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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A62B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A62B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62B
管理番号 1332688
審判番号 不服2016-8208  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-02 
確定日 2017-10-03 
事件の表示 特願2012- 15998「シンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク、インフルエンザ予防方法及び該予防装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月15日出願公開、特開2013-153889、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月28日の出願であって、平成27年1月26日に手続補正書が提出され、平成27年10月19日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年12月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年2月26日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年6月2日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成29年1月16日に上申書が提出され、その後、当審において平成29年4月25日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年6月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年6月26日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
シンナムアルデヒド又はシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を保管する容器1、シンナムアルデヒドの揮発を促進させる加熱部2、シンナムアルデヒド放散量検出センサー3、加熱温度調整部4及び換気扇5を少なくとも備え、室内の空間23.3m^(3)当たりの空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散することを特徴とするインフルエンザ予防装置。」

第3 原査定の理由の概要及び判断
1 原査定の拒絶の理由の概要
(1)平成27年10月19日付けで通知した拒絶理由の概要
平成27年10月19日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1について

・請求項 1-3、5、6
・引用文献等 1-3
・備考

引用文献1には、0.1?8mg/時間の速度で芳香成分が気化するように調整されたマスクであって、芳香成分としてシンナムアルデヒドを用いること、芳香成分はマスクの層状構造の間に挟むことが記載されており(段落[0009]-[0024]を参照)、シンナムアルデヒドがインフルエンザに対して効果があること(引用文献2の段落[0037]-[0040]を参照)が公知であるから、引用文献1に記載されたシンナムアルデヒドを用いたマスクをインフルエンザ予防用として用いることは当業者が容易になし得たことである。また、マスクを袋状とすること(引用文献3の段落[0005]-[0016]、[図1]、[図2]を参照)も当業者が容易になし得たことである。

・請求項 4
・引用文献等 4、1、2
・備考

引用文献4には、室外ユニットと室内ユニットが連結され、冷房運転又は暖房運転する空気調和機3において、室内ユニットに薬剤を放出する薬剤放出部16を設けて、ウィルスを殺菌する殺菌運転を行う際に薬剤放出部16から芳香用薬剤を放出し、空気中の薬剤の濃度を適正にするために温度センサ13、36が検出した温度を用いて薬剤の放出量を決定する空気調和機3が記載されており(段落[0001]-[0068]、[図1]-[図9]を参照)、芳香用薬剤として0.1?8mg/時間の速度で気化するシンナムアルデヒドを用いること(引用文献1の段落[0009]-[0024]を参照)、シンナムアルデヒドがインフルエンザに対して効果があること(引用文献2の段落[0037]-[0040]を参照)が公知であるから、引用文献4に記載された空気調和機の芳香用薬剤として0.1?8mg/時間の速度で気化するシンナムアルデヒドを用いてインフルエンザウィルスを殺菌することは当業者が容易になし得たことである。

<引用文献等一覧>
1.特開2004-215793号公報
2.米国特許出願公開第2011/52727号明細書
3.実願平4-74504号(実開平6-36653号)のCD-ROM
4.特開2006-125807号公報」

(2)平成28年2月26日付けでした拒絶査定の概要
平成28年2月26日付けでした拒絶査定の概要は、以下のとおりである。

「この出願については、平成27年10月19日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

出願人は平成27年12月21日付け意見書において下記のとおり主張している。

●理由1(特許法第29条第2項)について

・請求項 1、2
・引用文献等 1-3

『(1)請求項1-3、5、6・・・
-2 引用文献について
引用文献1:本文献は、「芳香成分等による過度の刺激を伴わず適度な清涼感を得ることができるマスク」を開示しています。すなわち、「インフルエンザ予防用マスク」を開示又は示唆をしていません。さらに、さらに、芳香成分の一つとしてシンナムアルデヒドが列挙されています。しかし、シンナムアルデヒドの用途は、清涼感や爽快感を感じる芳香成分としての利用のみ開示しており、さらに、必要な濃度についてもいっさいの開示又は示唆がありません。
すなわち、本文献は、本願発明とは、課題(使用者に過度の刺激を伴わず適度な清涼感を得ることができるマスク)、作用(インフルエンザウイルス濃度の減少とは異なる作用)及び効果(使用者に適度な清涼感を与える)が明らかに異なります。
引用文献2:本文献は、「シンナムアルデヒドがインフルエンザに効くこと」を開示していていますが、「シンナムアルデヒドがインフルエンザに効くために必要な空気中の濃度」はいっさいの開示がありません。より詳しくは、「ヒトのインフルエンザ感染を防止できかつ副作用がない空気中の濃度」は開示又は示唆がありません。・・・
-3 引用文献を組み合わせても補正後請求項1に容易に想到することができない理由
上記引用文献1?2の開示の通りに、当業者は、引用文献1(シンナムアルデヒドを使用した清涼感を得るためのマスク)及び引用文献2(単にシンナムアルデヒドがインフルエンザに効くことという事実)を組み合わせても、インフルエンザ感染を防止できかつ副作用がない効果を奏する特定のシンナムアルデヒド濃度を放散することを特徴とするインフルエンザ予防用マスクを容易に想到することができないことは明らかであります。』
『(2)請求項4・・・
-1 引用文献4について
引用文献4は、「芳香用薬剤を放出する空気調和機」を開示している。しかし、インフルエンザ感染防止の適用として、「シンナムアルデヒド」を開示又は示唆をしていない。
-2 引用文献を組み合わせても補正後請求項1に容易に想到することができない理由
上記引用文献1?2及び4の開示の通りに、当業者は、引用文献1(シンナムアルデヒドを使用した清涼感を得るためのマスク)、引用文献2(単にシンナムアルデヒドがインフルエンザに効くことという事実)及び引用文献4(芳香用薬剤を放出する空気調和機)を組み合わせても、インフルエンザ感染を防止できかつ副作用がない効果を奏する特定のシンナムアルデヒド濃度を放散することを特徴するインフルエンザ予防装置を容易に想到することができないことは明らかであります。』
『4)裁判例について・・・
すなわち、今回の拒絶理由通知に照らすと、以下のようになります。
審査官殿は、単に「引用文献1に記載された芳香成分が気化するマスクをインフルエンザ予防用として用いることは当業者は容易になし得る」及び「引用文献4に記載された空気調和機の芳香用薬剤としてインフルエンザ予防用シンナムアルデヒドを採用することは当業者は容易になし得る」と推測するだけでは十分ではなく、「当業者が、インフルエンザ予防用としてのシンナムアルデヒドを芳香成分が気化するマスク又は空気調和機の芳香用薬剤として採用するための動機」を示唆する存在(証拠)を拒絶理由通知の中で明記する必要があると思料します。
出願人は、上記存在(証拠)がいずれの引用例の箇所にも示唆されていないと考えております。
すなわち、当業者は、各引用文献の開示により本発明を容易に想到することができないことが明らかであります。』

