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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1332255
異議申立番号 異議2016-700565  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-23 
確定日 2017-08-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5837704号発明「向上した耐久性を有するフローバッテリ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5837704号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3、4、10、12〕、5、6、7、8、9、11について訂正することを認める。 特許第5837704号の請求項1?13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5837704号の請求項1?13に係る特許についての出願は、2011年12月20日を国際出願日とする出願であって、平成27年11月13日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人奥村一正により特許異議の申立てがされ、平成28年8月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月21日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年12月26日付けで意見書が提出され、平成29年2月2日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、その指定期間内である同年5月9日に意見書の提出及び訂正の請求があり、この訂正の請求に対して申立人に意見を求めたところ、意見書の提出はなされなかったものである。
なお、平成29年年5月9日に訂正の請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、平成28年11月21日にされた訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年5月9日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下の訂正事項1?12のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に「面積A_(1)は、面積A_(2)より大きいことを特徴とするフローバッテリ」とあるのを、「面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
フレームシールが、第1の電極、第2の電極のそれぞれを囲んで延在し、面積A_(1)、面積A_(2)をそれぞれ画定しており、
各フレームシールは、第1の電極、第2の電極のそれぞれの縁部内に含浸される、ポリマー材料のシール材料を備える、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(2) 訂正事項2
請求項2に、「第1の電極は、アノード電極であり、第2の電極は、カソード電極であることを特徴とする請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極は、アノード電極であり、第2の電極は、カソード電極である、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(3) 訂正事項3
請求項3に「第1の電極は、電極の縁部の位置合わせに関して第2の電極と面一でないことを特徴とする請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極は、電極の縁部の位置合わせに関して第2の電極と面一でない、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(4) 訂正事項4
請求項4に「請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「請求項3記載のフローバッテリ」に訂正する。

(5) 訂正事項5
請求項5に「面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む均一な距離で後退していることを特徴とする請求項4記載のフローバッテリ」とあるのを「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲の内側に後退しており、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む均一な距離で後退している、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(6) 訂正事項6
請求項6に「面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む不均一な距離で後退していることを特徴とする請求項4記載のフローバッテリ」とあるのを「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲の内側に後退しており、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む不均一な距離で後退している、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(7) 訂正事項7
請求項7に「第2の電極の縁部は、第1の電極の縁部の内側に後退していることを特徴とする請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第2の電極の縁部は、第1の電極の縁部の内側に後退している、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(8) 訂正事項8
請求項8に「第1の電極および第2の電極はそれぞれ、シール材料を備えるフレームシールを備えており、シール材料は、面積A_(1)、面積A_(2)それぞれを提供するように第1の電極および第2の電極のそれぞれ内に含浸され、フレームシールは、第1の電極のフレームシールの面内方向の厚みが第2の電極のフレームシールの面内方向の厚みより小さくなるように、第1の電極および第2の電極それぞれの縁部に面内方向の厚みを有することを特徴とする請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極および第2の電極はそれぞれ、シール材料を備えるフレームシールを備えており、シール材料は、面積A_(1)、面積A_(2)それぞれを提供するように第1の電極および第2の電極のそれぞれ内に含浸され、フレームシールは、第1の電極のフレームシールの面内方向の厚みが第2の電極のフレームシールの面内方向の厚みより小さくなるように、第1の電極および第2の電極それぞれの縁部に面内方向の厚みを有する、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(9) 訂正事項9
請求項9に「少なくとも1つの電気化学セルは、第1の電極に隣接して配置された第1のバイポーラプレートと、第2の電極に隣接して配置された第2のバイポーラプレートと、を備えており、第1のバイポーラプレートは、第1の流れ場を備えており、第2のバイポーラプレートは、第1の流れ場が延在する面積より小さい面積に延在する第2の流れ場を備えることを特徴とする請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
少なくとも1つの電気化学セルは、第1の電極に隣接して配置された第1のバイポーラプレートと、第2の電極に隣接して配置された第2のバイポーラプレートと、を備えており、第1のバイポーラプレートは、第1の流れ場を備えており、第2のバイポーラプレートは、第1の流れ場が延在する面積より小さい面積に延在する第2の流れ場を備える、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(10) 訂正事項10
請求項10に「請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「請求項3記載のフローバッテリ」に訂正する。

(11) 訂正事項11
請求項11に「セパレータは、面積A_(1)と同等の面積A_(3)を有することを特徴とする請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
セパレータは、面積A_(1)と同等の面積A_(3)を有する、ことを特徴とするフローバッテリ」に訂正する。

(12) 訂正事項12
請求項12に「請求項1記載のフローバッテリ」とあるのを、「請求項3記載のフローバッテリ」に訂正する。

2 訂正の可否について
(1) 一群の請求項について
訂正事項1?12に係る訂正前の請求項1?12について、請求項2?12は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?12に対応する訂正後の請求項1?12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【0025】
図5に示す別の実施例では、フレームシール66がA_(1)、A_(2)を画定している。フレームシール66は、電極62、64のそれぞれの外側周囲を囲んで延在する。一例として、各フレームシール66は、液体電解質22、26の漏れを防止するように電極62、64の縁部62a、64a内に含浸される、ポリマー材料などのシール材料を備える。シール材料は、電極62、64の細孔内に浸透し、凝固すると、液体電解質が電極62、64のその部分内を流れるのを防止または実質的に防止する。従って、電極62、64のフレームシール66の領域は、触媒活性を有さず、従って、電気化学反応にあずかる電極62、66の有効領域の部分ではなくなる。」

以上の記載から、願書に添付した明細書には、フレームシールが、第1の電極、第2の電極のそれぞれを囲んで延在し、面積A_(1)、面積A_(2)をそれぞれ画定しており、各フレームシールは、第1の電極、第2の電極のそれぞれの縁部内に含浸される、ポリマー材料のシール材料を備えることが記載されているといえる。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものである。
そして、訂正事項1による訂正は、「フローバッテリ」について、「フレームシールが、第1の電極、第2の電極のそれぞれを囲んで延在し、面積A_(1)、面積A_(2)をそれぞれ画定しており、
各フレームシールは、第1の電極、第2の電極のそれぞれの縁部内に含浸される、ポリマー材料のシール材料を備える」ことを限定したものといえる。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2について、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、訂正前の請求項1に記載の全ての発明特定事項を記載するものであるから、特許法第120条の5ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、請求項3について、請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しないものとし、訂正前の請求項1に記載の全ての発明特定事項を記載するものであるから、特許法第120条の5ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、請求項4について、引用する請求項を、訂正前の請求項1から、請求項1との引用関係を解消した請求項3へと変更するもの、すなわち、請求項4に係る発明において、訂正前の請求項3に係る発明特定事項を追加するものである。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

オ 訂正事項5について
訂正事項5は、請求項5について、請求項間の引用関係を解消して、請求項4の記載を引用しないものとし、訂正前の請求項4に記載の全ての発明特定事項、及び、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1に記載の全ての発明特定事項を記載するものである。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

