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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1332228
異議申立番号 異議2016-701150  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-15 
確定日 2017-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5935916号発明「セメント組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5935916号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正することを認める。 特許第5935916号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5935916号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成27年2月25日の出願であって、平成28年 5月20日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人「浜 俊彦」により特許異議の申立てがされ、平成29年 1月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年 4月 4日に意見書の提出及び訂正の請求があり、訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年 5月12日付けで意見書が提出されたものである。


2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のア?イのとおりである(下線は訂正箇所である。)。

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「クリンカ及び石膏を含むセメント組成物であって、
前記クリンカは、前記セメント組成物の質量に対して、3CaO・SiO_(2)を55?70質量%と、3CaO・Al_(2)O_(3)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を合計で14?18質量%を含み、
前記クリンカのSO_(3)換算量及び前記石膏のSO_(3)換算量の合計が、前記セメント組成物の質量に対して2.5?3.5質量%であり、
前記石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して1.0?1.5質量%であり、
前記石膏中の半水石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物中の3CaO・Al_(2)O_(3)1モルに対して0.15?0.40モルである、セメント組成物。」
とあるのを、
「クリンカ及び石膏を含むセメント組成物であって、
前記クリンカは、前記セメント組成物の質量に対して、3CaO・SiO_(2)を55?70質量%と、3CaO・Al_(2)O_(3)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を合計で14?18質量%を含み、
前記クリンカは、前記3CaO・Al_(2)O_(3)を前記4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)よりも多く含み、前記セメント組成物の質量に対して、前記3CaO・Al_(2)O_(3)を9.5?11.5質量%含み、
前記クリンカのSO_(3)換算量及び前記石膏のSO_(3)換算量の合計が、前記セメント組成物の質量に対して2.5?3.5質量%であり、
前記クリンカのSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して0.5?2.0質量%であり、
前記石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して1.0?1.5質量%であり、
前記石膏中の半水石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物中の3CaO・Al_(2)O_(3)1モルに対して0.15?0.40モルである、セメント組成物。」
に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記クリンカのSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して0.5?2.0質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。」
とあるのを、
「前記クリンカのSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して1.6?1.9質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。」
に訂正する。

(2)訂正の目的の適否
ア.訂正事項1は、訂正前の請求項1記載の特許発明について、クリンカは、3CaO・Al_(2)O_(3)を4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)よりも多く含むこと、セメント組成物の質量に対して3CaO・Al_(2)O_(3)を9.5?11.5質量%含むこと、及び、クリンカのSO_(3)換算量が、セメント組成物の質量に対して0.5?2.0質量%であることをさらに特定するものであり、いずれも特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.訂正事項2は、訂正前の請求項2に記載の特許発明について、クリンカのSO_(3)換算量の範囲をさらに限定して特定するものであり、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(3)新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1の「前記クリンカは、前記3CaO・Al_(2)O_(3)を前記4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)よりも多く含み、前記セメント組成物の質量に対して、前記3CaO・Al_(2)O_(3)を9.5?11.5質量%含」むことは、願書に添付した明細書の【0023】及び【0036】【表1】の実施例1?5に記載されており、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」といい、それぞれ「本件明細書」などという。)に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

イ.訂正事項2について
訂正事項2は、クリンカのSO_(3)換算量の範囲をさらに限定するものであり、本件明細書の【0036】【表1】の実施例1?3及び5に記載されていることから新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は、実質上明細書を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を訂正するものであり、訂正前の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、当該訂正前の請求項1及び2は、特許法120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?2〕について請求するものと認められるから、特許法120条の5第4項に適合する。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?2〕について訂正を認める。


3.本件発明
上記2.のとおり訂正を認めたので、訂正後の請求項1?2に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明2」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所である。)。

