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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1333071
審判番号 不服2016-19475  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-27 
確定日 2017-10-24 
事件の表示 特願2015-530319号「少なくとも1つの吸気弁を有する内燃機関、特にオットーエンジンの作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年3月27日国際公開、WO2014/044388、平成27年9月17日国内公表、特表2015-527531号、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)9月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年(平成24年)9月21日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とするものであって、平成27年3月9日に国内書面とともに明細書の翻訳文及び請求の範囲の翻訳文が提出され、平成28年2月16日付けで拒絶理由が通知され、平成28年5月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成28年8月24日付けで拒絶査定がされ、平成28年12月27日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正書が提出され、平成29年2月27日に前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年8月24日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.理由(特許法第29条第2項)について
本願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)請求項1、6及び7
・刊行物1
刊行物1には、少なくとも1つの吸気弁を有する内燃機関の作動方法であって、排気マニホールドには排気エネルギにより吸気を加圧するターボチャージャが設けられており、加速過渡時(部分負荷運転から全負荷運転への移行時)であると判断された場合には、吸気弁が吸気早閉じ(非常に早い第一の時点)のミラーサイクルよりも閉弁時期が遅角側(早い第三の時点)に設定されたカムにより開閉駆動される方法、並びに当該方法によって内燃機関を制御する制御装置を備えた内燃機関及び当該内燃機関を備えた自動車、が記載されている(特に段落【0017】ないし【0022】、【0026】、【0029】ないし【0030】及び【0055】ないし【0058】並びに【図1】、【図3】及び【図5】を参照されたい。)。

刊行物1に記載されている発明は、加速過渡時の間、吸気弁の閉弁時期を遅角させるものであるから、所定期間だけ閉弁時期が遅角された状態で吸気弁が閉じられるものと認められる。
また、加速過渡時前の吸気早閉じのタイミングを吸気下死点前70°に設定し、加速過渡時の遅角された吸気閉じタイミングを吸気下死点前67°に設定することは、一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化でしかなく、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。

(2)請求項2
・刊行物1ないし3
内燃機関制御の技術分野において、加速走行時(部分負荷運転から全負荷運転への移行時)のEGRガス量を通常走行時のEGRガス量に比べて小さい値に設定する技術は従来より周知である(例えば刊行物2の段落【0052】及び刊行物3の段落【0007】を参照されたい。)。

(3)請求項3
・刊行物1ないし4
内燃機関制御の技術分野において、加速走行時(部分負荷運転から全負荷運転への移行時)に、所定期間だけターボチャージャに備えられたウエストゲート弁を閉状態に制御する技術は従来より周知である(例えば刊行物3の段落【0007】及び刊行物4の第2ページ右上欄第11行ないし第18行を参照されたい。)。

(4)請求項4及び5
・刊行物1ないし5
刊行物5には、低負荷運転領域からの急加速時(部分負荷運転から全負荷運転への移行時)には、点火タイミングをリタードさせる構成、が記載されている(特に段落【0030】を参照されたい。)。

刊行物1及び5に記載された発明は、ともに火花点火式内燃機関制御の技術分野に属しており、より広範囲の運転領域において出力を高く保持するという共通の課題を有しているので、刊行物1に記載された発明において、刊行物5に記載された発明を適用して、低負荷運転領域からの急加速時に点火タイミングをリタードさせる構成をとることは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
このとき、どの程度の期間、どの程度の角度だけ点火時期を遅らせるかは、当業者が必要に応じて選択する設計的事項である。