カ 訂正事項6について
訂正事項6は、請求項6について、請求項間の引用関係を解消して、請求項4の記載を引用しないものとし、訂正前の請求項4に記載の全ての発明特定事項、及び、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1に記載の全ての発明特定事項を記載するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

キ 訂正事項7について
訂正事項7は、請求項7について、請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しないものとし、訂正前の請求項1に記載の全ての発明特定事項を記載するものであるから、特許法第120条の5ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ク 訂正事項8について
訂正事項8は、請求項8について、請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しないものとし、訂正前の請求項1に記載の全ての発明特定事項を記載するものであるから、特許法第120条の5ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

ケ 訂正事項9について
訂正事項9は、請求項9について、請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しないものとし、訂正前の請求項1に記載の全ての発明特定事項を記載するものであるから、特許法第120条の5ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

コ 訂正事項10について
訂正事項10は、請求項10について、引用する請求項を、訂正前の請求項1から、請求項1との引用関係を解消した請求項3へと変更するもの、すなわち、請求項10に係る発明において、訂正前の請求項3に係る発明特定事項を追加するものである。
したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

サ 訂正事項11について
訂正事項11は、請求項11について、請求項間の引用関係を解消して、請求項1の記載を引用しないものとし、訂正前の請求項1に記載の全ての発明特定事項を記載するものであるから、特許法第120条の5ただし書第4号に規定する、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

シ 訂正事項12について
訂正事項12は、請求項12について、引用する請求項を、訂正前の請求項1から、請求項1との引用関係を解消した請求項3へと変更するもの、すなわち、請求項12に係る発明において、訂正前の請求項3に係る発明特定事項を追加するものである。
したがって、訂正事項12は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3) まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?12〕について訂正を認める。
訂正後の請求項2、3、5?9、11に係る訂正事項2、3、5?9、11は、引用関係の解消を目的とする訂正であって、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項2、3、5?9、11について訂正が認められるときは請求項1とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項2、〔3、4、10、12〕、5、6、7、8、9、11について請求項ごとに訂正することを認める。

第3 当審の判断
1 訂正後の請求項1?13に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?13に係る発明(以下、「本件発明1?13」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
フレームシールが、第1の電極、第2の電極のそれぞれを囲んで延在し、面積A_(1)、面積A_(2)をそれぞれ画定しており、
各フレームシールは、第1の電極、第2の電極のそれぞれの縁部内に含浸される、ポリマー材料のシール材料を備える、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項2】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極は、アノード電極であり、第2の電極は、カソード電極である、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項3】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極は、電極の縁部の位置合わせに関して第2の電極と面一でない、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項4】
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲の内側に後退していることを特徴とする請求項3記載のフローバッテリ。
【請求項5】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲の内側に後退しており、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む均一な距離で後退している、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項6】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲の内側に後退しており、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む不均一な距離で後退している、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項7】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第2の電極の縁部は、第1の電極の縁部の内側に後退している、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項8】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極および第2の電極はそれぞれ、シール材料を備えるフレームシールを備えており、シール材料は、面積A_(1)、面積A_(2)それぞれを提供するように第1の電極および第2の電極のそれぞれ内に含浸され、フレームシールは、第1の電極のフレームシールの面内方向の厚みが第2の電極のフレームシールの面内方向の厚みより小さくなるように、第1の電極および第2の電極それぞれの縁部に面内方向の厚みを有する、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項9】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
少なくとも1つの電気化学セルは、第1の電極に隣接して配置された第1のバイポーラプレートと、第2の電極に隣接して配置された第2のバイポーラプレートと、を備えており、第1のバイポーラプレートは、第1の流れ場を備えており、第2のバイポーラプレートは、第1の流れ場が延在する面積より小さい面積に延在する第2の流れ場を備える、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項10】
セパレータは、イオン交換材料であることを特徴とする請求項3記載のフローバッテリ。
【請求項11】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
セパレータは、面積A_(1)と同等の面積A_(3)を有する、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項12】
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分のもう一方に水素および空気から選択される気体を備えることを特徴とする請求項3記載のフローバッテリ。
【請求項13】
第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を第1の電極のセパレータ層側の面が有するように第1の電極を画定し、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を第2の電極のセパレータ層側の面が有するように第2の電極を画定し、面積A_(1)が、面積A_(2)より大きくなるようにすることで、フローバッテリの電気化学セルの構成要素の腐食の電位を制御する、
ことを含むことを特徴とする、フローバッテリの劣化を制御する方法。」

2 平成29年2月2日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1) 取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
平成28年11月21日付け訂正請求書により訂正された請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

(2) 甲号証の記載
本件特許に係る出願の国際出願日前に頒布された甲第1号証(特開2005-228645号公報)には、「レドックスフロー電池セル、電池および電極の保持構造」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「【背景技術】
【0002】
レドックスフロー電池(又はレドックスフロー型二次電池)は、活物質として電解液のイオンの価数の変化(酸化還元反応)を利用した電池であり、活物質の劣化が少なく、電池寿命が長く、高速応答性及び高出力対応が可能であるとともに、環境汚染の虞がないという特色を有している。この電池は、イオン交換膜などの隔膜の両側に、電極(正極及び負極)と、双極板を備えたフレームとがそれぞれ配設された構造を有するセルで構成されている。また、隔膜と双極板との間に位置し、かつ正極が配設される正極室に正極液を流通させ、隔膜と双極板との間に位置し、かつ陰極が配設される陰極室に負極液を流通させている。そして、レドックスフロー電池は、複数の前記セルを積層することにより形成される。
・・・
【0006】
フレームに対する電極の保持性を高めるため、保持板又は保護板によりフレームに対して電極の端部を保持させることも考えられる。例えば、図5及び図6に示されるように、隔膜41と、この隔膜の両側に配設され、かつ内周壁に矩形状双極板42a、42bが装着されたフレーム43a、43bと、これらのフレーム内の双極板42a、42b上に配設された電極44a、44bとを備えたセルにおいて、前記フレーム43a、43bの内縁部に形成された切欠段部45a、45bに保護板46a、46bを配設し、この保護板のうちフレーム43aから内方へ延出する延出部を利用してフレーム43aからの電極44aの脱落を防止することが考えられる。しかし、このような保護板46a、46bを用いると、電極44a、44bが保護板46a,46bの延出部で遮蔽されるため、セルの内部抵抗が増大するとともに電極44a、44bの有効面積が低下し、全ての電極面を電極反応に有効に利用できなくなる。」

