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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65H
管理番号 1332912
審判番号 不服2016-16043  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-27 
確定日 2017-10-17 
事件の表示 特願2012-262444「シート搬送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月12日出願公開、特開2014-108836、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年11月30日の出願であって、平成28年2月26日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月25日付けで手続補正がされ、同年7月28日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年10月27日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年6月1日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月1日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1乃至9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明9」という。)は、平成29年8月1日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された事項により特定される以下のとおりの発明発明である。
「【請求項1】
シートに処理を行う処理部と、
湾曲経路を含み、前記シートを前記処理部に案内する搬送経路に沿って、前記シートを搬送する搬送手段とを備え、
前記搬送手段は、前記搬送経路を挟んで互いに対向してニップ点を構成し、前記シートを前記搬送経路における前記ニップ点より下流側に搬送する搬送ローラ及びピンチローラを有し、
前記搬送ローラは回転駆動され、
前記ピンチローラは、前記搬送ローラに向けて付勢されて、前記搬送ローラによって従動回転するシート搬送装置であって、
前記搬送ローラを覆う閉鎖位置と、前記搬送ローラから離間して前記搬送ローラを開放する開放位置との間で変位可能なカバーと、
前記カバーに変位可能に支持され、前記ピンチローラを回転可能に支持するホルダを備え、前記ホルダには、前記搬送経路における前記ニップ点より上流側から前記ニップ点に向けて前記シートを案内するガイド部が設けられ、前記ガイド部によって前記湾曲経路の下流側部分が形成され、
前記ホルダと当接し、前記搬送経路における前記ガイド部より上流側の一部を構成し、前記搬送手段のうちの少なくとも前記搬送ローラを回転可能に支持すると共に、前記湾曲経路の上流側部分を形成する基体と、
前記カバーと前記ホルダとの間に設けられ、前記カバーが前記閉鎖位置にある状態で、前記ピンチローラが前記搬送ローラに向けて付勢されるように前記ホルダを前記カバーから離反させる付勢手段とをさらに備え、
前記ホルダは、前記搬送経路に沿って搬送される前記シートの幅方向の一端側から他端側まで延在し、
前記ガイド部は、前記ホルダの前記一端側から前記他端側までに亘って設けられ、
前記付勢手段は、前記一端側に配設された第1付勢手段と、前記他端側に配設された第2付勢手段とからなり、
前記ホルダと前記第1付勢手段及び前記第2付勢手段との間には、前記ホルダより高い剛性を有し、前記幅方向に延びて、前記一端側で前記第1付勢手段に当接し、前記他端側で前記第2付勢手段に当接し、前記一端側と前記他端側との間で前記ホルダと当接する剛性部材が配設され、
前記カバー、前記付勢手段、前記剛性部材及び前記ホルダは、上下方向において、この順で配置されており、
前記ホルダは、前記ニップ点においてピンチローラを介して前記搬送ローラによって支持される第1支持位置と、前記ホルダに設けられ前記基体に向かって突出する当接部が前記基体によって支持される第2支持位置とを有し、
前記付勢手段は、前記搬送経路における前記第1支持位置と前記第2支持位置との間に設けられていることを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
前記ガイド部は、前記ホルダにおける前記搬送ローラと対向する対向面に形成されている請求項1記載のシート搬送装置。
【請求項3】
前記搬送経路は、湾曲して前記シートの搬送方向を変更する湾曲経路を含み、
前記ガイド部は、前記湾曲経路の一部を構成している請求項1又は2記載のシート搬送装置。
【請求項4】
前記カバーには、前記搬送経路における前記ニップ点より下流側において前記シートを案内するカバー側ガイド部が設けられている請求項1乃至3のいずれか1項記載のシート搬送装置。
【請求項5】
前記ガイド部における前記搬送経路の下流側に位置するガイド端縁は、前記ニップ点まで延びている請求項1乃至4のいずれか1項記載のシート搬送装置。
【請求項6】
3個以上の前記ピンチローラが前記幅方向に並び、各前記ピンチローラが有する回転軸が前記シートの前記幅方向の長さよりも短い長さで前記ホルダに回転可能に支持され、
各前記ピンチローラには、前記幅方向の中央に位置する第1ピンチローラと、前記一端側に位置する第2ピンチローラと、前記他端側に位置する第3ピンチローラとが含まれ、
前記ホルダと前記剛性部材とは、前記第1ピンチローラと前記第2ピンチローラとの間、及び前記第1ピンチローラと前記第3ピンチローラとの間で当接している請求項1乃至5のいずれか1項記載のシート搬送装置。
【請求項7】
前記ガイド部と前記カバーとの間には、前記搬送経路における前記ニップ点より下流側に搬送された前記シートの端縁に当接して、前記端縁が前記ピンチローラに引っ張られることを規制する巻き込み防止部が設けられている請求項1乃至6のいずれか1項記載のシート搬送装置。
【請求項8】
前記処理部は、前記シートの画像を読み取る読取処理を行う読取部である請求項1乃至7のいずれか1項記載のシート搬送装置。
【請求項9】
前記処理部によって前記処理が行われた前記シートが排出される排出部を備え、
前記搬送ローラは、前記排出部に前記シートを排出する排出ローラであり、
前記ピンチローラは、前記排出ローラに向けて付勢されて、前記排出ローラによって従動回転する排出ピンチローラである請求項1乃至8のいずれか1項記載のシート搬送装置。」

