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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02F
管理番号 1332062
審判番号 不服2017-2254  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-16 
確定日 2017-09-26 
事件の表示 特願2014-519000「下方クラウン支持特徴を備えたピストン」拒絶査定不服審判事件〔2013年1月3日国際公開、WO2013/003546、平成26年8月25日国内公表、特表2014-521000、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年6月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年12月25日に国内書面が提出され、平成26年1月30日に国際出願翻訳文提出書により、明細書及び請求の範囲並びに要約書の翻訳文が提出され、平成28年2月25日付けで拒絶理由が通知され、平成28年5月30日に意見書が提出されるとともに、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成28年10月7日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成29年2月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要

原査定(平成28年10月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

引用文献2に開示される発明が、「1つの燃焼ボウル」の下において燃焼室からリブが垂下するものであるとしても、該引用文献2は、ピストンの頂面の凹凸(高い部分と低い部分がある)状況に応じて、複数存在するリブの垂下状況の高低の度合いが異なるという設計思想を開示していることは明らかである。引用文献1(図4)には、「燃焼ボウル」は開示されていないが、上記引用文献2と同様にピストンの頂面の凹凸(高い部分と低い部分がある)状況に応じて、複数存在するリブの垂下状況の高低の度合いが異なるという設計思想(以下「周知の設計思想」という。)を開示している。
ピストン頂面の燃焼ボウルの形状や配置については、引用文献2(FIG.1)及び引用文献4(FIG.3)に示されるように従来より様々なものが周知であるところ、引用文献1-3に記載される、ピストン頂面の裏面に複数の「リブ」を設けるという技術手段を、引用文献4に記載されるような「燃焼ボウル」を備えた型式のピストンに適用することに何ら困難な要因はなく、適宜採用し得るものである。また、元来リブは補強のために設けられるものであるから、一部にだけ片寄って設けることは望ましくないという常識的事情を踏まえれば、燃焼ボウルの下にリブを設けること及び燃焼ボウルの下以外においてもリブを設けることは、当業者が通常の創作能力の範囲でなし得る程度のことである。
そして、請求項1の「前記第1のリブは、前記長手方向の中心軸に沿って前記第2のリブよりも低く垂下する」点は、上述のとおり引用文献1及び2が開示する「周知の設計思想」を特定したものに過ぎない。
よって本願請求項1に係る発明は、引用文献1-4に基づき当業者が容易になし得たものである。

また、本願請求項2ないし13に係る発明についても、同様に、引用文献1-4に基づき当業者が容易になし得たものである。

以上より、本願請求項1ないし13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-236406号公報
2.米国特許第4989559号明細書
3.特開平10-18908号公報
4.米国特許第7353797号明細書

第3 本願発明

本願の請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」ないし「本願発明13」という。)は、明細書の翻訳文、平成28年5月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び国際出願時の図面の記載からみて、次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
ピストンであって、
長手方向の中心軸に沿って延在するピストン本体を備え、前記ピストン本体は、燃焼壁を備えたクラウン部分と、前記クラウン部分から垂下する1対のピンボスと、前記燃焼壁に形成される燃焼ボウルとを有し、
前記クラウン部分は、前記クラウン部分と一体的に形成された、第1および第2のリブを含む少なくとも2つのリブを含み、前記第1のリブは、前記燃焼ボウルの下において前記燃焼壁から垂下し、前記第2のリブは燃焼ボウルの下以外において前記燃焼壁から垂下し、前記第1のリブは、前記長手方向の中心軸に沿って前記第2のリブよりも低く垂下する、ピストン。
【請求項2】
前記リブの各々は前記ピンボス間に延在する、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記リブの各々は、ピンボア軸から外側に向かって湾曲する、請求項2に記載のピストン。
【請求項4】
前記リブの各々は、前記長手方向の中心軸に対して湾曲する、請求項2に記載のピストン。
【請求項5】
前記リブのうち一方のリブは前記燃焼ボウルから径方向に間隔を空けて配置される、請求項1に記載のピストン。
【請求項6】
前記燃焼ボウルは概して半球形状である、請求項5に記載のピストン。
【請求項7】
前記第1のリブは、前記ピンボスに向かって下方に湾曲する、請求項6に記載のピストン。
【請求項8】
前記少なくとも2つのリブは、互いに正反対の位置に配置される、請求項1に記載のピストン。
【請求項9】
ピストンであって、
長手方向の中心軸に沿って延在するピストン本体を備え、前記ピストン本体は、燃焼壁を備えたクラウン部分と、大部分が前記クラウン部分から垂下する1対のピンボスとを有し、
前記クラウン部分の前記燃焼壁は、内部に形成された少なくとも1つの燃焼ボウルを含み、前記燃焼ボウルは、前記長手方向の中心軸に対して非対称的に配置され、
前記クラウン部分は、前記クラウン部分と一体的に形成された少なくとも1つのリブを含み、前記少なくとも1つのリブは、前記少なくとも1つの燃焼ボウルの直下において前記燃焼ボウルから垂下し、前記クラウン部分はさらに、前記燃焼ボウルから離間された少なくとも1つのリブを含む、ピストン。
【請求項10】
前記少なくとも1つのリブは前記ピンボス間に延在する、請求項9に記載のピストン。
【請求項11】
前記少なくとも1つのリブはピンボア軸から外側に向かって湾曲する、請求項10に記載のピストン。
【請求項12】
前記少なくとも1つのリブは前記ピンボスに向かって下方に湾曲する、請求項11に記載のピストン。
【請求項13】
前記燃焼ボウルは概して半球形状である、請求項9に記載のピストン。」

