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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H05K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H05K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 取り消して特許、登録 H05K
管理番号 1331653
審判番号 不服2016-13226  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-05 
確定日 2017-09-05 
事件の表示 特願2013-546029「印刷回路基板」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日国際公開、WO2012/087060、平成26年 1月20日国内公表、特表2014-501450、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年12月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年12月24日 韓国、2010年12月24日 韓国、2010年12月24日 韓国)を国際出願日とする出願であって、平成25年7月30日に手続補正がされ、平成26年10月2日に手続補正がされ、平成27年7月30日付けで拒絶理由が通知され、同年11月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、平成28年5月13日付け(発送日:同年5月17日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年9月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年3月28日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)がされ、同年7月4日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
(新規事項)平成27年11月9日の手続補正は、下記の点で国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の翻訳文(特許協力条約第19条(1)の規定に基づく補正後の請求の範囲の翻訳文が提出された場合にあっては、当該翻訳文)又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、翻訳文等という。)(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあっては、翻訳文等又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。

・請求項10?11について
請求項8を引用する請求項10、11は、「外部回路層は、第1絶縁層の上部または前記第2絶縁層の下部の表面に形成されているパターン溝を埋め込む」とともに、「第1絶縁層の上部または前記第2絶縁層の下部に形成され、前記ビアを露出する接着層をさらに含む」ものを含むが、翻訳文等には、このようなものは記載されていない。

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由通知の概要は次のとおりである。
理由1(新規性)
本願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2(進歩性)
本願の請求項1?3、6?9に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1?5に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

理由3(サポート要件、明確性)
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

●理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
1.特開昭59-193094号公報
2.特開2000-31646号公報
3.特開2001-44633号公報
4.特開2007-208193号公報
5.特開2005-236006号公報

●理由3(サポート要件、明確性)について
(1) 明細書の段落【0005】?【0010】、【0014】、【0085】等の記載からみて、請求項1に係る発明は、奇数個の回路層を含む印刷回路基板を提供することを課題の1つとし、これにより、印刷回路基板が片方に曲がらないとの効果が得られるものであると認められる。
しかし、請求項1には、奇数個の回路層を形成することについての特定がなく、上記課題を解決できない。
したがって、奇数個の回路層を形成することについての特定がない請求項1に係る発明まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

(2) 請求項1の「前記第1絶縁層の上部または前記第2絶縁層の下部に形成されている外部回路層」、及び「前記第1絶縁層または前記第2絶縁層の表面との接合面が第2幅を有し」との記載によれば、外部回路層が、第1絶縁層の上部、または、第2絶縁層の下部のいずれか一方のみに設けられたものも想定される。
しかし、外部回路層が、第1絶縁層の上部、または、第2絶縁層の下部のいずれか一方のみに設けられた場合には、奇数個の回路層とはならないし、また、この場合については、本願の当初明細書又は図面に記載も示唆もされていない。

(3) 請求項2の「上領域を埋め込み」及び「下領域を埋め込む」との記載は、請求項1の「埋め込まれて」との記載と対応しておらず、明確ではない。
また、請求項8の「パターン溝を埋め込む」についても、同様に、請求項1の記載と対応しておらず、明確ではない。

