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審決分類 審判 全部申し立て 1項1号公知  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1332289
異議申立番号 異議2017-700637  
総通号数 214 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-10-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-21 
確定日 2017-09-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6048599号発明「内用液剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6048599号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6048599号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成28年2月2日(優先権主張平成27年5月20日)に特許出願され、平成28年12月2日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 遠藤 真治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6048599号の請求項1?4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、特許第6048599号の請求項1?4に係る発明を、その請求項に付された番号順に、「本件特許発明1」等という。)。

「 【請求項1】
(A)肝臓水解物、(B)ウコン抽出物並びに(C)キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上を含有し、pHが3.5以下である内用液剤。

【請求項2】
成分(A)の含有量が0.001?1.0w/v%、成分(B)の含有量がクルクミンとして0.005?0.1w/v%、成分(C)の含有量が0.02?0.2w/v%である請求項1記載の内用液剤。

【請求項3】
さらに微結晶セルロースを含有する請求項1又は2記載の内用液剤。

【請求項4】
さらに二酸化炭素を含有する請求項1?3のいずれか1項記載の内用液剤。」

第3 申立理由の概要及び提出した証拠
1.申立理由の概要
(1)甲第10号証に示す公知の製品1に基づく特許法第29条第1項第1号
本件特許発明1及び3は、甲第10号証に示す公知の製品1により新規性がないから、本件特許発明1及び3は、特許法第29条第1項第1号の規定に違反したものであり、同法第113条第2号に該当する。(以下、「申立理由1」という。)

(2)甲第10号証に示す公知の製品1を主引用発明とする特許法第29条第2項
本件特許発明1及び3は、甲第10号証に示す公知の製品1、甲第2号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明2は、甲第10号証に示す公知の製品1、甲第2号証及び甲第9号証、並びに、甲第3号証、甲第5号証及び甲8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明3は、甲第10号証に示す公知の製品1及び甲第19号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明4は、甲第10号証に示す公知の製品1、甲第2号証及び甲第9号証、並びに、甲第4号証及び甲6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反したものであり、同法第113条第2号に該当する。(以下、「申立理由2」という。)

(3)甲第1号証に記載の発明を主引用発明とする特許法第29条第2項
本件特許発明1,3及び4は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明2は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第9号証、並びに、甲第3号証、甲第5号証及び甲第8号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反したものであり、同法第113条第2号に該当する。(以下、「申立理由3」という。)

(4)甲第3号証に記載の発明を主引用発明とする特許法第29条第2項
本件特許発明1及び2は、甲第3号証、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明3は、甲第3号証、甲第1号証、甲第5号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明4は、甲第3号証、甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反したものであり、同法第113条第2号に該当する。(以下、「申立理由4」という。)

(5)甲第4号証に記載の発明を主引用発明とする特許法第29条第2項
本件特許発明1及び4は、甲第4号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明2は、甲第4号証、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明3は、甲第4号証、甲第1号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反したものであり、同法第113条第2号に該当する。(以下、「申立理由5」という。)

(6)甲第5号証に記載の発明を主引用発明とする特許法第29条第2項
本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明2は、甲第5号証及び甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明3は、甲第5号証及び甲第9号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許発明4は、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反したものであり、同法第113条第2号に該当する。(以下、「申立理由6」という。)


(なお、上記(1)の「申立理由1」について、特許異議申立書第1頁の「3.申立ての理由」においては、「特許法第29条第1項3号(請求項1)」と記載されている。しかしながら、同申立書の第4頁の「理由の要点」の欄の記載及びその他の記載からみて、甲第10号証を証拠とする新規性違反に関する申立ての理由は、特許法第29条第1項1号であり、且つ対象請求項は請求項1及び3であると認められるので、同申立書の第1頁の「特許法第29条第1項3号(請求項1)」は、「特許法第29条第1項1号(請求項1及び3)」の誤記であるものと解し、甲第10号証は特許法第29条第1項1号の証拠として取り扱った。)


2.証拠方法
(1)甲第1号証:特開2015-91768号公報
(2)甲第2号証:特開2011-250707号公報
(3)甲第3号証:国際公開WO2013/161631
(4)甲第4号証:特開2013-95670号公報
(5)甲第5号証:特開2015-67593号公報
(6)甲第6号証:特開2015-65938号公報
(7)甲第7号証:特開2013-179918号公報
(8)甲第8号証:特開2011-68569号公報
(9)甲第9号証:特開2009-219370号公報
(10)甲第10号証:ゼリア新薬工業株式会社「ヘパリーゼW(賞味期限150911)」の外観写真、撮影日:2016年12月27日
(11)甲第11号証:ゼリア新薬工業株式会社「ヘパリーゼW(賞味期限2017.10)」の外観写真、撮影日:2017年5月25日
(12)甲第12号証:セブン-イレブンのお届けサービスウェブサイト「ゼリア新薬ヘパリーゼW 100mL」のページ(https://7-11net.omni7.jp/detail/470149)(平成29年6月10日確認)
(13)甲第13号証:一般財団法人流通システム開発センターウェブサイト「JANコードの作成手順」のページ(http://www.dsri.jp/jan/procedure.html)(平成29年6月10日確認)
(14)甲第14号証:株式会社北陸環境科学研究所 試験検査結果書 環研第16D-0198903号 平成29年5月19日
(15)甲第15号証:株式会社北陸環境科学研究所 試験検査結果書 環研第16D-0198901号 平成29年5月19日
(16)甲第16号証:株式会社北陸環境科学研究所 試験検査結果書 環研第16D-0198902号 平成29年5月19日
(17)甲第17号証:ゼリア新薬工業株式会社ウェブサイト 2011年11月22日付プレスリリース-コンビニエンスストア向け肝臓エキス・ウコンエキス配合ドリンク「ヘパリーゼ(R)W(ダブル)」(清涼飲料水)新発売のお知らせ-のページ(http://www.zeria.co.jp/image/upimg/mv13219412261.pdf)(平成29年6月10日確認)
(18)甲第18号証:厚生労働省ウェブサイト 厚生労働省行政情報 既存添加物名簿収載品目リストのページ(http://www.ffcr.or.jp/zaidan/MHWinfo.nsf/a11c0985ea3cb14b492567ec002041df/c3f4c591005986d949256fa900252700?OpenDocument) (平成29年6月15日確認)の第1頁及び番号250、251、280、353の該当頁
(19)甲第19号証:谷村顕雄,第8版食品添加物公定書解説書,D-1322?D-1326,株式会社廣川書店

