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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16C
管理番号 1332814
審判番号 不服2017-1761  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-06 
確定日 2017-10-20 
事件の表示 特願2012-39871「電食防止装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年9月5日出願公開、特開2013-174326、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月27日の出願であって、平成27年8月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月14日に手続補正がされ、平成28年3月24日付けで拒絶理由が通知され、同年5月26日に手続補正がされ、同年10月28日付け(発送日:11月4日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成29年2月6日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
1 請求項1-2
引用文献1(全文、全図を参照。)には、モータ、回転軸としてのスピンドル軸11、導電体としての鋼球19、除電部材としてのアースカーボン15、アース線としてのワイヤー17、及び、図面から認められる凹部としてのドリル孔最深部が円錐状のくぼみ20からなる電食防止装置としてのスピンドルアース部7が記載されている。
本願の請求項1-2に係る発明と引用文献1(全文、全図を参照。)に記載された発明とを比較すると、両者は以下の点で相違し、残余の点で一致する。
本願の請求項1に係る発明では、「・・・、前記除電部材は、前記回転軸の前記先端面よりも、前記回転軸の軸方向において前記回転軸から遠ざかる側に位置する」点に対し、引用文献1に記載された発明では、スピンドル軸11内に導電体としての鋼球19を備える点(以下、「相違点」という。)。
上記相違点について検討すると、本願の請求項1に係る発明における「除電部材」、及び、引用文献1に記載されたアースカーボン15は、回転軸の端面(本願発明の接合用凹部3cに固定することも踏まえた)、もしくは、回転軸端面に形成された凹部内に設けるかのみの違いであり、作用・効果に特段の差異が認められない。
したがって、本願の請求項1-2に係る発明における発明は、引用文献1に記載された事項から、当業者ならば容易に想到し得るものである。

2 請求項3
引用文献2(特に段落【0010】、図1を参照。)には、油切り円板21を有するモータが記載されている。
そして、引用文献1に記載の発明において、モータである点で共通する引用文献2に記載された油切り構造を組み合わせて、本願の請求項3に係る発明にすることは、当業者が容易になし得たことである。

引用文献等一覧
1.実願昭58-144953号(実開昭60-54285号)のマイクロフィルム
2.特開2002-34205号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、平成28年5月26日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される発明であり、次のとおりのものである。

「【請求項1】
電動モータによって回転する、水平方向に沿って配置された回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する軸受と、
前記回転軸の先端面に接合された、前記回転軸とは別体に構成された導電体と、
前記回転軸と前記導電体を介して電気的に接続された除電部材と、
前記除電部材を接地するアース線と、
前記除電部材を前記導電体の側に向かって付勢する付勢バネと、を備え、
前記導電体は球体状をなし、前記回転軸の先端面に形成されている円錐状の凹部に、溶接、ロウ付け、または接着され、
前記除電部材は円柱状をなし、一端面が前記導電体と接触し、他端面が前記付勢バネと接触し、周面が前記アース線と接触しており、
前記除電部材は、前記回転軸の前記先端面よりも、前記回転軸の軸方向において前記回転軸から遠ざかる側に位置する
ことを特徴とする電食防止装置。
【請求項2】
前記導電体は、前記回転軸とともに回転する該導電体の回転中心位置において、前記除電部材と点接触するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電食防止装置。
【請求項3】
前記回転軸の先端面と、該先端面と隣接する軸受との間には、回転軸の外周面から凸設する油切り手段が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電食防止装置。」

第4 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された上記引用文献1(実願昭58-144953号(実開昭60-54285号)のマイクロフィルム)には、「スピンドルアース構造」に関し、図面(第1図ないし第3図参照)とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

