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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1332850
審判番号 不服2016-7078  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-13 
確定日 2017-10-17 
事件の表示 特願2011-213115「化合物半導体装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月22日出願公開、特開2013- 74188、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年9月28日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 6月 3日 審査請求
平成27年 3月24日 拒絶理由通知
平成27年 5月27日 意見書・補正書
平成28年 3月 7日 拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成28年 5月13日 審判請求・補正書
平成28年 9月 1日 上申書
平成29年 6月22日 拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由通知」という。)
平成29年 8月 9日 意見書・補正書

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。

1.(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

●理由1(特許法第29条第1項第3号)及び●理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項1,4,7
・引用文献等2
引用文献2(特に段落0022?0025、図1?2参照)には、「基板11」と、「基板11」上方に形成された「GaNからなるバッファ層13」と、「バッファ層13」上に形成された「In組成が0.25のInAlNからなる第1の層14」と「In組成が0.15のInAlNからなる第2の層15」とで構成される「バリア層16」と、「バリア層16」の「第2の層15」上に形成された「ソース電極17」及び「ドレイン電極18」と、「第2の層15」が除去された部分の「第1の層14」上に形成された「ゲート電極19」とを有する「ヘテロ接合型電界効果トランジスタ」が記載されている。
引用文献2に記載された「ヘテロ接合型電界効果トランジスタ」は、「第1の層14」と「第2の層15」とで構成される「バリア層16」(本願発明の「電子供給層として機能するIn含有層を含む窒化物半導体層」に相当)の表面のIn組成が、「ゲート電極19」の下方では「0.25」であり、「ゲート電極19」と「ソース電極17」の間に位置する領域及び「ゲート電極19」と「ドレイン電極18」の間に位置する領域において「0.15」である。
したがって、引用文献2に記載された「ヘテロ接合型電界効果トランジスタ」においても、本願発明のように「前記窒化物半導体層の表面のIn組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっている」と言える。
したがって、本願請求項1,4,7に係る発明と引用文献2に記載された発明との間に差異はなく、本願請求項1,4,7に係る発明と引用文献2に記載された発明は同一である。仮に、本願請求項1,4,7に係る発明と引用文献2に記載された発明が同一でないとしても、本願請求項1,4,7に係る発明は、引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、出願人は意見書において、引用文献1に記載された発明との差異を主張しているが、上記拒絶理由通知書では、補正後の請求項1に対応する補正前の請求項3に対して、引用文献1を用いておらず、引用文献2を用いているから、出願人の主張は当を得ていない。

●理由2(特許法第29条第2項)について

・請求項5?6
・引用文献等2?3
引用文献2に記載されたトランジスタを用いて、引用文献3の図7に記載されたような電源装置や、図8に記載されたような増幅器を構成することは、当業者が容易になし得たことである。

<拒絶の理由を発見しない請求項>
平成27年5月27日付け手続補正書による補正後の請求項2?3,8?9に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。

