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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09J 審判 全部申し立て 特29条の2 C09J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09J |
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管理番号 | 1332248 |
異議申立番号 | 異議2016-700167 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-02-25 |
確定日 | 2017-07-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5770038号発明「粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5770038号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。 特許第5770038号の請求項1、2、4ないし10に係る特許を維持する。 特許第5770038号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第5770038号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成27年7月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成28年2月25日に特許異議申立人 足立道子より特許異議の申立てがなされ、同年6月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月25日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年12月15日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成29年3月3日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年4月28日に意見書の提出及び訂正請求がなされたものである。 なお、特許権者による上記平成29年4月28日付け訂正請求について、異議申立人に意見書提出の機会を設けたが、異議申立人からの応答はなかった。また、平成28年8月25日付けでなされた訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否についての当審の判断 当審は、平成29年4月28日付けでなされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、適法になされたものと判断する。 その理由は以下のとおりである。 1 訂正事項 本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?10を訂正の対象とするものであり、具体的な訂正事項は、次のとおりである。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、「アンカーコート層」(2カ所あるうちの最初の方)を「未硬化のアンカーコート層」と訂正し、また「エネルギー線硬化型粘着剤層」を「未硬化のエネルギー線硬化型粘着剤層」と訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2、4?10も同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1、4、6において、「エネルギー線重合性基」を「(メタ)アクリロイル基」と訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2、5、7?10も同様に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1において、「である粘着シート」を「であり、エネルギー線照射により粘着力が低下する粘着シート」と訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2、4?10も同様に訂正する。 (4) 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (5) 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項4において、「請求項3に記載の」を「請求項1または2に記載の」と訂正する。 (6) 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6において、「請求項1?5の何れかに記載の」を「請求項1、2、4、5の何れかに記載の」と訂正する。 特許請求の範囲の請求項7において、「請求項1?6の何れかに記載の」を「請求項1、2、4?6の何れかに記載の」と訂正する。 特許請求の範囲の請求項8において、「請求項1?7の何れかに記載の」を「請求項1、2、4?7の何れかに記載の」と訂正する。 