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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1332522
審判番号 不服2016-17383  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-21 
確定日 2017-10-03 
事件の表示 特願2012-243913「血流促進剤」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月19日出願公開、特開2014- 91720、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月5日の出願であって、平成28年6月22日付けで拒絶理由通知がされ、平成28年8月22日付けで手続補正がされ、平成28年9月12日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成28年11月21日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年9月12日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1、2に係る発明は、以下の引用文献1-3に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。また、本願請求項3に係る発明は、以下の引用文献1-5に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1. Ruiz E. et al,Br J Pharmacol,1998年,vol.125,p.186-192
2. Yang D. et al,Cell Metab,2010年,vol.12, no.2,p.130-41
3. 日本認知科学会,認知科学辞典,共立出版株式会社,2003年 5月,初版,p.265
4. 関根茂 他,新 化粧品ハンドブック,日光ケミカルズ株式会社 他,2006年10月,p.521
5. 田中千賀子 他,NEW 薬理学,株式会社南江堂,1997年8月,第3版,p.390-391

第3 本願発明
本願請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、平成28年8月22日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
シトルリン又はその塩及び0.1mg?20mgのカプサイシン又はカプサイシノイド類を有効成分として含有し、かつシトルリン又はその塩の含有量が、カプサイシン又はカプサイシノイド類1重量部に対して10?200重量部である血流促進剤。
【請求項2】
1食当たりの単位包装形態からなり、該単位中に、1回の摂取量として、0.1mg?20mgのカプサイシン又はカプサイシノイド類、及びカプサイシン又はカプサイシノイド類1重量部に対して10?200重量部のシトルリン又はその塩を含有する血流促進剤。
【請求項3】
末梢血管拡張に関連して発揮される運動パフォーマンス増強、脂肪蓄積抑制、肌質向上、又は虚血性疾患の予防に使用される請求項1又は2に記載の血流促進剤。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている(なお、原文は英文であるため訳文で記す。)。

「1 血管内皮は、EDRF(NO)のような血管作用性因子の放出を介して血管緊張の制御において中心的な役割を果たす。
2 この研究の目的は、NO合成の副産物である外因性L-シトルリンの添加が血管平滑筋を弛緩させることができるかどうかを調べることであった。
3 L-シトルリンは、ノルアドレナリン10^(-6)Mで前処理された内皮傷害および内皮無傷ウサギ大動脈リングの両方を弛緩させた(L-シトルリン10^(-8)Mによって誘発された最大弛緩は、内皮傷害および内皮無傷動脈において、それぞれ4.1±5.2%対51.3±2.8%であった)。
4 この弛緩効果は、ザプリナスト(ホスホジエステラーゼ5型阻害剤)によって増強され、HS-142-1(グアニル酸シクラーゼ阻害剤)およびアパミン(K_(Ca)-チャネル遮断薬)によって阻害された。
5 L-シトルリン(10^(-13)-10^(-8)M)は、大動脈リングにおけるcGMPレベルを増加させた(L-シトルリン10^(-8)Mでの最大値は、ベースの0.038±0.009 pmol cGMP mg^(-1 )of tissueに対して、0.165±0.010 pmol cGMP mg^(-1 )of tissueであった)。
6 L-シトルリンは、NOと同様にAchで刺激した培養物の内皮細胞から放出された。値は、L-シトルリンについては6.50±0.50μM対2.30±0.20μM(それぞれAchによる刺激およびベース)、NOについては4.22±0.10μM対0.87±0.26μM(それぞれAchによる刺激およびベース)であった。
7 これらの結果は、L-シトルリンが内皮からNOとともに放出され、血管平滑筋弛緩の制御においてNOの作用に相補的な作用を有し得ることを示唆している。」(要約)

「最後に、NOの合成における副産物であるL-シトルリンは、血管平滑筋の緩和の原因となるため、血管緊張の制御に役割を果たす可能性がある。これらの事実は、L-シトルリンが単独で作用するか、または粒子状グアニル酸シクラーゼを活性化する弛緩因子のような他の化合物の作用を強化することを示し得る。我々は、L-シトルリンが、ウサギ大動脈において直接的に弛緩を引き起こすと結論する。」(第191頁右欄第38-43行)

これら記載からみて、引用文献1には、L-シトルリンがウサギ大動脈リングを弛緩したことを確認したことが記載され、L-シトルリンがウサギ大動脈において直接的に弛緩を引き起こす作用を有することが示唆されている。
したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「L-シトルリンを有効成分として含有する、ウサギ大動脈リングに対して弛緩作用を示す動物実験における試薬。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、以下の事項が記載されている(なお、原文は英文であるため訳文で記す。)。

