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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04M
管理番号 1333034
審判番号 不服2015-5569  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-25 
確定日 2017-10-03 
事件の表示 特願2012-173876「ポートレス電子装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日出願公開、特開2013-201742〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成24年8月6日(パリ条約による優先権主張 2012年3月23日 米国)の出願であって、平成26年1月9日付けで拒絶理由が通知され、同年6月23日付けで手続補正がされ、同年11月20日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年3月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、その後、当審より同年10月23日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月26日付けで手続補正がされ、当審より平成28年10月5日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年4月6日付けで手続補正がされたものである。

2.本願発明
本願請求項1ないし請求項17に係る発明は、平成29年4月6日付けの手続補正で補正された本願特許請求の範囲の請求項1ないし請求項17に記載されたとおりのものと認める。
請求項1に係る発明は、以下の発明(以下、「本願発明」という。)である。

「表示装置及び筐体を備える外部組立体であって、前記筐体がポートを有さない、外部組立体と、
前記表示装置と前記筐体との間の継目を通る流体の連通を防止するために配置された水密のシールと、
前記外部組立体の中に密封された複数の内部電子構成要素であって、第1の接点を備えた第1の電子構成要素と、第2の接点を備えた第2の電子構成要素と、前記第1の接点を前記第2の接点に電気的に結合する中間導電要素とを備える、複数の内部電子構成要素と、
前記複数の内部電子構成要素の一部分上の耐水性被覆であって、前記中間導電要素、および、前記中間導電要素の端部に隣接して配置された前記第1の電子構成要素および前記第2の電子構成要素の少なくとも一部分を含む前記複数の内部電子構成要素の一部分のみを覆う、耐水性被覆と、
を備えた、携帯型電子装置。」

3.引用発明、周知技術等
(1)引用発明
当審拒絶理由で引用した特開2004-70657号公報(以下、「引用文献」という。)には、「携帯情報端末の筐体構造」(発明の名称)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア.「【0005】
また図12に示すように、上側筐体31とLCD32との接触面(対向面)ではLCD32全周に亘り、ゴム等の弾性部材からなるLCD防水部材36を介在させて、外部からの水の浸入を防止している。防水機能を発揮させるためには、LCD防水部材36が全周に亘って均一に押し潰される必要があり、例えば、図11に示すように、LCD32の周囲を複数のネジ35で締め付けている。」(3頁)

