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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02G
管理番号 1332748
審判番号 不服2016-11132  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-22 
確定日 2017-09-19 
事件の表示 特願2013-530295「低摩擦及び高強度を有する導管インナーダクト」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月29日国際公開、WO2012/040413、平成25年10月17日国内公表、特表2013-539345〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、2011年(平成23年)9月22日(パリ条約による優先権主張2011年(平成23年)7月29日 米国、2010年(平成22年)9月23日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年10月30日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月29日付けで手続補正がなされたが、同年3月17日付けで拒絶の査定がなされ、同年7月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?17に係る発明は、平成28年1月29日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載されたとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「所望の高引張強さの第1材料部分と、所望の低摩擦係数を有する第2材料部分と、を備え、前記第1及び第2材料部分は、互いに隣接して位置決めされており、互いに
接着されている
ことを特徴とする、導管内に挿入されるべき装置。」

第3 引用文献、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-17781号公報(以下、「引用文献1」という。)には、ア?エのとおりの記載がある。下線は、注目箇所に当審が付した。

ア.
「【0009】
このような状況を鑑みて、本発明は、本管に分岐管が分岐している既設管路において、通信ケーブルが入線可能な鞘管を具備していない本管を情報対応管に容易に変更することが可能である既設管路の情報対応管構築方法及び既設管路の情報対応管構築構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための請求項1に記載の情報対応管構築方法は、通信ケーブルを入線するための空間部が形成された本体部と、前記本体部の長さ方向に沿って前記本体部に一体化して設けられ、高強度低伸度特性を有する糸を少なくとも前記長さ方向に使用したベルト状の布帛からなる高強度低伸度性材料体と、を備えてなる鞘管を、人孔を介して既設管路に挿通し、前記高強度低伸度性材料体を前記人孔の内壁に張力を加えて固定して、前記鞘管を既設管路の略上部に固定するものである。
【0011】
このような方法によると、既設管路の略上部に鞘管を容易に設置して情報対応管とすることができる。また、強度が高く伸びが低い材料である高強度低伸度性材料体を本体部の長さ方向に沿って一体化していることから、本体部が高強度低伸度特性を有する素材でなくても、伸びたり弛んだりすることがない。また、高強度低伸度性材料体に張力を加えて既設管路内の略上部に固定することで、容易に既設管路を情報対応管として使用することができる。また、本体部の素材が伸びやすい素材であっても、強度が高く伸びが低い材料である高強度低伸度性材料体を本体部の長さ方向に沿って一体化していることによって、補強効果を得ることができる。また、本体部と高強度低伸度性材料体とで一体化した鞘管を本管内に引き込み設置する際に、高強度低伸度性材料体は、本体部に対して捻れないため、正しく既設管路内に設置することができる。また、高強度低伸度特性を有する糸を少なくとも長さ方向に使用した布帛を高強度低伸度性材料体として使用することにより、製造時及び管内作業時に取り扱い易くまた損傷も起こりにくい。
前記課題を解決するための請求項2に記載の情報対応管構築方法は、請求項1において、径方向に貫通した前記高強度低伸度性材料体を通す孔部を有し、回転させることによって前記孔部に通された前記高強度低伸度性材料体を巻き込み、前記高強度低伸度性材料体を巻き込んだ後に一端部にストッパを取り付けることで回転不能となる巻回ドラムを含むテンション装置を用いて、前記鞘管を前記既設管路の略上部に固定するものである。」
イ.
「【0019】
まずは、図10をもちいて既設管路の構成について説明する。図10に示す、5は下水道管の本管であり、マンホール等の人孔9、10との間に配管されている。そしてその本管5の上部側から、分岐管口38において分岐管7が分岐し、当該分岐管7は各家庭8の分岐管7端部である分岐管桝43にまで接続されて既設管路が構成されている。
