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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1332071
審判番号 不服2015-20475  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-17 
確定日 2017-09-06 
事件の表示 特願2013-523435号「カテーテルシースおよび製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年2月16日国際公開、WO2012/019225、平成25年8月22日国内公表、特表2013-533065号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2011年(平成23年)8月12日(パリ条約による優先権主張 2010年(平成22年)8月13日、(US)アメリカ合衆国 2010年(平成22年)11月1日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成27年1月30日付けで拒絶の理由が通知され、同年4月15日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲について補正がなされたが、同年7月16日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成27年11月17日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされ、その後平成28年8月24日付けで当審より拒絶の理由が通知され、同年11月17日に意見書とともに手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記平成28年11月17日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認めるところ、その記載は以下のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】
カテーテルシースを製造する方法において、
近位端および遠位端を有する非導電材料の管状部材を提供するステップであって、前記管状部材が、前記管状部材内を前記近位端から前記遠位端まで延在する1つまたは複数の電気伝導体をさらに有する、ステップと、
前記管状部材内の前記少なくとも1つの電気伝導体にアクセスするために、前記管状部材の外壁に少なくとも1つの開口部を形成するステップと、
少なくとも1つの導電要素を前記管状部材の前記外壁に、前記少なくとも1つの電気伝導体と導電接続して、前記少なくとも1つの導電要素が前記開口部に隣接しかつそれを包囲しているように取り付けるステップと、
前記管状部材および前記少なくとも1つの導電要素を、前記導電要素が熱収縮せずに、前記管状部材が前記少なくとも導電要素の周囲において局所的に溶融して前記導電要素の各縁に沿ってシールを形成するように、誘導加熱による熱によって処理するステップと、
を含むことを特徴とする方法。」

第3 引用文献記載の発明又は事項
これに対して、当審での平成28年8月24日付けの拒絶の理由に引用された、本件の優先日前に頒布されたまたは電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である国際公開第2010/063078号(引用文献1)、米国特許第5485667号明細書(引用文献2)には、以下の発明又は事項が記載されていると認められる。
1 引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、「AN IRRIGATION CATHETER AND A METHOD OF FABRICATING」(灌流カテーテールおよび製造方法)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の和文は、対応国内移行出願の公表公報である特表2012-510831号を参考にした、当審による仮訳である。

(ア)「This disclosure relates, generally, to catheters and, more particularly, to a method of fabricating a catheter sheath for an irrigation catheter and to a catheter sheath made in accordance with the method.」(1頁7?10行)(この開示は、全体として、カテーテルに関し、特に、灌流カテーテル用のカテーテルシースを製造する方法、および、該方法にしたがって形成されるカテーテルシースに関する。)

(イ)「 In the drawings, reference numeral 10 generally designates an embodiment of a catheter sheath. The sheath 10 comprises an elongate member 12 having a proximal end and a distal end and defining a lumen 14 extending from the proximal end to the distal end. At least one electrode 16 is arranged on the elongate member 12.
While reference has been made to only one electrode 16, it will be appreciated that, generally, the catheter sheath 10 has a plurality of axially spaced electrodes 16. 」(6頁20?25行)(図中、参照符号10は、カテーテルシースの一実施形態を全体的に示している。シース10は、基端と先端とを有しかつ基端から先端へ延びるルーメン14を形成する長尺部材12を備える。少なくとも1つの電極16が長尺部材12に配置される。
1つの電極16のみについて言及されるが、一般に、カテーテルシース10が軸方向に離間する複数の電極16を有することは言うまでもない。)

(ウ)「Thus, a pair of conductors 18 is used for transmission of detected signals at a site in a patient's body where the electrode 16 is located and/or for the transmission of ablation energy, such as radio frequency (RF) energy, to the site.」(7頁4?7行)(このように、一対の導電体18は、電極16が配置される患者の身体内の部位での検出信号の伝達のため、および/または、無線周波数(RF)エネルギなどの焼灼エネルギの上記部位への伝達のために使用される。)

