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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C09D
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1332436
審判番号 無効2014-800128  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-07-31 
確定日 2017-07-31 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4312987号「摩擦熱変色性筆記具及びそれを用いた摩擦熱変色セット」の特許無効審判事件についてされた平成28年 6月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10186号、平成29年 3月21日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4312987号の明細書を、平成28年3月4日付け訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正することを認める。 特許第4312987号の請求項2?4、8に係る特許についての無効審判請求を却下する。 特許第4312987号の請求項1、5?7、9に係る特許についての本件審判の請求は成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件無効審判事件に係る特許第4312987号の特許(以下、「本件特許」という。)は、平成14年1月25日(優先権主張 平成13年11月12日、日本国)に特許出願され、平成21年5月22日にその特許権の設定の登録がされたものである。
そして、本件無効審判請求に係る手続きの経緯は以下のとおりである。
平成26年 7月31日:無効審判請求書及び甲第1ないし第28号証
の提出
同年11月18日:訂正請求書、答弁書及び乙第1ないし第10
号証の提出
平成27年 1月27日:弁駁書及び甲第29ないし第63号証の提出
同年 4月 8日:審理事項通知
同年 5月15日:請求人口頭審理陳述要領書及び甲第64号証
の提出
同日:被請求人口頭審理陳述要領書及び乙第11な
いし第13号証の提出
同年 5月26日:請求人口頭審理陳述要領書(2)及び甲第
65号証の提出
同年 5月29日:第1回口頭審理
同年 6月30日:無効理由通知、職権審理結果通知
同年 7月31日:意見書の提出
同年12月25日:審決の予告
平成28年 3月 4日:訂正請求書の提出
同日:上申書(被請求人)の提出
同年 4月22日:弁駁書の提出
同年 5月27日:審理終結通知
同年 6月28日:審決(「訂正を認める。特許請求の範囲請求
項2ないし4及び8に係る発明についての無
効審判請求を却下する。特許請求の範囲請求
項1、5ないし7及び9に係る発明について
の特許を無効とする。」
同年 7月 7日:審決謄本の送達
同年 8月 8日:知的財産高等裁判所出訴(被請求人原告
平成28年(行ケ)第10186号)
平成29年 3月21日:判決言渡(審決一部取消)

上記のとおり、被請求人から平成28年3月4日付け訂正請求書が提出されて、本件特許明細書の訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたので、特許法第134条の2第6項の規定により、平成26年11月18日付け訂正請求書による訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
被請求人は、審判長が特許法第164条の2第2項に規定する訂正を請求するために指定した期間内である平成28年3月4日に訂正請求書を提出して、本件特許明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項2?4、8を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1の「25℃?65℃の範囲に高温側変色点を有し、」という記載を、「低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を36℃?65℃の範囲に有し、」に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の請求項1に「第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、」という記載を加える。

(4)訂正事項4
訂正前の請求項1に「前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型であり、」という記載を加える。

(5)訂正事項5
訂正前の請求項1に「筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、」という記載を加える。

(6)訂正事項6
訂正前の請求項1の「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれる摩擦体」という記載を、「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体」に訂正する。

(7)訂正事項7
訂正前の請求項5の「第1の状態と第2の状態の何れか一方は、黒色である」という記載を、「第1の状態は、黒色である」に訂正する。

(8)訂正事項8
訂正前の請求項6の「請求項1乃至5の何れか一項に記載の」という記載を、「請求項1又は5の何れか一項に記載の」に訂正する。

(9)訂正事項9
訂正前の請求項7の「請求項1乃至5の何れか一項に記載の」という記載を、「請求項1又は5の何れか一項に記載の」に訂正する。

(10)訂正事項10
訂正前の請求項9の「請求項1乃至8の何れか一項に記載の」という記載を、「請求項1、5、6又は7の何れか一項に記載の」に訂正する。

(11)訂正事項11
訂正前の請求項10の「請求項1乃至9のいずれか一項に記載の」という記載を、「請求項1、5、6、7又は9のいずれか一項に記載の」に訂正する。

(12)訂正事項12
訂正前の発明の詳細な説明の【0004】の
「【課題を解決するための手段】
本発明を図面について説明する(図1?図13参照)。
本発明は、25℃?65℃の範囲に高温側変色点を有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、摩擦体2による摩擦熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡4を形成する特性を備えてなり、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれる摩擦体2が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなる摩擦熱変色性筆記具1を要件とする。
更には、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、低温側変色点が、-30℃?+20℃の範囲にあること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、低温側変色点が、-30℃?+10℃の範囲にあり、高温側変色点が、36℃?65℃の範囲にあること、第1の状態と第2の状態は、有色と無色の互変性、又は有色(1)と有色(2)の互変性を有すること、第1の状態と第2の状態の何れか一方は、黒色であること、可逆熱変色性インキは、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキ11bであり、ボールペン形態の筆記具に充填されてなること、可逆熱変色性インキは、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキ12bであり、繊維加工体をペン体とし、繊維収束体をインキ吸蔵体とする筆記具に充填されてなること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、発色状態からの加熱により消色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態からの加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型の何れかより選ばれること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、少なくとも、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を含む可逆熱変色性組成物を内包させた非円形断面形状を有し、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲にある顔料であること、前記摩擦熱変色性筆記具1と、熱変色性筆跡4上に載置し、前記筆跡を間接的に摩擦熱変色させるための無色透明乃至有色透明の厚みが10?200μmの透明プラスチックシート5をセットにした摩擦熱変色セットを要件とする。」という記載を、

「【課題を解決するための手段】
本発明を図面について説明する(図1?図13参照)。
本発明は、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を36℃?65℃の範囲に有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、摩擦体2による摩擦熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡4を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型であり、筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体2が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなる摩擦熱変色性筆記具1を要件とする。
更には、第1の状態は、黒色であること、可逆熱変色性インキは、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキ11bであり、ボールペン形態の筆記具に充填されてなること、可逆熱変色性インキは、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキ12bであり、繊維加工体をペン体とし、繊維収束体をインキ吸蔵体とする筆記具に充填されてなること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、少なくとも、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を含む可逆熱変色性組成物を内包させた非円形断面形状を有し、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲にある顔料であること、前記摩擦熱変色性筆記具1と、熱変色性筆跡4上に載置し、前記筆跡を間接的に摩擦熱変色させるための無色透明乃至有色透明の厚みが10?200μmの透明プラスチックシート5をセットにした摩擦熱変色セットを要件とする。」に訂正し、

及び【0033】の
「【発明の効果】
本発明の摩擦熱変色性筆記具は、任意の熱変色性筆跡を自在に形成でき、而も前記熱変色性筆跡の任意個所を簡易な摩擦手段による摩擦熱により、有色と無色、或いは、有色(1)と有色(2)の互変的色変化を視覚させることができ、軽便且つ安全性に富み、幼児等にあっても安心して実用に供することができ、学習、教習、玩具要素等に利用できる。
前記において、摩擦手段として、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれる摩擦体が筆記具筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなり、軽便性を満足させる。
更には、適用される可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の選択により、多様な可逆熱変色像を形成できる。即ち、前記マイクロカプセル顔料が、ヒステリシス幅が3℃未満の可逆熱変色性組成物を内包させた系では、熱変色後において、速やかに元の色彩に復帰させることができ、ヒステリシス幅が概ね4?8℃の可逆熱変色性組成物を内包させた系にあっては、緩徐に元の色彩に復帰させることができ、ヒステリシス幅が8℃以上の可逆熱変色性組成物を内包させた系では、変色に要した摩擦熱が低下して常態に復したとしても、その様相を保持しており、一方、冷却により変色前の様相に互変的に記憶保持させることができ、加熱発色型の可逆熱変色性組成物を内包させた系では、常態では不可視の像を摩擦熱によって現出させることができる、等、目的に応じて多様に応用展開できる。」という記載を、

「【発明の効果】
本発明の摩擦熱変色性筆記具は、任意の熱変色性筆跡を自在に形成でき、而も前記熱変色性筆跡の任意個所を簡易な摩擦手段による摩擦熱により、有色と無色の互変的色変化を視覚させることができ、軽便且つ安全性に富み、幼児等にあっても安心して実用に供することができ、学習、教習、玩具要素等に利用できる。
前記において、摩擦手段として、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれる摩擦体が筆記具筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなり、軽便性を満足させる。
更には、ヒステリシス幅が8℃以上の可逆熱変色性組成物を内包させた系では、変色に要した摩擦熱が低下して常態に復したとしても、その様相を保持しており、一方、冷却により変色前の様相に互変的に記憶保持させることができる。」に訂正する。

(13)訂正事項13
訂正前の発明の詳細な説明の【0030】の「ポリアミド-ポリエーテル共重合体径エラストマー成形体」という記載を、「ポリアミド-ポリエーテル共重合体系エラストマー成形体」に訂正する。

第3 本件訂正の適否についての判断
1 訂正事項1?13について
(1)訂正事項1?4について
訂正事項1?4は、訂正前請求項2?4、8を削除し、訂正前請求項1に対して訂正前請求項2、3に記載の事項、訂正前請求項4の「第1の状態と第2の状態は、有色と無色の互変性、又は有色(1)と有色(2)の互変性を有する」という記載を、「第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、」という記載に限定した上で、及び訂正前請求項8の「前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、発色状態からの加熱により消色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態からの加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型の何れかより選ばれる」という記載を、「前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型であり、」という記載に限定した上で、それぞれ加える訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、これらの訂正事項1?4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面(以下、「特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1?4は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものということができる。

(2)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項1の筆記具について、「筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、」というものに限定する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、この訂正事項5は、特許明細書等の段落【0030】の「前記各インキを1℃以下に放置して、マイクロカプセル顔料を完全発色させた後、インキの温度を室温(25℃)に戻し、0.7mm径のボールを備えたボールペンに充填して摩擦熱変色性ボ-ルペン1を構成した。」という記載、及び同じく「前記ボールペンによる筆跡は室温で黒色の変色状態(第1の状態)から、46℃以上の温度に加温すると完全に変色或いは消色して温時の変色状態(第2の状態)となり、」という記載に基づくものであるから、当初明細書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項5は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものということができる。

(3)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前請求項1の「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれる摩擦体」という記載を、「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体」という記載に限定する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、この訂正事項6は、特許明細書等の段落【0005】の「摩擦体2による摩擦熱により、第1の状態から第2の状態に色彩を簡易に変色させることができ、」という記載、及び段落【0030】の「前記ボールペンによる筆跡は室温で黒色の変色状態(第1の状態)から、46℃以上の温度に加温すると完全に変色或いは消色して温時の変色状態(第2の状態)となり、」という記載に基づくものであるから、当初明細書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項6は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものということができる。

(4)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前請求項5の「第1の状態と第2の状態の何れか一方は、黒色である」という記載を、「第1の状態は、黒色である」という記載に限定する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、この訂正事項7は、当初明細書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項7は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものということができる。

(5)訂正事項8?10について
訂正事項8?10は、訂正事項1?4に伴い、訂正前請求項6、7、9において引用する請求項2?4、8を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、これらの訂正事項8?10は、当初明細書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項8?10は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものということができる。

(6)訂正事項11について
訂正事項11は、訂正事項1?4に伴い、訂正前請求項10において引用する請求項2?4、8を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、この訂正事項11は、当初明細書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項11は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものということができる。
また、訂正事項11に関する請求項10は無効審判請求されていない請求項であるが、上記のとおり訂正事項11は単に引用する請求項の一部を削除する訂正に過ぎず、当該訂正事項11により訂正された請求項10に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないので、訂正事項11は、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(7)訂正事項12について
訂正事項12は、発明の詳細な説明の記載を、訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させる訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
そして、この訂正は、当初明細書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項12は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものということができる。

(8)訂正事項13について
訂正事項13は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものである。
そして、この訂正は、当初明細書等に記載されている事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項13は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものということができる。

(9)一群の請求項について
訂正事項1?11に係る訂正後の請求項1、5?7、9、10は、平成27年改正前の特許法施行規則第46条の2各号のいずれかに規定する関係を有する一群の請求項であるから、本件訂正は、特許法第134条の2第2項ただし書ないし第3項の規定に適合する。
また、訂正事項12、13と関係する全ての一群の請求項が請求の対象とされているから、本件訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第4項にも適合するものである。

2 本件訂正の適否についてのまとめ
以上に述べたとおり、本件訂正の訂正事項1?13に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書、同条第2項ただし書ないし第3項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第7項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

第4 本件特許に係る発明
上記「第3」で述べたとおりに訂正が認められるから、本件特許の請求項1、5?7及び9のそれぞれに係る発明は、訂正した明細書の特許請求の範囲の請求項1、5?7及び9のそれぞれに記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。
なお、以下では、本件特許の請求項1、5?7及び9のそれぞれに係る発明を、対応する請求項の番号を用いて、「本件発明1」などという。また、本件発明1、5?7及び9をまとめて「本件発明」という。さらに、訂正した明細書を「本件明細書」という。

「【請求項1】
低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を36℃?65℃の範囲に有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、摩擦体による摩擦熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型であり、筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなる摩擦熱変色性筆記具。
【請求項5】
第1の状態は、黒色である請求項1記載の摩擦熱変色性筆記具。
【請求項6】
前記可逆熱変色性インキは、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキであり、ボールペン形態の筆記具に充填されてなる請求項1又は5の何れか一項に記載の摩擦熱変色性筆記具。
【請求項7】
前記可逆熱変色性インキは、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキであり、繊維加工体をペン体とし、繊維収束体をインキ吸蔵体とする筆記具に充填されてなる請求項1又は5の何れか一項に記載の摩擦熱変色性筆記具。
【請求項9】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、少なくとも、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を含む可逆熱変色性組成物を内包させた非円形断面形状を有し、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲にある顔料である請求項1、5、6又は7の何れか一項に記載の摩擦熱変色性筆記具。」

第5 請求人が主張する無効理由・証拠方法
上記「第3」のとおり、本件訂正請求は適法なものであるから、請求の趣旨及び理由は、以下のように整理することができる。
なお、本件訂正請求により削除された請求項2ないし4及び8に係る特許についての本件無効審判の請求については却下する。
[請求の趣旨]
請求人が主張する本件審判請求における請求の趣旨は、「特許第4312987号の請求項1、5?7及び9に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」である。

[請求の理由]
請求人は証拠方法として下記3に示した証拠方法を提出し、本件発明は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであり(理由1)、また同項第4号(理由2)の規定により無効とされるべきである旨主張している。無効理由について、これまでの主張を整理すると以下のとおりである。
1 無効理由1(進歩性の欠如)
(1)本件発明1、5、7は、甲第2号証、及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)本件発明6、9は、甲第2号証、及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証、甲第52号証、甲第7、8号証及び甲第15乃至24号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)本件発明1、5、7は、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(4)本件発明6、9は、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証、甲第52号証、甲第7、8号証及び甲第15乃至24号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 無効理由2(記載要件違反)
(1)(明確性要件違反)本件特許の請求項1に記載の発明特定事項のうち「平均粒子径」の定義ないし測定方法について、発明の詳細な説明の記載から明らかでないから、請求項1及びこれに従属する請求項5?7、9に係る発明は明確でなく、本件特許出願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(2)(サポート要件違反)本件特許の請求項1に記載の発明特定事項のうち「平均粒子径」の定義ないし測定方法について、発明の詳細な説明の記載から明らかでないから、請求項1及びこれに従属する請求項5?7、9に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件特許出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

3 証拠方法
甲第1号証:特許第4312987号公報
甲第2号証:特開2001-207101号公報
甲第3号証:特開平7-241388号公報
甲第4号証:特公平4-17154号公報
甲第5号証:特開2000-15989号公報
甲第6号証:特開2000-272290号公報
甲第7号証:特開平10-298483号公報
甲第8号証:特開2001-19888号公報
甲第9号証:特開昭57-115397号公報
甲第10号証:実開昭56-123287号公報
甲第11号証:実開平4-132991号公報
甲第12号証:実開平5-24395号公報
甲第13号証:三菱鉛筆株式会社総合カタログ(1994年)
甲第14号証:意匠登録第948780号公報
甲第15号証:特開平10-237436号公報
甲第16号証:特開平11-131058号公報
甲第17号証:特開2001-123155号公報
甲第18号証:特開平09-267593号公報
甲第19号証:特開平11-129623号公報
甲第20号証:特開平11-105428号公報
甲第21号証:特開平09-302299号公報
甲第22号証:特開平09-227820号公報
甲第23号証:特開平09-208876号公報
甲第24号証:特開平09-124993号公報
甲第25号証:特開2004-148744号公報
甲第26号証:平成19年11月26日付け拒絶理由通知書(特願2002-318261)
甲第27号証:微粒子ハンドブック 初版第1刷 株式会社朝倉書店 1991年9月1日
甲第28号証:日機装株式会社ウェブサイト「基礎 粒度分布測定の一般論、光の基礎理論」
甲第29号証:「特許情報からの将来予測可能性の研究」(情報検索委員会第3小委員会)知財管理Vol.64No.12(No.768)2014 1856頁?1867頁 一般社団法人日本知的財産協会発行 2014年12月20日
甲第30号証:被請求人のウェブサイトに掲載されている記事「もっと知りたい!フリクション #1.開発者に聞く、インキの仕組み」
甲第31号証:被請求人のウェブサイトに掲載されている記事「もっと知りたい!フリクション #2.開発者に聞く、インキ開発の道のり」
甲第32号証:特開昭64-54081号公報
甲第33号証:特開平7-186588号公報
甲第34号証:特開平11-335613号公報
甲第35号証:平成14年10月27日付文具流通マガジン
甲第36号証:月刊文具と事務機第79巻第11号 50?51頁 株式会社ニチマ発行 平成14年11月15日
甲第37号証:イリュージョンの説明書
甲第38号証:試験報告書(製品構成)(平成23年1月24日)
甲第39号証:特開平7-179777号公報
甲第40号証:特開平7-33997号公報
甲第41号証:特開平8-39936号公報
甲第42号証:特開2004-107367号公報
甲第43号証:特開2005-1369号公報
甲第44号証:特開2006-137886号公報
甲第45号証:特開2006-188660号公報
甲第46号証:特開2008-045062号公報
甲第47号証:特開2008-280523号公報
甲第48号証:特許第4219776号公報
甲第49号証:広辞苑第五版 306?307頁、864?865頁 株式会社岩波書店発行 平成10年11月11日
甲第50号証:特開2006-123324号公報
甲第51号証:三村量一「連載/特許法のフロンティア11 進歩性」 ジュリスト No.1447 78?86頁 2012年11月
甲第52号証:三菱鉛筆総合カタログ(昭和56年度) 1981年発行
甲第53号証:深沢正志「シリーズ判例分析 いわゆる『容易の容易』が問題となった事例」tokugikon,no.239 85?87頁 2005.11.14.
甲第54号証:田村誠治弁理士のブログ記事「4.拒絶理由への対応/4-6 意見書のポイント(12)」
甲第55号証:化学大辞典8 縮刷版 第1刷 224?225頁 共立出版株式会社発行 昭和39年2月15日
甲第56号証:化学大辞典9 縮刷版 第7刷 742?745頁 共立出版株式会社発行 昭和44年3月15日
甲第57号証:粉粒体計測ハンドブック 初版第1刷 29?85頁 日刊工業新聞社発行 昭和56年5月10日
甲第58号証:特許第4601720号公報
甲第59号証:東京地裁平成23年(ワ)第377号 特許権侵害差止請求事件の第2準備書面(原告)(平成23年7月15日 原告:株式会社パイロットコーポレーション作成)
甲第60号証:「試験報告書(インクの電子顕微鏡写真)」(東京地裁平成23年(ワ)第377号事件の甲第6号証)(平成22年12月10日 原告:株式会社パイロットコーポレーション作成)
甲第61号証:三菱鉛筆株式会社 特許室 課長代理の岩元淳氏による陳述書(平成27年1月26日)
甲第62号証:はてなブックマーク-消せるペン特許訴訟、パイロット側が請求放棄:社会:YOMIURIONLINE(読売新聞)
甲第63号証:町村康貴氏の2012年11月8日付けブログ記事
甲第64号証:滝田誠一郎「『消せるボールペン』30年の開発物語」 初版第1刷 ブックカバー、第66?67頁及び第71?74頁、第82?85頁、奥書 小学館発行 2015年4月6日
甲第65号証:特許第4961115号公報

第6 被請求人の主張・証拠方法
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、本件発明についての上記「第5 1、2」に記載した無効理由1、2及び、下記「第7 1」に記載した無効理由3は、いずれも理由がない旨を主張し、下記1に示す証拠方法を提出している。
1 証拠方法
乙第1号証:「進化する文房具」と題する記事 Newton(2010年3月号) 82?87頁 2010年3月7日
乙第2号証:「消しかすを出さないで消せる、ラインマーカー」と題する記事 日経トレンディ(2007年2月号) 111頁 2007年2月1日
乙第3号証:「超常識が生んだ消せるボールペン」と題する記事 夕刊フジ(2011年3月23日号) 8頁
乙第4号証:「パイロットのフリクション 摩擦熱で文字を消す」と題する記事 SANKEI EXPRESS 20頁 2009年10月19日
乙第5号証:日経ビジネス 75頁 日経BP社 2012年10月15日
乙第6号証:GetNavi(2014年8月号) 147頁 2014年6月24日
乙第7号証:「摩擦熱でインク消す」と題する記事 NIKKEI プラス1(2007年4月28日号) 2頁 日本経済新聞
乙第8号証:B初級コースNo.2(一般社団法人 日本知的財産協会 2014年10月14日配布)200頁
乙第9号証:特許庁における特許制度125周年記念事業「現代の発明家から未来の発明家へのメッセージ」における「真っ赤なもみじがフリクションボールペンのふるさと」と題する論稿(27?28頁)
乙第10号証:Law&Technology50号に掲載された元知財高裁の裁判官である齋木教朗判事の論稿 59?67頁 株式会社民事法研究会 平成23年1月1日
乙第11号証:界面重合法により調整したマイクロプカセルの粒径および粒径分布について 色材協会誌 Vol.43 No.7(1970)
乙第12号証:試験報告書(可逆熱変色性マイクロカプセルの調製と観察)(平成27年5月8日 被請求人株式会社パイロットコーポレーション従業員作成)
乙第13号証:試験報告書(可逆熱変色性マイクロカプセルの平均粒子径測定)(平成27年5月8日 被請求人パイロットインキ株式会社従業員作成)

第7 当審が通知した無効理由の概要
当審が通知した無効理由(無効理由3)の概要は、以下のとおりである。
1 無効理由3(進歩性の欠如)
(1)本件発明1、5、7は、刊行物2発明並びに刊行物A、刊行物3、刊行物9、刊行物B、刊行物C及び刊行物12(下記「(3)刊行物一覧」参照。)に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本件発明6、9は、刊行物2発明並びに刊行物A、刊行物3、刊行物9、刊行物B、刊行物C、刊行物12及び刊行物24(下記「(3)刊行物一覧」参照。)に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)刊行物一覧
刊行物2:特開2001-207101号公報(甲第2号証)
刊行物A:特開平8-39936号公報
刊行物3:特開平7-241388号公報(甲第3号証)
刊行物9:特開昭57-115397号公報(甲第9号証)
刊行物B:特開平8-332798号公報
刊行物C:実願平3-48815号(実開平4-132991号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(平成4年12月10日特許庁発行)
刊行物12:実願平3-77739号(実開平5-24395号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM(平成5年3月30日特許庁発行)(甲第12号証)
刊行物24:特開平9-124993号公報(甲第24号証)

第8 当審の判断
無効理由1?3の判断においては、事案の性質に鑑み、無効理由2(1)、無効理由2(2)、無効理由3、無効理由1の順で検討していく。
1 無効理由2(1)(記載要件違反の内、明確性要件違反)について
無効理由2(1)に関して、請求人は、以下の主張をしている。
「特許請求の範囲の記載中『平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料』(構成要件A(b))との記載は、明細書の記載を考慮しても代表径しか定まらないため、それが具体的にどのような平均粒子径を有するマイクロカプセル顔料を指すかが不明である。」(審判請求書第5頁「理由2(a)の欄」)
そこで検討すると、「平均粒子径」の定義に関して、本件明細書の発明の詳細な説明においては、【0007】に、「当該マイクロカプセルの平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕」と記載されており、これと異なる解釈をすべき事情も見当たらない。
なお、請求人は、「平均粒子径」を「代表径」であるとしているが(弁駁書(平成27年1月27日)第59頁下から8行?第62頁16行)、本件明細書の発明の詳細な説明の記載(審判請求書第31頁末行?第34頁第7行)を考慮しても、当該「平均粒子径」は、個別の粒子に関するものであって、当該個別の粒子を集めたものである「集合体」としてみたときの「代表径」であると一義的に認定するに足りる事実は存在しない。
してみると、本件発明における「平均粒子径」とは、個別の粒子における「(最大外径+中央部の最小外径)/2」であることを意味するものと認められるので、「平均粒子径」という文言を含む本件の請求項1に係る発明は明確である。また、本件の請求項1を引用する請求項5、6、7、9に係る発明も明確である。
したがって、記載「平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」を理由として無効とすることはできない。