【0020】
一般に本管5は道路に沿って深さ数mの位置に敷設されており、本管5の斜め側上部に分岐管口38が形成され、分岐管7は分岐管口38から分岐管桝43に接続されている。
【0021】
次いで、情報対応管構築に用いる鞘管について説明する。図2は、本実施の形態例の鞘管の斜視図である。この鞘管1は、通信ケーブル6が入線可能な空間部2を有した円筒形状の本体部3と、本体部3の長さ方向に沿って本体部3内に一体化して設けられた高強度低伸度性材料体4とでなる。この鞘管1の本体部3の長さは、本管5の長さに略等しく、高強度低伸度性材料体4の長さは、本体部3の長さより長い構成となっている。
【0022】
また、図1(a)の鞘管の断面図が前述の鞘管1に該当しており、図1に示すように円筒形状の本体部3の肉厚内にベルト状の布帛からなる高強度低伸度性材料体4を埋設して一体化している。この埋設された高強度低伸度性材料体4は、糸又はロープ状の布帛も使用することができる。
【0023】
また、図1(b)乃至図1(h)には、鞘管の他の実施の形態例の断面図を示しており、図1(a)の鞘管1だけでなく後述する鞘管も同様にすべて適用可能である。図1(b)(c)に示す鞘管1b、1cは、通信ケーブル6が入線可能な空間部2b、2cを有した円筒形状の本体部3b、3cの外周面5b又は、内周面5cに高強度低伸度性材料体4b、4cが本体部3b、3cの長さ方向に沿って一体化している。この場合の高強度低伸度性材料体4b、4cは、ベルト状の布帛を使用することができる。また、高強度低伸度性材料体4b、4cを接着材等で本体部4b、4cに一体化することも可能である。」
ウ.
「【0027】
図1(h)に示す鞘管1hは、通信ケーブル6が入線可能な空間部2hを有した円筒形状の本体部3hからなり、本体部3hの肉厚の周方向に筒状の布帛からなる高強度低伸度性材料体4hを長さ方向に沿って埋設して一体化している。この場合の高強度低伸度性材料体4hは、筒状の布帛を使用しており、図1(h)に示すように本体部3hの周方向に埋設することによって、本体部3h全体が変形し難くなると共に本体部3hの強度が向上し、空間部2hに入線する通信ケーブル6を保護することができる。
【0028】
以上のように鞘管の断面形状は、種々の形状のものを適用することができ、通信ケーブル6が入線可能な空間を有する本体部と長さ方向に沿って高強度低伸度性材料体が一体化しておれば良く、特に限定するものではない。なお、前述した鞘管の本体部は、すべて設置される本管と略等しい長さである。
【0029】
前述した鞘管は、本体部と高強度低伸度性材料体が一体化しているので本体部の素材が低密度ポリエチレン等の伸びやすい素材であっても伸びて弛んだりすることがない。」
エ.
「【0032】
また、布帛としては、織物、編物、組物又は、不織布からなるベルト状のものやロープ状のものなど種々の形態が使用可能だが、少なくとも高強度低伸度性繊維を使用した糸を本体部の長さ方向へ略直線的に配置し、その糸の高強度低伸度性の効果が発揮可能な構成とする。例えば、織物の場合では、緯糸に細い糸を使用して、経糸に使用している高強度低伸度性繊維の糸を極力ウェーブさせないようにし、組織上から生じる伸びを低減する措置を講じることがよい。
【0033】
以上の高強度低伸度性材料体は、鞘管の本体部に埋設するか又は接着することによって本体部と一体化することができる。また、本体部と高強度低伸度性材料体とで一体化した鞘管を本管内に引き込み設置する際に、高強度低伸度性材料体は、本体部に対して捻れないため、正しく本管5内に設置することができる。以下に説明する本実施の形態例には図1(a)に示す鞘管1の製造方法についての例を示すが特に限定するものではない。
【0034】
鞘管1の本体部3と一体化する高強度低伸度性材料体4に、ポリアリレート繊維のフィラメント群よりなる1500dを7本引き揃えて本撚りしたもの10本を経糸(本体部の長さ方向)に用いて、ポリエステル繊維のフィラメント群よりなる500dの1本に本撚りを137回/100mmしたものを緯糸に用いて、平織りからなる幅17mm、厚み1.8mmのベルト状の布帛をもちいた。この布帛をもちいることにより、製造時及び管内作業時に取り扱い易くまた損傷も起こりにくい。
【0035】
前述のポリアリレート繊維は、耐酸や耐水等の耐薬品性が良く、またクリープ特性も良いので、下水道管のような環境下に、常時荷重が作用する用途に最適である。また、耐摩耗性、耐切創性も良いことから、本管5から人孔9、10にかけて屈曲させてテンション機構に取り付ける際にも、傷つきにくく強度低下が生じにくい。
【0036】
次いで、鞘管1の本体部3には、密度0.919の低密度ポリエチレンを用いて鞘管1を製造した。この鞘管1の製造方法としては、本体部3のパイプ成形に使用する内リップにスリットを入れ、そのスリットから高強度低伸度性材料体4を引き出して内外リップ間に位置させ、押し出し成形によって、外径φ34mm、内径φ28mm(図1(a)を参照)の円筒形状の本体部3に高強度低伸度性材料体4が一体化した鞘管1を製造した。このようにして容易に、且つ安価な鞘管を製造することができる。」

