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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G03G
管理番号 1332535
審判番号 不服2016-17796  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-29 
確定日 2017-10-10 
事件の表示 特願2014-155005「トナー」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 3月 7日出願公開、特開2016- 31511、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月30日の出願であって、平成28年6月16日付けで拒絶理由が通知され、同年8月3日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年9月7日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し同年11月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成28年9月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

理由1(特許法第29条第1項第3号)について
本願請求項1?3に係る発明は、以下の引用文献1,2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由2(特許法第29条第2項)について
本願請求項1?3に係る発明は、以下の引用文献1,2に記載された発明及び引用文献3,4に記載される周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2004-294467号公報
引用文献2.特開2014-48341号公報
引用文献3.特開2003-107779号公報
引用文献4.特開平11-295917号公報


第3 本願発明
本願請求項1?3に係る発明は、平成28年8月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である(以下、「本願発明1」?「本願発明3」という。)
「 【請求項1】
複数のトナー粒子を含むトナーであって、
前記トナー粒子は、コアと、前記コアの表面に形成されたシェル層とを有し、
前記シェル層は、熱可塑性樹脂に由来する単位と、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位とを含み、
前記シェル層において、前記熱可塑性樹脂に由来する単位は前記熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位で架橋されており、
前記トナーの平均円形度は0.965以上0.975以下であり、
前記トナーに含まれる円形度0.85以下のトナー粒子の量は0.5個数%未満であり、
前記トナーに対する微小圧縮試験において、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下で、前記トナー粒子に負荷速度60nN/秒で荷重を加え、最大荷重60nNに到達後、前記最大荷重のまま1秒間放置した時の前記トナー粒子の変位量をZ1、前記トナー粒子の粒子径をZ2と表す場合、式「トナー変位率=100×Z1/Z2」で示されるトナー変位率は0.50%以上0.70%以下である、トナー。
【請求項2】
前記トナーに含まれる円形度0.85以下のトナー粒子の量は0.3個数%以下である、請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記シェル層は、アクリル系樹脂に由来する単位と、尿素樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位とを含み、
前記トナーの平均円形度は0.965以上0.970以下である、請求項1又は2に記載のトナー。」


第4 引用発明
1 引用文献1
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成16年10月21日に公開された刊行物である上記引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線部は、発明の認定に用いた箇所を示す。以下同様)

(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合トナー1次粒子が熱硬化性樹脂を含んでなる薄膜により表面被覆されたトナー。」

(イ)「【0011】
この様な状況に鑑み、本発明においては、重合トナーの低凝集性(抗ブロッキング性または低ブロッキング性)および低温定着を両立することを目的とする。」

(ウ)「【0017】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明によれば、重合トナー1次粒子が熱硬化性樹脂を含んでなる薄膜により表面被覆されたトナーが提供される。
【0018】
この様な表面が熱硬化性樹脂の被膜により被覆された重合トナーは、図1に示す様に、結着樹脂の原料である結着樹脂モノマーを含むトナー原料を重合してトナー1次粒子11の分散物を調製する工程と、
該トナー1次粒子の分散物に熱硬化性樹脂前駆体を混合する工程と、
該トナー1次粒子を溶融することなく、該熱硬化性樹脂前駆体を樹脂化して該熱硬化性樹脂を含む薄膜31を該トナー1次粒子の表面に被覆する工程と
を具備する方法により製造できる。」

(エ)「【0023】
軟化温度の十分低い重合トナーおよび重合凝集トナーの表面を熱硬化性樹脂により被覆することにより、軟化温度を大きく上昇させることなく、十分な抗ブロッキング性を実現し、低い定着温度および低いロッキング性を両立し得る表面被覆重合トナー及び表面被覆重合凝集トナーを実現できる。
【0024】
具体的には、トナーの表面を熱硬化性樹脂で被覆することによる定着温度の上昇幅を、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、更に好ましくは10℃以下に抑えることができる。
【0025】
また、最終的に得られる表面薄膜被覆トナーの定着温度を、好ましくは145℃以下、より好ましくは125℃以下、更に好ましくは100℃以下とできる。」

(オ)「【0061】
(熱硬化性樹脂)
薄膜被覆される熱硬化性樹脂としては、高性能のトナーを製造できるものであれば特に制限されないが、固体状のトナー上に被膜を形成するため、樹脂原料を反応場に水系媒体側からのみ供給する方式で作製できるものとされる。具体的には、in situ重合法、液中硬化被覆法、コアセルベーション法などにより作製される被膜が好ましく、反応性などの観点から、in situ重合法により作製される被膜が好ましい。in situ重合法においては、水系媒体にのみに樹脂被膜の原料が存在しており、この原料が微粒子上で反応して樹脂化し、被膜が形成される。
【0062】
熱硬化性樹脂の種類としては、上記の様な方法で形成されるものであれば特に制限されないが、得られる薄膜の性能が優れる等の理由から、メラミン系、尿素レゾルシン系などの尿素系、ウレタン系、アミド系、オレフィン系、ゼラチン・アラビアゴム系などを使用し、吸水性が低く貯蔵安定性に優れる等の理由から、メラミン系および尿素レゾルシン系などの尿素系などが好ましい。メラミン系樹脂および尿素レゾルシン系などの尿素系樹脂は低吸水性であるため、薄膜被覆トナーを乾燥する際に薄膜被覆トナーが結着することを抑制し、トナーの平均粒子径および粒子径分布が変化することを抑制でき、また、貯蔵中に腐敗することもない。
【0063】
具体的には、被覆薄膜をメラミン樹脂から作製する場合、メチロール化メラミン系化合物を用いたin situ重合法などにより作製できる。
【0064】
また、被覆薄膜を尿素樹脂から作製する場合、メチロール化尿素系化合物を用いたin situ重合法などにより作製できる。
【0065】
また、被覆薄膜をウレタン樹脂から作製する場合、アミノ-カルボニルモノオキシ化合部を用いたin situ重合法などにより作製できる。
【0066】
また、被覆薄膜をアミド樹脂から作製する場合、アミノ酸誘導体を用いたinsitu重合法などにより作製できる。
【0067】
また、被覆薄膜をオレフィン樹脂から作製する場合、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン-ジビニルベンゼン等を用いたin situ重合法などにより作製できる。
【0068】
なお、以上の中には熱硬化性樹脂以外の樹脂も含まれているが、必要に応じて、これらの非熱硬化性樹脂を使用することもできる。
【0069】
特に、表面被膜を形成しても定着温度が大きく上昇することが少ない等の理由から、熱硬化性樹脂として尿素系樹脂が好ましい。尿素系樹脂は、濃縮型尿素系樹脂前駆体および尿素系樹脂前駆体混合物などを樹脂化することで形成できる。
【0070】
濃縮型尿素系樹脂前駆体とは、尿素および尿素誘導体の少なくとも何れか一方と、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体の少なくとも何れか一方とを部分縮合し、樹脂成分を所定濃度に調整したものを言う。
【0071】
なお、得られる尿素系樹脂被覆トナーの性能の観点からは、尿素およびホルムアルデヒドを部分縮合することが好ましい。
【0072】
部分縮合の際の仕込み比としては、尿素および尿素誘導体の少なくとも何れか一方の1モル部に対して、十分な抗ブロッキング性を実現する観点から、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体の少なくとも何れか一方を1.5モル部以上とすることが好ましく、1.7モル部以上がより好ましく、1.8モル部以上が更に好ましい。一方、十分な低温定着性を実現する観点から、2.5モル部以下が好ましく、2.3モル部以下がより好ましく、2.2モル部以下が更に好ましい。
【0073】
また、部分縮合後の樹脂成分の濃度としては、十分な抗ブロッキング性を実現する観点から、50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、一方、十分な低温定着性を実現する観点から、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。
【0074】
尿素系樹脂前駆体混合物は、尿素および尿素誘導体の少なくとも何れか一方と、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体の少なくとも何れか一方とを含む。
【0075】
また、必要に応じて、尿素、尿素誘導体、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体以外の単量体成分を共縮合させた共縮合型尿素系樹脂が好ましい場合もある。
【0076】
共縮合成分としては、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシナフタレン、ビスフェノール等の芳香族2価アルコール類などを使用する。
【0077】
中でも、非着色性の共縮合成分が好ましく、この観点から、ハイドロキノン、ジヒドロキシナフタレン、ビスフェノール等が好ましい。これらの共縮合成分を使用して作製された尿素系樹脂の表面被膜は、トナーの被覆工程や定着工程において安定であり、着色が少ないため好ましい。
【0078】
トナー表面に形成された薄膜の表面被膜の平均膜厚は、表面被膜としての十分な性能を実現する観点から、0.005μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましく、0.02μm以上が更に好ましく、一方、表面被膜の形成による定着温度の上昇を抑制する観点から、0.1μm以下が好ましく、0.08μm以下がより好ましく、0.05μm以下が更に好ましい。
【0079】
なお、トナーの要求性能上など理由から必要に応じては、1μm以下とする場合や、0.5μm以下とする場合もある。」

