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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1332634
審判番号 不服2016-14714  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-30 
確定日 2017-10-10 
事件の表示 特願2015- 6707「発光装置及び樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月16日出願公開、特開2016- 82212、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年1月16日(優先権主張平成26年10月17日)の出願であって、平成28年4月18日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月14日付けで手続補正がされ、同年8月1日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年9月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年6月28日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年7月14日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明10」という。)は、平成29年7月14日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
パッケージと;
前記パッケージに配置された発光素子と;
蛍光体と、樹脂と、一次粒子の個数平均粒径が2nm?5nmである酸化ジルコニウムナノ粒子及び一次粒子の個数平均粒径が10nm?70nmである酸化ケイ素ナノ粒子とを含み、前記酸化ジルコニウムナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して3?25質量部であり、前記酸化ケイ素ナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して0.3?0.8質量部であり、前記蛍光体の含有量が前記樹脂100質量部に対して20?37質量部である、樹脂組成物の硬化物であり、前記発光素子を被覆する封止部材と;を含み、
前記蛍光体が、4価のマンガンイオンで付活された、下記式(I)で示される化学組成を有し、蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含み、
前記表面領域が下記式(II)で示される組成を有する、発光装置。
A_(2)[M_(1-x)Mn^(4+)_(x)F_(6)] (I)
A_(2)[M_(1-y)Mn^(4+)_(y)F_(6)] (II)
(式中、Aは、K^(+)、Li^(+)、Na^(+)、Rb^(+)、Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、xは0<x<0.2を満たし、yは0<y<xを満たす。)」

なお、本願発明2?10の概要は以下のとおりである。
本願発明2?9は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明10は、本願発明1に用いられる樹脂組成物と同じ樹脂組成物の発明である。

第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2014-177586号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与したものである。以下、同じ。

「【0014】
実施形態にかかる赤色発光蛍光体は、主としてケイフッ化カリウムからなり、マンガンで付活された蛍光体である。ここで主としてケイフッ化カリウムからなる蛍光体とは、蛍光体の基本的な結晶構造がケイフッ化カリウムであり、結晶を構成する元素の一部が他の元素で置換されたものをいう。この蛍光体の表面には、微量のマンガンが存在するが、表面の基本組成は下記式(A)式で表わされる。
K_(a)SiF_(b) (A)
式中、
1.5≦a≦2.5、好ましくは1.8≦a≦2.3、かつ
5.5≦b≦6.5、好ましくは5.7≦b≦6.2である。
そして、蛍光体の表面に存在するマンガン量は、蛍光体全体に対するマンガン量よりも少なく、蛍光体表面に存在する全元素の総量に対して0.2モル%以下、好ましくは0.1モル%以下である
【0015】
ここで、aおよびbが上記範囲内にあることで、蛍光体は優れた発光効率を発揮することができる。
【0016】
一方、実施形態にかかる蛍光体は、全体としては、下記式(B)で表わされるものであることが好ましい。
K_(c)(Si_(1-x),Mn_(x))F_(d) (B)
式中
1.5≦c≦2.5、好ましくは1.8≦c≦2.2、
5.5≦d≦6.5、好ましくは5.7≦d≦6.2かつ
0<x≦0.06、好ましくは0.01≦x≦0.05
である。
【0017】
実施形態にかかる蛍光体は、付活剤としてマンガンを含有するものである。マンガンが含有されていない場合(x=0)には紫外から青色領域に発光ピークを有する光で励起しても発光を確認することはできない。したがって、前記式(B)におけるxは0より大きいことが必要である。また、マンガンの含有量が多くなると発光効率が改良される傾向にあり、0.01以上であることが好ましい。また、赤色発光の蛍光体を得るためにはマンガンの価数は+4価であることが好ましい。」

