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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1332240
異議申立番号 異議2016-701116  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-05 
確定日 2017-08-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5949545号発明「繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5949545号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3、4、6?8〕、〔5〕について訂正することを認める。 特許第5949545号の請求項1ないし4、6ないし8に係る特許を維持する。 特許第5949545号の請求項5に係る特許についての申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5949545号の請求項1ないし8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2012年2月16日(優先権主張:2011年2月16日、日本)を国際出願日とする出願であって、平成28年6月17日に特許権の設定登録がなされ、その特許に対して、同年12月5日(受理日、同年12月6日)に特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人」という。)から特許異議申立書(以下、「申立書」という。)及び平成29年1月5日(受理日、同年1月6日)に特許異議申立書の手続補正書(以下、「申立書の補正書」という。)が提出され、当審において同年3月1日付けで取消理由が通知され、同年5月8日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年6月15日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がなされ、同年7月13日(受理日、同年7月14日)に申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

1.訂正の内容

本件特許の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は以下の(1)ないし(4)のとおりである。(下線は、合議体による。以下同様。)

(1)訂正事項1

本件特許の請求項1に
「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物」とあるのを、
「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物」に訂正する。

(2)訂正事項2

本件特許の請求項3に
「構成要素[A]、構成要素[B]、および構成要素[C]を含んでなるエポキシ樹脂組成物」とあるのを、
「構成要素[A]、構成要素[B]、および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物」に訂正する

(3)訂正事項3

本件特許の請求項5を削除する。

(4)訂正事項4

本件特許の請求項6ないし8の引用先請求項番号を、それぞれ、
「請求項3?5」、「請求項3?6」、「請求項3?7」とあるのを、それぞれ、
「請求項3または4」、「請求項3?4、6」、「請求項3?4、6?7」に訂正する

2.訂正要件の適合についての検討

(1)訂正事項1及び2について

訂正事項1及び2について併せて検討する。

ア 訂正の目的について

訂正前の本件特許の請求項1及び3が、エポキシ樹脂組成物について、「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含んでなる」もの、すなわち、構成要素[A]、構成要素[B]及び構成要素[C]を含み、それ以外の構成要素を含み得るとしていたものを、訂正後の本件特許の請求項1及び3は「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなる」もの、すなわち、構成要素[A]、構成要素[B]及び構成要素[C]を含み、それ以外の構成要素を含まないものとするものであり、エポキシ樹脂組成物の構成要素の選択肢の範囲を縮めるものであって、エポキシ樹脂組成物の範囲に限定を加えるものである。
よって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと

上記アで述べたとおり、訂正事項1及び2は、エポキシ樹脂組成物の構成要素の選択肢の範囲を縮めるものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること

本件特許明細書の【0032】には、構成要素[A]、構成要素[B]及び構成要素[C]以外の構成要素として、「必要に応じて種々の添加剤を含むことができる」と記載されているが、これらは必須の構成要素ではなく、実施例において、構成要素[A]、構成要素[B]及び構成要素[C]を含み、それ以外の構成要素を含まないエポキシ樹脂組成物が記載されていること(表1及び2)からすれば、訂正事項1及び2は、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項3について

ア 訂正の目的について

訂正事項3は、本件特許の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることはあきらかである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと

上記アで述べたとおり、訂正事項3は、本件特許の請求項5を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことはあきらかであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること

上記アで述べたとおり、訂正事項3は、本件特許の請求項5を削除するものであるから、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることはあきらかであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項4について

ア 訂正の目的について

訂正事項4は、訂正事項3に係る訂正に整合させるため、訂正後に削除された本件特許の請求項5を引用しないように訂正したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと

上記アで述べたとおり、訂正事項4は、訂正後に削除された本件特許の請求項5を引用しないように訂正したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことはあきらかであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

ウ 願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること

上記アで述べたとおり、訂正事項4は、訂正後に削除された本件特許の請求項5を引用しないように訂正したものであるから、願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であることはあきらかであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)一群の請求項について

訂正事項1に係る訂正前の請求項1及び2は、訂正前の請求項1の記載を訂正前の請求項2が引用しており、訂正後の請求項1に連動して請求項2が訂正されるものであるから、訂正後の請求項1及び2は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
訂正事項2に係る訂正前の請求項3ないし8は、訂正前の請求項3の記載を訂正前の請求項4ないし8が引用しており、訂正後の請求項3に連動して請求項4、6ないし8が訂正されるものであるから、訂正後の請求項3、4、6ないし8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(5)まとめ

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正を認める。

第3 本件特許発明

本件訂正請求で訂正された本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、本件特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のものである。