「ある種の植物ベースの食餌によって、心機能代謝のリスクや高血圧の罹患率が低下する。新たな証拠は、心代謝疾患の病因における一過性受容体ポテンシャルバニロイド1(TRPV1)カチオンチャネルの役割を示唆している。血管機能および血圧の調節に対する慢性TRPV1活性化の影響についてはほとんど知られていない。我々は、食餌性カプサイシンによる慢性TRPV1活性化がプロテインキナーゼA(PKA)およびeNOSのリン酸化を増加させ、したがってカルシウム依存性の内皮細胞における酸化窒素(NO)の産生を増加させることを報告する。カプサイシンによるTRPV1活性化は、野生型マウスにおける内皮依存性弛緩を増強し、TRPV1欠損マウスでは効果がない。 TRPV1の長期刺激は、eNOSリン酸化の増加に寄与するPKAを活性化し、血管緊張緩和を増進し、遺伝的に高血圧のラットにおいて血圧を低下させる。本発明者らは、食餌性カプサイシンによるTRPV1活性化が内皮機能を改善すると結論する。 NO産生におけるTRPV1媒介性の増加は、高血圧の治療的介入のための有望な標的であり得る。」(要約)

「TRPV1の慢性的活性化は内皮依存的弛緩を増強する
カプサイシンは、濃度依存的にWTマウスの腸間膜動脈を弛緩し、内皮を欠いている動脈における効果はあまりない(図5A)。TRPV1^(-/-)マウスの内皮動脈では顕著な減弱が認められた(図5B)。 WTマウスにおける6ヶ月間の食餌性カプサイシン(0.01%)によるTRPV1の慢性活性化は、アセチルコリン誘発内皮依存弛緩を中程度に増加させた(pD2,6.88±0.16対照および7.52±0.17カプサイシン、p<0.05、図5C、表S1)。」(第133頁右欄第20行-第135頁左欄第5行)



」(第135頁図5)

「本研究は、食餌中のカプサイシンが高血圧を低下させる有益な効果についての実験的証拠を提供する。 このような利益は、TRPV1^(-/-)マウスおよびTRPV1トランスジェニックマウスで得られたインビトロおよびインビボの両方のデータによって裏付けられた内皮TRPV1チャンネルに対するカプサイシンの直接刺激作用に関連する。 本発明者らは、TRPV1活性化が、ECsおよび血漿NO濃度におけるPKAおよびeNOSのリン酸化を高め、腸間膜動脈における内皮依存性緩和を増進、そして遺伝的に高血圧のラットにおいて動脈圧を低下させることを示した。 したがって、内皮TRPV1活性化は、高血圧の管理のための潜在的戦略と考えることができる。」(第137頁左欄第2-13行)

「結論として、食餌中のカプサイシン消費がSHRの血圧を低下させることを実証する。本発明者らの機構的な証拠は、この血管の利益は、Ca^(2+)流入の増加およびその後のPKAおよびeNOSのリン酸化を媒介する内皮TRPV1チャネルの慢性活性化によって引き起こされる可能性があることを示唆する。結果として、NO産生は、カプサイシン処置マウスおよびSHRにおける内皮依存性緩和の可能性を説明する。私たちの知見は、血圧の長期的調節における内皮TRPV1チャネルの生理学的役割についての洞察を提供する。慢性食餌性カプサイシンによるTRPV1の活性化は、高血圧および関連する血管障害を有する高リスク集団における生活様式の有望な介入を表し得る。」(第139頁左欄第4-16行)

これら記載からみて、引用文献2には、食餌性カプサイシンによるTRPV1の慢性活性化は、内皮依存性血管弛緩を高め、高血圧および関連する血管障害の治療に有用であることが示唆されている。

3 その他の文献について
また、引用文献3の第265頁左欄第41行-右欄第4行には「トウガラシの中のカプサイシン,サンショウの中のサンショウオール,ショウガの中のシンゲロンなどは粘膜に分布する三叉神経を刺激し,温熱感や痛覚を生じさせる作用があることが知られている.」と記載され、引用文献4の第521頁左欄第22-24行には、「末梢循環を改善し,老廃物の排出を促進し,細胞への栄養を補給することにより健康な肌を保つことができる.」と記載され、引用文献5の第390頁第27-30行には、「末梢循環障害は閉塞性動脈硬化症,バージャー病;糖尿病性細小血管症,血管炎などの器質的動脈疾患やレイノー病や手足冷え症などの血管機能障害,あるいは深部静脈血栓などにおいてみられる.それぞれの原疾患に対する治療が必要であり血小板凝集阻害薬なども用いられているが,本稿では末梢血管拡張薬を中心に述べる.」と記載されている。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「L-シトルリン」は、本願発明1における「シトルリン又はその塩」に相当する。
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「シトルリン又はその塩を有効成分として含有する組成物。」

