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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60C
審判 査定不服 特174条1項 取り消して特許、登録 B60C
管理番号 1332784
審判番号 不服2016-7621  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-25 
確定日 2017-10-16 
事件の表示 特願2012-552345号「サイプを備えたトレッドを有する二輪車用タイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年8月18日国際公開、WO2011/098401、平成25年5月30日国内公表、特表2013-519560号、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年(平成23年)2月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年2月12日 仏国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成24年8月10日 :翻訳文提出
平成27年1月29日付け :拒絶理由の通知
平成27年7月30日 :意見書、手続補正書の提出
平成28年1月21日付け :拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成28年5月25日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成28年12月20日付け:拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という 。)の通知
平成29年4月18日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明10」という。)は、平成29年4月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。
「0.15を超えるタイヤのトレッドの高さとトレッドの最大幅の比である比Ht/Wtによって定められる曲率を有する動力付き二輪車用のタイヤであって、前記タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、前記ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、前記サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体しているタイヤにおいて、
前記トレッドは、少なくとも1つの切り込みを有し、前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、周方向平面内において、半径方向と5°?45°の角度をなし、第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なっており、
半径方向と5°?45°の角度をなす前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の前記少なくとも一部は、接触パッチと接触状態にある、
ことを特徴とするタイヤ。」

本願発明2?9は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明10は本願発明1?9の使用方法の発明である。

第3 引用文献、引用発明
引用文献1:特開2007-99024号公報
引用文献2:実願昭62-85716号(実開昭63-194004号)のマイクロフィルム
引用文献3:特開2001-39121号公報
引用文献4:特開平10-81113号公報
1.引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
「【0001】
この発明は、駆動性能または制動性能を向上させることができる回転方向が規定された二輪車用空気入りタイヤに関する。」
「【0018】
以下、この発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
図1、2において、11は高速走行に適する回転方向が指定された後輪用の二輪車用空気入りタイヤであり、このタイヤ11は子午線断面が略弧状を呈しながら半径方向外側に向かって凸状に滑らかに湾曲するトレッド部13と、このトレッド部13の幅方向両端からほぼ半径方向内側に向かって延びる一対のサイドウォール部14と、これらサイドウォール部14の半径方向内側端に連続しビードコア16がそれぞれ埋設された一対のビード部15とを備え、トレッド端E間の幅がタイヤ最大幅となるよう成形されている。
【0019】
また、前記タイヤ11は一対のビードコア16間をトロイダル状に延びてサイドウォール部14、トレッド部13を補強するカーカス層20を有し、このカーカス層20の両端部は前記ビードコア16の回りを内側から外側に向かって折り返されることで、これらビードコア16に係止されている。前記カーカス層20は少なくとも1枚、ここでは2枚のカーカスプライ21から構成され、これらのカーカスプライ21の内部にはタイヤ赤道Sに対して80度のコード角で交差する補強コードが多数本埋設されている。」
「【0037】
図6、7は、この発明の実施形態2を示す図である。この実施形態のタイヤ11は回転方向が指定された前輪用の二輪車用空気入りタイヤであり、ベルト層24を少なくとも2枚、ここでは2枚の傾斜プライ40、41とから構成している。前記傾斜プライ40、41の内部にはタイヤ赤道Sに対して所定角度で傾斜した互いに平行に延びる多数本の補強コードがそれぞれ埋設され、これらの補強コードは前記2枚の傾斜プライ40、41においてタイヤ赤道Sに対し逆方向に傾斜し、互いに交差している。」
「【0039】
また、この実施形態においては、トレッドゴム26(トレッド部13)の外表面に周方向に等距離離れた互いに平行な複数の溝44、ここではサイプが形成され、各溝44は、トレッド中央部27に位置し、回転方向前方に向かって山形(逆V字形)に屈曲した山形部45と、トレッド両端部29に位置するとともに、山形部45の幅方向両端にそれぞれ連続し、タイヤ赤道Sに対して45?90度の範囲内、ここでは90度の傾斜角Aで傾斜した傾斜部46とから構成されている。