(エ)「With reference to Figs. 2a-2f, an embodiment of a method of fabricating an irrigation catheter is described in greater detail. Initially, as shown in Fig. 2a, an inner, tubular member 30 is provided. The tubular member 30 is made from a suitable polymeric material such as polyethylene or polyether block amide (PEBAX). ・・・
Initially, a plurality of conductors 18 and non-conductive elements 20 are helically wound about an outer surface of the tubular member 30 as shown in Fig. 2b. ・・・
An outer layer 32 is applied over the elongate elements 18, 20 as shown in Fig.2c of the drawings. ・・・Once the outer layer 32 has been applied, the elongate member 12 is complete.・・・
The outer layer 32 is formed of a similar material to the tubular member 30 but is, preferably, of a light-transparent material so that the elongate elements 18, 20 can be seen through the outer layer to enable the conductors 18 and the elements 20 to be accessed. When the outer layer 32 is applied as an extrusion in the form of a jacket, the elongate member 12 comprising the inner member 30, the elongate elements 18, 20 and the outer layer 32 are heat treated to secure the outer layer 32 to the tubular member 30 and to the elongate elements 18, 20. In so doing, the elongate elements 18, 20 are effectively sandwiched between the inner, tubular member 30 and the outer layer 32 to be embedded in the wall 26 of the elongate member 12. 」(7頁20行?8頁15行)(図2a?図2fを参照して、灌流カテーテルを製造する方法の一実施形態についてさらに詳しく説明する。最初に、図2aに示されるように、内側の管状部材30が設けられる。該管状部材30は、ポリエチレンまたはポリエーテルブロックアミド(PEBAX(登録商標))などの適切な高分子材料から形成される。・・・
最初に、図2bに示されるように、複数の導電体18および非導電要素20が管状部材30の外面の周囲に螺旋状に巻回される。・・・
図面の図2cに示されるように、外層32が長尺要素18,20上を覆って施される。・・・外層32が施されると、長尺部材12が完成する。・・・
外層32は、管状部材30と同様の材料から形成されるが、導電体18および要素20にアクセスできるべく外層を通じて長尺要素18、20を見ることができるように透光材料から成ることが好ましい。
外層32がジャケットの形態を成す押出成形体として施されると、内側部材30、長尺要素18,20、および、外層32を備える長尺部材12は、外層32を管状部材30および長尺要素18,20に対して固定するために加熱処置される。その際、長尺要素18,20は、内側の管状部材30と外層32との間に効果的に挟まれて、長尺部材12の壁26中に埋め込まれる。)

(オ)「To form each electrode 16 on the elongate member 12, the desired conductors18 are accessed by forming an opening 34 in the outer layer 32 as shown in Fig. 2d of the drawings. 」(8頁18?21行)(長尺部材12上にそれぞれの電極16を形成するため、図面の図2dに示されるように外層32に開口34を形成することにより所望の導電体18がアクセスされる。)

(カ)「After removal of the portion 36 of the outer layer 32 of the elongate member 12, the exposed conductors 18 are covered with an electrically conductive adhesive 36 which is charged into the opening 34 substantially to fill the opening 34.・・・
As shown in Fig. 2f of the drawings, the method further comprises the step of covering the electrically conductive adhesive with a further layer 38 of an electrically conductive material. ・・・
Once the layer 38 has been formed over the adhesive 36, the layer 38 can be used as an electrode. Such an electrode can be used for sensing purposes. ・・・
In another embodiment, not shown, a ring is applied over the layer 38 and is secured in position by appropriate techniques such as, for example, crimping, adhesive or other securing techniques to form the final electrode 16 of the catheter sheath 10.」(8頁26行?9頁23行)(長尺部材12の外層32の一部分36の除去後、露出された導電体18が導電性の接着剤36で覆われ、該導電性の接着剤は開口34をほぼ満たすように開口34に充填される。・・・
図面の図2fに示されるように、方法は、導電性の接着剤を導電材料の更なる層38で覆うステップを更に備える。・・・
層38が接着剤36上に形成されたら、層38を電極として使用することができる。そのような電極は検出目的で使用できる。・・・
図示しない他の実施形態では、層38上にリングが施され、該リングは、カテーテルシース10の最終的な電極16を形成するために、例えば圧着、接着、または、他の固定技術などの適切な技術によって所定位置に固定される。)

(キ)「In the fabrication of this embodiment of the catheter sheath 10, after the winding 44 has been applied to the tubular member 30, a sleeve 50 of a plastics material is applied over the winding 44 to insulate the winding from the subsequently applied conductors 18. ・・・
The sleeve 50 is of a similar material to the tubular member 30 such as PEBAX , but is of a softer grade than that of the tubular member 30 as well as the outer layer 32 to maintain the flexibility of the elongate member 12.(10頁28行?11頁2行)(カテーテルシース10のこの実施形態の製造では、巻線44が管状部材30に施された後、その後に施される導電体18から巻線を絶縁するために、プラスチック材料のスリーブ50が巻線を覆って施される。・・・
スリーブ50は、PEBAX(登録商標)などの管状部材30と同様の材料から成るが、長尺部材12の柔軟性を維持するために管状部材30および外層32のグレードよりも柔らかいグレードを有する。)