(以下、「甲第1号証」?「甲第19号証」をそれぞれ「甲1」?「甲19」という。)

第4 甲1?19に記載された事項
1.甲1
ア.「肝臓加水分解物とウコンエキスとを配合し、肝臓加水分解物とビサクロンの含有比が質量比で100:0.015?100:5.25であり、かつ、pHが4.0以下である肝臓加水分解物含有液状組成物。」(請求項1)

イ.「

」(表1)

ウ.「他の成分
本発明の液状組成物は、水に上記の肝臓加水分解物とウコンエキスを配合するものであるが、一又は複数の他の成分を更に含有してもよい。他の成分は・・・増粘剤、乳化剤、酸化防止剤などが挙げられる。・・・」(【0017】)

エ.「増粘剤としては、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。」(【0022】)

オ.「本発明の液状組成物のpHは5以下であれば特に限定されないが、pH4以下が好ましい。・・・pH値が5よりも高い場合には肝臓加水分解物の特有の不快臭及び雑味の低減効果が得られず、また、ウコンエキスに起因する不快な呈味が感じられるという問題がある。・・・」(【0026】)

カ.「 本発明の液状組成物は、液状食品(飲料)として提供されてもよいし、液状の経口投与用の医薬品(内服液)として提供されてもよいが、好ましくは飲料である。また、飲料は、嗜好性により、炭酸を含む炭酸飲料、ゲル化剤(デンプン、寒天、増粘剤等)を含むゼリー飲料としてもよい。」(【0028】)

2.甲2
ア.「ウコン抽出物を含有するウコン飲料と、該飲料を収容する容器とを備える容器詰ウコン飲料であって、(A)ウコン抽出物が、微粒子化されたウコン抽出物を含有し、(B)ウコン抽出物が二価の金属イオンを含有し、(C)ウコン飲料のpHが3.2以上である、ことを特徴する容器詰ウコン飲料。」(請求項1)

イ.「微粒子化されたウコン抽出物の粒子径は好ましくは以下の特徴の少なくとも一方、より好ましくは両方を備える。(1)中心粒子径(メジアン径:d50)が5μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。上記中心粒子径の下限は任意であるが、0.5μm以上、好ましくは0.8μm以上がよい。本明細書中で中心粒子径は全てメジアン径:d50のものを指す。・・・」(【0028】)

ウ.「pH値
本発明のウコン飲料はpHが3.2以上であることを特徴とする。pH値が3.2よりも小さな値である場合には微粒子ウコン色素の沈殿を抑制することはできない。」(【0035】)

エ.「

」(表3)

3.甲3
ア.「

」(表1)

イ.「

」(表2)

ウ.「本発明においてウコン抽出物とは、・・・。ウコン抽出物は、油溶性有機溶媒を用いて抽出したウコン抽出物と、水溶性溶媒を用いて抽出したウコン抽出物に大別することができる。また、油溶性有機溶媒を用いて抽出したウコン抽出物としては、具体的にはウコン色素が挙げられる。ウコン色素はクルクミンを主成分として含有する。油溶性有機溶媒としては、例えば、アセトン、ヘキサン、酢酸エチル等を挙げることができる。有効成分のクルクミンを抽出する観点からは、アセトンを使用することが特に好ましい。ウコン色素は必要に応じて精製してもよい。」(【0016】)

エ.「増粘剤としてはジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム等の増粘多糖類を挙げることができる。」(【0032】)

オ.「<試験飲料の調製>
表1の成分を混合し、アルミ製の100ml容器に充填し、実施例1#10及び比較例1#16の試験飲料を調製した。なお、ウコン色素は、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分をアセトンで抽出し、減圧してアセトンを揮発させることにより得たものである。また、水溶性溶媒を用いて抽出したウコン抽出物は、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分を水を用いて抽出して得たものである。」(【0042】)

4.甲4
ア.「(A)ショウキョウ、肝臓水解物、ゴミシ、シゴカ及びイカリソウから選ばれる1種又は2種以上、並びに(B)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール及び/又はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有し、(C)二酸化炭素を封入してなる炭酸含有内用液。」(請求項1)

イ.「肝臓水解物は、ウシ、ブタ等の肝臓の加水分解物であり、滋養強壮効果、肝機能改善効果等を有する。肝臓水解物の含有量は、本発明の内用液中、0.01?1.5w/v%が好ましく、0.01?1w/v%がより好ましく、0.05?0.5w/v%がさらに好ましい。」(【0012】)

ウ.「 本発明の内用液には二酸化炭素が封入される。二酸化炭素の封入により、成分(A)の苦味等がマスキングされ、服用感が良好になる。本発明の内用液への二酸化炭素の封入量は、ガスボリューム[内用液中に溶解している二酸化炭素量(v/v)]が、1?4が好ましく、1.2?4.0がより好ましく、1.5?4.0がさらに好ましい。・・・」(【0019】)

エ.「本発明の内用液には、前記成分の他に、他の有効成分、・・・増粘剤、・・・グリセリン等を配合することができる。他の有効成分としては、・・・コンドロイチン硫酸等が挙げられる。このうち、・・・コンドロイチン硫酸は0.1?1w/v%含有するのが好ましい。」(【0020】)