「【請求項1】
繊維集合体にエポキシ樹脂組成物を含浸させ、硬化させて繊維強化複合材料を得る製造方法であって、
前記エポキシ樹脂組成物は、硬化剤が構成要素[B]および構成要素[C]からなり、
エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(1)の範囲においては式(2)を満たし、
式(3)の範囲においては式(4)を満たし、
式(5)の範囲においては式(6)を満たす前記エポキシ樹脂組成物を60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させて以下の条件を満たす構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物とすることを含む製造方法、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(1)
0<b/(b+c)<1…(2)
200<a≦350…(3)
0.002a-0.35≦b/(b+c)≦-0.002a+1.35…(4)
350<a<800…(5)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(6)
ここで、換算分子量aの定義は下記の通りである。エポキシ樹脂[A]として1種のエポキシ樹脂のみを用いる場合には、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量とエポキシ樹脂1分子中に含まれるエポキシ基数の積を換算分子量aとする。また、エポキシ樹脂[A]として複数種のエポキシ樹脂成分を用いる場合にはエポキシ樹脂成分毎にエポキシ当量とエポキシ樹脂成分1分子中に含まれるエポキシ基数の積をそれぞれ算出し、算出した各々の、エポキシ樹脂成分のエポキシ当量とエポキシ基数の積をエポキシ樹脂[A]を構成する各成分の配合比で加重平均した値を換算分子量aとする。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物がさらに、式(7)を満たす請求項1に記載の繊維強化複合材料を得る製造方法、
15≦(b+c)≦70・・・(7)。
【請求項3】
以下の構成要素[A]、構成要素[B]、および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤が構成要素[B]および構成要素[C]からなり、該エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(8)の範囲においては式(9)を満たし、
式(10)の範囲においては式(11)を満たし、
式(12)の範囲においては式(13)を満たすことを特徴とするエポキシ樹脂組成物、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(8)
0<b/(b+c)<1…(9)
200<a≦350…(10)
0.002a-0.35≦b/(b+c)≦-0.002a+1.35…(11)
350<a<800…(12)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(13)
ここで、換算分子量aの定義は下記の通りである。エポキシ樹脂[A]として1種のエポキシ樹脂のみを用いる場合には、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量とエポキシ樹脂1分子中に含まれるエポキシ基数の積を換算分子量aとする。また、エポキシ樹脂[A]として複数種のエポキシ樹脂成分を用いる場合にはエポキシ樹脂成分毎にエポキシ当量とエポキシ樹脂成分1分子中に含まれるエポキシ基数の積をそれぞれ算出し、算出した各々の、エポキシ樹脂成分のエポキシ当量とエポキシ基数の積をエポキシ樹脂[A]を構成する各成分の配合比で加重平均した値を換算分子量aとし、
該エポキシ樹脂組成物は、60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させて得られる。
【請求項4】
さらに、式(14)の範囲においては式(15)を満たし、
式(16)の範囲においては式(17)を満たし、
式(18)の範囲においては式(19)を満たすことを特徴とする請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物、
150<a≦190…(14)
0.1≦b/(b+c)≦0.9…(15)
190<a≦365…(16)
0.002a-0.28≦b/(b+c)≦-0.0017a+1.23…(17)
365<a<800…(18)
0.45≦b/(b+c)≦0.60…(19)。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
さらに、式(21)、(22)を満たすことを特徴とする請求項3または4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、
150≦a≦357・・・(21)
0.00169a-0.103≦b/(b+c)≦-0.0019a+1.19・・・(22)。
【請求項7】
さらに、式(23)、(24)を満たすことを特徴とする請求項3?4、6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
150≦a≦300・・・(23)
0.00169a-0.103≦b/(b+c)≦-0.0010a+0.90・・・(24)
【請求項8】
さらに、式(25)を満たすことを特徴とする請求項3?4、6?7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、
15≦(b+c)≦70・・・(25)。」

第4 取消理由の概要

(理由1)本件特許発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消されるべきものである。
(理由2)本件特許発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消されるべきものである。
(理由3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

刊行物1:特開2010-126702号公報(申立書に添付された甲第1号証)
刊行物2:特許第5228853号公報(申立書に添付された甲第2号証)
刊行物3:製品安全データシート、4,4-ジアミノジフェニルスルホン(セイカキュア-S)、改訂日2010年7月23日(申立書に添付された甲第3号証)
刊行物4:HUNTSMAN, Advanced Materials Araldite^((R)) MY 721, 12/12/2008(申立書に添付された甲第4号証)(合議体注:登録商標を示す「○付R」を正しく表記できないので、「(R)」と表記する。)
刊行物5:日本化薬株式会社、Epoxy Resins Reactive Flame Retardants Hardeners Thermosetting Resins 第11版、平成22年5月発行(申立書に添付された甲第5号証)
刊行物8:Nagase Chemtex, DENACOL^(TM) EPOXY COMPOUNDS, (C) 2003 Nagase Chemtex Corporation. All rights reserved.(申立書の補正書に添付された甲第8号証)(合議体注:著作権を示す「○付C」を正しく表記できないので、「(C)」と表記する。)

第5 当審の判断

1.取消理由1及び2の検討

<各刊行物に記載された事項>

刊行物1には、以下の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】
少なくとも次の構成要素[A]、[B]、[C]、[D]および[E]を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
[A]1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
[B]1分子中にジグリシジルアニリン骨格を1個有し、エポキシ基が2個のエポキシ樹脂
[C]繰り返し単位数nが5以上であるポリエチレングリコールジグリシジルエーテル
[D]70℃における粘度が500mPa・s以下である液状芳香族ジアミン
[E]コアシェルポリマー粒子
【請求項2】
構成要素[D]において、全芳香族ジアミン100重量部中にジアミノジフェニルスルホンが10?40重量部配合されている、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
構成要素[D]に配合されるジアミノジフェニルスルホンが3,3’-ジアミノジフェニルスルホンと4,4’-ジアミノジフェニルスルホンを併用したものである、請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
構成要素[D]において、硬化促進剤が全エポキシ樹脂100重量部に対し0.5?3重量部配合されている、請求項1?3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
構成要素[D]に配合される硬化促進剤がt-ブチルカテコールである、請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物。」

(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材および船舶部材などに用いられる繊維強化複合材料への適用に好適なエポキシ樹脂組成物、特にレジン・トランスファー・モールディング成形法に適したエポキシ樹脂組成物に関するものであり、さらに、低粘度、高耐熱性、高弾性率であり、強化繊維との接着性が極めて優れたエポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成を用いたことで強化繊維とエポキシ樹脂組成物の接着性が高く、耐疲労特性に優れた繊維強化複合材料に関するものである。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、かかる従来技術の背景に鑑み、耐熱性、弾性率が高く、低粘度でありながら強化繊維との接着性に優れたエポキシ樹脂組成物、および該エポキシ樹脂組成物を適用することによる優れた接着特性を有し、航空機一次構造などの部材として最適な繊維強化複合材料を提供することにある。」