「【0054】
図6には、本発明の一実施形態にかかる発光装置の断面を示す。
【0055】
図示する発光装置は、発光装置200はリードフレームを成形してなるリード201およびリード202と、これに一体成形されてなる樹脂部203とを有する。樹脂部203は、上部開口部が底面部より広い凹部205を有しており、この凹部の側面には反射面204が設けられる。
【0056】
凹部205の略円形底面中央部には、発光チップ206がAgペースト等によりマウントされている。発光チップ206としては、紫外発光を行なうもの、あるいは可視領域の発光を行なうものを用いることができる。例えば、GaAs系、GaN系等の半導体発光ダイオード等を用いることが可能である。発光チップ206の電極(図示せず)は、Auなどからなるボンディングワイヤ209および210によって、リード201およびリード202にそれぞれ接続されている。なお、リード201および202の配置は、適宜変更することができる。
【0057】
樹脂部203の凹部205内には、蛍光層207が配置される。この蛍光層207は、実施形態にかかる蛍光体208を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層211中に5wt%以上50wt%以下の割合で分散することによって形成することができる。蛍光体は、有機材料である樹脂や無機材料であるガラスなど種々のバインダーによって、付着させることができる。」
「【図6】


したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「発光装置200はリードフレームを成形してなるリード201およびリード202と、これに一体成形されてなる樹脂部203とを有し、
樹脂部203は、上部開口部が底面部より広い凹部205を有しており、
凹部205には、発光チップ206がマウントされ、
樹脂部203の凹部205内には、蛍光層207が配置され、蛍光層207は、蛍光体208を、樹脂層211中に5wt%以上50wt%以下の割合で分散することによって形成され、
蛍光体は、主としてケイフッ化カリウムからなり、マンガンで付活された蛍光体であり、蛍光体の表面に存在するマンガン量は、蛍光体全体に対するマンガン量よりも少なく、全体としては、下記式(B)で表わされ、マンガンの価数は+4価である赤色発光の蛍光体である
発光装置。
K_(c)(Si_(1-x),Mn_(x))F_(d) (B)
式中
1.5≦c≦2.5、好ましくは1.8≦c≦2.2、
5.5≦d≦6.5、好ましくは5.7≦d≦6.2かつ
0<x≦0.06、好ましくは0.01≦x≦0.05
である。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2011-12091号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0204】
得られた結晶を、No.5Cの濾紙で濾過した後、50mlのエタノールで3回洗浄し、150℃で2時間乾燥して蛍光体19.6gを得た。得られた蛍光体は、後述の実施例、及び参考例に供するまでの間、除湿デシケーター(R.H.20%)中で保管した。
[蛍光体の表面改質処理の実施例]
<実施例1-1> 仕込み組成K_(2)Si_(0.9)Mn_(0.1)F_(6)
合成例2で合成した蛍光体(1g)に、MgCl_(2)・6H_(2)O飽和水溶液(水100gに対してMgCl_(2)・6H_(2)Oを280g溶解させたもの)10mlを添加した。これにより、蛍光体表面に存在する不安定物質、例えばK_(2)MnF_(6)が加水分解され、さらに、この不安定な物質を水溶性に還元させることができるものと考えられる。
【0205】
その後、この水溶液に、蛍光体1gに対して0.05gの割合でMgOを添加して、室温(25℃)下で3時間、攪拌した。これによって、水溶性の物質が一時的に価数変化し
水溶液の色が茶色に変化した。
水溶液の液色が元の透明に戻るまで、室温中で保管した。液色が透明になったことを確認してから、水溶液中の蛍光体をNo.5Cの濾紙でろ過した。次いで、エタノールで洗浄してからさらに水で洗浄し、120℃で2時間乾燥した。」
「【0211】
<参考例1-2>
合成例3で合成した蛍光体を、実施例1-3に記載する表面改質処理を行わずに、参考例1-2として用いた。
<実施例1-1、1-2、1-3及び参考例1-1、1-2で得られた蛍光体の比較>
実施例1-1、実施例1-3、参考例1-1、及び参考例1-2について、XPS法による表面組成分析も行なった。その結果を表10(A)、及び(B)に示す。表10(A)は、蛍光体表面に存在する全元素に対する各元素が占める比率(%)を示す。表10(B)は、表10(A)に示す分析結果に基づき、蛍光体表面に存在する化合物の存在割合を推定したものである。」
「【0213】
【表10】

