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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1332079
審判番号 不服2016-3081  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-29 
確定日 2017-09-06 
事件の表示 特願2013-558001「微粒子含量が少ないポリ(アリーレンエーテル)の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月20日国際公開、WO2012/125170、平成26年 4月 3日国内公表、特表2014-508208〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23(2011)年3月22日(パリ条約による優先権主張 2011年3月15日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成25年11月11日に手続補正書が提出され、平成26年8月22日付けで拒絶理由が通知され、同年11月4日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに平成27年5月25日付けで拒絶理由が通知され、同年8月26日に意見書が提出されたが、同年11月11日付けで拒絶査定がされたところ、平成28年2月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年5月10日付けで前置報告がされたものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成28年2月29日提出の手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容

平成28年2月29日提出の手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、本件補正前の請求項1?11のうち、まず請求項6、7、9及び11を削除し、その上で、本件補正前の請求項1においてステップ(c)?(f)が少なくとも1つ選択される選択形式であったところ、本件補正によって、請求項1においてステップ(c)?(f)がすべて必須の特定事項とされた。また、本件補正前の請求項8及び10についても、本件補正によって、請求項6及び7として同様にステップ(c)?(f)がすべて必須の特定事項となるよう補正がされた。
そして、本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1の記載は次のとおりである。

本件補正前:
「【請求項1】
(a)ポリ(アリーレンエーテル)と溶媒とを含む第1の混合物を貧溶媒と混合して、前記溶媒、前記貧溶媒および前記ポリ(アリーレンエーテル)を含む第2の混合物を形成するステップ、及び、
(b)せん断力生成装置を用い、インペラ先端速度2?4m/sで前記第2の混合物を撹拌するステップの、プロセスパラメータを備えた粒径特性が改善されたポリ(アリーレン)エーテルの製造方法であって、前記方法はさらに、
(c)固形物含量が前記ポリ(アリーレンエーテル)樹脂に対して約10?約50質量%の、ステップ(a)の前記第1の混合物を準備するステップと、
(d)前記第2の混合物の温度を、前記貧溶媒の沸点より少なくとも5℃低く維持するステップと、
(e)前記貧溶媒と前記第1の混合物との質量比を約0.5:1?約4:1とするステップと、
(f)5質量%以下の水を含む前記貧溶媒を準備するステップと、から構成される群から選択された1つ以上のプロセスパラメータを含み、
前記改善された粒径特性は、(i)粒径が38μm未満の粒子が約50質量%以下であること、(ii)平均粒径が100μm以上であること、の1つまたは両方を含むことを特徴とする方法。」


本件補正後:
「【請求項1】
(a)ポリ(アリーレンエーテル)と溶媒とを含む第1の混合物を貧溶媒と混合して、前記溶媒、前記貧溶媒および前記ポリ(アリーレンエーテル)を含む第2の混合物を形成するステップ、及び、
(b)せん断力生成装置を用い、インペラ先端速度2?4m/sで前記第2の混合物を撹拌するステップの、プロセスパラメータを備えた粒径特性が改善されたポリ(アリーレン)エーテルの製造方法であって、前記方法はさらに、
(c)固形物含量が前記ポリ(アリーレンエーテル)樹脂に対して約10?約50質量%の、ステップ(a)の前記第1の混合物を準備するステップと、
(d)前記第2の混合物の温度を、前記貧溶媒の沸点より少なくとも5℃低く維持するステップと、
(e)前記貧溶媒と前記第1の混合物との質量比を約0.5:1?約4:1とするステップと、
(f)5質量%以下の水を含む前記貧溶媒を準備するステップと、のプロセスパラメータを含み、
前記改善された粒径特性は、(i)粒径が38μm未満の粒子が約50質量%以下であること、(ii)平均粒径が100μm以上であること、の1つまたは両方を含むことを特徴とする方法。」


2.補正の適否

本件補正は、国際出願時の明細書又は特許請求の範囲の翻訳文の範囲内でする補正であると認められる。
そして、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1においてステップ(c)?(f)が少なくとも1つの選択形式であったところ、(c)?(f)のすべてを必須とするように限定するものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。また、本件補正後の請求項2?7についても同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められる。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかについて、以下検討する。

2-1.本件補正発明

本件補正発明は、前記1.に「本件補正後」として記載したとおりのものである。

2-2.引用例の記載事項・引用発明
(1)引用例の記載事項

原査定の拒絶理由で引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である国際公開第2003/064499号(以下、「引用例」という)には、以下の事項が記載されている。

(摘記事項ア)
「<技術分野>
本発明はポリフェニレンエーテルの析出方法に関し、ポリフェニレンエーテル粒子の微小粒子を減らし、かつ、周期的な粒径変動を少なくすることにより、均質なポリフェニレンエーテル粒子を安定して生産できるポリフェニレンエーテルの析出方法に関するものである。」(第1頁第3?7行)