【0040】
そして、これら傾斜部46、詳しくは幅方向中央線は、図8に示すように、周方向断面上において直線状に延在しながら最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜している。ここで、二輪車の前輪に装着されたタイヤ11は、制動時に前輪が沈み込むよう車体が傾斜(ピッチング)するため、接地領域における傾斜部46間の陸部47全体が回転方向前方に向かって倒れ込もうとするが、各陸部47の回転方向前端に形成された略三角形状の突っ張り部48が強力に抵抗し、各陸部47における倒れ込みが効果的に抑制され、この結果、制動性能が向上するとともに、偏摩耗の発生も抑制される。しかも、このタイヤにおいても、縦溝は必須要件ではないので、適用範囲は広い。
【0041】
一方、前記タイヤ11によって旋回しながら減速を行う場合には、車体が大きく倒れ込んでいるので、横力、制動力の双方がタイヤ11のトレッド端部29に作用するが、傾斜部46がタイヤ赤道Sに対して45?90度の範囲内の傾斜角Aで傾斜し、傾斜部46間の陸部47がほぼタイヤ幅方向に延在しているため、前述のような横力に強力に抵抗し、しかも、傾斜部46が最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜することで、傾斜部46間に位置する陸部47の回転方向前端に形成された略三角形状の突っ張り部48が強力に抵抗するため、旋回性能、制動性能の双方を向上させることができ、前述のような場合に充分なグリップ力を確保することができる。
【0042】
また、前述した溝44がサイプであるとき、傾斜部46の周方向断面形状を、図8のような直線状ではなく、例えば、図9に示すように、最深点Dから開口端Kに向かって途中まで開口端Kに立てた法線Hに沿って直線状に延在させ、その後、回転方向後方に傾斜させながら開口端Kまで直線状に延在させたり、または、図10に示すように、回転方向後方に向かって凸状となった単一曲率半径の円弧状で、開口端Kにおいて法線Hに平行に延びるものであってもよい。
【0043】
あるいは、傾斜部46の周方向断面形状を、図11に示すように、最深点Dから開口端Kに向かって法線Hに沿って直線状に延在させた後、回転方向後方に傾斜させながら直線状に延在させたくの字形の屈曲部を、開口端Kに向かって2回半繰り返し、開口端Kの直前では法線Hに沿って直線状に延在させるようにしてもよく、このように4箇所で屈曲した波形とすれば、陸部47が倒れ込もうとしたとき、隣接する陸部47の回転方向前、後面同士が噛み合うように接触して、該陸部47の倒れ込みを強力に抑制することができる。このように溝44の傾斜部46は、全体として最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜していればよいのである。なお、他の構成、作用は前記実施形態1と同様である。」

したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、引用発明は、引用文献1に記載された事項のうち、主に、図6、7、8に係る実施形態に基づいて認定している。

「子午線断面が略弧状を呈しながら半径方向外側に向かって凸状に滑らかに湾曲するトレッド部13と、このトレッド部13の幅方向両端からほぼ半径方向内側に向かって延びる一対のサイドウォール部14と、これらサイドウォール部14の半径方向内側端に連続しビードコア16がそれぞれ埋設された一対のビード部15とを備えた、回転方向が指定された前輪用の二輪車用空気入りタイヤ11であって、
前記タイヤ11は一対のビードコア16間をトロイダル状に延びてサイドウォール部14、トレッド部13を補強するカーカス層20を有し、このカーカス層20の両端部は前記ビードコア16の回りを内側から外側に向かって折り返されることで、これらビードコア16に係止されており、
トレッドゴム26(トレッド部13)の外表面に周方向に等距離離れた互いに平行な複数のサイプ44が形成され、
サイプ44は、トレッド両端部29に位置し、タイヤ赤道Sに対して90度の傾斜角Aで傾斜した傾斜部46を有し、
傾斜部46の周方向断面形状を、周方向断面上において直線状に延在しながら最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜している形状とした、
回転方向が指定された前輪用の二輪車用空気入りタイヤ11。」
2.引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【0022】図1及び図2に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ10は二輪車用のスノータイヤ(タイヤサイズ:2.75-14)であり、トレッド12には、タイヤ回転方向(矢印S方向)に対して傾斜する複数の交差する溝14によって、複数のブロック16が形成されている。溝14は、タイヤ回転方向と反対方向に凸となる円弧状形状であり、ブロック16のパターンが方向性を有する。また、各ブロック16には、サイプ18が形成されている。」
「【0024】なお、この空気入りタイヤ10は、トレッド12以外の内部構造は一般周知の構造(バイアス構造、ラジアル構造等)であるので内部構造についての説明は省略する。」

したがって、上記引用文献3には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「二輪車用のバイアス構造の空気入りタイヤ10(スノータイヤ)であって、
トレッド12には、タイヤ回転方向(矢印S方向)に対して傾斜する複数の交差する溝14によって、複数のブロック16が形成されており、
各ブロック16には、サイプ18が形成されている、
二輪車用の空気入りタイヤ10。」

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1との対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明の「二輪車」は、エンジンを持つものであることが示唆されているから(引用文献1の段落【0004】、参照。)、動力付き二輪車といえる。したがって、引用発明1の「回転方向が指定された前輪用の二輪車用空気入りタイヤ11」は、本願発明1の「動力付き二輪車用のタイヤ」ないし「タイヤ」に相当する。