イ.「【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る携帯情報端末における正面(表示画面がある上側)から見た外観構成を示し、図2は、図1の長手方向(長辺)の線分B-Bにおける携帯情報端末の断面構成を示す。図3は、図1の横方向の線分C-Cにおける携帯情報端末の断面構成を示し、図4は、図1の横方向の線分D-Dにおける携帯情報端末の断面構成を示し、図5は、図1の横方向の線分E-Eにおける携帯情報端末の断面構成を示し、図6(a)、(b)は、図4におけるLCD保持部材の係止部分を拡大した断面構成また、図6(c)は、図6(b)における係止爪による係止箇所を斜め方向から見た構成を示す。図7は、図2の線分F-Fにおける水平断面であり、LCD保持部材を取り付けた状態を下側から見た構成を示し、図8は、図2に示す線分G-Gにおける水平断面であり、回路基板を取り付けた状態を下側から見た構成を示している。
【0013】
この携帯情報端末1は、図1に示すように、正面(上面)に液晶表示素子(LCD)2等の矩形形状の表示素子による画面2aが設けられ、その近傍に情報入力や処理指示を行うための複数のキー3が配置されている。この端末筐体は、樹脂、金属又はそれらの組合せにより形成され、図4に示すように、例えば、上側筐体4と下側筐体5とに2分割し、ゴム等からなる上下筐体防水部材6を周囲に挟んでネジ7(図3に示す)により数ヶ所で螺着されて一体化されている。尚、端末筐体外装には落下等の外部からの衝撃による損傷を最小限にさせるためのガード部材を設けてもよい。
【0014】
その上側筐体4には、図2に示すようにLCD2用の窓が開口され、LCD防水部材8により端部全周がカバーされたLCD2を保持するLCD保持部材9が後述するように取り付けられ、LCD2の表示画面2aが露出している。このLCD防水部材8は、図4に示すような断面がコの字形状でゴム等からなり弾性及び防水性を有している。LCD防水部材8は、弾性及び防水性を有していれば、水の不透過性を有するスポンジでもよいし、樹脂を代用することもできる。このLCD保持部材9は、アルミニウムの様な金属や樹脂により形成される。また、これらを組み合わせて形成してもよい。このLCD保持部材9の下方には、種々の回路素子が実装された回路基板10が配置されている。
【0015】
さらに下側筐体5には、電池室12が設けられており、主電源となる電池13が装填され電池蓋14でカバーされている。
【0016】
次に、前述した上側筐体4にLCD保持部材9を係止する構成について説明する。
このLCD保持部材9において、図7に示すように短辺側には、長手方向に延出する、それぞれ2個のブラケット部9c、9dが設けられている。これらは、図3に示すような上側筐体4に設けられたボス部15にネジ止めされる際に用いられる。また、LCD保持部材9のそれぞれの長辺側の中程に延出する4個の係止爪9aが設けられている。
【0017】
図6に示すように、上側筐体4内部にはLCD保持部材9とガタツキなく当接して、正しく嵌装されるようにガイドするためのガイド部材16がLCD保持部材9のほぼ全周に亘り設けられている。このガイド部材16でLCD保持部材9が組み付けられた際に係止爪9aと当接する箇所には、図6(a)に示すような孔16aを形成する。これは、LCD保持部材9を上側筐体4に組み付けた際に、図6(b)に示すように、係止爪9aが孔16aに嵌め込まれて固定され、LCD2及びLCD防水部材8の長辺(長手方向)側が係止される。図6(c)は、4個の係止爪9aが孔16aの嵌め込まれている状態を示している。この係止において、LCD2を上側筐体4の内壁に押し付ける力(押圧)が働く位置に孔16aを形成する。
【0018】
そして、図3及び図8に示すように、回路基板10が重ね合わせられて、4箇所のブラケット部9c、9dが上側筐体4のボス部15にネジ11によりネジ止めされて固定される。尚、図7に示すネジ穴9bは、図5に示すように、ネジ7とボス部17により、下側筐体5をLCD保持部材9へ固定する時に利用するための孔である。
【0019】
このような構造により、LCD保持部材9の短辺両側はブラケット部9c、9dによるネジ止めで係止され、長辺両側は、係止爪9aの嵌め込みにより係止される。従って、従来、横幅方向に必要であったネジ止め用ブラケット部が無くなり、筐体の横幅を狭くすることができる。
【0020】
この実施形態では、係止爪9aをそれぞれ4個設けた例であるが、LCD保持部材9がLCD防水部材8を均等に圧縮して防水が機能すれば、個数には限定されず、少なくとも1個設けるだけでもよい。また、係止爪9aは、LCD保持部材9の長辺側に設けた例について説明しているが、勿論短辺側に設けて利用してもよい。
【0021】
以上のような構成により、LCD保持部材は、長辺側に設けた係止爪により上側筐体に押圧が働きつつ係止された状態で保持されることとなり、従来のネジ止めに用いたブラケット部を設ける必要がない。これにより、従来と同じLCDであれば、携帯情報端末1の横幅を狭くすることができ、また従来と同じ横幅であれば、LCDの表示画面を大きくすることができる。また、LCD防水部材が押圧により、上側筐体とLCD保持部材との間で均一的に圧縮されることにより防水機能を発揮することができる。」(4?5頁)

ウ.「【0027】
前述した携帯情報端末は、機能として、演算や計算によるデータ処理機能、バーコード等の記号を読み取る記号情報読み取り機能、電話回線や無線通信や光通信やケーブル通信を利用した通信機能、画像の撮像処理及び再生表示処理機能、文章作成機能、キー操作や書き込みによる入力を行う入力機能、音声による入出力機能、内蔵メモリや着脱自在なメモリによるメモリ機能及び、DPSを含む地図機能等々を組み合わせて搭載する機器を想定している。これらの携帯情報端末に対して、第1、2の実施形態を容易に適用することができる。」(6頁)

