• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する H01L
審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する H01L
管理番号 1332453
審判番号 訂正2017-390048  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-06-07 
確定日 2017-09-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3885598号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3885598号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり,訂正後の請求項[14,15,及び18]について訂正することを認める。 
理由 第1 請求の要旨
本件審判の請求の要旨は,特許第3885598号発明(平成14年2月7日特許出願,平成18年12月1日設定登録)の特許請求の範囲を,審判請求書に添付された訂正明細書のとおり,すなわち下記1及び2のとおり訂正することを求めるものである。なお,訂正箇所に下線を付した。

1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項14は,請求項1から13のいずれか1つの記載を引用する記載であるところ,請求項2を引用しないものと改め,請求項14に「前記コレクタ電極の,半導体と接する部分はアルミニウムでできていることを特徴とする請求項1?13のいずれか」とあるのを「前記コレクタ電極の,半導体と接する部分はアルミニウムでできていることを特徴とする請求項1又は3?13のいずれか」に訂正する。

2 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項14は,請求項1から13のいずれか1つの記載を引用する記載であるところ,請求項2に従属するものについて独立形式に改め,さらに「前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面の中心線平均粗さRaが1μm以下となり」という構成を追加し,新たな請求項18として,
「厚さ方向に一様な抵抗を具えたn型半導体基板をベース層とし,前記半導体基板の一方の主面側にp型のチャネル拡散領域,n型のエミッタ拡散領域,エミッタ電極,ゲート絶縁膜およびゲート電極を形成し,かつ前記半導体基板の他方の主面側にp型のコレクタ層およびコレクタ電極を形成してなる半導体装置を製造するにあたって,
前記半導体基板の一方の主面側に前記チャネル拡散領域,前記エミッタ拡散領域,前記エミッタ電極,前記ゲート絶縁膜および前記ゲート電極を形成する工程と,
前記半導体基板の他方の主面側にリンイオンを浅く注入した後,それよりもさらに浅くボロンイオンを注入し,熱処理をおこなうことによって,前記ベース層よりも不純物濃度が高いn型の不純物拡散層を,当該不純物拡散層の不純物濃度が前記ベース層の不純物濃度の2倍となる位置をXfsとし,当該不純物拡散層と前記コレクタ層との接合位置をXjとしたときに,Xfs-Xjが0.5μm以上3μm以下の範囲となるように形成するとともに,前記不純物拡散層よりも浅いp型のコレクタ層を形成する工程と,
前記コレクタ層の表面にコレクタ電極を形成する工程と,
を含み,
前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面の中心線平均粗さRaが1μm以下となり,当該主面のろ波中心線うねりWcaが10μm以下となるように研磨をおこない,
前記コレクタ電極の,半導体と接する部分はアルミニウムでできていることを特徴とする半導体装置の製造方法。」
と訂正する。

第2 当審の判断
1 一群の請求項について
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項14及び15について,請求項15は請求項14を引用しているものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項14及び15は連動して訂正されるものである。
また,訂正前の請求項14,15及び18は,引用関係にある訂正前の請求項14及び15に対応するものであり,一群の請求項として特許法126条第3項の規定する関係を有する一群の請求項と認められる。

2 訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正事項1は,訂正前の請求項14において記載されていた請求項2を引用する記載を,請求項2を引用しないものとすることから,特許法第126条第1号但書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものと認められる。

(2)新規事項の有無
訂正事項1は,訂正前の請求項14において記載されていた請求項2を引用する記載から請求項2を引用しないものとしただけであるから,新たに追加された記載は無い。
したがって,訂正事項1は,本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内でなされたものと認められる。
よって,訂正事項1は,特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項1は,訂正前の請求項14において記載されていた請求項2を引用する記載から,請求項2を引用しないものとしたから,訂正後の請求項14は,訂正前の請求項14の特許請求の範囲から請求項2の記載する範囲の分が減縮したものと認められる。
したがって,訂正事項1は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでない。
よって,訂正事項1は,特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件
訂正事項1は,前記(3)で検討したように,請求の範囲を減縮したものであるから,訂正前の請求項14及び15が独立特許要件を満たす以上,訂正後の請求項14及び15に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は発見しない。
よって,訂正事項1は,特許法第126条第7項の規定に適合する。

3 訂正事項2について
(1)訂正の目的
訂正事項2は,訂正前の請求項14が請求項1から13のいずれか1つの記載を引用する記載であるところ,請求項2に従属するものについて独立形式に改め,さらに「前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面の中心線平均粗さRaが1μm以下となり」という構成を追加し,新たな請求項18としたものである。