2 無効理由2(2)(記載要件違反の内、サポート要件違反)について
無効理由2(2)に関して、請求人は、以下の主張をしている。
(1)「明細書に定義されている『平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕』を、特許請求の範囲で規定された『0.5?5μmの範囲』にすることについての記載は発明の詳細な説明の記載には存在しない。」(審判請求書第5頁「理由2(b)の欄」)
(2)「特許請求の範囲の記載の『平均粒子径が0.5?5μmの範囲』との数値範囲は、『発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの』でもなく、また、『その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの』でもないから、明細書のサポート要件に適合しないことは明らかである(知財高判平成17年11月11日・平成17年(行ケ)第10042号参照)。」(審判請求書第36頁第7行?第14行)
まず、上記(1)について検討すると、本件明細書の発明の詳細な説明においては、【0004】に、「平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、・・・を要件とする。」(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)、【0010】に、「本発明に適用される可逆熱変色性インキは、25?65℃の範囲に高温側変色点を有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を水性媒体中に分散させ、必要に応じてバインダー樹脂を配合したものが有効である。」と記載されており、ここで「平均粒子径」が、上記「第8 1」で検討したように、個別の粒子における「〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕」であることは明らかであるから、上記【0004】【0010】の下線は、「平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕が0.5?5μmの範囲」であると解され、したがって、特許請求の範囲で規定された平均粒子径を「0.5?5μmの範囲」にすることについての記載は、発明の詳細な説明、特に、【0004】、【0010】に記載もしくは示唆されているものである。
次に、上記(2)について検討すると、「平均粒子径が0.5?5μmの範囲」に関する数値範囲の意義については、本件明細書の発明の詳細な説明において、【0007】に、「当該マイクロカプセルの平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕が1?3μmの範囲が好適である。」と記載されているだけであり、好適な範囲を示唆しているにとどまっており、上記【0010】のとおり、「平均粒子径が0.5?5μmの範囲」が「有効」としているのであって、平均粒子径を0.5μmより小さいものや5.0μmを越えるものに対する有意な効果の差異を積極的に述べていない。なお、「平均粒子径が0.5?5μmの範囲」に関連するものとして、本件明細書の発明の詳細な説明の【0007】に、「前記マイクロカプセル顔料6(円形断面形状のものを含む)は、最大外径の平均値が、5.0μmを越える系では、毛細間隙からの流出性の低下を来し、一方、最大外径の平均値が、0.5μm以下の系では高濃度の発色性を示し難く、」と記載されているが、これは、「平均粒子径」ではなくて、当該「平均粒子径」を算出する基となる「最大外径」を使用しているものであり、粒子を「集合体」としたとき、当該「最大外径」を「代表径」とする「平均値」について述べているに過ぎない。
そのうえ、本件明細書の発明の詳細な説明の【発明の実施の形態】における参考例1?6、実施例1、2の「平均粒子径」の値は全て「2.5μm」のものを使用しており(下記「第8 3(5)ア(エ)?(カ)」参照。)、5.0μmを越えるものや0.5μmより小さい平均粒子径に基づく比較例がないことから、「平均粒子径が0.5?5μmの範囲」となるようにすることが本件発明の課題であるとは到底いえない。
ここで、本件発明の課題は、本件明細書の発明の詳細な説明において、【0003】に、「本発明は、摩擦体による、筆跡の擦過により第1の状態から第2の状態に変位させ、温度降下により再び第1の状態に復帰させ、学習、教習、メッセージ、玩具、マジック要素として、或いは、暗証番号や機密文書等の隠顕要素等として、効果的な熱変色性筆跡を与える軽便な摩擦熱変色性筆記具を提供しようとするものである。」と記載されていることからして、「平均粒子径が0.5?5μmの範囲」は、本件発明の課題(効果的な熱変色性筆跡を与える軽便な摩擦熱変色性筆記具を提供すること)を解決することについて、単に望ましい数値範囲を請求項に記載しただけであるといえる(特許庁 審査基準第II部第2章第2節 サポート要件(特許法第36条第6項第1号)2.2(3)b及び例6の欄、知財高判平成21年9月29日・平成20年(行ケ)第10484号参照。))。
したがって、記載「平均粒子径が0.5?5μmの範囲」を理由として無効とすることはできない。

3 無効理由3(進歩性の欠如)について
当審で通知した無効理由3について判断する。
(1)刊行物に記載された事項
ア 刊行物2(甲第2号証)に記載された事項
刊行物2(特開2001-207101号公報)は、請求人が甲第2号証として提出し、無効理由通知書で引用された文献であり、当該文献には、以下の事項が記載されている。
[2-ア] 「【要約】
【課題】 毛細間隙を有するペン体及びインキ吸蔵体を備えた筆記具に用いられる可逆熱変色性インキにおいて、前記毛細間隙中で可逆熱変色性微小カプセル顔料の分離沈降がない特性を有すると共に、ペン体からのインキ流出性に優れ、高濃度且つ鮮明な筆跡を与え、前記筆跡に摩擦や擦過等の外力が加えられたとしても、前記筆跡中の可逆熱変色性微小カプル顔料(当審注:下線部は「カプセル顔料」の誤記と認定する。)が破壊されることのない、可逆熱変色性水性インキ組成物、及びそれを適用した筆記具を提供する。
【解決手段】 可逆熱変色性微小カプセル顔料が、水溶性高分子凝集剤による緩やかな橋架け作用により、緩やかな凝集状態に懸濁されてなる可逆熱変色性インキにおいて、非円形断面形状の窪みを有する特定形態の可逆熱変色性微小カプセル顔料を適用したことを特徴とする。」

[2-イ] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 可逆熱変色性微小カプセル顔料、水溶性高分子凝集剤、及び水を必須成分とし、前記水溶性高分子凝集剤の緩い橋架け作用により、前記可逆熱変色性微小カプセル顔料が緩やかな凝集状態に懸濁されてなる可逆熱変色性水性インキ組成物において、前記可逆熱変色性微小カプセル顔料が、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を含む可逆熱変色性組成物を内包させた非円形断面形状を有し、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲にある顔料であり、2?30mPa・sの粘度範囲にあることを特徴とする可逆熱変色性水性インキ組成物。
【請求項2】 水溶性高分子凝集剤が非イオン性水溶性高分子化合物である、請求項1記載の可逆熱変色性水性インキ組成物。
【請求項3】 窪みを有する非円形断面形状の、最大外径の平均値が0.5?5.0μmの範囲にある可逆熱変色性微小カプセル顔料である、請求項1又は2記載の可逆熱変色性水性インキ組成物。
【請求項4】 可逆熱変色性組成物は、発色状態からの加熱により消色し、消色状態からの冷却により発色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態からの加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型の何れかより選ばれる、請求項1乃至3の何れか1項に記載の可逆熱変色性水性インキ組成物。
【請求項5】 色彩記憶保持型の可逆熱変色性組成物は、低温側変色点が10℃?25℃の範囲から選ばれる任意の温度であり、高温側変色点が27℃?45℃の範囲から選ばれる任意の温度であり、前記低温側変色点と高温側変色点の間の任意の温度域で、前記低温側変色点以下又は高温側変色点以上の各変色状態を互変的に記憶保持できる特性を有する、請求項4記載の可逆熱変色性組成物。
【請求項6】 多数の繊維を互いに密接状態に配し、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維加工体をペン体とし、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維集束体をインキ吸蔵体とし、ペン体の後端を前記インキ吸蔵体の前端に接続状態に組み立てられており、前記インキ吸蔵体中に前記請求項1乃至5の何れか1項に記載の可逆熱変色性水性インキ組成物を含浸させてなる、任意の熱変色像を筆記形成自在に構成した筆記具。」

[2-ウ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は可逆熱変色性水性インキ組成物及びそれを用いた筆記具に関する。詳細には、毛細間隙を有するインキ導出手段を備えた筆記具に適用される低粘性の可逆熱変色性水性インキ組成物、及び前記水性インキ組成物を適用した、繊維材料からなるペン体及びインキ吸蔵体を備えた筆記具に関する。」

[2-エ] 「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、可逆熱変色性微小カプセル顔料、水溶性高分子凝集剤、及び水を必須成分とし、前記水溶性高分子凝集剤の緩い橋架け作用により、前記可逆熱変色性微小カプセル顔料が緩やかな凝集状態に懸濁されてなる可逆熱変色性水性インキ組成物において、前記可逆熱変色性微小カプセル顔料が、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を含む可逆熱変色性組成物を内包させた非円形断面形状を有し、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲にある顔料であり、2?30mPa・sの粘度範囲にあることを特徴とする可逆熱変色性水性インキ組成物を要件とする。更には、水溶性高分子凝集剤が非イオン性水溶性高分子化合物であること、更には、窪みを有する非円形断面形状の、最大外径の平均値が0.5?5.0μmの範囲にある可逆熱変色性微小カプセル顔料であること、更には、可逆熱変色性組成物は、発色状態からの加熱により消色し、消色状態からの冷却により発色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態からの加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型の何れかより選ばれること、更には、色彩記憶保持型の可逆熱変色性組成物は、低温側変色点が10℃?25℃の範囲から選ばれる任意の温度であり、高温側変色点が27℃?45℃の範囲から選ばれる任意の温度であり、前記低温側変色点と高温側変色点の間の任意の温度域で、前記低温側変色点以下又は高温側変色点以上の各変色状態を互変的に記憶保持できる特性を有すること、等を要件とする。第2の発明は、多数の繊維を互いに密接状態に配し、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維加工体をペン体とし、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維集束体をインキ吸蔵体とし、ペン体の後端を前記インキ吸蔵体の前端に接続状態に組み立てられており、前記インキ吸蔵体中に前記可逆熱変色性水性インキ組成物を含浸させてなる、任意の熱変色像を筆記形成自在に構成した筆記具を要件とする。更には、前記ペン体は、チゼル形状を有してなること、等を要件とする。」

[2-オ] 「【0005】前記可逆熱変色性微小カプセル顔料は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を含む可逆熱変色性組成物を微小カプセル中に内包させたものが有効であり、具体的には、本出願人が提案した、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載のものが利用できる。前記は所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、変色点以上の温度域で消色状態、変色点未満の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しえない。即ち、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH_(A)=1?7℃)を有する加熱消色型を挙げることができ、ΔH_(A)が3℃以下の系〔特公平1-29398号公報に示す、3℃以下のΔT値(融点-曇点)を示す脂肪酸エステルを変色温度調節化合物として適用した系〕にあっては、変色点を境に温度変化に鋭敏に感応して高感度の加熱消色性を示し、ΔH_(A)が4?7℃程度の系では変色後、緩徐に元の様相に戻り、視認効果を高めることができる(図7参照)。又、本出願人が提案した特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH_(B)=8?50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、低温側変色点(t_(1))以下の低温域での発色状態、又は高温側変色点(t_(4))以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t_(2)?t_(3)の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性組成物も適用できる(図8参照)。前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、常温域(例えば、15?35℃)を含むものが汎用的である。前記低温側変色点(t_(1))を5℃?25℃の範囲から選ばれる任意の温度、高温側変色点(t_(2))(当審注:「高温側変色点(t_(4))」の誤記と認める。)を27℃?45℃の範囲から選ばれる任意の温度にそれぞれ設定することにより、前記低温側変色点と高温側変色点の間の任意の温度で、発色状態又は消色状態を互変的に記憶保持して視覚させることができる。又、加熱発色型の組成物として、消色状態からの加熱により発色する、本出願人の提案による、電子受容性化合物として、炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を適用した系(特開平11-129623号公報、特開平11-5973号公報)、或いは特定のヒドロキシ安息香酸エステルを適用した系(特願平11-286202号)を挙げることができる(図9参照)。尚、前記可逆熱変色性微小カプセル中に、非熱変色性着色剤を可逆熱変色性組成物と一体的に内包させて、有色(1)から有色(2)への互変的色変化を呈する構成となしたものでもよい。」

[2-カ] 「【0006】本発明に適用される可逆熱変色性微小カプセル顔料は、非円形断面形状のもの、なかでも窪みを有する断面形状の形態(図1?図3参照)に特定される。前記特定形状の顔料は、毛細間隙を通過する過程で長径側(最大外径側)を毛細間隙に沿って配向させ、筆記先端方向にスムーズに流通することになり、毛細間隙を有する各種ペン体からのインキ流出特性を満足させる。殊に、繊維相互間に形成された微細な多数の毛細間隙を有するペン体からのインキ流出性に優れ、潤沢にインキを流出させ、高濃度の筆跡を与える。更に、筆記により形成される熱変色像は、前記微小カプセル顔料が被筆記面に対して長径側(最大外径側)を密接させて濃密に配向、固着されており、高濃度の発色性を示すと共に、前記熱変色像を摩擦や擦過等による外力を負荷して加熱変色させる用途に対しても、前記微小カプセル顔料は外力を緩和する形状に微妙に弾性変形し、微小カプセルの壁膜の破壊が抑制され、熱変色機能を損なうことなく有効に発現させることができる。ここで、前記非円形断面形状の微小カプセル顔料は、最大外径の平均値が0.5?5.0μmの範囲にあり、且つ可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲を満たしていなければならない。前記微小カプセル顔料は、最大外径の平均値が、5.0μmを越える系では、毛細間隙からの流出性の低下を来し、一方、最大外径の平均値が、0.5μm以下の系では高濃度の発色性を示し難く、好ましくは、最大外径の平均値が、1?4μmの範囲、当該微小カプセルの平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕が1?3μmの範囲が好適である。可逆熱変色性組成物の壁膜に対する比率が前記範囲より大になると、壁膜の厚みが肉薄となり過ぎ、圧力や熱に対する耐性の低下を起こし、逆に、壁膜の可逆熱変色性組成物に対する比率が前記範囲より大になると発色時の色濃度及び鮮明性の低下を免れず、好適には、可逆熱変色性組成物/壁膜=6/1?1/1(重量比)である。前記可逆熱変色性微小カプセル顔料は、インキ組成物全量に対し、2?50重量%(好ましくは3?40重量%、更に好ましくは、4?30重量%)配合することができる。2重量%未満では発色濃度が不充分であり、50重量%を越えるとインキ流出性が低下し、筆記性が阻害される。尚、インキ中には、非熱変色性の染料或いは顔料を配合して、温度変化により有色(1)から有色(2)への互変性を呈する熱変色像を形成できるよう構成することができる。」

[2-キ] 「【0008】前記可逆熱変色性微小カプセル顔料粒子間の緩い橋架け作用を与える水溶性高分子凝集剤としては、非イオン性水溶性高分子化合物が好適に用いられる。具体的にはポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性多糖類、非イオン性水溶性セルロース誘導体等が挙げられる。このうち水溶性多糖類の具体例としてはトラガントガム、グアーガム、プルラン、サイクロデキストリンが挙げられ、また非イオン性水溶性セルロース誘導体の具体例としてはメチルセルロース、ヒドロシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。本発明の可逆熱変色性水性インキ組成物中において微小カプセル顔料粒子間の緩い橋架け作用を示す水溶性高分子であればすべて適用することができるが、なかでも前記の非イオン性水溶性セルロース誘導体が最も本発明の可逆熱変色性水性インキ組成物に対し有効に作用する。前記高分子凝集剤は、インキ組成物全量に対し、0.05?20重量%配合することができる。」

[2-ク] 「【0012】次に、本発明の筆記具について説明する(図4?図6参照)。本発明筆記具2は、多数の繊維を互いに密接状態に配し、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維加工体をペン体21とし、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維集束体をインキ吸蔵体22とし、ペン体21の後端を前記インキ吸蔵体22の前端に接続状態に組み立てられており、前記インキ吸蔵体22中に前記可逆熱変色性水性インキ組成物23を含浸させてなる、任意の熱変色像を筆記形成自在に構成したことを要件とする。前記繊維加工体は、繊維の樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来より汎用の気孔率が概ね30?70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材であり、該繊維加工体の一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工してペン体21となして実用に供される。前記チゼル形状のペン体にあっては、筆記面への当接位置を変えることにより細書き用、或いは太書き用として、更には一定線幅のマークを形成できる多用途性を有し、多様な熱変色像を形成できる軽便性筆記具を構成できる。繊維集束体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させたものであり、プラスチック筒体やフイルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40?90%の範囲に調整してインキ吸蔵体22が構成される。尚、前記繊維集束体は樹脂加工或いは熱融着加工、可塑剤等により溶着加工されたものであってもよい。筆記具の形態は、図示例に限らず、インキ吸蔵体22の一端及び他端に相異なる形態のペン体を装着させて、ツイン型マーカーを構成したものでもよい。」

[2-ケ] 「【0013】
【発明の実施の形態】可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性微小カプセル顔料と、少なくとも水とからなる分散状態にある液に、保湿剤等の他の成分を添加すると共に、別に調製された所定濃度の高分子凝集剤水溶液の所定量を徐々に添加して、前記顔料が水性媒体中に高分子凝集剤による顔料粒子間の橋かけ凝集状態にある懸濁状態の可逆熱変色性インキ組成物を得る。前記可逆熱変色性インキ組成物は、繊維集束体からなるインキ吸蔵体中に含浸させて、繊維加工体をペン体として装備した軸胴に内挿され、筆記具を構成し、実用に供される。」

[2-コ] 「【0014】
【実施例】以下に実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されない。又、可逆熱変色性微小カプセル顔料の形態は、図1?3に例示の非円形断面形状の顔料を任意に適用でき、これらの形態の顔料を混在させたものであってもよい。尚、実施例中の部は重量部である。
【0015】実施例1
2-(2-クロロアニリノ)-6-ジ-n-ブチルアミノフルオラン3部、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン6部、カプリン酸セチル25部、ステアリン酸ブチル25部からなる可逆熱変色性組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー/酢酸エチル溶液(プレポリマー濃度:75重量%)30部を加え、均一に溶解した溶液を70℃に加温した15重量%ゼラチン水溶液100部中に攪拌しながら投入し、微小滴に乳化した後、更に、80℃で5時間反応させることにより、可逆熱変色性組成物を含む微小カプセル顔料の原液を得た。次いで、前記原液の遠心分離処理により、可逆熱変色性微小カプルセル顔料(当審注:下線部は「カプセル顔料」の誤記と認定する。)〔平均粒子径1.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.60/1.0〕を得た。前記可逆熱変色性微小カプセル顔料25部を、グリセリン5部、防黴剤(商品名:プロキセルXL-2、ゼネカ株式会社製)0.7部、シリコーン系消泡剤(商品名:SN デフォーマー 381、サンノプコ株式会社製)0.1部、及び水63.2部からなる水性媒体中に均一に分散状態となし、凝集剤としてのヒドロキシエチルセルロース(商品名:セロサイズWP-09L、ユニオンカーバイド日本株式会社製)の5重量%を含む水溶液6部を攪拌しながら、前記分散状態にある液に添加して可逆熱変色性水性インキ組成物を得た。前記インキ組成物の粘度は、3.9mPa・sであった(株式会社東京計器製B形粘度計により、BLアダプターを適用し、60rpmで測定:測定温度25℃)尚、前記実施例において、可逆熱変色性微小カプセル顔料の平均粒子径は、〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕の値であり、以下の実施例も同様である。ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆したインキ吸蔵体(気孔率約80%)中に、前記可逆熱変色性インキ組成物を均一状態に攪拌した直後に含浸させて軸胴内に収容し、軸筒先端部に装着させたポリエステル繊維の樹脂加工ペン体(気孔率約50%)と接続状態に組み立て、筆記具を構成した。前記筆記具により筆記したところ、インキ流出性は適正であり、任意の熱変色像が自在に形成できた。前記熱変色像は、室温(25℃)では、無色状態を呈しているが、約15℃(t_(1))以下の温度へ冷却することにより黒色に着色し、再び約18℃(t_(4))以上へ加温することにより、消色する加熱消色型の熱変色特性(図7参照)を示した。前記色変化は可逆的であり、繰り返し再現できた。
【0016】実施例2
1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン3部、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン5部、セチルアルコール25部、カプリン酸ステアリル25部からなる可逆熱変色性組成物とエポキシ樹脂(ビスフェノールA・ジグリシジルエーテル系)10部を混合し、加温により均一に溶解させた溶液を、70℃に加温した20重量%アラビアガム水溶液100部中に攪拌しながら投入し、微小滴に乳化した。次いで、エポキシ樹脂硬化剤(エポキシ樹脂のアミン付加物)10重量%水溶液50部を前記乳化液中に徐々に添加した後、80℃で5時間攪拌し、前記可逆熱変色性組成物を含む可逆熱変色性微小カプセル顔料の原液を得た。前記原液の遠心分離処理により、可逆熱変色性微小カプセル顔料(平均粒子径:3μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=5.80/1.0)を得た。水を64.2部、凝集剤としてメチルセルロース(商品名:マーポローズM-25、松本油脂株式会社製)5重量%を含む水溶液5部とした以外は、実施例1と同様にして可逆熱変色性水性インキ組成物(粘度:4.1mPa・s)を得た。次いで、前記実施例1と同様にして、筆記具を構成した。前記筆記具による筆跡は、室温(25℃)ではピンク色を呈しており、筆記した紙を約33℃(t_(4))以上の温度へ加温することにより、筆跡が無色となる加熱消色型の熱変色特性(図7参照)を示し、この状態で室温(25℃)に放置したところ約28℃(t_(1))で再びピンク色を呈した。
【0017】実施例3
1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン3部、1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン6部、ステアリン酸ネオペンチル50部からなる可逆熱変色性組成物を使用したことを除いて、実施例1と同様にして可逆熱変色性組成物を含む可逆熱変色性微小カプセル顔料の原液を得た。前記原液の遠心分離処理により、可逆熱変色性微小カプセル顔料(平均粒子径:4μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.60/1.0)を得た。水を59.2部、凝集剤としてヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC-L、日本曹達株式会社製)5重量%を含む水溶液10.0部、とした以外は実施例1と同様にして、前記可逆熱変色性微小カプセル顔料を用いて可逆熱変色性水性インキ組成物(粘度:4.7mPa・s)を得た。実施例1と同様にして、筆記具を構成した。前記筆記具による筆跡は、室温(25℃)で無色の状態(消色状態)から、約15℃(t_(1))以下の温度に冷却すると橙色に着色し、この着色状態は再び室温(25℃)に加温しても保持することができた。さらに、橙色に着色している状態から、加温することにより、約32℃(t_(4))で消色し、この状態は再び約15℃以下の温度に冷却するまで保持することができ、色彩記憶保持型の熱変色特性(図8)を示した。前記した消色状態と着色状態は、常温域で互変的であり、可逆的に再現させることができた。」

[2-サ] 「【0020】筆記具の経時筆記性能の確認
実施例1?4のインキ組成物を充填した前記各筆記具を、50℃及び室温(20℃)の各条件下に正立(ペン体側上向き)、倒立(ペン体側下向き)状態で30日間放置後、筆記性能を確認したところ、ペン体からのインキ流出性は適正であり、正立、倒立状態での放置による筆跡濃度変化は認められなかった。」

[2-シ] 「【0022】
【発明の効果】本発明の可逆熱変色性水性インキ組成物は、水溶性高分子凝集剤の緩い橋架け作用による、緩い凝集状の可逆熱変色性微小カプセル顔料の懸濁状態にある液が、毛細間隙を有する部材中において、懸濁状態が破壊されることなく、長期間、安定的に保持される上、その状態の液を毛細間隙から導出させることができる特性を有し、毛細間隙を有するペン体及びインキ吸蔵体を備えた筆記具に適用すると、筆記具の放置状態に左右されることなく、適正なインキ流出性を示し、一様に分散した可逆熱変色性微小カプセル顔料を含む、均質且つ鮮明な熱変色像を筆記面に形成できる。ここで、前記可逆性熱変色性微小カプセル顔料が、窪みを有する非円形断面形状であり、ペン体の毛細間隙中を最大外径側(長径側)を筆記先端に向かう軸線方向に配向して通過する度合いが大であり、インキ流出不良を起こすことなく、スムーズに筆記できる上、筆記像は、長径側を紙面に配向させて、密接状に固着され、高濃度の鮮明な熱変色像を形成できる。更には、前記熱変色像の擦過や摩擦により加熱変色させる際には、この種の外圧に対してもカプセル壁膜が破壊されることのない耐性を有する。適用される可逆熱変色性微小カプセル顔料の選択により、多様な可逆熱変色像を形成できる。即ち、前記微小カプセル顔料が、ヒステリシス幅が3℃未満の可逆熱変色性組成物を内包させた系では、熱変色後において、速やかに元の色彩に復帰させることができ、ヒステリシス幅が概ね4?8℃の可逆熱変色性組成物を内包させた系にあっては、緩徐に元の色彩に復帰させることができ、ヒステリシス幅が8℃以上の可逆熱変色性組成物を内包させた系では、変色に要した熱又は冷熱を取り去った後にあっても、変色前後の色彩を互変的に記憶保持させることができ、加熱発色型の可逆熱変色性組成物を内包させた系では、常態では不可視の像を加熱によって現出させることができ、文字、数字、記号、図柄、メッセージ等の任意の熱変色像を形成でき、温度検知、画材、暗記又はアンダーライン等の学習要素、秘密文書、暗証番号等の記録要素等、多様な分野に適用される。」

[2-ス] 「【図1】 【図2】 【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】 【図8】



イ 刊行物Aに記載された事項
刊行物A(特開平8-39936号公報)は、無効理由通知書で引用された文献であり、当該文献には、以下の事項が記載されている。
[A-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類から選ばれる化合物の三成分を必須成分とする均質相溶体からなる、色濃度-温度曲線に関し、8℃乃至80℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して変色する感温変色性色彩記憶性組成物。
【請求項2】 前記アリールアルキルケトン類がフェニルアルキルケトン類から選ばれる化合物である請求項1記載の感温変色性色彩記憶性組成物。
【請求項3】 請求項1及び2記載の感温変色性色彩記憶性組成物をマイクロカプセル中に内包した感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料。」

