• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60W
管理番号 1332761
審判番号 不服2017-513  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-13 
確定日 2017-10-11 
事件の表示 特願2015-104306号「道路上の水を検出するためのデバイスおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月14日出願公開、特開2015-224026号、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年5月22日(パリ条約による優先権主張 2014年(平成26年)5月26日 ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成28年4月25日付けで拒絶理由が通知され、平成28年8月9日に意見書及び補正書が提出されたが、平成28年9月9日付けで拒絶査定がされ、平成29年1月13日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、平成29年2月28日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年9月9日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.理由(特許法第29条第2項)について
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1ないし13
・刊行物等 1ないし5
刊行物1には、検出された水分値と自動車の現在位置とに基づいて道路上の水を求めることが記載されている(特に、段落【0031】ないし【0037】を参照。)。
水分検出ユニットとして雨センサをリアガラスに設けることは、周知技術である(例えば、刊行物2の段落【0052】、刊行物3の段落【0061】、刊行物4の段落【0015】を参照。)。そして、刊行物1に記載された発明において、水分を検出する手段として上記周知技術を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
刊行物5には、道路上の水分に関連する情報に基づいて後続(進行方向)の経路上におけるハイドロプレーニング現象の危険状況(路面の濡れ)を推定することが記載されている(特に、段落【0025】ないし【0026】、【0032】ないし【0033】を参照。)。道路上の水分によりハイドロプレーニング現象の危険が生じることは自明であり、刊行物1に記載された発明に刊行物5に記載された発明を適用し、検出された水分値を用いて経路上におけるハイドロプレーニング現象の危険状況を推定するものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

<刊行物等一覧>
1.特開2010-257307号公報
2.特開2010-249531号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2011-232050号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2013-103615号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2009-32194号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明13」という。)は、平成29年1月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定された以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
道路(20)上の実際の水(18)の状況を検出することにより前記道路(20)の危険情報を得るための自動車(10)用の検出デバイス(30)であって、
水分検出ユニット(12)と、評価ユニット(40)とを有し、前記評価ユニット(40)が、前記水分検出ユニット(12)によって検出された水分値(42)に基づいて前記道路(20)上の前記水(18)の状況を求めるように設計され、
前記水分検出ユニット(12)が、前記自動車(10)のタイヤによって跳ね上げた前記水(18)に基づく水飛沫を、検出可能な位置に配備されたセンサユニットとして具現化され、前記自動車(10)の後部領域に配置され、
前記評価ユニット(40)が、経路上におけるハイドロプレーニング現象の危険状況を予測的に推定するように設計されている、ことを特徴とする検出デバイス(30)。
【請求項2】
前記評価ユニット(40)が、前記自動車(10)の現在位置を特定するための位置検出ユニット(44)に接続され、前記検出された水分値(42)と前記自動車(10)の現在位置とに基づいて前記道路(20)上の前記水(18)を求めるように設計されることを特徴とする請求項1に記載の検出デバイス。
【請求項3】
前記位置検出ユニット(44)が、前記自動車(10)の前記現在位置の道路情報(48)を前記評価ユニット(40)に提供するように設計され、前記評価ユニット(40)が、さらに、後続の経路上におけるハイドロプレーニング現象の危険状況を予測的に推定するように設計されることを特徴とする請求項2に記載の検出デバイス。
【請求項4】
前記位置検出ユニット(44)が、データベース(46)またはデータメモリ(46)から前記道路情報(48)を呼び出して、前記評価ユニット(40)に提供するように設計されることを特徴とする請求項2または3に記載の検出デバイス。
【請求項5】
前記道路情報(48)が、前記道路(20)のハイドロプレーニング特性に関する情報を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の検出デバイス。
【請求項6】
前記道路情報(48)が、前記水分値(42)に関するしきい値を含むことを特徴とする請求項3?5のいずれか一項に記載の検出デバイス。
【請求項7】
前記評価ユニット(40)が、前記求められた水(18)に基づいて警告信号を提供するように設計されることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の検出デバイス。
【請求項8】
前記自動車(10)のボディが、前記自動車(10)の水飛沫(54)が前記後部領域の表面上に付着されるように具現化されることを特徴とする請求項1?7のいずれか一項に記載の検出デバイス。
【請求項9】
前記水分検出ユニット(12)が、前記水分検出ユニット(12)が配置された前記後部領域の表面(32)上の水分を検出するように設計されることを特徴とする請求項1?8のいずれか一項に記載の検出デバイス。
【請求項10】
前記水分検出ユニット(12)が雨センサ(12)を有し、前記雨センサ(12)が、前記自動車(10)のリアガラス(14)に割り当てられ、前記リアガラス(14)の前記表面(32)上の水分(34)を検出するように設計されることを特徴とする請求項1?9のいずれか一項に記載の検出デバイス。
【請求項11】
前記水分検出ユニット(12)が、ワイパ要素(16)に割り当てられ、前記ワイパ要素(16)が、前記表面(32)から前記水分(34)を除去するように設計されることを特徴とする請求項9または10に記載の検出デバイス。
【請求項12】
道路(20)上の実際の水(18)の状況を検出することにより道路の危険情報を得るための方法であって、
自動車(10)の後部領域でセンサユニットによって、前記自動車(10)のタイヤによって跳ね上げた前記実際の水(18)に基づく水飛沫による水分値(42)を検出するステップと、
前記検出された水分値(42)に基づいて前記道路(20)上の前記水(18)を求めて、経路上におけるハイドロプレーニング現象の危険状況を予測的に推定するステップとを含む方法。
【請求項13】
さらに、後続の経路上におけるハイドロプレーニング現象の危険状況が、前記検出された水分値(42)と、位置検出ユニットによって特定された前記自動車(10)の現在位置とに基づいて予測的に推定されることを特徴とする、請求項12に記載の道路(20)上の水(18)を検出するための方法。」