(4)「【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる構成要素[A]である、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化して得られる硬化物の耐熱性を高めるために配合される。構成要素[A]としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂等を、1種または複数種を混合して用いても良い。特に、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリンは耐熱性を高める効果が高く、硬化物の耐薬品性に優れており、また、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノールは耐熱性を高める効果があるエポキシ樹脂の中で粘度が非常に低く、エポキシ樹脂組成物の粘度を低下させる効果があるので好ましく用いることができる。」

(5)「【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる構成要素[D]である液状芳香族ジアミンは、構成要素[A]、[B]および[C]のエポキシ樹脂を架橋して硬化させるための硬化剤であり、70℃における粘度が500mPa・s以下であり、より好ましい粘度は400mPa・s以下である。なお、粘度の測定はJIS Z8803(1991)における「円すい-板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装備したE型粘度計((株)トキメック製、TVE-30H)を使用して、回転速度50回転/分で測定する。70℃における粘度が500mPa・sより高い場合は得られるエポキシ樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ、レジン・トランスファー・モールディング法による繊維強化複合材料の成形を行う場合、強化繊維を含む織物に加圧あるいは減圧注入することができなくなり、得られた繊維強化複合材料中にエポキシ樹脂組成物の未含浸部が発生し、機械物性が低下することがあるので好ましくない。70℃における粘度の下限は特に制限なく、粘度が低いほどレジン・トランスファー・モールディング成形におけるエポキシ樹脂組成物の注入含浸が容易になり好ましい。
【0030】
構成要素[D]としては、例えばジエチルトルエンジアミン(2,4-ジエチル-6-メチル-m-フェニレンジアミンと4,6-ジエチル-2-メチル-m-フェニレンジアミンを主成分とする混合物)や2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、2,2’-イソプロピル-6,6’-ジメチル-4,4’-メチレンジアニリン、2,2’、6,6’テトライソプロピル-4,4’-メチレンジアニリン等のジアミノジフェニルメタンのアルキル基誘導体およびポリオキシテトラメチレンビス(p-アミノベンゾエート)を挙げることができる。中でも、低粘度でガラス転移温度などの硬化物としての物性に優れるジエチルトルエンジアミンが好ましく使用できる。構成要素[D]には前述した粘度を超えない範囲で固形の芳香族ポリアミンを配合することができる。固形の芳香族ポリアミンとしては3,3’-ジアミノジフェニルスルホンおよび4,4’-ジアミノジフェニルスルホンが耐熱性、弾性率に優れた硬化物が得られ、さらに線膨張係数および吸湿による耐熱性の低下が小さいので好ましく使用できる。一般に、ジアミノジフェニルスルホンは結晶性が強く、液状芳香族ポリアミンと高温で混合して液体としても、冷却過程で結晶として析出しやすいが、ジアミノジフェニルスルホンの2種の異性体と液状芳香族ポリアミンを混合した場合、単一のジアミノジフェニルスルホンと液状芳香族ポリアミンの混合物より遙かに結晶の析出が起こりにくく好ましい。ジアミノジフェニルスルホンの配合量は、全芳香族アミン100重量部中に10?40重量部が好ましく、20?35重量部であればさらに好ましい。配合量が10重量部以上であれば前述したような硬化物の効果が得られやすく、さらに配合量が40重量部以下であれば結晶の析出を抑制しやすくなり好ましい。3,3’-ジアミノジフェニルスルホンと4,4’-ジアミノジフェニルスルホンを、結晶の析出を抑制するために併用する場合は、両者の重量比は10:90?90:10であることが好ましく、両者の比率が近いほど、結晶析出の抑制効果は高くなる。」

(6)「【0084】
<炭素繊維からなる繊維基材1の製造>

各実施例で用いた炭素繊維からなる繊維基材1は次のように作製した。PAN系の無撚糸である炭素繊維束“トレカ(登録商標)”T800S-24K-10C(東レ(株)製、24000フィラメント)を経糸として1.8本/cmの密度で引き揃えて一方向性シート状強化繊維束群を形成した。緯糸としてガラス繊維ECE225 1/0 1Z(日東紡(株)製)を用い、前記一方向性シート状強化繊維束群に直交する方向に3本/cmの密度で配列し、織機を用いて該経糸と該緯糸が互いに交差するように織り込み、実質的に炭素繊維が一方向に配列された平織組織の織物を作製し、繊維基材1とした。得られた繊維基材1の炭素繊維目付は190g/m^(2)であった。 <炭素繊維からなる繊維基材2の製造>
各実施例で用いた炭素繊維からなる繊維基材2は次のようにして作製した。PAN系の無撚糸である炭素繊維束“トレカ(登録商標)”T800S-24K-10C(東レ(株)製、24000フィラメント)を経糸として1.8本/cmの密度で引き揃え、これに平行、かつ交互に配列された補助経糸としてガラス繊維束ECE225 1/0 1Z(日東紡(株)製、200フィラメント)を1.8本/cmの密度で引き揃えて一方向性シート状強化繊維束群を形成した。緯糸としてポリアミド繊維束(ポリアミド66、7フィラメント)を用い、前記一方向性シート状強化繊維束群に直交する方向に3本/cmの密度で配列し、織機を用いて該補助経糸と該緯糸が互いに交差するように織り込み、実質的に炭素繊維束が一方向に配列されクリンプの無い、一方向性ノンクリンプ織物を作製し、繊維基材2とした。繊維基材2の炭素繊維目付は192g/m^(2)であった。」

(7)「【0087】
<繊維強化複合材料の試験体の製造>
各実施例で使用した繊維強化複合材料は、レジン・トランスファー・モールディング法で作製したものである。前記で得られた繊維基材1および2の炭素繊維の長手方向を0度とし、同配向方向に12枚積層してプリフォームを作製した。得られたプリフォームに、70℃の温度下において各実施例で得られたエポキシ樹脂組成物を注入含浸した後、1分間に1.5℃ずつ130℃の温度まで昇温して130℃の温度下で2時間予備硬化する。予備硬化品を型から取り出した後、熱風オーブン中で1分間に1.5℃ずつ、180℃の温度まで昇温して180℃の温度下で2時間硬化して試験体の繊維強化複合材料とした。」