<刊行物等一覧>
1. 特開2004-183513号公報
2. 特開2010-95084号公報
3. 特開2010-96049号公報
4. 特開昭60-8425号公報
5. 特開2007-292060号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成27年3月9日に国内書面とともに提出された明細書の翻訳文及び平成28年12月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに国際出願時の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定された以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
少なくとも1つの吸気弁(11)を有する内燃機関(1)の作動方法であって、
前記内燃機関(1)に供給された給気流が排気ガスターボチャージャー(2)によって圧縮され、
部分負荷運転において前記内燃機関(1)の前記少なくとも1つの吸気弁(11)が非常に早い第一の時点(t_(1))又は非常に遅い第二の時点(t_(2))で閉鎖され、
前記部分負荷運転から全負荷運転への移行において、前記少なくとも1つの吸気弁(11)が、早い第三の時点(t_(3))又は遅い第四の時点(t_(4))で所定の時間だけ閉鎖され、前記第三の時点(t_(3))は前記第一の時点(t_(1))の後に、前記第四の時点(t_(4))は前記第二の時点(t_(2))の前にあり、
前記内燃機関(1)のピストンが、前記内燃機関(1)の吸気行程に対応する前記ピストンの下死点(UT)に対してほぼ-70°又はほぼ+70°のいずれかの相対クランク角度(α_(1)又はα_(2))を有するとき、前記内燃機関(1)の前記部分負荷運転において前記少なくとも1つの吸気弁(11)が閉鎖され、
前記少なくとも1つの吸気弁(11)が前記内燃機関(1)の前記部分負荷運転から前記全負荷運転への前記移行において、前記所定の時間だけほぼ-67°又は+67°の相対クランク角度(α_(3)又はα_(4))のもとで閉鎖され、
前記内燃機関(1)の下流に設置された排気ガスターボチャージャー(2)のウェイストゲート装置(18)のウェイストゲート開放が、少なくとも前記移行の前記所定の時間だけ閉鎖される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記所定の時間において排気ガス再循環率の減少が起こることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の時間の間、前記内燃機関(1)の点火装置(17)の点火時期が所定の遅延期間又は前記ピストンの所定の相対クランク角度だけ遅延させられることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記所定の相対クランク角度が、前記内燃機関(1)の点火行程に対応する前記ピストンの上死点(OT)に対してほぼ+5°から+23°であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1?請求項4のいずれか一項に記載の方法の実行のために形成され、
部分負荷運転において前記内燃機関(1)の前記少なくとも1つの吸気弁(11)が非常に早い第一の時点(t_(1))又は非常に遅い第二の時点(t_(2))で閉鎖し、
前記部分負荷運転から全負荷運転への移行において、前記内燃機関(1)の前記少なくとも1つの吸気弁(11)が、早い第三の時点(t_(3))又は遅い第四の時点(t_(4))で所定の時間だけ閉鎖し、前記第三の時点(t_(3))が前記第一の時点(t_(1))の後に、前記第四の時点(t_(4))が前記第二の時点(t_(2))の前にあり、
前記内燃機関(1)のピストンが、前記内燃機関(1)の吸気行程に対応する前記ピストンの下死点(UT)に対してほぼ-70°又はほぼ+70°のいずれかの相対クランク角度(α_(1)又はα_(2))を有するとき、前記内燃機関(1)の前記部分負荷運転において前記少なくとも1つの吸気弁(11)が閉鎖され、
前記少なくとも1つの吸気弁(11)が前記内燃機関(1)の前記部分負荷運転から前記全負荷運転への前記移行において、前記所定の時間だけほぼ-67°又は+67°の相対クランク角度(α_(3)又はα_(4))のもとで閉鎖され、
前記内燃機関(1)の下流に設置された排気ガスターボチャージャー(2)のウェイストゲート装置(18)のウェイストゲート開放が、少なくとも前記移行の前記所定の時間だけ閉鎖される
ように形成された制御装置(12)を有するチャージ部(2)を有する内燃機関(1)。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関(1)と、排気ガスターボチャージャー(2)が配置されている排気管(14)とを有する自動車。」

第4 刊行物
1.刊行物1(特開2004-183513号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物1には、「高圧縮比サイクルエンジン」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物1の記載事項
1a)「【要約】
【課題】本発明は、高膨張比サイクルエンジンの加速過渡時や低中速域の運転時に吸気量を増大させて出力の低下を防止できるようにする。
【解決手段】過給機付き高膨張比サイクルエンジンにおいて、エンジン1の加速過渡時が判定されると、吸入空気量が増大するようにドライブバイワイヤ機構14を優先的に作動させ、ドライブバイワイヤ機構14で吸入空気量の不足分を補いきれない場合に、可変バルブタイミング機構30により吸気弁5の閉弁時期を変更して吸入空気量の増大を図る。」(【要約】の欄)

1b)「【請求項1】
膨張比を圧縮比よりも大きく設定するとともに過給機を備えた高膨張比サイクルエンジンにおいて、
エンジンの加速過渡時を判定する加速過渡時判定手段と、
該エンジンの吸気弁の閉弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構と、
アクセルペダルと電気的に接続されてスロットル開度を変更可能なドライブバイワイヤ機構と、
該可変バルブタイミング機構及び該ドライブバイワイヤ機構の作動を制御する制御手段とをそなえ、
該加速過渡時判定手段により該エンジンの加速過渡時が判定されると、吸入空気量が増大するように該ドライブバイワイヤ機構の作動が制御されるとともに、該ドライブバイワイヤ機構の作動後においても該吸入空気量が不足していると判定されると、該吸入空気量が増大するように該可変バルブタイミング機構の作動が制御される
ことを特徴とする、高膨張比サイクルエンジン。
【請求項2】
膨張比を圧縮比よりも大きく設定するとともに過給機を備えた高膨張比サイクルエンジンにおいて、
エンジンの運転速度領域を判定する運転速度領域判定手段と、
該エンジンの吸気弁の閉弁時期を変更可能な可変バルブタイミング機構と、
アクセルペダルと電気的に接続されてスロットル開度を変更可能なドライブバイワイヤ機構と、
該可変バルブタイミング機構及び該ドライブバイワイヤ機構の作動を制御する制御手段とをそなえ、
該運転速度領域判定手段により該エンジンの運転速度領域が低中速域であると判定されると、吸入空気量が増大するように該ドライブバイワイヤ機構の作動が制御されるとともに、該ドライブバイワイヤ機構の作動後においても該吸入空気量が不足していると判定されると、該吸入空気量が増大するように該可変バルブタイミング機構の作動が制御される
ことを特徴とする、高膨張比サイクルエンジン。
【請求項3】
該ドライブバイワイヤ機構により該スロットル開度を最大としても該吸入空気量が不足している場合に、該吸入空気量が増大するように該可変バルブタイミング機構の作動が制御される
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の高膨張比サイクルエンジン。
【請求項4】
該エンジンが、該吸気弁を吸気行程の途中で閉弁することにより膨張比を圧縮比よりも大きくするように構成された吸気弁早閉じタイプの高膨張比サイクルエンジンであって、該可変バルブタイミング機構により該吸気弁の閉弁時期を遅角させることにより吸気量を増大させるように構成されていることを特徴とする、請求項1?3項のいずれか1項記載の高膨張比サイクルエンジン。
【請求項5】
該エンジンが、該吸気弁を圧縮行程の途中で閉弁することにより膨張比を圧縮比よりも大きくするように構成された吸気弁遅閉じタイプの高膨張比サイクルエンジンであって、該可変バルブタイミング機構により該吸気弁の閉弁時期を進角させることにより吸気量を増大させるように構成されている
ことを特徴とする、請求項1?3項のいずれか1項記載の高膨張比サイクルエンジン。」
(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項5】)

