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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A47K
管理番号 1332486
審判番号 不服2011-28352  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-20 
確定日 2017-10-03 
事件の表示 特願2000-339724号「心棒無しホルダー」拒絶査定不服審判事件〔平成14年4月9日出願公開、特開2002-102105号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成12年10月 2日 特許出願
平成23年 9月 9日(発送日 9月20日) 拒絶査定
平成23年12月16日(受付日 12月21日)本件審判請求
平成25年 1月31日(発送日 2月 5日) 当審において拒絶理由通知書
平成25年 3月22日(受付日 4月30日) 意見書及び手続補正書
平成25年 6月25日(発送日 7月 2日) 手続補正指令書(方式)
平成26年 3月 8日(受付日 3月10日) 手続補正書(方式):平成25年4月30日手続補正書の補正
平成26年 6月23日(発送日 7月 1日) 当審において拒絶理由通知書
平成26年 9月22日(受付日10月 2日) 意見書
平成26年12月22日(発送日平成27年1月6日)当審において拒絶理由通知書
平成27年 4月30日(受付日 5月 7日) 意見書
平成27年 4月30日(発送日 5月12日) 審理終結通知書

なお、請求人の平成27年4月30日付け(受付日5月7日)意見書は、平成26年12月22日付け拒絶理由通知書の指定期間経過後の平成27年5月7日(受付日)に提出されたものである。
また、審理終結通知書は、上記拒絶理由通知書の指定期間経過時点で、請求人の応答がなく、本件の審決をするのに熟したと判断して起案がなされ、上記意見書受付後に発送されたものである。

第2 当審における拒絶理由通知書の理由
当審における平成25年1月31日付け、平成26年6月23日付け、及び平成26年12月22日付け拒絶理由通知書の理由は、それぞれ下記のとおり。

1.平成25年1月31日付け拒絶理由通知
「本願は,特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

1.請求項1及び2において,「両サイド3は左右対照し、平行する」とあるが,不明確である。(「両サイド3は左右対称で、平行とする」の誤記ではないか。)
2.請求項1において,「サイドは本体4と90°を保持させる」とあるが,不明確である。(「サイドと本体4とを90°に保持させる」の誤記ではないか。)
3.請求項2において,「(ハ)両ガイド3は本体4の両端に固定し、」とあるが,不明確である。(「(ハ)両サイド3は本体4の両端に固定し、」の誤記ではないか。)
4.発明の詳細な説明の段落【0006】に
「【0006】なお,本発明の実施に・・・
(ハ)両サイドは本体4の両端に固定し,・・・実施の形態に関しては1、突起部はバネで作成する場合、
【図4】の如く 使用時ペーパーの両側の芯口を両サイド3の球冠状の突起部8に合わせて、押し込むと、・・・」とあり,該例は,請求項2に係る発明の実施例を意図していると解されるが,図4をみると,「8バネで構成する突起部」は,球冠状ではないので,発明の詳細な説明の記載及び図面が対応していない。また,該形状も「球冠状」というのであると,一般的な「球冠」の意味と異なった意味で使用されることになり,請求項2における「球冠状」で特定される発明が不明確である。」

2.平成26年6月23日付け拒絶理由通知
「1.本件出願は,明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)特許請求の範囲の請求項1及び2の記載中の「両サイド3は左右対称し,平行する」は,「両サイド3は左右対称で,平行とする」の誤記であると思われるところ,補正がなされておらず,依然として発明の構成が不明確である。