出願人の主張について検討する。

補正後の請求項1について
拒絶理由で通知したとおり、引用文献1には、0.1?8mg/時間の速度で芳香成分が気化するように調整された(特に段落[0012]を参照)マスクであって、芳香成分としてシンナムアルデヒドを用いること、芳香成分はマスクの層状構造の間に挟むことが記載されている(段落[0009]-[0024]を参照)。また、実施例において芳香成分の気化速度として3.5mg/時間となるよう調整していることも記載されている。
してみれば、引用文献1に記載された発明に接した当業者であれば、芳香成分としてシンナムアルデヒドを用い、芳香成分の気化速度を0.1?8mg/時間、特に3.5mg/時間程度として0.7?5.0mg/時間の範囲にすることは容易になし得る。
また、引用文献1には、マスクがウィルスの侵入を防止するために用いられることも記載されている(段落[0002]参照)から、ウィルスの一種であるインフルエンザウィルス予防用として、引用文献1に記載されたマスクを用いることは通常行われるものと認められる。
そして、引用文献2にはシンナムアルデヒドがインフルエンザを殺菌する効果があることが記載されている(引用文献2の段落[0037]-[0040]を参照)から、インフルエンザウィルスの侵入の防止に加えて殺菌を行うために引用文献1に記載されたマスクを用いることは当業者であれば容易になし得たことである。

よって、本願請求項1に係る発明は引用文献1、2の記載に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

補正後の請求項2について
引用文献3には、ウィルスを殺菌する殺菌運転を行う際に薬剤放出部16から芳香用薬剤を放出すること、薬剤の濃度はユーザが不快にならないように(段落[0001]を参照)適正な濃度とすることが記載されており(段落[0001]-[0068]、[図1]-[図9]を参照)、引用文献1に記載された芳香用薬剤としてシンナムアルデヒドを用いる技術(段落[0009]-[0024]を参照、引用文献2に記載されたシンナムアルデヒドがインフルエンザを殺菌する効果(段落[0037]-[0040]を参照)に接した当業者であれば、引用文献3に記載された空気調和機の芳香用薬剤としてシンナムアルデヒドを用いてインフルエンザウィルスを殺菌することは当業者が容易になし得たことであり、その気化速度として、不快にならない程度の気化速度である引用文献1に記載された芳香成分の気化速度(0.1?8mg/時間、特に3.5mg/時間程度として0.7?5.0mg/時間の範囲にすること)を用いることは当業者であれば適宜なし得た事項である。

よって、本願請求項2に係る発明は引用文献3、1、2の記載に基づいて、当業者であれば容易になし得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、出願人の主張は失当であって、採用できない。

<引用文献等一覧>
1.特開2004-215793号公報
2.米国特許出願公開第2011/52727号明細書
3.特開2006-125807号公報」

2 原査定の拒絶の理由についての判断
(1)引用文献
(1-1)引用文献1(特開2004-215793号公報)
ア 引用文献1の記載
引用文献1には、「マスクの使用方法」に関して、図面とともに次の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香成分を担持した芳香部材と、静電フィルター又はアパタイトフィルターを組みあわせたマスクとを接触させ、その後にマスクを装用することを特徴とするマスクの使用方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により使用されるマスク。
【請求項3】
請求項1に記載の方法により使用されるマスクセット。
【請求項4】
アパタイトフィルターを組みあわせたマスクと、芳香成分を担持した芳香部材とからなるマスクセット。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項4】)
(イ)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、上記した問題に鑑み、静電フィルター又はアパタイトフィルターを組み合わせたマスクを用いても息苦しさを緩和でき、装用時に清涼感を得るに適度な量で芳香成分がマスクに担持され、かかる清涼感が長時間持続をするとともに、強すぎる刺激や炎症の危険を伴うことない極めて安全なマスクの使用方法、及びかかるマスク又はマスクセットを提供することを目的とする。」(段落【0006】)
(ウ)「【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の使用方法では、芳香成分を担持した芳香部材と静電フィルター又はアパタイトフィルターを組み合わせたマスクとを接触させて、その後にマスクを装用することを特徴とする。
本発明に用いる芳香成分は、揮発性、好ましくは室温で揮発性であって、清涼感や爽快感を感じる芳香成分であることが好ましい。例えば、メントール、カンフル、ゲラニオール、ヒノキチオール、ボルネオール、リモネン、バニリン、シンナムアルデヒド、メントン、メンチルアセテート、シネオール、ピネン、テルピネオール、キャディネン、サンタオール、オイゲノール、チモール、シトラール、ベンジルアセテート、ジャスモン、インドール、リナロール、アネソール、カルボン、オシメン、エチルフラン、ピペリトール、ミルテノール、ミントラクトン、ピペリトン、グアイオール、グロブロール、ファルネソール、セドロール、クミンアルデヒド、サンタロール等が挙げられる。
(中略)
【0012】
本発明の芳香部材は、部材の材質や表面積、形態等を適宜選択して芳香成分の気化速度を調整することができる。芳香成分をマスクに十分量供給するためには、室温で0.05?15mg/時間の気化速度、好ましくは0.1?8mg/時間の速度で芳香成分が気化するように調整された芳香部材を用いると、芳香成分のマスクへの担持量を接触時間を選択することにによって調整することが容易である。この気化速度以上の場合には短時間の接触によってマスクに過度の芳香成分が担持しやすくなり、担持量の制御が困難となりやすい。
(中略)
【0023】
実施例3 l-メントール30部、カンフル20部、アセトン20部、エタノール20部、グリセリン10部となるように溶解した混合溶液をワットマン3MM濾紙に含浸させた後、風乾してアセトンを除去して芳香部材を得た。得られた芳香部材は、50g/m^(2)のl-メントールを含浸しており、室温での気化速度が3.5mg/時間であった。3.5cm×3.5cmのサイズにカットした芳香部材を3枚重ねて通気性袋に封入し、市販のアパタイトフィルター及び静電フィルターを組み込んだマスクの層状部に挟み込んで室温で3時間放置した。こうして得られたマスクを風邪の患者に10時間装用してもらったところ、マスク装用中装用中鼻の周辺や鼻腔内、口唇粘膜部や咽頭部への刺激や炎症が生じることも無く適度な清涼感が持続した。
(中略)
【0025】
【発明の効果】
本発明のマスク使用方法は、芳香成分を担持した芳香部材と、静電フィルター又はアパタイトフィルターを組みあわせたマスクとを接触させて、その後にマスクを装用することによって、マスク装用中適度な清涼感が持続するとともに刺激を伴うことのない極めて安全な方法である。また、かかる方法を用いたマスク又はマスクセットは、マスク装用者に刺激を伴うおそれなく適度な清涼感を長時間にわたり付与することができる。
さらに、本発明は非常に簡便な方法であるので、マスク装用者自身が家庭で簡便に行うことができる。装用の前にマスクと芳香部材を接触させる時間や接触方法を適宜選択することによって、装用者自身の体調や嗜好に合致する適度な清涼感を調整することが可能となる。」(段落【0009】ないし【0025】)

