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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1332233
異議申立番号 異議2017-700019  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-11 
確定日 2017-07-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5954505号発明「活性エネルギー線硬化性組成物、その硬化物及びその硬化塗膜を有する物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5954505号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第5954505号の請求項1、7ないし13に係る特許を維持する。 特許第5954505号の請求項2ないし6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 主な手続の経緯
特許第5954505号(設定登録時の請求項の数13)についての出願は、2014年11月4日(優先権主張 平成25年11月11日)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月24日に設定登録され、同年7月20日に特許公報が発行され、その後、平成29年1月11日に特許異議申立人角田朗(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年3月7日付けで請求項1ないし13に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたものである。
合議体は、平成29年5月11日付け通知書において、取消理由通知の写し、訂正の請求書及びこれに添付された訂正した特許請求の範囲の副本、取消理由通知に対応する特許権者の意見書副本を異議申立人に送付し、意見書を提出する機会を与えたが、異議申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、次の(1)?(9)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「活性エネルギー線硬化性化合物(A)、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に2価の連結基を介してシクロポリシロキサン構造が結合し、前記シクロポリシロキサン構造に2価の連結基を介して(メタ)アクリロイル基が結合した構造を有するフッ素化合物(B)、反応性シリカ(C1)、及び非反応性シリカ(C2)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、前記反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)との使用比率[(C1)/(C2)]が、0.5?1.5の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物。」とあるのを、
「活性エネルギー線硬化性化合物(A)、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に2価の連結基を介してシクロポリシロキサン構造が結合し、前記シクロポリシロキサン構造に2価の連結基を介して(メタ)アクリロイル基が結合した構造を有するフッ素化合物(B)、反応性シリカ(C1)、及び非反応性シリカ(C2)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、前記反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)との使用比率[(C1)/(C2)]が、0.5?1.5の範囲であり、前記反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)の合計の配合量が、前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)100質量部に対して、200?300質量部の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物。」と訂正する(下線は訂正箇所である。請求項1の記載を引用する請求項7ないし13も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「請求項1ないし6のいずれか1項記載の」とあるのを、
「請求項1に記載の」と訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、
「請求項1ないし6のいずれか1項記載の」とあるのを、
「請求項1に記載の」と訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1ないし6のいずれか1項記載の」とあるのを、
「請求項1に記載の」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の「反応性シリカ(C1)、及び非反応性シリカを含有する」を、「前記反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)の合計の配合量が、前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)100質量部に対して、200?300質量部の範囲である」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の「反応性シリカ(C1)、及び非反応性シリカを含有する」を、「前記反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)の合計の配合量が、前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)100質量部に対して、200?300質量部の範囲である」に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項1は、願書に添付した明細書の段落【0011】、【0019】、【0037】及び【0102】の表1の実施例4の記載に基づいてするものであるから、新規事項の追加に該当するものではない。

(2)訂正事項2ないし6について
訂正事項2ないし6は、特許請求の範囲の請求項2ないし6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項7ないし9について
訂正事項7ないし9は、引用する請求項を「請求項1ないし6のいずれか1項」から「請求項1」に減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし13は、請求項2ないし13が、請求項1を引用する関係にあり、訂正前において一群の請求項に該当するものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件訂正請求により訂正された請求項1、7ないし13に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1、7ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い「本件特許発明1」等ということがある。)。

【請求項1】
活性エネルギー線硬化性化合物(A)、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に2価の連結基を介してシクロポリシロキサン構造が結合し、前記シクロポリシロキサン構造に2価の連結基を介して(メタ)アクリロイル基が結合した構造を有するフッ素化合物(B)、反応性シリカ(C1)、及び非反応性シリカ(C2)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、前記反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)との使用比率[(C1)/(C2)]が、0.5?1.5の範囲であり、前記反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)の合計の配合量が、前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)100質量部に対して、200?300質量部の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化塗膜を有することを特徴とする物品。
【請求項9】
フィルム基材の少なくとも一面にハードコート層を有し、前記ハードコート層が請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物からなることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項10】
ハードコート層の厚さが1?20μmであり、基材の厚さが50?200μmである請求項9記載のハードコートフィルム。
【請求項11】
請求項9記載のハードコートフィルムの一面に粘着剤層を有することを特徴とする保護フィルム。
【請求項12】
粘着剤層の厚さが5?50μmである請求項11記載の保護フィルム。
【請求項13】
携帯電子端末の画像表示部の保護に使用される請求項11記載の保護フィルム。

