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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1332720 |
審判番号 | 不服2015-9081 |
総通号数 | 215 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-11-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-05-15 |
確定日 | 2017-09-19 |
事件の表示 | 特願2013- 79529「治療剤の標的化送達のためのシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日出願公開、特開2013-209373〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成19年3月30日(パリ条約による優先権主張 2006年3月31日 米国)を国際出願日とする特願2009-503032号の一部を平成25年4月5日に新たな特許出願としたものであって、平成26年3月7日付けで拒絶理由が通知され、同年8月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月9日付けで拒絶査定されたのに対して、同年5月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月13日に上申書が提出されたものである。その後、当審からの平成28年10月12日付け拒絶理由通知に対し、平成29年3月23日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?20に係る発明は、平成29年3月23日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「2-PMPA、GPI5232、VA-033、2-MPPA、チオールおよびインドールチオールベースの前立腺特異的膜抗原(PSMA)阻害剤、3-(2-メルカプトエチル)-1H-インドール-2-カルボン酸誘導体PSMA阻害剤、ヒドロキサメート誘導体PSMA阻害剤、PBDAベースPSMA阻害剤、ならびに、尿素ベースPSMA阻害剤からなる群から選択される、PSMAに特異的に結合する複数の小分子標的化部分(targeting moiety)が結合しており、 かつ結合部位でのナノ粒子の分解および/または拡散によって放出される治療、診断、もしくは予防用の薬剤を中に封入しているか分散している、界面活性剤、親水性ポリマー、または脂質に結合したポリマーで形成された、標的ナノ粒子(targeted nanoparticle)であって、 ここで、粒子の少なくとも80%は、平均最大寸法の20%の範囲内に入る最大寸法を有し、粒子は、250nm未満の最大寸法を有し、前記小分子標的化部分の結合が、前記PSMAのペプチダーゼ活性を阻害する、標的ナノ粒子。」 第3 当審における拒絶理由通知 当審において平成28年10月12日付けで通知した拒絶理由のうち、「理由1」の概要は以下のとおりである。 「本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記1の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (下記省略)」 第4 当審の判断 1 特許法第36条第6項第1号について 特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲が、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」という規定(いわゆる、明細書のサポート要件)に適合するものでなければならないとするものである。 そして、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断する必要がある。 そこで、上記の観点に立って、本願発明と本願明細書の記載について検討する。 2 本願明細書の発明の詳細な説明の記載 (a)「【0008】 従って、治療剤を(例えば、特定の組織または細胞型に対して;正常組織に対してではなく特定の病変組織に対してなど)標的化することは、癌(例えば、前立腺癌)などの組織特異的疾患の治療において望ましい。例えば、細胞傷害性抗癌剤の全身送達とは対照的に、標的化送達は、該薬剤が正常細胞を死滅させることを防ぐ。