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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02M
管理番号 1332265
異議申立番号 異議2016-701036  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-08 
確定日 2017-08-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第5970668号発明「電動式パワーステアリング用パワーモジュールおよびこれを用いた電動式パワーステアリング駆動制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5970668号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5970668号の請求項1-7に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)4月25日(優先権主張 平成22年11月2日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年7月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人 番場大円(以下、「申立人」という)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年4月28日付けで取消理由を通知し、平成29年7月5日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」-「本件発明7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1-7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
ブリッジ回路を構成する複数個のパワースイッチング素子と、前記パワースイッチング素子のそれぞれからモータに供給されるモータ電流をオン・オフ制御するモータリレー用スイッチング素子とからなるパワー回路部品を同一平面の導電部材上に実装し、電源端子、グランド端子、モータ出力端子、前記各スイッチング素子を駆動する制御用端子とを有し、前記パワー回路部品と前記導電部材と前記各端子とをモールド樹脂にて四角形に一体成形し、前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置したものにおいて、前記モータリレー用スイッチング素子のオン抵抗を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のオン抵抗より小さくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子のチップサイズを、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のチップサイズより大きくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子が実装された導電部材の熱容量を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子が実装された導電部材の熱容量より大きくするか、の少なくとも1つを前記モータリレー用スイッチング素子に採用し、さらに、前記電源端子・グランド端子・モータ出力端子と、前記制御用端子とは分離して前記四角形の別の辺に配置し、前記導電部材は複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出されたことを特徴とする電動式パワーステアリング用パワーモジュール。
【請求項2】
ブリッジ回路を構成する上下アームに直列に2個のパワースイッチング素子と、前記両パワースイッチング素子の接続点からモータに供給されるモータ電流をオン・オフ制御するモータリレー用スイッチング素子とからなるパワー回路部品を、同一平面の導電部材上に実装し、前記パワー回路部品と前記導電部材と、複数の外部接続用端子とをモールド樹脂にて一体成形し、前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置したものにおいて、前記モータリレー用スイッチング素子のオン抵抗を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のオン抵抗より小さくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子のチップサイズを、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のチップサイズより大きくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子が実装された導電部材の熱容量を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子が実装された導電部材の熱容量より大きくするか、の少なくとも1つを前記モータリレー用スイッチング素子に採用し、さらに前記モータリレー用スイッチング素子は、前記ブリッジ回路を構成する2個のパワースイッチング素子の間に配置し、前記導電部材は複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記外部接続用端子の内、電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出されたことを特徴とする電動式パワーステアリング用パワーモジュール。
【請求項3】
ブリッジ回路を構成する上下アームに直列に挿入された2個のパワースイッチング素子と、前記両パワースイッチング素子の接続点からモータに供給されるモータ電流をオン・オフ制御するモータリレー用スイッチング素子と、電流検出するためのシャント抵抗とからなるパワー回路部品を、同一平面の導電部材上に実装し、電源端子、グランド端子、モータ出力端子、前記3個のスイッチング素子を駆動する制御用端子とを有し、前記パワー回路部品と前記導電部材と前記各端子とをモールド樹脂にて一体成形し前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置したものにおいて、前記モータリレー用スイッチング素子のオン抵抗を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のオン抵抗より小さくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子のチップサイズを、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のチップサイズより大きくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子が実装された導電部材の熱容量を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子が実装された導電部材の熱容量より大きくするか、の少なくとも1つを前記モータリレー用スイッチング素子に採用し、前記電源端子と前記グランド端子は並設され、前記ブリッジ回路を構成する2個のパワースイッチング素子と前記モータリレー用スイッチング素子と前記シャント抵抗の4個の部品において、前記電源端子の最も近傍にブリッジ回路を構成する上側パワースイッチング素子を配置し、前記グランド端子の最も近傍にシャント抵抗を配置し、前記制御用端子は前記電源端子・グランド端子とは分離して配置し、前記導電部材は複数に分割された領域からなり、分割された各導電部材の一部から前記電源端子、グランド端子、モータ出力端子がそれぞれ一体で同一平面状に延出されたたことを特徴とする電動式パワーステアリング用パワーモジュール。
【請求項4】
多相分を纏めて同一パッケージに樹脂封止したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電動式パワーステアリング用パワーモジュール。
【請求項5】
電動モータとこの電動モータの駆動を制御する制御装置とを備え、請求項1から3のいずれか1項に記載のパワーモジュールを構成するパワー回路部品をヒートシンク上に放熱効率が均等になるように配置したことを特徴とする電動式パワーステアリング駆動制御装置。
【請求項6】
電動モータと制御装置はモータ軸と同軸上に配置され、前記制御装置はモータ軸前方に配置したことを特徴とする請求項5に記載の電動式パワーステアリング駆動制御装置。
【請求項7】
電動モータと制御装置はモータ軸と同軸上に配置され、前記制御装置はモータ軸後方に配置したことを特徴とする請求項5に記載の電動式パワーステアリング駆動制御装置。」

