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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07D
管理番号 1333061
審判番号 不服2016-4046  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-16 
確定日 2017-10-04 
事件の表示 特願2013-514567「電子デバイス用化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月22日国際公開、WO2011/157346、平成25年 8月 8日国内公表、特表2013-531653〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2011年5月23日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年6月18日(DE)ドイツ〕を国際出願日とする出願であって、
平成27年3月26日付けの拒絶理由通知に対して、平成27年6月29日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされ、
平成27年11月6日付けの拒絶査定に対して、平成28年3月16日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、平成28年7月1日付けで上申書の提出がなされ、
平成29年1月6日付けの補正の却下の決定により上記審判請求と同時の手続補正が却下され、
平成29年1月6日付けの拒絶理由に対して、平成29年4月7日付けで意見書の提出がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明
(1)特許請求の範囲の記載
本願の請求項1?8に係る発明は、平成29年4月7日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】式(I-1)の化合物:
【化1】

ここで、
X^(1)は、基NR^(1)(式中、R^(1)は、6?20個の芳香族環原子を有するアリール基を表し、この系は、1以上のラジカルR^(3)により置換されていてもよい)であり;
X^(2)、X^(3)は、出現する毎に、C(R^(1))_(2)およびNR^(1)から異なって選択される二価の基であり、基NR^(1)の成分としてのR^(1)は、6?20個の芳香族環原子を有するアリール基(この系は、1以上のラジカルR^(3)により置換されていてもよい)であり;
Zは、CR^(1)であり;
R^(1)は、出現する毎に、同一であるかまたは異なり、H、D、F、CNまたは1?20個のC原子を有する直鎖アルキルもしくはアルコキシ基または3?20個のC原子を有する分枝もしくは環状アルキルもしくはアルコキシ基または5?20個の芳香族環原子を有するアリールもしくはヘテロアリール基(この基は、各場合において、1以上のラジカルR^(3)により置換されていてもよい)であり;
R^(3)は、出現する毎に、同一であるかまたは異なり、H、D、F、CNまたは1?20個のC原子を有する直鎖アルキルもしくはアルコキシ基または3?20個のC原子を有する分枝もしくは環状アルキルもしくはアルコキシ基または5?20個の芳香族環原子を有するアリールもしくはヘテロアリール基(この基は、各場合において、1以上のラジカルR^(4)により置換されていてもよい)であり、
R^(4)は、同一であるかまたは異なり、出現する毎に、H、D、F、または1?20個のC原子を有する脂肪族、芳香族および/もしくはヘテロ芳香族有機ラジカルである。
【請求項2】請求項1に記載の少なくとも1種の化合物と、少なくとも1種の溶媒とを含む配合物。
【請求項3】電子デバイスにおける請求項1に記載の少なくとも1種の化合物の使用。
【請求項4】電子デバイスが有機エレクトロルミネッセンスデバイス(OLED)である請求項3に記載の少なくとも1種の化合物の使用。
【請求項5】電子デバイスの発光層における1種以上のさらなるマトリックス材料との組み合わせにおけるマトリックス材料としての、請求項1に記載の少なくとも1種の化合物の使用。
【請求項6】請求項1に記載の少なくとも1種の化合物を含む電子デバイス。
【請求項7】電子デバイスが、有機集積回路(O-IC)、有機電界効果トランジスタ(O-FET)、有機薄膜トランジスタ(O-TFT)、有機発光トランジスタ(O-LET)、有機太陽電池(O-SC)、有機光検知器、有機感光体、有機電場消光デバイス(O-FQD)、発光電気化学セル(LEC)、有機レーザーダイオード(O-laser)および有機エレクトロルミネッセンスデバイス(OLED)から選択される請求項6に記載の電子デバイス。
【請求項8】請求項6または7に記載の電子デバイスであって、請求項1に記載の少なくとも1種の化合物が、正孔輸送層もしくは正孔注入層における正孔輸送材料として用いられること、または発光層におけるマトリックス材料として用いられること、または発光層におけるドーパントとして用いられることを特徴とする電子デバイス。」