【請求項1】
クリンカ及び石膏を含むセメント組成物であって、
前記クリンカは、前記セメント組成物の質量に対して、3CaO・SiO_(2)を55?70質量%と、3CaO・Al_(2)O_(3)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を合計で14?18質量%を含み、
前記クリンカは、前記3CaO・Al_(2)O_(3)を前記4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)よりも多く含み、前記セメント組成物の質量に対して、前記3CaO・Al_(2)O_(3)を9.5?11.5質量%含み、
前記クリンカのSO_(3)換算量及び前記石膏のSO_(3)換算量の合計が、前記セメント組成物の質量に対して2.5?3.5質量%であり、
前記クリンカのSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して0.5?2.0質量%であり、
前記石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して1.0?1.5質量%であり、
前記石膏中の半水石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物中の3CaO・Al_(2)O_(3)1モルに対して0.15?0.40モルである、セメント組成物。
【請求項2】
前記クリンカのSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して1.6?1.9質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。


4.当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由の概要
平成29年1月31日付けで当審が通知した取消理由において、訂正前の請求項1?2に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許を取り消すべきものであることの通知を行った。

<刊行物>
特許異議申立書で提示され、取消理由通知で引用された刊行物「甲第1号証」?「甲第4号証」(以下、それぞれ「甲1」?「甲4」という。)、及び、平成29年 5月12日付け意見書で提示された刊行物「甲第5号証」?「甲第7号証」(以下、それぞれ「甲5」?「甲7」という。)
甲第1号証:特開2011-184253号公報
甲第2号証:下坂建一、クリンカーへの添加成分とセメントの諸物性に関する研究、埼玉大学博士論文、2005.09.発行、pp.59-86
甲第3号証:Makio YAMASHITA, Hisanobu TANAKA、LOW-TEMPERATURE BURNT PORTLAND CEMENT CLINKER USING MINERALIZER、セメント・コンクリート論文集、2012.02.25発行、No.65、pp.82-87
甲第4号証:特開2013-177314号公報
甲第5号証:中西陽一郎 田中久順 下坂建一 山下牧生、高C_(3)A型セメントの基礎的物性 ?実製造機による試製品を用いた評価?、セメント・コンクリート論文集、2009.02.20発行、No.62、pp.95-100
甲第6号証:特開2007-45647号公報
甲第7号証:セメントの常識、2009.12.発行、社団法人セメント協会、pp.1-2,9-10,13-14

(2)特許法第29条第2項について

ア.本件発明1
取消理由通知において引用した甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加したものである。以下、同じ。)。

摘記1-1:「【請求項1】
ZnO含有量が0.5?1.2質量%で、SO_(3)含有量が0.5?1.5質量%であるセメントクリンカーの粉砕物と、石膏を含むことを特徴とする水硬性組成物。」

摘記1-2:「【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】
本発明は、製造時の環境負荷を小さくすることができ、かつ、普通ポルトランドセメントや高炉セメント等の慣用のセメントと同等の流動特性および硬化特性を有する水硬性組成物に関するものである。」

摘記1-3:「【発明が解決しようとする課題】【0004】
しかし、上記特許文献1に記載されたセメントクリンカーでは、水和反応性が高い3CaO・Al_(2)O_(3)を10質量%以上含むため、該セメントクリンカーを使用したセメントは、普通ポルトランドセメントと比べて流動性が低下することに加え、流動性の経時変化も大きくなり、強度発現性もやや劣るという課題があった。
また、上記特許文献1に記載されたセメントクリンカーは、ポルトランドセメントクリンカーよりも低温(1380?1400℃程度)で焼成可能であり、燃料原単位の低減により製造の際の炭酸ガスの発生量を抑制することは可能ではあるが、近年の地球環境問題の深刻化に伴い、製造の際により炭酸ガス発生量を抑制できる水硬性組成物が求められている。
【0005】
そこで、本発明においては、製造時の環境負荷を小さくすることができ、かつ、普通ポルトランドセメントや高炉セメント等の慣用のセメントと同等の流動特性および硬化特性を有する水硬性組成物を提供することを目的とする。」