(相違点)
(相違点1)
組成物の用途について、本願発明1は、「血流促進剤」であるのに対し、引用発明は、「ウサギ大動脈リングに対して弛緩作用を示す動物実験における試薬」である点。

(相違点2)
本願発明1は、「シトルリン又はその塩」以外に「0.1mg?20mgのカプサイシン又はカプサイシノイド類を有効成分として含有」するのに対し、引用発明は、カプサイシン又はカプサイシノイド類を含有しない点。

(相違点3)
本願発明は、「シトルリン又はその塩の含有量が、カプサイシン又はカプサイシノイド類1重量部対して10?200重量部である」と特定するのに対して、引用発明は、特定しない点

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用文献1では、L-シトルリンがウサギ大動脈リングに対して弛緩作用を示す動物実験における試薬として用いられていることが記載されているにすぎず、しかも、医薬として用いられることについては何ら記載されていないので、引用文献1の記載からは、L-シトルリンが、血管弛緩作用を有する医薬として、実際にヒトまたは動物に投与できるのかが不明である。
さらに、引用文献1では、L-シトルリンがウサギ大動脈において直接的に弛緩を引き起こす作用を有することが示唆されているものの、血流促進作用を有するとは記載されていない。そして、いずれの引用文献の記載をみても、血管弛緩作用を有する薬剤が、血液循環量を増加し、血流促進できる血行促進剤として使用されることが周知の事項であると認められる文献は見当たらず、むしろ、引用文献2では、内皮依存性血管弛緩を高める作用を有するカプサイシンが、高血圧および関連する血管障害の治療に有用であると示唆されているから、血管弛緩作用から発揮される用途には、高血圧治療剤、血管障害治療剤など、血行促進剤以外に様々なものが存在することが、当業者の技術常識であり、血流促進剤は血管弛緩作用から一義的に導かれる用途であるとまではいえない。したがって、引用文献1には、L-シトルリンが血流促進作用を有することは記載されていないし、示唆もされていないと認められる。

そうすると、引用発明において、まず「ウサギ大動脈リングに対して弛緩作用を示す動物実験における試薬」が、ヒトまたは動物に対して投与可能な血管弛緩作用を有する医薬として使用できることに想到し、さらに、当該血管弛緩作用から発揮されるであろう様々な用途の中から、引用文献1に記載も示唆もされていない「血流促進剤」に着目することは、当業者といえども困難である。

イ 相違点2について
引用文献1の記載からは、L-シトルリンが血管弛緩作用を有する医薬として実際にヒトまたは動物に投与できるのかが不明であることは、上記アで述べたとおりである。また、引用文献1には、L-シトルリンが血流促進作用を有するとは記載されていないし、他の成分との併用については記載も示唆もされていない。
一方、引用文献2には、カプサイシンが内皮依存性血管弛緩を高める作用を有することが記載されているものの、当該作用は高血圧及び関連する血管障害の治療に有用であると示唆され、他の成分との併用については記載も示唆もされていない。
したがって、引用発明において、L-シトルリンのウサギ大動脈の弛緩を引き起こす作用によって血流促進できることに想到し、さらに、カプサイシンの内皮依存性血管弛緩を高める作用について血流促進剤とは異なる用途での使用を示唆する引用文献2の記載に基づき、血流促進効果を高める目的で、カプサイシンを併用することは、当業者といえども困難といえる。

ウ 小括
以上のとおりであるから、上記相違点3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2について
本願発明2も、本願発明1と同様に、「血行促進剤」を用途とするものであって、「シトルリン又はその塩」以外に「0.1mg?20mgのカプサイシン又はカプサイシノイド類」を含有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.本願発明3について
本願発明3は、本願発明1、2を引用し、本願発明1、2と同様に、「血行促進剤」を用途とするものであって、「シトルリン又はその塩」以外に「0.1mg?20mgのカプサイシン又はカプサイシノイド類」を含有するものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-20 
出願番号 特願2012-243913(P2012-243913)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今村 明子谷合 正光  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 前田 佳与子
松澤 優子
発明の名称 血流促進剤  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 高島 一  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 小池 順造  
代理人 赤井 厚子  
代理人 土井 京子  
代理人 赤井 厚子  
代理人 小池 順造  
代理人 當麻 博文  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 土井 京子  
代理人 高島 一  
代理人 當麻 博文  

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