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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C
管理番号 1332069
審判番号 不服2016-17647  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-25 
確定日 2017-09-26 
事件の表示 特願2014- 74654「緊急用防災非常用眼鏡セット」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 9日出願公開、特開2015-197521、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
平成26年 3月31日 出願
平成28年 1月26日 手続補正書、上申書
平成28年 4月 6日 拒絶理由通知(同年同月19日発送)
平成28年 6月16日 意見書、手続補正書
平成28年 8月16日 拒絶査定(同年同月30日発送)
平成28年11月25日 審判請求書、手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成28年11月25日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
左右の眼鏡レンズを一体として構成される透明樹脂製の眼鏡レンズ部及びテンプル部を有してなるテンポラリー眼鏡と、前記テンポラリー眼鏡における前記眼鏡レンズに、1枚又は2枚重ねで貼着可能で、且つ、視力を矯正可能な度数を有するレンズ膜が透明の剥離紙に、透明の粘着層を介して貼り付けられているレンズ膜セットと、前記テンポラリー眼鏡と前記レンズ膜セットとを収納するパッケージと、を含んでなる緊急用防災非常用眼鏡セットであって、
前記左右の眼鏡レンズは、低近視度又は高近視度の視力矯正用レンズからなり、
前記レンズ膜セットは、前記左右の眼鏡レンズのレンズ度数を-0.5D変化させる機能を備えた第1の近視用レンズ膜、レンズ度数を-1.0D変化させる機能を備えた第2の近視用レンズ膜、レンズ度数を-1.5D変化させる機能を備えた第3の近視用レンズ膜、を少なくとも含んでなり、
これらのレンズ膜は、レンズ内側の湾曲度合が前記眼鏡レンズの外側面の湾曲度合と一致するようにされた透明な光学樹脂フィルムからなり、各々、前記透明の剥離紙に、並べて貼着したままで、装着状態の前記眼鏡レンズに外側から、前記剥離紙とともに順次指で押し付けて、最適な矯正度数のレンズ膜を選択可能とされ、そのうちの1枚又は2枚の近視用レンズ膜を前記透明の剥離紙から剥離して、前記左右の眼鏡レンズの少なくとも一方に、レンズ外側から貼着可能とされたことを特徴とする緊急用防災非常用眼鏡セット。
【請求項2】
左右の眼鏡レンズを一体として構成される透明樹脂製の眼鏡レンズ部及びテンプル部を有してなるテンポラリー眼鏡と、前記テンポラリー眼鏡における前記眼鏡レンズに、1枚又は2枚重ねで貼着可能で、且つ、視力を矯正可能な度数を有するレンズ膜が透明の剥離紙に、透明の粘着層を介して貼り付けられているレンズ膜セットと、前記テンポラリー眼鏡と前記レンズ膜セットとを収納するパッケージと、を含んでなる緊急用防災非常用眼鏡セットであって、
前記左右の眼鏡レンズは、遠老視度の視力矯正用レンズからなり、
前記レンズ膜セットは、前記左右の眼鏡レンズのレンズ度数を+0.5D変化させる機能を備えた第1の遠視用レンズ膜、レンズ度数を+1.0D変化させる機能を備えた第2の遠視用レンズ膜、レンズ度数を+1.5D変化させる機能を備えた第3の遠視用レンズ膜、を少なくとも含んでなり、
これらのレンズ膜は、レンズ内側の湾曲度合が前記眼鏡レンズの外側面の湾曲度合と一致するようにされた透明な光学樹脂フィルムからなり、各々、前記透明の剥離紙に、並べて貼着したままで、装着状態の前記眼鏡レンズに外側から、前記剥離紙とともに順次指で押し付けて、最適な矯正度数のレンズ膜を選択可能とされ、そのうちの1枚又は2枚の遠視用レンズ膜を前記透明の剥離紙から剥離して、前記左右の眼鏡レンズの少なくとも一方に、レンズ外側から貼着可能とされたことを特徴とする緊急用防災非常用眼鏡セット。
【請求項3】
左右の眼鏡レンズを一体として構成される透明樹脂製の眼鏡レンズ部及びテンプル部を有してなるテンポラリー眼鏡と、前記テンポラリー眼鏡における前記眼鏡レンズに貼着可能で、且つ、視力を矯正可能な度数を有するレンズ膜が透明の剥離紙に、透明の粘着層を介して貼り付けられているレンズ膜セットと、前記テンポラリー眼鏡と前記レンズ膜セットとを収納するパッケージと、を含んでなる緊急用防災非常用眼鏡セットであって、
前記左右の眼鏡レンズは、低近視度の視力矯正用レンズからなり、
前記レンズ膜セットは、前記左右の眼鏡レンズのレンズ度数を-0.5D、-1.0D、-1.5D、-2.0D、-2.5D、-3.0D、-3.5D、-4.0D及び-4.5Dに変化させる機能を備えた9種類のレンズ膜、を少なくとも含んでなり、
これらのレンズ膜は、レンズ内側の湾曲度合が前記眼鏡レンズの外側面の湾曲度合と一致するようにされた透明な光学樹脂フィルムからなり、各々、前記透明の剥離紙に、並べて貼着したままで、装着状態の前記眼鏡レンズに外側から、前記剥離紙とともに順次指で押し付けて、最適な矯正度数のレンズ膜を選択可能とされ、そのうちの1種類のレンズ膜を前記透明の剥離紙から剥離して、前記左右の眼鏡レンズの少なくとも一方に、レンズ外側から貼着可能とされたことを特徴とする緊急用防災非常用眼鏡セット。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記テンポラリー眼鏡における前記眼鏡レンズに貼着された前記レンズ膜の上に更に貼着可能で、且つ、乱視を矯正可能な少なくとも1種類の乱視矯正用レンズ膜を含んでおり、
前記乱視矯正用レンズ膜は、円柱レンズを円形に切り取った形状であり、最も厚くなっている幅方向中央部を外側にして、透明の剥離紙に、透明の粘着層を介して貼り付けられていて、前記透明な剥離紙に貼着したままで、装着状態の前記眼鏡レンズの前に、前記剥離紙とともに指で押し付けて、その状態で円柱レンズの軸線を円形中心廻りに回転させて調節して、最適な角度位置を決定してから、前記剥離紙から剥離して、前記貼着されているレンズ膜に貼着可能とされたことを特徴とする緊急用防災非常用眼鏡セット。」