(摘記事項イ)
「しかしながら、従来の技術で析出するポリフェニレンエーテル粒子はポリフェニレンエーテル粒子中に微小粒子が多く、ポリフェニレンエーテル製造工程で沈殿工程の後に必要な濾過工程での目詰まりの問題やポリフェニレンエーテルの組成物をペレット化するときに必要な溶融混練工程での押出機への供給が円滑に行われないなどの問題がある。」(第1頁第18?22行)

(摘記事項ウ)
「本発明はポリフェニレンエーテル溶液とポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを混合してポリフェニレンエーテル粒子を析出するポリフェニレンエーテルの析出方法において、ポリフェニレンエーテル粒子の微小粒子が少なく、かつ、周期的な粒径変動が少なく、粒径が均質なポリフェニレンエーテル粒子を安定して生産できるポリフェニレンエーテルの析出方法を提供し、産業界の要求に十分応えることを目的とする。」(第2頁第4?9行)

(摘記事項エ)
「本発明のポリフェニレンエーテルは具体的には、ポリ(2,6ージメチルー1,4ーフェニレンエーテル)、ポリ(2ーメチルー6ーエチルー1,4ーフェニレンエーテル)、ポリ(2ーメチルー6-フェニルー1,4ーフェニレンエーテル)、ポリ(2,6ージクロロー1,4ーフェニレンエーテル)等である。
本発明のポリフェニレンエーテルは他の具体的例として、2,6ージメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6ートリメチルフェノールや2ーメチルー6ーブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。
上記の本発明のポリフェニレンエーテルのうち、ポリ(2,6ージメチルー1,4ーフェニレンエーテル)、2,6ージメチルフェノールと2,3,6ートリメチルフェノールとの共重合体が好ましく使用でき、最も好ましいのはポリ(2,6ージメチルー1,4ーフェニレンエーテル)である。」(第3頁第21行?第4頁第11行。下線は合議体による。)

(摘記事項オ)
「本発明のポリフェニレンエーテルの良溶媒とは、ポリフェニレンエーテルを良好に溶解し、均一なポリフェニレンエーテル溶液となる溶媒を意味する。
本発明のポリフェニレンエーテル溶液とは、ポリフェニレンエーテルがその良溶媒に均一に溶解したものである。
本発明のポリフェニレンエーテル溶液中のポリフェニレンエーテル濃度は、ポリフェニレンエーテル溶液に対して、10?30重量%であることが好ましい。
本発明のポリフェニレンエーテルの良溶媒としては、ベンゼン、トルエン及びキシレンより選ばれる少なくとも一種の溶媒が好ましい。
本発明のポリフェニレンエーテル貧溶媒とは、ポリフェニレンエーテルを溶解しない溶媒である。
本発明のポリフェニレンエーテルの貧溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、nブタノール、アセトン、メチルエチルケトン及び水から選ばれる少なくとも一種の溶媒であることが好ましい。
本発明では、ポリフェニレンエーテルの良溶媒がベンゼン、トルエン及びキシレンより選ばれる少なくとも一種の溶媒からなり、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒がメタノール、エタノール、イソプロパノール、nブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、及び、水から選ばれる少なくとも一種の溶媒からなることが好ましい。
本発明では、ポリフェニレンエーテルの良溶媒としてトルエンを用い、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒として、メタノールを用いることが最も好ましい。」(第5頁第10?第6頁第7行。下線は合議体による。)

(摘記事項カ)
「本発明のポリフェニレンエーテル粒子は、濾過、及び、乾燥工程を経て、他成分との溶融混練による組成物化に用いることを主な目的とするものであり、本発明のポリフェニレンエーテル粒子として、平均粒径が400μm以上であり、かつ、粒径が105μm以下の微小粒子の含有率が5重量%以下であることが好ましい。
ポリフェニレンエーテル粒子として、平均粒径が450μm以上であり、かつ、析出時の粒径の変動、即ち、平均粒径の析出時間による変動が100μm以下であり、かつ、粒径が105μm以下の微小粒子の含有率が2重量%以下であることが更に好ましい。
ポリフェニレンエーテル粒子として、平均粒径が500μm以上であり、かつ、析出時の粒径の変動、即ち、平均粒径の析出時間による変動が50μm以下であり、かつ、粒径が105μm以下の微小粒子の含有率が1重量%以下であることが極めて好ましい。」(第6頁第10?22行。下線は合議体による。)

(摘記事項キ)
「本発明では、ポリフェニレンエーテル粒子を得る手段を検討した結果、以下に述べるドラフトチューブを付けた特定の析出槽を用いることで、供給したポリフェニレンエーテル溶液と貧溶媒を効果的に混合でき、安定してポリフェニレンエーテル粒子を析出することができ、析出槽中の混合液を排出することにより、ポリフェニレンエーテル粒子の微小粒子が少なく、かつ、周期的な粒径変動が少なく、粒径が均質なポリフェニレンエーテル粒子を効果的に生産できることを見いだした。」(第6頁第23行?第7頁第1行)