(カ)「【0083】
また、薄膜が表面に被覆されたトナーを、薄膜が熱破壊されない温度範囲で加熱することで、トナーの形状を整えることができる。
【0084】
具体的には、熱硬化性樹脂が熱破壊されず内包されているトナー成分が実質的に外部に漏洩しない温度範囲で、表面が被覆されたトナーを加熱する。この加熱により、内包されるトナー成分が溶融し、トナーの形状が整えられ整形される。この結果、トナーの真球度が向上し、丸み度が向上し、表面の凹凸が減少する。
【0085】
よって、この加熱工程は、表面が薄膜により被覆されたトナーの加熱整形工程と考えることができ、加熱するのみで簡便、安価および効率的にトナーの形状を球形に整えることができる。

(中略)

【0088】
加熱整形により、真球度が十分に高く、丸み度が十分に高く、表面の凹凸が少ない、表面が熱硬化性樹脂により被覆されたトナーを、簡便、安価および十分な生産性で製造できる。
【0089】
加熱整形されたトナーを使用することにより、トナーの十分な搬送性と、画像の十分な解像度とを実現できる。」

(キ)「【0111】
(表面被膜の形成)
トナー表面に薄膜を被覆する工程においては、良好な薄膜被覆を実現するためには、分散剤の選択が重要である。分散剤は、トナーを十分に分散し、トナー表面で樹脂化を十分に進行させ、薄膜形成後の洗浄工程において分散剤を十分に除去できる等の観点から選択される。洗浄工程において分散剤を十分に除去できない場合、薄膜被覆トナーの洗浄後に加熱乾燥すると、薄膜被覆トナーが結着することがある。薄膜被覆トナーが結着すると、トナーの平均粒子径および粒子径分布が乱れることとなり、結着した薄膜被覆トナーを強制的に解砕すると被膜が剥離する場合がある。
【0112】
トナーを十分に分散し、トナー表面で樹脂化を十分に進行させる観点からは、カルボキシル基などを有するアニオン性分散剤が好ましい。また、薄膜形成後の洗浄工程において分散剤を十分に除去する観点からは、分散剤の分子量は500,000以下が好ましい。

(中略)

【0117】
また、分散剤の種類としては、ポリ及びオリゴ(メタ)アクリル酸、スチレン-無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの部分加水分解開環物(開環率は30?80%が好ましい)、スチレン-無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの完全加水分解開環物、エチレン-無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの部分加水分解開環物(開環率は30?80%が好ましい)、エチレン-無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの完全加水分解開環物、イソブチレン-無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの部分加水分解開環物(開環率は30?80%が好ましい)、イソブチレン-無水マレイン酸の共重合ポリマー及びオリゴマーの完全加水分解開環物、ポリ及びオリゴビニルアルコール、ヘキサエチルセルロース由来のオリゴマー、メチルセルロース由来のオリゴマー、カルボキシメチルセルロース由来のオリゴマー、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩などを使用でき、必要に応じて2種以上を併用することもできる。

(中略)

【0120】
以上の様にして得られた薄膜被覆トナーは、被覆工程後の洗浄工程において沈降法により容易に回収でき、分散剤を容易に除去できるので、加熱乾燥しても、薄膜被覆トナー同士が結着することは殆どない。このため、加熱乾燥工程後に薄膜被覆トナを容易に解砕でき、所望の平均粒子径および粒子径分布を有する薄膜被覆トナーを製造できる。」