【0214】
以上の結果より、表面改質処理前後の表面組成の変化がわかる。具体的には、実施例で得られた蛍光体は、その表面組成が参考例で得られた蛍光体に比べて蛍光体の母体結晶に由来する成分(K_(2)SiF_(6)、K_(2)NaAlF_(6))と付活元素に由来する成分(K_(2)MnF_(6))が大きく減少していることがわかる。一方で、実施例で得られた蛍光体は、蛍光体表面に、耐水性の高いMgF_(2)、SiO_(2)が多く存在していることがわかる。
【0215】
[発光装置作製の実施例]
<実施例2-1>
(蛍光体含有層形成液の製造)
前述の実施例1-1で合成した蛍光体を使用して、蛍光体含有層形成液を製造した。具体的には、下記の表11に示す配合比で、封止剤液及び蛍光体を計量した後、シンキー社製攪拌脱泡装置「泡取り錬太郎AR-100」にて混合した。
【0216】
【表11】

【0217】
(発光装置の作製)
青色発光ダイオード(以下、適宜「LED」と略する。)として、昭和電工社製の350μm角チップGU35R460Tを用いた。具体的には、このLEDをシリコーン樹脂ベースの透明ダイボンドペーストで、3528SMD型PPA樹脂パッケージの凹部の底の端子に接着し、その後、150℃で2時間加熱し、透明ダイボンドペーストを硬化させた後、青色LEDとパッケージの電極とを直径25μmの金線を用いてワイヤーボンディングしたものを用いた。このLEDは、ドミナント発光波長455nm?465nm(発光ピーク波長451nm?455nm)で発光ピークの半値幅が22nm?28nmで発光するものである。
【0218】
手動ピペットを用いて、上述の(蛍光体含有層形成液の製造)で得られた蛍光体含有層形成液(赤色蛍光体として、実施例1-1で合成した蛍光体を含む。)を4μl計量し、上述のLEDを設置した発光装置に注液した。この発光装置を、減圧することができるデシケーターボックス中、25℃、1kPaの条件下で5分間保持することにより、注液時に生じた巻き込み気泡や溶存空気、水分を除去した。その後、この半導体発光装置を、100℃で1時間保持し、次いで、150℃で5時間保持することにより形成液を硬化させ、発光装置2-1を得た。」

段落【0204】、【0218】の記載から実施例1-1の仕込み組成は、K_(2)Si_(0.9)Mn_(0.1)F_(6)であるから、表面改質処理前のSiとMnの比は、0.9:0.1であり、実施例1-1で合成した蛍光体は、赤色蛍光体である。
表10(B)に記載の実施例1-1において、表面組成分析値は、K_(2)SiF_(6)が17.1mol%であり、K_(2)MnF_(6)が0.2mol%であるから、表面改質処理後の表面におけるSiとMnの比は、0.99:0.01であるといえる。
表11の記載から、実施例1-1の赤色蛍光体は、封止剤液100重量%に対して12重量%であるといえる。

