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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60W
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60W
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B60W
管理番号 1333120
審判番号 不服2016-18622  
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-12 
確定日 2017-10-05 
事件の表示 特願2015- 27314「車両制御装置および車両制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 8月22日出願公開、特開2016-150593〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件出願は、平成27年2月16日の出願であって、平成28年1月12日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成28年3月4日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年5月27日付けで、再び、拒絶理由が通知され、これに対して平成28年8月4日に意見書が提出されたが、平成28年9月8日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年12月12日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成29年2月16日に上申書が提出されたものである。

第2 平成28年12月12日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年12月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成28年12月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、明細書及び特許請求の範囲について補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち平成28年3月4日に提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1を下記の(b)に示す請求項1に補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
車両に設けられて前記車両の周辺をモニタするセンサからの出力に基づいて、前記車両を駐車することができる駐車スペースを検索する周辺監視部と、
前記駐車スペースへの前記車両の誘導経路を設定し、前記車両の位置姿勢を演算するとともに、前記車両の舵角制御を行う操舵制御部と、
前記誘導経路に沿って車両が走行するように、前記車両の制駆動制御を行う制駆動制御部と、を備え、
前記車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、
前記操舵制御部は、前記車両の舵角制御を、前記運転者の操舵力を補助するアシストモードから、前記運転者によるハンドルの操舵を必要としない自動操舵モードに移行し、
前記制駆動制御部は、前記車両の制駆動制御を、前記車両のトルクを制御するトルク制御から、前記車両の速度を制御する速度制御に移行し、
前記制駆動制御部は、前記自動駐車時に、前記車両のアクセルペダルまたはブレーキペダルからの入力に基づいて、前記車両の目標車速を決定し、現在の車速と前記目標車速との差に応じた制駆動トルクを演算して、前記車両の制駆動制御を行う
車両制御装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1

「【請求項1】
車両に設けられて前記車両の周辺をモニタするセンサからの出力に基づいて、前記車両を駐車することができる駐車スペースを検索する周辺監視部と、
前記駐車スペースへの前記車両の誘導経路を設定し、前記車両の位置姿勢を演算するとともに、前記車両の舵角制御を行う操舵制御部と、
前記誘導経路に沿って車両が走行するように、前記車両の制駆動制御を行う制駆動制御部と、を備え、
前記車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、
前記操舵制御部は、前記車両の舵角制御を、前記運転者の操舵力を補助するアシストモードから、前記運転者によるハンドルの操舵を必要としない自動操舵モードに移行し、
前記制駆動制御部は、前記車両の制駆動制御を、前記車両のトルクを制御するトルク制御から、前記車両の速度を制御する速度制御に移行し、
前記制駆動制御部は、前記自動駐車時に、前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力に基づいて、前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と前記車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して前記車両の目標車速を決定し、現在の車速と前記目標車速との差に応じた制駆動トルクを演算して、前記車両の制駆動制御を行う
車両制御装置。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、「前記車両のアクセルペダルまたはブレーキペダルからの入力に基づいて、前記車両の目標車速を決定し」を、「前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力に基づいて、前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と前記車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して前記車両の目標車速を決定し」と補正したことにより、「前記車両のアクセルペダルまたはブレーキペダルからの入力」について、「前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方から」のものであることを限定するとともに、「前記車両の目標車速を決定し」について、「前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と前記車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して」行うことを限定するものである。

よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定することを含むものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2013-82376号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「【0021】
以下、本発明の駐車支援装置について、図面を用いて説明する。図1に、駐車支援装置100の構成を示す。駐車支援装置100は、走行制御装置110と自動操舵装置120とを含み、制御装置である駐車支援ECU1により制御される。
【0022】
駐車支援ECU1は、CPU2と、CPU2が実行する駐車支援プログラムを記憶するROM3と、駐車支援プログラム実行中にデータを一時保存するRAM4と、メモリ5と、入力信号回路、出力信号回路、電源回路(いずれも図示せず)などを含む。さらに、走行制御装置110の制御を行う走行制御部10と自動操舵装置の制御を行う操舵制御部11とを有している。この走行制御部10と操舵制御部11とは、駐車支援ECU1内で、駐車支援ECU1とは別構成のハードウェアのように表記してあるが、ハードウェアを駐車支援ECU1と共用して、ソフトウェア機能モジュールとして区分するようにしてもよい。なお、CPU2が本発明の駐車支援制御部,速度プロファイル更新設定部,車速変更意思検出部に相当する。
【0023】
メモリ5は、フラッシュメモリ等の不揮発性記憶媒体により構成され、駐車支援装置100の動作に必要な情報を記憶する。また、後述の運転者特定スイッチに対応した速度プロファイルも記憶する。図11に、その記憶例を示す。図11の例では、運転者特定スイッチ(「スイッチ」と略記)が1?4の4個あり、それぞれに速度プロファイルが関連付けて記憶されている。「未定義」は、速度プロファイルが記憶されていない、すなわち、その運転者特定スイッチが使用されていないことを示している。なお、メモリ5が本発明の速度プロファイル記憶部に相当する。また、駐車支援開始スイッチのみを備える構成のときには、メモリ5の速度プロファイル記憶領域は1つとなり、この記憶領域に、予めデフォルトの速度プロファイルが記憶され、駐車支援のたびに、この速度プロファイルが更新される。
【0024】
既に、速度プロファイルを設定している運転者は、対応する運転者特定スイッチ(図11の例では、運転者特定スイッチ1または2)を操作して、自分の速度プロファイルを読み出して駐車支援を実行させる。また、速度プロファイルを設定していない運転者は、使用されていない運転者特定スイッチ(図11の例では、運転者特定スイッチ3または4)を操作する。このときは、デフォルトの速度プロファイルを読み出して駐車支援を実行させる(詳細は後述)。
【0025】
なお、デフォルトの速度プロファイルは、一律に定めるものではなく、車両の種類,車両の仕向地(例えば、国あるいは地域)に応じて定めてもよい。また、駐車支援ECU1に周知のカレンダー機能を持たせて、季節に応じてデフォルトの速度プロファイルを定めるようにしてもよい。例えば、仕向地が寒冷地であれば、冬季は車両の速度(すなわち、上限速度)を他の季節よりも小さくする。また、このとき、車両の速度の減速率を小さくしてもよい。
【0026】
図1に戻り、走行制御装置110は、走行制御部10と制動系、駆動系により構成される。制動系は各車輪へ付与する制動力をブレーキECU31によって電子制御する電子制御ブレーキ(ECB:Electric Control Braking)システムであって、各車輪に配置された油圧ブレーキのホイルシリンダ38(各車輪のホイルシリンダの総称)へ印加されるブレーキ油圧をアクチュエータ34(各車輪のアクチュエータの総称)により調整することで各車輪に付与する制動力を独立して調整する機能を有している。
【0027】
ブレーキECU31には、各車輪に配置され、それぞれの車輪の回転速度である車輪速を検出する車輪速センサ32(各車輪の車輪速センサの総称)と、車両の加速度を検出する加速度センサ33、アクチュエータ34内に配置されており、内部およびホイルシリンダ38に印加される油圧を検出する油圧センサ群(図示せず)、ブレーキペダル37とアクチュエータ34との間に接続されているマスタシリンダ(M/C)35の油圧を検出する油圧センサ36の各出力信号が入力されている。なお、車輪速センサ32が本発明の車速検出部に相当する。また、油圧センサ36が本発明のブレーキ操作検出部に相当する。
【0028】
駆動系を構成するエンジン22はエンジンECU21によって制御され、エンジンECU21とブレーキECU31は走行制御部10と相互に情報を通信して協調制御を行う。ここで、エンジンECU21には、トランスミッションのシフト状態を検出するシフトセンサ12の出力が入力されている。また、エンジンECU21には、運転者のアクセルペダル(図示せず)の操作状態を検出するアクセルセンサ23の出力が入力されている。
【0029】
自動操舵装置120は、ステアリングホイール40とステアリングギヤ41との間に配置されたパワーステアリング装置を兼ねる駆動モータ42と、ステアリングの変位量を検出する変位センサ43とを備え、操舵制御部11は駆動モータ42の駆動を制御するとともに、変位センサ43の出力信号が入力されている。
【0030】
走行制御部10と操舵制御部11とを備える駐車支援ECU1には、車両後方の画像を取得するための後方カメラ15で取得した画像信号と、駐車支援にあたって運転者の操作入力を受け付ける操作入力部16の出力信号が入力されるとともに、運転者に対して画像により情報を表示するモニタ13と、音声により情報を提示するスピーカー14が接続されている。
【0031】
操作入力部16は、周知のメカニカルスイッチあるいはモニタ13の画面上に形成されたタッチパネルとして構成される。そして、操作入力部16には、駐車支援を行う運転者を特定するための運転者特定スイッチ、あるいは駐車支援を行うか否かの駐車支援開始スイッチが含まれている。運転者特定スイッチが駐車支援開始スイッチを兼用してもよい。なお、操作入力部16が本発明の運転者特定部に相当する。
【0032】
運転者特定スイッチは、速度プロファイルが設定されているか否かによって、表示形態(表示色,点灯パターン,濃淡等)を変えてもよい。
【0033】
さらに、車両の前部、後部および四隅(例えば、バンパーの角部)には車両周辺の物体を検出するソナー17が配置されており、ソナー17の出力(物体との距離)が駐車支援ECU1へ入力されている。ソナー17は、例えば、周期的に超音波を発信して、反射波を受信するまでの時間に基づいて、物体の存否の判定、あるいは当該物体までの距離を測定する。ソナー17に代えてレーダを用いてもよく、また、カメラで取得した画像を画像処理することで物体の存否と物体までの距離を測定するようにしてもよい。なお、ソナー17が本発明の距離測定部に相当する。」(段落【0021】ないし【0033】)