摘記事項ア.?ウ.の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、

(ア)摘記事項イ.の【0013】の「携帯情報端末1は、図1に示すように、正面(上面)に液晶表示素子(LCD)2等の矩形形状の表示素子による画面2aが設けられ、その近傍に情報入力や処理指示を行うための複数のキー3が配置されている。この端末筐体は、樹脂、金属又はそれらの組合せにより形成され、図4に示すように、例えば、上側筐体4と下側筐体5とに2分割し、ゴム等からなる上下筐体防水部材6を周囲に挟んでネジ7(図3に示す)により数ヶ所で螺着されて一体化されている。」の記載より、「携帯情報端末」が「LCD及び筐体を備え」ているといえ、また、「筐体が上下筐体防水部材を用いて一体化され」といえる。

(イ)摘記事項ア.の【0005】の「上側筐体31とLCD32との接触面(対向面)ではLCD32全周に亘り、ゴム等の弾性部材からなるLCD防水部材36を介在させて、外部からの水の浸入を防止している。」と、摘記事項イ.の【0021】の「また、LCD防水部材が押圧により、上側筐体とLCD保持部材との間で均一的に圧縮されることにより防水機能を発揮することができる。」との各記載より、「前記LCDと前記筐体との間からの水の侵入を防止するために設けられたLCD防水部材」を有しているといえる。

(ウ)摘記事項イ.の【0014】の「このLCD保持部材9の下方には、種々の回路素子が実装された回路基板10が配置されている。」の記載及び図2より、「前記筐体の中にある種々の回路素子を備えた、」といえる。

以上より、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(引用発明)
「LCD及び筐体を備え、前記筐体が上下筐体防水部材を用いて一体化され、
前記LCDと前記筐体との間からの水の侵入を防止するために設けられたLCD防水部材と、
前記筐体の中にある種々の回路素子を備えた、携帯情報端末。」

(2)周知技術1
当審拒絶理由で引用した登録実用新案第3002397号公報 (以下、「周知例1-a」という。)には、「充電用電源接続装置」(発明の名称)に関して、図面(図1)とともに、以下の事項が記載されている。

カ.「【0009】
【実施例】
図1は本考案の実施例を示すもので,被充電物1としてコードレス電話機や携帯電話機を示す。この電話機1は防水ケース2に収納されている。防水ケース2の底部には,二次側機器ケース4が取り付けられており,この二次側機器ケース4内に二次コイル,二次回路及び電池端子台が配設されている。
【0010】
また防水ケースに収納された電話機が載置される充電台9内には,一次側機器として一次コイル及び一次回路が配設されている。
【0011】
防水ケース2,充電台9及び二次側機器ケース4共に樹脂材料等の絶縁材によって形成され,絶縁カバーの役割を果たすと共に,防水の役割を果たすようになっている。
【0012】
防水ケース2に収納された電話機1を充電台9に載置することによって,充電台9内の一次コイル部7と二次側機器ケース4内の二次コイル部6が近接状態になり,これによって両コイル部7,6間に電磁誘導部11が形成される。従って充電台9側の一次コイル部7に供給される商用電源からの電気は電磁誘導部11を介して二次コイル部6に伝導され,二次回路5と電池端子台3を経て充電用バッテリー10に電気が供給されることになる。」(5頁)

当審拒絶理由で引用した特開2010-283539号公報(以下、「周知例1-b」という。)には、「携帯型無線通信装置」(発明の名称)に関して、図面(特に、図1ないし図8)とともに、以下の事項が記載されている。

キ.「【0012】
図1は、携帯電話端末装置100の構成を分解して示し、図2は組み立てた状態を示し、図3はその断面を示す。
本実施の形態の例の携帯電話端末装置100は、防水構造としてあり、かつ水に浮く構成としてある。このため、図1及び図2に示すように、携帯電話端末装置100としての各部品が取り付けられた基板130を、防水性があり比較的厚みのある合成樹脂で構成された第1筐体200と第2筐体300とで覆う構成としてある。」(3?4頁)

ク.「【0018】
・・・(中略)・・・
また、そのヘッドセットから無線伝送された音声データを、近距離通信回路110で受信し、データライン160を介して、通信回路102に供給して、基地局側に無線送信させる。なお本例の場合には送受話器を構成するマイクロフォン及びスピーカは端末装置100に取り付けていない。」(5頁)

ケ.「【0020】
・・・(中略)・・・
充電用コイル122は、図1などに示すように携帯電話端末装置100の裏面側に配置してあり、図示しない充電器側のコイルと近接することで、充電器から電力の供給を受けて、二次電池121を充電させる。」(5頁)