(ク)図4は、カテーテルシースの先端部の側面図であり、長尺部材12の先端に電極16が設けられていることが看取できる。

(ケ)摘記事項(キ)の「導電体18から巻線を絶縁するために、プラスチック材料のスリーブ50が巻線を覆って施される。・・・スリーブ50は、PEBAX(登録商標)などの管状部材30と同様の材料から成る」との記載から見て、スリーブ50は非導電材料からなり、それと同様の材料から成る管状部材30も非導電材料からなるものといえ、さらに摘記事項(エ)の「導電体18」と「長尺要素18」とが同一のものを指すことは明らかである。また、図示内容(ク)のように長尺部材12の先端に電極16が設けられていることから当該電極に接続する導電体18は先端まで延在していることが明らかである。さらに、摘記事項(エ)の「長尺要素18,20は、内側の管状部材30と外層32との間に効果的に挟まれて、長尺部材12の壁26中に埋め込まれる」との記載からみて、導電体18は長尺部材12内に延在するものといえる。これらを踏まえて、同(ア)「この開示は、全体として、カテーテルに関し、特に、灌流カテーテル用のカテーテルシースを製造する方法・・・に関する。」、同(イ)「シース10は、基端と先端とを有しかつ基端から先端へ延びるルーメン14を形成する長尺部材12を備える。少なくとも1つの電極16が長尺部材12に配置される。」との記載をみれば、引用文献1には「カテーテルシースを製造する方法において、基端と先端とを有する非導電材料の長尺部材を提供するステップであって、前記長尺部材が、前記長尺部材内を前記先端まで延在する1つまたは複数の導電体を有する、ステップ」が記載されているといえる。

(コ)摘記事項(オ)の「長尺部材12上にそれぞれの電極16を形成するため・・・図2dに示されるように外層32に開口34を形成することにより所望の導電体18がアクセスされる。」との記載からみて、引用文献1には「長尺部材内の少なくとも1つの導電体にアクセスするために、前記長尺部材の外層に開口を形成するステップ」が記載されているといえる。

(サ)摘記事項(カ)の「リングは、カテーテルシース10の最終的な電極16を形成する」ことを踏まえ、同(カ)の「長尺部材12の外層32の一部分36の除去後、露出された導電体18が導電性の接着剤36で覆われ、該導電性の接着剤は開口34をほぼ満たすように開口34に充填される。・・・導電性の接着剤を導電材料の更なる層38で覆うステップを更に備える。・・・層38上にリングが施され」との記載をみると、導電体18は導電性の接着剤で覆われ、その導電性の接着剤は導電材料の更なる層38で覆われ、さらに当該層38上に電極16であるリングが施されるのであるから、導電体18はリングと導電接続されていることが理解できる。また、該リングは長尺部材12の外層32の一部分36を除去した位置、つまり開口34上にあり、該リングは開口34に隣接しかつそれを包囲しているということができる。さらに、開口34の周囲には外層32が存在しているのであるから、該リングは長尺部材12の外層32に取り付けられるといえる。してみると、引用文献1には「少なくとも1つの導電体を長尺部材の外層に、電極を形成する少なくとも1つのリングと導電接続して、前記少なくとも1つのリングが開口に隣接しかつそれを包囲しているように取り付けるステップ」が記載されているといえる。

(2)引用文献1発明
引用文献1の摘記事項(ア)ないし(キ)及び図示内容(ク)および認定事項(ケ)ないし(サ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用文献1発明」という。)

「カテーテルシースを製造する方法において、
基端と先端とを有する非導電材料の長尺部材を提供するステップであって、前記長尺部材が、前記長尺部材内を前記先端まで延在する1つまたは複数の導電体を有する、ステップと、
長尺部材内の少なくとも1つの導電体にアクセスするために、前記長尺部材の外層に開口を形成するステップと、
少なくとも1つの導電体を前記長尺部材の前記外層に、電極を形成する少なくとも1つのリングと導電接続して、前記少なくとも1つのリングが前記開口に隣接しかつそれを包囲しているように取り付けるステップと、
を含む方法。」