さらに、標的化送達は、より低い用量の薬剤の投与を可能にし、これは、従来の化学療法と一般的に関連する不要な副作用を減少させ得る。 【0009】 従って、所望の組織または細胞へ治療剤を選択的に送達するためのシステムに対して、当該分野において強い必要性が存在する。さらに、前立腺癌と関連する腫瘍などの腫瘍へ細胞傷害性抗癌剤の送達を標的化するためのシステムに対する必要性が存在する。患者における治療剤の正確な濃度および配置を制御する能力は、用量を減少させ、副作用を最小化し、かつ「個別」療法に新しい道を開く。 【発明の概要】 【0010】 本発明は、特定の器官、組織、細胞、および/または細胞内区画へ治療剤を選択的に送達するためのシステムを提供する。ある態様において、治療剤は病変組織へ特異的に送達される。ある態様において、治療剤は腫瘍(例えば、悪性腫瘍または良性腫瘍)へ特異的に送達される。ある態様において、治療剤は、前立腺癌と関連する腫瘍へ送達される。 【0011】 本発明は、粒子、1または複数の標的化部分(targeting moiety)、ならびに器官、組織、細胞、および/または細胞内区画へ送達される1または複数の治療剤を含む、標的粒子(targeted particle)を提供する。一般的に、細胞は、標的化部分と特異的に結合し得る標的と結合している。標的が標的化部分へ特異的に結合すると、治療剤は、特定の標的化された器官、組織、細胞、および/または細胞内区画へ送達され得る。」 (b)「【0052】 小分子:一般的に、「小分子」は、サイズが約2000 g/mol未満である有機分子であると当該分野において理解される。ある態様において、小分子は、約1500 g/mol未満または約1000 g/mol未満である。ある態様において、小分子は、約800 g/mol未満または約500 g/mol未満である。ある態様において、小分子は、非ポリマーおよび/または非オリゴマーである。ある態様において、小分子は、タンパク質、ペプチド、またはアミノ酸ではない。ある態様において、小分子は、核酸またはヌクレオチドではない。ある態様において、小分子は、糖類または多糖類ではない。」 (c)「【0120】 核酸標的化部分 本明細書中において使用される場合、「核酸標的化部分」は、標的へ選択的に結合する核酸である。ある態様において、核酸標的化部分は、核酸アプタマーである。アプタマーは、通常、特定の器官、組織、細胞、細胞外基質成分、および/または細胞内区画と結合している特定の標的構造体へ結合するポリヌクレオチドである。一般的に、アプタマーの標的化機能は、アプタマーの三次元構造に基づく。ある態様において、標的へのアプタマーの結合は、典型的に、アプタマーおよび標的の両方の二次元および/または三次元構造体間の相互作用によって媒介される。ある態様において、標的へのアプタマーの結合は、アプタマーの一次配列にのみ基づくのではなく、しかしアプタマーおよび/または標的の三次元構造に依存する。ある態様において、アプタマーは、相補的ワトソン-クリック塩基対形成によってそれらの標的へ結合し、これは、塩基対形成を妨害する構造体(例えば、ヘアピンループ)によって中断される。」 (d)「【0131】 小分子標的化部分 ある態様において、本発明に従う標的化部分は小分子であり得る。ある態様において、小分子は、サイズが約2000 g/mol未満である。ある態様において、小分子は、約1500 g/mol未満または約1000 g/mol未満である。 …… 【0133】 ある態様において、前立腺癌腫瘍と関連する細胞を標的化するために使用され得る小分子標的化部分は、PSMAペプチダーゼ阻害剤、例えば、2-PMPA、GPI5232、VA-033、フェニルアルキルホスホンアミデート(……)、ならびに/またはそのアナログおよび誘導体を含む。ある態様において、前立腺癌腫瘍と関連する細胞を標的化するために使用され得る小分子標的化部分は、チオールおよびインドールチオール誘導体、例えば、2-MPPAおよび3-(2-メルカプトエチル)-1H-インドール-2-カルボン酸誘導体(……)を含む。ある態様において、前立腺癌腫瘍と関連する細胞を標的化するために使用され得る小分子標的化部分は、ヒドロキサメート誘導体を含む(……)。ある態様において、前立腺癌腫瘍と関連する細胞を標的化するために使用され得る小分子標的化部分は、PBDAおよび尿素をベースとした阻害剤、例えば、ZJ 43、ZJ 11、ZJ 17、ZJ 38(……)、ならびに/またはそれらのアナログおよび誘導体を含む。