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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B60K
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1332896
審判番号 不服2016-16705  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-08 
確定日 2017-09-28 
事件の表示 特願2012-132720「車両の駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月26日出願公開、特開2013-256174〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月12日の出願であって、平成28年3月25日付けで拒絶理由が通知され、平成28年6月3日に意見書が提出されるとともに明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成28年8月4日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成28年11月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、その後、平成29年2月9日に上申書が提出されたものである。

第2 平成28年11月8日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成28年11月8日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

〔理由〕
1 補正事項
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前(平成28年6月3日の手続補正書)の請求項1に、

「【請求項1】
車両を走行させる駆動力源と、
前記駆動力源の出力軸に連結されたモータジェネレータと、
前記モータジェネレータに電気的に接続して、前記モータジェネレータに電力を供給し、前記モータジェネレータにより発電された電力を充電するバッテリと、
前記バッテリと電気的に接続して、前記駆動力源の動作及び前記モータジェネレータの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記車両の走行開始後に前記モータジェネレータを駆動して、前記駆動力源の駆動力をアシストするトルクアシスト制御部を備え、
前記バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合は、前記トルクアシスト制御部の動作を禁止することを特徴とする車両の駆動装置。」
とあったものを、

「【請求項1】
車両を走行させる駆動力源と、
前記駆動力源の出力軸に連結されたモータジェネレータと、
前記モータジェネレータに電気的に接続して、前記モータジェネレータに電力を供給し、前記モータジェネレータにより発電された電力を充電するバッテリと、
前記バッテリと電気的に接続して、前記駆動力源の動作及び前記モータジェネレータの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記車両の走行開始後に前記モータジェネレータを駆動して、前記駆動力源の駆動力をアシストするトルクアシスト制御部を備え、
前記バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合は、前記トルクアシスト制御部による駆動力のアシストを禁止し、前記モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作することを特徴とする車両の駆動装置。」
と補正することを含むものである(下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)。

2 新規事項
本件補正によって請求項1に追加された「前記モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作する」との事項について、請求人は、平成29年2月9日の上申書において「請求項1では、『制御装置』が『前記バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合は、前記トルクアシスト制御部による駆動力のアシストを禁止』すると共に、『制御装置』が『前記モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作する』ことを意味するものである」(「(4)明確性について」の欄)と主張する。

そこで、当該主張を前提として検討する。
請求人は、上記事項の補正の根拠として出願当初明細書の段落【0096】及び段落【0114】に基づくと述べるところ(審判請求書「(3-2)補正の根拠」の欄)、当該各段落には、「【0096】メインバッテリ41の端子接続が外れた場合にも、モータジェネレータ21により発電が行われ、この電力が各電気負荷に供給されるため、車両1は通常通り走行可能である。」との記載及び「【0114】バッテリ端子接続外れの検知が所定時間t1時間以上継続して検知された場合は、ステップS22に移行して、ECM51は、トルクアシストを禁止する。具体的には、前述のように、条件(1)及び(2)によりトルクアシスト許可条件が成立した場合にも、ECM51は、モータジェネレータ21を駆動制御させない。」との記載がある。
ここで、段落【0096】の「電気負荷」について、本願明細書をみると、「【0040】これらCVTCU61、VDCCU62、EPSCU63及びコンビネーションメータ66は、電圧降下を許容できない電気負荷である。これらは、メインバッテリ41と電気的に切り離し可能なサブバッテリ42から電力の供給を受ける。」との記載及び「【0094】メインバッテリ41は、モータジェネレータ21、電気負荷44等に、ハーネス48を介して電気的に接続される。メインバッテリ41とハーネス48とは、端子接続によって固定されている。」との記載がある。また、図1及び図2には、モータジェネレータ21は、INV24を介して、ECM51とLIN(Local Interconnect Network)で接続することが示されている。
そうすると、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、「エンジンコントロールモジュール(ECM)51」が段落【0096】の「各電気負荷」に該当するとの記載及び示唆は特に見出せないとともに、まして、バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合に、モータジェネレータ21により発電された電力が、メインバッテリ41等を介することなく、「エンジンコントロールモジュール(ECM)51」に供給されて動作する旨の記載及び示唆はないから、請求項1の上記事項は、当初明細書等に記載されておらず、しかも、当初明細書等に記載された事項から自明でもない。
そうすると、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないということができないから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しない。