摘記1-4:「【0009】
また、本発明で使用するセメントクリンカーにおいては、SO_(3)含有量は0.5?1.5質量%、好ましくは0.55?1.45質量%、特に好ましくは0.6?1.4質量%である。SO_(3)含有量が0.5質量%未満では、焼成温度を低下させることが困難となり、焼成温度を低下させることで製造時の環境負荷を小さくするという本願発明の効果が低減する。一方、SO_(3)含有量が1.5質量%を越えると、プレヒータサイクロンが閉塞してキルンの安定運転が損なわれる惧れがあるうえ、初期強度の低下等セメントの品質に悪影響を及ぼす惧れもある。
なお、本発明において、セメントクリンカー中のZnO、CuO、SO_(3)含有量は、「JIS R 5202(ポルトランドセメントの化学分析方法)」により測定することができる。」

摘記1-5:「【0026】
なお、本発明において、水硬性組成物中の石膏量は、流動性や強度発現性等から、SO_(3)換算で1?5質量%であることが好ましく、1.5?3.5質量%であることがより好ましい。」

摘記1-6:「【実施例】【0030】
以下、実施例により本発明を説明する。
1.実施例1
(1)セメントクリンカーの製造:
原料として、下水汚泥、石炭灰、建設発生土、廃石膏ボードの廃棄物原料と、石灰石等の一般のポルトランドセメントクリンカー原料と、試薬を使用して、以下のセメントクリンカーを電気炉を用いて製造した。なお、No.5のクリンカーが普通ポルトランドセメントクリンカーに相当する。
(1)クリンカー(No.1);ZnO量:1.0質量%、CuO量:0.015質量%、SO_(3)量:1.0質量%、焼成温度:1370℃
(2)クリンカー(No.2);ZnO量:0.033質量%、CuO量:1.0質量%、SO_(3)量:1.0質量%、焼成温度:1345℃・・・」

摘記1-7:「【0031】
上記No.1?5のクリンカーの鉱物組成(ボーグ式より算出)は、いずれもC_(3)S:58質量%、C_(2)S:21質量%、C_(3)A:9質量%、C_(4)AF:9質量%である。
また、上記No.1?5のクリンカーの遊離石灰量(「JIS R 5202(ポルトランドセメントの化学分析方法)」により測定)は、いずれも1.0質量%であった。
なお、上記No.1?5のクリンカーの製造においては、廃棄物原料をクリンカー1ton当たり300kg使用した。」

摘記1-8:「【0033】
(2)水硬性組成物の製造
上記セメントクリンカーNo.1又はNo.2に、排脱二水石膏(住友金属社製)及び前記排脱二水石膏を140℃で加熱して得た半水石膏を添加し、バッチ式ボールミルでブレーン比表面積が3250±30cm^(2)/gとなるように同時粉砕して、水硬性組成物を製造した。
なお、該水硬性組成物中の二水石膏量(SO_(3)換算)は0.8質量%であり、半水石膏量(SO_(3)換算)は0.8質量%である。」

取消理由通知において引用した甲2?甲4の記載については省略する。

意見書で提示された甲5には、以下の事項が記載されている。

摘記5-1:「実製造機にて試製したセメントを用いて、アルミネート(C_(3)A)量および添加せっこう量がセメントの基礎的物性に及ぼす影響を調査した。セメント中のC_(3)A量を11.0%まで増加させても、基礎的物性への影響はほとんど認められなかった。一方で、セメント中のC_(3)A量に関わらず、添加せっこう量が増加すると材齢28日の強さは低下した。また、添加せっこう量が強さ以外の物性へ及ぼす影響は小さかった。本研究結果からは、C_(3)A量が9.5%?11.0%の範囲および添加せっこう中のSO_(3)量が0.7%?1.5%(セメント中のSO_(3)量が2.1%?3.0%)の範囲においては、添加せっこう量は少ない方がよいと判断された。」(第95頁要旨)

摘記5-2:「1.緒言・・・
一方で、産業廃棄物・副産物をセメントの原燃料代替物として用いることにより、クリンカーの鉱物組成または化学組成が変動する。特に、粘土原料代替物として活用される石炭灰、各種汚泥および建設残土などはAl_(2)O_(3)分に富むため、これらの活用を拡大する場合には、クリンカー中のC_(3)A量が増加する。クリンカーの鉱物組成または化学組成が変動すれば、セメントの物性は何らかの影響を受ける可能性が高い。また、セメント製造の仕上工程にて添加させるせっこうの量を増減することは、セメントの物性に対するこれらの変化を助長または抑制する作用があると考えられる。・・・
本報告では、前報の成果を踏まえつつ、原料に全て工場常用品を用い、全製造プロセスを実製造機によって製造したセメントを用いて、高C_(3)A型セメントの基礎的物性(凝結、強さ、流動性および安定性)を調査した。また、セメントの高C_(3)A化に対する適切な添加せっこう量についても検討した。」(第95頁左欄第1行?右欄第16行)