したがって,訂正事項2は、前記の独立形式に改める点については,特許法126条第1項但書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正と認められ,「前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面の中心線平均粗さRaが1μm以下となり」という構成を追加する点は,特許法126条第1項但書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認められる。

(2)新規事項の有無
訂正事項2のうち,訂正前の請求項2を引用する請求項14に対して新たに追加した「前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面の中心線平均粗さRaが1μm以下となり」という記載は、明細書の段落【0027】,【0054】,【0059】等に記載されている事項である。
したがって、訂正事項2は、本件出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内でなされたものと認められる。
よって,訂正事項2は,特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項2は,訂正前の請求項14において記載されていた請求項2に従属するものを独立形式に改めたものに,「前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面の中心線平均粗さRaが1μm以下となり」という構成を付け加えたものであるから,訂正前の請求項2を引用する請求項14の特許請求の範囲を減縮しているものと認められる。
したがって,訂正事項2は,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでない。
よって,訂正事項2は,特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件
訂正事項2は,前記(3)で検討したように,請求の範囲を減縮したものであるから,訂正前の請求項2に従属する請求項14が独立特許要件を満たす以上,訂正後の請求項18に係る発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は発見しない。
よって,訂正事項2は,特許法第126条第7項の規定に適合する。

第3 むすび
したがって,本件審判の請求に係る訂正は,特許法第126条第1項但書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とし,かつ,同条第3ないし7項の規定に適合する。

よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体装置の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 厚さ方向に一様な抵抗を具えたn型半導体基板をベース層とし、前記半導体基板の一方の主面側にp型のチャネル拡散領域、n型のエミッタ拡散領域、エミッタ電極、ゲート絶縁膜およびゲート電極を形成し、かつ前記半導体基板の他方の主面側にp型のコレクタ層およびコレクタ電極を形成してなる半導体装置を製造するにあたって、
前記半導体基板の一方の主面側に前記チャネル拡散領域、前記エミッタ拡散領域、前記エミッタ電極、前記ゲート絶縁膜および前記ゲート電極を形成する工程と、
前記半導体基板の他方の主面側にリンイオンを浅く注入した後、それよりもさらに浅くボロンイオンを注入し、熱処理をおこなうことによって、前記ベース層よりも不純物濃度が高いn型の不純物拡散層を、当該不純物拡散層の不純物濃度が前記ベース層の不純物濃度の2倍となる位置をXfsとし、当該不純物拡散層と前記コレクタ層との接合位置をXjとしたときに、Xfs-Xjが0.5μm以上3μm以下の範囲となるように形成するとともに、前記不純物拡散層よりも浅いp型のコレクタ層を形成する工程と、
前記コレクタ層の表面にコレクタ電極を形成する工程と、
を含み、
前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面の中心線平均粗さRaが1μm以下となるように研磨をおこなうことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】 厚さ方向に一様な抵抗を具えたn型半導体基板をベース層とし、前記半導体基板の一方の主面側にp型のチャネル拡散領域、n型のエミッタ拡散領域、エミッタ電極、ゲート絶縁膜およびゲート電極を形成し、かつ前記半導体基板の他方の主面側にp型のコレクタ層およびコレクタ電極を形成してなる半導体装置を製造するにあたって、
前記半導体基板の一方の主面側に前記チャネル拡散領域、前記エミッタ拡散領域、前記エミッタ電極、前記ゲート絶縁膜および前記ゲート電極を形成する工程と、
前記半導体基板の他方の主面側にリンイオンを浅く注入した後、それよりもさらに浅くボロンイオンを注入し、熱処理をおこなうことによって、前記ベース層よりも不純物濃度が高いn型の不純物拡散層を、当該不純物拡散層の不純物濃度が前記ベース層の不純物濃度の2倍となる位置をXfsとし、当該不純物拡散層と前記コレクタ層との接合位置をXjとしたときに、Xfs-Xjが0.5μm以上3μm以下の範囲となるように形成するとともに、前記不純物拡散層よりも浅いp型のコレクタ層を形成する工程と、
前記コレクタ層の表面にコレクタ電極を形成する工程と、
を含み、
前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面のろ波中心線うねりWcaが10μm以下となるように研磨をおこなうことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】 前記コレクタ電極を形成する前に、前記コレクタ層よりもさらに浅くなるようにボロンイオンまたはBF_(2)^(+)を注入することによって前記コレクタ電極に対して低抵抗で接触するコンタクト層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】 前記半導体基板を室温よりも低温に保ちながらボロンイオンの注入をおこなうことを特徴とする請求項1?3のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】 前記熱処理は、300℃以上550℃以下の温度でおこなう拡散炉熱処理であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】 前記熱処理は、300℃以上600℃以下の温度でおこなうRTA処理であることを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】 前記熱処理は、150nm以上1060nm以下の波長のレーザー光線を0.5J/cm^(2)以上3J/cm^(2)以下の照射エネルギー密度で照射するレーザーアニールであることを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】 