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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63B
管理番号 1332148
審判番号 不服2016-11057  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-10-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-22 
確定日 2017-10-02 
事件の表示 特願2014-521692「ミクロ表面粗さを含む空気力学的コーティングを有するゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月24日国際公開、WO2013/012796、平成26年 8月25日国内公表、特表2014-520654、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年7月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年7月15日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月13日付け、及び平成27年10月6日で手続補正がされ、平成28年3月16日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年7月22日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、同年9月7日付けで原審において拒絶理由が通知されたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成28年3月16日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1:この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・請求項 :1?4、15?20
・引用文献:特開2004-147836号公報

理由2:この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項 :1?4、15?20
・引用文献:特開2004-147836号公報


第3 平成28年7月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、下記(1)から下記(2)へと補正することを含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
コアと、
該コアを包むカバーと、
該カバーを包むコーティングであって、樹脂を含みかつ外部表面を有する、コーティングと
を備えるゴルフボールであって、
該外部表面が所定の領域と残りの領域とを有し、該所定の領域が、該外部表面全体の表面領域よりも小さく、
該所定の領域が、約1.2μmおよび約3.0μmの間のミクロ表面粗さを有し、かつ該残りの領域が、約1.0μm以下のミクロ表面粗さを有し、ミクロ表面粗さが理想表面からの0.25mm以下のずれを含む、
ゴルフボール。
【請求項2】
前記所定の領域が、前記ゴルフボールの両側の2つのポールのうちの少なくとも一方にわたる領域、前記ゴルフボールのシームの少なくとも一部にわたる領域、前記ゴルフボールのディンプル間のランドの少なくとも一部にわたる領域、および、該ディンプルのうちの1つまたは複数の少なくとも一部にわたる領域、のうちの少なくとも1つを含む、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記所定の領域が、前記ゴルフボールの前記外部表面上で対称パターンの形態を成す、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記所定の領域が前記外部表面領域の7.5?75%にわたる、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記コーティングが複数の表面粗面化粒子を含み、該表面粗面化粒子が400nm?160ミクロンの平均サイズを有し、該表面粗面化粒子が、前記コーティングされたゴルフボール本体の前記外部表面の前記所定の領域において、前記所定の領域が約1.2μmから約3.0μmの間のミクロ表面粗さを示すような十分な量で存在する、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記表面粗面化粒子が前記コーティングの総重量の1?30重量%を構成する、請求項5記載のゴルフボール。
【請求項7】
コアと該コアを包むカバーとを有するゴルフボール本体を用意する工程;
外部表面を有するゴルフボールを形成するために、該カバーを包むコーティングを塗布する工程であって、該コーティングが樹脂を含む、工程
を含む方法であって、
該外部表面が所定の領域と残りの領域とを有し、該所定の領域が、該外部表面全体の表面領域よりも小さく、
400nm?160ミクロンの平均サイズを有する表面粗面化粒子が、該所定の領域が約1.2μmと約3.0μmの間の表面粗さを示し、かつ、該残りの領域が1.0μm以下のミクロ表面粗さを有するような十分の量で、該コーティング中に存在し、該ミクロ表面粗さが理想表面からの0.25mm以下のずれを含む、
方法。
【請求項8】
前記所定の領域が前記外部表面の7.5?75%にわたる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記表面粗面化粒子が、前記所定の領域内のコーティングの総重量の1?30%を構成する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記コーティングが、前記樹脂中に含有されている前記表面粗面化粒子を含む、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記コーティングを塗布する工程が、
前記樹脂を樹脂層状態で前記ゴルフボール本体の前記外部表面に塗布する工程;および
複数の表面粗面化粒子を該樹脂層状態の該樹脂に接着させかつ/または該樹脂中に埋め込む工程
を更に含む、請求項7記載の方法。
【請求項12】
前記樹脂層の上にステンシルを適用する工程を更に含み、前記複数の表面粗面化粒子を該樹脂層に接着させかつ/または該樹脂層中に埋め込む工程中に該ステンシルが前記所定の領域を露出させたままとするように、該所定の領域を除く前記外部表面を該ステンシルが覆う、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ステンシルが、前記ゴルフボールの両側の2つのポールのうちの少なくとも一方にわたる領域、該ゴルフボールのシームの少なくとも一部にわたる領域、該ゴルフボールのディンプル間のランドの少なくとも一部にわたる領域、および、該ディンプルのうちの1つまたは複数の少なくとも一部にわたる領域、のうちの少なくとも1つを露出させたままにする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記所定の領域が、前記ゴルフボールの前記外部表面上で対称パターンの形態を成す、請求項13記載の方法。
