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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1331853
審判番号 不服2016-2870  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-26 
確定日 2017-08-24 
事件の表示 特願2014-172639「光触媒を用いた光水分解反応用電極」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日出願公開、特開2014-223629〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成21年12月24日に出願された特願2009-293304号(以下「原出願」という。)の一部を平成26年8月27日に新たな特許出願としたものであって、平成27年4月14日付けで拒絶理由が通知され、同年6月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月17日付けで拒絶理由が通知され、同年10月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年11月24日付けで平成27年10月22日付け手続補正書でした補正について補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定がされ、これに対し、平成28年2月26日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、平成29年3月1日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年5月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明

本願の請求項1に係る発明は、平成29年5月2日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された下記の事項により特定されるものである。

「光触媒粒子を構成する光触媒として、オキシナイトライド、ナイトライド、オキシサルファイド、および、サルファイドからなる群から選ばれる1種以上が支持体上に堆積されてなる電極であって、
前記光触媒粒子のそれぞれの周囲、ならびに、前記光触媒粒子および前記支持体間に半導体または良導体を有し、且つ、
前記半導体または良導体が、TiN、TiO_(2)、Ta_(3)N_(5)、TaON、ZnO、SnO_(2)、ITO、Ag、Au、C、Cu、Cd、Co、Cr、Fe、Ga、Ge、Hg、Ir、In、Mn、Mo、Ni、Nb、Pb、Ru、Re、Rh、Sn、Sb、Ta、Ti、V、W、並びに、これらの合金および混合物から選ばれるいずれかであり、
前記支持体の形状が、パンチングメタル状、メッシュ状、格子状、または、貫通した細孔を持つ多孔体のいずれかであることを特徴とする、
光水分解反応用電極。」(以下、「本願発明1」という。)

第3.当審における拒絶理由の概要

平成29年3月1日付けの当審からの拒絶理由は、
「2)本件出願の請求項1-6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
という理由を含むものである。

引用例1:Ryu Abe, et al., "The Use of TiCl_(4) Treatment to Enhance the Photocurrent in a TaON Photoelectrode under Visible Light Irradiation", Chemistry Letters, Vol. 34, No. 8, 2005.08, p. 1162-1163
周知例6:特開2006-302695号公報

