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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1332727
審判番号 不服2015-17399  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-24 
確定日 2017-09-20 
事件の表示 特願2013-538824「熱ショック転写因子活性化化合物及びそのターゲットに関連する組成物及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 5月18日国際公開、WO2012/064715、平成25年12月 9日国内公表、特表2013-543866〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2011年11月8日(パリ条約による優先権主張 2010年11月12日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成26年7月4日付け拒絶理由通知に応答して平成26年11月17日付けで手続補正書及び意見書が提出されたが、平成27年5月12日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成27年9月24日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審からの平成28年11月15日付け拒絶理由通知に応答して平成29年3月22日付けで手続補正書及び意見書が提出された。

2.本願発明

本願請求項1?4に係る発明は、平成29年3月22日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明は、次のとおりである。

「【請求項1】
熱ショック転写因子1の活性化によって改善される疾患の治療のための薬剤の調製における次の式に示される化合物の使用。
【化1】?【化44】(省略)

【化45】

【化46】?【化50】(省略)」(なお、【化45】で示される化学式の下線は、請求人が付加したものである。)

ここで、上記【請求項1】における「次の式に示される化合物の使用」という記載の意味について、本願明細書の「本発明に係る一つ以上の化合物(例えば、式I?XIIに記述されたHSFを活性化し得る化合物の何れか)を用いて治療・・・するための方法を提供する。」(段落【0060】)、「HSF(例えば、HSF1)を活性化し得る、本発明に係る一つ以上の化合物(例えば、式I?XIIに記述されたHSFを活性化し得る化合物の何れか)を投与する工程を含む。」(段落【0061】)、「本発明は、一つ以上の本発明の化合物(例えば、式I?XIIに記述されたHSFを活性化し得る化合物のいずれか)を含む医薬製剤を提供する。」という記載を参酌すると、上記「次の式に示される化合物の使用」とは、【請求項1】において【化1】?【化50】で示される化合物群のうち、いずれか一つ以上の化合物の使用、を意味する記載であると解される。
そして、上記【化1】?【化50】で示される化合物群のうち、上記【化45】で示される化合物を選択すると、本願請求項1に係る発明は、選択肢の一つとして次の発明を含むと認定できる。

[本願発明]
「熱ショック転写因子1の活性化によって改善される疾患の治療のための薬剤の調製における、【化45】の式で示される化合物の使用。
【化45】

」(以下、「本願発明」という。)

3.当審からの拒絶理由

当審から平成28年11月15日付けで通知した拒絶理由のうち、下記刊行物Aを引用例とする(理由4)の内容は、以下のとおりである。

「(理由4)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


[理由4について](新規性)
・請求項1?6について
刊行物A:国際公開第2009/140621号
(平成26年7月4日付け拒絶理由通知書で引用された文献1)
備考:
刊行物Aには、請求項1?16に係る発明の化合物群がいずれも熱ショック転写因子1(HSF1)を活性化する化合物であり、これらの化合物を用いて、各種疾患(請求項5、請求項12、38?41頁の「IV.Therapeutic Application」)を治療することが記載されている。
そして、刊行物Aの請求項1に記載の化学式で示される化合物のうち、R5が「S」、R6及びR7がいずれも「=O」である化合物は、本願請求項1?6に記載の化合物を包含している。例えば、刊行物AのFigure 5.及びFigure 6.に記載の「HSF1-A」、Figure 7.に記載の「22)1393-3C8」、「23)1393-3G11」は、それぞれ本願請求項2の【化5】、【化6】、【化2】に該当する。 」

4.引用例

当審から平成28年11月15日付けで通知した理由のうち、(理由4)で引用された、本願優先権主張日(2010年11月12日)より前、2009年11月19日に頒布された刊行物Aである「国際公開第2009/140621号」(以下、引用例Aという。)には、以下の技術的事項が記載されている。なお、原文は英文であるため、日本語訳で記載する。

(A1)「化合物及び標的を活性化する熱ショック転写因子に関連する組成物及び方法」(タイトル)

(A2)「11.タンパク質ミスフォールディングに関連する状態を治療する方法であって、a)ミスフォールドされたタンパク質を有する被験体を提供すること、及びHSF活性化を促進する治療剤を含む組成物を提供すること、及びb)上記被験体に上記組成物を投与すること、を含む方法。」(請求項11)

(A3)「16.前記治療剤が、

,

からなる群から選択される化合物を含む、請求項11に記載の方法。」(請求項16)