(2)発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。
摘示a:発明の概要
「【0001】本発明は、式(I)の化合物、電子デバイスにおける式(I)の化合物の使用、および1種以上の式(I)の化合物を含む電子デバイスに関する。本発明はさらに、式(I)の化合物の製造方法、および1種以上の式(I)の化合物を含む配合物に関する。…
【0016】本発明は、電子デバイス、好ましくは有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおける使用で有利な特性を示す式(I)の化合物を新規なクラスの材料として述べる。該化合物は、好ましくは、正孔輸送もしくは正孔注入材料として、蛍光もしくはリン光エミッタのマトリックス材料として、または電子輸送材料として用いる。」

摘示b:化合物の例
「【0050】非常に特別に好適なのは、以下の式(I-1a)?(I-7a)および(I-17a)?(I-23a)の化合物である。
【化11-1】

…【0054】本発明による化合物の例を以下の表に示す。
【表2-1】

【表2-2】

【表2-3】

【表2-4】

【表2-5】

【0055】本発明による化合物は、例えば、臭素化、スズキカップリング、ハートウィッグ-ブッフバルトカップリング等などの当業者に公知の合成ステップにより製造することができる。」

摘示c:合成経路
「【0056】基X^(1)として置換窒素原子を有する式(I)の化合物への可能な合成経路を、以下のスキーム1?4に一般用語で示す。…
【0059】以下のスキーム1は、とりわけ、X^(2)が基N-HまたはN-Arであり、X^(3)が基C=Oである式(Ia)の化合物(タイプaの化合物)の合成を示す。…約120℃の温度が用いられるPOCl_(3)との反応の変形において、本発明による式(Ib)に一致するタイプbの化合物(ここで、X^(4)が窒素原子であり、X^(5)が基C-Clである)がタイプaの誘導体の代わりに形成される。…
【0060】X^(2)がN-HまたはN-Arであり、X^(3)がC(R)_(2)であるタイプcの化合物は、スキーム1に示したウルマンカップリングにおいて生成した中間体から出発して、アルキルリチウム化合物との反応とそれに続く酸、例えば、メタンスルホン酸またはポリリン酸による処理によりさらに得ることができる(スキーム2)。
【化13】

【0061】ジアリールエーテルまたはジアリールチオエーテル中間体は、スキーム3に示すように、ヒドロキシルまたはチオール置換カルバゾール誘導体から出発して、ハロゲン置換安息香酸誘導体との反応により再びさらに得ることができる。
【化14】スキーム3…X^(2)=O,S…
【0062】これらの中間体は、スキーム1に示したのと同じように、POCl_(3)と反応させて、タイプd(X^(2)=O)またはタイプe(X^(2)=S)の化合物を得ることができる(スキーム4)。あるいは、該中間体は、スキーム2に示したのと同様に、有機リチウム化合物の付加反応とそれに続く酸処理により反応させて、タイプf(X^(2)=O)またはタイプg(X^(2)=S)の化合物を得ることができる(スキーム4)。
【化15】スキーム4…X^(2)=O,S…
【0063】したがって、本発明は、以下の式(Za)または(Zb)の中間体を用いることを特徴とする、本発明による式(I)の化合物の製造の方法に関する。
【化16】

【0064】(ここで、出現する記号は、上で定義したとおりであり、E^(2)は、二価の基X^(2)の前駆体を表し、E^(3)は、二価の基X^(3)の前駆体を表し、E^(4)は、基X^(4)の前駆体を表し、E^(5)は、基X^(5)の前駆体を表す。)」

摘示d:合成例
「【0124】使用例 I.合成例…
【0134】6)5,8-ビスビフェニル-4-イル-13,13-ジメチル-8,13-ジヒドロ-5H-5,8-ジアザインデノ[1,2-a]アントラセンAの合成
【化22】