第4 取消理由
訂正前の請求項1ないし13に係る特許に対して平成29年3月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1
請求項2における「活性エネルギー線硬化性化合物(A)が、脂肪族ポリイソシアネート(a1)と水酸基を有する(メタ)アクリレート(a2)とを反応させて得られた1分子中に4つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート(A1)」と「1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート(A2)」の関係が不明確であるから、請求項2に係る発明は不明確であり、請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3ないし13係る発明も不明確であるから、請求項2ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条第4号に該当し、取り消されるべきである。

(2)取消理由2
請求項1に係る発明は、引用発明(甲3に記載された発明)、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
請求項2ないし13に係る発明は、引用発明(甲3に記載された発明)、甲1ないし甲3に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2ないし13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきである。

甲1:特開2006-328364号公報(異議申立人が提出した甲第1号証)
甲2:特開2010-285501号公報(異議申立人が提出した甲第2号証)
甲3:特開2013-185078号公報(異議申立人が提出した甲第3号証)

第5 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1について
不明確な記載を含んでいた請求項2は訂正により削除され、また、訂正後の請求項7ないし13に係る発明は、訂正前の請求項2を引用しないものとなったので、不明確であるとはいえない。
したがって、本件特許発明7ないし13に係る特許は、取消理由1によって、取り消すことはできない。

2 取消理由2について
(1)甲2及び甲3に記載された事項
ア 甲2に記載された事項
甲2には、次のとおりの記載がある。
「【請求項1】
下記式(1)で表わされる、パーフルオロポリエーテル基を有するアクリレート化合物。
(合議体注:式(1)は省略)
・・・
【請求項8】
請求項1?7のいずれかに記載の含フッ素アクリレート化合物を含有するハードコート組成物。
【請求項9】
ハードコート組成物の主剤がウレタンアクリレートである請求項8に記載のハードコート組成物。」

「【0045】
得られる本発明の化合物は、非フッ素系のハードコート組成物に添加し、ハードコート層表面に防汚性、耐指紋性、撥水性、撥油性を付与するハードコート組成物を提供することができる。」


「【実施例1】
【0052】
・・・
【0057】
・・・
^(1)H-NMR及びIRの結果から下記式(19)に示す化合物であることを確認した。
【0058】
【化34】




「【0065】
ハードコート組成物における評価
実施例及び比較例の化合物を、各々、表3に示す組成で配合した溶液を調製した。なお、ブランクとして、添加剤を含まない溶液も調製した。
【0066】
【表3】


【0067】
実施例1、2、及び比較例の添加剤を配合した各溶液を、ガラス板上にスピンコートし、コンベア型紫外線照射装置(パナソニック電工社製)で、窒素雰囲気中1.6J/cm^(2)の紫外線を照射して硬化膜を形成し、その外観を目視により評価した。また、接触角計(協和界面科学社製)を用いて、水接触角、オレイン酸接触角、オレイン酸転落角を測定した。
【0068】
マジックインクはじき性は、油性マーカー(ゼブラ株式会社製)、ハイマッキー(ゼブラ株式会社製)で表面に線を引いた場合のインキのはじかれ具合を、目視で評価した。また、表面性試験機(新東科学社製)を用いてベンコット(旭化成社製)に対する動摩擦係数を測定した。
【0069】
各ハードコート処理表面を評価した結果を表4に示す。
【表4】


