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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10M |
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管理番号 | 1332579 |
審判番号 | 不服2015-17251 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-09-18 |
確定日 | 2017-09-14 |
事件の表示 | 特願2014- 1194「潤滑油基油及びその製造方法並びに潤滑油組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月 8日出願公開、特開2014- 80622〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年3月25日に出願した特願2008-78582号の一部を平成26年1月7日に新たな特許出願として分割したものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成26年1月7日 上申書 平成27年2月5日付け 拒絶理由通知書 平成27年4月13日 意見書・手続補正書 平成27年6月18日付け 拒絶査定 平成27年9月18日 審判請求書・手続補正書 平成28年1月29日付け 前置報告書 平成28年2月12日 上申書 平成29年1月26日付け 拒絶理由通知書 平成29年4月3日 意見書・手続補正書 第2 本願発明 本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成29年4月3日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 尿素アダクト値が4?6質量%であり、粘度指数が100以上であり、100℃における動粘度が2.0?11mm^(2)/sであり、40℃における動粘度が8.0?50mm^(2)/sであり、飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上であり、且つ、当該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1?60質量%であることを特徴とする潤滑油基油。」 第3 平成29年1月26日付け拒絶理由の概要 平成29年1月26日付け拒絶理由は、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、この出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、および、本願発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、という理由を含むものである。 第4 当審の判断 1.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)発明の詳細な説明の記載事項 発明の詳細な説明における潤滑油基油に関連する主な記載事項は,以下のとおりである。 ア 「【0002】 従来、潤滑油の分野では、高度精製鉱油等の潤滑油基油に流動点降下剤等の添加剤を配合することによって、潤滑油の低温粘度特性の改善が図られている(例えば、特許文献1?3を参照)。また、高粘度指数基油の製造方法としては、減圧蒸留留出油(WVGO)等の原料油について水素化分解、脱ろう処理後脱芳香族処理、又は脱芳香族処理後脱ろう処理を行う工程による方法が知られている(例えば、特許文献4を参照)。 【0003】 潤滑油基油及び潤滑油の低温粘度特性の評価指標としては、流動点、曇り点、凝固点などが一般的である。また、ノルマルパラフィンやイソパラフィンの含有量等の潤滑油基油に基づき低温粘度特性を評価する手法も知られている。しかし、上記水素化分解基油についても、凝固点や流動点が同じにもかかわらず、基油単体もしくは組成物の低温特性が異なる場合が見られるため、適切な評価指標の特定及びその指標に基づき低温粘度特性の良好な基油を製造する方法が求められていた。 ・・・・・・ 【0005】 近年潤滑油の省燃費特性の向上が求められ、そのための手段として、潤滑油の低温粘度特性の向上、更には低温粘度特性と粘度-温度特性とを両立させる必要性は益々高くなっており、上記従来の評価指標に基づき低温性能が良好であると判断された潤滑油基油を用いた場合であっても、かかる要求特性を十分に満足させることが困難となっている。 【0006】 また、減圧蒸留留出油(WVGO)を原料として水素化分解して得られる、高粘度指数を有する高性能基油(グループIII)は、現在の最高品質のエンジン油を製造するには欠かせない基油である。この基油は高粘度指数を有するため、粘度温度特性に優れ、常温領域での粘度を低くすることができ、燃費向上に大きな影響を及ぼす。ところが最近では、燃費の更なる向上が求められており、特にエンジンの低温始動時の燃費の向上が求められている。そのため、更なる基油粘度の低下検討など基油物性による改良と、添加剤の添加により低温粘度を下げる検討がなされている。しかし、基油粘度の低下は、潤滑の信頼性の低下を引き起こす可能性がありかつエンジン油のAPI規格である蒸発性が外れる可能性があるため、限度がある。また潤滑油基油への添加剤の配合により上記特性をある程度改善することはできても、この手法にも限界がある。特に、流動点降下剤は、配合量を増加させてもその効果が濃度と比例関係ではなく、また、配合量の増加に伴ってせん断安定性が低下してしまう。 【0007】 また、前記したように、基油の流動点、凝固点等が同じにもかかわらず、低温粘度に大きな差異の出ることもあり、基油の低温特性を決定する因子の特定が必要と考えられている。 【0008】 本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、潤滑油の低温粘度特性の向上、更には粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油基油及びその製造方法、並びに当該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物を提供することを目的とする。」 イ 「【0009】 本発明者は、上記目的を達成するために、基油の低温特性が含有するワックス分に影響される点に着目し、低温粘度特性を支配するワックス量の適切な評価指標を確立するとともに、効率よく基油の低温粘度特性を改良し、低温粘度特性及び粘度-温度特性に優れた基油及びその製造方法を完成するに至った。 【0010】 すなわち、本発明は、尿素アダクト値が4?6質量%であり、粘度指数が100以上であり、飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上であり、且つ、当該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1?60質量%であることを特徴とする潤滑油基油を提供する。 また、本発明は、尿素アダクト値が4?6質量%であり、且つ粘度指数が100以上であることを特徴とする潤滑油基油を提供する。 【0011】 なお、本発明でいう尿素アダクト値は以下の方法により測定される。秤量した試料油(潤滑油基油)100gを丸底フラスコに入れ、尿素200g、トルエン360ml及びメタノール40mlを加えて室温で6時間攪拌する。これにより、反応液中に尿素アダクト物として白色の粒状結晶が生成する。反応液を1ミクロンフィルターでろ過することにより、生成した白色粒状結晶を採取し、得られた結晶をトルエン50mlで6回洗浄する。回収した白色結晶をフラスコに入れ、純水300ml及びトルエン300mlを加えて80℃で1時間攪拌する。分液ロートで水相を分離除去し、トルエン相を純水300mlで3回洗浄する。トルエン相に乾燥剤(硫酸ナトリウム)を加えて脱水処理を行った後、トルエンを留去する。このようにして得られた尿素アダクト物の試料油に対する割合(質量百分率)を尿素アダクト値と定義する。 【0012】 また、本発明でいう粘度指数、並びに後述する40℃又は100℃における動粘度とは、それぞれJIS K 2283-1993に準拠して測定された粘度指数及び40℃又は100℃における動粘度を意味する。 