第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平3-267226号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
ア 「キャビネット6の上部に載置された複写機等の画像形成装置本体7の下部には、キャビネット6の側壁を構成するカバー10が該本体7の側壁に延びている。本実施例では、カバー10の上部は画像形成装置本体7の下部側面にまで延びていて、キャビネット6のトレイから画像形成装置本体7へ延びる用紙給送通路全体に渡っている。すなわち、このカバー10とキャビネット本体側面11との間には、選択されたトレイから取り出された用紙を画像形成装置本体に送る給送通路12が形成されている。」(第4頁左上欄第1?11行)

イ 「キャビネット6の用紙トレイ2?5からの用紙の給送は、用紙給送通路12を通って行われ、この通路12には、用紙を給送するための手段として、間に用紙を挟んで給送する対になった給送部材すなわちローラと用紙が通る通路を形成する、対になった通路形成部材すなわちガイド板が設けられている。」(第4頁右下欄第4?10行)

ウ 「本発明においては、トレイ2?5のそれぞれの用紙送り出し側に、給紙機構32が設けられている。各給紙機構32は、キャビネット6の各トレイの用紙送り出し側の給送部材としての給送ローラ対と、用紙通路形成部材としてのガイド板対とを有する。そして、各給紙機構32の給送ローラ対及びガイド板対の一方が、支持部材33によってカバー10に取付けられ、他方の給送ローラ及びガイド板がキャビネット6の本体の側に取付けられている。」(第5頁左上欄第15?右上欄第4行)

エ 「偏向部材37を出た用紙は、本発明における給送部材として作用する対になった給送ローラ38及び39によって把持され、そのまま、垂直な給送通路12中を給送される。なお、本実施例では、給送ローラ38はモータ等の駆動手段によって駆動され、他の給送ローラ39は用紙をローラ間に圧接するピンチローラとして利用される。」(第5頁左下欄第13?19行)

オ 「既述のように、本発明では、各トレイ毎に設けられた給紙機構32の、対になった給送手段がカバー10の側とキャビネット本体の側とに分離して設けられている。すなわち、各トレイ毎に、一方のローラ38は、キャビネット本体の側に取付けられ、他方のローラ39は、カバー10の側に設けられている。また、一方のガイド板41がキャビネット本体の側に取付けられ、他方のガイド板42がカバー10の側に取付けられている。従って、カバー10を枢動させると、第1図、第5図及び第6図に図示のように、カバー10はローラ39とガイド板42とともに開き、ローラ及びガイド板対に挟まった用紙の除去を容易にしている。」(第5頁右下欄第10?第6頁左上下欄第3行)