第4 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明9」という。)は、平成29年7月4日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の下に形成された第2絶縁層と、
前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層を貫通する少なくとも1つのビアと、
前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層の内部に埋め込まれている内部回路層と、
前記第1絶縁層の上部及び前記第2絶縁層の下部にそれぞれ形成されている外部回路層と、を含み、
前記ビアは中心部が第1幅を有し、前記第1絶縁層の表面との接合面及び前記第2絶縁層の表面との接合面がそれぞれ第2幅を有し、
前記第1幅が前記第2幅より大きく、
前記内部回路層は、前記第1絶縁層の下部に埋め込まれ、断面が三角形である第1パートと、前記第2絶縁層の上部に埋め込まれ、断面が三角形である第2パートとを含み、
前記内部回路層及び前記外部回路層を含む2n+1(nは正の整数)の数を有する回路層を含むことを特徴とする印刷回路基板。
【請求項2】
前記第1絶縁層は前記ビアの中心部から上領域が埋め込まれ、
前記第2絶縁層は前記ビアの中心部から下領域が埋め込まれていることを特徴とする請求項1に記載の印刷回路基板。
【請求項3】
前記第1パート及び前記第2パートを含む前記内部回路層は、断面が菱形であることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷回路基板。
【請求項4】
前記ビア及び前記内部回路層は、同一な物質で形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の印刷回路基板。
【請求項5】
前記ビアは、断面が六角形を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の印刷回路基板。
【請求項6】
前記外部回路層は、前記第1絶縁層の上部または前記第2絶縁層の下部の表面に形成されているパターン溝に埋め込まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の印刷回路基板。
【請求項7】
前記パターン溝の断面は、U字型を有することを特徴とする請求項6に記載の印刷回路基板。
【請求項8】
前記第1絶縁層の上部または前記第2絶縁層の下部に形成され、前記ビアを露出する接着層をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の印刷回路基板。
【請求項9】
前記接着層は、プライマー樹脂を含むことを特徴とする請求項8に記載の印刷回路基板。」

第5 引用文献およびその記載事項
1 当審拒絶理由通知に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開昭59-193094号公報)には、「多層セラミック基板」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「セラミック生シートにスルーホール用の穴を形成後、この穴に導体ペーストを充填し、導体配線を施したセラミック生シートを複数枚積層、焼結してなる多層セラミック基板において、この基板のICチップ搭載面が、テーパ状スルーホールの穴径の小さい面であることを特徴とする多層セラミック基板。」(1ページ左下欄4行?10行)

(2) 「多層セラミック基板は、アルミナを主成分とするセラミック粉末と有機結合材とからなる薄いセラミック生シートに、ドリルまたはポンチによりスルーホール用の微細な穴を多数形成し、この穴に導体ペーストを充填し、さらに配線を印刷形成した後、上記配線済みの生シートを複数枚重ね合わせ、ホットプレスなどの方法により圧着後、1500?1600℃の高温で焼結して作られるものである。」(1ページ右下欄4行?12行)

(3) 「〔発明の実施例〕
以下、本発明の実施例を第3図を用いて説明する。
第3図は、本発明による多層セラミック基板の一実施例を示す部分断面図で、符号はすべて第2図と同一である。なお、第3図は、第2図と同様、導体を充填されたスルーホール5と配線導体6とを形成したセラミック生シート1を5枚積層した場合の例である。この多層セラミック基板は、最上層の生シート1の上面であるICチップ搭載面7が、生シート1にポンチで穴あけしたときのポンチ側の面、すなわちテーパ状の穴の穴径の小さいほうの面となるように構成されており、第2層以下の生シート1の積層構造は従来基板と同じである。また、最上層の生シート1に対する配線導体6の形成は、従来と異なりスルーホール5の穴径の小さい面上に施されており、第2層以下の各生シート1に対する配線導体6の形成は、従来と同じくスルーホール5の穴径の大きい面上に施されている。
このように、本発明による多層セラミック基板は、ICチップ搭載面のパッドがテーパ状スルーホールの穴寸法精度のよいほうのシート面に構成されることになる。本発明による多層セラミック基板のICチップ搭載面のパッドの寸法精度を従来基板と比較すると次のとおりである。」(3ページ左上欄5行?右上欄11行)