(ク)「【0133】
(実施例1-1)薄膜被覆トナー1-1
スチレン単量体100質量部およびn-ブチルアクリレート単量体20質量部にキナクリドン系顔料およびジ-tert-ブチルサリチル酸アルミニウム化合物を混合し5時間分散させた後、60℃に加温して2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)2.3質量部を添加し重合して、重合トナー1次粒子(ガラス転移温度:45℃)を調製した。
【0134】
得られた重合トナー1次粒子の分散液300質量部に、25質量%水溶液の25℃における溶液粘度が8,000mPa・sのポリアクリル酸をpHが4.5で濃度が5質量%となるよう添加した。更にヘキサメチロールメラミン初期重合物(昭和高分子社製、商品名:ミルベン607)8.2質量を室温で混合した。その後、得られた室温の混合物を20分で55℃に昇温し3時間で樹脂化反応を行い、加熱定着方式用トナーの表面をメラミン樹脂で被覆した。
【0135】
そして、混合物を室温まで冷却し、4,000rpmで10分の遠心により薄膜被覆トナーを沈殿させ、上澄みを除去して薄膜被覆トナーを回収した。沈降性は良好であった。
【0136】
回収された薄膜被覆トナーを再び水に懸濁し遠心沈降して上澄みを除去する操作を4回繰返し、薄膜被覆トナーを洗浄して、ポリアクリル酸を除去した。洗浄性は良好であった。
【0137】
その後、薄膜被覆トナーを40℃で加熱乾燥したが結着などが発生することはなく、簡単な解砕操作により、薄膜被覆トナー1-1を得た。
【0138】
得られた薄膜被覆トナー1-1の体積平均粒子径を測定すると8μmであり、薄膜の平均膜厚は0.03μmであった。なお、表面被膜が連続していることは、トナーの加熱整形工程において、内包されるトナーが漏洩していないことから確認できた。
【0139】
また、薄膜被覆トナー1-1について画像形成性を試験したが、トナーは十分な搬送性を有しており、十分に低温で定着でき、高品位の画像を形成できた。なお、100℃での定着が可能であった。」

イ 上記記載から、引用文献1には、次の技術事項が記載されている。

(ア)記載事項(ア)には「重合トナー1次粒子が熱硬化性樹脂を含んでなる薄膜により表面被覆されたトナー」との記載がある。そして、記載事項(ウ)の「重合トナーは、図1に示す様に、結着樹脂の原料である結着樹脂モノマーを含むトナー原料を重合してトナー1次粒子11の分散物を調製する工程と、該トナー1次粒子の分散物に熱硬化性樹脂前駆体を混合する工程と、該トナー1次粒子を溶融することなく、該熱硬化性樹脂前駆体を樹脂化して該熱硬化性樹脂を含む薄膜31を該トナー1次粒子の表面に被覆する工程とを具備する方法により製造できる。」との記載、記載事項(オ)の「薄膜被覆される熱硬化性樹脂としては、高性能のトナーを製造できるものであれば特に制限されないが、固体状のトナー上に被膜を形成するため、樹脂原料を反応場に水系媒体側からのみ供給する方式で作製できるものとされる。具体的には、in situ重合法、液中硬化被覆法、コアセルベーション法などにより作製される被膜が好ましく、反応性などの観点から、in situ重合法により作製される被膜が好ましい。」との記載、記載事項(キ)の「トナー表面に薄膜を被覆する工程においては、良好な薄膜被覆を実現するためには、分散剤の選択が重要である。分散剤は、トナーを十分に分散し、トナー表面で樹脂化を十分に進行させ、薄膜形成後の洗浄工程において分散剤を十分に除去できる等の観点から選択される。」および「また、分散剤の種類としては、ポリ及びオリゴ(メタ)アクリル酸、・・・」との記載、記載事項(ク)の「得られた重合トナー1次粒子の分散液300質量部に、25質量%水溶液の25℃における溶液粘度が8,000mPa・sのポリアクリル酸をpHが4.5で濃度が5質量%となるよう添加した。更にヘキサメチロールメラミン初期重合物(昭和高分子社製、商品名:ミルベン607)8.2質量を室温で混合した。その後、得られた室温の混合物を20分で55℃に昇温し3時間で樹脂化反応を行い、加熱定着方式用トナーの表面をメラミン樹脂で被覆した。」との記載を勘案すると、上記薄膜は、「トナー表面に薄膜を被覆する工程において、ポリ及びオリゴ(メタ)アクリル酸を分散剤として選択して重合トナー1次粒子を十分に分散し、薄膜被覆される熱硬化性樹脂の樹脂原料を反応場に水系媒体側からのみ供給するin situ重合法により作製される」ものであるといえる。そうすると、引用文献1には、「トナー表面に薄膜を被覆する工程において、ポリ及びオリゴ(メタ)アクリル酸を分散剤として選択して重合トナー1次粒子を十分に分散し、薄膜被覆される熱硬化性樹脂の樹脂原料を反応場に水系媒体側からのみ供給するin situ重合法により作製される熱硬化性樹脂を含んでなる薄膜により表面被覆された」トナーが開示されているといえる。

(イ)記載事項(カ)の「加熱整形により、真球度が十分に高く、丸み度が十分に高く、表面の凹凸が少ない、表面が熱硬化性樹脂により被覆されたトナーを、簡便、安価および十分な生産性で製造できる。」との記載によれば、引用文献1には、「加熱整形」で製造されたことにより、「真球度が十分に高く、丸み度が十分に高く、表面の凹凸が少ない」トナーが開示されているといえる。

(ウ)記載事項(イ)の「重合トナーの低凝集性(抗ブロッキング性または低ブロッキング性)および低温定着を両立することを目的とする。」との記載に、記載事項(エ)の「軟化温度の十分低い重合トナーおよび重合凝集トナーの表面を熱硬化性樹脂により被覆することにより、軟化温度を大きく上昇させることなく、十分な抗ブロッキング性を実現し、低い定着温度および低いロッキング性を両立し得る表面被覆重合トナー及び表面被覆重合凝集トナーを実現できる。」との記載及び記載事項(キ)の「薄膜被覆トナー1-1について画像形成性を試験したが、トナーは十分な搬送性を有しており、十分に低温で定着でき、高品位の画像を形成できた。」との記載を考慮すれば、引用文献1には、「低凝集性(抗ブロッキング性または低ブロッキング性)および低温定着を両立するトナー」が開示されているといえる。

ウ 以上(ア)?(ウ)の技術事項に基づけば、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「トナー表面に薄膜を被覆する工程において、ポリ及びオリゴ(メタ)アクリル酸を分散剤として選択して重合トナー1次粒子を十分に分散し、薄膜被覆される熱硬化性樹脂の樹脂原料を反応場に水系媒体側からのみ供給するin situ重合法により作製される熱硬化性樹脂を含んでなる薄膜により表面被覆された、加熱整形により、真球度が十分に高く、丸み度が十分に高く、表面の凹凸が少ない、低凝集性(抗ブロッキング性または低ブロッキング性)および低温定着を両立するトナー。」(以下、「引用発明1」という。)