[A-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は感温変色性色彩記憶性組成物に関する。さらに詳細には、温度変化により大きなヒステリシス特性を示して発色-消色の可逆的変色を呈し、変色に要した熱又は冷熱の適用を取り去った後にあっても、着色状態と消色状態のいずれかを互変的且つ可逆的に常温域で保持する感温変色性色彩記憶性組成物に関する。」

[A-ウ] 「【0005】以下に本発明の感温変色性色彩記憶性組成物の色濃度-温度曲線におけるヒステリシス特性を図1のグラフについて説明する。図1において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する最低温度T_(4)(以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは完全呈色状態を保持できる最高温度T_(3)(以下、最高保持温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは完全消色状態を保持できる最低温度T_(2)(以下、最低保持温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全呈色状態に達する最高温度T_(1)(以下、完全呈色温度と称す)における濃度を示す点である。温度T_(A)においては呈色状態E点と消色状態F点の2相が共存する状態にある。この温度T_(A)を含む、呈色状態と消色状態が共存できる温度域が変色の保持可能な温度域であり、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が大きい程、変色前後の各状態の保持が容易である。本発明者らの実験では実用上の変色前後の各状態の保持できるΔH値は8℃乃至80℃の範囲である。又、前記において、呈色状態と消色状態の二相が実質的に保持され、実用に供される温度、即ち、T_(A)を含むT_(3)とT_(2)の間の温度幅は2℃以上80℃未満の範囲が有効である。」

[A-エ] 「【0015】実施例1
感温変色性色彩記憶性組成物の製造方法及びヒステリシス特性の測定方法
(イ)成分としてCVL0.1部、(ロ)成分としてビスフェノールA0.1部、n-ヘキサノフェノン2.5部を混合し、攪拌しながら120℃迄昇温させ、均一に溶解し、3成分の均質相溶体を得た。前記均質相溶体を内径1mm、長さ78mmの透明ガラス製毛細管に、毛細管の底部から10mmの高さ迄詰めて封入し、試験体1を作成した。得られた試験体1を、後面に白色紙を立設し、-10℃に冷却した不凍液を入れたビーカー内部に、試験体1の底部から40mmの高さ迄浸漬し、各温度における色濃度が判るようにして、ハンディクーラー(トーマスサイエンティフィック社製)を用いて、不凍液を-10℃から+1℃/minずつ加温した。この試験体1の色変化を目視にて観察した所、15℃迄青色を呈していた試験体1は、15℃から加温する毎に色濃度は薄くなり(T_(3) )、26℃にて完全無色透明となり(T_(4) )、40℃まで昇温してもその透明度は維持された。次に、前記40℃迄昇温した状態の試験体1を-1℃/minずつ冷却すると、8℃迄は何ら変化を示さず無色透明の状態を呈していたが、8℃以下で淡い青色に着色し(T_(2) )、冷却する毎にその色濃度は濃くなり、4℃で完全に青色となり(T_(1) )、-10℃迄冷却しても、4℃での色濃度は維持されたままであった。
【0016】実施例2?11
実施例1と同様にしてヒステリシス特性を測定した。前記感温変色性色彩記憶性組成物の製造に適用した(ハ)成分、及びT_(1) 、T_(2) 、T_(3) 、T_(4) 、T_(H) (着色過程における色濃度の中点の温度)、T_(G) (消色過程における色濃度の中点の温度)、及びΔH(線分HG)の各値を表1示す。尚、(ハ)成分については、表1に示す通りであり、(イ)、(ロ)成分及びその他の試料とその重量部については実施例1と同様である。
【表1】


【0017】実施例12
感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の製造方法
(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン3.0部、(ロ)フェノール化合物として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン8.0部、(ハ)n-ラウロフェノン50.0部からなる3成分を120℃にて加温溶解して均質相溶体となし、エポン828〔油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ樹脂〕10部とメチルエチルケトン10部の混合溶液に混合したのち、これを10%ゼラチン水溶液100部中に滴下し、微小滴になるよう攪拌する。別に用意した5部の硬化剤エピキュアU〔油化シェルエポキシ(株)製、エポキシ樹脂のアミン付加物〕を45部の水に溶解させた溶液を前記攪拌中の溶液中に徐々に添加し、液温を80℃に保って約5時間攪拌を続け、マイクロカプセル原液を得た。前記原液を遠心分離処理することにより、含水率約40重量%の黒色から無色に変化する平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。
【0018】ヒステリシス特性の測定方法
前記の如くして得られた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料40部をエチレン-酢酸ビニルエマルジョン50部、消泡剤1部、レベリング剤1部、水8部の中に均一に分散してなるインキを180メッシュのスクリーン版を用いて、明度値9.2の白色上質紙上にベタ印刷し、完全乾燥させ、塗膜厚みが20μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を用いた印刷物を得た。得られた印刷物を以下の方法で加熱、冷却して変色挙動をグラフ上にプロットした。前記印刷物を色差計〔TC-3600型色差計、(株)東京電色製〕の所定箇所に貼りつけ、その部分を温度幅70℃の範囲内で10℃/minの速度で印刷物を加熱、冷却した。例えば、実施例1の場合は、-10℃を測定開始温度として、10℃/minの速度で60℃まで加温し、続いて、10℃/minの速度で再び-10℃まで冷却した。各温度において色差計に表示された明度値をグラフ上にプロットして、図1に例示の変色曲線を作成し、T_(1)、T_(2)、T_(3)、T_(4)、T_(H)(着色過程における色濃度の中点の温度)、T_(G)(消色過程における色濃度の中点の温度)、及びΔH(線分HG)の各値を得た。
【0019】コントラストの測定方法
前記ヒステリシス特性の測定時に、例えば、実施例10の場合は、-10℃の時の明度値V_(E)を色差計〔TC-3600型色差計、(株)東京電色製〕から読み取り、次に、60℃の時の明度値V_(F)を同様にして読み取り、コントラストΔVをV_(F)-V_(E)として算出した。
【0020】実施例13?19
実施例12と同様にしてヒステリシス特性を測定した。前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料の製造に適用した(ハ)成分、及びT_(1)、T_(2)、T_(3)、T_(4)、T_(H)(着色過程における色濃度の中点の温度)、T_(G)(消色過程における色濃度の中点の温度)、ΔH(線分HG)、V_(E)、VF、ΔV(V_(F)-V_(E))の各値を表2示す。尚、(ハ)成分については、表2に示す通りであり、(イ)、(ロ)成分及びその他の試料とその重量部については実施例12と同様である。
【表2】


【0021】実施例20
(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、6-(エチルイソブチルアミノ)ベンゾαフルオラン3.0部、(ロ)フェノール化合物として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン8.0部、(ハ)n-ラウロフェノン50.0部を同様の方法にてマイクロカプセル化し、ピンク色から無色に変化する感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。
【0022】実施例21
(イ)電子供与性呈色性有機化合物として、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドリル-3-イル)-4-アゾアゾフタリド1.5部、(ロ)フェノール化合物として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン8.0部、(ハ)n-ラウロフェノン50.0部を同様の方法にてマイクロカプセル化し、青色から無色に変化する感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。
【0023】実施例20及び21で得られた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を実施例12と同様の方法にて、その変色特性並びに明度値を読み取り、コントラストΔVをV_(F) -V_(E) として算出した。各値を表3に示す。
【表3】




[A-オ] 「【0024】適用例1
(イ)3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、(ロ)1、1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、(ハ)n-ラウロフェノンの三成分の均質相溶体をエポキシ樹脂/アミンの界面重合法によってマイクロカプセル化して、平均粒子径10μmの感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を得た。得られた感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料は黒色-無色の可逆的熱変色特性(T_(1):-6℃、T_(4):46℃)を有する。白色上質紙の表面に前記感温変色性色彩記憶性マイクロカプセル顔料を含むエチレン-酢酸ビニルエマルジョンに分散されてなるインキをスクリーン版(180メッシュ)を用いて印刷し、感温変色性記録紙を作製した。前記記録紙は常態では黒色を視覚させており、46℃以上の加熱により、白色となる。この状態は約25℃の室温下で保持される。次に-6℃以下に冷却したところ、黒色となり、室温下ではこの状態が保持された。前記記録紙の黒色、白色のいずれかの状態は、常温域で互変的に保持させることができた。室温下で黒色状態にある前記記録紙上を加熱ペン(55℃)で筆記すると白色の筆跡が視覚された。一方、白色状態にある前記記録紙上を冷熱ペン(-10℃)で筆記すると黒色の筆跡を現出させた。この状態は前記室温下で保持された。」

[A-カ] 「【0029】
【発明の効果】本発明感温変色性色彩記憶性組成物、殊にマイクロカプセル化した顔料は、色濃度-温度曲線に関して、8℃?80℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して発色-消色の可逆的変色を生起させ、変色温度より低温側の色と高温側の色の両方を常温域で互変的に記憶保持でき、必要に応じて熱又は冷熱を適用することにより、いずれかの色を可逆的に再現させて記憶保持できる特性を効果的に発現させることができ、更に、発色時の高い濃度と消色時の色消えの良さによる、非常に高いコントラストを発現させることができる。本発明の感温変色性色彩記憶性組成物、殊にマイクロカプセル化した顔料は、塗料或いは印刷インキとして、多様な塗装乃至印刷物への適用や、該顔料を熱可塑性樹脂やワックス類等に溶融ブレンドして諸種の形態の賦形物として適用される。」

[A-キ] 「【図1】



[A-ク] 「【0007】本発明における(イ)、(ロ)、(ハ)三成分の構成成分割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右されるが、一般的に所望の特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1?50、好ましくは0.5?20、(ハ)成分1?800、好ましくは5?200の範囲である(前記割合はいずれも重量部である)。又、各成分は各々2種以上の混合であってもよく、機能に支障のない範囲で酸化防止剤、紫外線吸収剤、一重項酸素消光剤、赤外線吸収剤、溶解助剤等を添加することができる。又、一般顔料(非熱変色性)を配合することにより、有色〔1〕から有色〔2〕への色変化を付与できる。
【0008】以下に(イ)、(ロ)、(ハ)の各成分について具体的に化合物を例示する。本発明の(イ)成分、即ち電子供与性呈色性有機化合物としては、従来より公知のジフェニルメタンフタリド類、フルオラン類、ジフェニルメタンアザフタリド類、インドリルフタリド類、フェニルインドリルフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、スチリルキノリン類、ピリジン類、キナゾリン類、ビスキナゾリン類等がある。以下にこれらの化合物を例示する。3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、2-N-シクロヘキシル-N-ベンジルアミノ-6-ジエチルアミノフルオラン、2-P-ブチルフェニルアミノ-6-ジエチルアミノ-3-メチルフルオラン、1,3-ジメチル-6-ジエチルアミノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-ジエチルアミノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-キシリジノフルオラン、2-(2-クロロアニリノ)-6-ジブチルアミノフルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3,6-ジ-n-ブトキシフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジエチルアミノフルオラン、1,2-ベンツ-6-ジブチルアミノフルオラン、3-(ブチル-2-メチルインドール-3-イル)-3-(1-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-1(3H)イソベンゾフラノン、1,2-ベンツ-6-エチルイソアミルアミノフルオラン、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、3,3-ビス(1-n-ブチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3,3-ビス(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド、2-(N-フェニル-N-メチルアミノ)-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、2-(3’-トリフルオロメチルアニリノ)-6-ジエチルアミノフルオラン、3-クロロ-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、2-メチル-6-シクロヘキシルアミノフルオラン、3-メトキシ-4-ドデコキシスチリルキノリン、4-(4’-メチルベンジルアミノフェニル)-ピリジン、2,6-ジフェニル-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2,6-ビス(4’-メトキシフェニル)-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2,6-ジメチル-3,5-ビスカルボエトキシ-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-ピリジン、2-(2’-オクトキシフェニル)-4-(4’-ジメチルアミノフェニル)-6-フェニル-ピリジン、2,6-ジエトキシ-4-(4’-ジエチルアミノフェニル)-ピリジン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-メトキシ-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-ニトロフェニルオキシ)-キナゾリン、2-(4’-フェニルメチルアミノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン 2-(4’-ピペリジノフェニル)-4-フェノキシ-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-クロロフェニルオキシ)-キナゾリン、2-(4’-ジメチルアミノフェニル)-4-(4’’-メトキシフェニルオキシ)-キナゾリン、4,4’-(エチレンジオキシ)-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-〔プロピレンジオキシ(1,3)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-〔ブチレンジオキシ(1,3)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-〔ブチレンジオキシ(1,4)〕-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-(オキシジエチレン)-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-エチレン-ビス〔2-(4-ピペリジノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-エチレン-ビス〔2-(4-ジ-n-プロピルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-(エチレンジオキシ)-ビス〔2-(4-ジ-n-ブチルアミノフェニル)キナゾリン〕、4,4’-シクロヘキシレン-ビス〔2-(4-ジエチルアミノフェニル)キナゾリン〕等が好適に用いられる。
【0009】成分(ロ)の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群〔酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群〕、電子空孔を有する化合物群等がある。活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール-アルデヒド縮合樹脂等が挙げられる。又、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩であってもよい。
【0010】以下に具体例を挙げる。フェノール、o-クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n-オクチルフェノール、n-ドデシルフェノール、n-ステアリルフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、o-フェニルフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸n-オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4-ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4-ヒドロキシ-4’-イソプロポキシジフェニルスルホン1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ドデカン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)n-ノナン、等がある。前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2?5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3-トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物等であってもよい。
【0011】次に(ハ)成分の総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類について具体的に化合物を例示する。n-オクタデカノフェノン、n-ヘプタデカノフェノン、n-ヘキサデカノフェノン、n-ペンタデカノフェノン、n-テトラデカノフェノン、4’-n-ドデカノアセトフェノン、n-トリデカノフェノン、4’-n-ウンデカノアセトフェノン、n-ラウロフェノン、4’-n-デカノアセトフェノン、n-ウンデカノフェノン、4’-n-ノニルアセトフェノン、n-デカノフェノン、4’-n-オクチルアセトフェノン、n-ノナノフェノン、4’-n-ヘプチルアセトフェノン、n-オクタノフェノン、4’-n-ヘキシルアセトフェノン、4’-n-シクロヘキシルアセトフェノン、4-tert-ブチルプロピオフェノン、n-ヘプタノフェノン、4’-n-ペンチルアセトフェノン、シクロヘキシルフェニルケトン、ベンジル-n-ブチルケトン、4’-n-ブチルアセトフェノン、n-ヘキサノフェノン、4-イソブチルアセトフェノン、1-アセトナフトン、2-アセトナフトン、シクロペンチルフェニルケトン等が挙げられる。本発明の(ハ)成分は前記アリールアルキルケトン類を用いるが、必要に応じてヒステリシス特性を大きく変動しない範囲で他のエステル類、アルコール類、カルボン酸類、アミド類等を加えることができる。この場合、その添加量は本発明のアリールアルキルケトン50部に対して50部以下(重量部)が所期の色彩記憶性効果を有効に発現させる上で好ましい。」

[A-ケ] 「【0012】前記した(イ)、(ロ)、(ハ)の必須三成分の組成物の均質相溶体は、公知の微小カプセル化技術により微小カプセルに内包させることができ、微小粒子化(0.5?50μm、好ましくは1?30μm)により、ΔH値は必須3成分の組成物の均質相溶体のΔHと比較し、更にΔHを拡大することができる。又、カプセル膜壁で保護されていることにより、酸性物質、塩基性物質、過酸化物等の化学的に活性な物質又は他の溶剤成分と接触しても、その機能を低下させることがないことは勿論、耐熱安定性が保持できる。利用できる微小カプセル化技術としては、界面重合法、in Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。尚、微小カプセルの表面は、目的に応じて更に二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。」

ウ 刊行物3(甲第3号証)に記載された事項
刊行物3(特開平7-241388号公報)は、請求人が甲第3号証として提出し、無効理由通知書で引用された文献であり、当該文献には、以下の事項が記載されている。
[3-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 支持体表面に熱変色層が配設された熱変色体と、前記熱変色層を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦具とからなる熱変色筆記材セット。
【請求項2】 前記摩擦具は、摩擦部が非金属材料で形成されてなる請求項1記載の熱変色筆記材セット。
【請求項3】 前記摩擦具は、摩擦部が樹脂発泡体、エラストマー、ゴム、繊維の熱融着乃至樹脂加工体、羊毛フェルト、可塑剤がブレンドされたプラスチックの半溶融ゲル化体から選ばれる材料よりなる請求項1記載の熱変色筆記材セット。
・・・(中略)・・・
【請求項5】 前記摩擦具は、摩擦により熱を発生させる摩擦部と、前記摩擦部を保持する保持部よりなる請求項1、2又は3記載の熱変色筆記材セット。
【請求項6】 前記熱変色層は、5?50℃の変色点をもち、変色点以下で発色、変色点以上で消色する可逆性熱変色性材料で形成されており、前記摩擦具は熱変色層の発色像を熱消色させる消去具である請求項1記載の熱変色筆記材セット。
【請求項7】 前記摩擦具は、熱変色像を形成する熱変色筆記要素である請求項1記載の熱変色筆記材セット。
【請求項8】 前記熱変色層は、温度変化によりヒステリシス特性を示して着色状態と無色状態の互変性又は有色(1)と有色(2)間の互変性を有し、着色状態と無色状態の両相又は有色(1)と有色(2)の両相が共存できる二相保持温度域が常温域にある、準可逆性熱変色性材料を内包させた微小カプセル顔料が、バインダー中に分散状態で固着されてなる層である請求項1記載の熱変色筆記材セット。」

[3-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は熱変色筆記材セットに関する。さらに詳細には、熱変色層が配設された熱変色体と、前記熱変色層を摩擦熱により加熱して変色させる摩擦具よりなる、事務、玩具、教習具、知育具分野等に適用される熱変色筆記材セットに関する。」

[3-ウ] 「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、支持体表面に熱変色層が配設された熱変色体と、前記熱変色層を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦具とからなる熱変色筆記材セットを要件とする。更に、前記摩擦具は、摩擦部が非金属材料であること、摩擦部がゴム、エラストマー、樹脂発泡体、繊維の熱融着乃至樹脂加工体、羊毛フェルト、可塑剤がブレンドされたプラスチックの半溶融ゲル化体等から選ばれる材料よりなること、前記熱変色体は、熱変色層の上層に透明樹脂のオーバーコート保護層が設けられており、前記摩擦部はオーバーコート保護層より低硬度の材料よりなること、更に、前記摩擦具は、摩擦により熱を発生させる摩擦部と、前記摩擦部を保持する保持部よりなること、前記熱変色層は、5?50℃の変色点をもち、変色点以下で発色、変色点以上で消色する可逆性熱変色性材料で形成されており、前記摩擦具は熱変色層の発色像を熱消色させる消去具であること、前記摩擦具は、熱変色像を形成する熱変色筆記要素であること、前記熱変色層は、温度変化によりヒステリシス特性を示して着色状態と無色状態の互変性又は有色(1)と有色(2)間の互変性を有し、着色状態と無色状態の両相又は有色(1)と有色(2)の両相が共存できる二相保持温度域が、常温域にある準可逆性熱変色性材料を内包させた微小カプセル顔料が、バインダー中に分散状態で固着されてなる層であること、前記熱変色体は、熱変色層と支持体との間に非変色層が介在されてなることを要件とする。」

[3-エ] 「【0006】前記摩擦具は、摩擦部と熱変色体の摩擦面(熱変色層又はオーバーコート保護層)との間に発生する摩擦熱により、前記熱変色層を変色させる変色具であり、適度な摩擦抵抗を有し、更に摩擦面よりも低硬度であり、摩擦により前記摩擦面を傷つけることのない材料が選択される。更に加えて前記摩擦具は、摩擦面と摩擦部の間に生じた摩擦熱を熱変色層に効果的に伝導するために、摩擦熱の損失の少ない、熱伝導率の低い非金属性の材料を用いることが好ましい。
【0007】前記要件を満たす摩擦具の摩擦部の材質としては、熱可塑性乃至熱硬化性樹脂発泡体として、ポリスチロール、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の発泡体が挙げられ、好ましくはポリエチレン発泡体が用いられる。プラスチック発泡体として、酢酸セルローズ、アクリル樹脂、ポリビニルホルマール等の発泡体が挙げられる。エラストマーとして、ポリブタジエン、クロロプロピレン、ポリウレタン系コポリマー、エチレン・プロピレン、オレフィン、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル系、ポリエステル系、エチレン-アクリル酸コポリマー、スチレン系等のエラストマーが挙げられる。ゴムとして、ブチルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-酢酸ビニル系ゴム、塩素化ポリエチレン、ポリエステルゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。その他、繊維の熱融着乃至樹脂加工体、羊毛フェルト体、塩化ビニル及び塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂等に可塑剤がブレンドされた半溶融ゲル化体等が挙げられる。」

[3-オ] 「【0010】又、本出願人が先に提案した特公平4-17154号公報に記載されている、大きなヒステリシス特性を示して変色する色彩記憶性感温変色性色素を含む熱変色性材料で彩色された系も有効である。前記色素は、大きなヒステリシス幅(ΔH)を示して変色する。即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から温度を上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで、大きく異なる経路を辿って変色する準可逆性熱変色性材料であり、図9により説明する。
【0011】グラフ中のA点(温度t_(1))はこれ以下の温度では前記色素が完全に呈色している状態になる点であり、B点(温度t_(3))は温度が上昇する過程で実質的な変色(消色)が始まる点であり、C点(温度t_(4))はこれ以上の温度では完全に消色している状態になる点であり、D点(温度t_(2))は温度が下降する過程で実質的な変色(着色)が始まる点であり、再びA点(温度t_(1))に達すると完全に呈色した状態となる。変色温度域は前記t_(1)とt_(4)の間の温度域であり、特に着色状態と無色状態の両相又は有色〔1〕と有色〔2〕の両相が共存でき、色濃度の差の大きい領域であるt_(2)とt_(3)の間が実質的な二相保持温度域であり、前記二状態の何れかを選択的に記憶保持可能な領域である。前記二相保持温度域は常温域(概ね5?38℃、好ましくは10?35℃)のものが実用性の面で有効である。前記熱変色性材料は、変色の感度及び鋭敏性を向上させる為に、微小カプセルに内包された微小カプセル顔料が好適に用いられる。」

[3-カ] 「【0016】
【作用】支持体上面に配設された熱変色層が可逆性熱変色性材料で形成された形では、常態で発色状態の熱変色体を摩擦具で摩擦すると、発生した摩擦熱により前記熱変色層は消色し、所望の熱変色像が現出し、摩擦具は熱変色像の形成具として機能する。又、前記熱変色像は、冷却すると再び変色前の状態に復する。一方、常態で熱変色層が消色状態である場合、従来より公知の冷熱ペン、例えば氷片、冷水を充填したペンを用いて熱変色像を現出させた後、前記熱変色像の上面を摩擦具で摩擦することにより像は消去され、摩擦具は消去体として機能する。前記熱変色層が色彩記憶性感温変色性色素を含む準可逆性熱変色性材料により形成された系では、変化に要した熱又は冷熱を取り去った後にあっても、変化した様相を互変的に、常温域で記憶保持して視覚させることができる。」

[3-キ] 「【0017】
【実施例】
実施例1(図1?3参照)
80μm厚の白色合成紙に接着剤をコーティングして1mm厚のポリエチレンフォームを貼り合わせ、支持体41とする。前記の如く形成した白色合成紙上面に色彩記憶性感温変色性色素〔青色←→無色(A点18℃、C点30℃)〕を微小カプセルに内包させた熱変色性顔料をエチレン─酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンに分散させた熱変色性インキ(特公平4-17154号公報を利用)を用い、熱変色層42を印刷形成する。前記熱変色性インキが乾燥した後、オーバーコートクリヤーインキ(溶剤型アルキド樹脂をバインダーとする)を印刷し、オーバーコート保護層43とする。
【0018】前記の如くして形成した熱変色シート4をプラスチック製本体3に支持固着させ、熱変色体2を構成した。尚、本体3の側部には把持部5が一体成型されてなり、本体3の右側には冷熱ペン8の先端形状と同形状の凹部よりなる、冷熱ペン8を保持するスタンド部6と、熱変色体2を垂直状態にして持ち運ぶ際に、冷熱ペン8を収納する受皿部7を備えてなる。
【0019】(図5参照)前記熱変色体2を30℃以上に加温して熱変色シート4が白色状態を呈する筆記面上を、プラスチック製玉子形状の中空体の先端に金属製の筆記先端部が取り付けられ、内部に氷を充填した冷熱ペン8にて筆記すると、前記色彩記憶性感温変色性色素が発色して青色の筆跡10が得られ、前記筆跡10は25℃の室温下で保持されている。
【0020】(図4、6参照)0前記筆跡10上を、摩擦具9〔ポリエチレン発泡体からなる長方体(5cm×3cm×2cm)〕の両端を把持して擦ると、筆記面と摩擦部の間に発生した摩擦熱により、前記筆跡10を消去することができ、筆記部4は白色に戻り、25℃の室温下で白色状態は保持されており、再び冷熱ペン8及び摩擦具9を使用することにより、前記様相変化を繰り返し再現できる。尚、前記熱変色体2、冷熱ペン8、及び摩擦具9により、熱変色筆記材セット1が構成される。」