カ 「本発明においては、各給紙機構32の、給送部材としての給送ローラ対38及び39は、間に用紙を挟んで給送するため相互に圧接されている。このため、カバー10側のローラ39は、支持部材33によって移動可能に支持され且つローラと支持部材またはカバーとの間にばね(図示せず)等が設けられて該ローラ39がキャビネット本体の側のローラ38に向けて圧接している。」(第6頁左上欄第11?18行)

キ 「また、本発明では、カバー10の側のガイド板42は、キャビネット6の本体側のガイド板41に向けてばね44で付勢されている。そして、カバー10とキャビネット本体側面との間に、用紙給送通路としての用紙が通過できる間隙を維持するため、ガイド板41、42のいずれかに、突起46が設けられている。この突起46は、幾つかの箇所に設けるのが好ましく、これにより、用紙給送通路としての間隙を広い範囲に渡って一様にできる。すなわち、カバー10を閉じると、第3図に示すように、ばね44と突起46によって、ガイド板42が他のガイド板に対して押されて用紙給送通路としての所定の間隙を保った状態で保持される。」(第6頁左上欄第19?右上欄第12行)

ク 第1図から、ガイド板41及び42は、用紙給送通路に沿って搬送される用紙の幅方向の一端側から他端側まで延在していることが看て取れる。

ケ 第3図から、ガイド板42に設けられた突起46は、ガイド板41に当接していることが看て取れる。

コ 第3図から、ばね44の設けられた位置は、給送ローラ対が対向する点と、ガイド板41と突起46が対向する点の間であることが看て取れる。

サ 第6図から、ばね44は、用紙の幅方向の一端側と他端側の2箇所に設けられていることが看て取れる。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「カバー10とキャビネット本体側面11との間には、選択されたトレイから取り出された用紙を画像形成装置本体に送る給送通路12が形成され、
該通路12には、用紙を給送するための手段として、間に用紙を挟んで給送する対になった給送部材であるローラと、用紙が通る通路を形成する対になった通路形成部材であるガイド板が設けられており、
ローラは、モータ等の駆動手段によって駆動される給送ローラ38と、用紙をローラ間に圧接するピンチローラとして利用される他の給送ローラ39とからなり、
該他の給送ローラ39は、支持部材33によって移動可能に支持され且つローラと支持部材またはカバーとの間にばね等が設けられて、キャビネット本体の側のローラ38に向けて圧接され、
ガイド板は、一方のガイド板41がキャビネット本体の側に取付けられ、他方のガイド板42がカバー10の側に取付けられるとともに、用紙給送通路に沿って搬送される用紙の幅方向の一端側から他端側まで延在し、
該カバー10を枢動させると、カバー10はローラ39とガイド板42とともに開き、
カバー10の側のガイド板42は、給送ローラ対が対向する点と、ガイド板41と突起46が対向する点の間であって、キャビネット6の本体側のガイド板41に向けて用紙の幅方向の一端側と他端側の2箇所に設けられたばね44で付勢されており、
ガイド板42には、カバー10とキャビネット本体側面との間に、用紙給送通路としての用紙が通過できる間隙を維持するため、ガイド板41に当接する突起46が設けられいる、複写機等の画像形成装置本体7。」

2.引用文献2について
また、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2000-72275号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
シ 「【請求項1】 第1の支持体側に取り付けられている駆動ローラと、第2の支持体側に取り付けられている従動ローラとからなり、前記第2の支持体が所定位置に移動すると前記従動ローラが前記駆動ローラに所定圧で当接してシートを挟持して搬送する態勢になる搬送ローラ対を具備しているシート搬送装置において、
前記第2の支持体に対して支軸を中心に回動可能となるように取り付けられ、かつ、互いに独立している複数のローラ支持部材によって前記従動ローラを支持した、ことを特徴とするシート搬送装置。」