(8)「【0093】
<実施例2>
実施例1で得られた二液型のエポキシ樹脂組成物を前記したバインダーの無い繊維基材2を用いて、前記方法にて繊維強化複合材料を作製し、90度引張強度を測定した結果、47MPaと高い値であり、構造部材に適していた。」

(9)「【0094】
<実施例3>
下記の処方により、実施例1と同様に二液型のエポキシ樹脂組成物を得た。
『主剤』
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、分子量:450、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ製):37部
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、分子量:205、日本化薬工業(株)製):55部
・“デナコール(登録商標)”EX-830(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、n=9、分子量:536、ナガセケムテックス(株)):5部
・“カネエース(登録商標)”MX416(“アラルダイト”MY721:75部/コアシェルポリマー(体積平均粒子径:100nm、コア成分:架橋ポリブタジエン(ガラス転移温度:-70℃)、シェル:PMMA/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合物):25部のマスターバッチ):4部
『硬化剤』
・“jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン(株)製):27.9部
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、小西化学工業(株)製):6.0部
・“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルメタン、セイカ(株)製):6.0部
・TBC(t-ブチルカテコール、大日本インキ化学工業(株)製):1.5部。
【0095】
得られたエポキシ樹脂組成物を前記方法にて粘度測定を行った結果、主剤の70℃における粘度は103mPa・s、硬化剤の70℃における粘度は72mPa・sであり、主剤101部に対して硬化剤41.4部混合した混合物の70℃における初期粘度は95mPa・sであり、70℃の温度下で1000mPa・sに達する時間は162分であった。
【0096】
実施例1と同様に樹脂硬化物の物性を測定した結果、ガラス転移温度162℃、25℃における曲げ弾性率は3.9GPaであり、レジン・トランスファー・モールディング成形により作製される繊維強化複合材料のマトリックス樹脂に適していた。
【0097】
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、実施例2と同様に繊維強化複合材料を作製し、90度引張強度を測定した結果、47MPaと高い値であり、構造部材に適していた。」

(10)「【0098】
<実施例4>
下記の処方により、実施例1と同様に二液型のエポキシ樹脂組成物を得た。
『主剤』
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、分子量:450、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ製):41部
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、分子量:205、日本化薬工業(株)製):40部
・“デナコール(登録商標)”EX-830(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、n=9、分子量:536、ナガセケムテックス(株)):10部
・“カネエース(登録商標)”MX416(“アラルダイト”MY721:75部/コアシェルポリマー(体積平均粒子径:100nm、コア成分:架橋ポリブタジエン(ガラス転移温度:-70℃)、シェル:PMMA/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合物):25部のマスターバッチ):12部
『硬化剤』
・“jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン(株)製):27.5部
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、小西化学工業(株)製):5.9部
・“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルメタン、セイカ(株)製):5.9部
・TBC(t-ブチルカテコール、大日本インキ化学工業(株)製):1.5部。
【0099】
得られたエポキシ樹脂組成物を前記方法にて粘度測定を行った結果、主剤の70℃における粘度は105mPa・s、硬化剤の70℃における粘度は70mPa・sであり、主剤103部に対して硬化剤40.8部混合した混合物の70℃における初期粘度は83mPa・sであり、70℃の温度下で1000mPa・sに達する時間は165分であった。
【0100】
実施例1と同様に樹脂硬化物の物性を測定した結果、ガラス転移温度174℃、25℃における曲げ弾性率は3.4GPaであり、レジン・トランスファー・モールディング成形により作製される繊維強化複合材料のマトリックス樹脂に適していた。
【0101】
得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、実施例2と同様に繊維強化複合材料を作製し、90度引張強度を測定した結果、52MPaと高い値であり、構造部材に適していた。」

(11)「【0033】
本発明の構成要素[D]に配合する硬化促進剤としては、例えば三級アミン、ルイス酸錯体、オニウム塩、イミダゾールなどの硬化促進剤を配合することがあるが、レジン・トランスファー・モールディング法による繊維強化複合材料の成形の場合、樹脂を注入する間の粘度増加を抑えなければならない。t-ブチルカテコールは樹脂注入時の温度(50?80℃)では反応促進効果は少なく、100℃以上の温度域で促進効果が増加する特徴があるのでレジン・トランスファー・モールディング法に適している。
【0034】
本発明において、構成要素[D]に硬化促進剤を配合する場合の配合量は全エポキシ樹脂100重量部に対し、0.5?3重量部であることが好ましく、より好ましくは1?2.5重量部配合することである。t-ブチルカテコールの配合量がこの範囲から外れると、樹脂注入時の粘度増加と高温時の反応速度のバランスが崩れるので好ましくない。」

刊行物2の【0123】及び【0132】には、「“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製)」と記載されている。

刊行物3には、「製品安全データシート」、「4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(セイカキュア-S)」と記載されている。

刊行物4の2頁「TYPICAL PROPERTIES」には、申立書の補正書12頁「(エ)甲第4号証(ハンツマン社カタログ)」に記載されたとおりの記載がある。(合議体注:申立書の補正書には、頁番号が記載されていないため、表紙を1頁とし、以下順に頁番号を付与することとし、全18頁とする。以下同様。)

刊行物5の「エポキシ樹脂 液状エポキシ樹脂 商品名GAN」には、申立書の補正書12頁「(オ)甲第5号証(日本化薬カタログ)」に記載されたとおりの記載がある。

刊行物8の7頁「EX-830 Polyethylene Glycol Diglycidyl Ether 39443-66-8」には、申立書の補正書12頁「(カ)甲第8号証(ナガセケムテックス社カタログ)」に記載されたとおりの記載がある。