前記熱処理は、300℃以上550℃以下の温度でおこなう拡散炉熱処理、300℃以上600℃以下の温度でおこなうRTA処理、および150nm以上1060nm以下の波長のレーザー光線を0.5J/cm^(2)以上3J/cm^(2)以下の照射エネルギー密度で照射するレーザーアニールのうちの、いずれか二つまたは三つの組み合わせであることを特徴とする請求項1?4のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】 前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面にのみ選択的に薬液洗浄処理をおこなうことを特徴とする請求項1?8のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】 前記薬液洗浄処理に用いる薬液はアンモニア過酸化水素水であることを特徴とする請求項9に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】 前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面のみを選択的に、メガソニックを併用し、水素水とオゾン水とからなる機能水を用いて洗浄することを特徴とする請求項1?8のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】 前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に、当該主面にのみ選択的に薬液洗浄をおこなう処理と、当該主面のみを選択的に、メガソニックを併用し、水素水とオゾン水とからなる機能水を用いて洗浄する処理とを組み合わせておこなうことを特徴とする請求項1?8のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】 アンモニア過酸化水素水を用いて薬液洗浄をおこなうことを特徴とする請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】 前記コレクタ電極の、半導体と接する部分はアルミニウムでできていることを特徴とする請求項1又は3?13のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】 前記コレクタ電極の、半導体と接する部分の前記アルミニウムの厚さは0.3μm以上であることを特徴とする請求項14に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】 前記コレクタ電極の、半導体と接する部分は白金でできていることを特徴とする請求項1?13のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】 前記コレクタ電極の、半導体と接する部分の前記白金の厚さは0.3μm以上であることを特徴とする請求項16に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】 厚さ方向に一様な抵抗を具えたn型半導体基板をベース層とし、前記半導体基板の一方の主面側にp型のチャネル拡散領域、n型のエミッタ拡散領域、エミッタ電極、ゲート絶縁膜およびゲート電極を形成し、かつ前記半導体基板の他方の主面側にp型のコレクタ層およびコレクタ電極を形成してなる半導体装置を製造するにあたって、
前記半導体基板の一方の主面側に前記チャネル拡散領域、前記エミッタ拡散領域、前記エミッタ電極、前記ゲート絶縁膜および前記ゲート電極を形成する工程と、
前記半導体基板の他方の主面側にリンイオンを浅く注入した後、それよりもさらに浅くボロンイオンを注入し、熱処理をおこなうことによって、前記ベース層よりも不純物濃度が高いn型の不純物拡散層を、当該不純物拡散層の不純物濃度が前記ベース層の不純物濃度の2倍となる位置をXfsとし、当該不純物拡散層と前記コレクタ層との接合位置をXjとしたときに、Xfs-Xiが0.5μm以上3μm以下の範囲となるように形成するとともに、前記不純物拡散層よりも浅いp型のコレクタ層を形成する工程と、
前記コレクタ層の表面にコレクタ電極を形成する工程と、
を含み、
前記半導体基板の他方の主面側に不純物イオンを注入する前に当該主面の中心線平均粗さRaが1μm以下となり、当該主面のろ波中心線うねりWcaが10μm以下となるように研磨をおこない、
前記コレクタ電極の、半導体と接する部分はアルミニウムでできていることを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体装置の製造方法に関し、特に絶縁ゲート型バイポーラトランジスタを構成する半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(以下、IGBTとする)として、図30および図31に示すプレーナーゲート構造のものや、図32および図33に示すトレンチゲート構造のものが知られている。図30および図32に示すノンパンチスルー型のIGBTは、たとえばFZウエハよりなるn型半導体基板1をベース層2とし、その表面側にp型のチャネル拡散領域3、n型のエミッタ拡散領域4、エミッタ電極5、ゲート絶縁膜6、ゲート電極7および絶縁膜8が形成され、裏面側にp型のコレクタ層9およびコレクタ電極10が形成された構成となっている。
【0003】
一方、図31および図33に示すパンチスルー型のIGBTでは、たとえばp型のウエハ11上にn型の半導体層12およびそれよりも不純物濃度が低いn型の半導体層13を順次エピタキシャル成長させたウエハ(エピタキシャルウエハ)が用いられる。p型のウエハ11の部分はコレクタ層9となり、その上のn型の半導体層12はバッファ層14となり、さらにその上のn型の半導体層13はベース層2となる。このエピタキシャルウエハのベース層2側の表面にp型のチャネル拡散領域3、n型のエミッタ拡散領域4、エミッタ電極5、ゲート絶縁膜6、ゲート電極7および絶縁膜8が形成され、コレクタ層9側の表面(エピタキシャルウエハの裏面)にコレクタ電極10が形成される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したノンパンチスルー型のIGBTでは、オフ時のベース層2での空乏層の伸びがベース層2の厚さを越えないようにするため、ベース層2を厚くする必要があり、そのため損失が大きくなるという欠点がある。一方、上述したパンチスルー型のIGBTでは、たとえば耐圧クラスが1200Vの場合、そのベース層2の厚さは120μm程度であり、ノンパンチスルー型のIGBTのベース層2の厚さが180μm程度であるのに比べて薄いため、低損失であるが、エピタキシャルウエハがFZウエハよりも高価(2倍以上)であるだけでなく、チップの歩留りも低くなるためチップの価格が高くなるという欠点がある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、低損失のIGBTを構成する半導体装置を、安価なウエハを用いて歩留りよく製造することが可能な半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明にかかる半導体装置の製造方法は、たとえばFZウエハのように、インゴットから切り出され、その表面を研磨、洗浄された状態のウエハを用い、そのウエハのバルク部分をベース層として、その一方の主面側にp型のチャネル拡散領域、n型のエミッタ拡散領域、エミッタ電極、ゲート絶縁膜およびゲート電極を形成した後、他方の主面側にリンイオンを浅く注入した後、それよりもさらに浅くボロンイオンを注入し、熱処理をおこなうことによって、オフ時の電界を止めるためのn型の不純物拡散層(以下、フィールドストップ層とする)を形成するとともに、コレクタ層を形成し、さらにその表面にコレクタ電極を形成するものである。
