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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B42C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B42C
管理番号 1331746
審判番号 不服2017-4587  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-03 
確定日 2017-09-14 
事件の表示 特願2012- 83775「製本方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月17日出願公開、特開2013-212632、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年4月2日の出願であって、平成28年6月27日付けで手続補正がされ、同年12月26日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年7月12日付けで拒絶理由通知がされ、同年7月14日付けで手続補正がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年7月14日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明であり、本願発明は以下のとおりの発明である。

「折り丁をページ順に揃えて丁合し、該丁合した本文の背面に背糊を塗布し、前記本文の側面に横糊を塗布し、該横糊を塗布した本文に対して、タイトルや適宜の印刷をした表紙部材を接合する製本方法において、
前記表紙部材にタイトルや適宜の印刷をする工程時に、その印刷と同じ印刷機を使用して且つその印刷と同様な手法で、当該表紙部材の背表紙部の内側面及び該内側面に隣接する両側端に、剥離性を有するニスを印刷して剥離ニス層を形成する工程と、
前記丁合した本文の背面に前記背糊を塗布して当該背面を一体に形成する工程と、
該背面の端部から前記側面に沿って所定の間隔を開けた部位に前記横糊を塗布する工程と、
該横糊を塗布した本文に対して、前記表紙部材を被せて、当該表紙部材と前記本文の側面とを前記横糊で接着する工程と、を少なくとも有すること
を特徴とする製本方法。」


第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の平成16年7月8日に頒布された引用文献1(特開2004-188863号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の紙葉が帳合された本文を、その背面に塗工された背糊で一体的に接合させ、本文の一方の表面から背面を経て他方の表面に跨るようにして被せた表紙を、本文の両側の表面と表紙の対向する内面との間に配置されたノド糊で本文に接合する製本方法であって、
前記本文の背糊と対向する表紙の内面に離型剤を塗工する工程(1)と、
前記本文の背面に前記背糊を塗工する工程(2)と、
前記背糊が接着性を有する間に、前記表紙を前記本文に被せる工程(3)と、
前記本文と前記表紙とを前記ノド糊で接合する工程(4)と
を含む製本方法。