b)「【0034】
図2を用いて、駐車支援制御処理について説明する。なお、本処理は、ROM3に記憶された駐車支援プログラムに含まれ、該プログラムに含まれる他の処理とともに、CPU2によって繰り返し実行される。
【0035】
まず、操作入力部16の状態(すなわち、操作入力情報)を取得する(S11)。そして、以下のうちのいずれかの方法で、駐車支援開始操作の有無を判定する。
・駐車支援開始スイッチのみを備える構成のときは、駐車支援開始スイッチの操作が行われたときに、駐車支援開始操作があったと判定する。
・駐車支援開始スイッチの有無によらず運転者特定スイッチを備える構成のときは、運転者特定スイッチの操作を優先し、運転者特定スイッチの操作が行われたときに、駐車支援開始操作があったと判定する。
【0036】
例えば図4の上段部の位置Aで、駐車支援開始操作があったと判定したとき(S12:Yes)、以下のうちのいずれかの方法で、運転者の特定があったか否かを判定する。
・駐車支援開始スイッチのみを備える構成のときは、運転者の特定はなかったと判定する。
・駐車支援開始スイッチの有無によらず運転者特定スイッチを備える構成のときは、運転者の特定があったと判定する。
【0037】
運転者の特定があったと判定したとき(S13:Yes)、メモリ5あるいはROM3を参照して操作された運転者特定スイッチに速度プロファイルが記憶されているか否かを判定する(S14)。速度プロファイルが記憶されているとき、図11の例では、運転者特定スイッチ1あるいは2が操作されたとき(S15:Yes)、操作された運転者特定スイッチに対応する速度プロファイルを読み出す(S16)。
【0038】
一方、運転者の特定がなかったと判定したとき(S13:No)、あるいは、速度プロファイルが記憶されていないとき、図11の例では、運転者特定スイッチ3あるいは4が操作されたとき(S15:No)、速度プロファイルが未定義であるので、デフォルトの速度プロファイルを読み出す(S18)。また、駐車支援開始スイッチのみを備える構成の場合は、該スイッチに対応する速度プロファイルが既に記憶されているときは、その速度プロファイルを読み出してもよい。
【0039】
そして、上述のそれぞれにおいて読み出した速度プロファイルに基づいて、駐車支援処理を実行する(S17,後述)。
【0040】
図3,図4を用いて、図2のステップS17に相当する駐車支援処理について説明する。なお、本処理は、特許文献1の図3,図4の処理と同様であるため、概略のみ説明する。
【0041】
まず、運転者は自車両51を、図4の上段部のように、位置Aから位置Bに移動する。このとき、ソナー17(カメラを搭載しているときにはカメラを用いてもよい)により、自車両51の周囲の状況(他車両52,53等の物体の有無、あるいは駐車可能スペースの有無)を探知する。そして、駐車可能スペースがあるとき、これを目標駐車位置とし、その重心位置をPt(x_(t),y_(t))で表す(例えば、図4の下段部の、点線枠で示される位置Dの重心位置に相当)。
【0042】
目標駐車位置Ptの設定が完了すると、駐車支援ECU1は、図3に示される処理を開始する。まず、ステップS1では、駐車位置への経路設定完了フラグXsetに初期値である0(経路設定未了)をセットする。ステップS2では、現在位置P(x,y)から目標駐車位置Pt(x_(t),y_(t))までの経路を求める。そして、経路を設定できた場合には、Xsetに1をセットし、設定できなかった場合は、Xsetに0を設定する。
【0043】
ステップS3でXsetの値をチェックし、1のときにのみ(S3:Yes)次のステップS4へと移行し、0のときには(S3:No)、舵角変更や初期位置変更時は、変更が終了するまで待機してからステップS2へと戻る。これにより目標駐車位置への到達経路を設定する。
【0044】
ステップS4では、運転者にブレーキペダル37を踏み込んで、シフトレバーを操作して後退にセットするよう指示し、条件が満たされるまで待機する。ステップS5では、駐車支援ECU1の走行制御部10が、エンジンECU21にエンジン22をトルクアップするよう指示し、自動操舵を開始する。
【0045】
ここで、運転者がブレーキペダル37を操作すると、そのペダル開度に応じてアクチュエータ34によってホイルシリンダ38に付与されるホイルシリンダ油圧(ブレーキ油圧)が調整され、各輪に付与される制動力を調整することで、制動力と駆動力のバランスを変更することで車速が調整される。
【0046】
ステップS6では、車輪速センサ32から得られる車輪速を基に求めた車速変化、加速度センサ33から得られる加速度を基に求めた加速度変化および変位センサ43から求められる操舵角変化を基に、現在位置を算出する。
【0047】
ステップS7では、操舵制御部11は変位センサ43の出力を監視しながら、駆動モータ42を制御してステアリングギヤ41を操作することにより、舵角が駐車支援ECU1で求めた位置に応じた舵角変位となるよう制御する。
【0048】
ステップS8では、現在位置Pが目標駐車位置Pt(図4の位置Dに相当)に到達しているか否かを判定する。この判定においては、現在位置Pが目標駐車位置Ptの近辺の所定のエリア内に到達しているか否かを判定すればよい。このエリアの広さは、後方カメラ15から取得された画像の画像認識の精度や、車速、加速度等から求められる現在位置の判定精度、自動操舵装置120の操舵精度等を基にして設定すればよい。
【0049】
目標駐車位置Ptへ到達していないと判定したとき(S8:No)、ステップS6へ戻って処理を繰り返す。
【0050】
一方、目標駐車位置Pt近傍へ到達したと判定したとき(S8:Yes)、ステップS9へと移行して走行制御部10は、エンジンECU21にエンジン22の回転数を下げるよう指示して、トルクダウンを行い、操舵制御部11は、自動操舵制御を終了する。そして、ステップS10では、モニタ13やスピーカー14を介して、運転者に目標駐車位置へ到達したことを報知するとともに、シフトレバーを駐車位置に設定して、エンジンを停止させるよう促し、本処理を終了する。」(段落【0034】ないし【0050】)

