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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M
管理番号 1331849
審判番号 不服2015-20741  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-20 
確定日 2017-08-24 
事件の表示 特願2011-147788「圧縮型冷凍機用潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月24日出願公開、特開2013- 14673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年7月1日の出願であって、出願後の手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成27年 2月27日付 拒絶理由通知書
同年 6月 2日 意見書・手続補正書提出
同年 6年15日付 拒絶理由通知書(最後)
同年 8月24日 意見書・手続補正書提出
同年 9月 9日付 拒絶査定
同年11月20日 審判請求書・手続補正書提出
同年12月10日付 前置報告書
平成28年 2月19日 上申書提出
平成29年 1月12日付 拒絶理由通知書
同年 3月17日 意見書・手続補正書提出

第2 本願発明

本願の請求項1ないし17に係る発明は、平成29年3月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものである。そして、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりである。
「 【請求項1】
基油が、水分含有量が300質量ppm以下である含酸素有機化合物からなり、該含酸素有機化合物が、下記の一般式(II)
【化1】

(式中、R^(4)、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ水素原子を示し、R^(7)は炭素数2?4の二価の脂肪族炭化水素基、R^(8)はpが0のときは炭素数1?6のアルキル基であり、pが1以上のときは炭素数1?4のアルキル基を示し、pはその平均値が0?5の数を示し、R^(7)及びR^(8)は構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またR^(7)Oが複数ある場合には複数のR^(7)Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構成単位を有するポリビニル系化合物を主成分として含む、ジフルオロメタン(R32)単独である冷媒用の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。」
(以下、上記一般式(II)で表される構成単位を有するポリビニル系化合物を、単に「本願ポリビニル系化合物」といい、当該請求項1に係る発明を、「本願発明」という。)

第3 平成29年1月12日付けの当審拒絶理由3(進歩性)の概要

平成29年1月12日付けの当審よりの拒絶理由通知における理由3(進歩性に関するもの)は、要するに、本願発明は、その出願前に頒布された下記刊行物1?4に記載された各発明及び周知技術(下記周知文献A?E参照)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
<主引例:ポリビニルエーテル系化合物とR32との組合せに関する刊行物>
1.特許第3501258号公報
2.特許第3173684号公報
3.国際公開第2009/110584号
4.国際公開第2008/108365号
<水分含有量に関する周知文献>
A.特開2009-126979号公報
B.特開2009-138541号公報
C.特開平1-198694号公報
D.特開2002-53881号公報
E.特開平10-8084号公報

第4 当審の判断の概要

当審は、上記拒絶理由に対して平成29年3月17日に提出された手続補正書及び意見書の内容を参酌しても、依然として当該拒絶理由は解消されておらず、本願は拒絶すべきものであると判断する。
以下、刊行物1を主引例とする場合と、刊行物2を主引例とする場合とに分けて、詳述する。

第5 刊行物1を主引例とする場合の進歩性の判断

1 刊行物1の記載事項
刊行物1には、次の記載がある。
・「【請求項1】 少なくとも冷媒圧縮機,凝縮器,膨張機溝、蒸発器及び乾燥器から構成される冷凍サイクルからなるとともに、ハイドロフルオロカーボン系,フルオロカーボン系,ハイドロカーボン系,エーテル系,二酸化炭素系又はアンモニア系冷媒と、ポリビニルエーテル系化合物を主成分として含有する温度40℃における動粘度が2?200mm^(2) /秒の潤滑油とを有してなる冷凍装置であって、前記ポリビニルエーテル系化合物が一般式(I)
【化1】