3 独立特許要件
次に、本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定に適合する場合を予備的に検討する。
本件補正は、発明を特定するために必要な事項である「前記バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合」について「前記モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作する」ことを限定するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。

(1)特許請求の範囲の記載について
請求人の平成29年2月9日の上申書の前記「2」の主張を前提とすると、本願補正発明は、「制御装置」が「前記バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合は、前記トルクアシスト制御部による駆動力のアシストを禁止」すると共に、「制御装置」が「前記モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作する」ことを発明特定事項とするものである。

そこで、発明の詳細な説明をみると、請求項1における「前記駆動力源の動作及び前記モータジェネレータの動作を制御する制御装置」は、本願明細書の段落【0019】等の記載からして、図1等の実施形態における「エンジンコントロールモジュール(ECM)51」が対応し、請求項1における「前記モータジェネレータに電力を供給し、前記モータジェネレータにより発電された電力を充電するバッテリ」は、本願明細書の段落【0033】等の記載からして、図1等の実施形態における「メインバッテリ41」が対応する。
しかしながら、発明の詳細な説明をみても、エンジンコントロールモジュール(ECM)51がメインバッテリ41の電気的接続が切断していることを検出した場合に、エンジンコントロールモジュール(ECM)51が、どのようにして(どのハーネス等により)、モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作するのか、特に説明がない。また、他に、本願補正発明の上記発明特定事項に関する具体的態様についての説明は見当たらない。
そうしてみると、本願補正発明の上記発明特定事項は、発明の詳細な説明の記載と明らかに整合していないとともに、本願補正発明は、発明の詳細な説明において該発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると認められるので、本願補正発明の上記発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されていないから、請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

したがって、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2)進歩性について
ア 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2001-69607号公報(以下「刊行物」という。)には、「ハイブリッド車両の制御装置」に関して、図面(特に、図1ないし図3参照)とともに、次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、パラレル式のハイブリッド車両の制御装置に係り、特に、モータ制御に係る部品の故障発生時において、エンジン回転数の制限制御を行うハイブリッド車両の制御装置に関する。」(段落【0001】)

(イ)「【0004】すなわち、パラレル式のハイブリッド車両は、発進時、及び加速時において、モータがエンジンをアシストする等、エンジンを効率の良い領域だけで駆動するようにモータを制御し、燃費を向上させている。加えて、車両の制動時においては、モータを発電機として動作させ、駆動輪の運動エネルギーを電力としてバッテリに充電することで、更に燃費を向上させている。」(段落【0004】)

(ウ)「【0011】また、ハイブリッド車両の減速時には、駆動輪からモータ2に駆動力が伝達され、モータ2は発電機として機能する。モータ2は、車体の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収し、別途説明を行うバッテリ3の充電等を行う。なお、駆動用のモータ2とは別に、バッテリ3の充電用の発電機を備える構成としてもよい。
【0012】ここで、バッテリ3は、例えば、複数のセルを直列に接続したモジュールを1単位として、更に複数個のモジュールを直列に接続して、高圧系のバッテリとして構成される。符号19は、エンジン始動専用のスタータである。
【0013】符号4はエンジン制御装置であり、エンジン回転数、車速等を所定期間毎にモニタしており、これらの結果からモータ回生や、アシスト、減速などのモードを判断する。また、エンジン制御装置4は、同時に前述したモードに対応して、アシスト/回生量の決定を行い、これらモードやアシスト/回生量に関する情報等をモータ制御装置5に出力する。モータ制御装置5は、上述したような情報をエンジン制御装置4から受け取ると、この指示通りにモータ2を駆動/回生させるパワードライブユニット7等の制御を行う。
【0014】符号6はバッテリ制御装置であり、バッテリ3のSOC(残容量)の算出を行う。また、バッテリ制御装置6は、バッテリ3の保護のために、バッテリ3の温度が所定値以下となるようにバッテリ3の近傍に設置されたファン20の制御等も行う。なお、エンジン制御装置4、モータ制御装置5、バッテリ制御装置6は、シーケンサあるいはCPU(中央演算装置)およびメモリにより構成され、制御装置の機能を実現するためのプログラムを実行することによりその機能を実現させる。
【0015】符号7はパワードライブユニットであり、スイッチング素子が2つ直列接続されたものが3つ並列接続されて構成されている。このパワードライブユニット7内部のスイッチング素子は、モータ制御装置5によってオン、オフされ、これによりバッテリ3からパワードライブユニット7に供給されている高圧系のDC分が三相線を介してモータ2に供給される。
【0016】また、符号9は各種補機類を駆動するための12Vバッテリであり、この12Vバッテリ9はバッテリ3にコンバータ8を介して接続されている。コンバータ8は、バッテリ3からの電圧を降圧して12Vバッテリ9に供給する。符号10はプリチャージコンタクタ、符号11はメインコンタクタであり、バッテリ3とパワードライブユニット7は、これらのコンタクタを介して接続される。プリチャージコンタクタ10、及びメインコンタクタ11はモータ制御装置5によってオン、オフ制御が行われる。」(段落【0011】ないし【0016】)

