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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1333025
審判番号 不服2016-13337  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-06 
確定日 2017-10-06 
事件の表示 特願2013-503518「個体識別システム,個体識別方法及びそれらに用いられる装置,プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月13日国際公開,WO2012/121167〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,2012年3月2日(優先権主張2011年3月4日(以下,「優先日」という。),日本国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 8月29日 :国内書面の提出
平成27年 2月 4日 :出願審査請求書の提出
平成28年 1月14日付け :拒絶理由の通知
平成28年 3月18日 :意見書,手続補正書の提出
平成28年 6月 3日付け :拒絶査定
平成28年 9月 6日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成28年 9月29日 :前置報告
平成29年 5月 8日付け :拒絶理由の通知(当審)
平成29年 7月 7日 :意見書,手続補正書の提出


第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は,上記平成29年7月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至19に記載されたとおりのものであると認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
登録農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の表皮パターン画像が記録される記録手段と,
個体識別対象の農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の表皮パターンを撮像する撮像手段と,
前記撮像手段で撮像された前記個体識別対象の農林水産物の表皮パターン画像を,前記個体識別対象の農林水産物の前記所定部位を基準にして,農林水産物の3次元形状モデルを用いて,3次元的な幾何学変形処理を行うことにより,前記登録農林水産物の表皮パターン画像と照合可能な撮像方向の照合用画像に補正する画像補正手段と,
前記登録農林水産物の表皮パターン画像の画像特徴と,前記補正された表皮パターン画像の画像特徴とを照合し,前記個体識別対象の農林水産物がいずれの登録農林水産物であるかを識別する個体識別手段と
を有する農林水産物の個体識別システム。」


第3 引用例

1 引用例1に記載されている技術的事項および引用発明

(1)本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,当審の平成29年5月8日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2006-146570号公報(平成18年6月8日公開,以下,「引用例1」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【背景技術】
【0002】
従来の個体認証技術は,対象となる物品または人にRF-IDなどの識別子を付与し,それを暗号化などの方法と組み合わせて同一性を認証するものであったが,識別子そのものが改変または交換されると機能しなくなるという問題があった。識別に指紋等を用いるバイオメトリクスによる認証方式は改変される危険性は少ないが,指紋を読み取る装置に改変を加えられると脆弱であり,また指紋と同じパターンを有する模擬物体を人工的に作ることで詐称できる可能性がある。
…(中略)…
【0017】
まず,認証の安全性に関しては以下の方法で対処する。
対象となる物品または人にRF-IDなどの識別子を付与するとともに,対象物の生体情報(バイオメトリクス情報)を一対の情報として,認証に用いる。ただし,生体情報も対象物と全く同じハードコピーまたは情報を作り出せば詐称の手段として用いることができる。そこで,生体情報は時間とともに少しずつ変化することを利用して,その変化記録を時系列情報として蓄積し,詐称を見破る手がかりとする。
【0018】
認証に必要となる生体情報の取得に関しては以下の方法で対処する。
すなわち,前記農産物栽培フィールドの複数各地点のそれぞれ,気象観測データ・栽培環境データを所定時間毎に収集し,同時にその各地点周囲360度前方向あるいは対象物の部分拡大された画像情報を取得し遠隔地に蓄積できるフィールドサーバを配置する。」

B 「【0024】
また,本発明の個体認証システムを用いた農産物の追跡方法は,農産物または農産物を格納するケースあるいは包装資材にRF-IDやバーコード等識別子より品名やシリアル番号等の識別情報を付与し,その農産物識別情報と同時に農産物の表面の模様や形状,皺,傷,テクスチャ,蛍光カメラで計測できる農産物固有情報を画像情報として取得し,農産物識別情報と農産物固有情報を一対の情報として無線LANまたはインターネットを用いて遠隔地にある記録手段に伝送し,さらに農産物の梱包,加工,輸送,販売などに伴う空間的移動に対応して,それぞれの各地点で農産物識別情報と農産物固有情報を記録手段に伝送・記録し,この記録手段に蓄積された情報を用いて農産物の移動及び同一性を時間と場所を遡って検証することを特徴とする。」

C 「【0053】
記憶装置に保存された情報に何らかの矛盾点が見つかりすり替えや改竄の疑義が生じた場合や消費者が品質・産地・生産者等の表示に疑義を抱いた場合,生産者あるいは査察者(以下,査察者)は画像の一部を手がかりに目視で真偽の判定を行う。手がかりに使う画像は特定しやすい部位(例えばミカンであればヘタの部分)を偽造が困難になる程度に十分拡大して撮影または十分大きな画素数を有する高解像度カメラで撮影する。
…(中略)…
【0058】
フィールドサーバのカメラは,作物の微細情報も記録できる。そのため,個体識別情報となるメロンのメッシュや,みかんの下手,りんごの表面のまだら模様やごま模様,微細な傷までがリアルタイムに農産物識別情報とともに記録される。また,高解像度撮影によれば作業者の顔や衣服の皺,作業機械(トラクターなど)まで,RF-ID貼付の情報と高解像度画像を記録することが出来,その記録が遠隔地のサーバに安全に,改ざんできない状態で記録保存することが出来る。」