<引用文献等一覧>
1.特開2010-074047号公報
(平成27年3月24日付け拒絶理由通知における提示のみ)
2.特開2007-158143号公報
3.特開2011-171595号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1,4?7
・引用文献 1,2
・備考
引用文献1の,特に図4には,「第2の化合物半導体層22」のAlの組成比が,「ゲート電極5」に対応する領域において低く設定され,「第2の主電極4」及び「第1の主電極3」側において高く設定された「HEMT1」が第3の実施の形態として記載されている。また,【0057】には,図4に対応する「第3の実施の形態に係るHEMT1は,前述の第1の実施の形態の第1の変形例及び第2の変形例に係るHEMT1と同様に化合物半導体機能層2の積層構造の材料を変えることができる。」と記載され,【0037】には,「第2の化合物半導体層22」として,「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」(請求項4において,In_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)N(0<x≦1,0≦y<1,x+y≦1)のx+y=1の場合に相当)を採用し得ることが記載されている。
以上の記載事項から,引用文献1には,「第1の化合物半導体層21」上方の「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」のAlの組成比が,「ゲート電極5」に対応する領域において低く設定され,「第2の主電極4」及び「第1の主電極3」側において高く設定された「HEMT1」が記載されており,これをIn含有という視点からみると,「第1の化合物半導体層21」(請求項1,7において「電子走行層」に相当)上方に膜厚が一定で形成された「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」(請求項1,7において「電子供給層として機能するIn含有層を含む窒化物半導体層」に相当)のInの組成比が,「ゲート電極5」に対応する領域において高く設定され,「第2の主電極4」(請求項1,7において「ドレイン電極」に相当)及び「第1の主電極3」(請求項1,7において「ソース電極」に相当)側において低く設定された「HEMT1」(請求項1において,「化合物半導体装置」に対応)およびその製造方法(請求項7において,「化合物半導体装置の製造方法」に相当)が記載されている。
また,HEMTを形成する際,一般に半導体基板を用いることは慣用手段である。
したがって,請求項1,4,7に係る発明は,引用文献1に記載された発明及び前記慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

また,引用文献2の,特に,図7には,HEMTを用いた電源装置(請求項5において「電源装置」に相当),図8には高周波増幅器(請求項6において「高出力増幅器」に対応)が開示されており,引用文献1に記載されたHEMTを引用文献2に開示された電源装置や増幅器として用いる事に格別な困難性は認められない。
したがって,請求項5,6に係る発明は,引用文献1及び引用文献2に記載された発明及び前記慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項2,3,8,9に係る発明については,現時点では,拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

<引用文献等一覧>
1.特開2010-56137号公報
2.特開2011-171595号公報 (原審の引用文献3と同じ)

第4 本願発明
本願請求項1ないし7に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明7という。)は、平成29年8月9日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1ないし本願発明7は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
基板と、
前記基板上方に形成された化合物半導体積層構造と、
前記化合物半導体積層構造上方に形成されたゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、
を有し、
前記化合物半導体積層構造は、
電子走行層と、
前記電子走行層上方に形成された電子供給層、及び前記電子供給層上方に形成されたIn含有層を含む窒化物半導体層と、
を有し、
前記窒化物半導体層の表面のIn組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっており、
前記In含有層は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に、表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有することを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項2】
基板と、
前記基板上方に形成された化合物半導体積層構造と、
前記化合物半導体積層構造上方に形成されたゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、
を有し、
前記化合物半導体積層構造は、
電子走行層と、
前記電子走行層上方に形成された電子供給層として機能するIn含有層を含む窒化物半導体層と、を有し、
前記窒化物半導体層の表面のIn組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっており、
前記In含有層は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に、表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有することを特徴とする化合物半導体装置。
【請求項3】
前記窒化物半導体層の組成がIn_(x)Al_(y)Ga_(1-x-y)N(0<x≦1、0≦y<1、x+y≦1)で表わされることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物半導体装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置を有することを特徴とする電源装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物半導体装置を有することを特徴とする高出力増幅器。
【請求項6】
基板上方に化合物半導体積層構造を形成する工程と、
前記化合物半導体積層構造上方にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、
を有し、
前記化合物半導体積層構造を形成する工程は、
電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上方に電子供給層を含む窒化物半導体層を形成する工程と、
を有し、
前記窒化物半導体層を形成する工程は、
前記電子供給層上方にIn含有層を形成する工程と、
前記In含有層の、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域から、Inを脱離させる工程と、
を有し、
前記窒化物半導体層の表面のIn組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっていることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。
【請求項7】
基板上方に化合物半導体積層構造を形成する工程と、
前記化合物半導体積層構造上方にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、
を有し、
前記化合物半導体積層構造を形成する工程は、
電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上方に電子供給層を含む窒化物半導体層を形成する工程と、
を有し、
前記窒化物半導体層を形成する工程は、前記電子供給層として機能するIn含有層を形成する工程と、
前記In含有層の、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域から、Inを脱離させる工程と、
を有し、
前記窒化物半導体層の表面のIn組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっていることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1.原査定における引用文献2について
(1)原審引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-158143号公報(以下、「原審引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は、当審で追加した。以下、同じ。)