【0007】
その際、フィールドストップ層の不純物濃度がベース層の不純物濃度の2倍となる位置をXfsとし、フィールドストップ層とコレクタ層との接合位置をXjとしたときに、フィールドストップ層の厚さ、すなわちXfs-Xjが0.5μm以上3μm以下の範囲となるようにする。
【0008】
ここで、フィールドストップ層の厚さ(Xfs-Xj)を上記範囲とする理由は、フィールドストップ層をイオン注入法により形成する際の、現在のイオン注入エネルギーの限界により打ち込むことができる最大深さが3μmであるからである。一方、上記下限値よりも薄い拡散層をイオン注入により制御性よく形成するのは困難であるからである。
【0009】
さらに、不純物イオンの注入面の中心線平均粗さRaは1μm以下であるのがよい。その理由は、中心線平均粗さRaが1μm以下であればリーク電流Irは1mA以下と許容範囲内におさまるが、それを超えるとリーク電流Irがミリアンペアオーダーになり、熱暴走等が発生し易くなるからである。なお、中心線平均粗さRaの詳細についてはJISB0601に規定されている。
【0010】
あるいは、不純物イオンの注入面のろ波中心線うねりWcaは10μm以下であるのがよい。その理由は、ろ波中心線うねりWcaが10μm以下であれば耐圧の降下率は小さいが、10μmを超えると急激に耐圧が降下するからである。なお、ろ波中心線うねりWcaの詳細についてはJISB0610に規定されている。
【0011】
このIGBTにおいて、コレクタ電極を形成する前に、ボロンイオンまたはBF2+の注入をおこなってコンタクト層を形成してもよい。このようにすれば、コレクタ電極がコンタクト層を介してコレクタ層に低抵抗で電気的に接続する。
【0012】
また、ボロンイオンを注入する際の半導体基板の温度は室温よりも低温、たとえば80°Kであるのがよい。その理由は、ボロンのイオン注入をそのような低温でおこなうと、室温以上の温度でイオン注入をおこなうのに比べて熱処理時の活性化率が高く、たとえば熱処理温度が400℃?550℃でも活性化率が約15%?60%になるからである。これは、コレクタ層へのイオンの注入量を増やさずに、かつ熱処理温度を上げずに、コレクタ層のボロンの濃度を上げるのに有効である。
【0013】
また、イオン注入後の熱処理温度は、拡散炉でおこなう場合には300℃以上550℃以下であり、RTA処理の場合には300℃以上600℃以下の温度であるのが適当である。その理由は、上限については、エミッタ電極の溶融やコンタクト抵抗の増大を防ぐためと、ボロンの濃度がリンの濃度よりも高くなるようにするためにリンの活性化率を最大でも15%程度に抑えるためであり、下限については注入したリンを活性化させるためである。
【0014】
また、イオン注入後の熱処理をレーザーアニール法でおこなう場合、使用するレーザー光線の波長は150nm以上1060nm以下であり、照射エネルギー密度は0.5J/cm2以上3J/cm2以下であるのが適当である。照射エネルギー密度が3J/cm2以下である理由は、レーザー光線の照射によって生じるコレクタ層の表面粗さを1μm以下に抑え、それによってリーク電流を低く抑えるためである。下限値については、それよりも照射エネルギー密度が低いと、注入したイオンがほとんど活性化しないからである。
【0015】
また、イオン注入後の熱処理において、上述した拡散炉熱処理、RTA処理またはレーザーアニールを二つ以上組み合わせておこなうようにしてもよい。その理由は、各熱処理を単独でおこなうよりも、組み合わせておこなったほうがボロンの活性化率が高いからである。
【0016】
また、不純物イオンの注入面に対して、アンモニア過酸化水素水等の薬液を用いて選択的に洗浄処理をおこなうとよい。その理由は、良品率の低下原因となるパーティクルを極めて効率よく除去することができるからである。また、薬液で洗浄する代わりに、メガソニックを併用し、水素水とオゾン水とからなる機能水を用いて洗浄してもよい。その理由は、パーティクルを効率よく除去することができるからである。さらには、上述した薬液洗浄処理と、上述したメガソニック併用の水素水とオゾン水とからなる機能水を用いた洗浄処理とを組み合わせておこなうようにしてもよい。
【0017】
また、複数種の金属を積層させてコレクタ電極を形成する際に、最初にアルミニウムまたは白金を積層してもよい。その理由は、アルミニウムと白金は、チタンに比べてp型の半導体(コレクタ層やコンタクト層)に対するバリアハイトが低く、オン電圧が低いからである。その際、アルミニウムまたは白金の厚さは0.3μm以上であるのが適当である。その理由は、0.3μmよりも薄いとオン電圧が高くなるからである。
【0018】
この発明によれば、フィールドストップ層となる不純物拡散層とコレクタ層をイオン注入法により形成するため、ノンパンチスルー型のIGBTのようにFZウエハ等の安価なウエハを用いてIGBTを歩留りよく製造することができる。また、フィールドストップ層を設けることにより、ベース層の厚さがパンチスルー型のIGBTと同程度のIGBTを製造することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は、本発明にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の一例を示す縦断面図である。この半導体装置はプレーナーゲート構造のIGBTであり、たとえばSiのFZウエハよりなるn型半導体基板1をベース層2とする。そのベース層2の表面側にp型のチャネル拡散領域3が形成されている。チャネル拡散領域3内にはn型のエミッタ拡散領域4が形成されている。
【0020】
エミッタ拡散領域4の一部の上にはゲート絶縁膜6を介してゲート電極7が形成されている。エミッタ電極5はチャネル拡散領域3およびエミッタ拡散領域4に電気的に接続するとともに、絶縁膜8によりゲート電極7から絶縁されている。ベース層2の裏面側にはn型の不純物拡散層よりなるフィールドストップ層24が浅く形成されている。また、ベース層2の裏面側には、フィールドストップ層24よりも浅いp型のコレクタ層9が形成されている。コレクタ電極10はコレクタ層の表面に形成されている。
【0021】
図2に、図1に示す構成のIGBTのコレクタ層9付近の不純物プロファイルを示す。図2において、Cbはベース層2の不純物濃度を表す。Xjはコレクタ層9とフィールドストップ層24との接合位置までの深さを表す。Xfsは、フィールドストップ層24の不純物濃度がベース層2の不純物濃度の2倍となる位置までの深さを表す。これらの深さは、いずれもコレクタ層9とコレクタ電極10との界面からの深さである。図1では省略したが、コレクタ層9の、コレクタ電極10との界面近傍部分に、コレクタ層9よりも不純物濃度が高くて、コレクタ電極10に対して低抵抗で接触するコンタクト層を設けてもよい。