D 「【0063】
具体的には,非接触RF-ID読取書込手段及び無線LAN送受信機を少なくとも組込んだ複数のフィールドサーバ群を,農産物栽培フィールドの各地点に配設したフィールドサーバネットワークにより,フィールド内いずれの場所から農産物が収穫されても,その収穫地における農産物栽培データ及びその農産物の拡大画像,特にその農産物の特徴となる画像が,前記収穫場所にもっとも近いフィールドサーバで画像され記録蓄積されると共にその記録が隣接フィールドサーバに転送され,さらに,農産物にRF-IDを付けることにより,RF-ID内の識別情報もその最初のフィールドサーバに読取られ,それらのRF-IDデータが隣接記録手段により順次,他のすべてのフィールドサーバに転送されるので,記録データ及びRF-IDデータの改ざんを防止できる。」

E 「【0072】
フィールドサーバ10は,生産環境データ計測各種センサ10a,気象観測測器10d,配設地点周囲360度方向画像機構付ビデオ記録用カメラ部10b(カメラ駆動機構及びビデオ記録カメラ),…(中略)…,前記観測測器10d及び各種センサ10aからのデータを蓄積制御すると共に,前記カメラ部10b,照明部10c,RF-ID読取書込手段10iを制御する情報記録手段サーバ10g及びそれらのデータと農産物管理用プログラムからなる各種データベース群を管理するハードディスクドライブ(HDD)などの記憶装置10j(以後データベースも記憶装置と同符号を付す)と,それらの電源回路部10hから少なくとも構成される。尚,電源回路部10hは,ソーラパネル,100V交流電源,12Vバッテリーのいずれかに接続する。
【0073】
前記情報記録手段サーバ10gは,少なくともRF-ID読取書込手段と,更新データ隣接転送手段と,RF-ID照合手段とを備えている。以下,各手段の機能を説明する。
【0074】
前記RF-ID読取書込手段は,各フィールドサーバ10のアプリケーションサーバ10gに備えられて,前記RF-ID読取書込手段10iに通信用搬送波を発信させ,前記農産物またはその収納ケースに貼付されたRF-ID3が,通信可能距離範囲内に入ったとき,直ちにRF-ID3のデータを読取り,前記データベース10jに記録すると共に,必要があれば,RF-ID3へデータを書込む手段である。
【0075】
更新データ隣接転送手段は,データベース10jに記録されるデータが更新される毎に,前記計測データ及び画像データ,RF-IDデータを隣接フィールドサーバへ自動的に転送し,隣接のフィールドサーバのデータベース10jに記録させる手段である。
【0076】
RF-ID照合手段は,RF-IDが貼付されそのデータが記録された農産物が,搬送・移動された場合,移動先のフィールドサーバ10が,そのRF-IDデータを読取り,最初のフィールドサーバから転送記録されたRF-IDの識別情報を検索し,作業メモリー上でそのRF-IDデータ,画像データを照合し,一致すれば「すり替えなし」,もし,不一致ならば「すり替えあり」の識別データを付してデータベース10jに記録すると共にRF-IDにも書込み,さらに不一致の際にはフィールドサーバ10の表示部に「すり替えあり」の警告を表示又は/及び警告音を発する手段である。
【0077】
このRF-ID照合手段は,前記RF-IDの通信可能距離範囲内(図1に点線円内として示す)に,収穫・集積された農産物またはその収納ケースに貼付されたRF-ID3が入ったとき,そのデータを読取った最初のフィールドサーバの記録が,前記更新データ隣接転送手段により順次ネットワーク100内の全フィールドサーバ10のデータベース10jに記録されていることにより,照合が可能となるものである。
【0078】
また,前記アプリケーションサーバ10gは,さらに,HUBなどを介して現場周辺の農産物の拡大画像または顕微鏡を付加した電子制御デジタルカメラ10pによる画像を画像し,データベース10jに蓄積できる。」

