• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1332256
異議申立番号 異議2016-700209  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-09 
確定日 2017-08-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5820512号発明「構造制御されたブロック共重合ポリマー、粘着剤及び粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5820512号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第5820512号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5820512号の請求項1?5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成26年7月18日にされた特許出願であって、平成27年10月9日にその特許権の設定登録がされ、平成28年3月9日付け(受理日:同月10日)で特許異議申立人平川弘子により特許異議の申立てがされ、また、同年5月19日付け(受理日:同月20日)で特許異議申立人岡本啓三により特許異議の申立てがされ、当審において同年8月8日付けの取消理由が通知され、同年10月14日付け(受理日:同月17日)で意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年11月1日付けで両特許異議申立人に対して訂正の請求があった旨の通知がされたところ、同年12月7日付け(受理日:同月8日)で特許異議申立人岡本啓三により意見書が提出され、特許異議申立人平川弘子からは応答がなく、さらに当審において平成29年1月17日付けで取消理由が通知され、同年3月10日付け(受理日:同月同日)で意見書が提出された。そして、当審において同年3月30日付けの取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月24日付け(受理日:同月同日)で意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされ、同年同月31日付けで両特許異議申立人に対して本件訂正の請求があった旨の通知がされたが、両特許異議申立人からの応答はなかったものである。
なお、平成28年10月14日付け(受理日:同月17日)の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項(以下、法令名省略)の規定により、取り下げられたものと見なす。


第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「前記セグメントA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントD中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)が100?80:0?20であり」の要件に対し、「(但し、100:0を除く)」の発明特定事項を追加する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.19モル%であり」との発明特定事項を追加する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量が40万以上である」との発明特定事項を追加する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.36モル%であり」との発明特定事項を追加する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「前記構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量が40万以上である」との発明特定事項を追加する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとに訂正の請求を行っているか否か

(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「セグメントA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントD中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)が100?80:0?20」から「100:0」を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項1は、明細書に記載されていた数値範囲から特定の数値範囲のものを除くのであるから、新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項1の構造制御されたブロック共重合ポリマーを「前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.19モル%であ」るものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、訂正前の明細書の段落【0015】、【0059】等の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項1の構造制御されたブロック共重合ポリマーを「前記構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量が40万以上である」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、訂正前の明細書の段落【0017】等の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(4)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項2の構造制御されたブロック共重合ポリマーを「前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.36モル%であ」るものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、訂正前の明細書の段落【0015】、【0058】等の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(5)訂正事項5
訂正事項5は、訂正前の請求項2の構造制御されたブロック共重合ポリマーを「前記構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量が40万以上である」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項5は、訂正前の明細書の段落【0017】等の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(6)一群の請求項ごとに訂正の請求を行っているか否か
訂正事項1?5は、特許請求の範囲についての訂正であるが、訂正前の請求項3?5は、訂正前の請求項1又は2を引用するものであり、訂正前の請求項1?5は一群の請求項であるから、これらの訂正は一群の請求項ごとにされている。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項の規定並びに第9項において準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正の請求による訂正後の請求項1?5について訂正することを認める。


第3 請求項に係る発明
本件訂正の請求により訂正された請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された以下の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
リビングラジカル重合により得られた構造制御されたブロック共重合ポリマーであって、
開始剤に由来する末端から100ユニット以下のセグメントAと、前記セグメントA以外のセグメントDとからなり、
前記セグメントA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントD中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)が100?80:0?20であり(但し、100:0を除く)、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.19モル%であり、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量が40万以上である
ことを特徴とする構造制御されたブロック共重合ポリマー。
【請求項2】
リビングラジカル重合により得られた構造制御されたブロック共重合ポリマーであって、
開始剤に由来する末端から100ユニット以下のセグメントAと、停止反応に由来する末端から100ユニット以下のセグメントCと、前記セグメントA及びセグメントC以外のセグメントBとからなり、
前記セグメントA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントB中の水酸基を有すモノマーに由来するユニットとの比(モル比)が100?80:0?20であり、かつ、
前記セグメントC中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントB中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットとの比(モル比)が100?80:0?20であり、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.36モル%であり、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量が40万以上である
ことを特徴とする構造制御されたブロック共重合ポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の共重合ポリマーと架橋剤とを含有することを特徴とする粘着剤。
【請求項4】
請求項3記載の粘着剤を含有する粘着剤層を有することを特徴とする粘着テープ。
【請求項5】
粘着剤層のゲル分率が50重量%以下であることを特徴とする請求項4記載の粘着テープ。」