(1b) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。以下に記載されている部材や寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
図1は本発明のレドックスフロー電池セルの一例を示す概略分解斜視図であり、図2は図1の概略正面図である。
【0016】
レドックスフロー電池セルは、イオン交換膜で構成された矩形状隔膜1と、この隔膜1の両側にそれぞれ配設された矩形状双極板(バイポーラプレート)2a、2bと、各双極板の外周部を固定保持するフレーム3a、3bと、前記隔膜1と前記双極板2a、2bとの間にそれぞれ配設された矩形状の通液性電極4a、4bとを備えている。前記電極4a、4bは、隔膜1と一方の双極板との間の正極室に配設されたシート状正極と、前記隔膜1と他方の双極板との間の負極室に配設されたシート状負極とで構成されている。なお、前記フレーム3a、3bはポリ塩化ビニル系樹脂などの耐食性材料で形成されており、前記電極4a、4bは炭素繊維フェルトで構成されている。また、前記矩形状双極板(バイポーラプレート)2a、2bの外周部は、フレーム3a、3bの内周壁に形成された溝内に収容され、かつ狭着され、フレームと一体化している。また、フレーム3a、3bに配設された前記双極板2a、2bの領域は、電極室を形成するため、凹部として形成され、電極4a、4bが収容可能である。さらに、一方の前記フレーム3aのうち対向する内縁部には切欠段部(切欠凹部)5a、5bが形成されている。
【0017】
前記セルの構造は、フレーム3aに対してシート状電極4aを保持させるための保護板6a、6bを備えている。この例では、保護板6a、6bは、ポリ塩化ビニル系樹脂などの耐食性材料で形成された幅狭の長尺状プレートで構成されており、この保護板6a、6bの基部は、前記フレームの内縁部に形成された切欠段部5a、5bに少なくとも部分的に収容可能である。さらに、保護板6a、6bには、長手方向に所定間隔をおいて、基部から互いに内方に突出し、かつ前記電極4aを掛止して保持するための複数の突出部(又は延出部)7a、7bが形成されている。この例では、保護板6a、6bの両側部と、所定間隔をおいて長手方向の2箇所に突出部(又は延出部)7a、7bが形成されている。なお、保護板6a、6bの一方の端部には、電解液を導入又は排出するためのマニホールドと同軸に配置される孔部8a、8bが形成されている。
【0018】
さらに、前記フレーム3a、3bには、電解液を正極室又は負極室(以下、単に電極室という場合がある)に導入するためのマニホールド(導入口、図示せず)と通じる導入孔9a、9bが貫通しているとともに、電極室から流出する電極液を排出させるためのマニホールド(排出口)と通じる排出孔10a,10bが貫通している。
なお、導入孔9a、9b及び排出孔10a,10bは、それぞれ、フレーム3a、3bのうち電極4a、4bと隣接して幅方向(又は側方)に延びるスリット又は溝状整流路(図示せず)と通じている。そのため、スリット又は溝状整流路により、マニホールド(導入用マニホールド)からの電解液を、導入孔9a、9bを通じて電極4a、4bに均一に供給できると共に、電極反応に利用された電解液を、排出孔10a,10bを通じてマニホールド(排出用マニホールド)へ案内できる。
【0020】
前記構造を有する複数のセルは積層又は重ねられ、セルスタックを構成する。また、セルスタックを一対の端板間に位置させて、ボルトにより締め付け、電解液を電極室に導入するための導入口と、電極室から流出した電解液を排出させるための排出口とを有するマニホールドを備えた電解液給配部材を装着することによりレドックスフロー電池主要部を構成できる。
【0021】
図3はレドックスフロー電池主要部の外観図である。
図3において、101はレドックスフロー電池の主要部である。主要部に、正極液タンク、同循環用ポンプ、同配管、負極液タンク、同循環用ポンプ、同配管などが付加されて、レドックスフロー電池が構成される。
・・・
【0024】
なお、電極に対する突出部の面積割合が大きくなると、セルの内部抵抗が増加し、電極を電極反応に有効に利用できなくなる。・・・
【0028】
電解液としては、イオンの酸化還元反応が可能な種々の電解液、例えば、鉄-クロム系電池を構成する電解液(鉄イオンを含む電解液とクロムイオンを含む電解液との組合せ)も利用できるが、通常、バナジウムイオンを含む電解液(バナジウム硫酸水溶液)が利用される。」

(1c) 「【図1】



(1d) 「【図3】



(1e) 「【図5】



(3) 甲第1号証に記載された発明
ア-1 前記(1b)によれば、レドックスフロー電池セルは、イオン交換膜で構成された矩形状隔膜と、前記矩形状隔膜の一方側に配設された矩形状双極板2aと、前記矩形状双極板2aの外周部を固定保持するフレーム3aと、前記矩形状隔膜と前記矩形状双極板2aとの間に配設された矩形状の通液性電極4aと、前記矩形状隔膜の他方側に配設された矩形状双極板2bと、前記矩形状双極板2bの外周部を固定保持するフレーム3bと、前記矩形状隔膜と前記矩形状双極板2bとの間に配設された矩形状の通液性電極4bと、長手方向に所定間隔をおいて、基部から互いに内方に突出し、かつ前記電極4aを掛止して保持するための複数の突出部7a、7bが形成されている保護板6a、6bとを備えており、レドックスフロー電池は、レドックスフロー電池セルと、正極液タンク、正極液循環用ポンプ、正極液配管、負極液タンク、負極液循環用ポンプ、負極液配管とを備えているといえる。

ア-2 前記(1c)の【図1】には、保護板6a、6bが、電極4aと矩形状隔膜1との間に配設されることが看取できる。

ア-3 前記ア-1及びア-2から、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「レドックスフロー電池セルと、正極液タンク、正極液循環用ポンプ、正極液配管、負極液タンク、負極液循環用ポンプ、負極液配管とを備えるレドックスフロー電池であって、
前記レドックスフロー電池セルは、イオン交換膜で構成された矩形状隔膜と、前記矩形状隔膜の一方側に配設された矩形状双極板2aと、前記矩形状双極板2aの外周部を固定保持するフレーム3aと、前記矩形状隔膜と前記矩形状双極板2aとの間に配設された矩形状の通液性電極4aと、前記矩形状隔膜の他方側に配設された矩形状双極板2bと、前記矩形状双極板2bの外周部を固定保持するフレーム3bと、前記矩形状隔膜と前記矩形状双極板2bとの間に配設された矩形状の通液性電極4bと、前記電極4aと前記矩形状隔膜との間に配設され、長手方向に所定間隔をおいて、基部から互いに内方に突出し、かつ前記電極4aを掛止して保持するための複数の突出部7a、7bが形成されている保護板6a、6bとを備える、レドックスフロー電池。」(以下、「甲1-1発明」という。)

イ-1 前記(1a)の【0006】によれば、セルは、隔膜と、前記隔膜の一方側に配設され、かつ内周壁に矩形状双極板42aが装着されたフレーム43aと、前記フレーム43a内の矩形状双極板42a上に配設された電極44aと、前記隔膜の他方側に配設され、かつ内周壁に矩形状双極板42bが装着されたフレーム43bと、前記フレーム43b内の矩形状双極板42b上に配設された電極44bと、前記フレーム43aの内方に突出し、かつ、フレーム43aに対して電極44aの端部を保持させる延出部を有する保護板46a、46bとを備えているといえる。
そして、同【0002】によれば、レドックスフロー電池は、正極液及び陰極液を、セルの正極室及び陰極室にそれぞれ流通させるための構成を備えていることは明らかであるから、当該レドックスフロー電池が、前記(1b)の【0020】?【0021】に記載されているように、セルの他に、正極液タンク、正極液循環用ポンプ、正極液配管、負極液タンク、負極液循環用ポンプ、負極液配管とを備えるものであることは、自明の事項である。