特許請求の範囲の請求項9において、「請求項1?8の何れかに記載の」を「請求項1、2、4?8の何れかに記載の」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1は、本件特許明細書のアンカーコート層についての記載(段落【0031】?【0049】)及びエネルギー線硬化型粘着剤層についての記載(段落【0050】?【0057】)に基づいて、請求項1記載のアンカーコート層及びエネルギー線硬化型粘着剤層につき、その状態を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項3の記載に基づいて、請求項1、4、6記載のエネルギー線重合性基を、(メタ)アクリロイル基に限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3は、本件特許明細書の段落【0059】の記載に基づいて、請求項1記載の粘着シートにつき、その性状を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。 (4) 訂正事項4?6について 訂正事項4は、訂正前の請求項3を削除するものであり、また訂正事項5、6は、当該請求項3の削除に伴い、引用する請求項を実質的に限定するものであり、これらの訂正事項は、カテゴリーや対象、目的を変更するものでもない。 したがって、訂正事項4?6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。 3 小括 前記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし10について訂正を求めるものであり、その訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし10について訂正することを認める。 第3 本件発明 前記第2のとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、本件特許の請求項1、2、4?10に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2、4?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める(以下、各請求項に係る発明を項番に従って「本件発明1」などといい、本件発明1、2、4?10を総称して単に「本件発明」ということがある。また、各請求項に係る特許を項番に従って「本件特許1」などといい、本件特許1、2、4?10を総称して単に「本件特許」ということがある。)。 なお、請求項3は、本件訂正により削除された(前記第2の1(4)訂正事項4)。 「【請求項1】 基材フィルム、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含有する未硬化のアンカーコート層および未硬化のエネルギー線硬化型粘着剤層がこの順に積層されてなり、 該基材フィルムがポリエステルからなり、 該アンカーコート層の厚さが0.1?3μmであり、 エネルギー線照射により粘着力が低下する粘着シート。 【請求項2】 ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載の粘着シート。 【請求項4】 (メタ)アクリロイル基を有する化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する重合体である請求項1または2に記載の粘着シート。 【請求項5】 (メタ)アクリロイル基を有する重合体が、(メタ)アクリレート変性ポリエステルである請求項4に記載の粘着シート。 【請求項6】 (メタ)アクリロイル基を有する化合物が、(メタ)アクリロイル基以外の反応性官能基を有し、アンカーコート層が架橋剤を含有する請求項1、2、4、5の何れかに記載の粘着シート。 【請求項7】 エネルギー線硬化型粘着剤が、アクリル系重合体を含有する請求項1、2、4?6の何れかに記載の粘着シート。 【請求項8】 エネルギー線硬化型粘着剤が、多官能紫外線硬化樹脂を含有する請求項1、2、4?7の何れかに記載の粘着シート。 【請求項9】 板状部材の加工を行う際の板状部材の非加工面保護用である請求項1、2、4?8の何れかに記載の粘着シート。 【請求項10】 半導体ウエハの裏面の研削を行う際の半導体ウエハの回路面保護用である請求項9に記載の粘着シート。」 第4 取消理由・異議申立理由の概要(適用条文と証拠) 当審において通知した取消理由及び特許異議申立人が主張する異議申立理由は、その適用法令と証拠(主引例)について整理すると、以下のとおりである。 なお、異議申立人が提出した証拠類(以下、甲第1?5号証を単に「甲1」などという。)は、次のものである。 