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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16B
管理番号 1332270
異議申立番号 異議2016-701161  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-20 
確定日 2017-09-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6026122号発明「シールワッシャ及び流体管フランジ部の締結方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6026122号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6026122号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成24年3月27日に特許出願され、平成28年10月21日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年12月20日に特許異議申立人日高康博(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同日、異議申立人より証拠説明書が提出され、平成29年2月28日に異議申立人より手続補正書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第6026122号の請求項1?7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)。
「【請求項1】
水道管のフランジ部を締め付けるボルト及びナットと、
前記ボルト又はナットの座面と前記水道管のフランジ部との間に介在し、前記フランジ部に形成されたボルト孔を密封するためのシールワッシャと、を備え、
前記シールワッシャは、前記フランジ部側となる端部に前記ボルト孔の周縁部位と密接するためのシール面が設定され、弾性部材で形成され且つ前記ボルトの軸部を挿通させる挿通孔を有する環状をなすシール部材と、前記シール部材よりも前記ボルト又はナットの座面側に配置され且つ前記シール部材よりも硬質の枠部材とを具備し、
前記シール部材の前記挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出し、前記ボルト孔と前記ボルトの軸部との間の隙間に挿入可能なヒレ部が設けられ、前記ヒレ部の内周面全体が前記ボルトの軸部のうちネジ溝が形成されていない部位と密接している、水道管フランジ部の締結構造。
【請求項2】
前記ヒレ部は、前記挿通孔の周縁部に沿って環状をなすと共に、先端から基端に向かうにつれて内周面との間の径方向厚みが太くなるテーパ状の外周面を有する請求項1に記載の水道管フランジ部の締結構造。
【請求項3】
前記テーパ状の外周面の径方向外側端と前記シール面の径方向内側端とは円弧面で接続されている請求項2に記載の水道管フランジ部の締結構造。
【請求項4】
水道管のフランジ部に形成されたボルト孔にボルトを挿通し、前記ボルトの先端部にナットを取り付けて、前記ボルト及び前記ナットを締め付けて前記フランジ部を締結する水道管フランジ部の締結方法であって、
前記フランジ部側となる端部に前記ボルト孔の周縁部位と密接するためのシール面が設定され、弾性部材で形成され且つ前記ボルトの軸部を挿通させる挿通孔を有する環状をなすシール部材を有するシールワッシャを、前記フランジ部と前記ボルト又はナットの座面との間に介在させるとともに、前記シール部材に突設されたヒレ部の内周面全体を前記ボルトの軸部のうちネジ溝が形成されていない部位に密接させた状態で前記ヒレ部を前記ボルト孔に挿入し、前記ボルト及びナットを締め付けて前記フランジ部を締結することを特徴とする水道管フランジ部の締結方法。
【請求項5】
前記ヒレ部は、前記挿通孔の周縁部に沿って環状をなすと共に、先端から基端に向かうにつれて内周面との間の径方向厚みが太くなるテーパ状の外周面を有する請求項4に記載の水道管フランジ部の締結方法。
【請求項6】
前記テーパ状の外周面の径方向外側端と前記シール面の径方向内側端とは円弧面で接続されている請求項5に記載の水道管フランジ部の締結方法。
【請求項7】
前記ボルト又はナットの座面と前記シールワッシャとの間にスペーサを介在させている請求項4?6のいずれかに記載の水道管フランジ部の締結方法。」

第3 申立理由の概要
1 申立理由1
異議申立人は、本件発明1では、「ヒレ部」は、「外力が作用しない」且つ「自然状態」において、ボルト孔とボルト軸部との隙間に「挿入」可能と解釈できるのに対して、特許第6026122号の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)によれば(段落【0028】)、「ヒレ部」は、ボルト軸部に挿通されボルト軸外面と密接した状態、すなわち自然状態とは異なり「弾性変形状態」で、ボルト孔とボルト軸部との隙間に「挿入」されると解釈できるから、両者の解釈に矛盾が生じており、したがって、本件発明1ないし本件発明3は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであるから、本件発明1ないし本件発明3に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。