c)「【0060】
図4を用いて、駐車支援の詳細について説明する。運転者は、上段部→中段部→下段部のように、自車両51を、既に駐車している他車両52,53の間に駐車させようとしている。
【0061】
まず、運転者は、図4の上段部のように、車両51を手前側の車両53の手前付近の位置Aで、駐車支援を開始する。すなわち、駐車支援開始スイッチあるいは運転者特定スイッチを操作する。このとき、車両は走行状態でも停止状態でもよい。このとき、図2の駐車支援制御処理において、対応する速度プロファイルを読み出して、図3の駐車支援処理を実行する。
【0062】
次に、運転者は、図4の中段部のように、自車両51を位置Bまで移動させる。この移動中に、図3の駐車支援処理において、ソナー17を用いて、他車両52,53の間に形成された駐車空間を検出し、現在位置P(位置B)および目標駐車位置Pt(位置D)を設定し、設定終了後、運転者に駐車(この場合は後退)の開始を促し、速度・操舵の制御を開始する。
【0063】
以降、位置Cを経て位置Dにまで自車両51を移動して、駐車支援を終了する(図4の中段部→下段部)。このとき、図4の中段部のように、接触あるいは衝突はしないものの、自車両51が他車両53に接近し、このとき運転者が近づき過ぎと感じてブレーキを操作して減速したとき、減速時の車速を、このときに測定した自車両51と他車両53(すなわち、車両周囲の物体)との距離に関連付けて、速度プロファイルを更新する。無論、駐車支援において、自車両51が他車両53に所定の距離を下回って接近したとき、あるいは接近が予測されるときには、切り返しを行うようにしてもよい。」(段落【0060】ないし【0063】)

(2)上記(1)及び図面から分かること

a)上記(1)a)の「さらに、車両の前部、後部および四隅(例えば、バンパーの角部)には車両周辺の物体を検出するソナー17が配置されており、ソナー17の出力(物体との距離)が駐車支援ECU1へ入力されている。ソナー17は、例えば、周期的に超音波を発信して、反射波を受信するまでの時間に基づいて、物体の存否の判定、あるいは当該物体までの距離を測定する。」(段落【0033】)の記載、及び、上記(1)b)の「このとき、ソナー17(カメラを搭載しているときにはカメラを用いてもよい)により、自車両51の周囲の状況(他車両52,53等の物体の有無、あるいは駐車可能スペースの有無)を探知する。そして、駐車可能スペースがあるとき、これを目標駐車位置とし、その重心位置をPt(x_(t),y_(t))で表す(例えば、図4の下段部の、点線枠で示される位置Dの重心位置に相当)。」(段落【0041】)の記載、並びに、図1ないし4の記載によれば、車両に設けられて車両の周辺の物体を検出するソナー17からの出力に基づいて、車両を駐車することができる目標駐車位置を探知するものを備えることが分かる。

b)上記(1)a)の「自動操舵装置120は、ステアリングホイール40とステアリングギヤ41との間に配置されたパワーステアリング装置を兼ねる駆動モータ42と、ステアリングの変位量を検出する変位センサ43とを備え、操舵制御部11は駆動モータ42の駆動を制御するとともに、変位センサ43の出力信号が入力されている。」(段落【0029】)の記載、上記(1)b)の「ステップS2では、現在位置P(x,y)から目標駐車位置Pt(x_(t),y_(t))までの経路を求める。」(段落【0042】)の記載、上記(1)b)の「ステップS3でXsetの値をチェックし、1のときにのみ(S3:Yes)次のステップS4へと移行し、0のときには(S3:No)、舵角変更や初期位置変更時は、変更が終了するまで待機してからステップS2へと戻る。これにより目標駐車位置への到達経路を設定する。」(段落【0043】)、上記(1)b)の「ステップS6では、車輪速センサ32から得られる車輪速を基に求めた車速変化、加速度センサ33から得られる加速度を基に求めた加速度変化および変位センサ43から求められる操舵角変化を基に、現在位置を算出する。」(段落【0046】)の記載、及び、上記(1)b)の「ステップS7では、操舵制御部11は変位センサ43の出力を監視しながら、駆動モータ42を制御してステアリングギヤ41を操作することにより、舵角が駐車支援ECU1で求めた位置に応じた舵角変位となるよう制御する。」(段落【0047】)の記載、並びに、図1ないし4の記載によれば、目標駐車位置への車両の到達経路を設定し、車両の現在位置を算出するとともに、車両の舵角制御を行うものを備えることが分かる。また、特に、上記(1)b)の「ステップS6では、車輪速センサ32から得られる車輪速を基に求めた車速変化、加速度センサ33から得られる加速度を基に求めた加速度変化および変位センサ43から求められる操舵角変化を基に、現在位置を算出する。」(段落【0046】)の記載及び図4の記載によれば、現在位置の算出において、車両の姿勢も含めて算出していることが分かる。

c)上記(1)a)の「図1に戻り、走行制御装置110は、走行制御部10と制動系、駆動系により構成される。制動系は各車輪へ付与する制動力をブレーキECU31によって電子制御する電子制御ブレーキ(ECB:Electric Control Braking)システムであって、各車輪に配置された油圧ブレーキのホイルシリンダ38(各車輪のホイルシリンダの総称)へ印加されるブレーキ油圧をアクチュエータ34(各車輪のアクチュエータの総称)により調整することで各車輪に付与する制動力を独立して調整する機能を有している。」(段落【0026】)の記載、上記(1)a)の「駆動系を構成するエンジン22はエンジンECU21によって制御され、エンジンECU21とブレーキECU31は走行制御部10と相互に情報を通信して協調制御を行う。」(段落【0028】)の記載、及び、上記(1)b)の「ステップS5では、駐車支援ECU1の走行制御部10が、エンジンECU21にエンジン22をトルクアップするよう指示し、自動操舵を開始する。」(段落【0044】)の記載、並びに、図1ないし4の記載によれば、到達経路に沿って車両が走行するように、車両の制駆動制御を行う走行制御装置110を備えることが分かる。