【産業上の利用可能性】
【0070】
表4に示したように、本発明の化合物は比較例の化合物に比べ、動摩擦係数が低く、オレイン酸転落角、マジックインクはじき性、すべり性に優れた特性を付与することができ、ガラス、樹脂、フィルム、紙、金属、陶器、木材などへの表面ハードコート用組成物、印刷物表面の保護膜用組成物、塗装用組成物などへの配合物として有用である。」

イ 甲3に記載された事項
(ア)甲3には、次のとおりの事項が記載されている。
「【請求項1】
分子中にビニル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基及びエポキシ基から選ばれる少なくとも一種を有する多官能化合物(A)と
表面に反応性官能基を有さない無機粒子(B)と
表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子(C)と
を含むことを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
表面に反応性官能基を有さない無機粒子(B)が、シリカ
であり、
表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子(C)が、表面に(メタ)アクリロイル基を有する反応性シリカ
であることを特徴とする請求項1記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項3】
表面に反応性官能基を有さない無機粒子(B)及び表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子(C)の合計重量が、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物全量に対して15?50重量%であることを特徴とする請求項1または2記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項4】
表面に反応性官能基を有さない無機粒子(B)の重量が、表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子(C)の重量に対して、60?200重量%であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項5】
前記多官能化合物(A)が、
ウレタン(メタ)アクリレート
であり、
ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量1,000?100,000であり、かつ、
ウレタンアクリレートの官能基数(f)10?15
であり、さらに、
ウレタン(メタ)アクリレートを、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物全量に対して30?70重量%
含有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況下で、加飾成形品に優れた高硬度性および耐スクラッチ性を付与すると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性を付与する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物および該活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いた加飾シート、該加飾シートを用いた射出成形品を提供することを課題とする。」

「【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、射出成形品に優れた高硬度性および耐スクラッチ性を付与すると同時に、層間での剥離もなく、より形状が複雑な成形品を得られる成形性を付与する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物および該活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いた加飾シート、該加飾シートを用いた射出成形品を提供することができる。」

「【0054】
(実施例)
【0055】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に含有される、表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子(C)は、下記方法にて作成した。
(1)無機粒子としてコロイダルシリカ(IPA-ST、日産化学工業社製)を溶剤に分散させてから、シランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を加えて反応させて、表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子C1を得た。
・・・
【0056】
[実施例1]
基材11として厚さ50μmのPETフィルムを用い、該基材11の一方の面へ、グラビアコート法で、TCM01メジューム(大日本インキ社製、メラミン樹脂商品名)塗工液を乾燥後2μmになるように塗布し乾燥して、180℃20秒間焼き付けて、離型層12を形成した。
該離型層12面へ、下記の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物をグラビアリバースコーターで乾燥後の厚さが5?7μmになるように、塗工し、80℃で乾燥させて、続けて、活性エネルギー線を照射して前記塗布面の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を硬化させ、ハードコート層13とした。
【0057】
<活性エネルギー線硬化型樹脂組成物(a)>
ウレタンアクリレートA1(根上工業社製、商品名UN-904ウレタンアクリレート、Mw=4,900、官能基数(f)=10) 32部
アクリル系樹脂D1(エボニック ローム社製、商品名DEGALAN M245 Tg=104℃、Mw=180,000) 8部
表面に反応性官能基を有さない無機粒子B1(日産化学工業社製、商品名IPA-ST) 10部
表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子C1 5部
・・・
【0059】
(実施例2?20、比較例1、2)
実施例2?20、比較例1,2については、表1、2の配合により。実施例1と同様な方法で、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物(b)?(v)、および加飾シート(2)?(22)を得た。
尚、実施例2?20、比較例1、2に用いた多官能化合物(A)、イナート樹脂(D)、を下記に記す。
多官能化合物(A)
多官能化合物A2(ウレタンアクリレート・・・官能基数(f)=9)
多官能化合物A3(ウレタンアクリレート・・・官能基数(f)=10)
多官能化合物A4(ポリエステルアクリレート・・官能基数(f)=6)
・・・
【0060】
実施例1?20、比較例1、2で得られた加飾シート、射出成形品について、タック感、成形性、耐磨耗性、鉛筆硬度、耐擦傷性、密着性、全光線透過率の評価を行った。・・・
【0067】
実施例では、加飾シート10が、表面に反応性官能基を有さない無機粒子(B)および表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子(C)をともに含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いたハードコート層を有することで、該加飾シートを用いた射出成形品100のハードコート性が際立って向上しており、射出成形品に優れた高硬度性および耐スクラッチ性を付与すると同時に、より形状が複雑な成形品を得られる成形性を付与するものであった。また、射出成形品100の最表面のハードコート性は十分な耐久性を有していた。
【0068】
比較例では、加飾シート10が、表面に反応性官能基を有さない無機粒子(B)および表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子(C)のどちらかのみを含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いたハードコート層を有しており、該加飾シート10を用いた射出成形品の高硬度性および耐スクラッチ性と成形性は劣り、かつ物性のバランスも劣ることから、本発明において表面に反応性官能基を有さない無機粒子(B)および表面に反応性官能基を有する反応性無機粒子(C)をともに含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いたハードコート層とした効果が示された。
【0069】
【表1】