第3 原査定の概要
原査定(平成28年8月16日付け拒絶査定)の拒絶の理由は概ね次のとおりである。

本願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された以下の引用文献1ないし3に記載された発明及び引用文献6ないし8に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
本願の請求項4に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された以下の引用文献1ないし3に記載された発明及び引用文献4、6ないし8に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
本願の請求項5に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された以下の引用文献1ないし5に記載された発明及び引用文献6ないし9に記載された周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願の請求項1ないし5に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平5-72504号公報
2.特開2013-101290号公報
3.特開平8-286157号公報
4.特開2005-148147号公報
5.実願平5-3080号(実開平6-55731号)のCD-ROM
6.特開平1-319018号公報
7.登録実用新案第3062534号公報
8.特開平7-261130号公報
9.特表2013-527496号公報

なお、請求項5は、審判請求と同時になされた平成28年11月25日付けの手続補正により削除された。

第4 当審の判断
1 引用文献の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開平5-72504号公報)には、次の事項が記載されている(下線は審決にて付した。)。

ア 「【請求項8】 裏面に付加レンズ添着面を有するゴーグル本体と、単独の光学作用または前記ゴーグル本体との合成的な光学作用により装用者の視力を補正し得る視力補正用付加レンズとから構成され、この視力補正用付加レンズの表面とゴーグル本体のレンズ添着面とが接着剤を用いずに互いに結合されていることを特徴とする視力補正可能なゴーグル。
【請求項9】 前記視力補正用付加レンズがシリコーン系合成樹脂材料を用いた成型方法で成形されたレンズとして構成され、且つ、前記ゴーグル本体のレンズ添着面が、凹の球面または凹の回転対称非球面または平面から形成されていることを特徴とする請求項8に記載の視力補正可能なゴーグル。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えばスポーツ分野や各種の産業分野などで利用される視力補正可能なゴーグルおよびこのゴーグルの視力補正用付加レンズならびに両者の製造方法に関するものである。」