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体からなるヘテロ接合型電界効果トランジスタに関するものである。」

イ「【0023】
図1は本発明に係るヘテロ接合型電界効果トランジスタを示す断面図である。図に示すように、サファイアからなる基板11上に膜厚が30nmのGaNからなる核形成層12が形成され、核形成層12上に膜厚が2μmのGaNからなるバッファ層13が形成され、バッファ層13上に膜厚が20nmでありかつIn組成が0.25のInAlNからなる第1の層14が形成され、第1の層14上に膜厚が20nmでありかつIn組成が0.15のInAlNからなる第2の層15が形成され、第1の層14と第2の層15とでバリア層16が構成されている。また、バリア層16の第2の層15上にAl/TiまたはTi/Auからなるソース電極17、ドレイン電極18がオーミック接合により形成され、第2の層15が除去され部分すなわち第1の層14上にNi/Auからなるゲート電極19が形成されている。すなわち、リセスゲート構造が形成されている。そして、ゲート電極19とソース電極17、ドレイン電極18との間の距離は11μm、ゲート電極19の長さと幅はそれぞれ1.5μm、100μmである。」

ウ「【0025】
図1に示したヘテロ接合型電界効果トランジスタにおいては、バッファ層13上にIn組成が0.25のInAlNからなる第1の層14が形成され、第1の層14上にIn組成が0.15のInAlNからなる第2の層15が形成され、さらにゲート電極19が第1の層14上に形成されたリセスゲート構造が形成されているから、ゲート電極19の直下では二次元電子ガス20が低減され、他の部分には十分な二次元電子ガス20が存在する理想的なノーマリーオフの電子状態を形成することができる。また、バッファ層13上にIn組成が0.25のInAlNからなる第1の層14が形成され、第1の層14上にゲート電極19が形成されているから、第1の層14の膜厚を大きくしたとしても、ゲート電極19の直下には二次元電子ガス20はほとんど発生しない。このため、ノーマリーオフ型であるにも関わらず、十分な厚さの第1の層14を形成することができるから、ゲートのリーク電流を低減することができる。」

エ また、図1には、以下の事項が記載されている。
「基板11と基板11の上方に形成されたGaNからなる核形成層12と核形成層12上に形成されたGaNからなるバッファ層13と、バッファ層13上に形成されたIn組成が0.25のInAlNからなる第1の層14とIn組成が0.15のInAlNからなる第2の層15と、で構成されるバリア層16と、バリア層16の第2の層15上に形成されたソース電極17およびドレイン電極18と第2の層15が除去された部分の第1の層14上に形成されたゲート電極19とを備えたヘテロ接合型電界効果トランジスタ。」

(2)原審引用発明2
前記(1)の記載事項から、原審引用文献2には、次の発明(以下、「原審引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

「基板と基板の上方に形成されたGaNからなる核形成層と核形成層上に形成されたGaNからなるバッファ層、バッファ層上に形成されたIn組成が0.25のInAlNからなる第1の層とIn組成が0.15のInAlNからなる第2の層と、で構成されるバリア層と、バリア層の第2の層15に形成されたソース電極およびドレイン電極と第2の層が除去された部分の第1の層上に形成されたゲート電極とを備えたヘテロ接合型電界効果トランジスタ。」

2.原査定における引用文献3について
(1)原審引用文献3の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開2011-171595号公報(以下、「原審引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、本文献は、当審の引用文献2と同じ文献である。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体等の化合物半導体層を備えた化合物半導体装置の製造方法及び化合物半導体装置に関する。」

イ「【0032】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTを備えた電源装置を開示する。
図7は、第2の実施形態による電源装置の概略構成を示す結線図である。 」

ウ「【0036】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態によるAlGaN/GaN・HEMTを備えた高周波増幅器を開示する。
図8は、第3の実施形態による高周波増幅器の概略構成を示す結線図である。」