【0070】
【表2】




(イ)上記(ア)の記載、特に【請求項1】?【請求項4】の記載からみて、甲3には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「分子中に(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物(A)と、表面に反応性官能基を有さないシリカ(B)と、表面に反応性官能基を有する反応性シリカ(C)とを含むことを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であって、表面に反応性官能基を有さないシリカ(B)及び表面に反応性官能基を有する反応性シリカ(C)の合計重量が、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物全量に対して15?50重量%であり、また、表面に反応性官能基を有さないシリカ(B)の重量が、表面に反応性官能基を有する反応性シリカ(C)の重量に対して60?200重量%である、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。」

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「分子中に(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物(A)」、「表面に反応性官能基を有する反応性シリカ(C)」、「表面に反応性官能基を有さないシリカ(B)」は、それぞれ本件特許発明1の「活性エネルギー線硬化性化合物(A)」、「反応性シリカ(C1)」、「非反応性シリカ(C2)」に相当する。 したがって、本件特許発明1と引用発明とは、
「活性エネルギー線硬化性化合物(A)、反応性シリカ(C1)、及び非反応性シリカ(C2)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物。」
である点で一致し、次の点で相違している。

<相違点1>
反応性シリカ(C1)と非反応性シリカ(C2)の合計の配合量について、本件特許発明1においては、「活性エネルギー線硬化性化合物(A)100質量部に対して、200?300質量部の範囲である」と特定されているのに対して、引用発明においては、「活性エネルギー線硬化型樹脂組成物全量に対して15?50重量%である」と特定されており、分子中に(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物(A)に対する量は特定されていない点。
<相違点2>
反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)との使用比率[(C1)/(C2)]について、本件特許発明1においては、0.5?1.5の範囲であると特定されているのに対して、引用発明においては、非反応性シリカ(C2)(反応性官能基を有さないシリカ(B))の重量が、反応性シリカ(C1)(表面に反応性官能基を有する反応性シリカ(C))の重量に対して、60?200重量%であると特定されている点。
<相違点3>
本件特許発明1は、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に2価の連結基を介してシクロポリシロキサン構造が結合し、前記シクロポリシロキサン構造に2価の連結基を介して(メタ)アクリロイル基が結合した構造を有するフッ素化合物(B)を含有するのに対して、引用発明は、当該成分を含有していない点。