【0013】 本発明の潤滑油基油によれば、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことによって、低温粘度特性の向上及び粘度-温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立させることが可能となる。また、本発明の潤滑油基油に流動点降下剤等の添加剤が配合された場合には、その添加効果を有効に発現させることができる。したがって、本発明の潤滑油基油は、近時の低温粘度特性と粘度-温度特性との両立に対する要求に応える潤滑油基油として非常に有用である。更に、本発明の潤滑油基油によれば、上述した優れた粘度-温度特性により実用温度範囲における粘度抵抗や攪拌抵抗を低減することができる。特に、本発明の潤滑油基油は、0℃以下の低温条件において、粘性抵抗や攪拌抵抗を大幅に低減することによりその効果を発揮することができ、当該潤滑油基油が適用される装置におけるエネルギー損失を低減し、省エネルギー化を達成できる点で非常に有用である。 【0014】 なお、従来、水素化分解による潤滑油基油の製造方法においてノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化率の向上が検討されているが、本発明者らの検討によれば、単に水素化分解の分解率をあげてノルマルパラフィンの残存量を低減するだけでは低温粘度特性を十分に改善することは困難である。また、ノルマルパラフィン及びイソパラフィンの分析にはガスクロマトグラフィー(GC)やNMRなどの分析手法が適用されるが、これらの分析手法ではイソパラフィンの中から低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分を分離又は特定することは、煩雑な作業や多大な時間を要するなど実用上有効であるとはいえない。 【0015】 これに対して、本発明における尿素アダクト値の測定においては、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分、更には潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンを精度よく且つ確実に捕集することができるため、潤滑油基油の低温粘度特性の評価指標として優れている。なお、本発明者らは、GC及びNMRを用いた分析により、尿素アダクト物の主成分が、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認している。 【0016】 また、本発明は、得られる被処理物の尿素アダクト値が4?6質量%の範囲、粘度指数が100以上、飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上、且つ、当該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1?60質量%となるように、減圧蒸留留出油、減圧蒸留留出油のマイルドハイドロクラッキング処理油、脱れき油、脱れき油のマイルドハイドロクラッキング処理油又はこれらの2種以上の混合油を原料として、水素化分解触媒の存在下で水素化分解を行い、更に、脱芳香族処理及び脱ろう処理を組み合せて処理する潤滑油基油の製造方法であって、前記水素化分解は、全圧力が100?130kg/cm^(2)の中低圧、温度が360?440℃、LHSVが0.2?0.3hr^(-1)の低LHSV、水素対原料油比が2,500?5,000s.c.f/bbl-原料油である反応条件で行なわれ、前記脱芳香族処理は、溶剤脱芳香族処理又は高圧水素化脱芳香族処理であり、前記溶剤脱芳香族処理は、溶剤にフルフラールを用い、溶剤/油容積比4以下、温度90?150℃で行なわれ、ラフィネート収率が60容積%以上となるように操作され、前記高圧水素化脱芳香族処理は、アルミナ担体にVIb族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した触媒の存在下、全圧力150?200kg/cm^(2)、温度280?350℃、LHSV0.2?2.0hr^(-1)の条件で行なわれ、前記脱ろう処理は、溶剤脱ろう処理又は接触脱ろう処理であり、前記溶剤脱ろう処理は、溶剤としてベンゼン、トルエン、アセトン又はベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)の混合溶剤を使用し、脱ろう油が所定の流動点になるように、溶剤/油の容積比が0.5?5.0、温度が-5?-45℃である処理条件で行なわれ、前記接触脱ろう処理は、ペンタシル型ゼオライトを触媒とし、水素流通下、脱ろう油が所定の流動点になるように、全圧力が10?70kg/cm^(2)、温度が240?400℃、LHSVが0.1?3.0hr^(-1)である反応条件で行なわれることを特徴とする潤滑油基油の製造方法を提供する。 また、本発明は、得られる被処理物の尿素アダクト値が4?6質量%の範囲であり且つ粘度指数が100以上となるように、減圧蒸留留出油、減圧蒸留留出油のマイルドハイドロクラッキング処理油、脱れき油、脱れき油のマイルドハイドロクラッキング処理油又はこれらの2種以上の混合油を原料として、水素化分解触媒の存在下で水素化分解を行い、更に、脱芳香族処理及び脱ろう処理を組み合せて処理する潤滑油基油の製造方法であって、前記水素化分解は、全圧力が100?130kg/cm^(2)の中低圧、温度が360?440℃、LHSVが0.2?0.3hr^(-1)の低LHSV、水素対原料油比が2,500?5,000s.c.f/bbl-原料油である反応条件で行なわれ、前記脱芳香族処理は、溶剤脱芳香族処理又は高圧水素化脱芳香族処理であり、前記溶剤脱芳香族処理は、溶剤にフルフラールを用い、溶剤/油容積比4以下、温度90?150℃で行なわれ、ラフィネート収率が60容積%以上となるように操作され、前記高圧水素化脱芳香族処理は、アルミナ担体にVIb族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した触媒の存在下、全圧力150?200kg/cm^(2)、温度280?350℃、LHSV0.2?2.0hr^(-1)の条件で行なわれ、前記脱ろう処理は、溶剤脱ろう処理又は接触脱ろう処理であり、前記溶剤脱ろう処理は、溶剤としてベンゼン、トルエン、アセトン又はベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)の混合溶剤を使用し、脱ろう油が所定の流動点になるように、溶剤/油の容積比が0.5?5.0、温度が-5?-45℃である処理条件で行なわれ、前記接触脱ろう処理は、ペンタシル型ゼオライトを触媒とし、水素流通下、脱ろう油が所定の流動点になるように、全圧力が10?70kg/cm^(2)、温度が240?400℃、LHSVが0.1?3.0hr^(-1)である反応条件で行なわれることを特徴とする潤滑油基油の製造方法を提供する。 【0017】 本発明の潤滑油基油の製造方法によれば、得られる被処理物の尿素アダクト値が4?6質量%、且つ粘度指数が100以上となるように、上記特定の原料油について水素化分解を行い、脱芳香族処理又は脱ろう処理のいずれか1つ又は2つ以上の組合せによる処理を行うことによって、粘度-温度特性と低温粘度特性とが高水準で両立された潤滑油基油を確実に得ることができる。なお、脱芳香族処理と脱ろう処理との順序は特に制限されず、脱芳香族処理を行った後で脱ろう処理を行ってもよく、あるいは、脱ろう処理を行った後で脱芳香族処理を行ってもよい。 【0018】 また、本発明は、上記本発明の潤滑油基油を含有することを特徴とする潤滑油組成物を提供する。 【0019】 本発明の潤滑油組成物は、上述のように優れた特性を有する本発明の潤滑油基油を含有するものであるため、低温粘度特性に優れ、粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油組成物として有用である。また、上述のように、本発明の潤滑油基油は添加剤が配合された場合にその添加効果を有効に発現させることができるものであるため、本発明の潤滑油組成物は各種添加剤を好適に含有することができる。」 ウ 「【0020】 本発明によれば、低温粘度特性に優れ、粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油基油及びその製造方法、並びに当該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物が提供される。」 エ 「【0022】 本発明の潤滑油基油は、尿素アダクト値が4?6質量%、且つ粘度指数が100以上のものである。 