ウ 「【0014】
【発明が解決しようとする課題】ところで、例えばスポーツの分野で広く利用されているような一般的なゴーグルの場合には、その表面または裏面が必ずしも概括一定の曲率には設定されておらず、平面で形成された領域もあれば非球面ないしその他の複雑な面で形成された領域もある、と云った複雑な形状をしているのが普通である。
【0015】そのため、このような一般的なゴーグルに、高い精度を維持しながら視力補正用の付加レンズを張り付けることは容易なことではない。
【0016】ここで問題になるのは、前述した特開平1-319018号公報における開示技術の内容である。
【0017】この特開平1-319018号公報には、ゴーグルをも視力補正の対象とするかのような記載がなされているが、それはあくまで文字面でのことで、形状複雑なゴーグルにどのような方法で付加レンズを張り付けて視度を補正するのかという技術的な開示はなされていない。
【0018】従って、この特開平1-319018号公報に開示された技術を用いて一般的なゴーグルに適合する付加レンズを作るということは、不可能に近いほど困難であり、さらに、それをゴーグル上の必要位置に着脱可能に取付けるということは、それ以上に困難であると云わざるを得ない。
【0019】本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その第1の目的とするところは、裏面にレンズ添着面を有するゴーグル本体と、目的のものを見るのに必要なレンズ度数を有する視力補正用付加レンズとを別体の部材として作製し、この視力補正用付加レンズを接着剤を使用せずに着脱可能にゴーグル本体裏面のレンズ添着面に添着することによって、装用者の視力を補正し得るレンズ度数をゴーグルに付与するように構成した新しい形式の視力補正可能なゴーグルを提供することにある。
【0020】また、本発明の第2の目的とするところは、この視力補正可能なゴーグルの構成部材である透明で吸着性に優れ且つ光学性能の良好な視力補正用付加レンズを提供することにある。」

エ 「【0023】
【課題を解決するための手段】上記第1の目的を達成するために、請求項8に記載の発明は、裏面に付加レンズ添着面を有するゴーグル本体と、単独の光学作用または前記ゴーグル本体との合成的な光学作用により装用者の視力を補正し得る視力補正用付加レンズとから構成され、この視力補正用付加レンズの表面とゴーグル本体のレンズ添着面とが接着剤を用いずに互いに結合されていることを特徴としたものである。
【0024】また、上記第2の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、表面がゴーグル本体の裏面に形成された凹の球面または凹の回転対称非球面あるいは平面に密着的に添着可能な面として形成され、その裏面が装用者の視力を補正し得るレンズ度数を実現するための凹の光学作用面として形成されていると共に、透明且つ軟質で吸着性を有するレンズ用合成樹脂材料で構成されていることを特徴としたものである。」