第4.本願発明に対する判断

1.引用例1の記載事項
引用例1には、次の記載がある。
(ア)「Photocatalytic water splitting into H_(2) and O_(2) by semiconductors has recieved much attention because of the potential of the technology for the production of clean H_(2) fuel from water using solar energy.」(1162頁左欄第8行-第11行)
(当審の訳:「半導体による水素と酸素への光触媒水分解は、太陽エネルギーからクリーンな水素燃料を生産するための技術の能力の高さから、多くの注目を受けている。」)
(イ)「The present authors have recently reported several stable nonoxide photocatalysts, (oxy)nitrides and oxysulfides, as potential candidates for visible-light-induced water splitting.」(1162頁左欄第11行-第14行)
(当審の訳:「筆者は近年、可視光で水分解を可能とする候補物質として、(酸)窒化物や酸硫化物といった、いくつかの安定な非酸化物光触媒の報告を行ってきた。」)
(ウ)「For example, oxynitride TaON with a band gap of 2.5eV (adsorption edge at 500nm) has conduction and valence band edges of ca. -0.3 and +2.2V vs NHE(pH 0), respectively, sufficient for overall water splitting into H_(2) and O_(2). (Oxy)nitride materials such as TaON are expected to be applicable, not only as photocatalysts, but also as visible-light-driven photoelectrodes.」(1162頁左欄第17行-第23行)
(当審の訳:「例えば、バンドギャップが2.5eV(吸収端が500nm)の酸窒化物であるTaONは、標準水素電極と比較して、水の水素と酸素への分解に十分な、それぞれ約-0.3V及び+2.2Vの伝導帯及び価電子帯のバンド端を有する。TaONのような(酸)窒化物材料は、光触媒としてのみならず、可視光で駆動可能な光電極としても利用可能であることが期待される。)
(エ)「The present paper reports the preperation of a porous TaON photoelectrode on a conducting glass support. We found that the photocurrent in the porous TaON photoelectrode was significantly increased by TiCl_(4) treatment. The fine TiO_(2) particles that formed between the TaON particles possibly improved the electron transfer within the porous electrode, resulting in the increased photocurrent.」(1162頁左欄第28行-第34行)
(当審の訳:「この論文では、導電性ガラス支持体上に調整された、多孔質のTaON光電極の報告を行う。我々は、多孔質のTaON光電極中を流れる光電流が、TiCl_(4)処理により大幅に増加することを発見した。TaONの粒子間に形成された微細なTiO_(2)粒子が、多孔質の電極内での電子の移動度の向上を可能とし、その結果、光電流が増加する。」)
(オ)「A porous electrode was prepared by spreading a viscous slurry of TaON particles on a glass plate coated with transparent conducting oxide (TCO, F-doped SnO_(2), Nippon Sheet Glass Co., 8-10Ω/sq, transparency 80%). ・・・The TiCl_(4) treatment was carried out as follows. The prepared electrode was immersed into a 1mM aqueous TiCl_(4) solution and kept at room temperature for 15h in darkness. The TiCl_(4)aq was prepared at 0℃ to prevent precipitation of TiO_(2). It was then washed with distilled water, and heated in air or N_(2) at 400℃ for 30min.」(1162頁左欄第36行-第47行)
(当審の訳:「多孔質の電極は、透明導電膜(TCO、フッ素ドープSnO_(2)、(株)日本板硝子、8-10Ω/□、透過率80%)が塗布されたガラス板に、TaON粒子の粘性のあるスラリーを広げることによって調整した。・・・TiCl_(4)処理は、以下のように行われた。調整された電極は、1mMのTiCl_(4)水溶液に浸漬され、室温で暗所に15時間保持された。TiCl_(4)水溶液は、TiO_(2)の沈殿を防ぐため、0℃で調整された。そして、蒸留水で洗浄され、大気又はN_(2)雰囲気で400℃30分加熱された。」)

2.引用発明1の認定
記載事項(エ)によれば、引用例1には、導電性ガラス支持体上に調整された、多孔質のTaON光電極において、TaONの粒子間に、TiO_(2)からなる微細な粒子が形成されることにより、多孔質の電極内での電子の移動度が向上し、光電流が増加することが記載されている。
記載事項(ア)-(ウ)によれば、引用例1には、TaONは、可視光で水素と酸素への水分解を可能とする光触媒であることが記載されている。
したがって、引用例1には、
「光触媒粒子を構成する光触媒として、TaONが導電性ガラス支持体上に調整されてなる電極であって、前記光触媒粒子の間に、TiO_(2)が形成された光触媒水分解反応用の電極。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

3.本願発明1と引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「TaON」、「導電性ガラス支持体」、「調整」、「が形成された」、「光触媒水分解用の電極」は、それぞれ、本願発明1の「オキシナイトライド」、「支持体」、「堆積」、「を有し」、「光水分解反応用電極」に相当する。
引用発明1は、記載事項(エ)のとおり「TiO_(2)」が存在することにより、「電極内での電子の移動度が向上し、光電流が増加する」ものであるから、引用発明1の「TiO_(2)」は、本願発明1の「半導体または良導体」に相当し、また引用発明1の「TiO_(2)」は、「光触媒粒子の間」に存在することから、本願発明1と同様に、「光触媒粒子のそれぞれの周囲」に存在するものであるといえる。
よって、本願発明1と引用発明1とは、
「光触媒粒子を構成する光触媒として、オキシナイトライドが支持体上に堆積されてなる電極であって、
前記光触媒粒子のそれぞれの周囲に、半導体または良導体を有し、且つ、
前記半導体または良導体が、TiO_(2)である、
光水分解反応用電極。」である点で一致し、下記(相違点1)、(相違点2)で相違する。

(相違点1)
本願発明1の「半導体または良導体」は、「前記光触媒粒子のそれぞれの周囲」に加えて、「前記光触媒粒子および前記支持体間」にも存在するのに対し、引用発明1の「TiO_(2)」は、「光触媒粒子」と「導電性ガラス支持体」との間に存在するか不明である点。