d)上記(1)b)の「まず、操作入力部16の状態(すなわち、操作入力情報)を取得する(S11)。そして、以下のうちのいずれかの方法で、駐車支援開始操作の有無を判定する。
・駐車支援開始スイッチのみを備える構成のときは、駐車支援開始スイッチの操作が行われたときに、駐車支援開始操作があったと判定する。
・駐車支援開始スイッチの有無によらず運転者特定スイッチを備える構成のときは、運転者特定スイッチの操作を優先し、運転者特定スイッチの操作が行われたときに、駐車支援開始操作があったと判定する。」(段落【0035】)の記載、「そして、上述のそれぞれにおいて読み出した速度プロファイルに基づいて、駐車支援処理を実行する(S17,後述)。」(段落【0039】)の記載、及び、上記(1)c)、並びに、図2の記載を上記(2)c)とあわせてみると、車両の運転者により、駐車支援開始操作があった場合に、自動操舵及び速度制御による駐車支援処理を実行し、走行制御装置110は、駐車支援時に、車両の制駆動制御を行うことが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認める。

<刊行物1に記載された発明>

「車両に設けられて車両の周辺の物体を検出するソナー17からの出力に基づいて、車両を駐車することができる目標駐車位置を探知するものと、
目標駐車位置への車両の到達経路を設定し、車両の姿勢を含む現在位置を算出するとともに、車両の舵角制御を行うものと、
到達経路に沿って車両が走行するように、車両の制駆動制御を行う走行制御装置110と、を備え、
車両の運転者により、駐車支援開始操作があった場合に、
自動操舵及び速度制御による駐車支援処理を実行し、
走行制御装置110は、駐車支援時に、車両の制駆動制御を行う
駐車支援装置100。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である特開2002-274353号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「【0027】
【発明の実施の形態】<第1の実施の形態>以下、図面を用いて本発明の第1の実施の形態を説明する。図1は、本実施の形態の構成を説明する構成図である。10は車両の室内のインストパネル(不図示)で、運転者によって操作されるモード選択スイッチであり、端子Aと端子Cとが接触すると駐車モードを示す信号が、コントローラ50へと出力される。また、モード選択スイッチ10の端子Bと端子Cとが接触すると、非駐車モードを示す信号が、コントローラ50へと出力される。
【0028】20は図示しないブレーキペダルに設けられ、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダルセンサである。なお本明細書では、このブレーキペダルセンサ20によって検出される操作量を、ブレーキペダルが操作されていない場合、すなわち非操作時にはその操作量を0[%]とし、フルブレーキに相当する操作量を100[%]として、記載することとする。
【0029】30は図示しないアクセルペダルに設けられ、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルセンサである。40は従動輪の車輪速をエンコーダによって検出し、この車輪速から車速を検出する車速センサである。
【0030】50はCPU、ROM、RAM等を備え、ROMに記憶された後述する制御プログラムを実行するコントローラである。
【0031】60はアクセルペダルセンサ20や、図示しない水温センサ等が入力され、定められた演算に従って、エンジン65の吸入空気量等を制御するエンジン・コントローラである。
【0032】70はブレーキペダルセンサ30、車速、前後加速度等の信号が入力され、定められた演算に従って、ブレーキ75の液圧を制御するブレーキ・コントローラである。
【0033】80は車速、スロットル開度(エンジン負荷)等が入力され、定められた演算に従って、無段変速機(CVT)70を制御する変速機コントローラである。
【0034】90は、車室内に設けられ、例えばナビゲーション画面やエアコン画面を表示したり、運転者によってモード選択スイッチ10が駐車モードに操作された場合、または駐車モードにされているにも関らずアクセルペダルが操作された場合に、その旨を表示するディスプレイである。
【0035】95は車室内に設けられ、モード選択スイッチ10が駐車モードにされているにも関らずアクセルペダルが操作された場合に、その旨を音声で報知するブザーである。」(段落【0027】ないし【0035】)