(エ)「【0019】次に上述した構成からなるハイブリッド車両の制御装置の動作を簡単に説明する。先ず、バッテリ制御装置6がバッテリ3側における電流Ibatt、電圧Vbatt等の値より残容量を算出し、その値をモータ制御装置5へ出力する。モータ制御装置5は、受け取った残容量をエンジン制御装置4へ出力する。エンジン制御装置4は、残容量、エンジン回転数、スロットル開度、エンジントルク、モータの実トルク等によりモード(アシスト、回生、始動、減速等)と、モータ2における必要電力を決定し、モードと要求電力をモータ制御装置5へ出力する。
【0020】モータ制御装置5は、エンジン制御装置4からモード及び要求電力を受け取ると、アシスト及び減速時において、パワードライブユニット7の入力側の電力(図1の電圧センサ14、及び電流センサ15側)が、エンジン制御装置5から受け取った要求電力になるようにフィードバックを行い、トルクを算出する。一方、モータ制御装置5は、クルーズ時において、バッテリ3の電力値(図1の電圧センサ16、及び電流センサ17側)が要求電力になるようにフィードバックを行いトルクを算出する。このようにトルクが算出されると、モータ制御装置5は算出したトルクに従ってパワードライブユニット7を制御する。また、モータ制御装置5は、始動時において、パワードライブユニット7を制御することにより、モータ2によるエンジン始動制御を行う。
【0021】次に、モータ制御装置5はパワードライブユニット7から、実トルクを受け取ると、実トルクをエンジン制御装置4へ出力する。エンジン制御装置4、モータ制御装置5、バッテリ制御装置6は、上述した処理を所定のタイミングで随時行うことにより、エンジン1、モータ2、バッテリ3の制御を行い、ハイブリッド車両を駆動させる。
【0022】次に、上述した車両においてモータ系に故障が発生した場合について説明する。なお、モータ系とは、モータ及びモータの制御に係る部品を指し、これはモータの制御に不可欠な部品である。具体的には、パワードライブユニット7や、電圧センサ14、16、電流センサ13、15、17、また、モータ2とパワードライブユニット7をつなぐ三相線、及びモータ2等が挙げられる。このようなモータ系に故障が発生した場合は、次のように検出される。」(段落【0019】ないし【0022】)