本件優先日前に頒布された刊行物である特開2009-290764号公報(以下、「周知例1-c」という。)には、「情報端末および充電システム」(発明の名称)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

コ.「【0012】
図示する携帯端末1は、信号電極11と、グランド電極12と、コンピュータ13と、トランシーバ(通信処理回路)14と、充放電制御回路15と、2次電池16と、受電コイル17とを有する。なお、携帯端末1は非接触型の充電が可能なため、筐体18は完全密封とすることができ、これにより防水性を向上する(または、完全防水とする)ことができる。これにより、病院や介護施設など水に濡れる可能性がある環境においても、携帯端末1を使用することができる。」(4頁)

サ.「【0056】
以上説明した本実施形態の携帯端末は、非接触型の充電が可能なため、携帯端末の筐体を完全密封にすることができ、これにより防水性を向上させ、あるいは、完全防水とすることができる。これにより、病院や介護施設など水に濡れる可能性がある環境においても、携帯端末を使用することができる。」(9頁)

シ.「【0060】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、本発明の実施形態に対して種々の変形や変更を施すことができる。例えば、上記実施形態では、充電機の電源としてパソコンを用いることとしたが、充電機はACアダプタを有し、AC電源から電力を供給することとしてもよい。すなわち、図12に示すように、充電機3はAC電源(コンセント)に接続することにより、AC電源から当該充電機3の駆動に必要な電力が供給される。充電機3とパソコン5とはLANにより接続され、携帯端末1とパソコン5とは充電機3を介して通信が可能となる。」(9頁)

以上のことより、以下は周知の技術(以下、「周知技術1」という。)と認める。

(周知技術1)
「携帯型の電子装置において、筐体の防水性を保つために、筐体がポートを有さない構造とすること。」

(3)周知技術2
当審拒絶理由で引用した特開2006-128838号公報 (以下、「周知例2-a」という。)には、「携帯端末装置」(発明の名称)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ス.「【0028】
なお、本発明の第2の実施例では、マイク13などの防水シートで塞いではならない部分を除く携帯基板10全体を防水シートで覆うようにしているが、少なくとも携帯基板10上のメモリLSIが覆われるように防水シートを貼り付けるようにしてもよいことは勿論である。」(5頁)

当審拒絶理由で引用した特開2011-239139号公報(以下、「周知例2-b」という。)には、「携帯電子装置およびその筐体構造」(発明の名称)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

セ.「【0015】
(本発明の特徴)
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の特徴についてその概要をまず説明する。本発明による携帯電子装置は、筐体に内包されている全ての電気部品が防水樹脂で一体的に覆ってあり、電気部品を覆う防水樹脂と筐体との間の空間を外部空間に開口する穴が該筐体に設けてあることを特徴とする。」(4頁)

当審拒絶理由で引用した特開2003-69196号公報 (以下、「周知例2-c」という。)には、「実装基板に実装した電子部品の合成樹脂コーティング」(発明の名称)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ソ.「【0002】
【従来の技術】従来、リモコンや携帯電話などの携帯性の高い電子機器において、同電子機器の耐湿性の向上、あるいは、防水性の付与などの動作信頼性の向上を目的として、抵抗体部品やコンデンサ部品などの電子部品を実装した実装基板自体に合成樹脂を塗布し、同合成樹脂によって電子部品を被覆することが行なわれている。」(2頁左欄)

本件優先日前に頒布された刊行物である特開2000-59011号公報(以下、「周知例2-d」という。)には、「電子回路基板」(発明の名称)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

タ.「【0008】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために本発明の電子回路基板は結露したり、塩水がかかるという苛酷な環境下でも動作不良を起こさず、寿命を劣化させないことを目的として電子部品が存在する周辺にわたって全てのあるいは一部の電子部品を枠で囲むように形成し、この枠で囲まれた内側の部分を樹脂で封止するものである。」(3頁左欄)

本件優先日前に頒布された刊行物である特開2000-252612号公報(以下、「周知例2-e」という。)には、「電気回路の防水コーティング方法」(発明の名称)に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

チ.「【0002】
【発明が解決しようとする課題】従来、電気回路の一部あるいは全部を水や電解液等の液体から保護する防水方法としては、防水剤と硬化性樹脂等のバインダとを混和したコーティング剤を回路基板の表面に塗布して集積回路等の電子部品を被覆する方法がとられている。」(2頁左欄)