2.【図4】は補正されたものであるが,出願当初の明細書等に記載された範囲のものではなく,新規事項の追加となるものであり,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
(1)本件補正により,【図4】に,
(ア)「8バネで構成する突起部」に「A-A’」を追加
(イ)「A-A’断面拡大図」という文言を追加すると共に「A-A’断面拡大図」が追加された。そして,そのことにより「A-A’断面」近傍が一般的な意味の球冠状の形状の一部をなすものに補正された。
(2)一方,当初明細書の【図4】の「8バネで構成する突起部」は,8バネの長手方向に対向するサイド3の内壁に向けて突出する凸曲面を突起部として設けたものであり,「A-A’断面」に相当する箇所が上記(イ)の断面図の形状,すなわち,球冠状の形状の一部をなす形状は,当初明細書の【図4】に記載されていたとはいえない。
(3)そうすると,上記(1)の補正は新たな技術事項を追加するものである。
(4)意見書の主張に関して
請求人は平成25年3月22日付けの意見書において,
(ア)「(4) a.球冠の定義:割平面によって切り取られる球面の一部を球冠と言う。つまり,球冠は幾何体ではなく,曲面である。
b.一般常識は,物体の全体或いは一部の曲面の形状は球冠と似ている,球冠のような形の場合,似ている部分を球冠状と称される。
c.[特許4035653]([特願2001-328693])の[特許請求の範囲]の[請求項1]の中で,“フック先端2の形状は球冠状であり”というふうに書いてあるが,該特願の[図1]を見ると,フック先端2の上部は曲面ではなく,平面である。つまり,フック先端2は厳密な球冠ではない,一部の形状は球冠と似ているに過ぎない。それでも,この[特願2001-328693]は[請求項1]における「球冠状」で特定される発明であり,特許になった。
d.本願発明は,突起部の形状についての記載は明細書全体にわたって,「球冠」ではなく,「球冠状」である。つまり突起部の形状は球冠のような形である。」と主張する。
(イ)しかし,上記(1)?(3)に記載したように,【図4】の補正は新たな技術事項を追加するものであって認められるものではないので,補正後の【図4】を根拠とする主張は受け入れられるものではない。そして,当初明細書の【図4】に図示の突起の形状を検討すると,請求人が上記「(4)a.」で定義する割平面によって切り取られる球面の一部のような形状をしていないので,請求人が主張するような球冠状であるとはいえない。
これに対し,「a.球冠の定義:割平面によって切り取られる球面の一部を球冠と言う。」ように,本件出願の【図1】?【図3】,【図5】,【図6】に図示の突起部は球冠状といえる。

〈補正の示唆〉
(1)今回補正された【図4】は,当初明細書の【図4】に戻すことで,上記拒絶理由2.は解消できると考える。
(2)先の拒絶理由通知の
「4.発明の詳細な説明の段落【0006】に
『【0006】なお,本発明の実施に・・・
(ハ)両サイドは本体4の両端に固定し,・・・実施の形態に関しては1,突起部はバネで作成する場合,
【図4】の如く 使用時ペーパーの両側の芯口を両サイド3の球冠状の突起部8に合わせて,押し込むと,・・・』とあり,該例は,請求項2に係る発明の実施例を意図していると解されるが,図4をみると,『8バネで構成する突起部』は,球冠状ではないので,発明の詳細な説明の記載及び図面が対応していない。また,該形状も『球冠状』というのであると,一般的な『球冠』の意味と異なった意味で使用されることになり,請求項2における『球冠状』で特定される発明が不明確である。」は,【図面の簡単な説明】の欄の「【図4】本発明の他の実施例A,バネで構成する突起の場合を示す斜視図」を,「【図4】参考例,バネで構成する突起の場合を示す斜視図」と補正すると共に,【0006】を「・・・【図4】の如く・・・両サイド3のバネで構成する突起部8に合わせて・・・意義をもっている。」(なお,補正書では,・・・の部分も記載すること)と補正することで,平成25年1月31日付け拒絶理由4.は解消するものと考えられる。
なお,明細書の補正は,出願人の意思と責任によって行われるものであって,必ずしも上記補正の示唆のような補正を行わなければならないものではない。
ただし,合議体の判断は明細書の記載に基づいて,特許法の各規定によりなされるものであるので,出願人の責任において,拒絶理由が存在しない状態とすることをすすめる。拒絶理由が解消されない場合は,出願は拒絶される。」