イ 引用文献1記載の発明
上記ア及び図面の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載の発明」という。)が記載されているといえる。
「芳香成分であるシンナムアルデヒドを担持した芳香部材と、静電フィルター又はアパタイトフィルターを組みあわせたマスク。」
また、上記ア及び図面の記載から、引用文献1には、次の技術(以下、「引用文献1記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「芳香成分をマスクに十分量供給するために、室温で0.05?15mg/時間の気化速度、好ましくは0.1?8mg/時間の速度で芳香成分が気化するように調整された芳香部材を用いる技術。」

(1-2)引用文献2(米国特許出願公開第2011/0052727号明細書)
ア 引用文献2の記載
引用文献2には、「ANTI INFLUENZA NUTRITIONAL SUPPLEMENTS」に関して、図面とともに次の記載がある。
(ア)「[0037] C. Cinnamaldehyde or Cinnamic Acid ・・・with that of untreated controls.(後略)」(段落[0037]ないし[0040])
(当審仮訳):「[0037] C.桂皮アルデヒドまたは桂皮酸
[0038] シナモンアルデヒドまたはシンナムアルデヒド(より正確にはトランスシンナムアルデヒド)は、シナモンにその風味および臭いを与える化合物である。桂皮アルデヒドは、シナモン樹の樹皮および樟脳およびカッシアのようなシナモン属の他の種に自然に存在する。これらの木はシナモンの天然源であり、シナモン樹皮の精油は約90%のシンナムアルデヒドである。大部分のシンナムアルデヒドは、シンナムアルデヒドの酸化形態である桂皮酸として尿中に排泄される。
[0039] 1.インフルエンザAウイルス(株A/プエルトリコ/8/1934 H1N1)、MDCK細胞、ウイルス増殖の阻害
[0040]インビトロおよびインビボ実験では、シナモン樹皮に見られる化合物であるトランスシンナムアルデヒド(trans-cinnamaldehyde、CA)がインフルエンザA/PR/8ウィルスの増殖抑制効果を有することが示された。これらの実験では、Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞におけるウイルス感染後の様々な時点で、固定用量のCA(40μM)を用いて1時間の薬物治療を開始し、同じ治療スケジュールの下で、種々の濃度のCA(20-200μM)で処理した。CA処置(40μM)を感染の3時間後に与えた場合、その結果は最大阻害効果(対照の29.7%ウイルス収量)を示した。種々の濃度(20-200μM)での処理は、用量依存的にウィルス増殖を阻害し、200μMでは、ウイルス収量は検出不可能なレベルまで低下した。分析は、CAが転写後レベルでウイルスタンパク質合成を阻害することを示した。肺に適応したPR-8ウイルスを感染させたマウスでは、吸入(50mg/ケージ/日)および経鼻接種(250μg/マウス/日)により8日間の生存率が100%および70%未処理対照では20%の生存率とは対照的である。重要なことに、CAの吸入は、感染後6日目の気管支肺胞洗浄液中のウイルス収量の減少を、未処理の対照と比較して1対数減少させた。(後略)」}
イ 引用文献2記載の技術
上記ア及び図面の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「マウスに50mg/ケージ/日(1時間当たりに換算すると、2.08mg/ケージ/h)のシンナムアルデヒドを吸入させることにより、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する技術。」