オ.「本発明の内用液のpHとしては2?5が好ましく、2.5?4がさらに好ましい。」(【0021】)

カ.「

」(表9)

5.甲5
ア.「 ビサクロンとクルクミンを含む、pHが2.3以上、3.2未満の範囲にある液状組成物であって、一回の経口摂取量当たり、ビサクロンを0.15mg以上含有する液状組成物。」(請求項1)

イ.「2.ウコン色素
ウコン色素は、ウコンの根茎部分より、温時エタノールで、熱時油脂若しくはプロピレングリコールで、又は室温時?熱時ヘキサン若しくはアセトンで抽出して得られるものであり、このようにして得られたウコン色素は主にクルクミンを含む。本発明のビサクロン含有飲料におけるウコン色素の量は一回の経口摂取量当たり、クルクミンが3mg?50mg、より好ましくは5mg?40mgとなる量のウコン色素が配合されるのがよい。」(【0024】)

ウ.「・・・増粘剤としては、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。」(【0033】)

エ.「また、本発明の液状組成物又は二日酔いの症状の抑制剤には、二日酔いの症状の抑制に有効である公知の成分(例えば、肝臓加水分解物、アラニン等)を含めることができる。」(【0036】)

オ.「・・・好ましくは本発明の液状組成物又は二日酔いの症状の抑制剤のpH値は2.9以上、3.2未満の範囲にある。本発明の液状組成物又は二日酔いの症状の抑制剤のpH値を前記範囲に設定することによって、植物原料の抽出物に起因する、「苦味」や「渋み」等の不快な呈味を抑制することができる。・・・」(【0037】)

カ.「・・・各試験飲料のpH値は3.1とした。・・・」(【0050】)

キ.「ウコン色素は、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分をアセトンを用いて抽出し、減圧してアセトンを揮発させることにより得たものである。このウコン色素には35質量%のクルクミンが含有され、各試験飲料中にはクルクミンが30mg含まれた。」(【0051】)

ク.「

」(表1)

6.甲6
ア.「 飲料中のビサクロン含量が100gあたり0.15mg?1.05mgである、ウコンエキスを含有する炭酸飲料。」(請求項1)

イ.「pHが4.0以下である、請求項1に記載の炭酸飲料。」(請求項2)

ウ.「本発明者らは検討の結果、ウコンエキスの不快な呈味/異味が炭酸を加えることによって大きく改善されることを見出し、不快な呈味/異味が低減されたウコンエキス含有飲料を製造することに成功した。・・・」(【0012】)

エ.「3.pH値
ウコンに由来する異味はpH値が高いほうが強く感じられる傾向にあるため、本発明の飲料のpH値は4.0以下とすることが好ましい。」(【0025】)

オ.「 増粘剤としては、カラギーナン、ジェランガム、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。」(【0031】)

7.甲7
ア.「粘着物質の含有量が0.016mg/g未満となるまで精製されたウコン抽出物を水と混合する混合工程を含む、ウコン飲料の製造方法。」(請求項1)

イ.「・・・ウコン飲料はpHを3.0?3.4に調整することが好ましい。pHを3.0?3.4に調整することにより、風味上の苦味、土臭さ等を抑制することができる。」(【0028】)

8.甲8
ア.「

」(表1)

イ.「・・・このウコンの有機溶媒抽出物には30重量%のクルクミンが含有される。」(【0043】)

9.甲9
ア.「サラシア属植物の抽出物と、クルクミノイド類とを含有し、下式で決定される値が0.1以上であることを特徴とする食品組成物。
(式) 食品組成物重量(mg)/スクラーゼの50%阻害濃度(μg/ml)」(請求項1)

イ.「容器詰飲料、カプセルまたは錠剤の形態であることを特徴とする、請求項1?4のいずれか1項に記載の食品組成物」(請求項5)

ウ.「本発明におけるクルクミノイド類は、合成物であってもよいが、植物由来のものが好ましく、より好ましくはウコン属植物に由来するものである。即ち、ショウガ目ショウガ科ウコン属(Curcuma)の植物の粉末などの破砕物または抽出物であることがより好ましい。・・・もっとも好ましくはウコン(C. longa)由来のものが用いられる。・・・」(【0034】)

エ.「・・・特に本発明の食品組成物を液体とする場合、成分の沈殿防止のため、増粘多糖類等の分散剤を含有させることが好ましい。増粘多糖類としては、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、カラギナン、ペクチン、プルラン、カシアガム、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ゼラチン、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、マクロホモプシスガム、寒天、ラムザンガム、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、ガティガム、微結晶セルロース、発酵セルロース、微小繊維状セルロース等のセルロース誘導体、化工澱粉、加工澱粉等が例示され、発酵セルロース、または、ジェランガムとペクチンの混合物が好ましい。」(【0040】)

10.甲10記載の製品におけるラベルには、以下の事項が示されている。
ア.「ヘパリーゼ^(R)W
肝臓エキス100mg
ウコンエキス54mg」

イ.「名称:清涼飲料水」

ウ.「原材料名:・・・肝臓エキス、ウコン抽出物・・・安定剤(増粘多糖類、セルロース)・・・」

エ.「内容量:100ml」

オ.「製造者:ゼリア新薬工業株式会社」

カ.「賞味期限:150911」

キ.「4987103047933」(JANコード)

11.甲11記載の製品におけるラベルには、以下の事項が示されている。
ア.「ヘパリーゼ^(R)W
肝臓エキス100mg
ウコンエキス54mg」

イ.「名称:清涼飲料水」

ウ.「原材料名:・・・肝臓エキス、ウコン抽出物・・・安定剤(増粘多糖類、セルロース)・・・」

エ.「内容量:100ml」

オ.「製造者:ゼリア新薬工業株式会社」

カ.「賞味期限:2017.10」

キ.「4987103047933」(JANコード)