2 引用文献2
(1)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、METHOD FOR ATTACHING A MARKER TO A MEDICAL INSTRUMENT」(医療器具にマーカを取り付けるための方法)に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、括弧内の和文は当審による仮訳である。

(ア)「Yet another object of the present invention is to provide a simple, yet effective, method for attaching a marker device to a medical instrument which avoids the formation of ridges on the outer surface of the instrument.」(3欄16?19行)(さらにこの発明のもう一つの目的は、医療器具の外面における隆起の形成を回避する、医療器具にマーカー装置を取り付けるための単純でありながら効果的な方法を提供することにある。)

(イ)「As shown in FIGS. 7 and 8, the medical instrument 10 includes an extension 12 for insertion into the body of a patient (not shown). In the preferred embodiment, the extension 12 may be a tubular portion of, for example, a catheter, having a passageway 14 for directing fluids or mechanical devices, such as stents, to and from the body of the patient. 」(5欄1?6行)(図7,8に示すように、医療器具10は患者の体内に挿入するための延長部12を含む(図示せず)。好ましい実施形態では、延長部12は、患者の体内から流体またはステントなどの機械装置を導くための通路14を有する管状部分、例えばカテーテルである。)

(ウ)「During use, it is often critical that the distal end 16 of the medical instrument 10 be accurately positioned adjacent the work area within the patient's body which is to be examined or treated. Consequently, medical instrument 10 of the present invention includes a marker 20 formed of a x-ray reflective, or radiopaque, material which may be viewed by the physician via radiography or fluoroscopy. Marker 20 is attached to instrument 10 adjacent distal end 16 so as to accurately mark the position of distal end 16 when exposed to x-rays.
Preferably, marker 20 is a cylindrical band 22 having an outer radial extent 24 and an inner radial surface 25 defining a center bore 34 which terminates at one end 28 and at an opposite end 30. Cylindrical band 22 is embedded in outer radial surface 26 of tubular portion 12 using the novel method described herein below so that outer radial extent 24 extends no further radially outward than outer surface 26 of tubular portion 12. As a result, outer radial surface 26 of the tubular portion 12 is substantially continuous without interruptions or outwardly extending ridges formed by the ends 28, 30 of band 22.
Cylindrical band 22 is formed of a radiopaque material which exhibits anthropomorphic qualities of memory and trainability which is commonly referred to as a shape-memory material. For instance, cylindrical band 22 may be formed of the shape-memory alloy Nitinol which is a very radiopaque nickel titanium alloy. Shape-memory materials are manufactured to transform into, and maintain, an original configuration or shape when the temperature of the material is raised above a selected transition temperature. At certain temperatures lower than the transition temperature, the shape-memory alloy becomes somewhat ductile and can be deformed considerably into a desired deformed configuration. However, when the alloy is heated above the specific transition temperature, the desired original configuration which has been processed into the shape-memory material is restored regardless of the deformed configuration prior to raising the temperature above the transition temperature. ・・・
Cylindrical band 22 of marker 20 is attached to tubular portion 12 by the thermally induced deformation or recovery of the shape-memory alloy from a deformed configuration as shown in FIGS. 3-5 to an original configuration as shown in FIGS. 6-8. As described more fully hereinbelow in relation to the method of the present invention, cylindrical band 22 is securely attached, and embedded into, tubular portion 12 by the thermally induces forces imparted by the band 22 when in the original configuration against outer radial surface 26 of tubular portion 12.
The method of the present invention for attaching marker 20 to tubular portion 12 of medical instrument 10 includes providing a cylindrical band 22 formed of a radiopaque shape-memory material having an outer diameter when in the original configuration of FIGS. 1 and 2 which is substantially equal to or less than the outer diameter of tubular portion 12 as defined by outer radial surface 26. (5欄15行?6欄7行)(使用中に、医療器具10の遠位端16は、検査または治療される患者体内のワークエリアの隣接部位に正確に位置させることが、しばしばきわめて重要である。したがって、この発明の医療器具10は、X線撮影または蛍光透視法を介して医師によって見ることができるX線反射または放射線非透過性の材料からなるマーカー20を含む。マーカー20は、X線に晒されたときに遠位端16の位置を正確に示すよう、医療器具10の遠位端16に隣接して取り付けられる。
好ましくは、マーカー20は、外側半径方向範囲24と内側半径方向範囲25を有し、一方の端28と他方の端30で終わる中央孔34を規定する円筒状のバンド22である。円筒状のバンド22は、外側半径方向範囲24が管状部分12の外側表面26の半径方向外側に延びないように、以下に記載される新規な方法を用いて、管状部分12の外側半径方向表面26に埋め込まれている。その結果、管状部分12の外側半径表面26は、中断やバンド22の端28,30で形成された外側に延びる隆起なしに、実質的に連続している。
円筒状のバンド22は、一般的に形状記憶合金と呼ばれる、記憶と訓練可能性という擬人化された性質を示す、放射線非透過性材料からなる。例えば、円筒状のバンド22は、放射線非透過性の強いニッケルチタン合金であり、形状記憶合金であるニチノールからなる。形状記憶材料は、その材料の温度が選択された変態温度以上にされたときに、元の形状や形に変形し、維持するように製造される。変態温度よりも低い特定の温度において、その形状記憶合金は、やや延性になり、所望の変形形状に大きく変形することができる。しかしながら、特定の変態温度以上に加熱されたとき、その変態温度以上の温度への上昇以前の変形された形状に関わらず、所望の元の形状に回復する。・・・
マーカー20の円筒状のバンド22は、図3-5に示す変形された形状からの、形状記憶合金の熱的に誘起された変形あるいは回復により管状部分12に取り付けられる。以下に、この発明の方法との関係でさらに詳しく記載されるように、バンド22が元の構成にあるときに該バンド22により与えられる、管状部分12の外側半径方向表面26に対する、熱的に誘起される力により、管状部分12に確実に取り付けられ、埋め込まれる。
医療器具10の管状部分12にマーカー20を取り付けるこの発明の方法は、放射線非透過性の形状記憶材料からなり、図1および2の元の形状にあるときに、外側半径方向表面26で示される管状部分12の外径と実質的に同じかそれよりも小さい、ある外径を有する円筒状のバンド22を提供することを含む。)