<刊行物1に記載された発明>

刊行物1の特に摘示(1)、(8)ないし(10)の記載、並びに、刊行物2及び3の記載からみて、刊行物1の摘示(8)及び(9)の「“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルメタン、セイカ(株)製)」が、正しくは「“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製)」であることから、刊行物1には、特に、実施例3及び4の記載からみて、以下の発明が記載されているといえる。

「『主剤』
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、分子量:450、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ製):37部
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、分子量:205、日本化薬工業(株)製):55部
・“デナコール(登録商標)”EX-830(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、n=9、分子量:536、ナガセケムテックス(株)):5部
・“カネエース(登録商標)”MX416(“アラルダイト”MY721:75部/コアシェルポリマー(体積平均粒子径:100nm、コア成分:架橋ポリブタジエン(ガラス転移温度:-70℃)、シェル:PMMA/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合物):25部のマスターバッチ):4部、及び、
『硬化剤』
・“jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン(株)製):27.9部
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、小西化学工業(株)製):6.0部
・“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製):6.0部
・TBC(t-ブチルカテコール、大日本インキ化学工業(株)製):1.5部から、
得られたエポキシ樹脂組成物をバインダーの無い繊維基材2を用いて、繊維強化複合材料を作製する方法。」(以下、「引用発明1-1」という。)

「『主剤』
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、分子量:450、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ製):41部
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、分子量:205、日本化薬工業(株)製):40部
・“デナコール(登録商標)”EX-830(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、n=9、分子量:536、ナガセケムテックス(株)):10部
・“カネエース(登録商標)”MX416(“アラルダイト”MY721:75部/コアシェルポリマー(体積平均粒子径:100nm、コア成分:架橋ポリブタジエン(ガラス転移温度:-70℃)、シェル:PMMA/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合物):25部のマスターバッチ):12部、及び、
『硬化剤』
・“jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン(株)製):27.5部
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、小西化学工業(株)製):5.9部
・“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製):5.9部
・TBC(t-ブチルカテコール、大日本インキ化学工業(株)製):1.5部から、
得られたエポキシ樹脂組成物をバインダーの無い繊維基材2を用いて、繊維強化複合材料を作製する方法。」(以下、「引用発明1-2」という。)

「『主剤』
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、分子量:450、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ製):37部
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、分子量:205、日本化薬工業(株)製):55部
・“デナコール(登録商標)”EX-830(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、n=9、分子量:536、ナガセケムテックス(株)):5部
・“カネエース(登録商標)”MX416(“アラルダイト”MY721:75部/コアシェルポリマー(体積平均粒子径:100nm、コア成分:架橋ポリブタジエン(ガラス転移温度:-70℃)、シェル:PMMA/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合物):25部のマスターバッチ):4部、及び、
『硬化剤』
・“jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン(株)製):27.9部
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、小西化学工業(株)製):6.0部
・“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製):6.0部
・TBC(t-ブチルカテコール、大日本インキ化学工業(株)製):1.5部から、
得られたエポキシ樹脂組成物を主剤101部に対して硬化剤41.4部混合した混合物。」(以下、「引用発明2-1」という。)

「『主剤』
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、分子量:450、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ製):41部
・GAN(N,N-ジグリシジルアニリン、分子量:205、日本化薬工業(株)製):40部
・“デナコール(登録商標)”EX-830(ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、n=9、分子量:536、ナガセケムテックス(株)):10部
・“カネエース(登録商標)”MX416(“アラルダイト”MY721:75部/コアシェルポリマー(体積平均粒子径:100nm、コア成分:架橋ポリブタジエン(ガラス転移温度:-70℃)、シェル:PMMA/グリシジルメタクリレート/スチレン共重合物):25部のマスターバッチ):12部、及び、
『硬化剤』
・“jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン(株)製):27.5部
・3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、小西化学工業(株)製):5.9部
・“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製):5.9部
・TBC(t-ブチルカテコール、大日本インキ化学工業(株)製):1.5部から、
得られたエポキシ樹脂組成物を主剤103部に対して硬化剤40.8部混合した混合物。」(以下、「引用発明2-2」という。)

(1)本件特許発明1について

ア 引用発明1-1との対比・判断

引用発明1-1の「バインダーの無い繊維基材2」、「エポキシ樹脂組成物」、「繊維強化複合材料」、「上記特定の『主剤』からなるエポキシ樹脂」、「3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、小西化学工業(株)製)」、「“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製)」は、それぞれ、本件特許発明1の「繊維集合体」、「エポキシ樹脂組成物」、「繊維強化複合材料」、「構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂」、「構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン」、「構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明1-1とは、以下の点で一致し、
<一致点>
「繊維集合体にエポキシ樹脂組成物を含浸させ、硬化させて繊維強化複合材料を得る製造方法であって、
前記エポキシ樹脂組成物は、硬化剤が構成要素[B]および構成要素[C]からなり、
構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含有するエポキシ樹脂組成物とすることを含む製造方法、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン。」

次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1では、「エポキシ樹脂組成物を60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させ」ると特定されているのに対して、引用発明1-1には、そのような特定がない点。

<相違点2>
本件特許発明1では、「エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(1)の範囲においては式(2)を満たし、
式(3)の範囲においては式(4)を満たし、
式(5)の範囲においては式(6)を満たす。
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(1)
0<b/(b+c)<1…(2)
200<a≦350…(3)
0.002a-0.35≦b/(b+c)≦-0.002a+1.35…(4)
350<a<800…(5)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(6)」と特定されているのに対して、引用発明1-1には、そのような特定がない点。