【請求項3】
前記ノド糊を前記背糊の端縁から離れて施す
請求項1または2に記載の製本方法。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、良好な見開き性を備えた製本物を効率よく製本する方法に関する。」
(3)「【0005】
そこで、本発明は、良好な見開き性を備えた製本物を、既存の製本設備で生産性を維持しながら効率よく製本することができる製本方法を提供することを目的とする。」
(4)「【0009】
本発明の製本方法においては、本文の背面に塗工された背糊と、表紙の内面との間に離型剤が存在していることが重要である。これにより、塗工後の背糊が接着性を有しているうちに、本文に表紙を被せてノド糊で接合させても、本文の背面と表紙の内面とが接合されずに分離された状態になり、製本後に良好な見開き性を確保させることができる。
その結果、従来技術における合い紙などを使用せずとも、背糊を塗工したあと、直ちに本文と表紙との合体工程を開始することができ、製本作業の能率化、製本ラインの簡略化を図ることができる。しかも、背糊だけで一体接合され、表紙とも分離された本文は、柔軟に開いて見開き状態で使用することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
〔離型剤〕
離型剤としては、前記したような接着性を有する状態の背糊に対しても接合されてしまうことがない性質、すなわち十分な離型性を有していればよく、例えば、離型性エマルジョン、油性離型剤、水性離型剤など、従来公知の各種離型剤を用いることができる。特に適した離型剤として、以下に説明するホットメルト接着性離型剤が挙げられる。
<ホットメルト接着性離型剤>
ホットメルト接着性離型剤は、加熱溶融させると接着性を発現し、冷却固化すると表面が離型性を示す。加熱溶融状態で塗工すれば、塗工面に強力に接合される。冷却固化したあとでは、接着性を有する背糊が表面に接触したとしても、接合されてしまうことがない。」
(5)「【0022】
ノド糊は、背糊の端縁から離れて施すようにすることが好ましい。これにより、さらに見開き性を向上させることができる。
〔製本構造〕
図1?3に示す実施形態は、基本的な製本構造の具体例を示している。
図1に示すように、本文1は、多数の紙葉10が帳合されたものである。本文1の背面には背糊2が塗工される。本文1の両側面で背面に近い個所にはノド糊3が塗工される。ノド糊3は、本文1の背面から距離Xだけ離れて塗工されている。背糊2およびノド糊3は、通常、塗工された状態で接着性を示す。例えば、溶剤性の接着剤は、溶剤が蒸発するにつれて硬化する。ホットメルト接着剤は、加熱溶融状態で塗工されたあと、冷却固化するまでの間で接着性を示す。何れにしても、塗工後、ノド糊3が接着性を示す一定の時間内に、本文1を表紙4と貼り合せる必要がある。
【0023】
図2に示すように、表紙4は、厚紙などからなり、本文1の背面と両側面を覆う矩形状をなしている。表紙4のうち、本文1の背面に塗工される背糊2に対応する個所には、離型剤5が塗工される。離型剤5を、背糊2の塗工範囲よりも少し広い範囲に塗工しておけば、本文1に表紙4を被せたときに、離型剤5が背糊2の全面に確実に対面させることができる。本文1の両側面のノド糊3に対応する個所にも、ノド糊3が塗工される。但し、本文1にノド糊3が形成されていれば、表紙4にはノド糊3を塗工しなくても構わない。逆に、表紙4だけにノド糊3を塗工し、本文1にはノド糊3を塗工しない場合もある。
【0024】
表紙4の離型剤5は、ノド糊3と同時または前後して塗工することができる。離型剤5は、塗工後、本文1の背糊2と合わされるときまでに、表面が離型性を示す状態になるようにしておく。ノド糊3は、本文1と合体させるときに、十分な接着性を示す状態であるようにしておく。
図3に示すように、本文1の背面および両側面を覆うようにして、表紙4を被せる。本文1および表紙4のノド糊3が互いに接着して、本文1と表紙4とを一体的に接合させる。このとき、本文1の背面に配置された背糊2は、表紙4の離型剤5に当接する。そのため、背糊2が未だ接着性を示している状態であっても、背糊2が本文1を表紙4に接着してしまうことがない。本文1の背面と表紙4の内面とは、完全に分離された状態で、自由に離れて独自で変形することができる。
【0025】
〔製本工程〕
図4は、前記実施形態の製本構造を得るための製本工程を示している。
図中、(a)?(e)へと、本文1に関する製本工程が進む。表紙4については、(m)(n)と作業を進め、(c)で本文1の製本工程と合流する。
(a):多数の紙葉10が帳合された本文1を準備する。
(b):溶融状態のホットメルト接着剤21が溜められた接着剤槽20に、塗工ローラ22および塗工アーム24が設置されている。接着剤21は、背糊2とノド糊3とに兼用される。本文1の背面を、塗工ローラ22の上面に沿って移動させると、本文1の背面に背糊2が塗工される。本文1の両側面には、針金状の塗布具24によってノド糊3が塗工される。
【0026】
(m)?(n):表紙4は、平坦な状態で、本文1の背面に対応する個所に離型剤5が塗工され、本文1の両側面に対応する個所にはノド糊3が塗工される。ノド糊3は、次工程である本文1との合体直前に塗工して、接着性を有する状態で本文1と合体させる必要がある。離型剤5は、本文1の背糊2と合わせるまでに、表面が離型性を示す状態になっている必要がある。
(c):本文1の背面を、表紙1の離型剤5の上に載せる。本文1の背糊2が未だ接着性を示す状態であっても、離型剤5が存在するので、本文1の背面が表紙4に接着するおそれはない。
【0027】
(d):本文1の両側面に、表紙4の両側を折り返し、表紙4のノド糊3と本文1のノド糊3とを接着させる。このとき、プレス装置40で、表紙4の両側面を本文1に対して強く挟みつけ、ノド糊3による接合を確実強固にする、背固めを行う。
(e):このような工程を経て、本文1と表紙4とが合体し、製本が完了する。