(エ)「Once band 22 has been deformed from its original configuration into its deformed configuration as represented by deformed cylindrical band 32, deformed band 32 is positioned concentrically around tubular portion 12 adjacent distal end 16 as shown in FIG. 4. It should be understood that the illustrated deformation is exaggerated to include a rather large clearance gap between deformed band 32 and outer surface 26 of tubular portion 12 merely for purposes of clarity. In normal situations, the deformation will probably be considerably less than that illustrated. Typical deformation is, however, sufficient to allow tubular portion 12 to be slid through center bore 34 of band 32 while also permitting band 32 to move into sufficient embedded engagement with tubular portion 12 upon returning to the original configuration when the temperature of the shape-memory material is raised above the transition temperature as explained hereinbelow.
Prior to raising the temperature of the shape-memory material of band 32, a supporting mandrel or rod 36 is inserted through passageway 14 of tubular portion 12 so as to extend longitudinally along band 32 beyond both ends 28 and 30 as shown in FIG. 5. The temperature of the shape-memory material of band 32 is then raised above the predetermined transition temperature of the shape-memory material by heating band 32 using, for example, hot air or induction-type heating. As the shape-memory material of band 32 is raised to a temperature above the transition temperature, the band 32 begins to return to its smaller diameter original configuration by moving radially inward into contact with outer radial surface 26 of tubular portion 12. Continued movement by band 32 radially inwardly causes inner surface 25 of band 32 to press against outer radial surface 26 of tubular portion 12. Simultaneously, the temperature of band 32 is high enough to soften and even melt the thermoplastic polymer material of tubular portion 12 immediately adjacent band 32.
As a result, band 32 sinks into the thermoplastic polymer of tubular portion 12 until it reaches its original configuration as represented by cylindrical band 22 in FIGS. 6-8. 」(6欄27?65行)(バンド22が、元の形状から、変形された円筒状のバンド32に代表される変形された形状に変形されると、変形されたバンド32は、図4に示されるように遠位端16に隣接した管状部分12の周りに同軸状に位置される。図示された変形は、単に明瞭にするために、変形されたバンド32と管状部分12の外側表面26との間に比較的大きな隙間があるように誇張されていることが理解されるべきである。通常の状況では、その変形は図示されているものよりもきわめて小さい。しかしながら、典型的な変形は、管状部分12が、バンド32の中央孔34を通ってスライドするのに十分であり、かつ、形状記憶材料の温度が以下に説明される変態温度以上に上昇されたときに元の形状に戻ることにより、バンド32が管状部分12に十分に埋め込まれた係合となることを可能にする。
バンド32の形状記憶材料の温度が上昇される前に、図5に図示された端28と30を超えてバンド32に沿って長手方向に延びるように、支持マンドレルまたはロッド36が管状部分12の通路14に挿入される。そして、例えば、加熱空気あるいは誘導型の加熱によりバンド32が加熱され、バンド32の形状記憶材料の温度が予め決められた、形状記憶材料の変態温度以上に上昇されると、バンド32は、半径方向内側に変形することにより、管状部分12の外側半径方向表面26に接するように、元の形状の小さな直径に戻り始める。バンド32の半径方向内側への継続的な変形は、バンド32の内側表面25を管状部分12の外側半径方向表面25に押しつける。同時に、バンド32の温度は、バンド32に隣接する管状部分12の熱可塑性ポリマー材料を軟化させ、さらに溶融させるのに十分に高い。
その結果、バンド32は、図6-8の円筒状のバンド22に代表される、元の形状に到達するまで管状部分12の熱可塑性ポリマーの中に沈む。)