F 「【0086】
その照合を行う場合,前記フィールドサーバ10のビデオ記録カメラ部10bは,さらに,拡大画像を取得する顕微鏡レンズを備えた電子制御カメラ10pを備え,微細構造のデジタル画像を記録させてもよい。
【0087】
各フィールドサーバ10のアプリケーションサーバ10gは,RF-ID読取書込手段10iに前記RF-ID読取書込手段を実行させると共に,さらに加えて,その実行直後(農産物の「すり替え」ができない直後の時間内)に,その農産物の形状,電子制御カメラ10pにより模様を含む拡大画像を予め定めた拡大率で記録(拡大画像記録手段)し,前記RF-ID照合手段による照合が一致していれば,次に,農産物の拡大画像と比較し,そこで差異があれば「拡大画像すり替え有り」と識別して表示部へ表示し,そのデータをデータベース10jに記録する画像照合手段と,拡大画像データを前記更新データ隣接転送手段と同様に転送する,拡大画像隣接記録手段とを備える。
…(中略)…
【0089】
なお,画像照合手段において,各地点のフィールドサーバにおける拡大画像と最初の収穫地点のフィールドサーバで取得された拡大画像データとの同一性判定は,予め定めたパターン認識プログラムで自動的に行う公知の判定手段と,その表示データ手段を備え,前記プログラムによるパターン一致率が予め定めた率より低い場合のみ,肉眼で判定することを求める表示画像の表示部への出力を行うこととし,自動判定を効率的に行い,自動判定が困難なケースのみ肉眼チェックを求め,判定作業の効率的な運用を行う。」

G 「【0125】
図1に示されたフィールドサーバ10の農産物栽培管理範囲であるホットスポット(図1ではフィールドサーバを中心としたハッチングされた円形の範囲で示す)のいずれかの場所で農産物が収穫されたとし,その場所を第1の地点とする。
…(中略)…
【0127】
すなわち,フィールドサーバ10のアプリケーション10gは,RF-ID読取書込手段10iに対してRF-ID3との通信を指令し,RF-ID読取書込手段10iはアンテナiより搬送波を所定時間毎に発信し,RF-ID3が前記読取り可能距離範囲に入れば,直ちにその応答搬送波を受信して通信を開始し,そのRF-ID3のデータを読取ると共にその収穫農産物に関するデータを書込み,それらのデータを第1の地点の最初の収穫農産物データとしてアプリケーションサーバ10gのデータベース10jに記録する。(RF-ID読取書込手段)
【0128】
前記第1の地点における最初の収穫農産物データは,自動的にネットワーク10内の全フィールドサーバ10のデータベース10jに順次記録される。(更新データ隣接転送手段)
【0129】
一方,RF-ID3が貼付された農産物又はその収納ケースが販売のために移動搬送される場合,そのRF-ID3が図1の点線円内を通過する毎に自動的にその中心にあるフィールドサーバ10と通信し,そのRF-ID3に関するデータは更新され,その都度照合結果データがデータベース10jとRF-ID3に書込まれる。(RF-ID照合手段)
…(中略)…
【0131】
農産物の拡大画像による固有情報とRF-IDによる識別情報をインターネット経由で組み合わせて利用することですり替えを検知し得る本発明は,皮革製品やべっ甲製品など生物由来素材で作られた製品も農産物の一種として管理することができる。」

(2)ここで,引用例1に記載されている事項を検討する。

ア 上記Aの段落【0017】,【0018】の「対象となる物品または人にRF-IDなどの識別子を付与するとともに,対象物の生体情報(バイオメトリクス情報)を一対の情報として,認証に用いる」,「生体情報は時間とともに少しずつ変化することを利用して,その変化記録を時系列情報として蓄積し,詐称を見破る手がかりとする」及び「認証に必要となる生体情報の取得に関しては以下の方法で対処する」,「前記農産物栽培フィールドの複数各地点のそれぞれ,・・・対象物の部分拡大された画像情報を取得」することによってなされるとの記載,上記Bの「本発明の個体認証システムを用いた農産物の追跡方法」の記載からすると,農産物栽培フィールドの複数各地点で,「対象物の生体情報」として,対象の「農産物の部分拡大された画像情報」を取得する手段と,上記部分拡大された画像情報を時系列情報として蓄積する手段を有する「農産物の個体認証システム」が読み取れる。

イ 上記Bの「農産物の表面の模様や形状,皺,傷,テクスチャ,蛍光カメラで計測できる農産物固有情報を画像情報として取得」するとの記載,上記Cの段落【0053】,【0058】の「手がかりに使う画像は特定しやすい部位(例えばミカンであればヘタの部分)を偽造が困難になる程度に十分拡大して撮影または十分大きな画素数を有する高解像度カメラで撮影する」,「個体識別情報となるメロンのメッシュや,みかんの下手(当審注:「下手」は「ヘタ」の誤記である。),りんごの表面のまだら模様やごま模様,微細な傷までがリアルタイムに農産物識別情報とともに記録される」との記載からすると,上記アの「対象物の生体情報」として取得される,対象の「農産物の部分拡大された画像情報」は,ミカンのヘタの部分,メロンのメッシュやりんごの表面のまだら模様やごま模様のような,対象の「農産物」の「特定しやすい部位」の表面を拡大して撮影した「表面画像」であることが読み取れ,当該「表面画像」を取得するための「十分拡大して撮影」できる「カメラ」が,対象の「農産物」の「特定しやすい部位」の表面を拡大して撮像する撮像手段であることが読み取れる。