第4 刊行物
1.刊行物1(特開2010-257307号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物1には、「運転支援システム」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物1の記載事項
1a)「【請求項1】
路面の高度差に関する情報を取得する路面高度差取得手段と、降雨情報を取得する降雨情報取得手段と、車両の運転支援を行う運転支援手段とを有する運転支援システムにおいて、
前記運転支援手段は、前記路面の高度差に関する情報、及び前記降雨情報に基づいて運転支援を行うことを特徴とする運転支援システム。
【請求項2】
前記運転支援手段は、前記降雨情報取得手段が降雨情報を取得した場合において前記路面高度差取得手段によって取得された路面の高度差が所定値以上である道路上の地点に車両が接近する場合に運転支援を行うことを特徴とする請求項1記載の運転支援システム。
【請求項3】
前記運転支援手段は、前記運転支援として、運転者に対する走行速度指示、走行速度の制御、運転者に対する所定地点への進入回避指示、所定地点への進入回避操作のうち少なくとも一つを行うことを特徴とする請求項1又は2記載の運転支援システム。
【請求項4】
前記降雨情報取得手段は、前記降雨情報として、所定時間当りの降水量に関する情報を取得することを特徴とする請求項1?3の何れか一項に記載の運転支援システム。
【請求項5】
前記運転支援手段は、前記所定時間当りの降水量が所定量以上である場合に運転支援を行う請求項4記載の運転支援システム。
【請求項6】
降雨情報取得後の気象状態に関する情報を取得する降雨後気象状態取得手段を有し、
前記運転支援手段は、前記降雨情報取得後の気象状態に基づいて運転支援を行うことを特徴とする請求項1?5の何れか一項に記載の運転支援システム。
【請求項7】
車両情報を取得する車両情報取得手段を有し、
前記運転支援手段は、前記車両情報に基づいて運転支援を行うことを特徴とする請求項1?6の何れか一項に記載の運転支援システム。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】)

1b)「【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載の技術では、カメラを用いて水溜りを検出しているため、水溜りの深さがわからないことがあった。これにより、歩行者などに対する水跳ねが発生しない場合であっても、必要以上に減速させたり水溜りを回避させたりする可能性があった。そのため、不要な運転支援により、ドライバが煩わしさを感じることがあり、制御精度の向上が求められている。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するために成されたものであり、歩行者などに対する水跳ねが発生しないような浅い水溜りで不要な運転支援が実行されることを防止して、制御精度の向上が図られた運転支援システムを提供することを目的とする。」(段落【0005】及び【0006】)