(摘記事項ク)
「本発明のポリフェニレンエーテルの析出方法では、混合液中の貧溶媒/良溶媒の重量比が0.3?2.0であることが好ましい。
混合液中の貧溶媒/良溶媒の重量比が0.3より小さい場合、析出中にスケールを発生する可能性が高い。
混合液中の貧溶媒/良溶媒の重量比が2.0を超えると生産コスト上好ましくない。
本発明のポリフェニレンエーテルの析出方法では、貧溶媒中に含有される水が0.3?50重量部であることが更に好ましい。
本発明のポリフェニレンエーテルの析出方法では、混合液の温度が30?60℃であることが好ましい。」(第9頁第12?21行)

(摘記事項ケ)
「[実施例1]
槽底からの液面と槽底の高低差が95mmとなる位置に口径25mmの排出口を設けたジャケット付きの析出槽内径133mmの析出槽に、内径80mm、ドラフトチューブ高40mmのドラフトチューブを液面とドラフトチューブ最上部の高低差が27mmの位置に設置した。この析出槽に1段の4枚傾斜パドル翼(傾斜45度、翼径33mm)を撹拌翼として設置した。この析出槽に滞留する液の容量は1100mlであった。
析出槽にトルエン370g、メタノール420g、水10を仕込み、撹拌回転数600rpmで撹拌した。撹拌により、ドラフトチューブ内部が旋回下降流、ドラフトチューブ外部と析出槽内壁の間にほぼ垂直の上昇流が発生した。
ジャケット内に温水を流して槽内温度を50℃とした。
次いで析出槽に(Aー1)のポリフェニレンエーテル溶液を190g/分の添加速度で排出口と対角位置でかつドラフトチューブの内部に、メタノール97.5wt%と水2.5wt%の混合液を100g/分の添加速度で、排出口と対角位置でかつドラフトチューブの外側の析出槽内の同じ高さより添加し、排出口からオーバーフローする混合液を回収した。合わせてメタノールと水の混合液の添加開始から、10,20,40,80,160分後のサンプルを別途採取した。析出を実施している間、混合液の流動状態に変化は見られず、安定していた。平均滞留時間は3.2分であった。
回収された混合液から採取したサンプルと、各時間に採取したサンプルをそれぞれ濾過し、メタノールを混合して洗浄した後に再度濾過し、140度で4時間真空乾燥後して、ポリフェニレンエーテル粒子を得た。
混合液は問題なく濾過できた。
乾燥したポリフェニレンエーテル粒子の揮発分は0.1重量%以下であった。
得られたポリフェニレンエーテル粒子を篩い分け、各分取部の重量を測定した。
粒径分布の累積曲線から、中央累積値にあたる粒子の径(メジアン径)を平均粒径とした。
同様に粒径分布の累積曲線から得られる105μm以下の粒子の含有率(wt%)を微小粒子率とした。
得られるポリフェニレンエーテル粒子は平均粒径、及び、微小粒子率の経時変化が極めて小さく、かつ、微小粒子率が極めて低いものであった。
得られたポリフェニレンエーテル粒子について押出機を用いて溶融混練をおこなうと押出機へのポリフェニレンエーテル粒子の噛み込みが良好であり安定した組成物の生産が可能であった。

」(第11頁第21行?第13頁第1行。下線は合議体による。)

(摘記事項コ)
「1. ポリフェニレンエーテルとその良溶媒よりなるポリフェニレンエーテル溶液とポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを混合してポリフェニレンエーテル粒子を析出するポリフェニレンエーテルの析出方法において、
(a)ドラフトチューブ、ドラフトチューブ内に(b)傾斜パドル翼、スクリュー翼またはリボン翼から選ばれる少なくとも一段の撹拌翼、ドラフトチューブ外側に(c)1枚以上のバッフル、(d)溶液供給口、(e)貧溶媒供給口及び(f)排出口を設置してなる析出槽を用い、
撹拌翼(b)の回転により循環流動する、良溶媒、貧溶媒及びポリフェニレンエーテル粒子よりなる混合液中に、溶液供給口(d)よりポリフェニレンエーテル溶液を添加し、同時に貧溶媒供給口(e)より貧溶媒とを添加することによりポリフェニレンエーテル粒子を析出し、
析出したポリフェニレンエーテル粒子を排出口(f)より混合液とともに排出して回収する、ポリフェニレンエーテルの析出方法。」(第16頁 請求の範囲 請求項1)

(摘記事項サ)
「5. 混合液中の貧溶媒/良溶媒の重量比が0.3?2.0である、請求の範囲第1項?第4項のいずれかに記載のポリフェニレンエーテルの析出方法。
6. 貧溶媒が水を0.3?50重量部含有する、請求の範囲第1項?第5項のいずれかに記載のポリフェニレンエーテルの析出方法。
7. 混合液の温度が30?60℃である、請求の範囲第1項?第6項のいずれかに記載のポリフェニレンエーテルの析出方法。」(第17頁 請求の範囲 請求項5?7)