〔式中、R^(1) ,R^(2) 及びR^(3) は、それぞれ水素原子又は炭素数1?8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一でも異なっていてもよく、R^(4) は炭素数1?10の二価の炭化水素基又は炭素数2?20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基、R^(5) は炭素数1?20の炭化水素基、mはその平均値が0?10の数を示し、R^(1) ?R^(5) は構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またR^(4) Oが複数ある場合には、複数のR^(4) Oは同一でも異なっていてもよい。〕で表される構成単位を有する重合体からなり、前記冷媒圧縮機が圧縮機と電動機とが一つのカバーの中に覆われた内部高圧形密閉式圧縮機又は内部低圧型密閉式圧縮機であり、かつ、電動機の固定子の巻線が、芯線をガラス転移温度130℃以上のエナメルで被覆したものであり、該エナメル被覆がポリエステルイミド,ポリイミド,ポリアミド及びポリアミドイミドよりなる群から選ばれた少なくとも一種の絶縁層からなるものである冷凍装置。
・・・
【請求項11】 ポリビニルエーテル系化合物が、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリイソプロピルビニルエーテル、ポリイソブチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテルポリイソプロピルビニルエーテル共重合体及びポリエチルビニルエーテルポリイソブチルビニルエーテル共重合体から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1記載の冷凍装置。
【請求項12】 冷媒がハイドロフルオロカーボン系冷媒であり、かつ、1,1,1,2-テトラフルオロエタン,ジフルオロメタン,ペンタフルオロエタン及び1,1,1-トリフルオロエタンの中から選ばれた少なくとも一種である請求項1記載の冷凍装置。」
・「【0043】本発明における潤滑油は、上記ポリビニルエーテル系化合物を単独で用いてもよく、また二種以上組み合わせて用いてもよい。更に、他の潤滑油、例えばエステル類,ポリアルキレングリコール,鉱油などと混合して用いることもできる。このポリビニルエーテル系化合物と他の潤滑油とを混合して用いる場合には、該ポリビニルエーテル系化合物は、混合潤滑油中に少なくとも50重量%含有するのが好ましい。また、本発明における潤滑油には、従来の潤滑油に使用されている各種添加剤、例えば耐荷重添加剤,塩素捕捉剤,酸化防止剤,金属不活性化剤,消泡剤,清浄分散剤,粘度指数向上剤,油性剤,耐摩耗添加剤,極圧剤,防錆剤,腐食防止剤,流動点降下剤などを所望に応じて添加することができる。・・・」
・「【0045】本発明の冷凍装置及び冷媒圧縮機においては、冷媒として、ハイドロフルオロカーボン系,フルオロカーボン系,ハイドロカーボン系,エーテル系,二酸化炭素系又はアンモニア系冷媒が用いられるが、これらの中でハイドロフルオロカーボン系冷媒が好ましい。このハイドロフルオロカーボン系冷媒としては、例えば1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a),ジフルオロメタン(R32),ペンタフルオロエタン(R125)及び1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)が好ましく、これらは単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのハイドロフルオロカーボンは、オゾン層を破壊するおそれがなく、圧縮冷凍機用冷媒として好ましいものである。また、混合冷媒の例としては、R32とR125とR134aとの重量比23:25:52の混合物(以下、R407Cと称する。),R32とR125との重量比50:50の混合物(以下、R410Aと称する。),R32とR125との重量比45:55の混合物(以下、R410Bと称する。),R125とR143aとR134aとの重量比44:52:4の混合物(以下、R404Aと称する。),R125とR143aとの重量比50:50の混合物(以下、R507と称する。)などが挙げられる。」
・「【0051】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0052】実施例1
ポリエチルビニルエーテルを用いて、動粘度,R134aとの相溶性,体積固有抵抗,加水分解安定性を測定するとともに、有機材適合試験及びゴム膨潤試験を行った。得られた結果を第1表に示す。なお、各測定条件は次の通りである。
○1動粘度(当審注:ワープロの都合上、丸囲みの数値は使用できないため、丸囲みの1を「○1」と表記した。以下同じ。)
JIS K2283-1983に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
○2相溶性
(a) R134a
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)に対し、5重量%および10重量%となるように所定量の試料を耐圧ガラスアンプルに加え、これを真空配管およびR134aガス配管に接続した。アンプルを室温で真空脱気後、液体窒素で冷却して所定量のR134aを採取した。次いで、アンプルを封じ、恒温槽中で低温側の相溶性については室温から-60℃まで徐々に冷却することで、一方、高温側の相溶性については室温から+80℃まで徐々に加熱することで相分離が始まる温度を測定した。低温側では相分離温度が低いほど、また高温側では相分離温度が高いほど好ましい。
(b) R32
ジフルオロメタン(R32)に対し、10重量%および20重量%となるように所定量の試料を耐圧ガラスアンプルに加え、これを真空配管およびR32ガス配管に接続した。アンプルを室温で真空脱気後、液体窒素で冷却して所定量のR32を採取した。次いで、アンプルを封じ、恒温槽中で低温側の相溶性については室温から徐々に冷却することで、一方、高温側の相溶性については室温から+40℃まで徐々に加熱することで相分離が始まる温度を測定した。低温側では相分離温度が低いほど、また高温側では相分離温度が高いほど好ましい。
・・・
【0054】実施例2?4
実施例1において、ポリエチルビニルエーテルの代わりに、ポリイソプロピルビニルエーテル(実施例2),ポリメチルビニルエーテル(実施例3)あるいはポリエチルビニルエーテルポリイソプロピルビニルエーテル共重合体(エチルビニル:イソプロピルビニル=5:5)(実施例4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして動粘度,R134aとの相溶性,体積固有抵抗,加水分解安定性を測定するとともに、有機材適合試験及びゴム膨潤試験を行った。得られた結果を第1表に示す。
・・・
【0058】
【表1】

・・・
【0061】実施例5
ポリイソブチルビニルエーテルについて、動粘度,フロン134aとの相溶性,体積固有抵抗,加水分解安定性,吸湿性を測定するとともに、有機材適合試験及びゴム膨潤試験を行った。得られた結果を第2表に示す。なお、各測定条件は次のとおりである。
(1)動粘度:実施例1と同様である。
(2)相溶性試験
R134aに対し、所定量の試料を耐圧ガラスアンプルに加え、これを真空配管及びR134aガス配管に接続した。アンプルを室温で真空脱気後、液体窒素で冷却して所定量のR134aを採取した。次いで、アンプルを封じ、恒温槽中で低温側の相溶性については、室温から-50℃まで徐々に冷却することで、一方、高温側の相溶性については、室温から+90℃まで徐々に加熱することで相分離が始まる温度を測定した。低温側では相分離温度が低いほど、また高温側では相分離温度が高いほど好ましい。R32,R125についても、R134aの場合と同様に測定した。なお、R32については、低温側だけを測定し、R125については、-50℃から+50℃の範囲を測定した。
・・・
【0063】実施例6?9
実施例5において、ポリイソブチルビニルエーテルの代わりに、ポリエチルビニルエーテルポリイソブチルビニルエーテル共重合体(エチルビニル:イソブチルビニル=4:6)(実施例6),ポリエチルビニルエーテルポリイソブチルビニルエーテル共重合体(エチルビニル:イソブチルビニル=5:5)(実施例7),ポリエチルビニルエーテルポリイソブチルビニルエーテル共重合体(エチルビニル:イソブチルビニル=7:3)(実施例8)あるいはポリエチルビニルエーテルポリイソブチルビニルエーテル共重合体(エチルビニル:イソブチルビニル=5:5(但し、実施例7より高分子量のもの))(実施例9)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして動粘度,R134aとの相溶性,体積固有抵抗,加水分解安定性,吸湿性を測定するとともに、有機材適合試験ゴム及び膨潤試験を行った。得られた結果を第2表に示す。
・・・
【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
【表8】