【0023】 また、本発明の潤滑油基油の尿素アダクト値は、粘度-温度特性を損なわずに低温粘度特性を改善する観点から、上述の通り4?6質量%であることが必要であり、好ましくは4.0?5.8質量%、より好ましくは4.0?5.6質量%、更に好ましくは4.0?5.4質量%である。また、尿素アダクト値が前記範囲内であると、潤滑油基油の製造工程において脱ろう処理を行うに際し、脱ろう条件を緩和することができ、経済性にも優れるため好ましい。 【0024】 本発明の潤滑油基油の粘度指数は、粘度-温度特性の観点から、上述の通り100以上であることが必要であり、好ましくは110以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは130以上、特に好ましくは140以上である。粘度指数が100に満たない場合には、良好な低温粘度特性が得られないおそれがある。 ・・・・・・ 【0044】 上記の製造方法により得られる本発明の潤滑油基油においては、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たせば、その他の性状は特に制限されないが、本発明の潤滑油基油は以下の条件を更に満たすものであることが好ましい。 【0045】 本発明の潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは0.1?60質量%、より好ましくは0.5?55質量%、更に好ましくは1?52質量%、特に好ましくは5?50質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。 【0046】 なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる傾向にある。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が60質量%を超えると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。 【0047】 本発明において、飽和分に占める環状飽和分の割合が30?50質量%であることは、飽和分に占める非環状飽和分が70?50質量%であることと等価である。ここで、非環状飽和分にはノルマルパラフィン及びイソパラフィンの双方が包含される。本発明の潤滑油基油に占めるノルマルパラフィン及びイソパラフィンの割合は、尿素アダクト値が上記条件を満たせば特に制限されないが、イソパラフィンの割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは40?70質量%、より好ましくは42?65質量%、更に好ましくは44?60質量%、特に好ましくは45?55質量%である。潤滑油基油に占めるイソパラフィンの割合が前記条件を満たすことにより、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。 ・・・・・・ 【0053】 また、本発明の潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.05?3質量%、更に好ましくは0.1?1質量%、特に好ましくは0.1?0.5質量%である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明の潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を0.05質量%以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。 ・・・・・・ 【0055】 また、本発明の潤滑油基油の%C_(P)は、好ましくは80以上、より好ましくは82?99、更に好ましくは85?98、特に好ましくは90?97である。潤滑油基油の%C_(P)が80未満の場合、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%C_(P)が99を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。 【0056】 また、本発明の潤滑油基油の%C_(N)は、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、より好ましくは1?12、更に好ましくは3?10である。潤滑油基油の%C_(N)が20を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%C_(N)が1未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。 【0057】 また、本発明の潤滑油基油の%C_(A)は、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.6以下、更に好ましくは0.1?0.5である。潤滑油基油の%C_(A)が0.7を超えると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、本発明の潤滑油基油の%C_(A)は0であってもよいが、%C_(A)を0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。 【0058】 更に、本発明の潤滑油基油における%C_(P)と%C_(N)との比率は、%C_(P)/%C_(N)が7以上であることが好ましく、7.5以上であることがより好ましく、8以上であることが更に好ましい。%C_(P)/%C_(N)が7未満であると、粘度-温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%C_(P)/%C_(N)は、200以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、50以下であることが更に好ましく、25以下であることが特に好ましい。%C_(P)/%C_(N)を200以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。 ・・・・・・ 【0063】 また、本発明の潤滑油基油の動粘度は、その100℃における動粘度は、好ましくは1.5?20mm^(2)/s、より好ましくは2.0?11mm^(2)/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が1.5mm^(2)/s未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が20mm^(2)/sを超える潤滑油基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、分解率を高めることが困難となるため好ましくない。 【0064】 本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。 (I)100℃における動粘度が1.5mm^(2)/s以上3.5mm^(2)/s未満、より好ましくは2.0?3.0mm^(2)/sの潤滑油基油 (II)100℃における動粘度が3.0mm^(2)/s以上4.5mm^(2)/s未満、より好ましくは3.5?4.1mm^(2)/sの潤滑油基油 (III)100℃における動粘度が4.5?20mm^(2)/s、より好ましくは4.8?11mm^(2)/s、特に好ましくは5.5?8.0mm^(2)/sの潤滑油基油。 【0065】 また、本発明の潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0?80mm^(2)/s、より好ましくは8.0?50mm^(2)/sである。本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。 (IV)40℃における動粘度が6.0mm^(2)/s以上12mm^(2)/s未満、より好ましくは8.0?12mm^(2)/sの潤滑油基油 (V)40℃における動粘度が12mm^(2)/s以上28mm^(2)/s未満、より好ましくは13?19mm^(2)/sの潤滑油基油 (VI)40℃における動粘度が28?50mm^(2)/s、より好ましくは29?45mm^(2)/s、特に好ましくは30?40mm^(2)/sの潤滑油基油。 【0066】 上記潤滑油基油(I)及び(IV)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度-温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、粘性抵抗や撹拌抵抗を著しく低減することができる。