2 申立理由2
異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第9号証を提出し、本件発明1ないし本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第9号証に記載された如くの従来周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明1ないし本件発明7に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。

甲第1号証:実願昭54-123576号(実開昭56-40217号)
のマイクロフィルム
甲第2号証:実願平2-94684号(実開平4-52610号)
のマイクロフィルム
甲第3号証:実願昭55-15763号(実開昭56-117112号)
のマイクロフィルム
甲第4号証:米国特許第3889569号明細書
甲第5号証:米国特許第4230326号明細書
甲第6号証:実願昭60-51870号(実開昭61-168313号)
のマイクロフィルム
甲第7号証:実願昭58-201226号(実開昭60-110708号
)のマイクロフィルム
甲第8号証:NOK CORPORATION カタログCat.No.
016・09-2008「シールワッシャーWF・WD型」
(2008年発行)、写し
甲第9号証:実願昭50-76021号(実開昭51-154643号)
のマイクロフィルム

第4 刊行物の記載
1 甲第1号証
甲第1号証には、「シール・弛み止めボルト」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
(1) 「本考案は、シール・弛み止めボルトに係り、ボルト頭の締結座面に、ボルト軸心を囲繞する凹陥部を形成してこの凹陥部に弾性・可撓性のシールリングを嵌合し、該シールリングの外周壁面を締結座面より求心方向に傾斜して突出させることによつて、シール止め効果と弛み止め効果を図つたものである。
シール効果と弛み止め効果を期するため通常はナツト座面にシールリングを設けている。この手段ではシール効果が専らラジアル方向であつて軸方向の効果が期待できず、又、弛み止め効果も弱いものであつた。」(明細書1ページ12行?2ページ3行)

(2) 「第1図に例示する第1実施例において、(1)は頭付ボルトで、その中心にねじ(2A)を有する軸部(2)が金属製頭本体(3)に設けられ、本体(3)には軸部(2)の軸線と平行な6個の捻回面(4)を有する。
勿論、ボルト頭(3)は捻回面(4)を備えてない丸頭でもよく、その形状は任意である。
更に、本体(3)の座面(7)には軸部(2)の軸心と同心とする凹陥部(5)が形成され、該凹陥部(5)の周壁(6)はボルトの軸に平行なストレート面とされている。」(明細書2ページ20行?3ページ8行)

(3) 「凹陥部(5)に嵌合されたシールリング(9)はナイロン、ポリエチレン、ゴム、合成ゴム、アルミニウム、鉛のように比較的硬質で、弾性、可撓材料から戊り、実施図例では高圧ポリエチレンで示している。
シールリング(9)の内周壁面(10)はナツト軸心と平行なストレート面に形成され、そのリング(9)の一端面が凹陥部(5)に嵌合され、実施例では突起(8)をカシメることで固着されている。勿論、嵌合固着は接着剤で実施してもよい。
シールリング(9)の嵌合外周面はストレート面とされており、更に、リング(9)の内周壁面(10)はボルト(1)の軸部(2)全体を同芯状で囲繞しており、突起(8)より突出する部分の外周壁面(11)が求心方向に傾斜した形状で、第1実施例ではその外周壁面(11)の突出部分は円弧面とされている。
シールリング(9)のストレート内周壁面(10)の直径は該リング(9)が樹脂、ゴムであるときはボルト(1)の軸部(2)の直径と等しいか若しくは小さく形成してもよく、勿論少こしは形成してもよい。」(明細書4ページ1行?20行)