<相違点3>
本件特許発明1では、「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物」と特定しているのに対して、引用発明1-1の硬化剤は「“jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン(株)製):27.9部」(以下、「ジエチルトルエンジアミン」という。)及び「TBC(t-ブチルカテコール、大日本インキ化学工業(株)製):1.5部」(以下、「t-ブチルカテコール」という。)を含有する点。

まず、相違点3について検討する。
本件特許発明1の「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物」は、「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含有し、それ以外の構成要素を含有しないエポキシ樹脂組成物」と認められる。
引用発明1-1の硬化剤に含まれる「t-ブチルカテコール」は、刊行物1の摘示(11)の記載からみて、硬化促進剤であって、「硬化促進剤を配合することがある」及び「硬化促進剤を配合する場合」との記載から、任意に添加される構成要素と認められる。
一方、引用発明1-1の硬化剤に含まれるジエチルトルエンジアミンは、刊行物の摘示(1)及び(5)の記載からみて、構成要素[D]の液状芳香族ジアミンであって、「構成要素[A]、[B]、[C]、[D]および[E]を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物」及び「本発明のエポキシ樹脂組成物に用いられる構成要素[D]である液状芳香族ジアミンは、構成要素[A]、[B]および[C]のエポキシ樹脂を架橋して硬化させるための硬化剤であり」との記載から、エポキシ樹脂を硬化させるために、必ず含有させる構成要素と認められる。
そうすると、引用発明1-1において、「ジエチルトルエンジアミン」を含有させないとすることは、エポキシ樹脂を硬化させるために、必ず含有させる構成要素をあえて含有させないこととなり、引用発明1-1の課題(刊行物1の摘示(3))解決に反することとなるから、刊行物1に接した当業者が「ジエチルトルエンジアミン」を含有させないとすることを容易に想到することができたとはいえない。

次に、相違点1について検討する。
刊行物1の摘示(7)には、繊維強化複合材料の試験体を製造する際に、「プリフォームに、70℃の温度下において各実施例で得られたエポキシ樹脂組成物を注入含浸」することが記載され、摘示(9)には「主剤の70℃における粘度は103mPa・s、硬化剤の70℃における粘度は72mPa・sであり、主剤101部に対して硬化剤41.4部混合した混合物の70℃における初期粘度は95mPa・sであり、70℃の温度下で1000mPa・sに達する時間は162分であった」と記載されていることから、引用発明1-1において、エポキシ樹脂組成物を70℃の温度で混合し、溶解しているとみられる。
しかしながら、相違点3でも検討したとおり、本件特許発明1と引用発明1-1の「エポキシ樹脂組成物」とは、引用発明1-1が「ジエチルトルエンジアミン」を必須成分として含有する点で相違している。
ここで、引用発明1-1の「エポキシ樹脂組成物」が溶解しているのは、「ジエチルトルエンジアミン」と、「3,3’-ジアミノジフェニルスルホン」及び「4,4’-ジアミノジフェニルスルホン」とが、芳香族基に結合したアミノ基という共通した構造を有することにより、相溶性を有することによる影響であるとも考えられるから、仮に、引用発明1-1において、「ジエチルトルエンジアミン」を含有させないことが可能であるとしても、「3,3’-ジアミノジフェニルスルホン」及び「4,4’-ジアミノジフェニルスルホン」のみで、エポキシ樹脂組成物を溶解できるか否か、当業者が予測することができたとはいえない。
よって、刊行物1に接した当業者が「ジエチルトルエンジアミン」を含有させずに、「エポキシ樹脂組成物を60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させ」ることを容易に想到することができたとはいえない。

また、相違点2について検討する。
申立書の補正書の13頁13?38行に記載のとおり、引用発明1-1のaは344.3、b/(b+c)は0.5と計算されるので、本件特許発明1の「式(3)の範囲においては式(4)を満たす」という条件を満足するから、この点は、実質的な相違点ではない。

したがって、本件特許発明1と引用発明1-1とは、少なくとも、相違点1及び3の点で相違しており、また、相違点1及び3は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

イ 引用発明1-2との対比・判断

引用発明1-2は、引用発明1-1に対して、主剤及び硬化剤の配合成分は同じで、その配合量のみが異なる発明であるから、上記アで述べたとおりの一致点及び相違点1及び3を有し、相違点2に関しては、引用発明1-2のaは378.6、b/(b+c)は0.5と計算され、本件特許発明1の「式(5)の範囲においては式(6)を満たす」という条件を満足し、実質的な相違点ではないが、本件特許発明1と引用発明1-2とは、引用発明1-1との対比と同様に、相違点1及び3の点で相違しており、相違点1及び3は当業者にとって容易に想到することができたものとはいえない。

ウ まとめ

したがって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではない。

(2)本件特許発明2について

本件特許発明2は、本件特許発明1の製造方法において、「式(7)を満たす、15≦(b+c)≦70・・・(7)」ことを特定するものであるが、本件特許発明2と引用発明1-1又は引用発明1-2とは、本件特許発明1と同様に、相違点1及び3の点で相違しており、相違点1及び3は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

なお、本件特許発明2の「15≦(b+c)≦70・・・(7)」について、引用発明1-1及び引用発明1-2のそれぞれについて計算すると、12.0及び11.8であるから、本件特許発明2と、引用発明1-1及び引用発明1-2とは、この点においても相違しており、刊行物1の摘示(5)には、「ジアミノジフェニルスルホンの配合量は、全芳香族アミン100重量部中に10?40重量部が好ましく」と記載されているのみで、本件特許発明2のエポキシ樹脂100質量部に対する(b+c)質量部について記載ないし示唆されていないから、この点は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