オ 「【0027】
【作用】上記のように構成されたゴーグルは、ゴーグル本体とこのゴーグル本体の裏面に添着される視力補正用付加レンズとをもって視力補正可能に構成してある。
【0028】前記ゴーグル本体を、有効視野領域の全部または一部がレンズ度数を付与された光学作用領域またはレンズ度数を有しない無作用領域として形成し、しかも、この光学作用領域または無作用領域の裏面を凹の球面または凹の回転対称非球面または平面から成るレンズ添着面として形成する。
【0029】予め測定した装用者の視力に対する処方に基づいて前記視力補正用付加レンズのレンズ度数を光学計算するか、この処方と装用する前記ゴーグル本体の光学情報およびフレーム情報とに基づいて前記ゴーグル本体と視力補正用付加レンズとの合成レンズ度数を光学計算して、前記視力補正用付加レンズに係るレンズ度数の光学計算値を決定する。
【0030】前記視力補正用付加レンズを、透明且つ軟質で吸着性を有するレンズ用合成樹脂材料、例えばシリコーン系樹脂材料を使用し、これを成型加工法で成形する。その視力補正用付加レンズの表面を前記ゴーグル本体裏面のレンズ添着面に実質的に適合し得る形状に形成すると共に、その裏面を、前記特定された光学計算値に基づくレンズ度数を実現し得る凹の光学作用面として形成する。
【0031】前記視力補正のための処方と少なくとも前記ゴーグル本体のフレーム情報とに基づいて、前記ゴーグル本体の裏面上における視力補正用付加レンズの添着位置を光学的にレイアウトすると共に、気泡の予防のためにこの添着位置に界面活性剤層を形成する。
【0032】前記視力補正用付加レンズを、このレイアウトされた前記ゴーグル本体の裏面上の添着位置に接着剤を用いずに直接添着し、または、上記の界面活性剤層で浸潤状態にある添着位置に接着剤を用いずに添着する。
【0033】一方、上述のものとは異なる構成の視力補正可能なゴーグルは、例えば需要予測などに従ってレンズ度数の異なる複数種類の視力補正用付加レンズを決定し、および/または、ゴーグル本体の光学情報またはフレーム情報の違いに対応させた複数種類の視力補正用付加レンズを決定し、決定された複数種類の視力補正用付加レンズを前述の要領に従って多数個作製すると共に、それらを適宜にストックしておくものである。
【0034】即ち、視力の補正を望む装用者によりゴーグル本体が選択される際に、装用者の視力を補正し得るレンズ度数を有する視力補正用付加レンズを前記ストックされた視力補正用付加レンズ群の中から選択する。
【0035】この選択された視力補正用付加レンズを、接着剤を用いずに前記ゴーグル本体の裏面上にレイアウトされた添着位置に添着して、視力補正可能なゴーグルを完成させる。」

カ 「【0044】この場合、付加レンズ20の凸側の球面である添着面R_(1)をゴーグル本体10A・10Bの裏面R_(q)に設定したのは、付加レンズ20をゴーグル本体の表面に添着すると、ゴーグル本体の表面に外力が加わった際に付加レンズ20が剥れ易くなり、また、塵埃の影響を受けて汚れ易くなって外観上の問題を生じるので、これらを防止するためである。」

キ 「【0045】以下、図示実施例について、その構成および製造方法を説明する。
[I] レンズ度数の付与されたゴーグル本体が選択された場合。
【0046】装用者等が、例えば図2に示すような一体成形タイプであって且つレンズ度数の付与されたゴーグル本体10Aを選択したと仮定すると、レンズ度数の付与されたゴーグル本体10A自身が眼鏡を構成する光学系の第一の光学要素となり、これに添着される付加レンズ20が眼鏡を構成する第二の光学要素となるから、製造される視力補正可能なゴーグルは、光学的に見て2つのレンズを組み合わせた複合レンズを有するゴーグルとなる。」

ク 「【0107】例えば、統計的に需要が多いと考えられる複数種類の付加レンズを、予め、異なるレンズ度数毎、および/または、異なるゴーグル本体の形態毎にセミフィニッシュレンズの状態またはフィニッシュレンズの状態で作製して、それらをストックして置き、ゴーグル本体が選択されたときに、装用者のそのときの処方に適合したレンズ度数を有する付加レンズを選択し、または、選択されたゴーグル本体の形態(特に、裏面曲率)に適合した付加レンズを選んで、その選択された付加レンズを、接着剤を用いずにゴーグル本体に添着するようにしてもよい。この方法を用いると、経済的で且つ納期が短縮出来るという効果を生じる。」

ケ 「【0113】従って、本発明の視力補正可能なゴーグルでは、年を取って近視や遠視のレンズ度数が進行したり、また、近視や遠視から老視に変化したようなときに、単に視力補正用付加レンズだけを換えるだけで、しかも、簡単な操作で視力を補正することが出来るという効果を奏する。」