2 引用文献2
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成26年3月17日に公開された刊行物である上記引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】
少なくとも結着樹脂を含むトナーコア粒子と、
前記トナーコア粒子を被覆するシェル層と、からなる静電潜像現像用トナーであって、
前記結着樹脂が、水酸基、及びカルボキシル基から選択される基を有する樹脂からなり、
前記シェル層が、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂からなり、
下記1)?8)の工程により測定される、
水を用いて測定される露出部存在比が0.20以上であるトナー粒子の割合R_(w)(個数%)、
メタノールを用いて測定される露出部存在比が0.20以上であるトナー粒子の割合R_(m)(個数%)、及び、
エタノールを用いて測定される露出部存在比が0.20以上であるトナー粒子の割合R_(e)(個数%)、
が、何れも、トナー粒子100個に対して、20個数%以下である、静電潜像現像用トナー。
1)光硬化性樹脂1.0g中にトナー0.3gを分散させたトナー含有樹脂組成物に紫外線を照射して、前記トナー含有樹脂組成物を硬化させて硬化樹脂組成物を得る工程、
2)得られた前記硬化樹脂組成物の表面を研磨して、前記硬化樹脂組成物の表面にトナー粒子の断面を露出させる工程、
3)研磨された前記硬化樹脂組成物を58℃まで昇温させ、同温度で12時間加熱する工程、
4)加熱後の前記硬化樹脂組成物を、水、メタノール、又はエタノールに浸漬し、前記硬化樹脂組成物が浸漬された水、メタノール、又はエタノールに、周波数35kHz、出力80Wで5分間超音波を照射する工程、
5)超音波照射後に、水、メタノール、又はエタノールから取り出した硬化樹脂組成物を乾燥する工程、
6)乾燥後の硬化樹脂組成物の研磨された表面を、走査型電子顕微鏡により倍率10,000倍で観察し、100個のトナー粒子の断面の電子顕微鏡画像を得る工程、
7)得られた電子顕微鏡画像から、100個のトナー粒子それぞれについて、前記トナー粒子の断面の周囲の長さである周囲長(X)と、前記トナー粒子の断面の周囲のうち、シェル層により被覆されていない部分の長さである露出部長(Y)とを測定し、下式:
露出部存在比=(Y/X)・・・・(I)
により、前記トナー粒子の露出部存在比を算出する工程、及び
8)前記トナー粒子100個に対する、露出部存在比が0.20以上であるトナー粒子数の割合を算出する工程。
【請求項2】
正帯電性である、請求項1に記載の静電潜像現像用トナー。」

(イ)「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐熱保存性、及び低温定着性に優れ、トナーを良好に帯電させることができ、逆帯電トナーの発生を抑制することにより現像部からトナーが飛散することを抑制できる、静電潜像現像用トナーを提供できる。」

(ウ)「【0056】
[シェル層]
本発明のトナーは、トナーコア粒子の表面が、シェル層により被覆されている。また、トナーコア粒子に含まれる結着樹脂は、水酸基及びカルボキシル基から選択される基を有する樹脂を含み、シェル層は、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂からなる。トナーコア粒子及びシェル層がこのような材料からなり、例えば、後述する、好適な方法によりトナーコア粒子を被覆するシェル層を形成することによって、トナーコア粒子に対して強固に結合するシェル層が形成される。
【0057】
メラミン樹脂としては、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物が挙げられ、尿素樹脂としては、尿素とホルムアルデヒドの重縮合物が挙げられる。メラミン樹脂の製造方法は、まず、メラミンとホルムアルデヒドとが付加反応して、メラミン樹脂の前駆体(メチロール化メラミン)を得る。次いで、メチロール化メラミン同士の縮合、すなわちメラミンが有するアミノ基がメチレン基を介して相互に結合されることによる、メラミンの架橋反応によって、メラミン樹脂が得られる。尿素樹脂は、メラミンに変えて尿素を用いる他はメラミン樹脂と同様の製造方法により得られる。
【0058】
シェル層の質量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。具体的には、トナーコア粒子100質量部に対して、0.5質量部以上20質量部以下が好ましく、0.7質量部以上15質量部以下がより好ましい。」

(エ)「【0071】
〔シェル層の形成方法〕
トナーコア粒子を被覆するシェル層を形成する方法は、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂によりトナーコア粒子が被覆され、R_(w)、R_(m)、及びR_(e)が、何れも、トナー粒子100個に対して、20個数%以下であるトナーが得られる限り特に限定されない。
【0072】
シェル層によるトナーコア粒子の被覆は、水、メタノール、又はエタノールのように、メラミン、又は尿素や、これらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)を溶解することができる溶媒中で行うのが好ましい。
【0073】
水、メタノール、又はエタノールのような溶媒中でシェル層を形成する場合、トナーコア粒子表面をシェル層により均一に被覆するために、トナーコア粒子をシェル層の形成に用いる溶媒中に分散させるのが好ましい。トナーコア粒子を、シェル層の形成に用いる溶媒中に分散させる方法は、トナーコア粒子をシェル層の形成に用いる溶媒中に高度に分散させることができる限り特に限定されない。トナーコア粒子の分散液を得る際には、シェル層の形成に用いる溶媒中に、トナーコア粒子を高度に分散させやすいことから、ハイビスミックス(プライミックス株式会製)のような、分散液を強力に撹拌できる装置を用いるのが好ましい。
【0074】
また、シェル層の形成に用いる溶媒には、トナーコア粒子を分散させるための分散剤を含有させることができる。シェル層の形成に用いる溶媒に分散剤を含有させる場合、トナーコア粒子を、シェル層の形成に用いる溶媒中に、安定して分散させることができる。
【0075】
分散剤の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリパラビニルフェノール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、イソプレンスルホン酸、ポリエーテル、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアスパラギン酸ナトリウム、デンプン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン及びリグニンスルホン酸ナトリウムのような化合物を用いることができる。これらの分散剤は、1種を用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
分散剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。典型的には、分散剤の使用量は、トナーコア粒子100質量部に対して75質量部以下が好ましい。
【0077】
上記の通り、シェル層を形成する際に分散剤を用いてトナーコア粒子を分散させる場合、トナーコア粒子がシェル層の形成に用いる溶媒中で高度に分散されるため、トナーコア粒子をシェル層により均一に被覆しやすい。その一方で、分散剤を用いてトナーコア粒子を分散させると、トナーコア粒子の表面に分散剤が付着するため、トナーコア粒子とシェル層との界面に分散剤が存在する状態でシェル層が形成される。そうすると、シェル層とトナーコア粒子との界面に存在する分散剤の影響により、シェル層のトナーコア粒子への付着力が弱くなり、トナーに加わる機械的ストレスにより、トナーコア粒子からシェル層が剥がれやすくなる。
【0078】
このため、分散剤を用いてシェル層の形成に用いる溶媒中にトナーコア粒子を分散させる場合には、シェル層を形成する前に、トナーコア粒子の表面に付着する分散剤を除去する必要がある。トナーコア粒子の表面に付着する分散剤を除去する方法は、特に限定されない。好適な方法としては、シェル層の形成に使用できる溶媒により、分散剤が表面に付着しているトナーコア粒子を洗浄する方法が挙げられる。トナーコア粒子の洗浄は、トナーコア粒子の凝集を防ぐために、トナーコア粒子が乾燥しないような条件で行うのが好ましい。
【0079】
トナーコア粒子に付着する分散剤を除去する際の洗浄回数は、所望の特性を備えるトナーが得られる限り特に限定されない。得られるトナーのR_(w)、R_(m)、及びR_(e)を測定し、これらの何れかが20個数%を超える場合、トナーコア粒子の洗浄回数を増やすか、トナーコア粒子の洗浄に用いる溶媒の量を増やせばよい。
【0080】
トナーコア粒子をシェル層の形成に用いる溶媒に分散させた分散液は、シェル層の形成前に酸性物質によりpHを4程度に調整されるのが好ましい。分散液のpHを酸性側に調整することで、後述するシェル層を形成させるために用いられる材料の重縮合反応が促進される。
【0081】
必要に応じてpH調整されたトナーコア粒子の分散液に、シェル層を形成させるための材料を溶解させた後、分散液中の、シェル層を形成させるための材料を反応させて、トナーコア粒子の表面を被覆するシェル層を形成する。シェル層を形成するための材料としては、メラミン及びホルムアルデヒド、尿素及びホルムアルデヒド、メラミンとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)、及び尿素とホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)が挙げられる。
【0082】
メラミン樹脂又は尿素樹脂からなるシェル層を形成する際の温度は、特に限定されないが、40℃以上80℃以下が好ましく、55℃以上70℃以下がより好ましい。このような範囲の温度下でシェル層を形成することにより、トナーコア粒子表面を被覆するシェル層の形成が良好に進行する。また、このような範囲の温度下でシェル層を形成することにより、トナーコア粒子の表面に露出する水酸基又はカルボキシル基と、シェル層を形成するための材料に含まれるメチロール基との反応により、トナーコア粒子を構成する水酸基及びカルボキシル基から選択される基を有する樹脂とシェル層を構成するメラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂との間に共有結合が形成されやすい。トナーコア粒子とシェル層とが共有結合することで、トナーコア粒子にシェル層を強固に付着させることができる。
【0083】
加熱により、分散液中のメラミン又は尿素のメチロール化物が全て反応した後、分散液を常温まで冷却してトナー粒子の分散液を得ることができる。その後、必要に応じて、トナーを洗浄する洗浄工程、トナーを乾燥する乾燥工程、及び、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させる外添工程から選択される1以上の工程を経て、トナー粒子の分散液からトナーが回収される。以下、洗浄工程、乾燥工程、及び外添工程について説明する。」

