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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 一部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1332278
異議申立番号 異議2017-700594  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-13 
確定日 2017-09-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6045964号発明「ホウフッ化物イオン含有排水の処理方法およびホウフッ化物イオン含有排水の処理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6045964号の請求項1及び4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6045964号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成25年4月5日に出願したものであって、平成28年11月25日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人伊勢川和江により請求項1及び4に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

2 本件特許発明
特許第6045964号の請求項1?6の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1及び4の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」、「本件特許発明4」という。)は、次のとおりである。

【請求項1】
ホウフッ化物イオンを含む排水にアルミニウム化合物を添加し、前記ホウフッ化物イオンを分解する分解工程と、
前記分解工程で生成したフッ化物イオンを含む分解処理水にカルシウム化合物を添加し、前記フッ化物イオンを固形化する固形化工程と、
前記固形化工程で生成した汚泥を固液分離する固液分離工程と、
を含み、
前記分解工程は、第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解工程と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解工程と、を含むことを特徴とするホウフッ化物イオン含有排水の処理方法。
【請求項4】
ホウフッ化物イオンを含む排水にアルミニウム化合物を添加し、前記ホウフッ化物イオンを分解する分解手段と、
前記分解手段で生成したフッ化物イオンを含む分解処理水にカルシウム化合物を添加し、前記フッ化物イオンを固形化する固形化手段と、
前記固形化手段で生成した汚泥を固液分離する固液分離手段と、
を備え、
前記分解手段は、第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解手段と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解手段と、を備えることを特徴とするホウフッ化物イオン含有排水の処理装置。

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、以下の甲第1号証?甲第6号証を提出し、本件特許発明1及び4は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許発明1及び4は、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基づいて、甲第1号証?甲第4号証に記載される当業者に周知の技術常識をもとに、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反しているから、本件特許発明1及び4に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
(証拠一覧)
甲第1号証:林建樹他、反応装置の設計、有機合成化学、1961年、第19巻、第6号、第429?437頁
甲第2号証:福田正他、ホウ素およびフッ素処理、表面技術、2004年、第55巻、第8号、第506?510頁
甲第3号証:後藤克己他、アルミニウムイオン存在下におけるテトラフルオロホウ酸イオンの加水分解速度、日本化学会講演予稿集、1993年、第66巻、第485頁
甲第4号証:渡会正三、液相反応、化学工業、1961年、第25巻、第2号、第114?123頁
甲第5号証:特許第4338705号公報
甲第6号証:特許第4954131号公報

4 甲号証の記載
(1)甲第1号証の記載事項(下線は当審が付した。以下同じ。)
ア 「反応装置の操作方式として回分式と連続式があることについては前にふれたが,回分式は作業のはじめに装置内に反応物質を仕こみ,反応を進行させて,適当な時に作業を停止し反応生成物をとり出すもので,装置内では反応物質の組成は時間的に変化する。連続式は装置の一端から原料を導入して他端から生成物を連続的にとりだすもので,組成の時間的変化はないが装置内の組成分布,すなわち流動状態により二つにわけられる。その一つは装置内の組成が一様で完全混合の状態にあるもので完全混合型とよばれ,かくはん槽によって代表されるものである。他の一つは流体が押出し流れをしていて,進行方向に混合がなく,流れ方向に組成分布があるもので押出し流れ型と呼ばれ管式反応器によって代表されるものである。・・・。この場合,完全混合型の反応装置をいくつかに分割して直列に連結すれば,各装置の出口濃度に相当する反応速度で反応が進行するから単一の完全混合型装置の容積よりも多段装置の全体容積は小さくなり,段数が増えるにつれて押出し流れ型に近づく。これらの組成分布については図3に,同一の反応率を与える所要装置容積の比較を1次反応について図4に示す。この混合による影響の大きさは反応速度が濃度に依存する度合すなわち反応次数で異なり,0次反応では影響は全くなく,反応次数が1次,2次,3次と高次になるにしたがって影響は大になる。」(第431頁右欄下から3行?第432頁左欄末行)
イ 「

」(第432頁右欄)
図4から、上記アの記載事項を参酌すると、完全混合型連続反応装置で1次反応を行う場合、単一の完全混合型装置の容積よりも多段装置の全体容積は小さくなり,段数が増えるにつれて押出し流れ型に近づくことが見て取れる。