(4) 第3図を参照すると、
最上層のセラミック生シート1と、
前記最上層のセラミック生シート1の下に積層された第2層のセラミック生シート1と、
最上層のセラミック生シート1及び前記第2層のセラミック生シート1を貫通するスルーホール5に導体を充填したものと、
最上層のセラミック生シート1及び前記第2層のセラミック生シート1の内部に埋め込まれている配線導体6と、
最上層のセラミック生シート1の上部及び前記第2層のセラミック生シート1の下部にそれぞれ形成されている配線導体6と、を含み
前記スルーホール5に導体を充填したものは、中心部の幅は、最上層のセラミック生シート1及び第2層のセラミック生シート1の表面での幅より大きい、
導体配線を施したセラミック生シートを複数枚積層したものが、看取される。

ここで、上記の導体配線を施したセラミック生シートを複数枚積層したものは、ホットプレスなどの方法により圧着後、1500?1600℃の高温で焼結されるから(前記「(2)」を参照。)、最上層のセラミック生シート1は絶縁層(以下、「第1層の絶縁層」という。)になり、第2層のセラミック生シート1も絶縁層(以下、「第2層の絶縁層」という。)になり、また、スルーホール5に導体を充填したものはビアとなる。

上記の記載事項及び図面の記載を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、第3図の実施例として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「第1層の絶縁層と、
前記第1層の絶縁層の下に形成された第2層の絶縁層と、
前記第1層の絶縁層及び前記第2層の絶縁層を貫通する少なくとも1つのビアと、
前記第1層の絶縁層及び前記第2層の絶縁層の内部に埋め込まれている配線導体6と、
前記第1層の絶縁層の上部及び前記第2層の絶縁層の下部にそれぞれ形成されている配線導体6と、を含み、
前記ビアは、中心部の幅は、第1層の絶縁層及び第2層の絶縁層の表面での幅より大きい、
導体配線を施したセラミック生シートを複数枚積層し、圧着後、焼結してなる多層セラミック基板。」

2 当審拒絶理由通知に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2000-31646号公報)には、「セラミック多層配線基板の製造方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0016】先ず、図1(a)に示すように、金属ペーストをセラミックグリーンシート2上にスクリーン印刷し、加熱乾燥させ、配線1を形成する。この工程により所望数層の配線済みセラミックグリーンシートを作成する。
【0017】次に、図1(b)に示すように、前記グリーンシートのうち、最外層配線1を形成したセラミックグリーンシート2には、露出した配線1の間を埋め、かつ配線1を覆う保護膜3を塗布し、加熱乾燥する。保護膜3は、スクリーン印刷、スプレー、刷毛塗りなどの公知のいずれの方法で塗布してもよい。
・・・(中略)・・・
【0021】次に、図1(c)に示すように、保護膜3を形成したセラミックグリーンシートの最外層配線が最も外になるように積層し、加圧して一体化する。
【0022】その後、一体化したセラミックグリーンシートを焼成し、保護膜3の種類に応じて、焼成中に熱分解されて保護膜3が除去されるか、焼成後に刷毛などで擦り取ることで保護膜3を除去し、図1(d)に示すようなセラミック多層配線基板を完成させる。」

(2) 図1(a)?(d)を参照すると、配線パターン1は、加圧時に二つのセラミックグリーンシート2、2に跨がって埋設され、焼成後に配線パターン1は二つの層に跨がって形成されたものが看取される。

3 当審拒絶理由通知に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献3(特開2001-44633号公報)には、「セラミック回路基板」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】従来、セラミック多層基板の厚さ方向に形成されるビアと、面内方向に形成されるパターン配線とは、それぞれ別の工程によって形成されているが、製造プロセスを簡略化し、効率を向上させるためには、ビアとパターン配線とを同じ導体ペーストで同時印刷により形成することが望まれる。」