また、流動点降下剤を配合することにより、-40℃におけるMRV粘度を10000mPa・s以下とすることができる。なお、-40℃におけるMRV粘度とは、JPI-5S-42-93に準拠して測定された粘度を意味する。 【0067】 また、上記潤滑油基油(II)及び(V)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度-温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、更には揮発防止性及び潤滑性に優れる。例えば、潤滑油基油(II)及び(V)においては、-35℃におけるCCS粘度を3000mPa・s以下とすることができる。 【0068】 また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)は、尿素アダクト値及び粘度指数がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、粘度-温度特性と低温粘度特性とを高水準で両立することができ、特に、低温粘度特性に優れ、更には揮発防止性、熱・酸化安定性及び潤滑性に優れる。例えば、潤滑油基油(III)及び(VI)においては、-35℃におけるCCS粘度を20000mPa・s以下とすることができる。 【0069】 また、本発明の潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-15℃以下、更に好ましくは-17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269-1987に準拠して測定された流動点を意味する。 【0070】 また、本発明の潤滑油基油の-35℃におけるCCS粘度は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の-35℃におけるCCS粘度は、好ましくは1000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の-35℃におけるCCS粘度は、好ましくは5000mPa・s以下、より好ましくは4500mPa・s以下、更に好ましくは4000mPa・s以下、更に好ましくは3500mPa・s以下、特に好ましくは3000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の-35℃におけるCCS粘度は、好ましくは18000mPa・s以下、より好ましくは15000mPa・s以下である。-35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう-35℃におけるCCS粘度とは、JIS K 2010-1993に準拠して測定された粘度を意味する。 【0071】 また、本発明の潤滑油基油の15℃における密度(ρ_(15))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(1)で表されるρの値以下であること、すなわちρ_(15)≦ρであることが好ましい。 ρ=0.0025×kv100+0.816 (1) [式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm^(2)/s)を示す。] 【0072】 なお、ρ_(15)>ρとなる場合、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。 【0073】 例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のρ_(15)は、好ましくは0.825以下、より好ましくは0.820以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のρ_(15)は、好ましくは0.835以下、より好ましくは0.830以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のρ_(15)は、好ましくは0.840以下、より好ましくは0.835以下である。 ・・・・・・ 【0075】 また、本発明の潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(2)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。 A=4.3×kv100+100 (2) [式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm^(2)/s)を示す。] 【0076】 なお、AP<Aとなる場合、粘度-温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。 【0077】 例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のAPは、好ましくは105℃以上、より好ましくは108℃以上である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のAPは、好ましくは110℃以上、より好ましくは113℃以上である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のAPは、好ましくは120℃以上、より好ましくは123℃以上である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256-1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。 【0078】 また、本発明の潤滑油基油の蒸留性状は、ガスクロマトグラフィー蒸留で、初留点(IBP)が290?440℃、終点(FBP)が430?580℃であることが好ましく、かかる蒸留範囲にある留分から選ばれる1種又は2種以上の留分を精留することにより、上述した好ましい粘度範囲を有する潤滑油基油(I)?(III)及び(IV)?(VI)を得ることができる。 【0079】 例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは260?340℃、より好ましくは270?330℃、更に好ましくは280?320℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは310?390℃、より好ましくは320?380℃、更に好ましくは330?370℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは340?440℃、より好ましくは360?430℃、更に好ましくは370?420℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは405?465℃、より好ましくは415?455℃、更に好ましくは425?445℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは430?490℃、より好ましくは440?480℃、更に好ましくは450?490℃である。また、T90-T10は、好ましくは60?140℃、より好ましくは70?130℃、更に好ましくは80?120℃である。また、FBP-IBPは、好ましくは140?200℃、より好ましくは150?190℃、更に好ましくは160?180℃である。また、T10-IBPは、好ましくは40?100℃、より好ましくは50?90℃、更に好ましくは60?80℃である。また、FBP-T90は、好ましくは5?60℃、より好ましくは10?55℃、更に好ましくは15?50℃である。 【0080】 また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは310?400℃、より好ましくは320?390℃、更に好ましくは330?380℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは350?430℃、より好ましくは360?420℃、更に好ましくは370?410℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは390?470℃、より好ましくは400?460℃、更に好ましくは410?450℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは420?490℃、より好ましくは430?480℃、更に好ましくは440?470℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは450?530℃、より好ましくは460?520℃、更に好ましくは470?510℃である。