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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B |
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管理番号 | 1331915 |
審判番号 | 不服2016-10878 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-07-19 |
確定日 | 2017-09-19 |
事件の表示 | 特願2016-29347「採光シート,採光装置,及び建物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年8月18日出願公開,特開2016-148853,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 出願及び手続の経緯 特願2016-29347号(以下「本件出願」という。)は,特許法44条1項の規定による特許出願であり,平成28年2月18日に,特願2015-28042号の一部を新たな特許出願としたものである。ここで,上記特願2015-28042号もまた,同規定による特許出願であり,平成27年2月16日に,もとの特許出願(平成24年12月19日に出願された特願2012-277478号)の一部を新たな特許出願としたものである。 本件出願は,同法同条2項の規定により,もとの特許出願の出願時にしたものとみなされる。 本件出願の,その後の手続の経緯は,概略,以下のとおりである。 平成28年 3月15日付け:拒絶理由通知書 平成28年 4月21日付け:意見書 平成28年 4月21日付け:手続補正書 平成28年 5月11日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 平成28年 7月19日付け:審判請求書 平成28年 7月19日付け:手続補正書 (以下,この手続補正書による補正を,「本件補正」という。) 2 本願発明 本件出願の請求項1から請求項4までに係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1から請求項4までに記載されたとおりの,以下のものである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「【請求項1】 シート面が鉛直となるように建物開口部に配置されるシート状である採光シートであって, 透光性を有するシート状の基材層と, 前記基材層の一方の面に形成され,光を偏向する光偏向層と,を備え, 前記光偏向層は, 前記基材層の一方の面に沿って複数並べて配置された光を透過する光透過部と, 複数の前記光透過部間に配置され,該光透過部よりも低い屈折率の紫外線硬化型樹脂の組成物が充填された光偏向部と,を有し, 前記光透過部が配置された部位の前記光偏向層の表裏面は平行に形成されており, 前記採光シートが前記建物開口部に配置された姿勢で,前記光偏向部は前記採光シートの厚さ方向断面において,その上部となる側の辺が,複数の直線が連続した折れ線,又は曲線状で形成されており,前記上部となる側の辺は下に凸になるように形成され, 前記上部となる側の辺における前記下に凸は,前記上部となる側の辺のうち室外側における水平面に対する傾斜角が,室内側における水平面に対する傾斜角よりも大きく形成されており, 前記上部となる側の辺とは反対側の下部となる側の辺は,一直線状で前記上部となる側の辺とは非対称であるとともに,前記採光シートのシート面法線に対して0°以上30°以下であり, 前記上部となる側の辺と,前記下部となる側の辺との距離が,室内側に向かうにつれて小さくなるように構成されており, 前記上部となる側の辺と前記下部となる側の辺との間に形成される辺のうち,前記光透過部間の開口となる側の辺には凹部が設けられている採光シート。 【請求項2】 前記上部となる側の辺の前記室外側における前記傾斜角は0°以上23.1°以下,前記室内側における前記傾斜角は0°以上1.7°以下である,請求項1に記載の採光シート。 【請求項3】 透光性を有する板状のパネルと, 前記パネルの一方の面に貼付される請求項1又は2に記載の採光シートと, 少なくとも前記パネルの周囲を囲むように配置される枠と,を備える採光装置。 【請求項4】 壁に形成された開口部に請求項3に記載の採光装置が設置された建物。」 3 原査定の概要 原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。原査定において引用された文献は,以下のとおりである。 