【0022】
図1に示す構成のIGBTにおいて、Xfs-Xjをフィールドストップ層24の厚さとすると、この厚さは0.5μm以上3μm以下の値となる。その理由はフィールドストップ層24をイオン注入法により形成する際、現在のイオン注入エネルギーの限界によりイオンを打ち込むことができる最大深さが3μmであるため、上記上限値を超えてイオンを深く打ち込むことができないからである。
【0023】
一方、上記下限値よりも薄い拡散層をイオン注入により制御性よく形成するのは困難であるため非現実的であるからである。なお、イオン注入装置等の改良により、より深くイオンを打ち込むことができる場合や、より浅くても制御性よく拡散層を形成することができる場合には、フィールドストップ層24の厚さはそれに応じた厚さとなるのはいうまでもない。
【0024】
半導体基板1、すなわちFZウエハの比抵抗は、厚さ方向に一様であり、特に限定しないが、たとえば60Ωcmである。ここで比抵抗が厚さ方向に一様であるということは、厚さ方向の比抵抗のばらつきが±20%以内であることを意味する。なお、ウエハの厚さ方向の比抵抗のばらつきが±20%以内にあれば、FZウエハに限らない。ウエハの比抵抗が60Ωcmである場合、ベース層2の比抵抗はたとえば60Ωcmである。1200V耐圧素子の場合、ベース層2の厚さはおおよそ120μmである。これは、フィールドストップ層24が、従来のパンチスルー型のIGBTのバッファ層と同様にオフ時のベース層2に生じる空乏層を止めるため、従来のパンチスルー型のIGBTのベース層と同程度の厚さを有していればよいからである。
【0025】
つぎに、図1に示す構成のIGBTの製造プロセスについて図3?図8を参照しながら説明する。まず、たとえば比抵抗が60ΩcmのFZウエハよりなる半導体基板1の一方の主面にゲート絶縁膜6を形成し、さらにその上にゲート電極7となるポリシリコンを積層させる。そして、フォトリソグラフィ技術およびエッチングにより、ゲート絶縁膜6およびゲート電極7の、チャネル拡散領域3に対応する領域に窓を開け、ボロンイオンをイオン注入する。ここまでの状態が図3に示されている。
【0026】
つづいて、フォトレジストをパターニングしてチャネル拡散領域3に対応する窓の中央部にレジスト31を残し、そのレジスト31をマスクとしてイオン注入法によりチャネル拡散領域3にヒ素イオンを打ち込む。ここまでの状態が図4に示されている。レジスト31を除去した後、熱処理によりイオン注入による損傷の回復とともに注入イオンの活性化をおこない、チャネル拡散領域3およびエミッタ拡散領域4を形成する。しかる後、絶縁膜8を積層し、それをエッチングしてチャネル拡散領域3およびエミッタ拡散領域4の一部を露出させ、その上にアルミニウム等でエミッタ電極5を積層する。ここまでの状態が図5に示されている。
【0027】
ついで、ウエハを半導体基板1のもう一方の主面側から研削および研磨してウエハの厚さを120μmにする。その際、その研磨した面の中心線平均粗さRaが1μm以下となるようにする。また、その研磨した面のろ波中心線うねりWcaが10μm以下となるようにする。つづいて、枚葉スピン洗浄機に研磨面(被洗浄面)が上になるようにしてウエハを取り付け、洗浄液としてたとえばアンモニア過酸化水素水を用いてウエハの研磨面のみ選択的に洗浄をおこない、ウエハ表面に付着したパーティクルを除去する。
【0028】
ここで、研磨面のみ選択的に洗浄をおこなう理由は、反対側の面にすでにエミッタ電極5等が形成されているからである。しかる後、その洗浄した側の面に、フィールドストップ層24を形成するため、イオン注入法によりリンイオンを打ち込む。このときの加速エネルギーは100keV以上である。ここまでの状態が図6に示されている。
【0029】
つづいて、コレクタ層9を形成するため、イオン注入法によりボロンイオンを打ち込む。このときの加速エネルギーおよびイオン注入角度は、先に注入されたリンイオンよりも短い飛程になるように調節される。また、ドーズ量は、コレクタ層9の不純物濃度のほうがフィールドストップ層24の不純物濃度よりも高くなるようにする(図2参照)。また、ボロンイオンを注入する際のウエハ温度は室温よりも低温であるのがよい。そして、コレクタ層9の表面近傍部分の不純物濃度がさらに高いコンタクト層(図示せず)を形成するため、イオン注入法によりボロンイオン(BF_(2)^(+)でもよい)を打ち込む。このときの加速エネルギーおよびイオン注入角度は、先に注入されたボロンイオンよりも短い飛程になるように調節される。ここまでの状態が図7に示されている。
【0030】
その後、図8に示すように、イオン注入による損傷を回復させるとともに注入イオンを活性化させるため、たとえばウエハを拡散炉内に入れ、エミッタ電極5の溶融やコンタクト抵抗の増大を招かない温度、たとえばエミッタ電極5がアルミニウムでできている場合には300℃以上550℃以下の温度で熱処理をおこない、フィールドストップ層24、コレクタ層9および図示しないコンタクト層を形成する。そして、スパッタリング法などにより、コンタクト層の表面にコレクタ電極10を被着させる。複数種の金属を積層させてコレクタ電極10を形成する場合には、最初にアルミニウムまたは白金を0.3μm以上、たとえば1μm以下の厚さで積層させるとよい。このようにして、図1に示す構成のIGBTができあがる。
【0031】
つぎに、コレクタ層9等を形成する面の中心線平均粗さRaを1μm以下とする理由について説明する。図9は、図1に示す構成のIGBTにおいてコレクタ層9の中心線平均粗さとリーク電流との関係を調べた実験結果を示す特性図である。同図より、中心線平均粗さRaが1μm以下であればリーク電流Irは1mA以下と許容範囲であることがわかる。それに対して、リーク電流Irが指数関数的に増えるため、中心線平均粗さRaが1μmを超えるとリーク電流Irはミリアンペアオーダーになり、熱暴走等が発生し易くなってしまい、好ましくない。
【0032】
また、コレクタ層9等を形成する面のろ波中心線うねりWcaが10μm以下である理由について説明する。上述した製造プロセスにおいては、エミッタ電極5を形成した後、ベース層2を所定の厚さまで研磨すると、エミッタ電極5が形成された側の段差等のパターンに応じて研磨面にも段差等が生じる。図10は、図1に示す構成のIGBTにおいてベース層2のろ波中心線うねりと耐圧の降下率との関係を調べた実験結果を示す特性図である。同図は、ろ波中心線うねりが0の時の耐圧を100%として、ろ波中心線うねりが大きくなると100%の耐圧が何%となったかを耐圧の降下率と表現した。同図より、ベース層2の厚さのばらつき、すなわちろ波中心線うねりWcaが10μm以下では0の時に比べて耐圧の降下率は小さいが、10μmを超えると0の時に比べて急激に耐圧が降下するのがわかる。したがって、耐圧の低下を極力抑えるためには、ろ波中心線うねりWcaは10μm以下であるのがよい。