ある態様において、前立腺癌腫瘍と関連する細胞を標的化するために使用され得る小分子標的化部分は、アンドロゲン受容体標的化剤(ARTA)、……を含む。ある態様において、前立腺癌腫瘍と関連する細胞を標的化するために使用され得る小分子標的化部分は、ポリアミン、例えば、プトレシン、スペルミン、およびスペルミジンを含む(……)。」 (e)「【実施例】 【0352】 実施例1:インビボ標的化薬物送達のための官能化PLGA-PEGナノ粒子の製剤化 …… 【0353】 …… RNAアプタマー(配列: 5'-NH_(2)-スペーサー- [GGG/AGG/ACG/AUG/CGG/AUC/AGC/CAU/GUU/UAC/GUC/ACU/CCU/UGU/CAA/UCC/UCA/UCG/GCiT-3'(SEQ ID NO:3)] …… 【0354】 PLGA-b-PEGの合成 カルボキシレート官能化コポリマーPLGA-b-PEGを、COOH-PEG-NH_(2)をPLGA-COOHへ結合することによって合成した。……得られたPLGA-PEGブロックコポリマーを真空乾燥し、さらに処理することなしにナノ粒子(NP)調製のために使用した。 …… 【0355】 タキサン薬物負荷された(drug-loaded)PLGA-b-PEG NPの形成 以前に記載されたように(……)、薬物封入されたカルボキシレート化PLGA-b-PEG NPの形成のために、ナノ析出法を使用した。簡単に記載すると、ドセタキセル(または^(14)C-パクリタキセル)を、水と混和性である種々の有機溶媒に溶解した。ポリマーを同様に溶解し、前記薬物と混合した。前記薬物-ポリマー溶液を非溶媒である水へ添加することによって、NPが形成された。…… …… 【0360】 アプタマーとPLGA-b-PEG-COOH NPとの結合 PLGA-b-PEG NP(10 μg/μL)を水に懸濁し、EDC(400 mM)およびNHS(200 mM)と共に20分間インキュベートした。次いで、NPを、DNアーゼ、RNアーゼを含まない水(3 x 15 mL)で繰り返し洗浄し、続いて限外濾過を行った。NHS活性化されたNPを、5’-アミノ-RNAアプタマー(1 μg/μL)と反応させた。得られたNP-Apt標的粒子を、限外濾過によって超純水(15 mL)で洗浄し、表面結合したアプタマーを90℃で変性させ、氷上でのスナップ冷却(snap-cooling)の間、結合立体配座をとらせた。NP懸濁液を使用まで4℃で維持した。 …… 【0362】 NP-Apt標的粒子のインビボ腫瘍標的化および生体内分布 ……ヒト異種移植前立腺癌腫瘍を、8週齢balb/cヌードマウス(……)において誘発した。媒体およびマトリゲル(……)の1:1混合液に懸濁された3 x 10^(6 )LNCaP細胞(即ち、ヒト前立腺腺癌の転移病巣から確立された細胞株)を、マウスの右横腹に皮下注射した。…… 【0363】 前記マウスが約100 mgの腫瘍を発達させた後に、腫瘍標的化研究を行った。マウスを4つのグループに分割し、グループ間の腫瘍サイズ変動を最小化した。マウスを、アバーティン(avertin)(200 mg/kg体重)の腹腔内注射によって麻酔し、眼窩後部注射によって、NPまたはNP-Apt標的粒子を投薬した。……腫瘍、心臓、肺、肝臓、脾臓、および腎臓を、各動物から採取した。……組織1グラム当たりのパーセント注射用量として、データを示す。 …… 【0365】 結果 …… 【0374】 ナノ粒子-アプタマー標的粒子のインビボ腫瘍標的化および生体内分布 形成パラメータおよびNPサイズに対するそれらの効果の研究の結果、サイズおよび薬物負荷の点で最適なNP製剤を、インビボ研究のために選択した。研究のために、^(14)C-パクリタキセル(トレース薬剤として役立つ)を、PLGA-b-PEG NPへの1%の薬物負荷で封入した。パクリタキセルは、ドセタキセルに関連するタキサン薬物であり、放射化学物として市販されている。得られたNPは156.8 +/- 3.9 nmのサイズであり(sized)、アプタマーとのバイオ結合後、NP-Apt標的粒子の最終サイズは、188.1 ± 4.0 nmであると測定された。全3時点で、腫瘍において回収された^(14)C-パクリタキセル用量は、対照NPグループと比較して、NP-Apt標的化グループについてより高かった(図7)。NP-Apt標的化グループについて2、6、および24時間での組織1グラム当たりの%注射用量の値は、それぞれ、1.49 ± 0.92、1.98 ± 1.72、および0.83 ± 0.21であった(平均値± S.D.