第3 特許異議申立理由及び取消理由の概要
請求項1乃至7に係る特許に対する、特許異議申立理由、及び、該特許異議申立理由に基づいて、当審により通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1乃至7に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2?11号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1乃至7に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第1号証:国際公開第2010/007672号
甲第2号証:特開2007-295658号公報
甲第3号証:堀 孝正 外6名,“新インターユニバーシティ パワーエレクトロニクス”,株式会社オーム社,平成20年11月15日,p.126
甲第4号証:竹内 茂行 外2名,“自動車用チップオンチップスマートMOSFET技術”,富士時報,富士電機ホールディングス株式会社,2003年11月10日,第76巻,第10号,p.40-43
甲第5号証:浅井 紳哉,“パワー回路基板設計の鉄則10か条”,トランジスタ技術,CQ出版社,2003年6月,第40巻,第6号,p.169-170
甲第6号証:特開2009-278134号公報
甲第7号証:特開2009-225612号公報
甲第8号証:特開2009-89491号公報
甲第9号証:三菱半導体(インテリジェントパワーモジュール)PS21767のカタログ(2007年8月公開)
甲第10号証:実公平7-41164号公報
甲第11号証:実願平4-58633号(実開平6-17249号)のCD-ROM

第4 甲各号証の記載
1.甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線部は当審により付与した。

「[0001]この発明は、車両に搭載される電動パワーステアリング装置、及び電動パワーステアリング装置に用いる制御装置一体型電動機に関するものである。」

「[0028]制御装置部50は、電動機部40の内部空間に連通する制御装置部内部空間を備えると共にその制御装置部内部空間に、マイクロコンピュータ531とFET駆動回路532とが実装されたガラスエポキシ樹脂製の制御基板53と、パワーMOSFETにより構成された2個のパワー素子と1個の半導体スイッチ素子と1個のシャント抵抗とが夫々実装されたセラミックベースからなる3枚のパワー基板541、542、543(図2には、541のみ表示されている)と、2個の半導体スイッチ素子が搭載されたセラミックベースからなる1枚のスイッチ基板55とを収容している。3枚のパワー基板541、542、543と、1枚のスイッチ基板55に於ける半導体スイッチ素子等の実装の詳細については後述する。
[0029]図3は、減速機構側ケース60の電動機側の側面を、パワー基板541、542、543、及びスイッチ基板55が取り付けられた状態で示す側面図である。前述の3枚のパワー基板541、542、543は、固定子巻線423のU相、V相、W相の各相巻線に夫々対応して設けられており、これらのパワー基板541、542、543は、図3に示すように回転子軸43の周りに放射状にほぼ均等に配置されている。スイッチ基板55は、パワー基板542と543との間に位置して図の上方に配置されている。これらのパワー基板541、542、543とスイッチ基板55とは、減速機構側ケース60の内壁部601の電動機側壁面に密着固定されている。尚、パワー基板541、542、543とスイッチ基板55とは、減速機構側ケース60の内壁部601の減速機構側壁面に密着固定してもよい。この場合、パワー基板541、542、543とスイッチ基板55との熱を減速機構側へより効率的に放熱することが可能であり、又、パワー基板541、542、543とスイッチ基板55とを、減速機構側から密着固定することができ、作業性が向上する効果がある。
[0030]図3に示すように、パワー基板541には、電動機駆動回路を構成する3相ブリッジ回路のU相正極側アームを構成するパワー素子5411とU相負極側アームを構成するパワー素子5412と、固定子巻線413のU相巻線と前述の3相ブリッジ回路のU相出力端子との間に挿入される1個の半導体スイッチ素子5413と、パワー素子5412と車両の接地電位部との間に挿入される1個のシャント抵抗5414とが実装されている。」