3.平成26年12月22日付け拒絶理由通知
「第1 手続の経緯
本願は、平成12年10月2日の出願であって、平成23年9月9日付けで拒絶査定がされ、この査定に対し、同年12月16日に本件審判が請求されたものである。
その後、当審において平成25年1月31日付けで拒絶理由通知書を送付したところ、同年3月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、
さらに、当審において同年6月23日付けで拒絶理由通知書を送付したところ、同年9月22日付けで意見書が提出された。

第2 理由1:新規事項に関して
【図4】は補正されたものであるが、願書に最初に添附した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲においてしたものではないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

1.請求人は、平成26年3月8日付け手続補正書(方式)で補正された、平成25年3月22日付け手続補正書の補正(以下、「本件補正」という。)により、図4を補正している。
具体的には、【図4】の本発明の他の実施例A、バネで構成する突起の場合を示す斜視図に関して、(a)「8バネで構成する突起部」に「A-A’」を追加し、(b)「A-A’断面拡大図」という文言を追加すると共に「A-A’断面拡大図」を追加する補正をしている。

2.補正後の図4について
補正後の図4には、次の構成が図示されていると解される。
「帯状の板バネを、長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲して、突起部8を形成した構成」

3.願書に最初に添附した明細書、特許請求の範囲又は図面について
(1)図4について
出願当初(補正前の)図4からは、次の構成が図示されていると解される。
「帯状の板バネを、長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲していない、突起部8を形成した構成」
帯状のバネとして板バネは普通のものであり、幅方向には湾曲せずに使用することが通常であるから、このことからも上記の構成と解するのが合理的といえる。
(2)【0006】について
【0006】には、
「【0006】・・・実施の形態に関しては
1、突起部はバネで作成する場合、 【図4】の如く 使用時ペーパーの両側の芯口を両サイド3の球冠状の突起部8に合わせて、押し込むと、両突起部8が遊離穴9に従って、内壁に向かって変形して、その後両突起部8復元しながら、ペーパーの両側の芯口に嵌まる。・・・
2、突起部はゴム等の弾力性の材質で作成する場合、中空の形式の突起部を例として、説明すれば 【図5】の如く 使用時ペーパーの両側の芯口を両サイド3の球冠状の突起部12に合わせて、押し込むと、空気が排気穴11からは排出する共に、両突起部12変形して、その後両突起部12復元しながら、ペーパーの両側の芯口に嵌まる。・・・」
と記載されている。
上記の「突起部はバネで作成する場合、・・・球冠状の突起部8」との記載からは、球冠が「割平面によって切り取られる球面の一部」(すなわち、お椀のような形状。定義についてはwikipediaの球の欄等参照。)で定義されること、及び図5の突起部12がそのような定義に合致する形状であるから、バネで作成される突起部の形状は、上記で定義される形状、すなわち図5の突起部12と同様の形状を想定することができる。
(3)バネからなる突起部の認定
上記(1)(2)のとおり、図4から解される形状と、明細書から想定される形状とは異なっている。
「【0006】・・・実施の形態に関しては
1、突起部はバネで作成する場合、 【図4】の如く 使用時ペーパーの両側の芯口を両サイド3の球冠状の突起部8に合わせて、押し込むと、両突起部8が遊離穴9に従って、内壁に向かって変形して、その後両突起部8復元しながら、ペーパーの両側の芯口に嵌まる。」との記載は、図4を説明するものであるから、「球冠状の突起部8」を球冠の定義に沿って記載したものではなく、図4に基づいて記載したもの、すなわち図4に図示された形状のものを球冠状と称していると解するのが合理的であるといえる。
なお、球冠の定義に沿って記載したものとしても、図5に図示された形状を想定出来るが、補正後の図4に図示された形状ではない。
そうすると、当初明細書の図4に係る記載は、帯状の板バネを、長手方向に湾曲することに加えて、幅方向にも湾曲して、突起部8を形成することは意図していないといえる。(すなわち、図5に図示された突起部の形状は想定出来るが、補正後の図4に図示された突起部の形状は想定出来ない。)
さらに、帯状の板バネは、長手方向に湾曲することにより弾力性を発揮するものであり、幅方向にも湾曲したのではそのような作用(機能)阻害することになるから、そのことからも幅方向には湾曲していないと解するのが合理的であるといえる。