1c)「【0027】
路面センサ11は、自車が走行する道路の路面形状(凹凸)を計測するものである。例えば、ミリ波、レーザ光、超音波などを用いて、自車の基準点と路面との距離を測定することで、路面の高度差を検出する。また、例えば、路面を撮影するカメラによって取得された画像情報を解析することで、路面の凹凸形状を計測してもよい。また、自車の傾きなどを考慮して、路面の凹凸形状を計測する。
【0028】
降雨検出部12は、降雨を検出するセンサである。降雨検出部12は、降雨情報を取得する降雨情報取得手段として機能する。また、運転支援装置10は、気象状態を検出するセンサ(気象情報検出手段)を有している。このセンサでは、気象状態として、例えば、天気、日照、気温、湿度などの情報を検出することができる。
【0029】
また、運転支援システム1が適用される車両は、ナビゲーションシステムを備え、自車位置情報を取得可能であるとともに、目的地までの経路を案内することができる。また、車両は、ジャイロセンサなどを備え、自車の傾きなどを検出する。また、車両は、自車周辺の対象物(歩行者、他車両など)を検出し、対象物の位置、自車と対象物との距離を計測する歩行者検出手段(例えばミリ波レーダ、カメラなど)を備えている。
【0030】
運転支援部13は、自車の運転支援動作を制御する。運転支援部13は、演算処理を行うCPU、記憶部となるROM及びRAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などにより構成されている。運転支援部13は、路面センサ11、降雨検出部12、情報送信部14、情報受信部15、車両データ記憶部16、各種センサ(車速センサ、ミリ波レーダ)などと電気的に接続されている。運転支援部13は、エンジンECU、操舵ECU、ブレーキECU、ナビゲーションシステムなどと、例えばCAN(Control Area Network)などの通信回路で接続されることにより、相互にデータ交換が可能な構成とされている。
【0031】
運転支援部13は、路面の高度差が所定値以上である道路上の地点(例えば、水溜り喚起地点)に、自車が接近する際に運転支援を行う運転支援手段として機能する。また、運転支援部13は、路面の高度差が所定値以上である道路上の地点を走行する際に走行すべき速度を案内する車速案内手段として機能する。運転支援部13は、例えば、歩行者などに対して水跳ねを起こさない通過速度を算出する。
【0032】
運転支援部13は、自車位置の降水量が所定量以上である場合に、路面の高度差が所定値以上である道路上の地点を走行する際に走行すべき速度を案内する車速案内手段として機能する。運転支援部13は、例えば、雨の降り始めなど、水溜りが浅い時期に不要な減速制御を実行しない一方、降水量が所定量以上である場合に、歩行者などに対して水跳ねを起こさない通過速度を算出して減速制御を行う。なお、上記所定量は、歩行者などに対する水跳ねを発生する水溜りの深さを判定する際の判定基準となる値である。自車位置の降水量が所定量以上である場合とは、自車前方の水溜り喚起地点を通過する際に、歩行者などに対して水跳ねを発生させるおそれがある場合である。」(段落【0027】ないし【0032】)

1d)「【0042】
図2は、運転支援装置で実行される処理手順を示すフローチャートである。まず、運転支援装置10の運転支援部13は、路面の高度差が基準値以上であるか否かを判定する(S1)。運転支援装置10を備えた車両は、路面センサ11によって検出されたデータ、車両の傾きに基づいて、道路の凹凸情報を検知する。運転支援部13は、路面の高度差が基準値以上である場合にステップ2に進み、路面の高度差が基準値以上でない場合にここでの処理を終了する。」(段落【0042】)

1e)「【0053】
このような運転支援システム1では、取得された道路の凹凸形状に関する情報を、管理センターで収集することで、水溜りができる可能性の高い箇所をデータ化することができる。また、管理センターでは、道路の凹凸形状、降雨などの天候情報に基づいて、水溜り喚起地点、水溜り深さなどを算出することができる。運転支援装置10を備えた車両では、水溜り喚起地点に関する情報を取得して、当該水溜り喚起地点に自車が接近する際に、減速制御、操舵回避制御が実行されるため、水溜りの深さに応じて、運転支援の実行の有無を決定することができる。これにより、歩行者などに対する水跳ねが発生しないような浅い水溜りに接近する場合に、不要な減速や回避走行を実行する運転支援を防止することが可能となる。その結果、制御精度の向上が図られた運転支援システム1、運転支援装置10を実現することができる。
【0054】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。なお、上記実施形態では、センターサーバ30において、水溜り深さの算出を行っているが、例えば、運転支援装置10を備えた車両側で、水溜り深さの算出を実行してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、車両に設けられた降雨検出部12によって、降雨を検出しているが、例えば道路に設けられた降雨センサからデータを受信して、降雨を検出してもよい。」(段落【0053】ないし【0055】)