(4) 「シールリング(9)をその座面(7)の凹陥部(5)に嵌合した第1実施例による頭付ボルト(1)は第4図乃至第7図で例示するナツト(12)と捻回締着することで複数の被締結材(14)(15)を締結して座面(7)をシールすると共に弛み止めする。
第4図乃至第7図において、(16)がボルト挿通孔で、これに頭付ボルト(1)の軸部(2)が貫通され、ナツト(12)をそのねじ部(2A)に捻回方向に螺合する。
ボルト(1)の座面(7)に形成した凹陥部(5)にシールリング(7)が嵌合され、該リング(7)が座面(7)より突出すると共に、リング(7)の外周壁面(11)が求心方向に傾斜していることから、第5図で示す如くリング(7)の突出端部がボルト挿通孔(16)の孔線と対応し、かつ、僅かに臨入される。
そこで、ナツト(12)を締結方向に捻回すればボルト(1)は軸方向に引込まれることとなり、ここにシールリング(9)は圧縮変形力を受けることになる。
この圧縮変形力にて締結座面(7)より座面(7)より突出した部分が径方向内外に流動すべく押潰されることになるが、該突出部の外周壁面(11)が求心方向に傾斜していることに基づき、径方向内方への流動量が大となり、ボルト挿通孔(16)へと臨入し、第6図の拡大矢示図の如く、ボルト挿通孔(16)の孔縁全体に埋没し、一方、径方向外方へは凹陥部(5)の周壁(6)、突起(8)等にてその流動が規制されていることから僅かに鍔状に流動される。」(明細書7ページ3行?8ページ8行)

(5) 「第9図は本考案の第3実施例であつてリング(9)の先端に段部(9A)を介してボルト挿通孔(16)の孔径と等しいか僅かに径小の臨入案内部(9B)を設けたものであり、このように構成すれば、リング(9)のボルト挿通孔(16)の臨入がより円滑かつ正確となる。
又、第10図に示す例はナツト(12)の座面にも凹陥部を設け、これに前述と同様なリング(9)を嵌合したものであり、これによれば、ナツト(12)、ボルト頭の双方においてシール効果と弛み止め効果が期待できる。」(明細書9ページ11行?10ページ1行)

(6) 「本考案によれば、ボルト頭の座面(7)に形成の凹陥部(5)に弾性・可撓性のシールリング(9)が嵌合されているので、このボルト(1)を用いてナツト(12)と協働してねじ締結すれば、ボルト座面(7)側においてシールリング(9)によるシール効果が期待できる利点がある。
更に、シールリング(9)は座面(7)より求心方向に傾斜してその外周壁面(11)が突出されていることから、ねじ締結に際してリング(9)の突出部は必ず径方向内方への弾性変形力を受けながら圧縮され、遂にはボルト挿通孔(16)に臨入し、この部分(17)にて弾性力にてシール係合面(D)(E)を採り、そこに充満されるし、更に座面(C)のシール効果も期待できる利点がある。」(明細書10ページ10行?11ページ3行)

(7) 上記の各記載事項、及び第1図?第9図の記載を参照すると、第9図に示される第3実施例のシールリング9は、ボルト挿通孔16を密封するもので、被締結材14、15側となる端部にボルト挿通孔16の周縁部位と密接するための外周壁面11を有し、頭付きボルト1の軸部2を挿通させる挿通孔を有する環状をなしており、シールリング9の挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態においてシール面から軸方向に突出し、ボルト挿通孔16と頭付きボルト1の軸部2との間の隙間に挿入可能な臨入案内部9Bが設けられ、臨入案内部9Bの内周面全体が頭付きボルト1の軸部のうちねじ部2Aが形成されていない部位と密接するようになっているといえる。

