• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1332775
審判番号 不服2016-15938  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-26 
確定日 2017-09-21 
事件の表示 特願2012-219019「蛍光ランプ及びこの蛍光ランプを用いた点灯装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月21日出願公開、特開2014- 72112〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成24年10月 1日 特許出願
平成28年 1月20日 拒絶理由通知(同年1月26日発送)
平成28年 3月25日 意見書・手続補正書
平成28年 7月19日 拒絶査定(同年7月26日送達)
平成28年10月26日 本件審判請求・手続補正書

第2 平成28年10月26日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年10月26日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の概略
平成28年10月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?5に、
「【請求項1】
ガラスバルブの内面に蛍光体層を設けるとともに、内部に水銀あるいは水銀化合物と希ガスを封入し、前記ガラスバルブの両端部に電子放射性物質であるエミッタを保持したタングステンコイルフィラメントがインナーリード線に支持されている電極を具備した蛍光ランプにおいて、
前記エミッタは、前記タングステンコイルフィラメントよりも熱放射率が大きく、
前記エミッタを保持したタングステンコイルフィラメントは、エミッタが保持されている部分において、タングステンが表面に露出している面積をSt(mm^(2))、前記エミッタが表面に露出している面積をSe(mm^(2))としたとき、0.85≦Se/(Se+St)≦1であることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
前記タングステンコイルフィラメントを3重コイルとしたことを特徴とする請求項1に記載の蛍光ランプ。
【請求項3】
前記ガラスバルブの管径を15?38mmとしたことを特徴とする請求項1に記載の蛍光ランプ。
【請求項4】
点灯周波数を10kHz以上としたことを特徴とする請求項1に記載の蛍光ランプ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の蛍光ランプを光源として用いたことを特徴とする蛍光ランプ点灯装置。」

とあるものを、

「【請求項1】
ガラスバルブの内面に蛍光体層を設けるとともに、内部に水銀あるいは水銀化合物と希ガスを封入し、前記ガラスバルブの両端部に電子放射性物質であるエミッタを保持したタングステンコイルフィラメントがインナーリード線に支持されている電極を具備した蛍光ランプにおいて、
前記タングステンコイルフィラメントは3重コイルであり、
前記エミッタは、前記タングステンコイルフィラメントよりも熱放射率が大きく、
前記エミッタを保持したタングステンコイルフィラメントは、エミッタが保持されている部分において、タングステンが表面に露出している面積をSt(mm^(2))、前記エミッタが表面に露出している面積をSe(mm^(2))としたとき、0.85≦Se/(Se+St)≦1であり、一次巻のコイル幅をFD1、二次巻のコイル幅をFD2、一次巻のコイル間の幅をP1、二次巻のコイル間の幅をP2としたとき、FD1:P1≒FD2:P2≒1:6であることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
前記ガラスバルブの管径を15?38mmとしたことを特徴とする請求項1に記載の蛍光ランプ。
【請求項3】
点灯周波数を10kHz以上としたことを特徴とする請求項1に記載の蛍光ランプ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の蛍光ランプを光源として用いたことを特徴とする蛍光ランプ点灯装置。」

にする補正を含むものである。
本件補正のうち、請求項1についてする補正は、
(ア)補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項2を独立請求項として新たな請求項1にする補正事項(以下「補正事項1という。)、
(イ)新たな請求項1に「一次巻のコイル幅をFD1、二次巻のコイル幅をFD2、一次巻のコイル間の幅をP1、二次巻のコイル間の幅をP2としたとき、FD1:P1≒FD2:P2≒1:6である」との発明特定事項を追加する補正事項(以下「補正事項2」という。)、
からなる。

2 補正の目的
補正事項1は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とする補正に該当する。
補正事項2は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