イ-2 前記(1e)の【図5】には、保護板46a、46bが、電極44aと隔膜41との間に配設されることが看取できる。

イ-3 前記イ-1及びイ-2から、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「セルと、正極液タンク、正極液循環用ポンプ、正極液配管、負極液タンク、負極液循環用ポンプ、負極液配管とを備えるレドックスフロー電池であって、
前記セルは、隔膜と、前記隔膜の一方側に配設され、かつ内周壁に矩形状双極板42aが装着されたフレーム43aと、前記フレーム43a内の矩形状双極板42a上に配設された電極44aと、前記隔膜の他方側に配設され、かつ内周壁に矩形状双極板42bが装着されたフレーム43bと、前記フレーム43b内の矩形状双極板42b上に配設された電極44bと、前記電極44aと前記隔膜との間に配設され、前記フレーム43aの内方に突出する延出部を有する保護板46a、46bとを備える、レドックスフロー電池。」(以下、「甲1-2発明」という。)

(4) 対比・判断
ア 本件発明1と甲1-1発明との対比・判断
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
ア-1 甲1-1発明の「矩形状の通液性電極4a」は、本件発明1の「第1の電極」及び「第2の電極」の一方に相当し、甲1-1発明の「矩形状の通液性電極4b」は、本件発明1の「第1の電極」及び「第2の電極」の他方に相当する。また、甲1-1発明の「イオン交換膜で構成された矩形状隔膜」、「レドックスフロー電池セル」は、それぞれ、本件発明1の「セパレータ層」、「電気化学セル」に相当する。
そして、甲1-1発明において、「矩形状の通液性電極4a」は、「イオン交換膜で構成された矩形状隔膜」を介して「矩形状の通液性電極4b」と離間していることは明らかである。

ア-2 甲1-1発明の「正極液タンク」は、本件発明1の「第1の貯蔵部分」及び「第2の貯蔵部分」の一方に相当し、甲1-1発明の「負極液タンク」は、本件発明1の「第1の貯蔵部分」及び「第2の貯蔵部分」の他方に相当する。
そして、甲1-1発明において、「正極液タンク」は、「正極液循環用ポンプ、正極液配管」によって「レドックスフロー電池セル」に流体的に接続され、また、「負極液タンク」は、「負極液循環用ポンプ、負極液配管」によって「レドックスフロー電池セル」に流体的に接続されていることは明らかである。

ア-3 甲第1号証の前記(1b)の【0028】に、電解液には、通常、バナジウムイオンを含む電解液(バナジウム硫酸水溶液)が利用されると記載されていることから明らかなように、甲1-1発明の「正極液タンク」中の正極液、及び、「負極液タンク」中の負極液のいずれにも電解質が含まれていることは、技術常識であるから、甲1-1発明の「正極タンク」及び「負極タンク」には、それぞれ、電解質が配置されているといえる。
また、甲1-1発明の「正極液」は、本件発明1の「第1の液体電解質」及び「第2の液体電解質」の一方に相当し、本件発明1の「負極液」は、本件発明1の「第1の液体電解質」及び「第2の液体電解質」の他方に相当する。

ア-4 甲1-1発明の「レドックスフロー電池」は、本件発明1の「フローバッテリ」に相当する。

ア-5 本件発明1の「液体電解質に関して」「電極が触媒活性となる」ことについて、本件特許明細書の【0025】には、「図5に示す別の実施例では、フレームシール66がA_(1)、A_(2)を画定している。フレームシール66は、電極62、64のそれぞれの外側周囲を囲んで延在する。一例として、各フレームシール66は、液体電解質22、26の漏れを防止するように電極62、64の縁部62a、64a内に含浸される、ポリマー材料などのシール材料を備える。シール材料は、電極62、64の細孔内に浸透し、凝固すると、液体電解質が電極62、64のその部分内を流れるのを防止または実質的に防止する。従って、電極62、64のフレームシール66の領域は、触媒活性を有さず、従って、電気化学反応にあずかる電極62、66の有効領域の部分ではなくなる。」と記載されていることから、上記「液体電解質に関して」「電極が触媒活性となる」こととは、触媒として機能する電極の存在の下に液体電解質が電気化学反応することであるといえる。
一方、甲1-1発明においては、電極4aは、保護板6a、6bに形成されている複数の突出部7a、7bによって掛止して保持されているところ、甲第1号証の前記(1a)の【0006】には、「このような保護板46a、46bを用いると、電極44a、44bが保護板46a,46bの延出部で遮蔽されるため、セルの内部抵抗が増大するとともに電極44a、44bの有効面積が低下し、全ての電極面を電極反応に有効に利用できなくなる。」と記載されており、また、同【0024】には、「電極に対する突出部の面積割合が大きくなると、セルの内部抵抗が増加し、電極を電極反応に有効に利用できなくなる。」と記載されていることからすると、甲1-1発明において、電極4aのうち、保護板6a、6bに形成されている複数の突出部7a、7bで遮蔽されている箇所は、電池反応に有効に利用できなくなっており、一方、上記複数の突出部7a、7bで遮蔽されていない箇所は、電池反応に有効に利用できるものであるといえる。
そして、電極4aのうち、電池反応に有効に利用できる箇所においては、正極液又は負極液(以下、「液体電解質」という。)の電気化学反応が起こっていることは自明の事項であるから、上記複数の突出部7a、7bで遮蔽されていない箇所は、液体電解質に関して触媒活性となっているといえる。
また、甲1-1発明において、電極4bと矩形状隔膜との間には何も配設されていないから、電極4bは、液体電解質に関して全面が触媒活性となっているといえる。
そうすると、甲1-1発明において、電極4bの矩形状隔膜側の面は、液体電解質に関して電極4bが触媒活性となる面積(以下、「面積B_(1)」という。)を有し、電極4aの矩形状隔膜側の面は、液体電解質に関して電極4aが触媒活性となる面積(以下、「面積B_(2)」という。)を有しており、面積B_(2)は、上記複数の突出部7a、7bで遮蔽されている箇所の面積分だけ、面積B_(1)より小さくなっているといえるから、面積B_(1)は、面積B_(2)より大きいと認められる。
以上から、甲1-1発明の「面積B_(1)」、「面積B_(2)」は、それぞれ、本件発明1の「面積A_(1)」、「面積A_(2)」に相当する。

ア-6 以上から、本件発明1と甲1-1発明とは、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きいフローバッテリ。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、「フレームシールが、第1の電極、第2の電極のそれぞれを囲んで延在し、面積A_(1)、面積A_(2)をそれぞれ画定しており、
各フレームシールは、第1の電極、第2の電極のそれぞれの縁部内に含浸される、ポリマー材料のシール材料を備える」のに対し、甲1-1発明は、そのようなフレームシールを有していない点。