(2)引用発明
摘記事項ア?ウによれば、引用例は、ポリフェニレンエーテル粒子に関して、微小粒子が多く存在することの問題意識を有し、そのような微小粒子をできるだけ少なく、かつ、粒径が均質なポリフェニレンエーテル粒子を安定して生産するという技術的課題に基づき、ポリフェニレンエーテル溶液とポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを混合してポリフェニレンエーテル粒子を析出する方法を開示する文献である。
一方、本件補正発明の課題は、本願明細書の段落【0001】?【0004】及び【0011】等の記載を参照すると、微粒子が少なく平均粒子径が大きいという改善された粒径特性のポリ(アリーレンエーテル)の製造方法を提供することであると認められる。
そうすると、本件補正発明の課題と引用例に示された課題は部分的に共通しているといえる。

そして、摘記事項オによれば、ポリフェニレンエーテル溶液中のポリフェニレンエーテル濃度は、ポリフェニレンエーテル溶液に対して、10?30重量%であることが好ましいと記載されている。
また、摘記事項カによれば、ポリフェニレンエーテル粒子の粒径は、平均粒径が400μm以上であり、かつ105μm以下の微小粒子の含有率が5重量%以下であることが好ましいとされた上で、実際に摘記事項ケの表1を参照すると、平均粒子径が632μmであり、かつ微粒子の含有率が0.36重量%のものが得られたことが記載されている。
これらを踏まえて、引用例には、摘記事項コとサより請求の範囲の請求項1と5と6をすべて引用する請求項7に記載された発明であって、摘記事項オよりポリフェニレンエーテル濃度が特定され、かつ摘記事項カより粒径の平均粒子径と含有率が特定された発明として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

引用発明:
「ポリフェニレンエーテルとその良溶媒よりなるポリフェニレンエーテル溶液とポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを混合してポリフェニレンエーテル粒子を析出するポリフェニレンエーテルの析出方法において、
(a)ドラフトチューブ、ドラフトチューブ内に(b)傾斜パドル翼、スクリュー翼またはリボン翼から選ばれる少なくとも一段の撹拌翼、ドラフトチューブ外側に(c)1枚以上のバッフル、(d)溶液供給口、(e)貧溶媒供給口及び(f)排出口を設置してなる析出槽を用い、
撹拌翼(b)の回転により循環流動する、良溶媒、貧溶媒及びポリフェニレンエーテル粒子よりなる混合液中に、溶液供給口(d)よりポリフェニレンエーテル溶液を添加し、同時に貧溶媒供給口(e)より貧溶媒とを添加することによりポリフェニレンエーテル粒子を析出し、
析出したポリフェニレンエーテル粒子を排出口(f)より混合液とともに排出して回収する、ポリフェニレンエーテルの析出方法であって、
ポリフェニレンエーテル溶液中のポリフェニレンエーテル濃度は、ポリフェニレンエーテル溶液に対して、10?30重量%であり、
混合液中の貧溶媒/良溶媒の重量比が0.3?2.0であり、
貧溶媒が水を0.3?50重量部含有しており、
混合液の温度が30?60℃であり、
ポリフェニレンエーテル粒子の粒径について、平均粒径が400μm以上であり、かつ105μm以下の微小粒子の含有率が5重量%以下である、
前記ポリフェニレンエーテルの析出方法。」


2-3.対比

本件補正発明1と引用発明とを対比する。
本件補正発明1の「ポリ(アリーレンエーテル)」について検討する。引用例の摘記事項エにおいて、ポリフェニレンエーテルとして最も好ましいものは、「ポリ(2,6ージメチルー1,4ーフェニレンエーテル)」と記載されているところ、本願明細書の段落【0032】においても、ポリ(アリーレンエーテル)の一部の実施形態として、同じく「ポリ(2,6ージメチルー1,4ーフェニレンエーテル)」が記載されている。すなわち本件補正発明1の「ポリ(アリーレンエーテル)」と引用発明の「ポリフェニレンエーテル」は、特定されるポリマーとして同じものを概念上包含しているということができる。
そして、本願明細書の実施例1(段落【0120】)には、「ポリフェニレンエーテル」を用いたことが記載されていることからみて、「ポリフェニレンエーテル」は「ポリ(アリーレンエーテル)」の一例であると解される。すなわち、本願明細書に基づけば、引用発明における「ポリフェニレンエーテル」は、本件補正発明1の「ポリ(アリーレンエーテル)」の下位概念に相当するものである。
したがって、引用発明の
「ポリフェニレンエーテルとその良溶媒よりなるポリフェニレンエーテル溶液とポリフェニレンエーテルの貧溶媒とを混合して」
という点は、本件補正発明のステップ、
「(a)ポリ(アリーレンエーテル)と溶媒とを含む第1の混合物を貧溶媒と混合して、前記溶媒、前記貧溶媒および前記ポリ(アリーレンエーテル)を含む第2の混合物を形成するステップ」
に相当するものである。

