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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B21J
管理番号 1332801
審判番号 無効2017-800001  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-01-11 
確定日 2017-09-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第4011451号発明「後方押出方法および後方押出装置」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4011451号(以下,「本件特許」という。)についての手続の経緯は,おおむね次のとおりである。
平成14年10月 2日 本件特許に係る出願
平成19年 9月14日 設定登録(特許第4011451号)
平成29年 1月11日 本件無効審判請求書(以下「請求書」と
いう。)提出
平成29年 5月 1日 審判事件答弁書(以下「答弁書」とい
う。)提出
平成29年 5月24日付け 審理事項の通知
平成29年 6月26日 (請求人)口頭審理陳述要領書(以下
「請求人要領書(1)」という。)提出
平成29年 6月26日 (被請求人)口頭審理陳述要領書
(以下「被請求人要領書(1)」とい
う。)提出
平成29年 7月 2日 (被請求人)口頭審理陳述要領書(2)
(以下「被請求人要領書(2)」とい
う。)提出
平成29年 7月10日 (請求人)口頭審理陳述要領書(2)
(以下「請求人要領書(2)」とい
う。)提出
平成29年 7月10日 口頭審理


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明は,特許明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
ダイス穴に挿入されたワーク素材を、前記ダイス穴の内部に設置されたカウンターパンチと前記ダイス穴に進入するパンチとで圧縮して、前記カウンターパンチにより後方押出を行う後方押出方法であって、
前記カウンターパンチの根元部を固定するカウンターパンチホルダーに、前記カウンターパンチの外周面を、周方向で間隔をおいて囲むように配置された複数個のガイド穴を、前記カウンターパンチの軸方向と平行に貫通形成し、
前記ガイド穴にノックアウトピンをスライド可能に貫挿し、
前記ノックアウトピンを前記カウンターパンチと平行に延長して前記カウンターパンチの外周面と前記ダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在させて、前記ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持し、
前記ダイス穴にワーク素材を挿入して前記パンチを進入させるときは、前記ダイス穴の内周面と前記カウンターパンチの外周面の間に押出製品の成形空間を確保するように、前記ノックアウトピンを前記カウンターパンチホルダー側に後退させ、
後方押出が終了して前記ダイス穴から前記パンチが退出した後は、前記ノックアウトピンの先端部を前記ダイス穴から突出させて前記ダイス穴から押出製品を排出するように、前記ノックアウトピンを前進させることを特徴とする後方押出方法。」
(以下,「本件特許発明1」という。)

「【請求項2】
ダイス穴に挿入されたワーク素材を、前記ダイス穴の内部に設置されたカウンターパンチと前記ダイス穴に進入するパンチとで圧縮して、前記カウンターパンチにより後方押出を行う後方押出装置であって、
前記カウンターパンチの根元部を固定するカウンターパンチホルダーに、前記カウンターパンチの外周面を、周方向で間隔をおいて囲むように配置された複数個のガイド穴が、前記カウンターパンチの軸方向と平行に貫通形成されており、
前記ガイド穴にはノックアウトピンがスライド可能に貫挿されており、
前記ノックアウトピンは前記カウンターパンチと平行に延びて前記カウンターパンチの外周面と前記ダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在して、前記ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持しており、
ワーク素材を挿入された前記ダイス穴に前記パンチを進入させるときは、前記ダイス穴の内周面と前記カウンターパンチの外周面の間に押出製品の成形空間を確保するように、前記ノックアウトピンを前記カウンターパンチホルダー側に後退させ、
後方押出が終了して前記ダイス穴から前記パンチが退出した後は、前記ノックアウトピンの先端部を前記ダイス穴から突出させて前記ダイス穴から押出製品を排出するように、前記ノックアウトピンを前進させることを特徴とする後方押出装置。」
(以下,「本件特許発明2」という。)


第3 無効理由,無効理由に対する答弁及び証拠方法

1 請求人主張の無効理由
請求人は,請求書において,本件特許発明1及び2についての特許を無効とする,との審決を求め,以下の無効理由を主張している。

無効理由(特許法第29条第2項)

本件特許発明1及び2は,甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項,並びに,甲第3号証及び甲第5号証に記載された周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

2 無効理由に対する被請求人の答弁
被請求人は,答弁書において,本件審判の請求は成り立たない,との審決を求めている。

3 証拠方法
(1)請求人の証拠方法
請求人は,証拠方法として,審判請求書において以下の甲第1ないし5号証を提出し,請求人要領書(2)において甲第6号証を提出した(以下,各甲号証を「甲1」などという。)。

甲1:特公昭60-6731号公報
甲2:特開平11-123490号公報
甲3:特公平7-41347号公報
甲4:平成29年2月9日付け株式会社ナショナルマシナリーアジア主催
のセミナー「ナショナルマシナリージャパンツールセミナー200
1」の修了証明書発行に関する証明書(株式会社ナショナルマシナ
リーアジア代表取締役,大野元彦作成)
(別紙1):2001年6月22日付け株式会社ナショナルマシナリ
ーアジア主催のセミナー「ナショナルマシナリージャパンツールセ
ミナー2001」修了証明書
(別紙2):2001年6月22日付け株式会社ナショナルマシナリ
ーアジア主催のセミナー「ナショナルマシナリージャパンツールセ
ミナー2001」修了証明書の訳文
甲5:株式会社ナショナルマシナリーアジア主催のセミナー「ナショナル
マシナリージャパンツールセミナー2001」(2001年6月1
8?22日開催)で配布された資料「多段打冷間成形用上級工具設
計法」の表紙,147ページ及び148ページ
(別紙1):平成29年2月9日付け「開示資料に関する証明書」
(株式会社ナショナルマシナリーアジア代表取締役,大野元彦作成)
甲6:甲第5号証147頁に関する参考図面
(平成29年6月29日請求人従業員,大野卓司作成)

(2)被請求人の証拠方法
被請求人は,証拠方法として,答弁書において以下の乙第1及び2号証を提出し,被請求人要領書(1)において乙第3ないし7号証を提出した(以下,各乙号証を「乙1」などという。)。

乙1:新村出編,広辞苑第六版,株式会社岩波書店,2008年1月
11日第一刷発行,中表紙,奥付け及び459ページ
乙2:平成29年4月19日作成の図面(請求人代理人,中村雅典作成)
乙3:平成29年6月24日作成の図面(請求人代理人,中村雅典作成)
乙4:平成29年6月24日作成の図面(請求人代理人,中村雅典作成)
乙5:National Machinery LLCホームページ,“ナショナル社 本社”,
[請求人代理人中村雅典,平成29年6月26日閲覧],インター
ネット
<URL:http://www.nationalmachinery.com/ja/%E5%90%84%E5%9B%BD%E
3%81%AE%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E6%89%80/national-headquarters>
乙6:National Machinery LLCホームページ,“NATIONAL MCHINERY
ASIA(NMA)”,[請求人代理人中村雅典,平成29年6月26日
閲覧],インターネット
<URL:http://www.nationalmachinery.com/ja/%E5%90%84%E5%9B%BD%E
3%81%AE%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E6%89%80/national-machinery-asia>
乙7:大阪精工株式会社ホームページ,“大阪精工株式会社 事業案
内”,[請求人代理人中村雅典,平成29年6月26日閲覧],イ
ンターネット<URL:http://www.osaka-seiko.jp/info/>


第4 当事者の主張

1 請求人の主張

(1)引用発明の説明

ア 甲1におけるダイス14のダイス穴,受台ポンチ14a,ノックアウトピン34,および,パンチ19が本件特許発明におけるダイス穴,カウンターパンチ,ノックアウトピン,および,パンチにそれぞれ相当する。(請求書第12ページ第7-9行を参照。)