(2)甲第2号証の記載事項
「3.2.2 カルシウム塩およびアルミニウム塩添加によるホウフッ酸の沈殿分離
・・・。このためアルミニウム塩を添加し,BF_(4)^(-)錯塩を分解した後CaF_(2)の沈殿を作る方法がとられる。
3HBF_(4)+2AlCl_(3)+9H_(2)O→2H_(3)AlF_(6)+6HCl+3H_(3)BO_(3)
…………………(3)
2H_(3)AlF_(6)+6Ca(OH)_(2)→6CaF+2Al(OH)_(3)+3H_(2)O
…………………(4)」(第509頁左欄第1?11行)

(3)甲第3号証の記載事項
「【緒言】・・・。そこで、今回、BF_(4)^(-)の加水分解に及ぼす諸条件の影響を調べた。
・・・
【結果及び考察】・・・。さらに,Al^(3+)が存在するとBF_(4)^(-)の加水分解速度は非常に大きくなった。この場合,BF_(4)^(-)の加水分解速度は,BF_(4)^(-)濃度,及び,Al^(3+)濃度のそれぞれ一次に比例することがわかった。・・・」(第485頁左下欄)

(4)甲第4号証の記載事項
ア 「2・3 撹拌槽式連続反応器
・・・
b.転換率の計算 次の表-2に計算式を示す。
さて2A→R,A+B→Rの形の2次反応の多段槽(各槽等温等容)の場合は・・・。
図1に2A→R,A+B→R(M=1)の場合の計算図を示す。」(第115頁右欄第18行?第116頁右欄第5行)
イ 「

」(第117頁)
図1から、上記アの記載事項を参酌すると、撹拌槽式連続反応器の多段槽(各槽等温等容)で2次反応を行う場合、k_(r)C_(A0)θ_(T)が一定、すなわち、滞留時間θ_(T)が一定の場合には、段数mが増加するほど、転換率x_(A)は高くなることが見て取れる。

(5)甲第5号証の記載事項及び甲第5号証に記載された発明
ア 甲第5号証の記載事項
(ア)「【0010】
即ち、本発明は、ホウフッ化物イオン、さらに所望によりホウ素イオンおよび/またはフッ素イオンを含む廃液の処理方法であって、前記廃液にpH3以下、好ましくはpH2以下で多価金属イオンを添加し35℃以上、好ましくは40℃以上に加熱してホウフッ化物イオンをホウ素イオンとフッ素イオンに分解した後、消石灰を添加してpH10以上でフッ素イオンをフッ化カルシウムにして不溶化し、35℃以下に冷却してから凝集剤として硫酸アルミニウムを添加し、生じた凝集物を濾過除去する工程を含むことを特徴とする方法である。」
(イ)「【0022】
実施例3
ホウフッ化物イオン1g/lを含む溶液200mlを45℃まで加熱し、アルミニウムイオン150mg相当量の水酸化アルミニウムを添加し、塩酸でpH2にして、分解時間として60分間撹拌した後、20重量%の消石灰懸濁液でpH11.5として30分間撹拌した。その後30℃まで冷却し、酸化アルミ換算8重量%の硫酸アルミニウム水溶液を5ml添加し、No.2の濾紙で沈殿物を除去した濾過液を分析した結果、ホウ素濃度は6.2ppm、フッ素濃度は6.8ppmであった。いずれの値も公共水域放流規制値以下であった。」