〔ノド糊の塗布〕
ノド糊を本文側に塗布する場合には、図1に示すように、本文1に塗布した背糊2から一定の間隔を空けた位置にノド糊3を塗布することができる。ノド糊3を表紙4側に塗布す
る場合には、図2に示すように、表紙(裏面)4における本文1の背面に対応する部分から一定の間隔を空けた位置にノド糊3を塗布することができる。
【0028】
ここで、背糊2の端縁からノド糊3までの間隔(x)を、2?8mmとすることが好ましい。この間隔が2mm未満であると、見開き性のさらなる向上効果があまり期待できないこととなり、一方、8mmを超えると、表紙4のみを開いた時に、本文1が一緒に引張られることとなり、表紙4のみを開く時の見開き性や見た目が悪くなる傾向がある。また、文字や絵柄が隠れてしまうおそれがある。
〔離型剤でノド糊を覆う実施形態〕
図5に示す実施形態は、本文1側のノド糊3が、本文1の背面に配置された背糊2の端辺につながる位置まで形成されている。この場合、ノド糊3と背糊2を、同じ接着剤で同時に連続的に塗工しておくこともできる。
【0029】
表紙4側のノド糊3は、前記実施形態と同様に、本文1の背糊2が塗工される個所に対応する位置から距離xだけ離れた位置から外側に形成されている。離型剤5は、本文1の背糊2に対面する範囲から、本文1の側面でノド糊3と対面する範囲まで配置され、表紙4のノド糊3につながっている。
なお、このときの背糊2の端縁から離型剤5の端までの間隔xも、前述の範囲に設定しておくことが好ましい。
本文1に表紙4を被せた状態では、表紙4のノド糊3と、これに対面する本文1のノド糊3とが接着される。本文1の背糊2とノド糊3の一部は、表紙4の離型剤5に対面しているので、接合されることはない。
【0030】
その結果、製本後には、本文1の背面から側面の一部までが表紙4と分離された状態になり、前記実施形態と同様に良好な見開き性を発揮できる。ノド糊3や背糊2の塗工範囲を厳密に設定しておかなくてもよいので、塗工作業が比較的容易になり、生産性が高まる。
〔本文側に離型剤を塗工する実施形態〕
図6に示す実施形態は、離型剤5を本文1側に塗工している。
具体的には、本文1に背糊2を塗工したあと、背糊2が接着性を有する間に背糊2の上に離型剤5を塗工する。ノド糊3は、前記実施形態などと同様に、本文1および表紙4に塗工している。」
(6)製本技術分野において、「帳合」とは、ページ順に用紙を並べることを意味することから、上記(5)【0022】及び図1より、複数の紙葉がページ順に揃えられた本文が看取できる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「複数の紙葉がページ順に揃えられた本文を、その背面に塗工された背糊で一体的に接合させ、本文の一方の表面から背面を経て他方の表面に跨るようにして被せた表紙を、本文の両側の表面と表紙の対向する内面との間に配置されたノド糊で本文に接合する製本方法であって、
前記本文の背糊と対向する表紙の内面に離型剤を塗工する工程(1)と、
前記本文の背面に前記背糊を塗工する工程(2)と、
前記背糊が接着性を有する間に、前記表紙を前記本文に被せる工程(3)と、
前記本文と前記表紙とを前記ノド糊で接合する工程(4)と
を含み、
前記ノド糊を前記背糊の端縁から離れて施し、
背糊の端縁からノド糊までの間隔(x)を、2?8mmとする、製本方法。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の平成6年2月22日に頒布された引用文献2(特開平6-48065号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 背中にホットメルト糊を塗着した移動する本文冊子に同じく移動する表紙を合わせ、両者を圧接接着して製本するバインダーによる製本方法において、本文冊子の背中及び背中側側面端部にホットメルト糊を塗着するとともに、表紙の本文冊子の背中が当たる個所に糊分解液を塗布し、本文冊子の背中に塗着されたホットメルト糊の糊作用を封殺して本文冊子の背中側側面端部のみを表紙と接着したことを特徴とするバインダーによる製本方法。」
(2)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ホットメルト糊を使用するバインダーによる製本方法に関するものである。」
(3)「【0004】しかし、この方法を実施するためには、本文冊子の背中に糊を塗着して捨紙を貼り、その後、捨紙の余分の部分を切断するとともに、改めて本文冊子の背中側側面端部に糊を塗着する工程が必要になり、捨紙が必要になる上、工程が長くなり、装置が大型化する。又、捨紙があることから、分冊が容易でないといった欠点もある。本発明は、このような課題を解決するものであり、要は、捨紙等を用いないでも本文冊子の背中と表紙とを接着させないようにしたものである。」
(4)「【0009】一方、表紙18の移送中、この表紙18には本文冊子14の背中14aと合わさる個所18aに糊分解液が塗布装置24等で塗布される。この糊分解液は糊の接着作用を封殺するものでシリコン液等がある。このような本文冊子14と表紙18とをドッキングさせ(万力12を取り付けたチェンコンベア10をスラットコンベア16に接近させる)、ドッキングさせたものをスラットコンベア16の下に設けられる押圧ローラ26の上を通過させて両者を圧接する。
【0010】以上の操作を経たものをチェンコンベア10から放出し、形締め機28によって表紙18の上から本文冊子14の背中14a及び側面を形締めし、接着と成形を行う。これにより、本文冊子14の背中14aだけは糊が付かず、側面端部だけで表紙18と接着される(但し、本文冊子14の個々のものは背中14a側の端部に侵入した糊で接着されている)。尚、糊分解液の塗布は、前記したように表紙18の移送中に行うものの他に、スラットコンベア16に載せる前に予め塗布しておくものが考えられる。」