(1-3)引用文献3(実願平4-74504号(実開平6-36653号)のCD-ROM))
ア 引用文献3の記載
引用文献3には、「防塵・防菌用マスク」に関して、図面とともに次の記載がある。
(ア)「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 通気性を有する布材からなるマスク本体と、該マスク本体の両端に設けられた耳掛け用の紐体とからなり、該紐体を介して使用者の顔面に装着されて、使用者の鼻腔或は咽頭から大気中の有害物質が侵入するのを防止する防塵・防菌用マスクにおいて、
前記マスク本体の片面に前記布材によりポケットを形成し、該ポケットに、生薬又は生薬を含む漢方薬を収納してなることを特徴とする防塵・防菌用マスク。
【請求項2】 請求項1に記載の防塵・防菌用マスクにおいて、
前記ポケットに収納される生薬又は漢方薬は、予め通気性を有する袋に収納されており、該袋単位で前記ポケットに出し入れ可能であることを特徴とする請求項1に記載の防塵・防菌用マスク。」(【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】)
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、使用者の顔面に装着されて、使用者の鼻腔或は咽頭から大気中の有害物質が侵入するのを防止する防塵・防菌用マスクに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、こうした防塵・防菌用マスクは、ガーゼを重ね折りしたマスク本体と、これを顔面に装着するための耳掛け用のゴム紐とから構成されており、風邪や花粉症等の患者に広く使用されている。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかし、従来の防塵・防菌用マスクは、単に、使用者の鼻腔や咽頭から、ほこり,刺激性ガス,病原体等の有害物質が侵入するのを防止するためのものであり、風邪や花粉症等の諸症状を緩和する機能を持っていないため、咽の痛み、咳といった各種症状に対しては、別途その症状を緩和するための薬を飲んだり口に含む必要があった。
【0004】
本考案は、こうした問題に鑑みなされたもので、このように別途薬を服用することなく、装着するだけで風邪や花粉症等の諸症状を緩和することのできる防塵・防菌用マスクを提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の考案は、通気性を有する布材からなるマスク本体と、該マスク本体の両端に設けられた耳掛け用の紐体とからなり、該紐体を介して使用者の顔面に装着されて、使用者の鼻腔或は咽頭から大気中の有害物質が侵入するのを防止する防塵・防菌用マスクにおいて、マスク本体の片面に前記布材によりポケットを形成し、該ポケットに、生薬又は生薬を含む漢方薬を収納してなることを特徴としている。
【0006】
また、請求項2に記載の考案は、上記請求項1に記載の防塵・防菌用マスクにおいて、ポケットに収納される生薬又は漢方薬は、予め通気性を有する袋に収納されており、該袋単位で前記ポケットに出し入れ可能であることを特徴としている。
【0007】
【作用】
上記のように、請求項1に記載の防塵・防菌用マスクにおいては、マスク本体の片面にポケットが形成され、該ポケットに生薬又は生薬を含む漢方薬が収納されている。このため、この防塵・防菌用マスクを装着すれば、空気と共に生薬が同時に体内に吸入されることとなり、その生薬の成分により、風邪や花粉症等の諸症状を緩和することができるようになる。
【0008】
例えば、生薬として、生姜(しょうきょう),桂皮(けいひ),薄荷(はっか),蘇葉(そよう),細辛(さいしん),大蒜(たいさん),枳実(きじつ),丁子(ちょうじ),茴香(ういきょう),縮砂(しゅくしゃ),厚朴(こうぼく),沈香(じんこう),甘草(かんぞう),杏仁(きょうにん),桃仁(とうにん),橙皮(とうひ),辛夷(しんい),前胡(ぜんこ),荊がい(けいがい)の内の1種類以上を使用すれば、これら各生薬が有する特性により、
(1) 咽の痛み、咳、痰、鼻水、鼻詰まりといった、風邪,花粉症,アレルギー性鼻炎等による諸症状を緩和する。
(中略)
【0012】
上記各図に示す如く、本実施例の防塵・防菌用マスクは、ガーゼを重ね折りすることにより長方形の芯材2を形成し、この芯材2の外側から、その長手方向に表地4となるもう一枚のガーゼを巻き付け、これを縫合することによりマスク本体6が形成されている。また、芯材2に巻き付けられた表地4の両端には、耳掛け用のリング状のゴム紐8が係合されている。
【0013】
次に、図1に示す如く、マスク本体6の裏側には、表地4の一端を開放することにより、ポケット10が形成されている。そしてこのポケット10には、生薬或は生薬を含む漢方薬が収納された袋12が挿入されている。
なお、この袋12は通気性を有し、その内部には、生姜(しょうきょう),桂皮(けいひ),薄荷(はっか),蘇葉(そよう),細辛(さいしん),大蒜(たいさん),枳実(きじつ),丁子(ちょうじ),茴香(ういきょう),縮砂(しゅくしゃ),厚朴(こうぼく),沈香(じんこう),甘草(かんぞう),杏仁(きょうにん),桃仁(とうにん),橙皮(とうひ),辛夷(しんい),前胡(ぜんこ),荊がい(けいがい)等の刻み,粉末,エキスを1種類以上配合した生薬或は漢方薬が収納されている。
【0014】
また、図2に示す如く、マスク本体6を構成する芯材2の内部には、ポケット10に沿って、針金をビニールで覆った所謂ビニール帯14が、粘着テープ,接着剤等により固定されている。
このように本実施例の防塵・防菌用マスクにおいては、マスク本体6の裏側にポケット10が形成され、このポケット10に、生薬又は生薬を含む漢方薬が収納された袋12が挿入されているため、この防塵・防菌用マスクを装着すれば、空気と共に生薬が同時に体内に吸入されることとなり、使用者の鼻腔や咽頭から空気中の有害物質が侵入するのを防止することができるだけでなく、袋12内に収納された生薬又は漢方薬の成分により、風邪,花粉症,アレルギー性鼻炎等による諸症状を緩和したり、使用者の頭をすっきりさせるとか、口臭をおさえるといった、各生薬が有する種々の効能を得ることができる。
【0015】
また、生薬や漢方薬は、通気性を有する袋12に収納されているため、マスク本体6には、生薬や漢方薬を袋単位で装着できる。従って、長時間の使用によってポケット10内の薬が効かなくなった場合や、ポケット10内の薬が使用者に合わないような場合には、ポケット10内の薬を、新たな或は使用者の症状に適した薬に簡単に変更することができ、防塵・防菌用マスクを有効に利用することができる。
【0016】
また更に、マスク本体6には、ポケット10に沿ってビニール帯14が設けられており、このビニール帯14が、ポケット10に袋12を出し入れする際の案内として機能するため、ポケット10への袋12の出し入れが簡単になる。
【0017】
【考案の効果】
以上説明したように、本考案の防塵・防菌用マスクによれば、使用者の鼻腔や咽頭から空気中の有害物質が侵入するのを防止することができるだけでなく、ポケットに収納した生薬により、咽の痛み,咳といった、風邪や花粉症等に伴う諸症状を緩和したり、使用者の気分転換を図ることができる。また、生薬又はこれを含む漢方薬を通気性を有する袋に収納して、袋単位でポケットに出し入れできるようにすることにより、本考案の防塵・防菌用マスクの有効利用を図ることもできる。」(段落【0001】ないし【0017】)

イ 引用文献3記載の技術
上記ア及び図面の記載から、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「マスク本体6のうち口側の表地4以外の部分、口側の表地4、桂皮を収納する袋12を含み、該袋12が該マスク本体6のうち口側の表地4以外の部分と該口側の表地4間に挟まれている、空気中の有害物質が侵入するのを防止するマスク。」