…【0136】B)ジメチル-5,8-ジナフタレン-1-イル-8,13-ジヒドロ-5H-5,8-ジアザインデノ[1,2-a]アントラセンB
【化23】



摘示e:デバイス例
「【0138】…II.デバイス例
本発明によるOLEDおよび従来技術によるOLEDを、ここで述べる状況(層厚変動、材料)に適応させた国際公開第04/058911号による一般的な方法により製造する。
【0139】以下の例C1?I5(表1および2参照)において、様々なOLEDに関するデータを示す。…OLEDは、基本的に次の層構造を有する:基板/任意の正孔注入層(HIL)/正孔輸送層(HTL)/任意の中間層(IL)/電子遮断層(EBL)/発光層(EML)/任意の正孔遮断層(HBL)/電子輸送層(ETL)および最後にカソード。…
【0140】すべての材料を真空チャンバー中で熱蒸着により付着させる。発光層は、この場合、常に少なくとも1つのマトリックス材料(ホスト材料)および発光ドーパント(エミッタ)(これとマトリックス材料または複数のマトリックス材料が、特定の体積比率で共蒸発により混合される)からなっている。…
【0144】本発明による化合物の正孔輸送材料としての使用
OLEDのC1?C3は、正孔輸送材料SpA1およびSpNPBが用いられている従来技術による比較例である。例I1?I5は、本発明による化合物AおよびBが用いられているOLEDのデータを示す。…
【0147】したがって、OLEDの正孔輸送側における本発明による化合物の使用は、動作電圧、出力効率および寿命に関する改善が生じる。
【0148】本発明による化合物のドーパントとしての使用
OLEDの発光層における化合物Bの使用により、青色の発光が生じる。層構造HATCN 5nm/SPA1 140nm/NPB 20nm/M1:B(95%:5%)30nm/ST1:LiQ(50%:50%)20nmとカソードとしての100nmの厚さを有するアルミニウム層の使用により、CIEx/y=0.15/0.09の藍色の色座標および1000cd/m2における5.2%の外部量子効率が生ずる。動作電圧は、1000cd/m^(2)の光束密度で4.5Vである。」

3.通知された拒絶の理由
(1)理由1(実施可能要件)及び理由2(サポート要件)
平成29年1月6日付けの拒絶理由通知は、その〔理由1〕として「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由と、その〔理由2〕として「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」との理由からなるものである。

(2)理由1の概要
上記〔理由1〕の「下記の点」として、平成29年1月6日付けの拒絶理由通知においては、次の点が概略通知されている。

●本願明細書の段落0050の式(I-1a)の基本骨格を有し、X^(2)がN-Arであり、X^(3)がC(CH_(3))_(2)である化合物において、そのN-Arの「Ar」が「6?18個の芳香族環原子を有する芳香族環系」以外のもの、当該「Ar」に置換する「ラジカルR^(3)」が、H、アルキル、又はアリール以外のものについては、本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が実施可能な程度の記載が見当たらず、これらのものが本願出願時の技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要することなく当業者が製造及び使用できるとは認められない。

(3)理由2の概要
上記〔理由2〕の「下記の点」として、平成29年1月6日付けの拒絶理由通知においては、次の点が概略通知されている。

●本願請求項1に記載された「式(I)の化合物」のうち、本願明細書の段落0050の式(I-1a)の基本骨格を有し、X^(2)がN-Arであり、X^(3)がC(CH_(3))_(2)である化合物以外のもの、当該「Ar」に置換する「ラジカルR^(3)」が、H、アルキル、又はアリール以外のものについては、実際に試験を行った試験結果から、当業者にその有用性が認識できる程度の裏付けがなされているとはいえず、本願所定の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