第4 平成29年3月30日付けの取消理由(決定の予告)の概要
本件特許発明1、3?5は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項2に係る特許には取り消すべき理由を発見しない。


第5 平成29年3月30日付けの取消理由(決定の予告)についての判断
1 刊行物
特開2000-290625号公報(平成28年12月7日付け(受理日:同月8日)の特許異議申立人岡本啓三による意見書に添付された参考資料3、以下「引用文献」という。)

2 引用文献に記載された事項
(1)「【0011】本発明者らは、このようなリビングラジカル重合法に着目し、活性化剤としてとくに遷移金属とその配位子を使用し、これらの存在下、重合開始剤を用いて、アクリル系単量体と分子内にエポキシ基を有する単量体および/または分子内に水酸基を有する単量体を含む単量体混合物を、リビングラジカル重合させると、上記単量体混合物の共重合体からなる、分子内にエポキシ基および/または水酸基を有するアクリル系共重合体を容易に生成できることを見い出した。
【0012】遷移金属としては、Cu、Ru、Fe、Rh、VまたはNiがあり、通常、これら金属のハロゲン化物(塩化物、臭化物など)の中から、用いられる。また、配位子は、遷移金属を中心にして配位して錯体を形成するものであつて、ビピリジン誘導体、メルカプタン誘導体、トリフルオレ?ト誘導体などが好ましく用いられる。遷移金属とその配位子の組み合わせの中でも、Cu^(+1)-ビピリジン錯体が、重合の安定性や重合速度の面で、最も好ましい。
【0013】重合開始剤としては、α-位にハロゲンを含有するエステル系またはスチレン系誘導体が好ましく、とくに2-ブロモ(またはクロロ)プロピオン酸誘導体、塩化(または臭化)1-フエニル誘導体が好ましく用いられる。具体的には、2-ブロモ(またはクロロ)プロピオン酸メチル、2-ブロモ(またはクロロ)プロピオン酸エチル、2-ブロモ(またはクロロ)-2-メチルプロピオン酸メチル、2-ブロモ(またはクロロ)-2-メチルプロピオン酸エチル、塩化(または臭化)1-フエニルエチル、エチレンビス(2-ブロモ-2-メチルプロピオネ?ト)などを挙げることができる。」(段落【0011】?【0013】)

(2)「【0018】単量体混合物において、主成分であるアクリル系単量体の使用量は、単量体混合物中、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上であり、また分子内にエポキシ基を有する単量体の使用量は、30重量%以下、好ましくは10重量%以下であり、さらに分子内に水酸基を有する単量体の使用量は、10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。また、前記の改質用単量体の使用量は、30重量%以下、好ましくは20重量%以下であるのがよい。このような割合で使用することにより、架橋後の粘着特性に好結果が得られる。」(段落【0018】)

(3)「【0033】本発明において、上記(イ)?(ハ)のアクリル系共重合体は、GPC(ゲルパ?ミエ?シヨンクロマトグラフイ?)によりポリスチレン換算にて求められる数平均分子量が、5,000?500,000の範囲、好ましくは10,000?200,000の範囲にあり、無溶剤または少量の溶剤量で塗工可能な粘度を示し、このため、塗工作業性などに支障をきたすことはない。」(段落【0033】)