エ また、図7,8には、以下の事項が記載されている。
「AlGaN/GaN・HEMTを備えた電源装置及び高周波増幅器。」

(2)原審引用発明3
前記(1)の記載事項から、原審引用文献3には次の発明(以下、「原審引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「AlGaN/GaN・HEMTを備えた電源装置及び高周波増幅器。」

3.当審における引用文献1について
(1)当審引用文献1の記載事項
当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された特開2010-56137号公報(以下、「当審引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に化合物半導体機能層を有する半導体装置に関する。」

イ「【0033】
[HEMTの製造方法]
特に図面を用いてその製造方法を説明しないが、前述のHEMT1の第2の化合物半導体層22はMOCVD法を用いて形成される。例えば、MOCVD装置において、第1の化合物半導体層21を形成した基板(ウェーハ)上でトリメチルアルミニウム(TMA)の流量比を傾斜して供給する方法や、基板温度を傾斜させる制御を行う方法を用い、Alの組成比が異なる第2の化合物半導体層22を形成することができる。ここで、TMAの流量比又は基板温度は第1の主電極3側で高く、第2の主電極4側で低く設定される。
【0034】
また、第2の化合物半導体層22は、グレースケールマスク法やマスク後退法を利用し、二次元キャリアガスチャネル23方向に組成比x2が異なるようにAlを導入することにより形成できる。Alの導入には例えばイオン注入法や固相拡散法を実用的に使用することができる。」

ウ「【0035】
[第1の実施の形態の特徴]
以上説明したように、第1の実施の形態に係るHEMT1においては、化合物半導体機能層2に生成される二次元キャリアガスチャネル23のキャリア密度及び電界強度Eをキャリア走行方向に変調することができる。この結果、HEMT1においては、第2の主電極4の近傍におけるホットエレクトロンの発生を減少することができ、電流コラプスの発生を抑制することができる。また、HEMT1においては、ゲート電極5端部の電界強度Eを低くすることができるので、破壊耐圧を向上することができる。
【0036】
[第1の変形例]
第1の実施の形態の第1の変形例に係るHEMT1は、化合物半導体機能層2の窒化物系半導体材料を代えた例を説明するものである。
【0037】
第1の変形例に係るHEMT1の化合物半導体機能層2は、InGaNからなる第1の化合物半導体層21とAlInNからなる第2の化合物半導体層22との積層構造、又はGaNからなる第1の化合物半導体層21とAlInNからなる第2の化合物半導体層22との積層構造により構成される。」

エ「【0054】
[HEMTの動作原理]
図4に示すように、前述の第3の実施の形態に係るHEMT1においては、第2の化合物半導体層22の組成元素であるAlの組成比x2が第1の主電極3側で高く、第1の主電極3側からゲート電極5側に向かう二次元キャリアガスチャネル23方向に連続的に減少し、ゲート電極5に対応する領域において低く設定されている。そして、第2の化合物半導体層22のAlの組成比x2は、ゲート電極5側から第2の主電極4側に向かう二次元キャリアガスチャネル23方向に連続的に増加し、第2の主電極4側で高く設定されている。つまり、第2の化合物半導体層22のAlの組成比x2は、第1の主電極3側及び第2の主電極4側とゲート電極5に対応する領域とでは異なり、ゲート電極5を中心として第1の主電極3側と第2の主電極4側とでほぼ対称となる。従って、HEMT1においては、第2の化合物半導体層22の歪み、自発分極とピエゾ分極によって生じる電界強度E、二次元キャリアガスチャネル23のキャリア密度が異なる。第2の化合物半導体層22の第2の主電極4側において二次元キャリアガスチャネル23のキャリア密度は、ゲート電極5に対応する領域の二次元キャリアガスチャネル23のキャリア密度よりも高くなる。
【0055】
また、図4に示すように、自発分極とピエゾ分極によって生じる電界強度Eは、第2の化合物半導体層22の第2の主電極4側においてゲート電極5に対応する領域よりも高くなる。すなわち、第2の主電極4から第1の主電極3に向かう電界方向とは逆方向(キャリアの走行方向)に、自発分極とピエゾ分極に基づき電界強度Eを高くする(変調する)ことができる。従って、HEMT1においては、第2の主電極(ドレイン電極)4の近傍の二次元キャリアガスチャネル23のキャリアを加速することができるので、スイッチングスピードの高速化を実現することができる。
【0056】
また、HEMT1においては、ゲート電極5の第2の主電極4側端に発生する電界強度Eを第2の主電極4側端に発生する電界強度Eに比べて減少することができるので、破壊耐圧を向上することができる。
【0057】
なお、第3の実施の形態に係るHEMT1の製造方法は前述の第1の実施の形態に係るHEMT1の製造方法と同様であるので、ここでの説明は重複するので省略する。また、第3の実施の形態に係るHEMT1は、前述の第1の実施の形態の第1の変形例及び第2の変形例に係るHEMT1と同様に化合物半導体機能層2の積層構造の材料を変えることができる。」