b)「【0036】次に図2に示すフローチャートを用いて、コントローラ50に記憶された制御プログラムを説明する。
【0037】このプログラムは、図示しない車両のイグニッション・スイッチ(IGN-SW)がオンされた場合に、スタートするものである。
【0038】まずステップS1によって、ブレーキペダルセンサ2により、ブレーキペダルの操作量を検出する。
【0039】次に、ステップS2によって、アクセルペダルセンサ4により、アクセルペダルの操作量を検出する。
【0040】次にステップS3によって、モード選択スイッチ10がどのモードを選択されているかを判断し、駐車モードである場合にはステップS4へ、非駐車モードである場合にはステップS17へ進む。
【0041】次にステップS4で、アクセルペダルが操作されたかどうかを判断する。これは、モード選択スイッチ10が駐車モードに選択されているにも関らず、アクセルペダルが操作されている場合には、ドライバーの意志によって駐車モードがキャンセルされたものと判断し、YESの場合にはステップS15へ、Noの場合には、ステップS5へと進む。
【0042】ステップS4でアクセルペダルが操作されたと判断された場合には、ステップS15で、モード選択スイッチ10を非駐車モードへと強制的に移動させる。
【0043】次いで、ステップS16でディスプレイ90で非駐車モードになったことを表示すると共に、ブザー95で警報を行う。
【0044】次にステップS4で、アクセルペダルが操作されていないと判断された場合には、駐車モードが継続されていると判断し、ステップS5で現在の車速を検出する。
【0045】次いでステップS6で目標車速を決定する。これは、ステップS1で検出されたブレーキペダルの操作量に基いて、予めコントローラ50のROMに記憶してある図3に示すマップから目標車速を演算(読込み)する。これは、例えば、ブレーキ操作量が0[%]の場合には、所定車速(例えば10Km/h)であり、操作量が大きくなるに従い目標車速が小さくなり、ブレーキ操作量がある値(例えば、80[%])よりも大きくなった時点から、目標車速が0Km/hとなる。これはブレーキペダル操作量が0[%]、すなわち非操作時には、通常の平坦路でのクリープ車速以上の車速となるように設定している。
【0046】次に、ステップS7で、ステップS5で検出した(実)車速と、ステップS6で演算した目標車速との車速偏差ΔVを演算する。
【0047】次にステップS8で、ステップS7で演算した車速偏差ΔVの積分(∫ΔV)を演算する。
【0048】次にステップS9で、ステップS7で演算した車速偏差ΔVの微分((d/dt)・ΔV)を演算する。
【0049】次にステップS10で、目標制駆動力を下記式に基づいて、演算する。
目標制駆動力Te=K_(P)ΔV+K_(I)∫ΔV+K_(D)((d/dt)・ΔV)
ここでK_(P)は予め定められた比例ゲイン、K_(I)は予め定められた積分ゲイン、K_(D)は予め定められた微分ゲインである。
【0050】これは、ブレーキペダルの操作量が0[%]であり、目標車速が10Km/hで、現在検出された車速が例えば7Km/hであった場合には、制駆動力としては車速の偏差(すなわち10-7=3km/h)を達成する制駆動力が得られれば良いので、ステップS7?S9によって、そのような目標制駆動力を演算している。
【0051】次にステップS11にて、ステップS10で演算した目標制駆動力Teと、予め定められている制駆動力Tとを比較し、Te>Tの場合には、Te=Tとする。これは目標制駆動力にリミッタをかける(上限値を設ける)ことを意味する。これは、例えば駐車動作時に、段差に接触して停止するような場面には、駐車が適切に行われたとして、それ以上動く必要がないが、上記リミッタを設けないと、このような場合にもドライバーのブレーキペダル操作に基づいて、ある一定の車速を出そうとしてしまう。このような不必要な車両の動きを防止するために、目標制駆動力に上限を設けるようにしている。なおここでは「制駆動力」に上限値を設けるとしたが、「駆動力」に対しては上限値を設け、「制動力」に対しては上限値が設けなくてもよいが、ここでは演算を簡単にするためにこの「駆動力」と「制動力」の合わされた「制駆動力」に予め、上限値を設けるようにしている。
【0052】次にステップS12で、ステップS11でリミッタ処理された目標制駆動力を実現するためのエンジンの目標スロットル開度を演算しエンジン・コントローラ60へと出力すし、ステップS11でリミッタ処理された目標制駆動力を実現するためのブレーキの目標液圧を演算しブレーキ・コントローラ70へと出力し、ステップS11でリミッタ処理された目標制駆動力を実現するための目標変速比を演算し、演算された目標変速比を変速機コントローラ80へ出力し、ステップS1へと戻る(エンジン・コントローラ60、ブレーキ・コントローラ70、変速機コントローラ80はそれぞれ入力された目標スロットル開度、目標液圧、目標変速比を実現するように、駆動力および制動力を制御する)。」(段落【0036】ないし【0052】)

c)「【0055】以上説明したように、本発明の実施の形態では、モード選択スイッチ10が駐車モードに選択されている場合には、ブレーキペダルの操作量に対応した一定の車速になるように、目標制駆動力を演算し、この目標制駆動力を達成するためにエンジン、ブレーキ、変速機を制御するようにしたので、ブレーキペダルのみで操作を行うことのできるので、どのような駐車の状況においてもブレーキペダルとアクセルペダルとを踏み変えて操作を行う必要がなく、運転操作が煩わしくなく、運転操作を容易に行なうことができる。」(段落【0055】)

(5)上記(4)及び図面から分かること

上記(1)b)及びc)並びに図2及び3の記載によれば、車両のアクセルペダルの操作量に基づいて、駐車モードのキャンセルを行うとともに、車両のブレーキペダルのみ(段落【0055】)の操作量に基づいて、車両のブレーキペダルの操作量と車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して車両の目標車速を決定することが分かる。

(6)刊行物2に記載された技術

上記(4)及び(5)並びに図1ないし3の記載を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)が記載されていると認める。

<刊行物2に記載された技術>

「エンジン・コントローラ60、ブレーキ・コントローラ70及び変速機コントローラ80は、駐車モード時に、車両のブレーキペダルのみの操作量に基づいて、車両のブレーキペダルの操作量と車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して車両の目標車速を決定し、現在の車速と目標車速との車速偏差ΔVに応じた目標制駆動力を演算して、車両の制駆動制御を行う技術。」