4.意見書の主張に関して
請求人は平成26年9月22日付けの意見書において、
「a.本願発明は、突起部の形状についての記載は【明細書】中の【特許の請求範囲】と【発明の詳細な説明】及び【図面】全体にわたって、「球冠」ではなく、「球冠状」である。つまり突起部の形状は球冠のような形である。しかも、【請求項2】の(ロ)の中で、『左右サイド3の内側の前部に(イ)の材質の球冠状の突起部を設け』、【発明の詳細な説明】の【発明の実施の形態】の【0006】の中で、『A(イ)両突起部は弾力性の材質のゴムや、スポンジや、樹脂或いはバネで作成する。(ロ)左右サイド3の内側の前部に(イ)の材質の球冠状の突起部1を設け』と明記している。
b.平成25年3月22日付けの補正書の提出背景は、高橋三成審判長が平成25年1月31日付け(起案日)拒絶理由通知書の理由4中で、「球冠」と「球冠状」はまったく別の概念であることを無視し、指摘した『・・・【図4】を見ると、「8バネで構成する突起部」は、球冠状ではないので、発明の詳細な説明の記載及び図面が対応していない。
また、該形状も「球冠状」というのであると、一般的な「球冠」の意味と異なった意味で使用されることになり、請求項2における「球冠状」で特定される発明が不明確である』という点に対して、両突起部はバネで作成する場合、バネの形状も球冠状であることをもっとわかりやすくするために【図4】を補正したのであるから、『A-A‘断面拡大図』での補正による新規事項の追加は何もないし、突起部の形状は補正前の球冠状のままである。この補正はたとえ従来の“直接的かつ一義的”という「新規事項」判断基準においても,補正が新規事項でない。したがって、平成26年6月23日付け(起案日)の拒絶理由書の2.の(3)の中で指摘された『・・・上記(1)の補正は新たな技術事項を追加するものである』は全く根拠がないである。
c.そもそも、特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。【図4】で示す球冠状の突起部について、『A-A‘断面拡大図』での補正をしなくても、本願の明細書と図面に記載されている事項から、突起部の形状は球冠状であることは自明である。
以上の理由で、指摘された『・・・上記(1)の補正は新たな技術事項を追加するものである』は全く根拠がないである。【図4】の補正は何ら新規事項を含まず、適正なものであるから特許法17条の2第3項に違反しないことは明らかである。」と主張する。
しかし,上記1.?3.に記載したように,【図4】の補正は新たな技術的事項を導入するものであって認められるものではない。

5.むすび
以上のとおりであるから、出願当初明細書などには、「帯状の板バネを、長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲して、突起部8を形成した構成」は記載されていないと認められる。
そうすると、そのような構成が図示されていると読み取れる補正後の図4を追加することは、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正とは、認められないものである。
したがって、本件補正は、願書に最初に添附した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲においてしたものではないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

