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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1333005
審判番号 不服2015-1813  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-29 
確定日 2017-10-04 
事件の表示 特願2010-522094「秩序結晶性有機膜の成長」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月 5日国際公開、WO2009/029548、平成22年12月 2日国内公表、特表2010-537432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件出願は、2008年8月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年8月24日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年9月19日に拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、平成27年1月29日に請求された拒絶査定不服審判であって、当審における平成28年1月13日付けの拒絶理由通知に対して、同年7月13日に意見書が提出されるとともに、手続補正がなされ、その後、当審における同年9月28日付けの拒絶理由通知に対して、平成29年4月3日に意見書(以下、単に「意見書」という。)が提出されるとともに、手続補正がなされたものである。

2 本件出願の特許請求の範囲の記載
本件出願の請求項1ないし26の記載は、平成29年4月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
基板を提供すること、および
有機気相堆積で前記基板上に第1有機材料の結晶層を成長させることを含み、
前記基板は、前記有機気相堆積の間-40℃から90℃の範囲の温度に維持され、
前記結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有し、第2有機材料とともにドナーアクセプタヘテロ接合を形成する、有機感光性光電子デバイスを形成する方法。
【請求項2】
前記結晶層は、少なくとも150Åの厚さである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結晶層は、少なくとも400Åの厚さである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板は、ハロゲン化アルカリ材料を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化アルカリ材料は、KBrを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基板上に第1有機材料の前記結晶層を成長させる前に自己集合単分子層を堆積することをさらに含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記自己集合単分子層は、アルカンチオールを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基板は、高配向熱分解黒鉛を含む、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1有機材料は、小分子またはポリマー材料を含む、請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記小分子材料は、PTCDAを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記小分子材料は、CuPcを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第1有機材料は、CuPcを含み、前記第2有機材料は、PTCDAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記結晶層は、少なくとも1.0cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する、請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記結晶層は、少なくとも4.0cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する、請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
基板上に第1有機材料の結晶層を含む有機感光デバイスであって、
前記結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有し、第2有機材料とともにドナーアクセプタヘテロ接合を形成する、有機感光デバイス。
【請求項16】
前記結晶層は、少なくとも150Åの厚さである、請求項15に記載の有機感光デバイス。
【請求項17】
前記基板は、ハロゲン化アルカリ材料を含む、請求項15または16に記載の有機感光デバイス。
【請求項18】
前記ハロゲン化アルカリ材料は、KBrを含む、請求項17に記載の有機感光デバイス。
【請求項19】
前記基板と前記結晶層との間に自己集合単分子層をさらに含む、請求項15?18のいずれか1項に記載の有機感光デバイス。
【請求項20】
前記自己集合単分子層は、アルカンチオールを含む、請求項19に記載の有機感光デバイス。
【請求項21】
前記基板は、高配向熱分解黒鉛を含む、請求項15または16に記載の有機感光デバイス。
【請求項22】
前記第1有機材料は、小分子またはポリマー材料を含む、請求項15?21のいずれか1項に記載の有機感光デバイス。
【請求項23】
前記小分子材料は、PTCDAを含む、請求項22に記載の有機感光デバイス。
【請求項24】
前記小分子材料は、CuPcを含む、請求項22に記載の有機感光デバイス。
【請求項25】
前記第1有機材料は、CuPcを含み、前記第2有機材料は、PTCDAおよびC60から選択される、請求項15に記載の有機感光デバイス。
【請求項26】
前記結晶層は、少なくとも4.0cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する、請求項15?25のいずれか1項に記載の有機感光デバイス。」

3 当審における平成28年9月28日付けの拒絶理由
当審における平成28年9月28日付けの拒絶理由通知書に記載した特許法第36条第4項第1項、並びに、同条第6項第1号及び同条第6項第2号に関する理由は概ね次の通りである。
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア 請求項1、15の「結晶層は、前記基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有」することは、その技術的意味が明確でない。
よって、請求項1,15に係る発明及びその引用請求項である請求項2?14,16?26に係る発明は、明確でない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 「基板」が単結晶KBr基板であること、及び、「第1有機材料」がPTCDA膜であることが特定されていない、請求項1,15に係る発明まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
よって、請求項1,15に係る発明及び及びそれらの引用請求項である請求項2?14,16?26に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

イ 本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項2に係る発明の「結晶層は、少なくとも150Åの厚さであ」って、「少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有」することが記載されているとはいえない。
よって、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、同様に、請求項3、16に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
さらに、これらの請求項の引用請求項である請求項4?11、13,17?24,26に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

ウ 基板上に自己集合単分子層を堆積した上で、基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有する結晶層を形成することは、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
よって、請求項6に係る発明及びその引用請求項である請求項7、9?11、13、14は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
同様に、請求項19に係る発明及びその引用請求項である請求項20、22?24、26は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

エ 本件明細書には、「少なくとも4.0cm^(2)」の大きさの秩序化された膜は記載されていない。
よって、請求項14、26に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(3)特許法第36条第4項第1号について
ア 本件明細書には、請求項1,15に係る発明の「結晶層は、前記基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有」する発明特定事項を実施するための、製造方法の条件が記載されていない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1,15に係る発明及びそれらの引用請求項である請求項2?14,16?26に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