(A4)「発明の分野
本発明は、熱ショック転写因子(HSF)活性化化合物、それらの発見方法、及びそれらの研究及び治療用途に関する。特に、本発明は、HSF1活性化を促進することができる化合物、及び欠陥タンパク質折りたたみによって引き起こされるか、または関連する疾患及び他の病態生理学的状態を治療するための治療剤としてのそのような化合物の使用方法を提供する。」(1/66頁 16?22行)

(A5)「ある特定の実施形態では、本発明は、タンパク質ミスフォールディングに関連する状態を治療するための方法を提供する。・・・いくつかの実施形態において、状態はイレギュラーなHSF(例えば、HSF1)活性に関連する状態を含み、これらに限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、プリオンに基づく疾患、白内障、加齢性白内障、緑内障、黄斑変性症、加齢性黄斑変性症、網膜色素変性症、心血管系疾患及び発作、熱射病、脊髄小脳変性症、マカド・ジョセフ病、ストレス関連ニューロン変性症、老化、癌及び2型糖尿病の治療に使用することができる。」(11/66頁 1?13行)

(A6)「図5は、ヒトHSF1アクチベーター分子についての酵母スクリーニングにおいて陽性を示し、HSF1-A、HSF1-B及びHSF1-Cと命名された、3つの独立した化合物の構造を示す。図4には、これらの化合物が10μMの濃度で存在する条件における、酵母細胞増殖が示されている。図6は、HSF1-A、HSF1-B及びHSF1-Cの合成経路を示す。3つの代表的な化合物の構造的関連性により、合成を2段階反応で簡略化して示した。」(13/66頁 22?26行)

(A7)「図4Aは、異なる有効性で酵母細胞増殖を刺激する5つの化合物と、対照であるDMSO溶媒、及びこのスクリーニングでは陰性であった1つの化合物の結果を示す。その後の分析で、より強力な32種の化合物について、酵母に基づくスクリーニングにおけるこれらの分子の有効性が全てヒトHSF1に依存することが実証された。3つの独特な構造を有する化合物はHSF1-A、HSF1-B、及びHSF1-Cと称され、これらの化合物は、ヒト化酵母に基づくスクリーニングにおいて最も有効に細胞増殖を刺激すると評価された。」(42/66頁 15?21行)

(A8)「図4A



(A9)「図5に示すように、3つの化学的に異なる化合物であるHSF1-A、HSF1-B、及びHSF1-Cは、ピペラゾールベンズアミドの特徴であるアリール部分を保持し、各分子の中心付近に酸素との極性結合を含むという共通の構造的特徴を示した。図6は、HSF1-A、HSF1-B、及びHSF1-Cの合成経路を示す。」(44/66頁 3?6行)

(A10)「図5


(A11)「図6



摘記(A1)?(A4)からみて、引用例Aには、タンパク質ミスフォールディングに関連する状態を治療する方法であって、a)ミスフォールドされたタンパク質を有する被験体を提供すること、及びHSF活性化を促進する治療剤を含む組成物を提供すること、及びb)上記被験体に上記組成物を投与すること、を含む方法であり、前記治療剤が、請求項16に記載の化合物群(摘記(A3))から選択される化合物を含む方法について記載されている。そして、上記「HSF活性化を促進する治療剤」として記載されている請求項16に記載の化合物群のうち、最初に記載された下記化合物

は、図6で合成経路が示され、図4Aで熱ショック転写因子1(以下、「HSF1」ともいう。)活性化を促進する化合物であることを裏付ける実験結果が示され、図5で「HSF1-A」と称される化合物であり(摘記(A6)?(A11))、上記「HSF1-A」と称される化合物はHSF1活性化を促進する作用を有するのであるから、当該化合物は「HSF1活性化を促進する治療剤を含む組成物の提供」において、上記「HSF1活性化を促進する治療剤」として使用される化合物であるといえる。
また、引用例Aには、「タンパク質ミスフォールディングに関連する状態」が「HSF1活性に関連する状態」を包含すること、当該「HSF1活性に関連する状態」は具体的に「アルツハイマー病、パーキンソン病・・・2型糖尿病」等の各種疾患を意味することが記載されているので(摘記(A5))、上記「タンパク質ミスフォールディングに関連する状態」の治療は、「HSF1活性に関連する疾患」の治療を包含しているといえる。
そして、既に説示したように上記「HSF1-A」と称される化合物は「HSF1活性化を促進する治療剤」として使用されており、当該治療剤の投与により治療される「HSF1活性に関連する疾患」は「HSF1活性化の促進によって改善される疾患」であると解されるので、上記「HSF1-A」と称される化合物は、「HSF1活性化の促進によって改善される疾患」を治療するための「HSF1活性化を促進する治療剤を含む組成物の提供」において、上記「HSF1活性化を促進する治療剤」として使用される化合物であるといえる。
そうすると、引用例Aには、
「熱ショック転写因子1(HSF1)活性化の促進によって改善される疾患を治療するための、HSF1活性化を促進する治療剤を含む組成物の提供における上記HSF1活性化を促進する治療剤としての、下記「HSF1-A」と称される化合物の使用。