また、引用発明のポリフェニレンエーテルとその良溶媒からなる「ポリフェニレンエーテル溶液」中のポリフェニレンエーテル濃度について、「10?30重量%」と特定されているところ、本件補正発明ではステップ(c)において、準備される第1の混合物として固形物含量が「約10?約50質量%」と記載されている。引用発明の「ポリフェニレンエーテル溶液」は本件補正発明の「第1の混合物」に相当するものであることを踏まえると、両者は数値範囲として「10?30質量%」の範囲で重複していることになり、この部分は相違点にならない。

また、引用発明における混合液中の貧溶媒/良溶媒の重量比については「0.3?2.0」と特定されており、これは「貧溶媒:良溶媒」の形式で表すと「0.3:1?2.0:1」となる。この点について、本件補正発明ではステップ(e)において、「前記貧溶媒と前記第1の混合物との質量比を約0.5:1?約4:1」と記載されている。したがって、両者は数値範囲として「0.5:1?2.0:1」の範囲で重複していることになり、この部分は相違点にならない。

また、引用発明における貧溶媒中に含有される水について、「0.3?50重量部」と特定されており、これは通常100を全体として見たうちの重量部を意味していると解されるから、「0.3?50重量%」の水を含有しているものと認められる。この点について、本件補正発明ではステップ(f)において、「5質量%以下の水を含む前記貧溶媒」と記載されている。したがって、両者は数値範囲として「0.3?5質量%」の範囲で重複していることになり、この部分は相違点にならない。

そして、引用発明において得られる粒子の粒径について、「平均粒径が400μm以上であり、かつ105μm以下の微小粒子の含有率が5重量%以下である」と特定されている。この点について、本件補正発明では改善された粒径特性として「(i)粒径が38μm未満の粒子が約50質量%以下であること、(ii)平均粒径が100μm以上であること、の1つまたは両方を含むことを特徴とする」と記載されている。本件補正発明の上記選択肢(ii)については、数値範囲として、引用発明における「平均粒径が400μm以上」を包含していることになるため、この点は相違点にならない。 また、本件補正発明の上記選択肢(i)についても一応検討すると、引用発明は「105μm以下の微小粒子の含有率が5重量%以下である」となっており、本件補正発明の粒径の条件よりも大きく設定された条件の微粒子が、本件補正発明の含有率よりも小さい率となっている。したがって、本件補正発明の上記選択肢(i)についても、本件補正発明の数値範囲は、引用発明におけるそれを包含していることになるため、この点も相違点にならない。

以上の検討事項を踏まえると、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)
(a)ポリ(アリーレンエーテル)と溶媒とを含む第1の混合物を貧溶媒と混合して、前記溶媒、前記貧溶媒および前記ポリ(アリーレンエーテル)を含む第2の混合物を形成するステップを有する粒径特性が改善されたポリ(アリーレン)エーテルの製造方法であって、前記方法はさらに、
(c)固形物含量が前記ポリ(アリーレンエーテル)樹脂に対して10?30質量%の、ステップ(a)の前記第1の混合物を準備するステップと、
(e)前記貧溶媒と前記第1の混合物との質量比を0.5:1?2:1とするステップと、
(f)0.3?5質量%以下の水を含む前記貧溶媒を準備するステップと、のプロセスパラメータを含み、
前記改善された粒径特性は、(i)粒径が38μm未満の粒子が約50質量%以下であること、(ii)平均粒径が100μm以上であること、の1つまたは両方を含むことを特徴とする方法。

(相違点1)
本件補正発明では、ステップ(b)として「せん断力生成装置を用い、インペラ先端速度2?4m/sで前記第2の混合物を撹拌する」ことが記載されているのに対し、引用発明では、「(a)ドラフトチューブ、ドラフトチューブ内に(b)傾斜パドル翼、スクリュー翼またはリボン翼から選ばれる少なくとも一段の撹拌翼、ドラフトチューブ外側に(c)1枚以上のバッフル、(d)溶液供給口、(e)貧溶媒供給口及び(f)排出口を設置してなる析出槽を用い」る点

(相違点2)
第2の混合物、すなわち引用発明における混合液に相当するものの温度について、本件補正発明ではステップ(d)として「前記貧溶媒の沸点より少なくとも5℃低く維持する」と記載されているのに対し、引用発明では「30?60℃である」点