[3-ク] 「【0025】
【発明の効果】本発明熱変色筆記材セットは、摩擦熱により変色可能な熱変色層を設けた熱変色体と、前記熱変色層を熱変色させる軽便な摩擦具とから構成され、前記摩擦具は発色像を消去させる消去要素としての機能は勿論、任意像を形成する筆記要素として機能し、幼児等にあっても安心して使用することのできる簡便な熱変色筆記材セットを提供でき、玩具、教習具、知育具、筆記ボード分野等、多様な分野に適用性を有する。」

[3-ケ] 「【図4】?【図6】



[3-コ] 「【図9】



[3-サ] 「【0002】
【従来の技術】従来、摩擦熱により熱変色層を変色させる手段として、熱変色層上を手で擦り、発生した摩擦熱を利用して変色させる方法や、内部にモーターと電源を具備し、モーターの回転軸と連動する部材と、前記部材との接触部に生じた回転摩擦による摩擦熱を利用(実開平2-86781号公報、実開平4-87277号公報)したものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来の加熱手段にあって、熱変色層を手で擦り、発生した摩擦熱によって変色させる系にあっては、非衛生的であると共に発熱による損傷が懸念され、長時間の使用や、幼児等が使用するには不向きであった。又、誤って爪や指輪等の装飾具が熱変色層表面と接触して熱変色層を損傷させ、商品性を損なう危険がある。又、モーターと電源を具備した熱変色具を適用する系にあっては、装置の複雑さと、それによるコスト高、及び玩具等に適用した場合、幼児が誤って落下させた時、破損して使用不能になる危険がある。
【0004】本発明は、前記した従来の加熱手段、又は熱変色具の適用による不具合を解消しようとするものである。即ち、熱変色層を傷つけることがなく、構造が簡易で破損し難い加熱変色具と、熱変色層を配設した熱変色体による熱変色筆記材セットを提供しようとするものである。」

[3-シ] 「【0012】前記熱変色性材料は、バインダーを含む媒体中に分散されて、インキ、塗料などの色材として適用し、支持体上面に所望の熱変色層を形成する。又、熱変色状態を多様化させるために、前記熱変色層の上層、又は下層(好ましくは下層)に非熱変色性インキによる非熱変色層が形成されたものであってもよい。
【0013】又、前記熱変色層及び非熱変色層の形成は、従来より公知の、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷、転写等の印刷方法、及び刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装等の手段により行うことができる。又、熱変色性材料を内包させた微小カプセル顔料、及び非熱変色性インキを、一体的に熱可塑性樹脂に分散状態に溶融ブレンドして、シート状となして、支持体と一体の熱変色層を形成することもできる。又、前記熱変色層を保護する透明樹脂によるオーバーコート保護層も同様の方法により形成することができる。
【0014】前記支持体は印刷適性を備えた基材であれば全て有効であり、例えば、紙、合成紙、編織布等の布帛、植毛或いは起毛布、不織布、合成皮革、レザー、プラスチック、ガラス、陶磁器、金属、木材、石材等が用いられる。又、形状としては平面状のものが好ましいが、凹凸状の形態であってもよい。」

[3-ス] 「【図1】



エ 刊行物9(甲第9号証)に記載された事項
刊行物9(特開昭57-115397号公報)は、請求人が甲第9号証として提出し、無効理由通知書で引用された文献であり、当該文献には、以下の事項が記載されている。
[9-ア] 「2.特許請求の範囲
中(2)を内蔵し本体ネジ(3)を有する本体(1)に結合ネジ(6)と中穴(7)と取付穴(8)を有し且取付穴(8)に消しゴム(5)を取付け尚を外部の面が任意の角面(9)を有するキヤツプ(4)を本体ネジ(3)と結合ネジ(6)とにより結合させた消しゴム付ボールペンの装置」

[9-イ] 「本発明に係る消しゴム付ボールペンの装置は上記の様に構成されているから、第1図に示すが如く本体(1)に中(2)を内蔵させ且本体(1)の一部に本体ネジ(3)を設けキヤツプ(4)に結合ネジ(6)と中穴(7)と取付穴(8)を設け該取付穴(8)に結合ネジ(6)と本体(1)の本体ネジ(3)とを結合させ一体としたのである。
従来のボールペンは消しゴム(5)が付いていないから消したいものがあっても消す事ができなかったが本案品はボールペンのキヤツプ(4)に消しゴム(5)を取付たので消したいものがあれば自由に消すことが出来るので大変便利であり事務的に能率がよく、安価に製作が出来且実用的効果を発揮するものである。」(第1頁左下欄下から第6行?右下欄第6行)

[9-ウ] 「



オ 刊行物Bに記載された事項
刊行物B(特開平8-332798号公報)は、無効理由通知書で引用された文献であり、当該文献には、以下の事項が記載されている。
[B-ア] 「【特許請求の範囲】
・・・(中略)・・・
【請求項7】 軸筒の後端開口を閉鎖する尾栓に装着される消しゴムに、一端から他端に抜けるゴム通気孔を設けたことを特徴とする筆記具。
【請求項8】 容器のペン先を密封する密閉キャップに装着される消しゴムに、一端から他端に抜けるゴム通気孔を設けたことを特徴とする筆記具。」

[B-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、シャープペンシル、ボールペン、マーキングペン等の筆記具に係り、特に消しゴムを芯タンク、或いは尾栓、保護又は密閉キャップ等に装着してなる消しゴム付筆記具に関するものである。」

[B-ウ] 「【0043】図16はボールペンの例を示した請求項7に係る本発明筆記具の第5実施例であり、軸筒16の後端開口を閉鎖する尾栓17に装着されている消しゴム18に、一端から他端に抜けるゴム通気孔19を設けて、尾栓17から取り外すことができる消しゴム18を誤って飲み込み、万一喉に詰ったとしても空気の流通が確保される様にしたものである。
【0044】軸筒16は、後端開口から装入内在された中芯20のチップ20-1を同芯状に突出支持させる先端21を先端開口に備え、後端開口には尾栓17を備えて該後端開口を閉鎖してなる周知の構造を成し、尾栓17には消しゴム18が装着されている。
【0045】尾栓17は、中芯20の後端を嵌入せしめて軸筒16先端の先端21から突出するチップ20-1を没入不動に支持する支持部17-1を一端側に備え、他端側にはゴム収納部17-2を設けて、消しゴム18を装着してなる。
【0046】消しゴム18は、尾栓17のゴム収納部17-2に着脱自在に装着し得る程度の太さで、該ゴム収納部17-2に装着された状態でその開口から突出する程度の長さを有する周知の円柱状を成し、その一端から他端に抜けるゴム通気孔19を設ける。
【0047】ゴム通気孔19は、上記した実施例詳述の如く所定の空気の流通を確保し得る孔径(開口面積)にて円柱状を成す消しゴム18の一端から他端に向けて開口する。
【0048】而して、以上の如く構成した第5実施例のボールペンによれば、好奇心がおおせいな幼児等が消しゴム18を軸筒16後端の尾栓17から取り外して誤って飲み込み、万一喉に詰ったとしても一端から他端に向けて抜けるゴム通気孔19により空気の流通が確実に確保されることから、安全である。
【0049】図17はサインペン、蛍光ペン等のマーキングペンの例を示した請求項8に係る本発明筆記具の第6実施例であり、容器22の先端に密接状に嵌め合って該先端のペン先23を密封する密閉キャップ24に装着される消しゴム25に、一端から他端に抜けるゴム通気孔26を設けて、密閉キャップ24から取り外すことができる消しゴム25を誤って飲み込み、万一喉に詰ったとしても空気の流通が確保される様にしたものである。
【0050】容器22は、適宜の太さと長さを有する有底筒状に成形され、先端にペン先23を備えた周知の構造を成し、ペン先23を密封する密閉キャップ24には消しゴム25が装着されている。
【0051】密閉キャップ24は、容器22の先端側に密接状に嵌め合って先端から突出するペン先23を密封する有底筒状に成形され、その基端部に消しゴム25を装着してなる。尚、図示例では消しゴム25のゴム通気孔26に連通するホルダー通気孔27を開口したホルダー28を介して消しゴム25を装着してなる。
【0052】ゴム通気孔26及びホルダー通気孔27は、上記した実施例詳述の如く所定の空気の流通を確保し得る孔径(開口面積)にて消しゴム25の一端から他端に向けて開口、そしてホルダー28の底部28-1に開口して、ホルダー28と共に消しゴム25を誤って飲み込み、万一喉に詰った場合に空気の流通が確実に確保されるようにしてなる。
【0053】而して、以上の如く構成した第6実施例のマーキングペンによれば、好奇心がおおせいな幼児等がホルダー28と共に消しゴム25を密閉キャップ24から取り外して誤って飲み込み、万一喉に詰ったとしても一端から他端に向けて抜ける消しゴム25のゴム通気孔26、そして連通するホルダー通気孔27により空気の流通が確実に確保されることから、安全である。」

[B-エ] 「【図16】 【図17】



カ 刊行物Cに記載された事項
刊行物C〔実願平3-48815号(実開平4-132991号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(平成4年12月10日特許庁発行)〕は、無効理由通知書で引用された文献であり、当該文献には、以下の事項が記載されている。
[C-ア] 「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 頭部に凹部を有し、この凹部に消し具を圧入固定してなる筆記具の消し具付きキャップにおいて、前記凹部の底壁には凸部を、内側壁には長手方向に延在するリブを形成し、また、前記消し具に形成した孔部に前記底壁の凸部を圧入してなることを特徴とする筆記具の消し具付きキャップ。」

[C-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】
頭部に凹部を有し、この凹部に消し具を圧入固定してなる筆記具の消し具付きキャップに関する。」

[C-ウ] 「【0009】
ここで、消し具Bとして塩化ビニルや熱可塑性エラストマ-からなる消しゴムや、テルペン系樹脂や熱可塑性エラストマ-や油脂といった高分子化合物と二酸化チタンとからなる固形修正具や、修正液など例示できる。」

[C-エ] 「【0012】
図2に示すように、キャップAにの筆記具Cを装着した状態では、前記盤状の弾性体12に筆記具Cのペン先16が当接し、前記盤状の弾性体12は前記凹部11の内側に向かって押圧付勢され、変形しつつペン先16を気密にしている。尚、筆記具としては、ボ-ルペン、小管式筆記具、シャ-プペンシルなど例示できる。」

[C-オ] 「【図2】



キ 刊行物12(甲第12号証)に記載された事項
刊行物12〔実願平3-77739号(実開平5-24395号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM(平成5年3月30日特許庁発行)〕は、請求人が甲第12号証として提出し、無効理由通知書で引用された文献であり、当該文献には、以下の事項が記載されている。
[12-ア] 「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 自己消耗性の付属具をこの付属具が部分的に突出するよう端部に設けた挿入孔に挿入してなる筆記具において、挿入孔内に当接面と、この当接面より奧部の凹陥部を設けると共に、前記付属具の一端に前記凹陥部に対する嵌合部を設けてなる筆記具。」

[12-イ] 「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、消しゴム、固形修正具などの消し具やクレヨン、パス等の固形描画材のような、使用することによって減っていく自己消耗性のものを付属具として取付けた筆記具に関するものである。」

[12-ウ] 「【0002】
【従来の技術】
一般に筆記具は、手で持って筆記を行なうものであるので、持ち易い長さ、太さや長時間筆記を行なっても疲労が少ないよう軽量であることなどといった使い易さに関する特性が要求される。更に、一本の筆記具が複数の機能を有している多機能性や持ち運びに便利な携帯性も要求される。そこで、一本の筆記具に筆記の機能以外に描画機能や消字機能を持たせたりして多機能性及び携帯性を改良したものが種々提案されている。自己消耗性の付属具を一本の筆記具に取付けたものとしては、鉛筆の一端に消しゴムを取付けたもの、キャップの頭部に消しゴムを取付けたものが一例として挙げられる。しかしながら、筆記具に前記自己消耗の付属具を取付けるに当って、筆記具に比べてあまりに大きな付属具を用いたり、取付部に複雑な機構を採用することは、使い易さの面だけでなく、製造コストの面からも不利な点が多い。」

[12-エ] 「【0007】
【実施例】
以下、本考案を添付図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本考案の第1実施例を示す断面図である。参照符号Aは、ポリプロピレン、ポリエステル等の合成樹脂の射出成形品であるキャップであり、参照符号Bは、筆記具本体である。図1においては筆記具本体Bとしてボールペンを示しているが、シャープペンシルやサインペンであっても良く、筆記具の種類は限定されない。キャップAは、筆記具本体Bの一部(ペン先側及び尾栓側)を挿入できるようになっている。」

[12-オ] 「【0010】
自己消耗性の付属具Cは前記挿入孔2に圧入される直径及び挿入時に一部が挿入孔外部に突出する長さを有する円柱状物であり、ポリ塩化ビニル又は各種熱可塑性エラストマーを基剤とする消しゴム、酸化チタン等の白色顔料よりなる隠蔽剤と各種ワックス及び必要に応じて使用する合成樹脂とよりなる固形修正具、各種有色顔料とワックス、油脂からなる固形描画材が例示される。付属具Cの一端には、前記挿入孔2の凹陥部6に嵌合するように、付属具Cの端面中央に前記挿入孔2の凸部5と対応する凹部8を穿設して、嵌合部9を形成している。なお、付属具Cの断面形状は、円柱状でなく、矩形であっても良い。また、挿入孔2の凸部5と付属具Cの凹部8とは、遊嵌であっても圧入であっても良く、固形修正具や固形描画材のように硬度が高く、脆い材質の場合には遊嵌状態を採用し、消しゴムのような弾性に富む材質の場合には圧入を採用して付属具Cの固定を強化することが好ましい。」

[12-カ] 「【図1】


ク 刊行物24(甲第24号証)に記載された事項
刊行物24(特開平9-124993号公報)は、請求人が甲第24号証として提出し、無効理由通知書で引用された文献であり、当該文献には、以下の事項が記載されている。
[24-ア] 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 必須成分として、(イ)熱変色性マイクロカプセル顔料、(ロ)剪断減粘性物質、水及び水溶性有機溶剤を含む水性媒体からなり、前記マイクロカプセル顔料が前記水性媒体に分散状態にある熱変色性水性ボールペンインキ。
・・・(中略)・・・
【請求項5】 ボールを回転自在に抱持したチップを備え、インキ収容部に収容したインキを導出させて筆記可能に構成されたボールペンにおいて、前記インキ収容部に(イ)熱変色性マイクロカプセル顔料、(ロ)剪断減粘性物質、水及び水溶性有機溶剤を含む水性媒体からなり、前記マイクロカプセル顔料が前記水性媒体に分散状態にある熱変色性水性ボールペンインキが充填されてなることを特徴とするボールペン。」

[24-イ] 「【0002】
【従来の技術】筆記時のボールの回転により生じる剪断作用で粘性を低下させ、筆記可能に構成する水性ボールペンインキに関しては幾つかの提案が開示されている(特公昭64-8673号公報、特公平7-17872号公報等)。」

[24-ウ] 「【0012】尚、内包物である、前記電子供与性呈色性有機化合物、電子受容性化合物及び変色温度調節剤の均質相溶体からなる熱変色性材料は、電子の授受反応により所定温度で発消色するタイプの従来より公知のもの、例えば、特公昭51-44706号、特公昭51-44708号、特公昭52-7764号、特公昭51-35414号、特公平1-29398号公報、特開平7-186546号公報、等に記載のもの、又、本出願人が先に提案した特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報等に記載されている、大きなヒステリシス特性を示して変色する色彩記憶性感温色素を含む熱変色性材料(すなわち、温度変化による着色濃度をプロットした曲線の形状が温度を変色温度域より低温側から温度を上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色するタイプ:低温側変色点と高温側変色点の間の常温域において、前記低温側変色点以下又は高温側変色点以上の温度で変化させた様相を記憶保持できる)が有効である。」

[24-エ] 「【0018】剪断減粘性物質としては、実質的に水に可溶性の物質が効果的であり、キサンタンガム、ウエランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万?15万の重合体、グリコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、、架橋性アクリル酸重合体等を例示でき、単独或いは混合して使用することができる。特にキサンタンガムやサクシノグリカンは、長期間、保存しても物性値が安定しているので好ましい。」

[24-オ] 「【0032】
【発明の実施の形態】本発明の実施例について以下に記載する。尚、実施例の配合中における部とあるは、重量部である。
実施例1
本実施例で使用する熱変色性マイクロカプセル顔料の調製方法を説明する。6-(エチルイソブチルアミノ)ベンゾフルオラン2部、ビスフェノールA6部、セチルアルコール30部、カプリン酸ステアリル20部からなる熱変色性組成物と耐光性付与剤としてチヌビン326を1部、ついで膜材としてビスフエノールAとエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ等量190のエポキシ樹脂15部を均一に加熱溶解し、あらかじめ70℃加温しておいた水性保護コロイド媒体100部中に平均粒径が5μmになるようにホモミキサーで乳化した。ついで、脂肪族変性ポリアミン硬化剤5部を添加し90℃で5時間攪拌を続け、界面重合法によるマイクロカプセル分散液を得た。マイクロカプセルを濃縮化する目的で遠心分離処理を行い、スラリー状の含水ケーキ100部を得た。当該カプセルスラリーの含水率を測定した所38%であった。
・・・(中略)・・・
【0034】得られたマイクロカプセルを顕微鏡で観察した所、 凹部を有する半球偏平状のカプセルであることを確認した。粒子径が大きくなるにつれて偏平性は大きくなっていた。熱色性マイクロカプセル顔料の熱変色性は、27℃以下でマゼンタ色、32℃以上で無色、両温度間では変色の過渡域であった。
【0035】前記得られたマイクロカプセルスラリーを着色剤として水性ボールペン用インキを調製した。以下にその配合例を示す。

〔重量部〕
マイクロカプセルスラリー 44.00(固形分27.3%)
キサンタンガム 0.33
水 32.86
尿素 11.00
グリセリン 11.00
ノプコSW-WET-366 0.55
ノプコ8034 0.13
プロキセルXL-2 0.13
───────────────────────
合計 100.00
【0036】前記インキの粘度をEMD型粘度計にて25℃で測定した結果、1rpmで、1020m.Pa.s、100rpmで84m.Pa.s、の値を示し、剪断減粘指数n0.48であった。尚、ノプコSW-WET-366は、サンノプコ社製ノニオン系浸透性付与剤、ノプコ8034は、同社の変性シリコーン系消泡剤であり、プロキセルXL-2はI.C.I社製ベンゾチアゾリン系防腐剤である。
【0037】ボールペンの作製
0.8mmのステンレス鋼ボールを用い、ボール収容部の内径とボール外径との差S(A-B)=20μm、軸方向の移動可能なスペースC=70μmのスペースを配してなる切削型ボールペンチップを用いた。前記熱変色性インキを内径3.3mmのポリプロピレン製パイプに0.8g吸引充填し、樹脂製ホルダーを介して前記ボールペンチップと連結させた。ついで前記ポリプロピレン製パイプの尾部より、ポリブテンベースの粘弾性を有するインキ追従体(液栓)を充填し、外装ペン軸、キャップ、口金、尾栓を組み込んだ後、遠心処理を行い脱エアー処理をし、熱変色性水性ボールペンを得た。前記熱変色性水性ボールペンでレポート用紙に筆記したところ、、書き出しから良好なピンク濃度と筆跡が得られた。ついで、連続して筆記を続けたが、インキのぼた落ち、著しい線割れ、かすれ、筆跡のスキップ等の好ましくない現象もなくインキをすべて消費することができた。さらに、筆記時における筆圧によるマイクロカプセルの破壊・劣化を確認するため、前記筆記した紙面上のインキを回収し、顕微鏡にてカプセルの外観を調べた所、カプセルの破壊は全く観察されなかった。
【0038】筆跡の熱変色性を試験した結果、27℃以下でマゼンタ色、32℃以上で無色の熱変色性を示した。インキ化の原料として用いたマイクロカプセルスラリーと同一の熱変色性を示し、熱変色性の機能が筆記後も維持されていることが確認できた。尚、別途同一仕様のボールペンを調製し、50℃恒温室にて30日間、正立、倒置、横置き状態で放置した後、筆記テストを行った結果、前記初期テストと同様、良好な結果を得た。」

(2) 本件発明1について
本件発明1は、上記「第4」により、平成28年3月4日付け訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであって、以下、再掲する。
「【請求項1】
低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を36℃?65℃の範囲に有し、
平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、
前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、摩擦体による摩擦熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態または消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型であり、
筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、
エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなる摩擦熱変色性筆記具。」

(3) 刊行物2に記載された発明
ア 刊行物2には、任意の熱変色像を筆記形成自在に構成した筆記具が記載されており([2-イ]、[2-エ])、当該熱変色像は、可逆熱変色性微小カプセル顔料が配向、固着されており([2-カ])、当該可逆熱変色性微小カプセル顔料の低温側変色点(t_(1))を5℃?25℃の範囲に、高温側変色点(t_(4))(当審注:「高温側変色点(t_(2))」と記載されているのは、同じ段落中に「高温側変色点(t_(4))」という記載があること等からみて、明らかな誤記と認められる。)を27℃?45℃の範囲、平均粒子径を1?3μmの範囲に、それぞれ設定し得る旨記載されており([2-オ]、[2-カ])、また、当該可逆熱変色性微小カプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキ組成物を充填した筆記具が記載されている([2-ケ]、[2-コ]、[2-サ])。

イ また、刊行物2の[2-エ]によれば、「色彩記憶保持型の可逆熱変色性組成物は、低温側変色点が10℃?25℃の範囲から選ばれる任意の温度であり、高温側変色点が27℃?45℃の範囲から選ばれる任意の温度であり、前記低温側変色点と高温側変色点の間の任意の温度域で、前記低温側変色点以下又は高温側変色点以上の各変色状態を互変的に記憶保持できる特性を有すること、」、刊行物2の[2-オ]によれば、「前記可逆熱変色性微小カプセル顔料は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を含む可逆熱変色性組成物を微小カプセル中に内包させたものが有効であり、」、「温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、低温側変色点(t_(1))以下の低温域での発色状態、又は高温側変色点(t_(4))以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t_(2)?t_(3)の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性組成物も適用できる(図8参照)。前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、常温域(例えば、15?35℃)を含むものが汎用的である。前記低温側変色点(t_(1))を5℃?25℃の範囲から選ばれる任意の温度、高温側変色点(t_(4))を27℃?45℃の範囲から選ばれる任意の温度にそれぞれ設定することにより、前記低温側変色点と高温側変色点の間の任意の温度で、発色状態又は消色状態を互変的に記憶保持して視覚させることができる。」と記載されているから、刊行物2には、低温側変色点(t_(1))以下の低温域での発色状態、又は高温側変色点(t_(4))以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t_(2)?t_(3)の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型である、任意の熱変色像を筆記形成自在に構成した筆記具が記載されているといえる。

以上のことにより、刊行物2には、
「低温側変色点を5℃?25℃の範囲に、高温側変色点を27℃?45℃の範囲に有し、平均粒子径が1?3μmの範囲にある可逆熱変色性微小カプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキ組成物を充填し、低温側変色点以下の低温域での発色状態、又は高温側変色点以上の高温域での消色状態が、特定温度域で記憶保持できる色彩記憶保持型である、任意の熱変色像を筆記形成自在に構成した筆記具。」
の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているといえる。

(4) 対比
本件発明1と刊行物2発明とを対比する。
ア 刊行物2発明の「可逆熱変色性微小カプセル顔料」及び「可逆熱変色性インキ組成物」は、本件発明1の「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」及び「可逆熱変色性インキ」にそれぞれ相当する。

イ 刊行物2発明の「低温側変色点以下の低温域での発色状態、又は高温側変色点以上の高温域での消色状態が、特定温度域で記憶保持できる色彩記憶保持型である」との特性は、刊行物2の[2-コ]の【0017】の「前記筆記具による筆跡は、室温(25℃)で無色の状態(消色状態)から、約15℃(t_(1))以下の温度に冷却すると橙色に着色し、この着色状態は再び室温(25℃)に加温しても保持することができた。さらに、橙色に着色している状態から、加温することにより、約32℃(t_(4))で消色し、この状態は再び約15℃以下の温度に冷却するまで保持することができ、色彩記憶保持型の熱変色特性(図8)を示した。前記した消色状態と着色状態は、常温域で互変的であり、可逆的に再現させることができた。」との記載から、刊行物2の図8で示される特性を意味しているものと解される。
そこで、刊行物2の図8の特性について検討すると、室温(25℃)から加温(加熱)して高温にすると、高温側変色点よりも低温では有色状態であって、該高温側変色点を越えると無色状態に変色し、該高温側変色点よりも高温の無色状態から温度降下させると、低温側変色点で元の有色状態に変色するものである。そして、このような変色は、互変的に変化する特性と解される。
すなわち、刊行物2発明の上記特性は、本件発明1の「前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、」「熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、」に相当する。

ウ 刊行物2発明の「熱変色像」における「像」は、筆記形成されたものであることから、刊行物2発明の「熱変色像」は、本件発明1の「熱変色性筆跡」に相当するといえる。

したがって、両発明は、
「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型である熱変色性筆記具。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1が、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料(可逆熱変色性微小カプセル顔料)において、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を36℃?65℃の範囲に有するものであるのに対して、刊行物2発明は、低温側変色点を5℃?25℃の範囲に、高温側変色点を27℃?45℃の範囲に有するものである点。

(相違点2)
本件発明1が、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料(可逆熱変色性微小カプセル顔料)において、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にあるのに対して、刊行物2発明は、平均粒子径が1?3μmの範囲にある点。