オ また、図4には、以下の事項が記載されている。

「第1の化合物半導体層21上方に第2の化合物半導体層22の形成された化合物半導体機能層2を有し、第2の化合物半導体層22のAl組成比が,ゲート電極5に対応する領域において低く設定され,第2の主電極4及び第1の主電極3側において高く設定されたHEMT1。」

当審引用文献1には、前記(1)ウないしオの記載から以下の<装置に関する事項>、及び前記(1)イないしオの記載から以下の<製造方法に関する事項>が各々記載されているものと認められる。

<装置に関する事項>
「基板(ウェーハ)上に第1の化合物半導体層21、その上方に第2の化合物半導体層22の形成された化合物半導体機能層2を有し、第2の化合物半導体層22のAl組成比が,ゲート電極5に対応する領域において低く設定され,第2の主電極4及び第1の主電極3側において高く設定されたHEMT1。」

<製造方法に関する事項>
「基板(ウェーハ)上に第1の化合物半導体層21、その上方に第2の化合物半導体層22を形成して、化合物半導体機能層2を形成する工程を有し、
前記第2の化合物半導体層22を形成する際には、第1の化合物半導体層21を形成した基板(ウェーハ)上でトリメチルアルミニウム(TMA)の流量比を傾斜して供給する方法や、基板温度を傾斜させる制御を行う方法を用い、Al組成比がゲート電極5に対応する領域において低く設定され,第2の主電極4及び第1の主電極3側において高く設定された第2の化合物半導体層22を形成する工程を有し、
前記化合物半導体機能層2上に、ゲート電極5、第1の主電極3,第2の主電極4側を形成する工程を有するHEMT1の製造方法。」

(2)当審引用装置発明1
前記(1)の<装置に関する事項>ついて、AlInNにおけるIn含有という基準で表記すると、当審引用文献1には、次の発明(以下、「当審引用装置発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「基板(ウェーハ)上に第1の化合物半導体層、さらにその上方に第2の化合物半導体層の形成された化合物半導体機能層を有し、第2の化合物半導体層のIn組成比が,ゲート電極に対応する領域において高く設定され,第
1の主電極及び第2の主電極側において低く設定されたHEMT。」

(3)当審引用製造方法発明1
前記(1)の<製造方法に関する事項>について、AlInNにおけるIn含有という基準で表記すると、当審引用文献1には、次の発明(以下、「当審引用製造方法発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「基板(ウェーハ)上に第1の化合物半導体層、さらにその上方に第2の化合物半導体層を形成して、化合物半導体機能層を形成する工程を有し、
前記第2の化合物半導体層を形成する際には、第1の化合物半導体層を形成した基板(ウェーハ)上でトリメチルアルミニウム(TMA)の流量比を傾斜して供給する方法や、基板温度を傾斜させる制御を行う方法を用い、In組成比がゲート電極に対応する領域において高く設定され,第1の主電極及び第2の主電極側において低く設定された第2の化合物半導体層を形成する工程を有し、
前記化合物半導体機能層上に、ゲート電極、第1の主電極3,第2の主電極側を形成する工程を有するHEMTの製造方法。」