そして、甲第1号証には、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項については、記載も示唆もされていないし、当該発明特定事項が、本件特許に係る出願時において、周知技術であるともいえない。
したがって、相違点1は、実質的な相違点である。

ア-7 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1-1発明であるとはいえない。

イ 本件発明1と甲1-2発明との対比・判断
本件発明1と甲1-2発明とを対比する。
イ-1 甲1-2発明の「電極44a」は、本件発明1の「第1の電極」及び「第2の電極」の一方に相当し、甲1-2発明の「電極44b」は、本件発明1の「第1の電極」及び「第2の電極」の他方に相当する。また、甲1-2発明の「隔膜」、「セル」は、それぞれ、本件発明1の「セパレータ層」、「電気化学セル」に相当する。
そして、甲1-2発明において、「電極44a」は、「隔膜」を介して「電極44b」と離間していることは明らかである。

イ-2 甲1-2発明の「正極液タンク」は、本件発明1の「第1の貯蔵部分」及び「第2の貯蔵部分」の一方に相当し、甲1-2発明の「負極液タンク」は、本件発明1の「第1の貯蔵部分」及び「第2の貯蔵部分」の他方に相当する。
そして、甲1-2発明において、「正極液タンク」は、「正極液循環用ポンプ、正極液配管」によって「セル」に流体的に接続され、また、「負極液タンク」は、「負極液循環用ポンプ、負極液配管」によって「セル」に流体的に接続されていることは明らかである。

イ-3 前記アのア-3で検討したのと同様に、甲1-2発明の「正極液タンク」中の正極液、及び、「負極液タンク」中の負極液には、いずれも電解質が含まれていることは、技術常識であるから、甲1-2発明の「正極タンク」及び「負極タンク」には、それぞれ、電解質が配置されているといえる。
また、甲1-2発明の「正極液」は、本件発明1の「第1の液体電解質」及び「第2の液体電解質」の一方に相当し、本件発明1の「負極液」は、本件発明1の「第1の液体電解質」及び「第2の液体電解質」の他方に相当する。

イ-4 甲1-2発明の「レドックスフロー電池」は、本件発明1の「フローバッテリ」に相当する。

イ-5 前記アのア-5で検討したように、本件発明1の「液体電解質に関して」「電極が触媒活性となる」こととは、触媒として機能する電極の存在の下に液体電解質が電気化学反応することであるといえる。
一方、甲1-2発明においては、電極44aの端部は、保護板46a、46bの延出部によって保持されているところ、甲第1号証の前記(1a)の【0006】には、「このような保護板46a、46bを用いると、電極44a、44bが保護板46a,46bの延出部で遮蔽されるため、セルの内部抵抗が増大するとともに電極44a、44bの有効面積が低下し、全ての電極面を電極反応に有効に利用できなくなる。」と記載されていることからすると、甲1-2発明において、電極44aのうち、保護板46a、46bの延出部で遮蔽されている箇所は、電池反応に有効に利用できなくなっており、一方、上記延出部で遮蔽されていない箇所は、電池反応に有効に利用できるものであるといえる。
そして、電極44aのうち、電池反応に有効に利用できる箇所においては、液体電解質の電気化学反応が起こっていることは自明の事項であるから、上記延出部で遮蔽されていない箇所は、液体電解質に関して触媒活性となっているといえる。
また、甲1-2発明において、電極44bと隔膜との間には何も配設されていないから、電極44bは、液体電解質に関して全面が触媒活性となっているといえる。
そうすると、甲1-2発明において、電極44bの隔膜側の面は、液体電解質に関して電極44bが触媒活性となる面積(以下、「面積C_(1)」という。)を有し、電極44aの矩形状隔膜側の面は、液体電解質に関して電極44aが触媒活性となる面積(以下、「面積C_(2)」という。)を有しており、面積C_(2)は、上記複数の延出部で遮蔽されている箇所の面積分だけ、面積C_(1)より小さくなっているといえるから、面積C_(1)は、面積C_(2)より大きいと認められる。
以上から、甲1-2発明の「面積C_(1)」、「面積C_(2)」は、それぞれ、本件発明1の「面積A_(1)」、「面積A_(2)」に相当する。

イ-6 以上から、本件発明1と甲1-2発明とは、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きいフローバッテリ。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2:本件発明1は、「フレームシールが、第1の電極、第2の電極のそれぞれを囲んで延在し、面積A_(1)、面積A_(2)をそれぞれ画定しており、
各フレームシールは、第1の電極、第2の電極のそれぞれの縁部内に含浸される、ポリマー材料のシール材料を備える」のに対し、甲1-2発明は、そのようなフレームシールを有していない点。

そして、相違点2は、前記相違点1と同じ内容であるから、前記アのア-6で検討したのと同様に、相違点2も、実質的な相違点である。

イ-7 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1-2発明であるとはいえない。

ウ まとめ
以上から、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

3 平成28年8月19日付けで取消理由(以下、単に「取消理由」ともいう。)を通知したが解消された理由
(1) 特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明4、10、12について
本件発明4、10、12は、本件訂正請求による訂正によって、取消理由を通知していない、請求項3の発明特定事項を備えるものとなった。
そして、甲第1号証には、当該請求項3に記載の発明特定事項である「第1の電極は、電極の縁部の位置合わせに関して第2の電極と面一でないこと」は記載も示唆もされていないから、本件発明4、10、12は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明13について
前記2(4)ア及びイにおける検討によれば、甲第1号証には、面積B_(1)が面積B_(2)より大きいこと、及び、面積C_(1)が面積C_(2)より大きいことが記載されているといえるものの、面積B_(1)を面積B_(2)より大きくなるようにすることで、レドックスフロー電池のレドックスフロー電池セルの構成要素の腐食の電位を制御すること、及び、面積C_(1)を面積C_(2)より大きくなるようにすることで、レドックスフロー電池のセルの構成要素の腐食の電位を制御することは、記載も示唆もされてないから、本件発明13は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(2) 特許法第29条第2項について
ア 本件発明2について
前記2(4)ア及びイで検討したように、本件発明1と、甲1-1発明及び甲1-2発明との一致点は、「第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きいフローバッテリ。」(以下、「一致点に係る事項」という。)であるところ、本件発明2は、上記一致に係る事項を全て有するものであるから、本件発明2と、甲1-1発明及び甲1-2発明とを対比すると、本件発明2は、「第1の電極は、アノード電極であり、第2の電極は、カソード電極である」のに対し、甲1-1発明及び甲1-2発明は、その特定がなされていない点で相違し(以下、「相違点3」という。)、その余の点で一致する。
そこで、上記相違点3について検討するに、甲第1号証の【0002】に「陰極」、「陽極」と記載されているように、甲1-1発明及び甲1-2発明において、一方の電極はアノードとして、他方の電極はカソードとして機能するのは明らかであるところ、甲1-1発明において、「電極4a」をアノード電極とし、「電極4b」をカソード電極とすること、及び、甲1-2発明において、「電極44a」をアノード電極とし、「電極44b」をカソード電極とすることは、いずれも適宜設定し得ることであるといえる。
しかしながら、本件発明2は、アノード液が局所的に枯渇した場合でも、第2の電極であるカソード電極の腐食劣化の電位を制御することができる(本件特許明細書【0018】参照。)という、甲第1号証に記載も示唆もされておらず、当業者が予測可能とはいえない異質な効果を奏するものであるから、甲1-1発明及び甲1-2発明において、相違点3に係る本件発明2に記載の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得るものとはいえない。