【0069】
【表9】



2 刊行物1記載の発明(引用発明1)
(1) 刊行物1の【請求項1】、【請求項11】及び【請求項12】の記載から、同刊行物には、次の冷凍装置の発明が記載されているといえる。
「少なくとも冷媒圧縮機、凝縮器、膨張機溝、蒸発器及び乾燥器から構成される冷凍サイクルからなるとともに、
ハイドロフルオロカーボン系冷媒と、
ポリビニルエーテル系化合物を主成分として含有する温度40℃における動粘度が2?200mm^(2)/秒の潤滑油と、
を有してなる冷凍装置であって、
前記ハイドロフルオロカーボン系冷媒は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及び1,1,1-トリフルオロエタンの中から選ばれた少なくとも一種であり、
前記ポリビニルエーテル系化合物は、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリイソプロピルビニルエーテル、ポリイソブチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテルポリイソプロピルビニルエーテル共重合体及びポリエチルビニルエーテルポリイソブチルビニルエーテル共重合体から選ばれる少なくとも一種の化合物である冷凍装置。」
(2) そして、上記冷凍装置を、潤滑油に着目して整理すると、次の発明を認めることができる(以下、「引用発明1」という。)。
「少なくとも冷媒圧縮機、凝縮器、膨張機溝、蒸発器及び乾燥器から構成される冷凍サイクルからなるとともに、ハイドロフルオロカーボン系冷媒を有してなる冷凍装置用の、ポリビニルエーテル系化合物を主成分として含有する温度40℃における動粘度が2?200mm^(2)/秒の潤滑油であって、
前記ハイドロフルオロカーボン系冷媒は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及び1,1,1-トリフルオロエタンの中から選ばれた少なくとも一種であり、
前記ポリビニルエーテル系化合物は、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリイソプロピルビニルエーテル、ポリイソブチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテルポリイソプロピルビニルエーテル共重合体及びポリエチルビニルエーテルポリイソブチルビニルエーテル共重合体から選ばれる少なくとも一種の化合物である潤滑油。」

3 本願発明と引用発明1との対比
(1) 対応関係
・引用発明1の、少なくとも冷媒圧縮機、凝縮器、膨張機溝、蒸発器及び乾燥器から構成される冷凍サイクルからなる冷凍装置は、本願発明における「圧縮型冷凍機」に相当する。
・引用発明1の潤滑油は、本願発明における「潤滑油組成物」に相当する。
・引用発明1のポリビニルエーテル系化合物に属する具体的な化合物は、いずれも本願発明における「本願ポリビニル系化合物」(「含酸素有機化合物」)の範疇に属するものである。また、刊行物1の【0043】には、引用発明1の潤滑油(組成物)は、当該ポリビニルエーテル化合物を単独で用いてもよい旨記載され、実際、実施例(特に【0052】、【0054】、【0061】、【0063】参照)においても、その単独の具体例が示されていること、及び、同【0043】には、引用発明1の潤滑油(組成物)は、所望に応じて、従来の潤滑油に使用されている各種添加剤を添加して調製される旨記載されていること、に鑑みると、引用発明1の潤滑油(組成物)は、当該ポリビニルエーテル系化合物を、基油として含有しており、この基油を単独で構成する場合をも予定したものであるということができる。
(2) 一致点・相違点
上記の対応関係を踏まえると、本願発明と引用発明1とは、次の点で一致するといえる。
「基油が、含酸素有機化合物からなり、該含酸素有機化合物が、下記の一般式(II)
【化1】

(式中、R^(4)、R^(5)及びR^(6)はそれぞれ水素原子を示し、R^(7)は炭素数2?4の二価の脂肪族炭化水素基、R^(8)はpが0のときは炭素数1?6のアルキル基であり、pが1以上のときは炭素数1?4のアルキル基を示し、pはその平均値が0?5の数を示し、R^(7)及びR^(8)は構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またR^(7)Oが複数ある場合には複数のR^(7)Oは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される構成単位を有するポリビニル系化合物を主成分として含む、冷媒用の圧縮型冷凍機用潤滑油組成物。」
そして、両者の相違点は、次の点にあると認められる。
・相違点1:本願発明は、「基油が、水分含有量が300質量ppm以下である含酸素有機化合物からなり」と特定されているのに対して、引用発明1は、当該水分含有量に関する特定がない点。
・相違点2:冷媒について、本願発明は、「ジフルオロメタン(R32)単独である」のに対して、引用発明1は、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及び1,1,1-トリフルオロエタンの中から選ばれた少なくとも一種である」点。

4 相違点1について
(1) 水分含有量に関する周知技術の整理
あらかじめ、冷凍機用潤滑油(冷凍機油)の基油中の水分含有量に関する周知技術について整理しておく。
ア 周知文献の記載事項
冷凍機用潤滑油(冷凍機油)の基油中の水分について記載された周知文献A、Bをみると、そこには、次の記載を認めることができる。
(ア) 周知文献A
・「【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位を有し且つ炭素/酸素モル比が4.0?5.8であるポリビニルエーテルと、フルオロプロペン冷媒と、を含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物。
【化1】