【0033】
また、イオン注入前にアンモニア過酸化水素水等を用いた薬液洗浄をおこなう理由について説明する。図11は、図1に示す構成のIGBTにおいてイオン注入面に付着した0.3μm径より大きいパーティクルの数とIGBTの良品率との関係を調べた結果を示す特性図である。同図から、パーティクルが少ないほど良品率が高くなり、歩留りが向上するのがわかる。
【0034】
図12は、図1に示す構成のIGBTにおいて各種洗浄処理とパーティクルの除去効果との関係を調べた結果を示す特性図である。同図より、洗浄液としてたとえばアンモニア過酸化水素水を用いたもの(図12中にSC1で示す)では、洗浄前のパーティクル数に対する洗浄後のパーティクル数の割合がおおよそゼロであり、ほとんどのパーティクルが除去されたことがわかる。したがって、IGBTの良品率を1に近づけるためには、洗浄液としてアンモニア過酸化水素水を用いるのが有効である。
【0035】
また、図12より、単なる水洗やDHF処理に比べて、メガソニックを併用し、水素水とオゾン水とからなる機能水を用いてウエハ面を洗浄する超音波洗浄法も有効であることがわかる。この超音波洗浄法においても、スピン洗浄機を用いて被洗浄面のみ選択的に洗浄をおこなう。上述したアンモニア過酸化水素水による洗浄と、上述した超音波洗浄とを2回以上組み合わせておこなうようにしてもよい。なお、アンモニア過酸化水素水によらず、パーティクル除去効果が高い洗浄液を用いることもできる。
【0036】
フィールドストップ層24、コレクタ層9および図示しないコンタクト層を形成するためのイオン注入をおこなう際には、所望の飛程となるように加速エネルギーとイオン注入角度を調節する。図13は、リンイオン、ボロンイオンまたはBF_(2)^(+)を注入する際の加速エネルギーと飛程距離Rpとの関係を示す特性図である。同図より、ボロンは質量数が11と軽いため、加速エネルギーが低くても飛程距離Rpは大きい。それに対して、リンは質量数が31であるため、同一の加速エネルギーでもボロンの場合の2分の1?3分の1程度の飛程距離になる。さらに、BF_(2)^(+)は質量数が49であるため、同一の加速エネルギーでもボロンの場合の4分の1程度の飛程距離である。
【0037】
また、図14は、加速エネルギー100keVでボロンイオンを注入する際のイオン注入角と飛程距離Rpとの関係を示す特性図である。同図より、イオン注入角度を変えることによって、Siの結晶方位との関係から飛程距離Rpを制御することが可能であることがわかる。したがって、上述した製造プロセスを実施するにあたっては、これらの加速エネルギーやイオン注入角度と飛程距離との関係に基づいて、適切な注入条件を導出すればよい。
【0038】
つぎに、ボロンイオンを室温よりも低温で注入する理由について説明する。図15は、種々のウエハ温度でボロンイオンを注入し(加速エネルギー:50keV、ドーズ量:1×10^(15)cm^(-2))、60分間のアニールをおこなった場合の熱処理温度と活性化率との関係を示す特性図である。同図から、熱処理温度が高くなると活性化率が高くなることと、ボロンの場合、室温以上の温度でイオン注入をおこなった後アニールで活性化させたものよりも、室温よりも低いたとえば80Kでイオン注入をおこなった後アニールで活性化させたもののほうが活性化率が一桁以上も高いことがわかる。
【0039】
図1に示す構成のIGBTでは、素子の耐圧が高くなるに連れてフィールドストップ層24へのリンのトータルドーズ量が多くなる。上述したようにコレクタ層9の不純物濃度はフィールドストップ層24の不純物濃度よりも高くなければならないので、リンのトータルドーズ量を多くすると、それに伴ってコレクタ層9へのボロンのトータルドーズ量も多くする必要がある。しかし、注入可能なボロンイオンの量にも限界があり、またエミッタ電極5の溶融やコンタクト抵抗の増大を防ぐために熱処理温度にも550℃程度の上限がある。これらの点から、ボロンのイオン注入を低温、たとえば80Kでおこなうことは、熱処理温度が400℃?550℃でも活性化率が15%?60%であるため、コレクタ層9へのイオンの注入量を増やさずに、かつ熱処理温度を上げずに、コレクタ層9のボロンの濃度を上げるのに有効である。
【0040】
つぎに、フィールドストップ層24およびコレクタ層9を形成するためにリンイオンおよびボロンイオンを注入した後におこなう熱処理の温度が300℃以上550℃以下の温度である理由には、上述したエミッタ電極5の溶融やコンタクト抵抗の増大を防ぐためという以外に、つぎのような理由もある。すなわち、上記上限値については、ボロンの濃度がリンの濃度よりも高くなるようにするためにリンの活性化率を最大でも15%程度に抑えるためである。図16は、リンおよびボロンについて拡散炉熱処理における熱処理温度と活性化率との関係を示す特性図である。同図より、熱処理温度が550℃以下であればリンの活性化率は15%以下であることがわかる。上記下限値については、それよりも低温ではリンが活性化しないからである。
【0041】
拡散炉を用いる代わりに、熱処理をランプアニール法(RTA処理)でおこなうこともできる。この場合の熱処理温度は300℃以上600℃以下の範囲である。その理由は、上述した拡散炉を用いた場合と同様であるが、RTA処理では600℃でもリンの活性化率は十数%程度であるため、熱処理温度の上限は600℃となる。図17に、リンおよびボロンについてRTA処理における熱処理温度と活性化率との関係を示す。
【0042】
また、拡散炉を用いる代わりに、熱処理をレーザーアニール法でおこなうこともできる。このときに用いるレーザー光線は、その波長が150nm以上1060nm以下のものである。例として、たとえば波長が248nmのKrFレーザー、波長が308nmのXeClレーザー、波長が351nmのXeFレーザー、波長が532nmのYAGレーザーの第2高調波、波長が1060nmのYAGレーザーなどがある。また、照射エネルギー密度は0.5J/cm^(2)以上3J/cm^(2)以下である。照射エネルギー密度が3J/cm^(2)以下である理由は、これよりも照射エネルギー密度が高くなると、レーザー光線を照射した面、すなわちコレクタ層9の中心線平均粗さが1μmを超えてしまうからである。中心線平均粗さが1μmを超えるとリーク電流Irがミリアンペアオーダーになり(図9参照)、図9に関連して説明したように好ましくないからである。
【0043】
図18に、レーザーアニールにおける照射エネルギー密度と中心線平均粗さとの関係を調べた結果を示す。照射エネルギー密度が0.5J/cm^(2)以上である理由は、これよりも照射エネルギー密度が低いと、注入したイオンがほとんど活性化しないからである。図19に、レーザーアニールにおける照射エネルギー密度と不純物(ボロン)の活性化率との関係を調べた結果を示す。
【0044】