コ 上記アないしケ(特にア)によると、引用文献1には、視力補正用付加レンズとゴーグル本体との合成的な光学作用により装着者の視力を補正するゴーグルとして、以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「裏面に付加レンズ添着面を有するゴーグル本体と、前記ゴーグル本体との合成的な光学作用により装用者の視力を補正し得る視力補正用付加レンズとから構成され、この視力補正用付加レンズの表面とゴーグル本体のレンズ添着面とが接着剤を用いずに互いに結合されている視力補正可能なゴーグルであって、
前記視力補正用付加レンズがシリコーン系合成樹脂材料を用いた成型方法で成形されたレンズとして構成され、且つ、前記ゴーグル本体のレンズ添着面が、凹の球面または凹の回転対称非球面または平面から形成されている視力補正可能なゴーグル。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2013-101290号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
度入りで変形可能なソフトレンズと、
前記ソフトレンズの所定の一面に形成され、再剥離性粘着機能を有し、透光性の高い粘着層と、
を備え、他のレンズに前記粘着層で貼付することにより前記ソフトレンズの有している視力矯正機能を前記他のレンズに付加させることができる貼付レンズであって、
前記ソフトレンズの外縁の所定位置に、外方に突出するつまみ片が形成されていることを特徴とする貼付レンズ。
……
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の度の異なる複数の貼付レンズと、
該複数の貼付レンズが並べて貼付されるプレートと、
を備える貼付レンズセットであって、
前記プレートは、
透光性の高い素材で形成され、
前記貼付レンズが貼付される複数の貼付部と、
前記貼付部の近傍に前記貼付レンズの度数を表す表示が記載された度数表示部と、
を備えることを特徴とする貼付レンズセット。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、平面レンズなどに着脱自在な度入りの貼付レンズと、様々な度数の貼付レンズを備える貼付レンズセットと、に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡店などでは平面レンズ(度無しのレンズ)を眼鏡フレームに装着した状態で陳列することが多い。客は、陳列されている眼鏡フレームの中から嗜好にあったものを選択し、着用した状態を鏡などに映して自分に似合っているか否か確認する。しかしながら、近眼の客などは、伊達眼鏡(平面レンズが装着された眼鏡)を着用した状態で鏡を見ても焦点が合わずにぼやけてしまい、自分に似合っているか否かを確認することが困難である。鏡に映った姿を確認するために自分の所有している眼鏡を伊達眼鏡に重ねて着用する光景も見られるが、眼鏡を重ねてしまっては選択した眼鏡フレームが自分に似合っているか否かが分からず、選択した眼鏡フレームの商品イメージが崩れてしまうこともある。
【0003】
このような問題点を解決する方法として、フックなどが設けられた度入りレンズを伊達眼鏡に重ねることが考えられるが、厚みのあるレンズを重ねてしまっては着用している眼鏡フレームの見た目が変ってしまう虞がある。なお、伊達眼鏡に度入りレンズや度入りフィルムを取り付ける技術は既に提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
……
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みて成されたものであり、使用したことがないユーザであっても他のレンズに容易に着脱(着けたり剥がしたり)でき、眼鏡店などで客(ユーザ)がレンズの機能を容易に把握することができ、かつ、伊達眼鏡等に装着しても眼鏡フレームの商品イメージを損なうことがない貼付レンズと、度の異なる複数の貼付レンズを備えてなる貼付レンズセットと、を提供することを目的としている。」

ウ 「【0020】
また、本発明の貼付レンズセットは、プレートが透光性の高い素材で形成されているため、プレート上に貼付レンズを並べて貼付した状態のまま、ユーザは自分の視力にあったレンズを見つけることができる。」