引用文献1:特開2010-259406号公報 引用文献2:特開2009-58658号公報 引用文献3:特開2012-220739号公報 引用文献4:特開2011-186370号公報 なお,原査定では,周知技術を示す文献として,国際公開第2011/129069号が挙げられている。 第2 当合議体の判断 1 引用文献1の記載及び引用発明 (1) 引用文献1の記載 本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には,以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 太陽光を建物内に取り入れる光取り入れ部に配置される太陽光取り入れ制御用の光制御シートであって,該シート全体が,太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部と,太陽光を吸収する光吸収材料からなる遮光部群とからなり,且つ,前記遮光部群は,シート内の一方向に,所定ピッチで,光吸収材料からなる遮光部を複数,配列させているものであることを特徴とする光制御シート。 …(省略)… 【請求項9】 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光制御シートを配していることを特徴とする建物。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は,太陽光を建物内に,主には温室内に,取り入れる光取り入れ部に用いられる太陽光取り入れ制御用の光制御シートと,該光制御シートを配している建物に関する。」 ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 …(省略)… 本発明はこれらに対応するもので,具体的には,太陽光を建物内に,主には温室内に,取り入れる光取り入れ部に配置される太陽光取り入れ制御用の光制御シートであって,夏季は室内への太陽光の取り込みを遮断し,冬季は太陽光の取り込みを可能とする,建物の側面,天窓用に適用でき,且つ,生産性がよく,製造費用の面でも問題がない,光制御シートを提供しようとするものである。」 エ 「【0017】 先ず,本発明の光制御シートの実施の形態の第1の例を,図1に基づいて説明する。 第1の例の光制御シート10は,太陽光を建物20内に取り入れる建物20の南側側面(側壁21とも言う)の窓部22に用いられる太陽光取り入れ制御用の光制御シートである。 そして,シート全体が,太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部11と,太陽光を吸収する光吸収材料からなる遮光部群とからなり,且つ,前記遮光部群は,シート10内の一方向に,所定ピッチで,光吸収材料からなる単位の遮光部12を複数,配列させているものである。 本例では,前記一方向に直交する方向に一次元に形成され,且つ,前記一方向における断面において,上底辺,下底辺をシート面に平行にする台形である単位の光透過性部11aを,複数,隣接して所定のピッチで配列するとともに,隣り合う前記台形の光透過部11a間の楔形部に前記光吸収材料が充填されて,単位の遮光部12を形成している。 尚,ここでの,「一次元に形成され,」は,先にも述べたように,断面形状が同じで直線状に形成されていることを意味する。 第1の例では,シート10の太陽光入射側に沿い底面12Sを有し,他面側に向けて先端を有しており,図1(a)に示す断面において,シート10内に,シート面10Sに沿い,所定の高さTa,ピッチPaに,光吸収材料からなる単位の遮光部12を複数,配列させている。 【0018】 光透過性部11は,太陽光が透過できる材料からなり,通常,電離放射線硬化性を有するエポキシアクリレートなどの材料にて構成されている。 遮光部12は,太陽光を吸収して遮光できる光吸収材料からなり,該光吸収材料としては,通常,市販の着色樹脂微粒子等の光吸収粒子を含むものを使用する。 尚,ここでは,「太陽光を吸収して遮光できる」とは,遮光部12の表面へ向かう太陽光は遮光部12にて吸収され,遮光部12の表面にて反射が起こらない,あるいは,実用レベルで反射光量が無視できる程度であることを意味している。」 (当合議体注:図1は以下の図である。) ![]() オ 「【0019】 次に,図1(c)に示すように光制御シート10が,建物20の南側の側壁21に沿い,窓22の外側に配された場合の,第1の例の光制御シートにおける太陽光の制御について,図3に基づいて,簡単に説明する。 ここでは,太陽光15の進行方向と水平方向とのなす角度をθとし,光制御シート10の光透過性部11に入射された際の屈折角をθ_(01)としている。 また,光制御シート10の楔形部12Aの高さ,ピッチ,底辺の幅を,それぞれ,Ta,Pa,Waとしている。 この場合,空気の屈折率をn_(1 ),前記光透過性部の屈折率をn_(2 )とすると,スネルの法則より, n_(1 )sinθ=n_(2 )sinθ_(01) となる。 