2.対比・判断

(1)対比

本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、その機能及び構造又は技術的意義からみて、刊行物1に記載された発明における「車両に設けられて車両の周辺の物体を検出するソナー17」、「目標駐車位置」、「車両の到達経路」、「車両の姿勢を含む現在位置」、「走行制御装置110」、「車両の運転者により、駐車支援開始操作があった場合に」、「駐車支援」及び「駐車支援装置100」は、それぞれ本件補正発明における「車両に設けられて前記車両の周辺をモニタするセンサ」、「駐車スペース」、「車両の誘導経路」、「車両の位置姿勢」、「制駆動制御部」、「車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に」、「自動駐車」及び「車両制御装置」に相当する。

前述の相当関係を踏まえると、刊行物1に記載された発明における「車両に設けられて車両の周辺の物体を検出するソナー17からの出力に基づいて、車両を駐車することができる目標駐車位置を探知するもの」及び「目標駐車位置への車両の到達経路を設定し、車両の現在位置を算出するとともに、車両の舵角制御を行うもの」は、それぞれ本件補正発明における「車両に設けられて車両の周辺をモニタするセンサからの出力に基づいて、車両を駐車することができる駐車スペースを検索する周辺監視部」及び「駐車スペースへの車両の誘導経路を設定し、車両の位置姿勢を演算するとともに、車両の舵角制御を行う操舵制御部」に相当する。

さらに、前述の相当関係を踏まえると、刊行物1に記載された発明における「車両の運転者により、駐車支援開始操作があった場合に、自動操舵及び速度制御による駐車支援処理を実行し」と、本件補正発明における「車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、操舵制御部は、車両の舵角制御を、運転者の操舵力を補助するアシストモードから、運転者によるハンドルの操舵を必要としない自動操舵モードに移行し、制駆動制御部は、車両の制駆動制御を、車両のトルクを制御するトルク制御から、車両の速度を制御する速度制御に移行し」とは、「車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、自動操舵及び速度制御による自動駐車を行い」という限りにおいて一致している。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「車両に設けられて車両の周辺をモニタするセンサからの出力に基づいて、車両を駐車することができる駐車スペースを検索する周辺監視部と、
駐車スペースへの車両の誘導経路を設定し、車両の位置姿勢を演算するとともに、車両の舵角制御を行う操舵制御部と、
誘導経路に沿って車両が走行するように、車両の制駆動制御を行う制駆動制御部と、を備え、
車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、
自動操舵及び速度制御による自動駐車を行い、
制駆動制御部は、自動駐車時に、車両の制駆動制御を行う
車両制御装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点>

a)相違点1

「車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、自動操舵及び速度制御による自動駐車を行い」に関して、
本件補正発明は、「車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、操舵制御部は、車両の舵角制御を、運転者の操舵力を補助するアシストモードから、運転者によるハンドルの操舵を必要としない自動操舵モードに移行し、制駆動制御部は、車両の制駆動制御を、車両のトルクを制御するトルク制御から、車両の速度を制御する速度制御に移行」するのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、駐車支援開始操作があった場合に、自動操舵及び速度制御による駐車支援処理を実行するものであるが、「車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、操舵制御部は、車両の舵角制御を、運転者の操舵力を補助するアシストモードから、運転者によるハンドルの操舵を必要としない自動操舵モードに移行し、制駆動制御部は、車両の制駆動制御を、車両のトルクを制御するトルク制御から、車両の速度を制御する速度制御に移行」するか否かが不明である点。(以下、「相違点1」という。)

b)相違点2

「制駆動制御部は、自動駐車時に、車両の制駆動制御を行う」に関して、
本件補正発明は、「車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力に基づいて、車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して車両の目標車速を決定し、現在の車速と目標車速との差に応じた制駆動トルクを演算して、車両の制駆動制御を行う」ものであるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力に基づいて、車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して車両の目標車速を決定し、現在の車速と目標車速との差に応じた制駆動トルクを演算して、車両の制駆動制御を行う」か否かが不明である点。(以下、「相違点2」という。)

(2)判断

a)相違点1について

車両制御装置において、車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、操舵制御部は、車両の舵角制御を、運転者の操舵力を補助するアシストモードから、運転者によるハンドルの操舵を必要としない自動操舵モードに移行することは、本件出願前周知の技術(例えば、特開2006-123663号公報[特に、段落【0019】、【0026】及び【0027】、【0038】及び【0039】並びに図3]等参照。以下、「周知技術1」という。)である。

また、車両制御装置において、車両の運転者により、自動駐車の開始が指示された場合に、制駆動制御部は、車両の制駆動制御を、車両のトルクを制御するトルク制御から、車両の速度を制御する速度制御に移行することは、本件出願前周知の技術(例えば、特開2006-296135号公報[特に、段落【0028】、【0038】ないし【0043】並びに図3及び7]等参照。以下、「周知技術2」という。)である。

そして、刊行物1に記載された発明、周知技術1及び2は、いずれも自動駐車の車両制御装置の技術分野に属するものである。

ここで、刊行物1に記載された発明において、駐車支援処理を行わないときには自動操舵及び速度制御を行う必要がなく、駐車支援処理を行うときのみ自動操舵及び速度制御を行えばよいことは、当業者にとって明らかな事項である。