(相違点3)
本件発明1が、熱変色性筆記具における「熱」について、摩擦熱と特定しているのに対して、刊行物2発明は、特定していない点。

(相違点4)
本件発明1が、筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、と特定しているのに対して、刊行物2発明は、特定していない点。

(相違点5)
本件発明1が、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなるのに対して、刊行物2発明は、特定していない点。

(5) 判断
上記相違点1?5について、検討する。
ア 相違点1についての検討
「低温側変色点」及び「高温側変色点」に関して、刊行物2発明は、「5℃?25℃の範囲」及び「27℃?45℃の範囲」であり、本件発明1の「-30℃?+10℃の範囲」及び「36℃?65℃の範囲」に対して、それぞれ、「5℃?10℃の範囲」及び「36℃?45℃の範囲」において両者は一致する。
そこで、最初に、本件発明1において、「低温側変色点」及び「高温側変色点」に関して、それぞれ、「-30℃?+10℃の範囲」及び「36℃?65℃の範囲」としたことの技術的意義について検討し、次に、相違点1について検討する。

(上記技術的意義についての検討)
本件明細書の発明の詳細な説明には、「低温側変色点」及び「高温側変色点」に関して、下記の記載がある。
(ア)「【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明を図面について説明する(図1?図13参照)。
本発明は、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を36℃?65℃の範囲に有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、摩擦体2による摩擦熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡4を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型であり、筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体2が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなる摩擦熱変色性筆記具1を要件とする。
更には、第1の状態は、黒色であること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、低温側変色点が、-30℃?+20℃の範囲にあること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、低温側変色点が、-30℃?+10℃の範囲にあり、高温側変色点が、36℃?65℃の範囲にあること、第1の状態と第2の状態は、有色と無色の互変性、又は有色(1)と有色(2)の互変性を有すること、第1の状態と第2の状態の何れか一方は、黒色であること、可逆熱変色性インキは、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキ11bであり、ボールペン形態の筆記具に充填されてなること、可逆熱変色性インキは、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキ12bであり、繊維加工体をペン体とし、繊維収束体をインキ吸蔵体とする筆記具に充填されてなること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、発色状態からの加熱により消色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態からの加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型の何れかより選ばれること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、少なくとも、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を含む可逆熱変色性組成物を内包させた非円形断面形状を有し、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲にある顔料であること、前記摩擦熱変色性筆記具1と、熱変色性筆跡4上に載置し、前記筆跡を間接的に摩擦熱変色させるための無色透明乃至有色透明の厚みが10?200μmの透明プラスチックシート5をセットにした摩擦熱変色セットを要件とする。」

(イ)「【0005】
前記したとおり、摩擦体2による摩擦熱により、第1の状態から第2の状態に色彩を簡易に変色させることができ、常態と異なる色彩を互変的に視覚させることができ、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲、且つ高温側変色点を36℃?65℃の範囲に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
ここで、第1の状態と第2の状態の何れか一方が黒色の系、中でも、常態で黒色を呈し、摩擦による摩擦熱により、他の有色を現出させる系にあっては、通常の筆記具における汎用の筆跡が黒色であることに加えて、黒色からの他色への色変化の妙味、意外性があり、商品性を満足させることができる。
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させたものが有効であり、発色状態からの加熱により消色する加熱消色型としては、本出願人が提案した、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載のものが利用できる。前記は所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しない。即ち、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH_(A)=1?7℃)を有する。
ΔH_(A)が3℃以下の系〔特公平1-29398号公報に示す、3℃以下のΔT値(融点-曇点)を示す脂肪酸エステルを変色温度調節化合物として適用した系〕にあっては、高温側変色点及び低温側変色点を境に温度変化に鋭敏に感応して高感度の変色性を示し、ΔH_(A)が4?7℃程度の系では変色後、緩徐に元の様相に戻り、視認効果を高めることができる(図9参照)。
又、本出願人が提案した特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH_(B)=8?50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、低温側変色点(t_(1))以下の低温域での発色状態、又は高温側変色点(t_(4))以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t_(2)?t_(3)の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性組成物も適用できる(図10参照)。
前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、本発明では、前記高温側変色点を25℃?65℃(好ましくは、36℃?65℃)の範囲に設定する。
尚、前記低温側変色点は、-30℃?+20℃(好ましくは、-30℃?+10℃)の範囲から選ばれる任意の温度に設定できる。
前記温度設定により、低温側変色点(t_(2))と高温側変色点(t_(3))の間の任意の温度で、発色状態又は消色状態を互変的に記憶保持して視覚させることができる。
又、加熱発色型の組成物として、消色状態からの加熱により発色する、本出願人の提案による、電子受容性化合物として、炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を適用した系(特開平11-129623号公報、特開平11-5973号公報)、或いは特定のヒドロキシ安息香酸エステルを適用した系(特開2001-105732号公報)を挙げることができる(図11参照)。又、没食子酸エステル等を適用した系(特公昭51-44706号公報、特願2001-395841号)等を応用できる。
ここで、前記可逆熱変色性マイクロカプセル中、或いはインキ中に非熱変色性の染料、顔料等の着色剤を配合して、有色(1)から有色(2)への互変的色変化を呈する構成となすことができる。」

(ウ)「【0010】
本発明に適用される可逆熱変色性インキは、25?65℃の範囲に高温側変色点を有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を水性媒体中に分散させ、必要に応じてバインダー樹脂を配合したものが有効である。
具体的には、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキ11bや、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキ12bが効果的である。更には、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6が水性ビヒクルと比重差0.05以下になるよう調節した比重調節型インキも適用できる。」

(エ)「【0021】
参考例1
可逆熱変色性インキの調製
色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料A〔高温側変色点(t_(3):34℃、t_(4):40℃)、低温側変色点(t_(1):8℃、t_(2):13℃)、青色←→無色の色変化、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0)〕のマイクロカプセルスラリー44.0部(固形分27.3%)、キサンタンガム(剪断減粘性物質)0.33部、水32.86部、尿素11.00部、グリセリン11.00部、ノプコSW-WET-366(ノニオン系浸透性付与剤、サンノプコ社製)0.55部、ノプコ8034(変性シリコーン系消泡剤、サンノプコ社製)0.13部、プロキセルXL-2(防黴剤、ゼネカ株式会社製)0.13部からなる剪断減粘系可逆熱変色性インキ11bを調製した。
前記インキの粘度をEMD型粘度計にて25℃で測定した結果、測定回転数1rpmで1020mPa・s、100rpmで84mPa・sの値を示し、剪断減粘性指数nが0.48であった。
筆記具の作製
0.8mmのステンレス鋼ボールを用い、ボール収容部の内径とボール外径との差が約20μm、軸方向の移動可能な距離が約70μmに設定した切削型ボールペンチップ11aを用いた。前記剪断減粘系可逆熱変色性インキ11b(可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Aが発色状態で青色を呈する)を内径3.3mmのポリプロピレン製パイプに0.8g吸引充填し、樹脂製ホルダーを介して前記ボールペンチップ11aと連結させた。
次いで、前記ポリプロピレン製パイプの尾部より、ポリブテンベースの粘弾性を有するインキ追従体11c(液栓)を充填し、軸胴、キャップ、口金、尾栓を組み付けた後、遠心処理により脱気処理を行ない、剪断減粘系熱変色ボールペンを11を得た(図2に要部を示す)。
前記ボールペン11によりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が消色することがなく、安定した濃度の青色の鮮明な熱変色性筆跡4が得られた。
筆跡の変色挙動
前記ボールペン11による熱変色性筆跡4は、室温(25℃)で青色の発色状態から、加温すると40℃以上の温度で完全に消色して無色となり、この変色状態から冷却すると13℃以下の温度で再び発色し青色となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記ボールペン11により通常の浸透性を有する紙に筆記した熱変色性筆跡4を消しゴム2で数回擦過したところ、擦過部分が直ちに消色して視認不能となり、この状態は室温で維持することができた。次いで、前記熱変色性筆跡4を冷蔵庫(約5℃)の中に放置したところ、前記消色部分が再び青色に発色し擦過前の状態に戻った。
また、前記熱変色性筆跡4上に無色透明ポリエステル製シート5(厚み:100μm)を密接状態に重ね、前記シート5上を消しゴム2(又はエラストマー成形体)で数回擦過したところ、前記と同様に筆跡を消色させることができた。」

(オ)「【0022】
参考例2
可逆熱変色性インキの調製
色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料B〔高温側変色点(t_(3):34℃、t_(4):44℃)、低温側変色点(t_(1):-10℃、t_(2):3℃)、ピンク色←→無色の色変化、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0)〕のマイクロカプセルスラリー44.00部(固形分13.2%)を、グリセリン5.00部、プロキセルXL-2(防黴剤、ゼネカ株式会社製)0.70部、SNデフォーマー 381(シリコーン系消泡剤、サンノプコ株式会社製)0.1部、及び水42.20部からなる水性媒体中に均一に分散状態となした後、セロサイズWP-09L(水溶性高分子凝集剤:ヒドロキシエチルセルロース、ユニオンカーバイド日本株式会社製)5.00重量%を含む水溶液8.00部を攪拌しながら、前記分散状態にある液中に添加して、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Bをゆるやかな凝集状態に懸濁させた凝集系可逆熱変色性インキ12bを調製した。
前記インキ12bの粘度をB型粘度計にてBLアダプターを適用し、25℃で測定した結果、測定回転数60rpmで4.4mPa・sであった。
筆記具の作製
ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆した繊維集束インキ吸蔵体12c(気孔率約80%)中に、前記可逆熱変色性インキ(可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Bが発色状態でピンク色を呈する)を均一状態に攪拌した直後に含浸させて軸胴12d内に収容し、軸筒先端部に装着させたポリエステル繊維の樹脂加工ペン体12a(気孔率約50%)と接触状態に組み立て、水性マーカー12を構成した(図3参照)。
前記水性マーカー12によりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が消色することがなく、安定した濃度のピンク色の鮮明な熱変色性筆跡4が得られた。
筆跡の変色挙動
前記水性マーカー12による熱変色性筆跡4は、室温(25℃)でピンク色の発色状態から加温すると、44℃以上の温度で完全に消色して無色となり、この状態から冷却すると3℃以下の温度で再び発色しピンク色となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記水性マーカーにより通常の浸透性を有する紙の一部を塗りつぶし、その一部分を消しゴムで擦過したところ、擦過部分が消色し、ピンク色の塗りつぶし部分中に擦過による無色のパターンが形成され、この状態は室温で維持することができた。この状態で前記擦過部分を冷凍庫(約-15℃)の中に放置すると、再び無色部分が発色し、擦過前の発色状態に戻った。
また、前記塗りつぶし部分に青色透明ポリエステル製シート5(厚み:50μm)を密接状態に重ねたところ、前記塗りつぶし部分は紫色に視認され、前記シート5上を消しゴム2(又はエラストマー成形体)で数回擦過したところ、擦過部分が青色に変色し、紫色の塗りつぶし部分中に擦過により青色に変色したパターンが形成された。」

(カ) 「【0027】
実施例1
色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料G、H、I、J、Kの5種(表1)を用いて、剪断減粘系可逆熱変色性インキ1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6、1-7、1-8の8種(表2)を調製した。
【0028】
【表1】


【0029】
【表2】


【0030】
前記各インキを1℃以下に放置して、マイクロカプセル顔料を完全発色させた後、インキの温度を室温(25℃)に戻し、0.7mm径のボールを備えたボールペンに充填して摩擦熱変色性ボ-ルペン1を構成した。
前記ボールペンの形態としては、摩擦体2としてポリスチレン系エラストマー成形体を頂部に装着したキャップ(図12参照)を適用したもの、軸胴11dの後部に摩擦体2としてポリアミド-ポリエーテル共重合体系エラストマー成形体を装着したもの(図13参照)を用意した。
前記したボールペンによりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が変色或いは消色することがなく、安定した黒色の筆跡が得られた。また、前記筆跡は吐息や指触等の体温で変化することなく、黒色状態を保つことができた。
前記ボールペンによる筆跡は室温で黒色の変色状態(第1の状態)から、46℃以上の温度に加温すると完全に変色或いは消色して温時の変色状態(第2の状態)となり、この状態から1℃以下に冷却すると再び元の黒色の変色状態(第1の状態)となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記ボールペンのキャップの頂部の摩擦体2で、前記各筆跡の一部分を数回擦過したところ、擦過部分が温時の変色状態(第2の状態)となり、室温に放置してもこの変色状態を保持することができた。また、この変色状態から前記各筆跡を冷凍庫(約-15℃)の中に放置したところ、擦過部分が再び黒色に変色し、擦過前の変色状態に戻った。
【0031】
実施例2
実施例1で用意した、軸胴11dの後部に摩擦体2としてポリアミド-ポリエーテル共重合体系エラストマー成形体を装着したボールペンを適用し、前記実施例1のインキによる各筆跡の一部分を前記摩擦体2で数回擦過したところ、容易に擦過部分を温時の変色状態(第2の状態)に変色或いは消色させることができた(図13参照)。」

ここで、上記(ア)?(カ)の記載の内、
(エ)においては、色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Aを用いた可逆熱変色性インキ11bは、第1の状態が青色(有色)で第2の状態が無色の変色挙動(互換性)を示し、「低温側変色点」が「t_(1):8℃、t_(2):13℃」であり、「高温側変色点」が「t_(3):34℃、t_(4):40℃」であるといえ、また、
(オ)においては、色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Bを用いた可逆熱変色性インキ12bは、第1の状態がピンク色(有色)で第2の状態が無色の変色挙動(互換性)を示し、「低温側変色点」が「t_(1):-10℃、t_(2):3℃」であり、「高温側変色点」が「t_(3):34℃、t_(4):44℃」であるといえ、また、
(カ)においては、色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Kを用いた可逆熱変色性インキ1-8は、第1の状態が黒色(有色)で第2の状態が無色の互変性(互換性)を有し、「低温側変色点」が「t_(1):1℃、t_(2):7℃」であり、「高温側変色点」が「t_(3):38℃、t_(4):46℃」であるといえ、
上記からして、様々な「低温側変色点」及び「高温側変色点」を有する色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が列記されており、これらのマイクロカプセル顔料の内、色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Kが本件発明1に包含され、色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Aと色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Bは、「高温側変色点」について、「36℃?65℃の範囲」から外れる変色点があることから、本件発明1に包含されないといえる。
してみると、本件発明1は、様々な「低温側変色点」及び「高温側変色点」を有する色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の内、ある特定の「低温側変色点」及び「高温側変色点」を有する顔料を基準として、「低温側変色点」及び「高温側変色点」の範囲を規定したものであるといえ、上記の記載ア?カを含む本願明細書及び図面の記載を精査しても、当該「低温側変色点」及び「高温側変色点」の範囲を規定することにより格別の効果が生じているとは認められない。
よって、本件発明1において、「低温側変色点」及び「高温側変色点」を、それぞれ、「-30℃?+10℃の範囲」及び「36℃?65℃の範囲」としたことにより格別の効果が生じているとは認められない。

次に、上記(ア)?(カ)の記載の内、
(イ)においては、「【0005】
前記したとおり、摩擦体2による摩擦熱により、第1の状態から第2の状態に色彩を簡易に変色させることができ、常態と異なる色彩を互変的に視覚させることができ、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲、且つ高温側変色点を36℃?65℃の範囲に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。・・・実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、本発明では、前記高温側変色点を25℃?65℃(好ましくは、36℃?65℃)の範囲に設定する。尚、前記低温側変色点は、-30℃?+20℃(好ましくは、-30℃?+10℃)の範囲から選ばれる任意の温度に設定できる。」との記載があり、同記載によれば、本件発明1の「-30℃?+10℃」という低温側変色点の数値範囲及び「36℃?65℃」という高温側変色点の数値範囲は、いずれも常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させる上で好ましい値の範囲を示すものである。

一方、刊行物2発明の「低温側変色点」(5℃?25℃)及び「高温側変色点」(27℃?45℃)については、刊行物2の上記[2-コ]の実施例3には、色彩記憶保持型の熱変色特性を示す可逆熱変色性微小カプセル顔料(色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料)を用いた可逆熱変色性インキ組成物が記載され、約15℃(t_(1))以下の温度に冷却すると橙色(有色)に着色し、さらに橙色に着色した状態から約32℃(t_(4))で消色し、消色状態と着色状態は常温域で互変的であり、可逆的に再現させることができたことが記載されている。
さらに、刊行物2には、上記[2-オ]によれば、「又、本出願人が提案した特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH_(B)=8?50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、低温側変色点(t_(1))以下の低温域での発色状態、又は高温側変色点(t_(4))以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t_(2)?t_(3)の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性組成物も適用できる(図8参照)。前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、常温域(例えば、15?35℃)を含むものが汎用的である。」との記載がある。上記記載に接した当業者は、常温域が広く実質的二相保持温度域に含まれるようにするために、刊行物2発明において5℃?25℃とされた低温側変色点の範囲をより低温とし、27℃?45℃とされた高温側変色点の範囲をより高温とすることを動機付けられるものということができる。
また、本件発明1及び刊行物2発明ともに、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる点で共通しており、「低温側変色点」及び「高温側変色点」の数値範囲に格別の臨界的意義があるものでない。

(相違点1についての検討)
ここで、刊行物2の上記[2-オ]で、色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として具体的に利用できるものとして、特開平8-39936号公報(刊行物A)が例示されているところ、当該刊行物Aには、「温度変化により大きなヒステリシス特性を示して発色-消色の可逆的変色を呈し、変色に要した熱又は冷熱の適用を取り去った後にあっても、着色状態と消色状態のいずれかを互変的且つ可逆的に常温域で保持する感温変色性色彩記憶性組成物に関する」発明([A-イ])としての「(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類から選ばれる化合物の三成分を必須成分とする均質相溶体からなる、色濃度-温度曲線に関し、8℃乃至80℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して変色する感温変色性色彩記憶性組成物。」([A-ア])に関し、次のような記載がある。「図1([A-キ])において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する最低温度T_(4) (以下、完全消色温度と称す)における濃度を示す点であり、Bは完全呈色状態を保持できる最高温度T_(3) (以下、最高保持温度と称す)における濃度を示す点であり、Cは完全消色状態を保持できる最低温度T_(2) (以下、最低保持温度と称す)における濃度を示す点であり、Dは完全呈色状態に達する最高温度T_(1) (以下、完全呈色温度と称す)における濃度を示す点である。温度T_(A) においては呈色状態E点と消色状態F点の2相が共存する状態にある。この温度T_(A) を含む、呈色状態と消色状態が共存できる温度域が変色の保持可能な温度域であり、線分EFの長さが変色のコントラストを示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ヒステリシス幅ΔHと記す)であり、このΔH値が大きい程、変色前後の各状態の保持が容易である。本発明者らの実験では実用上の変色前後の各状態の保持できるΔH値は8℃乃至80℃の範囲である。又、前記において、呈色状態と消色状態の二相が実質的に保持され、実用に供される温度、即ち、T_(A) を含むT_(3) とT_(2) の間の温度幅は2℃以上80℃未満の範囲が有効である。」([A-ウ])
上記記載中、感温変色性色彩記憶性組成物は刊行物2発明における色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を含むものと解される。

そこで、常温域が広く実質的二相保持温度域に含まれるようにするために、刊行物2発明において5?25℃とされた低温側変色点の範囲をより低温とし、27?45℃とされた高温側変色点の範囲をより高温とすることを動機付けられた当業者は、上記刊行物Aの記載に接し、実質的二相保持温度域の幅を有効とされる80℃未満の範囲内において広げるとともに、変色前後の各状態の保持を容易にするために、ヒステリシス幅ΔHを実用上の変色前後の各状態を保持できる80℃以下の範囲内において大きくすることを試みるものと考えられる。
そして、刊行物Aには、「8℃乃至80℃のヒステリシス幅(ΔH)を示して変色する感温変色性色彩記憶性組成物」を得るために必要な「(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする総炭素数が12乃至24のアリールアルキルケトン類から選ばれる化合物の三成分を必須成分とする均質相溶体」につき、その成分や成分割合が具体的に掲げられており([A-ク])、さらに、微小カプセルに内包することができ、微粒子化(0.5?50μm、好ましくは1?30μm)によりΔHを拡大できる旨の記載([A-ケ])があり、実施例11から13、20及び21における低温側変色点に相当する完全呈色温度T_(1)及び高温側変色点に相当する完全消色温度T_(4)は、いずれも本件発明1の規定する範囲内のものである([A-エ])。
以上に鑑みると、当業者は、常温域が広く実質的二相保持温度域に含まれるようにするために、刊行物2発明において5℃?25℃とされた低温側変色点の範囲をより低温とし、27℃?45℃とされた高温側変色点の範囲をより高温とすることが動機付けられ、刊行物Aに接し、感温変色性色彩記憶性組成物である色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を構成する化合物の成分、成分割合、粒子の大きさを適宜設定して実質的二相保持温度域の幅を80℃未満、ヒステリシス幅ΔHを80℃以下の範囲内において大きくすることを試み、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させる上で好ましい低温側変色点及び高温側変色点の範囲を見いだし、相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到することができる。

(被請求人の主張について)
被請求人は平成26年11月18日付け答弁書において、「甲第2号証の発明においては、低温側変色点は10?25℃の範囲内にするのが好ましいと考えていることが明確に読み取れるのであるから、そのような記載に反して敢えて・・・5?10℃の範囲を選択する動機付けは存在し得ないといえる。」(答弁書第24頁)、「色彩記憶保持型を採用したとしても、室温の変化により摩擦熱を加えることなく筆跡が使用者の意図に反して熱変色(消色)してしまったり、逆に温度が下がって一度は消色させた筆跡が同じく使用者の意図に反して簡単に復元されてしまっては使い物にならないのは言うまでもなく、・・・これに対し、甲第2号証に記載の低温側変色点10?25℃(5?25℃)及び高温側変色点27℃?45℃の範囲の態様では、そのような実用的な筆記具として使い物にならないような範囲を多分に含んでいるものと考えられ、両変色点を遠ざけることを示唆するような記載は一切存在しない」(答弁書第24?25頁)、「色彩記憶保持型に係る唯一の実施例である実施例3においても、低温側変色点が15℃、高温側変色点は32℃と近接しており、いずれも・・・本件訂正発明の構成要件・・・を充足しておらず・・・本件訂正発明に容易に想到し得るものではない。」(答弁書第25頁)と主張し、また、平成28年3月4日付け上申書において、「刊行物2発明の認定の基となっている段落【0017】・・・で開示されているのは、筆記時には無色で見えないけれども冷却すると筆跡が浮き上がってくる筆記具であり、せいぜい『秘密文書、暗証番号等の記録要素等』(段落【0022】)として用いることしかできません。このように、刊行物2の段落【0017】に開示された技術的事項は、上述した本件訂正発明の発想ないし技術的思想とは全く異なるものという他ありません。」(上申書第5頁)と主張する。
しかし、上記のとおり、当業者は、常温域が広く実質的二相保持温度域に含まれるようにするために、刊行物2発明において5℃?25℃とされた低温側変色点の範囲をより低温とし、27℃?45℃とされた高温側変色点の範囲をより高温とすることが動機付けられるものといえる。また、刊行物2発明は、刊行物2の【0017】([2-コ])に加えて、【0004】([2-エ])、【0005】([2-オ])、【図8】([2-ス])等から認定したものであり、これらの記載によれば、刊行物2には、室温(25℃)において、筆記時のインキの筆跡を無色の状態(消色状態)としてこの状態を発色開始温度であるt_(2)以下に温度が下がらない限り保持する、すなわち、t_(2)を超えて温度が低下したときには発色(有色化)するもののみならず、筆記時のインキの筆跡を有色の状態としてこの状態を消色開始温度であるt_(3)以上に温度が上がらない限り保持する、すなわち、t_(3)を超えて温度が上がったときには消色するものも含むものであるから、技術思想が異なる旨の被請求人の主張は採用できない。
また、被請求人は、平成27年7月31日付け意見書において、「本件発明1が知られるまで、紙などの媒体を指などで擦過して十分な温度上昇が得られるという知見は存在せず、むしろその温度上昇はわずかであると考える方が理に叶っていることから・・・高温側変色点を高くして本件訂正発明のように設定することについては、動機付けが存在しないのみならず、阻害事由が存在しました。」(意見書の第3?4頁)と主張するが、刊行物2には、加熱手段に関し、「熱変色像を摩擦や擦過等による外力を負荷して加熱変色させる」([2-カ])など、紙等の媒体の擦過を示す記載はあるものの、それのみに限定する趣旨とは解されない。現に、刊行物3の[3-サ]には、熱変色層を加熱する手段として、モーターと電源を内部に備え、モーターの回転軸と連動する部材と熱変色層との接触部に回転摩擦を生じさせることによって摩擦熱を発生させるというものが記載されている。よって、仮に本件優先日当時、紙等の媒体を擦過して十分な温度上昇が得られるという知見が存在しなかったとしても、刊行物2記載の加熱手段は紙等の媒体の擦過に限られないのであるから、高温側変色点を高くすればそこまで温度を上げることが難しくなるため熱変色も困難なものになるとは必ずしもいえない。
しかも、刊行物2には、実質的二相保持温度域は、常温域(例えば15℃?35℃)を含むものが汎用的であることが記載されているから([2-オ])、当業者において実質的二相保持温度域のうちの消色開始温度よりも高い完全消色温度である高温側変色点として36℃以上の温度のものを採用することは十分に考えられ、上記採用に阻害要因があったということはできない。