●本願請求項6(補正後の請求項5に対応)に記載された『マトリックス材料としての使用』に関する発明、本願請求項9(補正後の請求項8に対応)に記載された『化合物がマトリックス材料として用いられる電子デバイス』に関する発明、及び本願請求項8(補正後の請求項7に対応)に記載された「電子デバイス」が「有機集積回路(O-IC)」等である場合の発明については、本願明細書の発明の詳細な説明の記載又は本願出願時の技術常識に照らし、上記『有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおける使用で有利な特性を示す化合物を含む電子デバイスの提供』という本願所定の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

4.当審の判断
(1)理由1について
ア.基本骨格について
(ア)本願請求項1に係る発明は、その「式(I-1)」の基本骨格(

)を有し、式中「X^(2)、X^(3)は、出現する毎に、C(R^(1))_(2)およびNR^(1)から異なって選択される二価の基」であるものに関する。

(イ)これに対して、本願明細書の段落0054(摘示b)に示された例1?32の化合物のうち、例1?15のものは、ZがCHであり、X^(2)がN-Arであり、X^(3)がC(CH_(3))_(2)である場合の具体例に相当し、例29のものは、ZがCHであり、X^(2)がC(CH_(3))_(2)であり、X^(3)がN-Arである場合の具体例に相当する。(なお、例16及び17は、そのX^(1)が基NR^(1)である場合のR^(1)がアリール基ではないという点において本願発明の具体例に相当せず、例18?21は、そのZがCR^(1)である場合のR^(1)の一部が縮合環を形成しているという点において本願発明の具体例に相当せず、例22?28は、そのZの一部がNであるという点において本願発明の具体例に相当せず、例30?32は、そのX^(2)がO又はNであるという点において本願発明の具体例に相当しない。)

(ウ)そして、本願明細書の段落0056?0062(摘示c)に示されたスキーム1?4のうち「スキーム2」の合成経路については「X^(2)がN-HまたはN-Arであり、X^(3)がC(R)_(2)であるタイプcの化合物」に関するものであって、摘示bの例1?15の化合物の合成経路を示しているといえるが、本願請求項1の「式(I-1)」の基本骨格において『X^(2)がC(R^(1))_(2)であり、X^(3)がNR^(1)である場合』の合成経路を示す記載は本願明細書全体の記載を精査しても見当たらない。(なお、摘示cの「スキーム1」の合成経路は『X^(3)が基C=Oであるタイプaの化合物』及び『X^(5)が基C-Clであるタイプbの化合物』に関するものであり、同じく「スキーム3」と「スキーム4」の一連の合成経路は「タイプd(X^(2)=O)またはタイプe(X^(2)=S)の化合物」に関するものであるから、スキーム1及び3?4の合成経路は本願発明の具体例に相当しない。)

(エ)次に、本願明細書の段落0063?0064(摘示c)に示された中間体のうち、上段の「式(Za)」の中間体を用いた製造方法は、当該中間体の「E^(2)」が「二価の基X^(2)の前駆体」を表し「E^(3)」が「二価の基X^(3)の前駆体」を表すとされている。しかしながら、当該「E^(2)」が「X^(2)=C(R^(1))_(2)」の前駆体である場合、及び当該「E^(3)」が「X^(3)=NR^(1)」の前駆体である場合の具体的な記載は、本願明細書全体の記載を精査しても見当たらず、このような前駆体を用いた場合に所望の縮合環を形成できるといえる本願出願時の技術常識の存在も見当たらない。(なお、当該段落0063の下段の「式(Zb)」の中間体を用いた製造方法は、得られる化合物の基本骨格が「=X^(4)-」及び「=X^(5)-」の構造を有するものであって「-X^(2)-」及び「-X^(3)-」の構造を有するものではないから、本願発明の具体例に相当しない。)

(オ)さらに、本願明細書の段落0134及び0136(摘示d)に示された「合成例」における「A」及び「B」の化合物は、Aの化合物が上記「例1」の化合物に該当し、Bの化合物が上記「例7」の化合物に該当するものであって、本願請求項1の「式(I-1)」の基本骨格において『X^(2)がC(R^(1))_(2)であり、X^(3)がNR^(1)である場合』の合成例に該当しない。