(4)「【0052】製造例1
メカニカルスタ?ラ、窒素導入口、冷却管、ラバ?セプタムを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸ブチル72.8g(568ミリモル)を入れ、これに2,2′-ビピリジン820mg(5.25ミリモル)を加え、系内を窒素置換した。これに窒素気流下、臭化銅250mg(1.74ミリモル)を加え、反応系を100℃に加熱し、重合開始剤として2-MPEを461mg(1.74ミリモル)加えて重合を開始し、溶剤を加えずに窒素気流下、100℃で12時間重合した。重合率(加熱して揮発成分を除去したポリマ?重量を、揮発成分を除去する前の重合溶液そのままのポリマ?重量で割つた値で定義される割合)が90重量%以上であることを確認したのち、重合系に、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレ?ト475g(2.61ミリモル)をラバ?セプタムから添加し、これをさらに20時間加熱した。得られた重合物を酢酸エチルに20重量%程度に希釈して、触媒をろ去し、酢酸エチルを除去した。残さに冷アセトニトリルを加え、ポリマ?油状物をよく洗浄したのち、沈殿したポリマ?油状物を減圧加熱(60℃)して、アクリル系共重合体 (1)を製造した。
【0053】製造例2?13
アクリル酸ブチル568ミリモルに対し、重合開始剤の種類と量、分子内にエポキシ基または水酸基を有する単量体の種類と量を、表1のように変更した以外は、製造例1と同様の手法により、アクリル系共重合体 (2)?(13)を製造した。各重合に際して、臭化銅の使用量は重合開始剤と同モル量とし、2,2′-ビピリジンはその3倍モル量使用した。
【0054】なお、表1において、「3,4-ECHMA」は3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレ?ト、「3,4-ECHMMA」は3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレ?ト、「6-HHA」は6-ヒドロキシヘキシルアクリレ?ト、「2-HHA」は2-ヒドロキシエチルアクリレ?トである。また、表1に記載される( )内の数値は、各原料成分のモル数(ミリモル)を示したものである。さらに、表1には、製造例1の使用原料などについても、参考のために、併記した。
【0055】

【0056】製造例14
メカニカルスタ?ラ、窒素導入口、冷却管、ラバ?セプタムを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸ブチル72.8g(568ミリモル)を入れ、これに2,2′-ビピリジン1.64g(10.5ミリモル)を加えて、系内を窒素置換した。これに窒素気流下、臭化銅500mg(3.48ミリモル)を加え、反応系を100℃に加熱し、重合開始剤としてのEBMPを627mg(1.74ミリモル)加えて重合を開始し、溶剤を加えずに窒素気流下で、100℃で12時間重合した。重合率(加熱して揮発成分を除去したポリマ?重量を、揮発成分を除去する前の重合溶液そのままのポリマ?重量で割つた値で定義される割合)が90重量%以上であることを確認したのち、重合系に、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレ?ト950mg(5.22ミリモル)をラバ?セプタムから添加し、これをさらに20時間加熱した。得られた重合物を酢酸エチルに20重量%程度に希釈して、触媒をろ去し、酢酸エチルを除去した。残さに冷アセトニトリルを加え、ポリマ?油状物をよく洗浄したのち、沈殿したポリマ?油状物を減圧加熱(60℃)して、アクリル系共重合体(14)を製造した。
【0057】製造例15
3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレ?トに代えて、6-ヒドロキシヘキシルアクリレ?ト900mg(5.23ミリモル)を使用した以外は、製造例14と同様にして、アクリル系共重合体(15)を製造した。
【0058】上記の製造例1?15で得たアクリル系共重合体 (1)?(15)について、数平均分子量〔Mn〕、重量平均分子量〔Mw〕およびポリマ?分散度〔Mw/Mn〕を測定した。結果は、表2に示されるとおりであつた。なお、分子量の測定は、本文中に記載したGPC法により、行つたものである。
【0059】

」(段落【0052】?【0059】)

(5)「【0062】実施例1
アクリル系共重合体 (1)4gを酢酸エチル4mlで希釈し、これに東芝シリコ?ン(株)製の「UV-9380C」〔ヨ?ドニウム塩系硬化触媒:ビス(ドデシルフエニル)ヨ?ドニウムヘキサフルオロアンチモネ?トを45重量%含む化学品〕120mgを加え、均一に混合して、エポキシ架橋前の粘着剤組成物溶液を調製した。これを、ギヤツプ100umのアプリケ?タを使用して、厚さが27μmのポリエチレンテレフタレ?トフイルム(以下、PETフイルムという)の上に塗工した。120℃で5分間加熱乾燥後、高圧水銀灯により紫外線を室温で1.3J照射して、エポキシ架橋させることにより、上記アクリル系共重合体の架橋ポリマ?を含む粘着剤層を形成し、粘着シ?トを作製した。
【0063】実施例2?30
アクリル系共重合体の種類(使用量は変更なし)、オニウム塩系硬化触媒(光酸発生剤)の種類と量を、表3および表4のように変更し、また架橋助剤(エポキシ化合物)を同表記載(種類と量)のように配合し、または配合しなかつた以外は、実施例1と同様にして、エポキシ架橋前の29種の粘着剤組成物溶液を調製した。また、この各組成物溶液を用いて、紫外線照射量を同表記載のように設定した以外は、実施例1と同様にして、PETフイルム上に各アクリル系共重合体の架橋ポリマ?を含む粘着剤層を形成し、粘着シ?トを作製した。」(段落【0062】、【0063】)