1 「従来のディスク装置アース構造について第1図、第2図を用いて説明する。情報を記憶するディスク1はスピンドルモータ2のハブ3に取りつけられ回転される。ディスク1へ情報を受渡しするヘッド4はキャリジブロック5に搭載されボイスコイルモータ等により矢印6の方向へ移動する。
ディスク装置が動作中スピンドル軸11、ハブ3、ディスク1は電気的にベースから浮いており、モータ固定巻線から誘電される電荷や靜電気による電荷が蓄積され、空隙距離の最も小さいディスク1とヘッド4の間において又はスピンドル軸11を支えている軸受22のレース面と玉の間で放電する。
ディスク面には磁性物質を塗布し電磁気的に情報を貯えているので放電により破壊されてしまうし、軸受22のレース面と玉の間にて放電すると軸受22は電蝕と呼ばれるキズが生じスピンドルモータ2の回転に支障をきたす。
スピンドル軸11、ハブ3、ディスク1は高速回転しているため電線などによるアース接続は出来ず、回転エネルギの最も小さい回転中心であるスピンドル軸11の端面にアースカーボン15をバネ16にて押し当てワイヤー17を半田付して板18に接続させている。スピンドル軸11は精度良くモータを回転させるため軸加工時センタ穴12が必要なため、センタ穴を避けて軸にXネジを加工し、球面子14をねじ込んでアースカーボン15と接触するようにしている。
以上述べたスピンドルアース構造を形成するためにベース面からベースボス21を突出させている。(突出させない様にするにはモータの高さ寸法を小さくするしかなく、モータの出力パワーが不足になる。)このため従来構造において装置高さ寸法10を小さくするために回路基板8に穴9をあけて逃げ加工をしなければならない欠点がおった。
〔考案の目的〕
本考案の目的はスピンドルアース構造形成においてベースボスの出張りをなくす構造を提供することにある。
〔考案の概要〕
本考案は、センタ穴構造と維持しつつスピンドル軸内部に加工を施し構造寸法を小さくすることを特徴とするものである。
〔考案の実施列〕
本考案の実施例を第3図にて説明する。
スピンドル軸内径部をくぼみ加工し軸受けに使用している精度の良い鋼球をスピンドル軸11に圧入加工もしくは導伝性接着剤により固着させ、アースカーボン15をスピンドル軸端面よりも内側に入れる。」(第1頁第16行ないし第4頁第8行)

2 第2図、第3図から、アースカーボン15を鋼球19の側に向かって付勢するコイルバネ16が看取される。

3 第3図から、スピンドル軸11内径部のくぼみには、円錐状の凹部が設けられていることが看取される。

4 第2図、第3図から、アースカーボン15がコイルバネ16と接触する面に、ワイヤー17が接触していることが看取される。

上記記載事項及び図面の図示内容を総合して、本願発明1に則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「スピンドルモータ2によって回転する、スピンドル軸11と、
前記スピンドル軸11を回転可能に支持する軸受22と、
前記スピンドル軸11内径部のくぼみに固着された、前記スピンドル軸11とは別体に構成された鋼球19と、
前記スピンドル軸11と前記鋼球19を介して接続されたアースカーボン15と、
前記アースカーボン15に接続されるワイヤー17と、
前記アースカーボン15を前記鋼球19の側に向かって付勢するコイルバネ16と、を備え、
前記鋼球19は球体状をなし、前記スピンドル軸11の内径部のくぼみに形成されている円錐上の凹部に、導伝性接着剤により固着され、
前記アースカーボン15は、一端面が前記鋼球19と接触し、他端面が前記コイルバネ16と接触し、他端面が前記ワイヤー17と接触しており、
前記アースカーボン15は、前記スピンドル軸11端面よりも内側に位置する
スピンドルアース構造。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、その構成、機能又は技術的意義からみて、後者の「スピンドルモータ2」は前者の「電動モータ」に相当し、以下同様に、「軸受22」は「軸受」に、アースカーボン15がスピンドル軸11と電気的に接続されていることは明らかであるから、「前記スピンドル軸11と前記鋼球19を介して接続されたアースカーボン15」は「前記回転軸と前記導電体を介して電気的に接続された除電部材」に、アース接続のためにワイヤー17によりアースカーボン15が接地されていることは明らかであるから、「前記アースカーボン15に接続されるワイヤー17」は「前記除電部材を接地するアース線」に、「コイルバネ16」は「付勢バネ」に、引用発明のスピンドルアース構造は電食を防止するものであるから、「スピンドルアース構造」は「電食防止装置」に、それぞれ相当する。