また、上述した拡散炉熱処理、RTA処理またはレーザーアニール処理を単独でおこなうだけでなく、それらのうちのいずれか二つまたは三つを組み合わせて熱処理をおこなうようにしてもよい。図20は、レーザーアニール処理を単独でおこなった場合と、レーザーアニール処理と拡散炉熱処理とを組み合わせた場合とで、ボロンの活性化率を比較した結果を示す図である。同図より、KrFレーザー(波長:248nm)、XeClレーザー(波長:308nm)、XeFレーザー(波長:351nm)、YAGレーザー(波長:1060nm)のいずれにおいても、レーザーアニール処理を単独でおこなうよりも、レーザーアニール処理と拡散炉熱処理とを組み合わせたほうが活性化率が高いことがわかる。
【0045】
図1に示す構成のIGBTでは、その特性はコレクタ層9からのホールの注入量によって決まるため、コレクタ層9のボロン量を制御する必要がある。コレクタ層9の表面粗さができるだけ小さくなるような条件でボロンの活性化をおこなう場合、レーザーアニール処理と拡散炉熱処理との組み合わせによって活性化率が上がるので、コレクタ-エミッタ間飽和電圧V_(CE)(sat)の特性を容易に制御することができる。なお、図20は、照射エネルギー密度を1.3J/cm^(2)とし、拡散炉熱処理温度を400℃として得られた結果である。
【0046】
つぎに、コレクタ電極10として、半導体と接する部分をアルミニウムまたは白金で構成する理由について説明する。図21は、コレクタ電極材料(Al、Pt、Ti)のバリアハイトφ_(Bn)とオン電圧との関係を示す特性図である。同図から、アルミニウムと白金は、チタンに比べてn型の半導体に対するバリアハイトが高い、換言すればp型の半導体に対するバリアハイトが低く、オン電圧が低いことがわかる。
【0047】
図1に示す構成のIGBTではコレクタ層9や図示しないコンタクト層の不純物濃度が低いため、チタンとの接触ではバリアハイトが高すぎてしまうので、アルミニウムまたは白金を用いる必要がある。また、アルミニウムまたは白金の厚さが0.3μm以上である理由は、それよりも薄いとオン電圧が高くなるからである。図22に、コレクタ電極材料(Al)の膜厚とオン電圧との関係を調べた結果を示す。アルミニウムの膜厚が0.5μm以上ではオン電圧は1.7V?1.8Vの間に収束する。したがって、アルミニウムや白金の膜厚の上限を特に設ける必要はないが、たとえばコストや積層時間等の関係や、あまり厚すぎると反りが生じるおそれがあるなどの関係から、特に限定しないがたとえば数μm以下、たとえば1μm以下であるのが適当である。
【0048】
図23は、本発明にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の他の例を示す縦断面図である。この半導体装置はトレンチゲート構造のIGBTであり、たとえばSiのFZウエハよりなるn型半導体基板1をベース層2とする。そのベース層2の表面側にp型のチャネル拡散領域3が形成されている。チャネル拡散領域3内にはn型のエミッタ拡散領域4が形成されている。チャネル拡散領域3の中央部にはエミッタ拡散領域4を貫通する溝が形成されており、その溝の内面を覆うゲート絶縁膜6を介して溝内にゲート電極7が設けられている。
【0049】
エミッタ電極5はチャネル拡散領域3およびエミッタ拡散領域4に電気的に接続するとともに、絶縁膜8によりゲート電極7から絶縁されている。ベース層2の裏面側にはフィールドストップ層24が浅く形成されている。また、ベース層2の裏面側には、フィールドストップ層24よりも浅いp型のコレクタ層9が形成されている。コレクタ電極10はコレクタ層9の表面に形成されている。
【0050】
図23に示す構成のIGBTは、図1に示す構成のIGBTがプレーナーゲート構造であるのに対して、トレンチゲート構造である点が異なるだけである。したがって、図23に示す構成のIGBTにおいて、フィールドストップ層24の厚さXfs-Xjは0.5μm以上3μm以下である。
【0051】
つぎに、図23に示す構成のIGBTの製造プロセスについて図24?図29を参照しながら説明する。まず、たとえば比抵抗が60ΩcmのFZウエハよりなる半導体基板1の一方の主面に、チャネル拡散領域3を形成するためにボロンイオンをイオン注入し、その後フォトリソグラフィ技術およびエッチングにより溝を形成する。ここまでの状態が図24に示されている。
【0052】
つづいて、ゲート絶縁膜6を積層し、さらにその上にゲート電極7となるポリシリコンを積層させる。そして、エッチングにより溝内にのみゲート絶縁膜6およびゲート電極7を残す。つづいて、フォトレジストを被着させ、それをパターニングしてエミッタ拡散領域4に対応する領域に窓を開ける。そして、残ったレジスト32をマスクとしてイオン注入法によりチャネル拡散領域3にヒ素イオンを打ち込む。ここまでの状態が図25に示されている。
【0053】
レジスト32を除去した後、熱処理によりイオン注入による損傷の回復とともに注入イオンの活性化をおこない、チャネル拡散領域3およびエミッタ拡散領域4を形成する。しかる後、絶縁膜8を積層し、それをエッチングしてゲート電極7を覆うとともにチャネル拡散領域3およびエミッタ拡散領域4の一部を露出させ、その上にエミッタ電極5を積層する。ここまでの状態が図26に示されている。
【0054】
これ以降は、上述したプレーナーゲート構造のIGBTと同様である。すなわち、図27に示すように、ウエハを厚さ120μmまで研磨し、たとえばアンモニア過酸化水素水でウエハの研磨面のみ選択的に洗浄をおこなった後、フィールドストップ層24を形成するため、イオン注入法によりリンイオンを打ち込む。研磨の際、その研磨した面の中心線平均粗さRaが1μm以下であり、かつろ波中心線うねりWcaが10μm以下となるようにする。
【0055】
つづいて、図28に示すように、コレクタ層9および図示しないコンタクト層を形成するため、イオン注入法によりリンイオンよりも短い飛程となるように、ボロンイオンを打ち込む。その際、ウエハ温度を室温よりも低温にしてボロンイオンを注入する。その後、図29に示すように、300℃以上550℃以下の温度で拡散炉熱処理をおこない、フィールドストップ層24およびコレクタ層9を形成する。そして、スパッタリング法などにより、コレクタ層9の表面にコレクタ電極10を被着させるが、その際、最初にアルミニウムまたは白金を0.3μm以上、たとえば1μm以下の厚さで積層させる。このようにして、図23に示す構成のIGBTができあがる。
【0056】
図23に示す構成のIGBTの製造プロセスにおいて、コレクタ層9側の構造を形成するプロセスは、図1に示す構成のIGBTのコレクタ層9側の構造を形成するプロセスと同じである。したがって、図9?図22に関連して説明した内容は、図23に示す構成のIGBTの製造プロセスにおいてもそのままあてはまる。
【0057】
上述した実施の形態によれば、フィールドストップ層24とコレクタ層9をイオン注入法により形成するため、ノンパンチスルー型のIGBTのようにFZウエハ等の安価なウエハを用いてIGBTを歩留りよく製造することができる。また、フィールドストップ層24を設けることにより、ベース層2の厚さがパンチスルー型のIGBTと同程度のIGBTを製造することができる。したがって、ノンパンチスルー型と同程度に安価であり、かつパンチスルー型のIGBTと同程度に低損失なIGBTが得られる。
【0058】