(カ)してみると、本願請求項1の「式(I-1)」の基本骨格を有する化合物において『X^(2)がC(R^(1))_(2)であり、X^(3)がNR^(1)である場合』の化合物については、本願明細書の発明の詳細な説明に当業者が当該化合物を「製造」できるといえる程度の記載があるとはいえず、意見書等の説明を斟酌しても本願明細書の例1?15の化合物と異なる基本骨格の化合物を本願出願時の技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要することなく当業者が製造及び使用できるといえる根拠が見当たらない。

(キ)したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願請求項1及びその従属項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

イ.置換基について
(ア)本願請求項1に係る発明は、その「式(I-1)の化合物」において、式中「Zは、CR^(1)であり;R^(1)は、出現する毎に、同一であるかまたは異なり、H、D、F、CNまたは1?20個のC原子を有する直鎖アルキルもしくはアルコキシ基または3?20個のC原子を有する分枝もしくは環状アルキルもしくはアルコキシ基または5?20個の芳香族環原子を有するアリールもしくはヘテロアリール基(この基は、各場合において、1以上のラジカルR^(3)により置換されていてもよい)」であるものに関する。

(イ)これに対して、本願明細書の段落0054(摘示b)に示された例1?15の化合物の具体例は、いずれも同段落0050(摘示b)の「式(I-1a)」の基本骨格を有するもの、すなわち、本願請求項1の「式(I-1)」の「Z」が「CH」である場合の化合物に限られている。

(ウ)そして、本願明細書の段落0060(摘示c)に示された「スキーム2」においては「R=いずれかの所望のラジカル」との記載があるが、当該「R」が「H」以外の「CN」や「5?20個の芳香族環原子を有するヘテロアリール基」などである場合の化合物の製造方法については、本願明細書の段落0134及び0136(摘示d)の合成例についての記載を含む本願明細書全体の記載を参酌しても、当業者が当該化合物を「製造」できるといえる程度の記載が見当たらない。また、本願請求項1の「式(I-1)」の10個の「Z」における「R^(1)」の各々が「CN」や「20個の芳香族環原子を有するヘテロアリール基」などである場合の化合物を、本願出願時の技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要することなく当業者が製造できるといえる根拠も見当たらない。

(エ)してみると、本願請求項1の「式(I-1)の化合物」において、その「Z」が「CH」以外の化合物については、本願明細書の発明の詳細な説明に、当業者が実施可能な程度の記載があるとはいえず、意見書等の説明を斟酌しても本願明細書の例1?15の化合物と異なる「R^(1)」を有する化合物を本願出願時の技術常識に基づいて過度の試行錯誤を要することなく当業者が製造及び使用できるといえる根拠が見当たらない。

(オ)したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願請求項1及びその従属項に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

(2)理由2について
ア.サポート要件について
一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。
また、一般に『化学物質の発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり,試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識しているところである。したがって,化学物質の発明の有用性を知るには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できることを必要とする。』とされている〔平成20(行ケ)10483号判決参照〕。

イ.本願請求項1?8に係る発明の解決しようとする課題
本願明細書の段落0016の「本発明は、電子デバイス、好ましくは有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおける使用で有利な特性を示す式(I)の化合物を新規なクラスの材料として述べる。該化合物は、好ましくは、正孔輸送もしくは正孔注入材料として、蛍光もしくはリン光エミッタのマトリックス材料として、または電子輸送材料として用いる。」との記載からみて、本願請求項1?8に係る発明の解決しようとする課題は『有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおける使用で有利な特性を示す化合物及びこれを含む電子デバイスの提供』にあるものと認められる。