4 平成28年8月19日付け取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1) 特許法第36条第6項第1号について
ア 特許異議申立人は、特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書14頁3行?17頁14行において、
1)フローバッテリにおいては、第1の電極に印加されている電圧が上昇すれば、第2の電極に印加されている電極が減少することにより、第1の電極に印加されている電圧と第2の電極に印加されている電圧との合計は一定に保たれること(以下、「技術事項1」という。)、及び、
2)第1の電極に印加される電圧は、フローバッテリに流れる電流と第1の電極の抵抗値により表され、第1の電極の抵抗値は、第1の電極の実質的な電極面積が減少することにより増加するものであって、第1の電極の周囲において、局所的にアノード液が枯渇した場合、第1の電極の周囲の一部が反応に寄与しなくなり、第1の電極の実質的な電極面積が減少するから、第1の電極に印加される電圧が減少すること(以下、「技術事項2」という。)
が、いずれも技術常識であることを前提として、第1の電極において、アノード液の局所的枯渇が生じたときの第2の電極に印加される電圧は、従来例の構成(第1の電極の面積A_(1)と第2の電極の面積A_(2)が等しい)よりも、本件発明の構成(第1の電極面積A_(1)が第2の電極面積A_(2)よりも大きい)の方が高くなるとし、一般に、電極の腐食劣化は、電極に印加される電圧が低い方が生じにくいため、従来技術の構成よりも、本件発明の構成の方が、第2の電極において、アノード液の局所的な枯渇に伴う腐食劣化が生じやすいので、本件発明の構成により、発明の詳細な説明に記載された本件発明の課題であるアノード液の局所的な枯渇による第2電極の腐食劣化の抑制は解決されないから、当業者は、本件発明1?13が、発明の詳細な説明に記載された課題を解決し得るものであるとは認識できない旨主張している。
しかし、上記技術事項1及び技術事項2が、いずれも技術常識であることを示す証拠は何ら示されておらず、また、当該技術事項1及び技術事項2が、いずれも技術常識であるとする合理的な理由も見当たらない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 特許異議申立人は、特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書17頁15行?19頁12行において、本件特許明細書に記載された、溝状の流路54が設けられた第1のバイポーラプレート50、溝状の流路54が設けられた第2のバイポーラプレート52に相当する構成を発明特定事項として含んでいない場合、アノード液の局所的枯渇に伴う第2の電極の腐食劣化という課題が生じることが理解できないから、当業者は、本件発明1?13が、上記課題を解決し得るものであるとは認識できず、本件発明1?13は、発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えている旨主張している。
しかし、液体電解質が流路を流れて電極に通ずることは技術常識であるところ、電極の端部に近い流路ほど、液体電解質の局所的枯渇が生じやすいことは自明の事項であるから、液体電解質が流れる流路が溝状でなくても、アノード液が局所的枯渇に伴う第2の電極の腐食劣化という課題が生じ得ることは、当業者であれば、十分に理解できるものといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 特許異議申立人は、特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書19頁13行?20頁17行、21頁11行?22頁3行において、本件発明1、2は、面積A_(2)の周囲が面積A_(1)の周囲の内側に後退していない場合(以下の参考図A参照。)を含んでおり、また、本件発明3は、第2の電極の一部が第1の電極の外側に位置することにより、第1の電極は、電極の縁部の位置合わせに関して、第2の電極と面一でない場合(以下の参考図A参照。)を含んでいるが、これらの場合について、本件特許明細書には記載がなく、また、これらの場合において、上記課題を解決し得ることを当業者が理解できるような技術常識は、本件発明の出願時には存しないから、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1?3の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明1?3は、サポート要件に違反している旨主張している。
(参考図1)

しかし、フローバッテリにおいては、第1の電極と第2の電極との互いに対向する面をずらして配置すると、ずれた箇所がブローバッテリーとして有効に機能しなくなるため、両電極の互いに対向する面がずれないように配置するのが、通常取り得る態様であって、第1の電極と第2の電極とを参考図1のように配置することは、通常取り得る態様であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

エ 特許異議申立人は、特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書20頁18行?21頁10行、22頁4?11行、23頁12?19行において、本件特許明細書【0020】の記載を、「第2の電極の面積A_(2)を第1の電極の面積A_(1)よりも小さくすることにより、第2の電極における電解質の反応速度を第1の電極の反応速度よりも遅くし、その結果、アノード液の局所的枯渇が制限又は防止される。」と解釈し、この解釈を前提として、電極の面積は、電極と電解液との反応速度を決める1つのファクターにすぎない(例えば、面積A_(1)の>面積A_(2)のとの関係を満たしていたとしても、第1の電極の体積<第2の電極の体積、第1の電極の密度<第2の電極の密度となっている場合には、第1の電極と電解液との反応面積<第2の電極と電解液との反応面積となり得る場合がある)のであるから、「面積A_(1)は、面積A_(2)より大きい」との発明特定事項のみでは、課題解決のために必要な解決手段が不十分であるから、本件発明1?4は、サポート要件に違反している旨主張している。
しかし、異議申立人は、本件特許明細書【0020】の記載を、上記のように解釈し得る具体的な理由を何ら説明していないし、また、同【0020】の記載を上記のように解釈し得る合理的な理由があるともいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

オ 特許異議申立人は、特許請求の範囲の記載に関し、特許異議申立書22頁12行?23頁11行において、本件発明4は、面積A_(2)の周囲の一部のみ(例えば、面積A_(2)の周囲を構成する一部の辺のみ)が面積A_(1)の周囲の内側に後退している場合(以下の参考図B参照。)を含んでいるが、このような場合について、本件特許明細書には記載がなく、そして、このような場合について、前記課題を解決し得るものであることを、当業者が理解し得るような技術常識は、本件発明の出願時には存しないから、出願時の技術常識に照らしても、本件発明4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明4は、サポート要件に違反している旨主張している。
(参考図B)