(オ)「【0095】
〔シェル形成工程〕
分散液(II)に、表3?5に記載の種類、及び量のシェル材の原料を加えた後、分散液(II)を、混合装置を用いて撹拌して、シェル材の原料をイオン交換水に溶解させた次いで、0.05N-希塩酸を用いて分散液のpHを4に調整した後、分散液(II)を、温度計及び撹拌羽根を備えた1リットルのセパラブルフラスコに移した。フラスコの内容物を70℃まで昇温した後、同温度にて、フラスコの内容物を撹拌羽根により、回転数120rpmで1時間撹拌して、トナーコア粒子表面にシェル層を形成させた。その後、フラスコの内容物を、常温まで冷却して、トナー粒子の分散液を得た。
なお、下記の市販品を表3?5に記載のシェル材の原料として用いた。
メチロール化尿素:ミルベンSUM-100(昭和電工株式会社製)
メチロールメラミン:ニカレジンS-260(日本カーバイド工業株式会社製)」

(カ)「【0104】
【表3】



イ 上記記載事項から、引用文献2には、次の技術事項が記載されている。

(ア)記載事項(ア)の「結着樹脂を含むトナーコア粒子と、前記トナーコア粒子を被覆するシェル層と、からなる静電潜像現像用トナー」及び「前記シェル層が、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂からなり、」との記載によれば、引用文献2には、「結着樹脂を含むトナーコア粒子と、前記トナーコア粒子を被覆するシェル層と、からなる静電潜像現像用トナー」が開示されており、該静電潜像現像用トナーのシェル層が「メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂」からなることも開示されている。

(イ)記載事項(エ)の「シェル層によるトナーコア粒子の被覆は、水、メタノール、又はエタノールのように、メラミン、又は尿素や、これらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)を溶解することができる溶媒中で行うのが好ましい。」との記載、「また、シェル層の形成に用いる溶媒には、トナーコア粒子を分散させるための分散剤を含有させることができる。」との記載、「分散剤の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、・・・のような化合物を用いることができる。」との記載及び、記載事項(カ)の表3に示される実施例1および実施例2の分散媒及び分散剤の記載を参酌すると、引用文献2には、シェル層の形成に用いる溶媒として「メラミン、又は尿素や、これらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)を溶解させ、トナーコア粒子を分散させるためのポリアクリル酸ナトリウムを分散剤として含有させ」たものを用いたことが開示されている。
また、記載事項(エ)の「メラミン樹脂又は尿素樹脂からなるシェル層を形成する際の温度は、特に限定されないが、40℃以上80℃以下が好ましく、55℃以上70℃以下がより好ましい。」との記載と記載事項(オ)の「フラスコの内容物を70℃まで昇温した後、同温度にて、フラスコの内容物を撹拌羽根により、回転数120rpmで1時間撹拌して、トナーコア粒子表面にシェル層を形成させた。」との記載を参酌すると、引用文献2には、「55℃以上70℃以下の温度下でシェル層を形成すること」によりシェル層を形成したことが開示されている。
さらに、記載事項(エ)の「また、このような範囲の温度下でシェル層を形成することにより、トナーコア粒子の表面に露出する水酸基又はカルボキシル基と、シェル層を形成するための材料に含まれるメチロール基との反応により、トナーコア粒子を構成する水酸基及びカルボキシル基から選択される基を有する樹脂とシェル層を構成するメラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂との間に共有結合が形成されやすい。」との記載によれば、上記溶媒を用い温度範囲で形成したシェル層が、「トナーコア粒子の表面に露出する水酸基又はカルボキシル基と、シェル層を形成するための材料に含まれるメチロール基との反応により、トナーコア粒子を構成する水酸基及びカルボキシル基から選択される基を有する樹脂とシェル層を構成するメラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂との間に共有結合が形成された」ものであることが開示されている。