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「背中にホットメルト糊を塗着した移動する本文冊子に同じく移動する表紙を合わせ、両者を圧接接着して製本するバインダーによる製本方法において、本文冊子の背中及び背中側側面端部にホットメルト糊を塗着するとともに、表紙の本文冊子の背中が当たる個所に糊分解液を塗布し、本文冊子の背中に塗着されたホットメルト糊の糊作用を封殺して本文冊子の背中側側面端部のみを表紙と接着し、
糊分解液の塗布は、表紙の移送中に行うか、スラットコンベアに載せる前に予め塗布しておく、バインダーによる製本方法。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の平成13年12月25日に頒布された引用文献3(特開2001-353983号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 本文と、
前記本文の背に対応した背部と、背部の両側から側方に延在する表部及び裏部とからなる見返しと、
表表紙、背表紙及び裏表紙からなる表紙を有し、
前記見返しの背部と本文の背は接着され、
前記表表紙に臨む本文の紙片と前記見返しの表部の内面、及び裏表紙に臨む本文の紙片と前記見返しの裏部の内面は接着され、
前記見返しの表部の外面と表表紙、及び見返しの裏部の外面と裏表紙は接着されている、
ことを特徴とする本。

【請求項9】 前記見返しの表部の外面と表表紙との接着、見返しの裏部の外面と裏表紙との接着は、見返しあるいは表紙に形成された接着層によりなされる請求項1記載の本。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、表紙の背に皺が生じることがない無線綴本に関する。」
(3)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】そのため、従来の無線綴本では、本文を開くと本文の背に追従して表紙の背が折れ、背表紙に皺ができ易く、本の外観を劣化させる不具合があった。特に、本文がある程度の厚みを有し、背が角ばって形成されるものでは、皺が目立ち、皺により本の商品価値を劣化させる不具合があった。また、本が商品カタログである場合には、皺により商品カタログ自体に高級感を維持させ難く、ひいては商品のイメージダウンにつながる要因となる不具合があった。本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、表紙の背に皺が生じることがない無線綴本を提供することにある。」
(4)「【0012】本文2の背202と見返し3との接着は、背202あるいは見返し3に接着剤を塗布し、この塗布した接着剤により行ってもよいし、また、見返し3に予め形成した接着層により行ってもよい。本文2の紙片と表表紙401、裏表紙403との接着は、本部2あるいは表紙4に接着剤を塗布し、この塗布した接着剤により行ってもよいし、また、本文2あるいは表紙4に予め形成した接着層により行ってもよい。本文2、あるいは表紙4に予め形成した接着層により接着する場合には、接着層は折り丁5や表紙4の印刷工程において形成でき、また、見返し3に予め形成した接着層により接着する場合には、見返し3の製造工程時に接着層を形成できるので、接着剤を塗布する工程を省け、コストダウンを図る上で有利となる。」