(相違点2)
本願発明1の「支持体」は、形状が「パンチングメタル状、メッシュ状、格子状、または、貫通した細孔を持つ多孔体のいずれかである」のに対し、引用発明1の「導電性ガラス支持体」は、形状が板状である点。

4.相違点についての判断
(相違点1)について
引用例1の記載事項(オ)によれば、引用発明1では、「導電性ガラス支持体」に「TaONの粒子」が調整された後で、TiCl_(4)水溶液への浸漬及び加熱処理を含む「TiCl_(4)処理」により、「TiO_(2)からなる微細な粒子」が形成されるものである。
そして、TiCl_(4)水溶液を浸漬によって導入させれば、TaON粒子によって形成されたいずれの空隙にもTiCl_(4)が導入されるものであり、TaON粒子と導電性ガラス支持体との間の空隙にもその一部は導入されるものと解するのが自然である。
そうすると、形成される「TiO_(2)からなる微細な粒子」は、「光触媒粒子の間」に加えて、「光触媒粒子」と「導電性ガラス支持体」との間にも形成されるといえるから、(相違点1)は実質的な相違点といえない。
仮に(相違点1)が実質的な相違点であるとしても、「電極内での電子の移動度」を向上させ、「光電流」を増加することは周知の技術課題であるところ、そのためには、「TaONの粒子の間」の電気抵抗に加え、「TaONの粒子」と「導電性ガラス支持体」との間の電気抵抗を低減する必要があることは技術常識であるから、引用発明1において、「TaONの粒子」と「導電性ガラス支持体」との間にも、「電極内での電子の移動度」を向上させ、「光電流」を増加する「TiO_(2)からなる微細な粒子」を存在させることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(相違点2)について
周知例6の請求項1、段落【0004】、【0019】、【0020】、【0063】及び図2等に記載されているように、光触媒粒子を堆積する光水分解反応用電極の支持体として、「チタン多孔質膜」や「パンチ穴の空いた導電体」は周知慣用のものにすぎない。
そして、引用発明1の支持体として周知の材料を選択し、「チタン多孔質膜」や「パンチ穴の空いた導電体」とすることは、当業者が容易になし得ることである。

5.本願発明1の効果について
本願明細書の段落【0021】の「本発明によれば、支持体(20)上に光触媒粒子(10)を堆積した光水分解反応用電極において、光触媒粒子(10)の周囲に半導体または良導体(30)を有するものとすることによって電極の内部抵抗を低下させ、光電変換効率を向上させることができる。本発明によれば、光照射によって光触媒内部に生じた電子と正孔のうち、電子を半導体または良導体(30)へ誘導することによって再結合を抑制し、光電変換効率を向上させることができる。」等の記載からみて、本願発明1は、光電変化効率を向上させるという効果を奏するものと認められる。
しかしながら、引用発明1も記載事項(エ)にあるように光電流が増加していることから、光電変換効率が向上しているものである。
よって、本願発明1によって奏される効果は引用発明1及び周知技術等から、当業者が予測し得たものであって、顕著な効果とはいえない。

6.小括
以上のとおり、相違点1は実質的に相違点でないか、そうでないとしても当業者が容易に想到し得たものであり、相違点2は周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものであって、本願発明1による効果は、当業者が予測し得たものであって、顕著な効果といえないものである。
したがって、本願発明1は、引用発明1及び、周知例6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5.請求人の主張について
請求人は平成29年5月2日付けで提出された、当審拒絶理由に対する意見書にて、下記の主張をしているので、以下検討する。