摘記5-3:「2.実験
2.1 材料
セメントは三菱マテリアル株式会社の実製造機(能力2000t/day、NSP ロータリーキルン)により試製した。・・・C_(3)A量はBogue式による値を、添加せっこう量はSO_(3)量に換算した値を表記した。C_(3)A量を現行相当の9.5%から11.0%まで段階的に増量し、それぞれのC_(3)A量に対する添加せっこう量の影響を把握できるようにした計12水準のセメントを試製した。
Table1に、試製したセメントのBogue式による鉱物組成、添加せっこう量(SO_(3)換算)およびクリンカー中のSO_(3)量などを示す。現行の普通セメントを基準として、エーライト(C_(3)S)量およびフェライト(C_(4)AF)量をほぼ一定とし、C_(3)A量の増減に対しビーライト(C_(2)S)量が増減するようにした。クリンカー中のSO_(3)量(1.4±0.1%)、ブレーン空気透過法による比表面積(3150±60cm^(2)/g)および添加せっこう中の半水せっこうの質量割合(75±10%)については、ほぼ一定となるようにした。」(第95頁右欄第17行?第96頁左欄第7行)

摘記5-4「第96頁Table.1




摘記5-5:「3.結果および考察 ・・・
3.2 強さ
Fig.3に、セメントの強さ試験結果を示す。
C_(3)Aは水和初期での活性が高いため、セメント中のC_(3)A量の増加にともない初期材齢での強さは増加すると予想される。・・・しかし本試験では、いずれの材齢においてもC_(3)A量の増加による強さへの影響は明確ではなかった。・・・
添加せっこう量の増加にともない、材齢28日における強さは低下した(t検定、危険率5%)。これらの影響は、セメント中のC_(3)A量に関係なく認められ、材齢の進行とともに顕著であった。」(第97頁左欄第3行?右欄第16行)

摘記5-6:「第97頁 Fig.3




摘記5-7:「3.3 流動性
Fig.4(a)に、PC系混和剤を添加したモルタルのフローを示す。
一般に、C_(3)Aは接水直後から水和が始まるためセメントの比表面積の増大と単位表面積あたりの混和剤吸着量の減少をもたらす。すなわち、流動性に対して負の影響を及ぼす^(4,5,9))。したがって、C_(3)A量の増加によりフローは低下すると推測されたが、そのような傾向は認められなかった。・・・
このことから、本試験にて流動性に及ぼすC_(3)A量の影響が明確でなかった原因として、硫酸アルカリ量の減少によりC_(3)A量の増加による流動性への負の影響が緩和されていたと考えられる。・・・
Fig.4(b)に、LS系混和剤を添加したモルタルのフローを示す。C_(3)A量の増加によるフローへの影響は認められなかった。添加せっこう量の増加にともない、フローはわずかに減少する傾向が認められたが、その影響は極めて小さかった。本試験結果から、セメント中のC_(3)A量が増加しても、LS系混和剤を使用したコンクリートの流動性に及ぼす影響は軽微であると推察される。」(第97頁右欄第17行?第98頁右欄第1行)」

摘記5-8:「第98頁 Fig.4



摘記5-9:「3.4 安定性
Fig.5 に、モルタル硬化体の水中膨張率を示す。・・・
水中膨張率は、C_(3)A量および添加せっこう量の大小に関わらずほぼ一定で、ASTMの規定値よりもはるかに小さかった。本研究の試験範囲でセメント中のC_(3)A量および添加せっこう量が増加しても、モルタル硬化体の安定性には問題がないことがわかった。」(第98頁右欄第2行?第11行)