したがって、上記引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「本文と、
前記本文の背に対応した背部と、背部の両側から側方に延在する表部及び裏部とからなる見返しと、
表表紙、背表紙及び裏表紙からなる表紙を有し、
前記見返しの背部と本文の背は接着され、
前記表表紙に臨む本文の紙片と前記見返しの表部の内面、及び裏表紙に臨む本文の紙片と前記見返しの裏部の内面は接着され、
前記見返しの表部の外面と表表紙、及び見返しの裏部の外面と裏表紙は接着されており、
前記見返しの表部の外面と表表紙との接着、見返しの裏部の外面と裏表紙との接着は、折り丁や表紙の印刷工程において、見返しあるいは表紙に形成された接着層によりなされる本。」

4.引用文献4について
本願の出願日前の平成15年9月2日に頒布された引用文献4(特開2003-246348号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、主として生麺などの即席食品(この発明においては、以下単に即席食品という)の密封包装に使用する容器の蓋材、特に即席食品を柔らかくほぐすために注がれた湯を排出する湯切り口を備えた湯切り口付き蓋材に関する。」
(2)「【0007】そこでこの発明は、このような観点から、即席食品の仕様に最適な蓋材を得ることを課題として開発された。したがって、この発明は、第1に蓋材の開封面積を可及的に大きくすること併せて素早い開封を可能にすることを課題とする。また、第2に蓋材の開封手数を可及的に少なくすることを課題とする。」
(3)「【0023】また、裏面側にはレシチンなどの可食性界面活性剤、消化綿系の樹脂にワックス又はシリコン又はアマイドなどを混合したもの、更には剥離ニスからなる離型剤10が、同様にグラビア印刷法などにより印刷されて形成される。更に、この離型剤10が塗着される。なお、この離型剤10が塗着される前に、この表面シート8の裏面には目止めニスが施されるのが望ましい。基材7と表面シート8との剥離性能が格段に高まるからである。」

5.引用文献5について
本願の出願日前の平成5年7月20日に頒布された引用文献5(実願平4-40号(実開平5-54383号)のCD-ROM)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【0001】
【産業上の利用分野】
コーンカップに入ったアイスクリームなどを収容して、上部開口を3方向又は4方向から寄合せて密封した逆円錐形の包装袋の、開封を容易にしたコーンカップ用包装袋に関するものである。」
(2)「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
従来の、密封した逆円錐形の包装袋に設けられた切取りミシン目については、密封性が不充分で切取りミシン目から溶けたアイスクリームなどが滲出したり、強度が不足で切取りミシン目から密封した包装袋が破袋したり、輸送時や販売時などに、滲出しや破袋によるアイスクリームなどの汚染の問題があった。」
(3)「【0017】
なお、本実施例においては、図2に示す内面側糊代直線部(31)の、開封用のカットテープを有するつまみ(22)の位置( 内面側糊代直線上の中央上部の切込み(23)の位置と同じ )から開口円弧までの接着剤を塗布する部分の表面に、逆円錐形の包装袋の上部を1動作で開封除去するための剥離ニスを印刷(32)したものであって、前記の表面印刷工程で同時に、通常の印刷ニス( ニトロセルローズ系 )にシリコーン系の剥離剤( P371-UPG, 東洋インキ製造(株)製 )を18重量%添加した剥離ニスを用いて印刷(32)して、表面に塗布した接着剤( HC-220, 新田ゼラチン(株)製 )との、適度に強固でない( 0℃で15?30g/15mm幅 )糊代直線部の接着( 剥離 )強度を得ているものである。」

