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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01H |
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管理番号 | 1332280 |
異議申立番号 | 異議2017-700462 |
総通号数 | 214 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-10-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-05-12 |
確定日 | 2017-09-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6037709号発明「リレー及びリレー用液晶性樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6037709号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6037709号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成24年8月7日に特許出願され、平成28年11月11日に特許の設定登録がされ、同年12月7日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1ないし4に係る特許に対し、特許異議申立人東レ株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2.本件特許発明 特許第6037709号の請求項1ないし4に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定される、以下のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。) 「 【請求項1】 端子孔を有する基台と、 前記端子孔に挿通される端子と、 前記基台の表面に配置され、前記端子と電気的に接続されたリレー本体と、 前記リレー本体を覆い、前記基台とともに、前記リレー本体が収容される中空容器状を形成するカバーと、 前記端子が挿通されるスルーホールが穿設され、表面が前記基台の裏面とエポキシ系接着剤で接合される基板と、を備え、 前記基台は、液晶性樹脂と、グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位を有するエラストマーと、を含有するリレー用液晶性樹脂組成物から構成され、 前記液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであるリレー。 【請求項2】 前記エラストマーは、エチレン-グリシジルメタクリレートである請求項1に記載のリレー。 【請求項3】 前記リレー用液晶性樹脂組成物は、ガラス繊維を含み、 前記エラストマーの含有量が4質量部以上17質量部以下であり、 前記ガラス繊維の含有量が27質量部以上73質量部以下である請求項1又は2に記載のリレー。 【請求項4】 表面に電磁リレーが配置され、エポキシ系接着剤で基板と接合される基台を成形するためのリレー用液晶性樹脂組成物であって、 液晶性樹脂と、グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位を有するエラストマーと、を含有し、 前記液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであるリレー用液晶性樹脂組成物。」 第3.異議申立人の主張の概要 異議申立人は、証拠として下記の甲第1号証ないし甲4号証を提出し、本件特許発明1ないし本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第2号証に記載された事項及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものである旨の主張をしている。 甲第1号証:特開2011-137064号公報 甲第2号証:特開2010-44868号公報 甲第3号証:特開2012-142210号公報 甲第4号証:特開2006-186122号公報 第4.甲各号証について 1.甲第1号証について 甲第1号証には、「液晶ポリエステル樹脂組成物、成形品及び複合部材」に関して、次の事項が記載されている。 ア.「【0005】 前記目的を達成するため、本発明は、液晶ポリエステルと、分子内にエポキシ基を3個以上有するビスフェノール型エポキシ化合物とを含むことを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物を提供する。また、本発明によれば、この液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品も提供され、さらに、この成形品を他の部材と接着剤により接合してなる複合部材も提供される。」 イ.「【0054】 かくして得られる成形品は、優れた接着性を有し、接着剤により他部材と接合して複合部材を得るために、好適に使用される。接着剤は、例えば、熱硬化性接着剤であってもよいし、光硬化性接着剤であってもよいが、光硬化性接着剤であることが、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の接着性がより効果的に発現し、さらに硬化時間も短いことから生産性を向上させるためには適している。また、接着剤としては、例えば、通常、エポキシ系、アクリレート系、シリコーン系、ウレタン系のものが挙げられるが、エポキシ系やアクリレート系のものが好ましく、両者を併用してもよい。また、接着剤として、弾性率が200MPa以上であるものを用いると、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の接着性がより効果的に発現する。」 ウ.