(1-4)引用文献4(特開2006-125807号公報)
ア 引用文献4の記載
引用文献4には、「空気調和機」に関して、図面とともに次の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、空気調和機に関するものであり、特に、芳香用薬剤又は消臭用薬剤等の薬剤を放出することが可能な空気調和機に関する。」(段落【0001】)
(イ)「【0025】
以下に、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は本発明に係る空気調和機の室内ユニットを示しており、図1(a)に外観斜視図を、図1(b)に縦断面図をそれぞれ示している。本実施形態に係る空気調和機3(図2参照)は、室内の暖房及び冷房をそれぞれ行なう暖房運転及び冷房運転を、ユーザによる設定に従って行ない、室内の温度を調節する空調動作を行なう。なお、空気調和機3は、これらの運転の他、室内を除湿する除湿運転、煙草の煙、空気中の埃等を除去する空気清浄運転、浮遊する細菌、ウィルス等を殺菌する殺菌運転、室内を加湿する加湿運転等を行なう構成であってもよく、室内/屋外の温度、湿度等に基づいて、各種運転を切り替える自動運転を行なう構成であってもよい。
【0026】
本実施形態の空気調和機3は、空調すべき室内の壁面に取り付けられる室内ユニット1と、室外に設置される室外ユニット2(図2参照)と、室内ユニット1及び室外ユニットを連結する配管が通されたパイプP1,P2(図2参照)とを備えている。室内ユニット1は、室内の空気を吸い込むための空気吸込口10a,11aが適宜箇所に形成してあるキャビネット10及び正面パネル11を備えており、キャビネット10に正面パネル11を取り付けることにより構成されている。
【0027】
室内ユニット1の内部には、キャビネット10及び正面パネル11の空気吸込口10a,11aから吸い込まれた室内の空気の温度を検出する室内温度センサ13と、空気吸込口10a,11aから吸い込まれた室内の空気を冷房運転時には冷却し、暖房運転時には加熱することによって空調する室内熱交換器14a,14b,14cと、空調済みの空気を送風した上で空気吹出口12から吹き出す送風ファン15とが設けられている。また、空気吹出口12内には、風向板12aが配置されており、この風向板12aによって空気吹出口12から室内へと吹き出される空気の吹出風向を上下方向に沿って調整することができる。
【0028】
また、室内ユニット1のキャビネット10には、空調された空気が送風ファン15によって空気吹出口12へ送風される空気の送風路に面した位置に、芳香用薬剤を放出するための放出口16aが設けられており、この放出口16aから芳香用薬剤を放出する薬剤放出装置(薬剤放出部)16が配設されている。薬剤放出装置16は、液体の芳香用薬剤を貯留するカセット式の薬剤ボトル16bと、薬剤ボトル16bから毛細管現象を利用して薬剤を吸い上げる軸芯16cと、軸芯16cの上方を取り囲んで配置され、軸芯16cを加熱することにより薬剤を蒸発させるヒーター16dとを具備している。
【0029】
このような構成の薬剤放出装置16において、図示しない電源装置によってヒーター16dに通電することにより、軸芯16cが吸い上げた薬剤を蒸発させることができ、蒸発した薬剤が放出口16aから放出され、冷却又は加熱された空気と混合されて空気吹出口12から室内に放出される。なお、薬剤放出装置16が放出する芳香用薬剤は、ヒノキチオール等の植物性の薬剤であることが好ましいが、植物性である必然性があるわけではない。また、薬剤ボトル16bに貯留される薬剤は、芳香用の薬剤に限られず、消臭用の薬剤であってもよく、各種薬剤の原液を水、アルコール、油等で希釈したものであってもよいことは勿論である。」(段落【0025】ないし【0029】)
(ウ)「【0039】
上述した構成の空気調和機3において、CPU30は、ヒーター制御部38を制御することにより、薬剤放出装置16から放出される薬剤の放出量を制御する制御手段として動作する。即ち、CPU30からの指示に従ってヒーター制御部38がヒーター16dに流す電流量及び通電時間を制御することにより、ヒーター16dによって加熱されて蒸発する薬剤の量を制御することができる。」(段落【0039】)
(エ)「【0040】
以下に、ヒーター制御部38がヒーター16dに流す電流量及び通電時間を制御することによって薬剤放出装置16から放出される薬剤の放出量を決定する処理について説明する。なお、以下の処理によって薬剤の放出量が特定された場合、CPU30は、特定された放出量の薬剤を薬剤放出装置16が放出するようにヒーター制御部38を制御する。
(中略)
【0046】
このように、CPU30は、熱量(Q)、室内温度(Tin)及び室外温度(Tout )に基づいて、薬剤放出装置16が放出すべき薬剤の放出量(Y)を算出する算出手段として動作し、算出した薬剤の放出量(Y)に基づいて、ヒーター制御部38を適切に制御することにより、ヒーター制御部38によってヒーター16dに適切な電流量が流され、適切な量の薬剤が薬剤放出装置16から放出される。
(中略)
【0052】
このように、CPU30は、熱量(Q)及び所定時間における室内の温度変化(Tin2 -Tin1 )に基づいて、薬剤放出装置16が放出すべき薬剤の放出量(Y)を算出する算出手段として動作し、算出した薬剤の放出量(Y)に基づいて、ヒーター制御部38を適切に制御することにより、ヒーター制御部38によってヒーター16dに適切な電流量が流され、適切な量の薬剤が薬剤放出装置16から放出される。」(段落【0040】ないし【0052】)
(オ)「【0062】
また、上述した構成の空気調和機3を、冷房運転又は暖房運転を行なわない場合であっても芳香用薬剤の放出処理を行なえる構成とすることができる。この場合、CPU30が制御するヒーター制御部38の制御量、即ちCPU30がヒーター制御部38を制御することによって薬剤放出装置16から放出される薬剤の放出量をRAM(記憶手段)32に記憶しておくことにより、次に薬剤放出装置16によって薬剤を放出させる際に、RAM32に記憶された放出量に基づいて、CPU30がヒーター制御部38を制御することができる。
【0063】
上述した実施形態では、CPU30は、ヒーター制御部38を介してヒーター16dに流す電流量を制御する構成について説明したが、例えば、ヒーター16dに流す電流量と共に、ヒーター16dへの通電時間も制御する構成とすることもできる。例えば、CPU30が、上述したように式(1)又は式(2)を用いて薬剤の放出量を算出し、算出した放出量に応じた時間を特定する構成とした場合、薬剤放出装置16が放出する薬剤の放出量及び放出時間を制御することができ、室内の空気中により適正な濃度の薬剤を送出することができる。」(段落【0062】及び【0063】)
(カ)「【0065】
図6はヒーター制御部38によるヒーター16dへの通電処理を示すタイムチャートである。図6に示すように、ユーザが香り発生ボタンを操作した場合、CPU30はヒーター制御部38を介してヒーター16dを通電させる。また、前述の式(1)又は式(2)を用いて特定された薬剤の放出量Yに応じた時間が経過した場合、CPU30はヒーター16dへの通電を終了する。更に、ユーザが香り発生ボタンを再度操作した場合、CPU30は、その時点での薬剤の放出量Yに応じた時間だけ再びヒーター16dへの通電を行なう。これにより、ユーザは、香り発生ボタンを操作した場合に一時的に放出される芳香用薬剤によってリラックスすることができる。
【0066】
図7はヒーター制御部38によるヒーター16dへの通電処理の変形例を示すタイムチャートである。図7に示すように、所定時間中において、前述の式(1)又は式(2)を用いて特定された薬剤の放出量Yに応じた時間だけヒーター16dを通電させる処理を繰り返すことにより、薬剤放出装置16が放出する薬剤の空気中の濃度を一定に維持することができる。
【0067】
上述した実施形態では、薬剤放出装置16が放出する芳香用薬剤に液体の薬剤を用いており、これにより薬剤ボトル16b中の薬剤がなくなるまでヒーター16dによる薬剤の蒸発速度は変化しないが、例えばシリカゲルのような多孔質体に液体の薬剤を保持させた場合には、図8に示すように、芳香用薬剤の累積放出量(累積放出時間)に伴ってヒーター16dによる薬剤の蒸発速度(放出速度)が遅くなる。
【0068】
従って、このような場合には、空気調和機3のCPU30が、薬剤放出装置16の薬剤を取り替えてから薬剤放出装置16が薬剤を放出した累積放出時間を計測する放出量計測手段として動作するように構成する。また、CPU30が、式(1)又は式(2)を用いて算出した薬剤の放出量Yに応じて特定した時間に、図9に示すように累積放出時間が長くなるにつれて大きくなる補正係数のうちの計測した累積放出時間に対応する補正係数を乗算し、算出した時間だけヒーター16dを通電させる。このような構成により、薬剤放出装置16による芳香用薬剤の放出速度が遅くなった場合であっても、薬剤の放出時間を長くすることによって空気中の薬剤を適正な濃度にすることができる。」(段落【0065】ないし【0068】)