(8) 上記の記載事項及び図面の記載を総合し、本件発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、第3実施例として、次の発明(以下、「甲第1号証に記載された発明A」という。)が記載されていると認められる。
「被締結材14、15を締め付ける頭付きボルト1及びナット12と、
前記頭付きボルト1又はナット12の座面と前記被締結材14、15との間に介在し、前記被締結材14、15に形成されたボルト挿通孔16を密封するためのシールリング9と、を備え、
頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5に、
前記被締結材14、15側となる端部にボルト挿通孔16の周縁部位と密接するための外周壁面11が設定され、弾性、可撓材料で形成され且つ前記頭付きボルト1の軸部2を挿通させる挿通孔を有する環状をなすシールリング9を具備し、
前記シールリング9の前記挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出し、前記ボルト挿通孔16と前記頭付きボルト1の軸部2との間の隙間に挿入可能な臨入案内部9Bが設けられ、前記臨入案内部9Bの内周面全体が前記頭付きボルト1の軸部のうちねじ部2Aが形成されていない部位と密接している、被締結材14、15の締結構造。」

(9) 同じく、本件発明4の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、第3実施例として、次の発明(以下、「甲第1号証に記載された発明B」という。)が記載されていると認められる。
「被締結材14、15に形成されたボルト挿通孔16に頭付きボルト1を挿通し、前記頭付きボルト1の先端部にナット12を取り付けて、前記頭付きボルト1及び前記ナット12を締め付けて前記被締結材14、15を締結する被締結材14、15の締結方法であって、
前記被締結材14、15側となる端部に前記ボルト挿通孔16の周縁部位と密接するためのシール面が設定され、弾性、可撓材料で形成され且つ前記頭付きボルト1の軸部を挿通させる挿通孔を有する環状をなす頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5のシールリング9を、前記被締結材14、15と前記頭付きボルト1又はナット12の座面との間に介在させるとともに、前記シールリング9に突設された臨入案内部9Bの内周面全体を前記頭付きボルト1の軸部のうちねじ部2Aが形成されていない部位に密接させた状態で前記臨入案内部9Bを前記ボルト挿通孔16に挿入し、前記頭付きボルト1及びナット12を締め付けて前記被締結材14、15部を締結する被締結材14、15の締結方法。」

2 甲第2号証
甲第2号証には、「密封座金」に関し、図面とともに次の事項が記載されている。
(1) 「密封座金10は、第1図及び第2図に示すように、枠体12を備える。枠体12は、平坦な円板状の底部14および底部14の外周部から底部14に対して垂直に張り出す張出部16を有する皿形状の部材からなる。」(明細書8ページ1行?5行)

(2) 「枠体12には円板状の弾性体20が穴18の軸線の回りに回転可能に嵌め込まれている。」(明細書8ページ9行?10行)

(3) 「弾性体20の他方の面は枠体12から外部に突出している。」(明細書8ページ18行?19行)

(4) 第3図を参照すると、ボルト42と蓋部材34との間に、枠体12と弾性体20とからなる密封座金10を設けたものが看取される。

第5 判断
1 申立理由1について
本件発明1の「前記シール部材の前記挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出し、前記ボルト孔と前記ボルトの軸部との間の隙間に挿入可能なヒレ部」との記載において、「外力が作用しない自然状態において」との語句は、該語句の直後の「前記シール面から軸方向に突出し」との語句を修飾するものであり、「前記ボルト孔と前記ボルトの軸部との間の隙間に挿入可能」を修飾するものでないことは、明らかである。
そうすると、本件発明1の上記「前記シール部材の前記挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出し、前記ボルト孔と前記ボルトの軸部との間の隙間に挿入可能なヒレ部」との記載は、「前記シール部材の前記挿通孔の周縁部には」、「外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出」するヒレ部があり、更に、「前記ボルト孔と前記ボルトの軸部との間の隙間に挿入可能なヒレ部」であることを意味すると解釈できる。
そして、本件発明1の「前記シール部材の前記挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出し、前記ボルト孔と前記ボルトの軸部との間の隙間に挿入可能なヒレ部が設けられ、前記ヒレ部の内周面全体が前記ボルトの軸部のうちネジ溝が形成されていない部位と密接している」との記載は、本件特許明細書の「シール部材10の挿通孔10sの周縁部には、外力が作用しない自然状態においてシール面10fから軸方向に突出するヒレ部12が設けられている。ヒレ部12は、少なくともその先端部がボルト孔40sとボルト2の軸部21との間の隙間に挿入可能な寸法に設定されている。」(段落【0024】)、及び「まず、第一のシールワッシャ1a(1)を挿通したボルト軸部21をボルト孔40sに通し、フランジ部40とボルト2の座面20との間に第一のシールワッシャ1aを介在させた状態とする。このとき、シール部材10に突設されたヒレ部12をボルト孔40sとボルトの軸部21との間の隙間に挿入する。」(段落【0028】)との記載と整合する。
したがって、本件発明1、並びに本件発明1を直接又は間接に引用する本件発明2及び本件発明3は、特許を受けようとする発明が明確であるから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものではない。