、n = 4)。NP対照グループについて、2、6、および24時間でのそれぞれの値は、1.10 ± 0.20、0.96 ± 0.44、および0.22 ± 0.07であった。研究の24時間終了時で、腫瘍におけるレベルは、NP-Aptグループについて3.77倍より高かった(p=0.002、n=4)。2および6時間の時点で、腫瘍におけるNP-Aptのレベルは、対照よりも、それぞれ、1.35倍および2.06倍より高く、しかし、差は統計的に有意ではなかった。2時間グループおよび6時間グループの両方において、NP-Aptの腫瘍内濃度は、NP対照と比較して増加し、一方、大半の他の組織におけるレベルは、循環中のより少ないNPと平行して減少した。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、時間にわたって腫瘍中において回収された薬物の濃度が、増強された透過性および保持(EPR)効果および標的化効果の両方を示すことを可能にする。24時間で腫瘍中における顕著により高い濃度を維持するNP-Apt標的粒子の能力は、恐らく、標的化されたLNCaP細胞による取り込みに起因し、一方、標的化リガンドを有しないNPグループは、細胞取り込みがなく、時間とともに腫瘍から拡散した。LNCaP細胞へのNP-Apt標的粒子の同様の強い結合が、インビトロで観察された(……)。両方のグループについての腫瘍中における濃度は、この時間の間に薬物の大部分を放出し得るNPのブラスト効果(burst effect)に起因して、6および24時間の時点から低下することが可能である(……)。腫瘍部位で放出された薬物は、細胞によって吸収されない場合、拡散し得るかまたは該部位から除去され得る。 【0375】 心臓、肺、および腎臓への生体内分布パターンは、いずれの群においても、実質的な蓄積は示さず、有意に相違していなかった(図8)。脾臓および肝臓を含む、細網内皮系(RES)による取り込みは、対照NPと比較した場合、NP-Apt標的粒子についてより高くなると観察された。外部PEG層は、NPグループについて優れたステルスシールド(stealth shield)を提供しつつ、該粒子表面とのアプタマーの結合によって、該NP-Aptグループにおいて修飾された。アプタマーは免疫原性ではないと考えられ、従って、観察されたRES取り込みの原因は、PEGシールドのこの崩壊であったようである。さらに、前記バイオ結合は、NPグループと比較した場合、平均粒度の中程度の増加を生じさせた。増加されたサイズは、脾臓による増加された取り込みを一部説明し得る(……)。 3 明細書のサポート要件の判断 (1)本願発明の課題 上記(a)によれば、前立腺癌と関連する腫瘍に治療剤を選択的に送達することができる標的ナノ粒子を提供することが本願発明の課題と解される。 本願の特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するといえるためには、本願発明の特定事項、すなわち、 「2-PMPA、GPI5232、VA-033、2-MPPA、チオールおよびインドールチオールベースの前立腺特異的膜抗原(PSMA)阻害剤、3-(2-メルカプトエチル)-1H-インドール-2-カルボン酸誘導体PSMA阻害剤、ヒドロキサメート誘導体PSMA阻害剤、PBDAベースPSMA阻害剤、ならびに、尿素ベースPSMA阻害剤からなる群から選択される、PSMAに特異的に結合する複数の小分子標的化部分(targeting moiety)が結合しており、 かつ結合部位でのナノ粒子の分解および/または拡散によって放出される治療、診断、もしくは予防用の薬剤を中に封入しているか分散している、界面活性剤、親水性ポリマー、または脂質に結合したポリマーで形成された、標的ナノ粒子(targeted nanoparticle)であって、 ここで、粒子の少なくとも80%は、平均最大寸法の20%の範囲内に入る最大寸法を有し、粒子は、250nm未満の最大寸法を有し、前記小分子標的化部分の結合が、前記PSMAのペプチダーゼ活性を阻害する、標的ナノ粒子。」 が、上記課題を解決できると認識できる範囲内のものであることが本願明細書の発明の詳細な説明(以下、「本願明細書」という。)に客観的に開示されている必要があるといえる。 (2)本願明細書の記載の検討 ア 「2-PMPA、GPI5232、VA-033、2-MPPA、チオールおよびインドールチオールベースの前立腺特異的膜抗原(PSMA)阻害剤、3-(2-メルカプトエチル)-1H-インドール-2-カルボン酸誘導体PSMA阻害剤、ヒドロキサメート誘導体PSMA阻害剤、PBDAベースPSMA阻害剤、ならびに、尿素ベースPSMA阻害剤からなる群から選択される、PSMAに特異的に結合する複数の小分子標的化部分(targeting moiety)(以下、「特定のPSMA阻害剤からなる小分子標的化部分」という。)に関して具体的に記載されているのは、上記(d)に小分子のサイズと、使用され得る小分子標的化部分として公知のPSMAペプチダーゼ阻害剤が羅列される記載のみである。 イ 実施例をみると、上記(e)に「実施例1:インビボ標的化薬物送達のための官能化PLGA-PEGナノ粒子の製剤化」として、カルボキシレート官能化コポリマーPLGA-b-PEGを用いて、タキサン薬物(ドセタキセル又は^(14)C-パクリタキセル)を封入したナノ粒子を調製し、これにRNAアプタマー(配列:5'-NH_(2)-スペーサー-[GGG/AGG/ACG/AUG/CGG/AUC/AGC/CAU/GUU/UAC/GUC/ACU/CCU/UGU/CAA/UCC/UCA/UCG/GCiT-3'(SEQ ID NO:3)])を結合したことが記載され、得られたアプタマーが結合しているナノ粒子(Np-Apt標的粒子)について、ヌードマウスに誘発したヒト前立腺癌に対してインビボ腫瘍標的化と生体内分布について実験を行い、標的化部分を結合していないナノ粒子と比較して選択的に腫瘍細胞へ取り込まれたことが示されている。 ウ 実施例1で用いられたアプタマーは核酸標的化部分であって、本願発明の「特定のPSMA阻害剤からなる小分子標的化部分」とは異なるものである(上記(b))から、本願明細書には、本願発明の「特定のPSMA阻害剤からなる小分子標的化部分」が結合した標的ナノ粒子を製造し、選択的に腫瘍細胞へ取り込まれることを確認した実施例の記載はない。 エ そして、上記(c)には「アプタマーの標的化機能は、アプタマーの三次元構造に基づく。ある態様において、標的へのアプタマーの結合は、典型的に、アプタマーおよび標的の両方の二次元および/または三次元構造体間の相互作用によって媒介される。ある態様において、標的へのアプタマーの結合は、アプタマーの一次配列にのみ基づくのではなく、しかしアプタマーおよび/または標的の三次元構造に依存する。」と記載されており、かかる記載によれば、標的化部分が核酸アプタマーである場合と、「特定のPSMA阻害剤からなる小分子」である場合とでは、標的化部分と標的との結合機序が同等のものと解することはできない。 オ その他本願明細書全体の記載をみても、主に標的化部分として核酸アプタマーを用いた場合の説明を中心に概念的な記載に終始し、標的化部分として「特定のPSMAインヒビター小分子」が結合した標的ナノ粒子が、上記イで確認されているような標的化部分として核酸アプタマーが結合した標的ナノ粒子と同等に、標的であるPSMAに結合し、腫瘍細胞に取り込まれることを推認できる根拠や説明はない。 カ してみると、本願明細書の記載からは、「特定のPSMA阻害剤からなる小分子標的化部分」が結合した標的ナノ粒子が、前立腺癌と関連する腫瘍に治療剤を選択的に送達することができることを確認することはできない。 (3)技術常識の参酌 本願の出願時(優先権主張時)において、ナノ粒子に結合した状態での「特定のPSMA阻害剤からなる小分子」と、ナノ粒子に結合した状態での核酸アプタマーとが、標的であるPSMAとの結合において同等に作用するものであるとか、「特定のPSMA阻害剤からなる小分子」が結合した標的ナノ粒子と、核酸アプタマーが結合した標的ナノ粒子とが、同様に腫瘍細胞に取り込まれるものであるといった技術常識があったものとは到底いえない。 (4)小括 したがって、本願の出願時の技術常識を参酌しても、本願明細書の記載からは、本願発明の課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。 (5)平成29年3月23日提出の意見書における請求人の主張について ア 平成29年3月23日提出の意見書の「第3.補正後の本願発明について:」の項において、「加えて、本願明細書は、以下に示すi)?iv)の理由から、サポート要件を満たす適切な記載を提供するものです。」と主張するi)、ii)及びiv)は「配列番号:3のRNAアプタマーが結合したナノ粒子」(本願明細書の実施例1)に関する説明に終始するものであるので、これらの理由は採用できない。唯一、上記(2)オで指摘した点に関する説明と解される「iii)本願発明の他の小分子は、配列番号:3のRNAアプタマーと構造的にも機能的にも同等:」について検討する。 