2-4.相違点についての判断

相違点1について:
本願明細書の段落【0056】には次の記載がある。
「種々のタイプの装置を用いて沈殿ステップを行うことができる。沈殿は、例えば、せん断力生成装置などの撹拌手段が備わった攪拌タンク槽内で行うことができる。」
引用発明における、「(b)傾斜パドル翼、スクリュー翼またはリボン翼から選ばれる少なくとも一段の撹拌翼」は、上記の本願明細書の記載に基づけば、せん断力生成装置に相当するものである。
そして、本願発明では明示的な記載はないものの、本願明細書には、撹拌手段が備わった撹拌タンク槽で行うことができる旨が記載されていることからみて、引用発明において「析出槽」を用いる点は概念上本願発明に包含されているといえ、この点は実質的な相違点にならない。
引用発明の析出槽においては、さらなる特定として、「(a)ドラフトチューブ、ドラフトチューブ外側に(c)1枚以上のバッフル、(d)溶液供給口、(e)貧溶媒供給口及び(f)排出口を設置し」た析出槽であることが特定されているが、本件補正発明においてはどのような構造の析出槽を用いるかについては何ら特定がない。そうすると、本件補正発明においては、引用発明におけるこれら特定された構造を有する析出槽を使用することも除外されているとは解されないゆえ、この点も実質的な相違点ではない。

そうすると、引用例における「撹拌翼」の速度が特定されていない点が実質的な相違点であるといえるから、これについて検討する。
引用例の摘記事項ケに示された実施例1において「析出槽に関する設定として4枚傾斜パドル翼(傾斜45度、翼径33mm)を撹拌翼として設置」したこと、及び「撹拌回転数600rpmで撹拌した」ことが記載されている。まず、撹拌速度を「rpm」単位から計算によりインペラ先端の速度「m/s」に変換する。ただし、引用例に記載された「4枚傾斜パドル翼(傾斜45度、翼径33mm)」における翼径が、回転円の半径に相当するのか直径に相当するのかは、引用例の記載からは直接的には明らかでないため、一応両方の場合について計算する。
すなわち、翼径が回転円の半径に相当する場合、回転中心から33mmの位置にある回転翼の先端は、一回転で66πmmの距離を移動し、これが1分間に600回転すなわち1秒間に10回転するのであるから、(66π×10)mm/sの速度になる。これを「m/s」の単位に換算すると、約2.07m/sとなる。この値自体は、本件補正発明におけるインペラ先端速度の数値範囲「2?4m/s」に包含されるものである。
また、翼径が回転円の直径に相当する場合は、同様に計算すると、回転翼の先端の速度が約1.04m/sとなる。
ここで、引用発明において、混合された各成分が均一に混ざり合うように、析出槽の大きさや回転翼の大きさ等も考慮しつつ、回転翼の回転速度を調整することは当業者が容易に想到することであり、またその際には、当然に、引用例に具体的に開示された上記実施例1における速度を参考にして、そこから調整を行うことも適宜なし得ることである。
したがって、インペラ先端速度を調整しようとすることは当業者が容易に想到する事項であり、その際に2?4m/sの範囲の値とすることに格別の技術的困難性があるとも認められない。

これに加えて、本願明細書の段落【0073】には
「もちろん、設計仕様書と使用される特定の沈殿タンクまたは槽の大きさ等によって、最適な攪拌速度が管理されることになり、インペラ先端速度だけでなくインペラ径およびインペラ回転速度などの要因が考慮されるであろう。その目的のために、本発明は、前述の要因に比例し拡張が可能な攪拌速度とインペラ先端速度を含むものである。」
との記載がある。また、本願明細書の実施例10?17(表1(b)及び(c))については、インペラ先端速度は5.39m/sとなっており、これは本件補正発明における「2?4m/s」の数値範囲に含まれないものであるにもかかわらず、結果として微パウダーの含有率も平均粒子径も本件補正発明における「(i)粒径が38μm未満の粒子が約50質量%以下であること、(ii)平均粒径が100μm以上であること」の両方の条件を満たす粒子が得られている。
これらのことを踏まえると、本願明細書にも示唆があるとおり、インペラ先端速度については、槽の大きさやその他の要素に応じて適宜設定される事項であり、それらの要素が定まらない本件補正発明において数値範囲が特定されたとしても、そのこと自体に、格別の技術的な創意工夫や予測のできない臨界的意義があると認められない。

したがって、相違点1については、引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到する事項である。

相違点2について:
引用発明では混合液の温度は30?60℃とされている中で、引用例に開示されている具体的な実施例、すなわち摘記事項ケの記載について検討する。ここで使用された貧溶媒はメタノールであること、及び混合液を撹拌する際の槽内温度を50℃としたことが記載されている。ここで、周知技術からメタノールの沸点は64.7℃であることを踏まえると、当該実施例においては、実際に貧溶媒であるメタノールの沸点よりも14.7℃低い温度で析出が行われたものであることが理解できる。そして、当業者であれば、引用発明における混合液の温度30?60℃という数値範囲において温度設定しようとする中で、例えば先の実施例に基づいて50℃程度の温度で実施することは適宜なし得る事項であり、その温度自体は、本件補正発明の「前記貧溶媒の沸点より少なくとも5℃低く維持する」という数値範囲に本質的に包含されているものである。
これに加えて、引用例の摘記事項オには、貧溶媒として好ましい物質が複数例示されており、これらの沸点は周知技術を踏まえるとそれぞれ次のとおりである。
メタノール 64.7℃
エタノール 78.3℃
イソプロパノール 82.6℃
nブタノール 117℃
アセトン 56℃
メチルエチルケトン 79.64℃
水 100℃