(相違点1についてのまとめ)
よって、被請求人の主張はいずれも採用することができず、当業者は相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到することができたものと認められる。

イ 相違点2についての検討
「平均粒子径」に関して、刊行物2発明は、「1?3μmの範囲」であり、本件発明1の「0.5?5μmの範囲」に対して、「1?3μm」において両者は一致する。
そこで、最初に、本件発明1において、「平均粒子径」に関して、「0.5?5μmの範囲」としたことの技術的意義について検討し、次に、相違点2について検討する。

(上記技術的意義についての検討)
まず、「平均粒子径」に関しては、上記「第8 1」で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、「〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕」であることを意味するものと認められる。
そして、「平均粒子径」を「0.5?5μmの範囲」することについての技術的意義に関しては、上記「第8 2」で検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明において、【0010】に、「有効である」旨記載されているに過ぎず、また、【発明の実施の形態】における参考例1?6、実施例1、2の「平均粒子径」の値は全て「2.5μm」のものを使用しており(上記「第8 3(5)ア(エ)?(カ)」参照。)、5.0μmを越えるものや0.5μmより小さい平均粒子径に基づく比較例がないことから、当該「平均粒子径」の範囲を規定することにより格別の効果が生じているとは認められない。
よって、本件発明1において、「平均粒子径」を、「0.5?5μmの範囲」としたことにより格別の効果が生じているとは認められない。

次に、刊行物2発明の「平均粒子径が1?3μmの範囲」に関しては、刊行物2の上記[2-カ]に、「当該微小カプセルの平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕が1?3μmの範囲が好適である。」と記載され、刊行物2の上記[2-コ]に、平均粒子径が「1.5μm」、「3μm」である実施例1、2以外に、平均粒子径が「4μm」でも「実施例3」として用いられる旨記載されている。
また、刊行物2には、「最大外径」の平均値に関して、上記[2-カ]に、「前記微小カプセル顔料は、最大外径の平均値が、5.0μmを越える系では、毛細間隙からの流出性の低下を来し、一方、最大外径の平均値が、0.5μm以下の系では高濃度の発色性を示し難く、」と記載されているが、これは、上記「第8 2」の「(2)」に関して述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明にほぼ同一の記載が存在するところ、ここで、粒子の形状がすべて真球である場合、最大外径=中央部の最小外径=真球の直径=平均粒子径となることは技術常識である。

(相違点2についての検討)
したがって、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料(可逆熱変色性微小カプセル顔料)の「平均粒子径が1?3μmの範囲」である刊行物2発明において、刊行物2に記載されている「実施例3」の可逆熱変色性マイクロカプセル顔料(可逆熱変色性微小カプセル顔料)の平均粒子径が「4μm」であることや上記技術常識(粒子の形状がすべて真球である場合、最大外径=中央部の最小外径=真球の直径=平均粒子径)に基づいて上記[2-カ]の記載「前記微小カプセル顔料は、最大外径の平均値が、5.0μmを越える系では、毛細間隙からの流出性の低下を来し、一方、最大外径の平均値が、0.5μm以下の系では高濃度の発色性を示し難く、」を考慮するならば、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料(可逆熱変色性微小カプセル顔料)の平均粒子径を、本件発明1のように「平均粒子径が0.5?5μmの範囲」と設定することは、当業者においては容易に想到し得るものである。

(相違点2についてのまとめ)
よって、当業者は相違点2に係る本件発明1の構成に容易に想到することができたものと認められる。

ウ 相違点3についての検討
刊行物2の[2-カ]には、「筆記により形成される熱変色像は、前記微小カプセル顔料が・・・配向、固着されており、・・・前記熱変色像を摩擦や擦過等による外力を負荷して加熱変色させる用途に対しても、・・・有効に発現させることができる。」と、また、刊行物2の[2-シ]には、「更には、前記熱変色像の擦過や摩擦により加熱変色させる際には、この種の外圧に対してもカプセル壁膜が破壊されることのない耐性を有する。」と記載されているから、刊行物2発明の筆記具による有色(発色状態)の筆跡を消色するための加熱手段の1つとして「摩擦による加熱」すなわち「摩擦熱」が示唆されている。よって、当業者は、刊行物2発明の「熱変色性筆記具」の筆跡を消去するために加熱する手段として摩擦熱を選択し、それによって「摩擦熱変色性筆記具」の構成に容易に想到し得るものと考えられる。また、本件発明1が上記相違点3に係る構成によって格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

(被請求人の主張について)
被請求人は、平成27年7月31日付け意見書において、「刊行物2に記載されている色彩記憶保持型の熱変色性筆記具の具体的構成は【0017】段落に記載されている実施例3のみですが・・・この記載で注目すべき点は、『筆跡』と記載されているものが無色であることです。そして、この無色の筆跡に対して最初に行われる操作は『冷却』ですから、摩擦とは無縁です。したがって、その後に行われる『加温』も摩擦とは無縁です。以上のとおりですので、刊行物2に記載されている色彩記憶保持型の筆記具の発明は、「熱変色像を摩擦や擦過等による外力を負荷して加熱変色させる用途」・・・に該当しません。したがって、刊行物2に記載されている色彩記憶保持型の筆記具は、熱変色性筆記具ではあっても、摩擦熱変色性筆記具ではありません。」(意見書第2?3頁)と主張する。しかし、上記3(3)「刊行物2に記載された発明」及び3(5)ア「相違点1についての検討」に記載したとおり、刊行物2発明は刊行物2の【0017】のみから認定したわけではない。刊行物2発明は、刊行物2の【0017】([2-コ])に加えて、【0004】([2-エ])、【0005】([2-オ])、【図8】([2-ス])等から認定したものであり、これらの記載によれば、刊行物2には、15℃?35℃などの常温域を実質的二相保持温度域とし、この温度域内において、(1)筆記時のインキの筆跡を無色の状態(消色状態)としてこの状態を発色開始温度であるt_(2)以下に温度が下がらない限り保持する、すなわち、t_(2)を超えて温度が低下したときには発色(有色化)する態様と、(2)筆記時のインキの筆跡を有色の状態(発色状態)としてこの状態を消色開始温度であるt_(3)以上に温度が上がらない限り保持する、すなわち、t_(3)を超えて温度が上がったときには消色する態様の両方が開示されており、刊行物2の【0017】は、そのうち前者(1)の態様のもの(常温で無色の状態)を実施例3として例示的に掲げたにすぎず、後者(2)の態様のもの(常温で有色の状態)を排除するものではない。

(相違点3についてのまとめ)
よって、被請求人の主張は前提において誤りがあり、刊行物2の[2-カ]及び[2-シ]の記載から示唆される摩擦熱を、刊行物2発明の筆記具の筆跡を消去する手段として選択し、相違点3に係る本件発明1の構成に至ることは、当業者にとって容易なことであったといえる。

エ 相違点4についての検討
上記3(3)「刊行物2に記載された発明」及び3(5)ア「相違点1についての検討」に記載したとおり、刊行物2発明は、刊行物2の【0017】([2-コ])に加えて、【0004】([2-エ])、【0005】([2-オ])、【図8】([2-ス])等から認定したものであり、これらの記載によれば、刊行物2には、15℃?35℃などの常温域を実質的二相保持温度域とし、この温度域内において、(1)筆記時のインキの筆跡を無色の状態(消色状態)としてこの状態を発色開始温度であるt_(2)以下に温度が下がらない限り保持する、すなわち、t_(2)を超えて温度が低下したときには発色(有色化)する態様と、(2)筆記時のインキの筆跡を有色の状態(発色状態)としてこの状態を消色開始温度であるt_(3)以上に温度が上がらない限り保持する、すなわち、t_(3)を超えて温度が上がったときには消色する態様の両方が開示されているものといえる。そうすると、刊行物2発明は、常温域に含まれる室温(25℃)において、筆記時のインキの筆跡を有色の状態とする場合と無色の状態とする場合の両方を含むものということができるから、相違点4は実質的な相違点にはあたらない。

オ 相違点5についての検討
(ア)刊行物2について
刊行物2においては、「摩擦や擦過等による外力を負荷して加熱変色させる用途」([2-カ])、「熱変色像の擦過や摩擦により加熱変色させる際」([2-シ])との記載があるにとどまり、摩擦熱を生じさせる具体的手段については記載も示唆もされていない。

(イ)刊行物3発明について
一方、刊行物3には、刊行物3の上記[3-ア]によれば、「【請求項1】 支持体表面に熱変色層が配設された熱変色体と、前記熱変色層を手動摩擦による摩擦熱で変色させる摩擦具とからなる熱変色筆記材セット。」と記載されており、また、刊行物3の上記[3-キ]によれば、実施例1として、「前記の如く形成した白色合成紙上面に色彩記憶性感温変色性色素〔青色←→無色(A点18℃、C点30℃)〕を微小カプセルに内包させた熱変色性顔料をエチレン─酢酸ビニル系共重合樹脂エマルジョンに分散させた熱変色性インキ(特公平4-17154号公報を利用)を用い、熱変色層42を印刷形成する。」、「前記熱変色体2を30℃以上に加温して熱変色シート4が白色状態を呈する筆記面上を、プラスチック製玉子形状の中空体の先端に金属製の筆記先端部が取り付けられ、内部に氷を充填した冷熱ペン8にて筆記すると、前記色彩記憶性感温変色性色素が発色して青色の筆跡10が得られ、前記筆跡10は25℃の室温下で保持されている。」、「前記筆跡10上を、摩擦具9〔ポリエチレン発泡体からなる長方体(5cm×3cm×2cm)〕の両端を把持して擦ると、筆記面と摩擦部の間に発生した摩擦熱により、前記筆跡10を消去することができ、」と記載されており、上記「消去」は「消色」といえるから、刊行物3には、以下の発明が記載されているといえる。
「手動摩擦による摩擦熱により熱変色性インキの筆跡10を消色させる摩擦具9を含む熱変色筆記材セット。」(以下、「刊行物3発明」という。)

(ウ)刊行物2発明に刊行物3発明を組み合わせることについて
刊行物2発明は、低温側変色点以下の低温域における発色状態又は高温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域で記憶保持できる色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキ組成物を充填したペン等の筆記具であり、同筆記具自体によって熱変色像の筆跡を紙など適宜の対象に形成することができる(刊行物2の[2-エ]?[2-カ]、[2-ク]、[2-ス])。
これに対し、刊行物3発明は、筆記具と上面に熱変色層が形成された支持体等からなる筆記材セットであり([3-ア]、[3-カ]、[3-キ])、色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料をバインダーを含む媒体中に分散してインキ等の色材として適用し、紙やプラスチック等からなる支持体上面に熱変色層を形成させた上で([3-ウ]、[3-オ]、[3-シ]、[3-キ])、氷片や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした冷熱ペンで上記熱変色層上に筆記することによって熱変色像の筆跡を形成するものである([3-カ]、[3-キ])。刊行物3発明は、筆記具である冷熱ペンが、氷片や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした特殊なものであり、インキや芯で筆跡を形成する通常の筆記具と異なり、冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成することができず、セットとされる支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色像の筆跡を形成するものである。
このように、刊行物2発明と刊行物3発明は、いずれも色彩記憶保持型の可逆変色性微小カプセル顔料を使用してはいるが、(1)刊行物2発明は可逆熱変色性インキ組成物を充填したペン等の筆記具であり、それ自体によって熱変色像の筆跡を紙など適宜の対象に形成できるのに対し、(2)刊行物3発明は筆記具と熱変色層が形成された支持体等からなる筆記材セットであり、筆記具である冷熱ペンが氷片や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした特殊なもので、インキや顔料を含んでおらず、通常の筆記具とは異なり、冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成することができず、セットとされる支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色像の筆跡を形成するものであるから、筆跡を形成する対象も支持体上面の熱変色層に限られ、両発明はその構成及び筆跡を形成する機能において大きく異なるものといえる。したがって、当業者において刊行物2発明に刊行物3発明を組み合わせることを発想するとは考え難い。

(エ)相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性について
前記(ウ)のとおり、当業者が刊行物2発明にこれと構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる刊行物3発明を組み合わせることを容易に想到し得たとは考え難く、よって、相違点5に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとはいえない。
仮に、当業者が刊行物2発明に刊行物3発明を組み合わせたとしても、刊行物3には熱変色像を形成する熱変色体2及び冷熱ペン8とは別体のものとしての、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具9のみが開示されているから([3-ア]、[3-ウ]、[3-エ]、[3-カ]、[3-キ]、[3-ケ])、刊行物3発明の摩擦具は筆記具とは別体のものである。よって、当業者が両者を組み合わせても、刊行物2発明の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具9(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点5に係る本件発明1の構成には至らない。
そして、上記3(5)オ(ア)「刊行物2について」に記載したとおり、刊行物2には、そもそも摩擦熱を生じさせる具体的手段について記載も示唆もされていない。
また、上記3(5)オ(イ)「刊行物3発明について」に記載したとおり、刊行物3には、熱変色像を形成する熱変色体2及び冷熱ペン8とはベッ体のものとしての摩擦具9のみが開示されており、そのように別体のものとすることについての課題ないし摩擦具9を熱変色体2又は冷熱ペン8と一体のものとすることは記載も示唆もされていない。

一方、刊行物9、刊行物C及び刊行物12には、筆記具の多機能性や携帯性等の観点から筆記具の後部又はキャップに消しゴムないし消し具を取り付けることが、刊行物Bには、筆記具の後部又はキャップに装着された消しゴムに幼児等が誤飲した場合の安全策を施すことが、刊行物Cには、消しゴムや修正液等の消し具を筆記具のキャップに圧入固定するに当たって確実に固定する方法が、それぞれ記載されている。しかし、これらのいずれも消しゴムなど単に筆跡を消去するものを筆記具の後部ないしキャップに装着することを記載したものにすぎない。
他方、刊行物3発明の摩擦具9は、低温側変色点以下の低温域での発色状態又は高温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域で記憶保持することができる色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料からなる可逆熱変色性インキ組成物によって形成された有色の筆跡を摩擦熱により加熱して消色させるものであり([3-ア]、[3-オ]、[3-カ]、[3-キ])、単に筆跡を消去するものとは性質が異なる。そして、刊行物9、刊行物12、刊行物B及び刊行物Cのいずれにもそのような摩擦具に関する記載も示唆もない。よって、このような摩擦具につき、筆記具の後部ないしキャップに装着することが当業者に周知の構成であったということはできない。また、当業者において、摩擦具9の提供の手段として刊行物9、刊行物12、刊行物B及び刊行物Cに記載された、摩擦具9とは性質を異にする、単に筆跡を消去するものを筆記具の後部ないしキャップに装着する構成の適用を動機付けられることも考え難い。

仮に、当業者において摩擦具9を筆記具の後部ないしキャップの頂部に装着することを容易に想到し得たとしても、刊行物2発明に刊行物3発明を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消去させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で、これを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し、相違点5に係る本件発明1の構成に至ることとなる。このように、刊行物2発明に基づき2つの段階を経て相違点5に係る本件発明1の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない。
したがって、相違点5に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(6) 小括
したがって、本件発明1は、刊行物2発明並びに刊行物A、刊行物3、刊行物9、刊行物B、刊行物C及び刊行物12に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7) 本件発明5及び7について
本件発明5は、本件発明1にさらに限定を付したものであり、本件発明7は、本件発明1又は5にさらに限定を付したものである。よって、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も刊行物2発明並びに刊行物A、刊行物3、刊行物9、刊行物B、刊行物C及び刊行物12に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8) 本件発明6及び9について
本件発明6は、本件発明1又は5にさらに限定を付したものであり、本件発明9は、本件発明1、5、6又は7にさらに限定を付したものである。よって、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も刊行物2発明並びに刊行物A、刊行物3、刊行物9、刊行物B、刊行物C、刊行物12及び刊行物24に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 無効理由1(進歩性の欠如)について
無効理由1(進歩性の欠如)は、上記「第5 1 無効理由1(進歩性の欠如)」に記載した(1)?(4)に整理することができるので、順次検討する。
(1) 無効理由1(1)について
ア 本件発明1について
請求人の主張する無効理由1(1)は、本件発明1は、甲第2号証、及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであるというものである。

(ア) 甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項
甲第2号証(特開2001-207101号公報)及び甲第3号証(特開平8-39936号公報)は、当審が通知した無効理由3(進歩性の欠如)において引用された刊行物2及び刊行物3にそれぞれ相当する。甲第2号証に記載された事項は、上記3(1)ア「刊行物2(甲第2号証)に記載された事項」に記載したとおりであり、甲第3号証に記載された事項は、上記3(1)ウ「刊行物3(甲第3号証)に記載された事項」に記載したとおりである。

(イ) 甲第9、12号証に記載された事項
甲第9号証(特開昭57-115397号公報)及び甲第12号証(実願平3-77739号(実開平5-24395号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM(平成5年3月30日特許庁発行))は、当審が通知した無効理由3(進歩性の欠如)において引用された刊行物9及び刊行物12にそれぞれ相当する。甲第9号証に記載された事項は、上記3(1)エ「刊行物9(甲第9号証)に記載された事項」に記載したとおりであり、甲第12号証に記載された事項は、上記3(1)キ「刊行物12(甲第12号証)に記載された事項」に記載したとおりである。

(ウ) 甲第11号証に記載された事項
甲第11号証(実開平4-132991号公報)は、当審が通知した無効理由3(進歩性の欠如)において引用された刊行物C(実願平3-48815号(実開平4-132991号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(平成4年12月10日特許庁発行))の抄録に相当する。甲第11号証に記載された事項は、上記3(1)カ「刊行物Cに記載された事項」に記載された[C-ア]及び[C-オ]のとおりである。

(エ) 甲第10号証に記載された事項
甲第10号証(実開昭56-123287号公報)には、以下の事項が記載されている。
[10-ア] 「実用新案登録請求の範囲
キヤツプ2に消ゴム1を取付けたものである。
図面の簡単な説明
第1図は筆記具に差した消ゴム付キヤツプの斜面図である。第2図は消ゴム付キヤツプの断面図である。
1は消ゴムである。2はキヤツプである。3は筆記具である。」

[10-イ] 「




(オ) 甲第13号証に記載された事項
甲第13号証(三菱鉛筆株式会社総合カタログ(1994年))には、以下の事項が記載されている。
[13-ア] 「試験前にチェックした教科書の重要ポイントを、試験後に消したり、地図などのチェックマークも、不要になったら、簡単に消去することができます。などなど、<ケルサ>は、消しゴムで消せるという全く新しいタイプのサインペンです。」(第120頁)

[13-イ] 「


」(第120頁)

(カ) 甲第14号証に記載された事項
甲第14号証(意匠登録第948780号公報)には、以下の事項が記載されている。
[14-ア] 「(54)意匠に係る物品 消しゴム付マーキングペン (55)説明 本物品のキャップ上部の円柱状突出部は、消しゴムである。右側面図は左側面図と対称にあらわれる。」

[14-イ] 「



(キ) 甲第52号証に記載された事項
甲第52号証(三菱鉛筆総合カタログ(昭和56年度)1981年発行)には、以下の事項が記載されている。
[52-ア] 「ケルボはふつうのボールペンとまったく同じように書けます。ところが、HBの鉛筆で書いたものと同じようにふつうの消しゴムで消すことができるのです。」(第70頁)

[52-イ] 「



(ク) 甲第2号証に記載された発明及び本件発明1との対比
甲第2号証に記載された発明は、上記3(3)「刊行物2に記載された発明」に記載されたとおりの「刊行物2発明」であると認められる。そこで、本件発明1と刊行物2発明とを対比すると、両者は上記3(4)「対比」に記載されたとおりの点で一致し、相違点1?5の点で相違する。

(ケ) 相違点1?5について
上記相違点1?5については、上記3(5)「判断」に記載されたとおり判断される。そうすると、上記3(5)オ「相違点5についての検討」に記載したとおりの理由により、当業者が甲第2号証に記載された発明(刊行物2発明)にこれと構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる甲第3号証に記載された発明(刊行物3発明)を組み合わせることを容易に想到し得たとは考え難く、よって、相違点5に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとはいえない。
仮に、当業者が刊行物2発明に刊行物3発明を組み合わせたとしても、刊行物2発明の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具9(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点5に係る本件発明1の構成には至らない。

また、甲第9?14号証には、平成26年7月31日付け審判請求書の第16?17頁に請求人が記載したとおり、筆記具によって形成された像や筆跡を消去するための消去部材を、当該筆記具の後部又はキャップの頂部に備えることが記載されており、さらに、甲第52号証には、平成27年1月27日付け弁駁書の第52頁に請求人が記載したとおり、消しゴムが後端に取り付けられたボールペンが記載されているが、これらのいずれも消しゴムなど単に筆跡を消去するものを筆記具の後部ないしキャップに装着することを記載したものにすぎない。
他方、刊行物3発明の摩擦具9は、低温側変色点以下の低温域での発色状態又は高温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域で記憶保持することができる色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料からなる可逆熱変色性インキ組成物によって形成された有色の筆跡を摩擦熱により加熱して消色させるものであり、単に筆跡を消去するものとは性質が異なる。そして、甲第9?14及び52号証のいずれにもそのような摩擦具に関する記載も示唆もない。よって、このような摩擦具につき、筆記具の後部ないしキャップに装着することが当業者に周知の構成であったということはできない。また、当業者において、摩擦具9の提供の手段として甲第9?14及び52号証に記載された、摩擦具9とは性質を異にする、単に筆跡を消去するものを筆記具の後部ないしキャップに装着する構成の適用を動機付けられることも考え難い。

仮に、当業者において摩擦具9を筆記具の後部ないしキャップの頂部に装着することを容易に想到し得たとしても、刊行物2発明に刊行物3発明を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消去させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で、これを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し、相違点5に係る本件発明1の構成に至ることとなる。このように、刊行物2発明に基づき2つの段階を経て相違点5に係る本件発明1の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない。
したがって、相違点5に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(コ) 請求人の主張について
請求人は、平成27年1月27日付け弁駁書において、甲第2号証に記載された発明について以下のように主張している。
「甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
『低温側変色点を5℃?25℃の範囲に、高温側変色点を27℃?45℃の範囲に有し、最大外径の平均値が0.5?5.0μmの範囲にある可逆熱変色性微小カプセル顔料、水溶性高分子凝集剤、及び水を必須成分とし、前記水溶性高分子凝集剤の緩い橋架け作用により、前記可逆熱変色性微小カプセル顔料が緩やかな凝集状態に懸濁されてなる可逆熱変色性水性インキ組成物をインキ吸蔵体中に含浸させてなり、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、擦過や摩擦により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型である摩擦熱変色性筆記具。』」(弁駁書第32?33頁)また、請求人は、上記弁駁書において、本件訂正発明1(平成26年11月18日付け訂正請求書により訂正された請求項1に係る発明)と甲第2号証に記載された発明との一致点及び相違点について以下のように主張している。
「(iv)一致点及び相違点
ア.以上によれば、本件訂正発明1と甲2発明とは、
『低温側変色点を一定の範囲に、高温側変色点を一定の羽仁に有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、摩擦熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡を形成する特性を備えてなり。第1の状態が有色で第2の状態が無色の互換性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型である、摩擦熱変色性筆記具。』である点で一致し、以下の点で相違する。
イ.相違点1:
本件訂正発明1が、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を25℃?65℃の範囲に有するものであるのに対して、甲2発明は、低温側変色点を5℃?25℃の範囲に、高温側変色点を27℃?45℃の範囲に有するものである点。
ウ.相違点2:
本件訂正発明1が、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなるものであるのに対して、甲2発明は、摩擦熱により変色させる際の具体的な摩擦手段の記載がない点。」(弁駁書の第37?38頁)
そこで、仮に、甲第2号証に記載された発明、本件発明1との一致点及び相違点1、2が請求人の主張するとおりに認定することができたとして、本件発明1の当該相違点1、2に係る構成に当業者が容易に想到し得るか、検討する。