イ 本件明細書には、請求項6に係る発明の、「自己集合単分子層」を堆積した際に、は、「基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有」する「結晶層」を形成し得ることが示されていない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項6に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
同様に、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項19に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項6、19の引用請求項である請求項7?11、13、14、20、22?24、26に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

4 審判請求人の対応及び主張
上記の拒絶理由に対して、審判請求人は、平成29年4月3日付けの手続補正により、下記(1)のとおりに補正するとともに、意見書において概ね下記(2)?(4)の主張をした。

(1)補正事項
ア 補正前の請求項1、15の「前記基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有し」との記載を、「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有し」との記載に補正。
イ 補正前の請求項13の「前記基板を少なくとも1.0cm2にわたって観測される結晶秩序を有する」との記載を、「少なくとも1.0cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する」との記載に補正。
ウ 補正前の請求項14、26の「前記基板を少なくとも4.0cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有する」との記載を、「少なくとも4.0cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する」との記載に補正。

(2)特許法第36条第6項第2号について
ア 請求項1および15の記載を、「…前記結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有し、…」という記載に補正いたしました。
したがいまして、「基板」、「観測される」および「結晶秩序」の記載が削除され、これらの記載による不明確性が解消されたものと思料します。また、補正後の記載では、結晶層が、少なくとも1つの単結晶領域を有し、その少なくとも1つの単結晶領域が少なくとも0.25cm^(2)の面積を有することが明確であると思料します。
よって、ご指摘された明確性の拒絶理由は解消されたものと思料します。

(3)特許法第36条第6項第1号について
ア 「基板」が単結晶KBr基板であること、及び、「第1有機材料」がPTCDA膜であることは、本願発明の一実施例に過ぎません。当業者であれば、本願を単に一実施例としてではなく全体としてとらえるものと思料されます。さらに、当業者であれば、本願明細書に開示されている実施例は、限定されるものではなく、本願発明の内容を説明することを目的としたものであることを理解できると思料されます。
また、本願明細書には、PTCDAおよびKBrを使用する例は、「長距離結晶秩序度を得るOVPDの能力の限定されない例」である旨が明確に述べられております(明細書の段落〔0070〕をご参照、強調のため下線を付加)。第2に、上記記載において「特にこの膜/基板の組合せ」の文言は、その例において、PTCDAとKBrの限定されない組み合わせについて手短に言及したものであります。当業者であれば、上記文言が本開示の残り部分を排して本願明細書の範囲をPTCDAおよびKBrの材料に限定するものであると解釈することはないと思料します。
むしろ、当業者であれば、本開示が広い適用可能性を有していることを理解できるものと思料します。たとえば、本願明細書は、限定されない例において観測される結晶秩序は、「歪が5%超える、PTCDAとKBr構造との間には明らかな格子整合(lattice match)がないので、これは注目すべきことである。」旨を述べております(段落〔0074〕をご参照、強調のため下線を付加)。本願明細書は、さらに『整合性なしで、秩序化される一方で緩和される基板上の結晶のこの能力は、有機材料の「ソフトな(soft)」ファン・デル・ワールス結合特性の直接的な結果と考えられている。』と続きます。そして、本願明細書は、「上の複数の例は、結晶の長距離秩序度を有する膜が、OVPDにより利用可能となった好ましい成長条件下において小分子有機材料を用いて得ることができることを明らかに示している。」と結論づけております(段落〔0077〕をご参照)。
このように、当業者が本願を全体として読めば、本開示が広い範囲に適用可能であることは容易に理解できるものと思料します。当業者であれば、ファン・デル・ワールス結合は、PTCDA膜/KBr基板の組み合わせに限られたものではなく、他の有機半導体材料に拡張できることを容易に理解できるものと思料します。したがいまして、本願がPTCDA膜とKBr基板の組み合わせに限定されることはなく、請求項1および15の発明が詳細な説明に記載されたものであることは明らかであるものと思料します。
さらに、付言するならば、本件につきまして、審判官殿は、本願で開示された限定されない例以外で、当業者が本願発明の方法のための適切な材料を選択できなかったことを何ら示されておりません。
よって、ご指摘されたサポート要件の拒絶理由は解消されたものと思料します。

イ 当業者であれば、本発明が400Å以外の厚さを含むことは容易に理解できるものと思料します。実際、本願明細書には、「結晶層は、少なくとも約150Åの厚さであ」ることが明確に記載されております(段落〔0035〕をご参照)。
さらに、付言するならば、審判官殿は、本願の請求項に記載され、詳細な説明に記載された厚みにしたがって、当業者が請求項に記載された結晶層を蒸着することができなかったことを何ら示されておりません。
したがいまして、ご指摘されたサポート要件の拒絶理由は解消されたものと思料します