【請求項15】
コアと該コアを包むカバーとを有するゴルフボール本体を用意する工程;
外部表面を有するゴルフボールを形成するために、該カバーを包むコーティングを塗布する工程であって、該コーティングが樹脂を含み、該外部表面が所定の領域と残りの領域とを有し、該所定の領域が、該外部表面全体の表面領域よりも小さい、工程;
該所定の領域が約1.2μmと約3.0μmの間のミクロ表面粗さを示し、かつ該残りの領域が1.0μm以下のミクロ表面粗さを有するように該外部表面に十分な大きさのずれを含ませるべく、該外部表面を粗面化する工程であって、該ミクロ表面粗さが理想表面からの0.25mm以下のずれを含む、工程
を含む、方法。
【請求項16】
前記外部表面を粗面化する工程が、該外部表面を研磨材で研磨することによって行なわれる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記研磨材が、研磨粒子の緩凝集体、固定砥粒、研磨布紙、軽石、鋭利な表面、鋭利な表面、および、切り込み線が入った表面のうちの少なくとも1つである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記研磨が、前記外部表面を研磨材に擦りつけること、該外部表面を研磨材に対して転動させること、および、該外部表面に研磨材を吹き付けることのうちの少なくとも1つによって行なわれる、請求項16記載の方法。
【請求項19】
前記外部表面にステンシルを適用する工程を更に含み、該ステンシルが、前記粗面化する工程中に、前記所定の領域を露出させたままにしかつ覆われた領域を保護するように、該所定の領域を除く前記ゴルフボールの該外部表面を該ステンシルが覆う、請求項16記載の方法。
【請求項20】
前記ステンシルが、前記ゴルフボールの両側の2つのポールのうちの少なくとも一方にわたる領域、該ゴルフボールのシームの少なくとも一部にわたる領域、該ゴルフボールのディンプル間のランドの少なくとも一部にわたる領域、および、該ディンプルのうちの1つまたは複数の少なくとも一部にわたる領域、のうちの少なくとも1つを露出させたままにする、請求項19記載の方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
コアと、
該コアを包むカバーと、
該カバーを包むコーティングであって、樹脂を含みかつ外部表面を有する、コーティングと
を備えるゴルフボールであって、
該外部表面が所定の領域と残りの領域とを有し、該所定の領域が、該外部表面全体の表面領域よりも小さく、
該所定の領域が、約1.2μmおよび約3.0μmの間のミクロ表面粗さを有し、かつ該残りの領域が、約1.0μm以下のミクロ表面粗さを有し、ミクロ表面粗さが理想表面からの0.25mm以下のずれを含み、
該コーティングが複数の表面粗面化粒子を含み、該表面粗面化粒子が400nm?160ミクロンの平均サイズを有し、該表面粗面化粒子が、該コーティングされたゴルフボール本体の該外部表面の該所定の領域において、該所定の領域が約1.2μmから約3.0μmの間のミクロ表面粗さを示すような十分な量で存在する、
ゴルフボール。
【請求項2】
前記所定の領域が、前記ゴルフボールの両側の2つのポールのうちの少なくとも一方にわたる領域、前記ゴルフボールのシームの少なくとも一部にわたる領域、前記ゴルフボールのディンプル間のランドの少なくとも一部にわたる領域、および、該ディンプルのうちの1つまたは複数の少なくとも一部にわたる領域、のうちの少なくとも1つを含む、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記所定の領域が、前記ゴルフボールの前記外部表面上で対称パターンの形態を成す、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記所定の領域が前記外部表面領域の7.5?75%にわたる、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記表面粗面化粒子が前記コーティングの総重量の1?30重量%を構成する、請求項1記載のゴルフボール。
【請求項6】
コアと該コアを包むカバーとを有するゴルフボール本体を用意する工程;
外部表面を有するゴルフボールを形成するために、該カバーを包むコーティングを塗布する工程であって、該コーティングが樹脂を含む、工程
を含む方法であって、
該外部表面が所定の領域と残りの領域とを有し、該所定の領域が、該外部表面全体の表面領域よりも小さく、
400nm?160ミクロンの平均サイズを有する表面粗面化粒子が、該所定の領域が約1.2μmと約3.0μmの間の表面粗さを示し、かつ、該残りの領域が1.0μm以下のミクロ表面粗さを有するような十分の量で、該コーティング中に存在し、該ミクロ表面粗さが理想表面からの0.25mm以下のずれを含む、
方法。
【請求項7】
前記所定の領域が前記外部表面の7.5?75%にわたる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記表面粗面化粒子が、前記所定の領域内のコーティングの総重量の1?30%を構成する、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記コーティングが、前記樹脂中に含有されている前記表面粗面化粒子を含む、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記コーティングを塗布する工程が、
前記樹脂を樹脂層状態で前記ゴルフボール本体の前記外部表面に塗布する工程;および
複数の表面粗面化粒子を該樹脂層状態の該樹脂に接着させかつ/または該樹脂中に埋め込む工程
を更に含む、請求項6記載の方法。
【請求項11】
前記樹脂層の上にステンシルを適用する工程を更に含み、前記複数の表面粗面化粒子を該樹脂層に接着させかつ/または該樹脂層中に埋め込む工程中に該ステンシルが前記所定の領域を露出させたままとするように、該所定の領域を除く前記外部表面を該ステンシルが覆う、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記ステンシルが、前記ゴルフボールの両側の2つのポールのうちの少なくとも一方にわたる領域、該ゴルフボールのシームの少なくとも一部にわたる領域、該ゴルフボールのディンプル間のランドの少なくとも一部にわたる領域、および、該ディンプルのうちの1つまたは複数の少なくとも一部にわたる領域、のうちの少なくとも1つを露出させたままにする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記所定の領域が、前記ゴルフボールの前記外部表面上で対称パターンの形態を成す、請求項12記載の方法。」(下線は平成28年7月22日付けの手続補正書のとおり。)