まず、請求人の主張する上記「イ.相違点1」は、当審が認定した「相違点1」と実質的に同じであるから、上記3(5)「判断」の「ア 相違点1についての検討」に記載されたとおりの理由により、当業者は相違点1に係る本件発明1の構成に容易に想到することができたものと認められる。
次に、請求人の主張する上記「ウ.相違点2」について検討する。
請求人は、平成27年1月27日付け弁駁書において、「本件訂正発明1の相違点2に係る構成は、甲2発明に、甲第3号証の摩擦体と、上記周知・慣用技術を単に寄せ集めることにより、当業者であれば容易に想到し得たものである。したがって、本来、相違点2の容易想到性については、組合せの動機付けまで探求することは不要であるが・・・甲2発明に、甲3の摩擦体、及び消去部材を筆記具の後部又はキャップの頂部に備えるという当業者の周知・慣用技術を組み合わせる動機付けがあることも、説明しておく。」(弁駁書の第42頁)として、さらに、「(ウ)『課題の共通性』 甲第3号証が前提とする『前記従来の加熱手段にあって、熱変色層を手で擦り、発生した摩擦熱によって変色させる系にあっては、非衛生的であると共に発熱による損傷が懸念され、長時間の使用や、幼児等が使用するには不向きであった。』等の課題・・・や『熱変色層を傷つけることがなく、構造が簡易で破損し難い加熱変色具・・・の提供』という目的・・・は、筆記によって紙面上に形成される熱変色像を擦過ないし摩擦によって加熱変色させる甲2発明についても、同様に存在することが明らかである。甲第2号証・・・の記載より、甲2発明が、擦過や摩擦によって熱変色性インキによる筆跡の熱変色性能を損なわせない(熱変色層を傷つけない)という課題を前提とするものであることは、明らかである。」(弁駁書の第47頁)、「甲第3号証の『熱変色層は紙の上に形成され得るものであり・・・甲第2号証にも例示されている特公平4-17154号公報(甲第4号証)の熱変色性インキを用いることができるものであるから・・・当業者であれば、甲2発明の筆記具によって形成された紙上の筆跡(熱変色像)は、甲第3号証の『熱変色層』に相当すると理解することは明らかである」(弁駁書の第48頁)、「甲3の摩擦体が甲第2号証にも例示されている特公平4-17154号公報(甲第4号証)の熱変色性インキ等によって形成される『熱変色層』を摩擦によって熱変色させることができることは、当業者であれば容易に理解できることが明らかであり、逆に、甲3の摩擦体が、甲3の実施例である特殊な冷熱ペンや支持体に対してしか使用できないと考える当業者はいないことも明らかである。」(弁駁書の第48頁)、「(エ)『作用・機能の共通性』 甲2発明の筆記具による筆記によって形成される熱変色像を、擦過ないし摩擦によって加熱変色(加熱消色)させることと、甲第3号証における『熱変色層』を摩擦体による摩擦熱によって熱消色させることとは、作用・機能において共通することが、明らかである。 (オ)小括 以上によれば、甲2発明に『甲3の摩擦体に関する事項』を組み合わせることについては、『課題の共通性』・・・及び『作用・機能の共通性』・・・という動機付けがあり、当該組合せを阻害する要因は全く見当たらない。」(弁駁書第48?49頁)と主張する。また、請求人は、平成26年7月31日付け審判請求書において、「甲第3号証には、B(a)エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれる摩擦具について記載されており・・・甲第3号証に記載された摩擦具は・・・熱変色性像に対する消去体としての役割を有することが記載されている。他方で・・・甲第2号証に係る筆記具による『加熱消色型』の熱変色像を、何らかの摩擦体による摩擦によって消去(消色)させることは、甲第2号証に開示・示唆されている。よって、甲第2号証に係る筆記具による『加熱消色型』の熱変色像に対して、熱変色像に対する消去体としての役割を有する甲第3号証の摩擦具を適用することにつき、当業者に動機付けがあることは、明白である。」(審判請求書の第20?21頁)と主張する。
しかし、上記3(5)オ(ウ)「刊行物2発明に刊行物3発明を組み合わせることについて」に記載したとおり、甲第2号証に記載された発明(刊行物2発明)と甲第3号証に記載された発明(刊行物3発明)とは、いずれも色彩記憶保持型の可逆変色性微小カプセル顔料を使用してはいるが、(1)甲第2号証に記載された発明は可逆熱変色性インキ組成物を充填したペン等の筆記具であり、それ自体によって熱変色像の筆跡を紙など適宜の対象に形成できるのに対し、(2)甲第3号証に記載された発明は筆記具と熱変色層が形成された支持体等からなる筆記材セットであり、筆記具である冷熱ペン自体、氷片や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした特殊なもので、インキや顔料を含んでおらず、インキや芯で筆跡を形成する通常の筆記具とは異なり、冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成することができず、筆跡を形成する対象も冷熱ペンとセットとされる支持体上面の熱変色層に限られるものであるから、両発明はその構成及び筆跡を形成する機能において大きく異なるものといえる。よって、当業者において甲第2号証に記載された発明に甲第3号証に記載された発明を組み合わせることを容易に想到し得たとは考え難い。さらに、仮に当業者が甲第2号証に記載された発明に甲第3号証に記載された発明を組み合わせることを容易に想到し得たとしても、上記3(5)オ(エ)「相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性について」に記載したとおり、甲第3号証に記載された発明の摩擦具は筆記具とは別体のものであるから、当業者が両者を組み合わせても、甲第2号証に記載された発明の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具9(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する請求人の「ウ.相違点2」に係る本件発明1の構成には至らない。

さらに、請求人は、平成26年7月31日付け審判請求書において、「甲第9号証乃至甲第14号証に示されるとおり、筆記具によって形成された像や筆跡を消去するための消去部材を、当該筆記具の後部又はキャップの頂部に備える構成とすることは、当業者にとって周知・慣用の技術である。」(審判請求書の第23頁)と主張し、平成27年1月27日付け弁駁書において、「ウ.周知慣用技術との組み合わせ・・・消しゴム付鉛筆のように、筆記具によって形成された像や筆跡を消去するために消去部材を当該筆記具の後部又はキャップの頂部に備えることは当業者にとって周知・慣用の技術であるから(甲第9?14号証参照)、甲3の摩擦体を甲2発明の筆記具に適用するにあたって、当該摩擦体を当該筆記具の後部又は頂部に装着することを想到することも、当業者にとって容易であることは明らかである。上記周知・慣用技術の例として、甲第52号証(三菱鉛筆総合カタログ(昭和56年度)、1981年発行)を追加する。・・・筆記具の分野において、複数機能を一つの筆記具で実現するという意味での多機能性及び携帯性が、当業者にとって常に志向すべき課題であることは明らかである。よって、上記周知慣用技術を適用する動機付けも、当然ながら認められるところである。」(弁駁書の第51?53頁)と主張する。
しかし、上記3(5)オ(エ)「相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性について」に記載したとおり、甲第3号証に記載された発明の摩擦具9は、低温側変色点以下の低温域での発色状態又は高温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域で記憶保持することができる色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料からなる可逆熱変色性インキ組成物によって形成された有色の筆跡を摩擦熱により加熱して消色させるものであり、単に筆跡を消去するものとは性質が異なる。また、甲第9?14及び52号証によれば、消しゴムなど単に筆跡を消去するものについては、筆記具の後部ないしキャップに装着することが周知慣用の構成であったと認められるものの、前記のような摩擦具9については上記のように装着することが当業者に周知された構成であったということはできない。さらに、仮に当業者において摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し得たとしても、上記3(5)オ(エ)「相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性について」に記載したとおり、それは甲第2号証に記載された発明の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具9(摩擦体)を共に提供する構成を想到し、その上でこれを基準に摩擦体(摩擦具9)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到するという、甲第2号証に記載された発明に基づき2つの段階を経て請求人の「ウ.相違点2」に係る本件発明1の構成に至ることになるから、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

(サ) 小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明5、7について
本件発明5は、本件発明1にさらに限定を付したものであり、本件発明7は、本件発明1又は5にさらに限定を付したものである。よって、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2) 無効理由1(2)について
ア 本件発明6、9について
本件発明6は、本件発明1又は5にさらに限定を付したものであり、本件発明9は、本件発明1、5、6又は7にさらに限定を付したものである。よって、甲第7、8号証及び甲第15乃至24号証の記載を参酌しても、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証、甲第52号証、甲第7、8号証及び甲第15乃至24号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3) 無効理由1(3)について
ア 本件発明1について
本件発明1についての、請求人の主張する無効理由1(3)は、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではなく、同法同条に違反して特許されたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであるというものである。

(ア) 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証(特開2001-207101号公報)は、当審が通知した無効理由3(進歩性の欠如)において引用された刊行物2に相当する。甲第2号証に記載された事項は、上記3(1)ア「刊行物2(甲第2号証)に記載された事項」に記載したとおりである。

(イ) 甲第5号証に記載された事項
甲第5号証(特開2000-15989号公報)には、以下の事項が記載されている。
[5-ア] 「【請求項1】 擦過により擦り滓が変色する変色性色素成分を含有する消しゴム組成物。
・・・
【請求項8】 変色性色素成分は、擦過熱によって変色する感熱性色素である請求項1記載の消しゴム組成物。
【請求項9】 変色性色素成分は、擦過力によって潰れない感熱性マイクロカプセルで構成されており、かつ該感熱性マイクロカプセル内部には、擦過熱によって変色する感熱性着色成分が含有されている請求項1又は8記載の消しゴム組成物。
【請求項10】感熱性着色成分は、ロイコ染料、顕色剤、及び感熱温度で溶融する減感剤を含有する請求項9記載の消しゴム組成物。
【請求項11】減感剤の融点が26?60℃である請求項10記載の消しゴム組成物。
【請求項12】減感剤の融点が38℃以上である請求項11記載の消しゴム組成物。
【請求項13】減感剤の融点が26?37℃である請求項11記載の消しゴム組成物。
【請求項14】請求項8乃至13のいずれかに記載の変色性色素成分は、擦過熱により有色から無色に変色し、該変色温度の温度を下回ると無色から有色に変色する可逆的な変色性色素成分である請求項8乃至13のいずれかに記載の消しゴム組成物。」

[5-イ] 「【0006】本発明の消しゴム組成物は、擦過により擦り滓が変色する変色性色素成分を含有しているため、擦過により擦り滓が変色する。従って、当該消しゴム組成物による消しゴムは、消しゴム本体の色と、擦り滓の色とが異なるという面白さを有している。すなわち、当該消しゴムを用いて、鉛筆、シャープペンシルなどによる紙面上の筆跡を擦って消すと、これにより生じた擦り滓又は消し屑は、変色性色素成分が擦過により発色又は消色するため、消しゴムの色と異なった色となり、消しゴムを使用するときの面白さを発現することができる。なお、特に、何も書いていない紙面上で、当該消しゴム組成物による消しゴムを擦過すると、前記変色を顕著に発現することができる。」

[5-ウ] 「【0052】本発明の消しゴム組成物は、公知の消しゴム原料と組み合わせて用いて、消しゴムに調製することができる。本発明の消しゴム組成物は、例えば、プラスチック系消しゴム、ゴム系消しゴム用ゴム、エラストマー系消しゴムなどに対して適用される。」

(ウ) 甲第6号証に記載された事項
甲第6号証(特開2000-272290号公報)には、以下の事項が記載されている。
[6-ア] 「【請求項1】 字消基体中に、0.5?30重量%の熱変色性顔料を分散状態に含有させた熱変色性字消体であって、前記熱変色性顔料が熱変色性材料をマイクロカプセルに内包させた、非円形断面形状のマイクロカプセル形態の顔料であることを特徴とする熱変色性字消体。
【請求項2】 字消基体は、一種又は二種以上の熱可塑性エラストマーからなる基材と、前記基材の軟化剤と、充填剤とを少なくとも含む構成である、請求項1記載の熱変色性字消体。」

[6-イ] 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は熱変色性字消体に関する。更に詳細には、消字時の摩擦熱、環境温度変化、或いは指触等による体熱により変色する熱変色性字消体に関する。」

[6-ウ] 「【0009】前記熱変色性顔料としては、電子供与性呈色性有機化合物、前記化合物を呈色させる電子受容性化合物、及び前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体の、必須三成分からなる、公知の可逆熱変色性材料をマイクロカプセルに内包させた形態のものが有効である。」

(エ) 甲第2号証に記載された発明及び本件発明1との対比
甲第2号証に記載された発明は、上記3(3)「刊行物2に記載された発明」に記載されたとおりの「刊行物2発明」であると認められる。そこで、本件発明1と刊行物2発明とを対比すると、両者は上記3(4)「対比」に記載されたとおりの点で一致し、相違点1?5の点で相違する。

(オ) 相違点1?5について
相違点5について検討する。
甲第5号証には、擦過熱により有色から無色に変色し、該変色温度の温度を下回ると無色から有色に変色する可逆的な変色性色素成分を含有する、擦過により擦り滓が変色する消しゴム組成物が記載されており([5-ア])、変色性色素成分は、擦過力によって潰れない感熱性マイクロカプセルで構成されており、かつ該感熱性マイクロカプセル内部には、擦過熱によって変色する感熱性着色成分が含有されていること([5-ア])、例えば、プラスチック系消しゴム、ゴム系消しゴム用ゴム、エラストマー系消しゴムなどに対して適用されること([5-ウ])、及び当該消しゴムを用いて、鉛筆、シャープペンシルなどによる紙面上の筆跡を擦って消すと、これにより生じた擦り滓又は消し屑は、変色性色素成分が擦過により発色又は消色するため、消しゴムの色と異なった色となり、消しゴムを使用するときの面白さを発現することができること([5-イ])が記載されている。
また、甲第6号証には、字消基体中に、0.5?30重量%の熱変色性顔料を分散状態に含有させた熱変色性字消体であって、前記熱変色性顔料が熱変色性材料をマイクロカプセルに内包させた、非円形断面形状のマイクロカプセル形態の顔料である熱変色性字消体が記載されており([6-ア])、字消基体は、一種又は二種以上の熱可塑性エラストマーからなる基材と、前記基材の軟化剤と、充填剤とを少なくとも含む構成であること([6-ア])、消字時の摩擦熱、環境温度変化、或いは指触等による体熱により変色する熱変色性字消体であること([6-イ])、及び熱変色性顔料としては、電子供与性呈色性有機化合物、前記化合物を呈色させる電子受容性化合物、及び前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体の、必須三成分からなる、公知の可逆熱変色性材料をマイクロカプセルに内包させた形態のものが有効であること([6-ウ])が記載されている。
そうすると、甲第5号証及び甲第6号証に記載されているのは、いずれも紙面等に描かれた筆記具による筆跡を消去するための消しゴムである。

これに対して、本件発明1の相違点5に係る「摩擦体」は、「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体」と特定されており、また、本件訂正明細書には、本件発明1が、従来の消しゴムにより筆跡が消去される筆記具である、鉛芯等の固形芯を用いた鉛筆やシャープペンシル、紙質に着色成分を低度の付着力で付着形成する筆跡を与えるボールペン等において(【0002】)、前記した筆記具による筆跡は、消しゴムによる擦過で不要の筆跡を消去できる利便性を有するが、消去した筆跡は再び視覚することはできないという点を解決しようとする課題とする発明であり(【0003】)、摩擦体による筆跡の擦過により、色彩記憶保持型の可逆熱変色性マイクロカプセルを含むインキの筆跡を、第1の状態から第2の状態に変位させ、温度降下により再び第1の状態に復帰させ、学習、教習、メッセージ、玩具、マジック要素として、或いは、暗証番号や機密文書等の隠顕要素等として、効果的な熱変色性筆跡を与える軽便な摩擦熱変色性筆記具を提供しようとするものであること(【0003】、【0004】)が記載されているから、甲第5号証及び甲第6号証に記載された単に筆跡を消去するための「消しゴム」とは性質が異なるものである。よって、甲第5号証及び甲第6号証には、本件発明1における「摩擦体」に相当するものは記載されていない。

また、上記4(1)ア(ケ)「相違点1?5について」に記載したように、甲第9?14号証には、平成26年7月31日付け審判請求書の第16?17頁に請求人が記載したとおり、筆記具によって形成された像や筆跡を消去するための消去部材を、当該筆記具の後部又はキャップの頂部に備えることが記載されており、さらに、甲第52号証には、平成27年1月27日付け弁駁書の第52頁に請求人が記載したとおり、消しゴムが後端に取り付けられたボールペンが記載されているが、これらのいずれも消しゴムなど単に筆跡を消去するものを筆記具の後部ないしキャップに装着することを記載したものにすぎないから、本件発明1における「摩擦体」に相当するものは上記のいずれの証拠にも記載されていない。

そうすると、請求人が無効理由1(3)の証拠とした甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証のいずれにも、相違点5に係る本件発明1の「摩擦体」の構成が記載されていないから、上記の証拠に基づいて当業者が相違点5に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとはいえない。

(カ) 請求人の主張について
請求人は、平成26年7月31日付け審判請求書において、「甲第5号証及び甲第6号証には、可逆熱変色性マイクロカプセルは、エラストマーから成る部材で擦過した際の摩擦熱によって熱変色させ得ることが、開示されている。」(審判請求書の第22頁)、「甲第5号証及び甲第6号証の可逆熱変色性マイクロカプセル入り消しゴムを、同じく可逆熱変色性マイクロカプセルが含まれている甲第2号証の筆記用インキによる筆跡を熱変色させるための摩擦体として用いることも、容易であることが明らかである。」(審判請求書の第23頁)と主張し、また、平成27年1月27日付け弁駁書において、「本件訂正発明のエラストマーから成る摩擦体には従来の消しゴムも含まれるし、『消色により消去と同じ目的を達成させる』という思想は本件訂正発明及び本件訂正明細書には存在しないから、失当である。」(弁駁書の第50頁)と主張する。しかし、上記のとおり、甲第5号証及び甲第6号証に記載されている消しゴムは、鉛筆等の筆跡を単に消去するためのものであり、甲第2号証に記載された熱変色性インキによる筆跡を摩擦熱により熱変色させる摩擦体とは性質が異なるものであるから、甲2号証に記載された発明における有色の筆跡を消色するために加熱する手段として、甲第5号証及び甲第6号証に記載された消しゴムを適用することを動機付けられるとはいえない。よって、請求人の主張は採用できない。