イ 甲3には,フランジ部を有する筒状部材の鍛造方法および鍛造装置が開示され,第8図に示されるように,第1パンチ201と側方型部200との間にノックアウトスリーブ217が隙間なく嵌合して介在されている構成が示され,第4ページ第7欄の第27行目?第33行目には「本例の鍛造装置では、第8図に示すように、第2パンチ202および側方型部200が下方に変位し出した状態から、ノックアウトスリーブ217が、第1パンチ201と側方型部200との間に介在するような構造としてある。このように、ノックアウトスリーブ217を介在させることにより、第1パンチ201の図中左右方向へのずれは防止される。」と記載されている。
また,甲5には,スライド式ダイに形成されたダイス穴内にカウンターパンチが同心状に設けられ,ダイス穴に挿入された金属製の円柱素材を図中左側から進入したパンチで押し込んで,カウンターパンチによって円柱素材に穴を後方押出しにより成形する構成が記載され,3本のノックアウトピンが,カウンターパンチを固定するパンチホルダーを貫通してダイス穴内に延伸しており,ダイス穴の内周面とカウンターパンチの外周面との間にノックアウトピンが介在されていることが記載されており,特に,同別紙2中の左下図を参照すると,「成形された穴径」と記載された中央の円形はカウンターパンチの外周に相当するが,これによればカウンターパンチの周囲に3本の円形状のノックアウトピンが周方向に間隔をおいて,かつ,カウンターパンチの外周面に接触して支持している構成が示されている。
以上のことから,甲3および甲5に記載されるように,圧造装置や鍛造装置において,ダイス穴に対するカウンターパンチの軸ずれ(座屈等も含む)を防止するために,スリーブ形状またはピン形状のノックアウト部材をカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面との間にスライド可能に嵌合した状態に配置してカウンターパンチを支持することは本件特許発明の出願日前において周知技術であったと認められる。このことは,本件特許公報の段落0003及び0006の「ノックアウトスリーブ」についての記載からも明らかである。(請求書第13ページ第6行ないし第14ページ最終行を参照。)

(2)ノックピンでカウンターパンチを周囲から支持する相違点について

ア 本件特許発明は,「前記ノックアウトピンを前記カウンターパンチと平行に延長して前記カウンターパンチの外周面と前記ダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在させて、前記ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持」すると規定するのに対し,甲1の発明ではノックアウトピン34が,受台ポンチ14aと平行に延長して受台ポンチ14aの上端部分の外周面とダイス穴の内周面との間に介在されているものの,ノックアウトピン34が受台ポンチ14aの外周面とダイス穴の内周面の間に嵌合してダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持する構成ではない,という点で相違する。
しかし,甲3および甲5に示される周知技術を甲1に適用することによって,当業者が,受台ポンチ14aの軸ずれを防止するために,ノックアウトピン34を受台ポンチ14aの外周面とダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在させて,ダイス穴内で受台ポンチ14aを周囲から支持する構成とすることは容易に想到し得たものである。(請求書第17ページ第23行-第18ページ第8行を参照。)

イ 甲5の第147ページの左下図の3つの円の中の上および左下の円は,その中央の円に外側から接しているが,右下の円は,中央の円から若干離れている。また,第148ページの下図における3つの独立した円は,その直径が中間円環の幅より若干小さく,3つの独立した円は,中間円環の外側の円と接しているが,内側の円とは若干離れている。(請求人要領書(1)第2ページ第1-14行を参照。)

ウ 甲5の第147ページ左下図や第148ページ下図の間隙は非常に小さなものであって,間隙を有することを知らしめるために記載したようには考えられず,特に,この甲5は,セミナーにおいて配布された資料であって,製作図ではないため,図における部材の寸法などが正確である必要はなく,第147ページの左下図における右下の円,第148ページの下図の3つの円が中央の円に接していないのは,単に表記の仕方によるものと考えられ,これをもってノックアウトピンがカウンターパンチに接していないとすることはできない。(請求人要領書(1)第2ページ第15-25行を参照。)

エ 甲5の第147ページの右下図は,左下図の部分的な拡大図と解され,この図において,白抜き部分は,明らかに内側円と外側円に接しているから,ノックアウトピンは,カウンターパンチの外周に接していると考えるのが自然であり,このようなピン(白抜き部分)の形状によれば,ダイス穴の内周面により外側が保持された状態で,内側の円形の頂部がカウンターパンチの外周と3箇所で直線的に接触することになり,カウンターパンチを効果的に支持できることは容易に理解されるので,請求人は,「カンターパンチの外周面に接触している支持している構成が記載されている」と主張している。(請求人要領書(1)第2ページ下から5行-第3ページ第4行を参照。)

オ 甲5において,ノックアウトピンは,カウンターパンチの周囲に120°間隔で配置されおり,第147ページ,第148ページのいずれの図においても,パンチが左から挿入されている状態で,ノックアウトピンが右側からカウンターパンチの周囲に挿入されている。ノックアウトピンはダイス穴の内周面とカウンターパンチの外周面に接触しており,従って軸方向に伸びるカウンターパンチを,同じく軸方向に伸びる3本のノックアウトピンが軸中心位置に保持していると考えられる。
さらに,甲3における,「第2パンチ202押し下げ時 ・・・ 第1パンチ201を図中左右方向にずれさせ」という記載はカウンターパンチの軸ずれに該当し,この甲3では,ノックアウトスリーブ217により軸ずれを解消することが記載されています。このように,カウンターパンチの軸ずれをその周辺に介在させたノックアウトパンチと同様の部材であるノックアウトスリーブによって防止することが明記され,甲1において,「パンチ及びダイスにも無理な力がかからない為曲がりや折損をなくし・・・」との記載は,パンチの軸ずれ,座屈を防止することを意味していることは明らか。
このような点も考慮すれば,甲5において,ダイス穴内周面/3本のノックアウトピン/カウンターパンチ外周面を隙間なく配置構成させる理由は,当該装置においてカウンターパンチの軸ずれを防止する目的と考えられる。(請求人要領書(1)第4ページ第18行-下から2行を参照。)

カ 被請求人は,甲第5号証148ページのノックアウトピンの先端が部品に比べ小さく見え,この部材はカウンターパンチと接触していないと主張しているが,同図において,ノックアウトピンとカウンターパンチとの間に間隙は記載されておらず,少なくとも接触することを排除していない。(請求人要領書(2)第5ページ第22-25行を参照。)

2 被請求人の主張

(1)甲号証記載の技術的事項について

ア 甲1のノックアウトピン34について,スライド可能に貫挿される空間の構造,配置及び形状について何ら説明がなく,請求人も認めるように,甲1の第1図(d)をみると,ノックアウトピン34と受台ポンチ14aの外周面との間には明らかに隙間があいている。当然,ノックアウトピンは受台ポンチの外周面とダイスの内周面との間に嵌合してもいないし,受台ポンチを支持してもいない。
なお,請求人はノックアウトピンが受台ポンチとダイス穴との間に「介在する」と主張するが,「介在」とは物の間に他の物が存在するだけでなく,「間に挟まっていること」を指す(乙1)から,甲1のノックアウトピンは介在していない。(答弁書第5ページ第23行-第6ページ第15行を参照。)

イ 請求人は甲1の第1図を根拠に「2つのノックアウトピン34は,受け台ポンチ14aの周囲に間隔をおいて設けられた少なくとも2つ以上のピン状部材であることは明らかである」と主張しているが,特許図面は当業者が発明内容を理解できる程度であればよく,製作図面のような整合性は要求されない。(答弁書第6ページ第19行-第7ページ第12行を参照。)

ウ 本件効果の「カウンターパンチの座屈を抑制する」と甲1の「パンチ及びダイスの曲りや折損をなくして連続圧造を可能にする」とは,作用効果が全く異なるものであり,甲1の効果は,最終工程f(縮径及び引き伸ばし)によるものであるから,第3工程d(後方押出)とは無関係。(答弁書第7ページ第13行-第8ページ第8行を参照。)

エ 甲2は,けり出し部材14を挿入する案内路13が設けられているが,該案内路13は押出ポンチ12の中途部を固定する下部近傍部分Fに設けられており,下端部分12B(根元部)を固定するポンチホルダ10には設けられていない。このため,収容スペースが必要で,ダイスも上下方向に長く,小型化できない構造となり,本件特許の「ノックアウトスリーブの収容スペース確保のためにカウンターパンチを長くすることが不要で,ダイスの小型化が図れる」という効果を奏することはできず,本件特許の構成要件のガイド穴とは完全に異なる。(答弁書第9ページ第1-17行を参照。)