(ウ)記載事項(イ)の「本発明によれば、耐熱保存性、及び低温定着性に優れ、トナーを良好に帯電させることができ、逆帯電トナーの発生を抑制することにより現像部からトナーが飛散することを抑制できる、静電潜像現像用トナーを提供できる。」との記載によれば、引用文献2には、トナーが「耐熱保存性、及び低温定着性に優れ、トナーを良好に帯電させることができ、逆帯電トナーの発生を抑制することにより現像部からトナーが飛散することを抑制できる」ものであることが開示されている。

ウ 以上(ア)?(ウ)の技術事項に基づけば、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「結着樹脂を含むトナーコア粒子と、前記トナーコア粒子を被覆するシェル層と、からなる静電潜像現像用トナーであって、前記シェル層が、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂からなり、シェル層の形成に用いる溶媒には、メラミン、又は尿素や、これらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)を溶解させ、トナーコア粒子を分散させるためのポリアクリル酸ナトリウムを分散剤として含有させ、55℃以上70℃以下の温度下でシェル層を形成することにより、トナーコア粒子の表面に露出する水酸基又はカルボキシル基と、シェル層を形成するための材料に含まれるメチロール基との反応により、トナーコア粒子を構成する水酸基及びカルボキシル基から選択される基を有する樹脂とシェル層を構成するメラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂との間に共有結合が形成された、耐熱保存性、及び低温定着性に優れ、トナーを良好に帯電させることができ、逆帯電トナーの発生を抑制することにより現像部からトナーが飛散することを抑制できるトナー。」(以下、「引用発明2」という。)

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成15年4月9日に公開された刊行物である上記引用文献3には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも結着樹脂及び着色剤を含有するトナー粒子と、微粒子とを有するトナーにおいて、
前記微粒子は、母体粒子と、この母体粒子表面に形成されタングステン元素及び酸化スズを少なくとも含有する酸化スズ層とを有し、微粒子中のスズ元素の質量比は微粒子全体に対して0.1以上0.9以下であり、微粒子中のスズ元素に対するタングステン元素のモル比は0.001以上0.3以下であり、該トナーの平均円形度は0.950?0.995であることを特徴とするトナー。

(中略)

【請求項21】 トナーの平均円形度は0.970?0.995であることを特徴とする請求項1乃至20のいずれか一項に記載のトナー。」

イ 「【0042】さらに本発明のトナーは、平均円形度が0.950?0.995であることもまた、本発明のトナーに必要な態様の一つである。
【0043】本発明におけるトナーの円形度について説明する。感光体上の非画像部へのトナー付着や転写残トナー量を低減するには、トナー粒子の帯電性が十分でかつ均一であることが必要である。さらに、高画質化の観点から微小粒径のトナーを用いる場合は、トナー粒子の付着力が増大するため、トナー粒子の形状も感光体上の非画像部へのトナー付着に大きな影響を及ぼす。すなわち、トナー粒子が球形に近く、形状が揃っているほど粒子の付着面積が減少し、感光体上の非画像部へのトナー付着や転写残トナー量が低減され、本発明の効果が一層向上し、高画質及び耐久安定性が達成される。
【0044】本発明において、トナーの平均円形度は0.950以上0.995以下であり、好ましくは0.970以上0.995以下である。平均円形度が0.970以上であると本発明の効果は一層向上し、高画質や高安定性が達成される。平均円形度が0.970以上のトナーはトナー粒子表面のエッジ部がほとんどないため、帯電部材と感光体との圧接部において感光体表面を引っ掻くことがないことから、感光体表面の削れが抑制されることも挙げられる。しかしながら平均円形度が0.995を超えてしまうと、これは粒子表面に凹凸がほとんど存在しないことを意味し、トナー表面全てが何らかのストレスを受けることになるため、耐久時に劣化しやすくなる。」

ウ 「【0051】本発明において、トナーの円形度分布の標準偏差は0.040未満であることが好ましい。トナーの円形度分布の標準偏差は、トナー粒子間での円形度のばらつきを表しており、値が0.040以上の場合は、形状が不均一なトナー粒子の存在により、長期間の使用においては、感光体へのトナー融着や、感光体表面の削れなどの問題を生じやすく好ましくない。特に、接触帯電方式の画像形成方法において、より顕著な問題となって生じやすい。」

エ 「【0254】
【発明の効果】本発明によれば、少なくとも結着樹脂及び着色剤を含有するトナー粒子と、微粒子とを有するトナーにおいて、微粒子は、母体粒子と、この母体粒子表面に形成されタングステン元素及び酸化スズを少なくとも含有する酸化スズ層とを有し、微粒子中のスズ元素の質量比が微粒子全体に対して0.1以上0.9以下であり、微粒子中のスズ元素に対するタングステン元素のモル比が0.001以上0.3以下であり、トナーの平均円形度が0.950?0.995であるトナーとすることで、環境に左右されにくく、安定した帯電性能を有し、長時間の使用においてもカブリの発生が抑制され、画像濃度の低下もなく、また、高転写性を有しているために転写残トナーが少なく、さらには感光体表面の削れキズを生じにくいために感光体表面へのトナー融着が抑制され、また定着部材の汚染も抑制され、長期間の使用においても画像欠陥のない高品位で解像性に優れた画像が長期間安定して得られる。」

4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前の平成11年10月29日に公開された刊行物である上記引用文献4には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 静電荷像現像に用いられるトナーであって、該トナーの体積平均粒径をDm、平均円形度をEm、Dm/2以下のトナー成分の平均円形度をEsとした時、Es>1.001Emなる関係にあることを特徴とする静電荷像現像用トナー。
【請求項2】 静電荷像現像に用いられるトナーであって、トナーの平均円形度Esが、0.95以上かつ平均円形度Esの標準偏差が0.040以下であることを特徴とする請求項1に記載の静電荷像現像用トナー。」