そして, θa=tan^(-1)((Pa-(Wa/2))/Ta)とした場合,θaがθ_(01)よりも小さい場合には,全ての光透過性部11に入射された屈折光は遮光部12に当たり遮蔽されることとなる。 また,θaがθ_(01)より大きい場合,θ_(01)の大きさに対応して建物内に太陽光が取り入れられることとなる。 このように,θaとθ_(01)との大小関係に対応して,太陽光の建物内へ取り入れ量が制御される。 【0020】 したがって,図1(c)に示すように光制御シート10が,建物20の南側の側壁21に沿い,窓22の外側に配された場合,図1(a)に示すように,光制御シート10の楔形部12Aの高さ,ピッチ,底辺の幅を,それぞれ,Ta,Pa,Waとし,また,空気の屈折率をn_(1 ),前記光透過性部の屈折率をn_(2 )とし,且つ,前記夏至の南中高度θ_(1 ),前記秋分の日の南中高度θ_(2 )において,前記光透過性部に太陽光が入射された際の屈折角を,それぞれ,θ_(10),θ_(20)とした場合,スネルの法則より, n_(1 )sinθ_(1 )=n_(2 )sinθ_(10) n_(1 )sinθ_(2 )=n_(2 )sinθ_(20) であり, θ_(20)≦tan^(-1)((Pa-(Wa/2))/Ta)<θ_(10) であることにより,光透過部と遮光部の境において反射が起こらない場合には,夏至の太陽光を100%を遮断し,春分の日?夏至?秋分の日の期間以外の期間においては,照射される太陽光の該シートへの入射の角度θに応じた量で,太陽光を採光できるものとしている。 光透過部11と遮光部12との屈折率を選択して,光透過部11と遮光部12の境における反射を抑制することにより,光透過部11と遮光部12の境においての反射を抑制でき,実質的に,夏至の太陽光を100%を遮断する太陽光制御機能を奏することが可能である。 夏至において,光透過性部に入射された太陽光の,遮光部との境界における反射を少なくするという面からは,光透過性部の屈折率が,遮光部の屈折率と同じ,もしくは,遮光部の屈折率よりも低いことが好ましい。」 (当合議体注:図3は以下の図である。) ![]() カ 「【0025】 …(省略)… 図5(c)に示す実施の形態の第5の例は,第1の例において,遮光部の断面形状を釘型としたもので,それ以外は第1の例と同じである。」 (当合議体注:図5は以下の図である。) ![]() (2) 引用発明 引用文献1の【0019】の記載からみて,引用文献1の第1の例の光制御シート10を,図1(c)に示すように建物20の窓部22に配した場合,引用文献1の【0017】でいう「一方向」及び「一方向に直交する方向」は,それぞれ「鉛直方向」及び「水平方向」となる。また,引用文献【0025】の記載からみて,引用文献1の第5の例の光制御シートは,遮光部の断面形状を釘型とした以外,第1の例の光制御シートと同じものである。 そうしてみると,引用文献1には,第5の例の光制御シートとして,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。なお,用語は,符号も含めて第1の例のもので統一して記載した。また,第5の例における光透過部11aの形状は,厳密には台形ではないから,「略台形」と表記した。)。 「 太陽光を建物20内に取り入れる建物20の南側側面の窓部22に用いられる太陽光取り入れ制御用の光制御シート10であって, 光制御シート10全体が,太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部11と,太陽光を吸収する光吸収材料からなる遮光部群とからなり,窓部22に配した場合の水平方向に一次元に形成され,かつ,鉛直方向における断面において,上底辺,下底辺をシート面に平行にする略台形である単位の光透過部11aを,複数,隣接して所定のピッチで配列するとともに,隣り合う略台形の光透過部11a間に光吸収材料が充填されて,単位の遮光部12を形成してなり, 単位の遮光部12は,光制御シート10の太陽光入射側に沿い底面12Sを有し,他面側に向けて先端を有しており, 光透過部11aと単位の遮光部12の境において反射が起こらない場合には,夏至の太陽光を100%遮断し,春分の日?夏至?秋分の日の期間以外の期間においては,照射される太陽光の光制御シート10への入射の角度に応じた量で,太陽光を採光でき, 単位の遮光部12の断面形状を釘型とした, 光制御シート10。」 2 対比及び判断 (1) 対比 ア 採光シート 引用発明の「光制御シート10」は,少なくとも「春分の日?夏至?秋分の日の期間以外の期間においては…太陽光を採光でき」るものである。したがって,引用発明の「光制御シート10」は,「採光シート」ということができる。 