「[0037]次に、前述のように構成された制御装置部50の回路構成について説明する。図4は、制御装置部50の回路構成を示す回路図である。図4に於いて、固定子巻線413は、前述した通り巻線ターミナル416によりY結線されている。パワー基板541に実装され一端同士が互いに接続された一対のパワー素子5411及び5412のうち、一方のパワー素子5411は3相ブリッジ回路のU相正極側アームを構成し、他方のパワー素子5412はU相負極側アームを構成している。又、パワー素子5411の他端は、リップル吸収用のコンデンサ81とノイズ吸収用のコイル84に接続され、パワー素子5412の他端は、シャント抵抗5414を介して車両の接地電位部に接続されている。前述のパワー素子5411と5412の一端同士が接続された接続点は、3相ブリッジ回路のU相交流側端子となる。又、パワー基板541に実装された半導体スイッチ素子5413は、その一端が前述のU相交流側端子に接続され、他端が固定子巻線413のU相端子に接続されている。」

「[0093]又、前述の実施の形態1乃至5に於けるパワー基板の材質は、セラミックベースであるとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば金属基板にパワー素子や半導体スイッチ素子をベアチップで実装してもよく、或いはディスクリート部品を実装するようにしてもよい。」

以上の記載(特に、下線部の記載)、及び、図面から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「3相ブリッジ回路のU相正極側アーム及びU相負極側アームを構成するパワー素子(5411、5412)と、一端が前記パワー素子(5411、5412)の一端同士が接続された接続点に接続され、他端が固定子巻線413のU相端子に接続された半導体スイッチ素子(5413)と、を実装した電動パワーステアリング装置のパワー基板。」