引用発明における混合液の温度の数値範囲における上限温度は60℃であることを考慮すると、メタノールとアセトン以外の貧溶媒に関しては、いずれも本質的にその沸点より少なくとも5℃低い温度で実施されることが引用例に開示されているといえる。また、メタノールについても、仮に混合液を60℃としたとしても沸点との差は4.7℃であって、本件補正発明における差の下限値である5℃とは、わずか0.3℃の差異にすぎない。

ここで、本件補正発明における、「すくなくとも5℃」という数値範囲自体に臨界的意義があるかについて検討する。本願明細書においては、第2の混合物の温度を「貧溶媒の沸点より少なくとも5℃低く維持する」ことについては段落【0013】、【0014】、【0015】、【0059】、【0104】及び【0166】において、形式的に同じことが記載されている。
一方で、当該第2の混合物の温度の調整に関して具体的な記述としては、本願明細書の段落【0081】?【0085】に、次のとおり記載がある。
「さらなる実施形態では、第1の態様のプロセスパラメータ(d)は、第1の混合物(ステップ(a)からの)と貧溶媒との混合によって形成され、それからポリマーが沈殿する第2の混合物の温度に関係する。前述のように、該ポリマーは芳香族炭化水素溶媒と混合されて、均一な混合物またはスラリーとして第1の混合物を形成する。
第1の混合物の温度、貧溶媒の温度および得られた第2の混合物の最終温度は、単離されたポリマーの粒径特性における役割を果たす。従って、ポリマー-溶媒/貧溶媒混合物の最終温度の低下に伴って、上記の粒径特性の1つまたは両方は一般に改善する。
一実施形態では、該ポリマーは、溶媒であるトルエンと温度70℃で混合されて第1の混合物を形成する。温度50℃未満に維持された貧溶媒にこの混合物を添加すると、ポリマー-溶媒/貧溶媒混合物の最終温度は50℃未満となる。
別の実施形態では、貧溶媒の温度は25℃?49℃であり、従って、ポリマー-溶媒/貧溶媒混合物の最終温度は25℃?49℃となるが、この温度はより好適には25℃?40℃である。
さらなる実施形態では、貧溶媒の温度は22℃?38℃であり、従って、ポリマー-溶媒/貧溶媒混合物の最終温度は28℃?39℃となる。」

そして、本願明細書に開示された多数の実施例については、すべてメタノール(水を含む場合もある)が使用されており、「沈殿混合物温度」はばらつきはあるものの、27.4?52.4℃の範囲である。先にも述べたとおり、メタノールの沸点は64.7℃であることを踏まえると、それよりも5℃低い温度の周辺における具体的な実験はなされていないことは明らかであり、効果の点において何らかの臨界点が存在すると解されるような結果は示されていない。
よって、本願明細書のすべての記載をみても、ポリマー溶液と貧溶媒の混合物の温度そのものの目安については記載及び示唆がされているものの、貧溶媒の沸点よりも「少なくとも5℃」低くという限度を示す数値自体に何らかの臨界的な意義があるとは認めることができず、そうであれば、そのような数値範囲に特定したことで、予測のできない格別の効果が奏されるとも認めることができない。

したがって、相違点2については当業者が容易に想到する事項である。


2-5.請求人の主張

審判請求人は、平成28年2月29日提出の審判請求書において、要するに以下のことを主張している。

(主張内容)
ア)引用例には、インペラ先端速度を「2?4m/s」とすることについて開示も示唆もされていない。引用文献1には、単にポリフェニレンエーテル粒子の滞留を回避すべきであると示唆しているに過ぎず、この記載は、せん断力生成装置を用いてインペラ先端速度2?4m/sで第2の混合物を撹拌することに対して、何ら動機付けとなるものではない。

イ)引用例は、せん断力生成装置のインペラ先端速度の調節がポリフェニレンエーテル粒子の粒径に影響を与えることについて何ら示唆していない。それどころか、引用例は、ドラフトチューブを付けた特定の析出槽を用いることで、所望のポリフェニレンエーテル粒子を析出することができると記載されているのであるから、ポリフェニレンエーテル粒子の粒径に影響を与えるものは、「ドラフトチューブを付けた特定の析出槽を用いる」方法であると明示されている。よって、引用文献1には、インペラ先端速度とポリフェニレンエーテル粒子の粒径との関係についても開示も示唆もされていない。