また、「回転軸」という限りにおいて、引用発明における「スピンドル軸11」は、本願発明1における「水平方向に沿って配置された回転軸」と共通し、
スピンドル軸11内径部のくぼみに固着されることは、スピンドル軸11に接合されることを意味するから、「前記回転軸に接合された、前記回転軸とは別体に構成された導電体」という限りにおいて、引用発明における「前記スピンドル軸11内径部のくぼみに固着された、前記スピンドル軸11とは別体に構成された鋼球19」は、本願発明1における「前記回転軸の先端面に接合された、前記回転軸とは別体に構成された導電体」と共通し、
導伝性接着剤による固着は接着を意味するから、「前記導電体は球体状をなし、前記回転軸の円錐状の凹部に、溶接、ロウ付け、または接着され」るという限りにおいて、引用発明における「前記鋼球19は球体状をなし、前記スピンドル軸11の内径部のくぼみに形成されている円錐上の凹部に、導伝性接着剤により固着され」ることは、本願発明1における「前記導電体は球体状をなし、前記回転軸の先端面に形成されている円錐状の凹部に、溶接、ロウ付け、または接着され」ることと共通し、
「前記除電部材は、一端面が前記導電体と接触し、他端面が前記付勢バネと接触し、前記アース線と接触して」いるという限りにおいて、引用発明における「前記アースカーボン15は、一端面が前記鋼球19と接触し、他端面が前記コイルバネ16と接触し、他端面が前記ワイヤー17と接触して」いることは、本願発明1における「前記除電部材は円柱状をなし、一端面が前記導電体と接触し、他端面が前記付勢バネと接触し、周面が前記アース線と接触して」いることと共通する。

したがって両者は、
「電動モータによって回転する、回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する軸受と、
前記回転軸に接合された、前記回転軸とは別体に構成された導電体と、
前記回転軸と前記導電体を介して電気的に接続された除電部材と、
前記除電部材を接地するアース線と、
前記除電部材を前記導電体の側に向かって付勢する付勢バネと、を備え、
前記導電体は球体状をなし、前記回転軸の円錐状の凹部に、溶接、ロウ付け、または接着され、
前記除電部材は、一端面が前記導電体と接触し、他端面が前記付勢バネと接触し、前記アース線と接触する、
電食防止装置。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明1においては、回転軸が「水平方向に沿って配置され」ているのに対して、引用発明のスピンドル軸11が配置される方向は不明である点。

〔相違点2〕
本願発明1においては、導電体が「回転軸の先端面」に接合され、「前記回転軸の先端面に形成されている」円錐状の凹部に、溶接、ロウ付け、または接着され、除電部材は、「前記回転軸の前記先端面よりも、前記回転軸の軸方向において前記回転軸から遠ざかる側に位置する」ものであるのに対して、引用発明における鋼球19は「スピンドル軸11内径部のくぼみ」に固着され、「前記スピンドル軸11の内径部のくぼみに形成されている」円錐上の凹部に、導伝性接着剤により固着され、アースカーボン15は、「前記スピンドル軸11端面よりも内側に位置する」ものである点。

〔相違点3〕
本願発明1においては、除電部材が「円柱状」であるのに対して、引用発明においては、アースカーボン15の形状は不明である点。

〔相違点4〕
本願発明1においては、除電部材の「周面が前記アース線と接触して」いるのに対して、引用発明においては、アースカーボン15の「他端面が前記ワイヤー17と接触して」いる点。

(2) 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2について先に検討する。

引用文献1の第3頁第15行ないし第17行には、「本考案の目的はスピンドルアース構造形成においてベースボスの出張りをなくす構造を提供することにある。」との記載があり、引用発明はかかる課題(目的)を解決するために、鋼球19を「スピンドル軸11内径部のくぼみに固着」し、前記鋼球19は、「前記スピンドル軸11の内径部のくぼみに形成されている」円錐上の凹部に、導電性接着剤により固着され、アースカーボン15は「前記スピンドル軸11端面よりも内側に位置する」としたものである。
そうすると、引用発明において、スピンドル軸11端面よりも内側にアースカーボン19を位置させることは、ベースボスの出張りをなくすために必要な構成であるから、スピンドル軸11端面よりも外側にアースカーボン19を位置させること、すなわち、鋼球19が「スピンドル軸11の先端面」に接合され、「前記スピンドル軸11軸の先端面に形成されている」円錐状の凹部に、溶接、ロウ付け、または接着され、アースカーボン19を「前記スピンドル軸11軸の前記先端面よりも、前記スピンドル軸11の軸方向において前記スピンドル軸11から遠ざかる側に位置する」ものとすることは、当業者に適宜なし得た設計変更とはいえない。

そして、原査定に引用され、本願の出願前に頒布された上記引用文献2(特開2002-34205号公報)には、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項に関する記載はない。

そうしてみると、引用発明に、引用文献2に記載された事項を適用しても、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
したがって、本願発明1は、相違点1、相違点3及び相違点4を検討するまでもなく、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2及び3について
本願発明2及び3は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様に、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし3は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-05 
出願番号 特願2012-39871(P2012-39871)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上谷 公治  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 滝谷 亮一
内田 博之
発明の名称 電食防止装置  
代理人 誠真IP特許業務法人  

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