1c)「【0015】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述したように、ミラーサイクルエンジンでは排気量に対して吸気量が低下するため過給機により吸気を過給しているが、このような従来の技術では、以下のような課題があった。
すなわち、過給機には、一般にアクセルを踏み込んでから過給が行なわれるまでの間にタイムラグがある。このため加速過渡時においては過給圧が立ち上がるまでの間は吸気量が低下しており、この結果トルクが不足して加速不良が生じることとなる。また、ミラーサイクルにおいては圧縮比が小さいほど、また膨張比が大きいほど熱効率が高くなるが、圧縮比を小さくしすぎると、低中速域の過給圧が低い運転状態では吸気量が少なく出力低下を招くおそれがある。
【0016】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、加速過渡時や低中速域における吸気量を増大させて出力の低下を防止するようにした、高膨張比サイクルエンジンを提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1記載の本発明の高圧縮比サイクルエンジンは、膨張比を圧縮比よりも大きく設定するとともに過給機を備えた高膨張比サイクルエンジンにおいて、加速過渡時判定手段によりエンジン運転状態が加速過渡時であると判定されると、吸入空気量が増大するようにまずドライブバイワイヤ機構の作動が制御される。そして、このドライブバイワイヤ機構の作動制御後においても、まだ吸入空気量が不足している場合には、次に、やはり吸入空気量が増大するように可変バルブタイミング機構の作動が制御される。つまり、加速過渡時に吸入空気量の不足を補う場合には優先的にドライブバイワイヤ機構を作動させて、スロットル開度を増大させることで吸入空気量の増大を図り、また、それでも吸入空気量が不足している場合には、可変バルブタイミング機構を作動させて吸入空気量の不足を補う。したがって、加速過渡時にも十分な加速を得ることができ、ドライバビリティが向上する。また、可変バルブタイミング機構よりもドライブバイワイヤ機構を優先的に作動させて吸入空気量を増大させるので、極力高膨張比を維持でき熱効率の低下を防止できる。
【0018】
また、請求項2記載の本発明の高膨張比サイクルエンジンは、膨張比を圧縮比よりも大きく設定するとともに過給機を備えた高膨張比サイクルエンジンにおいて、運転速度領域判定手段によりエンジンの運転速度領域が低中速域であると判定されると、吸入空気量が増大するようにまずドライブバイワイヤ機構の作動が制御される。そして、このドライブバイワイヤ機構の作動制御後においても、まだ吸入空気量が不足している場合には、次に、吸入空気量が増大するように可変バルブタイミング機構の作動が制御される。つまり、エンジン運転領域が低中速域のため吸入空気量の不足を補う場合には優先的にドライブバイワイヤ機構を作動させて、スロットル開度を増大させることで吸入空気量の増大を図り、また、それでも吸入空気量が不足している場合には、可変バルブタイミング機構を作動させて吸入空気量の不足を補う。したがって、低中速域での運転時にも十分な加速を得ることができ、ドライバビリティが向上する。また、可変バルブタイミング機構よりもドライブバイワイヤ機構を優先的に作動させて吸入空気量を増大させるので、極力高膨張比を維持でき熱効率の低下を防止できる。
【0019】
なお、好ましくは、ドライブバイワイヤ機構によりスロットル開度を最大としても該吸入空気量が不足している場合に、吸入空気量が増大するように可変バルブタイミング機構の作動を制御する。
また、好ましくは、上記のエンジンが、吸気弁を吸気行程の途中で閉弁することにより膨張比を圧縮比よりも大きくするように構成された吸気弁早閉じタイプの高膨張比サイクルエンジンであって、吸気弁の閉弁時期を遅角させることにより吸気量を増大させる。
【0020】
また、好ましくは、上記のエンジンが、吸気弁を圧縮行程の途中で閉弁することにより圧縮比よりも膨張比を大きくするように構成された吸気弁遅閉じタイプの高膨張比サイクルエンジンであって、吸気弁の閉弁時期を進角させることにより吸気量を増大させる。」(段落【0015】ないし【0020】)

1d)「【0026】
また、シリンダヘッド2には、各気筒毎に排気ポート11が形成され、この各排気ポート11に排気マニホールド12がそれぞれ接続されている。また、排気マニホールド12には排気エネルギにより吸気を加圧するターボチャージャ(過給機)13が設けられている。これは、従来技術の欄でも説明したように、ミラーサイクルエンジンでは排気量に対して吸気量が低下するためであり、ターボチャージャ13により吸気量の確保、即ち出力の確保を図っている。なお、図1では省略されているが吸気通路10上にはターボチャージャ13のコンプレッサが介装されている。」(段落【0026】)