(オ)「【0026】また、電流センサ15、及び17の故障も同様に、電流センサ15によって検知されるパワードライブユニット7側の電流Ipduと、電流センサ17によって検知される電流Ibattの値が、コンバータ8に流れる電流を考慮して同等ではなかった場合に、モータ制御装置5は電流センサの故障と判断する。また、パワードライブユニット7とバッテリ3間を接続し、電力を送電している送電線の切断においても、電圧、電流センサ14?17の値をモニタすることで、故障を検出できる。
【0027】上述したように、モータ制御装置5は、電流センサ、電圧センサから送信される電圧や電流値を常時モニタしており、これらの値に異常を検出すると、モータ系の故障と判断し、エンジン制御装置4にモータ系故障の信号を出力する。
【0028】次に、上述したようなモータ系の故障が発生し、モータ2の通常制御ができなくなった場合に、モータ制御装置5及び、エンジン制御装置4が行う処理について図2、及び図3を参照して説明する。先ず、モータ系に故障が発生したときにモータ制御装置4が行う処理について図2を参照して説明する。
【0029】先ず、ステップSA1において、モータ制御装置5は常時、上述した電圧センサ、電流センサから送信される電圧、及び電流をモニタしており、これらの値に異常があった場合、オン状態であったメインコンタクタ11をオフすることで、パワードライブユニット7とバッテリ3とを電気的に切り離し、(ステップSA2)、モータの制御を停止する(ステップSA3)。なお、モータ制御装置5は、ステップSA1において、モータ系の故障を検出した時には、上述した処理を行うとともに、エンジン制御装置4に、モータ系故障発生の信号を出力する。
【0030】一方、ステップSA1で、モータ系の故障が検出されなかった場合は、通常のモータ制御を行う。即ち、エンジン制御装置5から要求トルクを受け取りこれに対応して、パワードライバユニット7を制御する。上述したように、モータ制御装置5はモータ系の故障を検出すると、メインコンタクタ11をオフし、これによりモータ2の制御、即ちパワードライブユニット7の制御を中止する。
【0031】しかし、メインコンタクタ11をオフし、パワードライブユニット7の制御を中止しても、モータ2はエンジン1の回転数と同じ回転数で回転し続け、回生によってこの回転数に応じた電圧を発生している。
【0032】このように、メインコンタクタ11がオフされている状態で、即ち、バッテリ3とパワードライブユニット7が非接続の状態で、モータ2によって回生が続けられると、パワードライブユニット7には耐電圧を超える電圧が印加されることとなる。この結果、パワードライブユニット7は破壊ないしは、耐久寿命を短縮してしまう。そこで、モータ2の回転数を、モータ2の回生により発生する電圧をパワードライブユニット7の耐電圧以下に制限し、パワードライブユニット7の破壊ないしは耐久寿命の短縮を防ぐことが必要となる。
【0033】以下、エンジン制御装置4が行うエンジン回転数の制御について図3を参照して説明する。まず、ステップSB1で、モータ制御装置5によってモータ系の故障が検出されているかを判断する。即ち、故障発生によりメインコンタクタ11がオフ状態であるかを判断する。そして、モータ制御装置5によってモータ系の故障が検出されていた場合(メインコンタクタ11がオフ状態であった場合)は、ステップSB2に進み、上限エンジン回転数を5500rpmに設定する。
【0034】一方、ステップSB1で、モータ系の故障が検出されていなかった場合は、ステップSB3に進み、上限エンジン回転数を7000rpmに設定する。次に、ステップSB2または、ステップSB3において上限エンジン回転数が設定されると、ステップSB4において、現在のエンジン回転数が、上述した上限エンジン回転数以下か否かを判断する。そして、現在のエンジン回転数が上述した上限エンジン回転数を上回っていた場合には、ステップSB5においてエンジンへの燃料供給を停止するフューエルカット(Fuel-Cut)を行い、エンジン回転数を低下させる。これにより、モータ回転数も同様に低下し、モータ2の回生によって発生される電圧を低下させる。
【0035】このように、エンジン制御装置4は、所定時間ごとにエンジン回転数をモニタし、モータ系の異常が検出されている場合は、上限エンジン回転数を5500rpmに設定し、エンジン回転数をこの上限エンジン回転数以下になるよう制限する制御を行う。
【0036】なお、本実施形態におけるモータ2はエンジン回転数が1000rpmで60V発電する能力を有している。従って、エンジン回転数5500rpmで回生される電圧は、(5500/1000)*60=330Vであり、本実施形態ではパワードライブユニット7に330V以上の電圧が印加されないようモータ2の回生を制御していることとなる。なお、330Vはパワードライブユニット7の耐電圧以下の値とする。
【0037】このように、エンジン回転数を制限することにより、モータ2の回生によって発生される電圧により、パワードライブユニット7の破壊、ないしは寿命が短縮されることを防止することができる。なお、図3のステップSB3における上限エンジン回転数=7000rpmとは、エンジン1を保護するために設定された値であり、車両が通常の走行を行っているときには、上限エンジン回転数は、この値に設定されている。」(段落【0026】ないし【0037】)