[式中、R^(1),R^(2)及びR^(3)は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1?8の炭化水素基を示し、R^(4)は炭素数1?10の二価の炭化水素基又は炭素数2?20の二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、R^(5)は炭素数1?20の炭化水素基を示し、mは前記ポリビニルエーテルについてのmの平均値が0?10となるような数を示し、R^(1)?R^(5)は構造単位毎に同一であっても異なっていてもよく、一の構造単位においてmが2以上である場合には、複数のR^(4)Oは同一でも異なっていてもよい。]」
・「【0049】
本発明の冷凍機油は上記の構成を有するポリビニルエーテルを含有するものであり、当該ポリビニルエーテルのみを単独で用いた場合であっても、低温流動性、潤滑性及び安定性が十分に高く、且つフルオロプロペン冷媒に対する十分に広い相溶領域を有するといった優れた特性を示すものであるが、必要に応じて後述する他の基油や添加剤を添加してもよい。・・・」
・「【0074】
また、本発明の冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、最も好ましくは200ppm以下とすることができる。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。」
・「【0090】
[実施例1?2、比較例1?4]
実施例1?2及び比較例1?4においては、それぞれ以下に示す基油1?6を用いて冷凍機油を調製した。得られた冷凍機油の各種性状を表1に示す。
【0091】
(基油)
基油1:エチルビニルエーテルとイソブチルビニルエーテルの共重合体(エチルビニルエーテル/イソブチルビニルエーテル=7/1(モル比)、重量平均分子量:910、炭素/酸素モル比:4.25)
基油2:エチルビニルエーテルとイソブチルビニルエーテルの共重合体(エチルビニルエーテル/イソブチルビニルエーテル=2/1(モル比)、重量平均分子量:740、炭素/酸素モル比:4.67)
基油3:ポリイソブチルビニルエーテル。(重量平均分子量:1000、炭素/酸素モル比:6.00)
基油4:ポリエチレンプロピレングリコールジメチルエーテル。(エチレン基/プロピレン基のモル比:50/50、重量平均分子量:1100)
基油5:n-ヘプタン酸とペンタエリスリトールとのエステル
基油6:ナフテン系鉱油。
【0092】
次に、実施例1?2及び比較例1?4の各冷凍機油について、以下に示す評価試験を実施した。
【0093】
(冷媒相溶性の評価)
JIS-K-2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン18gに対して冷凍機油を2g配合し、冷媒と冷凍機油とが0℃において相互に溶解しているかを観察した。得られた結果を表1に示す。表1中、「相溶」は冷媒と冷凍機油とが相互に溶解したことを意味し、「分離」は冷媒と冷凍機油とが2層に分離したことを意味する。
【0094】
(熱・化学的安定性の評価)
JIS-K-2211に準拠し、水分を100ppm以下に調整した冷凍機油(初期色相L0.5)1gと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン1gと、触媒(鉄、銅、アルミの各線)とをガラス管に封入した後、150℃に加熱して1週間保持し試験した。試験後は冷凍機油組成物の色相及び触媒の色変化を評価した。色相は、ASTM D156に準拠して評価した。また、触媒の色変化は、外観を目視で観察し、変化なし、光沢なし、黒化のいずれに該当するかを評価した。得られた結果を表1に示す。
【0095】
【表1】