イ 甲第5号証に記載された発明
甲第5号証には、上記ア(ア)によれば、ホウフッ化物イオンを含む廃液にpH3以下で多価金属イオンを添加し、ホウフッ化物イオンをホウ素イオンとフッ素イオンに分解した後、消石灰を添加してpH10以上でフッ素イオンをフッ化カルシウムにして不溶化し、凝集剤として硫酸アルミニウムを添加して生じた凝集物を濾過除去するホウフッ化物イオンを含む廃液の処理方法が記載されているといえ、さらに、上記ア(イ)によれば、ホウフッ化物イオンを含む廃液にpH2で水酸化アルミニウムを添加して60分間撹拌した後、消石灰懸濁液でpH11.5として30分間撹拌し、硫酸アルミニウム水溶液を添加して、濾紙で沈殿物を除去することが記載されている。
これら記載を整理すると、甲第5号証には、「ホウフッ化物イオンを含む廃液にpH2で水酸化アルミニウムを添加して60分間撹拌し、ホウフッ化物イオンをホウ素イオンとフッ素イオンに分解した後、消石灰懸濁液を添加してpH11.5として30分間撹拌し、フッ素イオンをフッ化カルシウムにして不溶化し、凝集剤として硫酸アルミニウムを添加して生じた凝集物を濾過除去するホウフッ化物イオンを含む廃液の処理方法。」の発明(以下、「甲5発明1」という。)、及び、「甲5発明1の廃液の処理方法を実施するための処理装置。」の発明(以下、「甲5発明2」という。)が記載されている。

(6)甲第6号証の記載事項及び甲第6号証に記載された発明
ア 甲第6号証の記載事項
(ア)「【請求項5】
フッ素及びホウ素の化合物であるホウフッ化物含有水にアルミニウム化合物をアルミニウムとフッ素のモル比(Al/F)が0.3?1.05となるように添加し、pH2?3でホウフッ化物を分解する第一工程と、
分解により生じたフッ素を処理するために炭酸カルシウムを添加し、pH9.3で固液分離する第二工程と、
前記固液分離により得た液に塩化アルミニウムをアルミニウムとフッ素のモル比(Al/F)が5以上となるように添加し、pH6.7として固液分離によりアルミニウムを含む殿物を得る第三工程と、を含み、
前記第三工程で得たアルミニウムを含む殿物をアルミニウム化合物として、前記第一工程におけるホウフッ化物含有水の分解に用いることを特徴とするホウフッ化物含有水の処理方法。」
(イ)「【0031】
本発明によるホウフッ化物含有排水の分解処理方法の実施例について詳細に説明する。
まず、廃棄物の焼却工場における煙灰を工業用水で洗浄し、洗浄使用後の洗煙排水を第一の反応槽に導き、炭酸カルシウムミルクでpH2?3に制御した後(第一工程)、第二の反応槽において石灰乳でpH9.3に中和し、第一のシックナーにより沈降分離した(第二工程)。
次に、上澄み液を第三の反応槽に導き、上澄み液に対し、187ppmの割合で塩化アルミニウムを添加し、15分間、攪拌混合をした後、苛性ソーダを加えて、pH6.7に調整した。次いで、発生した凝集物を第二のシックナーによって沈降分離し、底部に沈降された澱物をアンダーフローより採取した(第三工程)。
なお、第一の反応槽の洗煙排水のホウフッ化物濃度は低いので、澱物添加の効果をより明確にし、評価しやすくするため、洗煙排水を採取し、ホウフッ化物濃度として22ppmとなるよう、ホウフッ化ナトリウム溶液を添加した模擬液を準備した。」

イ 甲第6号証に記載された発明
甲第6号証には、上記ア(ア)によれば、ホウフッ化物含有水にアルミニウム化合物を添加し、pH2?3でホウフッ化物を分解する第一工程と、分解により生じたフッ素を処理するためにカルシウム化合物を添加し、pH9.3で固液分離する第二工程とを含むホウフッ化物含有水の処理方法が記載されているといえる。そして、上記ア(イ)によれば、前記第一工程は、ホウフッ化物含有水を第一の反応槽に導き、炭酸カルシウムミルクでpH2?3に制御する工程といえ、前記第工程は、第二の反応槽において石灰乳でpH9.3に中和し、第一のシックナーにより沈降分離する工程といえる。
これら記載を整理すると、甲第6号証には、「ホウフッ化物含有水を第一の反応槽に導き、アルミニウム化合物を添加し、pH2?3に制御して、ホウフッ化物を分解する工程と、分解により生じたフッ素を処理するため、第二の反応槽において石灰乳でpH9.3に中和する工程と、第一のシックナーにより沈降分離する工程とを含む、ホウフッ化物含有水の処理方法。」の発明(以下、「甲6発明1」という。)、及び、「ホウフッ化物含有水にアルミニウム化合物を添加し、pH2?3に制御してホウフッ化物を分解する第一の反応槽と、分解により生じたフッ素を処理するために石灰乳でpH9.3に中和する第二の反応槽と、沈降分離する第一のシックナーとを含む、ホウフッ化物含有水の処理装置。」の発明(以下、「甲6発明2」という。)が記載されているといえる。