以上において本発明は、種々変更可能である。たとえば、フィールドストップ層24、コレクタ層9およびコンタクト層を形成する際に、それぞれのイオン注入をおこなった後にその都度熱処理をおこなうようにしてもよい。また、フィールドストップ層24、コレクタ層9およびコンタクト層を形成するためのイオン注入後におこなう熱処理として、EBアニール法やマイクロ波アニール法などを用いてもよいし、これらの熱処理と上述した拡散炉熱処理法やRTA処理法やレーザーアニール処理とを組み合わせてもよい。また、本発明にかかる製造方法は、耐圧クラスが600V、900V、1200V、1400V、1800V、2000V、2500VなどのIGBTの製造に適用できる。
【0059】
【発明の効果】
本発明によれば、フィールドストップ層となる不純物拡散層とコレクタ層をイオン注入法により形成するため、ノンパンチスルー型のIGBTのようにFZウエハ等の安価なウエハを用いてIGBTを歩留りよく製造することができる。また、フィールドストップ層を設けることにより、ベース層の厚さがパンチスルー型のIGBTと同程度のIGBTを製造することができる。したがって、ノンパンチスルー型と同程度に安価であり、かつパンチスルー型のIGBTと同程度に低損失なIGBTを構成する半導体装置が得られる。また、不純物イオンの注入面の中心線平均粗さRaを1μm以下とすることで、リーク電流の増加を抑制し、不純物イオンの注入面のろ波中心線うねりWcaを10μm以下とすることで、耐圧の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明にかかる半導体装置の製造方法により製造される半導体装置の一例を示す縦断面図である。
【図2】 図1に示す構成のIGBTのコレクタ層付近の不純物プロファイルを示す図である。
【図3】 図1に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図4】 図1に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図5】 図1に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図6】 図1に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図7】 図1に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図8】 図1に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図9】 図1に示す構成のIGBTにおいてコレクタ層の中心線平均粗さとリーク電流との関係を調べた実験結果を示す特性図である。
【図10】 図1に示す構成のIGBTにおいてベース層のろ波中心線うねりと耐圧の降下率との関係を調べた実験結果を示す特性図である。
【図11】 図1に示す構成のIGBTにおいてイオン注入面に付着した0.3μm径より大きいパーティクルの数とIGBTの良品率との関係を調べた結果を示す特性図である。
【図12】 図1に示す構成のIGBTにおいて各種洗浄処理とパーティクルの除去効果との関係を調べた結果を示す特性図である。
【図13】 リンイオン、ボロンイオンまたはBF_(2)^(+)を注入する際の加速エネルギーと飛程距離Rpとの関係を示す特性図である。
【図14】 ボロンイオンを注入する際のイオン注入角度と飛程距離Rpとの関係を示す特性図である。
【図15】 ボロンイオンの注入温度と熱処理温度と活性化率との関係を示す特性図である。
【図16】 リンおよびボロンについて拡散炉熱処理における熱処理温度と活性化率との関係を示す特性図である。
【図17】 リンおよびボロンについてRTA処理における熱処理温度と活性化率との関係を示す特性図である。
【図18】 レーザーアニールにおける照射エネルギー密度と中心線平均粗さとの関係を調べた結果を示す特性図である。
【図19】 レーザーアニールにおける照射エネルギー密度と不純物ボロンの活性化率との関係を調べた結果を示す特性図である。
【図20】 レーザーアニール処理を単独でおこなった場合と、レーザーアニール処理と拡散炉熱処理とを組み合わせた場合とで、ボロンの活性化率を比較した結果を示す図である。
【図21】 コレクタ電極材料のバリアハイトφ_(Bn)とオン電圧との関係を調べた結果を示す特性図である。
【図22】 コレクタ電極材料(Al)の膜厚とオン電圧との関係を調べた結果を示す特性図である。
【図23】 本発明にかかる製造方法によって製造される半導体装置の他の例を示す縦断面図である。
【図24】 図23に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図25】 図23に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図26】 図23に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図27】 図23に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図28】 図23に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図29】 図23に示す構成のIGBTの製造プロセスを説明するためにIGBTの製造途中の断面構造を示す縦断面図である。
【図30】 従来のIGBTの構成を示す縦断面図である。
【図31】 従来のIGBTの構成を示す縦断面図である。
【図32】 従来のIGBTの構成を示す縦断面図である。
【図33】 従来のIGBTの構成を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1 半導体基板
2 ベース層
3 チャネル拡散領域
4 エミッタ拡散領域
5 エミッタ電極
6 ゲート絶縁膜
7 ゲート電極
8 絶縁膜
9 コレクタ層
10 コレクタ電極
24 フィールドストップ層(不純物拡散層)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-08-23 
結審通知日 2017-08-25 
審決日 2017-09-05 
出願番号 特願2002-30283(P2002-30283)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (H01L)
P 1 41・ 857- Y (H01L)
最終処分 成立  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 大嶋 洋一
加藤 浩一
登録日 2006-12-01 
登録番号 特許第3885598号(P3885598)
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 高石 秀樹  
代理人 鈴木 信彦  
代理人 辻居 幸一  
代理人 鈴木 信彦  
代理人 高石 秀樹  
代理人 辻居 幸一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