2 補正の適否
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項乃至第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1乃至13に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。


第4 本願発明
本願請求項1乃至13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明13」という。)は、平成28年7月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項13に記載された事項により特定される、上記「第3 1 (2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものと認める。


第5 引用刊行物等
本願の優先日前の平成16年5月27日に頒布された特開2004-147836号公報(以下「刊行物」という。)には、以下の記載がある。(なお、下線は審決で付した。以下同じ。)
ア 「【請求項3】
実質的に球状である本体とこの本体を被覆する塗装層とを備えており、この塗装層の表面は高粗度領域と低粗度領域とに区分されており、高粗度領域における10点平均粗さRzが0.006mm以上0.300mm以下であり、低粗度領域における10点平均粗さRzが0.006mm未満であるゴルフボール。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴルフボールに関する。詳細には、本発明は、ゴルフボールの空力特性の改良に関するものである。」
ウ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ゴルファーのゴルフボールに対する最大の関心事は、飛距離である。飛距離は、打撃時のゴルフボールの変形挙動と、飛行時の空力特性とに依存する。空力特性に最も影響を与えるのは、ディンプルである。前述のようにディンプルの改良が種々なされているが、ゴルファーは更なる飛距離の向上を望んでいる。ディンプル以外の観点からの、空力特性の改善が必要である。本発明の目的は、ゴルフボールの飛行性能を改善することにある。」
エ 「【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。このゴルフボール1は、球状のコア2と、カバー3と、塗装層4とを備えている。ゴルフボール1の表面には、多数のディンプル5が形成されている。ゴルフボール1の表面のうちディンプル5以外の部分は、ランド6である。コア2とカバー3とは、本体を形成する。本体は、表面にディンプル5を備えているが、実質的に球体である。塗装層4は、本体を被覆している。