また、T90-T10は、好ましくは40?100℃、より好ましくは45?90℃、更に好ましくは50?80℃である。また、FBP-IBPは、好ましくは110?170℃、より好ましくは120?160℃、更に好ましくは130?150℃である。また、T10-IBPは、好ましくは5?60℃、より好ましくは10?55℃、更に好ましくは15?50℃である。また、FBP-T90は、好ましくは5?60℃、より好ましくは10?55℃、更に好ましくは15?50℃である。 【0081】 また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは440?480℃、より好ましくは430?470℃、更に好ましくは420?460℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは450?510℃、より好ましくは460?500℃、更に好ましくは460?480℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは470?540℃、より好ましくは480?530℃、更に好ましくは490?520℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは470?560℃、より好ましくは480?550℃、更に好ましくは490?540℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは505?565℃、より好ましくは515?555℃、更に好ましくは525?565℃である。また、T90-T10は、好ましくは35?80℃、より好ましくは45?70℃、更に好ましくは55?80℃である。また、FBP-IBPは、好ましくは50?130℃、より好ましくは60?120℃、更に好ましくは70?110℃である。また、T10-IBPは、好ましくは5?65℃、より好ましくは10?55℃、更に好ましくは10?45℃である。また、FBP-T90は、好ましくは5?60℃、より好ましくは5?50℃、更に好ましくは5?40℃である。 【0082】 潤滑油基油(I)?(VI)のそれぞれにおいて、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90-T10、FBP-IBP、T10-IBP、FBP-T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90-T10、FBP-IBP、T10-IBP及びFBP-T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。」 (2)実施例の記載 オ 「【0093】 [実施例1?3、比較例1?3] 実施例1においては、原油の常圧蒸留ボトムを減圧蒸留して得られる留出油(WVGO)原料を、水素化分解触媒の存在下、全圧力130kg/cm^(3)以下、温度360?440℃、LHSV0.5hr^(-1)以下の反応条件で水素化分解し、潤滑油留分(ボトム分)を分離回収し、次いで蒸留、脱ろう温度-27℃、溶剤比1.2での溶剤脱ろう処理、脱芳香族処理をこの順で行うことにより、潤滑油基油を得た。また、実施例2、3及び比較例1?3においては、水素化分解圧力、脱ろう温度、溶剤比を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、潤滑油基油を得た。得られた潤滑油基油の性状を表2?4に示す。表2?4中、「尿素アダクト物中のノルマルパラフィン由来成分の割合」は、尿素アダクト値の測定の際に得られた尿素アダクト物についてガスクロマトグラフィー分析を実施することによって得られたものである。 【0094】 【表1】 【0095】 次に、実施例1及び比較例1の潤滑油基油に、自動車用潤滑油に一般的に用いられているポリメタアクリレート系流動点降下剤(重量平均分子量:約6万)を添加して潤滑油組成物を得た。流動点降下剤の添加量は、実施例1及び比較例1のそれぞれについて、組成物全量基準で0.3質量%、0.5質量%および1.0質量%の3条件とした。次に、得られた各潤滑油組成物について、-40℃におけるMRV粘度を測定した。得られた結果を表2に示す。 【0096】 【表2】 【0097】 【表3】 【0098】 【表4】 【0099】 実施例1?3と比較例1?3の基油をそれぞれ同一の100℃動粘度レベルで比較すると、流動点、凝固点等は同等であるが、本願発明の基油のCCS粘度は各比較例に比べてはるかに低い。また実施例1及び比較例1に示すように、流動点降下剤を添加した場合の、-40℃MRV粘度においても、尿素アダクト値が本願発明の範囲の基油を用いたときには、著しく低いMRV粘度を示す。以上のように尿素アダクト値が本願で規定する範囲内に入るように処理した基油を用いた場合には、低温粘度特性が優れていることは明白である。」 (3)本願の発明が解決しようとする課題と「潤滑油基油」の関係について (3-1)本願の発明が解決しようとする課題について 上記(1)ア?ウより、本願の発明が解決しようとする課題等については、以下の点を理解することができる。 ア 従来、潤滑油の分野では、高度精製鉱油等の潤滑油基油に流動点降下剤等の添加剤を配合することによって、潤滑油の低温粘度特性の改善が図られ、また、高粘度指数基油の製造方法としては、減圧蒸留留出油(WVGO)等の原料油について水素化分解、脱ろう処理後脱芳香族処理、又は脱芳香族処理後脱ろう処理を行う工程による方法が知られている(【0002】)。 近年、潤滑油の省燃費特性の向上が求められ、そのための手段として、潤滑油の低温粘度特性の向上、更には低温粘度特性と粘度-温度特性とを両立させる必要性は益々高くなっており、従来の評価指標に基づき低温性能が良好であると判断された潤滑油基油を用いた場合であっても、かかる要求特性を十分に満足させることが困難となっている(【0005】)。 また、減圧蒸留留出油(WVGO)を原料として水素化分解して得られる、高粘度指数を有する高性能基油(グループIII)は、現在の最高品質のエンジン油を製造するには欠かせない基油であり、粘度温度特性に優れ、常温領域での粘度を低くすることができ、燃費向上に大きな影響を及ぼす。ところが最近では、エンジンの低温始動時の燃費の向上が求められ、基油物性による改良と、添加剤の添加により低温粘度を下げる検討がなされている。しかし、基油粘度の低下は、潤滑の信頼性の低下を引き起こす可能性がありかつエンジン油のAPI規格である蒸発性が外れる可能性があるため、限度がある。また潤滑油基油への添加剤の配合により特性をある程度改善することはできても、この手法にも限界がある。特に、流動点降下剤は、配合量を増加させてもその効果が濃度と比例関係ではなく、また、配合量の増加に伴ってせん断安定性が低下してしまう。また、基油の流動点、凝固点等が同じにもかかわらず、低温粘度に大きな差異の出ることもあり、基油の低温特性を決定する因子の特定が必要と考えられている(【0006】、【0007】)。 イ 本願発明は、前記アの実情に鑑みて、潤滑油の低温粘度特性の向上、更には粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油基油及びその製造方法、並びに当該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物を提供することを目的として(【0008】)、かかる課題を解決する手段として本願発明の構成を採用したものである(【0009】?【0019】)。 ウ 本願発明によれば、低温粘度特性に優れ、粘度-温度特性と低温粘度特性の高水準での両立が可能な潤滑油基油及びその製造方法、並びに当該潤滑油基油を含有する潤滑油組成物が提供される、という効果を奏する(【0020】)。 (3-2)「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」の影響因子について 前記(3-1)のとおり、本願発明は、「低温粘度特性」の向上と、「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」を高水準で両立する潤滑油基油等の提供を課題とするところ、これらの特性等は、上記(1)エより、潤滑油基油の以下の物性と密接な関係があることを理解することができる。 ・尿素アダクト値(【0023】) ・粘度指数(【0024】) ・飽和分の含有量、飽和分に占める環状飽和分の割合、イソパラフィン の割合【0045】?【0047】) ・芳香族分の含有量(【0053】) ・%C_(P)、%C_(N)、%C_(A)、及び%C_(P)/%C_(N)(【0055】?【00 59】) ・100℃及び40℃における動粘度(【0063】?【0068】) ・流動点(【0069】) ・-35℃におけるCCS粘度(【0070】) ・ρ_(15)とρの大小関係(【0071】?【0073】) ・APとAの大小関係(【0075】?【0077】) ・蒸留状態(【0078】?【0082】) (3-3)実施例について 上記(2)オより、本願明細書の実施例には、原油の常圧蒸留ボトムを減圧蒸留して得られる留出油(WVGO)を原料油とし、水素化分解触媒の存在下、水素化分解(反応条件:圧力、温度、LHSV)し、潤滑油留分(ボトム分)を分離回収し、次いで蒸留、脱ろう温度-27℃、溶剤比1.2での溶剤脱ろう処理、脱芳香族処理をこの順で行うことにより、潤滑油基油を得ている。 また、同様に、実施例2、3及び比較例1?3は、水素化分解圧力、脱ろう温度、溶剤比を変更して、潤滑油基油を得たことが示され(【表1】)、【表2】?【表4】には、当該潤滑油基油の組成・物性(尿素アダクト値、粘度指数、動粘度、飽和分、環状飽和分及びイソパラフィンの含有量、流動点といった種々の物性)が示されている。 (4)検討、判断 前記(3-2)のとおり、本願発明の課題に関連する潤滑油基油の「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」は、「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「40℃における動粘度」、「飽和分の含有量」及び「飽和分に占める環状飽和分の割合」のみならず、イソパラフィンの割合をはじめとする種々の物性に影響されるものであることから、当該「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」は、「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「40℃における動粘度」、「飽和分の含有量」及び「飽和分に占める環状飽和分の割合」のみに基づいて、本願発明の潤滑油基油が「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」の点で優れたものであるかを評価することはできないと解するのが合理的である。 そして、前記(3-3)のとおり、本願明細書の実施例(【表2】、【表3】及び【表4】)をみてみると、実施例に係る潤滑油基油(実施例1?3)は、「低温粘度特性」の向上と、「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」を高水準で両立することができるという本願発明の課題をおおよそ解決することができていると解することもできるが、そのような結果は、確かに「尿素アダクト値」に依拠するところがあるとしても、例えば、潤滑油基油のイソパラフィンの割合を【0047】記載の好適な数値範囲内にするなどして、上記「影響因子」が相当程度に最適化されるという前提があってのことと理解すべきである。 加えて、当該潤滑油基油の「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「40℃における動粘度」、「飽和分の含有量」及び「飽和分に占める環状飽和分の割合」を最適化しさえすれば、他の物性について、必然的に最適化されることになり、結果としてこれらの物性の最適化をことさら要しない、という技術常識も存しない。 そうすると、本願発明の課題に関連する上記「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」は、単に潤滑油基油の「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「40℃における動粘度」、「飽和分の含有量」及び「飽和分に占める環状飽和分の割合」のみをもって、特性を評価できるものではなく、これら本願発明で特定された物性以外の物性も含めなければ、本願発明の課題である「低温粘度特性」の向上と、「粘度-温度特性」及び「低温粘度特性」を高水準で両立する点で優れたものであると判断することはできないというほかない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌して、当業者において、本願発明の課題が解決できると認識できる範囲は、当該潤滑油基油において、「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「40℃における動粘度」、「飽和分の含有量」及び「飽和分に占める環状飽和分の割合」に加え、上記(3-2)で指摘した物性について最適化された潤滑油基油であり、それ以外の本願発明に含まれる潤滑油基油についてまで、本願発明の課題を解決できるものとして当業者が認識できるとはいえない。 よって、本願発明は、本願の発明の詳細な説明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載された範囲を超える発明が記載されていることになるから、サポート要件を満たしていない。 (5)審判請求人の主張について 審判請求人は、平成29年4月3日付け意見書において、潤滑油基油の物性として、「尿素アダクト値」、「粘度指数」、「100℃における動粘度」、「飽和分の含有量」及び「飽和分に占める環状飽和分の割合」に、「40℃における動粘度」を追加する補正を行ったので、サポート要件に関する不備は解消した旨主張している。 しかしながら、サポート要件については、上記(4)のとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。 (6)小括 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 2.特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について (1)発明の詳細な説明及び実施例の記載事項 本願の発明の詳細な説明には、上記1.(1)ア?エで指摘した事項が、また、実施例には、上記1.(2)オで指摘した事項が記載されており、さらに、発明の詳細な説明には、以下の事項も記載されている。 カ 「【0025】 本発明においては、尿素アダクト値が4?6質量%の範囲であり且つ粘度指数が100以上の潤滑油基油を得ることができれば、その製造方法は特に制限されないが、減圧蒸留留出油(WVGO)、WVGOのマイルドハイドロクラッキング(MHC)処理油(HIX)、脱れき油(DAO)、DAOのMHC処理油またはこれらの混合油又はこれらの2種以上の混合油を原料として、水素化分解触媒の存在下で水素化分解し、更に、脱芳香族処理及び脱ろう処理を組み合せて処理することによって、本発明の潤滑油基油を好適に得ることができる。 【0026】 前記WVGOは原油の常圧蒸留装置からの残渣油を減圧蒸留装置で蒸留した際に得られる留出油で、好ましくは360℃?530℃の沸点を有するものである。」 キ 「【0029】 原料油の水素化分解は、水素化分解触媒の存在下、全圧力が150kg/cm^(2)以下、好ましくは100?130kg/cm^(2)の中低圧であり、温度が360?440℃、好ましくは370?430℃、LHSVは0.5hr^(-1)以下、好ましくは0.2?0.3hr^(-1)の低LHSVであり、水素対原料油比が1,000?6,000s.c.f/bbl-原料油、好ましくは2,500?5,000s.c.f/bbl-原料油である反応条件で行うことができる。原料油の水素化分解に際しては、原料油中360℃^(+)留分の分解率が40wt%以上、好ましくは45wt%以上、更に好ましくは50wt%以上になるよう反応条件が調節される。なお、原料油としてHIXを用いた場合、MHC処理と水素化分解の合計の分解率は、60wt%以上、好ましは70wt%以上である。また、未分解油の一部をリサイクルする場合、ここでいう分解率はリサイクル油込みの分解率ではなく、フレッシュフィールド当りの分解率を指す。」 ク 「【0034】 原料油を水素化分解した後は、必要に応じて分解生成物から通常の蒸留操作で潤滑油留分を回収してもよい。