2 申立理由2について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲第1号証に記載された発明Aとを対比する。
甲第1号証に記載された発明Aの「頭付きボルト1」は、本件発明1の「ボルト」に相当する。
以下同様に、「ナット12」は、「ナット」に、
「ボルト挿通孔16」は、「ボルト孔」に、
「外周壁面11」は、「シール面」に、
「弾性、可撓材料」は、「弾性部材」に、
「臨入案内部9B」は、「ヒレ部」に、
「ねじ部2A」は、「ネジ溝」に、それぞれ相当する。

甲第1号証に記載された発明Aの「被締結材14、15」と、本件発明1の「水道管のフランジ部」とは、「締結対象」である点で共通する。
また、甲第1号証に記載された発明Aの頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5の「シールリング9」と、本件発明1の「シールワッシャ」及び「シール部材」とは、「シール」である点で共通する。

以上のことから、本件発明1と甲第1号証に記載された発明Aとは次の点で一致する。
「締結対象を締め付けるボルト及びナットと、
前記ボルト又はナットの座面と前記締結対象との間に介在し、前記締結対象に形成されたボルト孔を密封するためのシールと、を備え、
前記シールは、前記締結対象側となる端部に前記ボルト孔の周縁部位と密接するためのシール面が設定され、弾性部材で形成され且つ前記ボルトの軸部を挿通させる挿通孔を有する環状をなすシールを具備し、
前記シールの前記挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出し、前記ボルト孔と前記ボルトの軸部との間の隙間に挿入可能なヒレ部が設けられ、前記ヒレ部の内周面全体が前記ボルトの軸部のうちネジ溝が形成されていない部位と密接している、締結対象の締結構造。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1では、締結対象は、「水道管のフランジ部」であり、
シールは、シール部材を具備する「シールワッシャ」であり、該シールワッシャは、「前記フランジ部側となる端部に前記ボルト孔の周縁部位と密接するためのシール面が設定され、弾性部材で形成され且つ前記ボルトの軸部を挿通させる挿通孔を有する環状をなすシール部材と、前記シール部材よりも前記ボルト又はナットの座面側に配置され且つ前記シール部材よりも硬質の枠部材とを具備し、前記シール部材の前記挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出し、前記ボルト孔と前記ボルトの軸部との間の隙間に挿入可能なヒレ部が設けられ、前記ヒレ部の内周面全体が前記ボルトの軸部のうちネジ溝が形成されていない部位と密接している」のに対して、
甲第1号証に記載された発明Aでは、締結対象は、「被締結材14、15」であるものの、該被締結材14、15が、水道管のフランジであるか否かは明らかでなく、
シールは、頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5の「シールリング9」であり、該シールリング9は、「頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5に、前記被締結材14、15側となる端部にボルト挿通孔16の周縁部位と密接するための外周壁面11が設定され、弾性、可撓材料で形成され且つ前記頭付きボルト1の軸部2を挿通させる挿通孔を有する環状をなすシールリング9を具備し、前記シールリング9の前記挿通孔の周縁部には、外力が作用しない自然状態において前記シール面から軸方向に突出し、前記ボルト挿通孔16と前記頭付きボルト1の軸部2との間の隙間に挿入可能な臨入案内部9Bが設けられ、前記臨入案内部9Bの内周面全体が前記ボルトの軸部のうちねじ部2Aが形成されていない部位と密接している」点。