ス 「【請求項4】 前記各ローラ支持部材は前記駆動ローラと前記従動ローラの間へシートを導くシートガイドを兼ねる、ことを特徴とする請求項1に記載のシート搬送装置。」

セ 「【0012】搬送ローラ対106は、図示しない駆動源からの駆動が伝達されてシート搬送方向に回転する駆動ローラ(ゴムローラ)106aと、同駆動ローラ106aに所定圧で当接して従動回転する従動ローラ(合成樹脂ローラ)106bからなり、両ローラ106a,106bとでシートSを挟持して搬送する。
【0013】本画像形成装置100Aにおいては、搬送ローラ対106にて狭持されたまま紙詰まりを起こしたシートSを画像形成装置本体100内から取り除き易くするため、支軸108を中心に回動して開閉可能なジャム処理用扉107を備えている。そして、搬送ローラ対106の駆動ローラ106aを画像形成装置本体(第1の支持体)100側に取り付け、従動ローラ106bを扉(第2の支持体)107側に取り付けている。
【0014】図11は扉107が閉じられている状態を示している。この場合、従動ローラ(106bは駆動ローラ106aに所定圧で当接しており、シートSの挟持搬送が可能な状態になっている。図12は扉107が開かれてパスが開放された状態を示している。この場合、従動ローラ106bが駆動ローラ106aから離れて、シートSの挟持状態が解除される。」

ソ 「【0028】従動ローラ106bは、扉107に対してボス(支軸)120-1を中心に上下の方向に回動可能に取り付けられている合成樹脂製のアーム形ローラホルダ(ローラ支持部材)120の先端(自由端)に回転可能な状態で装着されている。扉107には独立している2つのローラホルダ120,120が所定の間隔を置いて取り付けられており、従動ローラ106bはこれら2つのローラホルダ120,120によって両端を支持されている。図4は2つのローラホルダ120,120によって支持されている従動ローラ106bを示す。従動ローラ106bは穴120-4に嵌め込まれている。
【0029】扉107に取り付けられたローラホルダ120は、同ローラホルダ120と扉107との間に介在する付勢ばね125(図4、図5参照)によって前方に付勢されている。付勢ばね125はローラホルダ120のばね取付部120-3に取り付けられている。また、このローラホルダ120は扉107の溝107-6を移動して扉107に係止するストッパ爪120-2,120-2によって前方への移動量が規制されている。図8はローラホルダ120のストッパ爪120-2,120-2が扉107に係止している状態を示している。この時、ローラホルダ120は扉107のガイド107-2,107-3(図6、図7参照)によって狭持されているため、ボス120-1が穴107-1から抜けることはない。ローラホルダ120のばね取付部120-3はガイド107-4,107-5によって挟持されている。」

タ 図1から、カセット101内のシートSは、給紙ローラ104によって送り出された後、搬送ローラ対106の箇所で、搬送方向を変更する湾曲通路を搬送されることが看て取れる。

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「搬送ローラ対106は、駆動源からの駆動が伝達されてシート搬送方向に回転する駆動ローラ(ゴムローラ)106aと、同駆動ローラ106aに所定圧で当接して従動回転する従動ローラ(合成樹脂ローラ)106bからなり、両ローラ106a,106bとでシートSを挟持して搬送し、
搬送ローラ対106の駆動ローラ106aを画像形成装置本体(第1の支持体)100側に取り付け、従動ローラ106bを開閉可能なジャム処理用扉(第2の支持体)107側に取り付け、
従動ローラ106bは、扉107に対してボス(支軸)120-1を中心に上下の方向に回動可能に取り付けられている2つのローラホルダである合成樹脂製のアーム形ローラホルダ(ローラ支持部材)120の先端(自由端)に回転可能な状態で装着され、
各ローラ支持部材は前記駆動ローラと前記従動ローラの間へシートを導くシートガイドを兼ねるとともに、給紙ローラ104によって送り出されたシートSは搬送ローラ対106の箇所で、搬送方向を変更する湾曲通路を搬送される画像形成装置。」