甲1:「コンバーテック」、第38巻 第6号・通巻第447号、20 10年6月15日、株式会社加工技術研究会発行、第84?88 頁 甲2:国際公開第2006/104151号 甲3:特願2011-26932号(特開2011-184688号公 報参照) 甲4:特開昭62-79649号公報 甲5:特開2002-220571号公報 1 平成28年6月29日付け取消理由 特許法第113条第2号関連 ・特許法第29条第1項第3号(新規性) 甲1 ・特許法第29条第2項(進歩性) 甲1又は甲2 ・特許法第29条の2(拡大先願) 甲3 特許法第113条第4号関連 ・特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 2 平成29年3月3日付け取消理由(決定の予告) 特許法第113条第2号関連 ・特許法第29条第1項第3号(新規性) 甲1 ・特許法第29条第2項(進歩性) 甲1 ・特許法第29条の2(拡大先願) 甲3 特許法第113条第4号関連 ・特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 3 異議申立理由 特許法第113条第2号関連 ・特許法第29条第1項第3号(新規性) 甲1 ・特許法第29条第2項(進歩性) 甲1又は甲2 ・特許法第29条の2(拡大先願) 甲3 特許法第113条第4号関連 ・特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 第5 甲1?3に基づく新規性・進歩性・拡大先願に係る取消理由・異議申立理由について 1 甲1に記載された発明(甲1発明) 本件特許の出願日(平成23年7月25日)前に頒布された刊行物である甲1には、UVコート用アンカー剤アラコートAPシリーズについて記載されており(85頁右欄?86頁右欄の「3.」の項参照)、その「3.1」の項によると、同シリーズの「アラコートAP2500E」は、PETフィルムとUV硬化樹脂との密着性を向上させるアンカー層に対する要望に応えるべく開発されたアンカー剤であって、一般に「UV硬化樹脂としては、ハードコートやその他の機能性コート剤から粘着剤に至るまで、様々な種類のものが開発されており、用途によって使用される樹脂が全く異なり、アンカー剤も、それに合わせた設計が必要となる」ところ(下線は当審が付した。)、当該「アラコートAP2500E」は「PETに対して密着性が良好なポリエステル樹脂を特殊変性することにより、UV硬化樹脂の種類を選ばないUVコート用アンカー剤」であることが分かる。そして、「3.2」、「3.3」の項及び表2、3によると、上記「アラコートAP2500E」は、専用硬化剤である「アラコートCL2500」と併用して使用することが予定されたものであって、アラコートAP2500E/CL2500を所定比率で混合したアンカー剤をPETフィルム上に塗工して得られるアンカー層の乾燥膜厚としては、1μm程度が想定されているといえる。 そうすると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「次の3つの層をこの順に積層したフィルム。 ・PETフィルム ・当該PETフィルム上に塗工され、乾燥膜厚として1μm程度が想定 された、アラコートAP2500E及びアラコートCL2500を混 合したアンカー剤を含有するアンカー層 ・UV硬化樹脂としての粘着剤層」 2 甲2に記載された発明(甲2発明) 本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲2の請求の範囲[1]には、「基材フィルム上に粘着剤層が設けられたウエハダイシング用粘着テープであって、該粘着剤層は2層以上からなり、いずれの粘着剤層を構成する樹脂組成物も放射線重合性化合物を含有するとともに、粘着剤層の最外層を構成する樹脂組成物における放射線重合性化合物の含有量と、内側の粘着剤層を構成する樹脂組成物におけるそれが、基材フィルムに印加した応力が放射線照射後の最外層に十分に伝わり、該層とチップを剥離するに十分な程度に異なることを特徴とするウエハダイシング用粘着テープ。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 3 甲3に係る出願の当初明細書等に記載された発明(甲3発明) 本件特許に係る特許出願の日前の他の出願であって、当該特許出願後に出願公開された甲3に係る特許出願(その発明者及び出願人は本件特許に係る出願のそれとは異なる。)の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、これらをまとめて「当初明細書等」という。)には、ポリエステルフィルム上に、アンダーコート剤からなるアンダーコート層及び活性エネルギー線硬化皮膜層がこの順で積層してなる、活性エネルギー線硬化皮膜付プラスチックフィルムが記載されている(段落【0009】、【0010】)。 そして、当該ポリエステルフィルムとして、PETフィルムが記載され(段落【0049】)、当該アンダーコート剤の成分として、(メタ)アクリロイル基含有ポリエステル類(【請求項7】、段落【0031】など)及びアジリジニル基を有する化合物(【請求項1】、段落【0035】など)が記載され、当該アンダーコート層の厚さに関し、通常0.1?10μm程度であることが記載され(段落【0050】)、当該活性エネルギー線硬化皮膜層の材料として、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのモノマータイプ、ポリウレタンポリ(メタ)アクリレートなどのオリゴマータイプ、(メタ)アクリロイル基等の重合性官能基と水酸基を分子中に複数有するアクリル樹脂などのポリマータイプが具体的に例示され、これらを2種以上混合してもよいことが記載されている(段落【0052】、【0053】)。 さらに、段落【0003】には「接着剤等の硬化皮膜」との記載があるとともに、段落【0012】には「半導体加工テープ用フィルム」との記載もある。 そうすると、甲3に係る出願の当初明細書等には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「次の順に積層されてなる活性エネルギー線硬化皮膜付プラスチックフィルムであって、半導体加工テープ用フィルムとして使用し得るもの。 ・PETフィルム ・(メタ)アクリロイル基含有ポリエステル類及びアジリジニル基を有 する化合物を含有し、厚さが0.1?10μm程度であるアンダーコ ート層 ・粘着剤等の硬化皮膜であってもよい、(メタ)アクリロイル基等の重 合性官能基と水酸基を分子中に複数有するアクリル樹脂などを材料と する活性エネルギー線硬化皮膜層」 4 甲1発明に基づく新規性・進歩性の判断 (1) 本件発明1について ア 対比 甲1発明の「PETフィルム」及び「UV硬化樹脂としての粘着剤層」はそれぞれ、それらの材質を含めて本件発明1における「基材フィルム」及び「エネルギー線硬化型粘着剤層」に相当するものといえる。 また、甲1発明の「アンカー層」は、「アラコートAP2500E」を含有するものであるが、これは、本件発明の実施例1などにおいても使用され、本件特許明細書の段落【0075】において、「アクリレート変性ポリエステルを主成分とするポリエステル樹脂溶液(アラコートAP2500E(荒川化学工業株式会社製、固形分50%))100質量部に、アジリジン系架橋剤としてアラコートCL2500(荒川化学工業株式会社製、固形分40%)60質量部を添加し、アンカーコート層形成用組成物を得た。」(下線は当審が付した。)と説明されるものであって、本件発明1における「(メタ)アクリロイル基を有する化合物」の具体例であると解されるから、当該「アンカー層」は、その材質及び厚さを含めて本件発明1の「アンカーコート層」に相当するものということができる。 しかしながら、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも次の点で相違するといえる。 ・相違点1:本件発明1の粘着シートは、「エネルギー線照射により粘 着力が低下する」ものであるのに対して、甲1発明のフィ ルムは、そのような特性を有するか否かが不明である点 イ 相違点1についての検討 甲1発明における「UV硬化樹脂としての粘着剤層」は、UV照射(エネルギー照射)により、粘着剤層としての特性を発現するもの、すなわち粘着力が増加するものと解するのが合理的であるから、甲1発明のフィルムは、「エネルギー線照射により粘着力が低下する」ものとは認められない。その上、甲1発明のフィルムは、上記のとおり、エネルギー線照射による粘着力の増加を期待するものであるから、これを「エネルギー線照射により粘着力が低下する」ものとすることには、むしろ阻害要因があるというべきである。 したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (2) 本件発明2、4?10について 本件発明2、4?10は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、これらの発明についても、甲1発明に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (3) 小括 以上のとおり、甲1発明からみて、本件発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するとはいえず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえないから、甲1発明に基づいて、本件特許を取り消すことはできない。 5 甲2発明に基づく進歩性の判断 (1) 本件発明1について ア 対比 甲2発明は、基材フィルムの上に、「内側の粘着剤層」と「粘着剤層の最外層」を形成したものであるが、これらの層はともに放射線重合性化合物を有するものであり、当該「内側の粘着剤層」は、本件発明1における「アンカーコート層」に相当し、また、当該「粘着剤層の最外層」は、本件発明1における「エネルギー線硬化型粘着剤層」に相当するものということができる。 しかしながら、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも次の点で相違するといえる。 ・相違点2:アンカーコート層(内側の粘着剤層)の厚さにつき、本件 発明1は「0.1?3μm」と特定しているのに対して、 甲2発明はそのような特定がない点 イ 相違点2についての検討 甲2発明は、甲2の段落[0027]に記載されるとおり、「粘着剤層の最外層と内側の粘着剤層の放射線照射後の粘着力に差をつけることができ、基材フィルムに印加した応力が放射線照射後の最外層に十分に伝わるので該層とチップを容易に剥離することができる。」、「放射線照射後にピックアップする場合に、チップに接触する最外層の粘着剤層の粘着力は十分に低減され、容易に剥離できる一方で、特にエキスパンドしてピックアップする場合には、内側の粘着剤層が柔軟性を有し、粘着剤層同士が剥離することなくピックアップすることができる。」という作用を期待するものである。 また、甲2の段落[0030]には、「内側の粘着剤層」の厚さにつき、「粘着剤層の最外層1と内側の粘着剤層2の厚み比率については前述のブレード切り込み深さとの関係や組成構成によっても異なってくるが、基本的には粘着剤層の最外層1はチップの剥離性のみを考慮すればよく、全体的な硬さを左右するのは内側の粘着剤層2であるので、内側の粘着剤層2の厚み>粘着剤層の最外層1の厚みとなることが望ましい。それぞれの粘着剤層の厚みとしては、内側の粘着剤層2が5?70μmとするのが好ましく、さらに好ましくは5?20μmである。