(イ) 周知文献B
・「【請求項1】
回転軸の回転により冷媒を圧縮する圧縮手段を備えた冷媒圧縮機であって、
前記圧縮手段は、前記回転軸を軸支する軸受を具備し、
前記軸受は、固定炭素分が90質量%以上99質量%以下,黒鉛結晶化度が50%以上85%以下,面積空隙率が15%以下である炭素黒鉛質基材の開気孔の半分以上が錫を含む銅のα固溶体で充填された炭素黒鉛質複合材からなることを特徴とする冷媒圧縮機。
・・・
【請求項5】
前記冷媒が、ハロゲン化炭化水素系冷媒,炭化水素系冷媒および自然系冷媒から選ばれた1種または複数種からなることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項6】
前記圧縮手段に用いられる冷凍機油が、鉱油,ポリオールエステル油,ポリアルキレングリコール油,ポリビニルエーテル油,ポリアルファオレフィン油およびハードアルキルベンゼン油から選ばれた1種または複数種からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項7】
前記冷媒および前記冷凍機油中の水分濃度が1ppm以上1000ppm以下であることを特徴とする請求項6に記載の冷媒圧縮機。」
・「【0032】
軸受28,33は、冷媒圧縮機10の機内圧力が大きい場合にも優れた耐摩耗性と耐焼付き性を示す。このため、冷媒圧縮機10では、冷媒として、オゾン層破壊等の環境問題に配慮したハロゲン化炭化水素系冷媒(HFC)や炭化水素系冷媒(HC),自然系冷媒を積極的に用いることができる。また、このような冷媒に対応して、冷凍機油として、鉱油,ポリオールエステル油,ポリアルキレングリコール油,ポリビニルエーテル油,ポリアルファオレフィン油,ハードアルキルベンゼン油が好適に用いられる。」
・「【0033】
冷凍機油中の水分は、冷凍機油を加水分解劣化させ、これによってクランクシャフト14と軸受28,33との間の摩擦環境が悪化する。特に、冷媒としてR744,R410A,R407C,R134a,R600a,R290を使用した場合に用いられる冷凍機油は、水分を取り込みやすく、取り込まれた水分によって加水分解されやすい。そこで、冷凍機油中の水分は1?1000ppmとすることが好ましく、1?500ppmとすることがより好ましい。なお、冷凍機油中の水分が1ppm未満であることは極めて好ましいが、現実的に、冷凍機油中の水分を1ppm未満とすることには、多大な労力が必要となる。」
イ 周知技術について
周知文献Aには、冷凍機油としてポリビニルエーテルが記載され、当該冷凍機油は、「本願ポリビニル系化合物」の範疇に属する化合物を、単独で使用することを予定したものであることが分かる(【請求項1】、【0049】、【0090】?【0095】)。そして、当該冷凍機油につき、【0074】には、「本発明の冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、最も好ましくは200ppm以下とすることができる。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。」と記載され、実際に、実施例において、水分量を100ppm以下に調整したものが、熱・化学的安定性の評価試験に供されている(【0094】)。
また、周知文献Bには、冷凍機油として、ポリビニルエーテル油などが挙げられているところ(【請求項6】、【0032】)、当該冷凍機油中の水分濃度につき、【請求項7】には、1ppm以上1000ppm以下との数値範囲が示され、その理由につき、【0033】には、「冷凍機油中の水分は、冷凍機油を加水分解劣化させ、これによってクランクシャフト14と軸受28,33との間の摩擦環境が悪化する。特に、冷媒としてR744,R410A,R407C,R134a,R600a,R290を使用した場合に用いられる冷凍機油は、水分を取り込みやすく、取り込まれた水分によって加水分解されやすい。そこで、冷凍機油中の水分は1?1000ppmとすることが好ましく、1?500ppmとすることがより好ましい。なお、冷凍機油中の水分が1ppm未満であることは極めて好ましいが、現実的に、冷凍機油中の水分を1ppm未満とすることには、多大な労力が必要となる。」と記載されている。
これらの記載を斟酌すると、一般に、ポリビニルエーテルなどの冷凍機用潤滑油(冷凍機油)の基油中の水分は、当該潤滑油の熱・化学的安定性、電気絶縁性などへの影響の観点から、その含有量が少ないことが求められており、当該水分含有量を300ppm以下に規制することも普通に行われていると解するのが相当である。
(2) 相違点1の検討
上記(1)において整理したとおり、一般的な要請事項として、冷凍機用潤滑油の基油中の水分は、当該潤滑油の熱・化学的安定性、電気絶縁性などへの影響の観点から、その含有量が少ないことが求められており、それに対する一般的な対処手段として、当該水分含有量を300ppm以下に規制することも普通に行われていることに照らすと、引用発明1の潤滑油において、基油として機能するポリビニルエーテル系化合物(本願発明における「本願ポリビニル系化合物」及び「含酸素有機化合物」に相当するもの)中の水分含有量を、300ppm以下程度とすることは、上記の一般的な要請事項・対処手段に従った、当業者として当然の配慮の結果というほかなく、この点に格別の困難性を見いだすことはできない。
そして、本願明細書に記載された実施例等から看取できる、本願発明の上記相違点1に係る水分含有量の規定により奏される効果は、上記引用発明1あるいは周知技術が予想し期待する程度の、熱安定性に関連する定性的なものであって、特に、「水分含有量300質量ppm以下」という数値範囲における定量的な効果(引用発明1あるいは周知技術からは予測し得ないような量的な効果)を認めることもできない。
したがって、上記相違点1に係る本願発明の技術的事項は、上記周知技術を熟知する当業者が容易に想到し得る事項というべきである。

5 相違点2について
引用発明1の「ハイドロフルオロカーボン系冷媒」は、「1,1,1,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン及び1,1,1-トリフルオロエタンの中から選ばれた少なくとも一種」であるから、ジフルオロメタン、すなわち、R32を一種のみ(単独で)選択することを許容するものであり、当該R32単独冷媒の場合を予定したものと解するのが相当である。このことは、刊行物1の【0045】に記載された、「このハイドロフルオロカーボン系冷媒としては、例えば1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a),ジフルオロメタン(R32),ペンタフルオロエタン(R125)及び1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)が好ましく、これらは単独で用いてもよく」との記載、さらには、同刊行物1の実施例において、各種ポリビニルエーテル系化合物と単独冷媒(R134a、R32、または、R125)との相溶性につき検討され、実際、【0052】、【0061】及び【0069】の【表9】(第2表-6)には、R32単独冷媒との相溶性についての記載が認められることからも明らかである。
また、仮に、刊行物1に、R32単独冷媒についての実質的な開示がないとしても、当該R32単独冷媒は、選択肢の一つとして記載されているのであるから、これを採用することに格別の困難性は認められない。
そうすると、当該相違点2は、実質的なものではないか、仮に実質的なものであるとして、当該相違点2に係る本願発明の技術的事項は、当業者が刊行物1の記載から容易に想到し得るものにすぎない。