摘記5-10「第98頁 Fig.5



摘記5-11:「4.結言
本研究では、実製造機により試製したセメントを用いて、C_(3)A量および添加せっこう量が基礎的物性へ及ぼす影響を調査した。得られた知見は以下の通りである。
(1)セメント中のC_(3)A量が11.0%まで増加しても、セメントの基礎的物性に及ぼす影響はほとんど認められなかった。
(2)セメント中のC_(3)A量に関わらず、添加せっこう量の増加により、材齢28日の強さは低下した。また、添加せっこう量が強さ以外の物性へ及ぼす影響は小さかった。
これらの試験結果から、セメント中のC_(3)A量が11.0%までの範囲および添加せっこうSO_(3)量が0.7%?1.5%(セメント中のSO_(3)量が2.1%?3.0%)の範囲においては、添加せっこう量は少ない方がよいと判断された。」(第99頁左欄第13行?左欄下から第5行)

意見書で提示された甲6には、以下の事項が記載されている。

摘記6-1:「【請求項3】
前記セメント組成物が、ボーグ式算出のC_(3)Aを7?13質量%、C_(3)AとC_(4)AFの合量を15?25質量%を含み、かつ、MgOを0.8?1.8質量%、及びFを0.03?0.07質量%含む、請求項1又は2記載のセメント組成物。」

摘記6-2:「【発明が解決しようとする課題】【0009】
本発明は、ポリカルボン酸系分散剤を使用した低水セメント比のコンクリートにおいて、分散剤の銘柄(種別)に依らず、安定して、水との練混ぜ直後の流動性に優れ、かつ流動性の経時変化も小さいセメント組成物を提供することを目的とする。」

摘記6-3「【0042】【表1-1】



摘記6-4「【0043】【表1-2】



摘記6-5「【0074】【表6】



摘記6-6「【0075】【表7】



意見書で提示された甲7には、以下の事項が記載されている。

摘記7-1:「2.1.2 せっこう
せっこうはセメントの硬化速度を調整するためのもので、火力発電所などの排煙脱硫で発生する排脱せっこうや、いろいろな化学工業から発生する副産せっこうが使用される」(第2頁右欄第8行?第11行)

摘記7-2:「そこで活躍するのが「せっこう」である。せっこうは水に溶けるとまずアルミネート相と反応して「エトリンガイト」と呼ばれる化合物を生成する。生成したエトリンガイトはアルミネート相を覆い、アルミネート相がさらに水と接触するのを抑制して、水和反応の速度を適度に遅らせる役割をする。実際には固まりはじめるのが数分から数時間遅れることとなる。」(第10頁左欄第11行?第17行)


摘記1-6?1-8より、甲1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ZnO量が1.0質量%でCuO量が0.015質量%、又は、ZnO量が0.033質量%でCuO量が1.0質量%であり、SO_(3)量が1.0質量%であり、鉱物組成がC_(3)S:58質量%、C_(2)S:21質量%、C_(3)A:9質量%、C_(4)AF:9質量%であるクリンカーに、排脱二水石膏及び半水石膏をSO_(3)換算でそれぞれ0.8質量%添加する工程を経て製造された水硬性組成物。」

次に、本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明には、クリンカーと、排脱二水石膏及び半水石膏からなる石膏を含む水硬性組成物が記載されているから、本件発明1の「クリンカ及び石膏を含むセメント組成物」が記載されている。
また、排脱二水石膏量と半水石膏量の合計が石膏量であるから、引用発明の「排脱二水石膏及び半水石膏をSO_(3)換算」した合計は、本件発明1の「石膏のSO_(3)換算量」に相当し、引用発明の「排脱二水石膏及び半水石膏をSO_(3)換算」した合計は0.8質量%+0.8質量%=1.6質量%である。

ここで、甲1の水硬性組成物に含まれる二水石膏量(SO_(3)換算)、半水石膏量(SO_(3)換算)から、水硬性組成物中のクリンカーの割合を計算すると、SO_(3)換算ではない二水石膏量及び半水石膏量は、それぞれ、以下の式で計算できる。