ウ.本願請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との対比
本願請求項1の記載は、上記『2.(1)特許請求の範囲の記載』の欄に示したとおりである。また、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記『2.(2)発明の詳細な説明の記載』の欄に示したとおりの記載がある。
ここで、本願請求項1に記載された発明と、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とを対比する。
本願明細書の段落0134(摘示c)に記載された「A」の化合物は、本願請求項1に記載された「式(I-1)の化合物」において『X^(1)は、基NR^(1)(式中、R^(1)は、6個の芳香族環原子を有するアリール基を表し、この系は、1個のラジカルR^(3)により置換されている)であり;X^(2)がNR^(1)の二価の基であり、基NR^(1)の成分としてのR^(1)は、6個の芳香族環原子を有するアリール基(この系は、1個のラジカルR^(3)により置換されている)であり、X^(3)がC(CH_(3))_(2)の二価の基であり;Zは、CHであり;R^(3)は、6個の芳香族環原子を有するアリールである。』に相当する。
また、本願明細書の段落0136(摘示c)に記載された「B」の化合物は、本願請求項1に記載された「式(I-1)の化合物」において『X^(1)が、基NR^(1)(式中、R^(1)は、10個の芳香族環原子を有するアリール基を表す)であり;X^(2)がNR^(1)の二価の基であり、基NR^(1)の成分としてのR^(1)は、10個の芳香族環原子を有するアリール基であり、X^(3)がC(CH_(3))_(2)の二価の基であり;Zは、CHである。』に相当する。
そして、本願明細書の段落0144?0148(摘示e)には、化合物A及びBを「正孔輸送材料」として用いた「例I1?I5」の使用例と、化合物Bを「ドーパント」として用いた使用例が、その試験結果とともに記載されている。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1の「X^(2)」が「NR^(1)」以外の化合物、本願請求項1の「X^(3)」が「C(R^(1))_(2)」以外の化合物、本願明細書の段落0050の式(I-1a)の基本骨格を有する以外の化合物(本願請求項1の「Z」が「CR^(1)」であり;その「R^(1)」が「H」以外の化合物)、及び本願請求項1の「ラジカルR^(3)」がアリール基である以外の化合物についての具体的な記載がない。
すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明の試験結果によっては、本願請求項1の「X^(2)」が「NR^(1)」以外の基本骨格を有する化合物、及び「X^(3)」が「C(R^(1))_(2)」以外の基本骨格を有する化合物、並びに本願請求項1の「式(I-1)」に含まれる合計10個の「Z」における「CR^(1)」の「R^(1)」の各々が「H」以外の「F」や「CN」や「20個の芳香族環原子を有するヘテロアリール基」などである場合の化合物の有用性を当業者が直ちに認識できるとはいえない。
そして、基本骨格を構成する元素の種類が異なる化合物の有用性を当業者が予測できるといえる本願出願時の技術常識などの具体的な根拠は意見書等の説明を精査しても見当たらないので、本願明細書の化合物A及びBの試験結果を根拠に、本願請求項1の「式(I-1)」の「X^(2)」及び「X^(3)」が異なる場合の化合物の有用性までをも予測できるとはいえない。
また、本願明細書の例1?15の具体例は、その「CR^(1)」の「R^(1)」の各々が全て「H」であり、その「ラジカルR^(3)」が存在する場合の「R^(3)」がH、アルキル、又はアリールである場合のものに限られているところ、当該『H、アルキル、又はアリール』という置換基と、本願請求項1に記載された「R^(1)」及び「R^(3)」の選択肢に含まれる「F」や「CN」や「20個の芳香族環原子を有するヘテロアリール基」などの置換基の電子的な性質や立体的な性質が同等であり、これら置換基の全てが本願所定の課題を解決できると解し得る本願出願時の技術常識などの具体的な根拠は意見書等の説明を精査しても見当たらないので、本願請求項1の「式(I-1)」に含まれる10個の「Z」における「CR^(1)」の「R^(1)」並びに「ラジカルR^(3)」の選択肢に含まれる置換基の全てが、本願所定の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。
してみると、本願請求項1に記載された「式(I-1)の化合物」のうち、本願明細書の段落0050の式(I-1a)の基本骨格を有し、X^(2)がN-Arであり、X^(3)がC(CH_(3))_(2)である化合物において、そのN-Arの「Ar」が『6?18個の芳香族環原子を有する芳香族環系』以外のもの、当該「Ar」に置換する「ラジカルR^(3)」が、H、アルキル、又はアリール以外のものについては、実際に試験を行った試験結果から、当業者にその有用性が認識できる程度の裏付けがなされているとはいえず、本願明細書の発明の詳細な説明の記載又は本願出願時の技術常識に照らし、上記『有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおける使用で有利な特性を示す化合物の提供』という本願所定の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