2.甲第2号証
甲第2号証には、図面とともに次の技術事項が記載されている。なお、下線部は当審により付与した。

「【0025】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
まず、第1の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態を示す概略構成図であって、図中、1はステアリングホイールであり、このステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力がステアリングシャフト2に伝達される。このステアリングシャフト2は、入力軸2aと出力軸2bとを有し、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は操舵トルク検出手段としての操舵トルクセンサ3を介して出力軸2bの一端に連結されている。
【0026】
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、ユニバーサルジョイント4を介してロアシャフト5に伝達され、さらにユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。
このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ8を介してタイロッド9に伝達され、図示しない転舵輪を転舵させる。ここで、ステアリングギヤ8は、ピニオンシャフト7に連結されたピニオン8aとこのピニオン8aに噛合するラック8bとを有するラックアンドピニオン機構に構成され、ピニオン8aに伝達された回転運動をラック8bで直進運動に変換している。
【0027】
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、補助操舵力を出力軸2bに伝達する減速ギヤ10が連結されており、この減速ギヤ10には、操舵系に対して補助操舵力を発生する3相ブラシレスモータ12の出力軸が連結されている。
この3相ブラシレスモータ12は、図2に示すように、U相励磁コイルLu、V相励磁コイルLv及びW相励磁コイルLwの一端が互いに接続されてスター結線とされ、各コイルの他端がコントローラ20に接続されて個別にモータ駆動電流Iu、Iv及びIwが供給されると共に、図示しないロータの回転位置を検出するホール素子、レゾルバ等で構成されるロータ位置検出回路13を備えている。
【0028】
また、各励磁コイルLu?Lwには、それぞれ、3相ブラシレスモータ12の中性点と励磁コイルLu?Lwとの間に、閉回路開放用のスイッチ回路SWu?SWwが接続される。この閉回路開放用のスイッチ回路SWu?SWwは、それぞれ電界効果トランジスタFETu?FETwと、これと逆並列に接続されたダイオードDu?Dwとで構成される。前記電界効果トランジスタFETu?FETwは、低オン抵抗特性を有する低オン抵抗型の電界効果トランジスタで形成され、例えば、パワー素子として広く使用されているSi-IGBTや、Siを用いた場合よりもオン抵抗値の低い、炭化珪素を素材とする電界効果トランジスタで構成される。
【0029】
また、これら電界効果トランジスタFETu?FETwは、これらを流れる電流が、中性点から流れ出る方向となる向きに設けられている。なお、ここでは、中性点から電流が流れ出る方向と、電界効果トランジスタFETu?FETwを流れる電流の方向とが一致するようにこれら電界効果トランジスタFETu?FETwを設けた場合について説明したが、電界効果トランジスタFETu?FETwを流れる電流の向きが、中性点に向かって流れる方向となるように配設してもよく、中性点に対して、電界効果トランジスタFETu?FETwを流れる電流の向きが同一方向であれば、何れの向きであってもよい。
【0030】
これら閉回路開放用のスイッチ回路SWu?SWwは、図3の3相ブラシレスモータ12の概略構造を示す断面図に示すモータハウジング101内に設けられ、具体的には、各励磁コイルLu?Lwが接続されて3相ブラシレスモータ12の中性点が形成される回路基板102上に配置される。なお、図3において、103は、回路基板102を保持すると共に、ロータ104の回転位置を検出するためのレゾルバやホール素子等のロータ回転角検出用のセンサ105を保持するためのセンサホルダ、106及び107はロータ104を、モータハウンジング101に対して回転自在に指示するための転がり軸受、108はロータ104と一体に回転するように固定されたロータコア、109はロータ104の回転駆動用のロータマグネット(永久磁石)、110はロータマグネット110から僅かな隙間を介してモータハウジング101の内周面に固定されるモータステータである。
【0031】
一方、前記操舵トルクセンサ3は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を例えばポテンショメータで検出するように構成されている。この操舵トルクセンサ3から出力されるトルク検出値Tは、コントローラ20に入力される。
【0032】
このコントローラ20には、操舵トルクセンサ3から出力されるトルク検出値Tや、ロータ位置検出回路13で検出されたロータ回転角θが入力されると共に、さらに、3相ブラシレスモータ12の各励磁コイルLu?Lwに供給されるモータ駆動電流Iu、Iv及びIwのうち、何れか2つ、例えば、Iu及びIwを検出するモータ電流検出回路22から出力されるモータ駆動電流検出値Iud及びIwdが入力される。
【0033】
コントローラ20は、トルク検出値T及び車速検出値Vとモータ電流検出値Iud及びIwdとロータ回転角θとに基づいて操舵補助電流目標値を演算し、これを電流指令値Iut、Ivt及びIwtとし、この電流指令値Iut、Ivt及びIwtに基づいて決定したデューティ比Du、Dv及びDwのPWM(パルス幅変調)信号を出力する制御演算装置23と、3相ブラシレスモータ12を駆動する電界効果トランジスタ(FET)で構成されるインバータ24と、制御演算装置23から電流指令値Iut、Ivt及びIwtに基づいてインバータ24の電界効果トランジスタのゲート電流を制御するFETゲート駆動回路26と、前記3相ブラシレスモータ12の閉回路開放用の電界効果トランジスタFETu?FETwのゲート電流を制御する開放用FET駆動回路27と、を備えている。
【0034】
前記インバータ24は、直列に接続された2つの電界効果トランジスタQua及びQubと、同様に直列に接続された2つの電界効果トランジスタQva及びQvbと、直列に接続された電界効果トランジスタQwa及びQwbとを備え、これら直列に接続された電界効果トランジスタが並列に接続されて構成される。なお、各電界効果トランジスタQua?Qwbにはそれぞれ図示しないダイオードが逆並列に接続されている。
【0035】
このインバータ24の電界効果トランジスタQua及びQubの接続点、電界効果トランジスタQva及びQvbの接続点並びに電界効果トランジスタQwa及びQwbの接続点が電動モータ12のスター結線された各励磁コイルLu?Lwに接続される。
また、FETゲート駆動回路26は、インバータ24の各電界効果トランジスタQua?Qwbを、後述する制御演算装置23から出力される電流指令値Iut、Ivt及びIwtに基づいて決定される相毎のデューティ比のPWM(パルス幅変調)信号によってON/OFFさせ、これによって、実際に3相ブラシレスモータ12に流れる電流Imu、Imv及びImwの大きさが制御される。」