3 新規事項の追加の有無
(1)補正事項1について
補正事項1は、上記のとおり請求項の削除を目的とする補正であるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)補正事項2について
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものなのか否か、検討する。
ア 願書に最初に添付した明細書には、以下の記載がある。
「【0025】
図2及び図3を参照しながら、本実施形態と従来例の3重コイルの各部の名称と寸法を図5に示す。
【0026】
本実施形態の高周波点灯専用形蛍光ランプFHF32は、ランプの点灯時間とタングステンコイルフィラメントに保持されているエミッタ質量変化の関係から、定格出力時(ランプ電流255mA時)で約62,200時間、高出力時(ランプ電流425mA時)で約48,000時間の平均寿命が得られた。一方、従来例の高周波点灯専用形蛍光ランプFHF32は、定格出力時(ランプ電流255mA時)で約24,700時間、高出力時(ランプ電流425mA時)で約24,500時間の平均寿命であり、本実施形態はエミッタ重量が従来例とほぼ同等であるにも関わらず、本実施形態により著しく長寿命化が成されたことが分かる。
【0027】
従来例の3重コイルのSe/(Se+St)の比は、0.85未満の範囲にあり、従ってSe/(Se+St)が0.85未満の範囲では、エミッタの熱蒸発は従来並となり、エミッタの消耗速度を抑制できず、長い点灯寿命をもつ電極を得ることができない。一方、Se/(Se+St)が0.85以上の範囲では、熱放射率の大きいエミッタが、タングステンに比べて表面に露出する面積が増し、エミッタを保持したタングステンコイルフィラメントからの熱放射が大きくなり、エミッタの熱蒸発が減少し、エミッタの消耗速度が抑制され、長寿命化が実現可能となる。また、長寿命化を実現できるSe/(Se+St)の上限は、エミッタを保持している部分において、タングステンが表面に露出していない状態(つまり、St=0の時)であり、この場合エミッタのみが表面に露出しているため、最もタングステンコイルフィラメントからの熱放射が大きくなり、最もエミッタの
輝点温度が下がり、エミッタの消耗速度も最も遅くなる。」

イ 願書に最初に添付した図面の図3、図5は、以下のとおりである。

ウ 新たな請求項1に追加した「一次巻のコイル幅をFD1、二次巻のコイル幅をFD2、一次巻のコイル間の幅をP1、二次巻のコイル間の幅をP2としたとき、FD1:P1≒FD2:P2≒1:6である」との発明特定事項のうち、「FD1」、「FD2」、「P1」、「P2」の各パラメータは、図3、図5に記載されている。そして、願書に最初に添付した明細書中に直接的な記載はないが、技術常識を参酌すれば、FD1が一次巻のコイル幅であること、FD2が二次巻のコイル幅であること、P1が一次巻のコイル間の幅であること、P2が二次巻のコイル間の幅であることは、当業者が理解しうるものと認められるから、「一次巻のコイル幅をFD1、二次巻のコイル幅をFD2、一次巻のコイル間の幅をP1、二次巻のコイル間の幅をP2と」することは、当初明細書等に記載された事項の範囲内といえる。
次に、図5によれば、実施形態の新3重コイルは、「FD1=17.7μm」、「P1=100μm」、「FD2=56μm」、「P2=310μm」であるから、「FD1:P1=1:5.65」、「FD2:P2=1:5.54」であることは、何れも、当初明細書等に記載されているに等しい事項である。しかしながら、「FD1:P1」と「FD2:P2」がほぼ等しいこと、そして、何れも「1:6」にほぼ等しいことは、当初明細書等には記載されていない。請求人は、審判請求書の「5,」において、「明細書の段落0025?0027の記載や、図5に基づくものであり新規事項を追加するものではありません。」と主張するが、明細書の段落【0025】?【0027】の記載や図5をみても、「FD1:P1」と「FD2:P2」がほぼ等しいこと、そして、何れも「1:6」にほぼ等しいことは記載されていないから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとは認められない。
さらに、請求人は、審判請求書の請求の理由「6.」において、「従来のように、FD1:P1≒FD2:P2≒1:3では、密すぎて表面積が露出する面積が小さくなり、1:10では、エミッタの保持力が無いという課題があるところ、1:6とすることで、更なる長寿命化が実現可能となるという効果を奏しています。」と主張する。該主張によれば、「FD1:P1≒FD2:P2≒1:6」であることは、更なる長寿命化を可能にするという技術的意義を有するものと解されるが、そのような技術的意義を有することは、当初明細書等に記載されていない。
したがって、補正事項2は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえないから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