しかし、本件発明4は、本件訂正請求による訂正によって、請求項3を引用し、当該請求項3に記載の「第1の電極は、電極の縁部の位置合わせに関して第2の電極と面一でない」との発明特定事項を有するものとなったから、本件発明4は、上記参考図Bの場合を含まないこととなった。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(2) 特許法第29条第1項第3号について
ア 本件発明5について
特許異議申立人は、特許異議申立書の31頁7?17行において、甲1-2発明は、「保護板46a」の「延出部」が「内方に突出」しており、かつ甲1-2発明の「保護板46a」は矩形形状を有しているから、「電極44a」の「隔膜41」側の領域の周囲と、「電極44b」の「隔壁41」側の領域の周囲との間隔は、一定となるように内側に後退しているため、甲1-2発明は、本件発明5の「面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む均一な距離で後退している」との構成を具備している旨主張している。
しかし、甲1-2発明は、面積C_(2)の周囲の一部のみが、面積C_(1)の周囲の内側に後退しており、面積C_(2)の周囲は、面積C_(1)の周囲を囲んでいるとはいえないから、甲1-2発明は、本件発明5の「面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む均一な距離で後退している」との構成を具備しているとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件発明6について
特許異議申立人は、特許異議申立書の31頁18行?最下行において、甲1-1発明は、「保護板6a」の「突出部7a」が「内方に所定間隔を置いて突出」しているのであるから、「電極4a」の「隔膜1」側の領域の「電極4b」の「隔膜1」側の領域に対する後退の幅は、間隔を置いて変化しているため、甲1-1発明は、本件発明6の「面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む不均一な距離で後退している」との構成を具備している旨主張している。
しかし、甲1-1発明は、面積B_(2)の周囲の一部のみが、面積B_(1)の周囲の内側に後退しており、面積B_(2)の周囲は、面積B_(1)の周囲を囲んでいるとはいえないから、甲1-1発明は、本件発明6の「面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む不均一な距離で後退している」との構成を具備しているとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(3) 特許法第29条第2項について
ア 本件発明3について
(ア) 特許異議申立人は、特許異議申立書の37頁8行?38頁15行において、請求項3に記載の発明特定事項を甲1-1発明との相違点(以下、「相違点A」という。」)とし、甲第1号証の【0007】及び【0014】に記載のとおり、甲1-1発明は、電極の脱落を防止しつつ、電極の有効面積が減少するのを抑制することを解決課題とするものであり、甲1-1発明において、「電極4a」が「突出部7a」の下側(「双極板2a」の側)に配置されている部分において、端部の位置合わせに関して「電極4b」と面一となっていなくても、電極の脱落防止及び電極の有効面積の減少抑制に影響を与えないから、相違点Aに係る構成は、単なる設計的事項であり、当業者は甲1-1発明に基づいて容易に想到することができたものである旨主張している。
しかし、甲第1号証には、電極4aを、電極の縁部の位置合わせに関して電極4bと面一にしないことは何ら記載も示唆もされていないし、仮に、甲第1号証において、電極4aを、電極の縁部の位置合わせに関して電極4bと面一にしないようにすると、電極4aと電極4bとは、互いに対向する面が重なっていない箇所が生じて、電極の有効面積が減少してしまい、このことは、甲1-1発明の上記解決課題に反することになるから、甲1-1発明において、電極4aを、電極の縁部の位置合わせに関して電極4bと面一にしないようにすることは、単なる設計的事項であるとはいえない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ) 特許異議申立人は、特許異議申立書の38頁16行?39頁21行において、請求項3に記載の発明特定事項を甲1-2発明との相違点(以下、「相違点B」という。)とし、甲第1号証の【0006】に記載のとおり、甲1-2発明は、電極の脱落を規制することを解決課題とするものであり、甲1-2発明において、「電極44a」が「延出部」の下側(「双極板42a」の側)に配置されている部分において、端部の位置合わせに関して「電極44b」と面一となっていなくても、電極の脱落防止に影響を与えないから、相違点Bに係る構成は、単なる設計的事項であり、当業者は甲1-2発明に基づいて容易に想到することができたものである旨主張している。
しかし、前記(1)ウで検討したように、フローバッテリにおいては、第1の電極と第2の電極との互いに対向する面がずれないように配置するのが通常取り得る態様であるところ、甲1-2発明において、電極4aの縁部の位置合わせに関して電極4bと面一にしないようにすることは、上記の通常取り得る態様ではないから、相違点Bに係る構成は単なる設計的事項であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件発明7について
(ア) 特許異議申立人は、特許異議申立書の39頁22行?41頁2行において、請求項7に記載の発明特定事項を甲1-1発明との相違点(以下、「相違点C」という。)とし、甲1-1発明は、甲第1号証の【0007】及び【0014】に記載のとおり、電極の脱落を規制しつつ、レドックスフロー電池セルにおいて、電極の有効面積が減少するのを抑制することを解決課題とするものであって、甲1-1発明において、「電極4a」の縁部であって「突出部7a」の下側(「双極板2a」の側)に配置されている部分が、「電極4a」の縁部の内部に後退していたとしても、電極の脱落防止及び電極の有効面積の減少抑制に影響を与えないから、相違点Cに係る構成は、単なる設計的事項であり、当業者は甲1-2発明に基づいて容易に想到することができたものである旨主張している。
しかし、甲第1号証には、電極4aの縁部を、電極4bの縁部の内側に後退させることは何ら記載も示唆もされていないし、仮に、甲第1号証において、電極4aの縁部を、電極4bの縁部の内側に後退させると、電極4aと電極4bとは、互いに対向する面が重なっていない箇所が生じて、電極の有効面積が減少してしまい、このことは、甲1-1発明の上記解決課題に反することになるから、甲1-1発明において、電極4aの縁部を、電極4bの縁部の内側に後退させることは、単なる設計的事項であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

(イ) 特許異議申立人は、特許異議申立書の41頁3行?42頁9行において、請求項7に記載の発明特定事項を甲1-2発明との相違点(以下、「相違点D」という。)とし、甲1-2発明は、甲第1号証の【0006】に記載のとおり、電極の脱落を規制することを解決課題とするものであり、甲1-2発明において、「電極4a」の縁部であって「突出部7a」の下側(「双極板2a」の側)に配置されている部分が、「電極4a」の縁部の内部に後退していたとしても、電極の脱落防止に影響を与えないから、相違点Dに係る構成は、単なる設計的事項であり、当業者は甲1-2発明に基づいて容易に想到することができたものである旨主張している。
しかし、前記(1)ウで検討したように、フローバッテリにおいては、第1の電極と第2の電極との互いに対向する面がずれないように配置するのが通常取り得る態様であるところ、甲1-2発明において、電極4aの縁部を、電極4bの縁部の内側に後退させることは、上記の通常取り得る態様ではないから、相違点Dに係る構成は単なる設計的事項であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ 本件発明8について
特許異議申立人は、特許異議申立書の42頁10行?44頁21行において、請求項8に記載の発明特定事項を、甲1-1発明又は甲1-2発明との相違点(以下、「相違点E」という。)とし、相違点Eに係る本件発明8の構成は、電解液が流れる領域を規制するための周知の技術的手段にすぎないから、相違点Eに係る構成は単なる設計的事項であり、当業者は甲1-1発明又は甲1-2に基づいて容易に想到することができたものである旨主張している。
しかし、相違点Eに係る本件発明8の構成が、電解液が流れる領域を規制するための周知の技術手段であることを立証する証拠は提出されていないから、相違点Eに係る本件発明8の構成が、電解液が流れる領域を規制するための周知の技術手段であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