6.引用文献6について
本願の出願日前の平成20年2月14日に頒布された引用文献6(特開2008-33262号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、折り畳みラベル、折り畳みラベル付き物品及びその製造方法に関するものである。」
(2)「【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、シートのいずれの箇所同士も接着せずにすみ、コスト低減を図ることができる折り畳みラベル、これを用いた折り畳みラベル付き物品、及び、その折り畳みラベル付き物品の製造方法を提供することを目的とする。」
(3)「【0101】
剥離剤82は、接着剤10による接着の際にその接着強度を弱めて剥離し易くするものをいい、例えば、剥離ニス(例えば、大日本インキ化学工業株式会社製の「剥離OPニス」)などを挙げることができる。前記剥離剤は、例えば、印刷等により形成しておくことができる。この点は、後述する各実施の形態についても同様である。」

第4 対比・判断
1.本願発明について
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
後者の「複数の紙葉」、「帳合」、「本文」、「背面」、「背糊」、「『本文の一方の表面』、『他方の表面』」、「ノド糊」、「表紙」、「製本方法」は、それぞれ、前者の「折り丁」、「丁合」、「本文」、「背面」、「背糊」、「本文の側面」、「横糊」、「表紙部材」、「製本方法」に相当する。
後者の「本文」は、複数の紙葉がページ順に揃えられたものであるから、「折り丁をページ順に揃えて丁合し」といえる。
後者の「製本方法」による製本物の表紙にタイトルや装飾等の適宜の印刷がなされていることは、一般常識から明らかであるから、後者の「表紙」は、「タイトルや適宜の印刷をした表紙部材」といえる。
後者の「離型剤」は、本文の背糊と対向する表紙の内面に塗工されるものであるから、「層」を形成するといえ、前者の「剥離ニス層」とは、「表紙部材の背表紙部の内側面に形成した剥離性を有する剥離層」との概念で共通する。そうすると、後者の「本文の背糊と対向する表紙の内面に離型剤を塗工する工程(1)」は、「表紙部材の背表紙部の内側面に、剥離性を有する剥離層を形成する工程」といえる。
後者は、「複数の紙葉が帳合された本文を、その背面に塗工された背糊で一体的に接合させ」るものであるから、「丁合した本文の背面に背糊を塗布して当該背面を一体に形成する工程」を有するといえる。
後者の「ノド糊」は、「本文の両側の表面と表紙の対向する内面との間に配置され」、「背糊の端縁から離れて施し」たものであるから、後者の「製本方法」は、「背面の端部から側面に沿って所定の間隔を開けた部位に横糊を塗布する工程」を有するといえ、後者の「本文と前記表紙とを前記ノド糊で接合する工程(4)」は、「横糊を塗布した本文に対して、表紙部材を被せて、当該表紙部材と前記本文の側面とを前記横糊で接着する工程」といえる。

したがって、両者は、
「折り丁をページ順に揃えて丁合し、該丁合した本文の背面に背糊を塗布し、前記本文の側面に横糊を塗布し、該横糊を塗布した本文に対して、タイトルや適宜の印刷をした表紙部材を接合する製本方法において、
当該表紙部材の背表紙部の内側面に、剥離性を有する剥離層を形成する工程と、
前記丁合した本文の背面に前記背糊を塗布して当該背面を一体に形成する工程と、
該背面の端部から前記側面に沿って所定の間隔を開けた部位に前記横糊を塗布する工程と、
該横糊を塗布した本文に対して、前記表紙部材を被せて、当該表紙部材と前記本文の側面とを前記横糊で接着する工程と、を少なくとも有する製本方法。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明が、「表紙部材にタイトルや適宜の印刷をする工程時に、その印刷と同じ印刷機を使用して且つその印刷と同様な手法で、」当該表紙部材の背表紙部の内側面「及び該内側面に隣接する両側端」に、剥離性を有する「ニスを印刷して」剥離「ニス」層を形成する工程を有するのに対し、引用発明1は、「表紙部材の背表紙部の内側面に、剥離性を有する剥離層を形成する工程」を有する点。