エ 「【0023】
本発明の貼付レンズ1は、伊達眼鏡やサングラスなどのレンズに着脱自在な度入りのレンズである。そして、この貼付レンズ1は、伊達眼鏡やサングラスなどのレンズに貼付することで視力矯正機能を追加させることができるものである。この貼付レンズ1は、図1(a)および(b)に示すように、視力矯正機能を備えたソフトレンズ11と、ソフトレンズ11の所定の一面に形成された粘着層12とからなる。」

オ 「【0034】
この貼付レンズセット100は、プレート101が透明な樹脂で形成されているため、ユーザがプレート101に貼付レンズ1が並べて貼付された状態のままで自分の目にあてがうことにより、自分の視力に合ったレンズを選択することができる。また、プレート101は、表面が滑らかな素材で形成されているため、ユーザは貼付レンズ1を容易に着脱することができる。さらに、プレート101に貼付レンズ1が貼付された状態のままでセットで商品化することができる。よって、眼鏡店等、不特定多数の人間が視力矯正レンズを必要とするような環境において、利便性の高い商品を提供できることとなる。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(特開平8-286157号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 眼鏡体におけるレンズ部の内側面へ、視力矯正用レンズを添着したことを特徴とする簡易眼鏡。
【請求項2】 眼鏡体におけるレンズ部の内側面へ、視力矯正用レンズを着脱自在に添着してなり、視力矯正用レンズは、その一側面または両側面に所定の焦点補正面を有する主体と、該主体の周部に設けたレンズ部の内側面への添着部とを備えさせたことを特徴とする簡易眼鏡。
【請求項3】 視力矯正用レンズは、可撓性を有するシート状に形成したことを特徴とする請求項1または2記載の簡易眼鏡。
【請求項4】 視力矯正用レンズは、可撓性を有するシート状に形成し、主体の添着部には剥離シートを貼着させたことを特徴とする請求項2記載の簡易眼鏡。
【請求項5】 視力矯正用レンズは、度数の異なるあるいは同一度数の複数のレンズ部材を積層して、このレンズ部材の一個または複数個の組合せにより構成したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の簡易眼鏡。」

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、視力補正のされていないサングラスやゴーグル,水中メガネのレンズ部に簡単に貼り付けて、視力矯正を行なうことができる簡易眼鏡およびその製造方法に関する。」

ウ 「【0025】また、前記した視力矯正用レンズ2の主体6は、その度(〔D〕ジオプトリー)を、+(凸レンズ)0.25?+10.00,-(凹レンズ)0.25?-10.00程度の範囲内で、0.25?1.00づつ所定の度のステップに設けられる。」

エ 「【0030】更に、この視力矯正用レンズ2は、図7に示すように、あらかじめ、度数(レンズパワー)の異なるあるいは同一度数の複数のレンズ部材2a,2a…を積層して、このレンズ部材2aの一個または複数個の組合せにより構成することもあるもので、これにより、任意の度数の簡易眼鏡Aの形成が可能になる。」

(4)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4(特開2005-148147号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0003】
ところで、コンタクトレンズには、装用時における向きを周方向で特定する必要のあるものがある。例えば、乱視矯正用に用いられるトーリックコンタクトレンズでは、円柱レンズの軸(以下、トーリック軸という)を装用眼の乱視軸に合わせることが必要となる。そこで、トーリックコンタクトレンズでは、一般に、レンズ後面をトーリック形状として円柱レンズ度数を付与する一方、レンズ前面をバラスト形状として装用時の周方向位置を特定するようにした構造が採用されている。……」

(5)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献6(特開平1-319018号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「本発明は、眼鏡レンズ,ゴーグル眼鏡レンズおよび水中眼鏡レンズの一部分に屈折力を有する軟質合成樹脂製レンズを密着せしめてなる視力矯正用レンズに関するものである。」(1頁右欄11ないし14行)

イ 「本発明は、眼鏡装用者の装用する眼鏡レンズの表面または裏面の何れか一方の面を軟質合成樹脂製レンズ装着側用のモールドとして使用し、感光性樹脂モノマーを重合硬化させてつくることを特徴とする視力矯正用レンズである。」(3頁左上欄11ないし15行)