5 判断
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア 本件特許発明1の「前記分解工程は、第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解工程と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解工程と、を含む」との特定事項に関して、特許異議申立人は、第1分解工程と第2分解工程とは、本件特許明細書の段落【0016】、【0026】及び【0028】の記載からみて、別の反応であることが前提であるところ、第1分解工程と第2分解工程のpHを共にpH2とすることは別反応といえず、前記特定事項を含む本件特許発明1は不明確である旨を主張している(特許異議申立書第7頁第12行?第8頁第6行)。
しかしながら、本件特許発明1の上記特定事項の第1分解工程と第2分解工程は、それぞれ異なる分解槽で反応させることを特定しており、第1分解工程と第2分解工程のpHを共にpH2としたとしても、それぞれ、別の分解槽で行う、異なる反応工程であるといえるから、上記発明特定事項は明確である。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

イ 特許異議申立人は、本件特許発明4の「前記分解手段は、第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解手段と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解手段と、を備える」との特定事項についても同様に不明確である旨を主張している(特許異議申立書第7頁第12行?第8頁第6行)が、上記アで検討したとおり、本件特許発明4についても明確であるから、特許異議申立人の主張は採用できない。

(2)特許法第29条第2項について
ア 甲第5号証に記載された発明との対比・検討
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲5発明1とを対比すると、甲5発明1の「ホウフッ化物イオンを含む廃液」に「水酸化アルミニウムを添加して60分間撹拌し、ホウフッ化物イオンをホウ素イオンとフッ素イオンに分解」すること、「ホウ素イオンとフッ素イオンに分解」した「廃液」に「消石灰懸濁液を添加してpH11.5として30分間撹拌し、フッ素イオンをフッ化カルシウムにして不溶化」すること、「フッ素イオンをフッ化カルシウムにして不溶化」した「廃液」に「凝集剤として硫酸アルミニウムを添加して生じた凝集物を濾過除去する」こと、及び、「ホウフッ化物イオンを含む廃液の処理方法」は、それぞれ、本件特許発明1の「ホウフッ化物イオンを含む排水にアルミニウム化合物を添加し、前記ホウフッ化物イオンを分解する分解工程」、「前記分解工程で生成したフッ化物イオンを含む分解処理水にカルシウム化合物を添加し、前記フッ化物イオンを固形化する固形化工程」、「前記固形化工程で生成した汚泥を固液分離する固液分離工程」、及び、「ホウフッ化物イオン含有排水の処理方法」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲5発明1とは、
「ホウフッ化物イオンを含む排水にアルミニウム化合物を添加し、前記ホウフッ化物イオンを分解する分解工程と、
前記分解工程で生成したフッ化物イオンを含む分解処理水にカルシウム化合物を添加し、前記フッ化物イオンを固形化する固形化工程と、
前記固形化工程で生成した汚泥を固液分離する固液分離工程と、
を含むホウフッ化物イオン含有排水の処理方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件特許発明1の「分解工程」は、「第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解工程と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解工程」を含むのに対して、甲5発明1の「分解工程」は、pH2で分解を行うことが特定されているのみである点。
上記相違点1について検討すると、甲第5号証には、上記4(5)ア(イ)によれば、ホウフッ化物イオンを含む溶液の少量(200ml)に対して水酸化アルミニウム、消石灰懸濁液、硫酸アルミニウム水溶液を順次添加して反応させていることが記載されているから、甲5発明1の分解工程及び固形化工程の一連の工程は、1つの容器内で操作する、一般に回分式反応器といわれる装置で処理していると理解するのが自然である。
一方、上記4(1)ア及びイの甲第1号証の記載事項、及び、上記4(4)ア及びイの甲第4号証の記載事項によれば、撹拌槽式連続反応器で反応次数が1次以上の反応を行う場合、同じ合計滞留時間であれば反応器の段数が増えるに従って反応率が大きくなることは、技術常識といえる。そして、上記4(2)の甲第2号証の記載事項、及び、上記4(3)の甲第3号証の記載事項によれば、ホウフッ化物イオンのアルミニウム化合物による分解反応は2次反応であるといえるから、撹拌槽式連続反応器でホウフッ化物イオンのアルミニウム化合物による分解反応を行う場合にも、同じ合計滞留時間であれば反応器の段数が増えるに従って反応率が大きくなることは、技術常識といえる。
しかしながら、これら技術常識は、撹拌式連続反応器における技術常識であって、回分式反応器で処理している甲5発明1には適用できないから、甲5発明1のpH2で分解を行う分解工程の反応器の段数を増やして、第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2で反応させる第1分解工程と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2でさらに反応させる第2分解工程とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。