3 引用文献に記載された発明
上記2(4)からみて、引用文献には、製造例11として「メカニカルスタ?ラ、窒素導入口、冷却管、ラバ?セプタムを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸ブチル72.8g(568ミリモル)を入れ、これに2,2′-ビピリジン820mg(5.25ミリモル)を加え、系内を窒素置換し、これに窒素気流下、臭化銅250mg(1.74ミリモル)を加え、反応系を100℃に加熱し、重合開始剤として2-H2MPNを0.87ミリモル加えて重合を開始し、溶剤を加えずに窒素気流下、100℃で12時間重合し、重合率(加熱して揮発成分を除去したポリマ?重量を、揮発成分を除去する前の重合溶液そのままのポリマ?重量で割つた値で定義される割合)が90重量%以上であることを確認したのち、重合系に、6-ヒドロキシヘキシルアクリレート(6-HHA)0.87ミリモルをラバ?セプタムから添加し、これをさらに20時間加熱し、得られた重合物を酢酸エチルに20重量%程度に希釈して、触媒をろ去し、酢酸エチルを除去し、残さに冷アセトニトリルを加え、ポリマ?油状物をよく洗浄したのち、沈殿したポリマ?油状物を減圧加熱(60℃)して製造した、Mnが74200であり、Mwが126100であるアクリル系共重合体(11)。」が記載されているといえる。
また、上記「アクリル系共重合体(11)」は、アクリル酸ブチル(分子量128.2)568ミリモルに重合開始剤を加えて重合を開始してから、重合率が90重量%以上となったのち、6-ヒドロキシヘキシルアクリレート(分子量172.2)0.87ミリモルを添加して重合をしたものであり、その数平均分子量が74200であることから計算すると、開始剤に由来しない末端から0.88ユニット(上記重合率が100重量%の場合)?58.64ユニット(上記重合率が90重量%である場合)の6-ヒドロキシヘキシルアクリレートを含むセグメント(以下、「セグメントHHA」という。)と、アクリル酸ブチルからなるセグメント(以下、「セグメントBA」という。)とからなると認められる。
さらに、上記「セグメントHHA」中の水酸基を有するモノマーである6-ヒドロキシヘキシルアクリレート(6-HHA)に由来するユニットは上記重合率の値に関わらず0.88であり、上記「セグメントBA」中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットは0であるから、両者の比は100:0である。
さらにまた、上記「アクリル系共重合体(11)」におけるアクリル酸ブチルと6-ヒドロキシヘキシルアクリレートとのモル比(568ミリモル:0.87ミリモル)からみて、上記「アクリル系共重合体(11)」中の水酸基を有するモノマー(6-ヒドロキシヘキシルアクリレート)に由来するユニットの含有量は0.15モル%である。

以上のことを総合すると、引用文献には、
「アクリル系共重合体(11)であって、
開始剤に由来しない末端から0.88?58.64ユニットのセグメントHHAと、前記セグメントHHA以外のセグメントBAとからなり、
前記セグメントHHA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントBA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)が100:0であり、
前記アクリル系共重合体(11)中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.15モル%であり、
重量平均分子量が126100であるアクリル系共重合体(11)。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