(2)引用発明
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「路面上の水溜りの深さを判定することにより、歩行者などに対する水跳ねが発生するか否かの判定を得るための運転支援システムであって、
車両に設けられた降雨検出部12と、路面センサ11とが接続された運転支援部13とを有し、運転支援部13が、車両に設けられた降雨検出部12によって降水量を検出するとともに、路面センサ11により路面の高低差を検出することにより水溜りの深さを判定し、
運転支援部13が、歩行者などに対する水跳ねが発生するか否かを判定する運転支援システム。」

2.刊行物2(特開2010-249531号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物2には、「雨滴検知装置およびワイパー動作制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物2の記載事項
2a)「【請求項1】
車両のインストルメントパネルの上面部、リアトレイの上面部、およびリアゲートのウィンドウ枠縁部の少なくとも一つに、ウィンドウガラスに向けて検知面が存するように配置されたセンサ電極と、
前記センサ電極の近傍に設けられた補助電極と、
少なくとも前記センサ電極が接続され、接続された電極からの静電容量に基づく静電容量値を検出する検出回路と、
前記補助電極を前記検出回路に接続しない第1の接続状態と、前記補助電極を前記検出回路に接続する第2の接続状態とを選択的に切り替え可能な切替スイッチと、
前記第1の接続状態における前記検出回路からの第1の静電容量値と、前記第2の接続状態における前記検出回路からの第2の静電容量値とを比較した比較値、および前記第1または第2の静電容量値に基づき、前記ウィンドウガラスに付着した雨滴が前記センサ電極上の検知範囲内にあるか否かを判定する雨滴判定手段とを備えた
ことを特徴とする雨滴検知装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

2b)「【0051】
上述したように構成され動作する雨滴検知装置によれば、図1および図2に示すように、例えばフロント静電容量センサ部10によって、インストルメントパネル2の上面部に配置されたフロント静電容量センサ部10(センサ電極11)上に形成された検知範囲Z1内に雨滴9があるか否かを判定することができる。
【0052】
また、例えばリア静電容量センサ部20によって、リアトレイ3の上面部あるいはリアゲート4のウィンドウ枠縁部に配置されたリア静電容量センサ部20(センサ電極11)上に形成された検知範囲Z2内に雨滴9があるか否かを判定することができる。これら検知範囲Z1,Z2は、設定された指向性によりその範囲が決定する。また、フロントガラスおよびリアガラスに雨滴9が付着した場合の検出される静電容量値もプロファイルにより決定することができる。」(段落【0051】及び【0052】)

2c)「【0158】
以上述べたように、上述した実施形態にかかる雨滴検知装置によれば、各静電容量センサ部10,20によって、センサ電極11上の検知範囲Z1,Z2内にフロントガラスやリアガラスに付着した雨滴9があるか否かを判定することができる。そして、判定結果に基づいて、ワイパー動作制御装置は、雨滴検知装置が雨滴9を検知した場合はワイパー動作制御部50によって、駆動モータを制御して各ワイパー51,52を動作させる。このようにすれば、雨滴9が実際にフロントガラスやリアガラスに付着したことを検知した場合に、車両1,1Aにおいて各ワイパー51,52を自動的に動作させることができる。」(段落【0158】)

(2)刊行物2技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2技術」という。)が記載されている。

「車両のウィンドウガラスに向けて検知面が存するように配置されたセンサ電極によって、リアガラスに付着した雨滴9を検出する技術。」

3.刊行物3(特開2011-232050号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物3には、「水滴検出装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物3の記載事項
3a)「【請求項1】
水滴が付着するガラス体に設けられた複数の検出電極からなる検出部と、
前記検出電極間の静電容量の変化に応じた静電容量検出信号を出力する静電容量検出回路と、
前記静電容量検出信号に基づいて前記ガラス体に付着した前記水滴を検出する水滴検出回路と
を備えた水滴検出装置において、
非検出電極を有し、前記ガラス体への前記水滴の付着による静電容量の変化を検出しない一方で、前記非検出電極にて外来ノイズを検出して前記外来ノイズを含む非検出信号を出力する非検出部を備え、
前記検出部は、前記ガラス体への前記水滴の付着による前記検出電極間の静電容量の変化に応じた検出信号を出力し、
前記静電容量検出回路は、前記検出信号と前記非検出信号との差分をとって前記静電容量検出信号を生成することを特徴とする水滴検出装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