「3.2.拒絶理由2について
本発明によれば、光触媒粒子それぞれの周囲、ならびに、光触媒粒子および支持体間に半導体または良導体が均一に配置されることから、光水分解反応速度を一層増大させることができます。以下、説明いたします。
本願や引用例1、2では、半導体または良導体の前駆体を浸漬、乾燥することによって電極を得ておりますが、仮に支持体が引用例1、2のようなガラス支持体であった場合、乾燥時、溶質である前駆体が乾燥する溶媒に引っ張られて、光触媒粒子層の表面近傍に集中してしまいます。これは支持体の表面側からしか乾燥できない場合に不可避な課題であり、繰り返し浸漬、乾燥を繰り返しても、不均一な状態を改善することは容易ではありません。よって、引用例1、2に開示された電極においては、「光触媒粒子層の表面側(支持体とは反対側)」に半導体または良導体を優先的に配置することができますが、光触媒粒子層と支持体との間にまで均一に半導体または良導体を配置することは困難と考えられます。
一方で、本発明のように、支持体をパンチングメタル状、メッシュ状、格子状、または、貫通した細孔を持つ多孔体のいずれかの形状とした場合、溶媒は支持体の表面側からだけでなく内部側(裏面側)からも乾燥していくことから、溶質が光触媒粒子層の表面側のみに集中することが低減され、光触媒粒子層の表面、内部及び支持体の表面にまで、溶質が行き渡ることとなります。結果として、光触媒粒子それぞれの周囲だけでなく、光触媒粒子および支持体間にまで半導体または良導体を均一に配置することが可能となり、電極の内部抵抗がより低くなり、光電変換効率をより向上させることができます。
このような所定の形状の支持体を採用することによる効果につきまして、引用例1、2及び周知例3?6には記載されておりません。
以上の通り、本発明は、引用例1、2には記載されていない構成を備えることで、引用例1、2及び周知例3?6からは予測できない特有の効果を奏するものといえます。この点、引用例1、2及び周知例3?6に記載された発明から本発明に容易に想到し得たことの論理付けはできず、拒絶理由2は補正によって解消されたものと思料いたします。」

上記の主張について検討すると、「第4.4.(相違点2)について」にも記載したとおり、引用発明1は、支持体が導電性ガラス基板であるものの、周知例6に記載されているように、光触媒粒子を堆積する光水分解反応用電極の支持体として、「チタン多孔質膜」や「パンチ穴の空いた導電体」は周知の材料に過ぎない。(なお、さらに、周知例を例示するならば、周知例7:特開2003-251352号公報の段落【0009】、【0015】及び図3等、周知例8:特開2001-286749号公報の請求項4,6、段落【0026】、【0027】及び図1等にも、光触媒粒子を堆積する光水分解反応用電極の支持体として、「ステンレスメッシュ」や「貫通細孔を多数形成したチタン」が記載されており、これらも周知のものに過ぎない。)
してみれば、引用発明1の支持体として周知の材料を選択し、「チタン多孔質膜」や「パンチ穴の空いた導電体」を選択することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0035】には、「生成イオンを対極に迅速に輸送する必要がある点から、パンチングメタル状、メッシュ状、格子状、または、貫通した細孔を持つ多孔体のいずれかであることが好ましい」と記載されているのみで、請求人の主張するような効果についての記載は何らされていないし、実施例においてはメッシュを用いた例について、光電流密度に関するデータ等は開示されているものの、上記の請求人の主張するような効果を明確に確認できるものではない。
よって、本件明細書を参照しても、請求人の主張する効果を認めることはできない。
また、仮に、請求人が主張するように、乾燥時に溶媒に引っ張られて、半導体または良導体が表面近傍に集中することが起こるとしたとしても、そもそも、本願発明1は、半導体または良導体が支持体間にまで「均一」に配置されることを特定するものではないし、「第4.4.(相違点1)について」に記載したように、引用発明1でも、その一部は、そのような配置となっていると解するのが自然である。
よって、上記の主張は採用できない。
したがって、当該意見書の主張は採用できないから、「第4.4.」で判断したとおり、本願発明1は、引用発明1及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明1は、本願の優先日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明及び拒絶理由について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-23 
結審通知日 2017-06-27 
審決日 2017-07-11 
出願番号 特願2014-172639(P2014-172639)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森坂 英昭武重 竜男田中 則充  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 山崎 直也
後藤 政博
発明の名称 光触媒を用いた光水分解反応用電極  
代理人 山本 典輝  
代理人 山本 典輝  

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