ウ 上述のとおり、本願は、審判官殿が言及された特定の実施例に限定されるものではありません。さらに、付言するならば、審判官殿は、本開示を考慮して、当業者が本願請求項に記載の方法およびデバイスを実施できなかったことを何ら示されておりません。
したがいまして、ご指摘されたサポート要件の拒絶理由は解消されたものと思料します。

エ 上述のとおり、本願は、審判官殿が言及された特定の実施例に限定されるものではありません。さらに、付言するならば、審判官殿は、本開示を考慮して、当業者が本願請求項に記載の方法およびデバイスを実施できなかったことを何ら示されておりません。
したがいまして、ご指摘されたサポート要件の拒絶理由は解消されたものと思料します。

(4)特許法第36条第4項第1号について
ア ご指摘されたガス温度、基板温度、および圧力の具体的条件につきましては、明細書に記載されているか、あるいは当業者によって明細書の記載から推定可能であるものと思料します。とくに、基板温度の範囲は明細書の段落〔0053〕に「一実施形態では、OVPDにおける基板温度は低く保たれ、例えば、-40℃ないし90℃または-40℃ないし25℃の範囲の温度である。」旨が記載されております。審判官殿は、上記記載に関しまして、「温度範囲が広範で具体的ではない」旨をご指摘されておりますが、通常、蒸着技術の分野内で開示されている温度範囲と比較して過度に大きくないことは当業者であれば理解できるものと思料します。
さらに、付言すれば、本願明細書の段落〔0070〕で参照しているShreinらの"Material transport regimes and mechanisms for growth of molecular organic thin films using low-pressure organic vapor phase deposition," J.App. Phys. 89(2)(2001)では、有機気相蒸着の間の蒸着速度をガス温度、基板温度、および圧力などの変数に関連付けるモデルを開示しております。したがいまして、仮に欠如している条件があったとしても、当業者であれば、たとえば段落〔0071〕に開示されている385℃の蒸着温度、「25sccmの窒素流」、「0.7Å/sの表面堆積速度」、「60mTorrの成長圧力」と、段落〔0053〕に記載されている「-40℃ないし90℃または-40℃ないし25℃の範囲の温度」とを使用して、推定することが可能です。
したがいまして、ご指摘された実施可能要件の拒絶理由は解消されたものと思料します。

イ 上述のとおり、本願はPTCDA膜とKBr基板の組み合わせに限定されることはありません。本願明細書の発明の詳細な説明は、請求項6に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると思料します。
したがいまして、ご指摘された実施可能要件の拒絶理由は解消されたものと思料します。