1e)「【0036】
これは、主に以下の理由による。つまり、上述したように、本実施形態における吸気弁早閉じタイプのミラーサイクルエンジンでは、吸気行程時にピストンが下死点に達するよりも大幅に早いタイミングで吸気弁5を閉じることにより吸気量を低減し、これにより膨張比ε>実際の圧縮比(幾何学的圧縮比)ρとしてミラーサイクルを実現している。
【0037】
そして、このように膨張比εを幾何学的圧縮比ρよりも大きくすることで、ポンプ損失を低減して熱効率の向上を図るとともに、低圧縮比化(例えば圧縮比ρ=9)によりノッキング(ノック)を回避している。ただし、このようなミラーサイクルでは、排気量に対して吸気量が低下するため、相対的に出力が低くなるため、上述のようにターボチャージャ13により吸気を過給して出力を確保している。
【0038】
しかし、ターボチャージャ13は、一般にアクセルを踏み込んでから過給が行なわれるまでの間にタイムラグが存在する。これは、クランク軸から駆動力を取り出して吸気を圧縮するいわゆるスーパチャージャでも同様である。このため、加速過渡時においては過給圧が立ち上がるまでの間は吸気量が不足し、加速不良が生じる。また、ミラーサイクルにおいては圧縮比が小さいほど、また膨張比が大きいほど熱効率が高くなるが、圧縮比を小さくしすぎると、低中速域の過給圧が低い運転状態では吸気量が少なく出力低下を招くおそれがある。
【0039】
そこで、上述したように、エンジン1の運転状態が加速過渡時である、又はエンジン1が低中速域で運転されていると判定されると、まず、目標吸気量Vtと実吸気量Vrとを比較して、実吸気量Vrが目標吸気量Vtに達しているか否かを判定し、実吸気量Vrが目標吸気量Vt以下であれば、現在のスロットル開度に対して所定開度だけスロットル開度を増大させることにより吸気量を増大させて、加速過渡時等における出力低下を抑制するようになっている。
【0040】
そして、その後このようなスロットル開度制御後に再び比較手段44の算出結果を参照し、実吸気量Vrが目標吸気量Vtに達していれば、通常運転時に設定されるスロットル開度に上記Δθを加算したものを最終的なスロットル開度として設定するようになっている。また、実吸気量Vrが目標吸気量Vtに達していなければ、さらに所定開度Δθだけスロットル開度を増大させ、実吸気量Vrが目標吸気量Vtと一致するまで、繰り返し所定開度Δθずつスロットル開度を増大させるようになっている。
【0041】
また、スロットルアクチュエータ14aによるETV14の開度が最大値に達しても、まだ実吸気量Vrが目標吸気量Vtに達しない場合には、VVT30を作動させて吸気弁5の閉弁時期を遅角させることにより、実質的に吸気行程を増大させて、不足する吸気量を補うようになっている。なお、吸気弁5の閉弁時期を遅角させる場合、閉弁時期は最大でも下死点近傍である。」(段落【0036】ないし【0041】)

1f)「【0042】
以上のように、本実施形態にかかる高膨張比エンジンでは、吸気量が不足するような運転状態(つまり、エンジン1の加速過渡時又は低中速域での運転時)になると、まずスロットルアクチュエータ14aによりETV14の開度を増大させて吸気量の増大を図り、ETV14の開度を最大にしてもなお吸気量が不足する場合には、VVT30を作動させることで吸気量の増大を図っている。なお、ETV14の開度制御により吸気量の不足を解消できた場合には、当然ながらVVT30の作動制御は実行されない。
【0043】
次に、吸気量の増大を図る場合に、ETV14の開度制御を優先的に実行し、その後VVT30の作動制御を実行する理由について説明する。
上述したように、本発明が適用されるようなミラーサイクル(高膨張比サイクル)エンジンでは、膨張比εを幾何学的圧縮比ρよりも相対的に大きくすることで、ポンプ損失を低減して熱効率の向上を図っている。具体的には、吸気弁5の閉弁時期を極力下死点から遠ざけて実質的な吸気行程を低減し、これにより、幾何学的圧縮比ρを膨張比εよりも低減させている。
【0044】
したがって、吸気量が不足した場合にVVT30を作動させて吸気弁5の閉弁時期を下死点近傍まで遅角させると、吸気量の増大を図ることはできるものの、この間はオットーサイクルに近いサイクルとなり、ミラーサイクルの本来の利点が失われてしまう。つまり、この場合には、ミラーサイクルに対して相対的にポンプ損失が増大し、熱効率も低下してしまう。
【0045】
これに対して、ETV14の作動制御を行なう場合には、スロットル開度を増大させる方向にスロットルアクチュエータ14aの作動を制御することになるので、ポンピングロスが低下する方向に作用する。したがって、この場合には、ポンピングロスの低減を図ることができ、また熱効率が低下したりするようなこともない。
【0046】
そこで、本実施形態にかかる高膨張比エンジンでは、エンジン1の加速過渡時や低中速域での運転時等の吸気量が不足するような運転状態では、まず、積極的にETV14の開度を制御して吸気量の増大を図り、それでも吸気量が不足する場合にはVVT30を作動させることで吸気量の増大を図るようにしているのである。」(段落【0042】ないし【0046】)