オ 甲3はノックアウトスリーブを用いるものであり,本件特許の図7や8の従来構造と実質的に同じである。(答弁書第10ページ第12-18行を参照。)

カ 甲3はノックアウトスリーブを用いるものなので,本件特許のようなガイド穴や,ノックアウトピンに相当する部材はなく,したがって,ノックアウトピンがカウンターパンチとダイス穴との間に嵌合(介在)する構成や,ノックアウトピンがダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持する構成もない。(答弁書第10ページ第19-25行を参照。)

キ 請求人は,本件特許の課題解決を,専らダイス穴に対してパンチの同心度を保つことと考えている節が見られ,それも本件特許の課題解決に含まれるものの,本件特許の本来の課題は,「カウンターパンチの長さを短く抑えて,寸法比L/Dの大きい押出製品を製造してもカウンターパンチの座屈が生じにくい」ようにすることである。一方,甲3は,寸法比L/Dの大きい製品のためにはカウンターパンチを長くせざるを得ないものである。(答弁書第10ページ第26行-第11ページ第11行を参照。)

ク 甲5の147ページ左下図に,中央の円形の周囲に3個の円形状が記載されているが,これらの円形状を請求人主張どおりに3本のノックアウトピンであると考えると,全てのノックアウトピンが「部品の肉厚」と記載された円環形状の外周よりも外側に大きくはみ出し,ダイス穴の内周面に大きく食い込むこととなる。また,該左下図は,その上側の図の断面指示線で示す部位を表したものとみられるが,この2つの図を照合すると明らかに齟齬がある。(答弁書第11ページ第14行-第12ページ第3行を参照。)

ケ 甲5の147ページ左下図が,上側図の断面指示線で示す部位だとすると,左下図はカウンターパンチの根元部を固定するカウンターパンチホルダーではなく,上側図のカウンターパンチホルダーの横にある別部材の図であって,本件特許のカウンターパンチホルダーに形成されるガイド穴の配置等の構成が示されていない。
(答弁書第12ページ第8-14行を参照。)

コ 甲5の148ページの下側図は,上側図の断面指示線で示す部位を表すとすると,下側図は,カウンターパンチホルダーの断面ではなく,ダイスの成形穴部分の断面である。したがって,本件特許の構成要件である,カウンターパンチホルダーに形成されるガイド穴は示されていない。(答弁書第13ページ第21-27行を参照。)

(2)ノックピンでカウンターパンチを周囲から支持する相違点について

ア 甲5の147ページ左下図において,請求人が3本のノックアウトピンであると主張する3つの円形状のうち,少なくとも右下に位置する円形状は,請求人がカウンターパンチに該当するという中央の円径との間に隙間があいているので,3本のノックアウトピンがカウンターパンチの外周面に接触して支持しているとの請求人主張は間違いである。
(答弁書第12ページ第15-19行を参照。)

イ 甲5の148ページの下側図において,請求人主張だと中央の円形がカウンターパンチの外周面に相当し,3個の小さな円形がノックアウトピンに相当するようであるが,中央の円形と全部の小さな円形との間には隙間が空いているから,カウンターパンチの外周面と3本すべてのノックアウトピンとの間には隙間があいている。(答弁書第13ページ第1-13行を参照。)

ウ 本件特許の構成要件の「嵌合」は「嵌まり合う」という意味であり,本件特許公報のノックアウトピン34のようにカウンターパンチの外周面とダイスの内周面に沿う形状を想定している。しかし,甲5の148ページ(あるいは147ページ)の丸いノックアウトピンでは,たとえカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面の双方に接触していたとしても,それは単なる線接触であり,嵌合していることにならないし,カウンターパンチを保持する効果も奏し得ない。(答弁書第13ページ第14-20行を参照。)

エ 甲5の147ページの左下図で,たまたま隙間があいているということはあり得ない。147ページの図はCADシステムによる作図であるから,カウンターパンチをKOピンで支持させる意図があれば,同図の右下にある円形状も隙間をあけることなく描けたはずである。(被請求人要領書(1)第3ページ第5-14行を参照。)

オ 請求人は,請求人要領書で甲5の147ページの上図について「カウンターパンチの周面に切り欠きを設け,ここにノックアウトピンが嵌合しているように見え,この構成であっても,カウンターパンチの外周面と,ダイス穴の内周面の間にノックアウトピンが介在している構成であることにかわりない」と述べているが,「ダイス穴」とはあくまでも製品成形用の穴のことであるから,請求人の主張は間違いである。(被請求人要領書(2)第5ページ下から7行-最終行を参照。)


第5 当審の判断

1 本件特許発明1及び2

本件特許発明1及び2は,上記第2の【請求項1】及び【請求項2】に記載されたとおりのものである。

2 甲号証及び引用発明
(1)甲1の記載事項及び引用発明

ア 「連続した金属丸棒材から一定寸法に切断して得られた素材を、パンチとダイスで圧造して段付き中空管状の成形品となす工程であって、前記素材を、第1工程の端面矯正の後に、第2工程で前端面にパンチを突入させて深い凹入孔を形成させると同時に、後端面にはダイス側の底部に突入する突軸で硬皮膜を打ち破った浅い小凹所を形成し、次いで第3工程では前工程で得られた小凹所をダイス底部の受台ポンチで大きく奥深に押広げて、前記素材の前後両端部に中間仕切部を存して大小異径の中空凹入孔を形成し、第4工程で前後両中空凹入孔間の中間仕切部を打抜いて貫通させ、最終工程でその貫通孔にパンチ側より突出するガイド棒を挿入し、それを案内に小径中空孔の外周を絞り出して縮径と同時に引き伸ばすことにより、大径中空部の先端に段を存して長く突出した小径中空孔を一体成形することを特徴とする段付き中空製品の圧造方法。」(第1欄第2ないし19行)

イ 「この発明は、パンチとそれに対応する金型ダイスとで金属素材を圧造して電気又は電子部品、心軸、軸受けメタル・カラー等の段付き中空管軸からなる中空長物製品を多段ホーマを利用して連続的に圧造する方法に関するもので、従来比較的細長の中空製品はホーマで切断した面が予備成形で矯正されても切断面の被断硬度むらが残るために、細孔成形はパンチの曲りや折損が多く不可能とされていたのを、孔の貫通を別加工で行うことなく圧造5工程で容易且つ確実に可能ならしめたものである。」(第2欄第5-15行)

ウ 「第1図は、本発明方法を実施するための装置を示すもので、固定台枠11の前端面に並列固定するように据え付けられた1?5工程の金型ダイス12,13,14,15,16と、それに対応する移動ラム(図示省略)側に設けられたパンチ17,18,19,20,21群、及びダイス側前段に設けられた切断装置22とよりなり、切断工程aでは連続した丸棒線材Wがクイル23の先端口24から突出して先端口に対向位置するストッパー25に当接し、その状態で先端口24を横切るように進退移動する移動カッター26でそれを切断すると短円柱形の素材1が得られる。」(第3欄第8-19行)

エ 「第3工程dでは、前工程で形成された小凹所4にダイス14の底部に長く突出する受台ポンチ14aがパンチ19の叩打時に圧入されて凹所4を大きく押し広げるため端部に深い中空凹入孔6が形成される。前端の凹入孔2は殆んど変わらないが、底部整形されて両端部に相対応する大小異径の中空凹入孔5,6が形成される。それをノックアウトピン34で押し出すと、次にその素材1を第4工程eへ供給してコアー型のパンチ20とダイス15の型孔底部に突出する孔抜きポンチ15aとによって前記両凹入孔5,6の中間仕切部7を打ち抜く。」(第4欄第7-18行)