また,引用発明の「光制御シート10」は,「建物20の南側側面の窓部22に用いられ」,「窓部22に配した場合の…鉛直方向に…光透過部11aを…配列するとともに…単位の遮光部12を形成してな」るものである。したがって,引用発明の「光制御シート10」は,シート面が鉛直となるように建物20の窓部22に配置される,シート状のものといえる。 加えて,引用発明の「窓部22」は,建物20の開口部ということができる。 そうしてみると,引用発明の「光制御シート」と本願発明の「採光シート」は,「シート面が鉛直となるように建物開口部に配置されるシート状である採光シート」の点で一致する。 イ 光透過部 引用発明の「光透過部11a」は,「複数,隣接して所定のピッチで配列」したものである。したがって,引用発明の「光透過部11a」は,複数並べて配置されたものといえる。 また,引用発明の「光制御シート10」は,「太陽光を透過する光透過性材料からなる光透過性部11と…遮光部群とからな」る。そして,引用発明の「光透過部11a」は,「光透過性部11」の一部と解される。したがって,引用発明の「光透過部11a」は,光を透過するものといえる。 そうしてみると,引用発明の「光透過性部11a」と本願発明の「光透過部」は,「複数並べて配置された光を透過する光透過部」の点で共通する。 ウ 光偏向部 引用発明の「単位の遮光部12」は,「隣り合う略台形の光透過部11a間に光吸収材料が充填されて」なるものである。したがって,引用発明の「単位の遮光部12」は,複数の光透過部11a間に配置され,材料が充填されたものといえる。 そうしてみると,引用発明の「単位の遮光部12」と本願発明の「光偏向部」は,「複数の前記光透過部間に配置され,」材料「が充填された光偏向部」の点で共通する。 エ 上部となる側の辺及び下部となる側の辺 引用発明の「単位の遮光部12」は,その「断面形状を釘型とした」ものである。 ここで,引用発明でいう「断面」とは,位置関係から考えて,「窓22の外側に配された姿勢」での「鉛直方向における断面」かつ「光制御シート10」の厚さ方向の「断面」のことである(図1(a)及び(b)からも看取できる事項である。)。また,「釘型」とは,引用発明の「単位の遮光部12」が,頭部を光制御シート10の太陽光入射側に向け先端部を他面側に向けた,釘の外形に似ていることを比喩により表現したものである(図5(c)からも看取できる事項である。)。 そうしてみると,引用発明の「単位の遮光部12」は,引用発明の光制御シート10を建物20の窓部22に配した場合,光制御シート10の厚さ方向断面において,その上部となる側の辺は下に凸になるように形成されているといえる。また,引用発明の「単位の遮光部12」の上部となる側の辺における下に凸は,上部となる側の辺のうち室外側における水平面に対する傾斜角が,室内側における水平面に対する傾斜角よりも大きく形成されたものといえる。加えて,引用発明の「単位の遮光部12」の上部となる側の辺とは反対側の下部となる辺は,光制御シート10のシート面法線に対して0°以上90°以下であるといえる。そして,引用発明の「単位の遮光部12」の上部となる側の辺と,下部となる側の辺との距離が,室内側に向かうにつれて小さくなるように構成されているといえる。 したがって,引用発明の「光制御シート10」と本願発明の「採光シート」は,「前記採光シートが前記建物開口部に配置された姿勢で,前記光偏向部は前記採光シートの厚さ方向断面において,その上部となる側の辺が」,「下に凸になるように形成され」,「前記上部となる側の辺における前記下に凸は,前記上部となる側の辺のうち室外側における水平面に対する傾斜角が,室内側における水平面に対する傾斜角よりも大きく形成されており」,「前記上部となる側の辺とは反対側の下部となる側の辺は」,「前記採光シートのシート面法線に対して0°以上」90°「以下であり」,「前記上部となる側の辺と,前記下部となる側の辺との距離が,室内側に向かうにつれて小さくなるように構成されて」いる点で共通する。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明と引用発明は,次の構成において一致する。 「 シート面が鉛直となるように建物開口部に配置されるシート状である採光シートであって, 複数並べて配置された光を透過する光透過部と,複数の前記光透過部間に配置され,材料が充填された光偏向部と,を有し, 前記採光シートが前記建物開口部に配置された姿勢で,前記光偏向部は前記採光シートの厚さ方向断面において,その上部となる側の辺が,下に凸になるように形成され, 前記上部となる側の辺における前記下に凸は,前記上部となる側の辺のうち室外側における水平面に対する傾斜角が,室内側における水平面に対する傾斜角よりも大きく形成されており, 前記上部となる側の辺とは反対側の下部となる側の辺は,前記採光シートのシート面法線に対して0°以上90°以下であり, 前記上部となる側の辺と,前記下部となる側の辺との距離が,室内側に向かうにつれて小さくなるように構成されている, 採光シート。」 