4.当審における引用文献2について
当審拒絶理由通知の拒絶の理由に引用された特開2011-171595号公報(以下、「当審引用文献2」という。)は、原審引用文献3と同じ文献であるから、前記「2.原審における引用文献3について」を参照し、当審引用文献2に記載された発明(以下、「当審引用発明2」という。)は、「原審引用発明3」と同じ内容とする。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と当審引用装置発明1の対比
ア 当審引用装置発明1の「第1の化合物半導体層21」は、キャリアである電子が移動する半導体層であるから、本願発明1の「電子走行層」に相当する。

イ 当審引用装置発明1の「基板(ウェーハ)」,「第1の主電極3」,「第2の主電極4」、「ゲート電極5」は、HEMTの基体及び各電極を意味するから、本願発明1の、「基板],「ソース電極」、「ドレイン電極」、「ゲート電極」に相当する。

ウ 当審引用装置発明1のHEMTは、GaNを含むトランジスタであるから、本願発明1の「化合物半導体装置」に相当する。

エ 当審引用装置発明1の「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」は、前記イを考慮すると、Inの組成比が,ゲート電極に対応する領域において高く設定され,ドレイン電極側及びソース電極側においては低く設定されていることから、後記キ相違点(1)の点を除き、本願発明1の「In含有層を含む窒化物半導体層」に相当する。

オ 当審引用装置発明1の「第1の化合物半導体層21」,「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」からなる「化合物半導体機能層2」は、後記キ相違点(2)の点を除き、「化合物半導体積層構造」の点で本願発明1と一致する。

そうすると、本願発明1と当審引用装置発明1は以下のカの点で一致し、以下のキの点で相違する。

カ 一致点
基板上方に形成された化合物半導体積層構造と、
前記化合物半導体積層構造上方に形成されたゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、を有し、
前記化合物半導体積層構造は、
電子走行層とIn含有層を含む窒化物半導体とを含む化合物半導体積層構造を、
有する化合物半導体装置。

キ 相違点
相違点(1)
本願発明1では、In含有層は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に、表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有するのに対して、当審引用装置発明1では、「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」は、In組成比が表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有しない点。

相違点(2)
本願発明1では、電子走行層、電子供給層、In含有層を含む窒化物半導体層からなる化合物半導体積層構造を有するのに対して、当審引用装置発明1では、「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」が電子供給層としての機能を有し、「第1の化合物半導体層21」,「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」からなる電子供給層を有しない化合物半導体機能層2である点。

(2)相違点についての判断
以下、相違点(1)について検討する。
相違点(1)における「In含有層は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に、表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有する構成」は、当審引用文献1,2には記載されておらず、示唆もされていない。
また、本願発明1は、当該構成を有することにより、以下の様な格別な効果を奏する。
すなわち、In含有層が存在しない場合、電子走行層のGaNと電子供給層のAlGaNとの格子定数の相違に起因して電子走行層の表面近傍に2DEGが発生するのに対して、電子供給層にIn含有層が存在すると、その組成に応じて2DEGが打ち消されるというIn含有層の特性を活かし、ゲート電極の下方の領域において2DEGがほとんど消失するようなIn含有層を採用すると、ゲート電極の下方に2DEGがほとんど存在せず、ノーマリオフ動作が可能となり、一方で、平面視で、In脱離領域が存在する領域の下方となるアクセス部では、In脱離領域のIn組成が、2DEGのほとんどを打ち消す程度のものより低くなっているため、2DEGが十分な濃度で存在し、オン抵抗を低く抑えることができるHEMTを提供する事が可能となる。
また、In脱離領域の組成は、In含有層の他の領域の組成よりもAlNに近いため、バンドギャップが大きい。このため、In脱離領域が存在しない場合と比較すると、ゲート電極に対して高いショットキーバリアが形成されて、横方向の表面への電子注入(リーク電流)が抑制され、電流コラプス等の動作不安定性の要因を抑制することができる。(明細書段落【0017】?【0019】)
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者が当審引用文献1,2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