イ 判断
甲第2号証には、密封座金10(本件発明1の「シールワッシャ」に相当。)として、枠体12(本件発明1の「枠部材」に相当。)に円板状の弾性体20(本件発明1の「シール部材」に相当。)が、孔8の軸線回りに回転可能に嵌め込まれたものが記載されている(前記「第4 2」を参照。)。
しかし、甲第2号証には、頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5のシールリング9を、シールワッシャとすることを示唆する記載はない。
また、従来周知の技術の例として示された甲第3号証(特に、第2図を参照。)、甲第4号証(特に、FIG.4を参照。)、及び甲第5号証(特に、FIG.7及びFig.8を参照。)には、シールワッシャーにおいて、シール部材の挿通孔の周縁部に、外力が作用しない自然状態においてシール面から軸方向に突出し、ボルト孔とボルト軸部との間の隙間に挿入可能なヒレ部が、テーパ状の外周面を備えたものが記載されており、従来周知の技術の例として示された甲第6号証(特に、第2図を参照。)、甲第7号証(特に、第1図、第3図及び第4図を参照。)、及び甲第8号証(特に、2ページ右欄「WD型」の「形状」の欄に記載の図面を参照。)には、シールワッシャにおいて、シール部材にヒレ部を設け、該ヒレ部において、テーパ状の外周面の径方向外側端とシール面の径方向内側端とを円弧面で接続したものが記載されており、更に、従来周知の技術の例として示された甲第9号証(特に、第2図及び第3図の「座金9」を参照。)には、ナットの座面とシールワッシャーとの間にスペーサ(座金)を介在させたものが記載されている。
しかし、上記甲第3号証ないし甲第9号証には、頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5のシールリング9を、シールワッシャとすることを示唆する記載はない。

甲第1号証には、「シール・弛み止めボルトに係り、ボルト頭の締結座面に、ボルト軸心を囲繞する凹陥部を形成してこの凹陥部に弾性・可撓性のシールリングを嵌合し、該シールリングの外周壁面を締結座面より求心方向に傾斜して突出させることによって、シール止め効果と弛み止め効果を図ったものである」(前記「第4 1(1)」を参照。)と記載されており、この弛み止め効果は、頭付きボルト1の締結座面と被締結材14との間に、シールリング9のみが存在することにより奏されると解される。
一方、甲第2号証に記載された発明の密封座金にあっては、ボルト42と蓋部材34との間に、枠体12と弾性体20とからなる密封座金が存在するから、ボルトの締結座面と密封座金の枠体12との間で滑りが生じて弛みが発生すると解される。
そうすると、仮に、甲第1号証に記載された発明Aにおいて、頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5のシールリング9を、甲第2号証に記載された発明のようなシールワッシャとすると、甲第1号証に記載された発明Aが本来奏する弛み止め効果が失われることになるから、阻害要因となり、適用する動機付けがあるとはいえない。