イ 「【0011】平均円形度Emは、測定トナー全体の(即ち、体積平均粒径Dmのトナー)円形度の平均値をいう。好ましい平均円形度Emは0.94から1.0、より好ましくは0.95から1.0、特に0.96?1.0である。また、平均円形度Emのトナーの標準偏差値は、好ましくは0.045以下、より好ましくは、0.040以下、特に好ましくは0.035以下である。
【0012】平均円形度Esは体積粒径がDm/2以下の粒子の平均円形度であり、この値もEmと同様好ましくは0.94から1.0、より好ましくは0.95から1.0、特に0.96?1.0であり、平均円形度Esのトナーの標準偏差値は好ましくは0.045以下、より好ましくは、0.040以下、特に好ましくは0.035以下である。
【0013】本発明においては、Esは1.001Emより大きい事が必要であり、Esがそれより小さいと本発明の目的を十分に果たす事が出来ない。より好ましくはEs>1.002Emである。
【0014】トナーの円形度の標準偏差値が上記範囲より大きいことは、トナー形状が不均一であることを意味している。したがって、トナーの円形度の標準偏差値を上記範囲に設定することにより、トナーの流動性が向上し、トナーの表面電荷密度が均一となり、帯電量にばらつきが少なくなることより、帯電量の比較的高い小径成分が先に、トナー坦持体に供給され、かつ、消費されていく現象が押さえられ、初期から長期にわたって安定した品質を確保することが可能となる。
【0015】表面の均質性ならびに1個1個の粒子における、ばらつきを低減することにより、例えば、トナーにおいては、帯電の立ち上がり特性が向上し、また、帯電量分布のシャープ化が達成できる為、カブリ等のノイズが少なく、画像品位の向上が図れる。さらにこのことにより、選択現像等の現象(特定の粒径・帯電量のトナーから先に消費されていく現象)等が発生せず、耐刷時においても安定的なトナー品質が確保できる。従って、特に初期において、帯電量の高い小径成分が多くなるという現象を押さえることが可能となる為、移動性(現像性、転写性)等の効率についても向上させることが可能となる為、マシンの設定条件のウィンドウが広がる。
【0016】この様な効果は特に、小粒径のトナーの上記特数を調整する事によって顕著な効果が得られる。即ち、Dm/2以下のトナーの平均円形度Esを0.95以上でかつEsの標準偏差値が0.040以下であるトナーにおいて好結果が得られる。本発明においてはさらにトナー表面の凹凸や割れ目、細孔などを有しないものが好ましく、従ってD/d50(式中、D=6(ρ・S)(式中、Dはトナーの形状を球としたときの、比表面積からの換算値(μm)、d50は粒径別相対重量分布の50%相当粒径(μm)、ρは密度(g/cm^(2))、SはBET比表面積(m^(2)/g)をそれぞれ表す)において、D/d50が0.50以上、磁性トナーの場合は0.20以上、好ましくは0.25以上のものが好ましい。このD/d50はトナーの粒子表面または内部に細孔のあることを示す指標であり、上記値を有するトナーであれば細孔部を中心にしてトナーが割れたり、凹部に外添剤などが埋め込まれたり、凸部が削られて微粉が発生するのが抑制できる。従ってトナー特性は長期にわたって維持する事が出来る。」

ウ 「【0132】
【発明の効果】本発明トナーにおいては、トナー中の小径トナーの帯電量が下がり、現像スリーブ上への優先的な取り込みが軽減でき、また、小径トナーは従来に比べ現像スリーブから離れ易くなって粒径に係わりなく均一な現像を達成でき、更には、現像スリーブと規制部材との間を通過する際のストレスに耐え得るだけの強度を持たせることが出来た。これらの総合作用により、長期にわたって安定した画質を維持することが可能となった。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について/引用発明1
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。

ア 引用発明1の「低凝集性(抗ブロッキング性または低ブロッキング性)および低温定着を両立するトナー」は、低凝集性を有するとされることから、当然複数のトナー粒子を含むものといえるものであり、本願発明1の「複数のトナー粒子を含むトナー」であるとする要件を満たしている。そして、引用発明1の「重合トナー1次粒子」および「薄膜被覆」は、それぞれ、本願発明1の「コア」および「シェル層」に相当する。したがって、引用発明1のトナーは、本願発明1の「複数のトナー粒子を含むトナーであって、前記トナー粒子は、コアと、前記コアの表面に形成されたシェル層とを有」するという要件を満たすものである。

イ 引用発明1の「薄膜被覆される熱硬化性樹脂の樹脂原料」は、本願発明1の「熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマー」に相当するものであるから、引用発明1の「熱硬化性樹脂の樹脂原料を反応場に水系媒体側からのみ供給するin situ重合法により作製される熱硬化性樹脂」は、本願発明1の「熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位」を含むものといえる。そして、引用発明1の「薄膜被覆」は、「薄膜被覆される熱硬化性樹脂の樹脂原料を反応場に水系媒体側からのみ供給するin situ重合法により作製される熱硬化性樹脂を含んでなる」ものであるから、引用発明1の「薄膜被覆」が、「薄膜被覆される熱硬化性樹脂の樹脂原料を反応場に水系媒体側からのみ供給するin situ重合法により作製される熱硬化性樹脂を含んでなる」ことと本願発明1の「前記シェル層は、熱可塑性樹脂に由来する単位と、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位とを含」むこととは、「前記シェル層は」、「熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位を含」む点で共通する。

そうすると、本願発明1と引用発明1とは、
「複数のトナー粒子を含むトナーであって、前記トナー粒子は、コアと、前記コアの表面に形成されたシェル層とを有し、前記シェル層は、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位を含むトナー。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1-1]本願発明1のシェル層は、「熱可塑性樹脂に由来する単位」を含み、「前記シェル層において、前記熱可塑性樹脂に由来する単位は前記熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位で架橋され」るのに対し、引用発明1の薄皮被覆は、「ポリ及びオリゴ(メタ)アクリル酸」に由来する単位を含むものか明らかでない点。
[相違点1-2]本願発明1のトナーは、平均円形度は0.965以上0.975以下であり、トナーに含まれる円形度0.85以下のトナー粒子の量は0.5個数%未満であるのに対し、引用発明1のトナーは、平均円形度および円形度0.85以下のトナー粒子の量を制限していない点。
[相違点1-3]本願発明1のトナーは、トナー変位率が0.50%以上0.70%以下であるのに対し、引用発明1のトナーは、トナー変位率を特定していない点。