1g)「【0059】
これにより、低中速域での運転時や加速過渡時において不足する吸気を確保でき出力トルクの低下を防止することができる。
以下、図3のフローチャートに基づいて本発明の作用について説明すると、まず、ステップS1において、各センサからの情報が取り込まれる。具体的にはエンジン回転数センサ3及びアクセルポジションセンサ4から、それぞれエンジン回転数Ne及びアクセル開度Accが取り込まれる。
【0060】
次に、ステップS2おいて、エンジン回転数Ne及びアクセル開度Accに基づき、エンジン1の運転領域が低中速域か、又はエンジン1が加速過渡時であるか否かが判定される。そして、エンジン1が低中速域で運転されている場合、又は、加速過渡時である場合には、ステップS3に進み、そうでない場合にはリターンする。
【0061】
ここで、ステップS3に進んだ場合、つまりエンジン1が低中速域で運転されている又は加速過渡時である場合には、吸気量が低下していることが考えられるので、AFS18で検出された実吸気量Vrと目標吸入空気量設定手段43で設定された目標吸気量Vtとを比較して、実吸気量Vrが目標吸気量Vt以下であるか否かが判定される。
【0062】
そして、ステップS3において実吸気量Vrが目標吸気量Vt以下であると判定されると、次にステップS4に進み、スロットル開度が所定開度だけ増大するようにスロットルアクチュエータ14aが制御されて吸気量の増大が図られる。その後、ステップS5に進み、再び実吸気量Vrと目標吸気量Vtとが比較されて、実吸気量Vrが目標吸気量Vtに達しているとリターンし、実吸気量Vrが目標吸気量Vtに達していないければステップS6に進む。そして、ステップS6において、スロットル開度が最大となっているか否かが判定され、最大開度となっていなければステップS4に戻って、再びステップS4及びステップS5の処理が繰り返される。
【0063】
また、ステップS6において、スロットル開度が最大であると判定されると、これ以上はETV14による吸気量の増大を図ることができない限界の状態となる。そこで、この場合にはステップS7に進んで、吸気量の増大を図るべく吸気弁5の閉弁タイミングがVVT30により下死点側に変更される。
したがって、本発明の一実施形態に係る高膨張比サイクルエンジンによれば、加速過渡時における過給圧が立ち上がるまでの間の吸気量が少ない場合には、吸気量が増大するように、ETV14及びVVT30の作動が制御されるので、高圧縮比化が図られて、燃焼量の低下による出力トルク不足が解消されるとともに十分な加速を得ることができる。また、低中速域では過給圧が低くやはり吸気量が不足気味となるが、上述と同様に吸気量が増大するようにETV14及びVVT30の作動が制御されることにより、燃焼量の低下による出力トルク不足を解消でき、ドライバビリティが向上するという利点がある。また、既に実用化されているドライブバイワイヤ機構や可変バルブタイミング機構の技術を適用することができるので、機械的な信頼度も高いという利点がある。
【0064】
また、上述したように、吸気量の増大を図る場合にVVT30の作動制御よりもETV14の開度制御を優先的に実行し、その後VVT30の作動制御を実行するので、極力高膨張比を維持でき熱効率の低下を極力抑制することができる。したがって、燃費の向上とドラバビリティの向上とを両立させることができるという利点がある。また、ETV14の開度制御を実行する際にはスロットル開度を増大させる方向にスロットルアクチュエータ14aを作動させるので、ポンピングロスの低減を図ることができるという利点もある。
【0065】
なお、本発明は上述の実施形態のものに限定されるものではない。例えば上述の実施形態では、吸気早閉じタイプのミラーサイクルを適用した場合について説明したが、吸気遅閉じタイプのミラーサイクル(図6の指圧線図参照)に本発明を適用してもよい。この場合には、エンジンの加速過渡時又は低中速域での運転が判定されると、吸気量が増大するように吸気弁5の閉弁時期を進角するように制御すればよい。」(段落【0059】ないし【0065】)

(2)上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「少なくとも1つの吸気弁5を有する高膨張比サイクルエンジンを運転する方法であって、
高膨張比サイクルエンジンの吸気がターボチャージャ13によって加圧され、
加速過渡時において、スロットル開度を最大にしてもなお吸気量が不足する場合において、吸気弁5の早閉じを行っている場合に吸気弁5の閉弁時期を下死点側に遅角し、あるいは吸気弁5の遅閉じを行っている場合に吸気弁5の閉弁時期を下死点側に進角させる方法。」

2.刊行物2(特開2010-95084号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物2には、「ハイブリッド車両の制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物2の記載事項
2a)「【0052】
横軸の符号t1は、アクセル開度Accが増加した時刻、すなわち加速要求が出された時刻を表す。つまり、t1以前において車両は定常走行しており、そのときのIVCは上述した定常時IVCに制御される。そして、t1において加速要求が出されると遅閉じ制御が解除されるため、IVCの制御値が定常時IVCよりも進角側の加速時IVCまで変更される。ここで、定常走行時におけるEGRガス量の制御値を「定常時EGRガス量」とし、加速走行時におけるEGRガス量の制御値を「加速時EGRガス量」とする。定常走行時に比べて加速走行時の方がエンジン1に要求される出力が高まるため、図示のように、加速時EGRガス量は定常時EGRガス量よりも小さい値に設定される。」(段落【0052】)