「【0056】 本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルが本来有する優れた特性を大きく損なうことなく、接着性に優れるため、リレー部品、金属インサート部品、カードコネクタ、FPCコネクター、光ピックアップレンズホルダ、カメラモジュール等の複合部材、その他各種用途に有用である。 【0057】 合成例(液晶ポリエステル) 攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、1-メチルイミダゾールを0.2g添加してから、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、同温度を保持して1時間還流させた。その後、1-メチルイミダゾールを0.9g添加し、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、得られた粉末を窒素雰囲気下で室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、同温度で3時間保持して、固相重合を行った。冷却して得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は327℃であった。 【0058】 実施例1、2、比較例1?3 エポキシ化合物として、次の(1)?(3)に示すものを用いた。 (1):分子内にエポキシ基を3個以上有するビスフェノール型エポキシ化合物(前記式において、RがビスフェノールAから2つのヒドロキシル基を除いてなる残基であり、nが平均で3.7の数である化合物:(株)ADEKA製「EP5400R」)。 (2):エチレンとグリシジルアクリレートとの共重合体(住友化学(株)製「ボンドファースト:BF-E」)。 (3):クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製「YDCN700-5」)。 【0059】 無機フィラーとして、ミルドガラス繊維(セントラルガラス(株)製「EFH75-01」:繊維径10μm、繊維長75μm)を用いた。 【0060】 合成例で得られた液晶ポリエステルと、表1に示すエポキシ化合物と、無機フィラーとを、表1に示す割合でドライブレンドした後、2軸押出機(池貝鉄工(株)製「PCM-30型」)を用いて、340℃で溶融押出しし、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを、射出成形機(日精樹脂工業(株)製「PS40E5ASE型」)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で射出成形し、試験片1(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ6.4mm)、試験片2(ASTM4号引っ張りダンベル)、及び試験片3(64mm角、厚さ3mmの平板)を得た。」 エ.【表1】(段落【0064】)の記載から、比較例2の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルを100重量部、エポキシ化合物(2)を5重量部、無機フィラーを67重量部含むことが分かる。 オ.上記ア.の「この液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品も提供され」との記載及び上記イ.の「本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステルが本来有する優れた特性を大きく損なうことなく、接着性に優れるため、リレー部品、金属インサート部品、カードコネクタ、FPCコネクター、光ピックアップレンズホルダ、カメラモジュール等の複合部材、その他各種用途に有用である。」との記載によれば、液晶ポリエステル樹脂組成物はリレー部品に用いられることが分かる。 カ.上記イ.の「かくして得られる成形品は、優れた接着性を有し、接着剤により他部材と接合して複合部材を得るために、好適に使用される。・・・(中略)・・・接着剤としては、例えば、通常、エポキシ系、アクリレート系、シリコーン系、ウレタン系のものが挙げられる」との記載によれば、成形品の他部材との接合にはエポキシ系接着剤が用いられることが分かる。 キ.上記ウ.の段落【0057】の「合成例(液晶ポリエステル)攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)・・・(中略)・・・を仕込み、・・・(中略)・・・プレポリマーを得た。得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、得られた粉末を窒素雰囲気下で室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、同温度で3時間保持して、固相重合を行った。冷却して得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は327℃であった。」との記載によれば、液晶ポリエステルは、パラヒドロキシ安息香酸を構成成分として有する芳香族ポリエステルであることが分かる。 これらの記載事項及び認定事項を総合し、本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されている。 「リレー部品は、液晶ポリエステルと、グリシジルアクリレートに由来する繰り返し単位を有するエポキシ化合物と、を含有するリレー部品に用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物から構成され、 前記液晶ポリエステルは、パラヒドロキシ安息香酸を構成成分として有する芳香族ポリエステルであるリレー部品。」 また、これらの記載事項、認定事項び図面の図示内容を総合し、本件特許発明4の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されている。 