(オ)「The present invention has many advantages which include providing a simple and inexpensive method for securely attaching a radiopaque marker to a medical instrument. Since the cylindrical band melts its way into embedded engagement with the medical instrument when moving into a physically rigid configuration, no adhesives or other less dependable securing means must be relied on to hold the band in place. The band is simply more securely attached to the catheter than other conventional methods thereby minimizing risk of inadvertent detachment from the instrument.
Secondly, by sizing the band so that the outer diameter of the original configuration is no greater than the outer diameter of tubular portion 12 of the instrument 10, marker 20 can be effectively attached to instrument 10 without creating any dimensional changes or transitions such as ridges on outer radial surface 26 of tubular portion 12 thereby maintaining a smooth outer radial surface on the instrument 10. A smooth outer surface is advantageous on most medical instruments that are to be inserted into a patient's body since the outer surface must slide against the patient's skin and internal tissue. A smooth outer surface allows the medical instrument to more easily be pushed through a patient's skin or other openings having small clearances while minimizing damage to the patient. 」(7欄30?53行)(この発明は、医療器具に放射線非透過性マーカをしっかりと取り付けるための、単純で安価な方法を含む多くの利点をもたらす。円筒状のバンドが物理的に固定された形状になる時に、医療器具に埋め込まれた係合となるようその個所を溶かすために、バンドを所定位置に保持するための接着剤やその他の信頼性の劣る固定手段を必要としない。バンドは、他の従来の方法に比べ、単純によりしっかりとカテーテルに固定され、機器からの不意の脱落の危険性を最小化する。
第2に、バンドの大きさを、元の形状の外径が器具10の管状部分12の外径よりも大きくないサイズとすることにより、管状部分12の外側半径方向表面の隆起のような外径の変化や推移を生じることなく、マーカー20は器具10に効果的に取り付けられ、器具10の滑らかな外側半径方向表面26を維持する。患者の皮膚や内部組織に対してその外側表面が滑るために、滑らかな外側表面は、患者の体内に挿入されるほとんどの医療器具にとって有益である。滑らかな外側表面は、患者へのダメージを最小化しつつ、小さな隙間の患者の皮膚やその他の開口を通して、医療器具がより簡単に押し入れられることをもたらす。)

(カ)摘記事項(イ)の「医療器具10は患者の体内に挿入するための延長部12を含む(図示せず)。好ましい実施形態では、延長部12は、患者の体内から流体またはステントなどの機械装置を導くための通路14を有する管状部分、例えばカテーテルである。」との記載からみて、同(ウ)の「管状部分12」は同(イ)の「延長部」と同じものを指していることが理解できるから、同(ウ)の「管状部分12」はカテーテルの管状部分であるといえる。

(キ)摘記事項(ウ)の「マーカー20は・・・円筒状のバンド22である。」および「円筒状のバンド22は、放射線非透過性の強いニッケルチタン合金であり、形状記憶合金であるニチノールからなる。」との記載から見て、円筒状のマーカーは形状記憶合金からなることが理解できる。そして、形状記憶合金が導電性であることは自明である。また同「中央孔34を規定する円筒状」の形状であるから、円筒環ということができる。以上を踏まえると、バンドであるマーカーは、導電性の形状記憶合金からなる円筒環ということができる。