5 本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。
「【0003】
本発明は、概して電子デバイスに使用される有機感光膜と、そのような膜を製造する工程と、そのような膜を使用したデバイスとに関する。」
「【0028】
無秩序な有機膜における電荷キャリアの低い移動度に取り組む1つの方法は、有機材料に秩序性および結晶性を作る加工アプローチ(processing approach)を展開することである。ここに参照することにより併合される、米国出願第11/880,210号は、1つのそのような方法を提供し、活性層がナノ結晶有機領域を含むPVセルを提供して、電荷抽出のための高導電率網(high conductivity networks)を形成する。このセルは、バルクヘテロ接合の高い表面領域に結合して低下された抵抗を含む、結晶材料を使用することによって付与される多くの利益を保持する。」
「【発明を実施するための形態】
【0035】
詳細な説明
したがって、一実施形態では、基板を提供すること、有機気相堆積によって基板上に第1有機材料の厚い結晶層を成長させること、を含み、前記結晶層は、例えば、少なくとも0.25cm^(2)、少なくとも1.0cm^(2)、または少なくとも4.0cm^(2)の長距離秩序度の結晶を有する、有機感光性光電子デバイスにおける層を形成する方法が開示される。結晶層は、少なくとも約150Åの厚さであり、例えば少なくとも約400Åの厚さである。
【0036】
一実施形態では、基板上にハロゲン化アルカリ材料を含みうる第2有機材料の結晶層を堆積させることをさらに含む。一実施形態では、ハロゲン化アルカリ材料は、KBrを含む。別の実施形態では、基板は、高配向熱分解黒鉛(highly oriented pyrolytic graphite)を含む。一実施形態では、開示された基板は、有機気相堆積の間-40℃から90℃の範囲の温度に維持される。」
「【0050】
少なくとも1つの形成された層は、長距離結晶秩序度を有するべきであり、例えば、少なくとも約0.25cm^(2)(0.5cm×0.5cm)、少なくとも約1.0cm^(2)(1.0cm×1.0cm)、または少なくとも約4.0cm^(2)(2.0cm×2.0cm)の結晶秩序度である。
【0051】
一実施形態では、少なくとも1つの層が隣接する1つの層と同じ方向に配向されている。
【0052】
一実施形態では、少なくとも1つの層を作製するために小分子有機材料が使用される。そのような材料の限定されない例は、CuPc、PTCDA、およびC_(60)を含む。
【0053】
一実施形態では、OVPDにおける基板温度は低く保たれ、例えば、-40℃ないし90℃または-40℃ないし25℃の範囲の温度である。」
「【0055】
基板は、所望の構造特性を提供する任意の適した基板でありうる。基板は、柔軟性があってもなくても、平らであってもなくてもよい。いくつかの実施形態では、ハロゲン化アルカリ基板、例えばKBrが使用される。別の実施形態では、熱分解黒鉛および配向熱分解黒鉛も用いられる。いくつかの実施形態では、基板は、有機材料の厚い結晶層を含みうる。基板は透明、半透明、または不透明でありうる。硬い樹脂およびガラスは、硬い基板材料の例である。柔軟性のある樹脂および金属箔は、柔軟性のある基板材料の例である。図8に示されているように、貨幣金属、例えば、金、銀に流し込める(cast onto)自己集合単分子層は、基板として使用されうる。一実施形態では、SAMはアルカンチオールを含む。別の実施形態では、SAMは、膜とアノード(または図8に示されるようにITO皮膜されたアノード)との間の結合強度が、膜と選択されたSAMとの間よりも強くなるように選択されて、SAMが皮膜された基板からの膜の移動を容易にする。」
「【0068】
通常のOVPD工程
OVPDシステムの概略図の限定されない例が図3に示される。OVPDにおいて、熱い不活性搬送ガス1は、ソースセル3から放射する蒸発された有機2とともに注入される。有機2は、堆積が起きる冷却された基板4に輸送され、それゆえに膜5を形成する。ガス温度、基板温度、および圧力は、変化されて膜5の結晶性に影響を与える。
【0069】
一実施形態では、膜5の結晶性を監視するために原位置で(in situ)の診断、例えば有機分子線蒸着(molecular beam deposition)(OMBD)などのような超真空システムでよく使用される技術である、例えば反射高速電子回折(RHEED)が使用されうる。
【0070】
長距離結晶秩序度を得るOVPDの能力の限定されない例は、KBrの単結晶上に3,4,9,10ペリレンテトラカルボン酸二無水物(perylenetetracarboxylic dianhydride)(PTCDA)の原型分子結晶を成長させることによって実証される。成長は、前述の垂直なマルチバレル石英(multibarrel quartz)OVPDチャンバで実行された。Shteinらのジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス89巻1470頁(2001)を参照、ここに参照することにより組み入れられる。結晶構造は、HP-RHEED(Luntらの応用物理会報,2007,70を参照、ここに参照することにより組み入れられる)でリアルタイムに原位置で、そしてリガク(Rigaku)Cu-Kα回転アノードソースを用いたブラッグ-ブレンターノ配置(Bragg-Brentano configuration)でのX線回折で実験施設内(ex-situ)において監視された。0.1×20mm^(2)電子ビームを用いてHP-RHEEDパターンが、ビームエネルギー、電流、入射角がそれぞれ20keV、<100nA、および?1°において記録された。ビーム電流は、帯電することを避けるため、>100nAにおいて最小化された。溶剤で洗浄されたSi基板上を可変角度分光偏光解析器(variable-angle spectroscopic ellipsometer)を用いて膜厚が成長後に計測された。帯電を防止するために表面を20ÅのAuで皮膜したのち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表面トポグラフィー(surface topography)が観測された。
【0071】
PTCDAは、OVPDチャンバのバレルの中に位置する石英ソースボート(quartz source boat)に装填する前に勾配昇華(gradient sublimation)によって2回精製された。PTCDAは、60mTorrの成長圧力における0.7Å/sの表面堆積速度(nominal deposition rate)に対応する385℃、25sccmの窒素流において蒸発された。単結晶KBr基板は、成長チャンバに装填される前にただちに開列された(cleaved)。
【0072】
HP-RHEEDパターンに指標を付けるため、それぞれの割り付けられた筋の位置について格子面間隔(d-spacings)が計算され、KBrパターンを用いて調整(calibrate)された。X線回折が、面内の表面メッシュの識別を助ける膜のスタック方向(stacking direction)を決定するために使用された。複数の格子定数が格子面間隔に合わせられて、すべてのデータの非線形最小二乗回帰を用いて複数の指標を割り付けた。
【0073】
図4aは、[100]方向に向けられた電子ビームを用いた、むき出しのKBr基板のためのRHEEDパターンを説明する。
【0074】
400Å厚のPTCDA膜の結果的なRHEEDパターンが、2つのKBr結晶方向に沿って図4bおよび図4cに示される。筋の位置は、白い目盛りで強調されている。RHEEDパターン中において、よく画定され、連続的な筋は、電子ビームをプローブする距離または約0.1mm×2cmにわたって平らで秩序度の良い構造であることを示している。図4bについて測定された格子面間隔は、それぞれ(02),(20)=9.7Å,6.0Åである。図4cについて測定された格子面間隔は、それぞれ(11),(12),(14),(24),(26),(28),(55),(66)=10.4Å,7.9Å,4.7Å,3.9Å,2.96Å,2.29Å,2.10Å,1.72Åである。筋の指標付け(単位メッシュ指標が記された短い白線によって表示されているように)は、PTCDAがその緩和されたα-フェーズで成長することを明確に表示している。その上、(110)および(100)KBr方向に沿った筋のパターンの変化は、下層の結晶に対して優先的な配置を明確に示す。歪が5%超える、PTCDAとKBr構造との間には明らかな格子整合(lattice match)がないので、これは注目すべきことである。整合性なしで、秩序化される一方で緩和される基板上の結晶のこの能力は、有機材料の「ソフトな(soft)」ファン・デル・ワールス結合特性の直接的な結果と考えられている。この特性は、世界中の研究機関で大々的に研究されてきており、「準エピタキシー(quasi-epitaxy)」として知られている。特に注目すべきなのは、特にこの膜/基板の組合せについてのこのような大きな、巨視的領域にわたってほぼ完全な配置であることである。秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さであった。このような大きな寸法の厚い膜について、この膜結晶の完全性の度合いは、観測されたことがなかったと考えられる。
【0075】
図5には、ドナー材料、高配向熱分解グラファイト(HOPG)上に成長された銅フタロシアニン(CuPc)の結晶形態上の基板温度および背景反応器圧力(background reactor pressures)のマトリクス(matrix)が示される。成長パラメータの範囲にわたり結晶パラメータ上にかなりの程度の制御(control)があることは明らかである。再び、いくつかの成長条件の下で、基板に対する膜の準エピタキシャル配置(quasi-epitaxial alignment)が観測される。
【0076】
別の限定されない例では、第1有機の結晶層、PTCDAは、基板KBr上に成長し、PTCDAの表面上に第2有機材料の第2方向結晶層CuPcの成長が続く。RHEEDパターンおよび第1および第2層の形態が図6に示される。両方の層は、それらのバルク形態に延びるほど「厚い」ので、付加的な材料の継続的な成長は、結晶の相または層の形態を変化させない。PTCDA層は、40nmの厚さを有し、CuPc層は、15nmの厚さを有する。これが、完全に秩序化されたプレナーヘテロ接合(以下、「有機結晶プレナーヘテロ接合」)を形成する、一の上に他が重ねられたバルク結晶有機材料の成長の最初の実証であると考えられる。
【0077】
上の複数の例は、結晶の長距離秩序度を有する膜が、OVPDにより利用可能となった好ましい成長条件下において小分子有機材料を用いて得ることができることを明らかに示している。さらに、電荷移動度は秩序度の強い関数である。図7に示されるように、PTCDA中の正孔移動度は、成長速度の関数として示される。図7は、超真空で成長されるとき、移動度は2桁増加し、50Å/sの速度で最大1.5cm^(2)/(V・s)に達することを実証している。この増加された移動度は、OVPDによって成長したペンタセン中でも観測されている。応用物理会報第81巻268頁(2002)、M.Shtein,J.Mapel,J.B.Benziger,およびS.R.Forrest、「有機気相堆積されたペンタセン薄膜トランジスタの電気特性上の膜形態およびゲート誘電体表面前処理の効果」を参照、ここに参照することにより本願に組み込まれる。したがって、有機結晶プレナーヘテロ接合を含むPVセル中のそのようなヘテロ接合は、とても高い電力変換効率を有することが予想される。
【0078】
PVセルを製造する一般的な方法
別の実施形態にしたがって、a)成長テンプレートを形成するAu上の予め堆積された自己集合単分子層(SAM)を用いてスタンプ(stamp)上のドナー-アクセプタヘテロ接合のOVPDによる堆積、b)結晶ヘテロ接合をインジウムスズ酸化物(ITO)が皮膜された基板にスタンプすることによる転写、(c)こうして、完全なヘテロ接合が形成され、その上に、(c)励起子阻止層(EBL)および金属カソードが堆積されてセルを完成させる、複数の段階を含むPVセルを製造する例示的な方法が提供される。この限定されない複数の工程の詳細は、図8(a)から図8(d)にそれぞれ示されている。」