2b)「【0071】
図6は、本実施例における制御ルーチンを示したフローチャートである。本ルーチンはECU10のROM内に記憶されているプログラムであり、一定周期毎にECU10により実行される。本ルーチンが実行されると、ステップS101において、遅閉じ制御の実行中か否かが判定される。本ステップにおいて、遅閉じ制御の実行中であると判定された場合にはステップS106に進み、同制御の実行中ではないと判定された場合にはステップS102に進む。ステップS106以降の処理については後述する。」(段落【0071】)

2c)「【0079】
ステップS106では、アクセル開度センサ40の出力信号に基づき、加速要求が出されているか否かが判定される。本ステップは、ステップS101において遅閉じ制御の実行中であると判定された場合に実施される。本ステップにおいて、加速要求が出されていると判定された場合にはステップS107に進み、そうでない場合には本ルーチンを一旦終了する。
【0080】
ステップS107では、ECU10が、IVCの制御値が定常時IVCから加速時IVCまで進角されるようにVVT機構30を作動させる。また、EGRガス量の制御値が定常時EGRガス量から加速時EGRガス量まで減量されるように、EGR弁38の開度を調節する。」(段落【0079】及び【0080】)

(2)刊行物2技術
上記(1)及び図6の記載からみて、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2技術」という。)が記載されている。

「吸気弁の遅閉じ制御を行っている場合において、アクセル開度センサ40の出力信号に基づき、加速要求が出されている場合に、EGRガス量の制御値を定常時EGRガス量から加速時EGRガス量まで減量する技術。」

3.刊行物3(特開2010-96049号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物3には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物3の記載事項
3a)「【0004】
しかしながら、上記従来の制御装置では、ターボラグへの対策がなされていない。すなわち、EGR量の過剰な増大を防止するために排気圧を低下させることとすると、加速初期にターボラグが顕著に現れてしまう。したがって、上記従来の制御装置では、EGR量の制御によるエミッションの向上とターボラグの抑制とを両立させることは困難となる。
【0005】
この課題は、例えば、ウエストゲートバルブを有する過給機付き内燃機関においても同様に想定される。すなわち、ウエストゲートバルブを有する過給機付き内燃機関においては、該内燃機関に対する出力(加速)要求が検出された場合に、該ウエストゲートバルブを過渡的に閉じ側に制御する場合がある。これにより、過給機のタービンへ流入する排気ガス量を増大させることができるので、ターボラグを効果的に抑制することができる。しかしながら、ウエストゲートバルブを閉じ側に制御すると、排気圧が上昇する。このため、ウエストゲートバルブの過渡的な動作を勘案せずにEGRバルブの開度を設定している場合においては、排気圧と吸気圧の差圧が上昇する分EGR量が過大となってしまい、所望のEGR量を実現できない場合が想定される。かかる場合においては、燃焼温度の低下による失火等が発生するおそれがある。」(段落【0004】及び【0005】)

3b)「【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の制御装置であって、
ウエストゲートバルブを有する過給機付きの内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の排気通路と吸気通路とを接続するEGR通路と、
前記EGR通路に配置されたEGRバルブと、
前記EGRバルブの開度を、前記内燃機関に対する出力要求に応じた目標開度に制御するEGR制御手段と、
前記内燃機関に対する所定の加速要求が検出されたか否かを判定する判定手段と、
前記所定の加速要求が検出されたと判定された場合に、前記ウエストゲートバルブを閉じ側に動作させるウエストゲートバルブ制御手段と、を備え、
前記EGR制御手段は、前記ウエストゲートバルブ制御手段を実行する期間を含む所定期間の前記EGRバルブの開度を前記目標開度よりも減少させることを特徴とする。」(段落【0007】)

3c)「【0010】
第1の発明によれば、内燃機関に対する所定の加速要求が検出され、ウエストゲートバルブを閉じ側に動作させる場合に、EGRバルブの開度が目標開度よりも小さく制御される。ウエストゲートバルブを閉じ側に動作させると、過給機上流の背圧と過給圧との差圧が過渡的に上昇する。本発明によれば、かかる所定期間のEGRバルブの開度が目標開度よりも小さく制御されるため、差圧の上昇に伴ってEGR量が増大する事態を効果的に防止することができる。このため、本発明によれば、内燃機関の加速による過渡運転時の、ターボラグの抑制とエミッションの悪化抑制とを高い次元で両立することができる。
【0011】
第2の発明によれば、ウエストゲートバルブを閉じ側に制御する場合に、かかる動作に先立って、EGRバルブが目標開度よりも小さい所定の開度に制御される。ウエストゲートバルブを閉じると、排気通路における過給機上流の背圧が応答性よく上昇する。このため、本発明によれば、ウエストゲートバルブを閉じ側に制御した直後のEGR量の増大を効果的に抑制することができる。」(段落【0010】及び【0011】)