4 独立特許要件
本件補正は、上記3のとおり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが、念のため、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて、検討しておく。
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には、
「一次巻のコイル幅をFD1、二次巻のコイル幅をFD2、一次巻のコイル間の幅をP1、二次巻のコイル間の幅をP2としたとき、FD1:P1≒FD2:P2≒1:6であること」
との発明特定事項が記載されている。
そこで、上記発明特定事項が有する技術的意味について、検討する。上記3ウに記載したとおり、「FD1:P1」と「FD2:P2」がほぼ等しいこと、そして、その何れも「1:6」にほぼ等しいことは、当初明細書等(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)も同様である。)には記載されていなく、その技術的意義についても記載がない。そうすると、「FD1:P1」の値、「FD2:P2」の値がどの範囲にあれば、「1:6」にほぼ等しいのか不明確であり、明細書等の記載や技術常識を考慮しても不明確である。
したがって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものである。

5 本件補正についてのむすび
上記3で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、仮にこの点をおくとしても、上記4で検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する特許法第126条第7項の規定に違反するものである。したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年10月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明は、平成28年3月25日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1、2は以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
ガラスバルブの内面に蛍光体層を設けるとともに、内部に水銀あるいは水銀化合物と希ガスを封入し、前記ガラスバルブの両端部に電子放射性物質であるエミッタを保持したタングステンコイルフィラメントがインナーリード線に支持されている電極を具備した蛍光ランプにおいて、
前記エミッタは、前記タングステンコイルフィラメントよりも熱放射率が大きく、
前記エミッタを保持したタングステンコイルフィラメントは、エミッタが保持されている部分において、タングステンが表面に露出している面積をSt(mm^(2))、前記エミッタが表面に露出している面積をSe(mm^(2))としたとき、0.85≦Se/(Se+St)≦1であることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
前記タングステンコイルフィラメントを3重コイルとしたことを特徴とする請求項1に記載の蛍光ランプ。」
ここで、請求項2を独立形式(請求項1を引用しない形式)に書き改めると、
「ガラスバルブの内面に蛍光体層を設けるとともに、内部に水銀あるいは水銀化合物と希ガスを封入し、前記ガラスバルブの両端部に電子放射性物質であるエミッタを保持したタングステンコイルフィラメントがインナーリード線に支持されている電極を具備した蛍光ランプにおいて、
前記エミッタは、前記タングステンコイルフィラメントよりも熱放射率が大きく、
前記エミッタを保持したタングステンコイルフィラメントは、エミッタが保持されている部分において、タングステンが表面に露出している面積をSt(mm^(2))、前記エミッタが表面に露出している面積をSe(mm^(2))としたとき、0.85≦Se/(Se+St)≦1であり、
前記タングステンコイルフィラメントを3重コイルとした、
蛍光ランプ。」(以下「本願発明」という。)
である。

2 引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に日本国内で頒布された刊行物である特開2004-31061号公報(以下「刊行物」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、照明などの光源や紫外線などの放射源として用いられる蛍光ランプに代表される低圧放電ランプおよびこの放電ランプを装着したランプ点灯装置に関する。」