ツ.「【0012】図4は回路基板1の一部に防水コーティング処理をする場合の他の実施形態を示し、回路基板1上にプラスティック型枠6を取付け、型枠6内にコーティング剤を注入する方法を示している。」(2頁右欄)

本件優先日前に頒布された刊行物である特開2001-168501号公報(以下、「周知例2-f」という。)には、「プリント基板並びに該プリント基板の耐湿塗膜コーティング方法」(発明の名称)に関して、図面(特に、図1、図2)とともに、以下の事項が記載されている。

テ.「【0002】
【従来の技術】基板表面に形成された配線パターン上には、ブザー、ヒューズその他接点を有する機能部品等のように、防湿塗膜を必要としない部品もある。すなわち、湿気による漏れ電流増加が問題にならない回路で接点や内部に入り込む構造の部品には塗布する必要がない。そこで、プリント基板には塗布を必要としない部品が点在し、塗布を必要とする部品にだけ塗布するには塗布を必要としない部品を避けながら塗布する必要があるため、生産性が著しく低下する。このため、基板表裏の部品面と半田面の全体に防湿塗膜を施し、塗布を必要としない部品にまで塗布しているのが現状である。また、コントロール基板の耐湿保護として、従来はコーティング塗膜に防湿剤(ゴム系材料)を使用してきたが、耐湿強化(特に、ゴキブリ等の昆虫対策)の点から塗布膜厚が薄く、塗りむらのある防湿剤では耐湿強化の向上等の要求が満足できないために、最近では専らプリント基板をポッティング処理して保護するのが主流となっている。」(2頁左欄)

ト.「【0011】図1?5はこの発明のプリント基板の一例を示したものであって、基板1の表面側部品面Aには表面に形成された配線パターン2上に各種の電子部品3が電気的に確実に接続して実装されており、また、基板1の裏面側半田面Bにも各種電子部品4が電気的に確実に接続して実装されている。上記表裏の電子部品3、4には耐湿塗膜のコーティングが必要なものと必要でないものとがあるため、基板1を実装部品3、4の必要性に応じて耐湿塗膜5、6をコーティングする塗布領域7と耐湿塗膜5、6をコーティングしない非塗布領域8とに区画し、塗布領域7の表面側部品面Aには、使用目的に応じて、たとえば、コネクター3a、コンデンサー3b、抵抗3c、その他、ダイオード、トランジスター等の半導体素子、多機能が組み込まれているIC等が所定のパターンをもって配置して備えられ、非塗布領域8の表面側部品面Aには、ヒューズ4a、ブザー4b、その他リレーの出力側のように接点を有する機能部品が備えられている。一方、塗布領域7の裏面側半田面Bには、コンデンサー3b、抵抗3c、トランジスター等のほか、表面側部品面Aのコネクター3aのリード先端突起部9を備えており、非塗布領域8の裏面側半田面Bには接続電極10等を備えている。そして、塗布領域7には表裏の接続部であるスルーホール11が備えられている。」(3頁左欄)

以上のことより、以下は周知の技術(以下、「周知技術2」という。)と認める。

(周知技術2)
「電子装置において、防水性を保つために、電子構成要素を耐水性の被膜で覆うこと。」

4.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「LCD」は、本願発明の「表示装置」に含まれる。
イ.引用発明の「筐体」、「LCD及び筐体」が、それぞれ本願の「筐体」、「外部組立体」に相当しもしくは含まれる。
ウ.本願発明の「前記筐体はポートを有さない」と、引用発明の「前記筐体が上下防水部材を用いて一体化され」とは、「前記筐体が防水構造を備える」点で共通する。
エ.引用発明の「水の侵入」する箇所は、「LCD」と「筐体」との間の継目であることは明らかであり、また、「水の侵入」は、「水の連通」と同義であるから、引用発明の「前記LCDと前記筐体との間からの水の侵入を防止するために設けられた」は、「前記LCDと前記筐体との間の継目を通る水の連通を防止する」といえる。
よって、引用発明の「LCD防水部材」は、本願発明の「水密のシール」に含まれる。
オ.引用発明の「種々の回路素子」は、本願発明の「複数の内部電子構成要素」に含まれる。
カ.引用発明の「携帯情報端末」は、本願発明の「携帯型電子装置」に含まれる。