6 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第2号について
ア 上記「4」で述べたとおり、審判請求人は、平成29年4月3日付けの手続補正により、補正前の請求項1、15の「前記基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有し」との記載を、「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有し」との記載に補正した。
しかしながら、「単結晶領域」については、発明の詳細な説明に記載がなく、技術常識からみて、三次元の領域であるところ、請求項1、15に記載された「少なくとも0.25cm^(2)の面積」とは、どの箇所の面積なのか依然として明確とはいえない。
本件明細書には、「ここで用いられる「長距離秩序度」という用語は、通常、少なくとも1平方ミクロン(um^(2))、数平方ミクロン(um^(2))、またはいくつかの場合では少なくとも0.5mm^(2)の基板を横切って観測される秩序度のことを称する」(【0066】)と記載されており、この記載は、請求項1の「単結晶領域」を意味するとみられる「秩序度」が、「基板を横切って観測される秩序度のこと」であるとしているが、「基板を横切って」が基板をどのように横切ることを示すのか明瞭でない。
そうすると、請求項1に記載された、「結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」するとの記載は、依然として、明確とはいえない。
したがって、請求項1,15に係る発明及びその引用請求項である請求項2?14,16?26に係る発明は、明確でない。
よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
なお、上述のとおり、請求項1に記載された、「結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」するとの記載は、明確でないものの、本件明細書には、「無秩序な有機膜における電荷キャリアの低い移動度に取り組む1つの方法は、有機材料に秩序性および結晶性を作る加工アプローチ(processing approach)を展開することである」(【0028】)、「一実施形態では、基板を提供すること、有機気相堆積によって基板上に第1有機材料の厚い結晶層を成長させること、を含み、前記結晶層は、例えば、少なくとも0.25cm^(2)、少なくとも1.0cm^(2)、または少なくとも4.0cm^(2)の長距離秩序度の結晶を有する、有機感光性光電子デバイスにおける層を形成する方法が開示される」(【0035】)と記載されており、請求項1に記載された、「結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する記載の技術的意味は、結晶層に所定以上の大きさの単結晶領域を形成して、有機膜における電荷キャリアの移動度を高めることであると解せるので、以下、このような解釈をもとに検討を行う。