ウ 上記Eの段落【0072】,【0078】の「フィールドサーバ10は,・・・配設地点周囲360度方向画像機構付ビデオ記録用カメラ部10b(カメラ駆動機構及びビデオ記録カメラ),・・・情報記録手段サーバ10g及びそれらのデータと農産物管理用プログラムからなる各種データベース群を管理するハードディスクドライブ(HDD)などの記憶装置10j(以後データベースも記憶装置と同符号を付す)と,・・・から少なくとも構成される」,「現場周辺の農産物の拡大画像または顕微鏡を付加した電子制御デジタルカメラ10pによる画像を画像し,データベース10jに蓄積できる」との記載,上記Fの段落【0086】の「フィールドサーバ10のビデオ記録カメラ部10bは,さらに,拡大画像を取得する顕微鏡レンズを備えた電子制御カメラ10pを備え,微細構造のデジタル画像を記録させてもよい」との記載からすると,フィールドサーバ10の電子制御カメラ10pによって農産物の拡大画像を取得することが可能であって,当該取得された拡大画像は,フィールドサーバ10のデータベース10jに記録されることが読み取れる。
また,上記Dの「その収穫地における農産物栽培データ及びその農産物の拡大画像,特にその農産物の特徴となる画像が,前記収穫場所にもっとも近いフィールドサーバで画像され記録蓄積されると共にその記録が隣接フィールドサーバに転送され」るとの記載,上記Gの段落【0125】,【0128】の「農産物が収穫されたとし,その場所を第1の地点とする」,「第1の地点における最初の収穫農産物データは,自動的にネットワーク10内の全フィールドサーバ10のデータベース10jに順次記録される」との記載からすると,対象の農産物が収穫された地点における,最初の,前記農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像が,前記収穫地点のフィールドサーバのデータベース10jに記録蓄積されるとともに,ネットワーク10内の全フィールドサーバ10のデータベース10jに順次記録されることが読み取れる。

エ 上記Gの段落【0127】の「RF-ID読取書込手段10iは」,「RF-ID3が前記読取り可能距離範囲に入れば,直ちにその応答搬送波を受信して通信を開始し,そのRF-ID3のデータを読取ると共にその収穫農産物に関するデータを書込み,それらのデータを第1の地点の最初の収穫農産物データとして・・・データベース10jに記録する」との記載,上記Fの段落【0087】の「各フィールドサーバ10のアプリケーションサーバ10gは,RF-ID読取書込手段10iに前記RF-ID読取書込手段を実行させると共に,さらに加えて,その実行直後(農産物の「すり替え」ができない直後の時間内)に,その農産物の形状,電子制御カメラ10pにより模様を含む拡大画像を予め定めた拡大率で記録(拡大画像記録手段)」するとの記載,上記Gの段落【0129】の「RF-ID3が貼付された農産物又はその収納ケースが販売のために移動搬送される場合,そのRF-ID3が図1の点線円内を通過する毎に自動的にその中心にあるフィールドサーバ10と通信」するとの記載からすると,対象の農産物の「特定しやすい部位」の表面の拡大した表面画像が,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像されることが読み取れる。

オ 以上ア乃至エの検討によれば,引用例1には,
“対象の農産物が収穫された地点における,最初の,ミカンのヘタの部分,メロンのメッシュやりんごの表面のまだら模様やごま模様のような,前記農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像が記録蓄積される,前記収穫地点のフィールドサーバのデータベース10j”と,
“前記対象の農産物の特定しやすい部位の表面を拡大した表面画像を撮像する,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10p”と
を有する“農産物の個体認証システム”が記載されていると解される。

カ 上記Bの「農産物の表面の模様や形状,皺,傷,テクスチャ,蛍光カメラで計測できる農産物固有情報を画像情報として取得し,・・・空間的移動に対応して,それぞれの各地点で農産物識別情報と農産物固有情報を記録手段に伝送・記録し,この記録手段に蓄積された情報を用いて農産物の移動及び同一性を時間と場所を遡って検証する」との記載,上記Fの段落【0087】,【0089】の「RF-ID読取書込手段10iに前記RF-ID読取書込手段を実行させると共に,さらに加えて,その実行直後(農産物の「すり替え」ができない直後の時間内)に,その農産物の形状,電子制御カメラ10pにより模様を含む拡大画像を予め定めた拡大率で記録(拡大画像記録手段)し,前記RF-ID照合手段による照合が一致していれば,次に,農産物の拡大画像と比較」する「画像照合手段」,「画像照合手段において,各地点のフィールドサーバにおける拡大画像と最初の収穫地点のフィールドサーバで取得された拡大画像データとの同一性判定は,予め定めたパターン認識プログラムで自動的に行う公知の判定手段」を「備え」るとの記載からすると,対象の農産物の,最初の収穫地点のフィールドサーバで取得された「表面画像」と,前記農産物の移動搬送先の各地点のフィールドサーバで取得された当該農産物の「表面画像」とを,パターン認識プログラムによって画像照合し,農産物の同一性を判定することが読み取れるから,引用例1には,
“対象の農産物の,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像と,当該農産物の移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像とを,パターン認識プログラムによって画像照合し,農産物の同一性を判定する画像照合手段”
が記載されていると解される。