上記記載事項及び図示内容を総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物には、次の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されている。

「車両を走行させるエンジン1と、
前記エンジン1の出力軸に連結されたモータ2と、
前記モータ2に電気的に接続して、前記モータ2に電力を供給し、前記モータ2により発電された電力を充電するバッテリ3と、
前記エンジン1の動作及び前記モータ2の動作を制御するエンジン制御装置4、モータ制御装置5及びバッテリ制御装置6と、
を備え、
エンジン制御装置4、モータ制御装置5及びバッテリ制御装置6は、
前記車両の走行開始後に前記モータ2を駆動して、前記エンジンの駆動力をアシストするアシスト制御を行い、
パワードライブユニット7とバッテリ3間を接続し電力を送電している送電線の切断を検出した場合は、パワードライブユニット7とバッテリ3とを電気的に切り離し、モータ2の制御を停止するハイブリッド車両の制御装置。」

イ 対比・判断
本願補正発明と刊行物発明とを対比すると、後者における「エンジン1」は前者における「駆動力源」に相当し、以下同様に、「モータ2」は「モータジェネレータ」に、「バッテリ3」は「バッテリ」に、「エンジン制御装置4、モータ制御装置5及びバッテリ制御装置6」は「制御装置」に、「前記エンジンの駆動力をアシストするアシスト制御を行い」は「前記駆動力源の駆動力をアシストするトルクアシスト制御部を備え」に、「パワードライブユニット7とバッテリ3間を接続し電力を送電している送電線の切断を検出した場合」は「前記バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合」に、「パワードライブユニット7とバッテリ3とを電気的に切り離し、モータの制御を停止する」は「前記トルクアシスト制御部による駆動力のアシストを禁止し」に、「ハイブリッド車両の制御装置」は「車両の駆動装置」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「車両を走行させる駆動力源と、
前記駆動力源の出力軸に連結されたモータジェネレータと、
前記モータジェネレータに電気的に接続して、前記モータジェネレータに電力を供給し、前記モータジェネレータにより発電された電力を充電するバッテリと、
前記駆動力源の動作及び前記モータジェネレータの動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記車両の走行開始後に前記モータジェネレータを駆動して、前記駆動力源の駆動力をアシストするトルクアシスト制御部を備え、
前記バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合は、前記トルクアシスト制御部による駆動力のアシストを禁止する車両の駆動装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、制御装置が「前記バッテリと電気的に接続して」駆動力源の動作及びモータジェネレータの動作を制御するのに対し、
刊行物発明は、エンジン制御装置4、モータ制御装置5及びバッテリ制御装置6がかかる構成を備えていない点。

[相違点2]
本願補正発明は、バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合に「前記モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作する」のに対し、
刊行物発明は、パワードライブユニット7とバッテリ3間を接続し電力を送電している送電線の切断を検出した場合に、かかる構成を備えていない点。

そこで、各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
本願補正発明の制御装置が「前記バッテリと電気的に接続して」駆動力源の動作及びモータジェネレータの動作を制御するとの事項に関して、請求人は、補正の根拠として出願当初明細書の段落【0043】及び図1に基づくと述べるところ(平成28年6月3日の意見書「3.補正の根拠」の欄)、当該段落には、「【0043】前述のように、アイドルストップによりエンジン2を停止した後、アイドルストップ許可条件が成立しなくなったときは、ECM51は、メインバッテリ41を電源として用いてモータジェネレータ21を駆動して、エンジン2を再始動する。」との記載があり、また、図1には、メインバッテリ41がハーネス48を介してモータジェネレータ21のINV24に接続することが示されている。
そうすると、本願補正発明の上記事項は、制御装置がメインバッテリを電源として用いてモータジェネレータを駆動させることと解される。