オ 「本発明は上述の構成からなるものであつて、中間仕切部を打抜いて貫通させた後に、最終工程でその貫通孔にパンチ側より突出するガイド棒を挿入し、それを案内に小径中空孔の外周を絞り出して縮径と同時に引き伸ばすことにより、大径中空部の先端に段を存して長く突出した小径中空部を一体成形するものであるから細くて長い中空貫通孔をドリル穿孔のような別加工による手間をかけないで連続圧造により簡単確実に実施でき、パンチ及びダイスにも無理な力がかゝらない為曲りや折損をなくし、高能率に品質の優れた段付き中空製品を安価に得ることができる。」(第5欄第7行-第6欄第3行)

カ 第1図の(d)には,ダイス14の底部に受台ポンチ14aが突出しており,受台ポンチ14aの両側には,2本のノックアウトピン34が受け台ポンチ14aと平行に配置されており,そのノックアウトピン34の先端部はダイス14内に突出しており,ノックアウトピン34とダイス14内側面との間に隙間が見られない一方で,受台ポンチ14aの下側で拡径している部分を除き,受台ポンチ14aとノックアウトピン34との間に間隙がある事項と,そのようなダイス14の内部にパンチ19が進入している事項が看取される。


キ 上記記載から,甲1には次の発明が記載されている。

(ア)ダイスの内部の素材を,前記ダイスの内部に設置された受台ポンチと前記ダイスの内部に進入するパンチとで圧縮すると,受台ポンチが前記パンチの叩打時に圧入されて前記素材の端部に深い中空凹入孔が形成される方法であって,
前記受台ポンチの外周側であって前記ダイスの内周側に,少なくとも2本のノックアウトピンを前記受け台ポンチと平行に配置し,
前記ノックアウトピンは,底部整形後の前記素材を押し出すものであって,
前記ダイスの内部に前記パンチを進入している際には,前記素材の端部に深い中空凹入孔が形成されるように,前記ノックアウトピンを後退させ,
前記素材の底部整形が行われた後には,前記ノックアウトピンを前進させて,底部整形後の前記素材を押し出す方法(以下,「引用発明1」という。)。

(イ)ダイスの内部の素材を,前記ダイスの内部に設置された受台ポンチと前記ダイスの内部に進入するパンチとで圧縮すると,受台ポンチが前記パンチの叩打時に圧入されて前記素材の端部に深い中空凹入孔が形成される装置であって,
前記受台ポンチの外周側であって前記ダイスの内周側に,少なくとも2本のノックアウトピンを前記受け台ポンチと平行に配置し,
前記ノックアウトピンは,底部整形後の前記素材を押し出すものであって,
前記ダイスの内部に前記パンチを進入している際には,前記素材の端部に深い中空凹入孔が形成されるように,前記ノックアウトピンを後退させ,
前記素材の底部整形が行われた後には,前記ノックアウトピンを前進させて,底部整形後の前記素材を押し出す装置(以下,「引用発明2」という。)。

(2)甲2の記載事項

ア 「【請求項1】 押出しポンチに設けた成形部の近傍部をダイスで直接固定したことを特徴とするカップ状部品成形用鍛造機。
【請求項2】 押出しポンチに設けた成形部の近傍部をダイスで直接固定するとゝもに、該固定部分の少なくとも2箇所に前記押出しポンチの軸心に沿った案内路を形成し、該案内路内にけり出し部材を往復動自在に設置したことを特徴とするカップ状部品成形用鍛造機。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カップ状部品の成形用鍛造機に関し、更に詳しくは、カップ状部品を成形する際に使用する金型であって、その金型を構成する押出しポンチの固定部に特徴を有するカップ状部品成形用の鍛造機に関する。」

ウ 「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明を図1乃至図4に示す実施例により詳細に説明するに、図において、9は上下方向に設置したダイスである。但し、一般的には、このダイス9を上下方向に設置する場合と、90度横方向に寝かせて設置して使用する場合もあり、以下では、上下方向に直立した状態に設置した例により説明する。
【0015】9Aは前記ダイス9の上部位置に形成した所定直径の成形穴で、ダイス9の下部位置にはポンチホルダ10が固定されており、11は前記成形穴9A内に挿入された上下動する押込みポンチである。12は前記ダイス9の中央部に設置した押出しポンチで、その上端に形成した成形部12Aは前記成形穴9A内に突出しており、その直径は前記成形穴9Aの直径より小さく設定されている。従って、前記ダイス9の成形穴9Aの内周面と押出しポンチ12の成形部12Aの外周面との間には円筒形状の空間部が形成されている。
【0016】前記押出しポンチ12は、ダイス9内において前記成形穴9Aと同軸上に設置されており、その下端部分12Bではダイス9に固定された前記ポンチホルダ10に、また成形部12Aの下部近傍部12Cではダイス9の成形穴9Aの下部近傍部分Fにより直接ダイス9にそれぞれ固定されている。すなわち、押出しポンチ12は、成形部12Aの下部近傍部12Cと下端部分12Bとの上下2箇所でダイス9に固定されている。
【0017】ここで、前記ダイス9と押出しポンチ12は相対的に移動しないので、ダイス9と押出しポンチ12との間には隙間を設ける必要はない。したがって本発明においては、ダイス9と押出しポンチ12の両部材を圧入により組み合わせることができ、これにより製作時の加工公差によって生じる隙間に起因するガタ付を防止することができる。
【0018】13は前記ダイス9の成形穴9Aの下部近傍部分Fに設けた案内路で、前記押出しポンチ12の軸心に沿って設けられており、前記押出しポンチ12の外周に沿って等間隔毎に3個所に設けられている。なお、図に示す実施例では、この案内路13は押出しポンチ12の外周側に開口する溝孔で形成してある。
【0019】14は前記案内路(案内溝)13内に挿入したけり出し部材で、図3に示すように、長方形の板材を押出しポンチ12の外径より少し大径な円弧状に湾曲して形成されており、更にその下端部分14Aを前記案内溝13の幅より大きく形成して、けり出し部材14が前記案内溝13内から上方へ飛び出さないようにするためのストッパとしてある。なお、図中、15は前記けり出し部材14を上動させるためのノックアウトピンである。
【0020】ここで、前記案内溝13は少なくとも軸対称位置に2個所以上設ける必要がある。1箇所では加工部品を垂直状態で押し出すことが出来ないので、ダイス9の成形穴9A内で加工部品が傾いて変形したり、或いはダイス9から出た加工部品が傾いてトランスファマシンでうまく運べない等の問題が発生するからである。また、前記案内溝13及びけり出し部材14は、ダイス9の成形穴9Aと押出しポンチ12との同心度には全く無関係なので、寸法公差や仕上げ精度を厳しくする必要はない。」

エ 「【0022】前記の実施例で、押出しポンチ12は、その成形部12Aの下部近傍部12Cと下端部分12Bとの上下2箇所でダイス9に固定されているが、成形部品の寸法や形状によっては、図5に示すように、押出しポンチ12の成形部12Aの下部近傍部12Cから下端部分12Bまでの全ての外周を前記ダイス9により固定する方式を用いることが可能であり、その他の点に付いては前記実施例と同様の構成である。」

オ「【0023】そこで、前記ダイス9の成形穴9A内に入れられた円柱素材は、図1に示すように、押込みポンチ11が下降して圧縮力が加えられると、ダイス9の成形穴9Aと押出しポンチ12の成形部12Aとの空間部に押し出されてカップ状の部品Mに加工される。そして押出し成形後は、図4に示すように、前記押込みポンチ11が上動してダイス9の成形穴9A内から引き抜かれたのち、前記ノックアウトピン15が上動する。このノックアウトピン15の上動に伴ってけり出し部材14も上動し、これによりカップ状部品Mは前記ダイス9の成形穴9Aから外部に排出される。」

カ 「【0024】
【発明の効果】本発明に係るカップ状部品成形用の鍛造機は、上記のように、押出しポンチに設けた成形部の近傍部をダイスで直接固定した構成のものであるから、連続加工においても、ダイスの成形穴に対する押出しポンチの成形部の軸心のふらつきがなくなる。したがって、前記ダイスと押出しポンチとの同心度が常に安定し、内径と外径の同心精度が格段に向上した加工部品を得ることができる。又押出しポンチの前記固定部分の少なくとも2箇所に前記押出しポンチの軸心に沿った案内路を形成し、該案内路内にけり出し部材を往復動自在に設置した構成とすることにより、けり出し部材を高精度に仕上げ加工をする必要がなく、製作コストを大幅に低減することができるとゝもに、鍛造機の耐久性が向上する、といった諸効果がある。」