したがって、上記引用文献2には、実施例1-1で合成した蛍光体を使用した実施例2-1の発光装置として、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「LEDをパッケージの凹部の底の端子に接着し、封止剤液及び蛍光体を混合した蛍光体含有層形成液をLEDを設置した発光装置に注液し硬化させた発光装置であって、
蛍光体は、K_(2)Si_(0.9)Mn_(0.1)F_(6)であり、表面改質処理後の表面におけるSiとMnの比は、0.99:0.01であり、封止剤液100重量%に対して12重量%である
発光装置。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2014-130903号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0150】
(無機微粒子)
蛍光体含有樹脂層形成用組成物には、無機微粒子が含まれてもよい。無機微粒子が含まれることで、硬化前の蛍光体含有樹脂層の粘度が上昇し、ディスペンサー等でLEDパッケージ内に蛍光体含有樹脂層形成用組成物を注入する際中に、シリンジ内での蛍光体の沈降を抑制することができる。
【0151】
無機微粒子の例には、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛等の酸化物微粒子、フッ化マグネシウム等のフッ化物微粒子がある。
【0152】
蛍光体含有樹脂層形成用組成物に含まれる無機微粒子の平均粒径は、上述したそれぞれの効果を考慮して1nm以上50μm以下が好ましく、1nm?10μmがより好ましく、1nm?100nmがさらに好ましい。無機微粒子の平均粒径は、例えばコールターカウンター法によって測定することができる。
【0153】
蛍光体含有樹脂層形成用組成物に含まれる無機微粒子の量は、蛍光体含有樹脂層形成用組成物の硬化物中の無機微粒子量が、0.1質量%以上5質量%以下となる量が好ましく、より好ましくは0.5?1.0質量%である。無機微粒子の量が0.1質量%未満であると、硬化前の蛍光体含有樹脂層形成用組成物の粘度を上げることができず、蛍光体の沈降抑制効果が得られない。さらに、無機微粒子の量が5重量%を超えると、蛍光体含有樹脂層のガスバリア性が低下してしまう。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2014-179565号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0020】
微粒子としては、例えば、無機粒子、有機樹脂粒子、有機樹脂粒子中に無機粒子を分散複合化した微粒子が挙げられる。
封止組成物に含まれる樹脂中への単分散性と、樹脂との界面親和性を確保するために表面改質が容易なこととを考慮すると、無機粒子が好ましく、無機粒子の中でも金属酸化物がより好ましく、さらに封止材を着色させることなく、アッベ数が30以上であるSiO_(2)、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、CeO_(2)、Y_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)、Hf_(2)O_(3)がさらに好ましい。特に、アッベ数が35以上であり、さらに封止材の透明性を保持する観点からナノメートルサイズの粒子径を得ることができるSiO_(2)、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)が好ましい。
【0021】
微粒子の平均一次粒径は、3nm以上、20nm以下であり、4nm以上、15nm以下であることが好ましく、5nm以上、10nm以下であることがより好ましい。
平均一次粒径が3nm未満では、微粒子の相対比表面積が大きいため樹脂への単分散性と樹脂との界面親和性を確保するために微粒子表面を改質する表面修飾材料が多くなり、さらに表面修飾材料と樹脂との反応架橋点が多くなることで封止材組成物の硬化物が脆くなり、環境温度差が生じた場合にクラックが発生する。また、表面修飾した微粒子中の微粒子成分量が減ることから微粒子による封止材のアッベ数制御効果が低下する。また、特に金属酸化物を微粒子として選択した場合は、金属酸化物粒子の結晶性が低くなるため、微粒子による封止材のアッベ数制御効果が低下する。
一方、平均一次粒径が20nmを超えると、微粒子による散乱が大きくなり封止材の透光性を低下させ、光半導体発光装置の輝度が低下してしまう。
【0022】
封止組成物中における微粒子の含有量は、20?70質量%であることが好ましく、25?60質量%であることがより好ましい。さらに封止組成物の注入作業性を可能とするためには、封止組成物の粘度を100Pa・s以下(室温)にすることが好ましいが、この粘度で実用的に封止材のアッベ数を調整することができる観点から、25?50質量%であることがさらに好ましい。」

5.引用文献4及び5に記載された周知技術
上記引用文献4及び5には、以下の周知技術が記載されていると認められる。
「蛍光体含有樹脂層形成用組成物に、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素などの無機微粒子を含めること。」