(2)相違点についての判断
相違点について検討する。
引用発明2の「表紙」、「表紙の本文冊子の背中が当たる個所」、及び「ホットメルト糊」は、それぞれ、本願発明の「表紙」、「表紙部材の背表紙部の内側面」、及び「背糊」に相当する。
引用発明3の「背表紙」、「『表表紙』及び『裏表紙』」、「表表紙、背表紙及び裏表紙からなる表紙」、及び「接着層」は、本願発明の「表紙部材の背表紙部」、「(表紙部材の背表紙部の)内側面に隣接する両側端」、「表紙部材」、及び「背糊」に相当する。
しかし、上記相違点に係る本願発明の「表紙部材にタイトルや適宜の印刷をする工程時に、その印刷と同じ印刷機を使用して且つその印刷と同様な手法で、」当該表紙部材の背表紙部の内側面「及び該内側面に隣接する両側端」に、剥離性を有する「ニスを印刷して」剥離「ニス」層を形成する工程は、引用発明2及び引用発明3のいずれにも、記載も示唆もされていない。
上記引用文献4乃至引用文献6の記載事項には、剥離性ニス層を印刷工程により形成することが記載されているものの、本願発明の「製本方法」の技術分野の技術ではないから、当該技術分野における周知の技術手段とまでは言えない。
仮に、上記引用文献4乃至引用文献6の記載事項から、剥離性ニス層を印刷工程により形成することが周知の技術手段と言えたとしても、上記相違点に係る本願発明の「表紙部材にタイトルや適宜の印刷をする工程時に、その印刷と同じ印刷機を使用して且つその印刷と同様な手法で、」当該表紙部材の背表紙部の内側面「及び該内側面に隣接する両側端」に、剥離性を有する「ニスを印刷して」剥離「ニス」層を形成する工程が、周知の技術であるとする理由はない。
また、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項が設計的事項といえる理由もない。
そして、本願発明は、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項により、「剥離性を有するニス又はインキの印刷は、表紙部材にタイトル等の印刷をする工程時に一緒に行うので、特段に別途の印刷工程や印刷装置を設ける必要がなく、そのため製造コストの上昇を抑えることができる。」(本願明細書【0010】参照。)
したがって、本願発明は、引用発明1乃至引用発明3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1、2
・引用文献等1-3
<引用文献等一覧>
1.特開2004-188863号公報
2.特開平6-48065号公報
3.特開2001-353983号公報」
というものである。
しかしながら、本願発明は、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項である「表紙部材にタイトルや適宜の印刷をする工程時に、その印刷と同じ印刷機を使用して且つその印刷と同様な手法で、」当該表紙部材の背表紙部の内側面「及び該内側面に隣接する両側端」に、剥離性を有する(ニス又はインキ)を「印刷して」剥離(ニス又はインキ)層を形成する工程を有するものとなっており、上記「第4」のとおり、本願発明は、上記引用文献1乃至引用文献3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について
当審では、
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
請求項1の「前記表紙部材にタイトルや適宜の印刷をする工程時に、その印刷と同じ印刷機を使用して、その印刷と同様な手法で、当該表紙部材の背表紙部の内側面及び該内側面に隣接する両側端に、剥離性ニスを印刷する工程」との記載が不明確である。」
との拒絶の理由を通知しているが、平成29年7月14日付けの補正において、請求項1は、先の指摘に対して、「前記表紙部材にタイトルや適宜の印刷をする工程時に、その印刷と同じ印刷機を使用して且つその印刷と同様な手法で、当該表紙部材の背表紙部の内側面及び該内側面に隣接する両側端に、剥離性を有するニスを印刷して剥離ニス層を形成する工程」との補正がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-04 
出願番号 特願2012-83775(P2012-83775)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B42C)
P 1 8・ 537- WY (B42C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大澤 元成  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
発明の名称 製本方法  
代理人 特許業務法人東京アルパ特許事務所  

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