2.本願発明2について
(1)本願発明2と当審引用装置発明1の対比
ア 当審引用装置発明1の「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」は、In組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっているので、後記相違点エの点を除き、本願発明2の「In含有層を含む窒化物半導体層」に一致する。

イ 当審引用装置発明1では、「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」が電子供給層としての機能を有するので、「第1の化合物半導体層21」,「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」からなる化合物半導体機能層2は、前記アを考慮すると、後記相違点エの点を除き、本願発明2の「化合物半導体積層構造」の点で一致する。

前記ア、イに加えて前記1(1)ア、ウ、エを参照すれば、本願発明2と当審引用装置発明1は以下のウの点で一致し、以下のエの点で相違する。

ウ 一致点
基板上方に形成された化合物半導体積層構造と、
前記化合物半導体積層構造上方に形成されたゲート電極、ソース電極及びドレイン電極と、を有し、
前記化合物半導体積層構造は、
電子走行層と、
前記電子走行層上方に形成された電子供給層として機能するIn含有層を含む窒化物半導体層と、を有し、
前記窒化物半導体層の表面のIn組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっている化合物半導体装置。

エ 相違点
本願発明2では、In含有層は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に、表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有するのに対して、当審引用装置発明1では、「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」は、In組成比が表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有しない点

(2)相違点についての判断
前記相違点については、前記1(2)と同様の判断となる。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明2は、当業者が当審引用文献1,2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

3.本願発明3ないし5について
本願発明3ないし5は、本願発明1または2を引用する発明であり、「In含有層は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に、表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有する」構成を含むことから、本願発明1または本願発明2と同様の相違点を含み、少なくとも当該相違点に対する判断は、前記1(2)、前記2(2)の相違点についての判断と同様となる。
したがって、本願発明3ないし5は、当業者が、当審引用発明1,2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明6について
(1)本願発明6と当審引用製造方法発明1の対比
ア 当審引用製造方法発明1の「第1の化合物半導体層21」は、キャリアである電子が移動する半導体層であるから、本願発明6の「電子走行層」に相当する。

イ 当審引用製造方法発明1の「基板(ウェーハ)」,「第1の主電極3」,「第2の主電極4」、「ゲート電極5」は、HEMTの基体及び各電極を意味するから、本願発明6の、「基板],「ソース電極」、「ドレイン電極」、「ゲート電極」に相当する。

ウ 当審引用製造方法発明1のHEMTは、GaNを含むトランジスタであるから、本願発明6の「化合物半導体装置」に相当する。

エ 当審引用製造方法発明1の「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」は、前記イを考慮すると、Inの組成比が,ゲート電極に対応する領域において高く設定され,ドレイン電極側及びソース電極側においては低く設定されていることから、後記キ相違点(1)の点を除き、本願発明6の「In含有層」に相当する。

オ 当審引用製造方法発明1の「第1の化合物半導体層21」,「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」からなる「化合物半導体機能層2」は、後記キ相違点(2)の点を除き、「化合物半導体積層構造」の点で本願発明6と一致する。

そうすると、本願発明6と当審引用製造方法発明1は以下のカの点で一致し、以下のキの点で相違する。

カ 一致点
基板上方に化合物半導体積層構造を形成する工程と、
前記化合物半導体積層構造上方にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、
を有し、
前記化合物半導体積層構造を形成する工程は、
電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上方に電子供給層を含む窒化物半導体層を形成する工程と、
を有し、
前記窒化物半導体層を形成する工程は、
In含有層を形成する工程と、
前記窒化物半導体層の表面のIn組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっていることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。