3b)「【0061】
・上記実施形態では、水滴検出装置2は、車両のフロントガラス11を払拭する車両用ワイパ装置1に備えられ、フロントガラス11の車室外側の表面に付着した水滴を検出している。しかしながら、水滴検出装置2は、車両のリヤガラスを払拭する車両用ワイパ装置に備えられ、リヤガラスの車室外側の表面に付着した水滴を検出するものであってもよい。この場合、第1検出電極21及び第2検出電極22はリヤガラスに設けられる。また、水滴検出装置2は、ガラス体に付着した水滴の検出に用いられるのであれば、車両用ワイパ装置以外の装置に備えられてもよい。」(段落【0061】)

(2)刊行物3技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物3には以下の技術(以下、「刊行物3技術」という。)が記載されている。

「車両のリヤガラスを払拭する車両用ワイパ装置に備えられた水滴検出装置2の第1検出電極21及び第2検出電極22をリヤガラスに設ける技術。」

4.刊行物4(特開2013-103615号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物4には、「ワイパー制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物4の記載事項
4a)「【請求項1】
雨滴量に応じた払拭モードで車両用ウィンドウの雨滴を払拭するワイパー制御装置であって、
一部又は全体が磁気を帯びたワイパーブレードと、
雨滴量を検出するレインセンサと、
前記レインセンサに配置されたホール素子と、
前記ホール素子が前記ワイパーブレードの接近に伴う磁界の変化を検出した場合、前記レインセンサが検出した雨滴量データに基づく払拭モードの決定を停止する払拭モード決定手段と、
を有することを特徴とするワイパー制御装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

4b)「【0015】
図1は、前面ガラスに配置されたレインセンサ等を説明する図の一例である。レインセンサ13は、車幅方向の略中央で前面ガラス11の上端付近の車室内に固定されている。本実施形態のレインセンサ13は、図示する場所以外に、運転者の視界を遮るなどの理由がなければどの場所に配置されていてもよい。また、リアガラスにレインセンサを配置して、リアガラスのワイパーブレードの払拭速度を雨滴量に応じて制御してもよい。」(段落【0015】)

(2)刊行物4技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物4には以下の技術(以下、「刊行物4技術」という。)が記載されている。

「リアガラスのワイパーブレードの払拭速度を雨滴量に応じて制御するものにおいて、リアガラスにレインセンサを配置する技術。」

5.刊行物5(特開2009-32194号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物5には、「車両の走行制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物5の記載事項
5a)「【0025】
路面履歴送受部4には、前面ウィンドウのワイパの動作状態を示す情報がワイパスイッチ40から与えられている。この情報は、ワイパスイッチ40のオンオフ及び動作速度の高低を含んでおり、路面履歴送受部4は、ワイパスイッチ40から与えられる情報を用いて走行中の路面の滑りやすさを逐次判定し、夫々の判定結果をナビゲーション装置6から与えられる自車の走行位置と関連させて走行路面の状態に関連する履歴情報を作成する。
【0026】
ワイパスイッチ40の操作は、降雨環境下での走行中に前面ウィンドウに付着する雨滴を除去し、視界を確保することを目的としてなされる。従って、ワイパスイッチ40の操作の有無は、降雨による路面の濡れ、即ち、路面の滑りやすさを示す情報として利用することができ、例えば、ワイパスイッチ40が、オンオフ操作及び高低2段の速度切換え操作が可能に構成してある場合、3段階の滑りやすさの判定が可能となる。
【0027】
なお、路面履歴送受部4における滑りやすさの判定は、ワイパスイッチ40の操作情報に限らず、路面の状態を直接的又は間接的に検出する適宜のセンサの検出結果に基づいて行わせるようにしてもよい。」(段落【0025】ないし【0027】)

5b)「【0036】
図3は、本発明に係る走行制御装置の動作説明図であり、前述した操舵制御装置を備える2台の車両(自車A及び他車B)が対向して走行している状態を示している。
【0037】
図3(a)においては、自車Aと他車Bとの間の距離は大きく、他車Bは、降雨状態にある路面(雨降りゾーン)に進入を開始する。他車Bは、図3(b)に示すように雨降りゾーンから脱出するまでの間、前述したように、ワイパスイッチ40の操作状態から路面の滑りやすさを判定し、この判定結果をナビゲーション装置6から与えられる雨降りゾーンの位置情報に対応させて路面の履歴情報を作成し、他車Bが備える路面履歴送受部4から外部に送信される。」(段落【0036】及び【0037】)