イ 「【0002】
【従来の技術】低圧放電ランプ、たとえば蛍光ランプは、両端を封止し内面に蛍光体被膜を形成したガラス管バルブ内に一対のコイル電極を対峙させるとともに水銀およびアルゴンガスなどの放電媒体を封入して構成されている。
【0003】
そして、上記バルブ内においてコイル電極間に放電を生起させ、この放電によりバルブ内の水銀蒸気を電離および励起して紫外線を発生し、この紫外線を蛍光体被膜で可視光に変換してバルブ外に放射するようにしている。
【0004】
また、上記電極Dは通常タングステンフィラメントワイヤ(細線)やタングステンメインワイヤ(芯線)にタングステンサブワイヤをさらに巻いた線状体を二重(ダブル)または三重(トリプル)に巻回したコイル状に形成され、図8に示すようにリード線W,Wに継線された両端のレグ部Aを除く中間のコイル状部Cの全面に放電を容易にする熱電子放射性物質(エミッタ)Eを付着し担持させている。
【0005】
そして、蛍光ランプは、ランプ始動時および点灯中、コイル状部Cに担持された熱電子放射性物質Eが次第に消耗していき、ついには、正常の電圧では十分な熱電子放射が困難となり、アーク放電の維持が不可能となってランプは消灯して寿命が尽きる。
【0006】
上記のように蛍光ランプの寿命は、電極のコイル状部に担持させた熱電子放射性物質の蒸発飛散速度によるところが大きく、この熱電子放射性物質の付着量および蒸発熱源である電極(コイル)温度によって点灯寿命が決定されるといっても過言ではない。
【0007】
上述したように放電ランプの寿命は熱電子放射性物質の付着量によっても左右され、その付着量が少ないとランプが短寿命となることから、上記図8に示すように三重コイル状の部分を含むコイルで囲われた部分にまで熱電子放射性物質を付着させたり、コイル径を大きくするなどのことをして熱電子放射性物質の付着量を増すことが行われている。」(中:下線は、当審が付加した。以下同様である。)

ウ 「【0017】
【課題を解決するための手段】

【0025】
熱電子放射性物質は、(Ba、Ca、Sr)O、Ba-M-O(M;Ta、Al、V、W、Ti)、Ba-Ca-M-O(M;Ta、Al、V、W、Ti)などやこれらを組合わせたものあるいはAl_(2)O_(3) 、ZrO_(2) 、Sr_(2)O_(3) などを少量添加したものなどであってもよい。」

(2)上記(1)の記載によれば、刊行物には、以下の発明が記載されている。
「両端を封止し内面に蛍光体被膜を形成したガラス管バルブ内に一対のコイル電極を対峙させるとともに水銀およびアルゴンガスなどの放電媒体を封入して構成される蛍光ランプにおいて、
上記電極は通常タングステンフィラメントワイヤ(細線)やタングステンメインワイヤ(芯線)にタングステンサブワイヤをさらに巻いた線状体を三重(トリプル)に巻回したコイル状に形成され、リード線W,Wに継線された両端のレグ部を除く中間のコイル状部の全面に放電を容易にする熱電子放射性物質(エミッタ)を付着し担持させており、
三重コイル状の部分を含むコイルで囲われた部分にまで熱電子放射性物質を付着させて熱電子放射性物質の付着量を増やした、
蛍光ランプ。」(以下「引用発明」という。)

3 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「ガラス管バルブ」、「蛍光体被膜」、「水銀」、「アルゴンガス」、「熱電子放射性物質(エミッタ)」、「タングステンフィラメントワイヤ(細線)やタングステンメインワイヤ(芯線)にタングステンサブワイヤをさらに巻いた線状体を三重(トリプル)に巻回したコイル状に形成され」たもの、「リード線」、「コイル電極」、及び「蛍光ランプ」は、それぞれ、本願発明の「ガラスバルブ」、「蛍光体層」、「水銀」、「希ガス」、「エミッタ」、「3重コイルとした」「タングステンコイルフィラメント」、「インナーリード線」、「電極」、及び「蛍光ランプ」に相当する。