12.甲12
ア.「ゼリア新薬ヘパリーゼW 100ml」(商品名)

イ.「・・・肝臓エキス、ウコン抽出物、・・・安定剤(増粘多糖類)・・・」(原材料)

ウ.「4987103047933」(代表商品コード)

エ.「8ヶ月」(賞味期限)

13.甲13
ア.「下記に該当する場合は、それぞれ異なるJANコードを設定して下さい。原則として、商品の仕様に変更がある場合は全て異なるJANコードを設定します。・・・
商品名が異なる場合 色が異なる場合 容量が異なる場合 素材が異なる場合 包装サイズが異なる場合 香りが異なる場合 味が異なる場合 販売単位が異なる場合」(「商品アイテムコードの設定基準」の欄)

14.甲14
ア.「pH」(「検査項目」の欄)

イ.「3.1」(「検査結果」の欄)

ウ.「ガラス電極法」(「検査方法」の欄)

エ.「未開封のサンプルを開封して分析した」(「特記事項」の欄)

15.甲15
ア.「pH」(「検査項目」の欄)

イ.「3.0」(「検査結果」の欄)

ウ.「ガラス電極法」(「検査方法」の欄)

エ.「未開封のサンプルを開封して分析した」(「特記事項」の欄)

オ.「ヘパリーゼW 150911(未開封)」(「検体の名称」の欄)

16.甲16
ア.「pH」(「検査項目」の欄)

イ.「3.1」(「検査結果」の欄)

ウ.「ガラス電極法」(「検査方法」の欄)

エ.「未開封のサンプルを開封して分析した」(「特記事項」の欄)

オ.「ヘパリーゼW 2017.10(未開封)」(「検体の名称」の欄)

17.甲17
ア.「<製品名>ヘパリーゼ^(R)W(ダブル) (清涼飲料水)・・・<特徴>・肝臓エキスを100mg、ウコンエキスを54mg(クルクミンとして45mg)配合した清涼飲料水です。・・・」 (「製品概要」の項)

18.甲18
ア.「セルロース」(「250 微結晶セルロース」の欄の「簡略名又は類別名」)

イ.「セルロース」(「251 微小繊維状セルロース」の欄の「簡略名又は類別名」)

ウ.「セルロース」(「280 粉末セルロース」の欄の「簡略名又は類別名」)

エ.「セルロース」(「353 リンターセルロース」の欄の「簡略名又は類別名」)

19.甲19

ア.「・・・また、本品に増粘多糖類やカルボキシメチルセルロースナトリウムを特殊コーティングした製剤は、水中で分散させるとコロイド状に微小な微結晶セルロース粒子が網目構造を形成するので、懸濁粒子の沈殿防止や保持性の向上に寄与する。・・・」(「微結晶セルロース」の「用途」の項)


第5 特許異議申立理由についての検討
1. 申立理由1及び2
ア.特許法第29条第1項第1号について
a.甲10記載の製品との対比・判断
甲10に示す製品は、肝臓エキス100mg、ウコンエキス54mg、増粘多糖類を含む、100ml容量の清涼飲料水であり(製品のラベル)、甲17のアによれば、当該製品のウコンエキスは、クルクミンを45mg含むものと認められるから、当該製品は、「0.1W/V%の肝臓エキスと、クルクミンとして0.045W/V%のウコンエキス、及び増粘多糖類を含有する清涼飲料水」(以下、「製品1」という。)であるものと認められる。
ここで、本件特許発明1と上記製品1を対比すると、当該製品1における「肝臓エキス」、「ウコンエキス」及び「清涼飲料水」は、それぞれ、本件特許発明1における「肝臓水解物」、「ウコン抽出物」及び「内用液剤」に相当するから、両者は、「0.1W/V%の肝臓水解物と、クルクミンとして0.045W/V%のウコン抽出物、及び増粘多糖類を含有する内用液剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1においては、「増粘多糖類」が、「キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上である」と特定されているのに対し、製品1では、「増粘多糖類」の具体的な成分が不明である点。
(相違点2)
本件特許発明1においては、液剤のpHが3.5以下であると特定されているのに対し、製品1ではpHが特定されていない点。
したがって、本件特許発明1と上記製品1とは上記相違点1及び2の点で相違しているから、本件特許発明1が製品1により公然知られた発明であるとすることはできない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明3についても同様である。