引用発明1は、「子午線断面が略弧状を呈しながら半径方向外側に向かって凸状に滑らかに湾曲するトレッド部13」を備えるから、そのトレッド部に曲率を有するといえる。
引用発明1は、「トレッド部13の幅方向両端からほぼ半径方向内側に向かって延びる一対のサイドウォール部14と、これらサイドウォール部14の半径方向内側端に連続しビードコア16がそれぞれ埋設された一対のビード部15とを備え」るから、各ビード部の半径方向外方の延長部としてサイドウォール部が設けられ、このサイドウォール部は、半径方向外側に向かってトレッド部に合体しているといえる。また、引用発明1は、「一対のビードコア16間をトロイダル状に延びてサイドウォール部14、トレッド部13を補強するカーカス層20を有し、このカーカス層20の両端部は前記ビードコア16の回りを内側から外側に向かって折り返されることで、これらビードコア16に係止されて」いるから、タイヤの各側でビードコアに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有しているといえる。さらに、引用発明1のビード部のベースが、リムシートに取付けられるようになっていることは明らかである。
したがって、引用発明1の「子午線断面が略弧状を呈しながら半径方向外側に向かって凸状に滑らかに湾曲するトレッド部13と、このトレッド部13の幅方向両端からほぼ半径方向内側に向かって延びる一対のサイドウォール部14と、これらサイドウォール部14の半径方向内側端に連続しビードコア16がそれぞれ埋設された一対のビード部15とを備えた、回転方向が指定された前輪用の二輪車用空気入りタイヤ11であって、前記タイヤ11は一対のビードコア16間をトロイダル状に延びてサイドウォール部14、トレッド部13を補強するカーカス層20を有し、このカーカス層20の両端部は前記ビードコア16の回りを内側から外側に向かって折り返されることで、これらビードコア16に係止されて」いるは、本願発明1の「0.15を超えるタイヤのトレッドの高さとトレッドの最大幅の比である比Ht/Wtによって定められる曲率を有する動力付き二輪車用のタイヤであって、前記タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、前記ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、前記サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体している」との対比において、「曲率を有する動力付き二輪車用のタイヤであって、前記タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、前記ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、前記サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体している」との限度で共通する。
イ 引用発明1は、「トレッドゴム26(トレッド部13)の外表面に周方向に等距離離れた互いに平行な複数のサイプ44が形成され」ているものであり、サイプは切り込みといえるから、引用発明1の、「トレッドゴム26(トレッド部13)の外表面に周方向に等距離離れた互いに平行な複数のサイプ44が形成され」ることは、本願発明1の「前記トレッドは、少なくとも1つの切り込みを有し」ということに相当する。
ウ そして、引用発明1の「サイプ44は、トレッド両端部29に位置し、タイヤ赤道Sに対して90度の傾斜角Aで傾斜した傾斜部46を有し、傾斜部46の周方向断面形状を、周方向断面上において直線状に延在しながら最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜している形状とし」ているところ、引用発明1の「周方向断面」は、本願発明1の「周方向平面」に相当するといえるから、引用発明1の、「サイプ44」の一方の壁は、周方向平面内において、半径方向に対し傾斜して延在している、すなわち、半径方向と角度をなして延在しているといえる。
よって、引用発明1の「サイプ44は、トレッド両端部29に位置し、タイヤ赤道Sに対して90度の傾斜角Aで傾斜した傾斜部46を有し、傾斜部46の周方向断面形状を、周方向断面上において直線状に延在しながら最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜している形状とした」は、本願発明1の「前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、周方向平面内において、半径方向と5°?45°の角度をなし」との対比において、「前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、周方向平面内において、半径方向と角度をなし」の限度で共通する。
エ 以上のとおりであるから、本願発明1と引用発明1との一致点および相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「曲率を有する動力付き二輪車用のタイヤであって、前記タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、前記ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、前記サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体しているタイヤにおいて、
前記トレッドは、少なくとも1つの切り込みを有し、前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、周方向平面内において、半径方向と角度をなしているタイヤ。」
<相違点1>
本願発明1は、「0.15を超えるタイヤのトレッドの高さとトレッドの最大幅の比である比Ht/Wtによって定められる曲率を有する」ものであるのに対し、引用発明1のトレッドの曲率に関しては特定されていない点。