してみると、刊行物1に記載された発明において、駐車支援開始操作があった場合に、自動操舵及び速度制御による駐車支援処理を実行するのに際し、駐車支援処理を行うときのみ自動操舵及び速度制御を行うようにするために、周知技術1及び2を採用し、「車両の運転者により、駐車支援開始操作があった場合に、
自動操舵を行う際に、車両の舵角制御を、運転者の操舵力を補助するアシストモードから、運転者によるハンドルの操舵を必要としない自動操舵モードに移行するものとし、
走行制御装置110は、車両の制駆動制御を、車両のトルクを制御するトルク制御から、車両の速度を制御する速度制御に移行」するようにし、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

b)相違点2について

本件補正発明と刊行物2に記載された技術とは、ともに、自動駐車の車両制御装置の技術に属するものであり、本件補正発明と刊行物2に記載された技術との用語の対応をとると、刊行物2に記載された技術における「エンジン・コントローラ60、ブレーキ・コントローラ70及び変速機コントローラ80」、「駐車モード」、「車両のブレーキペダルのみの操作量」、「現在の車速と目標車速との車速偏差ΔV」、「目標制駆動力」及び「コントローラ50」は、それぞれ本件補正発明における「制駆動制御部」、「自動駐車」、「車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力」、「現在の車速と目標車速との差」、「制駆動トルク」及び「車両制御装置」に対応することが明らかである。
そうすると、刊行物2に記載された技術を本件補正発明の用語を用いて表現すると、次のようにいいかえることができる。

「車両制御装置において、制駆動制御部は、自動駐車時に、車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力に基づいて、車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して車両の目標車速を決定し、現在の車速と目標車速との差に応じた制駆動トルクを演算して、車両の制駆動制御を行う技術。」

そして、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術は、いずれも自動駐車の車両制御装置の技術分野に属するものである。

してみると、刊行物1に記載された発明において、刊行物2に記載された技術を適用して、走行制御装置110が、駐車支援時に、車両の制駆動制御を行うのに際し、「車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力に基づいて、車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して車両の目標車速を決定し、現在の車速と目標車速との差に応じた制駆動トルクを演算して、車両の制駆動制御を行う」ようにし、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

c)まとめ

本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

[4]むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

[5]その他

仮に、本件補正後の請求項1の「前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力に基づいて、前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と前記車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して前記車両の目標車速を決定し」との記載が、「前記車両のアクセルペダル及びブレーキペダルのいずれからの入力に基づいても、前記車両のアクセルペダル及びブレーキペダルの一方からの入力と前記車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して前記車両の目標車速を決定し」との事項を意味する場合、以下に示すように、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

請求人は審判請求書において「この補正は、出願当初の明細書の段落0027、0038、0045?0046、図4の記載に基づいて、制駆動制御部をさらに限定するものです。」と説明する。

ところで、本件出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)における明細書の段落【0027】、【0038】、【0045】及び【0046】、【0049】等の記載から、アクセルペダルからの入力に基づいた目標車速の決定に関して、当初明細書等には、「前記車両のアクセルペダルからの入力に基づいて、前記車両のアクセルペダルからの入力と前記車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して前記車両の目標車速を決定し」との事項が記載されていると認める。
一方で、ブレーキペダルからの入力に基づいた目標車速の決定に関して、当初明細書等には、「なお、速度制御部232は、運転者のブレーキ入力42に基づいて目標車速を決定してもよい。」(段落【0027】)と記載されているが、アクセルペダルからの入力に基づいた目標車速の設定と、ブレーキペダルからの入力に基づいた目標車速の設定との関係(例えば、アクセルペダル及びブレーキペダルのいずれからの入力に基づいても、目標車速を決定することが可能であるか否か)については、具体的には記載されていない。
してみると、アクセルペダルからの入力に基づいた目標車速の決定に関する記載、及び、「なお、速度制御部232は、運転者のブレーキ入力42に基づいて目標車速を決定してもよい。」との記載をもって、直ちに「前記車両のアクセルペダル及びブレーキペダルのいずれからの入力に基づいても、前記車両のアクセルペダル及びブレーキペダルの一方からの入力と前記車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して前記車両の目標車速を決定し」との事項(以下、「特定事項A」という。)が記載されていると認めることはできない。

また、当初明細書等には、特定事項Aを示唆する記載もされていない。

以上によれば、特定事項Aが、当初明細書等に記載されておらず、しかも、特定事項Aが、当初明細書等の記載から自明な事項であるともいえないのであるから、本件補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえず、当初明細書等の記載の範囲内においてしたものとはいえない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成28年12月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成28年3月4日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(特開2013-82376号公報)及び刊行物2(特開2002-274353号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)ないし(6)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力」について、「前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方から」のものであることの限定を削除し、「前記車両のアクセルペダルまたはブレーキペダルから」のものであるとするとともに、「前記車両の目標車速を決定し」について、「前記車両のアクセルペダルおよびブレーキペダルの一方からの入力と前記車両の目標車速との関係を記憶したマップを参照して」行うことの限定を削除するものである。

そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.まとめ

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術並びに周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

上記第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-24 
結審通知日 2017-07-25 
審決日 2017-08-22 
出願番号 特願2015-27314(P2015-27314)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B60W)
P 1 8・ 121- Z (B60W)
P 1 8・ 575- Z (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有賀 信立花 啓  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 松下 聡
西山 智宏
発明の名称 車両制御装置および車両制御方法  
代理人 梶並 順  
代理人 曾我 道治  
代理人 大宅 一宏  
代理人 吉田 潤一郎  
代理人 上田 俊一  

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