イ 相違点 本願発明と引用発明は,以下の点で,相違する。 (相違点1) 本願発明の「採光シート」は,「透光性を有するシート状の基材層と,前記基材層の一方の面に形成され,光を偏向する光偏向層と,を備え,前記光偏向層は,前記基材層の一方の面に沿って複数並べて配置された光を透過する光透過部と,複数の前記光透過部間に配置され」「た光偏向部と,を有し,前記光透過部が配置された部位の前記光偏向層の表裏面は平行に形成されて」いるのに対して,引用発明の「光制御シート10」は,「基材層」及び「光偏光層」という層構造にはなく,その結果,上記下線を付した構成において相違する点。 (相違点2) 本願発明の「光偏向部」は,「該光透過部よりも低い屈折率の紫外線硬化型樹脂の組成物」が充填された光偏向部であるのに対して,引用発明の「単位の遮光部12」に充填される材料は,特定されていない点。 また,本願発明の「光偏向部」は,「前記上部となる側の辺と前記下部となる側の辺との間に形成される辺のうち,前記光透過部間の開口となる側の辺には凹部が設けられている」のに対して,引用発明は,このような構成が特定されていない点。 (相違点3) 本願発明の「上部となる側の辺」は,「複数の直線が連続した折れ線,又は曲線状で形成されており」,また,前記上部となる側の辺とは反対側の下部となる側の辺は,「一直線状で前記上部となる側の辺とは非対称であるとともに」,前記採光シートのシート面法線に対して0°以上「30°」以下であるのに対して,引用発明は「釘型」である点。 (3) 判断 事案に鑑みて,相違点3について判断する。 「単位の遮光部12の断面形状を釘型とした」という引用発明の構成について,引用文献1には,前記(1)カ以外の記載はない。また,当業者において「釘型」という表現は,一般的なものではない。その結果,たとえ当業者といえども,引用発明の「釘型」が,引用発明においてどのような一定の課題を解決するための構成なのか理解困難である。 したがって,たとえ引用発明の「釘型」について設計変更等を行う当業者を想定したとしても,その前提となる一定の課題が理解困難であるからには,相違点3に係る本願発明の構成に到るということはできない。 あるいは,以下のように考えることもできる。 引用文献1の【0019】及び【0020】(前記(1)オ)には,図1(c)及び図3とともに,光制御シート10の楔形部12Aの形状と太陽光の採光との関係が,計算式により説明されている。そして,図3に接した当業者ならば,引用発明の「釘型」の頭部は,その上半分よりも下半分の方を大きく(下方に長く)設計した方が,効率的に遮光量を増やせることに気づくといえる。また,図5(c)のように「釘型」とした方が,図1(a)のように楔形とするよりも,光吸収材料の充填量を節約でき,仮に紫外線硬化型樹脂を使用する場合には,硬化時間を短くできることにも気づくといえる。 したがって,引用発明及び引用文献1の記載に接して設計変更等を行う当業者は,下部となる側の辺を一直線状とすることはなく,むしろ「釘型」の頭部が下方に大きくなるような,曲がった形状に設計するといえる。 原査定において引用された,引用文献2から引用文献4には,相違点1又は相違点2に関する事項は記載されているが,相違点3に係る本願発明の構成を開示するものではない。また,周知技術を示す文献(国際公開第2011/129069号)は,請求項3及び請求項4との関係において挙げられたものである。 以上のとおりであるから,相違点1及び相違点2について検討するまでもなく,本願発明は,引用発明,引用文献2から引用文献4に記載された技術,及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (4) 他の請求項に係る発明について 請求項2から請求項4までに係る発明についても,相違点3に係る本願発明の構成を具備するものである。したがって,本願発明と同じ理由により,引用発明,引用文献2から引用文献4に記載された技術,及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 第3 むすび 以上のとおりであるから,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-09-05 |
出願番号 | 特願2016-29347(P2016-29347) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 藤岡 善行 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
河原 正 樋口 信宏 |
発明の名称 | 採光シート、採光装置、及び建物 |
代理人 | 山本 典輝 |