(2)刊行物3技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物3には以下の技術(以下、「刊行物3技術」という。)が記載されている。

「所定の加速要求が検出された場合に、過給器のウエストゲートバルブを閉じ側に動作させるとともに、EGRバルブの開度を目標開度よりも減少させる技術。」

4.刊行物4(特開昭60-8425号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物4には、「排気ターボ過給式内燃機関における加速制御方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物4の記載事項
4a)「そこで先行技術としての特開昭57-146023号及び特開昭57-157017号公報は、機関の加速に際してアクセルペタルを急速に踏み込んだとき前記ウエストゲート弁を一定時間だけ閉状態に保持することにより、過給圧を適宜時間の間だけ前記ウエストゲート弁の通常設定過給圧以上に高めて加速性能を向上することを提案している。」(第2ページ右上欄第11ないし18行)

(2)刊行物4技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物4には以下の技術(以下、「刊行物4技術」という。)が記載されている。

「機関の加速に際してアクセルペタルを急速に踏み込んだときに、ウエストゲート弁を一定時間だけ閉状態に保持することにより、過給圧を適宜時間の間だけウエストゲート弁の通常設定過給圧以上に高めて加速性能を向上する技術。」

5.刊行物5(特開2007-292060号公報)について
原査定の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された上記刊行物5には、「火花点火式ガソリンエンジン」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。)

(1)刊行物5の記載事項
5a)「【0030】
好ましい態様において、エンジンの加速を検出するエンジン加速検出手段を備え、前記制御手段は、低負荷運転領域からの急加速時には、点火タイミングを圧縮上死点後の所定期間の最大許容値に一気にリタードさせるものである。この態様では、急加速時に吸入される高い温度の新気に起因するノッキングを回避することとしている。」(段落【0030】)

(2)刊行物5技術
上記(1)及び図面の記載からみて、刊行物5には以下の技術(以下、「刊行物5技術」という。)が記載されている。

「低負荷運転領域からの急加速時には、点火タイミングをリタードさせることによりノッキングを回避する技術。」

6.その他の文献について
前置報告書において新たな刊行物として提示された、刊行物6(畑村耕一、他3名,ミラーサイクルガソリンエンジンの平均有効圧の増加に関する研究,日本機械学会論文集(B編),日本,日本機械学会,1995年10月,61巻、590号,p.80)には、「ミラーサイクルエンジンの吸気弁閉弁時期をABDC(下死点後)70°に設定する技術」(以下、「刊行物6技術」という。)が記載されている。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
引用発明における「吸気弁5」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「吸気弁」に相当し、以下同様に、「高膨張比サイクルエンジン」は「内燃機関」に、「運転する方法」は「作動方法」に、「高膨張比サイクルエンジンの吸気」は「内燃機関に供給された給気流」に、「ターボチャージャ13」は「排気ガスターボチャージャー」に、「加圧され」は「圧縮され」に、それぞれ相当する。
さらに、引用発明における「吸気弁5の早閉じを行」う、又は「吸気弁5の遅閉じを行」うは、本願発明1における「内燃機関の少なくとも1つの吸気弁が非常に早い第一の時点又は非常に遅い第二の時点で閉鎖」するに相当し、
引用発明における「吸気弁5の早閉じを行っている場合に吸気弁5の閉弁時期を下死点側に遅角」することは、本願発明1における「少なくとも1つの吸気弁が、早い第三の時点で」、「閉鎖」されることに相当し、
引用発明における「吸気弁5の遅閉じを行っている場合に吸気弁5の閉弁時期を下死点側に進角」されることは、本願発明1における「少なくとも1つの吸気弁」が、「遅い第四の時点で」、「閉鎖」されることに相当し、
引用発明における「加速過渡時」と、本願発明1における「部分負荷運転から全負荷運転への移行」とは、「内燃機関の出力増大時」という限りにおいて一致する。
そして、引用発明における「吸気弁5の早閉じを行っている場合に吸気弁5の閉弁時期を下死点側に遅角」した時点は、吸気弁5の早閉じを行う時点よりも下死点側へ遅角するのであるから、「吸気弁5の早閉じを行」う時点よりも後となり、同じく引用発明における「吸気弁5の遅閉じを行っている場合に吸気弁5の閉弁時期を下死点側に進角」する時点は、吸気弁5の遅閉じを行う時点よりも下死点側に進角するのであるから、吸気弁5の遅閉じを行」う時点よりも前となることは、明らかである。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「少なくとも1つの吸気弁を有する内燃機関の作動方法であって、
内燃機関に供給された給気流が排気ガスターボチャージャーによって圧縮され、
内燃機関の少なくとも1つの吸気弁が非常に早い第一の時点又は非常に遅い第二の時点で閉鎖され、
内燃機関の出力増大時において、少なくとも1つの吸気弁が、早い第三の時点又は遅い第四の時点で閉鎖され、第三の時点は第一の時点の後に、第四の時点は第二の時点の前にある、方法。」