キ 図1は鍛造機の要部を示す縦断面図が記載されており,II-II線に対応する位置である成形穴の近傍部分Fにおいて押出ポンチ12の成形部の下部近傍部12Cが固定されており,前記下部近傍部12Cの右側に案内路13が設けられてけり出し部材14が配置されている事項と,押出ポンチの下端部分12Bの周囲にポンチホルダ10があり,前記下端部分12Bの右側にノックアウトピン15が配置されている事項が看取される。また,このとき,けり出し部材14の上端は成形穴の近傍部分Fにあって,カップ状部品Mの成形空間が確保されていることも看取できる。

【図1】


ク 図2は図1におけるII-II線拡大断面図であり,押出ポンチ12の周囲に3つの穴である案内路13が取り囲んでおり,その案内路の中にけり出し部材14があることが看取される。また,破線にて,ポンチホルダ10,けり出し部材の下端部分14A,ノックアウトピン15についても示されている。

【図2】


ケ 図3はけり出し部材の斜視図であって,下端部が幅広になっている板状のけり出し部材14と,円柱状のノックアウトピン15とが看取される。

【図3】


コ 図4は鍛造機の動作説明図であって,ノックアウトピン15の上端が成形穴の近傍部分F近くまで達しており,その上にけり出し部材14が成形穴9Aから突出するように存在しており,ノックアウトピン15の上動によって,けり出し部材14もスライドしてカップ状部品Mが排出されている事項が看取される。また,このとき,けり出し部材14は,押出ポンチ12の成形部12Aの外周面とダイス9の成形穴9Aの内周面との空間内に位置している事項も看取される。

【図4】


サ 図5は他実施例の鍛造機の要部を示す縦断面図であって,押出しポンチ12の下部近傍部12Cから下端部分12Bまでの全ての外周をダイス9で固定し,その周囲に案内路13及びけり出し部材14を配置している事項が看取される。

【図5】


シ 以上のことから,甲2には次の技術的事項が記載されている。

ダイスの成形穴内に入れられた円柱素材を,押込みポンチを下降させて圧縮力を加えると,前記ダイスの前記成形穴と,前記ダイス内において前記成形穴と同軸上に設置された押出しポンチの成形部と,の空間部に押し出されることでカップ状の部品の加工を行う技術であって,
前記押出しポンチは,その下端部分をポンチホルダに,さらに,前記成形部の下部近傍部を直接ダイスに,それぞれ固定されているか,前記下端部分から前記下部近傍部にかけての全ての外周をダイスに固定されているか,しているものであって,前記押出しポンチの外周に沿って等間隔に3箇所配置され,押出しポンチの外周側に開口する溝孔である案内路を,前記押出しポンチの軸心に沿って形成し,
前記案内路にけり出し部材をスライド可能に挿入し,
前記けり出し部材は,前記押出しポンチの前記成形部の外周面と前記ダイスの前記成形穴の内周面との間に位置させることが可能なものであって,
前記ダイスの成形穴内に円柱素材を入れ,押込みポンチが下降して圧縮力が加えられる時には,ダイスの成形穴と押出しポンチの成形部との空間部を確保するように,前記けり出し部材を前記押出しポンチの前記下端部分方向に後退させ,
押出し成形後は,前記押込みポンチが上動してダイスの成形穴内から引き抜かれたのち,けり出し部材の上端部を前記成形穴から突出させて前記成型穴からカップ状製品を排出するように,前記けり出し部材を上動させる加工技術において,
押出しポンチに設けた成形部の近傍部をダイスで直接固定した構成とすることで連続加工においても,ダイスの成形穴に対する押出しポンチの成形部の軸心のふらつきがなくなり,前記ダイスと押出しポンチとの同心度が常に安定するようにしたものであって,前記案内溝及びけり出し部材は,ダイスの成形穴と押出しポンチの同心度には全く無関係なので,厳しい寸法公差や仕上げ精度を要さないものである技術。

(3)甲3の記載事項

ア 「〔産業上の利用分野〕
本発明は、外周部にフランジを有するカップ状の金属部材を成形する鍛造方法及びその方法に用いる鍛造方法に関する。本発明により製造される鍛造部材は、例えばプーリ等に利用できる。」(第3欄第14-18行)

イ 「第5図は、このノックアウトスリーブ217が鍛造開始時には側方型部200と第1パンチ201との間に介在しておらず、鍛造工程が所定以上進行した状態で、第1パンチ201と側方型部200との間にノックアウトスリーブ217が介在するようにした鍛造装置を示す。
しかしながら、このような構造とした鍛造装置では、第6図中X_(1),X_(2)に示すように、出来上がった製品に肉厚のばらつきが生ずることが認められた。なお、X_(1)は第9図で示す鍛造終了後の製品の外周部X_(1)での肉厚のばらつきを示す。また、X_(2)は第9図で示す鍛造製品の内周面x_(2)の肉厚のばらつきを示す。
これは、第2パンチ202が押し下げられる際に、第7図に示すように図中左右方向のモーメントが発生するためであると考えられる。この、第2パンチ202押し下げ時に発生する左右方向のモーメントが、金属塊100および第1パンチ201を図中左右方向にずれさせ、その結果、鍛造製品の肉厚にばらつきが生ずるものと認められる。」(第7欄第10-26行)

ウ 「そこで、本例の鍛造装置では、第8図に示すように、第2パンチ202および側方型部200が下方に変位し出した状態から、ノックアウトスリーブ217が、第1パンチ201と側方型部200との間に介在するような構造としてある。このように、ノックアウトスリーブ217を介在させることにより、第1パンチ201の図中左右方向へのずれは防止される。なお、ノックアウトスリーブ217は、変形された金属塊100の金属組織により、図中下方に押し下げられる。
第2パンチ202は、第3図で示す所定の位置まで押し下げられた後、図示しない装置の駆動力により図中上方向へ引き上げられる。この引き上げられた状態では、加工された鍛造製品100は、第1パンチ201と側方型部200との間に保持されている。
次いで、ノックアウトスリーブ217により、鍛造製品100が第1パンチ201および側方型部200内より押し上げられる。その後、図示しない搬出装置により、鍛造製品100は鍛造装置より取り出され、次工程へ搬出される。」(第7欄第27-35行)

エ 第5図はノックアウトスリーブ部分の説明に用いられる図であり,左半分は第2パンチ202に対応する部分が上方にあり,金属塊100に対応する部分の周囲に部分的に間隙がある事項が看取される。また,右半分は第2パンチ202に対応する部分が下方にあるとともに,第2パンチ,ダイ200,第1パンチ201に囲まれた領域で金属塊100が変形している事項が看取される。加えて,左右いずれにおいても,ノックアウトスリーブ217は同位置にある事項が看取される。

【第5図】


オ 第8図はノックアウトスリーブにつき改良を施した鍛造装置を示す断面図であり,左半分ではノックアウトスリーブ217の上端が,第1パンチ201の上端であって,金属塊100に対応する部材の下端に位置している事項が看取される。また,右半分には第5図の右半分と同様の図であって,ノックアウトスリーブ217が下方に後退している図が看取される。

【第8図】


カ 以上のことから,甲3には次の技術的事項が記載されている。

カップ状の金属部材を成形する鍛造技術において,第2パンチ押し下げ時に発生する左右方向のモーメントが,金属塊および第1パンチを左右方向にずれさせることを防止するために,第2パンチおよび側方型部が下方に変位し出した状態から,ノックアウトスリーブが,第1パンチと側方型部との間に介在させておき,ノックアウトスリーブは,第2パンチ押し下げ時に変形された金属塊の金属組織により,下方に押し下げられるようにした技術。

(4)甲5の記載事項

ア 甲5の147と右下に記載されたページ(以下「甲5の第147ページ」という。)には,「3本KOピン付スライド式ダイで後方押出し」と記載され,中央と,左下及び右下に合わせて3つの図が看取される。