「エポキシ系接着剤で他部材と接合されるリレー部品を成形するためのリレー部品に用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物であって、 液晶ポリエステルと、グリシジルアクリレートに由来する繰り返し単位を有するエポキシ化合物と、を含有し、 前記液晶ポリエステルは、パラヒドロキシ安息香酸を構成成分として有する芳香族ポリエステルであるリレー部品に用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物。」 2.甲第2号証について 甲第2号証には、「電磁継電器」に関して、次の事項が記載されている。 ア.「【0006】 ところで、電磁継電器のケースおよびベースの材料としては、LPC(液晶ポリマ)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)などが考えられるが、表面実装に対応した電磁継電器においては、流動性、耐熱性、耐薬品性に優れたLCP樹脂を用いることが一般的である。」 イ.「【0044】 また、ケース23のうち少なくとも内壁凹部23aはレーザー光3を透過するLCP樹脂を材料とすることが望ましく、ベース22のうち少なくとも側壁22bはレーザー光3の少なくとも一部を吸収するLCP樹脂を材料とすることが望ましい。このような構成とすることで、溶着部41における密着強度が増し、より気密性が向上する。」 ウ.上記ア.の「電磁継電器のケースおよびベースの材料としては、LPC(液晶ポリマ)やPBT(ポリブチレンテレフタレート)などが考えられる」との記載及び上記イ.の「ベース22のうち少なくとも側壁22bはレーザー光3の少なくとも一部を吸収するLCP樹脂を材料とすることが望ましい。」との記載から、「電磁継電器のベースの材料として液晶ポリマーが用いられること。」(以下、「甲2記載の技術事項」という。)が分かる。 3.甲第3号証について 甲第3号証には、「電磁継電器」に関して、図面(図7、図8参照。)とともに次の事項が記載されている。 ア.「【0035】 (第二実施形態) 次に、本発明の第二実施形態について、図を用いて説明する。図7(a)は本実施形態の電磁継電器30の底面を示す斜視図であり、図7(b)は図7(a)のVII-VIIに沿った電磁継電器30の部分断面図で、電磁継電器30をプリント基板100に実装した状況を示している。 【0036】 本実施形態の電磁継電器30は、プリント基板実装型の電磁継電器であり、その内部においてボビンにコイルが巻き付けられた電磁石及びその電磁石のコイルの励磁に反応して動作する接点部が設けられている(図示しない)。上述のボビンや電磁石及び接点部等は、図7(a)に示すベース32及びカバー33からなるケース本体31の内部に組み込まれており、電磁石のコイルや接点部に通電する端子34a?34e(以下、これらをまとめて端子34と記載する場合がある)が、ベース32から貫通孔を通して延びている。 【0037】 本実施形態では、それぞれの端子34a?34eの根元部分の周辺を囲うよう、ベース32から外方向に隆起した隆起部35a?35e(以下、これらをまとめて隆起部35と記載する場合がある)を設け、端子34の根元部分と隆起部35との間に形成された空隙部36にクッションとして低硬度接着剤37を充填している。端子34がベース32にクッションとなる低硬度接着剤37を介して固定されるので、端子34からベース32に伝播する振動が抑制され、電磁継電器30の静音性を向上させることができる。 【0038】 低硬度接着剤37が振動の伝播を抑制するためには、その硬度(JIS-A(JIS K6253))が40から50程度であるのがよく、本実施形態では、その性質を満たす接着剤としてウレタン樹脂を用いている。ウレタン樹脂は、硬度が45以上、伸びが150%以上、引張強さが2Mpa以上の性質を有しており、電磁継電器30の振動を抑制するのに好適である。また、低硬度接着剤37にゴムを利用することも可能であるが、空隙部36への充填の容易性からウレタン樹脂のほうが望ましい。また、通常、電磁継電器30をプリント基板100に実装する場合、エポキシ樹脂が利用されているが、エポキシ樹脂はその硬度が85以上あるので、クッションとして振動を抑制することが難しい。」 イ.上記ア.の段落【0036】の「端子34a?34e(以下、これらをまとめて端子34と記載する場合がある)」との記載、及び【図7】(b)を併せてみれば、プリント基板100には、端子34が挿通されるスルーホールが穿設されていることが分かる。 これらの記載事項、認定事項び図面の図示内容を総合し、本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されている。 「貫通孔を有するベース32と、 前記貫通孔に挿通される端子34と、 前記ベース32の表面に配置され、前記端子34と電気的に接続された電磁石及び接点部と、 前記電磁石及び接点部を覆い、前記ベース32とともに、前記電磁石及び接点部が収容される中空容器状を形成するカバー33と、 前記端子34が挿通されるスルーホールが穿設され、表面が前記基台の裏面と低粘度接着剤37で接合されるプリント基板100と、を備える電磁継電器30。」 また、これらの記載事項、認定事項び図面の図示内容を総合し、本件特許発明4の記載ぶりに則って整理すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されている。 「表面に電磁石及び接点部が配置され、低粘度接着剤37でプリント基板100と接合されるベース32。」 4.甲第4号証について 甲第4号証には、「固体撮像素子収納ケース用組成物、固体撮像素子収納ケースおよび固体撮像装置」に関して、次の事項が記載されている。 ア.「【0054】 下記の実施例、比較例、参考例に使用した材料は以下のとおりである。 (B)無機板状フィラー:タルク(日本タルク(株)製 X-50) (C)無機針状フィラー:ホウ酸アルミニウムウィスカ(四国化成(株)製 アルボレックスYS3A、繊維径=0.5?1μm、繊維長=10?30μm、熱伝導率=5.6W/mK) (D)ガラス繊維:旭グラスファイバー(株)製 CS03JAP (繊維径=10μm) (E)エポキシ基含有エチレン共重合体:エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学(株)製 ボンドファースト BF-E(グリシジルメタクリレート含有量12重量%、MFR=3g/10分)」 イ.