6 審判請求人の主張について
(1) 平成29年3月17日提出の意見書における、審判請求人の主張は、おおむね、次の2点に集約することができる。
ア 本願発明の課題・効果(「水分含有量300質量ppm以下」の臨界的意義)について
本願発明は、単に熱・酸化安定性に優れる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物を提供することのみならず、従来の混合冷媒よりも圧縮機の吐出温度が高いという、特有の課題を有するR32を、長時間過酷な条件下で冷媒として単独使用する技術を実用化できる圧縮型冷凍機用潤滑油組成物を提供することを技術課題とし、その解決手段として、水分含有量が300質量ppm以下である特定の含酸素有機化合物からなる基油を使用した圧縮型冷凍機用潤滑油組成物を用いることを見いだしたものである。そして、当該「水分含有量300質量ppm以下」には、過酷な条件下において、R32を冷媒として単独使用する技術を実用化できる水分含有量の上限値を見いだしたという臨界的意義がある(同意見書の「3-2-2」、「3-2-3」)。
イ 刊行物1における「R32単独冷媒」に関する記載と動機付けについて
刊行物1の【0004】、【0005】、【0007】、【0009】、【0072】には、R32を単独で使用する態様に問題点があることが明記されており、しかも、同刊行物1は、その問題点を、R32を他の冷媒との混合物にする方法によって解決する手段を開示するものであり、基油の構成によって解決する手段については記載がない。したがって、本願発明のように、地球温暖化防止の観点からR32を冷媒として単独使用することを目的とする当業者が、多数存在する基油の中から、R32に問題点があると述べた上で、その解決手段としてR32を他の冷媒との混合物にする方法のみを開示する刊行物1に記載されている基油に注目する動機は存在せず、当該基油を採用した上で、さらに水分含有量を調整し、本願発明の優れた効果、すなわち「従来の混合冷媒よりも圧縮機の吐出温度が高いという特有の課題を有するR32を、長時間過酷な条件下で冷媒として単独使用する技術を実用化できる」という効果を見いだすことは容易ではない(同意見書の「3-2-4」)。
(2) 上記主張についての検討
ア 主張アについて
審判請求人が主張する上記効果は、本願明細書に記載されたものとはいえず、また、上記刊行物1あるいは周知文献の記載から予測可能な事項というべきである。その理由は、次のとおりである。
本願発明が水分含有量を規定した理由につき、本願明細書には、次のように記載されている。
「【0012】
<基油>
本発明に用いる基油は、水分含有量が500質量ppm以下の含酸素有機化合物である。
水分含有量が500質量ppmを超える含酸素有機化合物を基油として用いると、冷凍機油の熱、化学安定性が低下し、同時に冷媒も変質劣化するため、良好な冷凍システムの作動が行えなくなる恐れがある。すなわち冷媒と冷凍機用潤滑油組成物とで形成される、いわば冷凍機流体組成物が、早期に劣化、変質することになる。
したがって、含酸素有機化合物の水分含有量は300質量ppm以下であることが好ましく、200質量ppm以下であることがより好ましく、100質量ppm以下であることが特に好ましい。」
そうすると、審判請求人が主張する、R32単独冷媒特有の課題と「水分含有量300質量ppm以下」という発明特定事項との因果関係については、本願明細書に何ら記載されていないといわざるを得ない。むしろ、本願明細書の【0111】の【表2】に掲載された、「PVE-A3」(水分含有量500質量ppm)の基油を用いた実施例3は、R32単独冷媒と水分含有量が300質量ppmを超える基油との組合せであっても、油外観などの熱安定性試験の結果が良好であることを示しているのであって、このことからも、当該因果関係を、本願明細書の記載から理解することは到底できない。また、上記平成29年3月17日提出の意見書において、上記臨界的意義の根拠として記載された追加実験についてみても、当該実験の温度条件(220℃)が、本願明細書に記載された実施例の温度条件(200℃)よりも、苛酷なものであることは理解できるものの、R32単独冷媒を使用した時の圧縮機の吐出温度(すなわち審判請求人が主張するR32単独冷媒特有の課題)との関係性(上記因果関係)までを理解することができるほどのものではない。その上、そもそも、このような苛酷な温度条件下での実験結果は、本願明細書に何ら記載されていないのであるから、審判請求人が主張する本願発明の効果は、本願明細書の記載に基づくものとは言い難い。
しがたって、当該主張アに、採用すべき理由は見当たらない。
イ 主張イについて
当該主張イは、結局、刊行物1には、R32単独冷媒についての開示がないとの主張に帰着するところ、上記「第5 3(1)」のとおり、刊行物1がR32単独冷媒を予定するものであることは明らかであるし、審判請求人が当該主張の根拠としている刊行物1の【0004】、【0007】等の記載は、R32に関する一般的な短所、及び、当該短所を踏まえ、R22の代替冷媒としてR407Cなどの混合冷媒が使用されてきた経緯について説明するものであって、R32単独冷媒での使用を排除することを意図したものとは認められない。
したがって、当該主張イは的を射たものとはいえず、採用できない。

7 小括
上記のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 刊行物2を主引例とする場合の進歩性の判断

1 刊行物2の記載事項
刊行物2には、次の記載がある。
・「【請求項1】 一般式(I)
【化1】

(式中、R^(1) ,R^(2) 及びR^(3) はそれぞれ水素原子又は炭素数1?8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R^(4) は炭素数2?10の二価の炭化水素基、R^(5) は炭素数1?10の炭化水素基、mはその平均値が0?10の数を示し、R^(1) ?R^(5) は構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またR^(4) Oが複数ある場合には複数のR^(4) Oは同一であっても異なっていてもよい。)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系化合物を主成分とする圧縮型冷凍機用潤滑油。」
・・・
【請求項13】 圧縮型冷凍機が、冷媒としてジフルオロメタンを用いたものである請求項1?9のいずれかに記載の潤滑油。」
・「【0027】・・・本発明の冷凍機用潤滑油は、上記ポリビニルエーテル系化合物を単独で用いてもよく、又二種以上組み合わせて用いてもよい。更に、他の潤滑油と混合して用いることもできる。
【0028】また、本発明の冷凍機用潤滑油には、従来の潤滑油に使用されている各種添加剤、例えば耐荷重添加剤,塩素捕捉剤,酸化防止剤,金属不活性化剤,消泡剤,清浄分散剤,粘度指数向上剤,油性剤,耐摩耗添加剤,極圧剤,防錆剤,腐食防止剤,流動点降下剤などを所望に応じて添加することができる。・・・」
・「【0030】
【実施例】次に調製例,製造例,実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
・・・・
【0035】製造例3
・・・・NMR,IR測定の結果、ポリマーの末端構造の一方が(A)であり、もう一方が(B)と(C)の混合物であった。
【0036】
【化13】