(イ)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲5発明2とを対比すると、少なくとも、甲5発明2は「第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解手段と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解手段」を備えることが特定されていない点で、本件特許発明4と相違している(相違点2)。
上記相違点2について検討すると、上記(ア)で検討したと同様に、甲5発明2は、回分式反応器を用いた処理装置と理解するのが自然であるから、撹拌槽式連続反応器の技術常識は適用できない。
よって、甲5発明2において、「第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解手段と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解手段」を備えることは、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、上記技術常識があるので、甲第5号証に記載された発明において、運転条件を同じにして単に槽を直列多段にすることは、当業者の常套手段にすぎない旨を主張している(特許異議申立書第10頁第12?16行)。
しかしながら、上記(ア)及び(イ)で検討したとおり、甲第5号証に記載された発明は、回分式反応器を用いたものであり、撹拌槽式連続反応器の技術常識を組み合わせることができないから、特許異議申立人の主張は妥当でない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び4は、甲第5号証に記載された発明に基づいて、甲第1?4号証に記載される当業者に周知の技術常識をもとに、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

イ 甲第6号証に記載された発明との対比・検討
(ア)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲6発明1とを対比すると、甲6発明1の「ホウフッ化物含有水を第一の反応槽に導き、アルミニウム化合物を添加」して「ホウフッ化物を分解する工程」、「分解により生じたフッ素を処理するため、第二の反応槽において石灰乳でpH9.3に中和する工程」、「第一のシックナーにより沈降分離する工程」、及び、「ホウフッ化物含有水の処理方法」は、それぞれ、本件特許発明1の「ホウフッ化物イオンを含む排水にアルミニウム化合物を添加し、前記ホウフッ化物イオンを分解する分解工程」、「前記分解工程で生成したフッ化物イオンを含む分解処理水にカルシウム化合物を添加し、前記フッ化物イオンを固形化する固形化工程」、「前記固形化工程で生成した汚泥を固液分離する固液分離工程」、及び、「ホウフッ化物イオン含有排水の処理方法」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲6発明1とは、
「ホウフッ化物イオンを含む排水にアルミニウム化合物を添加し、前記ホウフッ化物イオンを分解する分解工程と、
前記分解工程で生成したフッ化物イオンを含む分解処理水にカルシウム化合物を添加し、前記フッ化物イオンを固形化する固形化工程と、
前記固形化工程で生成した汚泥を固液分離する固液分離工程と、
を含むホウフッ化物イオン含有排水の処理方法」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点3)
本件特許発明1の「分解工程」は、「第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解工程と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解工程」を含むのに対して、甲6発明1の「分解工程」は、「第一の反応槽」で「pH2?3に制御」する工程である点。
上記相違点3について検討すると、甲6発明1は、第一の反応槽での分解工程と、第二の反応槽での中和工程と、第一のシックナーでの沈降分離工程とを連続して行う連続式反応器を用いた処理方法といえるから、上記ア(ア)で検討した撹拌槽式連続反応器の技術常識を適用して、甲6発明1の分解工程を多段工程とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
しかしながら、甲6発明1の分解工程は、pH2?3に制御してホウフッ化物を分解する工程であり、しかも、甲第6号証には、前記分解工程をpH2に制御することは記載も示唆もされていないから、撹拌槽式連続反応器の技術常識に基づき、甲6発明1の分解工程を2段工程にしても、それぞれの分解工程はpH2?3で実施されるだけであり、第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解工程と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解工程とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
しかも、本件特許明細書の実施例3及び比較例3?6によれば、第1分解工程と第2分解工程をpH2で行う場合(実施例3)には、両工程をpH1、3、4又は5で行う場合(比較例3?6)に比べて、効率的にホウフッ化物の分解が行われていることから、本件特許発明1は、第1分解工程をpH2以下、及び、第2分解工程をpH2?4で行うことによって、顕著な効果を奏するものと認められる。そして、このような顕著な効果を奏することは、甲第1?6号証に記載されていないし、さらに、本件特許の出願時の技術常識ともいえない。