(6)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献7(登録実用新案第3062534号公報)には、次の事項が記載されている。

「 【0005】
本考案は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、眼鏡用レンズを交換することなく、その度数を簡易且つ部分的に調整できる眼鏡度数調整シートを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本考案者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、眼鏡用レンズの表面及び/又は裏面の一部に、レンズ機能を有するシートを積層することにより、上記目的が達成できることを見出し、本考案を完成するに至った。」

(7)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献8(特開平7-261130号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「【0007】請求項1では、ポリエステル等のフイルム基材(1)にアクリル系の粘着層(2)とウレタン系特殊エラストマー粘着層(3)を積層してなる再剥離性粘着機能を有する眼鏡用機能シート(4)に於いて、予め眼鏡(5)のレンズ(6)大に切断された眼鏡用機能シート(4)を該眼鏡(5)のレンズ(6)の表又は裏側に着脱自在に取り付けられるようにした透明の再剥離性粘着機能を有する眼鏡用機能シート(4)である。」

イ 「【0015】請求項9では、ポリエステル等のフイルム基材(1)に老眼又は近眼用フラットレンズ(7)機能を付与したことを特徴とする請求項1・2・3・4・5・6・7・8記載の眼鏡用機能シート(4)である。」

2 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「ゴーグル本体」が「眼鏡レンズ」を含む「眼鏡レンズ部」を有することは技術常識に照らし明らかであるから、引用発明の「ゴーグル本体」と本願発明1の「テンポラリー眼鏡」とは、「眼鏡レンズ部を有してなる」「眼鏡」である点で共通する。

イ 引用発明の「視力補正用付加レンズ」は、「前記ゴーグル本体との合成的な光学作用により装用者の視力を補正し得る」ものであって、「シリコーン系合成樹脂材料を用いた成型方法で成形されたレンズとして構成され」ているから、本願発明1の「前記眼鏡レンズに、1枚又は2枚重ねで貼着可能で、且つ、視力を矯正可能な度数を有する」「レンズ膜」に相当し、「レンズ膜」は、「透明な光学樹脂フィルムからな」るとの構成も備えている。

ウ 引用発明の「ゴーグル本体」と「視力補正用付加レンズ」とから構成される「視力補正可能なゴーグル」と、本願発明1の「テンポラリー眼鏡」と「レンズ膜セット」と「前記テンポラリー眼鏡と前記レンズ膜セットとを収納するパッケージ」とを含んでなる「緊急用防災非常用眼鏡セット」とは、「眼鏡とレンズ膜との組合せ」である点で共通する。

エ 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「眼鏡レンズ部を有してなる眼鏡と、前記眼鏡における前記眼鏡レンズに、1枚又は2枚重ねで貼着可能で、且つ、視力を矯正可能な度数を有するレンズ膜との組合せであって、
レンズ膜は、透明な光学樹脂フィルムからなる、
眼鏡とレンズ膜との組合せ。」

オ 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明1では、眼鏡は、左右の眼鏡レンズを一体として構成される透明樹脂製の眼鏡レンズ部及びテンプル部を有してなるテンポラリー眼鏡であり、左右の眼鏡レンズは、低近視度又は高近視度の視力矯正用レンズからなるのに対し、引用発明では、その材質や具体的構成が特定されていないゴーグル本体であって、眼鏡レンズの度数も特定されていない点。

<相違点2>
本願発明1は、テンポラリー眼鏡と、レンズ膜が透明の剥離紙に、透明の粘着層を介して貼り付けられているレンズ膜セットと、前記テンポラリー眼鏡と前記レンズ膜セットとを収納するパッケージと、を含んでなる緊急用防災非常用眼鏡セットであって、
前記レンズ膜セットは、前記左右の眼鏡レンズのレンズ度数を-0.5D変化させる機能を備えた第1の近視用レンズ膜、レンズ度数を-1.0D変化させる機能を備えた第2の近視用レンズ膜、レンズ度数を-1.5D変化させる機能を備えた第3の近視用レンズ膜、を少なくとも含んでなるのに対し、
引用発明では、視力補正用付加レンズの表面とゴーグル本体のレンズ添着面とが互いに結合されている視力補正可能なゴーグルである点。