【0037】製造例4
滴下ロート,冷却管および攪拌機を取り付けた5リットルガラス製フラスコにトルエン1000g,アセトアルデヒドジエチルアセタール500gおよび三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体5.0gを入れた。滴下ロートにエチルビニルエーテル2500gを入れ2時間30分で滴下した。この間反応が開始し、反応液の温度が上昇した。氷水浴で冷却しながら約25℃に保った。滴下終了後5分間攪拌した。反応混合物を洗浄槽に移し、5wt%水酸化ナトリウム水溶液1000ミリリットルで3回洗浄し、さらに、水1000ミリリットルで3回洗浄した。ロータリーエバポレーターを用い減圧下溶媒および未反応原料を除去し粗製品を2833gを得た。SUS-316L製2リットルオートクレーブに粗製品600g,ヘキサン600g,ラネーニッケル60gおよびゼオライト60gを入れた。オートクレーブ内に水素を導入し、水素圧20kg/cm^(2) とし、約30秒間攪拌した後脱圧した。再びオートクレーブ内に水素を導入し、水素圧20kg/cm^(2) とし、約30秒間攪拌した後脱圧した。この操作をさらに一回行った後、水素圧を50kg/cm^(2) とし攪拌しながら30分で130℃に昇温した。130℃で1時間反応した。昇温中及び昇温後反応が起こり、水素圧の減少が認められた。なお、昇温に伴う圧力の増加、反応に伴う圧力の減少は適時減圧,加圧して水素圧を50kg/cm^(2) とし反応を行った。反応終了後室温まで冷却し常圧まで減圧した。1時間静置し触媒を沈降させ反応液をデカンテーションで除いた。触媒をヘキサン100ミリリットルで2回洗浄し、洗浄液は反応液と合わせ、ろ紙を用いてろ過を行った。洗浄槽に移し、5wt%水酸化ナトリウム水溶液500ミリリットルで3回洗浄、次いで蒸留水500ミリリットルで5回洗浄した。ロータリーエバポレーターを用い減圧下、ヘキサン,水分等を除去した。収量は468gであった。NMR,IR測定の結果、ポリマーの末端構造の一方は大部分が(C)であった。また、少量の末端が(D)であることが確認された。
【0038】
【化14】

・・・・
【0052】製造例14
滴下ロート,冷却管および攪拌機を取り付けた5リットルガラス製フラスコにトルエン1000g,アセトアルデヒドジエチルアセタール500gおよび三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体5.0gを入れた。滴下ロートにエチルビニルエーテル2700gを入れ3時間で滴下した。反応熱により、反応液の温度が上昇するが、氷水浴で冷却しながら約25℃に保った。滴下終了後5分間攪拌した。反応混合物を洗浄槽に移し、5wt%水酸化ナトリウム水溶液1000ミリリットルで3回洗浄し、さらに、水1000ミリリットルで3回洗浄した。ロータリーエバポレーターを用い減圧下溶媒および未反応原料を除去し粗製品を3040g得た。その組成物の40℃での粘度は42.1cStであった。SUS-316L製2リットルオートクレーブに粗製品600g,ヘキサン600g,ラネーニッケル18gおよびゼオライト18gを入れた。オートクレーブ内に水素を導入し、水素圧20kg/cm2 とし、約30秒間攪拌した後脱圧した。再びオートクレーブ内に水素を導入し、水素圧20kg/cm^(2) とし、約30秒間攪拌した後脱圧した。この操作をさらに一回行った後、水素圧を50kg/cm^(2) とし攪拌しながら30分で140℃に昇温した。140℃で2時間反応した。昇温中及び昇温後反応が起こり、水素圧の減少が認められた。なお、昇温に伴う圧力の増加、反応に伴う圧力の減少は適時減圧,加圧して水素圧を50kg/cm^(2) とし反応を行った。反応終了後室温まで冷却し常圧まで減圧した。1時間静置し触媒を沈降させ反応液をデカンテーションで除いた。触媒をヘキサン100ミリリットルで2回洗浄し洗浄液は反応液と合わせ、濾紙を用いて濾過を行った。洗浄槽に移し、5wt%水酸化ナトリウム水溶液500ミリリットルで3回洗浄、次いで蒸留水500ミリリットルで5回洗浄した。ロータリーエバポレーターを用い減圧下、ヘキサン,水分等を除去した。収量は495gであった。ポリマーの末端構造は製造例4と同様であった。
【0053】製造例15
滴下ロート,冷却管および攪拌機を取り付けた5リットルガラス製フラスコにトルエン1000g,アセトアルデヒドジエチルアセタール450gおよび三フッ化硼素ジエチルエーテル錯体4.5gを入れた。滴下ロートにエチルビニルエーテル3200gを入れ4時間10分で滴下した。反応熱により、反応液の温度が上昇するが、氷水浴で冷却しながら約25℃に保った。滴下終了後5分間攪拌した。反応混合物を洗浄槽に移し、5wt%水酸化ナトリウム水溶液1000ミリリットルで3回洗浄し、さらに、水1000ミリリットルで3回洗浄した。ロータリーエバポレーターを用い減圧下溶媒および未反応原料を除去し粗製品を3466g得た。その粗製品の40℃での粘度は76.1cStであった。SUS-316L製2リットルに粗製品600g,ヘキサン600g,ラネーニッケル18gおよびゼオライト18gを入れた。オートクレーブ内に水素を導入し、水素圧20kg/cm^(2) とし、約30秒間攪拌した後脱圧した。再びオートクレーブ内に水素を導入し、水素圧20kg/cm^(2) とし、約30秒間攪拌した後脱圧した。この操作をさらに一回行った後、水素圧を50kg/cm^(2) とし攪拌しながら30分で140℃に昇温した。140℃で2時間反応した。昇温中及び昇温後反応が起こり、水素圧の減少が認められた。なお、昇温に伴う圧力の増加、反応に伴う圧力の減少は適時減圧,加圧して水素圧を50kg/cm^(2) とし反応を行った。反応終了後室温まで冷却し常圧まで減圧した。1時間静置し触媒を沈降させ反応液をデカンテーションで除いた。触媒をヘキサン100ミリリットルで2回洗浄し洗浄液は反応液と合わせ、濾紙を用いて濾過を行った。洗浄槽に移し、5wt%水酸化ナトリウム水溶液500ミリリットルで3回洗浄、次いで蒸留水500ミリリットルで5回洗浄した。ロータリーエバポレーターを用い減圧下、ヘキサン,水分等を除去した。収量は498gであった。ポリマーの末端構造は製造例4と同様であった。
・・・・
【0055】実施例1
製造例1で生成した本発明の潤滑油を用いて、動粘度,フロン134aとの相溶性,体積固有抵抗,加水分解安定性を測定した。得られた結果を第1表に示す。なお、各測定条件は次の通りである。
○1動粘度
JIS K2283-1983に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
○2相溶性
(a) フロン134a
1,1,1,2-テトラフルオロエタン(フロン134a)に対し、5重量%および10重量%となるように所定量の試料を耐圧ガラスアンプルに加え、これを真空配管およびフロン134aガス配管に接続した。アンプルを室温で真空脱気後、液体窒素で冷却して所定量のフロン134aを採取した。次いで、アンプルを封じ、恒温槽中で低温側の相溶性については室温から-60℃まで徐々に冷却することで、一方、高温側の相溶性については室温から+80℃まで徐々に加熱することで相分離が始まる温度を測定した。低温側では相分離温度が低いほど、また高温側では相分離温度が高いほど好ましい。
(b) フロン32
ジフルオロメタン(フロン32)に対し、10重量%および20重量%となるように所定量の試料を耐圧ガラスアンプルに加え、これを真空配管およびフロン32ガス配管に接続した。アンプルを室温で真空脱気後、液体窒素で冷却して所定量のフロン32を採取した。次いで、アンプルを封じ、恒温槽中で低温側の相溶性については室温から徐々に冷却することで、一方、高温側の相溶性については室温から+40℃まで徐々に加熱することで相分離が始まる温度を測定した。低温側では相分離温度が低いほど、また高温側では相分離温度が高いほど好ましい。
・・・・
【0056】実施例2?15
製造例2?15で生成した本発明の潤滑油を用いて、実施例1と同様にして動粘度,フロン134aとの相溶性,体積固有抵抗,加水分解安定性を測定した。得られた結果を第1表に示す。なお、実施例14と15についてはフロン32との相溶性も測定した。その結果を第2表に示す。
・・・・
【0062】
【表3】