(ア)甲5の第147ページ中央の図では,左側から進入するパンチ,当該パンチの右側に少し間隙を開けた位置から,パンチよりも少し細く,右側に伸びるカウンターパンチ,当該パンチの右端及びカウンターパンチの左側を上下から挟むように配置されたダイとが看取される。また,パンチ,カウンターパンチ及びダイとの間の空間は部品に対応し,部品右側のカウンターパンチ上側には,すこし隙間があって,ノックアウトピンと思われる棒状の部材が右側に伸びている事項が看取され,その途中には断面位置を示すと見られる矢印が看取される。

甲5の第147ページ中央の図


(イ)甲5の第147ページ左下の図では,3つの同心円があり,その3つの同心円のうちの最も小さな円の外側に,3つの円が配置されている事項が看取される。3つの同心円のうちの最も小さな円は,「成形された穴径」と付された下からの矢印で指し示されている。同心円のうちの最も小さな円と2番目の大きさの円とで形成される円環を挟む矢印には「部品の肉厚」と付されている。加えて,3つの同心円のうちの最も小さな円と,その外周にある円のうち,右下に存在する円との間は,わずかに隙間があいている点も看取できる。

甲5の第147ページ左下の図


(ウ)甲5の第147ページ右下の図には,「特別に形状を部品に合わせたピンは丸ピンに比べ,大きな断面積を確保できます。」と記載され,上向きに凸で曲率が異なり,上下に並べられた2つの円弧の間に下向きに凸の略半円が配置され,その中に円が配置されている事項と,下側の円弧,略半円及び円の3つが接している点と,当該円は上方で上側の円弧とも接している点が看取できる。

甲5の第147ページ右下の図


イ 甲5の148と右下に記載されたページ(以下「甲5の第148ページ」という。)には,「3本KOピン付固定ダイで後方押出し」と記載され,中央と,下に合わせて2つの図が看取される。

(ア)甲5の第148ページ中央の図には,左側から進入するパンチ,当該パンチの右側に少し間隙を開けた位置から,パンチよりも少し細く,右側に伸びるカウンターパンチ,当該パンチの右端及びカウンターパンチの左側を上下から挟むように配置されたダイとが看取される。また,パンチ,カウンターパンチ及びダイとの間の空間は部品に対応し,部品右側のカウンターパンチ上側には,すこし隙間があって,ノックアウトピンと思われる棒状の部材が右側に伸びている事項が看取される。加えて,部品の存在する位置には断面位置を示すと見られる矢印が看取される。

甲5の第148ページ中央の図


(イ)甲5の第148ページ下の図には,3つの同心円があり,その3つの同心円のうちの最も小さな円と2番目との円とで形成される円環は,「部品の壁肉厚」と付された矢印で挟まれており,当該円環の中に,3つの円が配置されている事項が看取される。3つの同心円のうちの最も小さな円は,「成形された穴」と付された矢印で指し示されている。加えて,円環の中の3つの円のそれぞれは,3つの同心円のうちの最も小さな円との間に,わずかに隙間があいている点も看取できる。

甲5の第148ページ下の図


3 対比

(1)本件特許発明1
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると,引用発明1の「ダイスの内部」及び「受台ポンチ」は本件特許発明1の「ダイス穴」及び「カウンターパンチ」に相当する。引用発明1の「受台ポンチが前記パンチの叩打時に圧入されて前記素材の端部に深い中空凹入孔が形成される方法」という事項は,本件特許発明1の「カウンターパンチにより後方押出を行う後方押出方法」に相当する。
また,引用発明1の「前記受台ポンチの外周側であって前記ダイスの内周側に,少なくとも2本のノックアウトピンを前記受け台ポンチと平行に配置」するという事項は,本件特許発明1の「前記ノックアウトピンを前記カウンターパンチと平行に延長して前記カウンターパンチの外周面と前記ダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在させて,前記ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持」するという事項と対比して,「ノックアウトピンをカウンターパンチと平行に延長して前記カウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面の間に配置」させるという点で一致する。

さらに,引用発明1の「ダイスの内部にパンチを進入している際には,素材の端部に深い中空凹入孔が形成されるように,ノックアウトピンを後退させ」る事項及び「素材の底部整形が行われた後には,ノックアウトピンを前進させて,底部整形後の前記素材を押し出す」事項はそれぞれ,本件特許発明1の「ダイス穴にワーク素材を挿入してパンチを進入させるときは,ダイス穴の内周面とカウンターパンチの外周面の間に押出製品の成形空間を確保するように,ノックアウトピンをカウンターパンチホルダー側に後退させ」る事項及び「後方押出が終了してダイス穴からパンチが退出した後は,ノックアウトピンの先端部をダイス穴から突出させてダイス穴から押出製品を排出するように,ノックアウトピンを前進させる」事項に相当する。

したがって,本件特許発明1と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
ダイス穴に挿入されたワーク素材を,前記ダイス穴の内部に設置されたカウンターパンチと前記ダイス穴に進入するパンチとで圧縮して,前記カウンターパンチにより後方押出を行う後方押出方法であって,
ノックアウトピンをカウンターパンチと平行に延長して前記カウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面の間に配置させ,
前記ダイス穴にワーク素材を挿入して前記パンチを進入させるときは,前記ダイス穴の内周面と前記カウンターパンチの外周面の間に押出製品の成形空間を確保するように,前記ノックアウトピンを前記カウンターパンチホルダー側に後退させ,
後方押出が終了して前記ダイス穴から前記パンチが退出した後は,前記ノックアウトピンの先端部を前記ダイス穴から突出させて前記ダイス穴から押出製品を排出するように,前記ノックアウトピンを前進させる後方押出方法。

<相違点1>
本件特許発明1は「前記カウンターパンチの根元部を固定するカウンターパンチホルダーに,前記カウンターパンチの外周面を,周方向で間隔をおいて囲むように配置された複数個のガイド穴を,前記カウンターパンチの軸方向と平行に貫通形成し,
前記ガイド穴にノックアウトピンをスライド可能に貫挿し」ているものであるのに対し,引用発明1は「カウンターパンチの根元部の具体的な構成が明らかでないため,カウンターパンチホルダーに,前記カウンターパンチの外周面を,周方向で間隔をおいて囲むように配置された複数個のガイド穴」を有しているかどうかが明らかでなく,そのため,ガイド穴を「前記カウンターパンチの軸方向と平行に貫通形成」する事項や「ガイド穴にノックアウトピンをスライド可能に貫挿」する事項についても明らかでない点。

<相違点2>
本件特許発明1は「前記ノックアウトピンを前記カウンターパンチと平行に延長して前記カウンターパンチの外周面と前記ダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在させて,前記ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持」するものであるのに対し,引用発明1は上記2(1)カのとおりノックアウトピンとカウンターパンチとの間に隙間が生じているものであって,「ノックアウトピンをカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在させて,ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持する」というものではない点。

(2)本件特許発明2
本件特許発明2は,本件特許発明1と実質的にカテゴリのみが相違する発明であるから,引用発明1とカテゴリのみが相違する引用発明2と対比すると,一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
ダイス穴に挿入されたワーク素材を,前記ダイス穴の内部に設置されたカウンターパンチと前記ダイス穴に進入するパンチとで圧縮して,前記カウンターパンチにより後方押出を行う後方押出装置であって,
ノックアウトピンはカウンターパンチと平行に延びて前記カウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面の間に配置しており,
ワーク素材を挿入された前記ダイス穴に前記パンチを進入させるときは,前記ダイス穴の内周面と前記カウンターパンチの外周面の間に押出製品の成形空間を確保するように,前記ノックアウトピンを前記カウンターパンチホルダー側に後退させ,
後方押出が終了して前記ダイス穴から前記パンチが退出した後は,前記ノックアウトピンの先端部を前記ダイス穴から突出させて前記ダイス穴から押出製品を排出するように,前記ノックアウトピンを前進させる後方押出装置。