(2)特許法第36条第6項第1号について
ア 請求項1,15に係る発明は、「結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する発明特定事項を有するものである。
また、請求項1、15に係る発明は、「基板」が単結晶KBr基板であること、及び、「第1有機材料」がPTCDA膜であることが特定されていない。
一方、本件明細書には、単結晶KBr基板上に秩序度のよいPTCDA膜を形成できた旨の記載の後に、「特に注目すべきなのは、特にこの膜/基板の組合せについてのこのような大きな、巨視的領域にわたってほぼ完全な配置であることである。秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さであった」(【0074】)と記載されており、この記載からすると、「特定の膜/基板の組合せ」により、上記発明特定事項を満たす「全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さ」の「秩序化された」膜を形成することが可能であるといえる。
ここで、上記【0074】の「この膜/基板の組合せ」とは、【0070】?【0074】の記載からみて、PTCDA膜と単結晶KBr基板との組み合わせであることは明らかである。
また、本件明細書には、「一実施形態では、少なくとも1つの層を作製するために小分子有機材料が使用される。そのような材料の限定されない例は、CuPc、PTCDA、およびC60を含む」(【0053】)と記載され、さらに、「基板は、所望の構造特性を提供する任意の適した基板でありうる。基板は、柔軟性があってもなくても、平らであってもなくてもよい。いくつかの実施形態では、ハロゲン化アルカリ基板、例えばKBrが使用される。別の実施形態では、熱分解黒鉛および配向熱分解黒鉛も用いられる」(【0055】)と、PTCDA膜と単結晶KBr基板との組み合わせ以外の材料も用いることができると文言上記載されているものの、PTCDA膜と単結晶KBr基板との組み合わせ以外の組み合わせで、「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」が形成できたことは、本件明細書に示されていない。
また、PTCDA膜と単結晶KBr基板との組み合わせ以外の組み合わせで、「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」を形成し得ることが、技術常識であるともいえない。
そうすると、本件出願は、「基板」が単結晶KBr基板であること、及び、「第1有機材料」がPTCDA膜であることが特定されていない、請求項1,15に係る発明まで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるものではない。
したがって、請求項1,15に係る発明及び及びそれらの引用請求項である請求項2?14,16?26に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、審判請求人は、意見書において、上記「4」「(3)」「ア」のとおり述べている。
しかしながら、上述のとおり、PTCDA膜と単結晶KBr基板との組み合わせ以外の組み合わせで「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」が形成できたことは、本件明細書に記載されていないし、また、「明細書のサポート要件の存在は、特許出願人・・・・又は特許権者・・・・が証明責任を負うと解するのが相当である」(平成17年(行ケ)第10042号)との判例に照らせば、PTCDA膜と単結晶KBr基板との組み合わせ以外の組み合わせで「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」が形成できたことが、特許出願人である審判請求人により証明されていないので、本件出願は、サポート要件を満たしていないといわざる得ない。
よって、審判請求人の意見は採用できない。

イ 請求項2に係る発明は、請求項1を引用するものであるから、「結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」(請求項1)する発明特定事項、及び、「結晶層は、少なくとも150Åの厚さである」(請求項2)発明特定事項を有するものである。
一方、これらの事項に関し、本件明細書【0074】には、400Å厚のPTCDA膜が、電子ビームをプローブする距離または約0.1mm×2cmにわたって平らで秩序度の良い構造であること、及び、秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さであったことが記載されている。
しかしながら、前者の記載は、400Å厚のPTCDA膜が0.02cm^(2)にわたって秩序度の良い構造であることを意味し、後者の記載は、1mmの厚さのPTCDA膜が3cm^(2)(12mm×25mm)にわたって秩序化されていることを意味するものであって、一般に、結晶成長において膜厚が厚ければより大きな結晶を形成し得るところ、これらの記載は、150?400Å程度の薄い厚さの結晶層が、0.25cm^(2)にわたって単結晶領域を有することを記載したものではない。
そうすると、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていないものを含むものといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項2に係る発明の「結晶層は、少なくとも150Åの厚さであ」って、「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」することが記載されているとはいえない。
したがって、請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、同様に、請求項3、16に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
さらに、これらの請求項の引用請求項である請求項4?11、13,17?24,26に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、審判請求人は、意見書において、上記「4」「(3)」「イ」のとおり述べている。
しかしながら、上述のとおり、150?400Å程度の薄い厚さの結晶層において、0.25cm^(2)にわたって単結晶領域を有する結晶層が形成できたことが、本件明細書に記載されていないし、また、上記「ア」の判例に照らせば、150?400Å程度の薄い厚さの結晶層において、0.25cm^(2)にわたって単結晶領域を有する結晶層が形成できたことが、特許出願人である審判請求人により証明されていないので、本件出願は、サポート要件を満たしていないといわざる得ない。
よって、審判請求人の意見は採用できない。