(2) 「【0015】(実施の形態1)本発明の第1の実施の形態のセラミック多層回路基板は、図3のようにガラスセラミックシート4を多数枚積層し、これを焼結して接着することにより一体化したものである。それぞれのガラスセラミックシート4は、面内方向に沿って上面にパターン配線6が形成され、厚さ方向にはビア配線5が形成されている。ビア配線5は、ガラスセラミックシート4を積層し接着することにより、厚さ方向に連結されている。本実施の形態では、40層のセラミックシート4が積層され、一体化されている。
・・・(中略)・・・
【0019】さらに、スクリーン印刷法を用いた同時印刷により、グリーンシートの貫通孔31に導体ペーストを充填するのと同時に、グリーンシートの上面に同じ導体ペーストにより、焼結後にパターン配線6となる導体ペーストパターンを印刷した。この同時印刷はそれぞれのグリーンシートについて行った。導体ペーストは、本実施の形態の最も特徴的な部分であるので、組成等について詳しく後述する。
【0020】つぎに、導体ペーストパターンが印刷されたすべてのグリーンシートを、各層の貫通孔31の位置が重なるように位置合わせして積層した後、130℃、175kg/cm^(2)の条件下で加熱圧着し、グリーンシート積層体を作製した。
【0021】このグリーンシート積層体を加湿雰囲気中、850℃で10時間加熱することにより、グリーンシートおよび導体ペースト中に含まれる有機バインダ等の有機物を分解・飛散させて除去する。これによりグリーンシートおよび導体ペーストは粉末の集合状態となる。ここでさらに、窒素雰囲気中、1000℃で2時間焼成する。これにより、グリーンシートは、構成材料が焼結・緻密化され、ガラスセラミックシート4となる。このとき、上下に接するガラスセラミックシート4は焼結で界面が連結されて一体になり、一体のガラスセラミック多層回路基板が形成される。また、貫通孔31中の導体ペーストおよび導体ペーストパターンも、導体金属粉末が焼結により緻密化した金属結晶粒子に成長し、ビア配線5とパターン配線6になる。なお、貫通孔31中の導体ペーストも、上下のグリーンシート間で焼結時に上下に連結して一体となり、ガラスセラミック多層回路基板を厚さ方向に貫通するビア配線5を形成する。以上の工程により、ガラスセラミック多層回路基板を製造した。」

(3) 図3を参照すると、上側のセラミック基板4を焼結したものと、下側のセラミック基板4を焼結したものとに跨がって、パターン配線6が形成されたものが看取される。

4 当審拒絶理由通知に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献4(特開2007-208193号公報)には、「セラミック基板」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0028】
配線パターン5は、セラミック基板1の上面(ラミック薄板2aの上面)と下面(セラミック薄板2dの下面)、それぞれの積層間に設けられると共に、導電材からなるランド部6が孔3の外周部に位置するセラミック基板の上面(ラミック薄板2aの上面)と下面(セラミック薄板2dの下面)に設けられている。」

(2) 図1及び図2を参照すると、配線パターン5が、セラミック基板1の上面及び下面の溝に埋め込まれたものが看取される。

5 当審拒絶理由通知に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献5(特開2005-236006号公報)には、「導電性回路装置およびその作製方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0030】
図1(a)に示すように、厚み100μmのポリイミドフィルム基板1の表面にレーザーアブレージョン法により線幅15μm、深さ5μmの凹溝パターン2を形成した。得られた表面に粒径2 nm ? 100 nmの銀微粒子の水分散液 (銀含有率20重量%) を塗布して乾燥させ、乾燥後の塗布膜を布で拭き取った。拭き取り後のポリイミドフィルムに形成された凹溝の断面を観察したところ、同図(b)に示すように、銀微粒子3は凹溝2内にのみを存在しており、凹溝2の壁から底面にわたって均一に付着していることが確認できた。得られた銀微粒子パターンを有する基板を、180℃オーブン中に30分保持して凹溝内の銀粒子パターンの体積固有抵抗を測定したところ、体積固有抵抗は2×10^(-5)Ωcmであった。次いで得られた銀粒子パターンを有する基板を30℃の無電解銅めっき浴に2時間浸漬させたところ、同図(c)に示すように、銀粒子層3上には銅めっき層4が形成され銀微粒子層と銅めっき層から構成された導電性回路が得られた。基板を乾燥後、凹溝の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、凹溝の壁面および底面に厚みが0.2?0.5μmの銀粒子層が付着しており、この層の上に銅めっき層が付着して凹溝が完全に銅で埋められていることが確認できた。4点法により凹溝の表面抵抗率を測定し、この値から体積固有抵抗を計算したところ、3×10^(-6) Ωcmの体積固有抵抗が得られていることを確かめた。」