2 刊行物2記載の発明(引用発明2)
(1) 刊行物2の【請求項1】及び【請求項13】の記載から、同刊行物には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「一般式(I)
【化1】

(式中、R^(1) ,R^(2) 及びR^(3) はそれぞれ水素原子又は炭素数1?8の炭化水素基を示し、それらはたがいに同一であっても異なっていてもよく、R^(4) は炭素数2?10の二価の炭化水素基、R^(5 )は炭素数1?10の炭化水素基、mはその平均値が0?10の数を示し、R^(1) ?R^(5) は構成単位毎に同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、またR^(4) Oが複数ある場合には複数のR^(4) Oは同一であっても異なっていてもよい。)で表される構成単位を有するポリビニルエーテル系化合物を主成分とする、ジフルオロメタンである冷媒用の圧縮型冷凍機用潤滑油。」

3 本願発明と引用発明2との対比
引用発明2におけるポリビニルエーテル系化合物は、本願発明における「本願ポリビニル系化合物」に含まれる化合物を予定するものであり、実際、刊行物2の【0062】の【表3】(第2表)において、フロン32(ジフルオロメタン、R32)との相溶性の試験が行われた実施例14、15のポリビニルエーテル系化合物(製造例14、15により製造されたもの)は、【0052】、【0053】の記載によると、エチルビニルエーテルを構成単位とするものと理解できるから、本願発明における「本願ポリビニル系化合物」に相当するものを内包することは明らかである。また、当該ポリビニルエーテル系化合物は、潤滑油(潤滑油組成物)の基油として機能するものであり、その単独使用も想定されていること(【0027】)が分かる。
そうすると、引用発明2の潤滑油は、「本願ポリビニル系化合物」(含酸素有機化合物)に相当するポリビニルエーテル系化合物からなる基油を含むものと認められるから、本願発明とは、次の点で相違し、その余の点では一致するといえる。
・相違点3:本願発明は、「基油が、水分含有量が300質量ppm以下である含酸素有機化合物からなり」と特定されているのに対して、引用発明2は、当該水分含有量に関する特定がない点。

4 相違点3について
上記相違点3は、上記相違点1と実質的に同じであるから、上記「第5 4」において説示したのと同様の理由により、当該相違点3に係る本願発明の技術的事項は、当業者が容易に想到し得る事項というべきである。

5 小括
上記のとおり、本願発明は、引用発明2及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得るものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第7 むすび

以上のとおりであるから、本願発明、すなわち本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-26 
結審通知日 2017-06-27 
審決日 2017-07-10 
出願番号 特願2011-147788(P2011-147788)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 國島 明弘
日比野 隆治
発明の名称 圧縮型冷凍機用潤滑油組成物  
代理人 大谷 保  

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