一方、本件発明1は、水道管のフランジ部の締結において、「ボルト2又はナット3の座面20・30とフランジ部40との間にボルト孔40sを密封するためのシールワッシャ101を介在する。シールワッシャ101は、フランジ部側となる端面にボルト孔40sの周縁部位40fと密接するためのシール面110fが設定され、弾性部材で形成され且つボルト2の軸部21を挿通させる挿通孔110sを有する環状をなすシール部材110と、シール部材110よりも硬質の枠部材111とを有する」(本件特許明細書段落【0005】)ものを前提技術とし、「シール部材110(ボルトの軸部21)とボルト孔40sとが同軸になるように位置合わせしながら、ボルト2及びナット3を締め付けるのが望ましいが、現場においては難しい作業となる。特に、現に液体漏出が生じている場合には目視が難しいので困難を極める作業である」(本件特許明細書段落【0006】)という問題を解決することを目的としている。
すなわち、本件発明1は、水道管のフランジ部の締結において、シールワッシャを設けたものに固有の課題を解決することを目的としており、上記相違点1に係る本件発明1の構成を備えることにより、シールワッシャのシール部材の「ヒレ部をボルト孔に挿入すれば、シール部材のボルト孔に対する径方向移動がヒレ部によって或る程度規制されることになり、シール部材のシール面がフランジ部のボルト孔周縁部位から脱落することを抑制することが可能となる」(本件特許明細書段落【0011】)との効果を奏するものである。

以上のことから、相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明A及び甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第9号証に記載された如くの従来周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、異議申立人は、甲第1号証に記載の発明の「シールリング(9)及び凹陥部(5)」は、本件発明1の「シールワッシャ」に相当するとした上で、相違点の一つとして、本件発明1は「前記シール部材よりも前記ボルト又はナットの座面側に配置され且つ前記シール部材よりも硬質の枠部材」であるのに対して、甲第1号証に記載の発明は、「前記シールリング(9)よりも前記ボルト(1)又はナット(12)の座面側に配置され且つボルト(1)又はナット(12)の一部分として形成されている前記シールリング(9)よりも硬質の凹陥部(5)」である点を挙げ、該相違点は、甲第2号証に記載の「枠体12」を適用し、「凹陥部(5)」を「枠部材」とすることは、当業者であれば容易に実施できる程度の事項である旨を主張している(特許異議申立書、特に、18ページ19行?24行、及び22ページ6行?9行を参照。)。
ところで、本件発明1では、「前記ボルト又はナットの座面と前記水道管のフランジ部との間に介在し、前記フランジ部に形成されたボルト孔を密封するためのシールワッシャ」と特定しているように、シールワッシャは、ボルト又はナットの座面と前記水道管のフランジ部(締結対象)との間に「介在するもの」である。
一方、甲第1号証の記載では、「シールリング9」は、ボルト1及びナット12の座面と被締結材14、15との間に介在しているのに対して、「凹陥部(5)」は、ボルト1又はナット12の一部分であって、ボルト1及びナット12の座面と被締結材14、15(締結対象)との間に介在するものではないから、該「凹陥部(5)」は、「シールワッシャ」には相当しない。
そうすると、異議申立人の、甲第1号証に記載の発明の「シールリング(9)及び凹陥部(5)」は本件発明1の「シールワッシャ」に相当する旨の主張は、失当である。
なお、甲第2号証には、本件特許明細書の段落【0002】?【0007】において従来の技術として示されたシールワッシャと、同様の技術である密封座金が記載されているにすぎない。
したがって、異議申立人の上記主張は理由がない。

(2) 本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明A、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第9号証に記載された如くの従来周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3) 本件発明4について
ア 対比
本件発明4と甲第1号証に記載された発明Bとを対比する。
甲第1号証に記載された発明Bと本件発明4との相当関係は、前記「(1)ア」に記載した甲第1号証に記載された発明Aと本件発明1との相当関係と同じである。
そして、本件発明4と甲第1号証に記載された発明Bとは次の点で一致する。
「締結対象に形成されたボルト孔にボルトを挿通し、前記ボルトの先端部にナットを取り付けて、前記ボルト及び前記ナットを締め付けて前記締結対象を締結する締結対象の締結方法であって、
前記締結対象側となる端部に前記ボルト孔の周縁部位と密接するためのシール面が設定され、弾性部材で形成され且つ前記ボルトの軸部を挿通させる挿通孔を有する環状をなすシールを、前記締結対象と前記ボルト又はナットの座面との間に介在させるとともに、前記シールに突設されたヒレ部の内周面全体を前記ボルトの軸部のうちネジ溝が形成されていない部位に密接させた状態で前記ヒレ部を前記ボルト孔に挿入し、前記ボルト及びナットを締め付けて前記締結対象を締結する締結対象の締結方法。」