a.
段落【0010】によれば、引用文献1には、
「通信ケーブルを入線するための空間部が形成された本体部と、前記本体部の長さ方向に沿って前記本体部に一体化して設けられ、高強度低伸度特性を有する糸を少なくとも前記長さ方向に使用したベルト状の布帛からなる高強度低伸度性材料体と、を備えてなる鞘管であって、人孔を介して既設管路に挿通される鞘管。」が記載されている。
b.
段落【0027】,図1(h)の記載によれば、
上記a.の布帛は、筒状であり、本体部の肉厚の周方向に布帛からなる高強度低伸度性材料を長さ方向に埋設して一体化したものである。
c.
段落【0032】,【0034】によれば、上記a.の高強度低伸度特性を有する糸を少なくとも前記長さ方向に使用したベルト状の布帛からなる高強度低伸度性材料体は、ポリアリレート繊維を経糸とし、ポリエステル繊維を緯糸として、平織りしたものである。
d.
段落【0036】によれば、上記a.の本体部は、低密度ポリエチレンからなるものである。
e.
上記a?dによれば、引用文献1には、
「通信ケーブルを入線するための空間部が形成された低密度ポリエチレンからなる本体部と、
前記本体部の長さ方向に沿って前記本体部に埋設して一体化して設けられ、高強度低伸度特性を有するポリアリレート繊維を経糸とし、ポリエステル繊維を緯糸とした布帛からなる筒状の高強度低伸度性材料体と、
を備えてなる鞘管であって、
人孔を介して既設管路に挿通される鞘管。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「人孔を介して既設管路に挿通される鞘管」は、本願発明と同様の「導管内に挿入されるべき装置」であるということができる。

引用発明の「前記本体部の長さ方向に沿って前記本体部に埋設して一体化して設けられ、高強度低伸度特性を有するポリアリレート繊維を経糸とし、ポリエステル繊維を緯糸とした布帛からなる筒状の高強度低伸度性材料体」は、本願発明の「所望の高引張強さの第1材料部分」に相当する。

引用発明の「通信ケーブルを入線するための空間部が形成された低密度ポリエチレンからなる本体部」と本願発明の「所望の低摩擦係数を有する第2材料部分」とは、いずれも、「第1材料部分とは異なる素材の第2材料部分」である点で共通する。

引用発明の「高強度低伸度性材料体」と「本体部」とは、間に何も介していないから、互いに隣接していることは明らかであるので、引用発明の「高強度低伸度性材料体」が「本体部に埋設して一体化」されることと、本願発明の「前記第1及び第2材料部分は、互いに隣接して位置決めされており、互いに接着されている」こととは、いずれも、「前記第1及び第2材料部分は、互いに隣接して位置決めされており、一体化されている」という点で共通する。

したがって、本願発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。
[一致点]
「所望の高引張強さの第1材料部分と、第1材料部分とは異なる素材の第2材料部分と、を備え、前記第1及び第2材料部分は、互いに隣接して位置決めされており、一体化されている、
導管内に挿入されるべき装置。」
[相違点]
(相違点1)
第1材料部分と第2材料部分との一体化が、本願発明では、「互いに接着されている」のに対し、引用発明では、「埋設」である点。
(相違点2)
第1材料部分と異なる素材の第2材料部分が、本願発明では、「所望の低摩擦係数を有する」のに対し、引用発明では、摩擦係数について特定されていない点。

第5 判断
上記相違点について判断する。
(相違点1)について
引用発明の「高強度低伸度性材料体」は筒状の布帛であるが、引用文献1の段落【0023】,【0032】,【0034】,図1(b),図1(c)に記載されているように、布帛は筒状に限られたものではなく、ベルト状でもよいものであり、また、引用文献1の段落【0023】,【0033】,図1(b),図1(c)に記載されているように、一体化は埋設に限らず、接着材で一体化してもよいものである。
したがって、引用発明において、高強度低伸度性材料体と本体部とを互いに接着することは引用文献1の上記記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得た事項である。
(相違点2)について
引用発明の鞘管の本体部には、通信ケーブルが入線されるから、本体部の内部表面が、通信ケーブルを挿通しにくいような高摩擦な状態とは考えられず、通信ケーブルを挿通できる程度に低摩擦な状態と考えるのが自然である。この点、例えば、特開平9-74658号公報の段落【0010】に記載されているように、通信ケーブル用配管として、「ケーブルとの滑り性が良く、ケーブル挿入時の摩擦によるケーブル表面に損傷を与えることが少な」い材質のものを使用することは、通信用配管において広く採用されている技術でもある。
したがって、相違点2に係る本願発明の構成は、実質的なものではないか、当業者が適宜なし得た程度のものにすぎない。
(本願発明の効果)
本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用文献1の記載事項から当業者が予測し得る範囲を超えるものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-20 
結審通知日 2017-04-21 
審決日 2017-05-08 
出願番号 特願2013-530295(P2013-530295)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 正悟  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 千葉 輝久
高瀬 勤
発明の名称 低摩擦及び高強度を有する導管インナーダクト  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 伊藤 大幸  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  

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