イ 請求人は次のように主張している。(項分けは当審による。) (ア)「小分子は、抗体のような他の標的化分子と比較して、その低い分子量の観点において、配列番号:3のRNAアプタマーと構造的に類似しています。配列番号:3のRNAアプタマーは分子量約18.5kDaであり、請求人らが規定する小分子は、一般に、分子量2kDa未満です(本願明細書の0052段落をご参照ください)。尿素ベースのPSMA阻害剤であるBIND-014は、807Daの分子量を有します。」 (イ)「補正後の本願発明の小分子標的化部分は、PSMAのペプチダーゼ活性を阻害するものであり、したがって、実施例1のナノ粒子において用いられた配列番号:3のRNAアプタマーと機能的にも同等です。RNAアプタマー(配列番号:3)は、20.5nMのKiでPSMAの酵素活性を競合的に阻害します(上記甲第5号証をご参照ください)。BIND-014は、約10nMの結合親和性を有します(平成27年10月13日付け上申書において言及したFAROKHZAD博士の宣誓書(甲第1号証)をご参照ください)。」 (ウ)「本願の請求項1に包含される小分子標的化部分は、本願実施例1における配列番号:3のRNAアプタマーと機能的にも構造的にも同等です。本願請求人らによる実施例および説明に基づきますと、当業者は、RNAアプタマーベースのPSMA阻害剤の、実施例がないとしても、小分子ベースのPSMA阻害剤での置き換えが成功することを合理的に予測しました。」 ウ 上記イ(ア)では、分子量約18.5kDaの配列番号:3のRNAアプタマーと、分子量807Daの尿素ベースのPSMA阻害剤が構造的に類似していると主張しているが、分子量18500Daと807Daとでは、分子量が約23倍も相違しており、構造的に類似しているということはできない。 また、上記イ(イ)では、PSMAに結合親和性を有しPSMAの酵素活性を競合的に阻害する機能が配列番号:3のRNAアプタマーとBIND-014とで同等であると主張しているが、BIND-014はPSMA阻害剤である以上、単独の薬剤としてインビトロでPSMAに結合してPSMAの酵素活性を阻害する機能を有することは周知の事項である。しかしながら、単独の薬剤としてインビトロでPSMAに結合するということだけで、直ちに、ナノ粒子に結合した状態でのBIND-014が、インビボにおける腫瘍細胞の細胞膜表面に提示されているPSMAとの結合において、ナノ粒子に結合した状態での配列番号:3のRNAアプタマーと同等であるとはいうことはできない。 よって、上記イ(ウ)のように「本願の請求項1に包含される小分子標的化部分は、本願実施例1における配列番号:3のRNAアプタマーと機能的にも構造的にも同等」とはいえないことは明らかであって、「実施例がないとしても、小分子ベースのPSMA阻害剤での置き換えが成功することを合理的に予測」することができるとはいえない。 エ したがって、請求人の上記主張は採用できない。 (6)まとめ 以上より、本願発明は、本願明細書の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるということはできず、また、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできないから、本願発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるといわざるを得ない。請求項1の記載は、明細書のサポート要件に違反するものである。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第5 むすび 以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-04-27 |
結審通知日 | 2017-04-28 |
審決日 | 2017-05-09 |
出願番号 | 特願2013-79529(P2013-79529) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 原田 隆興、杉江 渉 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
関 美祝 小川 慶子 |
発明の名称 | 治療剤の標的化送達のためのシステム |
代理人 | 山本 秀策 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 森下 夏樹 |
代理人 | 山本 秀策 |