イ 引用文献4記載の発明
上記ア及び図面の記載から、引用文献4には、次の発明(以下、「引用文献4記載の発明」という。)が記載されているといえる。
「ウィルス等を殺菌する薬剤を保管する薬剤ボトル16b、薬剤の揮発を促進させるヒーター16d、ヒーター制御部38及び送風ファン15を少なくとも備え、室内の空間の空気中で適切な量の薬剤を放出するウィルス等を殺菌する装置。」

(2-2) 対比・判断
本願発明と引用文献4記載の発明とを対比すると、引用文献4記載の発明における「薬剤ボトル16b」は、その機能、構成及び技術的意義から、本願発明における「容器」に相当し、以下同様に、「ヒーター16d」は「加熱部2」に、「ヒーター制御部38」は「加熱温度調整部」に、「送風ファン15」は「換気扇」に、それぞれ相当する。
また、引用文献4記載の発明における「薬剤」は、「ウィルス等を殺菌する薬剤」という限りにおいて、本願発明における「シンナムアルデヒド又はシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物」及び「シンナムアルデヒド」に相当する。
また、引用文献4記載の発明における「適切な量」は、「適切な量」という限りにおいて、本願発明における「室内の空間23.3m^(3)当たりの空気中で0.7mg/h?5.0mg/h」に相当し、同様に、「ウィルス等を殺菌する装置」は、「ウィルス等を殺菌する装置」という限りにおいて、本願発明における「インフルエンザ予防装置」に相当する。
そうすると、本願発明と引用文献4記載の発明は、
「ウィルス等を殺菌する薬剤を保管する容器、ウィルス等を殺菌する薬剤の揮発を促進させる加熱部、加熱温度調整部及び換気扇を少なくとも備え、室内の空間の空気中で適切な量のウィルス等を殺菌する薬剤を放散するウィルス等を殺菌する装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
(1)「ウィルス等を殺菌する薬剤」として、本願発明においては、「シンナムアルデヒド又はシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物」を用いるのに対し、引用文献4記載の発明においては、ウィルス等を殺菌する薬剤を用いる点(以下、「相違点1」という。)。
(2)本願発明においては、「シンナムアルデヒド放散量検出センサー3」を有し、「室内の空間23.3m^(3)当たりの空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」のに対し、引用文献4記載の発明においては、薬剤の放散量を測定するセンサーを有さず、適切な量のウィルス等を殺菌する薬剤を放散する点(以下、「相違点2」という。)。
(3)「ウィルス等を殺菌する装置」に関して、本願発明においては、「インフルエンザ予防装置」であるのに対し、引用文献4記載の発明においては、「ウィルス等を殺菌する装置」である点(以下、「相違点3」という。)。

事案にかんがみ、まず、相違点2について検討する。

<相違点2について>
「シンナムアルデヒド放散量検出センサー3」を有し、「室内の空間23.3m^(3)当たりの空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」点は、引用文献1記載の発明及び引用文献1ないし3記載の技術には記載されておらず、また、当業者にとって自明の事項ともいえない。

したがって、引用文献4記載の発明において、引用文献1記載の発明及び引用文献1ないし3記載の技術を適用しても、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

よって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本願発明は、引用文献4記載の発明並びに引用文献1記載の発明及び引用文献1ないし3記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)まとめ
本願発明は、引用文献4記載の発明並びに引用文献1記載の発明及び引用文献1ないし3記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定の理由1(特許法第29条第2項)によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由の概要及び判断
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「<理由1>
本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


〔刊行物〕
1.特開平7-148280号公報(以下、「刊行物1」という。)
2.実願平4-74504号(実開平6-36653号)のCD-ROM(以下、「刊行物2」という。)
3.特開2006-187508号公報(以下、「刊行物3」という。)
4.米国特許出願公開第2011/0052727号明細書(以下、「刊行物4」という。)
5.特開2007-252777号公報(以下、「刊行物5」という。)
6.特開2006-125807号公報(以下、「刊行物6」という。)

〔備考〕(なお、[ ]内には、請求項1又は2に係る発明において相当する又は対応する発明特定事項を記載する。)
(1)請求項1に係る発明について
刊行物1(特に、【特許請求の範囲】、段落【0038】(特に、「消毒作用(組織の変質を防ぎ、感染を抑止する作用)を有する・・・シナモン」との記載を参照。)及び図1ないし12を参照。)には、
「マスク本体11,21[マスク本体]、交換用布材14,24[鼻孔及び/又は口の接触部]、シナモンの精油成分を塗布又は含浸可能な繊維状物[シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を塗布又は含浸可能な吸着層]を含み、該繊維状物[吸着層]が該マスク本体11,21および/または該交換用布材14,24の少なくとも一部に有し[該マスク本体と該鼻孔及び/又は口の接触部間に挟まれており]、感染を抑止するマスク[インフルエンザ予防用マスク]。」
という発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
(なお、刊行物1には、花粉症の症状を緩和することも記載されているが、本願の請求項1に係る発明も、花粉症予防等の効果を奏する(段落【0021】参照。)ものである。)
ここで、吸着層が、マスク本体と鼻孔及び/又は口の接触部間に挟まれるようにする技術は、周知技術(以下、「周知技術1」という。例えば、上記刊行物3、登録実用新案第3050471号公報(特に、実用新案登録請求の範囲及び図1ないし3を参照。)、特開2011-24942号公報(特に、段落【0023】及び【0024】を参照。)及び特開2011-72479号公報(特に、段落【0026】ないし【0029】を参照。)等を参照。)である。
また、刊行物4(特に、段落[0037]ないし[0040]を参照。)には、
「マウスに50mg/ケージ/日(2.08mg/ケージ/h)のシンナムアルデヒドを吸入させることにより、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する技術。」(以下、「刊行物4技術」という。)が記載されている。
ここで、種差による換算量は、文献(Dose translation from animal to human studies revisited. The FASEB Journal, 22(3), 659-661, 2008.(http://www.fasebj.org/content/22/3/659.full))によれば、本願の出願前に公知であって、ヒトでのインフルエンザ予防に必要な大気中のシンナムアルデヒド濃度は、マウスでのインフルエンザ予防に必要な大気中のシンナムアルデヒド濃度とほぼ同じであることが分かる。
また、シンナムアルデヒドの放散量を最適化することは、当業者が実験等を通じて通常の努力でなし得たことである。
してみれば、請求項1に係る発明は、刊行物1発明において、周知技術1及び刊行物4技術を適用することにより、当業者が容易に想到できたものである。