【0012】
図2は、図1のゴルフボール1の一部が示された拡大断面図である。この図には、ディンプル5の最深部及びゴルフボール1の中心を通過する平面に沿った断面が画かれている。この図2から明らかなように、塗装層4は表面に微小な凹部7を多数備えている。この凹部7によって、表面の粗さが高められている。この凹部7は、ゴルフボール1が飛行する際の乱流遷移を促進し、抗力低減に寄与すると推測される。この凹部7により空力特性が向上し、ゴルフボール1の飛距離が増大する。
【0013】
前述のように、凹部7は塗装層4の表面に存在している。凹部7は、ディンプル5にもランド6にも存在する。凹部7は、カバー3にまでは至っていない。凹部7は、塗装層4及びカバー3が共に凹陥しているディンプル5とは明確に区別される。
【0014】
塗装層4の表面の10点平均粗さRzは、0.006mm以上0.300mm以下である。10点平均粗さRzが上記範囲未満であると、凹部7による空力特性の向上が不十分となることがある。この観点から、10点平均粗さRzは0.008mm以上がより好ましい。10点平均粗さRzが上記範囲を超えると、凹部7によってディンプル5の形状が損なわれ、ゴルフボール1の飛距離が不十分となることがある。この観点から、10点平均粗さRzは0.200mm以下がより好ましい。10点平均粗さRzは、「JIS B 0601」の規定に準拠して測定される。」
オ 「【0025】
図3において符号Bで示されている2本の仮想線は、塗装層の表面を高粗度領域Hと低粗度領域Lとに区画する線である。高粗度領域Hは、シームSに沿って帯状に延びている。高粗度領域H以外の領域が、低粗度領域Lである。低粗度領域Lは、2つに分かれている。低粗度領域Lには、ポールPが含まれる。図示されていないが、高粗度領域Hには、微小な凹部が多数形成されている。高粗度領域Hにおける10点平均粗さRzは、0.006mm以上0.300mm以下である。低粗度領域Lにおける10点平均粗さRzは、0.006mm未満である。このゴルフボール8は、ポールPの近傍にマスキングが施された状態でブラスト処理がなされることで得られうる。シームSの近傍のみが研磨されることで、ゴルフボール8が得られてもよい。
【0026】
ゴルフボール8の飛距離は、バックスピンの周速が最も速い大円の近傍における表面状態に大きく依存する。バックスピンの周速が最も速い大円がシームSと一致したとき、高粗度領域Hが飛距離向上に寄与する。前述のようにシームSにはディンプル9が存在しないので、このシームSが周速の最も速い大円と一致したときのディンプル効果は少ないが、これを高粗度領域Hに存在する凹部が補う。このゴルフボール8は、空力的対称性に優れる。
【0027】
高粗度領域HがシームSに沿って延びる必要はなく、低粗度領域LがポールPを含む必要もない。ディンプルパターン、製造上の誤差等が加味されて、高粗度領域H及び低粗度領域Lの位置が決定される。
【0028】
ゴルフボール8の仮想球面に占める高粗度領域Hの比率は、5%以上70%以下が好ましく、10%以上40%以下が特に好ましい。ゴルフボール8の仮想球面に占める高粗度領域Hの比率は、30%以上95%以下が好ましく、60%以上90%以下が特に好ましい。」
カ 図1より、コアを包むカバーと、カバーを包む塗装層であって、外部表面を有する、塗装層とを備えるゴルフボールが看取できる。

そうすると、上記ア乃至カの記載事項から、刊行物には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「球状のコアと、コアを包むカバーと、カバーを包む塗装層であって、外部表面を有する、塗装層とを備えるゴルフボールであって、
この塗装層の表面は高粗度領域と低粗度領域とに区分されており、高粗度領域における10点平均粗さRzが0.006mm以上0.300mm以下であり、低粗度領域における10点平均粗さRzが0.006mm未満であり、
仮想球面に占める高粗度領域の比率が、5%以上70%以下であるゴルフボール。」


第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、
後者の「球状のコア」、「コアを包むカバー」、「カバーを包む塗装層であって、外部表面を有する、塗装層」、「ゴルフボール」、「高粗度領域」、及び「低粗度領域」は、それぞれ、前者の「コア」、「コアを包むカバー」、「カバーを包むコーティングであって、外部表面を有する、コーティング」、「ゴルフボール」、「所定の領域」、及び「残りの領域」に相当する。
後者の「塗装層の表面」は、高粗度領域と低粗度領域とに区分されているから、「外部表面が所定の領域と残りの領域とを有し、該所定の領域が、外部表面全体の表面領域よりも小さい」といえる。

したがって、両者は、
「コアと、
該コアを包むカバーと、
該カバーを包むコーティングであって、外部表面を有する、コーティングと
を備えるゴルフボールであって、
該外部表面が所定の領域と残りの領域とを有し、該所定の領域が、該外部表面全体の表面領域よりも小さい、
ゴルフボール。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明1が、「樹脂」を含むコーティングを備え、「所定の領域が、約1.2μmおよび約3.0μmの間のミクロ表面粗さを有し、かつ該残りの領域が、約1.0μm以下のミクロ表面粗さを有し、ミクロ表面粗さが理想表面からの0.25mm以下のずれを含み、該コーティングが複数の表面粗面化粒子を含み、該表面粗面化粒子が400nm?160ミクロンの平均サイズを有し、該表面粗面化粒子が、該コーティングされたゴルフボール本体の該外部表面の該所定の領域において、該所定の領域が約1.2μmから約3.0μmの間のミクロ表面粗さを示すような十分な量で存在する」のに対し、引用発明は、高粗度領域における10点平均粗さRzが0.006mm以上0.300mm以下であり、低粗度領域における10点平均粗さRzが0.006mm未満である点。

(2)判断
新規性(理由1)について
そうすると、引用発明は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を具備していない。
したがって、本願発明1が、引用発明であるとすることはできない。