エ.本願請求項5、7及び8の記載と発明の詳細な説明の記載との対比
本願請求項5、7及び8の記載は、上記『2.(1)特許請求の範囲の記載』の欄に示したとおりであり、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記『2.(2)発明の詳細な説明の記載』の欄に示したとおりの記載があるところ、本願請求項5、7及び8に記載された発明と、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とを対比する。
本願明細書の段落0144?0148(摘示e)には「デバイス例」として、化合物A及びBを「有機エレクトロルミネッセンスデバイス(OLED)」の「正孔輸送材料」として用いた「例I1?I5」の使用例と、化合物Bを「発光ドーパント(エミッタ)」として用いた使用例が、その試験結果とともに記載されている。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1に係る発明の化合物を、本願明細書の段落0140(摘示e)に記載された「マトリックス材料(ホスト材料)」として用いた具体例の記載がなく、本願請求項7の選択肢のうち「有機エレクトロルミネッセンスデバイス(OLED)」以外の「有機集積回路(O-IC)」等の電子デバイスに用いた具体例の記載もない。
そして、平成29年4月7日付けの意見書の「1)理由1および2(実施可能要件、サポート要件)上記補正により、補正後の請求項1の化合物は、具体的な実施例にサポートされた式(I-1)の化合物に限定されました。また、置換基X^(1)、X^(2)、X^(3)、Z、R^(1)、R^(3)およびR^(4)も具体的な実施例にサポートされたものに限定されました。したがって、本願発明は、実施可能要件とサポート要件とを満足するものと信じます。」との説明によっては、本願請求項5、7及び8の記載が、本願所定の課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。
してみると、本願請求項5に記載された「マトリックス材料としての、請求項1に記載の少なくとも1種の化合物の使用」についての発明、本願請求項8に記載された「発光層におけるマトリックス材料として用いられる…ことを特徴とする電子デバイス」についての発明、並びに本願請求項7に記載された「電子デバイスが、有機集積回路(O-IC)、有機電界効果トランジスタ(O-FET)、有機薄膜トランジスタ(O-TFT)、有機発光トランジスタ(O-LET)、有機太陽電池(O-SC)、有機光検知器、有機感光体、有機電場消光デバイス(O-FQD)、発光電気化学セル(LEC)、有機レーザーダイオード(O-laser)…から選択される請求項6に記載の電子デバイス」についての発明については、本願明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載がなく、本願明細書の発明の詳細な説明の記載又は本願出願時の技術常識に照らし、上記『有機エレクトロルミネッセンスデバイスにおける使用で有利な特性を示す化合物を含む電子デバイスの提供』という本願所定の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

オ.まとめ
以上総括するに、本願請求項1、5、7及び8並びにその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1?8の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。

5.むすび
以上のとおり、本願は特許法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていないから、その余の事項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-28 
結審通知日 2017-05-09 
審決日 2017-05-22 
出願番号 特願2013-514567(P2013-514567)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C07D)
P 1 8・ 536- WZ (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀 洋樹早川 裕之  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 木村 敏康
加藤 幹
発明の名称 電子デバイス用化合物  
代理人 河野 直樹  
代理人 井上 正  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 鵜飼 健  
代理人 飯野 茂  
代理人 野河 信久  
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