(3)以上,ア乃至カの検討によれば,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「 対象の農産物が収穫された地点における,最初の,ミカンのヘタの部分,メロンのメッシュやりんごの表面のまだら模様やごま模様のような,前記農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像が記録蓄積される,前記収穫地点のフィールドサーバのデータベース10jと,
前記対象の農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像を撮像する,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pと,
前記対象の農産物の,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像と,当該農産物の移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像とを,パターン認識プログラムによって画像照合し,農産物の同一性を判定する画像照合手段と
を有する農産物の個体認証システム。」

2 引用例2に記載されている技術的事項

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,当審の平成29年5月8日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2002-42133号公報(平成14年2月8日公開,以下,「引用例2」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

H 「【0032】幾何学的歪み補正部12は,入力画像または登録画像に含まれる幾何学的歪みを補正する処理部であり,具体的には,指とプリズムとの接触面がCCD面に平行でないために生ずる歪みや中心投影法により生ずる歪みなどを除去する。
【0033】登録画像管理部13は,入力画像の比較の対象となる登録画像を登録画像記憶部14を用いて管理する管理部であり,具体的には,幾何学的歪み補正部12から登録画像を受け付けたならば,該登録画像を登録画像記憶部14に格納する。
【0034】位置合わせ部15は,入力画像と登録画像の位相情報だけを用いたマッチドフィルタ(SPOMF;Symmetric Phase Only Matched Filter)を用いて両画像の位置合わせをおこなう処理部である。
…(中略)…
【0037】照合判定部18は,相関値算出部17により算出された各ブロックごとの相関値に基づいて入力画像と登録画像を照合する処理部であり,具体的には特開平9-282458号公報に開示されるようなブロックごとの照合判定処理などをおこなう。
…(中略)…
【0045】なお,本実施の形態では,指紋画像を照合する場合について説明したが,本発明はこれに限定されるものではなく,指紋画像以外の画像照合に適用することもできる。」

3 引用例3に記載されている技術的事項

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,当審の平成29年5月8日付けの拒絶理由通知において引用された,特開2008-217091号公報(平成20年9月18日公開,以下,「引用例3」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

I 「【0003】
指紋センサでは,・・・。このようにガイド部材の設けられていない指紋センサでは特に,ユーザが指を置いた位置が本来指を置くべき位置(以下,基準位置という)から傾いていることがある。指紋画像が傾いていると,予め登録されている指紋画像と一致しないとみなされてしまう可能性があるため,スキャンされた指紋画像が傾いている場合には,照合の前にその傾きを補正する必要が生じる。そこで,特許文献1に記載の発明の画像照合装置では,指紋画像から指紋領域を抽出し二値化を行った後,モーメント法により指紋領域の軸を決定して,基準位置からの軸の傾きを算出し,指紋画像を傾いているだけ逆の方向に傾けて,基準位置へ戻すという処理を行っている。
…(中略)…
【0129】
このようにして,入力指紋画像100が回転角度θだけ回転されて,照合画像500が作成されたら(S8),予め登録指紋画像記憶エリア43に記憶されている登録指紋画像との照合処理が行われる(S9)。この照合処理では,例えば,周波数解析により各画像から抽出された特徴量が使用される。照合画像500から抽出された特徴量と,登録指紋画像から抽出された特徴量との比較が行われ,その差を示す距離値が算出される。そして,この距離値が所定の閾値よりも大きいか否かにより各画像の指紋が一致するか否かの判断が行われる。」

4 参考文献1に記載されている技術的事項

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2004-185386号公報(平成16年7月2日公開,以下,「参考文献1」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