したがって、本件特許発明2は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではない。

(3)本件特許発明3について

本件特許発明3と、引用発明2-1を対比する。
引用発明2-1の「エポキシ樹脂組成物を主剤101部に対して硬化剤41.4部混合した混合物」、「上記特定の『主剤』からなるエポキシ樹脂」、「3,3’-DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、小西化学工業(株)製)」、「“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、セイカ(株)製)」は、それぞれ、本件特許発明3の「エポキシ樹脂組成物」、「構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂」、「構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン」、「構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン」に相当する。
そうすると、本件特許発明3と引用発明2-1とは、以下の点で一致し、
<一致点>
「以下の構成要素[A]、構成要素[B]、および構成要素[C]を含有するエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤が構成要素[B]および構成要素[C]からなる、エポキシ樹脂組成物、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン。」

次の点で相違する。
<相違点4>
本件特許発明3では、「エポキシ樹脂組成物は、60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させて得られる」と特定されているのに対して、引用発明2-1には、そのような特定がない点。

<相違点5>
本件特許発明3では、「エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(8)の範囲においては式(9)を満たし、
式(10)の範囲においては式(11)を満たし、
式(12)の範囲においては式(13)を満たすことを特徴とするエポキシ樹脂組成物、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3'-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(8)
0<b/(b+c)<1…(9)
200<a≦350…(10)
0.002a-0.35≦b/(b+c)≦-0.002a+1.35…(11)
350<a<800…(12)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(13)」と特定されているのに対して、引用発明2-1には、そのような特定がない点。

<相違点6>
本件特許発明3では、「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物」と特定しているのに対して、引用発明2-1の硬化剤は「“jERキュア(登録商標)”W(ジエチルトルエンジアミン、ジャパンエポキシレジン(株)製):27.9部」及び「TBC(t-ブチルカテコール、大日本インキ化学工業(株)製):1.5部」を含む点。

相違点4ないし6は、上記(1)の相違点1ないし3と同一であるから、本件特許発明3は、本件特許発明1と同様に判断され、本件特許発明3と引用発明2-1とは、相違点4及び6の点で相違しており、相違点4及び6は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

また、同様に、本件特許発明3と引用発明2-2とは、相違点4及び6の点で相違しており、相違点4及び6は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

したがって、本件特許発明3は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではない。

(4)本件特許発明4について

申立書の補正書14頁「(ウ)本件請求項4に係る発明と甲第1号証との対比」に記載された理由のとおり、引用発明2-1は、本件特許発明4の「式(16)の範囲においては式(17)を満たす」という条件を満足し、実質的な相違点ではないが、本件特許発明4と引用発明2-1とは、本件特許発明3と同様に、相違点4及び6の点で相違しており、相違点4及び6は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

したがって、本件特許発明4は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではない。

(5)本件特許発明6について

申立書の補正書15頁「(オ)本件請求項6に係る発明と甲第1号証との対比」に記載された理由のとおり、引用発明2-1は、本件特許発明6の「式(21)、(22)を満たす」という条件を満足し、実質的な相違点ではないが、本件特許発明4と引用発明2-1とは、本件特許発明3と同様に、相違点4及び6の点で相違しており、相違点4及び6は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

したがって、本件特許発明6は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではない。

(6)本件特許発明7について

申立書の補正書13頁「(ア)本件請求項1に係る発明と甲第1号証との対比」に記載された理由のとおり、引用発明2-1のエポキシ樹脂の換算分子量aは344.3、また同様に引用発明2-2のaは378.6と計算されるから、本件請求項7の「式(23)、(24)」という条件を満足しないので、新たな相違点である。
申立人は、この点について、補正書15頁「(カ)本件請求項7に係る発明と甲第1号証との対比」において、引用発明2-1のエポキシ樹脂を、別の実施例(実施例6など)で用いているjER630(a=97.5)に置き換え可能であることを述べているが、刊行物1には、その課題(刊行物1の摘示(3))と、エポキシ樹脂の換算分子量aとの関係について、記載ないし示唆されていないから、引用発明2-1のエポキシ樹脂を別の実施例(実施例6など)で用いているjER630に置き換えることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。
そして、本件特許発明7と引用発明2-1及び引用発明2-2とは、本件特許発明3と同様に、相違点4及び6の点で相違しており、相違点4及び6は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

したがって、本件特許発明7は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではない。

(7)本件特許発明8について

本件特許発明8は、本件特許発明3のエポキシ樹脂組成物において、「式(25)を満たす、15≦(b+c)≦70・・・(25)」ことを特定するものであるが、本件特許発明3と同様に判断され、本件特許発明8と引用発明2-1又は引用発明2-2とは、相違点4及び6の点で相違しており、相違点4及び6は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

なお、本件特許発明8の「15≦(b+c)≦70・・・(25)」について、引用発明2-1及び引用発明2-2のそれぞれについて計算すると、12.0及び11.8であるから、本件特許発明8と、引用発明2-1及び引用発明2-2とは、この点においても相違しており、刊行物1の摘示(5)には、「ジアミノジフェニルスルホンの配合量は、全芳香族アミン100重量部中に10?40重量部が好ましく」と記載されているのみで、本件特許発明2のエポキシ樹脂100質量部に対する(b+c)質量部について記載ないし示唆されていないから、この点は当業者が容易に想到することができたものとはいえない。

したがって、本件特許発明8は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反しているものではない。

(8)申立人の主張の検討

申立人は、平成29年7月13日(受理日、同年7月14日)に提出した意見書において、概略以下のとおり主張している。
本件訂正請求により、本件特許発明1及び3が「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物」と訂正されたが、本件特許明細書に、「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなる」ものがどのようなものかについての記載がないことから、発明の外縁が不明であること、例えば、本件特許明細書の【0032】?【0039】に記載の硬化促進剤、熱可塑性樹脂、無機粒子等を含むものが、本件特許発明1及び3の技術的範囲に含まれるものか否か、当業者に理解できないことから、本件特許発明1及び3は明確でない。