(2)刊行物5技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物5には以下の技術(以下、「刊行物5技術」という。)が記載されている。

「ワイパスイッチ40の操作状態から降雨による路面の濡れを判定する技術。」

6.その他の文献について
また、それぞれ前置報告書において新たな刊行物として提示された、
刊行物6(特開2010-32269号公報)の段落【0020】等には、「ハイドロプレーニング発生車速推定部10において、車両のワイパに装備される雨滴センサーと路面摩擦係数を推定する装置を用いて雨滴を検出し、雨滴が検出され、且つ路面摩擦係数が所定値を下回ったときに水膜が存在すると判定する技術」(以下、「刊行物6技術」という。)が記載され、
刊行物7(特開2002-296363号公報)の段落【0044】には、「雨滴センサを乗用車のリアウインドシールドに設ける技術」(以下、「刊行物7技術」という。)が記載され、
刊行物8(特開2007-139477号公報)の段落【0050】には、「車両の現在位置における現在の天候が降雨か否かの検出を開始し、基地局から無線送信されてくる気象情報に基づいて車両の現在位置や目的地、あるいは車両の現在位置から目的地までの地域における現在から所定の時間後までにおける予想天候が降雨であるか否かを導出する技術」(以下、「刊行物8技術」という。)が記載されている。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「路面上」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「道路上」に相当し、以下同様に、「車両に設けられた降雨検出部12」は「水分検出ユニット」に、「運転支援部13」は「評価ユニット」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「水溜りの深さを判定する」と、本願発明1における「実際の水の状況を検出する」とは、「水の状態を知る」という限りにおいて一致し、
引用発明における「歩行者などに対する水跳ねが発生するか否かの判定を得る」と、本願発明1における「道路の危険情報を得る」とは、「道路の状態に関する情報を得る」という限りにおいて一致し、
引用発明における「運転支援システム」と、本願発明1における「自動車用の検出デバイス」あるいは「検出デバイス」とは、「自動車用の装置」という限りにおいて一致する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「道路上の水の状態を知ることにより、道路の状態に関する情報を得るための自動車用の装置であって、
水分検出ユニットと、評価ユニットとを有する自動車用の装置。」

[相違点1]
「水の状態を知る」に関して、本願発明1においては、「実際の水の状況を検出する」のに対して、引用発明においては、「水溜りの深さを判定する」点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
「道路の状態に関する情報を得る」に関して、本願発明1においては、「道路の危険情報を得る」のに対して、引用発明においては、「歩行者などに対する水跳ねが発生するか否かの判定を得る」点(以下、「相違点2」という。)。

[相違点3]
「自動車用の装置」に関して、本願発明1においては、「自動車用の検出デバイス」あるいは「検出デバイス」であるのに対して、引用発明においては、「運転支援システム」である点(以下、「相違点3」という。)。

[相違点4]
本願発明1においては、「評価ユニットが、水分検出ユニットによって検出された水分値に基づいて道路上の水の状況を求めるように設計され」るのに対して、引用発明においては、「運転支援部13が、車両に設けられた降雨検出部12によって降水量を検出するとともに、路面センサ11により路面の高低差を検出することにより水溜りの深さを判定」する点(以下、「相違点4」という。)。

[相違点5]
本願発明1においては、「水分検出ユニットが、自動車のタイヤによって跳ね上げた水に基づく水飛沫を、検出可能な位置に配備されたセンサユニットとして具現化され、自動車の後部領域に配置され」るのに対して、引用発明においては、「車両に設けられた降雨検出部12」が車両のどの部分に設けられるのか不明である点(以下、「相違点5」という。)。

[相違点6]
本願発明1においては、「評価ユニット(40)が、経路上におけるハイドロプレーニング現象の危険状況を予測的に推定するように設計されている」のに対して、引用発明においては、「運転支援部13が、歩行者などに対する水跳ねが発生するか否かを判定する」点(以下、「相違点6」という。)。