「【0047】
また、上述のように、異常を検出した場合には、各励磁コイルに設けた閉回路開放用の電界効果トランジスタFETu?FETwを全て開放状態に切り換えて中性点を開放しているから、どのような閉回路が形成される場合であってもこの閉回路の形成を確実に回避することができる。
また、上述のように、電界効果トランジスタFETu?FETwは、低オン抵抗特性を有する炭化珪素を素材とした電界効果トランジスタであり、その発熱量は比較的小さく、また耐熱性にも優れていることから、電界効果トランジスタFETu?FETwを3相ブラシレスモータ12のモータハウジング101内に設けた場合であっても何ら問題ない。」

第5 当審の判断
1.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1は「パワー回路部品を同一平面の導電部材上に実装し」、「前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置したものにおいて、前記モータリレー用スイッチング素子のオン抵抗を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のオン抵抗より小さくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子のチップサイズを、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のチップサイズより大きくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子が実装された導電部材の熱容量を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子が実装された導電部材の熱容量より大きくするか、の少なくとも1つを前記モータリレー用スイッチング素子に採用」するものであるのに対し、甲1発明は、パワー回路部品を基板上に実装するものであるとはいえるものの、「パワー回路部品を同一平面の導電部材上に実装し」、「前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置したものにおいて、前記モータリレー用スイッチング素子のオン抵抗を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のオン抵抗より小さくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子のチップサイズを、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のチップサイズより大きくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子が実装された導電部材の熱容量を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子が実装された導電部材の熱容量より大きくするか、の少なくとも1つを前記モータリレー用スイッチング素子に採用」するものではない点で少なくとも相違する。
甲1発明において、本件発明1の上記相違点に係る構成を採用する動機づけとなる事項は、甲第1号証には記載されていないし、甲第2号証?甲第11号証のいずれにも記載されていない。
甲第2号証には、電界効果トランジスタFETu?FETw(本件発明1の「モータリレー用スイッチング素子」に相当)を、低オン抵抗特性を有する低オン抵抗型の電界効果トランジスタで形成することは記載されている(【0028】)が、インバータを構成する各電界効果トランジスタQua?Qwb(本件発明1の「パワースイッチング素子」に相当)のオン抵抗については記載がないから、両者のオン抵抗の大小関係は不明であり、また、両者は同一平面の部材上に実装されたものではないから、両者のオン抵抗の大小関係を決定する動機もなく、甲第2号証は、甲1発明において、本件発明1の上記相違点に係る構成を採用する動機づけとなるものではない。
また、仮に、モータリレー用スイッチング素子に流れる電流が、ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子に流れる電流の2倍であること、素子のチップサイズが大きくなればオン抵抗が小さくなること、導電部材の導電幅が大きいほど熱容量が大きくなること、がいずれも技術常識であったとしても、そのことが、甲1発明において、本件発明1の上記相違点に係る構成を採用する動機づけとなるものではない。
本件発明1は、上記相違点に係る構成を有することにより、明細書の【0010】に記載された「モジュールを構成するパワー回路部品の発熱が一様にバランスされるので、発熱ムラが発生することなくヒートシンクへの放熱が可能となる」との特有の効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本件発明2乃至7について
本件発明2乃至7は、いずれも、本件発明1の上記相違点に係る構成と同じ「パワー回路部品を同一平面の導電部材上に実装し」、「前記導電部材の裏面は高熱伝導材を介してヒートシンク上に当接配置したものにおいて、前記モータリレー用スイッチング素子のオン抵抗を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のオン抵抗より小さくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子のチップサイズを、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子のチップサイズより大きくするか、または前記モータリレー用スイッチング素子が実装された導電部材の熱容量を、前記ブリッジ回路を構成するパワースイッチング素子が実装された導電部材の熱容量より大きくするか、の少なくとも1つを前記モータリレー用スイッチング素子に採用」するという特定事項を有するものであるから、上記1.と同様の理由により、本件発明2乃至7は、甲1発明及び甲第2号証?甲第11号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1-7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1-7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-21 
出願番号 特願2012-541762(P2012-541762)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H02M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田村 耕作塩治 雅也  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 千葉 輝久
土谷 慎吾
登録日 2016-07-22 
登録番号 特許第5970668号(P5970668)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 電動式パワーステアリング用パワーモジュールおよびこれを用いた電動式パワーステアリング駆動制御装置  
代理人 村上 啓吾  
代理人 竹中 岑生  
代理人 大岩 増雄  
代理人 吉澤 憲治  

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