(ク)摘記事項(エ)「バンド32の温度は、バンド32に隣接する管状部分12の熱可塑性ポリマー材料を軟化させ、さらに溶融させるのに十分に高い。その結果、バンド32は、図6-8の円筒状のバンド22に代表される、元の形状に到達するまで管状部分12の熱可塑性ポリマーの中に沈む。」との記載からみて、管状部分12は熱可塑性ポリマー材料からなるものといえる。

(ケ)摘記事項(エ)「バンド22が、元の形状から、変形された円筒状のバンド32に代表される変形された形状に変形される・・・バンド32が加熱され・・・形状記憶材料の変態温度以上に上昇されると、バンド32は、半径方向内側に変形することにより・・・元の形状の小さな直径に戻り始める。」との記載から、バンド32は変形された形状のバンドを意味し、バンド22は小さな直径を有する元の形状のバンドを意味することが理解できることを踏まえて、摘記事項(ウ)「マーカー20は、外側半径方向範囲24と内側半径方向範囲25を有し、一方の端28と他方の端30で終わる中央孔34を規定する・・・円筒状のバンド22は、外側半径方向範囲24が管状部分12の外側表面26の半径方向外側に延びないように・・・管状部分12の外側半径方向表面26に埋め込まれている。その結果、管状部分12の外側半径表面26は、中断やバンド22の端28,30で形成された外側に延びる隆起なしに、実質的に連続している。」、同(エ)の「誘導型の加熱によりバンド32が加熱され、バンド32の形状記憶材料の温度が予め決められた、形状記憶材料の変態温度以上に上昇されると、バンド32は、半径方向内側に変形することにより、管状部分12の外側半径方向表面26に接するように、元の形状の小さな直径に戻り始める。バンド32の半径方向内側への継続的な変形は、バンド32の内側表面25を管状部分12の外側半径方向表面25に押しつける。同時に、バンド32の温度は、バンド32に隣接する管状部分12の熱可塑性ポリマー材料を軟化させ、さらに溶融させるのに十分に高い。」、同(オ)の「円筒状のバンドが物理的に固定された形状になる時に、医療器具に埋め込まれた係合となるようその個所を溶かす・・・。」との記載をみると、バンド32は、加熱されて管状部分12の表面26に押しつけられ、隣接する管状部分12の熱可塑性ポリマー材料を溶融させるとともに、さらに、その加熱の結果、管状部分12の表面26は、バンド22の端28,30で形成された外側に延びる隆起のない状態となるのであるから、引用文献2には、管状部分が少なくとも円筒環の周囲において局所的に溶融して、円筒環が管状部分12の表面に円筒環の端に隆起が生じることなく埋め込まれた係合となるように、管状部分12および円筒環を誘導加熱による熱によって処理することが記載されているといえる。

(2)引用文献2発明
引用文献2の摘記事項(ア)ないし(オ)及び認定事項(カ)ないし(ケ)を図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用文献2発明」という。)

「カテーテルの管状部分に対して、導電性の形状記憶合金からなるマーカーである円筒環を係合する際に、熱可塑性ポリマー材料からなる管状部分が少なくとも円筒環の周囲において局所的に溶融して、円筒環が管状部分の表面に円筒環の端に隆起が生じることなく埋め込まれた係合となるように、管状部分および円筒環を誘導加熱による熱によって処理すること」

第4 対比
本願発明と引用文献1発明とを対比すると、引用文献1発明の「基端」は、その文言の意味、機能または構成等からみて、本願発明の「近位端」に相当する。以下同様に、「先端」は「遠位端」に、「長尺部材」は「管状部材」に、「導電体」は「電気伝導体」に、「外層」は「外壁」に、「開口」は「開口部」に、「電極を形成するリング」は「導電要素」に相当することも明らかである。

以上を踏まえて本願発明について検討すると、本願発明と引用文献1発明との間の一致点及び相違点はそれぞれ次のように整理することができる。

<一致点>
「カテーテルシースを製造する方法において、
近位端および遠位端を有する非導電材料の管状部材を提供するステップであって、前記管状部材が、前記管状部材内を前記先端まで延在する1つまたは複数の電気伝導体をさらに有する、ステップと、
前記管状部材内の前記少なくとも1つの電気伝導体にアクセスするために、前記管状部材の外壁に少なくとも1つの開口部を形成するステップと、
少なくとも1つの導電要素を前記管状部材の前記外壁に、前記少なくとも1つの電気伝導体と導電接続して、前記少なくとも1つの導電要素が前記開口部に隣接しかつそれを包囲しているように取り付けるステップと、
を含む方法。」