4 本件特許発明との対比、判断
(1)本件特許発明1
上記2(1)及び(4)からみて、引用発明の「アクリル系共重合体(11)」は、アクリル酸ブチルに重合開始剤を加えてリビングラジカル重合を開始してから、重合率が90重量%以上となったのち、6-ヒドロキシヘキシルアクリレートを添加してリビングラジカル重合をしていると認められるから、本件特許発明1の「リビングラジカル重合により得られた構造制御されたブロック共重合ポリマー」に相当すると認められる。
また、引用発明の「セグメントHHA」、「セグメントBA」は、それぞれ、本件特許発明1の「セグメントA」、「セグメントA以外のセグメントD」に対応するものである。
そこで、本件特許発明1と引用発明とを比較すると、両者は、
「リビングラジカル重合により得られた構造制御されたブロック共重合ポリマーであって、
末端から100ユニット以下のセグメントAと、前記セグメントA以外のセグメントDとからなり、
前記セグメントA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントD中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)が100?80:0?20であり、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.19モル%である構造制御されたブロック共重合ポリマー。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)セグメントAについて、本件特許発明1では開始剤に由来する末端に位置するのに対して、引用発明では開始剤に由来しない末端に位置する点。

(相違点2)構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量について、本件特許発明1では40万以上であるのに対して、引用発明では126100である点。

(相違点3)セグメントA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントD中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)について、本件特許発明1では「100?80:0?20であり(但し、100:0を除く)」であるのに対して、引用発明では「100:0」である点。

上記相違点について以下検討する。
事案に鑑み相違点3から検討する。
引用発明の「アクリル系共重合体(11)」において、「セグメントHHA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと(前記)セグメントBA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)」は「100:0」である。引用文献の記載によれば、「アクリル系共重合体(11)」の「セグメントBA」部分はアクリル酸ブチルに重合開始剤を加えてリビングラジカル重合させて得られるものであるが、引用文献には斯かるリビングラジカル重合の際にアクリル酸ブチル以外のモノマーを存在させる動機付けとなるような記載はなく、「水酸基を有するモノマー」を存在させることも同様である。そうしてみると、引用発明において、「セグメントHHA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと(前記)セグメントBA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)」を「100:0」以外の比率とすることは当業者が容易になしえたものとすることはできない。
そうしてみると、相違点1、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明3ないし5
請求項3ないし5は、請求項1を直接または間接に引用している。
そうしてみると、本件特許発明3ないし5も、本件特許発明1と同様に、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。


第6 結語
上記第5のとおりであるから、平成29年3月30日付けの取消理由(決定の予告)によっては、本件請求項1、3ないし5に係る特許を取り消すことができない。また、他に本件請求項1、3ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2に係る特許にも取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リビングラジカル重合により得られた構造制御されたブロック共重合ポリマーであって、
開始剤に由来する末端から100ユニット以下のセグメントAと、前記セグメントA以外のセグメントDとからなり、
前記セグメントA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントD中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)が100?80:0?20であり(但し、100:0を除く)、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.19モル%であり、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量が40万以上である
ことを特徴とする構造制御されたブロック共重合ポリマー。
【請求項2】
リビングラジカル重合により得られた構造制御されたブロック共重合ポリマーであって、
開始剤に由来する末端から100ユニット以下のセグメントAと、停止反応に由来する末端から100ユニット以下のセグメントCと前記セグメントA及びセグメントC以外のセグメントBとからなり、
前記セグメントA中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントB中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)が100?80:0?20であり、かつ、
前記セグメントC中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットと前記セグメントB中の水酸基を有するモノマーに由来するユニットの比(モル比)が100?80:0?20であり、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマー中の前記水酸基を有するモノマーに由来するユニットの含有量が0.05?0.36モル%であり、
前記構造制御されたブロック共重合ポリマーの重量平均分子量が40万以上であることを特徴とする構造制御されたブロック共重合ポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の共重合ポリマーと架橋剤とを含有することを特徴とする粘着剤。
【請求項4】
請求項3記載の粘着剤を含有する粘着剤層を有することを特徴とする粘着テープ
【請求項5】
粘着剤層のゲル分率が50重量%以下であることを特徴とする請求項4記載の粘テープ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-28 
出願番号 特願2014-148208(P2014-148208)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内田 靖恵  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 守安 智
大島 祥吾
登録日 2015-10-09 
登録番号 特許第5820512号(P5820512)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 構造制御されたブロック共重合ポリマー、粘着剤及び粘着テープ  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人もえぎ特許事務所  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 もえぎ特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