3.引用文献3乃至8について
「搬送経路を覆う開閉可能なカバーにカバー側ガイド部材を設ける画像形成装置」という周知技術1が、例えば引用文献3(特開平4-20443号公報の明細書の第2頁左下欄第6行?右上欄第1行参照)及び4(特開2012-214263号公報の明細書の段落【0032】?【0039】参照)に記載されている。
「従動ローラを保持する部材に、補強する剛性部材を設ける画像形成装置」という周知技術2が、例えば引用文献5(特開平10-72140号公報の明細書の段落【0024】?【0030】参照)及び6(特開2009-137201号公報の明細書の段落【0028】参照)に記載されている。
引用文献7(米国特許出願公開第2005/0098943号明細書の、[0143]、 [0156]、 [0149]、[0152] ? [0156]、参照)には、「3個以上のピンチローラ(idle rollers 257)が幅方向に並び、各前記ピンチローラが有する回転軸(rotary shafts 28)がシートの前記幅方向の長さよりも短い長さでホルダ(bracket 255)に回転可能に支持され、各前記ピンチローラには、前記幅方向の中央に位置する第1ピンチローラと、前記一端側に位置する第2ピンチローラと、前記他端側に位置する第3ピンチローラとが含まれ、前記ホルダと前記剛性部材(supporting plate 253)とは、前記第1ピンチローラと前記第2ピンチローラとの間、及び前記第1ピンチローラと前記第3ピンチローラとの間で当接している」技術事項が記載されている。
「搬送経路におけるニップ点より下流側に搬送されたシートの端縁に当接して、前記端縁が前記ピンチローラに引っ張られることを規制する巻き込み防止部を設ける画像形成装置」という周知技術3が、例えば引用文献8(特開平9-34202号公報の明細書の段落【0024】参照)に記載されている。