エ 本件発明9について
特許異議申立人は、特許異議申立書の44頁22行?46頁11行において、本件発明9においては、「第2の流れ場」は「第1の流れ場が延在する面積より小さい面積に延在」しているのに対し、甲1-1発明は、「双極板2a」に形成された「溝状整流路」の延在する面積が、「双極板2b」に形成された「溝状整流路」の延在する面積よりも小さいか否か明らかではない点を相違点(以下、「相違点F」という。)とし、上記のとおり「電極4a」の有効面積は「電極4b」の有効面積よりも小さくなっており、「電極4a」の有効面積以外の部分(すなわち電池反応に寄与しない「電極4a」の部分)に電解液を供給することに何らの意味はなく、「双極板2a」上において、「電極4a」の有効面積以外の部分の下に「溝状整流路」を設ける理由はないから、相違点Fに係る構成は、単なる設計的事項であり、当業者は甲1-1発明に基づいて容易に想到することができたものである旨主張している。
確かに、甲1-1発明においては、「電極4a」の有効面積(面積B_(2))は、「電極4b」の有効面積(面積B_(1))よりも小さくなっており、「電極4a」の有効面積以外の部分に電解液を供給することに格別意味があるとはいえない。
しかし、甲1-1発明は、「電極4a」の有効面積以外の部分に電解液を供給していても、「保護板」の「電極4aを掛止して保持するための複数の突出部7a、7b」によって、「電極4a」の有効面積は「電極4b」の有効面積よりも小さくなっているのであるから、わざわざ、「双極板2a」の、「電極4a」の有効面積以外の部分に「溝状整流路」を設けないようにすることは、何らかの動機付けが必要であるといえるから、相違点Fに係る構成は、単なる設計的事項であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

オ 本件発明11について
特許異議申立人は、特許異議申立書の46頁12行?48頁12行において、本件発明11は、「セパレータは、面積A_(1)と同等の面積A_(3)を有する」のに対し、甲1-1発明又は甲1-2発明においては、「隔膜」の面積が「電極4b」の面積よりも大きい点を相違点(以下、「相違点G」という。)とし、相違点Gに係る本件発明11の構成は、特段の技術的意義がないから、相違点Gに係る構成は、単なる設計的事項であり、当業者は甲1-1発明又は甲1-2発明に基づいて容易に想到することができたものである旨主張している。
しかし、甲1-1発明において、「隔膜」が、「電極4a」と「電極4b」とが接触するのを防止する機能を有していることは自明の事項であるところ、仮に、甲1-1発明において、「電極4b」の面積と、「隔膜」の面積とを同等にすると、「電極4b」の面積よりも「隔膜」の面積が大きい場合と比べて、「電極4a」の端部と「電極4b」の端部とが接触してしまう可能性が大きくなるから、甲1-1発明において、わざわざ、「電極4a」の端部と「電極4b」の端部とが接触してしまう可能性が大きくなる構成を採用することには、何らかの動機付けが必要であるといえ、また、甲1-2発明においても、同様に、「電極44b」の面積と、「隔膜」の面積とを同等にすると、「電極4b」の面積よりも「隔膜」の面積が大きい場合と比べて、「電極44a」と「電極44b」とが接触してしまう可能性が高くなるから、甲1-2発明おいて、わざわざ、「電極44a」と「電極44b」とが接触してしまう可能性が高くなる構成を採用することには、何らかの動機付けが必要であるといえるから、相違点Gに係る構成は、単なる設計的事項であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

第4 むすび
以上のとおり、請求項1?13に係る発明については、平成28年8月19日付け取消理由通知に記載した取消理由、平成29年2月2日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1?13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
フレームシールが、第1の電極、第2の電極それぞれを囲んで延在し、面積A_(1)、面積A_(2)をそれぞれ画定しており、
各フレームシールは、第1の電極、第2の電極のそれぞれの縁部内に含浸される、ポリマー材料のシール材料を備える、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項2】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極は、アノード電極であり、第2の電極は、カソード電極である、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項3】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極は、電極の縁部の位置合わせに関して第2の電極と面一でない、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項4】
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲の内側に後退していることを特徴とする請求項3記載のフローバッテリ。
【請求項5】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯像部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲の内側に後退しており、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む均一な距離で後退している、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項6】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲の内側に後退しており、
面積A_(2)の周囲は、面積A_(1)の周囲を囲む不均一な距離で後退している、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項7】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第2の電極の縁部は、第1の電極の縁部の内側に後退している、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項8】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
第1の電極および第2の電極はそれぞれ、シール材料を備えるフレームシールを備えており、シール材料は、面積A_(1)、面積A_(2)それぞれを提供するように第1の電極および第2の電極のそれぞれ内に含浸され、フレームシールは、第1の電極のフレームシールの面内方向の厚みが第2の電極のフレームシールの面内方向の厚みより小さくなるように、第1の電極および第2の電極それぞれの縁部に面内方向の厚みを有する、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項9】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
少なくとも1つの電気化学セルは、第1の電極に隣接して配置された第1のバイポーラプレートと、第2の電極に隣接して配置された第2のバイポーラプレートと、を備えており、第1のバイポーラプレートは、第1の流れ場を備えており、第2のバイポーラプレートは、第1の流れ場が延在する面積より小さい面積に延在する第2の流れ場を備える、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項10】
セパレータは、イオン交換材料であることを特徴とする請求項3記載のフローバッテリ。
【請求項11】
第1の電極と、第1の電極から離間した第2の電極と、第1の電極と第2の電極との間でこれらに接触して配置されたセパレータ層と、を有する少なくとも1つの電気化学セルと、
第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分であって、それぞれが少なくとも1つの電気化学セルと流体的に接続された第1の貯蔵部分および第2の貯蔵部分と、
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分の一方に配置される少なくとも1つの電解質と、
を備えるフローバッテリであって、
第1の電極のセパレータ層側の面は、第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を有し、第2の電極のセパレータ層側の面は、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を有し、面積A_(1)は、面積A_(2)より大きく、
セパレータは、面積A_(1)と同等の面積A_(3)を有する、ことを特徴とするフローバッテリ。
【請求項12】
第1の貯蔵部分または第2の貯蔵部分のもう一方に水素および空気から選択される気体を備えることを特徴とする請求項3記載のフローバッテリ。
【請求項13】
第1の液体電解質に関して第1の電極が触媒活性となる面積A_(1)を第1の電極のセパレータ層側の面が有するように第1の電極を画定し、第2の液体電解質に関して第2の電極が触媒活性となる面積A_(2)を第2の電極のセパレータ層側の面が有するように第2の電極を画定し、面積A_(1)が、面積A_(2)より大きくなるようにすることで、フローバッテリの電気化学セルの構成要素の腐食の電位を制御する、
ことを含むことを特徴とする、フローバッテリの劣化を制御する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-28 
出願番号 特願2014-548749(P2014-548749)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 守安 太郎  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 池渕 立
河本 充雄
登録日 2015-11-13 
登録番号 特許第5837704号(P5837704)
権利者 ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション
発明の名称 向上した耐久性を有するフローバッテリ  
代理人 富岡 潔  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  
代理人 小林 博通  

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