上記ア.の「エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学(株)製 ボンドファースト BF-E」との記載から、「住友化学(株)製のボンドファーストBF-Eは、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体であること。」(以下、「甲4記載の技術事項」という。)が分かる。 第5.対比・判断 1.本件特許発明1について ア.対比 本件特許発明1と甲3発明1とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、甲3発明1における「貫通孔」は、本件特許発明1における「端子孔」に相当し、以下同様に、「ベース32」は「基台」に、「端子34」は「端子」に、「電磁石及び接点部」は「リレー本体」に、「カバー33」は「カバー」に、「プリント基板100」は「基板」に、「電磁継電器30」は「リレー」に、それぞれ相当する。 また、甲3発明1における「低粘度接着剤37」は、「接着剤」という限りにおいて、本件特許発明1における「エポキシ系接着剤」と共通する。 したがって、本件特許発明1と甲3発明1とは、 [一致点] 「端子孔を有する基台と、 前記端子孔に挿通される端子と、 前記基台の表面に配置され、前記端子と電気的に接続されたリレー本体と、 前記リレー本体を覆い、前記基台とともに、前記リレー本体が収容される中空容器状を形成するカバーと、 前記端子が挿通されるスルーホールが穿設され、表面が前記基台の裏面と接着剤で接合される基板と、を備える電磁継電器30。」 の点で一致し、以下の各点で相違している。 [相違点1] 本件特許発明1においては、「基台」の材料が「液晶性樹脂と、グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位を有するエラストマーと、を含有するリレー用液晶性樹脂組成物から構成され、前記液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、及び芳香族ジアミンからなる群より選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドである」とともに、「基台」と「基板」とが「エポキシ系接着剤で接合される」のに対し、甲3発明1においては、ベース32の材料が明らかでなく、ベース32とプリント基板100とが低粘度の接着剤37で接合される点。 イ.判断 上記相違点1について検討する。 本件特許発明1と甲1発明1とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、甲1発明1における「液晶ポリエステル」は、本件特許発明1における「液晶性樹脂」に相当し、以下同様に、「エポキシ化合物」は「エラストマー」に、「リレー部品に用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物」は「リレー用液晶性樹脂組成物」に、「パラヒドロキシ安息香酸」は「芳香族ヒドロキシカルボン酸」に、それぞれ相当する。 また、甲1発明1における「リレー部品」は、「リレー部品」という限りにおいて、本件特許発明1における「基台」と共通する。 そして、甲1発明1における「グリシジルアクリレート」は、「グリシジル(メタ)アクリレート」という限りにおいて、本件特許発明1における「グリシジルメタクリレート」と共通する。 そうすると、甲1発明1は、本件特許発明1の用語を用いて表現すると、 「リレー部品は、液晶性樹脂と、グリシジル(メタ )アクリレートに由来する繰り返し単位を有するエラストマーと、を含有するリレー用液晶性樹脂組成物から構成され、 前記液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸を構成成分として有する芳香族ポリエステルであるリレー部品。」 ということができる。 してみると、甲1発明1における「エラストマー」は、「グリシジルアクリレートに由来する繰り返し単位を有するエポキシ化合物」であって、「グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位を有するエポキシ化合物」を含有するものではないから、甲3発明1に甲1発明1を仮に適用することができたとしても、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とはならない。 ここで、甲第1号証の段落【0058】の「(2):エチレンとグリシジルアクリレートとの共重合体(住友化学(株)製「ボンドファースト:BF-E」)」との記載に関し、甲4記載の技術事項を参酌すれば、甲第1号証の同記載における「グリシジルアクリレート」が「グリシジルメタクリレート」を意味することが明らかであるとし、かつ、甲1発明1における「リレー部品に用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物」における「リレー部品」が「リレー」のどの部品にであるか明らかでないが、甲2記載の技術事項から、リレーの「基台」に用いられる材料として液晶性樹脂組成物が知られているとして、甲3発明1のベース32に甲1発明1を適用することが容易であるか否かについて検討する。 甲3発明1は、甲第3号証の段落【0038】に「そのエポキシ樹脂はその硬度が85以上あるので、クッションとして振動を抑制することが難しい。」と記載されているように、ベース32とプリント基板100との接合のための接着剤として硬度が85以上であるエポキシ系接着剤を用いることを前提とするものではない。 そうすると、リレーの「基台」に液晶性樹脂組成物が用いられることが知られているとしても、ベース32とプリント基板100との接合にエポキシ系接着剤を用いない甲3発明1のベース32の材料として、他部材との接合にエポキシ系接着剤を用いる甲1発明1を適用する一方で、甲3発明1におけるベース32とプリント基板100との接合に用いられる「低粘度接着剤37」を「エポキシ系接着剤」とすることには阻害要因があることとなる。 