また粘着剤層の最外層1は10?80μmとするのが好ましく、さらに好ましくは15?50μmである。」と記載されている。 そうすると、甲2には、甲2発明が期待する上記作用を奏する限りにおいて、「粘着剤層の最外層と内側の粘着剤層の厚み比率」、ひいては、「内側の粘着剤層の厚み」を調整し得ることが教示されているといえる。 しかしながら、甲2には、当該「内側の粘着剤層の厚み」を、上記の好ましい数値範囲(5?70μm、5?20μm)とは異なる、本件発明1が規定する「0.1?3μm」という数値範囲とすることについて示唆し、これを動機付ける記載は見当たらない。 一方、本件発明1は、当該厚み(0.1?3μm)を採用することにより、本件特許明細書の段落【0049】に記載された「アンカーコート層がエネルギー線硬化型粘着剤層のエネルギー線硬化時における収縮を効率的に吸収し、アンカーコート層と基材フィルムの剥離を抑制することができ、また、ブロッキングが生じにくい」という、甲2発明とは異質であって、甲2から予測し得ない効果を奏するものである。 してみると、本件発明1の上記相違点2に係る事項は、甲2の記載からみて、単なる設計的事項にあたるものということはできないから、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2) 本件発明2、4?10について 本件発明2、4?10は、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 小括 以上のとおり、甲2発明からみて、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、甲2発明に基づいて、本件特許を取り消すことはできない。 6 甲3発明に基づく拡大先願の判断 (1) 本件発明1について 甲3発明における「(メタ)アクリロイル基含有ポリエステル類」を含有する「アンダーコート層」は、本件発明1における「アンカーコート層」に相当するものといえる。 また、粘着剤であってもよい、甲3発明における「活性エネルギー線硬化皮膜層」は、本件発明1における「エネルギー線硬化型粘着剤層」に相当するものである。 しかしながら、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも、前記相違点1と同様の相違点が存在すると認められ、この相違点に係る事項を実質同一の範疇の事項と認めるに足りる証拠は見当たらない。 したがって、本件発明1は、甲3発明と同一あるいは実質同一であるということはできない。 (2) 本件発明2、4?10について 本件発明2、4?10は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、これらの発明についても、甲3発明と同一あるいは実質同一であるということはできない。 (3) 小括 以上のとおり、甲3発明からみて、本件発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとはいえないから、甲3発明に基づいて、本件特許を取り消すことはできない。 7 サポート要件に関する当審の判断 (1) 本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0007】に記載されるとおり、「エネルギー線硬化型粘着シートの基材としてポリエステルフィルムを用いた場合であっても、エネルギー線硬化型粘着剤層がウエハなどに転写されることのない粘着シートを提供すること」にあると解される。 (2) また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、荒川化学工業株式会社製のアラコートAPシリーズにあたる特定のアンカー剤、同社製のCLシリーズにあたる架橋剤(ただし、実施例5では添加されていない)、及び、段落【0073】、【0074】に記載された特定の粘着剤1、2を用いた実施例が記載されており、当該実施例に接した当業者は、当該実施例の場合には前記課題が解決できると認識することができるといえる。 (3) これに対し、本件特許の特許請求の範囲は、本件発明を構成する「基材フィルム」、「アンカーコート層」及び「エネルギー線硬化型粘着剤層」のうち、基材フィルムについてはポリエステルからなる点、アンカーコート層については(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含有する点がそれぞれ特定されるにとどまり、その他の材料の選択を広範にわたって許容するものであるといえる。 (4) そこで、前記実施例において検証されている特定のアンカー剤、架橋剤、粘着剤以外のものを使用した場合についても、同様の作用を奏して前記課題が解決できると、発明の詳細な説明の記載に接した当業者が認識することができるか否かについて検討してみると、当該発明の詳細な説明には、前記課題を解決するに至る作用機序に関し、次のような記載を認めることができる(下線は当審において付した。)。 ・「【0021】 このような本発明の効果が奏される作用機構は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、次のように考えている。すなわち、エネルギー線硬化型粘着剤の硬化時に、アンカーコート層に含まれるエネルギー線重合性基の少なくとも一部もともに重合し、粘着剤層の一部とアンカーコート層との間に共有結合が形成され、粘着剤層と基材とがアンカーコート層を介して密着を維持するためであると考えている。」 ・「【0033】 エネルギー線重合性基を有する化合物としては、上記に例示列挙したようなエネルギー線重合性基を有していれば特に限定されないが、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく用いられる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含有することで、エネルギー線硬化型粘着剤に通常含まれているアクリル系重合体との親和性が向上すると考えられる。また、エネルギー線硬化時に粘着剤中のエネルギー硬化性成分と(メタ)アクリロイル基含有化合物とが反応し、粘着剤層とアンカーコート層との間に共有結合が形成されるため、アンカーコート層を介して、基材フィルムと粘着剤層との密着性が保たれると考えられる。」 (5) そうすると、前記課題を課題を解決するために重要なことは、エネルギー線硬化時に粘着剤中のエネルギー硬化性成分と(メタ)アクリロイル基含有化合物とが反応し、粘着剤層とアンカーコート層との間に共有結合が形成され、そのため、アンカーコート層を介して、基材フィルムと粘着剤層との密着性が保たれることにあるということができ、前記課題を解決するには、おおよそ、このような作用機序を実現することが可能な材料であれば、事足りると理解するのが合理的である。 (6) したがって、前記(5)の理解に従えば、本件特許の特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載に接した当業者が、本件発明の課題が解決できると認識できる範囲内のものといえるから、サポート要件に適合するものと認められる。 (7) 以上のとおり、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないから、サポート要件違反を理由に、本件特許を取り消することはできない。 第6 結び 以上のとおりであるから、本件特許1、2、4?10は、特許法第29条又は第29条の2の規定に違反してされたものであるとも、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえず、同法第113条第2号又は第4号に該当するとは認められないから、前記取消理由及び特許異議申立理由によって、取り消すことはできない。 また、前記のとおり、本件訂正により、請求項3は削除されたので、本件特許3についての特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないため、却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材フィルム、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を含有する未硬化のアンカーコート層および未硬化のエネルギー線硬化型粘着剤層がこの順に積層されてなり、 該基材フィルムがポリエステルからなり、 該アンカーコート層の厚さが0.1?3μmであり、 エネルギー線照射により粘着力が低下する粘着シート。 【請求項2】 ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1に記載の粘着シート。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (メタ)アクリロイル基を有する化合物が、(メタ)アクリロイル基を有する重合体である請求項1または2に記載の粘着シート。 【請求項5】 (メタ)アクリロイル基を有する重合体が、(メタ)アクリレート変性ポリエステルである請求項4に記載の粘着シート。 【請求項6】 (メタ)アクリロイル基を有する化合物が、(メタ)アクリロイル基以外の反応性官能基を有し、アンカーコート層が架橋剤を含有する請求項1、2、4、5の何れかに記載の粘着シート。 【請求項7】 エネルギー線硬化型粘着剤が、アクリル系重合体を含有する請求項1、2、4?6の何れかに記載の粘着シート。 【請求項8】 エネルギー線硬化型粘着剤が、多官能紫外線硬化樹脂を含有する請求項1、2、4?7の何れかに記載の粘着シート。 【請求項9】 板状部材の加工を行う際の板状部材の非加工面保護用である請求項1、2、4?8の何れかに記載の粘着シート。 【請求項10】 半導体ウエハの裏面の研削を行う際の半導体ウエハの回路面保護用である請求項9に記載の粘着シート。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-07-20 |
出願番号 | 特願2011-162390(P2011-162390) |
審決分類 |
P
1
651・
16-
YAA
(C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J) P 1 651・ 113- YAA (C09J) P 1 651・ 537- YAA (C09J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 富永 久子 |
特許庁審判長 |
國島 明弘 |
特許庁審判官 |
冨士 良宏 日比野 隆治 |
登録日 | 2015-07-03 |
登録番号 | 特許第5770038号(P5770038) |
権利者 | リンテック株式会社 |
発明の名称 | 粘着シート |
代理人 | 前田・鈴木国際特許業務法人 |
代理人 | 前田・鈴木国際特許業務法人 |