ウ 請求項6に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであるから、「結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」(請求項1)する発明特定事項、及び、「基板上に第1有機材料の前記結晶層を成長させる前に自己集合単分子層を堆積する」(請求項6)発明特定事項を有するものである。
そして、本件明細書には、「自己集合単分子層」に関し、「貨幣金属、例えば、金、銀に流し込める(cast onto)自己集合単分子層は、基板として使用されうる」(【0055】)、「成長テンプレートを形成するAu上の予め堆積された自己集合単分子層(SAM)を用いてスタンプ(stamp)上のドナー-アクセプタヘテロ接合のOVPDによる堆積」(【0078】)と、Au等の基板上に自己集合単分子層を形成することが記載されている。
一方、本件明細書には、自己集合単分子層を形成していない単結晶KBr基板上に秩序度のよいPTCDA膜を形成できた旨の記載の後に、「特に注目すべきなのは、特にこの膜/基板の組合せについてのこのような大きな、巨視的領域にわたってほぼ完全な配置であることである。秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さであった」(【0074】)と記載されている。
この記載からすると、「特定の膜/基板の組合せ」、すなわち「PTCDA膜」と自己集合単分子層を形成していない「単結晶KBr基板」の組み合わせにより、請求項1の上記発明特定事項を満たす「全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さ」の「秩序化された」膜を形成することが可能であるといえ、基板上に自己集合単分子層を形成した場合に、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する結晶層が形成できるのか、本件明細書に記載されていない。
また、基板上に自己集合単分子層を形成した場合に、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する結晶層が形成できることが、技術常識であるともいえない。
そうすると、基板上に自己集合単分子層を堆積した上で、基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有する結晶層を形成できたことは、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
したがって、請求項6に係る発明及びその引用請求項である請求項7、9?11、13、14は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
同様に、請求項19に係る発明及びその引用請求項である請求項20、22?24、26は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、審判請求人は、意見書において、上記「4」「(3)」「ウ」のとおり述べている。
しかしながら、上述のとおり、基板上に自己集合単分子層を堆積した上で、基板を少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する結晶層を形成できたことが、本件明細書に記載されていないし、また、上記「ア」の判例に照らせば、基板上に自己集合単分子層を堆積した上で、基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有する結晶層を形成できたことが、特許出願人である審判請求人により証明されていないので、本件出願は、サポート要件を満たしていないといわざる得ない。
よって、審判請求人の意見は採用できない。

エ 請求項14,26に係る発明は、「結晶層は、少なくとも4.0cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有する」発明特定事項を有するものである。
一方、本件明細書には、単結晶KBr基板上に秩序度のよいPTCDA膜を形成できた旨の記載の後に、「秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さであった」(【0074】)と記載されており、この記載の「秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mm」(=3cm^(2))であって、「少なくとも4.0cm^(2)」ではなく、また、「少なくとも4.0cm^(2)」の大きさの秩序化された膜を形成できたことは本件明細書には記載されていない。
したがって、請求項14、26に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、審判請求人は、意見書において、上記「4」「(3)」「エ」のとおり述べている。
しかしながら、上述のとおり、「少なくとも4.0cm^(2)」の大きさの秩序化された膜を形成できたことが、本件明細書に記載されていないし、また、上記「ア」の判例に照らせば、「少なくとも4.0cm^(2)」の大きさの秩序化された膜を形成できたことが、特許出願人である審判請求人により証明されていないので、本件出願は、サポート要件を満たしていないといわざる得ない。
よって、審判請求人の意見は採用できない。