(2) 図1(a)?(c)を参照すると、凹溝パターン2がU字形であることが看取される。

第6 対比、判断
1 本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「第1層の絶縁層」は、本願発明1の「第1絶縁層」に相当する。
以下同様に、「第2層の絶縁層」は、「第2絶縁層」に、
「前記第1層の絶縁層及び前記第2層の絶縁層の内部に埋め込まれている配線導体6」は、「前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層の内部に埋め込まれている内部回路層」に、
「前記第1層の絶縁層の上部及び前記第2層の絶縁層の下部にそれぞれ形成されている配線導体6」は、「前記第1絶縁層の上部及び前記第2絶縁層の下部にそれぞれ形成されている外部回路層」に、
「導体配線を施したセラミック生シートを複数枚積層、圧着後、焼結してなる多層セラミック基板」は、「印刷回路基板」に、それぞれ相当する。

引用発明では、「前記ビアは、中心部の幅は、第1層の絶縁層及び第2層の絶縁層の表面での幅より大きく」なっているから、引用発明は、「前記ビアは中心部が第1幅を有し、前記第1絶縁層の表面との接合面及び前記第2絶縁層の表面との接合面がそれぞれ第2幅を有し、前記第1幅が前記第2幅より大きく」なっている。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「第1絶縁層と、
前記第1絶縁層の下に形成された第2絶縁層と、
前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層を貫通する少なくとも1つのビアと、
前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層の内部に埋め込まれている内部回路層と、
前記第1絶縁層の上部及び前記第2絶縁層の下部にそれぞれ形成されている外部回路層と、を含み、
前記ビアは中心部が第1幅を有し、前記第1絶縁層の表面との接合面及び前記第2絶縁層の表面との接合面がそれぞれ第2幅を有し、
前記第1幅が前記第2幅より大きい、印刷回路基板。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点]
本願発明1では、「前記内部回路層は、前記第1絶縁層の下部に埋め込まれ、断面が三角形である第1パートと、前記第2絶縁層の上部に埋め込まれ、断面が三角形である第2パートとを含み、前記内部回路層及び前記外部回路層を含む2n+1(nは正の整数)の数を有する回路層を含む」との構成を備えているのに対して、
引用発明では、かかる構成を備えていない点。

(2) 判断
新規性について
上記相違点に係る本願発明1の構成については、引用文献1に記載ないし記載されているに等しいとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ということはできない。

進歩性について
導体配線を施したセラミック生シートを複数枚積層、圧着後、焼結してなる多層セラミック基板では、通常、圧着時に、配線導体は、二つのセラミック生シートの間に挟まれるから、当該二つのセラミック生シートに跨がって埋設される。そして、結果的に、配線導体は、焼結の際に、二つの絶縁層に跨がって形成されることとなる(前記「第5 2」及び「第5 3」を参照)。
そうすると、引用発明においても、「第1層の絶縁層及び前記第2層の絶縁層の内部に埋め込まれている配線導体6」は、圧着後の焼結の際に、二つの絶縁層(第1層の絶縁層及び第2層の絶縁層)に跨がって形成され、結果的に、内部回路層は、前記第1絶縁層の下部に埋め込まれる第1パートと、前記第2絶縁層の上部に埋め込まれる第2パートとを含むものとなると解される。
しかし、上記第1パート及び第2パートを、それぞれ断面が三角形とすること、すなわち「前記内部回路層は、前記第1絶縁層の下部に埋め込まれ、断面が三角形である第1パートと、前記第2絶縁層の上部に埋め込まれ、断面が三角形である第2パートとを含」むことについては、引用文献1?5のいずれにも記載も示唆もされていない。
そうすると、上記「前記内部回路層は、前記第1絶縁層の下部に埋め込まれ、断面が三角形である第1パートと、前記第2絶縁層の上部に埋め込まれ、断面が三角形である第2パートとを含」むことを要件の一部とする、上記相違点に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献1?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
以上のことから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明ということはできないし、また、引用発明及び引用文献1?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