」の発明(以下、「引用例A発明」という。)が、記載されている。

5.対比・判断

そこで、本願発明と引用例A発明とを対比する。
本願発明の【化45】の式で示される化合物と、引用例A発明で「HSF1-A」と称される化合物は、同一の化学構造を有している。
また、本願明細書には、本願発明の【化45】の式で示される化合物について、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0217】
(実施例11)
本実施例は、HSF1活性化化合物の候補の検証について記述する。・・・図4は、酵母細胞の増殖を様々な効率で刺激した、本明細書において教示した化合物(構造は以下を参照のこと)の試料を、対照としてのDMSO溶媒とともに示している。
【0218】
【化31】

」(本願明細書の段落【0217】及び【0218】)

(イ)【図4】




(ウ)「【図4】図4は、ライブラリ化合物の存在下におけるyhsfΔヒトHSF1酵母菌株の増殖を示す。溶剤(1%DMSO)、又は、10マイクロモル濃度の化合物(ラベル表示されている)の存在下における増殖が、時間に対する600nmにおける光学密度の関数の形で示される。」(段落【0220】)

本願発明の【化45】の式で示される化合物は、上記(ア)の【化31】に記載されている化合物群のうち「HSF1-A」と記載された化合物であり、当該「HSF1-A」と記載された化合物がHSF1活性化を促進する作用を有することは、【図4】で示された実験結果によって裏付けられている(上記(イ)及び(ウ))。
以上のように、本願発明の【化45】の式で示される化合物と、引用例A発明で「HSF1-A」と称される化合物とは同一の化学構造を有し、かつ、HSF1活性化を促進するという同一の作用を有する化合物であるから、本願発明と引用例A発明とは、「熱ショック転写因子1(HSF1)活性化の促進によって改善される疾患を治療するための、下記【化45】の式で示される化合物の使用。
【化45】

」の発明である点で一致し、下記の点で一見相違している。

[相違点]
本願発明では、上記【化45】の式で示される化合物を、熱ショック転写因子1(HSF1)活性化の促進によって改善される疾患を治療するための「薬剤の調製」において使用するのに対し、引用例A発明では、上記化合物を、熱ショック転写因子1(HSF1)活性化の促進によって改善される疾患を治療するための「HSF1活性化を促進する治療剤を含む組成物の提供における、上記HSF1活性化を促進する治療剤として」使用する点。

そこで、上記相違点について検討する。
既に説示したように、上記【化45】の式で示される化合物は「HSF1活性化を促進する作用」を有する化合物であり、本願発明では、上記化合物を、熱ショック転写因子1(HSF1)活性化の促進によって改善される疾患を「治療」するために用いているのであるから、本願発明で、上記化合物を「薬剤の調製」において使用することは、上記化合物を「薬剤の調製」における「HSF1活性化を促進する治療剤」として使用することを意味していると解すべきである。
そうすると、上記【化45】の式で示される化合物を、本願発明で「薬剤の調製」において使用することと、引用例A発明で「HSF1活性化を促進する治療剤を含む組成物の提供における、上記HSF1活性化を促進する治療剤として」使用することは、いずれも上記化合物を「HSF1活性化を促進する治療剤」として使用する点で同義であり、実質的な差異がないことは、明らかであるといえる。
よって、上記相違点は実質的な相違点ではなく、本願発明と引用例A発明とは同一の発明であるといえる。

6.むすび

以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、本願優先権主張日前に頒布された引用例Aに記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-21 
結審通知日 2017-04-25 
審決日 2017-05-10 
出願番号 特願2013-538824(P2013-538824)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横山 敏志磯部 洋一郎  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 松澤 優子
前田 佳与子
発明の名称 熱ショック転写因子活性化化合物及びそのターゲットに関連する組成物及び方法  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  

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