b.申立人の主張について
上記相違点1に関し、申立人は、甲1、3?6、8及び9の記載を根拠に、ウコン抽出物又は肝臓水解物を含む飲料に配合する増粘多糖類として、 キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上を用いることは、本件特許の優先権主張日前に周知であったのであるから、上記製品1においても「増粘多糖類」として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上を用いているとの主張をしている。
しかしながら、上記甲1、3?6、8及び9のうち、上記製品1と同様に、肝臓水解物及びウコン抽出物の両者を含む飲料が記載されているのは甲1のみであり、その甲1においてでさえ、配合されうる「他の成分」の一つとして増粘剤(増粘多糖類)が例示され、その増粘剤として上記キサンタンガム等が単に例示されているに過ぎず(甲1のエ)、甲1には、具体的に増粘多糖類を含有する実施例等の記載は何ら見当たらないから、かかる記載からは、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む飲料において配合する増粘多糖類として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上を用いることが、本件特許の優先権主張日前に周知であったとは認められない。また、甲3?6、8及び9は、ウコン抽出物又は肝臓水解物の一方のみを含む飲料であって、肝臓水解物及びウコン抽出物の両者を含む飲料ですらない。甲4には、肝臓水解物とキサンタンガムを含む内服液の製造例が記載されているものの(甲4のカ)、当該内服液は、「比較例26」として記載されている、製剤時に着色した析出物を生じる好ましくない製造例とされるものであって、そのような比較例として示されている製造例において配合されている増粘多糖類が、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む飲料における増粘多糖類として、本件特許の優先権主張日前に周知であったとは認められない。甲8には、キサンタンガムを含む内服液の製造例が記載されているものの、当該内服液はウコン抽出物と共にガジュツ抽出物を必須の成分とするものであって、肝臓水解物及びウコン抽出物の両者を含む製品1の飲料とは、その組成が異なるものであるから、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む飲料における増粘多糖類として、甲8記載の増粘多糖類が本件特許の優先権主張日前に周知であったとは認められない。さらに、甲5、6及び9については、配合され得る増粘多糖類の一例として上記キサンタンガム等の増粘多糖類が単に例示されているに過ぎず、具体的に上記キサンタンガム等を含有した実施例等は何ら記載されていない。
したがって、甲1、3?6、8及び9の記載から、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む飲料に配合する増粘多糖類として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上を用いることが、本件特許の優先権主張日前に周知であったとは到底認められない。
よって、上記製品1における「増粘多糖類」が、「キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上」であるとは認められないから、当該製品は、上記相違点1により、本件特許発明1と相違するものである。
そして、上記相違点2に関し、申立人は、甲11?13、15及び16を根拠に、上記製品1のpH値について縷々主張しているが、上記で説示したように、当該製品1と本件特許発明1の間には、少なくとも相違点1が存在するのは明らかであるから、当該相違点2について判断するまでもなく、本件特許発明1は上記製品1により公然知られた発明であるとは認められない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明3についても同様である。
(なお、ここでは、上記「第3 申立理由の概要及び提出した証拠」で示したとおり、甲10は特許法第29条第1項1号の証拠として取り扱い、本件特許発明1及び3との対比及び判断を行ったが、甲10のラベル部を特許法第29条第1項3号の証拠として、申立人が仮に提出したのだとしても、甲10のラベル部には、上述のとおり、増粘多糖類の種類及びpHが記載されておらず、本件特許発明1及び3の新規性を否定するものとはなり得ないことは明らかである。)

イ.特許法第29条第2項について
a.甲10記載の製品1との対比・判断
本件特許発明1と甲10記載の製品1との間の上記相違点1及び2について、甲10、2及び9のいずれにおいても、肝臓水解物とウコン抽出物を含有する内用液剤において、上記「増粘多糖類」として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上という、特定の成分にすること、及びpHを3.5以下とすることについて、記載も示唆もない。
一方、本件特許明細書には、肝臓水解物とウコン抽出物を含有する内用液剤において、増粘多糖類として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及びカラギーナンを用いた場合(実施例1?21)には、ローカストビーンガム等の他の増粘多糖類を採用した場合(比較例1?12)には得られない、保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという優れた効果を奏することが具体的に示されており、本件特許発明1は、増粘多糖類として特定のものを用いたことにより、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件特許発明1は、甲1、3?6、8及び9の記載を参酌しても、製品1、甲2及び9に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?4についても同様である。

b.申立人の主張について
上記相違点1について、申立人は、上記製品1のpHを3.0であると認定した上で、pHが3.0であることにより、当該清涼飲料水の沈殿量が増加するという課題が存在することは、甲2の記載から、当業者にとって公知であるところ、キサンタンガム等の増粘剤(増粘多糖類)によりウコン抽出物の沈殿が防止できることは甲9に記載されているから、相違点1は、製品1、及び甲2並びに9の記載から当業者が容易に想到するものである旨の主張をしている。
ここで、上記甲10には、製品1のpHについては明記されていないが、申立人が主張するように、当該製品1のpHが3.0であるものと仮定して、以下検討する。
一般に液剤における沈殿の発生は、液性のみならず、液剤を構成する成分の物理化学的性質に基づく、成分間の相互作用に依存するものと解されるから、当該沈殿の発生には、液剤中の構成成分の種類、有無及び構成成分の形状等が影響するものと認められる。
甲2は、微粒子化ウコン抽出物を含むウコン飲料に関するものであり(甲2のア)、たとえ甲2の記載からpHが3.2以下であることにより微粒子化ウコン抽出物の沈殿量が増加するという問題が把握できたとしても、当該ウコン抽出物を含む液剤において、肝臓水解物の有無が当該液剤の沈殿発生に影響を与えないとまでは理解できないから、当該微粒子化ウコン抽出物を含むウコン飲料とは異なり、ウコン抽出物一般と肝臓水解物の両者を含む液剤においても、pHが3.2以下であることによりウコン抽出物の沈殿量が増加するという同じ問題が生じるものと当業者は理解できないと解される。
そして、甲9は、ウコン属植物由来のクルクミノイド類とサラシア植物とを含有する液剤に関するものであって、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む液剤とは構成成分自体が異なるのであるから、甲9で沈殿防止のために加えることが望ましい成分と記載されていることのみで(甲9のエ)、実施例さえない増粘多糖類が、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む液剤においても沈殿防止作用を奏するのか不明である。
さらに、甲9には、上記のように、沈殿防止のために加えることが望ましい成分として増粘多糖類が記載されているものの、それは単に任意成分として記載されているに過ぎないし、その増粘多糖類として具体的に列挙されている増粘多糖類についても、本件特許発明1で規定する増粘多糖類と、その他の増粘多糖類とが、共に、同等の成分として、沈殿防止のために添加されると記載されているものである。一方、本件特許明細書には、上記1.イ.aで説示したように、肝臓水解物とウコン抽出物を含有する内用液剤において、増粘多糖類として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及びカラギーナンを用いた場合(実施例1?21)には、ローカストビーンガム等の他の増粘多糖類を採用した場合(比較例1?12)には得られない、沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという優れた効果を奏することが具体的に示されており、本件特許発明1は、増粘多糖類として特定のものを用いたことにより、当業者に予測できない顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、上記甲2及び甲9を参酌しても、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む上記製品1において、pHが3.0であることにより沈殿量が増加するという課題の存在を把握し、かかる課題を解決するために、本件特許発明1で規定する特定の増粘多糖類を添加することが当業者にとって容易に想到し得たものとは認められない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

