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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01H 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01H 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01H |
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管理番号 | 1332068 |
審判番号 | 不服2016-17165 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-17 |
確定日 | 2017-09-26 |
事件の表示 | 特願2015- 71288「保護素子用フラックス組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月10日出願公開、特開2015-164132、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年11月7日に出願した特願2012-245144号(以下、「原出願」という。)の一部を平成27年3月31日に新たな特許出願としたものであって、平成28年2月12日付けで拒絶理由が通知され、同年4月5日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年8月19日付け(発送日:同年8月26日)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年11月17日に拒絶査定不服審判が請求され、その後当審において平成29年5月24日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年6月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。 第2 本願発明 本願請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、平成29年6月9日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 パターン電極を有する耐熱絶縁材からなるベース基板と、前記ベース基板の前記パターン電極に電気接続した可融性金属からなるヒューズ合金と、このヒューズ合金の表面に塗布した有機フラックスと、前記ヒューズ合金を覆って前記ベース基板に固着した蓋体とを備えた回路保護素子に適用される有機フラックスにおいて、前記フラックスは、その塗布面からの流出を防止するため、前記フラックスの組成物を、ロジンなどの熱可融性樹脂を含み、これに比較的低温域で流動性を調整するチクソ剤や、有機酸類、有機酸アミン塩類、ハロゲン化水素酸アミン塩類等の活性剤、高融点溶剤などの助剤成分を適宜選択添加して調製した有機フラックス基材に、この有機フラックス基材と反応しない不溶不融性かつ絶縁性の無機粒子からなる保持材をさらに添加したことを特徴とするフラックス組成物。 【請求項2】 パターン電極を有する耐熱絶縁材からなるベース基板と、前記ベース基板の前記パターン電極に電気接続した可融性金属からなるヒューズ合金と、このヒューズ合金の表面に塗布した有機フラックスと、前記ヒューズ合金を覆って前記ベース基板に固着した蓋体と、前記ベース基板に設けた抵抗発熱素子とを備えた回路保護素子に適用される有機フラックスにおいて、前記フラックスは、その塗布面からの流出を防止するため、前記フラックスの組成物を、ロジンなどの熱可融性樹脂を含み、これに比較的低温域で流動性を調整するチクソ剤や、有機酸類、有機酸アミン塩類、ハロゲン化水素酸アミン塩類等の活性剤、高融点溶剤などの助剤成分を適宜選択添加して調製した有機フラックス基材に、この有機フラックス基材と反応しない不溶不融性かつ絶縁性の無機粒子からなる保持材をさらに添加したことを特徴とするフラックス組成物。 【請求項3】 前記保持材は、ガラス粉、セラミックス粉、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、カオリン、酸化チタン、マイカ、モンモリロナイトの中から選択された少なくとも1つの無機粒子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフラックス組成物。 【請求項4】 前記保持材は、粒径が0.01?10μmの範囲であることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載のフラックス組成物。 【請求項5】 前記保持材は、前記有機フラックス基材に対し0.5?70質量%の範囲で含有したこを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載のフラックス組成物。」 第3 引用文献、引用発明等 原査定の拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-57122号公報(以下、「引用文献」という。)には、「合金型温度ヒューズ」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。 1 「2.特許請求の範囲 粒子状消弧剤を内蔵せる低融点金属片をヒューズエレメントとしたことを特徴とする合金型温度ヒューズ。」 (1ページ左下欄3行?6行) 2 「<産業上の利用分野> 本発明は作動時に発生するアークを速く消滅させ得る合金型温度ヒューズを提供することにある。」(1ページ左下欄8行?10行) 3 「<解決しようとする課題> ・・・(中略)・・・ 本発明の目的は、アーク持続時間を充分に短縮し得る合金型温度ヒューズを提供することにある。」(2ページ左上欄5行?14行) 4 「<実施例の説明> 以下、本発明の実施例を図面により説明する。 第1図は本発明の一実施例を示す縦断面図である。第1図において、1・1は一対のリード導体である。