第3 理由2:進歩性に関して
・・(略)・・」

第3 特許法第17条の2第3項の規定違反についての請求人の主張
請求人は、
平成26年9月22日付けの意見書において上記「第2」の「3.平成26年12月22日付け拒絶理由通知」の「第2」「4.意見書の主張に関して」に摘記した主張を行った。
さらに、平成26年12月22日付け拒絶理由通知書の指定期間経過後の平成27年4月30日付けで提出された意見書において、
「第一、本発明の審判の焦点は、「球冠状」かどうかの判断基準、即ち「球冠状」の定義である。
1.「球冠状」の定義について、平成25年3月22日付の意見書において、
『b.一般常識は、物体の全体あるいは一部の曲面の形状は球冠と似てる、球冠のような形の場合、似ている部分を球冠状と称される。』と明記している。
また、平成26年9月22日付の意見書において、
『本願発明は、突起部の形状についての記載は[5明細書]中の[特許の請求範囲]と[発明の詳細な説明]及び[図面]全体にわたって、「球冠」ではなく、「球冠状」である。つまり突起部の形状は球冠のような形である。』と明記している。
2.突起部の形状は球冠状であるのは本願発明の構成において、最も重要な特徴である。
小野忠悦審判長を始めとする合議体は、本願バネで構成する突起、[図4]で示す形状は「球冠状」と認めている[その根拠は、<拒絶理由通知書>の[理由]の第2の「3.願書最初に添付した明細書、特許請求書の範囲又は図面について」の(3)バネからなる突起部の認定の中で、“すなわち図4に図示された形状のものを球冠状と称していると解するのが合理的であるといえる”]一方、出願当初(補正前の)[図4]に対して、『帯状の板バネを長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲していない、突起部8を形成した構成』と、「球冠状」の概念を無視し勝手にバネで構成する突起の形状を解釈した。
本願全体にわたって、バネの形状に関する説明には板バネという形状の記載はどこにもないので、<拒絶理由通知書>の[理由]の第2の[3.願書最初に添付した明細書、特許請求書の範囲又は図面について](1)図4について、
『出願当初(補正前の)[図4]からは、次の構成が図示されいると解される。「帯状の板バネを長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲していない、突起部8を形成した構成」』
と上述した[図4]についての解釈は、全く根拠が無く勝手なものであるし、明らかに不適法である。
3.本願バネで構成する突起の形状は、板の形状ではなく[図4]で示す「球冠状」である。したがって、板バネという形状の勝手な解釈から導いた、『そうすると、そのような構成が図示されていると読み取れる補正後の図4を追加することは、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正とは、認められないものである。』という判断は当然完全に誤った不適法なものである。
その具体的な根拠は:
ア、平成25年1月31日付け(起案日)拒絶理由通知書と平成26年6月23日付け(起案日)拒絶理由通知書及び今回平成26年12月22日付け(起案日)拒絶理由通知書は、いずれも意図的に「球冠」と「球冠状」という二つの、本質的に全く異なる概念を混同し、「球冠状」かどうかの判断根拠(即ち「球冠状」の概念)について、何ら明らかにしていないまま、勝手に「球冠状」の形を解釈し、本願発明の『[図4]の「8バネで構成する突起部」』の形状を判断した。
イ、そもそも、特許願書添付の図面は、当該発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。[図4]で示す球冠状の突起部について、『A-A‘断面拡大図』での補正をしなくても、本願の明細書と図面に記載されている事項から、突起部の形状は球冠状であることは自明である。
ウ、『A-A‘断面拡大図』での補正による新規事項の追加は何もないし、突起部の形状は補正の前の球冠状のままである。この補正はたとえ従来の“直接的かつ一義的”という「新規事項」判断基準においても,補正が新規事項でない。
エ、[特許4035653]([特願2001-328693])の[特許請求の範囲]の[請求項1]の中で、“フック先端2の形状は球冠状であり”というふうに書いてある。該特願の[図1]に照らして見れば、本願[図4]で示す球冠状の突起部の形状は言うまでもなく「球冠状」である。“フック先端2の形状も球冠状である以上、小野忠悦審判長を始めとする合議体が主張した「補正後[図4]に図示された突起部の形状は想定出来ない」の理由はどこにもない。
結論:
A、<拒絶理由通知書>の第2の理由1の中で新規事項に関しての指摘はまったく根拠もなく強弁である。
B、 小野忠悦審判長を始めとする合議体が「球冠状」概念に関する具体的見解及びその根拠を何ら示していないまま、勝手に球冠状の本願発明の『[図4]の「8バネで構成する突起部」』の形状を『帯状の板バネを長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲していない、突起部8を形成した構成』と解釈したのは審査実務慣行に著しく反するものであり,公平公正を欠くものである。
C、板バネという形状の勝手な解釈から導いた、『……補正後の図4を追加することは、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正とは、認められないものである。』という判断は完全に誤った不適法なものである。
以上のとおりであるから、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲においてしたものである。特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。」旨の主張を行った。

第4 特許法第17条の2第3項の規定違反についての当審の判断
上記第3の請求人の主張について検討した上で、特許法第17条の2第3項の規定違反についての判断を行う。