事案に鑑み、まず、相違点5について検討する。

[相違点5について]
上記刊行物2技術は、「車両のウィンドウガラスに向けて検知面が存するように配置されたセンサ電極によって、リアガラスに付着した雨滴9を検出する技術」であり、
上記刊行物3技術は、「車両のリヤガラスを払拭する車両用ワイパ装置に備えられた水滴検出装置2の第1検出電極21及び第2検出電極22をリヤガラスに設ける技術」であり、
上記刊行物4技術は、「リアガラスのワイパーブレードの払拭速度を雨滴量に応じて制御するものにおいて、リアガラスにレインセンサを配置する技術」である。
そして、刊行物2技術ないし刊行物4技術は、雨滴を検出するためのセンサを車両のリアガラスに設けることについて開示している。
しかしながら、上記刊行物2技術ないし刊行物4技術において、車両のリアガラスの位置は車両の後部領域に含まれるものの、技術常識からみて、車両のリアガラスまで自動車のタイヤによって跳ね上げた水が及ぶか否かは車両の形状による車両周囲の空気の流れ等によって決定されるものであるから、車両のリアガラスの位置が必ずしも自動車のタイヤによって跳ね上げた水に基づく水飛沫を検出することが可能となる位置となるとはいえない。
そうすると、雨滴を検出するためのセンサを、自動車のタイヤによって跳ね上げた水に基づく水飛沫を検出可能な位置に配備したことについては刊行物2技術ないし刊行物4技術において開示や示唆がされていない。
また、上記刊行物5技術は、「ワイパスイッチ40の操作状態から降雨による路面の濡れを判定する技術」であって、降雨による路面の状態をワイパスイッチ40から検知するものであるから、そもそも雨滴を検出するためのセンサを備えるものではなく、
上記刊行物6技術は、「ハイドロプレーニング発生車速推定部10において、車両のワイパに装備される雨滴センサーと路面摩擦係数を推定する装置を用いて雨滴を検出し、雨滴が検出され、且つ路面摩擦係数が所定値を下回ったときに水膜が存在すると判定する技術」であって、ハイドロプレーニングの発生車速を推定する技術であるが、自動車のタイヤによって跳ね上げた水に基づく水飛沫を検出することによりハイドロプレーニング現象の発生を予測するものではない。
また、上記刊行物7は、「雨滴センサを乗用車のリアウインドシールドに設ける技術」であり、上記刊行物8は、「車両の現在位置における現在の天候が降雨か否かの検出を開始し、基地局から無線送信されてくる気象情報に基づいて車両の現在位置や目的地、あるいは車両の現在位置から目的地までの地域における現在から所定の時間後までにおける予想天候が降雨であるか否かを導出する技術」であるが、いずれも自動車のタイヤによって跳ね上げた水に基づく水飛沫を検出することに関して示唆するものではない。

よって、相違点1ないし4及び6について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び刊行物2技術ないし刊行物8技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

2.本願発明2ないし11について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし11は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし11は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし11は、本願発明1と同様の理由で、引用発明及び刊行物2技術ないし刊行物8技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

3.本願発明12について
本願発明12は、本願発明1に対応する方法の発明であって、「自動車の後部領域でセンサユニットによって、自動車のタイヤによって跳ね上げた実際の水に基づく水飛沫による水分値を検出するステップ」を有するものであるから、本願発明1と同様の理由により、本願発明12は、引用発明及び刊行物2技術ないし刊行物8技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

4.本願発明13について
本願の特許請求の範囲における請求項13は、請求項12の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明13は、本願発明12の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明13は、本願発明12と同様の理由で、引用発明及び刊行物2技術ないし刊行物8技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

第6 原査定について
1.理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1ないし11は、「水分検出ユニットが、自動車のタイヤによって跳ね上げた水に基づく水飛沫を、検出可能な位置に配備されたセンサユニットとして具現化され、自動車の後部領域に配置され」(下線は、審判請求時の補正において付加された部分を示す。以下同様。)という事項を有するものとなっており、本願発明12及び13は、「自動車の後部領域でセンサユニットによって、自動車のタイヤによって跳ね上げた実際の水に基づく水飛沫による水分値を検出するステップ」という事項を有するものとなっているから、当業者であっても、拒絶査定において引用された刊行物1ないし5に記載された発明又は技術に基いて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし13に係る発明は、いずれも引用発明及び刊行物2技術ないし刊行物5技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-09-26 
出願番号 特願2015-104306(P2015-104306)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B60W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 立花 啓佐々木 淳  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 松下 聡
槙原 進
発明の名称 道路上の水を検出するためのデバイスおよび方法  
代理人 岡島 伸行  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