2. 申立理由3
a.甲1との対比・判断
上記甲1のア及びイの実施例5の記載からみて、甲1には、「0.2w/w%の肝臓加水分解物、0.35w/w%のウコンエキスを含む、pHが3.0の飲料」(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
ここで、本件特許発明1と上記甲1発明を対比すると、甲1発明のような希釈水溶液においては、その密度は1g/ml程度であると解されるから、甲1発明の「w/w%」は「w/v%」と見なすことができ、また、甲1発明の「肝臓加水分解物」、「ウコンエキス」及び「飲料」は、それぞれ、本件特許発明1における「肝臓水解物」、「ウコン抽出物」及び「内用液剤」に相当する。そして、甲1発明におけるpH値は、本件特許発明1におけるpH値の範囲内である。
そうすると、両者は、「0.2w/v%の肝臓水解物、0.35w/v%のウコン抽出物を含む、pHが3.0の内用液剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1においては、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上という特定の増粘多糖類を含むものであるのに対し、甲1発明においては当該増粘多糖類を含まない点。
上記相違点1について、申立人は、甲2、3、8及び9を示し、pHが3.0である甲1発明において、沈殿が生じるという課題が存在することは甲2により把握できる旨、キサンタンガム等によりウコン抽出物の沈殿が防止できることは甲9により当業者に知られた知見である旨、及びウコン抽出物を含む飲料において、実際にキサンタンガムを配合したものは、甲3及び甲8により周知であるから、肝臓水解物とウコン抽出物を含有する組成物においてpH3.5以下とした場合に、沈殿を防止でき、懸濁状態を保持できる多糖類としてキサンタンガムを選択することは通常の設計事項に過ぎない旨の主張をしているので、以下でこの点を検討する。
一般に液剤における沈殿の発生は、液性のみならず、液剤を構成する成分の物理化学的性質に基づく、成分間の相互作用に依存するものと解されるから、当該沈殿の発生には、液剤中の構成成分の種類、有無及び構成成分の形状等が影響するものと認められる。
上記1.イ.bで説示のとおり、たとえ甲2の記載からpHが3.2以下であることにより微粒子化ウコン抽出物の沈殿量が増加するという問題が把握できたとしても、ウコン抽出物を含む液剤において、肝臓水解物の有無が当該液剤における沈殿発生に影響を与えないとまでは理解できないから、微粒子化ウコン抽出物を含む甲2のウコン飲料とは異なり、ウコン抽出物一般と肝臓水解物の両者を含む液剤においても、pHが3.2以下であることによりウコン抽出物の沈殿量が増加するという同じ問題が生じるものと当業者は理解できないと解される。甲9は、ウコン属植物由来のクルクミノイド類とサラシア植物とを含有する液剤に関するものであって、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む液剤とは構成成分自体が異なるものであり、上記で説示のように、構成成分の違いは液剤における沈殿の発生に影響を与えるものであるから、甲9で沈殿防止のために加えることが望ましい成分と記載されていることのみで(甲9のエ)、実施例さえない増粘多糖類が、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む液剤においても、同様に沈殿防止作用を奏するのかは不明である。
そして、上記1.ア.bで説示したように、甲3及び甲8は、ウコン抽出物を含む飲料であるとはいえ、肝臓水解物及びウコン抽出物の両者を含む甲1発明の飲料とは、その構成成分が異なるものであって、両飲料においてキサンタンガムが与える影響も異なるものと認められるから、甲3及び甲8の実施例でキサンタンガムが使用されているとしても、ウコン抽出物及び肝臓水解物を含む飲料における増粘多糖類として当該キサンタンガムを使用することが、本件特許の優先権主張日前に周知であったとも認められない。
さらに、甲1には、甲1発明の飲料において配合されうる「他の成分」の一つとして増粘剤(増粘多糖類)が例示され、その増粘多糖類としてキサンタンガム等を含む種々の増粘多糖類が列記されているが(甲1のエ)、上記のように、液剤の構成成分が、当該液剤の保存安定性や服用感に大きな影響を与えることは、本件優先権主張日当時の技術常識であるところ、甲1発明において、さらに増粘多糖類を配合し、その増粘多糖類として、上記の種々の増粘多糖類のうちのいずれかの増粘多糖類を採用した場合に、所望の保存安定性や服用感を奏するのか否かを予測できるものでもない。
一方、本件特許明細書には、肝臓水解物とウコン抽出物を含有する内用液剤において、増粘多糖類として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及びカラギーナンを用いた場合(実施例1?21)には、ローカストビーンガム等の他の増粘多糖類を採用した場合(比較例1?12)には得られない、沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという優れた効果を奏することが具体的に示されており、肝臓水解物、ウコン抽出物及び特定の増粘多糖類を含有する本件特許発明1は、保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという当業者が予測できない顕著な効果を奏するものと認められる。
そうすると、肝臓水解物及びウコン抽出物を含む甲1発明の液剤において、数ある増粘多糖類の中から、沈殿防止のために、キサンタンガム等の特定の増粘多糖類を用いることは、当業者が容易に想到し得たものではないし、当該特定の増粘多糖類を含有することにより奏される上記の種々の効果は、甲1、2及び9の記載から当業者が予測できない格別顕著なものと認められる。
したがって、申立人の上記主張は採用できず、本件特許発明1は、甲3及び8の記載を参酌しても、甲1、2及び9の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?4についても同様である。