<相違点3>
本願発明1では、レンズ膜は、レンズ内側の湾曲度合が眼鏡レンズの外側面の湾曲度合と一致するようにされ、各々、透明の剥離紙に、並べて貼着したままで、装着状態の眼鏡レンズに外側から、剥離紙とともに順次指で押し付けて、最適な矯正度数のレンズ膜を選択可能とされ、そのうちの1枚又は2枚の近視用レンズ膜を透明の剥離紙から剥離して、左右の眼鏡レンズの少なくとも一方に、レンズ外側から貼着可能とされるのに対し、
引用発明では、視力補正用付加レンズの表面とゴーグル本体の裏面のレンズ添着面とが接着剤を用いずに互いに結合されており、ゴーグル本体のレンズ添着面が、凹の球面または凹の回転対称非球面または平面から形成されている点。

(2)判断
事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。
引用文献1には、複数種類の視力補正用付加レンズを多数個作製すると共に、それらを適宜にストックしておき、視力の補正を望む装用者によりゴーグル本体が選択される際に、装用者の視力を補正し得るレンズ度数を有する視力補正用付加レンズをストックされた視力補正用付加レンズ群の中から選択することが記載されている(段落【0033】ないし【0034】、【107】。上記1(1)オ、クを参照。)。
また、引用文献2には、度の異なる複数の貼付レンズと該複数の貼付レンズが並べて貼付される透光性の高い素材で形成されたプレートとを備える貼付レンズセットが記載されている(上記1(2)アを参照)。
しかし、眼鏡と、レンズ膜セットと、眼鏡とレンズ膜セットとを収納するパッケージと、を含んでなる眼鏡セットとの本願発明1の構成は、引用文献1及び2には記載も示唆もされておらず、眼鏡の流通、保管又は販売形態として普通に採用されているとも認められない。そして、本願発明1は、当該構成を備えることにより、災害等に備えて緊急用防災非常用眼鏡セットとして備蓄しておくことができるものである(本願明細書段落【0049】)。
なお、引用文献3は、原査定において、眼鏡のレンズ部に複数のレンズ部材を積層して装着することが公知であること等を示す証拠として引用されたものであり、引用文献6ないし8は、眼鏡のレンズ部の表面又は裏面のどちらに付加レンズを付与しても視力が矯正できることが周知技術であることを示す証拠として引用されたものであって、いずれも引用発明において、眼鏡と、レンズ膜セットと、眼鏡とレンズ膜セットとを収納するパッケージと、を含んでなる眼鏡セットとすることを教示するものではない。
したがって、上記相違点1及び3については検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1ないし3に記載された発明及び引用文献6ないし8に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし4について
本願発明2及び3はいずれも、テンポラリー眼鏡と、レンズ膜セットと、テンポラリー眼鏡とレンズ膜セットとを収納するパッケージと、を含んでなる緊急用防災非常用眼鏡セットを特定事項とするものであるから、上記本願発明1についての判断と同様の理由により、引用文献1ないし3に記載された発明及び引用文献6ないし8に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本願発明4は、本願発明1ないし3のいずれかをさらに限定したものであるところ、引用文献4は乱視矯正レンズとして円柱レンズを使用することが周知技術であることを示す証拠として引用されたものであるから、上記本願発明1についての判断と同様の理由により、引用文献1ないし3に記載された発明及び引用文献4、6ないし8に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-11 
出願番号 特願2014-74654(P2014-74654)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山▲崎▼ 和子小西 隆  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
中田 誠
発明の名称 緊急用防災非常用眼鏡セット  
代理人 松山 圭佑  
代理人 牧野 剛博  
代理人 須藤 修三  
代理人 藤田 崇  
代理人 高矢 諭  

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