そして、本願発明と引用文献1発明とは、以下の2点で相違している。

<相違点1>
管状部材内の電気伝導体の始点に関し、本願発明は、管状部材内の電気伝導体が該管状部材の近位端から延在するのに対して、引用文献1発明は、長尺部材内の導電体が該長尺部材のどこから延在しているのか明らかでない点。

<相違点2>
管状部材及び少なくとも1つの導電要素の処理に関し、本願発明は、管状部材及び少なくとも1つの導電要素を、前記導電要素が熱収縮せずに、前記管状部材が前記少なくとも導電要素の周囲において局所的に溶融して前記導電要素の各縁に沿ってシールを形成するように、誘導加熱による熱によって処理するステップを含むのに対して、引用文献1発明はそのようなステップを含んでいない点。

第5 当審の判断
相違点1および2について検討する。
1.相違点1
引用文献1の摘記事項(ウ)によれば、導電体18は、電極16が配置される患者の身体内の部位での検出信号の伝達のため、および/または、無線周波数(RF)エネルギなどの焼灼エネルギの上記部位への伝達のために使用されるのであるから、導電体18は少なくとも電極16から、上記検出信号をカテーテルシース10から取り出す位置あるいは上記焼灼エネルギをカテーテルシース10に与える位置まで延在することが明らかである。そして、引用文献1の図示内容(ク)によれば、長尺部材12の先端に電極16が設けられており、さらに、上記検出信号をカテーテルシース10から取り出す位置あるいは上記焼灼エネルギをカテーテルシース10に与える位置は、カテーテルシース10を最大限患者の体内に挿入した際に、患者の体外に露出する位置とすべきことは、技術常識といえる。そして、該カテーテルシースの近位端は、カテーテルシースの操作のために、常に、患者の体外に露出する位置になければいけないことを踏まえれば、引用文献1発明において、当該カテーテルシース10を最大限患者の体内に挿入した際に、患者の体外に露出している位置を長尺部材の近位端として、導電体を長尺部材の近位端から遠位端まで延在するものとすることは、当業者にとって容易になし得ることといえる。
よって、引用文献1発明において、相違点1に係る構成とすることは当業者にとって容易である。

2.相違点2
引用文献1発明は、カテーテルシースを製造する方法において、長尺部材に電極を形成するリングを取り付けるステップを有するものである。
一方、カテーテルの管状部分に導電性の円筒環を取り付ける方法に関して、引用文献2には引用文献2発明が記載されている。
そして、引用文献2発明の「導電性の形状記憶合金からなるマーカーである円筒環」は導電要素であることは明らかといえる。また、引用文献2発明の「熱可塑性ポリマー材料からなる管状部分が少なくとも円筒環の周囲において局所的に溶融して、円筒環が管状部分の表面に円筒環の端に隆起が生じることなく埋め込まれた係合となる」際には、管状部材と円筒環との境界に存在する微少な隙間、すなわち円筒環の各縁に沿って、溶融した熱可塑性ポリマー材料が、その表面張力により流れ込み、シールが形成されることは当業者にとって自明の事項といえる(例えば、特開2007-41512号公報(段落【0012】?【0013】、【0027】、【0029】、【図1】、【図2】等参照)、特開2010-10173号公報(段落【0079】?【0081】、【図11】等参照)。
さらに、この表面張力によるシールの形成は、円筒環が変態温度以上に加熱されたときに変形する材料である形状記憶合金でなくとも、すなわち熱収縮しなくとも、円筒環と管状部分との間隔が、表面張力による流れ込みを生じさせないほどに過大である等の事情がない限り、当該シールの形成が生じることに実質的には変わりはない。
してみると、引用文献1発明においてカテーテルシースの長尺部材にリングを取り付ける際に、引用文献2発明を転用して、相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者にとって容易に想到できたことである。
そして本願発明の効果について検討しても、引用文献1および2から当業者が予測しうる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものとはいえない。

5 小括
したがって、本願発明は、引用文献1発明、引用文献2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1発明、引用文献2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-03-29 
結審通知日 2017-04-04 
審決日 2017-04-19 
出願番号 特願2013-523435(P2013-523435)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 立人  
特許庁審判長 長屋 陽二郎
特許庁審判官 内藤 真徳
橘 均憲
発明の名称 カテーテルシースおよび製造方法  
代理人 特許業務法人北青山インターナショナル  

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