2はリード導体間に溶接により橋設したヒューズエレメントであり、粒子状消弧剤(例えは、石英、大理石あるいは珪砂)3・…を混合した低融点合金(例えば、Sn、Pbを主成分とし、Cd、Bi等の添加により融点を所定値に設定したもの)を使用している。4はヒューズエレメント上に塗布したフラックスであり、ロジン(例えば、天然ロジン、精製ロジン、重合ロジン、変成ロジン、水添ロジン、不均化ロジン)を主成分とし、必要に応じて活性剤(例えば、ジエチルアミンの塩酸塩、臭酸塩)を添加したものを使用できる。5はヒューズエレメント上に挿通した絶縁筒であり、セラミック筒、ガラス筒を使用できる.6・6は絶縁筒各端と各リード導体との間を封止せる常温硬化性の接着剤、例えば、エボキシ樹脂である。」(2ページ右上欄11行?左下欄10行) 5 「上記温度ヒューズは保護すべき電気機器に取付けて使用する。而して、機器が過電流により発熱すると、ヒューズエレメントが溶融し、該溶融ヒューズエレメントがリード導体の親和力によって引張られて分断し、この分断と同時にアークが発生ずる。而るに、このアークは分断した溶融ヒューズエレメントから出ており、この溶融ヒューズエレメントには粒子状消弧剤が混入されていて、その消弧剤の大なる熱容量と高度の熱伝導性のためにアークの根元が良好な熱放散により冷やされるから、アークが持続し難く、分断ヒューズエレメントの球状化に伴い速く消滅する。」(2ページ左下欄11行?右下欄2行) 6 「これに対し、フラックス中またはフラックス表面に消弧剤を設けた場合は、フラックスの融点がヒューズエレメントよりも低く、ヒューズエレメントの溶融以前にフラックスが溶融してしまい、フラックス層の相当量がヒューズエレメントより脱離するおそれがあるから、分断ヒューズエレメント間のアークを消弧剤に接触させ難く、アークの速い消滅を期待し難い。」(2ページ右下欄2行?10行) 7 上記の記載事項及び図面の記載を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用文献には、第1図に記載の実施例として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「リード導体1に電気接続した低融点合金2からなるヒューズエレメント2と、このヒューズエレメント2上に塗布したフラックス4とを備えた合金型温度ヒューズに適用されるフラックス4において、前記フラックス4は、前記フラックス4の組成物を、ロジン(例えば、天然ロジン、精製ロジン、重合ロジン、変成ロジン、水添ロジン、不均化ロジン)を含み、活性剤(例えば、ジエチルアミンの塩酸塩、臭酸塩)を添加したものである、フラックス4。」 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「低融点合金2」は、本願発明1の「可融性金属」に相当する。 以下同様に、「ヒューズエレメント2」は、「ヒューズ合金」に、 「ヒューズエレメント2上に塗布した」ことは、「ヒューズ合金の表面に塗布した」ことに、 「フラックス4」は、ロジンを含むから、「有機フラックス」に、 「フラックス4の組成物は」、「フラックス組成物」に、 「合金型温度ヒューズ」は、「回路保護素子」に、 「ロジン(例えば、天然ロジン、精製ロジン、重合ロジン、変成ロジン、水添ロジン、不均化ロジン)」は、「ロジンなどの熱可融性樹脂」に、 「活性剤(例えば、ジエチルアミンの塩酸塩、臭酸塩)」は、「有機酸類、有機酸アミン塩類、ハロゲン化水素酸アミン塩類等の活性剤」に、それぞれ相当する。 また、本願発明1の「これに比較的低温域で流動性を調整するチクソ剤や、有機酸類、有機酸アミン塩類、ハロゲン化水素酸アミン塩類等の活性剤、高融点溶剤などの助剤成分を適宜選択添加して調製した」との構成は、「比較的低温域で流動性を調整するチクソ剤」からなる助剤成分、「有機酸類、有機酸アミン塩類、ハロゲン化水素酸アミン塩類等の活性剤」からなる助剤成分、及び「高融点溶剤」からなる助剤成分について、任意選択するものである。 そうすると、引用発明の「ロジン(例えば、天然ロジン、精製ロジン、重合ロジン、変成ロジン、水添ロジン、不均化ロジン)を含み、活性剤(例えば、ジエチルアミンの塩酸塩、奥酸塩)を添加したもの」は、本願発明1の「ロジンなどの熱可融性樹脂を含み、これに比較的低温域で流動性を調整するチクソ剤や、有機酸類、有機酸アミン塩類、ハロゲン化水素酸アミン塩類等の活性剤、高融点溶剤などの助剤成分を適宜選択添加して調製した有機フラックス基材」に、相当する。 また、引用発明の「リード導体1」と、本願発明1の「パターン電極」とは、「電極」である点で共通する。 以上のことから、本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。 [一致点] 「電極に電気接続した可融性金属からなるヒューズ合金と、このヒューズ合金の表面に塗布した有機フラックスとを備えた回路保護素子に適用される有機フラックスにおいて、前記フラックスは、前記フラックスの組成物を、ロジンなどの熱可融性樹脂を含み、これに比較的低温域で流動性を調整するチクソ剤や、有機酸類、有機酸アミン塩類、ハロゲン化水素酸アミン塩類等の活性剤、高融点溶剤などの助剤成分を適宜選択添加して調製した有機フラックス基材であるフラックス組成物。」 一方で、両者は次の点で相違する。 [相違点] 本願発明1では、回路保護素子について、電極は「耐熱絶縁材からなるベース基板」の「パターン電極」であり、「前記ヒューズ合金を覆って前記ベース基板に固着した蓋体」とを備えており、 フラックスについて、「その塗布面からの流出を防止するため」に、「有機フラックス基材に、この有機フラックス基材と反応しない不溶不融性かつ絶縁性の無機粒子からなる保持材をさらに添加した」ものであるのに対して、 引用発明では、合金型温度ヒューズ(回路保護素子)について、電極は「リード導体1」であり、ベース基板及び蓋体を備えておらず、 フラックスについて、無機粒子からなる保持材を添加していない点。 (2)判断 上記相違点について判断する。 ア 特許法第29条第1項第3号(新規性)について 上記相違点は、電極の構造、ベース基板及び蓋体の有無、並びにフラックス中の無機粒子の添加の有無について異なるから、実質的な相違点である。 そして、上記相違点に係る本願発明1の構成については、引用文献に記載ないし記載されているに等しいとはいえない。 