得された音声が当該第1音声取得手段および当該第2音声取得手段を装着した使用者の発話音声か、当該使用者の発話音声以外の他音源かを識別する識別部」に相当する構成を備えている。
但し、使用者の発話音声か他音源かの識別を行うのに、本願補正発明が、2つの音声取得手段により取得された音声の「音圧比」に基づいているのに対し、引用発明は、2つの音声取得手段により取得された音声の「時間差」に基づいている点で相違する。

(3)引用発明の「販売員22の口元から音声収集装置60に向かう音声到来方向1(70)は、マイクロホン60b及びマイクロホン60aと略平行な方向」であること、及び図10に基づくと、販売員22の口元とマイクロホン60bとの距離が販売員22の口元とマイクロホン60aとの距離よりも大きいと認められるから、引用発明は、本願補正発明の「前記使用者の口と前記第1音声取得手段との間の距離をLa1、当該使用者の口と前記第2音声取得手段との間の距離をLa2とすると・・・La1>La2・・・となる関係」を備えているといえる。
また、引用発明の「顧客21の口元から音声収集装置60に向かう音声到来方向2(71)は、マイクロホン60b及びマイクロホン60aに対して略垂直な方向」であること、及び上記イおよびウに基づくと、顧客21の口元からマイクロホン60b及びマイクロホン60aとの距離とは略等しいと認められるから、引用発明は、本願補正発明の「他音源と当該第1音声取得手段との間の距離をLb1、当該他音源と当該第2音声取得手段との間の距離をLb2とすると・・・Lb1≒Lb2となる関係」を備えているといえる。
そして、上記の距離の関係からすると、引用発明は、マイクロホン60bとマイクロホン60aにそれぞれ到達する販売員22の音声は最大の到達時間差になり、マイクロホン60bとマイクロホン60aにそれぞれ到達する顧客21の音声は到達時間差が無いものである。この到達時間差をもって、つまり、La1>La2、Lb1≒Lb2をもって、販売員22の音声か他音源(顧客21の音声)かを識別しているのであるから、引用発明の「特定の時間差を有してマイクロホン60b及びマイクロホン60aに到達する音声を抽出し、販売員22の声を収集する」ことは、本願補正発明の「La1>La2、Lb1≒Lb2となる関係から得られる結果を用いて、使用者の発話音声か、当該他音源かを識別する」ことに相当する。
よって、引用発明の「販売員22の口元から音声収集装置60に向かう音声到来方向1(70)は、マイクロホン60b及びマイクロホン60aと略平行な方向であり、顧客21の口元から音声収集装置60に向かう音声到来方向2(71)は、マイクロホン60b及びマイクロホン60aに対して略垂直な方向であり、特定の時間差を有してマイクロホン60b及びマイクロホン60aに到達する音声を抽出し、販売員22の声を収集する」ことは、本願補正発明の「前記識別部は、前記使用者の口と前記第1音声取得手段との間の距離をLa1、当該使用者の口と前記第2音声取得手段との間の距離をLa2、前記他音源と当該第1音声取得手段との間の距離をLb1、当該他音源と当該第2音声取得手段との間の距離をLb2とすると、La1>La2、Lb1≒Lb2となる関係から得られる結果を用いて、使用者の発話音声か、当該他音源かを識別する」ことに相当する。
但し、本願補正発明は「第2音声取得手段は、使用者の口との間の距離が第1音声取得手段との間の距離以下となる位置に設けられ」るのに対して、引用発明はその旨の特定がなされていない点で相違する。

d.引用発明の「音声収集装置」は、販売員の音声と他音源(顧客の音声)を識別する構成を備えることから、本願補正発明の「音声解析装置」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「使用者の口からの音波伝搬経路の距離が相異なる位置となるように配置される第1音声取得手段および第2音声取得手段と、
前記第1音声取得手段により取得された音声と前記第2音声取得手段により取得された音声に基づき、当該第1音声取得手段および当該第2音声取得手段により取得された音声が当該第1音声取得手段および当該第2音声取得手段を装着した使用者の発話音声か、当該使用者の発話音声以外の他音源かを識別する識別部とを備え、
前記識別部は、前記使用者の口と前記第1音声取得手段との間の距離をLa1、当該使用者の口と前記第2音声取得手段との間の距離をLa2、前記他音源と当該第1音声取得手段との間の距離をLb1、当該他音源と当該第2音声取得手段との間の距離をLb2とすると、
La1>La2、
Lb1≒Lb2
となる関係から得られる結果を用いて、使用者の発話音声か、当該他音源かを識別する音声解析装置。」