また、刊行物2(特に、実用新案登録請求の範囲、段落【0001】及び【0013】ないし【0017】並びに図1及び2を参照。)には、
「マスク本体6のうち口側の表地4以外の部分[マスク本体]、口側の表地4[鼻孔及び/又は口の接触部]、桂皮を収納する袋12[シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を塗布又は含浸可能な吸着層]を含み、該袋12[吸着層]が該マスク本体6のうち口側の表地4以外の部分[マスク本体]と該口側の表地4[鼻孔及び/又は口の接触部]間に挟まれている、空気中の有害物質が侵入するのを防止するマスク[インフルエンザ予防用マスク]。」
という発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されている。
してみれば、請求項1に係る発明は、刊行物2発明において、周知技術1及び刊行物4技術を適用することにより、当業者が容易に想到できたものである。

また、刊行物3(特に、特許請求の範囲、段落【0001】、【0034】ないし【0049】及び図1ないし4を参照。)には、
「外側の覆い部2[マスク本体]、内側の覆い部2[鼻孔及び/又は口の接触部8]、抗ウイルス化合物を含浸可能な液含浸シート5[シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を塗布又は含浸可能な吸着層9]を含み、該液含浸シート5[吸着層9]が該外側の覆い部2[マスク本体]と該内側の覆い部2[鼻孔及び/又は口の接触部8]間に挟まれている、インフルエンザ予防用マスク[インフルエンザ予防用マスク]。」
という発明(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されている。
してみれば、請求項1に係る発明は、刊行物3発明において、抗ウイルス化合物として、刊行物4技術を適用することにより、当業者が容易に想到できたものである。

(2)請求項2に係る発明について
刊行物5(特に、段落【0026】ないし【0029】及び図5を参照。)には、
「シナモン精油、シナモンバーク等の抗菌性を有する揮散性物質[シンナムアルデヒド又はシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物]を設置[保管]する設置部17[容器]、抗菌性を有する揮散性物質[シンナムアルデヒド]の揮散[揮発]を促進させる給水手段75[加熱部]等を備え、空気中で抗菌性を有する揮散性物質[シンナムアルデヒド]を放散する、揮散性物質揮散制御装置[インフルエンザ予防装置]。」
という発明(以下、「刊行物5発明」という。)が記載されている。
また、刊行物6(特に、段落【0065】ないし【0068】及び図1ないし9を参照。)には、「薬剤の放出量Yに応じた時間だけヒーター16dを通電させる処理を繰り返すことにより、薬剤放出装置16が放出する薬剤の空気中の濃度を一定に維持する技術。」(以下、「刊行物6技術」という。)が記載されている。なお、物質の空気中の濃度を一定に維持するために濃度検出用のセンサーを設けることは、常套手段(以下、「常套手段」という。)である。
また、刊行物4には、上記「刊行物4技術」が記載されている。
してみれば、請求項2に係る発明は、刊行物5発明において、刊行物4技術、刊行物6技術及び常套手段を適用することにより、当業者が容易に想到できたものである。

<理由2>
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



(1)特許請求の範囲の請求項1において、「シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を塗布又は含浸可能な吸着層9」(下線は当審で付した。)と記載されているが、「・・・塗布又は含浸した」ことが特定されていない。
(なお、平成27年12月21日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項1においては、「・・・塗布又は含浸した」ことが特定されていた。)

(2)特許請求の範囲の請求項1において、「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」と記載されているが、どのような条件において「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」のか、明確でない。
明細書の段落【0029】には、「放散試験は、25±1℃、相対湿度37-38%の条件下で行った。」と記載されているが、特許請求の範囲の請求項1においては特定されていない。
また、「空気中」とは、マスクを着用した人が吸入する空気を意味するのか、マスクを着用した人の周辺にある空気を意味するのか、明確でない。

(3)特許請求の範囲の請求項1において、「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」と記載されているが、どのような手段により、空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散するのか、また、どのような手段により0.7mg/h?5.0mg/hという数値範囲に制御するのか、明確でない。
なお、マスクとして装着したときには、体温によりマスクの温度が上昇し、さらに呼気によりマスクの温度と湿度が上昇すると考えられるから、放散試験の時よりも、シンナムアルデヒドを放散する量が多くなると解される。

(4)特許請求の範囲の請求項1及び2において、「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」と記載されているが、「0.7mg/h?5.0mg/h」という数値範囲の技術的意義が不明である。
明細書の記載によれば、「図4に示す通り、発生源の近接部位であるポイント3の濃度は最大値424μg/m^(3)、最小値185μg/m^(3)、平均値320μg/m^(3)で各部位の中で最も高い濃度であった。中間部のポイント2では最大値130μg/m^(3)、最小値62μg/m^(3)、平均値92μg/m^(3)であった。最遠部のポイント1では、最大値133μg/m^(3)、最小値103μg/m^(3)、平均値123μg/m^(3)であった。」(段落【0031】。下線は当審で付した。)ことから、
「上記の室内中のシンナムアルデヒド濃度62μg/m^(3)(最小値)?424μg/m^(3)(最大値)を維持するための1時間当たりのシンナムアルデヒドの放散量は、下記条件より、0.7mg/h?5.0mg/hと算出した。
室内中のシンナムアルデヒド:62μg/m^(3)?424μg/m^(3)
空間:6畳間(23.3m^(3))
換気回数:0.5回/時間」(段落【0032】)
としている。
しかしながら、上記段落【0029】に記載された濃度が最適であるのかどうかも不明であり、0.7mg/h?5.0mg/hというシンナムアルデヒドの放散量は、6畳間(23.3m^(3))を前提とするものである。
そうすると、「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」という数値範囲の技術的意義が明確でない。
なお、請求人は、審判請求書において、
「上記引用文献1?2の開示の通りに、当業者は、引用文献1(シンナムアルデヒドを使用した清涼感を得るためのマスク)及び引用文献2(単にシンナムアルデヒドがインフルエンザに効くことという事実)を組み合わせても、インフルエンザ感染を防止できかつ副作用がない効果を奏する特定の環境(0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する)を実現できるインフルエンザ予防用マスクを容易に想到することができないことは明らかであります。」(下線は当審で付した。)と主張するが、請求人の「インフルエンザ感染を防止できかつ副作用がない効果を奏する特定の環境(0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する)」という主張は、明細書の記載に基づかないものである。

(5)特許請求の範囲の請求項2において、「シンナムアルデヒド放散量検出センサー3、センサーにより制御される・・・」と記載されているが、「シンナムアルデヒド放散量検出センサー3」と「センサー」とは同じものかどうか、明確でない。また、(制御装置ではなく)「センサーにより制御される」とはどのようなことか、明確でない。