<相違点3>
本件特許発明2は「前記カウンターパンチの根元部を固定するカウンターパンチホルダーに,前記カウンターパンチの外周面を,周方向で間隔をおいて囲むように配置された複数個のガイド穴が,前記カウンターパンチの軸方向と平行に貫通形成されており,
前記ガイド穴にはノックアウトピンがスライド可能に貫挿されて」いるものであるのに対し,引用発明2は「カウンターパンチの根元部の具体的な構成が明らかでないため,カウンターパンチホルダーに,前記カウンターパンチの外周面を,周方向で間隔をおいて囲むように配置された複数個のガイド穴」を有しているかどうかが明らかでなく,そのため,ガイド穴が「前記カウンターパンチの軸方向と平行に貫通形成されて」いる事項や「ガイド穴にはノックアウトピンをスライド可能に貫挿されて」いる事項についても明らかでない点。

<相違点4>
本件特許発明2は「前記ノックアウトピンは前記カウンターパンチと平行に延びて前記カウンターパンチの外周面と前記ダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在して,前記ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持して」いるものであるのに対し,引用発明2は上記2(1)カのとおりノックアウトピンとカウンターパンチとの間に隙間が生じているものであって,「ノックアウトピンはカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在して,ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持して」いるものではない点。

4 判断

(1)本件特許発明1
ア 相違点1について

(ア)相違点1の検討にあたり,引用発明1を当業者が具現化した場合に,カウンターパンチがどのように固定されることになるか,について検討する。

甲1の第1図(d)によると,カウンターパンチ14aの略上半分に相当する,ダイ14に対応する部分では,素材の成形を行うために空間を設けておく必要があるから,カウンターパンチ上方では固定されていないことは明らかである。

そのため,引用発明1のカウンターパンチ14aは下方のいずれかで固定されることになる。ここで,甲1の第1図(d)には,ダイ14よりも下方で,カウンターパンチ14aの下半分に相当する部分では,ダイ14と異なるハッチングがなされた別部材がカウンターパンチ14aの周囲に存在しており,また,カウンターパンチ14aの根元部分が拡径していることと併せて考えると,カウンターパンチ14aの略下半分の周囲にある部材はカウンターパンチホルダーであって,少なくともカウンターパンチ14aの根元部分でカウンターパンチを固定しているものと推認される。

なお,このカウンターパンチの根元をカウンターパンチで保持する構造は,甲2の図1において,カウンターパンチに相当する押出しポンチ12の下端部分12Bを,カウンターパンチホルダーに相当するポンチホルダ10が保持している構造や,甲2で従来の鍛造機としている図7において,押出しポンチ1の根元をポンチホルダ3が保持している構造とも同じであり,一般的な構造であるといえる。

そうすると,甲1の第1図(d)を参考に引用発明1を当業者が具現化した場合,カウンターパンチの保持構造は,カウンターパンチの少なくとも根元部をカウンターパンチホルダーで固定するものになるといえる。

(イ)次に,引用発明1のカウンターパンチホルダーがカウンターパンチの根元を固定するものであった場合に,ガイド穴がどのようになるかを検討する。

甲1の第1図(d)によると,少なくとも2本のノックアウトピン34がカウンターパンチ14aの根元部分の周囲を上下に貫いていることから,引用発明1のカウンターパンチの根元部を固定するカウンターパンチホルダーには,ノックアウトピンを通すための上下方向の貫通孔があいているものといえるし,ノックアウトピンがカウンターパンチの軸方向と平行に配置されてスライド可能なものであるから,ノックアウトピンに対応した当該貫通孔もカウンターパンチの軸方向と平行に貫通形成されたものとなる。

したがって,上記相違点1は,甲1の第1図(d)を参照して当業者が一般的な手法で具現化した際に,引用発明1に必然的に備わる事項であって,実質的な相違点とはいえない。

イ 相違点2について

(ア)甲2に記載された技術的事項は,上記2(2)シのとおりであって,「前記押出しポンチの外周に沿って等間隔に3箇所配置され,押出しポンチの外周側に開口する溝孔である案内路を,前記押出しポンチの軸心に沿って形成し,前記案内路にけり出し部材をスライド可能に挿入し」ている事項を有するものであって,ここで「押出しポンチ」,「案内路」及び「けり出し部材」はそれぞれ,本件特許発明1の「カウンターパンチ」,「ガイド穴」及び「ノックアウトピン」に相当するものであるから,甲2も「ノックアウトピンをカウンターパンチと平行に延長して前記カウンターパンチの外周面と前記ダイス穴の内周面の間に配置」しているものであるとはいえる。
しかしながら,甲2は「前記案内溝及びけり出し部材は,ダイスの成形穴と押出しポンチの同心度には全く無関係なので,厳しい寸法公差や仕上げ精度を要さない」ものでもあるから,甲2の技術は「ノックアウトピンをカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面の間に嵌合するように介在させている」とはいえず「ダイス穴内でカウンターパンチを周囲から支持」するものでもない。

(イ)甲3に記載された技術的事項は,上記2(3)カのとおりであって「カップ状の金属部材を成形する鍛造技術において,第2パンチ押し下げ時に発生する左右方向のモーメントが,金属塊および第1パンチを左右方向にずれさせることを防止するために,第2パンチおよび側方型部が下方に変位し出した状態から,ノックアウトスリーブが,第1パンチと側方型部との間に介在させておき,ノックアウトスリーブは,第2パンチ押し下げ時に変形された金属塊の金属組織により,下方に押し下げられるようにした技術」である。
ここで,「第1パンチ」,「第2パンチ」,「金属塊」及び「側方型部」はそれぞれ,本件特許発明1における「カウンターパンチ」,「ダイス穴に進入するパンチ」,「ワーク素材」,「ダイス」に相当するものであるが,甲3の技術は製品の排出に「ノックアウトスリーブ」を用いるものであって「ノックアウトピン」を用いるものではない。

そして,引用発明1は「ノックアウトピン」によって製品の排出を行うものであり,甲1には,カウンターパンチのずれが課題である旨の言及がないことから,引用発明1には,「ノックアウトスリーブ」を用いてカウンターパンチ(第1パンチ)のずれを防止する甲3の技術的事項を適用する動機が存在しない。

仮に,カウンターパンチのずれを防止する,という課題は当業者にとって周知の課題であって,引用発明1にも内在する課題であるとし,引用発明1に甲3の技術的事項を適用する動機があるとしても,甲3の技術的事項は「ノックアウトスリーブ」を用いるものである。そして,上記2(1)カのとおり,引用発明1はノックアウトピンとカウンターパンチとの間に隙間が生じているものであるし,上記2(2)ウの段落【0020】のとおり,甲2においてノックアウトピンに相当するけり出し部材もカウンターパンチに相当する押出しポンチとの同心度には全く無関係であり,寸法公差や仕上げ精度を要しないものである,という事項からも推認されるように,ノックアウトピンはカウンターパンチとの間に隙間を生じさせることを許容し,カウンターパンチの軸ずれを抑制する手段ではない。

そうすると,引用発明1がカウンターパンチの軸ずれを目的として甲3の技術的事項を適用した場合,引用発明1のノックアウトピンに換えてノックアウトスリーブを用いた構成,すなわち本件特許明細書の【図7】で従来技術として示される構成において,パンチ進入時にノックアウトスリーブを成形空間に進出させる方法になるといえるから,相違点2を備えたものとはならない。