6.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5(特開2011-129661号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0077】
実施の形態7.
図9は、本発明の実施の形態7に係る発光装置1を示す模式断面図である。本実施の形
態では、断面が逆台形で表面が反射鏡となった凹状の実装基板10を用い、実装基板10の上に半導体発光素子2を実装した後、蛍光体粒子14と粒子20を同時に混合した透光性媒質18をポッティングし、蛍光体粒子14を沈降させる。その他の点は、実施の形態1と同様である。
【0078】
本実施の形態によれば、簡単な製造方法により、蛍光体層16と散乱層21を同時に形成できる。即ち、本実施の形態では、半導体発光素子2の上面と側面を覆うように沈降した蛍光体粒子14によって蛍光体層16が構成される。本実施の形態の方法によって発光装置1を製造するには、硬化前の透光性媒質18として十分に粘度の低い材料を用いて、半導体発光素子2を実装した実装基板10にポッティングする際に蛍光体粒子14が沈降するようにすれば良い。このとき粒子20は、粒子径が小さいため沈降しない。したがって、本実施の形態によれば、単一の工程により、蛍光体層16と散乱層21を同時に形成することができる。また、蛍光体粒子14を沈降して蛍光体層16とすれば、蛍光体層16における1次光や2次光の吸収ロスを減らすことができ、好ましい。なお、蛍光体粒子14は、凹凸のある形状よりも球形の方が沈降し易い。」
「【図9】


したがって、上記引用文献5には、「蛍光体粒子は沈降し、粒子は、沈降しない発光装置。」という技術的事項が記載されていると認められる。

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1との対比・判断
ア 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明1において、「樹脂部203は、上部開口部が底面部より広い凹部205を有しており、凹部205には、発光チップ206がマウントされ」るものであるから、引用発明1における「樹脂部203」及び「樹脂部203」の「凹部205に」「マウントされ」た「発光チップ206」は、それぞれ本願発明1における「パッケージ」及び「前記パッケージに配置された発光素子」に相当する。

引用発明1において、「凹部205には、発光チップ206がマウントされ、樹脂部203の凹部205内には、蛍光層207が配置され、蛍光層207は、蛍光体208を、樹脂層211中に」「分散することによって形成され」るものであり、樹脂部203の凹部205内に配置される蛍光層207は、凹部205内にマウントされた発光チップ206を被覆し封止する部材であり、封止後硬化されることは明らかであるから、引用発明1の「樹脂層211中に分散する」「蛍光体208」及び「樹脂層211」は、それぞれ本願発明1の「蛍光体」及び「樹脂」に相当し、引用発明1の「蛍光体208を、樹脂層211中に」「分散することによって形成され」る「蛍光層207」は、本願発明1の「樹脂組成物の硬化物であり、前記発光素子を被覆する封止部材」に相当する。

引用発明1の「蛍光体は、主としてケイフッ化カリウムからなり、マンガンで付活された蛍光体であり、蛍光体の表面に存在するマンガン量は、蛍光体全体に対するマンガン量よりも少なく、全体としては、下記式(B)で表わされ、マンガンの価数は+4価である赤色発光の蛍光体である」ことは、本願発明1の「前記蛍光体が、4価のマンガンイオンで付活された、下記式(I)で示される化学組成を有し、蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含み、
前記表面領域が下記式(II)で示される組成を有する」ことに相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点1があるといえる。

(一致点)
「パッケージと;
前記パッケージに配置された発光素子と;
蛍光体と、樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり、前記発光素子を被覆する封止部材と;を含み、
前記蛍光体が、4価のマンガンイオンで付活された、下記式(I)で示される化学組成を有し、蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含み、
前記表面領域が下記式(II)で示される組成を有する、発光装置。
A_(2)[M_(1-x)Mn^(4+)_(x)F_(6)] (I)
A_(2)[M_(1-y)Mn^(4+)_(y)F_(6)] (II)
(式中、Aは、K^(+)、Li^(+)、Na^(+)、Rb^(+)、Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、xは0<x<0.2を満たし、yは0<y<xを満たす。)」