以上より、本願発明と引用発明とを対比すると、以下の点で、一致し、相違する。

(一致点)
「表示装置及び筐体を備える外部組立体であって、 前記筐体が防水構造を備える、外部組立体と、
前記表示装置と前記筐体との間の継目を通る流体の連通を防止するために配置された水密のシールと、
前記外部組立体の中に密封された複数の内部電子構成要素と、
を備えた、携帯型電子装置。」

(相違点1)
一致点の「前記筐体が防水構造を備える」に関して、本願発明の「筐体」が、「ポートを有さない」のに対して、引用発明の「筐体」は、「ポートを有さない」ことについて特定されていない点。

(相違点2)
本願発明は「前記複数の内部電子構成要素の一部分上の耐水性被覆であって」、「前記複数の内部電子構成要素の一部分のみを覆う、耐水性被覆」を備えているのに対して、引用発明は、そのような構成を有さない点。

(相違点3)
一致点の「複数の内部電子構成要素」について、本願発明が、「第1の接点を備えた第1の電子構成要素と、第2の接点を備えた第2の電子構成要素と、前記第1の接点を前記第2の接点に電気的に結合する中間導電要素とを備える」のに対して、引用発明は、そのような構成を有するか明記されていない点。

5.相違点についての判断
(相違点1)について検討する。
電子装置の筐体にポートがあると防水性能を損なうおそれがあることは、従来から知られている一般的な課題である。(例えば、特開2006-19812号公報、【0026】参照。)
また、上記「3.引用発明、周知技術等」の「(2)周知技術1」で記述したように「携帯型の電子装置において、筐体の防水性を保つために、筐体がポートを有さない構造とすること。」(周知技術1)は、周知技術である。そこで、上記一般的な課題を解決するために、引用発明の「筐体」に周知技術1を適用し、引用発明の「筐体」が、「ポートを有さない」構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2)について検討する。
継目を通る流体の連通を防止するためのゴム等の弾性材料による防水構造だけでは、高度の防水機能を期待できないことは、従来から知られている一般的な課題である。(例えば、特開2006-48098号公報、【0002】、【0003】参照。)
そして、上記「3.引用発明、周知技術等」の「(3)周知技術2」で記述したように、「電子装置において、防水性を保つために、内部の電子構成要素を耐水性の被膜で覆うこと。」(周知技術2)は、周知技術である。
そこで、上記一般的な課題を解決するために、引用発明の「種々の回路素子」に、周知技術2を適用し、引用発明の「種々の回路素子」を、「耐水性の被覆」で覆うことは、当業者が容易に想到し得たことである。
その際に、「耐水性の被覆」の対象を「種々の回路素子」の一部分とするか、全部とするかは、各「回路素子」の防水の必要性に応じて、当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎず(周知例として、周知例2-a、2-d、2-f参照。)、特に、前者を選択した場合に、格別の効果を奏するとも認められない。

(相違点3)について検討する。
引用発明の「種々の回路素子」に関し、引用文献の段落【0014】に「種々の回路素子が実装された回路基板10が配置されている。」と記載されている。そして、回路基板に種々の回路素子が実装される場合に、各回路素子がそれぞれ接点を備え、回路基板に設けた電気配線を通じて、各接点が電気的に結合されることは、技術常識に照らして明らかな事項である。以上を踏まえると、引用発明の「種々の回路素子」のうち、ある一つの回路素子、別の一つの回路素子、両者を接続する電気配線、をそれぞれ、「第1の接点を備えた第1の電子構成要素」、「第2の接点を備えた第2の電子構成要素」、「中間導電要素」と称することは任意である。
してみると、(相違点3)は、実質的な相違点ではない。仮にそうでないとしてもそのように構成することは当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明に基づいて周知技術を参酌することにより当業者が容易に予測できる範囲のものである。

6..むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて周知技術を参酌することにより当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本願は他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-05-09 
結審通知日 2017-05-10 
審決日 2017-05-24 
出願番号 特願2012-173876(P2012-173876)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 徳久  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 山中 実
山本 章裕
発明の名称 ポートレス電子装置  
代理人 山本 修  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 北来 亘  

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