他方、刊行物には、「モータ制御装置5は、始動時において、パワードライブユニット7を制御することにより、モータ2によるエンジン始動制御を行う」(段落【0020】)との記載、「バッテリ3とパワードライブユニット7は、これらのコンタクタを介して接続される。プリチャージコンタクタ10、及びメインコンタクタ11はモータ制御装置5によってオン、オフ制御が行われる」(段落【0016】)、「パワードライブユニット7とバッテリ3間を接続し、電力を送電している送電線」(段落【0026】)との記載がある。
これらの記載からみて、モータ制御装置5は、バッテリ3を電源として用いてモータ2によるエンジン始動制御を行うから、刊行物には、本願補正発明の上記事項が記載されているといえる。

また、本願の出願前に、制御装置がバッテリと電気的に接続して駆動力源の動作及びモータジェネレータの動作を制御することは、周知技術(例えば、特開2008-296612号公報(段落【0027】、段落【0028】、図1、図2)、再公表特許第2008/018539号(段落【0126】、図5)、特開2003-184598号公報(段落【0031】、段落【0035】、段落【0043】、図1)、特開2010-280334号公報(段落【0020】、段落【0030】、段落【0031】、段落【0035】、図1))でもある。

そうしてみると、刊行物発明において、刊行物に記載された事項及び上記周知技術を参酌して、相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
本願補正発明の「前記モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作する」との事項に関して、前記「2」で述べたとおり、補正の根拠とされた段落【0096】には、「【0096】メインバッテリ41の端子接続が外れた場合にも、モータジェネレータ21により発電が行われ、この電力が各電気負荷に供給されるため、車両1は通常通り走行可能である」との記載がある。
この記載からみて、本願補正発明の上記事項は、バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合はモータジェネレータにより発電された電力が供給されて各電気負荷が動作することと解される。

他方、刊行物には、「符号9は各種補機類を駆動するための12Vバッテリであり、この12Vバッテリ9はバッテリ3にコンバータ8を介して接続されている。」(段落【0016】)との記載、及び「モータ制御装置5はモータ系の故障を検出すると、メインコンタクタ11をオフし、これによりモータ2の制御、即ちパワードライブユニット7の制御を中止する。しかし、メインコンタクタ11をオフし、パワードライブユニット7の制御を中止しても、モータ2はエンジン1の回転数と同じ回転数で回転し続け、回生によってこの回転数に応じた電圧を発生している。」(段落【0030】及び段落【0031】)との記載があり、また、図1には、モータ2とバッテリ3とが送電線によってプリチャージコンタクタ10及びメインコンタクタ11を介することなく接続していることが示されている。

これらの記載及び図示内容に接した当業者であれば、刊行物発明において、パワードライブユニット7とバッテリ3間を接続し電力を送電している送電線の切断を検出した場合、パワードライブユニット7とバッテリ3とを電気的に切り離しても、エンジン1により回転するモータ2により発電された電力がバッテリ9を介して各種補機類、すなわち各電気負荷に供給されて動作することを把握し得たことである。

そうしてみると、刊行物発明において、刊行物に記載された事項を参酌して、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)効果について
本願補正発明が奏する効果は、全体としてみて、刊行物発明、刊行物に記載された事項及び上記周知技術から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

ウ 小括
したがって、本願補正発明は、刊行物発明、刊行物に記載された事項及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合しておらず、仮に適合するとしても、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年6月3日の手続補正書の請求項1ないし5に記載された事項により特定されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2〔理由〕1」に補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 刊行物
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物、その記載事項、及び刊行物発明は、前記「第2〔理由〕3(2)ア」に記載したとおりである。

3 対比及び当審の判断
本願発明は、前記「第2〔理由〕」で検討した本願補正発明における「前記バッテリの電気的接続が切断していることを検出した場合」についての「前記モータジェネレータにより発電された電力が供給されて動作する」との限定を省いたものである。
そうしてみると、本願発明の発明特定事項をすべて含んだものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕3(2)イ及びウ」に記載したとおり、刊行物発明、刊行物に記載された事項及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物発明、刊行物に記載された事項及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物発明、刊行物に記載された事項及び前記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-27 
結審通知日 2017-08-01 
審決日 2017-08-17 
出願番号 特願2012-132720(P2012-132720)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B60K)
P 1 8・ 537- Z (B60K)
P 1 8・ 575- Z (B60K)
P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 槙原 進
冨岡 和人
発明の名称 車両の駆動装置  
代理人 後藤 政喜  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  

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