<相違点2>
本願発明1は、「前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部」が、「周方向平面内において、半径方向と5°?45°の角度をなし」ているのに対し、引用発明1の「サイプ44」は、「傾斜部46の周方向断面形状を、周方向断面上において直線状に延在しながら最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜している形状と」と規定されているものの、半径方向との角度については特定されていない点。
<相違点3>
本願発明1は、「第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なって」いるのに対し、引用発明1はそのようには特定されていない点。
<相違点4>
本願発明1は、「半径方向と5°?45°の角度をなす前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の前記少なくとも一部は、接触パッチと接触状態にある」のに対し、引用発明1はそのように特定されていない点。
(2)判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
ア 相違点3に係る本願発明1の「第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なって」いる構成は、原査定で引用された上記引用文献1には記載も示唆もされていない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明1および引用文献1に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1および引用文献1に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。
ウ なお、同じく原査定で引用された上記引用文献4には、「トレッド部にサイプを形成している空気入りタイヤにおいて、サイプの一対の主部を、深くなるに従い相互間距離Lが大となるように半径方向に対してそれぞれ逆方向に傾斜させた技術」が記載されているといえる(【請求項1】、段落【0009】、【0016】、【図2】、参照。)。引用文献4に記載の上記技術の「サイプの一対の主部」は、本願発明1の「切り込みの一方の壁」に相当するといえ、そして、上記引用文献4に記載の技術の「一対の主部」の一方の主部の周方向平面における半径方向とのなす角度と、他方の主部の周方向平面における半径方向とのなす角度は逆方向であり、異なっているといえる。したがって、引用文献4には、本願発明1の「第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なって」いる構成に相当する構成が記載されているともいえる。
しかしながら、引用文献4に記載の上記技術は、トレッド部の摩耗進行に伴い、ブロック剛性のダウンによるロスの発生によりグリップ力の発生を得ることを目的とするものであるのに対し(引用文献4の段落【0006】、【0010】、参照。)、引用発明は、「サイプ44」を、その「傾斜部46の周方向断面形状を、周方向断面上において直線状に延在しながら最深点Dから開口端Kに向かって回転方向後方に傾斜している形状とした」ことによって、陸部の倒れ込みに対し抵抗力を与えることにより陸部の倒れ込みを抑制するもの、すなわち、ブロック剛性を高くすることを目的とするものであるといえ(引用文献1の段落【0012】、【0013】、参照。)、引用文献4に記載の上記技術を引用発明に適用するには阻害要因があるといえる。
したがって、引用文献4に記載の技術を引用発明に適用し、相違点3に係る本願発明1の構成に想到することは当業者であっても容易とはいえない。
また、相違点3に係る本願発明1の構成は、原査定で引用された上記引用文献2および引用文献3にも記載も示唆もされていない。

(2)引用発明2との対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「二輪車用のバイアス構造の空気入りタイヤ10(スノータイヤ)」は、自動二輪車用のタイヤである(引用文献3の段落【0020】)ので、本願発明1の「動力付き二輪車用のタイヤ」ないし「タイヤ」に相当する。
また、引用発明2の「二輪車用の」「空気入りタイヤ10(スノータイヤ)」はバイアス構造であるから、タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有していることは当業者には明らかである。さらに、タイヤの各側にビートを有すること、ビートのベースがリムシートに取付けられるようになっていること、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、当該サイドウォールが半径方向外側向かってトレッドに合体しているも、当業者には明らかである。
したがって、引用発明2の「二輪車用のバイアス構造の空気入りタイヤ10(スノータイヤ)であって」は、本願発明1の「0.15を超えるタイヤのトレッドの高さとトレッドの最大幅の比である比Ht/Wtによって定められる曲率を有する動力付き二輪車用のタイヤであって、前記タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、前記ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、前記サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体しているタイヤにおいて」との対比において、「動力付き二輪車用のタイヤであって、前記タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、前記ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、前記サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体しているタイヤにおいて」との限度で共通する。