(ウ)甲5の第147ページの図には,スライド式ダイで後方押出しする技術が開示されているといえ,スライド可能なノックアウトピンがカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面に存在し得ることは看取できる。しかしながら,当該図面にそれ以上の説明はなく,中央図の矢印位置から考えると,左下図はカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面で製品が形成される成形空間の位置ではない。
また,当該図面は設計図面ではなく,セミナーでの説明資料であるため,セミナーで説明したい部分以外については図が精密に記載されているかは不明であるところ,当該図面にはノックアウトピンとカウンターパンチとの接触や支持に関して文章での説明もみられないから,当該図面はノックアウトピンとカウンターパンチとが接触しているかどうかまでは,意図せずに作成されたものであるとみるのが自然である。
そうすると,仮に左下図から,製品の成形空間部分の断面もこの左下図と同様であると類推し,中央の最も小さな円がカウンターパンチであって,その周囲に配置された3つの円のうちで,「部品の肉厚」に相当する円環内がノックアウトピンであるとまで推測を重ねたとしても,ノックアウトピンとカウンターパンチとが接しているという根拠になるとまではいえない。そうすると,同ページの図面から,ノックアウトピンがカウンターパンチを支持しているとは認定できない。
さらに付言すると,仮に当該図面が正確なものであったとしても,その場合には,中央の小さな円の周囲に配置された3つの円のうち,少なくとも右下の円は中央の小さな円との間に隙間が生じているのであって,それは上記(イ)で言及した「ノックアウトピンはカウンターパンチとの間に隙間を生じさせることを許容し,カウンターパンチの軸ずれを抑制する手段ではない」という事項の裏付けにしかならない。

(エ)甲5の第148ページの図には,固定ダイで後方押出しする技術が開示されており,その下図は,中央の図の矢印位置,すなわち,製品の成形空間と重なる位置での断面図と考えられるから,スライド可能なノックアウトピンがカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面に存在し得ることは看取できる。しかしながら,上記(ウ)で述べたように,当該図面は設計図面ではないから,ノックアウトピンとカウンターパンチとの接触有無について説明する資料とはいえないところ,この図をもって,ノックアウトピンとカウンターパンチとが接しているという根拠にはならない。そうすると,同ページの図面から,ノックアウトピンがカウンターパンチを支持しているとは認定できない。

(オ)上記(イ)から(エ)のとおり,甲3及び甲5には「ノックアウトピンがカウンターパンチを支持している」という事項は開示されていない。また,上記(イ)の「ノックアウトスリーブによるカウンターパンチのずれ防止」を「ノックアウトピン」でも同様に行い得るかどうかはなんら記載がなく,ノックアウトスリーブとノックアウトピンとはともに製品の排出に用いるという同一の機能を有しているとはいえ,パンチが進入するときの「カウンターパンチのずれ防止」という製品排出とは異なる時の異なる機能についての検討でもノックアウトスリーブとノックアウトピンとを同一視する理由はなく,ノックアウトピンを用いる甲2ではノックアウトピンに高い精度が不要としている点に鑑みても,甲3及び甲5からでは「圧造装置や鍛造装置において,ダイス穴に対するカウンターパンチの軸ずれを防止するために,スリーブ形状またはピン形状のノックアウト部材をカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面との間にスライド可能に嵌合した状態に配置してカウンターパンチを支持すること」のうち,少なくとも「ピン形状のノックアウト部材をカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面との間にスライド可能に嵌合した状態に配置してカウンターパンチを支持すること」が周知技術であるとはいえない。
また,当該事項が周知技術であると認めるに足る事項は,他の甲号証にも記載されていない。

(カ)請求人は,上記第4の1(1)イで「圧造装置や鍛造装置において,ダイス穴に対するカウンターパンチの軸ずれ(座屈等も含む)を防止するために,スリーブ形状またはピン形状のノックアウト部材をカウンターパンチの外周面とダイス穴の内周面との間にスライド可能に嵌合した状態に配置してカウンターパンチを支持することは本件特許発明の出願日前において周知技術であったと認められる。」と主張しているが,少なくとも「ピン形状のノックアウト部材」に関して当該事項が周知技術とはいえないことは,上記(オ)のとおりであるから,当該主張は採用できない。また,当該事項が周知技術であることを前提とした,上記第4の1(2)アの主張も,その前提を欠くこととなるから採用できない。

(キ)請求人は,上記第4の1(2)イにおいて,甲5の第147ページの左下図及び第148ページの下図のそれぞれにおいて,中央の円とその円に外側から接する独立した円の少なくとも1つとの間に隙間が存在することで接していない円が看取されることを認めた上で,上記第4の1(2)ウにおいて,これらの図面は,セミナーにおいて配布された資料であって,製作図ではないため,図における部材の寸法などが正確である必要はなく,ノックアウトピンがカウンターパンチに接していないとすることはできないと主張する一方で,上記第4の1(2)エにおいて,甲5の第147ページの右下図の内側円と外側円に接していることから,ノックアウトピンがカウンターパンチに接していると主張している。
しかしながら,図における部材の寸法などが正確でなく,図において隙間があっても「接していないとすることはできない」のであれば,図において接していても「隙間がないとすることはできない」のであって,これらの図からは「接しているかどうか」が認定できないといわざるを得ない。
また,上記第4の1(2)ウで主張された「接していないとすることはできない」という事項は,「接している」と断言できることを意味するものでもない。
そうすると,上記第4の1(2)エの主張は採用できない。

(ク)請求人は,上記第4の1(2)オにおいて「甲5において,ノックアウトピンは,カウンターパンチの周囲に120°間隔で配置されおり,第147ページ,第148ページのいずれの図においても,パンチが左から挿入されている状態で,ノックアウトピンが右側からカウンターパンチの周囲に挿入されている。ノックアウトピンはダイス穴の内周面とカウンターパンチの外周面に接触しており」と主張しているが,「ノックアウトピンはダイス穴の内周面とカウンターパンチの外周面に接触」しているかどうかが甲5から認定できないのは,上記(キ)のとおりである。このため,同じく上記第4の1(2)オにおいて主張している「甲5において,ダイス穴内周面/3本のノックアウトピン/カウンターパンチ外周面を隙間なく配置構成させる理由,当該装置においてカウンターパンチの軸ずれを防止する目的と考えられる。」については,甲5が「ダイス穴内周面/3本のノックアウトピン/カウンターパンチ外周面を隙間なく配置構成」しているものとは認められないことから,その前提を欠く。
そうすると,上記第4の1(2)オの主張は採用できない。

(ケ)請求人は,上記第4の1(2)カにおいて「被請求人は,甲第5号証148ページのノックアウトピンの先端が部品に比べ小さく見え,この部材はカウンターパンチと接触していないと主張しているが,同図において,ノックアウトピンとカウンターパンチとの間に間隙は記載されておらず,少なくとも接触することを排除していない。」と主張しているが,同図は接触の有無が判断できるものではなく,請求人の当該主張は「ノックアウトピンとカウンターパンチと」が接触している,と断定できる根拠でないことは,上記(キ)のとおりである。

(コ)以上のことから,上記相違点2を含む本件特許発明1は,引用発明1及び甲2並びに甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明でも,引用発明1及び甲2並びに甲5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明でもなく,引用発明1及び甲2に記載された技術的事項並びに甲3及び甲5に記載された周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た発明でもない。

ウ したがって,本件特許発明1は,甲1に記載された発明及び甲2並びに甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明でも,甲1に記載された発明及び甲2並びに甲5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明でもなく,甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項並びに甲3及び甲5に記載された周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た発明でもない。

(2)本件特許発明2
本件特許発明2は,本件特許発明1と実質的にカテゴリのみが相違する発明であり,相違点3は相違点1と,相違点4は相違点2と,それぞれ同等のものであるから,上記(1)において判断したとおり,上記相違点3については実質的な相違点といえないものの,上記相違点4を含む本件特許発明2は,引用発明2及び甲2並びに甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明でも,引用発明2及び甲2並びに甲5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明でもなく,引用発明2及び甲2に記載された技術的事項並びに甲3及び甲5に記載された周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た発明でもない。
したがって,本件特許発明2は,甲1に記載された発明及び甲2並びに甲3に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明でも,甲1に記載された発明及び甲2並びに甲5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得た発明でもなく,甲1に記載された発明及び甲2に記載された技術的事項並びに甲3及び甲5に記載された周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得た発明でもない。


第6 むすび

以上のとおりであるから,請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-25 
結審通知日 2017-07-27 
審決日 2017-08-08 
出願番号 特願2002-289556(P2002-289556)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B21J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩瀬 昌治  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 長清 吉範
栗田 雅弘
登録日 2007-09-14 
登録番号 特許第4011451号(P4011451)
発明の名称 後方押出方法および後方押出装置  
代理人 中村 雅典  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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