J 「【0002】
【従来の技術】
従来から,入力された二次元画像とあらかじめ記録された二次元画像とを比較照合する画像照合装置が提案されており,特に,バイオメトリクスを用いた認証方法の一つである顔認証方法を用いた画像照合装置が各種提案されてきている。
…(中略)…
【0004】
このような画像照合装置においては,入力顔画像と記録顔画像との様々な撮影条件の違い,例えば,光学系を用いて被写体の顔の画像を撮影する際の,被写体の顔の正面方向と,撮影装置の光軸方向とがなす角度(以下,撮影角度と記す)の違い等により,認証の精度が低くなってしまうという課題があった。
…(中略)…
【0021】
画像変換部3では,画像取得部2から出力された二次元の入力顔画像を,三次元画像に変換する。この処理については,例えば,亀嶋英人,他2名,“BPLPによる二次元顔画像からの三次元形状推定”,第8回画像センシングシンポジウム予稿集,画像センシング技術研究会,2002年7月17日,p.521-526に示された方法を用いることができる。画像変換部3で変換された,ワイヤーフレームモデル32およびテクスチャマッピングした三次元画像33の一例をそれぞれ図3(a)および図3(b)に示す。
…(中略)…
【0032】
次に,画像変換部3において,入力顔画像31が,三次元画像33に変換される(ステップS103)。三次元画像33の情報,すなわち,ワイヤーフレームの情報およびテクスチャ情報は,画像照合装置1のバッファ部(図示せず)に一時的に記憶される構成であることが重複した演算を抑制する観点から望ましい。
…(中略)…
【0034】
さらに,方向検出部7において,画像切出部6で選択された記録顔画像37について,その撮影角度の検出が行われる(ステップS105)。
【0035】
画像作成部4では,方向検出部7から出力された撮影角度の情報にもとづいて,バッファ部に記憶された三次元画像33の情報から参照顔画像38を作成する(ステップS106)。
【0036】
次に,画像照合部8においては,参照顔画像38と記録顔画像37との照合が行われる(ステップS107)。
…(中略)…
【0049】
なお,本発明の実施の形態においては,画像照合装置が照合する画像の被写体として,人間の顔を取りあげて説明を行ったが,本発明の画像照合装置はこれに限定されない。例えば,他の立体的な被写体を撮影した画像同士を比較照合することも可能であることはいうまでもない。」

5 参考文献2に記載されている技術的事項

本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,特開2003-263639号公報(平成15年9月19日公開,以下,「参考文献2」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

K 「【0002】
【従来の技術】顔画像を用いて人物を認識する方法として,予め登録してある正面顔画像を用いてカメラで撮影した人物の照合・識別を行なう方法が一般的に知られている(例えば,2001年オーム社発行(社)日本自動認識システム協会編「これでわかったバイオメトリクス」第59頁?第71頁参照)。
…(中略)…
【0004】
【発明が解決しようとする課題】顔を撮影した画像を用いて人物を識別するシステムにおいて,身分証などによって得られる予め登録した顔画像と識別に用いるカメラで撮影した顔画像との間に,人物に対するカメラの向き(上下,左右等)や人物の姿勢変動或いは表情の変動,照明の変動などの種々の変動によって差異を伴うことが避けられず,これらに起因する照合精度の劣化が問題となる。
【0005】特に,正面顔画像のみで認識を行なう場合にこの問題が大きい。また,顔画像の変形を考慮する従来技術においては,入力画像に対して予め用意した線形変換パラメータを適用し,姿勢変動への対策を行なっているが,アフィン変換のような線形変換パラメータを適用するだけだけでは平面上での一様変形が行なわれるだけであるので,本来三次元形状の物体である顔に対しては対策が不十分である。
【0006】本発明の目的は,予め登録した正面顔画像に,顔が三次元形状であることを考慮した変形を適用して識別を行なうことによりロバスト性(頑健性)を改善した新規の顔画像認識装置および方法を提供することにある。
…(中略)…
【0018】本発明において,上方に1台のカメラが設置された場合の機能構成を図2に示す。正面顔画像読込機能110において,身分証や免許証等を作成するときに取得した認識対象の人物の正面顔画像が予め読み込まれ,その正面顔画像データ111が蓄えられる。
【0019】上方撮影推定機能120において,顔が三次元形状であることを考慮して前以て生成した変形パラメータ(後で詳述する)を正面顔画像データ111に適用することにより,正面顔画像はあたかも上方から撮影したように推定された画像に精度良く変化し,それによって上方推定顔画像が得られる。
…(中略)…
【0026】まず,ステップ210で,正面顔画像読込機能110により,正面顔画像を入力し,正面顔画像データ111を蓄える。続いて,ステップ220で,蓄えた正面顔画像から目,鼻,口,などの顔器官や顔輪郭などの領域を抽出する。抽出が困難な場合は,オペレータの指定により顔器官や顔輪郭などの領域の抽出を行なう。
【0027】次に,ステップ230で,予め準備した各顔器官や顔輪郭などのワイヤフレームのモデルをステップ220で抽出した顔器官や顔輪郭などの領域に割り付ける。なお,ワイヤフレームは,対象とする物体(ここでは上記の顔器官など)の輪郭を複数の線分で結んで表現したモデルである。
【0028】続いて,ステップ240で,ステップ230で生成したワイヤフレームに上記変形パラメータを適用することにより,上方撮影を推定したワイヤフレームを生成する。」