(3)特許法第36条第4項第1号について
ア 請求項1,15に係る発明は、「結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する発明特定事項を有するものである。
一方、本件明細書には、「秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さであった」(【0074】)と記載されており、審判請求人は、平成28年7月13日付けの意見書(「3.本願が特許されるべき理由」「III.サポート要件および実施可能要件の拒絶理由に対する対処」)において、この記載が上記発明特定事項に関するサポート要件及び実施可能要件の根拠である旨述べている。
しかしながら、本件明細書には、「ガス温度、基板温度、および圧力は、変化されて膜5の結晶性に影響を与える」(【0068】)と記載されているところ、12mm×25mm(=3cm^(2))の大きさで厚さが1mmの秩序化されたPTCDA膜を形成するにあたり、単結晶KBr基板上に有機気相堆積(OVPD)により形成することが明細書(【0068】?【0074】)に記載されているものの、ガス温度、基板温度、および圧力等の具体的条件が記載されていない。
また、本件明細書【0071】に、「PTCDAは、60mTorrの成長圧力における0.7Å/sの表面堆積速度(nominal deposition rate)に対応する385℃、25sccmの窒素流において蒸発された」と記載されているものの、この記載には、具体的な基板温度等が記載されていないし、また、【0074】に記載された「約0.1mm×2cm」(=0.02cm^(2))「にわたって平らで秩序度の良い構造である」「400Å厚のPTCDA膜」の形成条件であると認められ、12mm×25mmの大きさで厚さが1mmの秩序化されたPTCDA膜の形成条件であるとはいえないし、「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」の形成条件でもない。
さらに、本件明細書には、「-40℃ないし90℃または-40℃ないし25℃の範囲の温度」(【0053】)と記載されているものの、温度範囲が広範で具体的ではない。
また、上記理由2で言及したとおり、請求項1、15に記載された「結晶層は、前記基板を少なくとも0.25cm^(2)にわたって観測される結晶秩序を有」することが、多結晶構造における全ての単結晶領域の面積が0.25cm^(2)であることを意味するとすれば、この0.25cm^(2)という面積は、原査定の引用文献1(YANG FANG, MAX SHTEIN, STEPHEN R. FORREST,"Controlled growth of a molecular bulk heterojunction photovoltaic cell",NATURE MATERIALS,2005年1月1日,Volume 4, Number 1,Pages 37-41)の「(20±5)nm」(第40頁右欄第9行)という結晶に比べてはるかに大きいものであることを考慮すると、0.25cm^(2)の単結晶領域をOVPDで形成する際の種々の形成条件が明らかでないと、当業者が0.25cm^(2)の単結晶領域を有する多結晶構造を形成することは困難であると認められる。
さらに、「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」を形成する方法が、技術常識であるともいえない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1,15に係る発明及びそれらの引用請求項である請求項2?14,16?26に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本件出願は、明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお、審判請求人は、意見書において、上記「4」「(4)」「ア」のとおり述べている。
しかしながら、上述のとおり、「ガス温度、基板温度、および圧力の具体的条件」について、本件明細書【0071】に記載された条件は、請求項1,15に係る発明の「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」を形成し得る条件ではないし、この記載から当業者が形成条件を推定し得る根拠もない。
また、審判請求人が意見書において提示した、Shreinらの"Material transport regimes and mechanisms for growth of molecular organic thin films using low-pressure organic vapor phase deposition," J.App. Phys. 89(2)(2001)には、Alq_(3)膜の成長速度とガス温度、基板温度およびキャリアガス流速との関係について分析を行っているが、本件発明の、有機膜の単結晶の大きさについて検証されておらず、当業者がかかる文献の記載から、請求項1,15に係る発明の「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」を形成し得る条件を推定することは、困難であるいわざるえない。
よって、審判請求人の意見は採用できない。

イ 請求項6に係る発明は、請求項1に係る発明を引用するものであるから、「結晶層は、少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」(請求項1)する発明特定事項、及び、「基板上に第1有機材料の前記結晶層を成長させる前に自己集合単分子層を堆積する」(請求項6)発明特定事項を有するものである。
ここで、この「自己集合単分子層」として、明細書【0055】に「アルカンチオール」を用い得ることが記載されている。
一方、本件明細書には、単結晶KBr基板上に秩序度のよいPTCDA膜を形成できた旨の記載の後に、「特に注目すべきなのは、特にこの膜/基板の組合せについてのこのような大きな、巨視的領域にわたってほぼ完全な配置であることである。秩序化されたPTCDA膜の全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さであった」(【0074】)と記載されており、この記載からすると、「特定の膜/基板の組合せ」により、請求項1の上記発明特定事項を満たす「全体的な大きさは、12mm×25mmであり、膜は1mmの厚さ」の「秩序化された」膜を形成することが可能であるといえる。
そして、「特定の膜/基板の組合せ」により、請求項1の上記発明特定事項を有することができるのであるから、基板上に「自己集合単分子層」が形成されることにより、成長される膜の結晶性が変化することは明らかである。
しかしながら、本件明細書には、「自己集合単分子層」を堆積した際に、請求項1の「少なくとも0.25cm^(2)の面積にわたる少なくとも1つの単結晶領域を有」する「結晶層」を形成し得ることが示されていない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項6に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
同様に、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項19に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項6、19の引用請求項である請求項7、9?11、13、14、20、22?24、26に係る発明を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
よって、本件出願は、明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

7 むすび
以上のとおり、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしておらず、明細書の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-25 
結審通知日 2017-05-09 
審決日 2017-05-22 
出願番号 特願2010-522094(P2010-522094)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
P 1 8・ 536- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 靖記  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 伊藤 昌哉
土屋 知久
発明の名称 秩序結晶性有機膜の成長  
代理人 八田国際特許業務法人  
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