(キ) 小括
したがって、本件発明1は、甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明5、7について
本件発明5は、本件発明1にさらに限定を付したものであり、本件発明7は、本件発明1又は5にさらに限定を付したものである。よって、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証及び甲第52号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4) 無効理由1(4)について
ア 本件発明6、9について
本件発明6は、本件発明1又は5にさらに限定を付したものであり、本件発明9は、本件発明1、5、6又は7にさらに限定を付したものである。よって、甲第7、8号証及び甲第15乃至24号証の記載を参酌しても、本件発明1と同じ理由により、いずれの発明も甲第2号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明並びに甲第9号証乃至甲第14号証、甲第52号証、甲第7、8号証及び甲第15乃至24号証に記載されている周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第9 むすび
以上のとおり、平成28年3月4日付け訂正請求によって求められる訂正は、これを認めるべきものであり、当該訂正によって訂正された本件特許請求の範囲の請求項1、5?7及び9に記載された発明に係る特許を無効とすべき理由はない。また、当該訂正により削除された本件特許請求の範囲の請求項2?4及び8に記載された発明に係る特許についての本件無効審判の請求は却下されるべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
摩擦熱変色性筆記具及びそれを用いた摩擦熱変色セット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を36℃?65℃の範囲に有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、摩擦体による摩擦熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互変性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型であり、筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなる摩擦熱変色性筆記具。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
第1の状態は、黒色である請求項1記載の摩擦熱変色性筆記具。
【請求項6】
前記可逆熱変色性インキは、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキであり、ボールペン形態の筆記具に充填されてなる請求項1又は5の何れか一項に記載の摩擦熱変色性筆記具。
【請求項7】
前記可逆熱変色性インキは、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキであり、繊維加工体をペン体とし、繊維収束体をインキ吸蔵体とする筆記具に充填されてなる請求項1又は5の何れか一項に記載の摩擦熱変色性筆記具。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、少なくとも、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を含む可逆熱変色性組成物を内包させた非円形断面形状を有し、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲にある顔料である請求項1、5、6、又は7の何れか一項に記載の摩擦熱変色性筆記具。
【請求項10】
請求項1、5、6、7又は9のいずれか一項に記載の摩擦熱変色性筆記具と、熱変色性筆跡上に載置し、前記筆跡を間接的に摩擦熱変色させるための無色透明乃至有色透明の厚みが10?200μmの透明プラスチックシートをセットにした摩擦熱変色セット。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は摩擦熱変色性筆記具及びそれを用いた摩擦熱変色セットに関する。詳細には、第1の状態から、摩擦熱により第2の状態に変位し、温度降下により第1の状態に互変的に変位する筆跡を与える摩擦熱変色性筆記具、及び前記筆跡を間接的に摩擦熱変色させるために介在させる透明プラスチックシートをセットにした摩擦熱変色セットに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、消しゴムにより筆跡が消去される筆記具として、鉛芯等の固形芯を用いた鉛筆やシャープペンシル、紙質に着色成分を低度の付着力で付着形成する筆跡を与えるボールペン等を挙げることができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記した筆記具による筆跡は、消しゴムによる擦過で不要の筆跡を消去できる利便性を有するが、消去した筆跡は再び視覚することはできない。
本発明は、摩擦体による、筆跡の擦過により第1の状態から第2の状態に変位させ、温度降下により再び第1の状態に復帰させ、学習、教習、メッセージ、玩具、マジック要素として、或いは、暗証番号や機密文書等の隠顕要素等として、効果的な熱変色性筆跡を与える軽便な摩擦熱変色性筆記具を提供しようとするものである。
更には、前記摩擦熱変色性筆記具と、前記熱変色性筆跡を間接的に摩擦させるための透明プラスチックシートとをセットにし、熱変色性筆跡の摩擦による損耗や、紙質の損耗を防ぎ、繰返しの持久性を高め、幼児等にあっても安心して繰り返し実用できる摩擦熱変色セットを提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明を図面について説明する(図1?図13参照)。
本発明は、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲に、高温側変色点を36℃?65℃の範囲に有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を水性媒体中に分散させた可逆熱変色性インキを充填し、前記高温側変色点以下の任意の温度における第1の状態から、摩擦体2による摩擦熱により第2の状態に変位し、前記第2の状態からの温度降下により、第1の状態に互変的に変位する熱変色性筆跡4を形成する特性を備えてなり、第1の状態が有色で第2の状態が無色の互変性を有し、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型であり、筆記時の前記インキの筆跡は室温(25℃)で第1の状態にあり、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体2が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなる摩擦熱変色性筆記具1を要件とする。
更には、第1の状態は、黒色であること、可逆熱変色性インキは、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキ11bであり、ボールペン形態の筆記具に充填されてなること、可逆熱変色性インキは、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキ12bであり、繊維加工体をペン体とし、繊維収束体をインキ吸蔵体とする筆記具に充填されてなること、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、少なくとも、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体を含む可逆熱変色性組成物を内包させた非円形断面形状を有し、可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲にある顔料であること、前記摩擦熱変色性筆記具1と、熱変色性筆跡4上に載置し、前記筆跡を間接的に摩擦熱変色させるための無色透明乃至有色透明の厚みが10?200μmの透明プラスチックシート5をセットにした摩擦熱変色セットを要件とする。
【0005】
前記したとおり、摩擦体2による摩擦熱により、第1の状態から第2の状態に色彩を簡易に変色させることができ、常態と異なる色彩を互変的に視覚させることができ、低温側変色点を-30℃?+10℃の範囲、且つ高温側変色点を36℃?65℃の範囲に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
ここで、第1の状態と第2の状態の何れか一方が黒色の系、中でも、常態で黒色を呈し、摩擦による摩擦熱により、他の有色を現出させる系にあっては、通常の筆記具における汎用の筆跡が黒色であることに加えて、黒色からの他色への色変化の妙味、意外性があり、商品性を満足させることができる。
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させたものが有効であり、発色状態からの加熱により消色する加熱消色型としては、本出願人が提案した、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載のものが利用できる。前記は所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在しない。即ち、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH_(A)=1?7℃)を有する。
ΔH_(A)が3℃以下の系〔特公平1-29398号公報に示す、3℃以下のΔT値(融点-曇点)を示す脂肪酸エステルを変色温度調節化合物として適用した系〕にあっては、高温側変色点及び低温側変色点を境に温度変化に鋭敏に感応して高感度の変色性を示し、ΔH_(A)が4?7℃程度の系では変色後、緩徐に元の様相に戻り、視認効果を高めることができる(図9参照)。
又、本出願人が提案した特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性(ΔH_(B)=8?50℃)を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、低温側変色点(t_(1))以下の低温域での発色状態、又は高温側変色点(t_(4))以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t_(2)?t_(3)の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性組成物も適用できる(図10参照)。
前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、本発明では、前記高温側変色点を25℃?65℃(好ましくは、36℃?65℃)の範囲に設定する。
尚、前記低温側変色点は、-30℃?+20℃(好ましくは、-30℃?+10℃)の範囲から選ばれる任意の温度に設定できる。
前記温度設定により、低温側変色点(t_(2))と高温側変色点(t_(3))の間の任意の温度で、発色状態又は消色状態を互変的に記憶保持して視覚させることができる。
又、加熱発色型の組成物として、消色状態からの加熱により発色する、本出願人の提案による、電子受容性化合物として、炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物を適用した系(特開平11-129623号公報、特開平11-5973号公報)、或いは特定のヒドロキシ安息香酸エステルを適用した系(特開2001-105732号公報)を挙げることができる(図11参照)。又、没食子酸エステル等を適用した系(特公昭51-44706号公報、特願2001-395841号)等を応用できる。
ここで、前記可逆熱変色性マイクロカプセル中、或いはインキ中に非熱変色性の染料、顔料等の着色剤を配合して、有色(1)から有色(2)への互変的色変化を呈する構成となすことができる。
【0006】
本発明に適用のマイクロカプセル顔料6は、円形断面の形態のものの適用を拒まないが、非円形断面の形態(図6?図8参照)が効果的である。
筆記により形成される可逆熱変色性筆跡4は、前記マイクロカプセル顔料6が被筆記面に対して長径側(最大外径側)を密接させて濃密に配向、固着されており、高濃度の発色性を示すと共に、前記筆跡をエラストマー成形体等の摩擦体2による擦過等による外力に対して、前記マイクロカプセル顔料は外力を緩和する形状に微妙に弾性変形し、マイクロカプセル6の壁膜6aの破壊が抑制され、熱変色機能を損なうことなく有効に発現させることができる。
ここで、前記非円形断面形状のマイクロカプセル顔料6は、最大外径の平均値が0.5?5.0μmの範囲にあり、且つ可逆熱変色性組成物/壁膜=7/1?1/1(重量比)の範囲を満たしていなければならない。
【0007】
前記マイクロカプセル顔料6(円形断面形状のものを含む)は、最大外径の平均値が、5.0μmを越える系では、毛細間隙からの流出性の低下を来し、一方、最大外径の平均値が、0.5μm以下の系では高濃度の発色性を示し難く、好ましくは、最大外径の平均値が、1?4μmの範囲、当該マイクロカプセルの平均粒子径〔(最大外径+中央部の最小外径)/2〕が1?3μmの範囲が好適である。
可逆熱変色性組成物6cの壁膜6aに対する比率が前記範囲より大になると、壁膜6aの厚みが肉薄となり過ぎ、圧力や熱に対する耐性の低下を起こし、逆に、壁膜6aの可逆熱変色性組成物6cに対する比率が前記範囲より大になると発色時の色濃度及び鮮明性の低下を免れず、好適には、可逆熱変色性組成物6c/壁膜6a=6/1?1/1(重量比)である。
【0008】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6は、インキ組成物全量に対し、2?50重量%(好ましくは3?40重量%、更に好ましくは、4?30重量%)配合することができる。2重量%未満では発色濃度が不充分であり、50重量%を越えるとインキ流出性が低下し、筆記性が阻害される。
【0009】
前記可逆熱変色性組成物のマイクロカプセル化は、界面重合法、界面重縮合法、in Situ重合法、コアセルベート法等の公知の手段が適用できるが、本発明の前記した要件を満たす粒子径範囲の、非円形断面形状のマイクロカプセル顔料を得るためには、凝集、合一化が生じ難い界面重合法又は界面重縮合法の適用が効果的である。
【0010】
本発明に適用される可逆熱変色性インキは、25?65℃の範囲に高温側変色点を有し、平均粒子径が0.5?5μmの範囲にある可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を水性媒体中に分散させ、必要に応じてバインダー樹脂を配合したものが有効である。
具体的には、剪断減粘性物質を含む剪断減粘系インキ11bや、水溶性高分子凝集剤により可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6を緩やかな凝集状態に懸濁させた凝集系インキ12bが効果的である。更には、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料6が水性ビヒクルと比重差0.05以下になるよう調節した比重調節型インキも適用できる。
【0011】
前記剪断減粘系インキは、本出願人が既に提案した特開平9-124993号公報を応用し、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料15?45重量%、剪断減粘性樹脂0.1?0.5重量部、水溶性有機溶剤5?35重量%を含み、残部が水からなる、粘度が40?160mPa・s(EM型回転粘度計による回転数100rpmでの値)、剪断減粘性指数0.1?0.8の範囲に調整してボールペンインキを構成する。
前記凝集型インキ12bは、本出願人が提案した特開2001-207101号公報を応用し、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料3?40重量%、水溶性高分子凝集剤を含むバインダー樹脂0.05?25重量%、残部を必要に応じて保湿剤等を含む水となし、3?20mPa・s(25℃)の粘度範囲に調製した水性マーカーインキを構成する。
又、前記比重調節型インキは、本出願人が提案した特許第2540341号(特願昭62-210721号)を応用して調製し、ポンピング機構を備えた汎用の筆記具の軸胴内に充填して適用できる。
【0012】
前記における剪断減粘性物質は、8?12の範囲内のHLB値を有するノニオン界面活性剤、キサンタンガム、ウエランガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルローズ、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万?15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体等を例示でき、単独或いは混合して使用することができる。特にキサンタンガム、サクシノグリカン、架橋性アクリル酸重合体が保存安定性に優れる。
【0013】
前記水性高分子凝集剤としては、非イオン性水溶性高分子化合物が好適に用いられる。
具体的にはポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性多糖類、非イオン性水溶性セルロース誘導体等が挙げられる。このうち水溶性多糖類の具体例としてはトラガントガム、グアーガム、プルラン、サイクロデキストリンが挙げられ、また非イオン性水溶性セルロース誘導体の具体例としてはメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。本発明の可逆熱変色性水性インキ組成物中において微小カプセル顔料粒子間の緩い橋架け作用を示す水溶性高分子であればすべて適用することができるが、なかでも前記の非イオン性水溶性セルロース誘導体が最も本発明の可逆熱変色性水性インキ組成物に対し有効に作用する。
前記高分子凝集剤は、インキ組成物全量に対し、0.05?20重量%配合することができる。
【0014】
ペン先での乾燥を抑制するために保湿剤として、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、低分子量ポリエチレングリコール等のグリコール類及びそれらの低級アルキルエーテル、2-ピロリドン、N-ビニルピロリドン、尿素等の適宜量を配合することができる。
前記保湿剤は、インキ全量に対して5?40重量%配合することができる。
【0015】
尚、筆跡の固着性や粘度調整等のために、適宜量のバインダー樹脂を添加することもできる。前記バインダー樹脂は樹脂エマルション、アルカリ可溶性樹脂、水溶性樹脂から選ばれる。
前記樹脂エマルションとしては、ポリアクリル酸エステル、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸-マレイン酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、α-オレフィン-マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリウレタン等の水分散体が挙げられ、前記アルカリ可溶性樹脂としては、スチレン-マレイン酸共重合体、エチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体等が挙げられ、前記水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができ、一種又は二種以上を混合して用いることができる。
又、界面活性剤等の従来より汎用の各種分散剤を必要に応じて配合することができる。
【0016】
前記した剪断減粘系インキ11bは、回転自在にボール11aを抱持したチップを先端部に備えた、軸胴11dに充填し、後部に粘稠追従体11c(液栓)を配してボールペン形態の熱変色性筆記具11を構成できる。
又、凝集系インキ12bは、多数の繊維を互いに密接状態に配し、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維加工体をペン体12aとし、隣接する繊維相互間に毛細間隙が形成された繊維集束体をインキ吸蔵体12cとし、ペン体12aの後端を前記インキ吸蔵体12aの前端に接続状態に組み立てられており、前記インキ吸蔵体12aに前記凝集系インキ12bを含浸させて、マーカー型熱変色性筆記具12を構成する。
前記繊維加工体は、繊維の樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来より汎用の気孔率が概ね30?70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材であり、該繊維加工体の一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工してペン体12aとなして実用に供される。
前記チゼル形状のペン体にあっては、筆記面への当接位置を変えることにより細書き用、或いは太書き用として、更には一定線幅のマークを形成できる多用途性を有し、多様な熱変色像を形成できる軽便性筆記具を構成できる。
繊維束インキ吸蔵体12cは、捲縮状繊維を長手方向に集束させたものであり、プラスチック筒体やフイルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40?90%の範囲に調整して構成される。尚、前記繊維束インキ吸蔵体12cは、繊維束の樹脂加工或いは熱融着加工、可塑剤等により溶着加工されたものであってもよい。
筆記具の形態は、図示例に限らず、インキ吸蔵体12cの一端及び他端に相異なる形態のペン体を装着させて、ツイン型マーカーを構成したものでもよい。
【0017】
摩擦体2は、任意形象のエラストマー、プラスチック発泡体から選ばれる弾性体が弾性感に富み、使い勝手がよい。
前記における弾性の摩擦体は、キャップの頂部に装着(図12)、或いは筆記具軸胴の後部に装着させて実用に供する。
【0018】
本発明の摩擦熱変色性筆記具1は、それ自体で実用性を有するが、前記筆記具により形成された熱変色性筆跡4の上に、透明プラスチックシート5を重接させて、前記した摩擦体2により、前記熱変色性筆跡4を間接的に摩擦して、摩擦熱により変色させることができ、支持体である紙3や、熱変色性筆跡の損耗を完全に防ぎ、摩擦熱変色機能を永続させることができる。
前記透明プラスチックシート5は、厚みが10μm?200μm、好ましくは、20?100μmであり、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、弗化ビニリデン等が実用上好適である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されない。又、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の形態は、図6?8に例示の非円形断面形状の顔料を任意に適用でき、これらの形態の顔料を混在させたものであってもよい。
【0020】
【実施例】
以下に実施例を示す。尚、実施例中の部は重量部である。
【0021】
参考例1
可逆熱変色性インキの調製
色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料A〔高温側変色点(t_(3):34℃、t_(4):40℃)、低温側変色点(t_(1):8℃、t_(2):13℃)、青色←→無色の色変化、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0)〕のマイクロカプセルスラリー44.0部(固形分27.3%)、キサンタンガム(剪断減粘性物質)0.33部、水32.86部、尿素11.00部、グリセリン11.00部、ノプコSW-WET-366(ノニオン系浸透性付与剤、サンノプコ社製)0.55部、ノプコ8034(変性シリコーン系消泡剤、サンノプコ社製)0.13部、プロキセルXL-2(防黴剤、ゼネカ株式会社製)0.13部からなる剪断減粘系可逆熱変色性インキ11bを調製した。
前記インキの粘度をEMD型粘度計にて25℃で測定した結果、測定回転数1rpmで1020mPa・s、100rpmで84mPa・sの値を示し、剪断減粘性指数nが0.48であった。
筆記具の作製
0.8mmのステンレス鋼ボールを用い、ボール収容部の内径とボール外径との差が約20μm、軸方向の移動可能な距離が約70μmに設定した切削型ボールペンチップ11aを用いた。前記剪断減粘系可逆熱変色性インキ11b(可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Aが発色状態で青色を呈する)を内径3.3mmのポリプロピレン製パイプに0.8g吸引充填し、樹脂製ホルダーを介して前記ボールペンチップ11aと連結させた。
次いで、前記ポリプロピレン製パイプの尾部より、ポリブテンベースの粘弾性を有するインキ追従体11c(液栓)を充填し、軸胴、キャップ、口金、尾栓を組み付けた後、遠心処理により脱気処理を行ない、剪断減粘系熱変色ボールペンを11を得た(図2に要部を示す)。
前記ボールペン11によりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が消色することがなく、安定した濃度の青色の鮮明な熱変色性筆跡4が得られた。
筆跡の変色挙動
前記ボールペン11による熱変色性筆跡4は、室温(25℃)で青色の発色状態から、加温すると40℃以上の温度で完全に消色して無色となり、この変色状態から冷却すると13℃以下の温度で再び発色し青色となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記ボールペン11により通常の浸透性を有する紙に筆記した熱変色性筆跡4を消しゴム2で数回擦過したところ、擦過部分が直ちに消色して視認不能となり、この状態は室温で維持することができた。次いで、前記熱変色性筆跡4を冷蔵庫(約5℃)の中に放置したところ、前記消色部分が再び青色に発色し擦過前の状態に戻った。
また、前記熱変色性筆跡4上に無色透明ポリエステル製シート5(厚み:100μm)を密接状態に重ね、前記シート5上を消しゴム2(又はエラストマー成形体)で数回擦過したところ、前記と同様に筆跡を消色させることができた。
【0022】
参考例2
可逆熱変色性インキの調製
色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料B〔高温側変色点(t_(3):34℃、t_(4):44℃)、低温側変色点(t_(1):-10℃、t_(2):3℃)、ピンク色←→無色の色変化、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0)〕のマイクロカプセルスラリー44.00部(固形分13.2%)を、グリセリン5.00部、プロキセルXL-2(防黴剤、ゼネカ株式会社製)0.70部、SNデフォーマー 381(シリコーン系消泡剤、サンノプコ株式会社製)0.1部、及び水42.20部からなる水性媒体中に均一に分散状態となした後、セロサイズWP-09L(水溶性高分子凝集剤:ヒドロキシエチルセルロース、ユニオンカーバイド日本株式会社製)5.00重量%を含む水溶液8.00部を攪拌しながら、前記分散状態にある液中に添加して、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Bをゆるやかな凝集状態に懸濁させた凝集系可逆熱変色性インキ12bを調製した。
前記インキ12bの粘度をB型粘度計にてBLアダプターを適用し、25℃で測定した結果、測定回転数60rpmで4.4mPa・sであった。
筆記具の作製
ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆した繊維集束インキ吸蔵体12c(気孔率約80%)中に、前記可逆熱変色性インキ(可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Bが発色状態でピンク色を呈する)を均一状態に攪拌した直後に含浸させて軸胴12d内に収容し、軸筒先端部に装着させたポリエステル繊維の樹脂加工ペン体12a(気孔率約50%)と接触状態に組み立て、水性マーカー12を構成した(図3参照)。
前記水性マーカー12によりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が消色することがなく、安定した濃度のピンク色の鮮明な熱変色性筆跡4が得られた。
筆跡の変色挙動
前記水性マーカー12による熱変色性筆跡4は、室温(25℃)でピンク色の発色状態から加温すると、44℃以上の温度で完全に消色して無色となり、この状態から冷却すると3℃以下の温度で再び発色しピンク色となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記水性マーカーにより通常の浸透性を有する紙の一部を塗りつぶし、その一部分を消しゴムで擦過したところ、擦過部分が消色し、ピンク色の塗りつぶし部分中に擦過による無色のパターンが形成され、この状態は室温で維持することができた。この状態で前記擦過部分を冷凍庫(約-15℃)の中に放置すると、再び無色部分が発色し、擦過前の発色状態に戻った。
また、前記塗りつぶし部分に青色透明ポリエステル製シート5(厚み:50μm)を密接状態に重ねたところ、前記塗りつぶし部分は紫色に視認され、前記シート5上を消しゴム2(又はエラストマー成形体)で数回擦過したところ、擦過部分が青色に変色し、紫色の塗りつぶし部分中に擦過により青色に変色したパターンが形成された。
【0023】
参考例3
可逆熱変色性インキの調製及び水性マーカーの作製
加熱消色型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料C〔高温側変色点(t_(3):35℃、t_(4):40℃)、低温側変色点(t_(1):30℃、t_(2):37℃)、ピンク色←→無色の色変化、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0)〕のマイクロカプセルスラリー44.0部(固形分27.3%)、ブリリアントブルーFCF(青色染料、C.I.No.42090、アイゼン保土谷株式会社製)0.2部、キサンタンガム(剪断減粘性物質)0.33部、水32.66部、尿素11.00部、グリセリン11.00部、ノプコSW-WET-366(ノニオン系浸透性付与剤、サンノプコ社製)0.55部、ノプコ8034(変性シリコーン系消泡剤、サンノプコ社製)0.13部、プロキセルXL-2(防黴剤、ゼネカ株製)0.13部からなる剪断減粘系可逆熱変色性インキを調製した。
前記可逆熱変色性インキを用いて、参考例1と同様にして可逆熱変色性水性ボボールペンを得た。
前記ボールペンによりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が変色することがなく、安定した色調の紫色の鮮明な筆跡が得られた。
筆跡の変色挙動
前記ボールペンによる筆跡は室温(25℃)で紫色の変色状態から、加温すると40℃以上の温度で完全に変色して青色となり、この状態から冷却すると37℃以下の温度で再び変色し紫色となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記ボールペンにより通常の浸透性を有する紙に筆記した筆跡を消しゴムで数回擦過したところ、擦過部分が直ちに変色して青色になり、この変色状態で室温に暫くの間放置すると、前記青色部分が再び紫色に変色し擦過前の状態に戻った。
【0024】
参考例4
可逆熱変色性インキの調製及び筆記具の作製
加熱消色型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料D〔高温側変色点(t_(3):37℃、t_(4):40℃)、低温側変色点(t_(1):35℃、t_(2):38℃)、青色←→無色の色変化、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.6/1.0)〕のマイクロカプセルスラリー44.00部(固形分13.2%)を、エリスロシン(赤色染料、C.I.No.45430、アイゼン保土谷株式会社製)0.50部、グリセリン5.00部、プロキセルXL-2(防黴剤、ゼネカ株式会社製)0.70部、SNデフォーマー 381(シリコーン系消泡剤、サンノプコ株式会社製)0.1部、及び水41.70部からなる水性媒体中に均一に分散状態となした後、セロサイズWP-09L(水溶性高分子凝集剤:ヒドロキシエチルセルロース、ユニオンカーバイド日本株式会社製)5.00重量%を含む水溶液8.00部を攪拌しながら、前記分散状態にある液中に添加して、前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Dをゆるやかな凝集状態に懸濁させた可逆熱変色性インキを調製した。
前記可逆熱変色性インキを用いて、参考例2と同様にして可逆熱変色性水性マーカーを得た。
前記水性マーカーによりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が変色することがなく、安定した色調の紫色の鮮明な筆跡が得られた。
筆跡の変色挙動
前記水性マーカーによる筆跡は室温(25℃)で紫色の変色状態から、加温すると40℃以上の温度で完全に変色してピンク色となり、この状態から冷却すると38℃以下の温度で再び変色し紫色となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記水性マーカーにより通常の浸透性を有する紙に筆記した筆跡を消しゴム2(又はエラストマー成形体)で数回擦過したところ、擦過部分が直ちに変色してピンク色になり、この変色状態で室温に放置すると、前記ピンク色部分が再び直ちに紫色に変色し擦過前の状態に戻った。
【0025】
参考例5
可逆熱変色性インキの調製及び筆記具の作製
加熱消色型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Cを加熱発色型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料E〔高温側変色点(T_(1):40℃、T_(2):52℃)、低温側変色点(T_(3):20℃、T_(4):10℃)、無色←→ ピンク色の色変化、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.73/1.0)に置き換えた以外は参考例3と同様にして、剪断減粘系可逆熱変色性インキを調製した。
前記可逆熱変色性インキを用いて、参考例3と同様にして可逆熱変色性水性ボールペンを得た。
前記ボールペンを一旦、10℃以下に放置し、完全に顔料Eが無色となっている状態でのボールペンによりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が変色することがなく、安定した色調の青色の鮮明な筆跡が得られた。
筆跡の変色挙動
前記ボールペンによる筆跡は室温(25℃)で青色の変色状態から、加温すると40℃以上の温度で変色して紫色となり、10℃以下の温度に冷却することにより、再び青色となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記ボールペンにより通常の浸透性を有する紙に筆記した筆跡を消しゴムで数回擦過したところ、擦過部分が直ちに変色して紫色になり、この状態は室温で維持することができた。次いで、前記筆跡を冷蔵庫(約5℃)中に放置すると、前記紫色の変色部分が再び青色に変色し擦過前の状態に戻った。
また、前記筆跡上に無色透明ポリエステルシート(厚み:100μm)を密接状態に重ね、前記シート上をエラストマー成形体で数回擦過したところ、前記と同様に筆跡を変色させることができた。
【0026】
参考例6
可逆熱変色性インキの調製及び筆記具の作製
色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料Aを加熱発色型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料F〔高温側変色点(T_(1):41℃、T_(2):55℃)、低温側変色点(T_(3):36℃、T_(4):32℃)、無色←→ 青色の色変化、平均粒子径:2.5μm、可逆熱変色性組成物/壁膜=2.73/1.0)に置き換えた以外は参考例1と同様にして、剪断減粘系可逆熱変色性インキを調製した。
前記可逆熱変色性インキを用いて、参考例1と同様にして可逆熱変色性水性ボールペンを得た。
前記ボールペンによる筆跡は無色であり、レポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が発色することがなく筆記することができた。
筆跡の変色挙動
前記ボールペンによる筆跡は室温(25℃)で無色の変色状態から、加温すると41℃以上の温度で発色して青色となり、36℃以下の温度に冷却することにより、再び完全消色して無色となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記ボールペンにより通常の浸透性を有する紙に筆記した筆跡を消しゴムで数回擦過したところ、擦過部分が直ちに発色して青色になり、この変色状態で室温に暫くの間放置すると、前記青色の発色部分が再び消色し擦過前の状態に戻った。
【0027】
実施例1
色彩記憶保持型可逆熱変色性マイクロカプセル顔料G、H、I、J、Kの5種(表1)を用いて、剪断減粘系可逆熱変色性インキ1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6、1-7、1-8の8種(表2)を調製した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
前記各インキを1℃以下に放置して、マイクロカプセル顔料を完全発色させた後、インキの温度を室温(25℃)に戻し、0.7mm径のボールを備えたボールペンに充填して摩擦熱変色性ボールペン1を構成した。
前記ボールペンの形態としては、摩擦体2としてポリスチレン系エラストマー成形体を頂部に装着したキャップ(図12参照)を適用したもの、軸胴11dの後部に摩擦体2としてポリアミド-ポリエーテル共重合体系エラストマー成形体を装着したもの(図13参照)を用意した。
前記したボールペンによりレポート用紙に筆記したところ、長時間の筆記または速記によっても筆跡が変色或いは消色することがなく、安定した黒色の筆跡が得られた。また、前記筆跡は吐息や指触等の体温で変化することなく、黒色状態を保つことができた。
前記ボールペンによる筆跡は室温で黒色の変色状態(第1の状態)から、46℃以上の温度に加温すると完全に変色或いは消色して温時の変色状態(第2の状態)となり、この状態から1℃以下に冷却すると再び元の黒色の変色状態(第1の状態)となる変色挙動を示し、前記変色挙動は繰り返し再現することができた。
前記ボールペンのキャップの頂部の摩擦体2で、前記各筆跡の一部分を数回擦過したところ、擦過部分が温時の変色状態(第2の状態)となり、室温に放置してもこの変色状態を保持することができた。また、この変色状態から前記各筆跡を冷凍庫(約-15℃)の中に放置したところ、擦過部分が再び黒色に変色し、擦過前の変色状態に戻った。
【0031】
実施例2
実施例1で用意した、軸胴11dの後部に摩擦体2としてポリアミド-ポリエーテル共重合体系エラストマー成形体を装着したボールペンを適用し、前記実施例1のインキによる各筆跡の一部分を前記摩擦体2で数回擦過したところ、容易に擦過部分を温時の変色状態(第2の状態)に変色或いは消色させることができた(図13参照)。
【0032】
【0033】
【発明の効果】
本発明の摩擦熱変色性筆記具は、任意の熱変色性筆跡を自在に形成でき、而も前記熱変色性筆跡の任意個所を簡易な摩擦手段による摩擦熱により、有色と無色の互変的色変化を視覚させることができ、軽便且つ安全性に富み、幼児等にあっても安心して実用に供することができ、学習、教習、玩具要素等に利用できる。
前記において、摩擦手段として、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれる摩擦体が筆記具筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなり、軽便性を満足させる。
更には、ヒステリシス幅が8℃以上の可逆熱変色性組成物を内包させた系では、変色に要した摩擦熱が低下して常態に復したとしても、その様相を保持しており、一方、冷却により変色前の様相に互変的に記憶保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
熱変色性筆跡上に透明性フイルムを介在させ、摩擦体により熱変色させる状態の説明図である。
【図2】
ボールペン形態の熱変色性筆記具の一例を示す縦断面説明図である。
【図3】
繊維ペン体を備えたマーカー形態の熱変色性筆記具の一例を示す縦断面説明図である。
【図4】
繊維ペン体の一形態の説明図である。
【図5】
繊維ペン体の他の形態の説明図である。
【図6】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の一形態の模式説明図である。
(A)は外観を、(B)は断面を示す。
【図7】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の他の形態の模式説明図である。
(A)は外観を、(B)は断面を示す。
【図8】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の他の形態の模式説明図である。
(A)は外観を、(B)は断面を示す。
【図9】
加熱消色型熱変色性インキの変色挙動を示す説明図である。
【図10】
色彩記憶保持型熱変色性インキの変色挙動を示す説明図である。
【図11】
加熱発色型熱変色性インキの変色挙動を示す説明図である。
【図12】
キャップ頂部に摩擦体を装着した状態の説明図である。
【図13】
摩擦体を装着した筆記具の一実施形態の説明図である。
【符号の説明】
1 摩擦熱変色性筆記具
11 ボールペン
11a ボール
11b 剪断減粘系インキ
11c 液栓
11d 軸胴
12 マーカー
12a 繊維ペン体
12b 凝集系インキ
12c 繊維束インキ吸蔵体
12d 軸胴
2 摩擦体
3 紙
4 熱変色性筆跡
5 透明プラスチックシート
6 可逆熱変色性マイクロカプセル顔料
6a 壁膜
6b 窪み
6c 可逆熱変色性組成物
t_(1) 加熱消色型熱変色性インキ及び色彩記憶保持型熱変色性インキの低温側変色点(完全発色温度)
t_(2) 加熱消色型熱変色性インキ及び色彩記憶保持型熱変色性インキの低温側変色点(発色開始温度)
t_(3) 加熱消色型熱変色性インキ及び色彩記憶保持型熱変色性インキの高温側変色点(消色開始温度)
t_(4) 加熱消色型熱変色性インキ及び色彩記憶保持型熱変色性インキの高温側変色点(完全消色温度)
T_(1) 加熱発色型熱変色性インキの高温側変色点(発色開始温度)
T_(2) 加熱発色型熱変色性インキの高温側変色点(完全発色温度)
T_(3) 加熱発色型熱変色性インキの低温側変色点(消色開始温度)
T_(4) 加熱発色型熱変色性インキの低温側変色点(完全消色温度)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-05-25 
結審通知日 2017-05-29 
審決日 2017-06-19 
出願番号 特願2002-17005(P2002-17005)
審決分類 P 1 123・ 537- YAA (C09D)
P 1 123・ 121- YAA (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 天野 宏樹
日比野 隆治
登録日 2009-05-22 
登録番号 特許第4312987号(P4312987)
発明の名称 摩擦熱変色性筆記具及びそれを用いた摩擦熱変色セット  
代理人 柏 延之  
代理人 柏 延之  
代理人 島田 哲郎  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 山口 健司  
代理人 前川 英明  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 前川 英明  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 青木 篤  
代理人 柏 延之  
代理人 中村 行孝  
代理人 三橋 真二  
代理人 中村 行孝  
代理人 萩尾 保繁  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 前川 英明  
代理人 中村 行孝  

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