進歩性(理由2)について
上記相違点について以下検討する。
上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項における「ゴルフボールにおいて、『樹脂』及び『複数の表面粗面化粒子』を含むコーティングを備えること」は、上記引用発明に記載も示唆もされていないし、設計的事項といえる理由はない。
また、本願発明1のミクロ表面粗さとは、一般に、算術平均粗さと呼ばれるものであって、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。

これに対し、引用発明の10点平均粗さとは、一般に、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(Yp)の絶対値の平均値と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高(Yv)の絶対値の平均値との和を求め、この値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
そして、本願発明1のミクロ表面粗さと引用発明の10点平均粗さとの間に直接的な関係は示されていない。
そうすると、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項における「所定の領域が、約1.2μmおよび約3.0μmの間のミクロ表面粗さを有し、かつ該残りの領域が、約1.0μm以下のミクロ表面粗さを有し、ミクロ表面粗さが理想表面からの0.25mm以下のずれを含み」、「該表面粗面化粒子が400nm?160ミクロンの平均サイズを有し、該表面粗面化粒子が、該コーティングされたゴルフボール本体の該外部表面の該所定の領域において、該所定の領域が約1.2μmから約3.0μmの間のミクロ表面粗さを示すような十分な量で存在する」点も、上記引用発明に記載も示唆もされていないし、設計的事項といえる理由もない。
そして、本願発明1は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項により、「一態様において、ある局面のミクロ表面粗さは、異なるゴルフボール構成仕様にしたがって、異なる高度な空気力学的特性または異なる度合いの高度な空気力学的特性を示す。例えば、同じ局面の増大したミクロ表面粗さを有しかつ例えばディンプルパターンを除いて同じ構成仕様を有するゴルフボールは、異なる度合いの高度な空気力学的特性を示す場合がある。したがって、一態様では、異なる構成仕様の各ボールごとにミクロ表面粗さを最適化できる。一態様では、ディンプルパターンを除いて同じ構成仕様を有するボールに関してミクロ表面粗さを最適化できる。」(【0113】参照。)という作用効果を奏するものである。

したがって、本願発明1は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2 本願発明2乃至13について
新規性(理由1)について
また、本願発明2乃至5は、本願発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本願発明2乃至5も引用発明1であるとすることはできない。
また、本願発明6は、本願発明1の「ゴルフボール」を「方法」とカテゴリーを変えたものであって、実質的に本願発明1と相違しない。
よって、本願発明6が、引用発明1であるとすることはできない。
また、本願発明7乃至13は、本願発明6の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、本願発明7乃至13も引用発明1であるとすることはできない。

進歩性(理由2)について
また、本願発明2乃至5は、本願発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「1 (2) イ」と同様の理由により、本願発明2乃至5は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本願発明6は、本願発明1の「ゴルフボール」を「方法」とカテゴリーを変えたものであって、実質的に本願発明1と相違しないから、本願発明6は、上記「1 (2) イ」と同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本願発明7乃至13は、本願発明6の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「1 (2) イ」と同様の理由により、本願発明7乃至13は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


第7 原査定について
本願発明1は、上記「第6 1 (2) ア」のとおり、引用発明であるとすることはできない。
また、本願発明1は、上記「第6 1 (2) イ」のとおり、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

また、本願発明2乃至5は、本願発明1の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「第6 1 (2) ア」と同様の理由により、引用発明であるとすることはできないし、上記「第6 1 (2) イ」と同様の理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

また、本願発明6は、本願発明1の「ゴルフボール」を「方法」とカテゴリーを変えたものであって、実質的に本願発明1と相違しないから、上記「第6 1 (2) ア」と同様の理由により、引用発明であるとすることはできないし、上記「第6 1 (2) イ」と同様の理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

また、本願発明7乃至13は、本願発明6の発明特定事項に加えてさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「第6 1 (2) ア」と同様の理由により、引用発明であるとすることはできないし、上記「第6 1 (2) イ」と同様の理由により、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-20 
出願番号 特願2014-521692(P2014-521692)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (A63B)
P 1 8・ 121- WY (A63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 砂川 充  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 森次 顕
藤本 義仁
発明の名称 ミクロ表面粗さを含む空気力学的コーティングを有するゴルフボール  
代理人 大関 雅人  
代理人 山口 裕孝  
代理人 刑部 俊  
代理人 川本 和弥  
代理人 春名 雅夫  
代理人 清水 初志  
代理人 佐藤 利光  
代理人 井上 隆一  
代理人 小林 智彦  
代理人 新見 浩一  
代理人 五十嵐 義弘  

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