(相違点1)
本願発明1は、樹脂組成物に、「一次粒子の個数平均粒径が2nm?5nmである酸化ジルコニウムナノ粒子及び一次粒子の個数平均粒径が10nm?70nmである酸化ケイ素ナノ粒子とを含み、前記酸化ジルコニウムナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して3?25質量部であり、前記酸化ケイ素ナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して0.3?0.8質量部であり、前記蛍光体の含有量が前記樹脂100質量部に対して20?37質量部」であるのに対し、引用発明1は、蛍光体層が、粒子を含むかは不明であり、蛍光体の含有量が5wt%以上50wt%以下の割合である点。

イ 相違点1についての判断
本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0036】及び【0157】には、以下の記載がある。
「【0036】
封止部材を構成する樹脂組成物は、樹脂組成物中に一次粒子径が比較的小さい酸化ジルコニウムナノ粒子を含むことにより、樹脂組成物中で酸化ジルコニウムナノ粒子が分散し、レイリー散乱によって発光素子からの光の散乱効果が大きくなり、樹脂組成物中に含まれる蛍光体の量を従来よりも少量とした場合であっても、同様の色調を得ることができる。また、封止部材を構成する樹脂組成物は、樹脂組成物中に酸化ジルコニウムナノ粒子を含む場合、酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため、蛍光体と水分との反応をより抑制することができる。よって、酸化ジルコニウムナノ粒子を含む樹脂組成物を用いることで、長期信頼性試験においても、より優れた耐久性を有する発光装置を提供することができる。」
「【0157】
実施例6?7のジルコニアナノ粒子及び/又は特定量のシリカナノ粒子を用いた発光装置は、比較例10の発光装置よりも光束維持率が大きいことから、長期信頼性試験において優れた耐久性を有することが分かる。より具体的には、ジルコニアナノ粒子あるいはシリカナノ粒子のいずれか一方を含む実施例6、7、8は、それらのいずれも含まない比較例10よりも光束維持率が高いことが分かる。また、実施例10、11に示されるように、ジルコニアナノ粒子とシリカナノ粒子の両方を特定量含むことにより、ジルコニアナノ粒子あるいはシリカナノ粒子のいずれか一方を含む実施例6、7、8よりも、光束維持率を高くすることができたことが分かる。」

これらの記載から、本願発明1は、相違点1に係る構成により、「酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため、蛍光体と水分との反応をより抑制することができ」「長期信頼性試験においても、より優れた耐久性を有」し、「ジルコニアナノ粒子とシリカナノ粒子の両方を特定量含むことにより、ジルコニアナノ粒子あるいはシリカナノ粒子のいずれか一方を含む実施例6、7、8よりも、光束維持率を高くすることができ」るという効果を奏するものである。

一方、引用文献4及び5に記載されているように「蛍光体含有樹脂層形成用組成物に、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素などの無機微粒子を含めること。」は、周知技術であるといえるが、引用発明1において、本願発明1のように「ジルコニアナノ粒子とシリカナノ粒子の両方を特定量含むことにより、」「光束維持率を高く」し、「酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため、蛍光体と水分との反応をより抑制する」という知見に基づいて、引用発明1の蛍光体層に、特定の無機微粒子を特定の粒子径として特定量含有させ、かつ、蛍光体の含有量を本願発明1のように特定の範囲に限定する動機付けは無い。
また、引用発明2及び引用文献5に記載された技術的事項には、前記動機付けに関する記載はない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明1、引用文献3、4に記載された周知技術、引用発明2及び引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(1)引用発明2との対比・判断
ア 本願発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明2の「LED」、「パッケージ」は、それぞれ本願発明1の「発光素子」、「パッケージ」に相当する。