第4 対比

1 本願発明と引用発明とを対比する。

(1)本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「ミカンのヘタの部分,メロンのメッシュやりんごの表面のまだら模様やごま模様のような,前記農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像」は,対象となる農産物の“所定部位”であり,かつ当該所定部位を必ず含む,すなわち,所定部位を基準とした“所定の範囲”といえるから,引用発明の「対象の農産物の特定しやすい部位の拡大表面画像」は,本願発明の「農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の」「画像」に相当する。
また,引用発明の「ミカンのヘタの部分,メロンのメッシュやりんごの表面のまだら模様やごま模様」は,農産物の表面に位置する“表皮”の,メッシュや模様といった“パターン”であるから,“表皮パターン”といえ,「ミカンのヘタの部分,メロンのメッシュやりんごの表面のまだら模様やごま模様のような,前記農産物の特定しやすい部位の表面」の「表面画像」は,“表皮パターン”“画像”といえる。
そうすると,引用発明の「ミカンのヘタの部分,メロンのメッシュやりんごの表面のまだら模様やごま模様のような,前記農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像」は,本願発明の「農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の表皮パターン画像」に相当する。

(2)引用発明の「対象の」「前記農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像が記録蓄積される,前記収穫地点のフィールドサーバのデータベース10j」,「前記対象の農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像を撮像する,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10p」は,それぞれ,「農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の表皮パターン画像」が記録される手段,「農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の表皮パターンを撮像する撮像手段」といえることから,それぞれ,本願発明の「記録手段」,「撮像手段」に相当する。
また,本願当初明細書(段落【0024】を参照)には,「尚,以下の説明において,生産者や,流通管理者により,記録部2に登録される農林水産物を登録農林水産物と記載する」と記載されていることから,本願発明の「登録農林水産物」は,「記録手段」に「表皮パターン画像」が記録されている農林水産物をいうものと解される。
そうすると,引用発明の,特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像が,収穫地点のフィールドサーバのデータベース10jに記録蓄積されている“対象の農産物”は,「記録手段」に「表皮パターン画像」が記録されている農林水産物であるといえるから,引用発明の「対象の農産物が収穫された地点における,最初の,ミカンのヘタの部分,メロンのメッシュやりんごの表面のまだら模様やごま模様のような,前記農産物の特定しやすい部位の表面を拡大して撮影した表面画像」は,本願発明の「登録農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の表皮パターン画像」に相当する。

(3)引用発明では,「対象の農産物の,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像と,当該農産物の移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像とを,パターン認識プログラムによって画像照合し,農産物の同一性を判定する画像照合手段」を有する「農産物の個体認証システム」であるところ,「対象の農産物の,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像」は,上記(2)で述べたように,フィールドサーバのデータベース10jに記録蓄積されるため,本願発明の「登録農林水産物の表皮パターン画像」に相当する。
また,引用発明の「当該農産物の移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像」は,「対象の農産物の,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像」と照合され,移動搬送先の農産物が,収穫された農産物と同一か否か「個体認証」されることから,移動搬送先のフィールドサーバで取得された農産物の拡大表面画像は,「個体認証」される「対象」といえる。
そうすると,引用発明の「当該農産物の移動搬送先の各地点のフィールドサーバで取得された前記農産物の拡大表面画像」は,本願発明の「個体識別対象の農林水産物の表皮パターン画像」に相当する。

(4)引用発明では,「前記対象の農産物の,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像と,当該農産物の移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像とを,パターン認識プログラムによって画像照合し,農産物の同一性を判定する画像照合手段」を有するところ,「画像照合」のための「パターン認識」では,入力された画像情報のうち,画像照合に役立つ情報だけを“特徴”として抽出し,この特徴に基づいて画像の照合が行われることは,当業者によく知られた技術常識であるから,引用発明の「パターン認識プログラム」において,画像情報から特徴を抽出し,当該特徴からなる画像を画像照合に用いることは,当然に行う処理といえる。
そして,取得された画像情報から特徴を抽出した表面画像は,“画像特徴”といえるから,引用発明の,「パターン認識プログラムによって画像照合」が適用される「対象の農産物の,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像」と,「当該農産物の移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像」は,それぞれ,本願発明の「登録農林水産物の表皮パターン画像の画像特徴」,「個体識別対象の農林水産物」の「表皮パターン画像の画像特徴」に相当する。
加えて,引用発明の「パターン認識プログラムによって画像照合し,農産物の同一性を判定する画像照合手段」は,パターン認識プログラムによって,農産物の表面画像の画像特徴どうしを照合し,移動搬送先の農産物が,収穫された農産物であるかを判定しているといえるから,引用発明の「画像照合手段」は,本願発明の「個体識別手段」に対応し,両者は,“農林水産物の表皮パターン画像の画像特徴”どうしを照合し,“個体識別対象の農林水産物がいずれの登録農林水産物であるかを識別する”点で共通するといえる。