(2)してみると、本願発明と引用発明は、
「ガラスバルブの内面に蛍光体層を設けるとともに、内部に水銀あるいは水銀化合物と希ガスを封入し、前記ガラスバルブの両端部に電子放射性物質であるエミッタを保持したタングステンコイルフィラメントがインナーリード線に支持されている電極を具備した蛍光ランプにおいて、
前記タングステンコイルフィラメントを3重コイルとした、
蛍光ランプ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1 本願発明は、「前記エミッタは、前記タングステンコイルフィラメントよりも熱放射率が大き」いのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か明らかではない点。
相違点2:本願発明は、「前記エミッタを保持したタングステンコイルフィラメントは、エミッタが保持されている部分において、タングステンが表面に露出している面積をSt(mm^(2))、前記エミッタが表面に露出している面積をSe(mm^(2))としたとき、0.85≦Se/(Se+St)≦1であ」るのに対し、引用発明は、「リード線W,Wに継線された両端のレグ部を除く中間のコイル状部の全面に放電を容易にする熱電子放射性物質(エミッタ)を付着し担持させており」、「三重コイル状の部分を含むコイルで囲われた部分にまで熱電子放射性物質を付着させて熱電子放射性物質の付着量を増やし」ている点。

4 判断
以下、上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
上記2(1)ウに摘記したとおり、刊行物には「熱電子放射性物質は、(Ba、Ca、Sr)O、Ba-M-O(M;Ta、Al、V、W、Ti)、Ba-Ca-M-O(M;Ta、Al、V、W、Ti)などやこれらを組合わせたものあるいはAl_(2)O_(3) 、ZrO_(2) 、Sr_(2)O_(3) などを少量添加したものなどであってもよい」との記載があるように、「(Ba、Ca、Sr)O、Ba-M-O(M;Ta、Al、V、W、Ti)、Ba-Ca-M-O(M;Ta、Al、V、W、Ti)など」は熱電子放射性物質として良く知られた物質である。そうすると、引用発明の「熱電子放射性物質(エミッタ)」として、「(Ba、Ca、Sr)O、Ba-M-O(M;Ta、Al、V、W、Ti)、Ba-Ca-M-O(M;Ta、Al、V、W、Ti)など」における「(Ba、Ca、Sr)O」を採用することは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。ここで、エミッタとして使用されるBaO、SrO、CaOのアルカリ土類金属の複合酸化物は、その熱放射率が、ランプが点灯している時の温度領域において、タングステンの熱放射率よりも著しく大きい特性を有する(本願明細書の【0002】、【0012】の記載を参照。)から、引用発明の「熱電子放射性物質(エミッタ)」として、「(Ba、Ca、Sr)O」を採用したものは、エミッタがタングステンコイルフィラメントよりも熱放射率が大きい特性を備える、すなわち、上記相違点1に係る本願発明のエミッタの熱放射率の特性を備えるものである。

(2)相違点2について
ア 引用発明は、「リード線W,Wに継線された両端のレグ部を除く中間のコイル状部の全面に放電を容易にする熱電子放射性物質(エミッタ)を付着し担持させており」、「三重コイル状の部分を含むコイルで囲われた部分にまで熱電子放射性物質を付着させて」いるものであるから、引用発明において「Se/(Se+St)」を計算すれば、タングステンが表面に露出している面積であるStが0であるから、Se/(Se+St)=1になるものと認められる。
してみると、両者は「前記エミッタを保持したタングステンコイルフィラメントは、エミッタが保持されている部分において、タングステンが表面に露出している面積をSt(mm^(2))、前記エミッタが表面に露出している面積をSe(mm^(2))としたとき、0.85≦Se/(Se+St)=1」の点で一致するから、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)そして、本願発明が奏する作用効果は、引用発明と刊行物に記載された技術事項に基いて、当業者が予測しうる程度のものと認められる。
したがって、本願発明は引用発明と刊行物に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-06 
結審通知日 2017-07-11 
審決日 2017-08-01 
出願番号 特願2012-219019(P2012-219019)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
P 1 8・ 537- Z (H01J)
P 1 8・ 575- Z (H01J)
P 1 8・ 561- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 小松 徹三
松川 直樹
発明の名称 蛍光ランプ及びこの蛍光ランプを用いた点灯装置  
代理人 戸田 裕二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