引用発明2において「封止剤液及び蛍光体を混合した蛍光体含有層形成液をLEDを設置した発光装置に注液し硬化させ」ているから、引用発明2の「蛍光体含有層形成液を」「硬化させ」たものは、本願発明1の「蛍光体と、樹脂と、」「である、樹脂組成物の硬化物であり、前記発光素子を被覆する封止部材」に相当する。

引用発明2の「蛍光体の仕込み組成は、K_(2)Si_(0.9)Mn_(0.1)F_(6)であり、表面改質処理後の表面におけるSiとMnの比は、0.99:0.01であ」ることは、本願発明1の「前記蛍光体が、4価のマンガンイオンで付活された、下記式(I)で示される化学組成を有し、蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含」むことに相当する。

したがって、本願発明1と引用発明2との間には、次の一致点及び相違点2があるといえる。

(一致点)
「パッケージと;
前記パッケージに配置された発光素子と;
蛍光体と、樹脂とを含む樹脂組成物の硬化物であり、前記発光素子を被覆する封止部材と;を含み、
前記蛍光体が、4価のマンガンイオンで付活された、下記式(I)で示される化学組成を有し、蛍光体内部領域の4価のマンガンイオン濃度よりも、4価のマンガンイオン濃度が低い表面領域を有する赤色蛍光体を含み、
前記表面領域が下記式(II)で示される組成を有する、発光装置。
A_(2)[M_(1-x)Mn^(4+)_(x)F_(6)] (I)
A_(2)[M_(1-y)Mn^(4+)_(y)F_(6)] (II)
(式中、Aは、K^(+)、Li^(+)、Na^(+)、Rb^(+)、Cs^(+)及びNH_(4)^(+)からなる群から選択される少なくとも1種のカチオンであり、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、xは0<x<0.2を満たし、yは0<y<xを満たす。)」

(相違点2)
本願発明1は、樹脂組成物に、「一次粒子の個数平均粒径が2nm?5nmである酸化ジルコニウムナノ粒子及び一次粒子の個数平均粒径が10nm?70nmである酸化ケイ素ナノ粒子とを含み、前記酸化ジルコニウムナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して3?25質量部であり、前記酸化ケイ素ナノ粒子の含有量が前記樹脂100質量部に対して0.3?0.8質量部であり、前記蛍光体の含有量が前記樹脂100質量部に対して20?37質量部」であるのに対し、引用発明2は、蛍光体層が、粒子を含むかは不明であり、封止剤液100重量%に対して12重量%である点。

イ 相違点2についての判断
引用文献4及び5に記載されているように「蛍光体含有樹脂層形成用組成物に、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素などの無機微粒子を含めること。」は、周知技術であるといえるが、引用発明2において、本願発明1のように「ジルコニアナノ粒子とシリカナノ粒子の両方を特定量含むことにより、」「光束維持率を高く」し、「酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため、蛍光体と水分との反応をより抑制する」という知見に基づいて、引用発明1の蛍光体層に、特定の無機微粒子を特定の粒子径として特定量含有させ、かつ、蛍光体の含有量を本願発明1のように特定の範囲に限定する動機付けは無い。
また、引用発明1及び引用文献5に記載された技術的事項には、前記動機付けに関する記載はない。
そして、本願発明1は、相違点2に係る構成により、「酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため、蛍光体と水分との反応をより抑制することができ」「長期信頼性試験においても、より優れた耐久性を有」し、「ジルコニアナノ粒子とシリカナノ粒子の両方を特定量含むことにより、ジルコニアナノ粒子あるいはシリカナノ粒子のいずれか一方を含む実施例6、7、8よりも、光束維持率を高くすることができ」るという効果を奏するものである。

したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明2、引用文献3、4に記載された周知技術、引用発明1及び引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし10について
本願発明2ないし10も、本願発明1の上記相違点1又は相違点2に係る構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明2ないし10は、当業者であっても、引用発明1、引用発明2、引用文献3、4に記載された周知技術及び引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1ないし17に係る発明について上記引用文献1ないし5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成29年7月14日付け手続補正により補正された請求項1ないし10は、それぞれ相違点1又は2に係る構成を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1ないし10は、上記引用発明1、引用発明2、引用文献3、4に記載された周知技術及び引用文献5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由は、本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

発明の詳細な説明には、酸化ジルコニウムナノ粒子及び酸化ケイ素ナノ粒子を含む発明であり、所定の効果を生じるものとして実施例10及び11の記載があるが、含有量の範囲については、ジルコニアナノ粒子では5及び20質量部、シリカナノ粒子では0.4質量部の例しかなく、特許請求の範囲の請求項1に記載されている、酸化ジルコニウムナノ粒子1?27質量部、酸化ケイ素ナノ粒子0.02?5質量部の範囲まで拡張し得るとまではいえない。
また、一般に無機粒子を含有させる際には、目的に応じて、無機粒子の種類、粒径、含有量を選択することが必要であるところ(例えば、特開2009-239242号公報段落【0299】?【0311】参照。)、ナノ粒子の種類と含有量だけ特定し、粒径の特定がない本願発明は、ナノ粒子を含有させる目的を達し得ない場合を包含することになる。
さらに、発明の詳細な説明の
「【0036】
封止部材を構成する樹脂組成物は、樹脂組成物中に一次粒子径が比較的小さい酸化ジルコニウムナノ粒子を含むことにより、樹脂組成物中で酸化ジルコニウムナノ粒子が分散し、レイリー散乱によって発光素子からの光の散乱効果が大きくなり、樹脂組成物中に含まれる蛍光体の量を従来よりも少量とした場合であっても、同様の色調を得ることができる。また、封止部材を構成する樹脂組成物は、樹脂組成物中に酸化ジルコニウムナノ粒子を含む場合、酸化ジルコニウムナノ粒子のレイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため、蛍光体と水分との反応をより抑制することができる。よって、酸化ジルコニウムナノ粒子を含む樹脂組成物を用いることで、長期信頼性試験においても、より優れた耐久性を有する発光装置を提供することができる。」
及び【表6】の記載からすると、耐久性に優れ、十分な信頼性を有するという本願発明の課題(本願明細書段落【0007】参照。)を解決するための手段の一つとして、「レイリー散乱によって蛍光体の量を少量とすることができるため、蛍光体と水分との反応をより抑制することができる」ものである必要がある。また、段落【0039】の記載からすると、酸化ケイ素ナノ粒子において、蛍光体の分散がよくなる粘度とするための条件が必要となる。
してみると、課題を解決する手段は、ナノ粒子の含有量だけでなく、酸化ジルコニウムナノ粒子において、レイリー散乱が生じる粒径であることが必要であり(なお、レイリー散乱は、粒径が波長と比べて非常に小さい場合に生じる散乱現象である。)、酸化ケイ素ナノ粒子において、適正な粘度とするための粒径であることが必要であり、また、蛍光体の量を少量(表6に記載の実施例10では34質量部、実施例11では33質量部。)とする必要があるところ、特許請求の範囲の請求項1には、粒径および蛍光体の量についての特定がないことから、請求項1ないし11に係る発明は、課題を解決する手段が反映されていないものである。

したがって、請求項1ないし11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

2.当審拒絶理由についての判断
平成29年7月14日付けの補正において、特許請求の範囲が上記第2に記載のとおり補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし10は、当業者が引用発明1、引用発明2、引用文献3、4に記載された周知技術及び引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-26 
出願番号 特願2015-6707(P2015-6707)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 近藤 幸浩
森 竜介
発明の名称 発光装置及び樹脂組成物  
代理人 膝舘 祥治  
代理人 柳橋 泰雄  
代理人 言上 惠一  
代理人 鮫島 睦  

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