・二水石膏量=二水石膏量(SO_(3)換算)×二水石膏分子量/SO_(3)分子量
=0.8×172/80
=1.72(質量%)

・半水石膏量=半水石膏量(SO_(3)換算)×半水石膏分子量/SO_(3)分子量
=0.8×145/80
=1.45(質量%)

したがって、水硬性組成物中の石膏量及び水硬性組成物中のクリンカー割合は以下のとおりである。

・水硬性組成物中の石膏量=二水石膏量+半水石膏量
=1.72+1.45
=3.17(質量%)

・水硬性組成物中のクリンカー割合=100-3.17=96.83(質量%)

よって、水硬性組成物中のクリンカー鉱物量は、石膏の添加によって以下のように薄まっている。

・水硬性組成物中のC_(3)S量=58×96.83/100=56.16(質量%)
・水硬性組成物中のC_(3)A量=9×96.83/100=8.71(質量%)
・水硬性組成物中のC_(4)AF量=9×96.83/100=8.71(質量%)

・水硬性組成物中の(C_(3)A+C_(4)AF)量=8.71+8.71=17.42(質量%)

また、クリンカー由来のSO_(3)も石膏の添加によって以下のように薄まっている。

・水硬性組成物中のSO_(3)(クリンカー由来)=1×96.83/100=0.97(質量%)

以上から、水硬性組成物中のSO_(3)量は、
二水石膏量(SO_(3)換算)+半水石膏量(SO_(3)換算)+クリンカー由来(SO_(3)換算)=0.8+0.8+0.97=2.57(質量%)
となる。

また、半水石膏(SO_(3)換算)/C_(3)Aのモル比は、
{(半水石膏量(SO_(3)換算))/SO_(3)分子量}/{(水硬性組成物中のC_(3)A量)/C_(3)A分子量}=(0.8/80)/(8.71/270)=0.31である。

したがって、引用発明には、水硬性組成物に対するクリンカのSO_(3)換算量、石膏のSO_(3)換算量がそれぞれ0.97質量%、1.6質量%であり、クリンカのSO_(3)換算量と石膏のSO_(3)換算量の合計が2.57質量%であること、石膏中の半水石膏のSO_(3)換算量が、水硬性組成物中のC_(3)A1モルに対して0.31モルであることが記載されているといえる。

よって、本件発明1と引用発明とを対比すると、
「クリンカ及び石膏を含むセメント組成物であって、
前記クリンカは、前記セメント組成物の質量に対して、3CaO・SiO_(2)を55?70質量%と、3CaO・Al_(2)O_(3)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を合計で14?18質量%を含み、
前記クリンカのSO_(3)換算量及び前記石膏のSO_(3)換算量の合計が、前記セメント組成物の質量に対して2.5?3.5質量%であり、
前記クリンカのSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して0.5?2.0質量%であり、
前記石膏中の半水石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物中の3CaO・Al_(2)O_(3)1モルに対して0.15?0.40モルである、セメント組成物。」の点で両者は一致し、以下の2点で相違する。

相違点A:本件発明1は、クリンカが3CaO・Al_(2)O_(3)を4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)よりも多く含み、セメント組成物の質量に対して、3CaO・Al_(2)O_(3)を9.5?11.5質量%含んでいるのに対し、引用発明は、水硬性組成物におけるC_(3)A(3CaO・Al_(2)O_(3))とC_(4)AF(4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3))の量がともに9質量%である点。

相違点B:本件発明1は、石膏のSO_(3)換算量が、セメント組成物の質量に対して1.0?1.5質量%であるのに対し、引用発明は、排脱二水石膏及び半水石膏がSO_(3)換算で合計1.6質量%添加されている点。