イ 引用発明2「サイプ18」は切り込みといえ、また、トレッド12のブロック16に形成されている。したがって、引用発明2の「トレッド12には、タイヤ回転方向(矢印S方向)に対して傾斜する複数の交差する溝14によって、複数のブロック16が形成されており、各ブロック16には、サイプ18が形成されている」は、本願発明1の「前記トレッドは、少なくとも1つの切り込みを有し」に相当する。
ウ 以上のとおりであるから、本願発明1と引用発明2との一致点および相違点は次のとおりである。
<一致点>
「動力付き二輪車用のタイヤであって、前記タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、前記ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、前記サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体しているタイヤにおいて、
前記トレッドは、少なくとも1つの切り込みを有しているタイヤ。」
<相違点A>
本願発明1は、「0.15を超えるタイヤのトレッドの高さとトレッドの最大幅の比である比Ht/Wtによって定められる曲率を有する」ものであるのに対し、引用発明1のトレッドの曲率に関しては特定されていない点。」
<相違点B>
本願発明1は、「前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、周方向平面内において、半径方向と5°?45°の角度をなし、第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なって」いるのに対し、引用発明2のサイプ18の壁の周方向断面形状、すなわち、サイプ18の壁の周方向平面における半径方向となす角度については、そのような特定がされていない点。
(2)判断
事案に鑑み、上記相違点Bについて検討する。
上記1.(2)で説示のとおり、原査定で引用された上記引用文献4には、本願発明1の「第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なって」いる構成に相当する構成が記載されているともいえる。
この、引用文献4に記載の上記技術は、トレッド部の摩耗進行に伴い、ブロック剛性のダウンによるロスの発生によりグリップ力の発生を得ることを目的とするものである(引用文献4の段落【0006】、【0010】、参照。)。一方で、引用文献3には、空気入りタイヤの摩耗についての記載も示唆もないし、また、空気入りタイヤ摩耗時のブロック剛性の変化という課題が当業者にとって自明であるともいえない。したがって、引用文献3に接した当業者が、タイヤ摩耗時にブロック剛性が変化(アップ)するという課題を認識し、引用文献4に記載の技術を適用することによって当該課題を解決しようとすることを容易に想到することができたものとはいえない。
そして、本願発明1は、相違点Bに係る構成を有することにより、モーターバイクにおいて、バイク傾斜時のハンドルバーを介する手応えを変化させることができるという格別の作用効果を奏するものといえる(本願明細書段落【0025】、【0106】、【0114】、参照。)。
したがって、引用文献4に記載の技術を引用発明2に適用し、相違点Bに係る本願発明1の構成に想到することは当業者であっても容易とはいえない。
また、引用文献1、2にも相違点Bに係る本願発明1の構成についての記載も示唆もない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明2、引用文献4および引用文献1、2に記載された技術に基いて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2?10について
本願発明2?9は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明10は本願発明1?9の使用方法の発明であり、本願発明1の「第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なって」いるという相違点3、あるいは、「前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、周方向平面内において、半径方向と5°?45°の角度をなし、第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なって」いるという相違点Bに係る構成を有するものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明1および引用文献1に記載された事項に基いて、あるいは、引用発明1および引用文献1、2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいないし、引用発明2、引用文献4および引用文献1、2に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要および原査定についての判断
原査定は、請求項1?3、5、8?10について上記引用文献1に基いて、また、請求項4、6?7について上記引用文献1および2に基いて、さらに、請求項1?3、5?10については上記引用文献3、4および引用文献1、2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというとともに、請求項5の「前記タイヤの走行方向に向かって傾斜している」との記載は明確でなく、このため、請求項5?10に係る発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するから特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成29年4月18日付け手続補正により補正された請求項1?10は、それぞれ「第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なって」いるという構成を有するものとなっており、上記「第4」のとおり、本願発明1?10は、当業者であっても上記引用文献1に基いて、また、上記引用文献1および2に基いて、さらに、上記引用文献3、4および引用文献1、2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、同じく平成29年4月18日付け手続補正により補正された請求項5は、「前記タイヤの回転方向に向かって傾斜している」と明確な記載となった。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア 請求項1の「0.15を超えるタイヤのトレッドの高さとトレッドの最大幅の比である比Ht/Wt」との記載に関し、「トレッドの高さ」及び「トレッドの最大幅」の定義が不明であることにより、当該記載の意味が不明確である。