2 以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

<一致点>
「 登録農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の表皮パターン画像が記録される記録手段と,
個体識別対象の農林水産物の所定部位を基準とした所定の範囲の表皮パターンを撮像する撮像手段と,
前記登録農林水産物の表皮パターン画像の画像特徴と,前記撮像手段で撮像された前記個体識別対象の表皮パターン画像の画像特徴を照合し,前記個体識別対象の農林水産物がいずれの登録農林水産物であるかを識別する個体識別手段と
を有する農林水産物の個体識別システム。」

<相違点1>
本願発明では,「撮像手段で撮像された前記個体識別対象の農林水産物の表皮パターン画像を,前記個体識別対象の農林水産物の前記所定部位を基準にして,農林水産物の3次元形状モデルを用いて,3次元的な幾何学変形処理を行うことにより,前記登録農林水産物の表皮パターン画像と照合可能な撮像方向の照合用画像に補正する画像補正手段」を有するのに対して,引用発明では,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像を補正することについて言及されていない点。

<相違点2>
本願発明では,「登録農林水産物の表皮パターン画像の画像特徴」と照合されるのが,「補正された」「個体識別対象の農林水産物の」「表皮パターン画像の画像特徴」であるのに対して,引用発明では,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像の画像特徴であって,前記表面画像が,補正された画像であるかについて言及されていない点。


第5 当審の判断

上記相違点1,2について検討する。

1 相違点1について
引用発明では,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された,バイオメトリクス情報である農産物の表面画像は,パターン認識によって,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像と照合される。
ここで,引用例1(上記Aの段落【0002】を参照)には,バイオメトリクス情報を用いた個体認証の別の態様として指紋のパターンに基づいて認証することが記載されており,引用発明の,バイオメトリクス情報である表面画像をパターン認識プログラムによって画像照合する態様に,指紋のパターンに基づく認証技術を採用することの動機が認められる。
そして,画像を照合して個体認証を行う場合に,画像を照合する前段階として,画像に含まれる幾何学的歪みや回転を補正しておき,当該補正が施された画像を用いて精度よく画像照合を行うことは,例えば,引用例2(上記Hを参照),引用例3(上記Iを参照)に記載されるように画像照合の技術分野における周知技術であり,上記補正の必要性や効果は,画像の中身が農産物の表面画像であるか,指紋画像であるかで何ら変わるところはない。
加えて,バイオメトリクスを用いた認証方法において,立体的な被写体を撮影した画像同士を照合する場合には,“立体的”である点を踏まえ,入力画像を,まずワイヤーフレームモデルといった三次元形状モデルに変換し,次に,基準となる画像の撮影角度と一致するよう,被写体が三次元であることを考慮して補正を施して,当該補正された入力と基準となる画像とを照合することも,例えば,参考文献1(上記Jを参照),参考文献2(上記Kを参照)に記載されるように当該技術分野における周知技術であった。
そうすると,引用発明において,上記周知技術を適用し,3次元形状モデルを用いて,幾何学的歪みや回転を3次元的に補正する3次元的な補正を「移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像」に施して照合用の画像とすることは,被写体の形状,及び当該技術分野において要求される画像照合の精度などを考慮して,当業者が容易に想到し得たことである。

2 相違点2について
引用発明では,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像は,パターン認識によって,対象の農産物の,収穫地点のフィールドサーバで最初に取得された,当該農産物の前記表面画像と照合されるところ,上記「1 相違点1について」で検討したように,「移動先の農産物の農産物固有情報の画像データ」に幾何学的歪みや回転を補正する補正を施した場合,当該補正は,精度よく画像照合を行うための補正であることを踏まえれば,画像照合の対象となる,移動搬送先の各地点のフィールドサーバの電子制御カメラ10pによって撮像された前記農産物の表面画像を,前記補正が施された表面画像とすることは周知技術であり,当業者であれば当然行うことである。
そうすると,引用発明に,上記周知技術を適用して,登録農林水産物の表皮パターン画像の画像特徴と,補正された表皮パターン画像の画像特徴とを照合するように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

3 小括
上記で検討したごとく,相違点1,2に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明,及び,引用例2,引用例3,参考文献1,参考文献2に記載の当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。


第6 むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-04 
結審通知日 2017-08-09 
審決日 2017-08-24 
出願番号 特願2013-503518(P2013-503518)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡北 有平月野 洋一郎  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 須田 勝巳
佐久 聖子
発明の名称 個体識別システム、個体識別方法及びそれらに用いられる装置、プログラム  
代理人 宇高 克己  

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