3.申立理由4
a.甲3との対比・判断
甲3には、上記甲3のア及びイの記載からみて、「0.1w/w%のウコン色素、0.45w/w%の水溶性溶媒を用いて抽出したウコン抽出物、及び0.1w/w%のキサンタンガムを含む飲料」(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
ここで、本件特許発明1と上記甲3発明を対比すると、甲3発明のような希釈水溶液においては、その密度は1g/ml程度であると解されるから、甲3発明の「w/w%」は「w/v%」と見なすことができ、また、甲3発明の「飲料」は、本件特許発明1における「内用液剤」に相当する。さらに、甲3発明の「ウコン色素」は、油溶性有効溶媒を用いて抽出したウコン抽出物であるから(甲3のウ)、当該「ウコン色素」は、本件特許発明1における「ウコン抽出物」に相当する。
そうすると、両者は、「0.55w/v%のウコン抽出物と、0.1w/v%のキサンタンガムを含む内用液剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1においては、「肝臓水解物」を含むことが特定されているのに対し、甲3発明においては当該「肝臓水解物」に関する記載がない点。
(相違点2)
本件特許発明1においては、液剤のpHが3.5以下であると特定されているのに対し、甲3発明ではpHが特定されていない点。
上記相違点1について、甲3には、肝臓水解物を加えることが何ら記載も示唆もされていないが、申立人は、甲1には、肝臓加水分解物(肝臓水解物)とウコン抽出物を含む組成物が記載されており、甲5には、ウコン抽出物を含む液剤において、公知成分である肝臓加水分解物(肝臓水解物)を配合できることが記載されているから、甲3発明において、肝臓水解物をさらに配合することは、当業者が容易に想到したことである旨の主張をしている。
ここで、液剤における沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性や服用感は、液剤を構成する成分の物理化学的性質に基づく、成分間の相互作用に依存し、そのため、液剤の構成成分が異なれば、その保存安定性や服用感も大きく異なることは、本件優先権主張日当時の技術常識であると解される。
確かに、甲1には、肝臓水解物とウコン抽出物を含む組成物が記載されており(甲1のイ)、甲5には、ウコン抽出物を含む液剤において、配合されうる他の成分の一つとして、公知成分である肝臓水解物を配合できることが記載されているが(甲5のエ)、上記のように、液剤における沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性や服用感は、液剤の構成成分により大きく異なるものであるから、甲3発明において、さらに肝臓水解物を配合した場合に、そのような所望の保存安定性や服用感を奏するのか否かを予測できるものではない。
一方、本件特許明細書には、肝臓水解物、ウコン抽出物及びキサンタンガムという三成分を含有し、pHが3.5以下である内用液剤は、沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性や服用感が良いという優れた効果を奏することが具体的に示されており(実施例1?17)、「肝臓水解物」、「ウコン抽出物」、「キサンタンガム」及び「pHが3.5以下」という構成成分の組み合わせにより、本件特許発明1は、液剤全体として、保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという優れた効果を奏するものと認められ、当該効果は、甲3、1及び5の記載からは当業者が予測できない格別顕著なものと認められる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
よって、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3、1及び5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?4についても同様である。
なお、相違点2のpHについて、申立人は甲14により、甲3発明の飲料のpHは3.1であると認定し、上記相違点2は相違点とはならない旨主張している。
しかしながら、申立書には、甲14で検査対象とした飲料に関し、「甲3の実施例1の飲料を再現して調製し、容器充填し密封した飲料」であると記載されているのみで、使用したウコン抽出物の調製方法等、具体的な調製手順は何ら記載されておらず、甲14が甲3の再現結果であるか否かを確認することができない。そして、一般に、抽出物の構成成分は、抽出溶媒の種類、抽出温度及び抽出時間等によって大きく影響を受けるものと認められるところ、そもそも甲3には、甲3発明におけるウコン抽出物の調製方法について、「ウコン色素」は、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分をアセトンで抽出し、減圧してアセトンを揮発させることにより得たこと、及び「水溶性溶媒を用いて抽出したウコン抽出物」は、ウコン(Curcuma longa)の根茎部分を水を用いて抽出して得たことが記載されているのみで(甲3のオ)、抽出に使用した溶媒以外の、抽出温度及び抽出時間等の具体的な工程は何ら記載されていない。
そうすると、甲3発明におけるウコン抽出物がどのようなものであるのかを明確に把握することはできず、当該ウコン抽出物を含有する甲3の実施例1の飲料を適切に再現できるものとも認められない。
したがって、甲3の実施例1の飲料を再現したとされる甲14の検査対象となった飲料が、実際に甲3の実施例1の飲料を再現したものとは認められないから、甲14の検査結果をみても、甲3発明のpHは3.1であるものと解することはできず、上記主張は採用できない。