したがって、本願発明1は、引用文献に記載された発明ということはできない。 イ 特許法第29条第2項(進歩性)について まず、回路保護素子について検討する。 回路保護素子として、電極が「耐熱絶縁材からなるベース基板」の「パターン電極」であり、「前記ヒューズ合金を覆って前記ベース基板に固着した蓋体」とを備えたものは、例えば、本願明細書段落【0004】において例示された特開2010-3665号公報(特に、【図1】及び【図2】を参照。)に記載されているように、原出願の出願前に周知の技術(以下、「周知技術」という。)である。 次に、フラックスについて検討する。 引用文献には、溶融ヒューズエレメントに粒子状消弧剤(例えは、石英、大理石あるいは珪砂)を混入すると、アークの根元が熱放散により冷やされるから、アークが持続し難く、分断ヒューズエレメントの球状化に伴い速く消滅することが記載されている(前記「第3 4」及び「第3 5」を参照。)。 ここで、上記粒子状消弧剤は、石英、大理石あるいは珪砂であるから、フラックス4とは反応しない不溶不溶融であり絶縁性の無機粒子といえるので、本願発明1の「有機フラックス基材と反応しない不溶不融性かつ絶縁性の無機粒子からなる保持材」に相当する。 しかし、引用文献には、フラックスに消弧剤を添加することに関しては、「フラックス中またはフラックス表面に消弧剤を設けた場合は、フラックスの融点がヒューズエレメントよりも低く、ヒューズエレメントの溶融以前にフラックスが溶融してしまい、フラックス層の相当量がヒューズエレメントより脱離するおそれがあるから、分断ヒューズエレメント間のアークを消弧剤に接触させ難く、アークの速い消滅を期待し難い」(前記「第3 6」を参照。以下、「引用文献に記載された事項」という。)と記載されているように、引用発明が解決しようとする課題である「アーク持続時間を充分に短縮し得る」(前記「第3 3」を参照。)という点に関して、劣るものとして示されている。 そうすると、引用発明において、フラックスに消弧剤を添加すること、すなわち、上記相違点に係る本願発明1の構成のうち、「有機フラックス基材に、有機フラックス基材と反応しない不溶不融性かつ絶縁性の無機粒子からなる保持材をさらに添加した」ものとすることについては、動機付けがないといえる。 したがって、上記相違点に係る本願発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって、 本願発明1は、引用発明、引用文献に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 ウ 小括 以上のことから、本願発明1は、引用文献に記載された発明ということはできないし、また、引用発明、引用文献に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は、「パターン電極を有する耐熱絶縁材からなるベース基板」、「ベース基板の前記パターン電極」及び「前記ヒューズ合金を覆って前記ベース基板に固着した蓋体」、並びに、フラックスは、「その塗布面からの流出を防止するため」に、「有機フラックス基材に、この有機フラックス基材と反応しない不溶不融性かつ絶縁性の無機粒子からなる保持材をさらに添加した」ものである構成を備えている。 ここで、上記構成は、上記相違点に係る本願発明1の構成と同一の構成である。 したがって、本願発明2は、本願発明1と同様に、引用文献に記載された発明ということはできないし、また、引用発明、引用文献に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 3 本願発明3?5について 本願発明3?5は、本願発明1または本願発明2の発明特定事項をすべて含むものであるので、本願発明1と同様に、引用文献に記載された発明ということはできないし、また、引用発明、引用文献に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 第5 原査定の概要及び原査定について 原査定は、請求項1?3に係る発明ついて、上記引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないもので、また、請求項1?5に係る発明について、上記引用文献に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、平成29年6月9日の手続補正により補正された請求項1?5は、それぞれ上記相違点に係る本願発明1の構成を有するものとなっており、上記「第4」のとおり、本願発明1?5は、引用文献に記載された発明ということはできないし、また、引用発明、引用文献に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 当審では、請求項4について、発明の詳細な説明には、「粒径が0.1?100μmの範囲」については記載されていないから、請求項4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件出願は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの通知をしている。 しかし、上記「粒径が0.1?100μmの範囲」との記載は、平成29年6月9日の手続補正により、「粒径が0.01?10μmの範囲」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1?5は、引用文献に記載された発明ということはできないし、また、引用発明、引用文献に記載された事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-09-14 |
出願番号 | 特願2015-71288(P2015-71288) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01H)
P 1 8・ 537- WY (H01H) P 1 8・ 113- WY (H01H) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 段 吉享 |
特許庁審判長 |
冨岡 和人 |
特許庁審判官 |
小関 峰夫 中川 隆司 |
発明の名称 | 保護素子用フラックス組成物 |