(2)判断
[相違点1-2]について検討する。
引用発明1の「トナー」は、「加熱整形により、真球度が十分に高く、丸み度が十分に高く、表面の凹凸が少ない」ものである。この点に関して、引用文献1の記載事項(カ)の段落【0083】?【0089】によれば、加熱整形されたトナーを使用することにより、トナーの十分な搬送性と、画像の十分な解像度とを実現するものである。当該記載事項によれば、引用発明1は、真球度が高いほど望ましいものであるから、平均円形度(真球度)を特定の数値範囲とすること、特に、上限値を定めることについて何ら示唆をするものではない。また、その効果も、十分な搬送性を有するというものであり、本願発明1が求める「ブレードクリーニング性」とは異なるものであり、引用発明1の平均円形度が、本願発明1における平均円形度の範囲に含まれるとする根拠を見いだせない。
また、引用文献3には、記載事項アおよびイにおいて、トナーの平均円形度を特定の範囲とすることが記載されているが、本願発明1における範囲と異なっている。そして、引用文献3の数値範囲は、トナー粒子が球形に近く、形状が揃っているほど粒子の付着面積が減少し、感光体上の非画像部へのトナー付着や転写残トナー量が低減されるための数値範囲であり、本願発明1が求める「ブレードクリーニング性」を向上させるものではない。さらに、引用文献4には、記載事項アおよびイにおいて、トナーの平均円形度Esを0.95以上とすることが記載されているものの、上限値を定める点について何ら開示しておらず、長期にわたって安定した画質を維持しようとするものであって「ブレードクリーニング性」を向上させるものではない。以上より、たとえ、トナーの平均円形度を制御することが周知技術であったとしても、本願発明1の範囲内に制御することが周知技術であったとはいえないものでありその効果も異なるものであるから、引用発明1において、平均円形度を本願発明1において特定する範囲とする動機付けを見いだせず、その効果も異なるものである。
したがって、引用発明1において、平均円形度を0.965以上0.975以下とし、トナーに含まれる円形度0.85以下のトナー粒子の量は0.5個数%未満とすることが当業者にとって容易であったとはいえない。

なお、引用文献1の段落【0083】には、「また、薄膜が表面に被覆されたトナーを、薄膜が熱破壊されない温度範囲で加熱することで、トナーの形状を整えることができる。」と記載されていることから、引用文献1には、加熱整形により真球度を十分に高くしていないトナーに関する発明も開示されているといえる。しかしながら、真球度を十分に高くしていないトナーは、本願発明1における平均円形度の範囲を下回ることになる。したがって、この場合も、本願発明1における平均円形度の範囲に含まれるとする根拠を見いだせない。

(3)むすび
以上のとおり、引用発明1において、本願発明1の[相違点1-2]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえないものであるから、[相違点1-1]および[相違点1-3]について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであり、進歩性を有する。

2 本願発明2,3について/引用発明1
本願発明2及び本願発明3は、何れも、本願発明1の相違点[1-2]と同一の構成を具備するものである。本願発明1が、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであるから、同じ[相違点1-2]を具備する本願発明2及び本願発明3も、同様の理由によって、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであり、進歩性を有する。

3 本願発明1について/引用発明2
(1)対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。

ア 引用発明2の「結着樹脂を含むトナーコア粒子と、前記トナーコア粒子を被覆するシェル層と、からなる静電潜像現像用トナー」は、当然複数の粒子を含むものであるから、本願発明1の「複数のトナー粒子を含むトナーであって、前記トナー粒子は、コアと、前記コアの表面に形成されたシェル層とを有」するものに相当する。

イ 引用発明2のシェル層は、「メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂からなり、シェル層の形成に用いる溶媒には、メラミン、又は尿素や、これらとホルムアルデヒドとの付加反応によって生成される前駆体(メチロール化物)を溶解させ、トナーコア粒子を分散させるためのポリアクリル酸ナトリウムを分散剤として含有させ、55℃以上70℃以下の温度下でシェル層を形成する」ものであるから、シェル層は、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位を含むものといえる。そうすると、引用発明2の「前記シェル層が、メラミン樹脂、及び尿素樹脂から選択される樹脂からな」ることと、本願発明1の「前記シェル層は、熱可塑性樹脂に由来する単位と、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位とを含」むこととは、「前記シェル層は、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位を含」む点で共通する。

そうすると、本願発明1と引用発明2とは、
「複数のトナー粒子を含むトナーであって、前記トナー粒子は、コアと、前記コアの表面に形成されたシェル層とを有し、前記シェル層は、熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位を含むトナー。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点2-1]本願発明1のシェル層は、「熱可塑性樹脂に由来する単位」を含み、「前記シェル層において、前記熱可塑性樹脂に由来する単位は前記熱硬化性樹脂のモノマー又はプレポリマーに由来する単位で架橋され」るのに対し、引用発明2のシェル層は、「ポリアクリル酸ナトリウム」に由来する単位を含むものか明らかでない点。
[相違点2-2]本願発明1のトナーは、平均円形度は0.965以上0.975以下であり、トナーに含まれる円形度0.85以下のトナー粒子の量は0.5個数%未満であるのに対し、引用発明2のトナーは、平均円形度および円形度0.85以下のトナー粒子の量を制限していない点。
[相違点2-3]本願発明1のトナーは、トナー変位率が0.50%以上0.70%以下であるのに対し、引用発明2のトナーは、トナー変位率を特定していない点。

(2)判断
[相違点2-2]について検討する。
引用発明2は、記載事項(イ)によると、耐熱保存性および低温定着性に優れたトナーではあるものの、トナーを良好に帯電させることができ、逆帯電トナーの発生を抑制することにより現像部からトナーが飛散することを抑制できるものである。そして、引用発明2は、平均円形度や円形度0.85以下のトナー粒子の量について何ら特定していない。そして、トナーを良好に帯電させることができることによって、平均円形度の範囲が本願発明1の範囲に含まれるといえる根拠も見いだせない。
また、[相違点1-2]において検討したとおり、引用文献3および引用文献4の記載を参酌しても、引用文献3が示す数値範囲は、本願発明1が求める「ブレードクリーニング性」を向上させるものではなく、引用文献4が示すトナーの平均円形度Esを0.95以上とすることも、長期にわたって安定した画質を維持しようとするものであって「ブレードクリーニング性」を向上させるものではない。以上より、たとえ、トナーの平均円形度を制御することが周知技術であったとしても、本願発明1の範囲に制御することが周知技術であったとはいえないものであり、引用発明2において、平均円形度を本願発明1において特定する範囲とする動機付けを見いだせず、その効果も異なるものである。
したがって、引用発明2において、平均円形度を0.965以上0.975以下とし、トナーに含まれる円形度0.85以下のトナー粒子の量を0.5個数%未満とすることが当業者にとって容易であったとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、引用発明2において、本願発明1の[相違点2-2]に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえないものであるから、[相違点2-1]および[相違点2-3]について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものをはいえないものであり、進歩性を有する。

4 本願発明2,3について/引用発明2
本願発明2及び本願発明3は、何れも、本願発明1の相違点[2-2]と同一の構成を具備するものである。本願発明1が、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであるから、同じ[相違点2-2]を具備する本願発明2及び本願発明3も、同様の理由によって、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないものであり、進歩性を有する。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?3は、引用発明1または引用発明2と同一であるといえず、引用発明1または引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-25 
出願番号 特願2014-155005(P2014-155005)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (G03G)
P 1 8・ 121- WY (G03G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 宮澤 浩
清水 康司
発明の名称 トナー  
代理人 前井 宏之  

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