よって、甲3発明1に甲1発明1を適用することが容易であったということはできない。 したがって、本件特許発明1は、甲3発明1及び甲1発明1並びに甲2記載の技術事項及び甲4記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 ウ.異議申立人の主張について 異議申立人は、「しかしながら、甲1発明においても芳香族ヒドロキシカルボン酸の一種であるパラヒドロキシ安息香酸を用いて合成された液晶ポリエステルでリレー部品を構成していることからすれば、当業者であれば甲1発明を甲3発明と組み合わせることにより本件特許発明1に容易に想到し得る。」旨の主張をしている(特許異議申立書第12ページ第11行ないし14行を参照。)。 しかしながら、上記イ.で検討したように、甲1発明を甲3発明と組み合わせることには阻害要因があるため、異議申立人の上記主張は採用できない。 2.本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3に係る発明は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えた発明であるところ、上記「1.本件特許発明1について」で記載したとおり、本件特許発明1は、甲3発明1及び甲1発明1並びに甲2記載の技術事項及び甲4記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、本件特許発明2及び3についても、本件特許発明1と同様に、甲3発明1及び甲1発明1並びに甲2記載の技術事項及び甲4記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 3.本件特許発明4について ア.対比 本件特許発明4と甲1発明2とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、甲1発明2における「リレー部品に用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物」は、本件特許発明4における「リレー用液晶性樹脂組成物」に相当し、以下同様に、「液晶ポリエステル」は「液晶性樹脂」に、「エポキシ化合物」は「エラストマー」に、「パラヒドロキシ安息香酸」は「芳香族ヒドロキシカルボン酸」に、それぞれ相当する。 また、甲1発明2における「他部材」は、「他部材」という限りにおいて、本件特許発明4における「基板」と共通し、甲1発明2における「リレー部品」は、「リレー部品」という限りにおいて、本件特許発明4における「基台」と共通する。 そして、甲1発明2における「グリシジルアクリレート」は、「グリシジル(メタ)アクリレート」という限りにおいて、本件特許発明4における「グリシジルメタクリレート」と共通する。 したがって、本件特許発明4と甲1発明2とは、 [一致点] エポキシ系接着剤で他部材と接合されるリレー部品を成形するためのリレー用液晶性樹脂組成物であって、 液晶性樹脂と、グリシジル(メタ)アクリレートに由来する繰り返し単位を有するエラストマーと、を含有し、 前記液晶性樹脂は、芳香族ヒドロキシカルボン酸を構成成分として有する芳香族ポリエステルであるリレー用液晶性樹脂組成物。」 の点で一致し、以下の各点で相違している。 [相違点2] 本件特許発明4においては、「基台」が「表面に電磁リレーが配置され、エポキシ系接着剤で基板と接合される」のに対し、甲1発明2においては、リレー部品の構成が明らかでない点。 [相違点3] 「エラストマー」が、本件特許発明4においては、「グリシジルメタクリレートに由来する繰り返し単位を有する」のに対し、甲1発明2においては、「グリシジルアクリレートに由来する繰り返し単位を有する」点。 イ.判断 上記相違点2について検討する。 本件特許発明4と甲3発明2とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、甲3発明2における「電磁石及び接点部」は、本件特許発明4における「電磁リレー」に相当し、以下同様に、「プリント基板100」は「基板」に、「ベース32」は「基台」に、それぞれ相当する。 また、甲3発明2における「低粘度接着剤37」は、「接着剤」という限りにおいて、本件特許発明4における「エポキシ系接着剤」と共通する。 そうすると、甲3発明2は、本件特許発明4の用語を用いて表現すると、 「電磁リレーが配置され、接着剤で基板と接合される基台。」 ということができる。 上記1.イで検討したように、甲3発明2は、ベース32とプリント基板100との接合にエポキシ系接着剤を用いるものではない。 そうすると、他部材との接合にエポキシ系接着剤を用いることを前提とする甲1発明2に、エポキシ系接着剤を用いない甲3発明2を適用することには阻害要因があることとなり、甲1発明2に甲3発明2を適用することはできない。 したがって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1発明2及び甲3発明2並びに甲2記載の技術事項及び甲4記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。 第6.むすび 以上のとおり、異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-08-28 |
出願番号 | 特願2012-175437(P2012-175437) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(H01H)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 出野 智之 |
特許庁審判長 |
中村 達之 |
特許庁審判官 |
滝谷 亮一 中川 隆司 |
登録日 | 2016-11-11 |
登録番号 | 特許第6037709号(P6037709) |
権利者 | ポリプラスチックス株式会社 |
発明の名称 | リレー及びリレー用液晶性樹脂組成物 |
代理人 | 正林 真之 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 細田 浩一 |
代理人 | 伴 俊光 |