1.平成26年9月22日付け意見書の主張について
平成26年9月22日付け意見書の主張については、上記「第2」の「3.平成26年12月22日付け拒絶理由通知」の「第2」「4.」で検討したとおりである。

2.平成27年4月30日付け意見書の主張について
(a)平成27年4月30日付け意見書の主張について検討しても、結局、本件補正で【図4】に追加された「A-A’断面拡大図」に具体的に記載された「帯状の板バネを、長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲して、突起部8を形成した構成」が、当初明細書等のいずれかの箇所に記載されていたとする根拠は、見出せない。
すなわち、
(a1)上記意見書の主張において、具体的に特定されている当初明細書等の記載箇所は、【0006】と【図4】であるが、それらについては、上記「第2」の「3.平成26年12月22日付け拒絶理由通知」の「第2」「3.」で検討したとおりのものであって、「帯状の板バネを、長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲して、突起部8を形成した構成」といえるものではない。
(a2)請求人は、「球冠状」について特許4035653号公報の[図1]を引用して、補正前の「本願[図4]で示す球冠状の突起部の形状は言うまでもなく『球冠状』である。」旨主張しているが、特許4035653号公報の[図1]に記載されている形状も、フック先端2の上部は曲面ではなく平面であるとしても、全体としては「割平面によって切り取られる球面の一部」(すなわち、お椀のような形状)であって、「球冠状」なる記載から当初明細書等の【図5】の突起部12と同様の形状を想定することができるものではあるが、当初明細書等の【図4】に図示された形状は、そのような「割平面によって切り取られる球面の一部」(すなわち、お椀のような形状)といえるものではない。
そして、先の拒絶理由通知でも説示したように、当初明細書等の「【0006】・・・実施の形態に関しては
1、突起部はバネで作成する場合、【図4】の如く 使用時ペーパーの両側の芯口を両サイド3の球冠状の突起部8に合わせて、押し込むと、両突起部8が遊離穴9に従って、内壁に向かって変形して、その後両突起部8復元しながら、ペーパーの両側の芯口に嵌まる。」との記載は、図4を説明するものであるから、「球冠状の突起部8」を球冠の定義に沿って記載したものではなく、図4に基づいて記載したもの、すなわち図4に図示された形状のものを球冠状と称していると解するのが合理的であるといえる。(なお、球冠の定義に沿って記載したものとしても、図5に図示された形状を想定出来るが、補正後の図4に図示された形状ではない。)
そうすると、当初明細書の図4に係る記載は、帯状の板バネを、長手方向に湾曲することに加えて、幅方向にも湾曲して、突起部8を形成することは意図していないといえる。(すなわち、図5に図示された突起部の形状は想定出来るが、補正後の図4に図示された突起部の形状は想定出来ない。)

3.当審の判断
上記請求人の主張について検討しても、上記の通り当初明細書等には、「帯状の板バネを、長手方向に湾曲すると共に、幅方向にも湾曲して、突起部8を形成した構成」は記載されていないと認められる。
そして、そのような構成が図示されていると読み取れる補正後の図4を追加することは、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてした補正とは、認められないものである。
なお、特許法第17条の2第3項の規定違反について当審は、平成26年6月23日付け拒絶理由通知書で〈補正の示唆〉を行い、さらに、平成26年12月22日付けで拒絶理由通知書を送付して、再度補正の機会を与えたが、結局当該拒絶理由を解消する補正はなされなかった。
そうすると、本件補正は、願書に最初に添附した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲においてしたものではないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないと言わざる得ない。

第5 むすび
したがって、平成26年3月8日付け手続補正書(方式)で補正された、平成25年3月22日付け手続補正書の補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-30 
結審通知日 2015-05-12 
審決日 2015-08-03 
出願番号 特願2000-339724(P2000-339724)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (A47K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森次 顕鈴木 秀幹  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 中川 真一
赤木 啓二
発明の名称 心棒無しホルダー  
代理人 ▲リュウ▼ 津杰  
代理人 ▲リュウ▼ 津杰  
代理人 ▲リュウ▼ 津杰  

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