キ 相違点
相違点(1)
本願発明6では、前記電子供給層上方にIn含有層を形成する工程を有するのに対して、当審引用製造方法発明1では、電子供給層として機能する「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」を形成する点。

相違点(2)
本願発明6では、In含有層の、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域から、Inを脱離させる工程を有するのに対して、当審引用製造法発明1では、第1の化合物半導体層21を形成した基板(ウェーハ)上でトリメチルアルミニウム(TMA)の流量比を傾斜して供給する方法や、基板温度を傾斜させる制御を行う方法を用いている点。

(2)相違点についての判断
以下、相違点(2)について検討する。
相違点(2)における「In含有層の、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域から、Inを脱離させる工程」は、引用文献1,2には記載されておらず、また示唆もされていない。
また、Inを脱離させる工程を備えることにより、Inの組成比を、熱処理等により実現でき、電流コラプスの発生を招きやすいドライエッチングによって加工する工程を必要とせず(本願明細書段落【0018】等)、また、オーミック特性を確立するための熱処理と兼ねることができ、熱処理回数を低減するという効果も奏する。(本願明細書段落【0043】等」)
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明6は、当業者が当審引用文献1,2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

5.本願発明7について
(1)本願発明7と当審引用製造方法発明1の対比
ア 当審引用製造方法発明1において「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」は、電子供給層として機能するので、本願発明7の「In含有層」に相当する。

イ 当審引用製造方法発明1の「第1の化合物半導体層21」,「AlInNからなる第2の化合物半導体層22」からなる「化合物半導体機能層2」は、前記アを参照すると、本願発明7の「化合物半導体積層構造」に相当する。

そうだとすると、前記ア、イに加えて前記4(1)アないしウを参照すると、本願発明7と当審引用製造法発明1は、以下のウの点で一致し、エの点で相違する。

ウ 一致点
基板上方に化合物半導体積層構造を形成する工程と、
前記化合物半導体積層構造上方にゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、
を有し、
前記化合物半導体積層構造を形成する工程は、
電子走行層を形成する工程と、
前記電子走行層上方に電子供給層を含む窒化物半導体層を形成する工程と、
を有し、
前記窒化物半導体層を形成する工程は、前記電子供給層として機能するIn含有層を形成する工程と、
前記窒化物半導体層の表面のIn組成は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域において、前記ゲート電極の下方よりも低くなっていることを特徴とする化合物半導体装置の製造方法。

エ 相違点
本願発明7では、In含有層の、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域から、Inを脱離させる工程を有するのに対して、当審引用製造法発明1では、第1の化合物半導体層21を形成した基板(ウェーハ)上でトリメチルアルミニウム(TMA)の流量比を傾斜して供給する方法や、基板温度を傾斜させる制御を行う方法を用いている点。

(2)相違点についての判断
前記相違点については、前記1(2)と同様の判断となる。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明7は、当業者が当審引用文献1,2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 原査定についての判断
平成29年8月9日付けの補正により、補正後の請求項1,2には、「In含有層は、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に、表面に近づくほどIn組成が小さくなるIn脱離領域を有する」という技術的事項、補正後の請求項6,7には、「In含有層の、平面視で前記ゲート電極と前記ソース電極との間に位置する領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間に位置する領域から、Inを脱離させる工程を有する」という技術的事項を有するものとなった。
当該各技術的事項は、原審引用文献2,3には記載されておらず、また示唆もされていない。さらに、本願優先日前における周知技術でもない。
以上から、補正後の請求項1,2,6,7は、原審引用文献2に記載された発明では無く、また、当業者が、原審引用文献2,3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものではない。
また、補正後の請求項3は補正後の請求項1,2、補正後の請求項4,5は補正後の請求項1ないし3を引用しているので、補正後の請求項3ないし5は、当業者が、原審引用文献2,3に記載された事項に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-02 
出願番号 特願2011-213115(P2011-213115)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 113- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 早川 朋一  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 大嶋 洋一
小田 浩
発明の名称 化合物半導体装置及びその製造方法  
代理人 國分 孝悦  

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