イ 請求項1の「前記トレッドは、少なくとも1つの切り込みを有し、前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、周方向平面内において、半径方向と5°?45°の角度をなし、第1の周方向平面内において前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内において前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なっており、少なくとも1つの切り込みの一方の壁の前記少なくとも一部は、少なくとも1つの切り込みの前記壁の浅い部分である」との記載に関し、「浅い部分」との語が指す範囲が不明であることにより、当該記載の意味が不明確である。
ウ 請求項5の「少なくとも1つの切り込みの壁の少なくとも一部は、前記半径方向に対して、半径方向内側に向かって前記タイヤの走行方向に向かって傾斜している」との記載は、「タイヤの走行方向に向かって傾斜している」「切り込み」が、タイヤのどの部分を指すものかによって一意に定まらないから、当該記載の意味が不明確である。
エ 請求項10の「タイヤの使用」はタイヤの使用方法を指すものと解されるところ、「二輪車の前輪に取り付けられるようになった」との記載は、「られる」が可能を表す助動詞であるところ、二輪車の前輪に「取り付けられた」状態以外の状態をも含む意味と解されるが、当該「取り付けられた」状態以外の状態が何を指すものかが不明であるから、当該「タイヤの使用」の意味が不明確なものとなっている。
オ 請求項1又は5を直接的又は間接的に引用する請求項2?10においても、上記「ア?ウ」と同様の理由で、発明が不明確である。
(2)特許法第17条の2第3項について
請求項1において、「半径方向と5°?45°の角度をなす前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の前記少なくとも一部は、前記少なくとも1つの切り込みの前記壁の浅い部分である」との記載を加える補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
2.以上の当審拒絶理由に対し、
(1)上記1.(1)アに関し、二輪車用のタイヤにおいて、「トレッドの高さ」及び「トレッドの最大幅」の定義が当業者において技術常識であることが平成29年4月18日付け提出の意見書において説明された結果、この拒絶理由は解消した。
(2)上記1.(1)イに関し、平成28年4月18日付けの手続補正において、請求項1は、「前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、周方向平面内において、半径方向と5°?45°の角度をなし、第1の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度は、少なくとも1つの第2の周方向平面内の前記トレッドの表面における前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部と半径方向とのなす角度とは異なっており、半径方向と5°?45°の角度をなす前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の前記少なくとも一部は、接触パッチと接触状態にある」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。
(3)上記1.(1)ウに関し、平成29年4月18日付け手続補正により請求項5は、「前記タイヤの回転方向に向かって傾斜している」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。
(4)上記1.(1)エに関し、平成29年4月18日付け手続補正により請求項10は、「二輪車の前輪に取り付けられた」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。
(5)上記1.(1)オに関し、上記(1)?(3)のとおり、この拒絶の理由解消した。
(6)上記1.(2)に関し、請求項1は、「半径方向と5°?45°の角度をなす前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の前記少なくとも一部は、接触パッチと接触状態にある」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1?10は、当業者が引用発明1に基いて、または、引用発明1および引用文献1、2に記載された事項に基いて、あるいは、引用発明2、引用文献4および引用文献1、2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではなく、また、本願発明5?10は明確である。
したがって、原査定の理由および当審で通知した拒絶の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-02 
出願番号 特願2012-552345(P2012-552345)
審決分類 P 1 8・ 55- WY (B60C)
P 1 8・ 537- WY (B60C)
P 1 8・ 121- WY (B60C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 島田 信一
尾崎 和寛
発明の名称 サイプを備えたトレッドを有する二輪車用タイヤ  
代理人 弟子丸 健  
代理人 西島 孝喜  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 西島 孝喜  
代理人 松下 満  
代理人 松下 満  
代理人 弟子丸 健  

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