しかしながら、本件特許発明1及び3の「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物」という記載自体は明確であって、文言上、「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含有し、それ以外の構成要素を含有しないエポキシ樹脂組成物」を意味するのであって、本件特許明細書の【0032】?【0039】に記載の硬化促進剤、熱可塑性樹脂、無機粒子等は含まれないと解するのが相当であり、さらに、本件特許明細書の実施例においては、「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]を含有し、それ以外の構成要素を含有しないエポキシ樹脂組成物」が例示されていることからみても、「構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物」という記載は明確である。
したがって、本件特許発明1及び3は明確でないとする申立人の主張を採用することができない。

2.取消理由3の検討

取消理由3は、訂正前の本件特許発明5は、訂正前の本件特許発明3において、何をさらに特定する発明であるか不明であって、その技術的意味が不明であるとしていたものであるが、本件訂正請求により、本件特許発明5が削除されたため、取消理由は解消した。

第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由によっては、本件特許発明1ないし4、6ないし8に係る特許を取り消すことができない。
そして、他に本件特許発明1ないし4、6ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許発明5に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許発明5に対して、申立人がした特許異議の申し立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維集合体にエポキシ樹脂組成物を含浸させ、硬化させて繊維強化複合材料を得る製造方法であって、
前記エポキシ樹脂組成物は、硬化剤が構成要素[B]および構成要素[C]からなり、
エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(1)の範囲においては式(2)を満たし、
式(3)の範囲においては式(4)を満たし、
式(5)の範囲においては式(6)を満たす前記エポキシ樹脂組成物を60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させて以下の条件を満たす構成要素[A]、構成要素[B]および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物とすることを含む製造方法、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(1)
0<b/(b+c)<1…(2)
200<a≦350…(3)
0.002a-0.35≦b/(b+c)≦-0.002a+1.35…(4)
350<a<800…(5)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(6)
ここで、換算分子量aの定義は下記の通りである。エポキシ樹脂[A]として1種のエポキシ樹脂のみを用いる場合には、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量とエポキシ樹脂1分子中に含まれるエポキシ基数の積を換算分子量aとする。また、エポキシ樹脂[A]として複数種のエポキシ樹脂成分を用いる場合にはエポキシ樹脂成分毎にエポキシ当量とエポキシ樹脂成分1分子中に含まれるエポキシ基数の積をそれぞれ算出し、算出した各々の、エポキシ樹脂成分のエポキシ当量とエポキシ基数の積をエポキシ樹脂[A]を構成する各成分の配合比で加重平均した値を換算分子量aとする。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂組成物がさらに、式(7)を満たす請求項1に記載の繊維強化複合材料を得る製造方法、
15≦(b+c)≦70・・・(7)。
【請求項3】
以下の構成要素[A]、構成要素[B]、および構成要素[C]からなるエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤が構成要素[B]および構成要素[C]からなり、該エポキシ樹脂組成物に含まれる構成要素[A]100質量部に対して、構成要素[B]の配合量をb質量部、構成要素[C]の配合量をc質量部としたとき、
式(8)の範囲においては式(9)を満たし、
式(10)の範囲においては式(11)を満たし、
式(12)の範囲においては式(13)を満たすことを特徴とするエポキシ樹脂組成物、
構成要素[A]:換算分子量aのエポキシ樹脂
構成要素[B]:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン
構成要素[C]:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン
150<a≦200…(8)
0<b/(b+c)<1…(9)
200<a≦350…(10)
0.002a-0.35≦b/(b+c)≦-0.002a+1.35…(11)
350<a<800…(12)
0.35≦b/(b+c)≦0.65…(13)
ここで、換算分子量aの定義は下記の通りである。エポキシ樹脂[A]として1種のエポキシ樹脂のみを用いる場合には、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量とエポキシ樹脂1分子中に含まれるエポキシ基数の積を換算分子量aとする。また、エポキシ樹脂[A]として複数種のエポキシ樹脂成分を用いる場合にはエポキシ樹脂成分毎にエポキシ当量とエポキシ樹脂成分1分子中に含まれるエポキシ基数の積をそれぞれ算出し、算出した各々の、エポキシ樹脂成分のエポキシ当量とエポキシ基数の積をエポキシ樹脂[A]を構成する各成分の配合比で加重平均した値を換算分子量aとし、
該エポキシ樹脂組成物は、60℃以上80℃以下の温度で混合し、溶解させて得られる。
【請求項4】
さらに、式(14)の範囲においては式(15)を満たし、
式(16)の範囲においては式(17)を満たし、
式(18)の範囲においては式(19)を満たすことを特徴とする請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物、
150<a≦190…(14)
0.1≦b/(b+c)≦0.9…(15)
190<a≦365…(16)
0.002a-0.28≦b/(b+c)≦-0.0017a+1.23…(17)
365<a<800…(18)
0.45≦b/(b+c)≦0.60…(19)。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
さらに、式(21)、(22)を満たすことを特徴とする請求項3または4に記載のエポキシ樹脂組成物、
150≦a≦357・・・(21)
0.00169a-0.103≦b/(b+c)≦-0.0019a+1.19・・・(22)。
【請求項7】
さらに、式(23)、(24)を満たすことを特徴とする請求項3?4、6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
150≦a≦300・・・(23)
0.00169a-0.103≦b/(b+c)≦-0.0010a+0.90・・・(24)
【請求項8】
さらに、式(25)を満たすことを特徴とする請求項3?4、6?7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物、
15≦(b+c)≦70・・・(25)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-27 
出願番号 特願2012-513380(P2012-513380)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 853- YAA (C08J)
P 1 651・ 851- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 原田 隆興
渕野 留香
登録日 2016-06-17 
登録番号 特許第5949545号(P5949545)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 繊維強化複合材料を得る製造方法、およびそれに用いるエポキシ樹脂組成物  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 小林 良博  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  
代理人 出野 知  
代理人 小林 良博  
代理人 小林 直樹  
代理人 小林 直樹  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  

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