一方で、両者は次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明4では、締結対象は、「水道管のフランジ部」であり、
シールは、シール部材を有する「シールワッシャ」であり、「前記フランジ部側となる端部に前記ボルト孔の周縁部位と密接するためのシール面が設定され、弾性部材で形成され且つ前記ボルトの軸部を挿通させる挿通孔を有する環状をなすシール部材を有するシールワッシャを、前記フランジ部と前記ボルト又はナットの座面との間に介在させるとともに、前記シール部材に突設されたヒレ部の内周面全体を前記ボルトの軸部のうちネジ溝が形成されていない部位に密接させた状態で前記ヒレ部を前記ボルト孔に挿入」するものであるのに対して、
甲第1号証に記載された発明Bでは、締結対象は、「被締結材14、15」であるものの、該被締結材14、15が、水道管のフランジであるか否かは明らかでなく、
シールは、頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5の「シールリング9」であり、「前記被締結材14、15側となる端部に前記ボルト挿通孔16の周縁部位と密接するためのシール面が設定され、弾性、可撓材料で形成され且つ前記頭付きボルト1の軸部を挿通させる挿通孔を有する環状をなす頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5のシールリング9を、前記被締結材14、15と前記頭付きボルト1又はナット12の座面との間に介在させるとともに、前記シールリング9に突設された臨入案内部9Bの内周面全体を前記頭付きボルト1の軸部のうちねじ部2Aが形成されていない部位に密接させた状態で前記臨入案内部9Bを前記ボルト挿通孔16に挿入」するものである点。

イ 判断
前記「(1)イ」に記載したように、甲第2号証、及び従来周知の技術の例として示された甲第3号証ないし甲第9号証には、頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5のシールリング9を、シールワッシャとすることを示唆する記載はなく、また、仮に、甲第1号証に記載された発明Bにおいて、頭付きボルト1の締結座面のボルト軸心を囲繞する凹陥部5のシールリング9を、甲第2号証に記載された発明のようなシールワッシャとすると、甲第1号証に記載された発明Bが本来奏する弛み止め効果が失われることとなるので、適用する動機付けがあるとはいえず、更に、本件発明4は、水道管のフランジ部の締結において、シールワッシャを設けたものにおける固有の課題を解決することを目的とし、上記相違点2に係る本件発明4の構成を備えることにより、「ヒレ部をボルト孔に挿入すれば、シール部材のボルト孔に対する径方向移動がヒレ部によって或る程度規制されることになり、シール部材のシール面がフランジ部のボルト孔周縁部位から脱落することを抑制することが可能となる」(本件特許明細書段落【0011】)との効果を奏するものであり、相違点2に係る本件発明4の構成は、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明B、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第9号証に記載された如くの従来周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

なお、異議申立人の、「シールリング(9)及び凹陥部(5)」は、本件発明4の「シールワッシャ」に相当するとした上で、本件発明4は当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張(特許異議申立書、特に、24ページ17行を参照。)は、前記「(1)イ」に記載したとおり、理由がない。

(4) 本件発明5?7について
本件発明5ないし7は、本件発明4を更に減縮したものであるから、上記本件発明4についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明B、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第9号証に記載された如くの従来周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5) 小括
以上のことから、本件発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明(発明A及び発明B)、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第9号証に記載された如くの従来周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-08-22 
出願番号 特願2012-71777(P2012-71777)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (F16B)
P 1 651・ 121- Y (F16B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 保田 亨介  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6026122号(P6026122)
権利者 株式会社水道技術開発機構
発明の名称 シールワッシャ及び流体管フランジ部の締結方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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