(イ)判断
a 相違点1について
引用発明は、反応性官能基を有さないシリカ(B)及び反応性官能基を有する反応性シリカ(C)の合計重量は、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物全量に対して15?50重量%であること、及び、甲3において、分子中に(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物(A)がウレタン(メタ)アクリレートである場合には、ウレタン(メタ)アクリレートは、活性エネルギー線硬化型樹脂組成物全量に対して30?70重量%であると記載されていること(請求項5)から、分子中に(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物(A)であるウレタン(メタ)アクリレート100質量部に対する、反応性官能基を有さないシリカ(B)及び反応性官能基を有する反応性シリカ(C)の合計重量を計算すると、約21質量部(15÷70×100)?約167質量部(50÷30×100)となり、本件特許発明1の「200?300質量部」より低い数値範囲となる。
また、甲3に記載された実施例における、分子中に(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物(A)100質量部に対する、反応性官能基を有さないシリカ(B)及び反応性官能基を有する反応性シリカ(C)の合計重量を計算すると、約18質量部(実施例20)?約172質量部(実施例18)となり、これらの数値範囲も本件特許発明1の「200?300質量部」より低いものである。
そうすると、甲3の記載に接した当業者が、引用発明における反応性官能基を有さないシリカ(B)及び反応性官能基を有する反応性シリカ(C)の合計重量を、分子中に(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物(A)100質量部に対して200?300質量部まで増やす動機付けがあるとはいえない。

また、甲2には、反応性シリカと非反応性シリカを用いることは記載も示唆もされていない。

したがって、引用発明において、分子中に(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物(A)100質量部に対する、反応性官能基を有さないシリカ(B)及び反応性官能基を有する反応性シリカ(C)の合計重量を、200?300質量部とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

b 本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、相違点1に加え、相違点2及び3に係る発明特定事項を同時に採用することにより、5Hという高い鉛筆硬度を有し、さらに優れた耐擦傷性、防汚性、滑り性、耐カール性等を有する硬化塗膜を形成できるという顕著な効果を奏する。

c 小括
以上によれば、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明7ないし13について
本件特許発明7ないし13は、本件特許発明1に係る活性エネルギー線硬化性組成物を用いる硬化物、硬化塗膜を有する物品、ハードコートフィルム及び保護フィルムに関する発明である。
本件特許発明7ないし13は、本件特許発明1について上記アで述べたと同様の理由により、引用発明、甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、甲1及び周知技術(特開2011-74232号公報等)を参酌しても同様である。

ウ まとめ
以上のとおり、取消理由2によっては、本件特許発明1、7ないし13に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
上記第5のとおり、当審で通知した取消理由によっては、本件請求項1、7ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、7ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件請求項2ないし6に係る特許は、訂正により削除されたため、本件請求項2ないし6に対して、異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性化合物(A)、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖の両末端に2価の連結基を介してシクロポリシロキサン構造が結合し、前記シクロポリシロキサン構造に2価の連結基を介して(メタ)アクリロイル基が結合した構造を有するフッ素化合物(B)、反応性シリカ(C1)、及び非反応性シリカ(C2)を含有する活性エネルギー線硬化性組成物であって、前記反応性シリカ(C1)と前記非反応性シリカ(C2)との使用比率[(C1)/(C2)]が、0.5?1.5の範囲であり、前記反応性シリカ(C1)及び反応性シリカ(C2)の合計の配合量が、前記活性エネルギー線硬化性化合物(A)100質量部に対して、200?300質量部の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】
請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化塗膜を有することを特徴とする物品。
【請求項9】
フィルム基材の少なくとも一面にハードコート層を有し、前記ハードコート層が請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物からなることを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項10】
ハードコート層の厚さが1?20μmであり、基材の厚さが50?200μmである請求項9記載のハードコートフィルム。
【請求項11】
請求項9記載のハードコートフィルムの一面に粘着剤層を有することを特徴とする保護フィルム。
【請求項12】
粘着剤層の厚さが5?50μmである請求項11記載の保護フィルム。
【請求項13】
携帯電子端末の画像表示部の保護に使用される請求項11記載の保護フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-20 
出願番号 特願2015-546640(P2015-546640)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08F)
P 1 651・ 121- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 新留 豊柴田 昌弘  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 藤原 浩子
渕野 留香
登録日 2016-06-24 
登録番号 特許第5954505号(P5954505)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 活性エネルギー線硬化性組成物、その硬化物及びその硬化塗膜を有する物品  
代理人 河野 通洋  
代理人 河野 通洋  

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