(イ)本件特許発明4について
本件特許発明4と甲6発明2とを対比すると、甲6発明2の「ホウフッ化物含有水にアルミニウム化合物を添加」して「ホウフッ化物を分解する第一の反応槽」、「分解により生じたフッ素を処理するために石灰乳でpH9.3に中和する第二の反応槽」、「沈降分離する第一のシックナー」、及び、「ホウフッ化物含有水の処理装置」は、それぞれ、「ホウフッ化物イオンを含む排水にアルミニウム化合物を添加し、前記ホウフッ化物イオンを分解する分解手段」、「前記分解手段で生成したフッ化物イオンを含む分解処理水にカルシウム化合物を添加し、前記フッ化物イオンを固形化する固形化手段」、「前記固形化手段で生成した汚泥を固液分離する固液分離手段」、及び、「ホウフッ化物イオン含有排水の処理装置」に相当する。
したがって、本件特許発明4と甲6発明2とは、
「ホウフッ化物イオンを含む排水にアルミニウム化合物を添加し、前記ホウフッ化物イオンを分解する分解手段と、
前記分解手段で生成したフッ化物イオンを含む分解処理水にカルシウム化合物を添加し、前記フッ化物イオンを固形化する固形化手段と、
前記固形化手段で生成した汚泥を固液分離する固液分離手段と、
を備えるホウフッ化物イオン含有排水の処理装置」
の点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点4)
本件特許発明4の「分解手段」は、「第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解手段と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解手段」を備えるのに対して、甲6発明2の「分解手段」は、「pH2?3に制御」する「第一の反応槽」である点。
上記相違点4について検討すると、上記(ア)で検討したと同様に、撹拌槽式連続反応器の技術常識を考慮しても、甲6発明2の「分解手段」を「第1分解槽において前記アルミニウム化合物を添加してpH2以下で反応させる第1分解手段と、前記第1分解工程で得られた第1分解処理水を前記第1分解槽と異なる第2分解槽に送液させるとともに前記第2分解槽においてpH2?4でさらに反応させる第2分解手段」にすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲第6号証に記載された発明の分解工程のpHが2?3であることを相違点とせずに、「2段階反応」であることが記載されていない点においてのみ、本件特許発明1及び4と相違しているとした上で、上記技術常識があるので、甲第6号証に記載された発明において、運転条件を同じにして単に槽を直列多段にすることは、当業者の常套手段にすぎない旨を主張している(特許異議申立書第10頁第12?16行)。
しかしながら、上記(ア)及び(イ)で検討したとおり、甲第6号証には、分解工程のpHを2に限定することは記載されていないし、また、本件特許発明1及び4は、第1分解工程をpH2以下で実施し、第2分解工程をpH2?4で実施することで、格別顕著な効果を奏するものであるから、甲第6号証に記載された発明の分解工程のpHが2?3であることは、本件特許発明1及び4との実質的な相違点である。
したがって、特許異議申立人の主張は妥当でない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び4は、甲第6号証に記載された発明に基づいて、甲第1?4号証に記載される当業者に周知の技術常識をもとに、当業者が容易に発明をすることができたものといえない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-01 
出願番号 特願2013-79305(P2013-79305)
審決分類 P 1 652・ 537- Y (C02F)
P 1 652・ 121- Y (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 片山 真紀  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 山本 雄一
宮澤 尚之
登録日 2016-11-25 
登録番号 特許第6045964号(P6045964)
権利者 オルガノ株式会社
発明の名称 ホウフッ化物イオン含有排水の処理方法およびホウフッ化物イオン含有排水の処理装置  

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