[相違点1]
本願発明1においては、「部分負荷運転において内燃機関の少なくとも1つの吸気弁が非常に早い第一の時点又は非常に遅い第二の時点で閉鎖され」るのに対して、引用発明においては、「吸気弁5の早閉じ」又は「吸気弁5の遅閉じ」が、高膨張比サイクルエンジンのどのような運転領域において行われるのか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明1においては、「少なくとも1つの吸気弁が、早い第三の時点又は遅い第四の時点で閉鎖され」るのが、「部分負荷運転から全負荷運転への移行」における「所定の時間だけ」のものであるのに対して、引用発明においては、「吸気弁5の早閉じを行っている場合に吸気弁5の閉弁時期を下死点側に遅角し、あるいは吸気弁5の遅閉じを行っている場合に吸気弁5の閉弁時期を下死点側に進角させる」のが、「加速過渡時において、スロットル開度を最大にしてもなお吸気量が不足する場合」である点。

[相違点3]
本願発明1においては、「内燃機関のピストンが、内燃機関の吸気行程に対応するピストンの下死点に対してほぼ-70°又はほぼ+70°のいずれかの相対クランク角度を有するとき、内燃機関の部分負荷運転において少なくとも1つの吸気弁が閉鎖され、少なくとも1つの吸気弁が内燃機関の部分負荷運転から全負荷運転への移行において、所定の時間だけほぼ-67°又は+67°の相対クランク角度のもとで閉鎖され、内燃機関の下流に設置された排気ガスターボチャージャーのウェイストゲート装置のウェイストゲート開放が、少なくとも前記移行の所定の時間だけ閉鎖される」のに対して、
引用発明においては、吸気弁5の相対クランク角に基づく具体的な閉弁時期については不明であり、かつ、ターボチャージャーにウェイストゲート装置が設けられているか不明であり、仮に設けられているとしても、少なくとも部分負荷運転から全負荷運転への移行の所定の時間だけウェイストゲートが閉鎖されるか不明である点。

事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。

[相違点3について]
上記刊行物3技術は、「所定の加速要求が検出された場合に、過給器のウエストゲートバルブを閉じ側に動作させるとともに、EGRバルブの開度を目標開度よりも減少させる技術」であり、
上記刊行物4技術は、「機関の加速に際してアクセルペタルを急速に踏み込んだときに、ウエストゲート弁を一定時間だけ閉状態に保持することにより、過給圧を適宜時間の間だけウエストゲート弁の通常設定過給圧以上に高めて加速性能を向上する技術」であって、刊行物3技術及び刊行物4技術は、内燃機関の加速時に排気ガスターボチャージャーのウェイストゲートを閉鎖して加速性能を向上させることについて開示している。
また、刊行物6技術は、「ミラーサイクルエンジンの吸気弁閉弁時期をABDC(下死点後)70°に設定する技術」であって、内燃機関の吸気行程に対応するピストンの下死点に対して+70°の相対クランク角度を有するとき、吸気弁を閉鎖させることについて開示している。
しかしながら、刊行物3技術、刊行物4技術及び刊行物6技術はいずれも、「内燃機関のピストンが、内燃機関の吸気行程に対応するピストンの下死点に対してほぼ-70°又はほぼ+70°のいずれかの相対クランク角度を有するとき、内燃機関の部分負荷運転において少なくとも1つの吸気弁が閉鎖され、少なくとも1つの吸気弁が内燃機関の部分負荷運転から全負荷運転への移行において、所定の時間だけほぼ-67°又は+67°の相対クランク角度のもとで閉鎖され、内燃機関の下流に設置された排気ガスターボチャージャーのウェイストゲート装置のウェイストゲート開放が、少なくとも前記移行の所定の時間だけ閉鎖される」こと(以下、「事項A」という。)について開示や示唆をするものではない。
さらに、刊行物2技術は、「吸気弁の遅閉じ制御を行っている場合において、アクセル開度センサ40の出力信号に基づき、加速要求が出されている場合に、EGRガス量の制御値を定常時EGRガス量から加速時EGRガス量まで減量する技術」であって、加速時のEGRガス量の制御に関するものであり、刊行物5技術は、「低負荷運転領域からの急加速時には、点火タイミングをリタードさせることによりノッキングを回避する技術」であって、急加速時の点火タイミングに関するものであるから、上記「事項A」について開示や示唆をするものではない。

したがって、相違点1及び2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び刊行物2技術ないし刊行物6技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

2.本願発明2ないし6について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし6は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし6は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし6は、本願発明1と同様の理由で、引用発明及び刊行物2技術ないし刊行物6技術に基いて当業者が容易になし得たとすることはできない。

第6 原査定について
1.理由(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1は、「内燃機関の下流に設置された排気ガスターボチャージャーのウェイストゲート装置のウェイストゲート開放が、少なくとも前記移行の前記所定の時間だけ閉鎖される」という事項を有するものとなった。
よって、本願発明1は、上記「事項A」によって特定されることとなったから、当業者であっても、拒絶査定において引用された刊行物1ないし5に記載された発明又は技術に基いて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項1ないし6に係る発明は、いずれも引用発明及び刊行物2技術ないし刊行物5技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-10-02 
出願番号 特願2015-530319(P2015-530319)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤村 泰智立花 啓比嘉 貴大  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 松下 聡
西山 智宏
発明の名称 少なくとも1つの吸気弁を有する内燃機関、特にオットーエンジンの作動方法  
代理人 赤澤 日出夫  

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