(主張についての検討)
主張アについて:
引用例には、インペラ先端速度の数値範囲について「2?4m/s」という上限と下限の値を定めることについては、確かに直接的には記載されていない。
しかしながら、引用例の記載に触れた当業者であれば、具体的な実施態様が開示されている実施例を参照しつつ、先に示したとおり、例えば翼径33mmのパドル翼を用いて約2.07m/sの速度で回転することは当業者が適宜なし得た事項である。さらに、当業者であれば、当該2.07m/sという例示を足がかりとして、ポリフェニレンエーテル粒子の滞留を回避できる程度において、装置の大きさ等の要素に応じて適宜変更することも容易になし得たことである。
そして、この当業者が適宜なし得る値は本件補正発明で特定されている「2?4m/s」の数値範囲に含まれるものである。
審判請求人は、インペラ先端速度について「2?4m/s」とすることをことさらに強調してはいるものの、本願明細書の例えば段落【0073】を参照すれば、槽の大きさ等によって撹拌速度が管理され、インペラ回転速度の要因が考慮されることを自ら開示している以上、本件補正発明における槽の大きさ等が定まらない中において、インペラ先端速度を「2?4m/s」という数値範囲に限定することに臨界的な意義は見出せない点は先にも述べたとおりである。
よって、主張アについては本件補正発明の容易想到性に対する判断を覆す根拠にはならない。

主張イについて:
引用例には、せん断力生成装置のインペラ先端速度を調節することで、ポリフェニレンエーテル粒子の粒径に影響があることについては、確かに直接的な記載はない。
そして、本願明細書の例えば段落【0124】及び【0125】において、インペラ先端速度すなわち撹拌速度が小さければ微粒子の含有割合は低くなるという傾向があったことが記載されている。このような分析によれば、審判請求人の主張するように、撹拌速度はポリフェニレンエーテル粒子の粒径に影響を及ぼし、その速度が小さければ微粒子の含有割合は低くなるという傾向があることも一応理解できる。
しかしながら、それはあくまで撹拌速度を小さくすることによって、微粒子の含有割合を低くできるという一つの傾向を発見したにとどまるのであって、結局のところ撹拌速度の数値範囲を「2?4m/s」とすること自体については、当業者が適宜設定し得るものであることは先にも述べたとおりである。

また、引用発明は、請求人が主張するとおり摘記事項エなどの記載を参照すると、ドラフトチューブを付けた特定の析出槽を用いることで、所望のポリフェニレンエーテル粒子が達成される発明であるといえる。
しかしながら、先の2-3.でも述べたとおり、本件補正発明においては、どのような析出槽を用いるのかについては特段の特定事項が無い以上、そのようなドラフトチューブを付けた特定の析出槽を用いる態様も包含されると解するのが相当であり、そのような態様が本件補正発明の態様から明確に除外されているとは認められない。

よって、主張イについても、本件補正発明の容易想到性に対する判断を覆す根拠にはならない。


2-6.小括

以上検討したところによれば、相違点1及び2についてはいずれも、引用発明に基づき、引用例に記載された事項を参考にして、当業者が容易に想到することができるものであるから、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。


3.結論

本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について

1.本願発明

平成28年2月29日提出の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1?10に係る発明は、平成26年11月4日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載されるとおりのものと特定されるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである(上記第2の1.に「本件補正前」として記載したのと同じ。)。

「【請求項1】
(a)ポリ(アリーレンエーテル)と溶媒とを含む第1の混合物を貧溶媒と混合して、前記溶媒、前記貧溶媒および前記ポリ(アリーレンエーテル)を含む第2の混合物を形成するステップ、及び、
(b)せん断力生成装置を用い、インペラ先端速度2?4m/sで前記第2の混合物を撹拌するステップの、プロセスパラメータを備えた粒径特性が改善されたポリ(アリーレン)エーテルの製造方法であって、前記方法はさらに、
(c)固形物含量が前記ポリ(アリーレンエーテル)樹脂に対して約10?約50質量%の、ステップ(a)の前記第1の混合物を準備するステップと、
(d)前記第2の混合物の温度を、前記貧溶媒の沸点より少なくとも5℃低く維持するステップと、
(e)前記貧溶媒と前記第1の混合物との質量比を約0.5:1?約4:1とするステップと、
(f)5質量%以下の水を含む前記貧溶媒を準備するステップと、から構成される群から選択された1つ以上のプロセスパラメータを含み、
前記改善された粒径特性は、(i)粒径が38μm未満の粒子が約50質量%以下であること、(ii)平均粒径が100μm以上であること、の1つまたは両方を含むことを特徴とする方法。」


2.本願発明の進歩性について

上記第2の2.で述べたとおり、本願発明をさらに限定したものが本件補正発明であるところ、同第2の2.で検討したとおり、本件補正発明は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本願発明も、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 まとめ

以上のとおり、本願発明、すなわち本願請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
よって本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2017-03-24 
結審通知日 2017-03-28 
審決日 2017-04-17 
出願番号 特願2013-558001(P2013-558001)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08J)
P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰村松 宏紀  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 守安 智
佐久 敬
発明の名称 微粒子含量が少ないポリ(アリーレンエーテル)の製造方法  
代理人 森下 賢樹  

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