第4 刊行物

1 刊行物1の記載事項

原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された米国特許第7353797号明細書(以下、「刊行物1」という、原査定の引用文献4。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

(1)“Refer now also to FIG. 2 , which shows a perspective view of the piston 108 , and FIG. 3 , which shows a cross-sectional side view of a portion of the IC engine 100 . The piston 108 includes a generally cylindrical skirt or wall 120 that engages the piston rings 118 , and a portion above the rings 118 defining the piston head 122 . The piston head 122 includes a recessed bowl portion 124 , that is positioned to generally align with an inverted bowl portion 105 formed in the cylinder head 104 ( FIG. 1 ).”(第4欄第26行ないし第34行)
図2は、ピストン108の斜視図を示し、図3は内燃機関100の一部の垂直断面図を示す。ピストン108は、ピストンリング118をはめ込むほぼ円筒形のスカート又は囲い120と、ピストンヘッド122を規定するピストンリング118の上の部分を含む。ピストンヘッド122は、シリンダヘッド104(図1)に形成されて反転されたボウル部分105に、ほぼ整列するように配置された凹状のボウル部分124を含む。(当審による仮訳。以下同じ。)

(2)上記(1)及び図面の記載より分かること

上記(1)、図1及び図2の記載によれば、ピストンヘッド122及びほぼ円筒形のスカート又は囲い120は、ピストン108の長手方向の中心軸に沿って延在し、ピストンヘッド122の上面には壁を備え、該壁には、ボウル部分124が形成されていることが分かる。

(3)引用発明

上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>

「ピストン108であって、
長手方向の中心軸に沿って延在するピストンヘッド122及びほぼ円筒形のスカート又は囲い120を備え、ピストンヘッド122及びほぼ円筒形のスカート又は囲い120は、壁を備えたピストンヘッド122と、該壁に形成されるボウル部分124と有する、ピストン108。」

2 刊行物2の記載事項

原査定に引用され、本願の優先日前に頒布された米国特許第4989559号明細書(以下、「刊行物2」という、原査定の引用文献2。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

(1)“Referring now to FIGS. 1 and 2 and where the same features are denoted by common reference numerals.
A piston is denoted generally at 10 and comprises a crown portion 12 and a separate articulated skirt portion 14. The crown portion 12 comprises a combustion bowl 16, ring belt 18 having piston-ring grooves 20 and which ring belt is in the form of an annular ring depending from the outer periphery 22 of the crown 24. Gudgeon pin bosses 26 are connected to the underside of the combustion bowl by planar webs 28 which at their upper ends 30 span and support the underside 32 of the combustion bowl. Extending substantially normally to the plane of the webs 28 and radially outwardly of them are two subsidiary planar support ribs 34 (shown as dashed lines in FIG. 1). The ribs 34 extend between the underside of the crown and the upper portion of the pin boss 26 and also, in the radial direction to the outer edge 36 of the combustion bowl underside.”(第1欄第52行ないし第2欄第1行)
図1及び2を参照する、ここで、同じ特徴は共通の参照番号で示される。
ピストンは10で示され、クラウン部分12と別個の連結式のスカート部分14を含む。クラウン部分12は、燃焼ボウル16と、ピストンリング溝20を備えるリングベルト18を含む。ここで、そのリングベルトは、クラウン24の外表面22からつながっている溝付の環状の形をしている。ガデオンピンボス26は、平面ウェブ28によって燃焼ボウルの下面に接続されており、これらウェブの上端30は、燃焼ボウルの下面32に広がって、燃焼ボウルの下面32を支持する。2つの補助的で平面の支持リブ34(図1の破線参照)は、ウェブ28の平面にほぼ垂直に延び、かつ、半径方向外側に延びている。リブ34は、クラウンの下面とピンボス26の上部の間で延びており、燃焼ボウル下面の外縁36まで半径方向にも伸びている。

(2)“In some pistons an additional rib or ribs may be included depending from the combustion bowl underside and spanning the inner faces of the planar webs 28 . Such a single rib is shown as a dashed line 70 in FIGS. 1 and 2, or where more than one additional ribs are used, as dashed lines 72, showing two ribs disposed symmetrically about the plane which includes both the piston axis and the gudgeon pin axis. More than two ribs may be used if necessary.”(第2欄第32ないし第40行)
いくつかのピストンでは、燃焼ボウルの下面につながり、平面のウェブ28の内側面に広がる、追加的なリブを含んでもよい。そのような1つのリブは、図1及び2で破線70として示され、2つ以上の追加的なリブが使用される場合が、破線72で示され、ピストン軸とガデオンピン軸の両方を含む平面で対称的に配置された2つのリブを示している。必要に応じて、2つより多いリブの利用も可能である。