上記相違点のうち、まず、相違点Aについて検討する。

特許異議申立人は、意見書において、相違点Aに関する周知技術として甲5?甲7を提示した。
ここで、摘記5-1?5-11から、甲5には、C_(3)A量が9.5%?11.0%の範囲および添加せっこう中のSO_(3)量が0.1%?1.5%(セメント中のSO_(3)量が2.1%?3.0%)の範囲においては、添加せっこう量は少ない方がよいこと、及び、Table1に列挙された12種類の試製セメントはいずれもC_(3)AをC_(4)AFよりも多く含み、C_(3)Aの下限値が9.4%であり上限値が11.1%であることが記載されている。
また、摘記6-1?6-6から、甲6には、石膏SO_(3)量が1.0?2.05質量%、C_(3)Aが10質量%又は11質量%でC_(4)AFよりも多く含んでいるセメント組成物が記載されている。
さらに、摘記7-1?7-2から、甲7には、短期の強度発現について、アルミネート相C_(3)Aは大きく、C_(4)AFは小さくすることが記載されている。

ここで、甲5?甲7の記載から、セメント組成物の質量に対するC_(3)A量がC_(4)AF量よりも多いセメント組成物が周知であることは認められるが、セメント組成物の質量に対するC_(3)A量がC_(4)AF量よりも少ない又は同じであるセメント組成物に対し、C_(3)A量をC_(4)AF量よりも大きくなるように調製すること(変更すること)が本件特許の出願前から周知技術であったとは認められず、また、水硬性組成物の質量に対するC_(3)A量とC_(4)AF量とが同じである引用発明の水硬性組成物について、C_(3)A量をC_(4)AF量よりも大きくするために、甲5?甲7に記載の事項を適用する動機付けもない。

さらに、引用発明の水硬性組成物は、水硬性組成物の質量に対するC_(3)A量とC_(4)AF量とが同じ8.71質量%であるところ、C_(3)A量をC_(4)AF量よりも多く含むとともに、水硬性組成物の質量に対するC_(3)A量を9.5?11.5質量%した場合、C_(4)AF量が変わらなければ、水硬性組成物の質量に対するC_(3)AとC_(4)AFの合計量は、18.21?20.21質量%となり、本件発明1の範囲(14?18質量%)を満たさない。
そして、引用発明において、C_(4)AF量を減らして、C_(3)AとC_(4)AFの合計量を14?18質量%とする動機付けは存在しない。

また、本件発明1が、相違点Aに係る発明特定事項を有することにより奏する効果(「【0014】本発明によれば、硬化後の強度や乾燥収縮度を維持しつつ、流動性の向上のために、水和初期に発生するこわばり及び粘性の低減の両方を改善したセメント組成物を提供することができる。
本発明は、特に、早強セメントに好適であり、優れた充填性が得られることから、グラウトやプレパックドコンクリートに好適に利用することができる。)も、甲1?甲7の記載からは予測し得ない効果である。

よって、相違点Bについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲1?甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。

イ.本件発明2
本件発明1を直接引用する本件発明2は、本件発明1をより限定した発明であるから、甲1?甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とはいえない。


5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカ及び石膏を含むセメント組成物であって、
前記クリンカは、前記セメント組成物の質量に対して、3CaO・SiO_(2)を55?70質量%と、3CaO・Al_(2)O_(3)及び4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)を合計で14?18質量%を含み、
前記クリンカは、前記3CaO・Al_(2)O_(3)を前記4CaO・Al_(2)O_(3)・Fe_(2)O_(3)よりも多く含み、前記セメント組成物の質量に対して、前記3CaO・Al_(2)O_(3)を9.5?11.5質量%含み、
前記クリンカのSO_(3)換算量及び前記石膏のSO_(3)換算量の合計が、前記セメント組成物の質量に対して2.5?3.5質量%であり、
前記クリンカのSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して0.5?2.0質量%であり、
前記石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して1.0?1.5質量%であり、
前記石膏中の半水石膏のSO_(3)換算量が、前記セメント組成物中の3CaO・Al_(2)O_(3)1モルに対して0.15?0.40モルである、セメント組成物。
【請求項2】
前記クリンカのSO_(3)換算量が、前記セメント組成物の質量に対して1.6?1.9質量%である、請求項1に記載のセメント組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-18 
出願番号 特願2015-35692(P2015-35692)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小川 武  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 山本 雄一
後藤 政博
登録日 2016-05-20 
登録番号 特許第5935916号(P5935916)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 セメント組成物  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  

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