<理由3>
本願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。



(1)特許請求の範囲の請求項1において、「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」と記載されているが、どのようにして、マスクから「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」のか(どのようにして放散量を調節するのか)、明細書及び図面において説明がされていない。
また、マスクにおいて「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」ということは、呼気により、マスクから空気中にシンナムアルデヒドを放散することを意味すると解される(参考として、上記特開2007-252777号公報(引用文献5)の段落【0044】及び【0045】には、呼気により揮散製物質が揮散することが記載されている。)が、そのことが、技術的にどのような意味を持つのか、明確でない。
特に、広いオフィス、大教室、体育館、廊下、屋外等の広いスペースにおいて、空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散しても、シンナムアルデヒドの濃度が不足して、インフルエンザウイルスの予防を行うことができないのではないか。

(2)明細書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に係る発明においては、シンナムアルデヒドを持続的に吸入投与することにより、インフルエンザウイルスの予防を行うことができるのであるから、そのためには、マスクから肺に吸入されるシンナムアルデヒドの量を適量に保つことが重要であると解される。
ところが、「空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」マスクを着用すると、吸入する空気により、シンナムアルデヒドの揮発が促進されるから、空気中での放散量よりも多くの量のシンナムアルデヒドが肺に吸入されると解される。
そうすると、本願の請求項1に係る発明のマスクを着用すると、呼吸により、肺には適量とされる0.7mg/h?5.0mg/hよりも多くの量のシンナムアルデヒドが吸入されることになると解されるが、その点についての説明がされていない。

(3)特許請求の範囲の請求項1において、「シンナムアルデヒド若しくはシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を塗布又は含浸可能な吸着層9」と記載されているが、「吸着層9」として、どのようなものを用いるのか、(どのような吸着層9を用いれば、空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散することができるのか)、明細書及び図面に記載されていない。

したがって、本願の明細書は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確に記載されていない。」

2 当審拒絶理由についての判断
(1)理由1(特許法第29条第2項)について
本願発明は、当審拒絶理由における請求項2に係る発明に対応する。
また、当審拒絶理由において引用した各刊行物には、上記1の<理由1>に記載した事項が記載され、特に、刊行物5(特開2007-252777号公報。特に、段落【0026】ないし【0029】及び図5を参照。)には、
「シナモン精油、シナモンバーク等の抗菌性を有する揮散性物質を設置する設置部17、抗菌性を有する揮散性物質の揮散を促進させる給水手段75及び送風機10を備え、空気中で抗菌性を有する揮散性物質を放散する、揮散性物質揮散制御装置。」
という発明(以下、「刊行物5発明」という。)が記載されている。
そこで、本願発明と、刊行物5発明とを対比すると、刊行物5における「シナモン精油、シナモンバーク等の抗菌性を有する揮散性物質」は、その技術的意義から見て、本願発明における「シンナムアルデヒド又はシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物」に相当し、以下同様に、「設置する」は「保管する」に、「設置部17」は「容器」に、「抗菌性を有する揮散性物質」は「シンナムアルデヒド」に、「揮散」は「揮発」に、「送風機10」は「換気扇5」に、それぞれ相当する。
また、刊行物5発明においては、「給水手段75」によって、揮散性物質揮散調節材16が給水状態となり、揮散性物質が揮散される(段落【0050】)のであるから、刊行物5発明における「給水手段75」は、「揮発促進部」という限りにおいて、本願発明における「加熱部」に相当する。
また、刊行物5発明においては、揮散性物質として、シナモン精油、シナモンバーク等の抗菌性を有する揮散性物質も含まれる(段落【0027】ないし【0029】を参照。)ことから、刊行物5発明における「揮散性物質揮散制御装置」は、「病気を予防する装置」という限りにおいて、本願発明における「インフルエンザ予防装置」に相当する。
したがって、本願発明と刊行物5発明とを対比すると、両者は、
「シンナムアルデヒド又はシンナムアルデヒドを主成分とするシナモン抽出物を保管する容器、シンナムアルデヒドの揮発を促進させる揮発促進部及び換気扇を備え、空気中でシンナムアルデヒドを放散する、病気を予防する装置。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
ア 「揮発促進部」に関して、本願発明においては、「加熱部2」を備えるのに対し、刊行物5発明においては、「給水手段75」を備える点(以下、「相違点ア」という。)。

イ 本願発明においては、「シンナムアルデヒド放散量検出センサー3、加熱温度調整部4及び換気扇5を少なくとも備え、室内の空間23.3m^(3)当たりの空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」のに対し、刊行物5発明においては、送風機10を備えるものの、「シンナムアルデヒド放散量検出センサー3、加熱温度調整部4」は備えておらず、「室内の空間23.3m^(3)当たりの空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」か否か不明である点(以下、「相違点イ」という。)。

ウ 「病気を予防する装置」に関して、本願発明においては「インフルエンザ予防装置」であるのに対し、刊行物5発明においては「揮散性物質揮散制御装置」である点(以下、「相違点ウ」という。)。

事案にかんがみ、まず、相違点イについて検討する。

<相違点イについて>
「シンナムアルデヒド放散量検出センサー3」を備え、「室内の空間23.3m^(3)当たりの空気中で0.7mg/h?5.0mg/hのシンナムアルデヒドを放散する」点は、刊行物4及び6には記載されておらず、また、当業者にとって自明の事項ともいえない。

したがって、刊行物5発明において、刊行物4技術及び刊行物6技術を適用しても、相違点イに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

よって、相違点ア及びウについて検討するまでもなく、本願発明は、刊行物5発明並びに刊行物4技術及び刊行物6技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

したがって、当審拒絶理由の理由1(特許法第29条第2項)によっては、本願を拒絶することはできない。

(2)理由2(特許法第36条第6項第2号)について
平成29年6月26日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)により、当審拒絶理由において記載不備を指摘した請求項1は削除され、本件補正前の請求項2が本件補正後の請求項1となった。
また、当審拒絶理由において記載不備を指摘した本件補正前の請求項2については、本件補正により、「空気中」が「室内の空間23.3m^(3)当たりの空気中」と明確にされ、「センサーにより制御される」という明確でない記載が削除されたので、本件補正後の請求項1に係る発明は、明確になった。
よって、当審拒絶理由の理由2は解消した。

(3)理由3(特許法第36条第4項第1号)について
本件補正により、当審拒絶理由において記載不備を指摘した本件補正前の請求項1は削除された。
よって、当審拒絶理由の理由3は解消した。

(4)まとめ
したがって、当審拒絶理由の理由1ないし3は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由及び当審拒絶理由を検討しても、その理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-19 
出願番号 特願2012-15998(P2012-15998)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (A62B)
P 1 8・ 537- WY (A62B)
P 1 8・ 121- WY (A62B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 飯島 尚郎  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 松下 聡
金澤 俊郎
発明の名称 シンナムアルデヒドを用いたインフルエンザ予防用マスク、インフルエンザ予防方法及び該予防装置  
代理人 庄司 隆  

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