4.申立理由5
a.甲4との対比・判断
甲4には、上記甲4のイ、エ及びカの記載からみて、「0.5w/w%の肝臓水解物、0.2w/w%のキサンタンガム、及びガスボリューム2.5の二酸化炭素を含み、pHが3.5である飲料」(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
ここで、本件特許発明1と上記甲4発明を対比すると、甲4発明の「飲料」が「内用液剤」と同義であることは明らかであるし、甲4発明におけるpH値は、本件特許発明1におけるpH値の範囲内である。
そうすると、両者は、「0.5w/v%の肝臓水解物、0.2w/v%のキサンタンガム、及びガスボリューム2.5の二酸化炭素を含み、pHが3.5である内用液剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1においては、「ウコン抽出物」を含むことが特定されているのに対し、甲4発明においては当該「ウコン抽出物」に関する記載がない点。
上記相違点1について、甲4には、さらにウコン抽出物を加えることが何ら記載も示唆もされていないが、申立人は、甲4の記載と共に、肝臓水解物とウコン抽出物を含むpH4.0以下の液状組成物が記載された甲1を参酌すれば、甲4発明において、ウコン抽出物をさらに配合することは当業者が容易になし得たことである旨の主張をしている。
しかしながら、甲1の記載を検討するまでもなく、そもそも上記甲4発明は、「比較例26」として甲4に記載されている、製剤時に着色した析出物を生じる好ましくない製造例とされるものであって、そのような甲4発明に着目して、ウコン抽出物のような更なる活性成分を添加しようとすることは、当業者が一般的には行わないものと認められる。
そして、仮に、甲4発明に着目して、更なる活性成分を添加しようとするとしても、甲1には、肝臓水解物とウコン抽出物を含む組成物が記載されているものの(甲1のイ)、甲1及び甲4の記載全体をみても、ショウキョウ、ゴミシ、シゴカ及びイカリソウという特定の選ばれた生薬と共に用いられることが求められている甲4記載の肝臓水解物とキサンタンガムを含む内用液剤において、異なる生薬であるウコン抽出物を更に配合することは、当業者が容易に想到し得たこととは認められない。
したがって、甲1の記載をみても、肝臓水解物とキサンタンガムを含む内用液剤である甲4発明において、さらにウコン抽出物を配合することは当業者が想到し得たこととは認められない。
そして、本件特許明細書には、肝臓水解物、ウコン抽出物及びキサンタンガムという三成分を含有し、pHが3.5以下である内用液剤について、沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性や服用感が良いという優れた効果を奏することが具体的に示されており(実施例1?17)、「肝臓水解物」、「ウコン抽出物」、「キサンタンガム」及び「pHが3.5以下」という構成の組み合わせにより、本件特許発明1は液剤全体として、保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという優れた効果を奏するものと認められ、当該効果は、甲4及び甲1の記載からは、当業者が予測できない格別顕著なものと認められる。
よって、本件特許発明1は、甲4及び1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?4についても同様である。

5.申立理由6
a.甲5との対比・判断
甲5には、上記甲5のカ?キの記載からみて、「0.1w/w%のウコン色素、及び0.05w/w%の増粘多糖類を含み、pHが3.1である飲料」(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
ここで、本件特許発明1と上記甲5発明を対比すると、甲5発明のような希釈水溶液においては、その密度は1g/ml程度であると解されるから、甲5発明の「w/w%」は「w/v%」と見なすことができ、甲5発明の「飲料」は、本件特許発明1における「内用液剤」に相当する。また、甲5発明の「ウコン色素」は、ウコンの根茎部分をアセトンを用いて抽出し、減圧してアセトンを揮発させることにより得たものであるから(甲5のキ)、当該「ウコン色素」は、本件特許発明1における「ウコン抽出物」に相当する。さらに、甲5発明におけるpH値は、本件特許発明1におけるpH値の範囲内である。
そうすると、両者は、「0.1w/v%のウコン抽出物、及び0.05w/v%の増粘多糖類を含み、pHが3.1である内用液剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1においては、「肝臓水解物」を含むことが特定されているのに対し、甲5発明においては当該「肝臓水解物」を含有することが特定されていない点。
(相違点2)
本件特許発明1においては、増粘多糖類として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸又はその塩、アルギン酸又はその塩、及びカラギーナンから選ばれる1種又は2種以上という特定の増粘多糖類を含むことが規定されているのに対し、甲5発明においては具体的な増粘多糖類が特定されていない点。
上記相違点1及び2について、申立人は、甲5には、ウ及びエの記載が存在するから、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものである旨の主張をしている。
甲5には、甲5発明における増粘多糖類として、本件特許発明1における特定の増粘多糖類を含む多種多様な増粘多糖類が列記されている(甲5のウ)が、列記されている当該増粘多糖類の物理化学的性質はそれぞれ異なるものと認められる。ここで、液剤における沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性や服用感は、液剤を構成する成分の物理化学的性質に基づく、成分間の相互作用に依存し、そのため、液剤の構成成分が異なれば、その保存安定性や服用感も大きく異なることは、本件優先権主張日当時の技術常識であると解されるところ、甲5発明において、さらに肝臓水解物を配合し、甲5発明における増粘多糖類として、上記多種多様な増粘多糖類のうちのいずれかの増粘多糖類を採用した場合に、所望の保存安定性や服用感を奏するのか否かを予測できるものではない。
一方、本件特許明細書には、肝臓水解物とウコン抽出物を含有する内用液剤おいて、増粘多糖類として、キサンタンガム、ペクチン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及びカラギーナンを用いた場合(実施例1?21)には、ローカストビーンガム等の他の増粘多糖類を採用した場合(比較例1?12)には得られない、沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという優れた効果を奏することが具体的に示されており、肝臓水解物、ウコン抽出物及び特定の増粘多糖類を含有する本件特許発明1は、保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという当業者が予測できない顕著な効果を奏するものと認められる。
そうすると、甲5において、配合されうる任意成分の一つとして肝臓水解物が例示され、増粘多糖類として本件特許発明1で規定されたキサンタンガム等を含む増粘多糖類が列記されているとしても、任意成分の肝臓水解物を含有することを特定し、さらに、当該増粘多糖類の中から、キサンタンガム等の特定の増粘剤を選択することにより奏される、沈殿の発生、懸濁状態の維持、沈殿の再分散性といった保存安定性に優れ、かつ服用感が良いという効果は、甲5の記載から当業者が予測できない格別顕著なものと認められる。
したがって、本件特許発明1は、甲5の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
このことは、本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2?4についても同様である。


第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人が主張する取消理由(申立理由1?6)及び証拠によっては、本件請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-09-07 
出願番号 特願2016-17629(P2016-17629)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 111- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 大久保 元浩
井上 明子
登録日 2016-12-02 
登録番号 特許第6048599号(P6048599)
権利者 ゼリア新薬工業株式会社
発明の名称 内用液剤  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 高野 登志雄  

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