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「用紙」は、本願発明1における「シート」に相当する。
以下同様に、『「給送通路12」及び「用紙給送通路」』は、「搬送経路」に、「ローラ38」は「搬送ローラ」に、「給送ローラ39」は「ピンチローラ」に、「カバー10」は「カバー」に、「ガイド板42」は「ガイド部」に、「支持部材33」は「ホルダ」に、「ばね44」は「付勢手段」に、「突起46」は「当接部」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の画像形成装置本体7は、具体的には「複写機」であり、用紙に何らかの処理を行っていることは明らかであるから、本願発明1における「処理部」に相当する構成を有することは自明である。
引用発明1の給送ローラ39は、ローラ38に対してピンチローラとして機能しているから、本願発明1における「ニップ点」に相当する構成を有することは自明である。
したがって、本願発明1と引用発明1との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「シートに処理を行う処理部と、
前記シートを前記処理部に案内する搬送経路に沿って、前記シートを搬送する搬送手段とを備え、
前記搬送手段は、前記搬送経路を挟んで互いに対向してニップ点を構成し、前記シートを前記搬送経路における前記ニップ点より下流側に搬送する搬送ローラ及びピンチローラを有し、
前記搬送ローラは回転駆動され、
前記ピンチローラは、前記搬送ローラに向けて付勢されて、前記搬送ローラによって従動回転するシート搬送装置であって、
前記搬送ローラを覆う閉鎖位置と、前記搬送ローラから離間して前記搬送ローラを開放する開放位置との間で変位可能なカバーと、
前記カバーに変位可能に支持され、前記ピンチローラを回転可能に支持するホルダを備え、前記ホルダには、前記搬送経路における前記ニップ点より上流側から前記ニップ点に向けて前記シートを案内するガイド部が設けられ、
前記カバーと前記ホルダとの間に設けられ、前記カバーが前記閉鎖位置にある状態で、前記ピンチローラが前記搬送ローラに向けて付勢されるように前記ホルダを前記カバーから離反させる付勢手段とをさらに備え、
前記ホルダは、前記搬送経路に沿って搬送される前記シートの幅方向の一端側から他端側まで延在し、
前記ガイド部は、前記ホルダの前記一端側から前記他端側までに亘って設けられ、
前記付勢手段は、前記一端側に配設された第1付勢手段と、前記他端側に配設された第2付勢手段とからなるシート搬送装置。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は「湾曲経路」という発明特定事項を備えるのに対し、引用発明1は該発明特定事項に相当する構成を備えていない点。
(相違点2)本願発明1は「ガイド部によって湾曲経路の下流側部分が形成」されているのに対し、引用発明1はそうではない点。
(相違点3)本願発明1は、「ホルダと当接し、搬送経路におけるガイド部より上流側の一部を構成し、搬送手段のうちの少なくとも搬送ローラを回転可能に支持すると共に、湾曲経路の上流側部分を形成する基体」という発明特定事項を備えるのに対し、引用発明1は該発明特定事項に相当する構成を備えていない点。
(相違点4)本願発明1は「ホルダと第1付勢手段及び第2付勢手段との間には、前記ホルダより高い剛性を有し、(搬送経路に沿って搬送されるシートの)幅方向に延びて、一端側で前記第1付勢手段に当接し、他端側で前記第2付勢手段に当接し、前記一端側と前記他端側との間で前記ホルダと当接する剛性部材が配設され、カバー、前記付勢手段、前記剛性部材及び前記ホルダは、上下方向において、この順で配置」されているのに対し、引用発明1は本願発明1の発明特定事項である「剛性部材」に相当する構成を備えていない点。
(相違点5)本願発明1は「ホルダは、ニップ点においてピンチローラを介して搬送ローラによって支持される第1支持位置と、前記ホルダに設けられ基体に向かって突出する当接部が基体によって支持される第2支持位置とを有し、付勢手段は、搬送経路における前記第1支持位置と前記第2支持位置との間に設けら」れているのに対し、引用発明1はそうではない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、「基体」という発明特定事項を含む、上記相違点3及び5について検討する。
本願発明1の「基体」は、上記引用文献2には記載されておらず、また他の引用文献3乃至8にも記載されないものであり、該発明特定事項がこの技術分野において周知技術1乃至3であるとも、設計事項であるともいえない。
また、引用発明1において、本願発明1のホルダに相当する支持部材33に取り付けられたガイド板42にさらに取り付けられた突起46が当接しているのは、ガイド板41であって、該ガイド板41は、搬送経路におけるガイド部より上流側の一部を構成するものでも、搬送ローラを回転可能に支持するものでもないから、本願発明1の「基体」に相当するものではない。
そして、本願発明1は、該発明特定事項を備えることによって「搬送経路における第1支持位置と第2支持位置との間に設けられた付勢手段にホルダが付勢されることにより、ホルダの姿勢が第1支持位置と第2支持位置とで確実に決められるので、ホルダのガタツキを確実に抑制でき、ホルダのガタツキによって搬送経路が変形する不具合が生じ難く、搬送ローラ及びピンチローラまでのシートの搬送を一層安定させることができる(本願明細書段落【0017】参照)」という顕著な効果を奏しているものである。
したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明1及び2、引用文献3乃至8に記載された周知技術又は技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2乃至9について
本願発明2乃至9は、いずれも、本願発明1の「基体」という発明特定事項を備えるものであり、さらに他の発明特定事項を限定したものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1及び2、引用文献3乃至8に記載された周知技術又は技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1乃至9について上記引用文献1乃至8に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、平成29年8月1日付け手続補正により補正された請求項1乃至9は、「基体」という事項を有するものとなっており、上記のとおり、本願発明1乃至9は、上記引用文献1乃至8に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1.特許法第36条第6項第2号について
(1)当審では、請求項1の「前記基体よって」という記載の意味が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年8月1日付けの補正において、「前記基体によって」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1乃至9は、当業者が引用文献1乃至8に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-02 
出願番号 特願2012-262444(P2012-262444)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山下 浩平西本 浩司  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 畑井 順一
吉村 尚
発明の名称 シート搬送装置  

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