回収可能な潤滑油留分としては、沸点範囲が343℃?390℃の70ペール留分、390℃?445℃のSAE-10留分、445℃?500℃のSAE-20留分、500℃?565℃のSAE-30留分が潤滑油留などがある。 【0035】 必要に応じて潤滑油留分が分離回収された前記の水素化分解生成物は、脱ろう処理された後で脱芳香族処理されるか、あるいは、脱芳香族処理された後で脱ろう処理される。 【0036】 脱ろう処理としては、溶剤脱ろう処理又は接触脱ろう処理が採用できる。 【0037】 溶剤脱ろう処理は、例えばMEK法などの通常の方法で行うことができる。MEK法は溶剤としてベンゼン、トルエン、アセトン又はベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)などの混合溶剤を使用する。処理条件は脱ろう油が所定の流動点になるように冷却温度を調節する。溶剤/油の容積比は0.5?5.0、好ましくは1.0?4.5、温度は-5?-45℃、好ましくは-10?-40℃である。 【0038】 接触脱ろう処理は通常の方法で行うことができる。例えばペンタシル型ゼオライトを触媒とし、水素流通下、脱ろう油が所定の流動点になるように反応温度を調節するがその反応条件は一般に、全圧力が10?70kg/cm^(2)、好ましくは20?50kg/cm^(2)、温度が240?400℃、好ましくは260?380℃である。LHSVは0.1?3.0hr^(-1)、好ましくは0.5?2.0hr^(-1)の範囲にある。 【0039】 脱芳香族処理としては、溶剤脱芳香族処理あるいは高圧水素化脱芳香族処理のいずれもが採用可能であるが、溶剤脱芳香族処理が好ましい。 【0040】 溶剤脱芳香族処理は通常フルフラール、フェノール等の溶剤を用いるが、本発明では溶剤にフルフラールを用いることが好ましい。溶剤脱芳香族処理の条件としては、溶剤/油容積比4以下、好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、温度90?150℃で行なわれ、ラフィネート収率は60容積%以上、好ましくは70容積%以上、更に好ましくは85容積%以上となるように操作される。 【0041】 高圧水素化反応による脱芳香族処理は、通常アルミナ担体にVI b族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した触媒の存在下、全圧力150?200kg/cm^(2)、好ましくは70?200kg/cm^(2)、温度280?350℃、好ましくは300?330℃、LHSV0.2?2.0hr^(-1)、好ましくは0.5?1.0hr^(-1)の条件で行なわれる。触媒の金属担持量は、酸化物基準で第VI b族金属、例えばモリブデン、タングステン、クロムは5?30質量%、好ましくは10?25質量%、第VIII族鉄族鉄金属、例えばコバルト、ニッケルは1?10質量%、好ましくは2?10質量%である。 【0042】 脱芳香族処理として溶剤脱芳香族処理を用いた場合、必要によりこの処理の後に、水素化処理を行うことができる。この水素化処理は溶剤脱芳香族処理油を、全反応圧力50kg/cm^(2)以下、好ましくは25?40kg/cm^(2)の低圧の水素化反応条件で、アルミナ担体に第VIb族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した水素化触媒と接触 させることにより行う。このような比較的低圧下での水素化処理は溶剤脱芳香族油の光安定性を飛躍的に向上させる。前記金属の担持量は酸化物基準で第VIb族金属、例えばモリブデン、タングステン、クロムは5?30質量%、好ましくは10?25質量%、第VIII族鉄族金属、例えばコバルト、ニッケルは1?10質量%、好ましくは2?10質量%である。 【0043】 本発明の潤滑油基油の製造方法において、その製造過程で原料油の水素化分解後生成物から潤滑油留分を回収しなかった場合は、脱芳香族処理、脱ろう処理あるいは水素化処理の後に、通常の蒸留操作により、潤滑油留分を回収することができる。ここで回収される潤滑油留分は、先の場合と同様、沸点範囲が343℃?390℃の700ペール留分、390℃?445℃のSAE-10留分、445℃?800℃のSAE-20留分、500℃?565℃のSAE-30留分等である。」 (2)「尿素アダクト値」の技術上の意義 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、潤滑油基油の「尿素アダクト値が4?6質量%」である点を発明特定事項とすることから、本願発明の実施にあたっては、当該「尿素アダクト値」をどのようにして所定範囲内に調整するか(尿素アダクト値の調整手法)が重要となる。 そこで、はじめに、本願発明における「尿素アダクト値」の技術上の意義について確認しておくと、本願明細書の記載から、当該「尿素アダクト値」は、 上記1.(1)イより、 ア 従来の水素化分解による潤滑油基油の製造方法においてノルマルパラフィンからイソパラフィンへの異性化率の向上が検討されているが、本発明者らの検討によれば、単に水素化分解の分解率をあげてノルマルパラフィンの残存量を低減するだけでは低温粘度特性を十分に改善することは困難であること(【0014】)、 イ 本願発明における「尿素アダクト値」は、その測定において、尿素アダクト物として、イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分、さらには潤滑油基油中にノルマルパラフィンが残存している場合の当該ノルマルパラフィンを精度よく且つ確実に捕集することができるため、潤滑油基油の低温粘度特性の評価指標として優れており、また、当該尿素アダクト物の主成分は、GC及びNMRを用いた分析により、ノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィンの尿素アダクト物であることを確認していること(【0015】)、 を踏まえ、潤滑油基油の低温粘度特性を評価する優れた評価指標であるとして導入されたものと理解することができる。 このように、「尿素アダクト値」は、従来認識されていなかった「イソパラフィンのうち低温粘度特性に悪影響を及ぼす成分」及び「潤滑油基油中に残存しているノルマルパラフィン」(具体的にはノルマルパラフィン及び主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィン)を定量化することができるという点において、その技術上の意義を有するということができる。 (3)「尿素アダクト値」を4?6質量%に調整する手法について 前記(2)に照らすと、「尿素アダクト値」を4?6質量%に調整するということは、とりもなおさず、潤滑油基油中に存在する、「ノルマルパラフィン」及び「主鎖の末端から分岐位置までの炭素数が6以上であるイソパラフィン」(以下、単に「特定イソパラフィン」という。)の含有量を4?6質量%に調整することにほかならないから、本願発明が実施可能要件に適合するというためには、本願明細書の記載及び本願の出願当時の技術常識に基づき、当業者が、これらノルマルパラフィンと特定イソパラフィンの含有量を(さらには「粘度指数が100以上」、「100℃における動粘度が2.0?11mm^(2)/s」、「40℃における動粘度が8.0?50mm^(2)/s」、「飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上」及び「当該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1?60質量%」という条件下で)調整することができる必要がある。 (4)発明の詳細な説明の記載 前記ノルマルパラフィンと特定イソパラフィンの含有量の調整手法に着目しながら、本願明細書の発明の詳細な説明を仔細にみると、潤滑油基油の製造方法に関しては、上記1.(1)イ、上記2.(1)カ?ク等において詳述され、上記1.(2)オの実施例においてその具体例が示されていることが分かる。 しかしながら、これらの記載を参酌しても、潤滑油基油の製造に際し、実施例の【表1】に具体的に記載された3つの条件以外に、どのような条件を選択すれば、「粘度指数が100以上」、「100℃における動粘度が2.0?11mm^(2)/s」、「40℃における動粘度が8.0?50mm^(2)/s」、「飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上」及び「当該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1?60質量%」という条件下で、ノルマルパラフィンと特定イソパラフィンの含有量を調整し、「尿素アダクト値」を4?6質量%に調整することができるのかを、理解することはできない。 