<相違点1>
使用者の発話音声か他音源かの識別を行うのに、本願補正発明は、2つの音声取得手段により取得された音声の「音圧比」に基づいているのに対し、引用発明は、2つの音声取得手段により取得された音声の「時間差」に基づいている点。

<相違点2>
本願補正発明は「第2音声取得手段は、使用者の口との間の距離が第1音声取得手段との間の距離以下となる位置に設けられ」るのに対して、引用発明はその旨の特定がなされていない点。

そこで、上記相違点についての判断を行う。
<相違点1>について
マイクロホンで取得される音圧は、音の発生地点とマイクロホンとの距離の2乗に反比例するから、それぞれ離れた2つのマイクロホンで取得した音圧比について、2つのマイクロホンの近距離で発生した音であれば、マイクロホン間の距離は無視できず2つのマイクロホンにおける音圧比が大きくなり、2つのマイクロホンから遠距離で発生した音であれば、音の発生場所から2つのマイクロホンまでの距離はほぼ等しくなるので2つのマイクロホンにおける音圧比が小さくなることは技術常識である。(必要に応じて、例えば特開昭58-142400号公報の第3頁左上欄5?19行、特開平4-181897号公報の第2頁左下欄16行?右下欄19行を参照。)
よって、音圧比(本願補正発明)も時間差(引用発明)も、音の発生場所とマイクロホンとの距離によって決定する事項である。
そして、音源方向の検出を「時間差」に代えて「音圧比」に基づいて行うことは、引用例2(上記2.(2)を参照。)に記載されている。なお、本願明細書の段落【0041】には、発話者の識別は音圧比の比較には限定されず、第1マイクロフォンにおける音声取得時刻と第2マイクロフォンにおける音声取得時刻の時間差を比較してもよいことが記載されている。
これらを勘案すると、引用発明において、販売員の音声か他音源(顧客の音声)かを識別するのに、2つのマイクロホンに到達する時間差に代えて「音圧比」を採用して相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

<相違点2>について
「使用者の口」と「第1音声取得手段及び第2音声取得手段」との距離の関係をどの程度にするかは、音圧比(引用発明であれば時間差)の閾値をどこに設定して識別を行うかを設計するものであるから、相違点2の構成は当業者であれば適宜なし得たことである。

そして、本願補正発明が奏する効果は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1.本願発明
平成28年8月16日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成27年8月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1.」に本件補正前の請求項4として記載したとおりのものである。

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1の記載事項(引用発明)は、上記「第2 2.(1)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明における「前記第2音声取得手段は、前記使用者の口との間の距離が前記第1音声取得手段との間の距離以下となる位置に設けられ」(上記相違点2に相当。)を削除し、「音圧(比)」に基づいて識別を行うこと(上記相違点1に相当。)を単に「音声信号の比較結果」に基づいて識別を行うこと、としたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記「第2 3.」で示した<一致点>で一致し、以下の点で一応相違している。
<相違点3>
使用者の発話音声か他音源かの識別を行うのに、本願発明は、2つの音声取得手段により取得された音声の「音声信号の比較結果」に基づいているのに対し、引用発明は、2つの音声取得手段により取得された音声の「時間差」に基づいている点。

上記<相違点3>について検討すると、本願発明の「音声信号の比較結果」とは、音声信号の何を比較するのか具体的な特定がされておらず、引用発明の「時間差」の比較も含まれるものである。
そうすると、相違点3は、実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は、引用発明と実質同一である。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-19 
結審通知日 2017-06-20 
審決日 2017-07-03 
出願番号 特願2011-211479(P2011-211479)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G10L)
P 1 8・ 121- Z (G10L)
P 1 8・ 575- Z (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨澤 直樹鈴木 圭一郎  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 酒井 朋広
井上 信一
発明の名称 音声解析装置および音声解析システム  
代理人 古部 次郎  
代理人 砂田 岳彦  
代理人 尾形 文雄  

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