2 本願発明2?9について
本願発明2?9は、本願発明1をさらに限定したものであるので、同様に、引用文献1に記載された発明ということはできないし、また、引用発明及び引用文献1?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

第7 原査定についての判断
平成27年11月9日の手続補正により補正された請求項8、請求項10及び請求項11に記載された事項は、平成29年7月4日の手続補正により補正された請求項6(本願発明6)、請求項8(本願発明8)及び請求項9(本願発明9)に、それぞれ対応している。
そして、本願発明8及び本願発明9は、本願発明6を引用しなくなったから、「外部回路層は、第1絶縁層の上部または前記第2絶縁層の下部の表面に形成されているパターン溝を埋め込む」とともに「第1絶縁層の上部または前記第2絶縁層の下部に形成され、前記ビアを露出する接着層をさらに含む」ことを、特定するものではなくなった。
そうすると、平成29年7月4日の手続補正は、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、原査定の理由は解消したから、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由通知についての判断
1 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
前記「第6 1」及び「第6 2」に示したように、本願発明1?9は、引用文献1に記載された発明ということはできないし、また、引用発明及び引用文献1?5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、理由1(新規性)及び理由2(進歩性)は、解消した。

2 理由3(サポート要件、明確性)について
(1) 平成29年7月4日の手続補正により、請求項1に、「前記内部回路層及び前記外部回路層を含む2n+1(nは正の整数)の数を有する回路層を含むこと」との事項が限定されたことにより、奇数個の回路層を形成することについての特定がされた。
これにより、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。

(2) 平成29年7月4日の手続補正により、補正前の請求項1の「前記第1絶縁層の上部または前記第2絶縁層の下部に形成されている外部回路層」及び「前記第1絶縁層または前記第2絶縁層の表面との接合面が第2幅を有し」との記載は、補正後の請求項1(本願発明1)において、それぞれ「前記第1絶縁層の上部及び前記第2絶縁層の下部にそれぞれ形成されている外部回路層」及び「前記第1絶縁層の表面との接合面及び前記第2絶縁層の表面との接合面がそれぞれ第2幅を有し」と補正された。
これにより、本願発明1は、外部回路層が「第1絶縁層の上部及び前記第2絶縁層の下部」の両方に設けられたものに特定され、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。

(3) 平成29年7月4日の手続補正により、補正前の請求項2の「上領域を埋め込み」及び「下領域を埋め込む」との記載は、補正後の請求項2(本願発明2)において「上領域が埋め込まれ」及び「下領域が埋め込まれている」と補正され、補正前の請求項8の「パターン溝を埋め込む」との記載は、補正後の請求項6(本願発明6)において「パターン溝に埋め込まれている」と補正された。
これにより、本願発明2及び本願発明6は明確となった。

(4) したがって、理由3(サポート要件、明確性)は、解消した。

3 小括
以上のことから、当審拒絶理由通知の理由1?理由3は、解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由通知の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-08-21 
出願番号 特願2013-546029(P2013-546029)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H05K)
P 1 8・ 537- WY (H05K)
P 1 8・ 561- WY (H05K)
P 1 8・ 121- WY (H05K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
発明の名称 印刷回路基板  
代理人 森下 賢樹  

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