すなわち、上記2.(1)キには、水素化分解工程に関し、 ・「原料油の水素化分解は、水素化分解触媒の存在下、全圧力が150kg/cm^(2)以下、好ましくは100?130kg/cm^(2)の中低圧であり、温度が360?440℃、好ましくは370?430℃、LHSVは0.5hr^(-1)以下、好ましくは0.2?0.3hr^(-1)の低LHSVであり、水素対原料油比が1,000?6,000s.c.f/bbl-原料油、好ましくは2,500?5,000s.c.f/bbl-原料油である反応条件で行うことができる。原料油の水素化分解に際しては、原料油中360℃^(+)留分の分解率が40wt%以上、好ましくは45wt%以上、更に好ましくは50wt%以上になるよう反応条件が調節される。」(下線は当審が付したもの。以下同じ。) と記載されるものの、ノルマルパラフィンと特定イソパラフィンの含有量を調整するための、具体的な指針となるような教示は見当たらない。 さらに、上記2.(1)クには、脱ろう処理及び脱芳香族処理に関し、 ・「脱ろう処理としては、溶剤脱ろう処理又は接触脱ろう処理が採用できる。溶剤脱ろう処理は、例えばMEK法などの通常の方法で行うことができる。MEK法は溶剤としてベンゼン、トルエン、アセトン又はベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)などの混合溶剤を使用する。処理条件は脱ろう油が所定の流動点になるように冷却温度を調節する。溶剤/油の容積比は0.5?5.0、好ましくは1.0?4.5、温度は-5?-45℃、好ましくは-10?-40℃である。 接触脱ろう処理は通常の方法で行うことができる。例えばペンタシル型ゼオライトを触媒とし、水素流通下、脱ろう油が所定の流動点になるように反応温度を調節するがその反応条件は一般に、全圧力が10?70kg/cm^(2)、好ましくは20?50kg/cm^(2)、温度が240?400℃、好ましくは260?380℃である。LHSVは0.1?3.0hr^(-1)、好ましくは0.5?2.0hr^(-1)の範囲にある。」(【0036】?【0038】) ・「脱芳香族処理としては、溶剤脱芳香族処理あるいは高圧水素化脱芳香族処理のいずれもが採用可能であるが、溶剤脱芳香族処理が好ましい。 溶剤脱芳香族処理は通常フルフラール、フェノール等の溶剤を用いるが、本発明では溶剤にフルフラールを用いることが好ましい。溶剤脱芳香族処理の条件としては、溶剤/油容積比4以下、好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、温度90?150℃で行なわれ、ラフィネート収率は60容積%以上、好ましくは70容積%以上、更に好ましくは85容積%以上となるように操作される。 高圧水素化反応による脱芳香族処理は、通常アルミナ担体にVI b族金属及び第VIII族鉄族金属を担持して硫化した触媒の存在下、全圧力150?200kg/cm^(2)、好ましくは70?200kg/cm^(2)、温度280?350℃、好ましくは300?330℃、LHSV0.2?2.0hr^(-1)、好ましくは0.5?1.0hr^(-1)の条件で行なわれる。触媒の金属担持量は、酸化物基準で第VI b族金属、例えばモリブデン、タングステン、クロムは5?30質量%、好ましくは10?25質量%、第VIII族鉄族鉄金属、例えばコバルト、ニッケルは1?10質量%、好ましくは2?10質量%である。」(【0039】?【0041】) と記載されるものの、上記の具体的な指針について教示するといえる程のものではない。 さらに、上記1.(2)オの実施例には、 ・「[実施例1?3、比較例1?3] 実施例1においては、原油の常圧蒸留ボトムを減圧蒸留して得られる留出油(WVGO)原料を、水素化分解触媒の存在下、全圧力130kg/cm^(3)以下、温度360?440℃、LHSV0.5hr-1以下の反応条件で水素化分解し、潤滑油留分(ボトム分)を分離回収し、次いで蒸留、脱ろう温度-27℃、溶剤比1.2での溶剤脱ろう処理、脱芳香族処理をこの順で行うことにより、潤滑油基油を得た。また、実施例2、3及び比較例1?3においては、水素化分解圧力、脱ろう温度、溶剤比を表1に示したように変更した以外は実施例1と同様にして、潤滑油基油を得た。・・・ 次に、実施例1及び比較例1の潤滑油基油に、自動車用潤滑油に一般的に用いられているポリメタアクリレート系流動点降下剤(重量平均分子量:約6万)を添加して潤滑油組成物を得た。流動点降下剤の添加量は、実施例1及び比較例1のそれぞれについて、組成物全量基準で0.3質量%、0.5質量%および1.0質量%の3条件とした。次に、得られた各潤滑油組成物について、-40℃におけるMRV粘度を測定した。・・・ 実施例1?3と比較例1?3の基油をそれぞれ同一の100℃動粘度レベルで比較すると、流動点、凝固点等は同等であるが、本願発明の基油のCCS粘度は各比較例に比べてはるかに低い。また実施例1及び比較例1に示すように、流動点降下剤を添加した場合の、-40℃MRV粘度においても、尿素アダクト値が本願発明の範囲の基油を用いたときには、著しく低いMRV粘度を示す。以上のように尿素アダクト値が本願で規定する範囲内に入るように処理した基油を用いた場合には、低温粘度特性が優れていることは明白である。」 と記載されるものの、具体的にどのような条件を選択すれば、ノルマルパラフィンと特定イソパラフィンの含有量を調整することができるのかを、当該実施例の記載から当業者が理解することは困難である。 (5)本願明細書の実施可能要件適合性 前記(4)のとおり、当業者は、本願明細書の記載により、ノルマルパラフィンと特定イソパラフィンの含有量を調整する手法を理解することはできない(ノルマルパラフィン含有量などに影響される「粘度指数が100以上」、「100℃における動粘度が2.0?11mm^(2)/s」、「40℃における動粘度が8.0?50mm^(2)/s」、「飽和分の含有量が、潤滑油基油全量を基準として、90質量%以上」及び「当該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1?60質量%」という条件下で、当該調整を行うことはなおのこと困難であるといえる。)。 そして、当業者であれば当該調整を行い得ることを示す、本願の原出願の出願当時の技術常識の存在を認めるに足りる証拠もない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず、実施可能要件に適合しないといわざるを得ない。 (6)審判請求人の主張について 審判請求人は、平成29年4月3日付け意見書において、本願所定の尿素アダクト値を有し、かつ、100℃における動粘度、40℃における動粘度、飽和分の含有量及び飽和分に占める環状飽和分の割合を有する潤滑油基油を製造することは、本願明細書の記載及び本願の原出願の出願時の技術常識を参酌した当業者が実施できる旨主張している。 しかしながら、実施可能要件については、上記(5)のとおりであるから、審判請求人の主張は採用できない。 (7)小括 よって、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではなく、また、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、同法同条第6項第1号の規定に適合するものではないから、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-07-12 |
結審通知日 | 2017-07-18 |
審決日 | 2017-07-31 |
出願番号 | 特願2014-1194(P2014-1194) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C10M)
P 1 8・ 536- WZ (C10M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 内藤 康彰、亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
日比野 隆治 佐々木 秀次 |
発明の名称 | 潤滑油基油及びその製造方法並びに潤滑油組成物 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 黒木 義樹 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 池田 正人 |