(3)上記(1)、(2)及び図面から分かること

上記(1)、(2)及び図1の記載によると、クラウン部分12は、燃焼ボウルの下面32を有し、リブ70及びリブ72は、燃焼ボウルの下面32から垂下することで、クラウン部分12と一体的に形成されており、リブ34とウェブ28も、燃焼ボウルの下面32に接続していることが分かる。

(4)刊行物2記載の発明

上記(1)ないし(3)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されている。

<刊行物2記載の発明>

「ピストン10であって、
クラウン部分12は、クラウン部分12と一体的に形成された、リブ70及びリブ72を有し、リブ70及びリブ72は、燃焼ボウル16の下面32から垂下する,ピストン10。」

第5 対比・判断

1 本願発明1について

本願発明1と引用発明とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、引用発明における「ピストン108」は、本願発明1における「ピストン」に相当し、以下同様に、「ピストンヘッド122」及び「ほぼ円筒形のスカート又は囲い120」は「ピストン本体」に、「壁」は「燃焼壁」に、「ピストンヘッド122」は「クラウン部分」に、「ボウル部分」は「燃焼ボウル」に、それぞれ相当する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、
「ピストンであって、
長手方向の中心軸に沿って延在するピストン本体を備え、前記ピストン本体は、燃焼壁を備えたクラウン部分と、前記燃焼壁に形成される燃焼ボウルとを有する,ピストン。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明1は、ピストン本体が「前記クラウン部分から垂下する1対のピンボス」を有するのに対し、引用発明は、そのようなピンボスを有するのか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

(相違点2)
本願発明1は、「クラウン部分は、前記クラウン部分と一体的に形成された、第1および第2のリブを含む少なくとも2つのリブを含み、前記第1のリブは、燃焼ボウルの下において燃焼壁から垂下し、前記第2のリブは燃焼ボウルの下以外において前記燃焼壁から垂下し、前記第1のリブは、前記長手方向の中心軸に沿って前記第2のリブよりも低く垂下する」のに対し、引用発明は、そのような構成を有しない点(以下、「相違点2」という。)。

そこで、事案に鑑み、先に相違点2について検討する。

本願発明1及び刊行物2記載の発明は、内燃機関という同一の技術分野に係るものであるから、本願発明1と刊行物2記載の発明とを対比すると、その機能、構造又は技術的意義からみて、刊行物2記載の発明における「ピストン10」は、本願発明1における「ピストン」に相当し、以下同様に、「クラウン部分12」は「クラウン部分」に、「下面32」は「燃焼壁」に、それぞれ相当し、「燃焼ボウル16の下面32から垂下」することは、「燃焼ボウルの下において前記燃焼壁から垂下」することに相当し、「リブ70及びリブ72」は,「少なくとも2つのリブ」に相当し、また、燃焼ボウル16の下面32から垂下するから、「第1のリブ」にも、相当する。
してみると、刊行物2記載の発明を本願発明1の用語を用いると、以下のようになる。

「ピストンであって、
クラウン部分は、前記クラウン部分と一体的に形成された、第1のリブを含む少なくとも2つのリブを含み、前記第1のリブは、燃焼ボウルの下において燃焼壁から垂下する、ピストン。」

そうしてみると、刊行物2記載の発明は、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項のうち、「第2のリブ」及び「第2のリブは燃焼ボウルの下以外において燃焼壁から垂下し、第1のリブは、長手方向の中心軸に沿って第2のリブよりも低く垂下する」ことについては、構成として有していない。

また、原査定において引用され、本願の優先日前に頒布された特開2010-236406号公報(以下、「刊行物3」という。原査定の引用文献1。)や、特開平10-18908号公報(以下、「刊行物4」という。原査定の引用文献3。)には、そもそも、クラウン部分に燃焼ボウルを有するピストンは記載されていない。

よって、本願発明1は、相違点1を検討するまでもなく、引用発明、刊行物2記載の発明、刊行物3及び刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2ないし8について
本願発明2ないし8は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、それぞれ、本願発明1と同様に、引用発明、刊行物2記載の発明、刊行物3及び刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本願発明9について

本願発明9の「クラウン部分は更に、燃焼ボウルから離間された少なくとも1つのリブ」は、本願発明1の第2のリブに対応するものであるから、本願発明1と実質的に同様の理由により、本願発明9は、引用発明、刊行物2記載の発明、刊行物3及び刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本願発明10ないし13について

本願発明10ないし13は、本願発明9の発明特定事項を全て含むものであるから、それぞれ、本願発明9と同様に、引用発明、刊行物2記載の発明、刊行物3及び刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし13は、いずれも、引用発明、刊行物2記載の発明、刊行物3及び刊行物4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-11 
出願番号 特願2014-519000(P2014-519000)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 八木 誠
松下 聡
発明の名称 下方クラウン支持特徴を備えたピストン  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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